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宗教は人間の認知能力とともに進化してきたとのこと

2024-05-16 07:00:00 | 読書ノート
ロビン・ダンバー『宗教の起源:私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか』小田哲訳 ; 長谷川眞理子解説, 白揚社, 2023.

  進化生物学をバックボーンとした宗教一般の起源および機能の考察。このブログでのダンバーの本の紹介は、『ことばの起源』『友達の数は何人?』『人類進化の謎を解き明かす』『なぜ私たちは友だちをつくるのか』に続いて五冊目。原書はHow Religion Evolved: And Why It Endures (Pelican, 2022)である。

  進化心理学では「宗教(に関連する現象)は人間の認知能力の副産物である」という説(参考)が有力である。本書はこの説に反駁し、宗教には適応上の機能があると主張する。宗教にはダンバー数(=150)を越える集団を統合する働きがあるというのだが、個体すなわち集団の構成員のメリットとして外的脅威からの保護と集団生活からくるストレスの低減があるとする。生理学的には、宗教儀式が神秘体験や一体感をもたらして、参加者の脳内に快楽物質を生み出すということだ。関連して、人間特有の推論能力、脳の大きさや社会の規模に合わせた宗教の発展段階論、カルト宗教や分派がなぜ生まれるのか、などが語られている。

  いつもながらダンバーの本は情報量が多く、議論の筋が追いにくい。大規模な宗教に至るステップとして、まず宗教現象を受容できる認知的能力が先に進化し、その後の環境の変化──農耕とそれに伴う集住など──がそれら認知能力を「適応」と見なしうるものにした、という順序が描かれる。ならば本書は副産物説の反駁に成功しているかのだろうかと、よくわからなくなる。
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