「日本家屋構造・下巻・参考篇」の紹介-4・・・・「(四)障子及び襖の部」

2014-08-16 09:37:00 | 「日本家屋構造」の紹介


少し間が明いてしまいました。

今回は、「(四)障子及襖の部」の紹介になります。
図は第十九図から第二十三図まで。そのうち、第二十一図~第二十三図は、障子の組子の「意匠」の図です。
今回も、図とその解説を組になるように編集し転載することにします。
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はじめに第十九図の解説と図。

第十九図 甲 腰付障子(板腰付障子) 全高は内法高(敷居~鴨居の高さ)より3分伸ばす(鴨居・敷居への「のみこみ」分の意と解します)。
         縦(竪)框:見付0.9~1寸×見込1寸
         下桟:成(見付)1寸4分×厚さ(見込)9分5厘
         中桟:成(見付)1寸×厚さ(見込)9分5厘
         上桟:成(見付)1寸5分×厚さ(見込)6分
            框の見込寸法から、敷居・鴨居四・七溝にしていることが分ります。
              四・七溝:敷居・鴨居の中央部に幅4分の凸部:樋端(ひばた)を残し、両側に幅7分の溝(深さ≒5分)を彫る場合の呼称。
              見込1寸の引違の戸の隙を1分にするために、四・七溝となる。
              第二〇図 乙のように、見込1寸1分の戸のときは、五・七溝(中央の樋端の幅を5分、溝幅7分)になります。 
         組子:厚さ(見付)2分5厘~3分×幅(見込)5分~5分5厘
            縦(竪)組子3本、横組子10本
            小間(横組子の間隔)の割り方は美濃紙(短辺の長さ9寸)全長を二小間となるように割る(組子の上端~下端≒9寸)。
         腰板:杉四分板を用いる。
        註 美濃紙の寸法については、次項の註を参照ください。
           紙をぎりぎり使ったときの、内法高5尺7寸の腰付障子の腰の高さ(下桟下端~中桟上端)を求めてみる。
           二小間の組子外面=9寸 ∴ 小間内法=[9.0寸-(0.25×3)]/2=4.125寸
                           ∴ 中桟上端~上桟下端=4.125寸×11+0.25×10=45.375寸+2.5寸=47.875寸
                           ∴ 腰の高さ=全高(内法高)-上桟の見付-[中桟上端~上桟下端]
                                    =57.0-1.5寸-47.875寸
                                    =7.625寸
             通常は、腰の高さをこの寸法近辺にして(たとえば7寸5分あるいは8寸)、後は上桟の見付寸法で調整すると思います。
             当然、障子の姿の検討は、その障子が、その場の surroundings として妥当かどうかの検討が前提になります(後註参照)。

第十九図 乙 雨障子(あま しょうじ) 図は水腰障子の例
          材寸は図 甲に同じ(∴各材の材寸を再掲します)
         縦(竪)框:見付0.9~1寸×見込1寸
         下桟:成(見付)1寸4分×厚さ(見込)9分5厘
         中桟:成(見付)1寸×厚さ(見込)9分5厘
         上桟:成(見付)1寸5分×厚さ(見込)6分
         組子:厚さ(見付)2分5厘~3分×幅(見込)5分~5分5厘
            縦(竪)組子3本、横組子11本
         仕口:すべて包込み枘差しとし、糊併用で組む。
        註 雨障子:雨のかかるおそれのある場所に設ける明障子のこと。
                 西の内和紙など厚手の紙を使い、糊には酢を加え、貼って乾いた後油を塗る。油障子ともいう。(「日本建築辞彙」などによる)。
           水腰障子(みずこし しょうじ):腰を設けない明障子(腰を見ず?!)
        註 美濃紙の寸法
           現在の規格では、
           美濃判394mm×273mm(1尺3寸×9寸)となっています。
           一方、「わらばんし」などの呼称で普通に使われている半紙(一般的な書道用紙)も規格紙です。
           半紙判333mm×242mm(1尺1寸×8寸)
           現在市販のロール状障子紙には、この規格に合わせ、幅9寸もの8寸ものとがあるようです(その他に大判ものもある)。

           水腰障子・横組子11本の場合、内法高5尺7寸として、小間の間隔は、(57寸-2.9寸)÷12≒4.51寸
           すなわち、一小間≒4寸5分=美濃紙短辺の1/2になり、紙に無駄が生じない。
           一般に、内法高5尺7~8寸の水腰障子横組子11本の障子が多いのには、それなりの謂れがあるのです。 
           組子の割付けは、単に《意匠:デザイン》だけでは決められません。     
第十九図 丙 ガラスを嵌め込んだ腰付障子の例 
第十九図 丁 横繁障子(よこしげ しょうじ)の例
         上級品は檜、椹(さわら)、腰板に神代杉、杉柾板などを用いる。
           材寸は、組子以外、前者(甲)に倣う。
         組子:厚さ(見付)1分5厘~2分×幅(見込)5分
             縦(竪)組子3本以上、横組子15本を普通とすし、3小間を紙1枚の長さ:幅(9寸)とする。
             付子(つけご)を設け、面腰を押す場合もある。
        註 水腰障子横繁として、乙に倣い計算すると、小間の間隔は、(57寸-2.9寸)÷16≒3.4寸 となり、3小間では紙の規格を超えます。
          ちなみに、原文の図は、解説とは異なり、腰付障子で、横組子は16本あります。
          また、横組子15本に拘ると、上下桟合計≧57寸-(16小間×3寸)=57-48寸=9寸 となり、上下桟の成:見付が大きくなりすぎます。
          普通は、組子一小間がおよそ4寸5分以下になることを念頭に置き、横組子の本数と上下桟成:見付とを勘案して決めていると思います。
             現在は大判の紙があるので、そこまで考えずに《任意の意匠》で組子を決めるのが普通になっているかもしれませんが・・・・。
第十九図 戌 便所 窓障子 
           註 おそらく、嵌め殺し(fix)が一般的だったのではないでしょうか。
         縦(竪)框:見付6分×見込9分
         下桟:幅(見付)8分×厚(見込)6分
         上桟:幅(見付)1寸×厚(見込)6分
         組子:厚(見付)1分5厘×幅(見込)4分5厘
             縦2~3本、横は高さにより決めるが、3小間を上1枚(9寸)とする。
         仕口:包込み枘差しとし、糊併用で組む。
        註 付子、面腰を押す包込み枘差しなどは、「『日本家屋構造・中巻:製図篇』の紹介-24」参照。
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続いて第二十図解説(上段)と(下段)。


第二十図 甲 硝子入障子
         横繁障子(第十九図 丁)に硝子を嵌め込んだ障子
第二十図 乙 中障子 杉戸障子を嵌め込んだ建具を呼ぶ。
         縦(竪)框:見付1寸4分×見込1寸1分
         上下桟:幅(見付)は縦框の2分増し、厚さ(見込)は縦框に同じ
         中桟:見付1寸4分(竪框に同じ)、厚さ(見込)は縦框に同じ
           この見込寸法は、樋端五・七溝とした寸法です。
         仕口:すべて二枚の包込み枘差し、または鎌枘差しとし、面腰を押しで組み立てる。
        註 鎌枘差し第二〇図 巳のような仕口をいう。
第二〇図 丙 横繁障子組子の組み方
         図の四周の材を付子(つけこ)という。
         横繁障子組子の間隔は、紙の長さ:9寸の間に2本以上入れる(図の点線で示す)、すなわち3小間≒9寸ほどとする。
        註 原文の、「そのは(組子の枘の意と解す)付子を貫通して框に差す・・」がイメージできません。どなたかご教示を!
           普通は、組子の見込幅の小穴を浅く突いておき、そこに付子を嵌めていると思います。
           付子半幅の小穴の場合もあります(付子側も半幅决る)。 
第二〇図 丁 襖の仕上り姿図
第二〇図 戌 襖の張付組子の構造図
         材料:上級品では檜、椹、普通品は杉を使う。
         化粧縦縁:6分角(見付6分×見込6分)
         化粧下桟(下縁):見付7分×見込6分
         化粧上桟(上縁):見付9分×見込6分
         定木縁(定規縁):見付は縦縁に同じ。見付面は蒲鉾形あるいは大面取りとする。
            註 化粧縁は、現在、一般には、次のようにしているようです。(学芸出版社「和室造作集成」などによる)
              化粧縦縁:6分5厘角
              化粧上桟:見付9分(縦縁見付幅+鴨居溝呑込み分2.5分)×見込:6分(縦縁の面内∴縦縁見付-5厘)
              化粧下桟:見付7分(縦縁見付幅+敷居溝呑込み分0.5分)×見込:6分(縦縁の面内∴縦縁見付-5厘)
         組子(外周分):見付5~7分×見込5分5厘
         組子      :見付3~4分×見込5分5厘
         力骨      :見付6~8分×見込5分5厘(見付を組子の2倍程度にする)。本数は、縦1本横3本。
                   組子と力骨の総本数:縦3本×横11本(図参照)。
         入子縁(いれこ ぶち)の場合
           註 入子縁とは、化粧縁側面に組子の厚さ(見込)分の溝を彫り、組子に嵌め込んで納める方式の化粧縁、と解しました。
                「日本建築辞彙」所載の「入子縁」は、襖の用語ではありません。他の参考書でも見つかりませんでした。
                それゆえ、原文文意から、上記の意に推察しました。他の解釈がありましたら、ご教示ください。
              縦框:見付8分~1寸×見込9分または1寸
              上下桟:見付縦框の見付の2分増し(ただし、見えがかり:溝外の寸法)
              組子:見付7分×見込5分5厘
              仕口:隅は、襟輪目違いを設け糊併用で組み立て、木あるいは竹釘で固定する。 
                  縦縁(框)の上下は、図のように角柄を出し、上下桟の上下にて頸切りを施す。
                  四隅の力板および引手板を取付け、現場で実際に嵌め込み建て合せを調整の後、紙貼の工程に入る。
                  紙貼りの工程:骨縛り:下貼→太鼓貼→美濃貼→視の縛り→袋貼→上貼
              化粧縁の取付け法
                 通常:外周張付縦組子側面に仕込んだ折釘に送り込みで取付け。
                 入子縁の場合:外周張付縦組子に樫製のを@8寸ほどに植え込み、化粧縁側に彫った蟻孔をそれに掛ける。
                 その際、上下の化粧桟(縁)は、端部に鎌枘をつくりだし、縦框(縁)の木口に彫った枘孔に嵌め込む(図 巳にならう)。
           註 「折釘」「紙貼り工程」などは、「製図篇」の「仕様書」紹介の項をご覧ください(「『日本家屋構造・中巻:製図篇』の紹介-24」)。
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次は第二十一図。いずれも、組子を文様に組む模様組子の例。図では縦框、上下框(桟)を省いてある。

第二十一図 甲 松川菱組(まつかわ ひしぐみ)
           欄間や小障子(嵌め殺しなどの小さな障子の意か)に用いるときの組子は、見付7~8厘×見込3~4分。付小も同寸が普通。
           このような模様組子の留意点は、その割り方、配置にあるから、各隅の明きの形などは、極力均一になるよう努める必要がある。
第二十一図 乙 霞組障子(かすみ くみ しょうじ) 図では霞障子組(かすみ しょうじ くみ)
           付書院、窓などに用いるとよい。
              縦框:見付5分5厘×見込8~9分
              組子・子:厚さ(見付)8厘~1分×幅(見込)4分
              仕口:包込み枘差し
第二十一図 丙 菱井桁継(ひし いげた つなぎ)障子 図では井桁継組(いげた つなぎ ぐみ)
第二十一図 丁 竹之組子障子(たけのくみこ しょうじ) 
           煤竹などを両面から削り落として組子に用いるもので、大変雅美なものである。
            註 いずれも、開閉については触れられていません。
               また、近世初期の書院造などには、使用事例がないようです(初期の付書院などの障子は縦繁程度が普通です)。
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第二十二図  図では縦框、上下框(桟)を省いてある。 

第二十二図 甲 麻の葉及三重亀甲組(あさのは みえ きっこう ぐみ)
第二十二図 乙 角亀甲組(つの きっこう ぐみ)
第二十二図 丁 菱蜻蛉組(ひし とんぼ くみ))
第二十二図 丙 三つ組手の仕方 
            甲乙丁のような組子は、主要部のみ図のように組み、他の個所(という)は糊付だけとする。
            の厚さ(見付)は、組子の厚さ(見付)の1/2とする。
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最後は第二十三図

第二十三図 甲 香路組(こうじ くみ)
           上等の障子に使われる組み方。
           第二十図 乙の中障子に適す。
           この場合には、腰板の高さを1尺5寸、上の板の丈を8寸ぐらいとして、他(残り)を障子とするのも」よい。
           註 「日本建築辞彙」には「香字組」とあります。
              日本の古来のゲーム「香合せ」(五種類のを各五包、計二十五包を混ぜ、五包を取り出してその同異をあてる競技)で、
              その結果を五条の線のつなぎ方で示し、それを「香の図」と呼んだ。
              この組子の組み方に「香の図」に似た箇所があるための呼称と考えられます。 
              なお、胴差床梁あるいは差物の柱への差口に、狂いを防ぐための凹凸を刻むことも「香の図(通称「鴻の巣:こうのす」)」と呼んでいます。
              下記中の解説をご覧ください。
             「『日本家屋構造』の紹介-9

第二十三図 乙 流れ亀甲組(ながれ きっこう ぐみ)
           付書院などに用いる。


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以上が「四 障子及襖の部」のすべてです。

次回は「五 床棚の部」の項を紹介します。

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後 註  「部分」と「全体」

第二十一図~第二十三図で紹介されている「模様組子」は、ほんの一例にすぎず、前掲の「和室造作集成」などには、実に多様な、驚くべき数の「意匠」例が紹介されています。

しかし、このように多種多様な障子が現れるのは、近世末期以降のようです。
簡単に言えば、「建具一枚をしげしげと眺める」ような「習慣」が「普及する」ようになってから現れる、そのように思います。
それはちょうど、商家や農家など一般住居で、不必要な寸面の大ぶりの柱や差物を多用するようになる「現象」と軌を一にしているように思われます。
    いわゆる「民家」では、太い柱や差物を用いるものだ、という「誤解」は、それにより生まれたのです。
    必要最小限の大きさの材を、近在で集めてつくる、それが当たり前のつくりかたなのです。

初期の方丈建築や客殿建築には、このような「模様組子」の例は、まず見かけません。初期の茶室でも同様です

本来、障子の組子は、「紙を貼るための下地」です。
紙はきわめて貴重でしたから、組子の間隔は、先ず第一に、貼る紙の大きさに応じる寸法でなければならなかったのです。

しかし、組子は、紙を貼っても外から見えます。陽が差せば、一層くっきりと見えてきます。
おそらく、その「経験」から、組子の存在が、surroundinngs にとって大きな「役割」を担っていること、たとえば、組子の数の多少は、障子を通しての明るさに微妙にかかわる、組子の方向性は、その部屋の空間の広がりの感じに微妙にかかわる、・・・などということに気付いたのだと思います。
たとえば、第十九図 甲あるいはのような障子が縁側に接する間口いっぱいに入っていると、横に広い感じになるはずです(その障子が縦繁であるとすると、様相はがらりと変ります)。
   このような「効果」を用いた好例が大徳寺孤篷庵の本堂・客殿(方丈)~書院のの接続部につくられている茶室忘筌の西側の開口部です。
     大徳寺孤篷庵については、「日本の建築技術の展開-19」「同-20」をご覧ください。
   この記事から、大徳寺孤篷庵の平面図と忘筌の写真を再掲します。

    
   先ず、この西面上部の障子が、忘筌の静謐な空間の造成に大きく関わっていること、
   そしてまた、この障子の組子が、縦繁や最近多い方形だとしたら、忘筌の surroundinngs が台無しになること、が分ると思います。
   つまり、ここでは、障子それ自体は、単なる「鑑賞」の対象ではなく、「忘筌」の surroundinngs をつくりだすための、「一要素」として考えられているのです。

   いわゆる客殿建築の「襖絵」も、現在は、取り外して美術館などで展示・陳列して「鑑賞する」のが当たり前のようになっています。
   しかし、「襖絵」も、本来そのような「鑑賞」の対象として描かれたのではありません。
   第一、そういう「襖絵」のある客殿を訪れた客人が、主人の方ではなく「襖絵」に向って座って絵を見ている、などという場面はあり得ません。
      奈良のある古寺の客殿に、現代の有名日本画家が新調した襖絵を展覧会で見たことがあります。
      そのとき、このが入れられた客間の空間を想像して、これでは空間に馴染まない、絵だけ浮いてしまう、と思ったものでした。
   障子も襖(絵)も、往時の人びとは、surroundings の造成、「心象風景」の造成に大きく関わる、と考えていたのです。人びとすべてが分っていたのです。
   それが、いつの間にかすべて忘れられてしまった・・・・!もったいないことだ、と私には思えます。

   本書が模様組子のいくつかを、いわば唐突に、取り上げているのは、明治期の都市居住者の間に、建物の「構成要素の一部」を「鑑賞」の対象と見做し、
   その見栄えの「良し悪し」で建物の「価値」が定まる、と考える「風潮・願望」が強くあった
ことを示しているのではないでしょうか。
   そういう「風潮・願望」に応えるべく、この書は、「見栄のはりかた」の最も簡便な「方策」の手引書の役目を一定程度果たしていた・・・のかもしれません。
   そうだとしたら、それは既に、「となりのクルマが小さく見えます」に代表される「現代の人の世の様態」の「予兆」だった、と言えるのではないでしょうか。

   最近の建物づくりにも、surroundings よりも見栄、見えがかり、他との差別化・・・に執心する、そういう「気配」が濃い、そのように私は思います。

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