ユルゲンは、車を3台持っている。
1台は妻サチコのアウディ、もう1台は会社から支給されたアウディのTT、
そしてもう1台はBMWのステーションワゴン。
年式は忘れたが、形が好きだと買い求め、箱だけ残して中身そっくり入れ替えた。
いわば趣味の車。
サスペンションはレーサー仕様、エンジンは4000cc8気筒、座席は白い皮で仕上げて
いる。冬は皮だと特に冷たいので、その下にヒーターが入っているとか。
いわば趣味の車。
結局ユルゲンは忙しすぎて、彼の助手席に乗ることは叶わなかったが、
彼は240km出すそうだ。
でもサチコの運転でもその片鱗を伺うことはできた。
ちょっとアクセルを踏むだけで、グッとGを感ずる。
ユルゲンの隣に坐った日本人は、全身緊張に包まれ、顔が引きつったとか。
それを経験したかった。
でもこういう車に乗ると、エコの走りなんて何の意味があるのだろうかと思ってしまう。
因みにドイツの燃費の表現の仕方は、100kmを何Lで走るか、という。
日本では1L何kmかという表現なのだけれど。
ドイツはつくづく車先進国だと思った。
アウトバーンにしても市街地にしても、走りやすいのだ。
センスそのものが違うのかもしれないと思う。
けれど、速度違反には厳しい。
日本みたいにゆるゆるではないのだ。
せいぜい認めて制限速度の1割までという。
アウトバーンは無制限かと思っていたら、状況に応じて制限がある。
そしてやはり無制限になるところがある。
そこを走っていたら、ヒューンと抜いていく車があった。
サチコだって160kmは出しているのだ。
―私には日本の120kmぐらいにしか感じられなかったが―
サチコは200kmぐらいだと言う。
だとすると、240kmってどんな感じなのだ?
そろそろカメラがあるわよ
夜中のアウトバーンでサチコが教えてくれる。
私たちの横をワゴン車が抜いていく。
とたん、ピカッ と赤く光った。
日本でも見たことがない光景だった。
違反や事故について、よく裁判があるらしい。
訴訟なんて日常茶飯事だと言う。
弁護士料が高いでしょうと尋ねると、
なんと弁護士保険があるとか。
夜のアウトバーンを何故サチコが嫌がるのか分からなかった。
なんと街灯が1本もないのだ。
第1次オイルショックで全部撤去したのだとか。
前方は対向車の光があってまだ安心できるが、後方が真っ暗になることがあった。
交通量の少ないところだと、全体が真っ暗になるところもあるだろう。
そうなるとドイツ人はやはりスピードを落とすのだろうか。
それにしても道の両脇にたっぷりと森がある。
なんて森の豊かな国なのだろうと思う。
車に乗っているうちに、起伏が少ない事に気付いた。
1箇所だけ、デュッセルドルフに行くとき急な勾配があったが、トンネルもなかった。
地形からして車を走らせる条件が整っているのだと思った。
それにしても240kmってどんな感じだろう。
ユルゲンはジャガーに買い替え、6000cc12気筒エンジンを搭載しようと考えている。