ウィリアム・マッカスキル『見えない未来を変える「いま」:〈長期主義〉倫理学のフレームワーク』千葉敏生訳, みすず書房, 2024.
倫理学。著者の唱える「長期主義」なる概念を解説している。長期主義とは「長期的な未来にプラスの影響を及ぼすことは現代の主な道徳的優先事項のひとつである」という考え方である(p.325)。具体的には、未来の人類の厚生のために、地球温暖化対策といった環境保護や化石燃料などの資源保護、動物福祉(これが肉食忌避のヴィーガニズムにつながる)などを求めることになる。ただし、本書はそうした具体的な問題についてはわずかにとどめ、長期主義の論理について詳しく説明する内容となっている。原書はWhat We Owe the Future (Basic Books, 2022.)。このブログは前著『〈効果的な利他主義〉宣言!』(みすず書房, 2018.)についても過去に言及している。
長期主義は、哺乳類の平均的な存続期間が100万年程度であることから、人類もそのくらい存続するだろうと仮定して議論を進める。現在の人類は誕生して30万年ほどでまだ望ましい価値観を身に着けていない。まずは誤った倫理観が支配的になるのをしりぞけることが重要である。その際、価値の固定化をもたらす可能性のある脅威として人工知能が警戒される。続いて、人類の絶滅や回復不能な文明の崩壊をもたらすとして、パンデミックや核戦争ほかいくつかの可能性が挙げられる。そうしたあからさまな崩壊だけでなく、科学技術の発展が滞ることによる停滞の可能性も挙げられている。収穫逓減の法則にしたがって、科学技術への投資量を増やしてもかつてより大きな発見・発明は難しくなっている。今後ますますそうなってゆくだろうが、人類はそこまでの投資に耐えられないかもしれないとのことだ。将来の状態をどう評価するかについては、幸福度の高さ、苦痛の少なさを基準とする。厚生の観点からは、野生動物は絶滅したほうが地球における生命全体の幸福度は高まるらしい。最後に、未来のためには、個人がちまちま買い物袋の再利用などを心がけるよりも、環境保護団体に寄付したほうがマシだと断言する。また、反出生主義とは異なり、長期主義は子どもを持つことを支持するという。
以上。長期主義の大まかな方向性が一般の人にもわかりやすく説明されている。未解決の論点もあるが、きちんとそれが示されている点が優れているところでもある。奴隷制廃止がどのように進展したかなどの小ネタも楽しい。ただまあ、焼肉図書館研究会の会員としては、肉食者として将来糾弾の対象になるんだろうなあと予想されて、動物福祉の箇所は気持ちよく読めなかった。
倫理学。著者の唱える「長期主義」なる概念を解説している。長期主義とは「長期的な未来にプラスの影響を及ぼすことは現代の主な道徳的優先事項のひとつである」という考え方である(p.325)。具体的には、未来の人類の厚生のために、地球温暖化対策といった環境保護や化石燃料などの資源保護、動物福祉(これが肉食忌避のヴィーガニズムにつながる)などを求めることになる。ただし、本書はそうした具体的な問題についてはわずかにとどめ、長期主義の論理について詳しく説明する内容となっている。原書はWhat We Owe the Future (Basic Books, 2022.)。このブログは前著『〈効果的な利他主義〉宣言!』(みすず書房, 2018.)についても過去に言及している。
長期主義は、哺乳類の平均的な存続期間が100万年程度であることから、人類もそのくらい存続するだろうと仮定して議論を進める。現在の人類は誕生して30万年ほどでまだ望ましい価値観を身に着けていない。まずは誤った倫理観が支配的になるのをしりぞけることが重要である。その際、価値の固定化をもたらす可能性のある脅威として人工知能が警戒される。続いて、人類の絶滅や回復不能な文明の崩壊をもたらすとして、パンデミックや核戦争ほかいくつかの可能性が挙げられる。そうしたあからさまな崩壊だけでなく、科学技術の発展が滞ることによる停滞の可能性も挙げられている。収穫逓減の法則にしたがって、科学技術への投資量を増やしてもかつてより大きな発見・発明は難しくなっている。今後ますますそうなってゆくだろうが、人類はそこまでの投資に耐えられないかもしれないとのことだ。将来の状態をどう評価するかについては、幸福度の高さ、苦痛の少なさを基準とする。厚生の観点からは、野生動物は絶滅したほうが地球における生命全体の幸福度は高まるらしい。最後に、未来のためには、個人がちまちま買い物袋の再利用などを心がけるよりも、環境保護団体に寄付したほうがマシだと断言する。また、反出生主義とは異なり、長期主義は子どもを持つことを支持するという。
以上。長期主義の大まかな方向性が一般の人にもわかりやすく説明されている。未解決の論点もあるが、きちんとそれが示されている点が優れているところでもある。奴隷制廃止がどのように進展したかなどの小ネタも楽しい。ただまあ、焼肉図書館研究会の会員としては、肉食者として将来糾弾の対象になるんだろうなあと予想されて、動物福祉の箇所は気持ちよく読めなかった。