電脳筆写『 心超臨界 』

人生は良いカードを手にすることではない
手持ちのカードで良いプレーをすることにあるのだ
ジョッシュ・ビリングス

後世に技術を伝えることができない――刺しゅう針職人・小島清子さん

2022-05-17 | 05-真相・背景・経緯
電脳筆写『心超臨界』へようこそ!
日本の歴史、伝統、文化を正しく次世代へつなぎたいと願っております。
その願いを実現するために有効と思われる記事を書きためてきました。
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ユングが唱えた「集合的無意識」を顕在化できるかもしれません。

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東京裁判史観の虚妄を粉砕し本当の日本を取り戻そう!
そう願う心が臨界質量を超えるとき、思いは実現する。
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《 拡散希望 》
『三浦春馬さんと渡辺裕之さんの最終作品監督が同一人物の不思議◇靖国神社「みたま祭り」の献灯は良識派日本人の爆発的意思表示になる』
『三浦春馬さん以降、また渡辺裕之さんの死因を誘導するように「命の電話」を表記するテレビ局は闇を知っているのですか⁉️』
『アドミラル東郷ビールに継いで「ジェネラル樋口季一郎ビール」の製造を小樽ビールに要請してください』
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《 注目の論点 》
コミンテルンが日本国憲法を作る――中西輝政
不正選挙で大統領にしてもらったウッドロー・ウィルソン――馬淵睦夫
日米和親条約――誤訳のトリック/渡辺惣樹
中国の善意――櫻井よしこ
日本を追いつめた脅迫的「ハル・ノート」――渡部昇一
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刺しゅうに限らず、ほかの伝統芸術の分野でも、その基礎を支えている道具作りの職人がたくさんいる。私同様、後世に技術を伝えたいと思っても、生活に困窮する現状から、とても他の人に継いでもらうことはできないというケースが多い。その現実がとても寂しい。


◎「使えばわかる手製針」
◇刺しゅう用の十数種作り、伝統の技術守る◇ 小島清子
(【文化】2006.09.27 日経新聞(朝刊))

「刺しゅうをするのに、手作りの針はとても使いやすい」。人間国宝の福田喜重先生から一般の愛好家まで、私の手製の針を愛用してくれている数百人のお客さんは、口をそろえて言う。機械で大量生産される針と比べて、丈夫で弾力性に富むという。

続いて出る言葉は「いつまでも作り続けて」という励ましだ。工業化の影響で職人が減り続け、刺しゅう針を手作りするのは国内で私一人だけらしい。期待に応えようと、直径1.4㍉の極太から0.2㍉の極細まで十数種の針を21年間、作り続けてきた。

◇ ◇ ◇

◆一年に3カ月費やす

機械製の針との差を生み出すのは、言ってみれば手間暇の差だと思う。種類によって異なるが、1本の刺しゅう針を作るのに、15から45までの工程があり、約3カ月を費やす。

基本的な流れを説明すると、まずコイルに巻いた鉄製の針金を切断する。最上部をプレスの機械で押した後、糸を通す穴を開ける。

細心の注意を払うのが、針先だ。モーターで動かす砥石で削り、ゼロコンマミリ以下の微調整を少しずつ行う。そして千度以上に熱した炭を使った炉に入れ、焼入れと焼き戻し。水気をとった後、磨く。

こうして完成した針は、機械製の針と比べると、違いが歴然としている。例えば針先。機械製のそれは直線的だが、私のは肉厚で弧線を描いている。

私に技術を教えてくれたのは、父だ。父も私も暮らす広島県は、知る人ぞ知る国内随一の針の産地。作年の生産量は約15億本で、縫い針では国内のシェア100%を誇り、海外にも輸出している。

広島の針作りの歴史は古く、3百数十年前の江戸時代。この地を治めていた浅野家が、下級武士の手内職として奨励したことに始まるという。

父は県内の針の中小メーカーで働いていたが、約35年前に退職。脱サラして、刺しゅう針の職人になった。

私は23年前、36歳のときに、父に“弟子入り”した。針に関心があったわけではない。購入した一戸建てのローンを返済するために、収入を得たかったのである。母に相談すると、「子供が幼いのだから、外に出て働くのはよしなさい。お父さんの仕事を手伝えば」と言われて、針作りの技術を学ぶようになった。

◇ ◇ ◇

◆針に表れる心の揺れ

生来、手先が器用だったので、意外とすんなりと作り方を覚えていった。1985年(昭和60年)、父の引退に伴い、跡を継いだ。順調に仕事をこなしていたが、97年の出来事を境に長いスランプに陥った。夫と離婚したのだ。どんなに集中して作っても針先が揃わず歪(ゆが)む。針の形もそろわず、ばらつきが出た。不思議なことに、心のゆれはそのまま針に表れた。

悪いことは重なるものだ。2001年、網膜前出血という目の病気にかかり、視力が大幅に低下。仕事の効率が落ち、針を完成させるのに倍の6カ月もかかった。多くのお客さんを待たせ続ける結果になってしまい、落ち込まずにはいられなかった。

苦難の日々が続く中、ある時から「お客さんの顔を見たい」と思い始めた。郵送でなく、近辺の依頼主には出来る限り、直接針を届けるようになった。

その中に、介護を受けながら生活している山口県の80歳代のおばあさんがいた。刺しゅうをしている時間が人生で最も幸せだという。「あなたの作った針はとても使いやすいです。ありがとう」。私は思わず泣き出しそうになった。

ほかのお客さんも心が温かい人ばかりだった。完成が遅れたことをわびると、「いつまでも待っていますよ。無理しないでください」と逆にいたわってくれる。色々な人に接して、立ち直る勇気をもらった。

◇ ◇ ◇

◆技術途絶える寂しさ

今は楽しみながら針を作っているが、ときたま頭をかすめるのは、後継者の問題である。手間暇がかかるうえ、千本作れば7百本は不良品として廃棄する非効率的な仕事なので、私の年収は一般の水準よりかなり低い。息子から金銭的な援助を受けて、どうにか生活している。

繊細な仕事で体を酷使するのに、これほど割に合わない仕事もない。他の人には勧められない。私が世を去れば、刺しゅう針を手作りする技術は途絶えると、半ばあきらめている。

刺しゅうに限らず、ほかの伝統芸術の分野でも、その基礎を支えている道具作りの職人がたくさんいる。私同様、後世に技術を伝えたいと思っても、生活に困窮する現状から、とても他の人に継いでもらうことはできないというケースが多い。その現実がとても寂しい。
(こじま・きよこ=刺しゅう針職人)
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