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「さあ、才能(じぶん)に目覚めよう」
【 マーカス・バッキンガム&ドナルド・O・クリフトン、日本経済新聞社、p58 】
《 なぜ才能は1人ひとり独自のものであり、永続的なものなのか 》
あなたの中で、繰り返し現れる思考、感情および行動のパターンを生み出しているものは何か。自らのパターンが気に入らなければ、新しいパターンをつくることは可能なのか。答えはノーだ。繰り返し現れるパターンは、脳の中の複数の神経が連動して生み出すもので(A)、ある一定の年齢を超えると、パターンを1からつくり直すことはできない(B)。つまり才能とは永続的なものなのである。
多額の資金をかけて、従業員を矯正プログラムに送り込むというのは、結局のところ、共感や競争心や戦略的思考を植えつけるために、脳の神経回路を変えようとしているのにほかならない。そういうことをしている企業には、(B)という事実をお教えしたい。(A)である以上、(B)は自明の理である。さらに、脳の中の神経がどのように連動しているかがわかれば、その構造を変えるのがいかにむずかしいかもわかるはずだ。(A)についてさらにくわしく見てみよう。
脳というのは、成長とともに一見退化していくように見える不思議な器官である。肝臓や腎臓、ありがたいことに皮膚などはすべて、赤ん坊のときは小さく、体が成長するにつれて次第に大きくなる。しかし、脳だけは逆の現象が起きる。脳は早い時期にかなりの大きさにまで成長し、成人になるとあとは縮んでいく一方という器官である。しかし、何より奇妙なのは、脳はより小さくなるのに、人はより賢くなるという事実だ。
では、なぜ脳だけが逆の現象を起こすのか。その謎を解く鍵は「シナプス」にある。シナプスとは、脳細胞同士がコミュニケーションを取るための脳細胞の接合部で、1つの脳細胞が受けた刺激を別の脳細胞に伝える役割を果たし、このシナプスが1人ひとり独自のパターンを生み出す回線をつくっている。だから、繰り返し現れる個々の行動パターンを知るには、この回線について知る必要がある。神経学の教科書に書かれているとおり、「人の行動は脳神経の連結構造で決まり、その構造は個々によって異なる」からだ。
簡単に言ってしまえば、このシナプスが才能を生み出すのである。
では、シナプス結合はどのように形成されるのか。卵が受精すると、その後42日間で脳は一気に4か月分の急成長をする。実際の成長を考えると、「急成長」ということばでは追いつかないほどだが、42日目に最初の神経細胞(ニューロン)がつくられ、120日後には、その数が1000億個にふくれ上がる。なんと毎秒9500個ものニューロンがつくられのである。が、それ以降、その劇的な成長はぴたりとやむ。つまり、人間は1000億個のニューロンを持ってこの世に生まれいずるというわけだ。そして、その数は中年期後半まで変わらない。
しかし、脳では、また別のところではほんとうのドラマが始まる。生まれる60日前、ニューロンは互いにコミュニケーションを取ろうとしはじめる。まず1つひとつのニューロンが伸びはじめ(厳密に言えば、軸策と呼ばれる神経突起が伸びて)、ニューロン同士がつながる。うまくつながれば、そこにシナプスが形成される。驚くべきは、そうしたニューロンの連結は生まれて最初の3年間で完成するということだ。事実、3歳の時点では1000億個のニューロンが互いに連結し、1つのニューロンにつき1億5000個のシナプスがすでに形成されている。繰り返すが、1000億個のニューロン1つひとつに1億5000個のシナプス、である。このようにして、広範囲にわたる複雑で、1人ひとり独自の脳内回路ができあがるのである。
しかし、ここで奇妙なことが起こる。なんらかの理由で、自然はわれわれに、きわめて入念につくられた回路の多くを無視するよう促すのだ。事物の常として、回路もまた使われないと、やがて修復不能になり、脳の中のあちこちで多くの回路が壊れはじめる。きわめて入念に形成されながら、使われないために3歳から15歳までのあいだに、それこそ無数のシナプスが失われてしまう。そして、16歳の誕生日を迎えるころには、回路の半分が使いものにならなくなってしまう。
さらに残念なのは、壊れた回路はもう2度と再生できないということだ。脳は生涯にわたり初期の可塑性を維持するのである。確かに学習したり、記憶したりするたびに新たなシナプスの連結構造が必要となり、それは四肢や視力を失った場合、その新たな事態に対処するために新たなシナプスの連結構造が必要になるのと同じだ。しかし脳内回路の設定は、強靭な結合にしろ、脆弱な結合にしろ、10代半ばを過ぎると大きく変化することはないのである。
実に奇妙な現象だが、では、どうして脳はそのようにできているのか。どうして多大なエネルギーを要する回路が形成されながら、その大半が衰えたり、死滅したりするのか。その答えは、教育学者ジョン・ブルワーが著書The Myth of the First Three Years(最初の3年の神話)で述べているとおり、脳に関するかぎり「小が大を兼ねる」からだ。シナプスの成長を促進させようと、ベビーベッドの上に白黒2色のモビールを吊るしたり、赤ん坊にモーツァルトを聞かせる親がいるが、それは実は見当はずれなことなのである。シナプスが多いほど、賢く優秀な子に育つというわけではないからだ。賢さや優秀さは、最も強固な回路をいかにうまく利用するかで決まる。自然は選ばれた回路を有効利用させるために、何十億ものシナプスを失うことをわれわれに強いるのである。だから、回路が失われること自体は案じなければならないことでもなんでもない。回路の減少こそむしろ重要なことなのだ。
では、なぜ、なぜ最初に必要以上の結合が形成されるのかというと、生まれて数年のあいだは実に多くの情報を吸収するからだろう。しかし、ただ一方的に吸収するだけで、世界観のようなものはつくられない。ありあまる脳の回路がまだすべて機能しているので、あらゆる方向からの多くのシグナルに圧倒されてしまうのである。世界を理解するには受ける刺激をいくらか遮断しなければならない。そのため吸収の時期が過ぎると、脳は遮断という作業に移る。その作業はそれ以降10年以上続き、その間に親から譲り受けた遺伝的特質と幼児期の体験に基づき、遮断すべき回路と、流れがよくて使いやすい回線とが選別される。そこで、競争心を生む回路にしろ、知識欲旺盛な回路にしろ、戦略的思考にすぐれた回路にしろ、その人を特徴づける回路が決まるのである。そうして決められた回路は、使用頻度がさらに高くなることで、より一層強靭で高感度のものになる。インターナット回線にたとえれば、それらが高速のT1ライン(1秒1.5メガビットのデータを送る電話回線)となって、シグナルがより明瞭に、より確実に伝わるのである。
(後略)
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「さあ、才能(じぶん)に目覚めよう」
【 マーカス・バッキンガム&ドナルド・O・クリフトン、日本経済新聞社、p58 】
《 なぜ才能は1人ひとり独自のものであり、永続的なものなのか 》
あなたの中で、繰り返し現れる思考、感情および行動のパターンを生み出しているものは何か。自らのパターンが気に入らなければ、新しいパターンをつくることは可能なのか。答えはノーだ。繰り返し現れるパターンは、脳の中の複数の神経が連動して生み出すもので(A)、ある一定の年齢を超えると、パターンを1からつくり直すことはできない(B)。つまり才能とは永続的なものなのである。
多額の資金をかけて、従業員を矯正プログラムに送り込むというのは、結局のところ、共感や競争心や戦略的思考を植えつけるために、脳の神経回路を変えようとしているのにほかならない。そういうことをしている企業には、(B)という事実をお教えしたい。(A)である以上、(B)は自明の理である。さらに、脳の中の神経がどのように連動しているかがわかれば、その構造を変えるのがいかにむずかしいかもわかるはずだ。(A)についてさらにくわしく見てみよう。
脳というのは、成長とともに一見退化していくように見える不思議な器官である。肝臓や腎臓、ありがたいことに皮膚などはすべて、赤ん坊のときは小さく、体が成長するにつれて次第に大きくなる。しかし、脳だけは逆の現象が起きる。脳は早い時期にかなりの大きさにまで成長し、成人になるとあとは縮んでいく一方という器官である。しかし、何より奇妙なのは、脳はより小さくなるのに、人はより賢くなるという事実だ。
では、なぜ脳だけが逆の現象を起こすのか。その謎を解く鍵は「シナプス」にある。シナプスとは、脳細胞同士がコミュニケーションを取るための脳細胞の接合部で、1つの脳細胞が受けた刺激を別の脳細胞に伝える役割を果たし、このシナプスが1人ひとり独自のパターンを生み出す回線をつくっている。だから、繰り返し現れる個々の行動パターンを知るには、この回線について知る必要がある。神経学の教科書に書かれているとおり、「人の行動は脳神経の連結構造で決まり、その構造は個々によって異なる」からだ。
簡単に言ってしまえば、このシナプスが才能を生み出すのである。
では、シナプス結合はどのように形成されるのか。卵が受精すると、その後42日間で脳は一気に4か月分の急成長をする。実際の成長を考えると、「急成長」ということばでは追いつかないほどだが、42日目に最初の神経細胞(ニューロン)がつくられ、120日後には、その数が1000億個にふくれ上がる。なんと毎秒9500個ものニューロンがつくられのである。が、それ以降、その劇的な成長はぴたりとやむ。つまり、人間は1000億個のニューロンを持ってこの世に生まれいずるというわけだ。そして、その数は中年期後半まで変わらない。
しかし、脳では、また別のところではほんとうのドラマが始まる。生まれる60日前、ニューロンは互いにコミュニケーションを取ろうとしはじめる。まず1つひとつのニューロンが伸びはじめ(厳密に言えば、軸策と呼ばれる神経突起が伸びて)、ニューロン同士がつながる。うまくつながれば、そこにシナプスが形成される。驚くべきは、そうしたニューロンの連結は生まれて最初の3年間で完成するということだ。事実、3歳の時点では1000億個のニューロンが互いに連結し、1つのニューロンにつき1億5000個のシナプスがすでに形成されている。繰り返すが、1000億個のニューロン1つひとつに1億5000個のシナプス、である。このようにして、広範囲にわたる複雑で、1人ひとり独自の脳内回路ができあがるのである。
しかし、ここで奇妙なことが起こる。なんらかの理由で、自然はわれわれに、きわめて入念につくられた回路の多くを無視するよう促すのだ。事物の常として、回路もまた使われないと、やがて修復不能になり、脳の中のあちこちで多くの回路が壊れはじめる。きわめて入念に形成されながら、使われないために3歳から15歳までのあいだに、それこそ無数のシナプスが失われてしまう。そして、16歳の誕生日を迎えるころには、回路の半分が使いものにならなくなってしまう。
さらに残念なのは、壊れた回路はもう2度と再生できないということだ。脳は生涯にわたり初期の可塑性を維持するのである。確かに学習したり、記憶したりするたびに新たなシナプスの連結構造が必要となり、それは四肢や視力を失った場合、その新たな事態に対処するために新たなシナプスの連結構造が必要になるのと同じだ。しかし脳内回路の設定は、強靭な結合にしろ、脆弱な結合にしろ、10代半ばを過ぎると大きく変化することはないのである。
実に奇妙な現象だが、では、どうして脳はそのようにできているのか。どうして多大なエネルギーを要する回路が形成されながら、その大半が衰えたり、死滅したりするのか。その答えは、教育学者ジョン・ブルワーが著書The Myth of the First Three Years(最初の3年の神話)で述べているとおり、脳に関するかぎり「小が大を兼ねる」からだ。シナプスの成長を促進させようと、ベビーベッドの上に白黒2色のモビールを吊るしたり、赤ん坊にモーツァルトを聞かせる親がいるが、それは実は見当はずれなことなのである。シナプスが多いほど、賢く優秀な子に育つというわけではないからだ。賢さや優秀さは、最も強固な回路をいかにうまく利用するかで決まる。自然は選ばれた回路を有効利用させるために、何十億ものシナプスを失うことをわれわれに強いるのである。だから、回路が失われること自体は案じなければならないことでもなんでもない。回路の減少こそむしろ重要なことなのだ。
では、なぜ、なぜ最初に必要以上の結合が形成されるのかというと、生まれて数年のあいだは実に多くの情報を吸収するからだろう。しかし、ただ一方的に吸収するだけで、世界観のようなものはつくられない。ありあまる脳の回路がまだすべて機能しているので、あらゆる方向からの多くのシグナルに圧倒されてしまうのである。世界を理解するには受ける刺激をいくらか遮断しなければならない。そのため吸収の時期が過ぎると、脳は遮断という作業に移る。その作業はそれ以降10年以上続き、その間に親から譲り受けた遺伝的特質と幼児期の体験に基づき、遮断すべき回路と、流れがよくて使いやすい回線とが選別される。そこで、競争心を生む回路にしろ、知識欲旺盛な回路にしろ、戦略的思考にすぐれた回路にしろ、その人を特徴づける回路が決まるのである。そうして決められた回路は、使用頻度がさらに高くなることで、より一層強靭で高感度のものになる。インターナット回線にたとえれば、それらが高速のT1ライン(1秒1.5メガビットのデータを送る電話回線)となって、シグナルがより明瞭に、より確実に伝わるのである。
(後略)
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