老兵は黙して語らず、静かに去るのが良い

 かつて、皇帝と呼ばれた男が、二度目のそして最後の引退を表明した。云うならば、そもそもカムバックなどするべきではなかったのだが、本人にしてみれば、まだまだやれるはずだと云う思いもあったのだろう。だがしかし、結果はと云えば多くの予選・本選において若い同僚の後塵を拝することとなったのは周知の通り。

 最初の一年は、進歩の速い現代F1の波に乗れないのかとも思ったが、それが単なる思い違いであることに気が付くのに多くの時間は必要なかった。彼は遠の昔にピークを過ぎていたのである。その事実に最初に気付いたのは勿論当の本人。思いが先行するばかりで前に進まないマシンでのレースは辛かったことと思う。いや、それでも彼にとっては楽しかったのかも知れないな。誰と競う訳でもなく当代一のマシンで、自分のペースでサーキットを周回するのは。真剣勝負のレースに紛れて、一人スポーツ走行を楽しんでいたとでも云えば良いだろうか。

 しかし、すべては終わった。老兵は去るのみ。できれば静かに去って欲しかったのだが、「僕はまだベストのドライバーたちと戦うことができるし、その力があるけれど、ある時点で別れを告げるべき時が来る」。どうして「存分に楽しんだ。ありがとう」と云って去れないのか。それがヨーロッパ人と日本人の違いと云う事なのだろうか。郷秋<Gauche>には到底理解できない、偉大なドライバー二度目の去り際である。

コメント ( 0 ) | Trackback (  )
« エス・オー・... 秋、好日 »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。