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上手く行っている集団は生得的な性向に沿っている、と

2020-10-06 10:53:35 | 読書ノート
ニコラス・クリスタキス『ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史』鬼澤忍, 塩原通緒訳, NewsPicksパブリッシング, 2020.

  社会の形成にはどのような生物学的な性向が関わっているのかについて、ネットワークの科学、進化心理学、人類史を動員して考察するという試み。著者は『つながり』(講談社, 2010)で知られる米国の医師兼医療社会学者で、ギリシア育ちとのこと。原書はBlueprint: the evolutionary origins of a good society(Little, Brown Spark, 2019.)である。

  個体間の関係や集団のあり方には理論的には複数のパターンがありうる。にもかかわらず、人間の社会はありえた可能性のごく一部しか実現させていない。そこには普遍性があるのではないか、すなわち社会の形成にも遺伝的な制約が課せられているのではないか、というのが本書の問いである。その証明のために、遭難者のコミュニティ、キブツなどの実験的なコミューン、狩猟採取民のバンド、大型類人猿やゾウ・クジラの群れにおけるメンバー間のネットワークを探ってゆく。

  で、人類に特有の普遍的な社会性として、個性化および個体識別、配偶者と子どもへの愛情、友情、社会的ネットワーク、協力行動、内集団バイアス、ゆるやかな階級制、社会的な学習と指導、この八つがあるという。この遺伝的傾向が「青写真(ブループリント)」となって社会が形成されるというのだが、この指摘自体は(それに反する主張と議論を交わすわけではないので)それほど面白いというわけではない。これよりももっと詳細なレベルでの知見──環境の制約に対する反応によって配偶行動が変化するとか、メンバーの入れ替わりが頻繁でも少なすぎても協力行動が減少するとか──のほうが興味深い。

  というわけで書籍全体としての主張のインパクトはそれほど強く感じられないけれども、さまざまな社会の在り方について検討しているところは読ませる。「メンバーの大部分が生き残った遭難者コミュニティとそうでないコミュニティ、何が生死を分けたか」みたいな話は、卑近かもしれないけれどやはり引き込まれるものだ。
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