予備知識一切なしで読んだので、短編集だと分かってちょっと驚きました。本作で、ひょっとして浅田次郎氏が宮部みゆき氏や横山秀夫氏を振り切っての”殿堂入り”もあるかと思っていたこともあり、期待度対比でやや低めの採点となりました。
”現在”の語りの部分は氏の作品で時々みられるのですが、本作ではあまり効果的とは思わず。
全6編の中では表題作の「お腹召しませ」と「女敵討(めがたきうち)」がベストで、この2編は75~80点クラスでしょうか。
娘婿が引き起こした不祥事。妻と娘の冷たい言葉。自分は納得できないままに腹を斬ることができるのか(「お腹召しませ」)。国元に残した妻の不貞(実は自分も江戸で妾に子供を産ませているのだが・・・)。ずっと愛していたとは言い切れないが、大事に想ったこともある妻を斬ることができるのか(「女敵討ち」)。主人公の苦悩を描く2つの話は、やや似通ったところがあります。
「お腹召しませ」は、切腹やむなしの事態に陥った主人公に対する妻と娘の冷たさが面白かったです。
玉を磨くがごとく育てた、美しい一人娘に
「お祖父様の享年は越しておいでです。・・・むしろ死に処を得たと申せましょう」
と言われ、二十五年連れ添った妻からも
「叶うことならわたくしもお伴つかまつりとう存じますが、菊ひとりでは勇太郎の養育もままなりますまい。おひとりでお淋しゅうござりましょうが、お腹召しませ」
と見離される。更に娘からとどめのひとこと。
「さようなさりませ、お父上。・・・ご安心下さい。お腹召しませ、父上」
屋敷ではさっさと奥の間で切腹のためのしつらえがなされ、浅黄色の肩衣までが揃えられて妻子の手でたちまち死装束に着替えさせられる。遺書の文言にまで細かく妻からの注文がつき、更には切先が通りやすいように茶漬けを食べろとか、血の出をよくするために酒を一合飲めとか言われたい放題のた主人公。ここまでくると悲喜劇です。
一方、若旦那にくっついて実家から来た中間が良い。
お家断絶の危機を作り出した娘婿に対する義父(主人公)の想いも良い。
そんな娘婿との束の間の別れ。
「与十を、頼んだぞ。ばかな倅だがの、添いとげてくれよ」
:
「与十やあい、与十やあい」
「女敵討ち」は、検分を務めた目付役・稲川左近が良い。
人の命と家の命のどちらが重いのか?
2話で、主人公がとった行動は?
最後に一筋の光明が。
******************** Amazonより ********************
出版社 / 著者からの内容紹介
昔のおさむれえってのは、それほど潔いもんじゃあなかった?二百六十余年の太平の後に、武士の本義が薄れた幕末から維新へ。惑いながらもおのれを貫いた男たちの物語。名手が描く全六篇。
内容(「BOOK」データベースより)
入婿が藩の公金に手を付けた上、新吉原の女郎を身請けして逐電。お家を保つために御留守居役が出した名案は「腹を切れ」。妻にも娘にも「お腹召しませ」とせっつかれ、あとにひけなくなった又兵衛は(表題作)―二百六十余年の太平で、武士の本義が薄れてきた幕末から維新にかけてを舞台に、名手が描く侍たちの物語。全六篇。
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