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イノベーション産業の集積地となるかどうかは偶然で決まる

2014-09-22 21:23:11 | 読書ノート
エンリコ・モレッティ『年収は「住むところ」で決まる:雇用とイノベーションの都市経済学』池村千秋訳, プレジデント社, 2014.

  原題は"The New Geography of Jobs"。邦題が一見センセーショナルだが、確かに内容はその通りのことを主張している。決定的なのはイノベーション産業であり、その集積地となる都市であるならば、高度な技能を持った労働者の所得が高くなるだけでなく、そうでない低技能の労働者の所得もまた上昇する。同じ高卒でもサンフランシスコに住むのとデトロイトに住むのでは収入が変わってくるのだという。

  似たような議論にリチャード・フロリダやエドワード・グレイザー(参考)のがあるが、それらと違うのは因果関係までチェックしていること。都市に「クリエイティブ・クラス」が住み着くのはその都市に活気があることの結果であって、彼らの居住は原因ではない。都市が芸術施設などを拡充してインテリ層の気を引こうとしても大した効果はないらしい。大学の設置は、通学者や近隣住民の生活の改善にはなるが、その都市がイノベーション産業の集積地となるのを決定づけるほどではないとのこと。

  ではどうしたらシアトルのようになれるのか。この問いについての決定的な答えは無い。シアトルの成功はマイクロソフト社が移動してきたという偶然による。著者によれば、補助金や税制上の優遇措置などを使っての工場や研究所などの誘致にはそれなりの効果があるが、費用対効果の問題は残るという。結局、高学歴移民をじゃんじゃん受け入れ、なおかつ米国の教育のレベルを上げよという提案となる。加えて、工場撤退などで負のスパイラルに陥った地域に住む住民の移動を促す政策プログラムへの言及もある。

  全体として力強い説得力の議論で首肯することしきり。だが、ちと都市における「成功」の基準が厳しい気がするな。先端産業を擁していなければ未来がないと言わんばかりの調子である。
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