ひろの東本西走!?

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龍の契り(服部真澄)

2006-09-13 23:08:00 | 15:は行の作家

Ryuunochigiri1 龍の契り(新潮文庫)
★★★★☆’:85点

服部真澄さんの作品は、以前「エル・ドラド」を読んでいたく感銘を受けたのだが、この作品も非常に面白く読んだ。

1997年のイギリスから中国への香港返還に関する密約文書をめぐる国家間の争奪戦。それだけでも凄いのに、そこに闇のS資金や上海香港銀行の不正預金、政治・経済など全てに渡って世界を影で操るゴルトシルト家の存在、それに敵対する中国の秘密結社などが絡んで、物語は複雑な様相を見せる。本作が服部氏のデビュー作とのことだが、壮大なスケールは日本人離れしていた。一方、女性陣を中心とした人物の心理描写も素晴らしく、凄い筆力である。ただ、この女性陣が殆ど皆、スタイル抜群の美女といった点がやや類型的で紛らわしさも感じた。しかし、それが読者を迷わせる作者の狙いの1つだったとすると、お見事である。

物語の背景だけを書くと、全編で秘密情報部員が暗躍し、奪い奪われ・殺し殺されの連続で緊張感が漂う超サスペンス・ストーリーといった暗めの話となりがちである。ところがどっこい、服部氏はそこに明るさとユーモアも適度にまぶすという異色の作品に仕上げたのだった。若き外交官・沢木、エレクトロニクス分野の世界的ビッグ・カンパニー”ハイパーソニック”社長・西条。仕事の上では非常に優秀な彼らなのだが、元来の人の良さというか、どこか抜けたようなところがあるのが面白かった。また、沢木のライバルで常に同期のトップを走っていた女性外交官は”とある人物”がモデルなのだが・・・。他にも色々実在人物を想像させる人物が登場するのだが、このあたりのシリアスとユーモアのバランスについては、読者によって多少好き嫌いの差があるかもしれない。

最後の方は息もつかせぬ大ドンデン返しの連続だが、連発し過ぎの感があった。もう一段ゆったりと、深み・余韻・味わいといったものが欲しかったようにも思う。
一番あっと驚いたのは、物語の途中で現れたとある人物の正体。何かおかしいなあ、不思議だなあとは思っていたのだが、まさか、○○が◎◎だったとは!”今日のモデルは6人のはずなのに、8人もいる。2人も多いとは・・・” 後から読み返してみると、ヒントはきちんと与えられていたし、こちらの思い込みから完全に騙されて脱帽だった。いやはやお見事。

また、物語の本筋からやや離れるのであるが、非常に面白いと感じたのは、企業のトップシークレットにアクセス可能な人物のパスワードの盗み方だった。全てハイテク駆使でやるのではなく、人間の弱み・心理をうまく突く頭脳的作戦に驚いた。なるほど!これは勉強になりました。いつでも微笑みを絶やさない香港電脳界の天才ハッカー・劉日月(ラオヤアユツ)が秀逸。

ちょっと多くの要素を詰め込みすぎという気がしないでもないが、デビュー作でこれだけ読者を惹きつける力は並大抵のものではない。個人的には中盤あたりが一番面白いと感じたのであるが、約700ページの大作を一気に読み切ってしまった。

*********************** Amazonより ***********************

内容(「BOOK」データベースより)
東洋の富の一大拠点・香港。その返還を前に、永い眠りから覚醒するかのように突如浮上した、返還に関する謎の密約。いつ、誰が締結し、誰を利するものなのか―。全焼したロンドンのスタジオから忽然と消えた機密文書をめぐる英・中・米・日の熾烈な争奪戦が、世紀末の北京でついにクライマックスを迎えるとき、いにしえの密約文書は果たして誰の手に落ち、何を開示するのか。