孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン  フーシ派の相互攻撃停止提案 サウジの部分停戦合意報道も 一方でフーシ派「大戦果」公表

2019-09-30 23:39:47 | 中東情勢

(サウジアラビア南部ナジュランで、イエメンの反政府武装組織フーシ派が8月に拘束した暫定政権側の捕虜とされる画像。フーシ派傘下のアンサルラ・メディアセンターが公開した映像より(2019929日公開)【930日 AFP】 

フーシ派は「サウジ兵」と呼んでいるようですが、画像を見る限り、「サウジ兵」とか「暫定政府軍兵士」というより、そこらの部族民兵寄せ集めという雰囲気です。)

 

【フーシ派 ひと月前の「大戦果」を発表 その意図は?】

サウジアラビア石油施設攻撃で犯行声明を出して注目されている(あるいは、「そんな実力はない」とこけにされている言うべきか)、イエメンの反政府勢力「フーシ派」が、「サウジ兵を大量に捕虜にした」ことを公表しています。

 

****イエメンのフーシ派、「サウジ兵大量拘束」主張 捕虜の画像公開***

イエメンとサウジアラビアの国境付近で先月、イエメン暫定政権側の軍がイスラム教シーア派の反政府武装組織フーシ派の攻勢を受け、兵士ら200人余りが死亡、1000人以上が捕虜となったことが分かった。暫定政権筋とフーシ派が29日、明らかにした。

 

イランの支援を受けてサウジアラビア主導の連合軍と戦うフーシ派は、サウジ兵を大量に拘束したと主張している。ただ、29日のフーシ派の記者会見では、この主張を裏付ける十分な証拠は示されなかった。

 

フーシ派のヤヒヤ・サリー報道官は、825日から3日間にわたって「大規模な」作戦が行われたと発表。サウジアラビア南部ナジュラン付近での攻撃を撮影したとする写真を公開した。

 

フーシ派によると、ミサイルや無人機を用いた攻撃を十数回行い、政権側の兵士ら200人以上を殺害したという。サリー報道官はまた、「捕虜2000人以上を拘束した」と主張。大半はイエメン人だが、他の国籍も含まれていると説明したが、詳細は明らかにしなかった。

 

一方、イエメン暫定政権の情報筋は、この攻撃で約200人が死亡したことをAFPに認めた。ただ、拘束された人数はフーシ派の発表より少ない「約1300人」で、うち280人は負傷者だとしている。

 

この情報筋によれば、暫定政権軍はイエメン北部のフーシ派拠点サーダで4日間にわたりフーシ派に包囲されていたという。

 

サウジ主導の連合軍は現在のところ、サウジ兵を拘束したとするフーシ派の主張について公式にコメントしていない。 【930日 AFP】

**********************

 

「サウジ兵」とは言っても、サウジアラビアは空爆中心で地上軍は派遣していませんので(全くかどうかは知りませんが)、「サウジが主導するイエメン人の部族兵士および傭兵部隊」ということでしょう。

 

そうであるにしても、また、2000人以上だか1300人だかは定かでないしても、相当なフーシ派側の「成果」にもなります。

 

フーシ派の軍報道官は、“この作戦は8月25日から始まったが、その数ヵ月前から綿密に偵察されてきたもので、サウディのイエメンへの軍事介入以来、最大の待ち伏せ攻撃であったとした”【930日 「中東の窓」】とのことです。

 

サウジ側の公的なコメントはまだなく、イエメン暫定政府は、公開された写真は昔のフーシ派の失敗した作戦のものをねつ造したものであるとして、フーシ派の「大戦果」を否定しているなど、詳細は明らかではありません。【930日 「中東の窓」より】


そのうえで、上記【930日 「中東の窓」】は以下のようにも評しています。

 

****hothy軍の大戦果?(サウディ南部)****

(中略)内戦を通じて、hothy軍(フーシ派)が、かってはゲリラ兵中心の民兵組織であったのが、イラン供与の弾道ミサイルやドローンを使用する近代軍に変身した模様だが、さらにこの作戦で、これら「空軍部隊」に加え、対空部隊、さらに広範な地域を包囲占領できるだけの訓練された地上部隊を擁する近代的な軍に変身した可能性が高い。

 

これに対して、政府軍の方は、一部の元イエメン正規軍の合流にもかかわらず、近代的な正規軍としては発展できずに、各種民兵(報道では「抵抗組織」と称されている)の寄せ集めの軍隊になりつつある模様。(後略)

******************

 

注意する必要があるのは、この「サウジ兵大量拘束」は8月末の衝突であること。

 

なぜ今になってひと月前の「戦果」を公表しているのか?

よくわかりません。

 

サウジ石油施設攻撃について、犯行声明を出しているにもかかわらず“信じてもらえない”ことに立腹したのか?

あるいは、下記の現状に関係しているのか?

 

【停戦に向けた動き フーシ派の攻撃停止発表 サウジの部分停戦合意報道】

上記の(ひと月前の)フーシ派大戦果公表にもかかわらず、あるいは、サウジ石油施設攻撃にもかかわらず、イエメン内戦については「停戦」に向けた動きが出ています。

 

****イエメン反政府組織、サウジ攻撃停止を表明****

イエメンのイスラム教シーア派系の反政府武装組織フーシ派は20日夜、サウジアラビアへの攻撃を全面的に停止する意向を表明した。同国で続く内戦の終結を目指した措置としている。

 

フーシ派の最高政治評議会のメフディ・マシャト議長は、2014年の首都サヌアの掌握を記念する演説で「サウジアラビアの領土に対するすべての攻撃の停止」を表明した。

 

フーシ派傘下のテレビ局アルマシラによると、同議長はサウジ側がこの措置に対して「より強固な措置で応じる」ことを望んでいると述べた。(後略)【921日 AFP】

*****************

 

フーシ派の攻撃停止提案は、サウジ主導の連合軍が同様の措置を取ることが条件とされています。【921日 ロイターより】

 

石油施設攻撃をきっかけに報復的に戦火が拡大するのを危惧して、「火消」に向かっているのでしょうか?

 

紛争拡大を望んでいないのは、イエメン内戦の“泥沼”にはまり、更に石油施設攻撃でイランとの戦争の危険性も出てきたサウジ側も同じでしょう。

 

****サウジ、イエメンでの部分的停戦に合意=関係者****

サウジアラビアはイエメンでの部分的停戦に合意した。事情に詳しい関係者が明らかにした。サウジは同国で、親イランの反政府武装組織「フーシ派」との戦闘を続けている。

 

サウジの決定は、フーシ派が先週イエメンでの一方的停戦を宣言したことを受けた。その直前にフーシ派は、914日にドローン(無人機)や巡航ミサイルを使って行われたサウジの石油施設へ攻撃を巡り、犯行を認める声明を出していた。

 

ただ、サウジ、米国、欧州の政府関係者はフーシ派の犯行声明を信じておらず、イランの役割を隠すための試みだったとみている。

 

石油施設攻撃の後、フーシ派内ではイランから距離を置くべきだとするグループと、イランとの関係強化を望むグループの間で溝が深まった。

 

匿名のサウジ関係者2人によると、フーシ派指導部の一部では、石油施設攻撃の責任を非公式には否定する向きもある。

 

また、関係者によるとフーシ派は外国の外交官に対し、イランがさらなる攻撃を準備していると語った。

 

フーシ派によるイエメンでの一方的停戦宣言を受け、サウジはイエメンの首都サヌアなど4地域での限定的な停戦に合意した。

 

関係者によると、これらの地域で相互に停戦が守られた場合、サウジは停戦をイエメンの他の地域に広げることを検討する。【927日 WSJ】

********************

 

この部分停戦合意の動きと、前出のフーシ派「大戦果」公表がどのように関係するのか? 停戦にどう影響するのか? フーシ派内部の対立が関係しているのか?・・・わかりません。

 

順序的には、停戦合意報道が先で、フーシ派「大戦果」公表が後です。

 

【イラン フーシ派攻撃停止を歓迎 サウジ側の部分停戦合意には触れず】

イランは、920日のイエメン側の相互攻撃停止提案を歓迎して、サウジもこれに応じるべき・・・と、29日に発表しています。

 

****イランが、イエメン救国政府の停戦案を歓迎****

 

イラン外務省のムーサヴィー報道官が、イエメン救国政府による提案、ーサウジアラビア主導アラブ連合軍のイエメン攻撃の停止に対し、サウジアラビアへの無人機・ミサイル攻撃を停止するーを歓迎し、「これは地域における安定と安全の確立に根ざしたものだ」と語りました。

 

イルナー通信によりますと、ムーサヴィー報道官は29日日曜、イエメン政府による停戦案に関して、「この提案が世界規模で歓迎される中、遺憾ながらサウジアラビアは依然として戦闘行為を追求し、イエメン各地への爆撃を継続している」と非難しました。

 

また、「イランはサウジ政府に対し、この提案受諾を勧告する」とし、「イランはイエメン国民に対する圧政的な戦争の終結、並びに停戦確立に向けた全ての措置を支持する。これは地域の平和と安定の実現に向けた重要な一歩と考える」と述べました。

 

イエメン政治高等評議会のマフディー・アルマシャート議長は今月20日、条件付の停戦を発表するとともに、アラブ連合軍に停戦を呼びかけ、サウジはこの停戦の機会を活かすべきだと促しました。

 

ただ、一方のアラブ連合軍はイエメン側の提案を無視し、イエメン各地への攻撃を続行しています。

 

サウジアラビアは、アメリカやアラブ首長国連邦など複数の国の支援を受け、2015年3月からイエメンを軍事攻撃し、全面的に封鎖しています。

 

この戦争で、イエメンではこれまでに1万6000人が死亡、数万人が負傷、数百万人が難民となっています。【930日 ParsToday

********************

 

920日のフーシ派側のサウジ攻撃停止提案と、上記29日イランの「フーシ派の停戦提案歓迎」の間に、前出の“サウジアラビアはイエメンでの部分的停戦に合意した”というWSJ報道があるのですが、イラン側発表では「サウジアラビアは依然として戦闘行為を追求し、イエメン各地への爆撃を継続している」として停戦に触れられていません。

 

このあたりの事情もわかりません。

サウジ側の停戦合意というのは内部検討段階に過ぎないということでしょうか?(原油市場は「停戦合意」にすでに反応しています。)

 

そうなると、冒頭のフーシ派「大戦果」発表が、今後のサウジ側の反応に影響する可能性もありますが・・・どうなんでしょうか?

 

コメント

「貧者の兵器」ドローンが秘める紛争の形を変える可能性 ドローン対応で「超後進国」日本

2019-09-29 22:39:28 | 国際情勢

(中国の戦闘用水陸両用ドローン「ウミイグアナ」【9月29日 GLOBE+】)

 

【サウジ石油施設攻撃で明らかになった「貧者の兵器」ドローンの有用性】

イランだか、イエメン・フーシ派だか、あるいはそれ以外の者によるもだかはわかりませんが、サウジアラビアの石油施設が攻撃を受けた件は、アメリカとイランの核合意をめぐる対立あるいは交渉に多大な影響をもたらし、両国関係の行方は混迷を極めています。

 

そうした国際政治に与えたインパクトもさることながら、この攻撃は軍事技術でのインパクトもあったようです。

 

****サウジ石油施設攻撃で判った爆撃用ドローンの破壊力****

9月14日未明に、サウジアラムコ(国営石油会社)のアブカイクとクライスの施設計19カ所が爆撃され、サウジアラビアはパニックに陥った。

 

この事件は、日本では「よくある政情不安の中東の一事件」として、簡単に報じられた。だが私は、もしかしたら歴史に残る「大事」になるかもしれないと、心底懸念している。

 

「米国かサウジがイランを攻撃してきたら全面戦争しかない」

事件直後、イランがバックアップするイエメンのフーシ派が犯行声明を発表した。ところが、サウジアラビア国防省は9月18日、イランの巡航ミサイル7機とドローン18機による犯行だったと主張。

 

急遽、サウジアラビアを訪問したマイク・ポンペオ米国務長官も同日、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子と会談後、「イランの犯行」と断定した。

 

これに対し19日、イランのジャバド・ザリフ外相は、米CNNに出演し、「事件には一切加担していない」と完全否定。「アメリカかサウジアラビアがイランを攻撃した場合は、全面戦争となる他はない」と警告した。(中略)

 

私がこの事件で注視したのは、果たしてイランの犯行か、そうではないかという部分ではない。それとはまったく異なる二つのことである。

 

1万5000ドルの兵器が最新鋭パトリオットの防空網をやすやすと突破した事実

第一は、「真犯人」さえ分からない弱小の武器によって、今年年末に日本からバトンタッチされてG20(主要国・地域)の議長国になるような国家を揺るがすことが可能になったという事実である。

 

CNNを見ていたら、専門家の解説で、1万5000ドルくらいあれば、あの程度のドローン兵器は作れてしまうと言っていた。

 

2017年5月、就任して4カ月後、トランプ大統領は初の外遊先に、サウジアラビアを選んだ。それは同国が、2カ国間の武器売買契約としては史上最高額の計1100億ドルもの武器を、アメリカに発注してくれたからだ。ムハンマド皇太子とがっちり握手を交わしたトランプ大統領は、「アメリカはサウジアラビアと共にある」と、得意満面で述べた。

 

これによって、サウジアラビアは88基のパトリオット・ミサイルを配備した。うち52基が最新型だった。

 

ところが、わずか1万5000ドルの武器が、1100億ドルの備えをする国を、いとも簡単に突き破ってしまったのである。これこそまさに、人類の戦争史に残る「兵器革命」ではないか。しかも、「真犯人」がどこの国の誰かも知れない「匿名性」を保っているので、攻撃する側としては、報復されるリスクも減らせる。

 

今後、似たような犯行が次々に起こるリスクを、世界中が覚悟しておかねばならないだろう。

 

2020年東京五輪の警備は万全なのか

例えば、日本の安倍晋三政権を嫌悪する「個人」もしくは「グループ」がいたとする。その個人もしくはグループは、日本人であっても外国人であっても構わない。

 

その個人もしくはグループが、どこかから「ドローン爆弾」を飛ばして、東京永田町の首相官邸を狙ったらどうなるだろうか? もしくは、今回のように18機も同時に飛ばしたなら、東京の主要拠点は軒並み狙えてしまう。しかも、犯人はA国だかB国だかC氏だか、分からないのだ。

 

そんな事態が起こったら、日本がアメリカから買った高価な防衛ミサイル「PAC3」など無力だ。秋田と山口に配備する、しないと言って揉めている3000億円もの「イージス・アショア」も同様だ。

 

つまり、世界の安全保障は、これまでとはまったく異なるステージに入ったのである。今後、AI(人工知能)が発達していけば、「ドローン爆弾」は、ますますスピードと飛距離、そして精度を増すだろうから、ほとんど防御不能になっていく。

 

極言すれば、「悪意のある個人」が、日本の中枢に壊滅的打撃を与えることができる時代の到来である。かつ、その悪者は逮捕されないかもしれないので、その気になれば何度だって犯行を重ねられる。差し当たっては、来年夏の東京五輪の警備を、根本から変えねばならなくなるかもしれない。

 

この事件で私が思った二つ目は、中東の混乱は今後、ますます混迷の度合いを深めていくだろうということだ。そしてそれによって、日本は間接的に苦境に陥るかもしれないということだ。(中略)

 

だが、国連総会を舞台にしたアメリカとイランの「バトル合戦」は、何の成果も生み出さないだろう。国連総会で本当に話し合うべきは、「核の脅威」と同様、「ドローンの脅威」をいかになくすかということだ。【9月22日 近藤 大介氏 JBpress】

**********************

 

下記記事も、ドローンのもたらす軍事的「厄介さ」「脅威」を同様に指摘しています。

 

****ドローン攻撃はパンドラの箱? 対応は厄介、「開戦の口実」にも****

(中略)小型のドローンでもGPSを使い、片道飛行なら数百キロの飛行が可能だ。低空飛行する小さい物体はレーダーで探知しにくく、対空ミサイルや戦闘機で撃墜は困難、夜間なら機関銃も役に立たない。

 

搭載する爆弾は小さいが、弾薬庫や石油タンクなどに命中すれば被害は大きく、ゲリラと戦う正規軍には悩みのタネだ。

一方、大国側は無人機を撃墜されても人的損害はないから、他国の領空や境界付近で偵察を行い、撃墜されれば開戦の口実にすることも起こりうる。

 

厄介な武器である軍用ドローン開発を先導したイスラエルと米国は、パンドラの箱を開けた形だ。【9月25日 田岡俊次氏 AERAdot.】
*********************

 

特に注目されるのは、「貧者の兵器」とも呼ばれる「格安」のドローンが、巨額の費用で構築されるミサイル防衛網を突破したことです。

 

これによって、今後の戦争の形が変わることもありえます。

 

****「貧者の兵器」、変える紛争 サウジ攻撃2週間****

(中略)費用の安さから「貧者の兵器」と呼ばれるこのドローンが紛争の形を変えつつある。

 

(中略)ピーター・ブルックス元米国防次官補代理は、「精密誘導のために衛星からの信号を受ける装置などを搭載していた可能性がある」と指摘する。

 

イエメンの反政府武装組織フーシが「10機のドローンで攻撃した」との声明を発表。だが、米国は攻撃を受けた方角などからイエメンではなく、イラン方向からの攻撃と主張している。

 

 ■イラン製、高性能

英NGO「ドローン・ウォーズ・UK」が公表した昨年の報告書によると、ドローンは米国とイスラエルが2000年代初頭から10年以上、開発で独走してきた。

 

それが今、中国やイランなどの国家のほか、フーシといった非国家勢力が「第2世代」として登場している。

 

イランは、12年に初めてミサイルを搭載できる軍用ドローンの存在が明らかになり、翌年には量産を開始。フーシなど複数の武装組織がイラン製ドローンを手にしたという。

 

主力機種の翼長は5メートルほどとみられる。北海道大学の鈴木一人教授によると、イランの軍用ドローンは10年代に飛躍的に性能が向上。1千キロ以上離れたイエメンからの攻撃も、「最新のイラン製ならば技術的に不可能ではない」と言う。

 

また、鈴木教授は「イランが自国開発のモデルにしたのは米国の技術だ」と指摘。01年に始まったアフガン戦争で、イランは墜落した米国のドローンを回収して技術を採り入れたという。

 

一方、精密攻撃のためには通信衛星が必要だが、イランは自前の衛星を持っていない。仮にイランやフーシの犯行ならば他国の衛星を使った可能性がある。

 

鈴木教授はドローンの機体に飛行経路のデータが保存されている可能性はあるとしつつ、「残骸を見る限りではデータを回収するのは難しそうだ」と指摘する。

 

 ■小型、防衛は困難

ドローンにはパイロットはおらず、厳しい訓練は必要ない。小型の機体ならコストも低い一方、これを防ぐのは容易ではない。

 

ロイター通信などによると、安価なドローンであれば1機1千ドル(約11万円)程度だが、迎撃のためにパトリオットミサイルを1発使えば、約300万ドル(約3億2千万円)がかかる。

 

サウジはこれまで、巨費を投じて米国などから防空システムを導入し、フーシが発射した弾道ミサイルドローンを撃ち落としてきた。だが、石油施設への攻撃を許したことで、防空態勢の再構築が喫緊の課題となった。

 

サウジの防空システムは主に高高度から高速で落ちてくる弾道ミサイルの迎撃を想定。だが、今回使われたとされるドローンや巡航ミサイルは比較的に低空低速で飛行するなどの特徴があり、レーダー検知が難しい側面がある。

 

米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長は、「今回のような脅威は一つのシステムだけでは防げない。重層的な防衛能力があれば、多くの無人機が飛来するリスクを減らせる」と指摘した。【9月29日 朝日】

*******************

 

【イエメンはすでに「ドローン戦争」へ】

ちなみに、イエメン・フーシ派がドローンを使うのは今に始まった話ではなく、最近はドローン攻撃に重点を置くようになっており、イエメンの紛争はすでに「ドローン戦争」の様相を呈していました。

 

****「ドローン戦争」本格化、中東の武装勢力が能力拡大****

容易に入手できるテクノロジーにより、米国とペルシャ湾岸地域の同盟国は新たな危機に直面している。

イエメンの反政府武装勢力「フーシ派」が攻撃に使用している軍用ドローンは、米国や同盟国が公式に認めているよりはるかに精度が高く、到達範囲が広いことが関係者の話で分かった。

 

昨年7月、サウジアラビアの首都リヤド郊外にある国営石油会社サウジアラムコの石油精製所がフーシ派のドローンによる攻撃を受けた。同社幹部と湾岸国の政府関係者が明らかにした。

 

また関係者によると、同じ月にフーシ派のドローンがアラブ首長国連邦(UAE)の防衛システムをかいくぐり、アブダビの国際空港で爆発した。(中略)

 

サウジ政府の推計では、サウジが撃退したフーシ派のドローン攻撃はこれまでに140回を超える。フーシ派は当初はプロペラ駆動式の偵察用小型ドローンを飛ばしていたが、すぐにより大型の飛行機型ドローンを使うようになった(国連調査団はこの大型モデルにUAV-Xという呼称をつけた)。

 

国連によると、大型ドローンは時速150マイル(約241キロ)で900マイル以上の飛行が可能だ。サウジとUAEの首都を含む湾岸地域のほとんどが到達範囲に入る。

 

フーシ派のドローンが急速に進歩したことについて、サウジ政府関係者とトランプ政権はイランの関与を主張している。ただ一部の米政府関係者は直接的な支援については疑問を呈している。イランはこれらの疑惑を否定している。(中略)

 

政府関係者やアナリストによると、簡単に武器に転用できる市販のドローンテクノロジーは対策が難しく、世界各地の紛争を一変させる可能性を秘めている潜在力があることをこれらのドローン攻撃が示しているという。(中略)

 

国連の調査官によると、フーシ派のドローンの内部には米国や中国、ドイツ、日本で製造されたモーターが発見されている。(中略)

 

ドローン攻撃が増加する一方で、フーシ派による弾道ミサイル攻撃が成功する回数は減りつつある。(中略)サウジ政府関係者によると、最近ではミサイルよりドローンを撃墜することが多いという。

 

米国はサウジやUAE、オマーンと緊密に連携して弾道ミサイル密輸ルートの封鎖に動いており、比較的安価で市販の部品で作れるドローンはフーシ派にとってミサイルに代わる兵器となっている。(後略)【5月6日 WSJ】

*******************

 

今回事件の直近では、8月17日にフーシ派がサウジアラビア東部の油田に対してドローン攻撃を行い、油田内の天然ガス施設が出火しています。

 

同油田はフーシ派が掌握するイエメン北西部の地域から1000キロ以上離れており、アラブ首長国連邦(UAE)との国境に近いとのこと。

 

これらを考えると、「フーシ派に今回のような大規模・精密な攻撃は行えない」とも一概には言えないようにも思われます。

 

【ドローン先進国の中国 「超後進国」の日本】

ドローンが戦争の形をかえようとしている今、日本の対応は?と言えば、「超後進国」と非常に遅れているようです。

 

****サウジ石油施設攻撃で注目集める軍事ドローン 突出する中国、日本は「超後進国」****

(中略)

ドローン先進国の中国

(中略)攻撃主体がフーシであれイランであれ、兵器としては安価といえるドローンは、アメリカ軍や高額なアメリカ製装備で身を固めた同盟国への非対称戦で極めて有効なことが今回、示された。(中略)

 

ドローンは軍用のみならず、民間機部門でも輸出産業として極めて有望なため、中国では官民挙げて膨大な数の企業体(多くがベンチャー企業)が各種開発に取り組んでいる。ドローンメーカーの数ではアメリカをしのぎ、今や軍用ドローンの種類や生産量では世界一と考えて差し支えない。

 

中国軍が保有するドローンに関する正確なデータは明らかにされていないものの、これまでのところ米軍情報機関などが発表しているだけでも中国軍が採用したドローンは、固定翼機とヘリコプターを含めて20種類前後に上る。うち、8種類は既に運用中で、確認されているだけでも1000機以上は実戦配備されているもようだ。中には、中国空軍ならびに中国海軍のドローン運用数はすでに6000機を超えていると分析する専門家もいるほどだ。

 

水陸両用の無人装甲車も

中国軍は無人潜水艇や無人水上艦などの開発も着実に進めている。さらには、かつてアメリカ海兵隊などでもアイデアが出たものの実現には至らなかった無人水陸両用装甲車まで手にしつつある。(中略)

 

信じられないほど遅れている日本

中国軍は膨大な数の無人航空機の生産・配備を進め、様々な分野でドローンの導入を進める。そうした各種無人兵器の戦力化の一方で、陸軍将校を中心に30万人もの人員削減を達成しているのである。

 

アメリカやNATO諸国でも軍事組織での大規模な人員削減はやむを得ない趨勢となっている。空軍、海軍、陸軍でも各種ドローンを導入して、人員は縮小させても戦力はむしろ強化させようと努力している。

 

このような国際的軍事常識に照らすと、少子化が進む日本では世界に先駆け、各種ドローン兵器によって防衛力の強化を推進しなければならないことになる。

 

ところが、このような軍事常識に背を向け、中国軍と対極にあるのが自衛隊なのだ。

 

たとえばドローン分野においては、陸上自衛隊はFFOS、FFRSと呼ばれる無人偵察機(ヘリコプター)ならびにJUXS−S1という小型固定翼機を運用しているが、中国軍やフーシのものと比べると「おもちゃのラジコン」程度のレベルの代物である。

 

米軍頼みの防衛省・自衛隊は、無人航空機の開発調達に関心を示さなかったため、軍用ドローンと呼べる代物を装備していないという、世界でも稀な軍事組織となってしまったのである。

 

無人掃海艇(機雷を除去する無人機)を除く無人水中艦艇や無人水上艦艇それに無人車両の分野でも、自衛隊は何も保有していない。要するに、ドローン戦力では自衛隊は、中国軍はもとより数多くの国々の軍隊とは比較することができないほど立ち遅れているのが現実なのである。【9月29日 GLOBE+】

**********************

 

中国は、ドローン輸出も拡大させています。

 

****兵器も安くて高性能…中国製の軍事用ドローンが欧州進出****

中国の軍事用ドローンが、ヨーロッパに到着予定だ。セルビア軍は準備ができ次第、成都飛機工業公司のドローン兵器、翼竜1を9機受け取る。(中略)

 

中国は、安くて性能のよい無人戦闘システムを構築していて、中東、中央および南アジアの一部、そして今やヨーロッパにおいても注目を集めている。(中略)

 

すでに、多くの国、特に、厳しい輸出制限の関係でアメリカからこのテクノロジーを入手するのに苦労している国々が、中国のドローンを購入している。

 

中国は中東で多くのドローンを販売してきた。翼竜だけでなく、生産者が「世界で最も人気のある軍事ドローン」と呼ぶ、彩虹(Rainbow)シリーズといったモデルも含まれる。

 

無人機システムの輸出は、たとえ中国のドローンがアメリカのシステムと同等ではなく単に似ているだけの物だとしても、世界兵器市場での存在感を高めて、おそらく他のさまざまな軍事的な取引や防衛協定を生み出し、そしてさらなる世界的影響力の可能性への扉を開くだろう。

 

中国の国営メディアによると、中国はすでに、開発中のステルス・ドローンの輸出に意欲を見せているという。【9月15日 BUSINESS INSIDER】

**********************

 

コメント

サウジ  皇太子、「監督責任」は認めるも関与は否定 信用失墜、アメリカでも冷ややかな空気

2019-09-28 22:34:41 | 中東情勢

(【928日 日本海テレビ】 観光ビザ発給で、ようやく観光客に門戸を開くようですが、砂漠以外に何があるのか・・・、それにこんな女性ばかりでは・・・。まあ、お金持ち向けの豪華ホテルはあるのでしょうが)

 

【監督責任は認めるものの、皇太子の事件関与はこれまで同様否定】

昨年10月にトルコ・イスタンブールのサウジ領事館で起きたサウジ人記者カショギ氏の殺害事件については、サウジアラビアの実力者・ムハンマド皇太子が黒幕では・・・というのが大方の見方ですが、皇太子は関与を認めていません。

 

関与否定は変わっていませんが、「監督責任」は認めるということのようです。

 

****サウジ皇太子、記者殺害は自身の監督下で起き「責任は私に」=PBS****

米公共放送PBSが来週放送予定のドキュメンタリー番組によると、サウジアラビアの実力者であるムハンマド皇太子は、昨年10月にトルコのサウジ領事館で起きたサウジ人記者カショギ氏の殺害事件について、自身の監督下で起きたことだとし、責任は自分にあると認めた。

PBSは、カショギ氏の一周忌を控え、10月1日に「The Crown Prince of Saudi Arabia」を放送予定で、映像の一部が公開された。

ムハンマド皇太子はPBSの記者にカショギ氏の殺害事件について「私の監督下で起きた。全ての責任は私にある」と語ったという。ただ、自身が知らないところで起きた事件だと説明した。

自身が知らずにどのようにそうした殺人が起きるのかとの質問に対して「サウジには2000万人の国民がいる。公務員の数は300万人だ」と述べたという。

事件から数週間後にムハンマド皇太子は、カショギ氏殺害は「凶悪な犯罪」で「痛ましい出来事だ」と述べ、責任を負うべき者は裁かれると述べていた。

カショギ氏の婚約者は、ニューヨークの国連総会の合間に開かれたイベントで、ムハンマド皇太子に対して2つの質問があると述べ、誰が殺害を指示し、その理由は何かを知りたいと訴えた。

「今回の告白で、皇太子は殺害から自分を遠ざけようとしている。自身の監督下で起きたことだと認める一方で、関与は否定している。皇太子の発言は単に政治的な策略だ」と批判した。【927日 ロイター】

*******************

 

事件については、サウジ国内で「実行犯」11人が起訴され、うち5人については死刑が求刑されています。

 

****記者殺害、サウジ検察が5人に死刑求刑 早期幕引きか****

サウジアラビア人記者のジャマル・カショギ氏がトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で殺害された事件の初公判が3日、サウジの首都リヤドで開かれ、検察は殺害に直接関わったとされる5人に死刑を求刑した。サウジの国営通信を通じて発表した。

 

サウジ検察は昨年11月、事件に関わった5人に死刑を求刑すると明らかにしていた。この日の裁判には、11人の被告が出廷した。

 

事件を巡ってはムハンマド皇太子の関与を指摘する声もあるが、サウジ側は一貫して否定し、現場の判断で殺害に至ったと主張してきた。サウジは裁判で早期の幕引きを図る構えとみられる。一方、トルコは実行犯の身柄の引き渡しを求めている。【14日 朝日】

****************

 

もし「黒幕」が存在するなら“トカゲのしっぽ切り”ですが、死刑という話になると“しっぽ切り”では済まされません。切られる方はたまったものではありません。

 

サウジ政府としてもさすがにそれは・・・ということもあるのでしょうか、おカネでことを穏便にすまそう・・・ということのようでもあります。

 

****サウジ記者殺害 遺族に最大78億円の補償、住居や給付金で****

 昨年10月にトルコのサウジ総領事館内で殺害されたサウジアラビア人記者、ジャマル・カショギ氏の遺族は、サウジ政府から多額の補償を受けていることが分かった。事情に詳しい関係者が2日、CNNに語った。

 

関係者の話によると、事件の裁判が終わった後、遺族にはさらに多額の慰謝料が支払われる可能性もある。遺族が受け取る総額は現金、不動産を合わせ、7000万ドル(約78億円)を超えるとみられる。

 

同関係者によれば、遺族はこれと引き換えに、カショギ氏殺害をめぐってサウジ王室を批判しないことが求められるという。

 

カショギ氏の4人の子どもにはそれぞれ1500万サウジリヤル(約4億5000万円)相当の住まいが与えられた。政府との窓口役を果たす長男のサラー氏には西部ジェッダの豪邸、次男アブドゥラ氏と娘2人にも別の敷地に邸宅が用意された。

 

ただし4人のうち、サウジ国内で暮らすのはサラー氏のみ。アブドゥラ氏ら3人は米国在住で、サウジに帰国する予定はないが、与えられた土地を売却して現金に換えることは認められないという。

 

4人はさらに一時金として各100万サウジリヤドと、月々1万~1.5万ドル(約110万~170万円)の給付金を無期限に受け取る。

 

こうした補償は全てサルマン国王の承認を得ているという。遺族への支払いについては、カショギ氏がコラムを書いていた米紙ワシントン・ポストが最初に報じた。

 

サウジでの裁判ではカショギ氏殺害にかかわったとされる被告11人のうち、5人が死刑を求刑される見通し。同国の司法制度ではイスラム法(シャリア)に基づき、死刑を言い渡された被告が遺族に慰謝料を支払うことで執行を回避できる。遺族が要求する金額を被告が支払えない場合は、政府が肩代わりすることが認められている。

 

過去の例から推定すると、カショギ氏の遺族はこの取引で、さらに1億~2億サウジリヤドを受け取る可能性があるという。

 

米中央情報局(CIA)はカショギ氏殺害について、サウジのムハンマド皇太子が指示したと結論付けたが、サウジ側は王室の関与を否定してきた。

 

カショギ氏の子どもたちも今のところ、公の場で王室への批判は口にしていない。【43日 CNN】

*******************

 

“イスラム法(シャリア)に基づき、死刑を言い渡された被告が遺族に慰謝料を支払うことで執行を回避できる”ということで、政府が慰謝料を支払うことで、“トカゲのしっぽ”も死刑を免れる・・・ということでしょうか。

 

死刑を免れた者がどうなるのか、放免されるのか、懲役刑になるのか、むち打ち刑になるのか・・・は知りません。

 

【石油施設被害 同盟国アメリカでも冷ややかな空気】

カショギ氏殺害事件への関与をムハンマド皇太子が認めていないにしても、この事件でサウジアラビアは国際的信用を失墜するという大きな代償を払っています。

 

いま、サウジは何者かによる石油施設攻撃を受けて「被害者」の立場にありますが、皇太子のよき理解者であるトランプ大統領はともかく、同盟国アメリカにあってもサウジを見る視線は冷ややかなものがあります。

 

もともと、9.11にサウジアラビア人が多く関与していますし、サウジが行っているイエメンでの空爆も多大な民間人犠牲者を出しておりアメリカ議会の不興を買っています。そしてカショギ氏の事件も。

 

****窮地のサウジ、米国から同情得られず ****

サウジに対するイメージの低下は同国の運命の変貌ぶりを反映

 

サウジアラビアは主要な石油施設に対する大規模な攻撃で痛手を負い、助けを必要としている。だがそうした状況下にありながら、ワシントンをはじめ米国全体を見渡しても、サウジの友人はほとんどいない。

 

サウジは石油施設への空からの攻撃について、イランの仕業だと主張。攻撃を受けて、サウジは米国の支援を期待していたかもしれない。

 

しかし、イエメン内戦へのサウジの介入が不興を買っていることや、サウジの暗殺チームによる著名な政府批判派ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の殺害、2001年の米同時多発テロにサウジ政府がかかわった可能性が新たに注目されていることなどが、支援の気運を損なっている。

 

クリス・マーフィー上院議員(民主、コネティカット州)はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に対し「今回の攻撃はサウジの石油施設に対するものであり、米国とイランの間のより大きな戦争を誘発することがあってはならない」と指摘。「われわれは、サウジとの間で相互防衛条約を結んでいない」と強調した。

 

イエメン内戦へ介入するサウジへの軍事支援を削減しようとした米議会の動きに拒否権を発動したドナルド・トランプ米大統領でさえも、米国の支援は一定限度にとどまることを明確にしている。小規模な部隊を送ることには同意したものの、米国による軍事行動は見送った。

 

米国防総省は26日、 新たなパトリオット・ミサイル防衛システム1基と、巡航ミサイル探知支援のための小型レーダーシステム4基を提供し、200人の米兵増員を行うことを追加的に明らかにした

 

米当局者らは、かなり以前から、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子に対し、カショギ氏暗殺に関して何らかの個人的責任を認めるよう圧力を掛けてきたが、ムハンマド皇太子はこれまで、公に責任を認めていない。

 

26日に公開された米公共放送PBSの番組予告編の中で、ムハンマド皇太子はリポーターに対し、カショギ氏の殺害は「私の監督下で起きた」と語っている

 

このインタビューは201812月に、映像なしの条件で行われた。ムハンマド氏はこの事件について、一部の勝手な行動によるものと位置付けた。この姿勢は、サウジの指導者らが何カ月も前から維持している立場と同じだ。

 

こうしたコメントを受け、皇太子に責任を認めるよう迫っていた米議員のうち、トッド・ヤング上院議員(共和、インディアナ州)、アンガス・キング上院議員(無所属、メーン州)の2人が賛辞を送った。しかしヤング氏が、サウジはもっと努力すべきだと語っていることは、同国の厳しい前途を暗示している。

 

ヤング氏は「サウジが21世紀のリーダーへの変容を目指すなら、米国との信頼関係修復に真剣に取り組んでいることを示す公の行動を取り続けなければならない」と語った。

 

ムハンマド皇太子による一連の社会、経済改革に関連してサウジは大量の資金を投入してロビー活動を行ったにもかかわらず、米国内でのサウジに対する評価は低下している。

 

米ギャラップが今年行った世論調査によると、米国人の3人に2人がサウジに対して悪印象を持っており、同社がこれまでに実施したサウジに関する調査の中で最も高い水準に達している。

 

これは米同時多発テロの後に実施された調査での水準よりも高い。同事件ではハイジャック実行犯19人のうち、15人がサウジアラビア人だった。

 

米ビジネス・インサイダーが最近行った調査では、先のサウジ石油施設に対する攻撃への報復措置として米国による軍事行動を支持するとの回答は、わずか13%だったことが明らかになった。(中略)

 

サウジに対するイメージの低下は、トランプ氏が大統領に就任して以降の同国の運命の逆転の変貌ぶりを反映している。トランプ氏の大統領としての初の外遊先はサウジで、同国では伝統的な剣の舞に参加し、過激化対策のために設立された新たなセンターではサルマン国王とともに輝く球体の上に手を置いた。

ランプ政権は中東での米国の政策を再構築する上でサウジを重要な拠点と見なしていた。対イラン制裁措置では米国の主要支援国としてサウジを頼りにしていた。トランプ氏はまた、イスラエルとパレスチナの和平協定を締結する上でサウジが主要な役割を果たすと期待していた。パレスチナはサウジを政治的に極めて重要な支援者であるとして信頼している。

 

トランプ大統領の娘婿で、長い間秘密にされていた中東和平案の立案者であるジャレッド・クシュナー大統領上級顧問は、こうした関係を補強する上で、サウジの事実上の統治者であるムハンマド皇太子と緊密な関係を保っていた。

 

米国とサウジの間で芽生え始めていた関係は昨年のカショギ氏殺害事件以降、悪化している。トルコ当局者が公表した証拠資料によれば、サウジの暗殺グループがイスタンブールに向かい、サウジ総領事館内でカショギ氏を殺害して遺体を切断し、隠蔽(いんぺい)工作を行ったあと、サウジに帰国した。

 

トランプ政権はカショギ氏殺害に関与したとしてサウジ関係者17人を制裁対象に指定したが、サウジ政府に対する圧力は最小限にとどめた。

 

米情報機関当局者はムハンマド皇太子がカショギ氏殺害を命じたと公算が大きいと結論づけたものの、トランプ氏はサウジ政府と皇太子を「揺るぎないパートナー」として擁護している。

 

防衛相としての責務も担うムハンマド皇太子は、イエメンで勢力を維持しイランから支援を受けるイエメンの反政府武装組織フーシ派との戦争へとサウジを導いた。これにより、国境の南側に位置するイエメンは危険な膠着状態に陥った。

 

サウジはイエメンで一連の空爆に失敗し、何千人もの民間人を犠牲にしていることから、多くの人々に批判されている。米国防総省は昨年、議会からの圧力を受け、イエメンで空爆を行っているサウジ連合軍の戦闘機への空中給油支援を停止した。

 

議会のサウジ懐疑派は今年に入り、米軍がイエメン内戦にからみサウジ連合軍に行ってきた軍事支援の大半を停止する提案について、超党派の支持を取り付けた。それまで何度も試みたものの、支持を得られなかった提案だ。

 

だがトランプ氏は今年4月、最高司令官としての自らの権限を制限しようとする不適切な試みだとして、これに拒否権を発動した。

 

サウジは、トランプ政権と2001911日の同時多発テロの被害者家族との法的な対立の焦点の存在でもある。被害者家族は裁判で、サウジが攻撃の調整役を果たしたと非難し、機密扱いの政府の報告書の公開を求めたが、トランプ政権は今年912日、文書の情報のごく一部の公開にのみ同意した。被害者家族の担当弁護士らは、その政府の報告書にサウジの関与に関する情報が含まれているとみている。

 

サウジは、悪化したイメージを回復しようと、駐米大使として初の女性を派遣するなどして、カショギ氏殺害を例外のように扱い、ムハンマド皇太子の改革に影を落とさないよう努めていた。

 

ところが914日に無人機とミサイルによる攻撃にさらされ、サウジの石油産業は一時的に麻痺した。これまでの米政府の反応は控えめなものとなっており、対抗策としての米国によるイラン攻撃を支持する動きはほとんどない。

 

リンゼー・グラム上院議員(共和、サウスカロライナ州)は、報復攻撃を主張したが、トランプ氏はそれに抵抗した。

 

トランプ氏は同議員の意見について聞かれ、「リンゼーに聞いて欲しい。イラクに行ってどうなったかを」と答えた。

 

上院軍事委員会の委員長を務めるジム・インホフェ上院議員(共和、オクラホマ州)は、サウジを守るために米国がイランを攻撃することを望まないと明言している。(後略)【927日 WSJ】

**********************

 

石油施設攻撃については、“サウジアラビア当局は914日に起きた同国の主要な石油施設に対する攻撃は、地域の最大のライバルであるイランの支援によるものだと断定し、紛争の可能性に備える一方、紛争回避の道を探ると発表した。”【919日 Newsweek】とのこと。

 

上記のようにイラン関与を認めてはいますが、あまりイランを刺激するような発言は控えているようにも見えます。

 

アメリカの支援も限定的なものにとどまっていますし、そのアメリカが供与するミサイル防衛システムも、今回のドローンやミサイル攻撃の前に無力だったことも明らかになっていますので、イランと全面的な戦闘状態に入る事態は避けたいというのが本音でしょう。

 

【“異質”な国における皇太子の改革】

ムハンマド皇太子にはカショギ氏殺害事件やイエメン介入に見られるような、強引・強権的な国内統治の側面がありますが、一方で、上からの社会改革を断行していることも知られています。

 

****サウジ、成人女性の旅行制限を撤廃 残るイスラムの男女格差****

サウジアラビア政府は、成人女性が旅行する際に義務づけてきた男性の「後見人」の承認制度を撤廃すると決定した。

 

ロイター通信などが伝えた。国内で大きな権力を握るムハンマド皇太子(33)の社会・経済改革の一環だが、イスラム教の教えに基づく男女格差はなお残り、自由の拡大をめぐる社会と政府の駆け引きは今後も続きそうだ。(中略)

 

個人の訴えが世界をかけめぐり、国連まで動かす時代となり、サウジが独自の政策を貫くことはますます困難になるとみられる。

 

今回、旅行の制約は緩和されたものの、女性が結婚したり一人で生計を立てて暮らしたりする際に、男性後見人の許しが必要なことに変わりはない。サウジ政府はイスラム保守層を懐柔しつつ、徐々に女性の自由を拡大していかざるを得ないものとみられる。【85日 産経】

******************

 

****サウジが観光ビザ解禁 脱石油改革で「開かれた国」に?****

サウジアラビア政府は27日、これまで制限していた観光目的の査証(ビザ)発給を開始すると発表した。次期国王と目されるムハンマド皇太子が主導し、石油依存からの脱却を目指す改革の一環。

 

観光産業の促進で雇用創出や経済の活性化を進めるとともに、「開かれた国」としてアピールする狙いもあるとみられる。

 

サウジ政府や地元メディアによると、日本や米国、中国や欧州諸国を含む49カ国の観光客が対象で、料金は300リヤル(約8600円)。サウジでは近年、自動車レースやコンサートなど特定のイベントの参加者にビザを発給することはあったが、観光目的の訪問は制限されていた。(後略)【928日 朝日】

****************

 

こうした改革は(不十分な点は多々あるにしても)一定の前進ではありますが、一方で、女性の権利の制約や、これまで観光目的の入国を認めてこなかったなど、サウジという国がいかに“異質”な国であるかを印象付けるところもあります。

 

その“異質さ”は、おそらくアメリカが敵視するイラン以上だと思われます。

 

コメント

加速する日中関係改善の気運 国民レベルの交流に基づいた新たな関係を

2019-09-27 22:28:33 | 中国

(21日、東京都渋谷区の代々木公園で開幕した「チャイナフェスティバル2019」の会場【9月21日 産経】)

 

【中国TV 安倍首相の祝賀ビデオメッセージのほぼ全文を放映】

日韓関係の悪化、トランプ政権のもとでの日米関係の不透明感、より基本的には今後の東アジア世界における中国の影響力拡大が想定される情勢等々の事情を背景に、昨今の日中関係が急速に改善・緊密化していることは周知のところです。

 

そういう中にあっても、安倍首相の中国建国70周年記念を祝賀するメッセージの中国側の扱いは、中国ウォッチャーにとっても刮目すべきものだったようです。

 

****安倍首相の祝賀ビデオメッセージが中国のCCTVで大写し──中国建国70周年記念****

安倍首相等数名の日本政財界関係者等による中国建国70周年記念を祝賀するメッセージが27日、CCTVで大きくクローズアップされ延々と流された。米中関係悪化における中国の意図と日本の位置づけを考察する。

CCTVお昼のニュースでほぼ全文公開
9月27日、お昼の中央テレビ局CCTV4(国際)で長い時間を使って、安倍首相の中国建国70周年記念を祝賀するビデオメッセージが放映され、思わずCCTVの画面に釘付けになってしまった。

本当とは思えないような、「あっ!」と声が出てしまうようなニュースだったが、それが本当であることを示すサイトはいくらでもある。(中略)その一例として「大河報網」や、環球網の報道などがある。(中略)

(安倍首相のメッセージ)全文は以下のとおりである。(括弧で括ったのがCCTVでは報道されなかった部分)

──ダージャーハオ!皆さんこんばんは。安倍晋三です。中華人民共和国が建国70周年を迎えられたことに対し、日本国政府および日本国民を代表し、心から祝意を表します。

(本年は中国が建国70周年を迎え、日本が平成から令和へと新たな時代を迎える節目の年です。日中両国が良い雰囲気の中で、それぞれにとって記念すべき年を迎えられることを大変喜ばしく思います。)

6月のG20大阪サミットでは、日中両国が成功に向けて協力し、G20としての力強い意志を大阪首脳宣言を通じて世界に発信することができました。

 

サミットに先立ち行われた日中首脳会談と夕食会では、来春に習近平国家主席を国賓として日本にお迎えすることについて首脳間で一致し、日中新時代を切り拓いていくとの決意を共有することができました。

日中両国はアジアや世界の平和と繁栄に共に大きな責任を有しています。両国が地域や世界の課題に協力して取り組み、国際社会への貢献を共に進めることは、両国の新たな未来の姿を築くことにつながると確信しています。

(今、私たちはその新しい歩みを始めました。そして、来春の習主席の国賓としての訪日は、両国の新たな未来の姿を打ち出す上で、またとない重要な機会です。日中新時代にふさわしい、有意義な訪日にしていきたいと思います。)

最後に、日中関係のさらなる発展、ご列席の皆さまのますますのご健勝をお祈り申し上げまして、私の祝辞といたします。ありがとうございました。謝謝!

以上だ。(中略)

このような長いメッセージを、お昼のニュースとは言え、ほぼ全文公開するというのは、前代未聞と言ってもいいだろう。

それだけではない。続いて公明党の山口那津男代表、慰安婦問題に関する「河野談話」で知られる河野洋平氏、日中議連(日中友好議員連盟)会長の林芳正議員(自民党)、かつて映画「君よ 憤怒の河を渡れ」で中国で人気を博した女優の中野良子さんなどの大写しの顔とメッセージが放映され、経済界からもメッセージが寄せられた。(中断 後半は後出)【9月27日 遠藤 誉氏 Newsweek】

**************************

これまでにない、中国側の“破格の扱い”だったようです。

 

もちろん、中国側の日本警戒論がなくなった訳でもありませんが。

 

****中国、防衛白書に不快感=安倍首相メッセージは「称賛」****

中国外務省の耿爽副報道局長は27日の記者会見で、中国を警戒する記述も盛り込まれた日本の防衛白書について、「中国の通常の国防建設と軍事活動に対する理由のない非難は受け入れられない」と不快感を示した。

 

一方、中国建国70周年に際し祝意を述べた安倍晋三首相のビデオメッセージを「称賛する」と表明。「今の中日関係改善の前向きな勢いを体現した」と評価した。【9月27日 時事】

*****************

 

逆に言えば、日本の防衛白書に関する反発はありながら、それでも安倍晋三首相のビデオメッセージを「称賛する」というあたりに、中国側の前向きな対応がうかがえます。

 

【前向き、あるいは、前のめりに進む日中関係改善】

なお、中国政府系シンクタンクの中国社会科学院日本研究所は7月、日本の政治・経済状況を分析した2019年版「日本青書」を発表していますが、その中で、日中関係は回復を加速させていると分析報告しています。

 

****中国で「日本青書」発表、日中関係は回復を加速―中国メディア****

(中略)

■日中関係は回復基調
青書は「2018年に日中関係は回復加速と持続的改善という良い基調を全体的に示した。

 

日中平和友好条約締結40周年を契機に、上層部のリード、協力の深化、危機管理などプラス要因が、関係をさらに良くするプロセスを力強く促進した。

 

国際情勢の変動、経済・貿易面の相互利益、日本の戦略調整が日中関係改善の背景及び動因と考えられている。

 

2018年に日本政府は『一帯一路』イニシアティブの具体的な協力方法について中国側と話し合いを始め、日中の第三国市場協力は着実な推進の勢いを示した。反グローバリズムの風潮を前に、日中両国は保護貿易主義と経済的一国主義への反対、多角的自由貿易の堅持、地域経済協力の推進など関心を共有する重要な議題において共鳴した」と指摘した。

また、2019年の日中関係の行方について「日中関係の一層の発展はプラスの条件及びチャンス期間を前にしている。だが安定的に遠くまで前進するには、まだ並大抵でなく困難な取り組みを数多くする必要がある。日中双方が向き合って進み、積極的に益を図り害を避けさえすれば、両国関係は既存の改善の成果を基礎に持続可能な安定的発展という良い勢いを保ち、各分野の協力が一層の成果を得る後押しとなる見込みがある」とした。【7月27日 レコードチャイナ】

******************

 

また、中国政府の外務次官は以下のようにも。

 

****日中は張り合うべきではない、共に光を発して世界にエネルギーを―中国外務次官****

2019年8月12日、中国新聞網は、日中戦略対話出席のため日本を訪れた中国の楽玉成(ラー・ユーチョン)外務次官が「両国は張り合うべきではない」と指摘したことを伝えた。

記事によると、9日までの日程を終えた楽氏は記者に対し、現在の世界がまれに見る難局に置かれていることを指摘。「重要な発展チャンスに向かい合うと同時に、不確実性、不安定性は依然、突出している」とし、世界2位と3位の経済大国である中国と日本は協力をさらに強化し、共に課題に立ち向かう必要があるとの認識を示した。

楽氏は「対抗は双方の利益に合致しない。張り合うのではなく、互いに照らし合い、共に熱や光を発して波立つ世界により多くの安定性とプラスのエネルギーを注入すべき」と表明し、「中日指導者が大阪で会談を成功させ、新時代の要求に一致する中日関係構築について10の共通認識に達したことは今後の両国関係発展の方向を指し示した」とも指摘。

 

日中の経済協力や人々の交流の活発化などに触れた上で、「中国側は日本とともに両国指導者の共通認識を積極的に実行したいと考える。相互信頼を増進、協力を促進、意見の対立をコントロールしリスクを防ぎ止め、両国関係を新たな段階に推し進めたい」とした。【8月14日 レコードチャイナ】

******************

 

前向き、あるいは、前のめりの姿勢は日本側も同様ですが、米中対立の構図にも一定に配慮しながら・・・ということにもなります。

 

****インタビュー:安保念頭に中国と半導体で協力案=自民・甘利氏****

自民党内の「ルール形成戦略議員連盟」の甘利明会長(税制調査会会長)は、中国を念頭に、米国との共同研究に携わる日本企業は米技術の同盟国外への漏えい防止のため、社内のファイアーウォールの仕様と運用を強化する必要があるとの考えを示した。(中略)


<安全保障念頭に、ハイテク以外の分野で中国と協力>
甘利氏は「経済政策・外交政策・貿易政策は世界の中で絡み合って進んでいる。米国が国家経済会議(NEC)の強化を図っているように、経済・外交・貿易については密接な情報交換が必要だ」との考えを示した。

米国では、ハイテク分野での中国への情報漏えい回避に神経をとがらせている。甘利氏は、日本としても「米国に懸念を与えないという意味で、中国とはハイテクでない分野での事業協力が中心になる」との基本認識を示した。

中でも、半導体分野については「(次世代通信規格)5Gの分野については同盟国内でサプライチェーンが完結するように米国は要請しており、日本も足並みをそろえなければならない。チップ1つでもスパイチップになり得る。情報が漏えいすることになる」と指摘した。

<環境対応車と半導体で協力>
甘利氏の議連では、来春訪日する予定の習近平・中国国家主席と安倍晋三首相の会談に向け、中国との環境対応自動車での協力を提言する方向だ。すでにトヨタ自動車<7203.T>はハイブリッド技術を公開しており、民間協力を支援する狙いがありそうだ。

これに加え、5G関連といった最先端分野以外の半導体製造についても協力を模索中だ。

 

中国政府が計画している半導体増産には大量のきれいな水が必要だが、中国には人や技術、土地はあっても水が不足しているとの読みが日本側にある。水の豊富な日本が請け負って半導体を生産するという案が浮上している。(後略)【9月25日 ロイター】
**********************

 

【「日本は何も見えないのか!」との批判も】

こうした日中関係改善への前向き姿勢を強く批判する指摘もあります。

 

冒頭で引用した遠藤 誉氏は、中国共産党政権への厳しい姿勢が持論であり、前出記事に続けて以下のように警鐘を鳴らしています。

 

****米中貿易戦争と日本への甘い誘い*****
米中の仲が悪くなったら、中国は必ず日本に微笑みかけてくるというのは常套手段ではあるものの、この日も日本の政財界からの一連の祝賀メッセージの報道が終わると、いきなりトーンを変えてトランプ大統領への弾劾手続きが始まったことを、強い口調で放映し始めた。その露骨なまでの対比に、これもまた唖然として思わず前のめりに画面に食い入ってしまった。

習近平国家主席が安倍首相のこの「友好的」な姿勢を、どれだけ歓迎していることか、考えただけでも空恐ろしい。

(中略)日本は1989年の天安門事件後の西側諸国による対中経済封鎖を解除させて、今日の中国の繁栄をもたらした。

その結果大国になってしまった中国に、又もや跪いて、今度は中国にアメリカを凌駕させるチャンスをプレゼントしようとしている。

日本経済を成長させるためには致し方ないという考え方もあろうが、その結果、言論弾圧をする一党支配の共産主義国家が全世界を制覇することになるのだ。全人類が、あの監視社会と言論弾圧の下にひれ伏すような世界を招くための手助けを、いま日本はしているのである。

かつて、「その先が読めない日本」は、大本営の報道を信じて戦争へと突き進んでいった。その日本の盲目性は、まるで日本の国民性のように今も厳然として存在する。

香港の若者たちが、あれだけ命を懸けて「言論の自由」と「民主」を守ろうとしているのに、日本は何をしているのか。何も見えないのか。

「未来」を見る目を捨てたのか。
1948年の国共内戦で、共産党軍の食糧封鎖により餓死体の上で野宿した経験さえ、大陸では公開することが許されない。そのような言論弾圧をしている中国が、日本政府の目には見えないのだろうか。

筆者がこの齢になってもなお、執筆活動を続けるのは、この言論弾圧と闘っているからだ。そのためには何があっても、警鐘を鳴らし続ける。これは餓死せずに生き残った者の使命だと、自分に言い聞かせている。【9月27日 遠藤 誉氏 Newsweek】
********************

 

遠藤氏の厳しい姿勢は、満州国で生まれ長春包囲戦を体験したことにも裏打ちされたものですが、そこまでの体験がない者としては、「共産党政権の問題に対する指摘はそのとおりだけど・・・まあ、それはそれとして・・・・日本と中国は2000年の歴史がある関係だし・・・・今後の東アジア情勢も考えると・・・」と、曖昧・軟弱になってしまいます。

 

中国が日中関係改善を利用しようとしているのは明らかですが、それはどこの国でも考えることです。

日本も、中国現政権への評価は堅持しつつも、戦略的に日中関係を考えていく姿勢があってもいいのでは・・・とも思います。

 

【日中の国民レベルの交流に基づいた新しい時代への期待】

東京・代々木公園イベント広場で21、22日開催された「チャイナフェスティバル2019」について、中国メディアの環球網は「これほどの熱気とは思わなかった」と報じています。

 

****中国建国70周年記念イベント、日本でも大賑わい=市民多数が楽しむ****

2019年10月1日の中国建国70周年を前に、これを記念する各種イベントが9月下旬に日本でも開催された。「チャイナフェスティバル2019」には20万人以上が来場、多くの参加者は「おもいっきり中国」を楽しんだほか、華僑・華人を中心とした記念祝賀会も大きな盛り上がりを見せた。

日本華僑華人連合会が主催する「中国建国70周年記念祝賀会」が9月22日、東京都内のホテルで開催された。日本在住の華僑・華人や日本の関係者1000人以上が出席。孔鉉佑・駐日中国大使、顔安全・日本華僑華人連合会名誉会長、福田康夫・元首相らが「日中の協力で両国と東アジア地域のさらなる発展を期したい」などと挨拶。鳩山由紀夫・元首相の乾杯の発声による鏡割りの後、演奏や合唱などパフォーマンスが盛り沢山。出席者は実演を楽しんだ。

中国文化の紹介を通じた日中交流イベント、「チャイナフェスティバル2019」が9月21〜22日に東京・代々木公園で開催された。建国70周年を記念し、中華料理の出店や文化展示や日中両国のアーティストによるステージ・パフォーマンスを行った。(中略)

若者や家族連れなど2日間で約20万人が来場「おもいっきり中国」を楽しんだ。今回のフェスティバルでは、中国の人気歌手Alan、Aminや日本のアーティスト、サンプラザ中野くんら日中両国の芸能人多数が出演した。

 

代々木公園会場内の100店のブースやメインステージ、サテライトステージでは多彩な中国を体感できる。「炎の激辛中華G1 グランプリ」「みんな大好きパンダハウス」「日中友好スリッパ卓球大会など」など人気のイベントが人気を博していた。

今年は「日中青少年交流推進年」に当たるため、日中の学生がインターネットのテレビ電話で意見交換。日中青少年交流推進年日中交流ブースで、チャイナフェスティバル会場の代々木公園と在上海日本国領事館とリアルタイムで繋ぎ、日中の学生交流が行われた。日中両国の若者3万人を5年間で相互交流させるプロジェクトを計画している。【9月27日 レコードチャイナ】

******************

 

中国側の日本旅行ブームも相変わらずです

 

****ビザ申請数からみた国慶節の人気海外旅行先、日本が断トツ・・・昨年よりも2割増=中国メディア****

中国メディア・南京晨報は24日、10月1日からの国慶節連休で海外旅行をする予定の中国人観光客の間で最も人気の高い訪問先が日本であるとする記事を掲載した。

記事は、中国の大手旅行予約サイト携程が発表した今年の国慶節出国ビザ申請人気ランキングを紹介。9月中旬現在で、同サイトを通じてビザ申請を行った中国人観光客の中で最も申請が多かった目的国が日本で、以下シンガポール、韓国、タイ、マレーシア、米国、ベトナム、フィリピン、オーストラリア、英国の順となったと伝えた。

そして、同サイトのビザ申請サービス責任者が「日本旅行熱はさらに高まり続けている。今年の国慶節期間の日本のビザ取得申請数は、昨年の国慶節期間よりも20%増えた」と語ったことを紹介したほか、国慶節期間の日本訪問ビザ申請数が同期間のビザ申請総数に占める割合が25%に達したとしている。(中略)

記事は、日本旅行を計画する中国人観光客がさらに増えている背景として、日本を訪れるうえで必要な手続きがさらに簡素化したほか、電子ビザ申請の導入に向けた動きが進んでいることを挙げている。

そのうえで、7月より北京の日本大使館で始まったインターネットによるビザ申請受付が、10月からは上海の日本領事館エリア(上海市、浙江省、江蘇省、安徽省、江西省)も対象になるほか、団体客だけではなく個人旅行客などにも対象が拡大する予定であると伝えた。【9月27日 searchina】

******************

 

こうした日中の国民レベルの交流が、新たな日中関係の基礎になれば・・・と期待します。

戦車で抗議行動を踏みつぶすような国に甘い期待をしても無意味との指摘もあろうかとは思いますが、国内事情も国際関係も時代とともに変わる部分もあるでしょう。

 

その変化が両国民にとって更に良い方向に向かうように働きかけていくことが必要とも思います。

コメント

スペイン 4年で4回目の総選挙 分断された民意 漂流するスペイン政治

2019-09-26 22:11:26 | 欧州情勢

(【9月24日 日経】 本文最後にもあるように、別の世論調査は、また若干異なる予測となっています。いずれにしても、過半数を制する政党がないのはもちろん、連立の組み合わせも難しそうです。)

 

【4年間で4回目の総選挙】

9月20日ブログでも取り上げたように、欧州では極右・ポピュリズム勢力台頭による既成政党からの支持者の離反といったこともあって、単独過半数を制する政党が存在せず、複数政党間の連立によることが一般的に見られます。

 

結果、組閣までの長い時間を要したり、政党の間の離合集散で政治が不安定化したりすることも。

 

スペインでも、4月の総選挙後も新政権が樹立できない状況が続いていましたが、結局、再選挙を11月10日に行うことになっています。この4年間で4回目の総選挙です。

 

****スペイン、11月10日に総選挙=連立交渉まとまらず****

4月の総選挙後も新政権が樹立できないままでいたスペインでは24日、中道左派・社会労働党を率いるサンチェス首相による連立交渉の期限が切れた。

 

沈黙するサンチェス氏は、いずれの党とも交渉をまとめられなかったとみられ、11月10日投票のやり直し総選挙実施が確実となった。

社会労働党は4月の総選挙(下院定数350)で123議席を獲得した。サンチェス氏はまず急進左派ポデモス(42議席)との連立を模索したが、閣僚ポストをめぐり対立。

 

下院は7月、少数与党で新政権発足を目指すサンチェス氏の信任投票を行ったが、反対多数で否決。連立交渉は、行き詰まりを打開できないまま夏を終えた。
 

最新の世論調査によると、やり直し総選挙では社会労働党が議席数を伸ばすとみられている。サンチェス氏は18日、議会で「社会労働党がより多くの議席を獲得し、行き詰まりから抜け出すことを望む」と語っており、無理に連立交渉をまとめる意欲は乏しかったとみられる。【9月24日 時事】

*******************

 

【5党分立 分断された民意】

こうした組閣もできない状況の背景には、財政政策、移民問題やEUとの距離感をめぐって国民の意見が大きく分断され、主要な既成政党(スペインの場合は右派・国民党と左派・社会労働党)の支持が低迷、極右・ポピュリズム政党が台頭していることがありますが、スペインの場合はカタルーニャの分離独立運動をめぐる対立軸も加わって、連立が更に難しい事態ともなっています。

 

****スペイン、財政・移民 溝深く 11月に再び総選挙へ****

スペインは11月10日、過去4年で4回目となる総選挙を実施する。サンチェス首相が4月の総選挙後の連立交渉に失敗したのが直接のきっかけだが、11月の選挙でも過半数を確保する政党は出ない見通しで、政治の混迷が長期化しそうだ。

 

財政政策や移民の受け入れ問題を巡る民意の分断が深まり、政治を分極化させていることが、安定政権づくりが難しくなっている背景にある。

 

(中略)大手紙パイスが報じた18~20日実施の世論調査によると、11月の総選挙で社会労働党は132まで議席を伸ばし第1党の座を守るが、過半数には届かない見通し。各党の支持率に大きな変化はなく、再び連立交渉でもめる恐れが大きい。

 

スペインは1978年の民主化後、中道左派の社会労働党と中道右派の国民党による二大政党制が続いてきたが、近年は両政党の退潮が著しく、不安定な政治に陥っている。

 

顕著だったのが2015年12月の総選挙だ。前与党の中道右派国民党が過半数割れを起こし、16年のやり直し選挙につながった。その後政権を奪ったサンチェス氏も19年度予算案で他党の支持を得られず、4月の総選挙に追い込まれた。

 

政治の不安定化の背景には割れる民意がある。10年ごろ始まった欧州債務危機で失業率が20%を超え、既存政党では格差を解決できないとの世論が強まった。

 

15年選挙では「反緊縮」の旗を掲げて極端な社会保障の充実を訴えた急進左派ポデモスと、クリーンな政治を強調した中道右派シウダダノスの新興2政党が台頭し、従来の二大政党制が揺らいだ。

 

欧州の難民・移民問題もスペイン政治の不安定要因だ。18年にイタリアで誕生したポピュリズム(大衆迎合主義)政権が移民の受け入れ拒否に動くと、隣国のスペインに移民の流入が集中。

 

4月の総選挙では反移民を主張する極右ボックスが初めて下院に24議席を確保した。フランコ独裁体制への苦い記憶から極右勢力が弱かった同国にとって大きな転換点となった。

 

伝統の二大政党である社会労働党、国民党にこの新興3党を加えた計5党に票が分かれるのが現在のスペインだ。

 

独立問題がくすぶる北東部カタルーニャ州への対応も各党ごとに異なり、民意の分断に拍車をかける。

 

サンチェス氏は11月の総選挙で第1党の座を守れば、幅広く連携を探る見通しだ。だが移民に寛容でカタルーニャとの対話を重視するサンチェス氏に対し、右派政党は移民保護の制限、カタルーニャへの厳しい対応を唱え、意見の溝は大きい。

 

一方、サンチェス氏とポデモスは移民政策では立場が近いが、本格的な政権入りを求めたポデモスと、閣外協力にとどめたかったサンチェス氏の溝が埋まらず、連立交渉が決裂。ポデモスのイグレシアス党首は「サンチェス氏は無礼で議会制民主主義を軽視している」と非難する。

 

スペインの経済成長率は18年の2.6%から、19年の2.3%、20年の1.9%に鈍化する見通し。失業率も約14%で欧州連合(EU)ではギリシャに次いで悪い。相次ぐ選挙で景気対策の法案審議などに遅れが出るのは必至で、悪影響も懸念される。

 

同様の民意の分断は他の欧州諸国にもみられる。ドイツではメルケル首相が不安定な連立政権の運営を迫られているほか、極右政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進する。

 

フランスでも極右政党の国民連合が、マクロン大統領の与党を抑えて5月の欧州議会選で第1党を獲得した。欧州各国の政治の不安定化は欧州統合の行方にも影を落としている。【9月24日 日経】

********************

 

民意が分断され、対立が強まったことの背景には、10年前のユーロ危機でバブルが崩壊したことから起因する後遺症的な怨念が国民に存在するとの指摘も。

 

****ポピュリズムの病根示す幽霊空港 怨念が国民を変えた 三井美奈****

見渡す限りの草原に、「幽霊空港」だけがあった。スペインの首都マドリードから南に160キロ。2012年に経営破綻したシウダレアル国際空港だ。

 

中をのぞくと、搭乗口は砂まみれ。遊歩道は空中で工事が止まったままで、なんとも不気味だ。南欧のまぶしい太陽の下、寒々とした風景が広がる。

 

10年前、欧州連合(EU)をユーロ危機が襲い、バブル景気に浮かれていたスペインやギリシャは一瞬で暗転した。幽霊空港は、その爪痕を生々しく残す。今月末の欧州議会選を前に、EUを覆うポピュリズム(大衆迎合主義)の病根を示す現場でもある。

 

1999年のユーロ導入後、ドイツやフランスの余剰資金が南欧に流入し、人口5000万人弱のスペインに10年で500万戸もの住宅が造られた。ゴルフ場、リゾートマンション、空港…。

 

バブル崩壊の「幽霊」は今も各地に残る。シウダレアル空港は一時、中国の投資会社に1万ユーロ(約120万円)で買収されそうになった。地元観光局の職員は「また新しい出資者が出てきたそうです。開港予定? 知りません」と話した。

 

ユーロ危機でEUは真っ先に、巨額債務を抱えた金融機関の保護に走った。経済全体のメルトダウンを防ぐ緊急措置だったが、痛みは各国の国民が背負った。スペインで若者の失業率は55%に達した。

 

スペイン経済は息を吹き返し、現在は2%超の安定成長を続ける。だが、政治への怨念は消えなかった。

 

先月の総選挙では「スペイン第一」を掲げる極右「ボックス」(VOX)が初めて国会に進出した。保革中道の2大政党制は完全に崩れ、主要5党体制になった。

 

「貧困層を守る」と訴える左派「ポデモス」、「清廉な政治」を掲げる右派シウダダノス、VOXの3新党は、いずれもユーロ危機後に台頭した。カタルーニャ自治州は中央政府の緊縮財政に反発し、独立運動に突っ走った。

 

マドリードのVOX集会に行き、若者や中産階級が多いことに驚いた。「極右支持=移民嫌いの労働者層」の思い込みは外れた。

 

カシミヤのコートを来た社長夫人、マリア・アズバルズさん(63)は中道右派「国民党」からくら替えした。「国を守るには、従来の生ぬるい政治ではだめ」と言う。大学生、ギエルモ・デルサズさん(19)は「EUで自己主張できる強い国にしたい」と訴えた。2大政党は緊縮財政で危機を克服したのに、全く評価されない。

 

5党分立で連立交渉は難航する。どんな政権が発足しても法案ごとに小党の協力を仰がねばならず、綱渡りの政権運営を迫られる。

 

2大政党制の凋落(ちょうらく)、小党分立が招く政権不安−。スペインで起きていることは程度の違いこそあれ、EU各国に共通する。「スペイン第一」「イタリア第一」というかけ声に国民が熱狂するのも、ユーロ危機に翻弄された恨みが深いからだ。「まず国民を守れ」という切実な叫びでもある。

 

EUは「9の年」に節目を迎えてきた。89年のベルリンの壁崩壊、99年の通貨統合、09年のユーロ危機。19年は英国のEU離脱騒ぎ、ポピュリズム旋風という試練の年になった。EU統合を進めてきた中道勢力はここで踏みとどまらないと、漂流を止められなくなる。【5月13日 産経】

****************

 

【再選挙でも状況は変わらない・・・との予測も】

再選挙で、こうした状況の解消ができるのか・・・冒頭記事には“サンチェス氏は18日、議会で「社会労働党がより多くの議席を獲得し、行き詰まりから抜け出すことを望む」と語っており”とありますが、どうも“結果は現状と同じではないか・・・”との選挙予測もあります。

 

前出【日経】は、“大手紙パイスが報じた18~20日実施の世論調査によると、11月の総選挙で社会労働党は132まで議席を伸ばし第1党の座を守るが、過半数には届かない見通し。各党の支持率に大きな変化はなく、再び連立交渉でもめる恐れが大きい。”とも。

 

サンチェス首相にとって、もっと厳しい予測も。

 

****スペインのやり直し総選挙、混迷解消できない見通し=世論調査****

世論調査によると、11月10日に行われるスペインのやり直し総選挙では、与党・社会労働党が再び過半数を確保できず、政治の混迷が続く見通しだ。

世論調査機関GAD3がABC紙の委託で実施した調査によると、社会労働党の下院(定数350)の予想獲得議席は121議席となり、前回4月の総選挙から2議席減らす見通し。

社会労働党が連立交渉を進めていた急進左派ポデモスも、前回から8議席減らすとみられている。

一方、右派勢力の獲得議席は合計150と、前回4月の総選挙から3議席増える見通し。ただ左派3政党の予想獲得議席は164と、右派勢力を上回る見通しだ。

調査は9月23─25日に1207人を対象に実施された。【9月26日 ロイター】

********************

 

スペイン政治の漂流は再選挙でも変わらないようにも見えますが、まあ、選挙はふたを開けてみないと・・・ということもありますので。

 

コメント

環境対策における各国の温度差 小泉環境相の沈黙 インドネシアの「恒例」煙害

2019-09-25 23:19:17 | 環境

(【9月23日 情報速報ドットコム】)脱石炭火力の具体策を問われて沈黙する小泉環境相)

 

【各国の温暖化対策の温度差 小泉環境相の沈黙 欧州は戦略的に環境対策重視】

国連気候行動サミットでのスウェーデンの高校生環境活動家グレタ・トゥンベリさんの「How dare you!」(よくもそんなことを!)という怒りのスピーチが話題になっていますが、各国の温暖化対策の温度差も明らかになっています。

 

石炭火力発電所の新設・増設を続ける日本はアメリカと並んで、あまり熱意が感じられない部類に分類されています。

 

石炭火力はイメージとは違ってクリーンだとの主張もあるようですが、問題は小泉環境相の(セクシー発言よりは)脱石炭火力の具体策を問われたときの「・・・・」という沈黙でしょう。

 

****国連女性幹部の助けでやっと記者団から解放****

記者から「石炭は温暖化の大きな原因だが、脱石炭火力に向けて今後どうする?」と質問された小泉氏。

 

即座に「減らす」と答えたが、記者から「どのように?」と具体策を尋ねられると答えに詰まった。

 

6秒間の沈黙後、出てきたのは「私は大臣に先週なったばかり。同僚、環境省スタッフと話し合っている」と苦しいコメント。

 

隣に座るクリスティアナ・フィゲレス国連気候変動枠組条約前事務局長から「これは日本だけの問題ではない。彼は大臣になって10日、何をすればいいのか分からなくても驚かない」と助け舟を出してもらい、その場を乗り切った。【9月24日 J-CASTテレビウォッチ

****************

 

小泉氏が沈黙したのは大臣になったばかりというだけでなく、政府にそういう考えがなく、当然に具体策もないからであり、その意味では「減らします」と即答断言した小泉氏の“意気込み”は、これまでとは異なるものなのかも。

 

日本の石炭火力発電技術が優れており、(SOx、NOxの排出量について)クリーンだという議論は、たとえそうであるにしても、CO2排出が重視される現在の世界の流れを考えると、温暖化対策を軽視しているという国際的イメージのリスクを過小評価しているようにも。

 

一方、欧州は温暖化対策・環境対策を戦略的に最優先課題として、国際的影響力発揮の梃とするだけでなく、国内の極右・ポピュリズム勢力台頭への対抗策、経済活性化の手段とする方向にあります。

 

****欧州、地球温暖化対策が最大の政治課題に***** 

欧州連合(EU)では、地球温暖化対策が最大の政治課題として浮上する。

 

11月に就任するフォンデアライエン次期欧州委員長は、環境対策を最優先課題に掲げ、今後10年で1兆ユーロ(約120兆円)の投資を目指す方針だ。反移民のポピュリズム(大衆迎合主義)政党が伸長するEUで、環境対策は中道勢力巻き返しのカギと位置付けられている。

 

フォンデアライエン氏は今夏発表した施政方針で、2050年に温室効果ガスの排出量を「実質ゼロ」にする目標の法制化を公約した。実現に向け、30年までに排出量を1990年比で55%削減する新たな目標を表明。これまでの目標は40%だったが、「より野心的に取り組む」と主張した。

 

ドイツのメルケル政権は20日、気候変動の総合対策を閣議決定した。23年までに540億ユーロ(約6兆4千億円)の拠出を目指す。排出量の少ない鉄道を割安にし、航空機への課税を強化する方針で、電気自動車購入の助成金を増額する。

 

EUでは、環境ビジネスを経済テコ入れの核にしようという動きも進む。独仏両国は今年5月、電気自動車(EV)向け電池の開発に向け、官民共同で最大60億ユーロ(約7500億円)を投資する計画を発表した。マクロン仏大統領はEV生産推進で、仏自動車業界の再生を目指す。

 

環境重視の政策は、EU有権者の関心の高まりを反映したものでもある。5月のEU欧州議会選では環境政党が躍進。緑の党がドイツで21%、フランスでは13%を得票し、左派陣営の主力政党に躍り出た。

 

今春実施のEU世論調査では、93%が気候変動を「深刻な問題」と位置付けた。ドイツや英国、北欧など8カ国では「世界が直面する最も深刻な課題」とする回答が、貧困やテロを上回って首位になった。

 

今夏、欧州各国は熱波で史上最高気温を記録し、独仏では40度を超えた。仏政府は1400人以上が猛暑で死亡したと発表。英国でも列車の減速運行を迫られるなど、異常気象が庶民生活に打撃を与えている。環境活動家、グレタ・トゥンベリさんに呼応する若者デモもEU各国に広がった。【9月24日 産経】

****************

 

仕事中に聞こえてきたTV放送のためうろ覚えで恐縮ですが、小泉環境相も何かの会合で、「政府の政策というと安全保障や財政などがあげられるが(何を例示としてあげたかは忘れました。別のものだったかも)これからは環境があげられなければならない」みたいな発言をしていたようにも思います。

 

温暖化対策に限らない欧州の環境対策重視の一例として、フランスの殺虫剤禁止の取り組みも。

 

****パリなど仏5都市、殺虫剤の使用を禁止****

フランスで、首都パリを含む5つの都市が12日、市内での殺虫剤の使用を禁止した。地方部で始まった反化学物質運動が広がりを見せている。

 

殺虫剤禁止に踏み切ったのは、パリに加え、北部リール、西部ナント、南東部グルノーブル、中部クレルモンフェラン。生物多様性と市民の健康の保護の必要性をその理由に挙げている。

 

とはいえ、公園や緑化スペースで公共機関が合成殺虫剤を使用することはすでに法律で禁じられているため、今回の都市部での殺虫剤禁止措置は象徴的な意味合いが大きい。

 

フランスでは今年1月から、個人の庭でも合成殺虫剤の使用が全土で禁止されていて、天然成分のもの以外は使用が認められていない。

 

政府は住宅地から5〜10メートル以内の範囲での殺虫剤の使用禁止を提案しているが、環境活動家らからは十分な施策ではないと批判を受けている。 【9月12日 AFP】AFPBB News

*******************

 

最初に読んで、蚊やハエ用の殺虫剤スプレーの連想して、「いくら生物多様性といっても・・・」とも思ったのですが、そうではなくて、(多分)農業・園芸で使用するネオニコチノイド系殺虫剤の話で、生物多様性云々は花粉の受粉を媒介するハチやチョウの激減、いわゆる「沈黙の春」現象が急速に進行していることを意識したもののようです。

 

【インドネシア貧困地区ではプラごみは「宝物」】

環境対策に温度差があるのは先述のとおりですが、途上国などになると全く異なる様相にもなります。

 

近年問題視されているプラスチックごみですが、インドネシアの貧困地区では生計を立てる「宝物」にもなります。

 

****プラごみは「宝物」、輸入廃棄物で生計立てる貧困地区住民 インドネシア****

金目の廃棄物を拾い集めて子どもたちの学費を捻出したと、クマンさんは日焼けした顔に笑みを浮かべて話した。クマンさんの住むインドネシア・バングンでは廃品集めが盛んで、住民の多くはその恩恵を受けている。

 

各国が使い捨てのプラスチックごみ問題に取り組む中、バングンの人々にとってごみは現金に等しい。住民の約3分の2は廃棄されたペットボトル、プラスチックの包装やコップを拾って選別し、地元企業に売ることで何とか生計を立てている。

 

クマンさんはAFPの取材に「3人の子どもがいる…全員が大学に行った」と、くるぶしまでごみに埋もれながら誇らしげに語った。「私が一生懸命ごみを拾い集めたおかげだ」

 

バングンは、インドネシアで最も人口が多い島ジャワに位置する貧困地区の一つ。住民たちは、米国、英国、ベルギー、中東などから送られてくる廃棄物から再利用できるものを拾い集めて売ることで生計を立てている。

 

リサイクルごみの最大輸入国だった中国が今年、輸入禁止に踏み切ったことで、世界中のリサイクルごみ業者が混乱に陥り、大量の廃棄物が今度は東南アジアに送られるようになった。バングンでもそれ以来、ごみの量が増えている。

 

国際環境保護団体グリーンピースによるとインドネシアのプラスチックごみの輸入量はここ数年で急増しており、2017年後半は月1万トンだったものが、2018年後半には同3万5000トンにまで拡大。グリンピースは、プラスチックごみの増加は環境と健康に甚大な被害をもたらすと警告している。(中略)

 

■環境保護主義者と住民たちの考えは平行線

しかし、環境保護主義者の見方は異なる。使い捨てプラスチックが夜間に燃やされ、町中に有毒ガスをまき散らし、マイクロプラスチックが水路に流れ込んでいると指摘する。

 

インドネシアは中国に次いで世界2位の海洋汚染国で、2025年までに自国海域におけるプラスチックごみを約70%削減するという目標を掲げている。

 

NGO「エクトン」の環境保護活動家で、ノーベル賞にも例えられる「ゴールドマン環境賞」を受賞したプリギ・アリサンディ氏は「(ごみの受け入れはインドネシアの)私たちにとって高くつく。医療制度の面でも、次世代のために環境をよみがえらせるにしても金がかかる」と指摘する。

 

だが、バングン住民の考えは全く違うようだ。

クマンさんは「ごみはここでは宝物だ」と話す。「なぜかって? 朝に乾かして選別すると、夕方にはお金になっているからだ」 【翻訳編集】

********************

 

【恒例ともなったインドネシア野焼き・森林火災の煙害】

インドネシア関連の環境問題として毎年メディアを賑わすのが、野焼き・森林火災の煙害(周辺国への影響、健康被害など)です。いささか恒例行事になった感もありますが、今年は近年では最悪の事態ともなっています。

 

****煙害で空が一面真っ赤に インドネシア****

インドネシアで大規模な森林火災による煙害が深刻化している。スマトラ島中部ジャンビ州では先週末から週明けにかけ、昼間の空が一面赤く染まる現象がみられた。

 

ソーシャルメディアには、同州の村落や幹線道路が真っ赤な霧に覆われたような画像や動画が投稿された。

インドネシア気象気候地球物理庁(BMKG)はインスタグラムで、これは日光が大気中の大きな粒子に当たった時に起きる散乱現象だと説明した。

 

BMKGによると、赤い霧が観測された日の衛星画像では、ジャンビ州周辺にPM10(直径10マイクロメートルまでの粒子状物質)の濃度が高い地点が集中していた。

 

ジャンビ州では先週末、大気汚染の度合いを示すAQI(空気質指数)も、住民に重大な健康被害の恐れがある「危険」レベルに達した。

 

隣接するリアウ州は23日、大気汚染の深刻化を受けて緊急事態宣言を出した。

 

煙害は近隣諸国にも及んでいる。マレーシアでは汚染地域の生徒らにマスクが配られ、約600の学校が一時休校となった。

 

インドネシアの森林火災による焼失面積は32万8000ヘクタールを超え、数百人の住民が避難を強いられた。緊急対策当局によると、現地には消防要員ら9000人余りが出動している。

 

インドネシア警察は野焼きなどによる人為的な火災が大半を占めるとの見方を示し、これまでに200人近くを逮捕した。【9月25日 CNN】

*****************

 

上記記事にもあるように、毎年、周辺のマレーシアやシンガポールにも汚染が広がり国際問題ともなります。煙はタイやフィリピンにも到達しているようです。

 

****インドネシア、煙害深刻 森林火災、有害物質で死者****

インドネシアで、大規模な野焼きや森林火災によって有毒な煙が発生する「煙害」(ヘイズ)が深刻となっている。近隣のマレーシアシンガポールにも大気汚染は広がって生活に深刻な影響を及ぼし、互いに責任をなすりつけ合う外交問題に発展している。(中略)

 

 ■周辺国でも街かすむ

煙害は、マラッカ海峡を越えて周辺国にも及ぶ。マレーシアの首都クアラルンプールでは20日、超高層のペトロナスツインタワーが、かすんで見えていた。

 

銀行員のジェーン・ウォンさん(50)は、職場でマスクが配られ、出勤以外は外出を避けている。「目やのどの乾燥がひどく、家とデパートと職場を車で訪れるだけ」と嘆いた。

 

教育省によると、19日までに2600校以上が休校に。ボルネオ島サラワク州では、政府が「とても健康に悪い」と認定する汚染値に達した。マハティール首相は「ドローンで人工雨を降らせることも検討している」と述べた。

 

シンガポール政府も「この3年間で最悪レベル」としている。20日からは観光客が集まるF1グランプリが開かれ、主催者は観客用のマスクも用意した。

 

 ■違法野焼き、対策打てず

煙害は毎年起きており、エルニーニョ現象で乾期が長引くと、被害はより深刻になる。引き金は、アブラヤシ農園などの開拓で繰り返される違法な野焼きだ。「開拓方法として最も手軽で安上がりだからだ」と、インドネシアの中部カリマンタン州の林業局長は取材に話した。

 

インドネシアの国家警察は、計249人を放火容疑で捜査中だ。野焼きを依頼した疑いで六つの企業も調べている。

 

原因を作っているのはインドネシアだけではないとされる。同国政府は、同国内でマレーシアなどの外国企業も野焼きをしていると主張している。

 

マハティール氏は「企業が国外で煙害を出した場合、罪に問えるようにする」と述べ、法改正を検討していると表明した。シンガポールのズルキフリ環境相は、インドネシアに支援の用意があると伝えた。ただ、国をまたいでの対策やルールはまだなく、解決への道筋はついていない。【9月23日 朝日】

********************

 

インドネシア国内でマレーシアなどの外国企業も野焼き云々の非難の応酬も例年のことです。

 

上記記事にもあるように、アブラヤシ農園などの開拓ための野焼きが多く、また、泥炭地が多いため、いったん火が付くと消火が難しく、大量のCO2を排出することにもなります。

 

当然に健康被害も。

 

****インドネシア森林火災、大気汚染が子ども1000万人に健康リスク 国連****

インドネシアで続く森林火災による大気汚染が、1000万人近い子どもたちの健康を危険にさらしていると、国連が25日警鐘を鳴らした。

 

インドネシアの森林火災により数週間にわたって有害な煙霧が東南アジアの空を覆い、学校や空港は閉鎖に追い込まれ、人々はマスクを買い求めたり、呼吸器系の不調を訴え医療機関に駆け込んだりしている。科学者らは温室効果ガスが大量放出されていると指摘している。

 

インドネシア政府は、農業用地とするために森林が焼き払われたことから広がったこの火事に対処するため、数万人規模の人員と消防飛行機を動員している。同様の火事は毎年のように問題になるが、今年は日照りが続いたため2015年以来最悪の事態となっている。

 

国連児童基金(ユニセフ)によると、スマトラ島とボルネオ島のインドネシア領のうち最も被害が深刻な地域には、18歳未満の子ども1000万人近くが居住しており、うち4分の1は5歳未満だという。

 

幼い子どもは免疫が発達していないため特に被害を受けやすく、また母親が妊娠中に大気汚染にさらされると子どもが低体重で生まれるといった問題が生じる可能性があるという。

 

インドネシア各地ではまた大気環境の悪化によって多数の学校が休校になり、数百万人の子どもたちが授業を受けられない状態が続いている。

 

ユニセフのデボラ・コミニ氏は「インドネシアにとって、大気環境の悪化は日増しに大きくなる深刻な問題」だと述べ「数百万人の子どもらが毎年、健康を脅かし、学校を休む原因となる有害な空気を吸っている…結果として、生涯にわたる身体的な損傷や認識能力の衰えにつながる」と語った。

 

インドネシアと並行してブラジルのアマゾンやオーストラリアなど世界各地で山火事が多数発生しており、科学者らは地球温暖化に及ぼす影響について懸念を強めている。 【9月25日 AFP】

*******************

コメント

ロシア  経済停滞 制裁と軍拡の重荷 反体制派の動きに「報復」 変わらぬ体質

2019-09-24 22:59:39 | ロシア

(ロシア・モスクワの投票所で統一地方選の投票を終えた野党勢力指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏(201998日撮影)【913日 AFP】 「報復」的な一斉捜索にユーチューブで「プーチンは腹を立て、じだんだを踏んでいる」とも)

 

【停滞する経済に歳出拡大で成長押上げを図るも、制裁・軍拡競争の重い負担】

中東で影が薄くなったアメリカに代わって、シリアなどで存在感を示しているのがロシアですが、そのシリア問題も最近はやや膠着状態というか、メディアに取り上げられる機会も少なくなって、ロシアに関する話題も少なくなった感があります。

 

そうしたなかで、ロシアがメディアに取り上げられる際には、このところプーチン大統領の支持率がパッとしないという話がつきまといます。

 

きっかけは国民に不人気な年金改革ですが、根底には停滞気味のロシア経済の現状があります。

 

プーチン大統領としても、いろんな手段で求心力、国民支持を保つにしても、まずは経済の活性化が必要になります。(それが難しいので、他の手段に走るという側面もありますが)

 

****ロシアが今後3年で大規模投資事業向け歳出拡大、成長押し上げ狙う****

ロシア財務省は19日、向こう3年間で大規模な公共投資やインフラ整備に振り向ける歳出を拡大し、経済成長の押し上げを目指すと表明した。

今年の経済成長は1%強と、昨年の2.3%から減速する見通し。ロシアは2024年までに世界の五大経済の一角を占めることを目標としており、現在は新たな成長エンジンを必死に模索しているところだ。

こうした中で財務省は、道路建設から医療制度近代化まで多岐にわたる案件を対象に来年2兆ルーブル、21年に2兆3000億ルーブル、22年に2兆7000億ルーブルを投じる。

同省は、来年国内総生産(GDP)の0.8%になると予想される財政黒字が、22年には同0.2%まで縮小するとの見通しも示した。【920日 ロイター】

*****************

 

ロシア経済活性化のためには、上記のような成長エンジン育成・大規模歳出拡大もさることながら、クリミア併合で欧米から制裁を受けている現状を改善するのが先決だと思いますが、クリミアはともかく、ウクライナ東部に関してもなかなか難しい状態にあることは、919日ブログ“ウクライナ  治素人ゼレンスキー大統領 ウクライナ東部をめぐるロシアとの交渉に着手”でも取り上げたところです。

 

****ロシアのクリミア併合から5年、膨らみ続けるコスト****

クリミア併合関連の制裁、2014年以降にロシア経済を6%下押し

賃金は停滞、外国投資は枯渇-世論にも変化表れる

 

プーチン大統領がウクライナのクリミアを併合して5年たつが、ロシアが支払うコストは膨らみ続けている。

  

ロシアのクリミア併合は依然として大半の国が認めず、ロシアを処罰するため米欧が主導して制裁など幅広い措置を打ち出している。

 

一方、ロシアは新たな発電所や本土とクリミアを結ぶ大橋への巨額の投資など、クリミアを自国経済に統合しようと躍起だ。

 

だが、主要輸出品である原油の価格低下ですでに打撃を被っていたロシアと同国市民は、外国投資の落ち込みと上がらない賃金という痛みも強いられている。最近の調査によると、クリミア併合への市民の強い支持は失われつつある。(中略)

  

ブルームバーグ・エコノミクスのアナリストらは、制裁が過去5年間にロシア経済を最大6%下押ししたと推定している。

 

アナリストのスコット・ジョンソン氏が昨年末に発表した調査によると、現在のロシア経済は2013年末に予想されていた水準を、10%余りに相当する1500億ドル(約167100億円)下回る。このうち4%は原油安が原因だが、残りは制裁やその他の要因だという。

 

制裁が近く解除される見込みは薄い。そればかりかロシアは2016年の米大統領選に介入した疑いを持たれているため、制裁が強化される可能性すらある。

 

米国が制裁対象に加えたロシアの企業や個人の数は2014年以降に4倍増え、700余りに達した。米政府内では追加制裁案を準備しており、年内に制裁対象がいっそう拡大する展開もあり得る。

 

景気低迷は、ロシアの一般市民に賃金として行き渡る資金の量が減ることを意味する。クリミア併合以降、ロシアの平均賃金は月3万ルーブル(約5万円)をかろうじて上回る水準で停滞する。(中略)

  

外国直接投資はトランプ米大統領誕生で制裁が緩和されるとの期待が浮上した2017年にやや上向いたが、最近は落ち込みが激しい。昨年にはマイナスにすら転じた。

 

経済的な圧迫がロシアの一般市民を苦しめる中で、クリミア併合を巡る世論にも変化が表れている。モスクワを拠点とする世論調査機関「世論基金(FOM)」が14日発表した調査によると、併合がロシアに害よりも利益をもたらしていると考える人の割合は39%と、2014年末の67%から大きく減少した。【319日 Bloomberg

*****************

 

こうした状態では、アメリカとの軍拡競争にはいる余力はロシアにはないように思われますし、そうした方面に固執すると、冒頭の規模投資事業向け歳出拡大といったことも難しくなり、更に基礎体力を弱めることにもなります。

 

****核軍拡競争で疲弊するロシア****

(中略)プーチンは、このミサイル(事故が報じられている核動力源を使う巡航ミサイル)や極音速ミサイルなどの開発を行っている。

 

ロシアは核大国としての軍事能力を高めるのが、国際社会での存在感を発揮する近道と考えているようであるが、こういう動きは核軍拡競争につながる。

 

しかし、核軍拡競争を始めれば、ロシアは経済的・財政的理由から、米中両国には結局負けるだろう。

ロシアこそ、核軍備管理に熱心になるべきであると思われるが、INF(中距離核戦力)条約を失効させ、さらに新START(戦略兵器削減)条約の延長にも否定的な姿勢を見せている。今度の事故以上に不可解な対応である。

 

812日付の米ウォールストリート・ジャーナル紙の社説は、核軍備管理の時代は終わったと述べているが、現状認識として正しいと思われる。

 

主として米国が、中国を核軍備管理のプロセスに取り込もうとしているが、現状では中国がそれに応じるインセンティブを持つ状況はないと思われる。

 

「核軍備管理の時代は終わった」というのに、呼応するかのように、818日、米国は、ロサンゼルス沖で、地上発射型中距離巡航ミサイルの実験に成功した。

 

続いて824日、ロシアが北極圏に近い海域で、潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)の実験を行ない、成功したと発表した。

 

米国のエスパー国防長官は、中国に対抗してと述べているが、ロシアは米国に対抗したと言っている。スターウォーズの軍拡競争で冷戦中にソ連は負けて崩壊したように、新たな軍拡競争で、疲弊してしまうのはロシアかもしれない。【95日 WEDGE

*******************

 

【報復的な反体制派締め付け】

国内経済が行き詰まり、国民のプーチン離れが指摘されるようになると、腕づくでも批判を封じ込まないと・・・という発想になるのが、プーチン体制の基本体質のようです。

 

先の統一地方選挙では、反プーチンの抗議行動が表面化して国際的にも注目されたモスクワ市議選は、プーチン与党は大きく議席を減らす結果となりましたが、政権側の「報復」も強まっているとの指摘も。

 

****露反体制派に本格捜査 モスクワ市議選の与党苦戦で報復****

ロシアの治安当局が反体制派指導者、ナワリヌイ氏の団体に対する本格的な捜査に乗り出した。

今月8日に行われたモスクワ市議選(定数45)では、同氏らの抗議行動を受けて政権与党が苦戦を余儀なくされた。政権側は報復として、大規模な家宅捜索や資産凍結でナワリヌイ一派の締めつけを図っている。

 

連邦捜査委員会と警察、国家親衛隊はこのほど、ナワリヌイ氏が主宰する「汚職との戦い基金」の事務所や関係者宅など、全国約40都市の200カ所以上を一斉捜索。パソコンなどの機器類を押収し、銀行口座を凍結した。資金洗浄容疑の捜査だと説明されている。

 

露メディアや政治専門家の間では「モスクワ市議選のような事態が繰り返されるのを防ぐため、政権側がナワリヌイ氏の活動基盤の弱体化を狙っている」との見方が支配的だ。

 

モスクワ市議選をめぐっては、選管が反体制派の候補者登録を拒否したことが問題化。ナワリヌイ氏が呼びかけた一連の抗議デモには計10万人超が参加したとみられ、2千人以上が治安当局に拘束された。

 

ナワリヌイ氏はさらに、政権批判票の分散を防ぐため、各選挙区で最も当選可能性の高い非与党候補に票を投じる「賢い投票」を訴えた。

 

開票の結果、プーチン政権の与党「統一ロシア」系の議席は改選前の38から25に減少。残る20議席は体制内野党の共産党や「公正ロシア」、リベラル政党「ヤブロコ」が獲得した。政権支持率の低下に加え、「賢い投票」戦略が野党躍進につながった。

 

ナワリヌイ氏は「基金」を通じた高官の汚職告発で知られ、近年は地方にも支部組織を広げてきた。当局の大規模な捜査が逆に、政権への反発を招く可能性も指摘されている。【920日 産経】

*******************

 

モスクワ市議選以外の首長選挙で「与党が圧勝」したということも、その内実は“プーチン流「疑似民主主義」”との指摘も。

 

****プーチン流「疑似民主主義」****

(中略)8日に首長選が行われた16構成体のうち実に13カ所では、前任の首長が任期途中で解任され、プーチン氏によって新たな「首長代行」が任命されていた。その地方と全く縁のない者が据えられることも多い。

 

ロシアの選挙では現職が圧倒的に有利だ。報道での露出度が非常に高く、政権や地方当局は、公務員や国営企業の従業員を投票に大量動員できるためである。

 

プーチン氏は「選挙は危うい」と思われる首長を事前に退任させ、「首長代行」を有利な現職の立場で選挙に臨ませるのである。

 

反体制派の立候補登録には、地方議員の署名を多数集めねばならないといった高いハードルがある。対抗馬は親大統領の「体制内野党」からの候補者だけであり、仮にプーチン氏が決めた与党候補が敗北しても打撃は限定的だ。

 

今回の統一地方選については「与党圧勝の勢い」と報じられている。それはしかし、事前の首長すげ替えを含むさまざまな策を弄し、政権が必死のてこ入れを行った結果だ。

 

もはや20年近くとなったプーチン体制の綻びは、今回の選挙結果をもっても変わらない。(後略)【910日 産経】

*******************

 

反体制派締め付けについては、行き過ぎの結果綻びを呈することも。

 

****ロシア抗議デモで俳優に「不当判決」 最高検察庁が釈放を要請****

ロシア最高検察庁は19日、野党勢力を支持するデモで警官に暴力を振るったとして逮捕され、禁錮36月の有罪判決を言い渡された俳優について、釈放と判決の変更を裁判所に要請した。不当な判決だとして、有名俳優が大勢参加する連帯運動やデモが起きていた。

 

渦中のパベル・ウスチノフ氏は、ほぼ無名の新人俳優。先月行われたデモで警官を暴行したとして、今週モスクワ地裁で禁錮刑を言い渡された。本人は、デモの現場に居合わせただけだと主張していた。

 

ウスチノフ氏の逮捕をめぐっては、地下鉄駅の近くで携帯電話を片手に立っていた同氏に向かって複数の機動隊員が突進し、警棒で殴りつける様子を捉えた動画がある。

 

警察が正当な理由なくウスチノフ氏を攻撃した証拠といえるが、検察側は同氏が逮捕時に抵抗して警官の肩を脱臼させたと主張。動画の内容は裁判では考慮されず、人々の大きな怒りを招いた。

 

判決を受け、映画スターから聖職者までが参加する大規模な連帯運動が起き、普段は政治の話をしない俳優ファンたちもソーシャルメディアでウスチノフ氏の一件を話題にした。クレムリン(ロシア大統領府)前では1819日、数百人がデモを行った。

 

最高検察庁は19日夜、ユーリ・ポノマリョフ次席検事がウスチノフ氏を釈放するよう地裁に求めたと発表した。ウスチノフ氏の有罪判決や同氏の行動の解釈には異議はないと強調しつつ、量刑は「厳しすぎ」て不当であり、判決を変更する必要があるとしている。事実上の判決撤回とみられる。

 

地裁は20日、ウスチノフ氏の釈放について検討する。

 

モスクワではこの夏、98日投開票の市議会選で当局が野党候補を排除したことに抗議する大規模デモが相次ぎ、厳しい取り締まりで一時は数千人が身柄を拘束された。これまでに6人が禁錮24年の有罪判決を受けている。 【920日 AFP

*********************

 

詳細は不明ながらも、ちょっと変わった話も。

 

****プーチン氏の追放目指したシャーマン、精神科病棟に収容される ロシア****

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領をその職から追い払うため、首都モスクワへ向かって歩いて旅していたところを拘束されたシベリア出身のシャーマン(霊媒師)が、精神科病棟に収容されたことが分かった。当局が20日に明らかにした。

 

自称シャーマンのアレクサンドル・ガビシェフ氏は、同国東部に位置する地元サハ共和国からモスクワまでの行程の約3分の1を踏破したものの、19日夜にバイカル湖近くで拘束された。

 

サハ共和国保健省は、「ガビシェフ氏はきょう、共和国内の精神科医療施設に移送された」とし、同氏はそこで「専門的な治療」を受けると発表。「この患者に症状が確認されたら、適切な治療を提供する用意が整っている」と述べた。

 

だが政権に批判的な人々は、反体制派らを統合失調症や偏執症と診断して閉じ込めるという、旧ソ連時代に幅広く用いられた「懲罰的な精神医学」と呼ばれる手法を用いているとして、当局を非難している。

 

ガビシェフ氏は今年3月、テントなどの持ち物を積んだ簡素な荷車を引きながら、約8000キロ先の首都モスクワを目指して歩き始めた。同氏は諸都市を通過しながら支持者らと出会い、その一部は旅に加わったり、旅の様子を動画撮影したりした。

 

また、ガビシェフ氏のプーチン大統領に対する単刀直入な発言はメディアの注目を集め、ソーシャルネットワーク上では共感の声が上がった。(中略)

 

ガビシェフ氏の拘束後も残された信者らは、同氏が描かれ、「シャーマンの道:ロシアに自由を取り戻すため」というスローガンが記された旗を掲げながら歩き続け、その様子を撮影した映像をインターネット上に投稿した。

 

信者の一人であるビクトル・エゴロフ氏は、「治安当局はわれわれの指導者を逮捕した。われわれの目標は、彼の自由を確保するために歩き続けることだ」と語った。 【922日 AFP

********************

 

この自称祈祷師は“モスクワに向かう道中でメディアの取材に応じていた容疑者はプーチン氏を悪魔と断じて「自然は彼を好んでいない。彼のいる所には破局とテロがある」と主張。プーチン氏を追い払えば「長年にわたって平穏と繁栄が訪れる」と訴えていた。”【920日 時事】とか。

 

政権側が怒るのもわかりますが、「懲罰的な精神医学」という話になると、“変わった”というより“怖い”話と言うべきでしょうか。

 

【ロシアの“隠蔽体質”と“国家的不正体質”】

長くなったので、詳細は省きますが、相変わらずロシアの“隠蔽体質”を示すことになったのが、天然痘ウイルス保管施設での事故。

 

“天然痘やエボラウイルス保管施設で爆発…「軍事機密」露は全容明らかにせず”【922日 読売】

 

地球上から根絶した天然痘の、世界に2カ所しかないウイルス保管施設での爆発火災なんて、ドラマの中だけの話かと思っていましたが、現実に起きるとは・・・。しかも、8月のミサイル実験場で起きた爆発で放射線量の一時的な上昇も確認されたにもかかわらず、「軍事機密」を理由に全容は明らかにされていないという案件があったばかりです。

 

日本では40年以上前に定期種痘は廃止されています。

天然痘ウイルスが流出するような事態になれば、全人類にとって深刻な問題ともなります。「軍事機密」で済まされる話ではありません。

 

注目されるもう1件は、ロシアの“国家的不正体質”をうかがわせる話題。

 

“ロシアのドーピング検査データに疑義 操作の可能性も”【923日 朝日】

 

平昌冬期オリンピックから締め出されたのに“懲りない”というか、ドーピングと縁を切れない問題が何かあるのでしょうか?

コメント

エジプト  “my favorite dictator”に対する「恐怖と沈黙の壁」を破る異例の抗議デモ

2019-09-23 22:50:15 | 北アフリカ

(エジプトのシシ大統領の退陣を求めるデモ参加者=カイロで21日、ロイター【9月23日 毎日】)

 

【「安定」の対価としての「強権支配」】

エジプトでは2011年、チュニジアのジャスミン革命に触発される形で当時のムバラク大統領に対する抗議活動がタフリール広場などで広がり、ムバラク政権が崩壊するという「アラブの春」が展開されました。

 

しかし、このムバラク政権崩壊、その後のムスリム同胞団ムルシ大統領と反対派の確執など、政治・社会・経済の混乱に対する国民不満を背景に2013年にシシ氏が軍事クーデターで実権を掌握し、その後選挙で大統領に選出され現在に至っています。

 

シシ大統領の統治については、ジャーナリズムの制約、徹底したムスリム同胞団弾圧など、強権支配と言えますが、2018年の大統領選ではシシ氏が97%の得票で再選されたように、国民は「混乱を伴う自由」より「強権支配による安定」を選択したとも言えます。

 

そのシシ大統領は今年4月には憲法改正で2030年までの任期延長を可能としています。

 

****強権で「盟主」目指すエジプト シシ大統領2030年まで任期延長****

(中略)「エジプトは再びアラブのリーダー国家を目指している。シシ氏はそのために権力を自身に集中させ、改革を一気に進めたいと考えている」。中東政治に詳しいヨルダン大学戦略研究所のムーサ・シュテイウィー所長はそう分析する。

 

エジプトは20世紀の中東戦争でイスラエルと何度も戦火を交え、「アラブの盟主」として君臨した。だが資源大国サウジアラビアの影響力拡大、非アラブのトルコやイランの台頭もあり、近年は中東での存在感が相対的に低下。

 

11年の中東民主化要求運動「アラブの春」では約30年続いたムバラク政権が崩壊し、その後モルシ政権もクーデターで倒され、混乱が続いた。

 

14年に発足したシシ政権は「治安維持」を理由に反政府活動家らを次々に拘束し、強権で国民の不満を抑えてきた。東部シナイ半島や砂漠地帯ではイスラム過激派によるテロも起きるが、シシ政権は過激派掃討作戦を強化。

 

11〜12年に1〜2%台だった経済成長率は15年以降、4%台に回復した。シシ氏は首都機能移転などの大型事業も進め、ある国会議員は「強権で息苦しいが、経済改革には手腕を発揮している」と話す。

 

近隣国では今月に入り、強権的な指導者が国民の抗議デモを受けて相次いで失脚し、「アラブの春第2幕」などと評されている。アルジェリアでは20年間政権を維持したブーテフリカ大統領が辞任。スーダンでも30年にわたる圧政を続けたバシル大統領が軍に解任された。

 

こうした中、今回の改憲案ではエジプト軍の義務について「憲法と民主主義の擁護」との項目が加えられ、軍による政治介入強化の懸念も浮上。近隣国の動きの「飛び火」を防ぐため、国民への締め付けが強まる可能性もある。

 

改憲案では、司法当局者の任命権限も大統領に大幅に付与されるため、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは「軍が強化され、司法の独立も脅かされている」と警告した。(後略)【4月19日 毎日】

********************

  

経済面で見ると、上記記事にもあるように政治的安定を背景に、経済も回復基調にあるようです。

ただ、一方で強権支配による“閉塞感”があるのも否めません。

 

****エジプトに広がる異論許さぬ閉塞感 抵抗の火種まく****

シーシー氏が大統領に就任した2014年以降、エジプトでは反体制派やメディアの弾圧が強化されてきた。

 

今回の憲法改正で同氏の出身母体である軍の政治介入が進み、司法にも大統領の意向が強く反映される公算が大きい。「シーシー時代」の長期化で、異論を許さない閉塞(へいそく)感が拡大するのは確実な情勢だ。

 

「2期8年(の任期)を守る」。シーシー氏は17年、米メディアのインタビューでこう確約していた。国民投票で示された「民意」に従うとの立場を示すとみられるが、正当性をめぐる疑問は少なくない。

 

国会は16日、531対22の圧倒的多数で改憲案を可決し、その4日後には投票が始まった。内容を理解せず賛成票を投じた人もおり、ネット上には投票後に食べ物などが配られたとする写真も出た。

 

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチなどによると、政権は2、3月、160人以上の反体制派を拘束または訴追。改憲反対を呼びかけたネットのサイトは開設の数時間後、アクセス不能になった。

 

有力メディアはほぼ国家の統制下にあるとされ、野党議員のタンタウィ氏(39)は「人権状況はムバラク政権時代(1981〜2011年)より劣悪だ」と話す。

 

シーシー氏は歴史的に政権と緊張関係にあるイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」や、スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)の制圧を進め、世俗派の支持を得てきた。

 

ただ、「治安に対する脅威」という大義名分は反体制派の摘発にも使われているとの見方がある。首都カイロのある大学教授は「政権は同胞団の脅威を誇張しすぎだ。政権浮揚に利用しているようにみえる」と話した。

 

軍は幅広く経済分野に進出し、カイロ郊外で建設が進む首都機能移転やスエズ運河拡張など、国の威信をかけた巨大プロジェクトを手がける。改憲を機に軍の肥大化がさらに顕著になり、民間の成長や競争を妨げることになりそうだ。

 

政治的な締め付けや経済低迷が長引けば、「アラブの春」でムバラク政権が崩壊したように、いずれ民衆の大規模な抗議デモとなって政権を揺るがしかねない危うさをはらんでいる。(カイロ 佐藤貴生)

*******************

 

ちなみに、最近トランプ大領の「my favorite dictator」(私のお気に入りの独裁者)という発言が話題にもなりました。

 

****トランプ氏発言物議、エジプト大統領は「好きな独裁者」****

トランプ米大統領が先月、エジプトのシシ大統領との首脳会談を待つ間に「私のお気に入りの独裁者はどこだ?」と冗談交じりに発言していたことが、現場に居合わせた複数の関係者の話で分かった。

 

首脳会談は、仏ビアリッツ主要7カ国(G7)首脳会議に合わせ、高級ホテルの一室で行われた。トランプ氏の発言を聞いた米、エジプトの当局者らは、トランプ氏は冗談のつもりだと考えていたものの、その場の空気は一瞬凍り付いたという。

 

その場にシシ氏が居合わせたか、または発言を聞いたかは不明。

ホワイトハウスはコメントを控えた。エジプト当局者のコメントは得られていない。

 

発言が軽い冗談であったとしても、両国関係を巡り、居心地の悪い側面に注目が集まりそうだ。

 

国連の報告書や国務省などによると、シシ氏は2013年のクーデター後に権力の座について以降、数千人の政敵を拘束したり、拘束者を拷問・殺害したりしている疑いが持たれている。

 

米政府はエジプト政府の人権侵害疑惑について公の場で非難していない。エジプトは過激派との戦いだとして、その立場を擁護する姿勢を示している。

 

トランプ氏は、ロシアのプーチン大統領やトルコのエルドアン大統領、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長、中国の習近平国家主席など、独裁者として知られる世界の指導者との個人的な関係を誇示している。(後略)【9月14日 WSJ】

****************

 

「my favorite dictator」・・・・たとえ建前にせよ、なんにせよ、アメリカが自由主義の守護者の立場にあった数年前は考えられない発言ですが、トランプ大統領の本音・姿勢、時代の変化がよくわかるジョークです。

 

【「恐怖と沈黙の壁」を破る異例の抗議デモ】

その「dictator」が力で封じ込めようとしてきたテロの方は、相変わらず頻発しています。

 

****カイロで車爆発、20人死亡 エジプト大統領「テロ」と非難****

エジプトの首都カイロ中心部で4日深夜、爆発物を載せた自動車が猛スピードで他の自動車に衝突し、大規模な爆発が起きて20人が死亡した。エジプト当局が5日、明らかにした。同国のアブデルファタハ・シシ大統領は「テロ事件」と非難した。(中略)

 

内務省と警察はいずれも、イスラム主義組織「ムスリム同胞団」の関連武装組織「ハスム」による犯行が疑われるとしている。 【8月6日 AFP】

*******************

 

一方、「dictator」に対する不満の方は、これまで強権支配で封じ込まれていましたが、ここにきて抗議行動が表面化する異例の事態ともなっています。

 

****エジプト、カイロなどで異例のデモ 若者たちが「シシは去れ」と気勢****

エジプトの首都カイロなど複数の都市で20〜21日、シシ大統領の退陣を求める抗議デモがあった。

 

参加者は数百人と小規模だったが、街頭でのデモが事実上禁じられているエジプトでは異例。AFP通信などによると、治安当局は70人超を拘束したという。

 

2011年の中東民主化要求運動「アラブの春」の中心地となったカイロのタハリール広場では、若者たちが「シシは去れ」などと気勢を上げた。アレクサンドリア、スエズなどの主要都市でもデモがあったという。

 

デモを呼びかけたのは、スペイン在住のエジプト人実業家。シシ氏について「公費で豪華な大統領宮殿を建てている」などと告発する映像をSNSで最近発信していた。

 

一方、シシ氏は「中傷だ。私は国民に誠実だ」と反論。デモは、シシ氏が国連総会出席のため渡米中のタイミングで起きた。

 

エジプト情報省は毎日新聞を含む外国メディア向けに声明を出し、デモには直接言及せずに「ソーシャルメディアは捏造(ねつぞう)が多く、信用すべきでない」などと主張した。

 

エジプトでは約30年続いたムバラク政権が11年に崩壊し、12年の大統領選でイスラム組織「ムスリム同胞団」主体のモルシ政権が発足。だが13年に当時国防相だったシシ氏がクーデターで実権を握り、14年の大統領選で初当選した。

 

イスラム過激派の掃討作戦を強化し、治安改善を進めるシシ政権には一定の評価がある一方、同胞団関係者やジャーナリストを次々に拘束する強権姿勢を懸念する声も根強い。今年4月には憲法が改正され、シシ氏が最長で2030年まで大統領にとどまることが可能となった。【9月23日 AFP】

******************

 

“北東部の港湾都市スエズでは、大勢のデモ隊と治安部隊が衝突。デモ参加者らによると治安部隊はデモ隊に向けて催涙弾や実弾を使用した。”【9月22日 AFP】と治安部隊による「実弾使用」の報道も。

 

al jazeera net は、今回の抗議が2011年の抗議活動を想起させるとしつつ、“消息筋は、今回の抗議が2011年の様な規模と熱意は見せていなくとも、政権が強制してきた「恐怖と沈黙の壁」を破り、エジプト人が街頭に出たことが重要である。”とも報じているとか【9月21日 「中東の窓」より】

 

もっとも、ムスリム同胞団に一定に共鳴するカタールのal jazeera(アルジャジーラ)ですから、ムスリム同普段を弾圧するエジプト・シシ政権に対しては批判的になることも念頭に置く必要があります。

 

今回の異例の抗議行動が広がるのどうかは、もう少し様子を見る必要がありそうです。

この時期、シシ大統領は国連総会で演説するためニューヨークを訪問中で、エジプトにはいません。

 

なお、今年6月に拘束されていたムルシ元大統領が死亡したことで、ムスリム同胞団側の反発も懸念されていました。

 

****ムルシ元大統領は「獄死」と反発 エジプト情勢不安定に****

中東に広がった民主化運動アラブの春」を受けて、2012年にエジプト初の文民大統領に就任したものの、軍に拘束されて失脚したムハンマド・ムルシ元大統領(67)が17日、開廷中の刑事裁判所で倒れ、死去した。

 

勾留中のムルシ氏の処遇については人権団体が懸念を示していた。ムルシ氏を支持するムスリム同胞団は事実上の獄死と見なしてデモを呼びかけており、治安当局との衝突が懸念されている。(後略)【6月18日 朝日】

*****************

 

【近隣諸国の「アラブの春第2幕」】

エジプトの「恐怖と沈黙の壁」を破る“異例の抗議行動”が注目される背景には、近隣諸国に広がる政治的な変化が存在するためでもあります。

 

アルジェリアでは20年間政権を維持したブーテフリカ大統領が辞任。スーダンでも30年にわたる圧政を続けたバシル大統領が軍に解任され、強権的な指導者が国民の抗議デモを受けて相次いで失脚する「アラブの春第2幕」などと評されています。

 

スーダンでは軍と抗議デモ勢力との間で合意が成立し、民政移管に向けて新政権が動き始めています。

 

****スーダン首相、新内閣の陣容発表 民政移管へ大きく前進****

スーダンのアブダラ・ハムドク新首相は5日、新内閣の陣容を発表した。同国では、長年にわたり独裁体制を敷いていたオマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領が失脚し、新内閣の発足により民政移管に向けて大きく前進した。

 

ハムドク氏は、バシル氏と同氏を失脚させた軍人らの退陣を求めて何か月も抗議活動を行ったデモ隊指導部が推薦した候補者らを検討し、予定より数日遅れて新内閣の陣容を発表した。

 

ハムドク氏は記者会見で、18人の閣僚には同国初の女性外務大臣となるアスマ・モハメド・アブダラ氏を含め、女性4人を起用したと明らかにした。また「暫定政権の最優先課題は、内戦を終結させ、持続可能な平和を実現することだ」と述べた。

 

新内閣は民政移行期間の3年3か月の間、日常的な行政に当たる。

 

アフリカや国際的な機関でキャリアを積み、最近までエチオピアの首都アディスアベバで国連アフリカ経済委員会の副事務総長を務めていたハムドク氏は3日、組閣の陣容発表が遅れた理由について、「ジェンダーバランス」の達成のためだったと述べた。また、新内閣には国内の全地域の代表を参加させることを望んだと説明した。【9月6日 AFP】

*****************

 

アルジェリアの方は、やや不穏な情勢になっています。

 

****政治空白続くアルジェリア、デモ隊の首都立ち入りを禁止****

アルジェリアのアハメド・ガイドサラハ軍参謀総長は18日、政治改革を求めて各地から集まってきたデモ隊の首都アルジェへの立ち入りを阻止するよう警察に命じた。

 

アルジェリアは今年4月、長期政権を維持してきたアブデルアジズ・ブーテフリカ前大統領が抗議デモにより辞任に追い込まれて以降、政治空白に陥っている。

 

前大統領の辞任後も数か月にわたって大規模デモが続いているが、暫定政府は12月に大統領選を実施すると発表した。

 

デモ隊は、選挙の前にまず政治改革と前大統領派の排除を行うよう求めている。一方、ガイドサラハ氏は何としても年内に大統領選を実施する構えだ。

 

アルジェでは昨年2月以降、毎週火曜日と金曜日にデモ隊が結集している。

 

ガイドサラハ氏によると首都立ち入り禁止令は、デモ隊を首都に輸送する「車やバス」を食い止めるのが目的。車両を押収し「所有者に罰金を科す」としており、移動の自由を悪用して「市民の平和を害する」「悪意ある複数の集団」への対策として必要だとしている。 【9月19日 AFP】AFPBB News

*******************

コメント

減少する脱北者  難しい韓国社会への適応 若い脱北者からは人気ユーチューバーも

2019-09-22 21:49:49 | 東アジア

(【【625日 金 明中氏 ニッセイ基礎研究所】】)


【金正恩政権成立以降、減少傾向の韓国入国「脱北者」】

北朝鮮から韓国に入国する「脱北者」は、金正恩政権成立以降大きく減少しています。

 

****脱北者が減少傾向に、その理由は?*****

2012年以降、脱北者が減少傾向に

最近、韓国に入国する脱北者の数(以下、脱北者数)が大きく減少している。脱北者数は2009年に2,914人でピークを迎えた以降、減少し始め2017年にはピーク時の半分以下である1,127人まで減少した。特に、2012年以降脱北者数は急減している。

韓国で脱北者に関する統計を公表し始めたのは1993年からである。韓国政府の資料によると、1993年の脱北者数は8人に過ぎなかったが、1999年以降急増し始め、2002年からは年間1,000人規模まで、2006年からは年間2000人規模まで増加した。

 

最初の脱北者は軍人が多く、軍事境界線(38度線)や海を越えて韓国に入るケースが多かった。しかしながら、近年の脱北者は、留学生、外交官、貿易従事者、海外派遣労働者、高級官僚などと多様化している。

 

つまり、最近の脱北者は以前と比べて中流階級以上の者が多くなったと言える。また、脱北の経路も第3(中国やロシア)を経由した入国が90%以上を占めている。

90
年代後半から2010年前後にかけて脱北者が増加した最も大きな理由としては、北朝鮮の経済状況の悪化と食糧不足が挙げられる。

 

70年代と80年代の北朝鮮の主要貿易相手国は、旧ソ連と東ヨーロッパの社会主義国家であった。しかしながら、1991年に旧ソ連が崩壊し、東ヨーロッパの社会主義国家が市場経済に体制を転換することにより、対外ルートが断絶され貿易が難しくなった。

 

その結果、1990年から1998年までの経済成長率は9年連続でマイナスを記録し、一人当たりGNI1990年の1,146ドル(アメリカドル)から1998年には573ドルまで減少した。

 

さらに、95年以降続いた北朝鮮での自然災害は食糧供給をさらに悪化させ、飢餓者が続出した。いわゆる「苦難の行軍1」時代の餓死者数は、少なくは23万人から多くは300万人と推計されている。

 

経済状況が悪化し、食糧不足が続く中で、食糧や自由を求め、命がけで脱北の道を選択する人々が増えることになったのである。ある調査によると脱北の最も大きな理由としては「食糧不足と経済難(50.7%)」が、次いで「自由を求めて(31.2%)」、「北朝鮮の体制が嫌で(26.2%)」が挙げられた。

 

脱北者が減少した理由は?

では、2012年以降、脱北者数が急減した理由はどこにあるだろうか。その最も大きな理由として考えられるのが政権交代である。

 

201112月に金正日元総書記がなくなったことにより、金正日元総書記の三男である金正恩氏が委員長に就任し、金正恩政権が誕生した。金正恩政権は脱北者が増加すると、政権を維持することが難しいと判断し、中国との国境に対する監視体制を強化した。

 

脱北を防止するために国境付近の警備員の数を増やし、脱北者や脱北者を見逃した国境警備隊に対する処罰基準を強化した。

 

脱北は国境警備隊と脱北を助けるブローカーが結託することにより行われるケースが多かったが、金正恩政権以降、国境統制が強化されることになり、両者の結託が難しくなったのである。その結果、国境警備隊と脱北を助けるブローカーなどに渡される脱北費用は1200300万ウォンから1,000万ウォンまで釣り上げられたそうだ。

また、過去には脱北を試みた者が脱北に失敗し逮捕されれば、労働鍛錬隊や教化所などの刑務所に送られるのが一般的だったものの、最近は政治犯が収容される管理所、いわゆる強制収容所に送られているそうだ。

 

強制収容所は最も隔絶された場所に位置しており、ここに収容されている政治犯などは炭鉱労働、トンネル工事など最も危険な労働に従事させられている。北朝鮮では強制収容所は収容されると二度と生きて出てこられないと言われるほど恐怖の対象である。脱北費用の上昇と処罰の強化等の複合的要因が脱北者の減少に影響を与えた可能性が高い。

図表2(冒頭)は2002年から韓国に入国する脱北者の推移を示している。

 

一つ特徴的なことは、最近、女性脱北者の増加が目立っていることである。全脱北者に占める女性の割合は2002年の55.3%から2017年には83.3%まで増加した。

 

このように女性の割合が大きく増加している理由としては、女性の方が職場に拘束されている男性より移動の自由度が高い点が挙げられる。つまり、食糧などを求めて、あるいは生活費を稼ぐために中国などに密入国した女性が、北朝鮮の現実を理解して、そのまま帰らず脱北の道を選択したことが女性脱北者の増加に繋がっている。

 

結びに代えて

韓国に入国する脱北者の数は大きく減少したものの、今後も脱北者が継続して発生することが予想される。韓国政府は脱北者に対して、韓国への定着費や住居費などを支給し、職業訓練をさせるなど継続的に支援を実施している。

 

しかしながら、若者を中心に韓国での生活に適応できないケースが多いのが現実である。入学しても自分の出身地やアイデンティティを隠さなければならないストレスなどで学校生活に適応できないケースもあり、韓国の学生との教育水準(特に英語や数学)に差を感じて学校を辞めるケースもある。

 

韓国政府は10代の若者が学校生活に適応し、卒業できるように代案学校(フリースクール)を設立するなど対応に追われている。

韓国政府にとって、今後若者を含めた脱北者が韓国社会に溶け込むような政策を実施することが何より大事である。 【625日 金 明中氏 ニッセイ基礎研究所】

*******************

 

上記記事の数字を補足すると、“2018年に北朝鮮を脱出した住民(脱北者)は1137人で3年前に比べ108%減少したが、年齢層をみると50代と60歳以上はむしろ増加した。”【913日 ソウル聯合ニュース】ということで、全体数の推移は変わっていないようです。

 

【韓国社会への適応が困難な脱北者も】

脱北者が減少傾向にある理由として、上記記事は、金正恩政権による規制の強化をあげていますが、記事の最後にもあるように、脱北者が韓国で生活することの難しさが北朝鮮内で知られるようになったこともあるのではとも指摘されています。

 

“李議員は「脱北者の減少に関し正確な原因は分析されていないが、北で金正恩(キム・ジョンウン)政権が発足した後、国防警備隊による警備が強化され、中国側も監視を徹底したためという指摘がある」と伝えた。また、韓国に逃れた脱北者が社会に適応できないという問題が北朝鮮に伝わり、脱北者減少につながったとの報道もあるとした。”【同上 ソウル聯合ニュース】

 

もちろん韓国側が何も配慮していない訳でもなく、脱北者の生活安定に向けた教育なども行われています。

 

****金一族称賛教育で基礎知識欠如、脱北者らに「再教育」 韓国****

北朝鮮から脱出したリ・グァンミョンさん(31)が韓国に来て最初にしたことは、学校へ戻ることだった。北朝鮮で教育を終えてから12年がたっていた。

 

リさんは韓国ソウルのウリドゥル学校へ通う数少ない成人の一人だ。この学校では、年を取っていたり、学業に遅れがあったりするためしかるべき公立学校へ通うことができない脱北者らが学んでいる。

 

昨年、韓国に到着してから半年後に学校へ通い始めたリさんは、「北で教育を受けて卒業もしたが、あまり知識がない」と語った。

 

韓国には特別な目的のために設立された学校が7校あり、そのうちの一つであるウリドゥル学校には約60人が在籍している。同校のユン・ドンジュ校長は、ここでは韓国での生活を「左右する」教育が無償で脱北者に提供されていると話し、「少なくとも文化、言語、社会、歴史の再教育は不可欠だ」と続けた。

 

北朝鮮は、自国の識字率は100%で、無償の義務教育が社会主義体制の優位性を示していると豪語する。だが、貧困にあえぐ北朝鮮から逃れて来る人々は、基本的な知識を欠いているため韓国で苦労することが多い。

 

脱北者らによると、北朝鮮の学校では指導者の称賛に多くの時間が割かれている他、極度の貧困や国外への脱出によって教育が中断されることも多い。また、1990年代半ばに国家経済が破綻し、飢饉(ききん)で数十万の犠牲者が出た時、多くの子どもが教育を断念せざるを得なかったという。

 

北朝鮮の教育カリキュラムでは、北朝鮮を支配する金一族に焦点を当てた革命についての授業が最重要科目の一つとなっている。(後略)【94日 AFP】

*******************

 

しかし、悲惨な事例も。

 

****脱北した母親と息子が餓死か、ソウル市内で抗議デモ****

 韓国の首都ソウルのアパートで北朝鮮から脱出した女性と息子が餓死したとみられるケースをめぐり、文在寅(ムンジェイン)大統領に謝罪を求める脱北者数百人らが21日、同市内でデモを実施した。

 

デモ隊は当局が脱北者の福祉を無視していると主張し、死亡したハン・ソンオクさんを「返せ」と唱えて行進した。

42歳のハンさんと6歳の息子は、今年7月に遺体で発見された。数カ月前から水道代を滞納していたため、様子を見に行った検針員が異臭に気付いて警察に通報した。

 

部屋の冷蔵庫が空になっていたことから、警察は餓死の可能性があるとの見方を示した。しかし遺体の腐敗が進んでいたため、死因は特定できなかった。

 

韓国では母子の死を受けて、徹底調査や再発防止策を求める声が高まった。韓国統一省は今月、謝罪のコメントとともに対応策を発表。韓国にいる脱北者全員の現状を調査し、政府機関同士の情報共有を強化するなどの計画を示したが、脱北者団体はさらなる改善を要求している。

 

ハンさんは2007年に北朝鮮を脱出した。脱北者仲間としてハンさんを長年支援していた活動家によると、中国に住む韓国系中国人の夫に売り渡されたが、その後離婚し、息子を連れて昨年ソウルに移り住んだ。息子にてんかんがあって目を離せず、働くことができないとして生活保護を申請したものの、書類の不備を理由に却下されていたという。

 

韓国は1998年以降、計3万2000人の脱北者を迎え入れてきた。当局は脱北者に一時金や生活保護を支給しているが、金額が不十分との指摘もある。子育てなどのため仕事に就けない人が多く、昨年の調査によると脱北者の失業率は一般市民より2.9%高かった。【922日 CNN】

**********************

 

【経由地中国でセックスワークを強要される女性脱北者 その客は韓国人】

以上は韓国に入国した脱北者の話ですが、北朝鮮を脱出したものの、悪質ブローカーの手によって、中国でセックスワークを強要される女性も多いようです。その客の大半が韓国人という指摘も。

 

****「客の大半は韓国人」中国の“ネット性売買”で北朝鮮女性が被害に****

米ニューヨーク・タイムズは13日、中国で脱北した北朝鮮の女性たちが望まないセックスワークを強要され苦しんでいる実態を報じた。これに対し国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が「中国国内の脱北女性たちがうけている残酷な人権侵害の一例だ」と指摘したと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。

 

ニューヨーク・タイムズによると、イ・ジニ(仮名)という脱北女性は中国東北部地域のアパートの一室で一週間、PCの前に座り、正午から翌日午前5時までビデオカメラの前で淫らな行為をさせられ、その様子をネットを通じて客に見せることを強要された。いわゆる「アダルトビデオチャット」だ。

 

北朝鮮から中国に逃げ出した脱北女性が、人身売買の犠牲となりセックスワークや「アダルトビデオチャット」を強いられる事例はこれまでも多数報告されている。

 

イさんは2年前、中国でレストランの従業員として働くと聞いて脱北したが、中国人のブローカーに引っかかり人身売買の犠牲となってしまった。同紙に証言したもう一人の女性、キム・エナ(仮名)さんは中国でマツタケを採る仕事と聞いて越境したが、中国人のブローカーに引っかかってしまった。

 

彼女たちには一定額のノルマが与えられ、それを達成しない限り、食事も取られず体調が悪くてもPCの前で、淫らな行為を行わなければならないと明かす。顧客の大半は同じ言語を使う韓国人男性だという。

 

これまで多くの人権団体が、毎年何千人もの北朝鮮女性たちが人身売買の犠牲となり、中国の田舎で結婚していない中国人男性に売られたり、売春やサイバーセックスを強要されていると指摘している。(中略)

 

ニューヨークタイムズに紹介された2人の脱北女性は、セックスワークを強要されていたが、北朝鮮へ帰ることは考えたことがなかったという。韓国へ行ってお金を稼ぎ、北朝鮮に残っている家族を脱北させることが彼女たちの目的だったからだ。

 

彼女たちは、運良く韓国のキリスト教の牧師に助けられ、ブローカーから逃れて韓国に入国することができ、自分たちの悲惨な体験を証言した。しかし多くの女性の心の傷は深い。韓国に在住する脱北女性のキム・ジヘさん(仮名)は、次のように述べた。

 

「中国に脱北した女性たちはパスポートはおろか身分証を持てない。だから、否が応でも中国にいなければならない。頼る人もおらず、その境遇から抜け出すこともできない。生きていかなければならないので仕方がなく、そうする(セックスワークに従事)しかない。私にもそのような境遇にいた知人がいるが、そうした話は口にしたがらない。女性だからその気持ちがわかる」(中略)

 

韓国の文在寅政権は金正恩体制との対話には積極的だが、脱北者らの人権問題については及び腰だ。それが事実でないと反論したいならば、こうしたビデオチャットへの韓国からの接続を徹底的に遮断することから、具体的な行動を始めてはどうだろうか。【922日 デイリーNKジャパン

*******************

 

【若い脱北者の中には、北朝鮮での生活・脱北体験を活用して人気ユーチューバーになる人も】

もちろん、なにごとにおいても、うまく時流に乗れる人も存在します。

 

韓国の脱北者でも、若い人のなかには、その体験をうまく活用している人々もいるようです。

適応力の差でしょうが、北朝鮮での体験も高齢層とは異なるようです。

 

****若い脱北者、続々と人気ユーチューバーに ****

北朝鮮の日常を包み隠さず語る動画、注目集める

 

11年前に脱北したホ・ジュンさん(27)は韓国でより良い生活を求め、熱心に勉強し、同国で最も誉れ高い大学への入学資格を勝ち取った。

 

だが、ホさんの目指す先は、輝かしい学歴が不要な職業へと変わった。人気ユーチューバーだ。

 

ホさんがユーチューブに投稿する動画には、「共産主義者、スパイ、あるいは反逆者」である自分を道行く人々がハグできるか試す内容だったり、脱北者がデートアプリを試したりする様子などがある。

 

韓国の人気ボーイズグループ「BTS(防弾少年団)」のミュージックビデオを見てリアクションする自分自身の姿も撮影した。チャンネル登録者数は最近、10万人を突破した。

 

「われわれ脱北者は関心を集めるという点で優位性がある」。ホさんは広告収入で月に数千ドルを稼いでいると話す。ソウル大学での勉学を中断するのに十分な収入だ。(中略)

 

K-POPアイドルのような容姿のカン・ナラさん(22)は、大学のキャンパスを歩いていると周囲が気づくほどの有名人だ。地元メディアが「北朝鮮美人」と呼ぶカンさんは、北朝鮮を題材にした映画に出てくるアクセントを皮肉る動画や美容系動画を専門とする。

 

「セレブになれてうれしい」とカンさんは話す。

 

こうした動画を見るのは主に韓国人だ。韓国の児童や生徒が反共産主義の詩やポスターを作り、全国コンクールで競い合ったのはそれほど昔の話ではない。だがこのところは南北の融和ムードが高まり、脱北者や金正恩体制への関心が広がっている。

 

自由を求めて

一方、「暴露」路線のユーチューバーに当惑する年上の脱北者もいる。彼らは伝統的に注目を浴びるのを避けてきたからだ。率直に発言する者はほぼおらず、もし声を上げても、体制批判の一環として悲惨な逃走劇を語るなどに徹していた。

 

これに対し、若い世代は北朝鮮に対する見方が比較的穏やかだと年上の脱北者は話す。推定200万~300万人が食糧難で死亡した1990年代の大飢饉などを経験していないからだという。

 

「もっと重要な問題に関心を向けてほしいと思う。だが彼らに強制することはできない」とソ・ジェピョンさん(49)は話す。20年近く前に脱北したソさんは現在、大規模な脱北者団体のリーダーを務めている。

 

韓国統一省によると、195053年の朝鮮戦争の後、北朝鮮から約32000人が韓国に逃げてきた。だが脱北の理由は様変わりしている。韓国政府が委託した調査によると、わずか7年前には主な動機が食糧難と経済的困窮だった。現在、一番に挙げられるのは自由を求めるためだ。(中略)

 

チャンネル登録者が10万人に達した(冒頭紹介の)ホさんには、ユーチューブから「銀の盾」が贈られる。あと1学期で大学卒業だが、企業などへの就職を急ぐつもりはないと語る。

 

「ユーチューブのチャンネルで十分な稼ぎがあるのに、企業で働く理由があるだろうか」。ソウル中心街のシックなワンルームマンションに住むホさんはこう話す。

 

人気が衰えない限り、今後もユーチューブ動画を作り続けるつもりだ。「北朝鮮出身という経歴を恥じることはない。それが私という人間だ」【829日 WSJ】

********************

 

適応力も、体験も様々ですが、上記ホさんのような成功事例は例外的な部類ではないでしょうか。

コメント

インドネシア  イスラム主義的な新刑法、汚職捜査機関「骨抜き」で問われるジョコ大統領の指導力

2019-09-21 22:38:24 | 東南アジア

(インドネシア大統領選で「再選確実」と報じられ、メガワティ元大統領(左)と握手するジョコ大統領(右)=2019417日【418日 朝日】)

 

【議会が進める婚前・婚外交渉を禁止する刑法改定案 一般市民からは不満も ジョコ大統領は採決延期要請】

インドネシアは世界最多のイスラム教徒を抱え、その人口に占める割合は87.21%と圧倒的多数派です。

(なお、その他宗教ではキリスト教徒が9.87%、ヒンズー教徒が1.69%となっています。【外務省HPより】)

 

しかし、イスラム教が「国教」という訳ではなく、逆に多様性を認める「寛容」が国家の基本理念“でした”。

 

“建国の父スカルノ初代大統領の英断でインドネシアはイスラム教を国教とはせず、キリスト教、ヒンズー教、仏教など他宗教をも認めることで多種多様な民族による国家の統一維持を目指したことから、国是は「多様性の中の統一」であり、「寛容」こそがそのキーワード、と言われている。”【82日 大塚智彦氏 JB Press

 

そうしたインドネシアにあっても、スマトラ島北部のアチェ州は厳格なイスラム教の教えが重視され、これまでの中央政府との対立・抗争の経緯もあって、シャリア(イスラム法)が認められている特別な地域となっています。

 

そのため、男女交際などイスラムの教えに背く罪に問われた男女が公開むち打ち刑に処せられるというニュースがしばしば登場します。

 

****男女6人に公開むち打ち刑、人前での愛情表現で インドネシア****

インドネシア・アチェ州で19日、公衆の面前で愛情表現をみせ、地元で施行されているシャリア(イスラム法)に違反したとされるカップル3組に対し、公開むち打ちの刑が執行された。

 

刑は同州の州都バンダアチェにあるモスクの前で執行され、覆面姿の執行官が、愛情表現をしていたところを捕らえられた男性3人と女性3人に対し、とうのつえでそれぞれ20回から22回打った。

 

刑を受けた女性の一人は、痛みによって顔をしかめ、倒れ込んだ。

6人全員はすでに数か月収監されていたという。

 

スマトラ島の最北端に位置するアチェ州は、世界最大のイスラム人口を持つインドネシアで唯一シャリアが施行されている。賭博や飲酒、同性愛者間の性行為、婚前交渉などが犯罪とみなされ、罰としてむち打ち刑が適用されることが珍しくない。 【919日 AFP】

*********************

 

しかし、冒頭で・・・・「寛容」が国家の基本理念“でした”・・・・と過去形で書いたように、こうしたイスラム教の価値観を重視する宗教保守的な風潮がアチェ州以外のインドネシア全土に広がっているという件は、これまでもしばしばブログで取り上げてきました。

82日ブログ“インドネシア  多様性を認める寛容さ旨とする国家に広がる不寛容”など)

 

“しかし、実際のところ最近のインドネシアを覆っている空気は、圧倒的多数のイスラム教徒による「暗黙のイスラム優先の押し付けと他宗教による忖度」で、性的少数者のみならず民族的少数者、宗教的少数者など「少数者」への偏見と差別、人権侵害が堂々とまかり通る深刻な状況に陥っているのが現状なのだ。” 【82日 大塚智彦氏 JB Press

 

こうしたイスラム教の価値観を重視する昨今の風潮を反映した法律が成立目前となっています。

 

****婚外の性交渉は犯罪、インドネシア新刑法案が通過へ 人権団体が懸念****

インドネシアで配偶者以外の相手と性的関係を持つことを禁じた刑法の改正案が成立する見通しとなり、実質的に同性関係を否定するものだとして人権団体などが批判を強めている。

 

改正案は議会下院の法務委員会で18日に承認され、24日に行われる本会議の採決を経て成立する見通し。準備期間を経て約2年後に施行される。

 

これに対して人権団体は、女性や少数宗教、LGBTに対する差別を助長するとして強く反発。改正案には大統領を侮辱した者に対する罰則も盛り込まれたことから、言論の自由や結社の自由が脅かされると批判している。

 

改正案では婚外関係に対して1年以下の禁錮を規定、近親者が警察に被害届を出せば、カップルが訴追される可能性がある。

 

人権団体によると、条項の中に同性関係に言及した具体的な文言はないものの、実質的に同性関係は全て犯罪と見なされる。さらに、「わいせつ行為」を禁じる規定がLGBTに対して適用され、半年以下の禁錮を言い渡される恐れがある。

 

未婚のカップルが同居している場合も、警察に通報されれば半年以下の禁錮または罰金を言い渡される可能性がある。近親者が通報しなかったとしても、村の首長が警察に通報することもできる。

 

人工妊娠中絶については、中絶手術を行うかどうかの決定権は医師のみにあると規定。中絶した女性に対しては禁錮4年、女性の中絶を助けた場合は禁錮5年の罰則を定めた。

 

さらに、大統領や副大統領に対する侮辱を犯罪とみなす条項も盛り込まれ、言論の自由が脅かされないとの懸念が強まっている。

 

国際人権保護団体のヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、宗教に対する冒とくの罪の規定も拡張され、最大5年の禁錮刑が維持される。同団体の上級研究員は法案が成立すれば「インドネシアはイスラム国家になる」「シャリア(イスラム法)からむち打ちを除いたものに依拠しているのと同然だ」と批判した。

 

新刑法の準備には数十年が費やされた。2015年に法案を提出したヤソンナ法務・人権相によると、本法案は100年前のオランダ統治時代の刑法を置き換えるものになる。現行法は今の社会に適さない規定もあり、より国民の生活に即した内容になるという。ヤソンナ氏は「全員が全ての条項に同意しているわけではないが、全員の意見を聞いていたら法案は通過できず、最良のものを作れた」と語った。【920日 CNN】

******************

 

ジョコ・ウィドド大統領は、かつてイスラム保守勢力によって血祭りにあげられたキリスト教徒華人バスキ・プルナマ(通称アホック)ジャカルタ特別州知事を政治的パートナーにしていたように、個人的にはこうした風潮には賛同しない立場とは思われますが、先の大統領選挙でイスラム教穏健派重鎮を副大統領候補としたように、現実政治の場においてはイスラム勢力との妥協を余儀なくもされています。

 

そうした状況にあって、ジョコ大統領は今回の新刑法の採決延期を議会に求めています。

 

****インドネシア、婚前交渉禁止案に批判 大統領が採決延期要請****

インドネシアで、同性・異性間の婚前・婚外交渉を禁止する刑法改定案が議会を通過する見通しとなり、世論の反発を呼んでいる。ジョコ・ウィドド大統領は20日、議会に対し法案の採決延期を要請した。

 

ウィドド大統領は反発が出ていることから、刑法改定案は慎重に吟味されるべきだと表明。来週の会期終了前に予定されている採決の中止を議会に要請した。

 

改定案が成立すれば、婚前・婚外交渉を持った男女は禁錮6月〜1年と罰金を科される可能性があり、世界最大のイスラム教国である同国で暮らす多数の人々に影響が及ぶ恐れがある。また、インドネシアでは同性婚が合法化されていないため、新法は同国の小さな性的少数者コミュニティーを罰するものになるとの懸念も生まれている。

 

在インドネシア・オーストラリア大使館は20日、インドネシアへの渡航者に対し、新法が未婚の外国人旅行者にも適用される可能性があるとして、注意を呼び掛けた。

 

インドネシアでは、オランダ植民地支配時代にさかのぼる刑法の改定をめぐる議論が数十年前から続いていた。昨年には一時、改定案が議会を通過する見通しとなったものの、立ち消えとなっていた。

 

刑法改定を目指す動きは今年、保守系イスラム団体の支持を受けて再び勢いを得たが、人権団体や一般市民の多くは私的な行為を侵害する厳格な法律だとして激しく反発している。 【921日 AFP】AFPBB News

******************

 

ジョコ大統領の指導力は発揮されるでしょうか?

 

【政治家が進める汚職摘発機関の「骨抜き」改革 ジョコ大統領の対応は?】

もう1件、大統領の指導力が問われれる案件があります。

 

****インドネシア、汚職捜査機関が「骨抜き」の危機に****

インドネシアには「最強の捜査機関」と称される組織が2つ存在する。それは警察でも検察でもなく、「麻薬委員会(BNN)」と「汚職撲滅委員会(KPK)」だ。いずれも国家委員会であり独立した国の捜査組織である。それぞれ麻薬犯罪、汚職犯罪の摘発を精力的に続けており、国民から厚い信頼を寄せられている。

 

というのも、1998年に崩壊したスハルト長期独裁政権下での悪弊である「汚職・癒着・親族主義(KKN)」の根絶こそが、インドネシアが民主国家として歩み始めて以来の最大の国家的課題であり、かつ現在も各界に汚職が蔓延しているからだ。

 

「最強の捜査機関」の手足を縛る法改正

その「最強の捜査機関」の1つ、汚職摘発を担うKPKの捜査は、日本の検察の「秋霜烈日」にも匹敵すると言われるほど、情け容赦なく、閣僚、国会議員、司法関係者などの権力者も次々と摘発し、国民からの喝采を浴びる「正義の組織」だ。

 

ところが、そのKPKが今、大きく揺らいでいる。摘発される対象者に国会議員や地方公共団体の首長、政党党首、公営企業や銀行のトップといった「VIP」が多く含まれていることから、国会で「汚職撲滅法改正案」が審議されるようになり、917日、ついに賛成多数で可決されてしまったのだ。

 

国会はすでにKPK幹部人事にも関与し、南スマトラ州警察本部長のフィルリ・バフリ氏をKPKトップの新委員長に任命している。

 

KPK関係者らによると、フィルリ氏はこれまでにKPKによる汚職捜査の容疑者となった州知事らと非公式に接触するなど倫理規定違反の疑いが持たれており、「KPK委員長として不適格」との指摘がなされている。

 

KPKが弱体化することはインドネシアのスハルト時代の「負の遺産」である汚職体質を温存するどころか、蔓延を容認することにもなりかねない。そんな懸念から、インドネシアのマスコミも珍しく足並みを揃えて反対の論調を張り、「反対」は今や国民レベルの要望となっている。

 

改正法の一部不同意を示した大統領

そこで注目されるのが、4月の大統領選で再選続投を決めたジョコ・ウィドド大統領の決断だ。

 

当初、国会の議案可決を追認する姿勢を見せていたジョコ大統領だが、国民やマスコミの反対論の大きさに配慮し、「改正法の一部修正」を表明して、国民の要求を受け入れる態度を示している。

 

101日の新内閣発足に向けて、ただでさえ各政党からの閣僚人選へのプレッシャーが高まる中、改正法で「KPK弱体化」を目論む国会と、「弱体化反対、汚職根絶継続」を望む世論との板挟みの中で、苦しい決断を迫られているというわけだ。(中略)

 

ジョコ・ウィドド大統領はこうした改正法の内容に関して、「通信傍受に関する許可申請や警察官・検察官に限定した捜査官の採用、公訴の際の最高検との調整、政府高官の資産調査権」に関して「KPKの権限の弱体化につながる」として拒否する姿勢を913日に示していたのだが、4日後には国会で可決されてしまった。

 

輝かしい汚職摘発の実績

(中略)

 

相次ぐKPK捜査官・幹部への脅迫と襲撃

インドネシアの巨悪と闘うKPKには、「権力者」側からの反発も根強い。

 

(中略)KPK捜査官はまさに命がけで捜査している。それだけに彼らの手による摘発は、汚職とは無縁の一般国民から常に絶大な支持で迎えられており、KPKへの支持率は70%以上という調査結果もある。KPKのスローガン「正直と勇気」の言葉がプリントされたシールが国中に出回っているのも、国民の支持が厚い証左だろう。

 

大統領の鼻は伸びているのか

国会では「汚職撲滅法改正案」について、一部野党は改正法に疑問を示したものの、最大与党でメガワティ元大統領が率いる「闘争民主党(PDIP)」を含む多数派の与党に加え、野党第1党の「グリンドラ党」が賛成に回ったことから可決されてしまった。

 

現状のままでいくと、1221日に国会が指名した新委員長以下の新メンバーがKPK指導部に就任することになる。それに対して現在のKPK幹部の大半は、「そういう人事がまかり通るならKPKを去る」としている。

 

KPKが完全に骨抜きにされてしまうのか、あるいはこれまで通りの最強の捜査機関として維持され、国民の溜飲を下げる大物汚職者の摘発を続けることができるのか。KPKは創設以来、最大の岐路に立たされている。

 

前述のKPK元副委員長ウィジャヤント氏は地元マスコミに対して「汚職者たちのネットワークが国会や政府にも広がっており、彼らがKPKを有名無実化しようと画策している」と国会の動きを批判している。

 

果たしてジョコ大統領は、権力者のプレッシャーをはねのけ、国民の期待に応えることが出来るのだろうか? 残念ながら、世論はかなり懐疑的な目で見ている。

 

インドネシアの週刊誌「テンポ」は、9月16日号の表紙にジョコ大統領の似顔絵を載せた。壁に映った大統領の影は、鼻が長く伸びている。

 

大統領はKPKを強化して汚職を根絶すると約束していたのに、矛盾することを行おうとしている。大統領はをついている――同国を代表する週刊誌は、大統領の本心をそう看破しているのである。【918日 大塚智彦氏 JB Press

*******************

 

【与党「闘争民主党(PDIP)」党首のメガワティ元大統領との力関係】

ジョコ大統領は国民的人気は高いものの、政党政治家としては、与党内の実権を把握している訳ではありません。

与党「闘争民主党(PDIP)」を率いるのはジョコ大統領ではなく、初代大統領スカルノの長女、メガワティ元大統領です。ジョコ大統領はPDIPの一党員にすぎません。

 

このあたりの事情が、ジョコ大統領の議会に対する指導力の制約ともなっています。

 

****今なお続くインドネシア「スカルノ一族支配」の構図***

(中略)

衆人環視の下、大統領に閣僚人事で「注文」

毎年独立記念日に大統領官邸で厳粛な雰囲気で挙行される記念式典では、全国から選抜された青少年に大統領から紅白の国旗が手渡され、それが国歌とともに中央の掲揚台に高く掲げられ、式典は最高潮となる。

 

その晴れ舞台の正面壇上、ジョコ・ウィドド大統領の斜め後ろに並ぶ歴代大統領、副大統領の列に緑色の民族衣装クバヤを着た女性がいた。メガワティ・スカルノプトリ第5代大統領でスカルノ大統領の長女である。

 

メガワティ元大統領は4月の総選挙で最大議席を獲得し、ジョコ・ウィドド大統領が所属する政党でもある「闘争民主党(PDIP)」の党首でもあり、現在のインドネシア政治の舞台裏で政権運営のカギとなる人物といえる存在である。(中略)

 

開会のあいさつに立ったメガワティ党首は演説の中で「PDIPは総選挙で最大議席を獲得した。次期内閣では当然のことながら最大数の閣僚が選ばれることと思う」と述べ、次期大統領として組閣するジョコ・ウィドド大統領に「プレッシャー」をかけた。

 

その後、演壇に上がったジョコ・ウィドド大統領は演説草稿を読み終えた最後にアドリブで「(PDIPからの入閣は)当然沢山になる」と応えて会場から拍手喝采を浴びた。

 

このやり取りを翌日の地元紙は「党の指導者が誰であるかを明確に示した」「党のメガワティ体制がさらに強固になった」「大統領に堂々と注文をつけた」などと一斉に伝えた。

 

メガワティ党首と父スカルノの2ショット看板

(中略)いくら自党所属の大統領とはいえ、閣僚の人選にまで堂々と「介入」するところに現在のインドネシア政治におけるメガワティ党首の役割がみてとれるといえる。

 

この政治の黒子のような(別に隠れて暗躍している訳ではないので黒子とも言えないが)役回りはメガワティ党首が大統領経験者であると同時にインドネシア人の誰もが尊敬するスカルノ大統領の長女であることに依るところが大きい。

 

党大会が開かれたバリ島はPDIPの牙城とされる選挙区で、街中にあふれた党大会の看板にはメガワティ党首と並ぶスカルノ大統領の写真が印刷され、スカルノ精神ともいうべき「スカルノイズム」の正統的継承者であることを印象付ける構図になっている。(中略)

 

「キングメーカー」メガワティ党首

815日付けの英字紙「ジャカルタ・ポスト」(ネット版)はこのメガワティ元大統領を「キングメーカー」と形容してインドネシア政治の裏舞台で策動する最近の様子を報じた。(中略)

 

ジョコ・ウィドド大統領のこれまでの5年間の政権運営には、所属政党であるPDIPの意向、特にメガワティ党首の意向や思惑がある程度反映されたものだった。(中略)

 

PDIPとしてはメガワティ党首が党員に過ぎないジョコ・ウィドド大統領を指導し、同時にメガワティ元大統領が大統領経験者として、さらに国民の尊敬を一身に集める独立の父の娘としてインドネシアの現在の指導者に、と大統領を取り巻く3重のしがらみの中でどこまで自己流を貫くことができるのかがジョコ・ウィドド大統領のこれからの5年間の見どころの一つとなるだろう。

 

下手をすれば執政に不慣れな幼い皇帝に対し、本来なら背後の簾の後ろにいるべき皇后や皇太后などの女性があれこれ指図する「簾政」あるいは「垂簾聴政」になりかねないのが今のインドネシア政治ともいえる。

 

地方の知事経験はあるものの国政経験はわずか5年しかない大統領の後ろの簾には政治経験豊かで正統派の血統を引き継ぐ女性が控えているのだから。【819日 大塚智彦氏 JB Press

********************

 

ジョコ大統領は規定によって3選はありませんので、次期大統領候補を誰にするかをめぐって、「キングメーカー」メガワティ党首の圧力は更に強まると予想されます。

 

そうした政治情勢の中でのジョコ大統領の指導力発揮・・・どうでしょうか?

コメント