「日本家屋構造・中巻:製図篇」の紹介-17 : 附録(その2)

2014-03-29 15:21:38 | 「日本家屋構造」の紹介


今回も、原文を転載し、全文を現代語風に書下ろし、随時註を付すことにします。

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[註記追加 30日 9.15][後記追加4月1日 9.20 、後記に文言追加 2日 11.10]

今回は、附録から、「二十七 漆喰調合及左官手間」の項を紹介します。

はじめに、「材料の調合」について、原文と現代語による読み下しと註記。

  二十七 漆喰調合及び左官手間
  材 料
  普通漆喰用に必要な材料は、粉石灰(こ いし ばい)、蠣灰(かき ばい)、角又(つの また)、海苔(のり)、および(すさ or つた)などである。
    註 粉石灰蠣灰は、いずれも組成・成分は消石灰(しょう せっかい): Ca(OH)₃、水酸化カルシウム。原料の違いに拠り呼称が異なる。
       石灰石あるいは貝殻:いずれも主成分は CaCO₃を焼成すると→生石灰(せい せっかい or き せっかい) CaO:酸化カルシウム+Co₂になる。
       この生石灰 CaOに水を加えると CaO+H₂O→消石灰(しょう せっかい) Ca(OH)₃になる。
       石灰岩を原料とする消石灰粉石灰(こ いし ばい)又は単に石灰(いし ばい)、貝殻を原料とする場合が貝灰(かい ばい)
         粉石灰は「ふけ ばい」とも呼ばれる。「生石灰(き いしばい)が、空中より水気を取りて水化したる石灰。(「日本建築辞彙」)水化水酸化
       日本の場合、石灰(いし ばい)は近世後期以降、それ以前は貝灰が主であったようです。
       漆喰は、石灰(せっかい)の中国語読みへの当て字という。
       漆喰は、塗られた後、空気中の炭酸ガスと化合し、徐々に CaCO₃に戻ってゆく。ゆえに、気硬性と呼ばれる。
       表面がさわれる程度に硬化するまでに時間がかかり、一定程度硬化した後も、空気中の水分を吸収、完全に硬化することはない(調湿性)。

       角又:長さ15㎝ほどの紅藻類の海藻。煮ると糊状になるので、漉して接着材・糊として使う。
       海苔布海苔(フノリ)の類のことと解す。フノリも紅藻類の海藻で特にフクロフノリの煮汁は糊として使う。他にぎんなんそう など)も糊に使う。
      :塗壁の亀裂防止のために混入する繊維質の材の総称。(「日本建築辞彙」)
        浜苆:網曳または船などの古綱を切解きてつくりたる苆をいう。(「日本建築辞彙」)
           本浜苆:下総九十九里浜、地引網の古きものを切解きて製したるものなり。(「日本建築辞彙」)
           並浜苆:和船の古綱にて製する苆なり。大阪、兵庫などより算出す。(「日本建築辞彙」)
           油苆:菜種油を搾るとき使用する袋(註:麻袋か)の廃物利用なり。(「日本建築辞彙」)
             (以上は特記以外、「建築材料ハンドブック」「建築材料用教材」「内外装材チェックリスト」「「広辞苑」などに拠る)


  調 合
  以下の調合の項の単位表記について
   尺貫法単位表記→メートル法表記の換算は、以下に拠ります。
    容積 1斗=18㍑
    重量 1貫(かん)=3.75㎏=3,750g 1匁(もんめ)=1/1000貫=3.75g
       註 550目=550匁

   ア)下塗り  
       粉石灰 4斗:72㍑ 蠣灰 6斗:108㍑ 角又 1貫650匁:6.1875㎏ 干切(ひぎり)並浜苆 1貫450匁:5.4375㎏
   イ)斑直し及び小斑直し  「村直し」は「斑(むら)直し」の意と解します。
         註 「日本建築辞彙」にも「村直し」の表記で解説が載っています!
       蠣灰 5斗:90㍑ 消石灰 5斗:90㍑ 川砂 5斗5合:99㍑ 角又 1貫550目:5.8125㎏ 干切浜苆 1貫450目:5.4375㎏
   ウ)中塗り
       上蠣灰 7斗:126㍑ 上消石灰 3斗:64㍑ 上角又 1貫600目:6㎏ 干切浜苆 1貫400目:5.25㎏
   エ)上塗り
       上蠣灰 8斗4升:151.2㍑ 上消石灰 1斗6升:28.8㍑ 上々角又 1貫300目:4.875㎏  干切浜苆上 1貫100目:4.125㎏
   オ)上塗り 野呂掛け(のろ がけ) 上磨き
       上々蠣灰トビ粉 9斗:162㍑ 極上消石灰トビ粉 1斗:18㍑ 美濃紙苆 350目:1.3125㎏
    
    中塗り上塗りになるほど蠣灰の比率が高くなっていることから、蠣灰の方が石灰よりも品質がよかったのではないか、と推察されます。
    この違いは、原料の違いに拠るものと思われます。貝殻の方が石灰岩よりも、石灰分の純度が高いのではないでしょうか。
    たしかに、蠣灰を使っていると考えられる古い建物の漆喰は白さが際立っているように思います。
    私は蠣灰を使った漆喰の経験がありません。どなたかご存知の方、ご教示ください。
    トビ粉(とび こ):「より微粒である」という意か? この点についても、ご存知の方、ご教示ください。
    野呂掛け:石灰を水で溶いたものを塗ること。セメントを水で溶いたものもノロと呼んでいます。
    美濃紙苆として美濃国(岐阜県)産の楮(こうぞ)を原料とした和紙:美濃紙を解いて用いる。
      :桑科の落葉低木。樹皮を和紙の原料に使う。「こうぞ」は「紙麻(かみそ)」の音便から。(「広辞苑」ほか)

  普通の住宅で上塗り茶大津(ちゃ おおつ)仕上げの壁にする場合の所要材料量は、壁1坪あたり、おおよそ以下の通りである。
    註
    大津壁もっとも低廉な壁の上塗仕様。一般に蠣灰を使用し、土、苆を混ぜ、糊は用いない。
    混入する土の色により、泥(土呂)大津、黄大津、茶大津、本茶大津、鼠大津等があり、石灰や蠣灰が多い方が上等である。
    混入する土には「へな土」と呼ばれる粘土と海土(川土)があり、海土は「ネバ」とも呼ばれていた。
    「へな土」にはその色味により、赤へな土や黄へな土がある。「へな土」1俵は1貫500匁。(「日本建築辞彙新訂版、後註」より転載)
  小 舞:間渡し竹 平均14本 割竹 70本 細縄 100尺
  荒壁土:川粘土の場合 1荷半 荒木田土(あらきだ つち)の場合 2荷
       ただし壁厚を厚くする地域では3荷を要す。
       川粘土:普通の粘土のことを指すか?
       荒木田土:荒川沿岸の荒木田原に産する粘土、粘着力が強い。転じて、粘着力の強い土の一般的呼称。
  中塗土:川粘土 半荷 川砂 1荷 藁苆 半俵
       中塗土は、これらを混和した後、夏季は1週間、冬季は3週間ほど積み置き、その間に二・三度鍬を入れて切り返し菰をかけておき、
       土色が青味を帯びた頃使用するのがよい。
       註
       土の単位の「」には、嵩:容積、重さの両義があるようですが、この場合は土ですから重量の意と思われます。
       ∴1荷(か):天秤棒の両端にかけて一人の肩に担える分量。重量では50~60㎏程度か?
         この点についてご存知の方、詳しい方、ご教示ください。

  上塗土:蠣灰 2俵 赤粘土 半俵(ただし1貫7・800匁≒6.5㎏前後)麻苆 20匁=75g 
       
       物品を(たわら:藁や葦で編んだ円筒様の容器)につめて運んでいた時代、は一人で運べる大きさにつくられ、
       その俵の数で、物品の量を数えていました。したがって、1俵あたりの重量:重さは、俵に詰める物品によって異なります
       つまり、「俵」は、「荷」と同じく、もともとは、運べる嵩:容積、重量両様に適宜に解され用いられていた単位です。
       明治期になり、混乱を防ぐために、1俵:米俵1俵=容積4斗(72㍑、重量16貫=60㎏、とされたといいます。
       しかし、この文中の「赤粘土 半俵ただし1貫7・800匁」は、この「規定」とは異なります。ゆえに、土をどのような測り方で計っていたか分らなくなります。
         なお、蠣灰石灰は、同じ重量でも容積が異なるそうです。
       註記追加:土などを入れる「俵」は、当然「米俵」様の「俵」とは違い、塩などを入れたいわゆる「(かます)」様だったのではないかと思います。
               の容量など分りません。どなたかご教示ください。[追加 30日 9.15]

       現在、日曜大工でモルタルをつくる要領は、たとえば、25㎏入りセメント1袋:20㎏入り砂3袋に水〇㍑を加える、などと表されています。
       これは、日曜大工用に、セメントは25㎏入り、砂は20㎏入りがそれぞれ1袋として販売されており、袋単位で調合する方が分りやすいからです。
       おそらく、明治期に於いても、一般的な単位、で数える数え方が分り易かったのではないでしょうか。
       問題は、当時、土は何貫で1俵だったか、という点です。「赤粘土 半俵ただし1貫7・800匁」⇒「赤粘土1俵≒3.5貫≒13㎏」となります。
       この数値は、前掲の「日本建築辞彙」記載の「へな土1俵は1貫500匁」と違い、困惑します。

         このあたりのことを含め、左官の仕事全般について詳しくご存知の方、是非ご教示をお願いいたします。
       

  屋根漆喰  粉石灰 4斗 蠣灰 6斗 角又 1貫 並浜苆 900匁、油苆 1貫
       註
       屋根漆喰 瓦の接合または棟などに用うる漆喰なり。(「日本建築辞彙」)
         「日本建築辞彙」記載の調合はこれとは異なり、以下のようになっています。
         「・・・屋根1坪に付き、石灰、蠣灰合せて6斗、角又、布海苔合せて840匁、中浜苆720匁、水、油3合なり。
       文中の配合も屋根面1坪あたりか?
  砂漆喰    粉石灰 7斗 川砂 3斗 角又 1貫 並浜苆 800匁
       註
       砂漆喰:下塗り、中塗り用に用いる。漆喰よりも強度が出る。この調合は塗面積1坪あたりか?
         セメントモルタルが普及する以前は、接着材として、煉瓦目地などに使われている。
         砂漆喰目地は、調湿性に富み、ゆえに一定の弾力性があり、セメントモルタルに比べ、亀裂が生じにくい。
         喜多方の煉瓦蔵も、当初は砂漆喰目地である。新潟地震の際も、砂漆喰仕様には、煙突以外、損壊はなかった。(「喜多方の煉瓦蔵」参照)
  木摺壁    石灰 7斗 蠣灰 3斗 角又 1貫200匁 並浜苆 1貫
       註
       これは、木摺上に塗る漆喰の調合。木摺への付着をよくするため、角又の量が多い。この調合は塗面積1坪あたりか?
         木摺上の下塗りとして、ドロマイトプラスターが使われる。粘度が高く、木摺によく付着し、漆喰との相性もよい。


以下は、左官手間についての原文と現代語による読み下しと註記。

  左官手間
  普通荒壁 「荒木田土」使用  左官1人に付手伝い3人掛りとして
    荒壁 左官1人に付き
       下等仕上げ 60坪
       中等       40坪
       上等       25坪
  中塗り、上塗り  左官1人に付手伝い3人掛りとして
    中塗壁 左官1人に付き
       下等仕上げ 20坪
       中等       12~3坪
       上等       7~8坪
    上塗壁、大津壁の類 左官1人に付き
       下等仕上げ 10坪
       中等       6~7坪
       上等       4~5坪
    上塗、漆喰塗、色壁の類 左官1人に付き
       下等仕上げ 8坪
       中等       5~6坪
       上等       3~4坪
    上塗、白上塗 左官1人に付き
       野呂掛け磨き上げ  2坪
       普通中等          6坪
       下等        14~15坪
       註
       色壁:「聚楽」などの色つき土を用いる塗り仕上げ

  屋根漆喰、平、棟、面戸とも平均地坪(ぢつぼ)1坪に付き  左官1人に付手伝い1人掛りとして
    二遍塗 
       上等塗  1.7~1.8人
       中等塗  1.3~1.4人
       下等塗  0.8人
    三遍塗
       上等塗  2.5人
       中等塗  1.5人
       下等塗  1人
       註
       地坪1坪:屋根仕上り面の面積1坪のことか?

以上で「二十七 漆喰調合及左官手間」の項は終りです。

後記 [4月1日 9.20追加]
その後、「単位」について、いろいろと調べています。
塩は土と似ている、との素人考えで、「講座・日本技術の社会史 第二巻 塩業・漁業」(日本評論社 刊)を紐解いたところ、「塩業」の章の P48~に「塩の計量単位」について触れられていました。
それによると、古代から鎌倉前期まで、「果」という単位があり、「塩1果」=「塩3升」とありました(米1果=米1石とのこと)。しかし、それがどのような形状の「包装」であるかについては、不詳です(この場合は、塊状の塩の計量法であったようで、塩の形状により、異なっていた?)。
一方、平安時代には「籠」という単位も現れるそうです。場所によっては、「籠」が「俵」と併用とのこと。しかも「俵」には「大俵」「中俵」「小俵」があり、「中俵=3斗籠」という場合もある、とのこと・・・。
   工事現場での土などの運搬法に「もっこかつぎ」というのがありました。「もっこ」は、「持ち籠」の転。
   3尺角程度の四角い(@3~4寸の目の粗い網)の四隅に結んだを天秤棒にかけ、そのに土などを載せて運ぶのです。
   土を入れ、持ち上げるとのようになります。[文言追加 2日 11.10]
   もしかしたら、これと「籠」という「単位」は関係しているのかもしれません。あくまでも、私の当て推量です。念のため・・・。
いずれにしろ、物品の「運搬」「包装形態」「計量法」は密接に関係していて、時代、地域によっていろいろな包装法、計量法があり、
取引上その「換算」が面倒であったことが分ります。
とはいうものの、肝心の「土」や「石灰」などの、明治時代の包装や計量法の詳細は、結局分らずじまい・・・。
当時のことを知っている方も少ないし、あとは何か参考文書でもあれば・・・、と思ってます。


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「日本家屋構造・中巻 製図篇」の紹介も、残りは、「二十八 住家建築木材員数兼仕様内訳調書」「二十九 普通住家建築仕様書之一例」だけとなりました。
「二十八」はともかく、「二十九」は仔細にわたり書かれていますので、編集作業に少々時間をいただきます。

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5 コメント

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Unknown (ishigoro)
2014-04-02 17:47:29
大正15年の 「請負工事便覧」という本にも荒木田土の単位として「荷」という聞き慣れない単位を使っていました。私も非常に気になって調べたのですが、典拠は示さずただメモ書きで

1荷=100分の1間立≒0.060105m3

とありました。
たぶんインターネットか、建築辞彙かなにかで調べたのだと思います。
返信する
Unknown (筆者)
2014-04-03 07:23:41
ご教示有難うございます。

この件は、それぞれの時代の「生活~社会全般」について知ろうとしないと分らないのだ、と思いました。考えてみれば当たり前なことですが・・・・。
返信する
Unknown (ishigoro)
2014-04-03 08:16:30
1立坪=100荷の典拠を思い出しました。

鈴木忠五郎著の
『左官辞典』、昭和35年7月、株式会社 ヤブ原出版部

です。
この辞典の「か」の項の一番最初に出ています。

先のコメントの1間立は間違いで

1立坪(6尺*6尺*6尺)の100分の1です。

水だったら60kgくらいでしょうか。

たしかに一人で持ち上げられる重さの限界かと思います。
返信する
1荷の壁厚1.5㎝くらいか (ishigoro)
2014-04-03 15:43:28
荒壁の仕様を作るときに、他の現場の者を参考にするのですが、ワラスサの使用量がいろいろあって迷うことがあります。


粘土1m3当たり

ワラスサ20kgから30kg

を使うように指示しています。

明治大正に出版された仕様書では、

土2荷あたり約400匁とあります。

1m3あたりに換算すると、12.5kgくらいになります。

しかし、1荷、2荷という単位もわかりやすいですね。

2荷は一坪あたり、厚3.6㎝。
3荷は一坪あたり、厚5.4㎝。


乾いて収縮する分を差し引くと、だいたい

2荷は一坪あたりの壁厚、3.0㎝。

3荷は一坪あたりの壁厚、4.5㎝といったところでしょうか。

返信する
Unknown (筆者)
2014-04-03 16:57:58
ishigoro 様

たびたびのご教示、大変参考になります。
有難うございました。
返信する

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