付録1-2 継手・仕口の実際
3.軒桁、小屋梁の継手・仕口
1)軒桁の組み方:どの高さで組むか
(1)京呂(きょうろ)組の場合
組み方A 軒桁に小屋梁をのせ掛ける。一般的な方法。小屋梁に丸太、太鼓落とし、平角材のいずれを用いても可能。
1)小屋梁を軒桁の内側に納める 2)小屋梁を軒桁の外側にまで渡す(仕口:渡りあご)
一般に、丸太あるいは太鼓落としを用いる場合は1)が多い(補強を要求される)。2)の方が、強度的には確実(補強不要。ただし、梁の木口が外側に見えるため大壁造りには不向き)。
組み方B 軒桁と小屋梁を天端同面で納める:小屋梁に平角材を用いる場合に可能。
組み方Bの例
(2)折置(おりおき)組の場合
組み方A 小屋梁に軒桁をのせ掛ける:梁は丸太、太鼓落とし、平角材いずれも可。
組み方B 小屋梁に天端同面で落としこむ:小屋梁が平角材の場合に可能。
2)軒桁の継手
軒桁は、京呂組、折置組にかかわらず、連続梁と見なせるが、荷重のかかり方は異なる。
(1)京呂(きょうろ)組の場合:小屋梁を受け、大きな曲げがかかることを考慮した継手が望まれる。
①追掛け大栓継ぎ ②金輪継ぎ(土台の継手に記載) ③腰掛け鎌継ぎ+金物補強 ④腰掛け蟻継ぎ+金物補強
竿シャチ継ぎ(軒桁の継手参照)も可能だが、使われることは少ない。
(2)折置(おりおき)組の場合
垂木を経て屋根荷重を分散的に受けるだけであるため、曲げの大きさは京呂組に比べ小さく、断面は母屋程度でも可能。ただし、軸組の桁行方向の変動を考慮した断面とする必要がある。
①追掛け大栓継ぎ ②金輪継ぎ ③腰掛け鎌継ぎ+金物補強 ④腰掛け蟻継ぎ+金物補強
一般的には③が多用される。①追掛け大栓継ぎを用いると強い架構になる。
3)小屋梁の継手
①台持(だいも)ち継ぎ :一般に多用される継手。
柱あるいは敷桁(敷梁)上で継ぐときに用いられる。丸太、太鼓落とし、平角材のいずれでも可能。太鼓落としの場合は、後出の図参照(追掛大持ち継ぎと記してある)。
稲妻型に刻んだ下木に同型の上木を落とし、材相互のずれはダボ、捩れは目違いを設けて防ぐ。上下方向の動きでのはずれ防止のため、継手上に小屋束を立て、屋根荷重で押さえる。あるいは図の点線位置で、ボルトで締める。敷桁には渡りあごで架ける。
②追掛け大栓継ぎ:平角材に用いられる確実な継手。柱あるいは敷桁から持ち出した位置で継ぐときに用いる。継がれた2材は1材と見なすことができ、曲げに対して強い。
③腰掛け鎌継ぎ+補強金物:継がれた材は、継手を支点とした単純梁と見なせる。
4)軒桁と小屋梁の仕口
(1)京呂組の場合
組み方A 軒桁に小屋梁をのせ架ける。
①兜(かぶと)蟻掛け 軒桁内側に納める場合
一般的な方法で、丸太梁、平角材いずれにも用いる。基本的には大入れ蟻掛け(目違い付き)である。
丸太梁で、垂木彫りを刻んだ後、木口の形状が兜のように見えることから兜蟻掛けと呼ぶようになった。小屋梁ののせ架け寸法は、垂木が軒桁に直接掛けられるように決める。柱と軒桁は長ほぞ差しが最良(込み栓打ちは更に確実)。法令は、羽子板ボルトでの固定を要求(梁に曲げがかかったとき、あるいは梁間が開いたときの蟻掛け部分のはずれ防止を意図)。註:実際は、曲げによるよりも、架構の変形により起きる可能性が高く、架構:軸組を強固に立体に組めば避けられる。また、屋根(小屋束・母屋・垂木・野地板)が確実に取付けば、梁のはずれは実際には起きにくい。 垂木を表しの場合は、垂木間に面戸(めんど)板を入れる。
②相欠き渡りあご 軒桁外側に梁を出す場合
丸太梁、平角材いずれにも用いられる。法令・金融公庫仕様でも補強を要しない仕口であるが、外面に木口が表れるので真壁向き。 垂木を掛けるために、鼻(端)母屋が必要となる。鼻母屋と軒桁の間に面戸板が必要。鼻母屋の継手は腰掛け鎌継ぎで可(軒桁・面戸板・鼻母屋で合成梁となるため、追掛け大栓継ぎの必要はない)。 垂木表しの場合、垂木の間にも面戸板が必要(図は省略)。
軒桁の小屋梁位置下に管柱があるときは、頭ほぞを重ほぞとし、軒桁・小屋梁・鼻母屋を縫う方法が確実。柱がない箇所では、鼻母屋上部から大栓を打ち、鼻母屋・小屋梁・軒桁を縫う。 小屋梁の脇で、鼻母屋と軒桁をボルトで締める方法は、経年変化で緩む可能性が高い。
組み方B 軒桁・小屋梁天端同面
(大入れまたは胴突き付き)蟻掛け
梁が平角材の場合に用いる。図は胴突き付きの場合。 天端同面納めは、軒桁丈≧小屋梁丈の場合可能。
法令では、梁に曲げがかかったとき、あるいは梁間が開いたときの蟻掛け部分のはずれ防止のために、羽子板ボルトでの固定が要求される。①の注を参照 垂木表しの場合は面戸板が必要(図では省略)。
図では、軒桁を追掛け大栓継ぎで継いでいる(一般には、刻みの簡略化のため腰掛け鎌継ぎ+金物補強が多用されるが、強度的には追掛け大栓継ぎが優れる)。
(2)折置組の場合
組み方A 小屋梁に軒桁をのせ掛ける
相欠き 渡りあご
丸太梁、平角材いずれにも用いられる。図は小屋梁が平角材の場合。相欠きと渡りあごによって、梁と軒桁がかみ合うため桁行方向の変形に対してきわめて強い。この効果を確実に維持するために、軒桁の継手は、追掛け大栓継ぎが望ましい。補強を要しない仕口であるが、外面に木口が表れるので、大壁仕様のときは検討を要する。
柱寸法の節約、刻みの簡略化のために、柱の頭ほぞを短ほぞとして金物補強とすることが多いが、図のように、柱の頭ほぞを重ほぞとし、小屋梁・軒桁を一体に縫うと軸組は一段と強固になる。
太鼓落とし梁の場合は、次項参考の図を参照。
組み方B 小屋梁・軒桁天端同面納めの場合
②(大入れまたは胴突き付き)蟻掛け
梁が平角材のとき可能な方法。 小屋梁丈≧軒桁丈が必要。 図は、小屋梁と軒桁の丈を同寸の場合。
梁の丈>軒桁の丈のときは腰掛け蟻掛けとする。柱寸法の節約、刻みの簡略化のために、柱の頭ほぞを短ほぞとして金物補強とすることが多いが、長ほぞの方が軸組は強固になる。垂木表しのときは面戸板が必要。法令は、軒桁に曲げがかかったとき、あるいは柱間が開いたときの蟻掛け部分のはずれ防止のために、金物補強を要求。
実際は、架構:軸組を強固に立体に組むことで避けられる(従来、金物補強がなされなかったのは、開口部に差鴨居を入れるなど、架構を立体に組む工夫がなされていたからと考えられる)。また、屋根(小屋束・母屋・垂木・野地板)が確実に取付けば、梁のはずれは起きにくい(前項兜蟻掛け参照)。
参考 太鼓落し梁の仕口分解図 日本家屋構造 斎藤兵次郎著 より
5)小屋梁と小屋束、小屋束と母屋の仕口
小屋束:母屋の幅と同寸角。 小屋束間隔が大のときは、丈を大きくする(梁と考える)。
小屋束の根ほぞ(小屋梁との仕口)と頭ほぞ(母屋との仕口)は長ほぞが望ましい。一般に多用される短ほぞ+かすがいは揺れや引抜きに弱い。
6)二重梁、つなぎ梁
小屋束・二重梁・母屋は、小屋束の頭ほぞを重ほぞとして一体化する方法が良。 つなぎ梁端部は、小屋束に対してほぞ差し(ほぞ差し込み栓またはほぞ差し割り楔締めにすれば確実)。
7)母屋の継手
母屋は、垂木を経て分散的にかかる屋根上の荷重による曲げの力に対して耐える必要がある。また、小屋束、母屋の構成で桁行方向の変動にも耐えなければならない。
通常使われる継手は次のとおり(いずれも図は省略)。①追掛け大栓継ぎ ②腰掛け鎌継ぎ ③腰掛け蟻継ぎ③を用いることが多いが、強固な小屋組にするには、①②が望ましい。特に、丈の大きい母屋を用いるときは①が適切。②③を用いるときには、各通りの継手位置は、できるかぎり千鳥配置とし、垂木位置は避ける。
8)垂木の配置、断面と垂木の継手
垂木の継手:垂木は母屋上で継ぎ、殺ぎ(そぎ)継ぎとすると不陸が起きない。
10)垂木の母屋への納め方:垂木彫り
垂木が軒桁・母屋にかかる部分を、垂木の幅・垂木の勾配なりに彫り込むことを垂木彫りという。
軒桁・母屋の側面に刻まれる垂木彫りの深さを口脇(くちわき)、勾配なりの斜面部を小返(こがえ)りと呼ぶ。軒桁、母屋上端の小返りの終わる位置を小返り線という。
図Aは小返り線を軒桁、母屋の芯とした場合で、口脇寸法={軒桁・母屋幅/2×勾配}となり、口脇寸法は整数になるとは限らない。
図Bは一般的な方法で、口脇寸法を決め(たとえば5分)、小返り線を逆算する。この場合、軒桁・母屋芯位置での垂木の下端は軒桁・母屋上にはなく、宙に浮く。 軒桁・母屋芯(通り芯)位置での垂木下端の高さを峠(とうげ)と呼ぶ。 図Aでは材の上に峠が実際にあるが、図Bでは仮定の線となる。
通常、設計図(矩計図など)は図Aで描くが、現場では図Bで刻む。特に指示する場合は、口脇寸法を明示する。
参考 日本の建物の寸法体系
寸法の単位
a.柱間単位は「1間」
メートル法の使用が義務付けられている現在でも、木工事では尺表示が使われることが多い。住宅の場合、通常、柱間単位は1間を標準とする。関東では1間=6尺(通称「江戸間」または「関東間」)、関西では1間=6尺5寸(通称「京間」)が普通である。ほかにも、地域によって異なる寸法が柱間単位として用いられており、また、建物により任意に設定することもできる(大規模の建物で標準柱間を9尺とする、など)。 注「京間」では、畳寸法を6尺3寸×3尺1寸5分として柱~柱の内法を畳枚数で決める場合もある。
メートルグリッドを用いることも可能。ただし、木材の「規格寸法」に留意する必要がある。
1間に満たない寸法に対しては、1間の1/2、1/3、1/4、1/5、1/6・・・を用いるのを通例とする(工事がしやすい)。
b.尺とメートルの換算
一般に、1間=6尺=1,820㎜とすることが多いが、正確ではない。1尺=10/33m≒303㎜、1間=6尺≒1,818㎜である。
木工事は、現在でも、通常「尺ものさし」:指金(さしがね)で施工し、大工職は1,820㎜の指示を6尺と読み替えることが多い。一方、基礎工事は「メートルものさし」で1,820㎜の指示どおり施工するから、1間につき2㎜の誤差を生み、現場での混乱の原因になる。正確な指示が必要。
ブログ内記載記事:補足「日本家屋構造」-4・・・小屋組(その1) 2012.09.26