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西行全歌集ノート(8)




1月20日

おぼつかないづれの山の峰よりか待たるる花の咲き始むらん

西行 山家集 上 春

※ 「おぼつかな」は、はっきりわからないこと。これほどまでに待たれる花とは何のか。その年の豊作を櫻で占うとも言われるが、ここでは「花」という象形にこだわってみたい。この漢字の「化」は、白川静の「常用字解」によると、大変興味深いことが書いてある。

これは、人と七(か)を組み合わせた形で、七とは、人を逆さまにした形で、死者の形を意味する。頭と足が逆になった七(死者)が、背中合わせに横たわっている形が、化であり、人が死ぬことを言う。化は生気を失って変化すること。すべてのものは変化しながら、生と死を繰り返していくので、変化することを意味する。また、自然がものを育成すること、道徳・思想によって教え導くことを化という。化は「しぬ、かわる、したがう」の意味に用いる。

このように、見てみると、花は、生死、変化と関わっていることが見えてくる。花を待つ心とは、再生を願う心と、どこか、通じるものがあるのかもしれない。花に同一化することで、そのとき、生死を一体的に経験することになるのではないか。「櫻の樹の下には屍体が埋まつてゐる!」という梶井基次郎の想像は、花の本質を突いたものだったのだろう。

大日本帝国の「散る櫻」のイメージは、花の再生・変化の「死の相」を強調したもので、あながち、的外れで、櫻は政治的に利用されただけとも言えないのである。




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一日一句(942)







寒卵なぞるや臍がくすぐつたい






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西行全歌集ノート(7)




1月19日

たれかまた花を尋ねて吉野山苔ふみわくる岩伝ふらん

西行 山家集 上 春

※ 「らん」となっているから、西行は、吉野山以外の場所にいて、吉野山を尋ねる人を想像しているのだろう。この当時、花を観るには、苔を踏みわけ、岩を伝う必要があったのか、と驚く。いったい誰が吉野山を尋ねたのだろう。

古典文学を読んでいて、いつも滑稽に思うことがある。それは、古典を読む国文学者や読者が、すっかり、貴族に感情移入してしまっているからだ。その地平から、たまに出てくる庶民を見下すような口吻になるところが実に滑稽なのである。吉野山の花を愛でたのは、皇族・貴族か、西行のような僧侶か、いずれにしても、富裕層(なんのことはない、その本質は泥棒である)だったはずである。


1月19日

今さらに春を忘るる花もあらじやすく待ちつつ今日も暮らさん

西行 山家集 上 春

※ これはいいなぁ。四季の変化に励まされ、ときに畏れ、ときに敬う。自然的存在の中にともに住まう存在として、人間の「心」は養われてきたのだろうか。自然という箱が壊れたり、自然という箱から離れ過ぎると、人間の心は、狂うのかもしれない。

「やすく」は、安心して、の意。

名護市、南相馬市、本当に良かったと思う。



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西行全歌集ノート(6)




1月18日

水底に深きみどりの色見えて風に波よる川柳

西行 山家集 上 春

※ 「川柳」は晩春の季語。西行は、川柳を、他のすべての文字を使って描写している。後世、多く俳句に詠まれる「柳」や「川柳」の原経験の形がここに現れている。水に映る柳のみどりの濃さ。風と柳の取合せ。しかも、水面に風が渡っている。これは、さまざまなヴァージョンで俳句にも詠まれている。季語の原経験は、やがて、季語の本意となるのだろう。それを核としながら、時代によって、季語の内実に幅が出てくるのだろう。


1月19日

待つにより散らぬ心を山ざくら咲きなば花の思ひ知らなん

西行 山家集 上 春

※ ここにも、「心」が出てくる。「散らぬ心」とは何か。注などを踏まえると、さくらの開花を待っているから、そのことだけを思っている心(その他のことに気が散らない心)という感じだろうか。注目したいのは、「花の思ひ」という措辞。これは、現代では、非常に少なくなった使い方だろう。花に思いがある。擬人法と言ってしまえば、それまでだが、ぼくは、ここに、古代から続く呪術性を見たい。人間以外の自然存在が、人格を持つという発想。言葉も持つと考えたのかどうか。この点を一番、今後知りたい。



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一日一句(941)







着膨れてむつり腕を組む夜かな






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詩的断章「ブラボーバナナ」




ブラボーバナナ




田母神

美しい名だ
田の母
しかも女神だ

ブラボー!

バナナを食べながら
オレは感じ入ったぜ
女神のお言葉に

「人の支援を得て避難することが当然という風潮はおかしい。
自分で勝手に避難しろといいたい。甘えるな」

ブラボー!
ペニスの生えた戦う女神のお言葉だ
なかなか 絵になるぜ
戦う女神に愛は不要だ

「田母神俊雄は、どうしようもないガチガチだと思っている人もいるようですが、実像は全く違います。私は柔軟性もあり、本当にいい人です。適度のユーモアのセンスも持ち合わせています」

ブラボー!
自虐の真逆
さすがは女神

けどさ
いい人は怖いんだぜ
何が善か 何が悪か 考えないから
いい人なのさ
いい人が集結すると
大きなよくないことが起きる

経産省とか
東電とか
大日本帝国とか
ナチスとかな

いいは悪い
悪いはいい

多くの人が死んだ
今も多くの人が苦しむ
人人人だ
人はどうにでもなる
入れられた箱の形で 
殺人鬼にも天使にも
流れる水のようなものさ
水は己を知らない

「協力していただける金額は5百円でも千円でも嬉しいです。お手数ですが振込み時に必ずお名前、住所、金額をFAXにて当方までお知らせ下さい。特に5万円以上の場合は住所、氏名がないと献金を受けられません。なお、一個人から一政治団体への献金の年間上限額は150万円となっております」

神にささげるカネがない
カネがないオレは
空腹で寒くてしかたかない
だから
98円のブラボーバナナを喰うのさ

このバナナ やけに傷みが早いけどな




※ 引用は、田母神俊雄氏のtwitterから。


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一日一句(940)







風邪の神包丁を研ぐ夜更けかな






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一日一句(939)







ぴかぴかにトイレを磨く梅の花






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西行全歌集ノート(5)




1月14日

春雨に軒たれこむるつれづれに人に知られぬ人の住みかか

西行 山家集 上 春

※ この場合の、「つれづれに」は「つれづれなり」(形容動詞)の連用形。「もの寂しくぼんやりしている」という意味で、閑だ、手持無沙汰だ、という例の有名な意味の方ではないと思う。春雨の様子を言っているのだろう。

「人に知られぬ人の住みかか」という4句、5句にとくに惹かれた。この表現は、何か事情があって、世間を避けて隠れ住んでいる人を思わせる。この個所は、春雨が軒を落ちる様子から、その家に住む人のありようを想像しているという点で、ここ何首か検討した想像力の方向性と同じものである。自然的存在の様子から、そこに住まう人間存在の様子を想像する。この発想は、歌だけではないのだろうと思う。

この想像力は、こうも言える。自然的存在は「目に見えるもの」であるが、人間存在は、常に、隠されている。目に見える自然的存在から、そこに住まう眼に見えない人間存在を想像すると、その人間存在は、理念性を帯びてくると一般的には言えるのではなかろうか。


1月16日

何となくおぼつかなきは天の原霞に消えて帰る雁がね 

西行 山家集 上 春

※ 以前、西行の和歌は煩いと書いた。季語が多くて。しかし、考えてみると、西行の時代に「季語」の概念があったわけではなく、むしろ、季語の母体の一つであるから、季語生成の現場に立ち会っていると考えた方がいいのだろう。いつから、季語は季語として使用されるようになったのか。江戸の芭蕉の頃には、すでに存在した。東山文化の宗祇の時代にも、あったと思われるが、この辺、調べてみたい。

ちなみに、「帰る雁」は、春の季語で、江戸期には、すでに次のような俳句が詠まれている。

雨だれや暁がたに帰る雁  鬼貫 「婦多津物」
巡礼と打ちまじり行く帰雁かな  嵐雪 「己が光」
雁行て門田も遠くおもはるゝ  蕪村 「自筆句帳」
歸る雁田ごとの月の曇る夜に 蕪村 「蕪村句集」
きのふ去ニけふいに鴈のなき夜哉 蕪村 「蕪村句集」
風呂の戸をあけて雁見る名残りかな  几董  「井華集」
雨夜の雁啼き重なりてかへるなり 暁台 「暁台句集」
かりがねのあまりに高く帰るなり 前田普羅 「定本普羅句集」

季重ねは、ほとんどないが、蕪村の「月の曇る夜に」は、朧月のことだから、季節を表す言葉が二つと考えてもいいだろう。季重ねという現象は、「季語」という概念が出来上がると、重きがどちらかに置かれるようになるが、西行の和歌に見られるように、主従の関係はもともとなかったのだろう。ただ、俳句と和歌が違うのは、季節を表す言葉を説明(あるいは描写)する傾向が和歌には強く、俳句には弱いという点だろうか。



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一日一句(938)







雪ぐもり人身事故が後絶たず






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