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図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

「ノーベル経済学賞受賞」という報に接して図書館で探してみたが…

2015-12-02 12:42:54 | 読書ノート
アンガス・ディートン『大脱出:健康、お金、格差の起原』松本裕訳, みすず書房, 2014.

  世界にある貧困や格差をデータを通じて読み解くというもの。専門書ではないけれども、図表の見方や元データがどう採取されているかという話がけっこうスペースを占めていて(というかそこが重要だというのが著者のスタンス)、手っ取り早くその要点を知りたいという人には不向きかもしれない。結論だけを挙げればあまり目新しくない主張で、「最近250年間は経済成長のおかげで人々は健康になって寿命も伸びた。しかし、成長は格差をもたらしている。云々」というものだ。なので、データの読解に根気よく付き合える人ならば楽しめるだろう。

  なお、著者は貧困国へのODAには懐疑的で、支援額が被援助国の支出に占める割合が高くなればなるほど、被援助国政府が自国民よりも援助国の顔色をうかがうようになってしまうと手厳しい。最終的にODAは国民のニーズに応えない悪い政府を造りだす。なので、事情もわからないのに善意だけで資金援助するな、と先進国の住民に訴えている。その立場はイースタリー(参考)に近く、最近注目されている比較対照実験(参考)に対しては貧困脱却の要因を特定できないとして批判的である。とにかく寄付金をというピーター・シンガーやジェフリー・サックスはちっともわかっとらん、という調子だ。

  邦訳は2014年の10月発行。今年初めには日経・朝日・読売にも書評が出ていた。著者が2015年のノーベル経済学賞を受賞するというニュースを聞いて今秋、地域と大学の図書館を探してみたのだが、見つからなかったな。そのうち所蔵されるのかもしれないが、少なくともタイムリーには入手できなかったので、結局購入した。みすず書房は図書館購入でもっているという中の人の発言を聞いたことがあるが、個人的にはそんな印象はまったくない。おそらく購入先は大学図書館で、公立図書館は該当しないだろう。もしかしたら、人文社会科学系教員の研究費でも購入されているかもしれない。研究費削減の風潮のためこういうところは苦しくなる可能性もあるな。
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