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世界の諸都市を事例にして都市の成功例・失敗例を分析

2013-07-05 08:06:40 | 読書ノート
エドワード・グレイザー『都市は人類最高の発明である』山形浩生訳, NTT出版, 2012.

  都市論。原題は"Triumph of the City"で、原著は2011年発行。著者はハーバード大の経済学者で、本書も索引・参考文献・注が満載である。しかしながら、書きぶりはけっこうざっくばらんで、細かいデータは巻末注に回されており、読みやすい一般書籍となっている。その分、事例の選択や分析の説得力は恣意的で不十分に思える。主張の証明ではなく、著者が仮説を立ててゆくのを読むものなんだろう。

  その主張は明快である。人口集住はとても生産的でかつ環境に優しい。都市はさまざな背景の人々が持つアイデアを交流させ、役に立つものを生み出す。一見悲惨に見える都市の貧困も、農村における貧困と比べればずっとマシだ。郊外や田舎に住むことは、そこで近代化以前のつつましい生活をおくるならばいいけれど、車とエアコンを用いるような現代的消費生活をするならば、都市生活よりずっと環境破壊的である。そういうわけで、都市はじゃんじゃん高層化して人口密度を高めるべきだ、と著者は述べる。

  ではどのような都市が成功するのか。失敗例としてはまずデトロイトが挙げられる。単一の産業に頼ったがために、その産業が衰退すると人口減少──特に金持ちの逃亡──が起こり、福祉受給者だけが残る、悪いスパイラルにはまっているという。したがって、都市住民は職業的に多様なほうが良い。近くに良い大学があれば、知恵のある高技能な労働者が供給されて繁栄する。シリコンバレーやボストンがそうだという。ただし、こうした地域も市中心の建築規制でスプロール現象が起こっており、この点はよろしくないという。その他、ニューヨークやヒューストン、ロンドン、パリ、シンガポール、ムンバイ、バンガロール、キンシャサ、ドバイ、東京、リオ、バンクーバーほかいろいろな都市が検討されている。

  愛知や静岡のような郊外車社会に暮らしたことのある人間としては、車生活が環境に悪いというのは深く同意する。成功要因や失敗要因の説得力は微妙だけど、本書で挙げられた都市を見てみたくなるのは確かである。実際、僕はGoogle Mapを傍らに読んだ。問題は初刷における誤植の多さで、20ページに一つぐらいのペースで見つかり、かなり気になるレベル。校正が機能していないみたいだ。
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