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佐相憲一詩集「港」から

■旧暦4月24日、日曜日、

(写真)早苗

休養に専念。どうにか、エネルギーが充填された。現実はきついから、逃避しながら、生きることにしているのである。途中で放棄しないで、とにかく、長くいい仕事ができるようにすることを考えている。

鳩山内閣の退陣や普天間基地問題というのは、やはり大きな問題だと思う。そういう問題について、あの文学者は、どう思っているのだろうと気になることはないだろうか。ブログに何も反応がないと、やはり失望感に囚われる。もちろん、反応が「ない」というのも一つの反応ではあるけれど、それはなぜなのかと問うことも、なかなか興味深いことと思う。



詩人の佐相憲一さんから新詩集『港』をいただいた。一読、若々しさと広々とした心を感じた。twitterでも心身に入ってきたフレーズをtweetしたが、ここでは、とくに好きな詩を二篇丸ごと、紹介したい。解説や鑑賞は、ときとして、詩の力をそいでしまうことがあるから。




〈私は鳥だ〉
昔の詩人は言った

滑走路からそれぞれの〈転機〉が離陸するが
心には時差があるから
すれ違いを嘆いたらきりがない

春夏秋冬もあれば
常夏もあり
朝晩と昼に激しい差があったり
厳しい寒さにこそ親しむ向きもある

いつも太陽が見えるわけではないし
闇も光の程度にすぎないのだから
回転する世界を空から見れば
時差そのものの宇宙論が心をつなぐだろう

亡命する難民のように
どんなに苦しくても
思いがけないことが
夢の燃料になって
すれ違うばかりではない世界が現れる

芸術に国境がないように
渡り鳥に核兵器がないように
そのように個人個人の夢の色をして
歴史の鳥の巣は
あきらめない心でにぎやかだ

翼が見えるだろうか

時計はいま

人生の時間だ


詩「空港」全行


〈一概には言えないが 傾向として〉

高校の世界史教師は人のいい顔で言った

〈暗い時代には喜劇がはやり
繁栄期には悲劇がはやる
悲しい時は人は笑いたくなるし
楽しい時は泣く余裕があるんだね〉

なるほど。
わりと好きな先生だったから
いい話を聞かせてもらった
と 目でエールを送ってから
十七歳のぼくは心の声に耳をすました

 悲しいからこそ泣くんだよ
 うれしいからこそ笑うんだよ

高校の帰り路は森だった
小高い丘にひとりすわって
詩を書いた
〈なぜ自分はこんなに寂しいんだろう
なぜ世界はこんなに冷たいんだろう〉
南横浜の赤紫の夕焼け空が友だちだった

死ぬわけにもいかず、二倍の年月。

週に一度の貴重な休日
大阪の赤紫の夕焼け空に 今日
懐かしい雲を見つけた
十七年かけてここまで流れてきたのだろうか
そこにはあの世界史教師の人のいい顔
まじまじとこちらを見つめて
どうやらぼくの哲学を聞きたがっているようだ

なるほどこの暗く悲しい時代にあって
希望を語っている
平和じゃない世界で平和への声をあげている
なるほど確かに
〈悲しい時には人は笑いたくなる〉

でもね 先生
それは〈奇癖〉じゃないんだよ
そこのとこのニュアンスさ
十七歳のぼくが大人の考えについてゆけなかったのは。

三十四歳のぼくは微笑んだ
今日ぼくの心は夕焼け色だ

先生
と また呼びかけて
ぼくは先生の口調で言った

〈一概には言えないが 傾向として

生きていてよかったよ〉


詩「夕焼け空の邂逅」全行










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