農地は 一朝一夕には 生まれない

2011-04-29 11:55:25 | 居住環境
[図版更改 18.02][文言追加 18.13]
[「原発一個動かなくても関係ない都会!」へリンク追加 1日 23.24]
[毎日新聞 投書欄から投書転載追加 3日 12.10]

先に、飯館村について、少しばかり触れました。

そのあとで、私は、吉野せい さんの書かれた「洟をたらした神」という随筆を思い出し、書棚から引っ張り出して、あらためて読んでみました。
同書は「弥生書房」から、1975年4月15日初版で刊行されています。

吉野せい さんは、1899年福島県 小名浜(おなはま) の生まれで、詩人であった小作農・吉野義也:三野混沌:と結婚し、平(たいら)の町のはずれの山地の開墾に従事した方、そして、夫 混沌の没後、70歳を過ぎて著作を始めた方です(元々、平の牧師をしていた詩人・山村暮鳥などを知り、文筆を志していたのですが、結婚を機に、それまで書いたものを全て焼いてしまった、といいます)。
同書の あとがき で「・・・一町六反歩を開墾、他に一町歩の梨畑、自給のための穀物作りに渾身の血汗を絞りました。」と、記しています。


飯館村の方がたは、避難を強制されるようです。

報道で聞こえてくる話に拠れば、事故を起こした張本人は、賠償をできるだけ少なくしたい、同時に、国にも賠償の支援を求めたい、と考えているらしい、とのこと。
その話の えげつなさ もさることながら、その思考の向うに、何ごとでも金で解決できる、という考えも透けて見えてきます。
おそらく、原発立地も金で可能になったし、住民だってそれで潤っているはず、潤したのは我われだ、だから、原発被災も金で・・・という「発想」なのだと思われます。
しかし、飯館村は、原発の地元ではありません。原発とは無縁の豊かな山あいの地。[文言追加 18.13]

私が「飯館村」の話から、吉野せい さんのこの一冊を思い出したのは、
そこに、かつて、農地は、どのようにして開かれていったのか、如実に、しかしさりげなく、開墾に携わったた方自らの手で描かれていたことを思い出したからだ、と思います。
現代の人びとが造成された宅地を買うような、そんな形では農地は農地にならない、従って、それを簡単に「金」で何とかしよう、とするような考え方には、到底ついてはゆけないのです。人びとの代々の営みを、金に換算できますか。
「耕す」ことを英語では cultivate と言いますが、culture はその派生語。耕さなければ生まれないものが culture なのです。そして、農業は agri-culture 。 agri の語源は「土地」のことらしい。
農地の破壊は一日もかからずにできる、しかし農地は一朝一夕では作れない、このことを、今回の事故の張本人たちは、忘れていないだろうか(知らないのだろうか)?
金勘定する前に、先ず、張本人たち総動員で、土壌除染に向けての作業をなさったらいかがですか(下請け任せにしないで・・・)。

   吉野せい さんを広く世に紹介した 串田孫一 氏は、同書の「序」で、
   「書くことを長年の仕事としている人は、文章の肝所を心得ていて、うまいものだと感心するようなものを作る。
   それを読む者も、ほどほどに期待しているから、それを上廻るうまさに驚く時もあれば、また、期待外れという時もある。
   ところが、吉野せい さんの文章は、それとはがらっと異質で、私はうろたえた。
   たとえば鑢紙での仕上げばかりを気にかけ、そこでかなりの歪みはなおせるというような、
   言わば誤魔化しの技巧を秘かに大切にしていた私は、張手を喰ったようだった。
   この文章は鑢紙などをかけて体裁を整えたものではない。
   刃毀れなどどこにもない斧で、一度ですぱっと木を割ったような、狂いのない切れ味に圧倒された。
   ・・・・」

「洟をたらした神」の最初は、「春」という一文です。
以下に、同書からスキャンして、そのまま転載します。[図版更改 18.02]

文末の数行は、実に凄い。

版面を変えたくなかったので、字が小さいと思います。恐縮ですが拡大してお読みください。

吉野せい さんの著作は、他に、作品集「道」(弥生書房)、評伝「暮鳥と混沌」(草野心平 跋 弥生書房)があります。
   草野心平 氏の愛した 川内村 も素晴らしいところ。ここも、避難地区になってしまった![文言追加 18.13]








2007年の中越地震で柏崎原発が停止したときの柏崎市長の言を紹介したことを思い出しましたのでリンク。
「原発一個動かなくても関係ない都会!」。[リンク先追加 1日 23.24]

5月3日付毎日新聞、投書欄から転載 [記事転載追加 3日 12.10]

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