江戸糸あやつり人形

江戸時代から伝わる日本独自の糸あやつり人形。その魅力を広めるためブログを通して活動などを報告します。

伝統を守るとは

2011-09-22 23:12:02 | 日本の文化について
「一刀一絵」という本を読む。(ポプラ社刊)
著者は立原位貫。
彼は浮世絵の版画に魅せられ、独学で彫りや刷りなどを覚え、
江戸時代にその版画が摺られた、その状態の復刻版に挑戦する。
この本は、彼の半生記になっている。

彼は国貞が好きで、その版画を模倣していた。
ところが原画に比べると、何かが違う。
まずは版木を求める。
当時は山桜。
ところが山桜の版木を作っているところは、東京に1件しか知らない。
彼は素人だから、店は相手にしない。
四日市から足繁く通って、やっと手に入れられるようになる。
この版木を削るには、相当高度な鉋の技術が求められるのだそうだ。

次に求めたのは紙。
当時のような紙を漉ける人は、実はもう少ない。
しかも調べているうちに、紙質が時代と共に変化している事に気付いた。
江戸時代も後半になると大量生産、大量消費の時代になり、
紙は薄くなり、質も粗いものになるそうだ。

そしてバレン。
上質のバレンを求めて、廃業した摺師の元に通い、頑固な職人から何とか1つ
貰い受ける事ができた。
使い勝手が全然違うのだそうである。

最後に求めたのは顔料。
紅と藍には手こずったそうである。
紅の色が分からず、東京の摺師に聞いたそうである。
すると「そこいらにあるよ」と言われたそうである。
今は洋紅を使っていて、画材店にいけば簡単に手に入る。
つまり江戸時代のような紅は使っていないとのこと。
江戸時代の顔料は天然のものを使っているから、
摺った瞬間から退色、変色が始まるのだそうだ。
ところが洋紅は化学製品を使うから、色自体が違うし、退色、変色が少ない。
そこで化粧用の紅を作っている日本で唯一の店に行く、が、相手にしてくれない。
仕方ないので紅を買い、自分で紅花から抽出したものと混ぜていろいろ工夫するが、
上手くいかない。
紅の作り方を教えてもらおうとするが、そこは伝統、門外不出なのだ。
余りに熱心なので、やっと版画用の紅作りに協力してくれる。
しかし完成まで、何年もかかってしまったそうだ。

そして最後に藍。
顔料の藍は、藍染の着物を煮出して作るのだそうだ。
ところが今の藍染の着物は、例え「本藍染」と銘打っていても、インディゴが
混じっているのだそうだ。

藍は難しいらしい。
毎年喜多方で会場になるところは、藍染をしているところなのだが、
今年は何故か藍の温度が高くなって、染まらなかったと言われた。


復刻版ばかりやっているうちに、創作したくなったそうである。
しばらく創作に打ち込み、依頼された復刻に向かったとき、
彫りの技術が甘くなっていたそうだ。
この話しに私は、妙に納得してしまった。

しかし伝統とは何だろうかと、この本を読んで思ってしまった。
よく伝統を守ってくださいと言われる。
しかし現実には、個人で「守る」ことは不可能に近い。
しかも全ての分野に対して技術的に、そして多分精神的にも
相当”退化”しているのだろう。
例えば文楽、土門拳の写真集を見ると、人形遣いの顔つきが
今の人のと全然違っているのが分かる。
きっと他のものも、押して知るべしなのだと思ってしまう。

しかし”伝統”の世界に少しでもいたから身に付けることのできた強い技術がある。
今はそれを少しでも極みに近づけるように、
そしてそれを少しでも多くの人に感じて、楽しんでもらえるようにすれば
また次につながるのではないかと、思っている。
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