マーちゃんの数独日記

かっては数独解説。今はつれづれに旅行記や日常雑記など。

『一澤信三郎帆布物語』を読む

2010年03月13日 | 読書

 『一澤信三郎帆布物語』(菅 聖子著 朝日新聞出版発行)を再読しました。来月の4日から出掛ける京都・奈良への旅行で再度「信三郎帆布店」に行って見ようと妻と話し、この本をもう一度読み直ししておこうと考えました。

 京都に出掛けると、妻に連れられて京都市三条にある「一澤帆布店」をよく訪れました。今はカバン屋さんです。最初の頃、私は余り気乗りしませんでしたが、何度か行くうちに男物のバックで、気に入ったものが眼に付く様になり、結局私だけでも、リュックサック的バック2つ、ショルダーバックひとつの合計3個を購入していました。

 その「一澤帆布店」で相続をめぐっての”お家騒動”が起こり、裁判で争われていると新聞で知りました。数年して、「一澤帆布店」の経営者であった「信三郎」氏側が、兄の「信太郎」氏側に敗訴し、「一澤帆布店」を出て、新たに、「信三郎帆布店」を設立したことも知るに至りました。
 この頃だったと思います。「信三郎帆布店」がどうなっているのか知りたいし、又買いたいものが展示されていれば購入しようと考えて再訪したのです。「一澤帆布店」とは道路を挟んで、向かい側に出来たこのお店、入場制限が出るほど繁盛していました。新聞記事を読んだだけの感覚ですが、苦労しながらこのお店を経営して来た「信三郎」氏側を応援したくなっていた私達は、安心し、繁盛を喜び、妻が手提げバックを一つ買って帰ってきました。
 数年後再度訪れると、「信三郎帆布店」は「一澤帆布店」の並びに店を構えていました。好奇心の強すぎる私達は、両店に行って見ました。「信三郎」店が大繁盛しているのに「一澤」店は閑古鳥が鳴く様な有様。裁判の結果はどうあれ、実質的勝負は「信三郎」店側の勝利で終わったのだなと、良かった、良かったとの想いでここを去りました。これは私達の体験談にすぎませんが・・・。

 しかし、この間の事情も含めた『一澤信三郎帆布物語』が昨年10月に出版されました。本は語ります。問題は、両者の父「信夫」が2001年(平成13年)に他界した時に遡ります。第1の遺言書は平成9年に作成され「一澤帆布店」の経営権を「信三郎」氏に譲る内容。第2の遺言書も出てきて、こちらの遺言書は、平成12年作成のもので、経営権を「信太郎」氏に認める内容。民法に規定によれば、日付けの新しい方が優先され、「信三郎」氏側が地裁に訴えでますが、高裁・最高裁で争うも「信太郎」氏側の勝訴。「信三郎」氏側は店を出ていく事になります。
 その後、「信三郎」氏の妻が再度高裁に控訴。高裁での逆転判決が出た後、最高裁で「信三郎」氏側の勝利が、最終的に確定したのでした。第2の遺言書の真贋を”偽”と認定し、第2遺言書無効の判決です。
 本書ではこれらの経過のみならず、「一澤帆布店」の5代に亘る歴史と「帆布かばん」の出来るまで、更には裁判最大の争点であった「筆跡鑑定」の現状が語られます。特に「筆跡鑑定」については興味をそそられました。これらの物語を再読しながら、筆者の訴えたかった事は「信三郎とその妻」さんの真摯な生き方と、誠実な物造りだった、と改めて思い至っています。