孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク  長期的安定への困難な道のり

2008-03-27 14:55:21 | 国際情勢
イラクの治安状況に関する不穏な動きが報道されています。

****武装解除でマフディ軍に最後通告 マリキ首相****
イラク南部バスラで対米強硬派、サドル師派の民兵組織マフディ軍の掃討作戦を指揮しているマリキ首相は26日、同軍に対し「72時間以内の武装解除」を求める最後通告を行った。首相は同軍が応じない場合、「厳しい処罰」を受けることになると警告している。
サドル師派は25日、攻撃停止を政府に要求。24日から始めた抗議の座り込みを全土に拡大するよう支持者に呼びかけた。サドル師は声明で「政府が要求を顧みなければ、全土で民衆による反乱を宣言する」と警告した。
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周知のとおり、昨年来の治安改善は米軍増派のほか、サドル師が率いるシーア派民兵組織マフディ軍の停戦、スンニ派部族長のアルカイダ掃討への協力でもたらされたものです。
サドル師はサドル師が2月22日に、昨年8月に引き続き、マフディ軍の活動停止を半年延長すると発表したのですが、今月7日には“マフディ軍が内部分裂したこと、自分自身も活動から身を引き勉学に専念する”旨を表明しました。

マフディ軍内部で、イランに支援された急進的グループ、殆ど犯罪者といっていいようなグループなど分派活動が横行、サドル師も統制がとれない状態に陥っているようです。
その後、バグダッドのサドルシティーなどで、マフディ軍とイラク治安部隊の衝突も報じられていました。
なお、10日には、サドル師は宗教研究に専念するためにマフディ軍の日々の活動から退きはするものの、全体統括者には留まるとの側近からの発表がありました。

このあたりの事情はよくわかりませんが、いずれにしてもマフディ軍と治安部隊の抗争が南部バスラを中心に激しくなっており、これまでに40人が死亡、200人が負傷したと報じられています。
イラク駐留英軍は昨年12月、バスラ州の治安権限をイラク警察など治安当局に移譲したばかりです。
クートやヒッラ、ナシリヤなど南部の各都市には外出禁止令が敷かれているそうです。

また、バグダッドのシーア派居住地区サドルシティーでも25日以降、衝突が発生しており、これまでに14人が死亡、140人以上の負傷者が出たと報じられています。
更に、政府施設や大使館などが集中するグリーンゾーン(米軍管理区域)にも26日、ロケット弾や迫撃砲弾が多数撃ち込まれ、米政府職員3人が重傷を負っています。
今回の襲撃はマフディ軍内部のサドル氏と意見が一致しないグループによるものとの情報もあります。【3月26日 CRI】

イラク治安部隊はサドル師派・マフディ軍と対立するシーア派政党「イラク・イスラム最高評議会」(SIIC)傘下の民兵組織「バドル軍」出身者を中心に構成されており、今回の抗争はバドル軍とマフディ軍というシーア派同士の覇権争いの側面があります。

マリキ首相は、自らがバスラに乗り込んで民兵組織の掃討作戦を指揮することで、その威信を示す狙いがあるとみられています。
一方、サドル師は、マフディ軍への攻撃停止を求め、冒頭記事にあるように全国一斉ストライキを表明しており、事態が改善しない場合は“全土での反乱”を警告しています。
なお、“バスラにあるサドル師派事務所の広報担当は、軍事対立を終わらせたい意向を示した”との停戦の意向を示す情報もあります。【3月25日 AFP】
少なくとも、すぐさま武闘で治安部隊に応戦するという構えではないようですが。

イラクのアンバル州でも再び緊張が高まっているそうです。
04年に米軍とアルカイダ系組織の間で激しい戦闘が繰り広げられたファルージャなど、反政府勢力のかつての拠点だったエリアです。
その後、スンニ派部族長が“覚醒評議会”を組織して部族員にアルカイダ系組織と対決するよう命じたことで、この地域の治安改善が進展しました。

しかし、現在失業問題や基本的な社会サービスの欠如、政情改善の遅れに対する怒りが、噴出しているそうです。
スンニ派部族の指導者は「アンバル州の状況は今も確たるものではなく、以前に比べると平和だというだけ。嵐の前が必ず静かな時期であるように」「アンバルの治安が安定したら状況は開発や復興の方に進むと思っていたが、われわれは今、政府からの放置に遭い驚いている」と語っています。

かつては製造業が発達した地域でしたが、工場再開のための施策は手付かず状態。
失業者の数はファルージャだけでも2万人。
生活に窮した若者達が再び資金力のあるアルカイダ勢力に取り込まれることが懸念されています。

米軍は地域のパトロールなどを行う覚醒評議会メンバーに対し月300ドル(約3万円)を支払っていますが、メンバーの多くはより給与の高い軍や警察に加わることを望んでいるそうです。
現在治安部隊がシーア派中心に構成されているという宗派の問題以外に、メンバーの大半がかつて反政府勢力として戦った経験を持っていることから、中央政府は彼らを治安部隊に吸収することに消極的で、覚醒評議会メンバーと治安部隊の統合が進んでいません。【3月26日 ロイター】

“武器”“軍隊”で一時的に抑えこむことは出来ても、長期的に地域を安定化させるためには、住民の生活を安定させること、そのための雇用の創出が不可欠です。
イラクの現状は、そのための意思にも能力にも欠けているように見えます。

ブッシュ大統領はイラク開戦5年にあたり、「イラクでのわれわれの成功は議論の余地がない」と相変わらずですが、南部、バグダッドでのシーア派間の抗争、アンバル州でのスンニ派の今後の動向、昨日のブログでも触れた北部クルド自治区の動向・・・不安材料には事欠かない状況です。

コメント
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