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PISA調査主導者による「世界標準の」教育論

2019-11-13 23:45:17 | 読書ノート
アンドレアス・シュライヒャー『教育のワールドクラス:21世紀の学校システムをつくる』鈴木寛, 秋田喜代美監訳, 明石書店, 2019.

  OECDの教育・スキル局長による各国教育事情の比較と展望、特にPISA調査の分析についてくわしい。原書はWorld Class: How to Build a 21st-Century School System (OECD, 2018.)で、英語版ならばOECDのHP1)からタダで読める。

  前半では学力に影響する要因について検討されている。重要なのは「質の高い教師」ということである。小規模学級を目指すぐらいならば、教師の待遇を改善して優れた教員を採用するようにしたほうがいい、と。待遇の改善には、高い給与だけでなく、各教師の自主性・創造性が発揮されるような労働環境も含まれる。ただし、教員の自主性にはトレードオフもあって、科学の知見を無視した、効果の怪しい独善的な教育手法の採用という危険もある。そういう独善に対しては、政府の統制や上司の管理の強化ではなく、同僚間の相互チェックで対応せよとアドバイスする。後半は教育政策や学校管理レベルについてで、各国での例が示されており参考になる。

  以上。学力への効果と各国の教育事情の話の二つが印象に残るが、後者に関しては面白い。ただし、その事情はPISA調査から見た断片的なものである。前者の学力への効果に関しては、ハッティ著(参考)のほうがいいと思う。ハッティ著は、教師が主体的に教える授業の方がアクティブ・ラーニング的授業よりも学力への効果が高いと示唆していた。本書の教師重視という主張も同様で納得しやすい。

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1) OECD https://www.oecd.org/education/world-class-9789264300002-en.htm
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