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新興都市はクリエイティヴがお好き

2017-12-15 08:48:22 | 読書ノート
リチャード・フロリダ『新クリエイティブ資本論:才能が経済と都市の主役となる』井口典夫訳, ダイヤモンド社, 2014.

  1990年代以降、アメリカ経済を牽引する新しい階級が勃興し、開放的な都市に引き寄せられ、そのような都市が繁栄するようになっているということを主張する内容である。原書は、初版The rise of the creative class (Basic Books, 2002 / 邦訳『クリエイティブ資本論:新たな経済階級の台頭』ダイヤモンド社, 2008.)の十周年記念改訂版(Basic Books, 2012)である。

 「クリエイティブ・クラス」の定義に何が入るのかというと、コンピュータ関連職、エンジニア、科学者、法律家、医者、芸術家、メディア関係者、管理職などなどである。教育者、図書館員(‼)も一応入っている。現在の米国の労働人口の3割ぐらいを占めているらしい。彼らは、終身雇用が崩壊した企業社会の中で、プロジェクト毎に集結して不規則に忙しく働く。予定を入れてコンサートに行くことなどできないので、たまの余暇ができた時に気軽に立ち寄ることのできる娯楽の選択肢が多くあったほうがよい。というので、ある程度以上の規模の「ゲイや移民に開放的な」都市が好まれるという。生き残りたいならば彼らの好みに合わせよ、と地方都市の指導者に向けて著者はいう。

  読む前に批判的な書評を多く目にしていたけれども、実物を読んでみるとけっこう面白かった。著者の出身地である工業都市ピッツバーグの没落や、テキサスのオースチンがどうやってIT関連の注目の都市になったのかなどの小話も面白い。データも豊富で(詳しすぎて、米国の地理に詳しくないとまったくイメージがわかない都市名も出てくる)、思い付きの議論ではないことも理解できる。社会関係資本なんか面倒くさいからみんな街に出てくるのだよ、という話も納得。ただし、都市が成功する要因の分析は必ずしも上手くいっているわけではなくて、技術、才能、娯楽、開放性と要因を並べられてもいったいどういう順番で始めたらいいのかという疑問がわく。この点、グレイザーモレッティが批判しているところである。

  現象としては著者の指摘する通りなのだろう。なので、議論のたたき台として読んでおいても無駄にならない書籍である。ただなあ、「クリエイティブ」を連呼されると、なんだか軽薄さを感じるし、自己啓発っぽくて鼻白む感がある。もっといい単語は無かったのだろうか。僕がひねくれているのか。
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