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統計学べからず集。解説ナシだが訳者注が熱い

2017-02-10 22:52:41 | 読書ノート
アレックス・ラインハート『ダメな統計学:悲惨なほど完全なる手引書』西原史暁訳, 勁草書房, 2017.

  統計学。「べからず集」であるので、読むには初歩的な統計学の知識が要求される。入門段階から一歩踏み出して実際に使ってみようという人から、すでに統計を使ってビジネスや研究に勤しんでいる人が、おそらく読者となるだろう。そういう人たちにとって本書は繰り返し読む価値がある。しかし、統計学への入門は別途必要である。

  有意性の解釈やデータの使いまわしなど、分析者が陥りやすい罠について説明し、罠回避のために有意性よりも信頼区間を重視することなどをアドバイスしている。楽しんで読む内容ではないが、それでも読みやすくなるように配慮がなされている。とりわけ説明に用いる事例の選択がなかなか興味深い。「美しい両親は娘を持ちやすい」(サトシ・カナザワ‼)「兄のいる男性はそうでない男性よりゲイとなる確率が高い」など、「どこかでそういう話を聞いたことがある」という話をネタにして、統計的にはどの点で怪しいのかを解説してくれる。著者による本文自体は少々言い回しが韜晦だという印象だが、訳者注がかなり突っ込んだ親切な説明になっていて、そうしたマイナスを埋め合わせている。

  個人的には本書で挙げられた統計研究の失敗を笑うことはできなかった。むしろ、それらは生半可な知識しかない自分でも犯しそうな過ちの数々に思えて、襟を正すような感覚だった。実はつい最近、少々調査コストがかかったにも関わらず、何の相関も見せないデータセットの処遇を考えていた。本書を手にしなければ、危うくこのデータセットをサンドバックにように叩いて秘密の関係を吐かせようとするところだった。紀要でいいから大人しく無相関の報告を出す、という気にさせてくれる。
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