ベネット氏は「タリバンの思想と規則の根幹には、女性に対する重大で組織的かつ制度的差別が存在する。これは、タリバンがジェンダー・アパルトヘイトに責任がある可能性を示している」と述べた。
国連は、ジェンダーまたは性別を理由に個人に対して行われる経済的・社会的性差別」をジェンダー・アパルトヘイトと定義している。
また、ベネット氏は記者団に「われわれはジェンダー・アパルトヘイトをさらに追及する必要性を強調した。現時点では国際犯罪となっていないが、そうなる可能性がある」と指摘。「現在、アパルトヘイトは人種を対象としているが、これをアフガンの状況に当てはめて人種の代わりに性別を適用すれば、その方向に向けた強い示唆となるとみられる」と述べた。
2021年8月に実権を掌握したタリバンは、高校や大学通学の阻止など、女性の権利と自由を極度に制限している。【6月20日 ロイター】
日本を巡る状況について、小池知事は世界の国々との比較においてスピード感が違うと指摘。男女格差の解消について「本質から覚悟を持って進めていく」必要性を訴えた。【6月23日 ロイター】
JNNは、アフガニスタン第二の都市・カンダハルで、タリバン最高幹部の一人・ムッタキ外相代行と接触。ムッタキ氏は、20年前のタリバン政権時代に閣僚をつとめ、前アフガン政権やアメリカとの和平交渉の際、タリバンの代表団を率いていました。
タリバン ムッタキ外相代行
「(予算内で)約8000人の職員の給与を支払い生活を維持できています」
国の統治は順調に進んでいると強調したムッタキ氏。女性の権利や教育への厳しい制限が、男性がいない母子家庭の命を脅かすとの指摘については。
タリバン ムッタキ外相代行
「我々は9200人の女性の職員を抱えています。多くの部署で女性が活躍しています。つまり問題として取り上げられるレベルのものとは認識していません。我々は女性の権利を守るために、具体的な政策を実施できるように努力しています」
このように述べたものの、女性の権利をめぐる具体的な策については明らかにしませんでした。【8月18日 TBS NEWS DIG】
(「女性への暴力およびDV防止条約」脱退検討への抗議デモに参加した女性たち【2020年8月28日 SankeiBiz】)
【DV防止条約は、家族の調和を傷つけて離婚を助長 また、LGBTに利用される】
たまたまですが、昨日に引き続きトルコの話題。
****トルコ、女性へのDV防止条約から脱退****
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン政権は19日、女性に対する暴力の防止と撲滅を目的とした「イスタンブール条約」からの脱退を発表した。
イスタンブール条約は2011年に欧州評議会で採択され、ドメスティックバイオレンスや夫婦間レイプ、女性器切除の加害者の訴追に向けた法整備を批准国に求めている。
エルドアン氏率いる保守派与党は条約について、家族の調和を傷つけて離婚を助長するほか、LGBTコミュニティーが社会でさらに受容されることを目指して利用しているなどと主張していた。
一方、野党は条約脱退に強く反発。与党が脱退を提起した昨年以降、トルコ国内では条約に関する激しい議論が交わされ、イスタンブールなど各地で女性による抗議デモが行われている。
トルコでは、DVとフェミサイド(女性を標的とした殺人)が深刻な問題となっている。女性権利団体「We Will Stop Femicide Platform」によると、昨年は約300人の女性が殺害された。 【3月20日 AFP】
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【かつては条約制定に重要な役割を果たしたトルコ】
「イスタンブール条約」は正式には「女性に対する暴力及びドメスティッ ク・バイオレンス防止条約」という名称で、欧州評議会が定めた条約です。採択されたのがトルコ・イスタンブールであったことから「イスタンブール条約」と呼ばれています。
欧州評議会はEUと紛らわしいですが、EUとは別組織で、1949年に設立されたヨーロッパの統合に取り組む国際機関です。
トルコやロシアを含む、ほぼすべてのヨーロッパ諸国が加盟しており、未加盟は人権上の問題があるベラルーシのほかはコソボとバチカンぐらいです。
「イスタンブール条約」という通称が示すように、トルコはこのDV(ドメスティックバイオレンス)防止の女性保護条約制定において重要な役割を果たしました。
個人的想像ですが、トルコがDV防止でそうした役割を担ったのは、EU加盟を進めるために、トルコの人権問題を疑問視するEUに対し「女性の権利保護」をアピールする狙いがあったのではないでしょうか。
条約がイスタンブールで採択された2011年当時は、大統領はエルドアン氏の盟友だったギュル氏で、エルドアン氏は首相でした。(当時は首相が実権を持つ政治制度でしたから、当時から政治的実権はエルドアン氏にありました)
【かつても今も、トルコにおける深刻なDV】
当時から、DVに関し、トルコは深刻な問題があることが指摘されていました。
****トルコ:暴力にさらされる女性たち****
法の不備と警察の鈍い対応 緊急に必要な保護受けられず
(イスタンブール)-トルコにおける家庭内暴力からの保護制度の欠陥により、同国の女性と少女は、家庭内の人権侵害に晒されたまま放置されている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で述べた。
法の不備と執行制度の欠如のため、虐待を受けている被害者の多くは、裁判所の保護命令や緊急避難シェルターの設置を含む「生命を守るための保護策」を利用できていない。
報告書「ドメスティックバイオレンス:トルコでの家庭内暴力の実態と保護へのアクセス」(全58ページ)は、女性が夫やパートナー、そして他の家族から受ける、残虐で長期にわたる暴力の現実や、家庭内暴力から逃れて保護を求めて奮闘する実態を取りまとめている。
トルコには虐待の被害にあった女性向けの避難シェルターの設置や保護命令を出す事を義務付ける強力な保護法がある。しかしながら、法の隙間と警察・検察官・裁判官その他当局者の執行システムの欠如が、保護システムそのものを恣意的、さらに言えば非常に危険なものにしている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの女性の権利に関する調査兼アドボカシー担当者で本報告書の執筆者でもあるガウリ・ヴァン・グリ(Gauri van Gulik)は、「強力な法律が存在するのに、トルコ政府当局者が家庭内暴力の被害者から基本的な保護を受ける権利を剥奪している事態は、許しがたい。トルコ政府は女性の権利に関して称賛すべき改革を積み重ねてきたが、警察・検察官・裁判官そしてソーシャルワーカーは、法律を絵に描いた餅とするのではなく、実行に移さなければならない」と語った。
ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取り調査を行った14歳から65歳までの女性や少女は虐待の様子を詳しく語ってくれた。
たとえば、レイプされたこと、刺されたこと、妊娠中に腹部を蹴られたこと、ハンマー・ムチ・枝・ホースで骨折するまで殴られ、頭がい骨を割られたこと、犬などの動物と一緒に閉じ込められたこと、食事を与えられなかったこと、スタンガンで撃たれたこと、毒を注射されたこと、屋根から突き落とされたこと、激しい心理的暴力にさらされたこと...。家庭内暴力は、調査員が聞き取り調査を行った全ての地域で、収入の多少や教育水準に関わらず発生していた。
「初めて虐待を受けた時、夫は私を殴り、お腹にいた赤ちゃんを蹴り、最後には屋根から私を放り投げたのよ。」とセルヴィ・T(仮名)は話した。彼女は12歳の時に強制結婚させられ、何年も夫から虐待を受けている。
今回の報告書は、欧州評議会が「女性への暴力と家庭内暴力に関する地域協定」を採択する矢先に公表された。トルコは閣僚委員会の現議長国として、当該協定の草案に重要な役割を果たしてきた。同協定は、2011年5月11日にイスタンブールで開かれる首脳会議の席上で署名される予定である。
2009年にトルコの主要な大学が行った調査によれば、15歳以上のトルコ女性の42%、そして地方に住む女性の47%が、人生のいずれかの時点で、夫或いはパートナーによる身体的或いは性的暴力を経験しているという。(後略)【2011年5月4日 Human Rights Watch】
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警察・検察官・裁判官その他当局者が本気で女性の権利を守ろうとする意思を持っていないことが問題でした。
その後も、トルコにおける女性に対する暴力は変わっていません。
****脅かされる、トルコの女性 夫らの暴力、年間500人が命絶たれる****
男女間の格差が今も根強く残るトルコで、女性の人権が脅かされている。夫や交際相手らによる暴力がやまず、最近では1年間に500人近い女性が命を絶たれている。何が起きているのか。
■母の死、理解できぬ3歳の子
「私たちが今も生きていられるのは、この子の存在があるからなんです」
最大都市イスタンブールにあるアパートの一室。犬のぬいぐるみが置かれた子ども部屋で、アフメット・ペリットさん(61)がつぶやいた。傍らには孫の3歳の男の子。その母で、そしてアフメットさんの娘のトゥーチェさんは2020年1月、27歳の若さで亡くなった。夫に殺されたのだ。
14年に結婚したが、3、4カ月もするとけんかが増え、夫から暴力を受けるようになった。顔を殴られ頬を骨折したこともあり、アフメットさんらは「家を売ってあの男から逃げよう」と説得した。だが、トゥーチェさんは「どんな家庭も問題はある。乗り越えればきっと幸せになれるから」と言うだけだった。
息子が生まれても暴力は一時的にやんだだけ。トゥーチェさんは定職のない夫に代わって学校給食作りの仕事をし、顔のあざは化粧で覆って出勤した。文句一つ言わずに働いたのは、息子を教育水準の高い私立学校に入れたい一心からだった。
一度は離婚を決意し、警察にも相談したトゥーチェさん。しかし、「子どものために、父親がそばにいることが大切」と夫の元に帰ることを決めた。新たな生活を始めようと新居を見に行った際、夫と何かのトラブルがあったとみられ、トゥーチェさんは首を絞められて殺害された。「助けられなかった自分が許せない」。アフメットさんは今も後悔の念が募るばかりだ。
トゥーチェさんが育った部屋は壁紙を張り替えて子ども用家具を置き、3歳の息子のものになった。母が死んだことは理解できておらず、墓参りに行くと「僕が出してあげる」と穴を掘ろうとする。アフメットさんは言う。「いたずらしても叱れない。この子が『ママ』と呼ぶのが、あまりに切ないからだ」
■「男らしさ」守る社会背景に
女性の権利擁護団体「We Will Stop Femicides Platform」の推計によると、トルコで家庭内暴力や交際のもつれなどにより男性によって殺された女性は11年に121人だったのが、18年には440人に、19年は474人に増えた。女性の社会進出が進むにつれ、男性とぶつかることが多くなったことなどが原因との見方がある。
夫や交際相手などが加害者であることが多く、離婚協議中に事件が起こることもしばしばだ。同団体のヌルシェン・イナルさん(58)は「トルコでは就職面接を受ける女性が『結婚するの?』『子どもは産むの?』などと平然と問われることもある。男女平等など存在しない」と訴える。
トルコは政教分離に基づく世俗主義が国是で、他の中東諸国より女性の社会進出が進んでいるとされてきた。だが世界経済フォーラムの男女格差(ジェンダーギャップ)ランキングでみると、153カ国中130位(日本は121位)に位置する。
バフチェシェヒル大のニルフェル・ナルル教授(社会学)は、背景の一つに男性が女性よりも強く優位に立つ「男らしさ」を守ろうとする社会構造があると指摘する。
社会での女性の活躍についても、男性によっては「優位」が脅かされると捉え、離婚などの重要な問題で女性が主導的になろうとすると、暴力に転じることがあるとみる。また、イスラム教保守層の影響を指摘する声もある。
ナルル教授は、幼いころから「男女は平等だ」という意識を持たせることが重要だとし、「日本のように家庭科の調理実習でともに料理を作って、同じ立場で生きていることを実感させるような体験も有効だ」と話す。(後略)【1月20日 朝日】
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女性が置かれた現実は変わっていませんが、変わったのは保守的イスラム主義を隠そうとしなくなった、また、EU加盟の現実味がなくなり、欧米との対決姿勢を隠そうとしなくなったエルドアン大統領です。
****トルコ、DV防止条約脱退も 大統領が検討指示 女性デモ相次ぐ****
トルコのエルドアン政権が「女性への暴力およびドメスティックバイオレンス(DV)防止条約」からの脱退を検討している。
イスラム色の強い保守層が「家族構造を崩壊させる」と反発しているためだ。条約はトルコの男性優位社会を見直す重要な契機をもたらしてきた。与党内でも意見は割れ、女性団体による抗議デモが相次いでいる。
条約は2011年に欧州評議会で採択された。女性に対する暴力の防止、被害者の保護、加害者の訴追の実現を目指し、批准国に制度整備を求める。トルコは真っ先に署名した国の一つで、同条約は「イスタンブール条約」とも呼ばれる。14年に発効し、現在は欧州中心に34カ国が批准する。
トルコでは男性による女性に対する暴力が深刻で、性犯罪や殺人が後を絶たない。トルコが条約署名に動いたのも、欧州人権裁判所が国内のDV事件を問題視したことが大きな要因だった。署名時はエルドアン大統領が首相。国会も承認し、法整備が進められてきた。
しかし与党幹部は7月、条約が家族の形を傷つける懸念があると表明した。条約が呼び掛ける「ジェンダー、性的指向」に基づく差別の禁止が、LGBTなど性的少数者を助長しているというのが主な理由だった。
地元紙ミリエトによると、保守化を進めるエルドアン氏は与党の会合で条約脱退の検討を指示した。野党は強く反発。与党の女性議員や、政権に近い女性団体も脱退反対を表明し、政権の足並みは乱れている。
今月5日、イスタンブールのデモに参加した女子大学生のセネム・カバクさんは「トルコは最初に署名した国として誇りを持つべきだ。条約は政府の数少ない実績なのに、消し去ろうとしている」と批判した。【2020年8月28日 SankeiBiz】
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【政権のLGBT対応を批判する学生を大量逮捕】
保守的イスラム主義を進めるエルドアン大統領ですが、女性問題以外でも、“条約が呼び掛ける「ジェンダー、性的指向」に基づく差別の禁止が、LGBTなど性的少数者を助長しているというのが主な理由だった。”とあるように、性的マイノリティに対しても厳しい対応を示しています。
****トルコ大統領、LGBTの若者を非難 学生集会で約160人逮捕****
トルコの学生による抗議集会で、イスラム教の聖地とLGBT(性的少数者)を象徴する虹色の旗「レインボーフラッグ」を並べて描いた絵が掲げられたことを受け、レジェプ・タイップ・エルドアン大統領は1日、トルコのLGBT運動は「破壊行為」だと非難した。
先週末、イスタンブールにあるボアジチ大学で行われた学生集会では、イスラム教の聖地とレインボーフラッグを一緒に描いたとして4人が逮捕された。
1日、これを非難するエルドアン大統領の演説が放送されて間もなく、同大学では再び抗議集会が行われた。
ソーシャルメディアに投稿された映像によると、警察は平和的に抗議していた学生らを引きずって連行した。現場にいたAFPの記者らも、何人かの学生が警察に引きずられる様子を目撃している。イスタンブール県知事によると、159人の逮捕が確認されている。
エルドアン氏は、「わが国の若者たちを、LGBTの若者としてではなく、わが国の輝かしい過去に生きた若者のように未来へと導いていく」と、与党・公正発展党の党員へ向けた動画メッセージで発言。
さらに「あなたたちはLGBTの若者でも、破壊行為をする若者でもない。それどころか、あなたたちは傷ついた心を修復する人たちだ」と述べた。
人権団体らはエルドアン氏が18年に及ぶ在任期間を通じ、大半の国民がイスラム教徒であるものの公式には世俗国家であるトルコの社会を、保守的な方向へ導いていると非難している。
トルコでは先月、エルドアン氏が自らに忠実な人物をボアジチ大学の学長に任命したことがきっかけで、学生による抗議行動が相次いでいた。 【2月2日 AFP】
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昨日ブログで、クルド系政党への解党命令に対し欧米とトルコの間の軋轢がまた激しくなりそうだということを取り上げましたが、欧米側のトルコ・エルドアン政権への反発は、エルドアン大統領の女性やLGBTに対する厳し姿勢に見られるイスラム主義・強権姿勢を危惧していることが背景にあります。
(年々低下する日本のジェンダー・ギャップ指数ランキング【4月15日 データのじかん】)
【スーダン 女性器切除を犯罪化】
2014年に発効した欧州評議会の「女性に対する暴力及びドメスティック・バイオレンス防止条約」(イスタンブール条約)は女性に対する暴力を犯罪とすることを締約国に義務つけており、該当する行為として精神的暴力(33条)、ストーカー行為(34条)、身体的暴力(35条)、レイプを含む性的暴力(36条)、強制的女性性器切除(38条)、中絶・不妊手術の強制(39条)が規定されています。
犯罪とされる女性に対する暴力のひとつが「女性器切除」
****女性器切除****
女性器切除(Female Genital Mutilation、略称FGM;「女性性器切除」とも表記する)あるいは女子割礼(じょしかつれい、Female Circumcision)とは、女性器のクリトリス切除を中心に小陰唇切除や大陰唇縫合あるいする行為。
主にアフリカを中心に行われる風習であり、成人儀礼のひとつ。
麻酔も無く行われることで死者も多発する、この風習では、どのパターンでも必ず性感帯である陰核切除をするので性行為に女性が快楽を感じることを悪とする考えの下で女性差別かつ児童虐待であると批判する人々が使う呼称であり、、一方で男性器の包皮切除を行う男子割礼と同等の儀礼であると肯定的に主張されるる場合では「女子割礼」の語が主に使われる。【ウィキペディア】
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後出の国連人口基金(UNFPA)の報告によれば、世界で性器切除(FGM)を経験した女性は2億人いるとも。
こうした悪しき風習がいまだに広く行われているのは、単に男性側の女性差別的発想だけでなく、それを受け入れる女性側の問題など、多くの要因があるとは思われます。それにしても・・・。
これまでもブログでしばしば取り上げてきましたが、まとまったものとしては、2008年3月9日ブログ“「国際女性の日」に女子割礼を考える”(「女子割礼」という言葉を使用したのは、別に、肯定的にみなした訳ではありません)
女性への身体的暴力の風習としては、胸の発育を強制的に止めるために胸を焼きつぶす「胸アイロン」といった風習も。
2017年1月8日ブログ“男性優位社会で女性に強いられる身体的犠牲「胸アイロン」 男性の性的暴力に関し、女性への責任転嫁も”
遅々とした歩みのなかで、喜ばしい一歩も。
****女性器切除を犯罪化 スーダン統治機構が承認*****
スーダンの統治機構である「最高評議会」は10日、同国に広がる慣習の女性器切除を犯罪とする法律を裁可した。同国法務省が発表した。
同省の発表によると、軍人と文民で構成される最高評議会は、「女性の尊厳を傷つける」長年の慣行である女性器切除の犯罪化を含んだ一連の法案を承認した。
同国では、長年強権支配を続けてきたオマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領が、数か月にわたって続いた改革を求める大衆デモを受けて失脚。女性たちが重要な役割を果たしたデモから1年後、今回の改革が実現した。
内閣は4月、女性器切除を施した人物を処罰する刑法の改正を承認。同国法務省は、「女性器切除は今や、犯罪とみなされる」と述べており、最長3年の禁錮刑が科される可能性もある。女性器切除を施した医師や医療従事者は罰せられ、手術が行われた病院やクリニックなどは閉鎖され得るという。
同国のアブダラ・ハムドク首相は、10日の決定を歓迎し、「司法改革の途上における重要な一歩であり、また自由、平和、正義という改革のスローガンを達成するための重要な一歩だ」とツイッターに投稿した。
最も乱暴な方法では陰唇からクリトリスまで切除され、膣口は縫合して閉じられる。施術は不衛生な環境下で麻酔なしで行われることが多く、嚢胞(のうほう)や感染症が生じることも少なくない。また施術を受けた女性たちは後に性交痛に悩まされたり、出産時に合併症にかかったりすることもある。 【7月11日 AFP】AFPBB News
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スーダンでは“意外なほどの”民主的プロセスを経て、バシル前大統領独裁からの脱皮が実現しましたが、その民主的な流れは今も消えていないようです。
***女性器切除禁止、スーダンも****
アフリカや中東などの一部の国では、女性器の切除が長い間、慣習として続いてきた。今回、その禁止に踏み切ったのがスーダン。長期支配を続けた指導者が失脚して発足した暫定政権が、「人権侵害」と非難してきた欧米との関係改善などを図ったとみられる。すんなり浸透するのだろうか。
■指導者失脚、欧米との関係重視
(中略)ユニセフが2016年に出した報告書などによると、スーダンでは15~49歳の女性の87%が女性器の切除を経験していた。「性欲を抑えて貞操を守る」「結婚するために必要」「大人になるための儀礼」などとして行われていた。
ただ、術中に大量に出血したり、感染症になったりするケースが少なくない。欧米諸国を中心とした国際社会は「人権侵害だ」と批判してきた。スーダン国内でも、切除に反対する声が徐々に高まっていたが、状況はすぐには変わらなかった。
転機となったのは、スーダンで30年にわたる強権支配を続け、禁止措置に後ろ向きだったバシル前大統領が昨年4月に解任されたことだ。バシル氏の失脚につながった大規模デモでは、男性と比べて教育や職業の機会が限られてきた大勢の女性が参加し、自由や公平を求めた。
その後発足した軍と文民組織による暫定政権は、民主化に向けた取り組みや、前政権時代に対立していた欧米諸国との関係改善を模索。女性器切除の禁止もその一環とみられる。バシル氏についても汚職と外国通貨の違法所持などの罪で訴追に踏み切った。
ただ、切除の禁止がすぐに浸透するかどうかはまだ見通せない。複数の現地住民によると、性の話題をタブー視する家庭は今も多く、女性器切除について、話題にする機会はほとんどないという。
住民の一人は「切除が禁止されても、慣習が根強い地域ではしばらくは闇で行われる恐れがある」と心配している。
■根強い慣習、「闇」手術に懸念
女性器の切除は、スーダンだけの問題ではない。
ユニセフは報告書で、アフリカや中東などの約30カ国で少なくとも約2億人が女性器を切除した、と指摘している。15~49歳の女性のうち、切除した女性の割合はソマリアで98%、ギニア97%、ジブチ93%、シエラレオネ90%。5歳になるまでに切除する子どもも多く、イエメンでは85%の女児が生後1週間以内に切除していたという。
その一方、「人権侵害」との批判の高まりや女性の地位向上が進み、各国は撲滅に向けた取り組みを少しずつ進めている。
15~19歳で切除した少女は、1985年の51%から2015年ごろには37%にまで減った。国連は同じ年に定めた持続可能な開発目標(SDGs)で、30年までに女性器切除を含む有害な慣行を撤廃することを掲げている。
15~49歳の女性の2割が切除を経験しているというアフリカ東部のケニア。11年から女性器の切除を禁止し、違反者は禁錮か20万シリング(約20万円)の罰金が科されるようになった。ケニヤッタ大統領は昨年11月、「22年までに女性器切除を根絶する」と宣言した。実現するかは不透明だが、国内で切除する人は減少傾向にある。
スーダンの隣国エジプトでは、1990年代ごろから女性器切除に反発する声が強まり、2008年に違法になった。現在は法律に反して手術を行うと禁錮5~7年、女性が死亡したり重い障害が残ったりした場合はさらに刑期が長くなる。ただ、「切除してこそ一人前の女性」といった考え方もいまだに根強く、闇で切除が実施されているという。【6月9日 朝日】
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かつてはスーダンと言えば、約30万人が殺害され、約270万人が避難民になったとされる、国連が「世界最悪の人道危機」と呼んだバシル前大統領時代のダルフール紛争のイメージでしたが、いろいろ問題はあるにしても、こういう変化は喜ばしいことです。
そのダルフール紛争に関しては、暴力行為の中核にあったアラブ系民兵組織ジャンジャウィードの元幹部が13年越しで逮捕されたとか。【6月10日 時事より】
バシル前大統領に関しては、“スーダン政権を暫定的に運営する主権評議会は11日、ダルフール紛争をめぐって人道犯罪などに問われているバシル前大統領を国際刑事裁判所(ICC)に引き渡す方針を明らかにした。”【2月12日 CNN】とも報じられていました。現在の状況は知りません。
【出産前後の性差別によって「消失」した女性】
女性への暴力、女性差別といった問題に話を戻すと、その類の話は山のように世界でも、日本でもあって話は尽きませんが、そうしたもろもろの結果としておきることのひとつが・・・
****性差別により「消失」した女性、世界に640万人と推計****
国連人口基金(UNFPA)は30日、出産前後の性差別によって「消失」した女性がこの5年間で640万人に上った、という推計を発表した。UNFPAは女性差別をなくすための対策を続けているが、新型コロナウイルスの感染拡大で一部の支援が滞り、悪影響を懸念している。
UNFPAによると、男児と比べた出生率の低さや出産後の死亡率などから推計すると、「生きていたはずなのに、消失した女性」は1970年時点で6100万人いた。
一部の国で女児であれば中絶したり、育児放棄したりするためだ。この傾向はその後も一定の割合で続いており、今年までに累計で約1億4千万人に上る。特に、中国では累計7230万人、インドでは同4580万人が「消失」したという。
UNFPAは「世界人口白書」を毎年公表しており、今年は女性の人権侵害に焦点を当てた。処女検査や、性被害から守るために乳房を焼き潰す「胸アイロン」といった19の行為を「有害な慣行」と認定。世界で性器切除(FGM)を経験した女性は2億人、児童婚をした少女は6億5千万人いるという。
UNFPAはこうした差別をなくすための支援に取り組んでいるが、新型コロナによって一部の政策が中止を余儀なくされている。ナタリア・カネム事務局長は会見で「女性をモノのように扱うことをやめ、全ての人間には平等な権利があるということを理解しなければならない」と訴えた。【6月30日 朝日】
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【年々悪化する日本のジェンダー・ギャップ指数】
「消失」した女児の84%を中国・インドが占めていますが、日本も女性問題では世界的に非常に遅れた位置にあることは毎年の「ジャンダー・ギャップ指数」で明らかにされています。
しかも、経年的に悪化する傾向があります。
****ジェンダーギャップの縮まらない日本に光明はあるのか?ジェンダーギャップ指数2019が発表****
世界経済フォーラム(WEF)が、毎年発表しているジェンダー・ギャップ指数の2019年度版を発表しました。
日本は昨年よりもランキングを11位落とし、調査対象となった153カ国のうち121位となりました。この結果は、主要7カ国(G7)の中で最低だっただけでなく、2006年から開始したジェンダーギャップランキングの歴史の中で日本にとって史上最低のランクとなっています。
「女性の活躍を推進する」や「男女平等社会を目指す」という言葉がテレビなどでもよく見受けられるようになった一方で、なかなか進まないジェンダー格差の解消。日本が抱える課題とは一体何なのか、指標から探っていきます。
日本が史上最低のランクとなったジェンダーギャップ指数。過去の推移から原因を探る
ジェンダーギャップ指数とは、健康・教育・政治・経済という4つの分野を14項目に分けてそれぞれの分野の指標におけるジェンダーギャップから総合的に判断されるものです。(中略)
ジェンダーギャップランキングの推移を見て行くと、計測開始の2006年から、年々ランキングが下がる傾向にあることがわかります。(中略)
つまり日本のジェンダー格差の状態は、この十数年間でほとんど解消されておらず、その結果、相対的な順位が徐々に下がっていていると言えます。
では日本のジェンダーギャップにおける課題とは一体何なのか、分野別に見ていくと「政治」・「経済」の分野での遅れが足を引っ張っていることがわかりました。
特に「政治」の分野は昨年の125位から20位近くランクを落とし、144位と大きく出遅れています。
また、他国で「教育」の分野におけるジェンダーギャップの解消が進む中、変化のない日本は昨年の65位から大きくランキングを下げました。
それではジェンダーギャップにおける日本のウィークポイントである「政治」・「経済」の分野について項目ごとにその指数を見ていきましょう。
「経済」分野で指数となるのは次の5つの項目です。
労働参加率 男女間の同一労働での賃金格差 男女間の収入格差 管理職につく男女の人数の格差 専門職、技術職につく男女の人数の格差
この項目のうち「労働参加率」、「男女間の同一労働での賃金格差」、「男女間の収入格差」の三つの項目で日本は世界平均を上回っています。
一方で、「管理職につく男女の人数の格差」や「専門職、技術職につく男女の人数の格差」世界平均を下回り、特に前者の項目については、平均の半分以下のスコアとなっており、ランキングも131位と著しく低く、女性が要職につきにくいという日本の課題が顕著に表されました。
続いて日本のジェンダーギャップの縮小のボトルネックとなっている「政治」分野で指数となるのは次の3つの項目です。
国会議員の女性率 閣僚の女性率 過去50年間の女性元首
日本は政治分野の全項目で世界平均を下回っていることがわかります。
過去50年間に国家のトップとなる女性がいなかったというのはもちろんのこと、閣僚の女性率の低さも目立ちます。
このような課題は経済での課題として見えた、「女性が要職につきにくい」とも合致しています。(中略)
女性が管理職につきにくい状況に変革を。企業の取り組みを探る
女性がなかなか要職に付けない背景には、日本社会に年功序列が根付いており、労働時間に比例して役職につきやすいということがあります。
育児や介護などの負担が女性にかかりやすい日本では、必然的に女性の労働時間が長くなったりキャリアに空白期間ができたりして、年功序列から外れてしまう、という事例が多いのです。
そこで、近年、女性の活躍にもつながる新たな制度の導入に乗り出す企業も少なくありません。(中略)
ジェンダーギャップを解消するためには社会全体での取り組みが必要
一方で、福利厚生を充実させることにも、まだまだ課題は多くあります。
例えば、課題の一つとして、家庭の中で福利厚生の充実している企業に勤めている人にライフイベントに伴う負担の比重が偏ってしまい、その人自身だけでなく、企業側にも負担がかかりやすくなる、ということが挙げられます。
こうした課題を解消するためにも、働きやすい制度を特定の企業のみが採用するのではなく、社会で広く導入することで、きちんと負担を分け合うことが重要になってくると考えられます。
ジェンダーギャップを解消するための様々な改革を取り入れることははじめは負担が大きいかもしれませんが、少子高齢化で労働力不足が続く昨今、継続的に取り組めば、女性の労働力を最大限に活用することもでき、結果的に利益に繋がっていくと考えられます。(後略)【4月15日 データのじかん】
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最近目にした、興味深い記事。
明治時代の女性は、それまでの「まげ」をやめて髪を短く切った時に、役所に届け出る必要があったとか。
****明治の女性、髪を切るのに「断髪届」 千葉の民家で発見 ****
明治時代の女性が髪を切った時に千葉県に届け出る「断髪届」が、同県白井市の民家から見つかった。文明開化で男性はまげをやめたが、女性が髪を短くしてまげをやめることは禁止され、届け出をしないと罰せられた。
市教育委員会の戸谷敦司・学芸員は「女性に伝統的な美を守らせたいという、当時の価値観を示すとみられる貴重な資料」と話している。
市教委が谷田(やた)地区にある旧家の井上家で行った古文書調査で見つかった。日付は1876(明治9)年10月25日。井上家長男の妻が長患いが治るよう願をかけて7月に髪を切った、と義父らが届け出ている。押印されていないことから控えとみられるという。
71年に「散髪脱刀令」が出され、「ざんぎり頭をたたいてみれば、文明開化の音がする」と歌われたように男性の断髪が進んだ。女性でも髪を切ってまげをやめる人が出てきた。
まげは油で固めるため、洗髪は半日がかり。夏場でも月に1度洗髪できるかどうかで、悪臭のため頭痛に悩まされる人もいたという事情もあったようだ。
ところが、女性の断髪に対して世論は反発。72年以降、東京府(当時)を皮切りに全国で軽犯罪を取り締まる「違式●(ごんべんに縦に「土」を二つ。かい)(かい)違条例」が制定され、立ち小便や入れ墨などと一緒に、理由のない女性の断髪も禁止された。
戸谷学芸員は「井上家の場合、7月に病気回復の願かけとして髪を切ったのは、病気で夏場は耐えがたかったというのも理由なのでは」と推測している。【6月29日 朝日】
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“夏場でも月に1度洗髪できるかどうか”・・・・想像できない苦労ですね。
(【7月12日 FNN PRIME】 西宮市の武庫川女子大学を訪れたエルドアン大統領夫妻)
【「トルコにも日本のように女子大が必要だ!」 国内には「日本は世界的に女性の地位が低い国のひとつだ」との批判も】
トルコのエルドアン大統領が、イスラムを公的な場面に持ち込まない世俗主義を是としていたそれまでのトルコにあって、イスラム主義を推し進めていることは周知のところですが、G20で来日した際に大統領が目をつけたのが日本の「女子大」だったとのこと・・・・なるほどね。
****「トルコにも日本のように女子大が必要だ!」 熱弁をふるうエルドアン大統領の狙いは?****
「トルコにも日本のように女子大が必要だ!」 熱弁をふるうエルドアン大統領の狙いは?
女子大を絶賛したエルドアン大統領
トルコのエルドアン大統領が6月27日、G20大阪サミットに参加するため来日した。滞在中は安倍首相やアメリカのトランプ大統領と会談し、天皇皇后両陛下とも会見した。
これらは本国トルコでも当然報じられたが、それよりもトルコで話題になったニュースがある。エルドアン大統領が兵庫・西宮市の武庫川女子大学を訪れ、名誉博士学位を授与されたあとの演説だ。
エルドアン大統領:「日本には800の大学があり(注1)そのうち10%に当たる80校が女子大だ(注2)。 大学には、女子の学生しかいない。幼稚園から小中高校、そして大学まで、独特な女子教育システムが構築されている。このような日本のシステムがわが国においても非常に重要だ。トルコも日本と同様のステップを歩むべきだ。」
(注1)総務省統計局調査で、国内の大学は780校(2017年)
(注2)武庫川女子大学教育研究所調査で、国内の女子大は77校(2017年)
日本型の女子大設立を熱く訴えたエルドアン大統領。日本のメディアではあまり大きく取り上げられていないが、トルコメディアは一斉にトップで伝えた。
アナドル通信(国営) 「トルコにも日本のように女子大が必要」
ビアネット(ウェブニュース) 「日本の女子大を参考に」
アフバルニュース(左派系) 「トルコ初の女子大設立を目指し調査を指示」
日本国内の女子大の数が減少傾向にある中で、エルドアン大統領の狙いは一体どこにあるのか?
なぜいま女子大なのか?
トルコでは1914年に国内初の女子大が設立されたが、その7年後には共学化された。その後、全ての小学校、中学校が共学化され、1973年に男女共学を基本原則とする教育法が制定された。男女別の学校はイスラム系の高校に限って存在していた。
それが、2012年を境に一変した。
エルドアン大統領(当時は首相)が世論の反対を押し切って法改正を行い、中学においてもイスラム系の学校を復活させたのだ。これにより、女子学生のみが通う中学、高校が激増し、現在に至っている。
ただ、大学について言えばいまだに全て共学で、女子大は1つも存在しない。トルコは世界でも有数の親日国と言われるだけあって、エルドアン大統領が「日本を手本に」と言うのもわからなくはないが、なぜ今、女子大なのか?その目的は何なのか?
エルドアン大統領は日本での演説で、「わが国にもかつて男女別の高校があったが、のちに共学化されてしまった。今、我々は再び秩序を回復する時期に入ったのだ」とも述べていた。ここにヒントがありそうだ。
イスラム色を増すトルコ
トルコはアタチュルク初代大統領が1923年に共和国宣言をして以来、政教分離の世俗主義を国是としてきた。しかし、エルドアン大統領は2001年に与党である公正発展党(AKP)の初代党首に就任して以来、イスラム色の濃い政策を推し進めてきた。
女性の公務員が職務中にスカーフを着用できるよう憲法を改正したり、今年に入ってからは博物館として親しまれているイスタンブールの観光名所、アヤソフィアのモスク化さえも示唆している。
世俗化する社会に対し、今こそ“念願の”女子大を新設し、より一層イスラム色を前面に出した政策を推し進める構えのように見える。こうしたエルドアン大統領の“構想”に対し、トルコのメディアは次のように伝えている。
ハベルトゥルク紙(大手紙):
・日本のような先進国に女子大があるなら、国民の9割以上がイスラム教徒のトルコで女子大が設立できないわけがないと保守層は絶賛している。
・大統領が気に入ったのは女子大だけなのか?先進国日本から学ぶことはもっと他にあったのではないか?という批判の声もある。
・日本でも女子大の需要は下がっているという。
・社会進出を重要視する女性たちは、女子大ではなく、東京大学や京都大学のような共学大学を選ぶのではないか。
キュルトゥル・セルヴィスィ紙(文化紙):
・女子大構想は笑止千万。
・大統領が参考にした日本は、社会生活において男尊女卑が顕著な国である。
・世界経済フォーラム(WEF)が発表した報告書によると、日本の男女平等ランキング(2018年)は149カ国中110位と、順位が低い国の一つ。トルコは、130位だ。
・女子大新設は完全な女性差別であり本末転倒だ。
・トルコの教育システムは近年悪化しており、いま必要なのは教育改革だ。
保守層と世俗派で意見が分かれるのは当然だが、トルコのメディアをチェックする限り、女子大新設構想には否定的な論調が多いようだ。
6月23日に実施されたイスタンブールのやり直し市長選では、エルドアン大統領率いる与党が擁立した候補が、最大野党の新人に大敗。求心力低下が叫ばれるエルドアン大統領だが、今回の女子大新設をはじめとする教育改革が今後トルコ国民にどう受け止められるのか、注目していきたい。【7月12日 FNN PRIME】
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【なぜ女子大が必要なのか?】
もちろん各女子大は、それぞれ崇高な女子教育の理念のもとに運営されているのでしょうが、しょうじなところ、これだけ性による差別をなくしていくことが重視される現代社会において、女性だけ、あるいは男性だけの教育を行う必要性がどこにあるのか、素朴な疑問を感じるのも事実です。
“日本の男女平等ランキング(2018年)は149カ国中110位と、順位が低い国の一つ。”ということの結果、かつ、原因のひとつが「女子大」の存在ではないかとも思えます。
そもそも、(トルコのように)国によっては「女子大」が存在しないことも。
アジアやアメリカには存在しますが、欧州にはないようです。
****「日本にはまだ女子大があるのか!」…驚く欧州人 ルーツや存在意義を考える ****
実践女子大学でメディア論を教える松下慶太さんをミラノ工科大学に案内した。松下さんは、1年間のサバティカル(長期休暇)でベルリンを拠点に、欧州各地でソーシャルデザインのリサーチをしている。
彼が東京の女子大に勤めていると自己紹介すると、相手の先生は怪訝な表情をする。
「女子大という存在が、日本にはまだあるのか?!」との驚きが見てとれる。そして「男性の教員もいるのか?」とかいくつかの質問を矢継ぎ早に聞かれた。
日本以外にも、韓国・中国・インド・中東・米国・英国という国々では女子大がそれなりの存在感を放っているようだが、欧州の大陸の国では「忘れられた」存在になっている。
ぼくは女子大についてほとんど知らないので、少々好奇心が芽生え、松下さんにこのあたりの事情を聞いてみた。そもそも女子大とは何か?というところから。
「大きな流れとしては、キリスト教宣教師などによって開かれた語学や、アメリカなどで見られるようなリベラルアーツを展開するもの。もうひとつは生活科学や医学・看護など実学・専門領域の教育を展開するものがあると思います」
日本であれば、東京女子、聖心女子、東洋英和、フェリス、白百合などはリベラルアーツを中心とした前者にあたる。東京女子医大や日本女子は後者となる。アジアの他国をみても、どちらの流れの大学もある。
そして、彼はこう指摘する。
「学祖の留学先などにも、結構影響されているかもしれないですね。津田梅子が津田塾大をつくり成瀬仁蔵が日本女子大を開校しましたが、彼らはアメリカから戻った後に学校をつくっていますね」
松下さんのこれまでの経験からすると、北欧はジェンダーギャップが少ないのと大学制度が比較的新しいので 、特に日本の女子大への質問が多いそうだ。他方、カナダやアメリカなどでは、女子カレッジの存在を知っているので、松下さんが女子大で教えていると説明しても、「ふーん」という反応だという。
以上から、ミラノ工科大学の先生の女子大への「あからさまともみえる好奇の目」は、欧州大陸における典型的なものだったといえる。どうもジェンダー差別撤廃への意識が高いほど、女子大という存在に戸惑うようだ。
しかし、こうした現象は日本においてもないわけではない。
実践女子大のオープンキャンパスの際、保護者などから「男子がいないということは、多様性や現実社会への対応としてどうなのか?」との質問を受けたこともあるようだ(「うちの娘はおっとりしているから女子大が安心」という親も多いが)。
松下さんは、次のように考えている。
「日本の社会や企業における男女格差などを考えると、女子大で育むリーダーシップや女子向け教育のメリットもあると思います」
「これが現実の社会だから、と(男子のリーダーシップを優先する状況を)納得させるのもなにか違いますよね」と松下さんは首をかしげる。
そもそもの前提として、女子大というカテゴリーを俎上にのせて論じる時代でもなくなったとの意識が松下さんにはある。それぞれの立ち位置や地域・学部の特色などを踏まえて考えるべきことが多い、と彼は認識している。(後略)【2018年12月7日 安西洋之氏 SankeiBiz】
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省略した部分に松下氏の女子大を含めた大学の在り方に関する持論が述べられていますが、正直なところピンときません。
むしろ、一番「だろうね・・・」と感じられるのは、“「うちの娘はおっとりしているから女子大が安心」という親も多い”という部分でしょう。
そういう現実の上にのっかって、旧態依然の「良妻賢母」を目指す女子教育を行うということであれば、現在のジェンダーフリーの流れの中で存在意義を見出すのは難しいかも。
【トランスジェンダーへの門戸を開くお茶の水女子大 「共学化に向けた議論へのパンドラの箱を開いた」とも】
ジェンダーフリーの流れということで言えば、「女子大」を代表する立ち位置にあるお茶の水女子大が昨年、「心は女性」というトランスジェンダーへの門戸を開くことを明らかにし、改めて「女子大」の意義が問われることにもなっています。
****パンドラの箱を開けた? 「心は女子」学生受け入れ決めたお茶の水女子大 「女子大の存在意義」議論の呼び水に****
国立のお茶の水女子大(東京都文京区)が全国に先駆け、平成32年度から戸籍上は男性でも自身の性別が女性と認識しているトランスジェンダー学生の受け入れ決定に踏み切った。
他大学にも波及しそうだが、施設整備や受験資格の確認など課題も残る。文部科学省内では「男女共学化議論の呼び水になりかねない」(幹部)との声もあり、減少傾向にある女子大の存在意義も改めて問われそうだ。
受験資格の確認は?
(中略)出願期間前に診断書があれば提出してもらい、自己申告の場合も今後設置する委員会で総合的に判断する方向だが、受験資格の線引きに曖昧さが残りかねない。
全国の女子大に影響
お茶の水女子大の決定は他大学の動向にも影響しそうだ。「まだ正式に決まっていないが、前向きに検討している」と話すのは国立の奈良女子大(奈良市)の担当者。29年9月に大学理事などで構成するワーキンググループを立ち上げ、問題の洗い出しを行っている。
公立では群馬県立女子大(群馬県玉村町)がお茶の水女子大の決定を受け、学内委員会で検討を開始。福岡女子大(福岡市)は「1年生全員が寮生活をするため保護者の理解などを含めクリアすべき課題は多い」(担当者)。状況把握のため他大学の情報収集に乗り出している。
女子教育を大学の理念に明確に掲げる私立でも検討は進んでおり、津田塾大(東京都小平市)、日本女子大(同文京区)、東京女子大(同杉並区)などで29年から議論している。
女子大の存在意義とは?
ピーク時には100近くあった女子大だが、定員割れに伴う学生募集強化や統廃合などを背景に共学化が相次いだ。29年度の学校基本調査では、女子大数は国立2校、公立2校を含め計76校。780ある大学の約1割にとどまる。
お茶の水女子大の記者会見では女子大の存在意義に関する質問も相次いだが、室伏学長は「共学化の議論はなかった」とし、「女性が社会で男性と同等に暮らせる状況にはなっていない。女子大の存在意義はまだまだある」と強調した。
ただ、27年には福岡女子大に入学願書を受理されなかった福岡市の男性が、不当な性差別で違憲だとして、不受理処分の取り消しなどを大学側に求め提訴したことがある。その後、訴訟継続が困難などとして取り下げられたが、公立女子大の存在意義を問うものとして注目された。
お茶の水女子大の決定について文科省幹部は「共学化に向けた議論へのパンドラの箱を開いた。今後、公金で運営される女子大の存在意義が広く問われる場面もあるのではないか」と指摘する。
元東京都国立市教育長で教育評論家の石井昌浩氏は「これだけ男女共学が進んだ時代に、女子大が存続する理由はよくわからない。この際、女子大という枠組みを問い直すべきではないか」と話している。【2018年7月25日 iZa】
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【いよいよ緊迫するトルコのロシア製「S400」導入問題】
トルコの話に戻すと、喫緊の課題が6月29日ブログ“トルコ・エルドアン大統領 S400問題、シリア、更にはリビアと問題山積、国内でも新党の動き”でも取り上げた、ロシアからのミサイル防衛システム「S400」導入をめぐるアメリカとの対立です。
****内憂外患で追い込まれたトルコ・エルドアン大統領****
トルコのエルドアン大統領の求心力の低下が囁かれている。最大の理由は、6月23日に再投票された最大都市イスタンブールの市長選で、世俗派の最大野党・共和人民党(CHP)のエクレム・イマームオール候補者が、得票率で約9ポイント、得票数で約80万票もの大差で与党候補のユルドゥルム元首相に勝利したことである。(中略)
エルドアン大統領の党内の掌握力が弱まりつつあることを示す今一つの動きが、AKP創設メンバーのババカン元首相とギュル元大統領による新党結成の動きである。既にババカン元首相筋は、今秋を目途に新党結成の可能性の高いことを明らかにしている。
エルドアン大統領は外交面でも難問に直面している。最大の課題は、ロシア製ミサイル防衛システム「S400」の導入を巡り悪化した米国との関係をいかに修復するかである。
トランプ米大統領とエルドアン大統領は6月29日、主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の開催された大阪で会談し、ロシア製ミサイルの購入に関して意見交換している。
トランプ大統領は、同会談冒頭でトルコがロシア製ミサイル・システムを導入した場合に制裁を発動するかを記者団に問われ、検討していると答えるに留めた。その上で会談後の記者会見において、トルコが同ミサイル・システム購入を決定したことに懸念を表明し、トルコに対して、北大西洋条約機構(NATO)の同盟強化につながる対米防衛協力の推進を要請していた。
他方、トルコ大統領府は同会談後、トランプ大統領は両国関係を害することなく問題の解決を図りたいとの願いを口にしていたと発表していた。
今のところ、ロシア製ミサイル・システムのトルコ導入が始まっていないこともあり、米国の制裁も発動されていない。
ただし、米国は既に6月中旬時点で、ロシア製ミサイル・システムの購入を撤回しない限り、米国の最新鋭ステルス戦闘機「F35」をトルコに納入しないと表明している。また、仮に導入となった場合に備えて3種類の制裁が検討されていることも明らかにされている。
求心力が低下するなか、内憂外患に陥ったエルドアン大統領が、次に如何なる手を打ってくるのか注目したい。【7月12日 WEDGE】
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そのロシア製「S400」の第一陣がトルコに搬入されたことが今日報じられています。
エルドアン大統領は、トランプ大統領との会談で「米政権は制裁を行わない」との感触を得たとしていますが・・・・。【7月5日 産経】 ウマが合うトランプ大統領はともかく、米政権・議会がどう判断するか・・・。
もっとも、アメリカは中国、イラン、北朝鮮、ベネズエラと制裁を振りかざす「敵」が多い中で、インドとも貿易でもめていますし、デジタル課税ではフランスとも制裁が話題にのぼることにもなっています。
更に、NATO一員でもあるトルコとも・・・となると、まわりは「敵」だらけと孤立し、お友達はイスラエル、サウジアラビア、そして日本ぐらいのものになってしまいます。
(シリア北東部のクルド人地域カーミシュリーにあるヤジディー教徒支援施設で、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」から救出された後、イラク北西部シンジャルへ向かうバスを待つヤジディー教徒の女性たち(2019年4月13日撮影)【4月29日 AFP】)
【戦時下の武器としてのレイプによる中絶も認めないトランプ米政権】
イラクの少数派ヤジディ教徒がIS(イスラム国)によってジェノサイドとも言える虐殺・暴力の対象となり、多大な犠牲を強いられたことは周知のところです。
****イラク、IS犠牲者遺体遺棄場の発掘開始 ヤジディー拠点****
イラク当局は15日、同国北部シンジャルにある、ISの犠牲になった人の多数の遺体が埋められた場所で遺体の発掘を開始した。
少数派ヤジディー教徒の拠点シンジャルはかつてイスラム過激派組織「イスラム国」に支配され、ISはヤジディー教徒を暴力行為の標的としていた。
ISから逃れてヤジディ―教徒の人権保護を訴えノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラドさんはこの日、故郷のコチョでの遺体発掘開始式典に出席した。
検死作業を支援している国連は域内初めてとなる遺体の発掘で、ISによる住民殺害の実態解明につながると見込んでいる。ISが2014年に支配下に置いたコチョでは女性を含め数百人の住民が殺害されたとみられている。
ISは2014年にイラク北部の広い範囲に勢力を拡大し、ヤジディー教徒を標的にしてシリア国境に近いヤジディ―教徒の拠点シンジャルを掌握した。
ISの戦闘員はヤジディ―教徒の男性と少年数千人を殺害した後、女性や少女を拉致し「性奴隷」として虐待した。ヤジディー教徒はクルド語を話しその信仰はゾロアスター教にルーツを持つが、ISは彼らを「背教者」とみなしている。
国連はこれまでISの行為がジェノサイド(大量虐殺)に匹敵し得るとの見方を示しており、現在、イラク各地でのISの残虐行為について調査を進めている。
国連調査団を率いるカリム・カーン氏は、多数の遺体の埋められた場所はこれまでシンジャルのみで73か所見つかっていることから、今回の遺体発掘で調査が「重要局面」を迎えたとの考えを示した。
カリム氏は「説明責任を果たすまでの道のりは長く、前途に多くの課題がある」とした上で「こうした状況にもかかわらず、生き残った人々の共同体とイラク政府の協力の精神は称賛されるべきだ」と強調した。 【3月18日 AFP】*****************
上記記事にもあるように、特に女性の場合は「性奴隷」として性的暴力の対象となり、単に当時の虐待だけでなく、ISが去った後においても、レイプ者の子供を妊娠しているといった深刻な問題に直面しています。
ISによる性暴力という過酷な試練を経験したノーベル平和賞受賞者ナディア・ムラドさんは、紛争下の性暴力加害者の責任追及を国連安保理で求めました。
****紛争下の性暴力、責任追及を=ノーベル賞のムラドさんら-国連安保理****
過激派組織「イスラム国」(IS)によるイラクの少数派ヤジディ教徒に対する性暴力告発者ナディア・ムラドさんと、戦時下の性暴力撲滅に取り組むコンゴ(旧ザイール)の医師デニ・ムクウェゲ氏のノーベル平和賞受賞者2人が23日、米ニューヨークの国連安保理で演説し、紛争下における性暴力加害者の責任追及を強く求めた。
ムラドさんは「これまでにヤジディ教徒を性奴隷にした罪で裁判にかけられた人はいない」と述べ、IS戦闘員を裁く特別法廷の設置を訴えた。
ムクウェゲ氏も「裁きなしに被害者(の傷)は完全には癒えない」と、被害者の補償や加害者の責任追及に向けた基金設立への協力を呼び掛けた。【4月24日 時事】
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ムラドさんが参加した国連安保理では、戦時下における性暴力の絶滅を目指す安全保障理事会決議が可決されましたが、アメリカ・トランプ政権の反対によって「性に関する医療」、つまり、レイプ加害者の子供を妊娠した際の中絶のための医療提供が文言から削除されるというかたちで、“内容を薄めた”可決ともなりました。
****性暴力を非難する国連決議、米トランプ政権が中身薄める****
妊娠中絶への反対姿勢を示している米トランプ政権の影響が、国連決議に及んでいる。戦時下における性暴力の絶滅を目指す安全保障理事会決議が23日、内容を薄められて可決された。
この決議は、戦時下でレイプが武器となっていることを非難するとともに、紛争地域における性暴力問題への取り組みが進んでいない状況について、安保理として懸念を示す内容。ドイツが提出した。
当初の決議案では、戦争で性暴力を受けた女性たちが提供されるべき医療サービスとして、「性と生殖に関わるもの、心理社会的なもの、法的なもの、そして生活支援に関するもの」となっていた。
「妊娠中絶を暗示している」
しかしこれは後に、「性暴力を生き延びた人たちを速やかに支援することが重要であり、安保理決議2106に沿って、国連の関連組織や支援者たちに、差別のない包括的な医療サービスを提供するよう求める」に変更された。そして最終的には、この部分が丸ごと決議案から削除された。
これは米政府の意見を取り込んだためで、トランプ政権は「性と生殖に関わる医療」が妊娠中絶を暗示していると、この表現に反対していた。
アメリカ、中国、ロシアが反対
国連安保理事会では、早期の決議案にアメリカと中国、ロシアが反対。拒否権の行使もちらつかせた。最終的に、修正された決議案が賛成13、反対ゼロで可決された(中国とロシアは棄権)。
フランスのフランソワ・ドラトル国連大使は、性に関する医療についての文言が消されたのは女性の尊厳を損なうものだとして怒りをあらわにし、こう述べた。
「紛争において性暴力を受け、明らかに妊娠を望んだわけではない女性や少女は、妊娠を終わらせる権利を持つべきだ。安保理がそのように認められないなど、まったく容認できないし、理解できない」
ノーベル平和賞受賞者たちも支持したが
決議案の草案に対しては、幅広い層から支持する声が出ていた。
人権弁護士のアマル・クルーニー氏は23日の安保理事会に出席。「これが皆さんのニュルンベルク裁判(ナチス・ドイツによる戦争犯罪を裁いた国際軍事裁判)の瞬間だ」、「歴史において正しい側に立つ機会だ」と訴え、理事国に賛成票を投じるよう求めていた。
2018年にノーベル平和賞を受けたコンゴの産婦人科医デニ・ムクウェゲ医師と、イスラム国(IS)兵士たちに強姦されたイラクのヤジディ教徒ナディア・ムラド氏も、安保理に出席し、決議案への支持を表明していた。
活動家のアンジェリーナ・ジョリー氏は連名で、4月22日付の米紙ワシントン・ポストに、決議を支持する意見記事を寄稿していた。
イギリスの最大野党・労働党のエミリー・ソーンベリー影の外相は、「戦争でレイプを武器とすることに反対する国連決議に対し、ドナルド・トランプ米大統領が拒否権を発動すると脅したのと同じ日に、トランプ氏をイギリスに迎えて賞賛する計画をテリーザ・メイ英首相が進めているのは信じられない」と批判した。【4月24日 BBC】
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人工中絶に関してはアメリカ国内では世論を二分して激しい議論となる問題で、日本では考えられないような激しい示威行為なども行われ、トランプ・反トランプを分ける境界線のひとつともなっていますので、トランプ政権が反対したというのは“政治的には”分かります。
分かりますが、平時とは異なる戦時下において武器としてのレイプの被害者となった女性への配慮があってしかるべきではないかという憤りも感じます。
【IS戦闘員の子供の共同体受入れを拒否する宗教指導者】
性奴隷とされたヤジディ教徒女性がIS戦闘員の子供を宿し、ヤジディ教徒社会からも拒まれ、行き場を失ってしまうという問題は、2月7日ブログ“シリア・イラク IS崩壊でも癒えないヤジディー教徒女性の悲劇”でも取り上げました。
****IS戦闘員の子を宿したヤジディ女性の選択 ****
イスラム国が残した余波、行き場ない母子の苦悩
ニスリーンさん(23)が赤ん坊の顔をのぞき込むと、たまに父親の面影に気づくときがある。彼女をレイプした過激派組織「イスラム国(IS)」の戦闘員のことだ。
ISはイラク北部で勢力を拡大した当時、この地に住む少数派ヤジディ教徒の女性たちを奴隷にした。彼女もその一人だった。
ISは2014年夏、大量虐殺作戦でヤジディ教徒に標的を定めた。ニスリーンさんはこのとき他の数千人の女性とともにISに捕まった。それ以降、彼女を「所有」した3人目の戦闘員の子をみごもった。
3年間とらわれの身だったニスリーンさんは、ISが崩壊状態に陥った昨年ようやく解放された。だが故郷や家族は、ニスリーンさんを子供と一緒に受け入れることを拒否した。
ヤジディ教徒の社会ではイスラム教徒との結婚を禁じており、戦闘員との強制的な結婚によって生まれた子供を認めることはできない。そこに戻りたければ、赤ん坊を諦めるしかないのだ。
ニスリーンさんは子供を選んだ。膝の上で生後8カ月となる子供をあやしながら、「息子と離れては生きていけない」と語る。自分と子供の身の安全を考え、フルネームを明かさないことを希望した。
ニスリーンさんが陥った悲痛なジレンマは、イラク社会が和解を進める上での課題を物語っている。ISはかつて制圧した地域のほぼ全てからすでに敗走した。だがISがずたずたに引き裂いた社会の構造を修復するには、はるかに長い時間が必要だろう。(中略)
ISの奴隷にされた余波で、極めて閉鎖的で保守的なヤジディの社会では、最も基本的な原則の一部が揺らいでいる。
捕虜だった女性が解放され始めると、ヤジディの宗教指導者は、イスラム教徒によるレイプは結婚に関する原則に反するが、伝統を捨て、温かく迎え入れるよう指示した。
IS戦闘員を父親に持つことで複雑な問題が持ち上がる。ヤジディ教では両親がともにヤジディ教の信者でなくては子供を信者とは認められない。「われわれは純粋な血を守っている」。ヤジディ教の聖地、ラリッシュの管理者はこう話す。
奴隷だったヤジディ女性の多くは避妊薬を与えられたが、それでも一部の妊娠は避けがたかった。イラクおよびクルド人自治区の当局者は、何人の子供が生まれたかは不明だと話す。支援活動家らの話では、数百人とはいかなくても数十人以上はいるという。
選択を迫られた女性の大半は子供を手放し、中には諦めるよう強要された女性もいると当局者やヤジディの活動家は語る。赤ん坊は支援グループなどの手を借り、シリアやイラクの児童養護施設に収容されたり、イスラム教徒やキリスト教徒の家庭に引き取られたりした。
ニスリーンさんの場合、(中略)妊娠が目につくようになると、親族は堕胎のために病院に連れて行った。既に妊娠8カ月に入っており、医師は中絶手術は危険だと告げた。
やがて健康な男の子が生まれた。ニスリーンさんの母親は子供を手放すよう促したが、彼女は拒否した。長老たちも説得しようとしたが無駄だった。そこで親族は子供を連れて家に戻るよう告げたが、彼女はそれも断った。
結局、ニスリーンさんはイラク北部ドホークにあるシェルターに住むことにした。ISから救出された母親たちの支援活動を行う米オレゴン州出身のポール・キンガリー博士が運営する施設だ。
そこで再定住の申請をした。難民として欧米のある国に受け入れが決まった後、「息子には良い生活を送らせたい」とニスリーンさんは語った。その国では同郷者の再定住が進められているという。
ニスリーンさんは自分の子供をヤジディ教徒として育てるかどうかまだ決めていない。「心の命じるままに従いたい」【2018 年 8 月 27 日 WSJ】
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性奴隷だったときの子供のヤジディ共同体への受け入れを認めないという対応については、先週、宗教権威である最高評議会議長の前向き対応ともとれる発言があり期待されていましたが、結局、従来方針は変わりませんでした。
****ISのレイプで生まれた子、ヤジディー共同体への受け入れ認めず 宗教評議会****
イラクの少数派ヤジディー教の宗教指導者による最高評議会は27日夜、教徒の女性がイスラム過激派組織「イスラム国」の戦闘員にレイプされた結果生まれた子どもたちについて、共同体への受け入れは認めないとの見解を表明した。
ヤジディー教徒は、かつてイラク北西部の山岳地帯にある都市シンジャル周辺に約50万人が暮らしていた。しかし、2014年にシンジャルへ侵攻したISは、略奪や破壊の限りを尽くした。ヤジディー教徒の男性は殺害され、男児は強制的に戦闘員にされ、数千人の女性たちは性奴隷として拉致・監禁された。
閉鎖的なヤジディー教徒の共同体では、両親ともヤジディー教徒の場合にのみ生まれた子どもを共同体の一員として受け入れる慣習がある。このため、ISにレイプされたヤジディー女性が産んだ子どもの扱いをめぐって、激論が交わされてきた。
先週、最高評議会のハゼム・タフシン・サイード議長は「(ISによる犯罪を)生き延びた者、全員を受け入れる。彼らが経験した苦難は、彼ら自身の意思に反していたとみなす」との宗教令を発し、画期的な方針転換だと受け止められた。
ヤジディー教徒の人権活動家らは、ISのレイプで生まれた子どもたちも今後はヤジディー教徒の親族に囲まれて暮らせるようになると解釈し、「歴史的だ」と最高評議会の決定を称賛した。
だが、最高評議会は27日夜の声明で、宗教令について「レイプの結果生まれた子どもは含まない。ヤジディー教徒の両親の間に生まれた子どもについて述べたものだ」と明言した。
ヤジディー教徒の共同体では従来、教徒以外と結婚した女性はヤジディー教徒ではなくなると考えられてきた。2014年のIS侵攻でレイプ被害にあった女性たちも当初、ヤジディー教徒ではなくなったとみなされたが、翌15年にヤジディー教の宗教指導者ババ・シェイク師が、被害女性らの帰郷を歓迎すると決定した経緯がある。
ただ、このときはレイプによって生まれた子どもたちの問題は解決されなかった。そのためIS戦闘員の子どもを産んだ女性たちは、ヤジディー教徒の親族たちとの絶縁状態を受け入れるか、わが子を手放すかという困難な選択に直面している。
イラクでは子どもは国籍と宗教の宗派を父親から受け継ぐ。父親がIS戦闘員とみられ、行方不明だったり死亡したりしている場合、父親の身元を確認できないため子どもが無国籍状態になる恐れがある。 【4月29日 AFP】
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中絶もできず、出産すれば子供は共同体参加を拒否される・・・被害者女性はどこで生きていけばいいのか?
アメリカ・トランプ政権も、ヤジディ教宗教指導者も、自分たちの価値観・伝統を維持することだけに関心が向けられ、最も救いを必要とするレイプ被害者女性に寄り添う心が感じられないのは残念であり、腹立たしいことです。