浪江町から避難した人たちが入ったこの仮設住宅は、8月から入居が始まったそうだ。
就学時期から大きく遅れての入居だったため、子どもがいない。
所帯数40数戸、入居者数80名、内21所帯が一人住まいという。
60歳以上が多くを占める。
仮設住宅は、テレビで見たよりも冷たく、無機質に見えた。
何よりここは辺鄙なところにある。
打合せに行ったとき、大いに道に迷った。
住民が一言
「ここは過疎ですよ」
私には陸の孤島に見えた。
その中で1本、ケヤキが鮮やかな紅葉を見せていた。
自治会ができ、入居者の名簿を役場に求めると、個人情報保護法を盾に
断られたそうである。
こんなときこそ親睦が大切なのに、隣人を知る第一歩の名簿すら提示できないとは。
こんな役立たずな法律なんか、クソ喰らえ
とは、私の弁。
それで1軒ずつ尋ねて名簿を作成。
住民と話していると、生きている間にふるさとに戻る事はできない
そんな言葉がつい出そうになっているのが分かる。
地震で家は壊れている。
月1回の帰宅で少しずつ片付けてはいるけれど、人が住んでいないと
家は荒れる。直さなければならないけれども、手が付けられない。
浪江町出身者ばかりと言っても、いろいろな地区から集まっている。
だからまだ近所付き合いという感じではないらしい。
私の頭に「祭り」という言葉が浮かぶ。
出身地区がバラバラなので共通の祭りがなく、まだ何もやっていないと言う。
「でも、毎日何かしら行事があるんですよ」
「つい数日前、東京電力に対する補償請求書の書き方の説明に、弁護士が来ました。
今頃ですよ!」
誰か芸人による慰問があったか尋ねると、素人が1回あったきりだと言う。
じゃあ、私たちの公演を、祭りにしましょうよ
当日、ビールや酒、焼酎などを買い込んで乗り込む。
30人ほど集まっただろうか、自治会の人と酒やお茶を勧める。
ともかく大いに楽しんでもらおうと、小噺で口火を切る。
最後、獅子で頭を噛んで回る頃になると、笑いが弾けた。
自治会の人に感謝される。
「酒が美味かった」
これまで酒を飲むと言っても、家で一人で飲むだけで
人と一緒に飲む機会がなかったそうだ。
「家で飲むと、相手は母ちゃんだけだろう、なんかつまらない感じがしていたけれど、
今日はこの会場に母ちゃんが入ってきたとき、母ちゃんが綺麗に見えたよ」
すかさず私のかみさんが口を挟む。
「それを奥さんに言ってあげてくださいよ」
みんな笑顔。
「俺たちも何か企画しよう」
「まずは2次会だ」
また笑い。
この人たちとは、関わり続けたいと思った。