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繁殖のために厳しい環境を選ぶ種もある

2019-01-18 22:51:41 | 読書ノート
鈴木紀之『すごい進化 :「一見すると不合理」の謎を解く』中公新書, 中央公論, 2018.

  進化生物学。配偶行動において他種と自種を見分けられないなど、適応の立場からは「不合理」に見える現象について、より細かく調査することで合目的的な進化であることを再確認するという内容。著者は昆虫の生態を専門とする研究者である。

  いくつか昆虫が紹介されるが、とりわけテントウムシが大きく採りあげられている。松の木のみに生息する、捕まえにくく栄養的にも劣るアブラムシに特化して捕食するテントウムシがいる。しかし、実験室環境ではすべてのアブラムシを食べるという。なぜそのような不合理な特化が起こるのか。その理由は、このテントウムシが、別種のテントウムシのいる環境下では、別種の異性に対して間違えて求愛行動をしてしまうためである。これは繁殖の失敗につながる。こうしたエラーを避けた結果として繁殖場所とエサの特化が起こったとする。

  有性生殖の起源についての新説も短く紹介されている。赤の女王仮説(参考)は、説得力に問題があるという。代わって、オスの存在が無性生殖を有性生殖化するという説を唱えている。オスが無性生殖の細胞に無理矢理遺伝子を流し込むのだという。ロジックはわかるが、無性生殖をしてきた側がなぜ遺伝子のシャッフルを拒むメカニズムを備えないのか(逆かもしれない。なぜ遺伝子のシャッフルを受け入れる仕組みを備えたのか)の説明が欲しい気がする。さらなる謎ということだろう。

  このほかにも不完全で中途半端な擬態のメリットなどが検討されている。進化の全貌がわかるというわけではないが、進化生物学の考え方や研究の進め方がわかって興味深い小著だろう。
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