「仮設」の計画も設計のうち

2011-10-15 16:55:32 | 建物づくり一般
下は BRIDGES (David J Brown 著 Macmillan Publishing Company 1993年刊)に載っている素晴らしい写真。 



橋のように見えますが、これ自体は橋ではありません。
橋をつくるための用意、仮設工事の写真です。

石造や煉瓦造では、時に、つくり上げるための用意をする必要があります。
たとえば、石や煉瓦で橋をつくるには、木材や鉄材でつくるようには簡単にはゆきません。
石や煉瓦で橋をつくるときに使われるのがアーチ。

上の古代の墳墓の入り口のように、両側から少しずつ迫り出してゆき、最後に全体がつながるという方法なら問題は少ないですが(猿橋や愛本橋、先に紹介のネパールの木橋もこの方法です)、アーチにするためには(上の解説図の右側)、所定のアーチ型を用意し、その上に石や煉瓦を積まなければなりません。「形枠」です。もちろん、石や煉瓦を積んで壊れてしまってはだめ。

多くの場合、「形枠」は木でつくります。石や煉瓦を使う、ということは、自由に使える材料がそれしかない、という地域。つまり木が貴重な地域。
しかし、「形枠」は木でつくるのが容易。
ローマの煉瓦造には多くのアーチが使われていますが、そこでは、貴重な木でつくった形枠を使いまわしていたようです。一度使って廃棄することなく、大事に保存しておき、次の建造物に使うのです。
   喜多方の登り窯の覆屋の下にも、窯の修理用のヴォールトの形枠がトラスからぶら下げて保存されていました。
   今回の登り窯修復にも使われたのではないでしょうか。

石や煉瓦に代って使われるようになったのがコンクリート。
コンクリートを「混擬土」と描いた時代があります。この表記は言い得て妙。
以前にも書きましたが、コンクリートは当初は流体。成形のためには形枠が要る。
そして、その形枠を支える準備も必要。
こういった準備を仮設、仮設工事と呼んでいます。

冒頭の写真は、マイヤールの設計したRCの橋のための「形枠を支えるための支柱」です。木材でつくられています。この上に「形枠」がセットされるのです。
BRIDGES の解説には、次のようにあります。
・・・・
The timber framework for the arch was a major engineering feat in itself,with its crown 76m above the valley floor.

まったくその通り。これだけでも立派な構築物です。
しかし、橋が完成すると撤去されてしまう。もったいない・・・。

下は、川床から見た写真と遠景。




コンクリートの橋桁をそばに寄ってみたのが次の写真。



これから判断してもかなりの重量。工事中それを支持していたのが冒頭の木造架構なのです。重量を支えるため、それ自体、きわめて頑強につくられていなければならない、それが素晴らしい木造架構をつくりだした理由なのだ、と思います。

この橋は、1930年に完成した SALGINATOBEL BRIDGE。
著者 David J Brown 氏は、次のように解説しています。原文のまま載せます。


SALGINATOBEL も SCHIER も、調べましたが、何処にあるのか分りませんでした。

なお、マイヤールの一連の仕事についての解説図もありましたので、転載・紹介します。



ついでに、
以前に紹介したライトの落水荘の仮設の様子が下の写真です。



このような仮設段階の仕事を目にすることは、現場に立ち会っていないと、まずありません。
マイヤールにしろライトにしろ、完成形もさることながら、この「仮設」の段階も「設計」していたものと考えられます。
しかし、現在は、「仮設」の段階を考えて設計する設計者は少なくなってしまった
ように思えます。
仮設は temporary、一時的な作業、 そういうことは、施工者が考えること、と思っているからではないでしょうか。設計者:建築家が「偉くなってしまった」のです。

私はそれは大きな間違い、と考えています。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (佐々)
2011-10-15 21:42:11
先生、こんばんは。
冒頭の写真は本当に美しい構造ですね。
「仮設」に対して目から鱗でした。
増田一眞氏がRCや鉄骨の建物を木造架構で補強することに取り組んでおられますが、それらの建物が生まれる時には木造架構に支えれていたわけで、ごく自然な考え方なのだなと、今日の写真を拝見して改めて思いました。
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過程 (筆者)
2011-10-16 08:44:13
コメント有難うございます。

完成形もさることながら、この「仮設」の段階も「設計」、というのは、私の実感です。
木造建築は、RCのうような仮設を必要とはしませんが、わが国の木造建築は、やはり、架構を建てる過程を十分に考えていたように思います。
どこから建て方を始めるか、どういう順番で組んでゆくか、それが考えられていないと、設計図はまさに絵に描いた餅になってしまうからです。
もちろん、これは木造に限りません。
何回もそういう絵を描いてきたように思います・・・。失敗がいっぱい・・。それを援けてくれたのは、職方の方がたでした。
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