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対人折衡業務に耐えられない層が非正規雇用になっていると

2010-12-19 20:13:58 | 読書ノート
海老原嗣生『「若者はかわいそう」論のウソ:データで暴く「雇用不安」の正体』扶桑社新書, 扶桑社, 2010.

  若年雇用に関する通説を論駁する内容。ここ数年、玄田有史が『仕事の中の曖昧な不安』(中央公論, 2001)で示した「中高年の正規雇用を守るために、若年雇用が抑えられ、結果若者の非正規雇用者数が増えている」という見解が支配的だった。著者は、こうした認識とは反対の事実を明らかにする。日本における大学新卒者の募集は減っておらず、また入ってからの待遇もそれほど変わっていない。就職氷河期が続いているように見えるのは、大学の数が増えて大卒者の数が増えたからである。この事実を、多くのデータを使って丁寧に説明している。

  しかし、著者は日本の労働市場に何も問題がないと言っているわけではない。第一に、機械やモノを相手に黙々と作業するような高卒ブルーカラーの仕事が円高で壊滅し、日本に残されたのは、そのような層が苦手としていそうな対人折衡業務ばかりであるという。結果、そうした層が正規雇用に就けなくなっている。第二に、増えた大卒者は高卒相当の仕事を避けるようになり、中小企業への関心も薄い。その結果として、中小企業で人手不足が起こっているという。著者によれば、上の二つの問題を解決するのが、派遣労働のような「解雇しやすい」=「辞めやすい」雇用形態でのジョブ・マッチングだという。その他にも、労働市場改善の提案をいくつか行っている。

  リクルート社に所属して多くの企業を取材してきた著者の情報量が示された好著だろう。これまでの議論に一石を投じる内容である。ただし、タイトルは中高年によるアンチ若者論ととられてしまう可能性があり、ややもったいない。「別の角度から若年雇用の問題を明らかにした」書籍ということが分かるようなタイトルの方が良かった。ちなみにこのブログでは、前著にも言及したことがある。
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