Amazonの読者レビューにも書かれていたのだが、服部真澄の先見性というか時代の先取り感は凄い。作品の執筆順と私が読んだ順序は一致していないのだが、「龍の契り」での香港返還問題、「ディール・メイカー」での著作権問題、「エル・ドラド」での遺伝子操作食物。そして本作での特許権(知的財産権)問題----サブマリン特許なんてのがあるんですね。
幅広い題材をテーマに見事な物語を紡ぎ出す、その力量が素晴らしい。
本作では、伝説的ハッカー、コンピュータ・セキュリティの専門家、稀代の発明家、美人の女性弁護士、ダイヤモンド・シンジケート、現代のイタリアン・(知的)マフィア、米国の巨大企業体「UE」(モデルはGEか)、国防総省、CIA、通産省(もち日本)、日本の大手自動車メーカー「ハヤタ」(モデルはトヨタ)・電子機器メーカー「インフォグラス」(モデルはシャープ----この会社を取り上げたのが凄い!)とその技術者たち。
彼ら・彼女らが、ある者は自分たちだけの限りない財産と地位のために、またある者は21世紀の国の存亡をかけて、”発明家”と”サブマリン特許”と”石”の謎を巡って様々な知的ゲーム&パワーゲームを繰り広げる。いやはや、壮大なドラマである。
氏の作品をリアルタイムで読んでいたら、数年後、その凄さにもっと唸ったはずだったと思うが、出会うのが遅すぎた。しかし、服部真澄を知らなかったら、それはそれは惜しいことなので、1年で4作品を読むことができて良しとしましょう。
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内容(「BOOK」データベースより)
「発明家クレイソンを調査してほしい」在米のコンピュータ・セキュリティの専門家笹生勁史に、通産省から極秘依頼があった。クレイソンは日本企業に訴訟を起こし、巨万の富を得ているという。問題は、米国の「特許法」の特異性にあった。先端技術の特許を牛耳る米国に、日本、そして正体不明の産業スパイ、マフィア、ハッカーが暗躍、手に汗握る国際サスペンス巨編。
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【注意:以下、ネタバレあり】
序盤:抜群の出だし&抜群の面白さで名作の予感。
中盤:忘年会やら業多忙で読み方が完全に寸断されたことに伴い、
面白さも期待度対比でやや低下。「あれっ?今いちか?」と
思いかけていたのだが・・・。
終盤:おおーっ!ええやん、ええやん(いいね、いいね)!
服部氏の作品はラスト(ラストのラスト)がもう一つ掘り下げ不足・ケレン味不足・余韻不足といった印象があり、多少不満を持っていた。本作もそうかなと思っていたら・・・。
やってくれましたね!
最後に仕掛けられた罠。さすがは天才的ハッカー○○・・・?
服部氏の作品は社会派小説×サスペンス小説といった位置づけになるのだろうか。サスペンス小説にしては明るくカラッとした感じがするのが、氏の作品の特徴かもしれない。これは登場人物がみな何となくユーモアがあるせいか。
----「エル・ドラド」はちょっと陰の部分が多かったかな。
私は結構重厚で暗さのある小説も好きなのだが、服部路線も非常に良いと思う。男性読者で、やや深みに欠けると評する人がいるかもしれませんけれど。
思わず笑ったシーン:
「彼みたいなのがタイプなのかい」
「アメリカの女の半分は、このタイプが好きなのよ」
:
(辣腕美人弁護士の写真を見て)
:
「そうは見えないわ」
「何に見える?」
「お嬢ちゃん」
:
「アメリカの男の半分は、このタイプが好きだね」
しかし、とある人物が亡くなったのが可哀想で可哀想で・・・。
おそらく本作が年内最後の読了小説になると思われますが、1年の締めくくりに素晴らしい作品を読むことができて良かったです。