孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  NATO東方拡大への強い不信感 日ロ首脳会談への思惑 国内統制強化の動き

2016-04-30 22:22:43 | ロシア

【4月30日 NHK】

ロシア・NATO間の相互不信
クリミア併合・ウクライナ東部での画策によって欧米から孤立し、制裁措置を受けているロシアですが、その後、シリア介入でシリア問題でのイニシアティブを握ることによって、国際情勢を左右する重要国としてその存在をアメリカなどに再認識させています。

ただ、ロシア・プーチン大統領の力による現状変更を厭わない姿勢に対し欧米側には不信感があり、特に、ロシアに近いバルト三国やポーランド、北欧諸国などではロシアへの強い警戒感があります。

一方、ロシア・プーチン大統領には、NATOの東方拡大でロシアが脅威にさらされているという考えが一連の行動の根底にあります。

そうした相互不信も強く存在するなかで、今月20日、NATO・ロシア理事会(大使級会合)が2年ぶりに開催されました。

****実力でNATOけん制か=東方拡大に不信感―ロシア****
ロシアは、約2年ぶりとなる北大西洋条約機構(NATO)・ロシア理事会(大使級会合)再開を歓迎する一方で、NATO批判の場に利用したい考えだ。

最近も東欧で米駆逐艦や偵察機にロシア空軍機を異常接近させており、実力でけん制を図っているとみられる。
 
NATO・ロシア理事会の中断のきっかけとなったロシアのウクライナ軍事介入は、ロシア側の理屈からすれば「NATOの東方拡大」への予防措置だ。ロシア外務省のザハロワ情報局長は19日、理事会でこの問題を提議すると息巻いた上で「東方拡大は1997年の基本文書の精神に反する」と批判した。
 
NATO・ロシアの基本文書は、NATO部隊を東欧に「常駐」させないことをうたっている。しかし、ウクライナ南東部への軍事介入後、米軍はロシアを脅威と見なす東欧諸国での部隊の「ローテーション配備」を開始した。ロシアから見れば、ウクライナ危機前より米国への不信感は強い。【4月20日 時事】 
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理事会では特段の進展はなかったようですが、途絶えていた会合が開催されたこと自体に意味があるということでしょうか。

****NATOロシア理事会 2年ぶり開催 緊張緩和難しく****
北大西洋条約機構(NATO)とロシアは20日、政治対話の枠組み「NATOロシア理事会」の大使級会合をブリュッセルで開いた。ウクライナに対するロシアの軍事介入後、理事会は事実上停止していたが、約2年ぶりに再開。対話継続の必要性では一致したものの、緊張緩和への道は険しい。
 
NATOのストルテンベルグ事務総長は会合後の記者会見で「率直かつ真剣な議論ができたが、意見の不一致を変えることはできなかった」と強調。ロシアが今月、バルト海で米国の駆逐艦などに空軍機を異常接近させた事案などを巡り、意見の隔たりを埋められなかったと説明した。
 
一方、ストルテンベルグ氏は「困難な問題を抱えているからこそ対話を続ける必要がある」と述べ、理事会を継続する意思を示した。双方はウクライナ東部の紛争を巡る昨年2月の停戦合意(ミンスク合意)の履行が必要との認識では一致した。【4月20日 毎日】
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NATO側が問題にしているロシア軍機による危険行動は、今月11~12日、バルト海での共同訓練中のアメリカ駆逐艦に対して行われています。

****<露軍機>米艦に異常接近 ポーランドとの共同訓練中****
米欧州軍は13日、バルト海の公海上に展開していた米軍のミサイル駆逐艦「ドナルド・クック」が11、12両日にロシア軍のスホイ24戦闘爆撃機2機から繰り返し異常接近を受けたと発表した。

アーネスト大統領報道官は「公海、公空で近接して行動する軍の規範を完全に外れたものだ」と批判し、露軍が異常接近を繰り返していると懸念を表明した。
 
欧州軍によると、駆逐艦が11日、共同訓練の一環でポーランド軍のヘリコプターと着艦訓練を行っていた時、2機が駆逐艦の周りを低空で何回も飛行した。12日にはロシア軍のKA27ヘリコプター1機が作戦行動していた駆逐艦の周りを低空で計7回旋回。約40分後に再び爆撃機2機が現れ、駆逐艦の周りを11回低空飛行した。
 
欧州軍によると、爆撃機は「攻撃時のような飛行態勢」を取った。同軍が公表した写真には、駆逐艦をかすめるように低空で飛ぶ爆撃機が写っている。

米軍は無線を通じ英語とロシア語で繰り返し注意を呼びかけたが、応答はなかった。欧州軍は「緊張を不必要に高め深刻な負傷や死亡につながる計算違いや事故という結果をもたらし得る」と非難した。
 
米露関係は、ロシアが2014年にウクライナ南部クリミア半島を編入したことで悪化。米国は対露警戒感を強めるポーランドやバルト3国との合同軍事演習を強化するなどしてロシアを抑止しようとしている。

これに反発するロシアは、核軍備増強計画を発表し米軍機や米軍の艦船に異常接近するなどして米国をけん制している。【4月14日 毎日】
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14日にもロシア軍戦闘機スホーイ27によるアメリカ軍の偵察機への危険な接近がありました。
理事会後も、同様のロシア軍機による牽制行動が続いています。

****ロシア戦闘機 米偵察機に再び危険な接近****
アメリカ国防総省は、バルト海の上空でアメリカ軍の偵察機が再びロシアの戦闘機に危険な接近を受けたことを明らかにし、アメリカ軍の航空機や艦艇に対して危険な行為を繰り返すロシア側の対応を改めて批判しました。

アメリカ国防総省は、バルト海の上空で29日、国際空域を飛行していたアメリカ軍の偵察機RC135が、ロシア軍の戦闘機スホーイ27から危険な接近を受けたことを明らかにしました。(中略)

国防総省は、去年からロシア軍機によるアメリカ軍の航空機や艦艇に対する危険な行為が相次いでいるとして強い懸念を示したうえで「二国間の緊張を不必要に高めるおそれがある」としてロシア側の対応を改めて批判しました。【4月30日 NHK】
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もっとも、危険行動ではないにしても、牽制行動はロシア側だけでなくアメリカ側も実施しています。

****米軍のF22、ルーマニアに初着陸 ロシアの軍拡牽制か****
米軍は25日、世界最先端の戦闘機とされる「F22ラプター」2機をルーマニアに初めて着陸させた。

F22は音速の2倍というスピードや高いステルス性能で知られる。ルーマニアへの派遣は北大西洋条約機構(NATO)の演習の一環として、米戦闘機の即応性を実演するのが公式の目的とされた。同時に、ロシアの軍備拡張が目立つ黒海周辺で、NATO加盟国に米軍の力を示す狙いもあった。

2機のF22はイングランド東部のレイクンヒース英空軍基地を飛び立ち、ルーマニアの都市コンスタンツァ近郊のミハイルコガルニチャヌ空港に到着。米国のクレム駐ルーマニア大使の出迎えを受け、数時間後には英国へ引き返した。

コンスタンツァはウクライナ国境やクリミア半島、ロシア海軍黒海艦隊の拠点セバストポリに近い黒海沿岸の都市。ロシアはウクライナ領だったクリミア半島を2014年に併合した。

ルーマニア空軍の参謀総長は、このところロシアによる上空での活動や作戦、訓練がますます盛んになっていると話す。クレム大使は記者団に「ロシアはこの2~3年間、当地域の不安定化をもたらしてきた」と語った。

一方でロシア側は、緊張を高めているのは同国でなくNATOのほうだと主張している。【4月26日 CNN】
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お互い“向こうが先に威圧してきたので、こちらも対抗上・・・”というところでしょう。

現在の国際状況を考えると、アメリカ・NATOとロシアの間で一定の緊張があるのはやむを得ないところではありますが、一線を越えた状況にならないよう、また、不測の事態を引き起こす危険が高まらないよう、20日に開催された会合のような話し合いの場を今後も用意していく必要があります。

日ロ首脳会談でロシア包囲網解体を狙うロシア・プーチン大統領
アメリカはロシア包囲網を維持するために、同盟国がロシアと二国間で交渉することには慎重な姿勢ですが、そうしたアメリカの制止を振り切る形で、安倍首相はロシア・プーチン大統領の会談に臨みます。

日本・安倍首相の狙いとしては、‟ウクライナ情勢などの影響を受けて、北方領土問題を含む平和条約交渉が停滞していることを踏まえ、交渉の加速化を改めて確認し、繰り返し延期されているプーチン大統領の年内の日本訪問に道筋をつけたい考えです”【4月30日 NHK】とのことで、要するに、北方領土問題交渉の土俵にプーチン大統領を引っ張り出したいというところでしょう。

一方のロシア・プーチン大統領側の思惑は・・・・

****プーチン大統領に思惑=G7包囲網解体へ―日ロ首脳会談****
ロシアのプーチン大統領が、5月6日のロシア南部ソチへの安倍晋三首相の非公式訪問を早くも歓迎している。

背景には、北方領土交渉の用意があることを示唆して日本に独自外交を促し、ウクライナ危機に伴う先進7カ国(G7)の対ロシア包囲網をなし崩しにしようとする思惑もあるとみられる。
 
日ロ首脳会談の日程は4月20日、プーチン大統領自ら各国大使の信任状奉呈式の場で明らかにした。異例の公表で「サプライズ」(外交筋)と受け止められている。
 
「米国からの圧力にもかかわらず、日本の友人たちは(日ロ)関係を維持しようとしている」。プーチン大統領は14日のテレビ特番終了後、記者団の前で、米国の反対を押し切って訪ロを決断した格好の安倍首相を高く評価した。このところロシア側に目立つのは、制裁の中で久しく見られなかった「友好ムード」だ。
 
中国は「友人」で日本は「パートナー」の位置付けだったが、ラブロフ外相は外国メディアとのインタビューで「(日本は)友人」と連呼。岸田文雄外相と15日に東京で会談後の共同記者会見でも、従来の「第2次大戦の結果、北方領土はロシア領になった」といったストレートな強硬論を封印し、交渉に応じる姿勢をアピールした。
 
ロシアとしては、クリミア半島編入の現状をまず固定化したい。中断する日本との外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)再開などを見据え、クリミアには触れないまま、日ロの2国間関係を「通常モード」(観測筋)に少しずつ近づけたい狙いがある。
 
ロシアは、ウクライナ東部の停戦合意についても「履行する意思がないのはポロシェンコ政権だけだ」と開き直っている。同様に現状を固定化したまま、欧米との緊張緩和を図りたいところで、日本はその突破口の一つとなる。
 
プーチン大統領の目標は、年内の公式訪日の実現だ。日本とは15日の外相会談で、安全保障に関する協議の場を設けることでも合意し、日ロ間の交流は息を吹き返してきている。
 
日本だけではない。プーチン大統領は10月、フランスを訪問する方向で話を進めている。ウクライナ危機を受けた対ロシア包囲網は、着々と解体に向けて進みつつある。【4月29日 時事】
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ロシア側は北方領土問題の“エサ”で日本を引っ張り込んで・・・というところのようです。

アメリカの立場とは別に、日本には日本の事情がります。いつまでも棚ぼたが落ちてくるのを口を開けて待つだけはなく、その“エサ”次第では食いついてもいいのでしょうが、疑似餌でなければいいのですが。

国内統制を強めるロシア 中国と同じ路線
ロシアは国内的には、NGOなどへのアメリカ等の外国勢力の影響を排除する方向を強めていますが、発表されたロシア国内の国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の活動拠点を閉鎖する方針も、そういう路線の延長上にあるようです。

****ロシア、人権活動へ圧力 国連機関拠点を閉鎖方針 NGOに続き****
ロシアがこのほど、国内の国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の活動拠点を閉鎖する方針を打ち出し、国連が懸念を強めている。

露側は国内の人権状況の改善を理由にしているが、国連は実態と違うと主張。政府に批判的な人権分野の非政府組織(NGO)などへの圧力を強めるロシアが、国連機関の活動にも制限を加え始めた格好だ。
 
OHCHRは重大な人権侵害事案に対し、政府や他の国連機関と連携して調査を実施し、是正を勧告する機関。旧ソ連地域を含む世界各地に拠点を持ち、ロシアでは2008年から本格的な活動を開始。大学や政府機関と連携し人権意識の啓蒙活動を行ったり、人権侵害が懸念される法律の是正勧告などを行ってきた。
 
しかしロシアのボロダフキン・ジュネーブ国際機関政府代表部大使は3月、OHCHRによるロシアの人権機関への支援はすでに十分に行われたとし、その拠点を閉鎖する方針を表明。

ロシアには「人権アドバイザー」と呼ばれるOHCHRの担当官が常駐しているが、ボロダフキン氏は「国連安全保障理事会の常任理事国で、このような国連の役人がいるのはロシアだけだ」とも述べ、ロシアの人権問題に対する国連の取り組みに不満をにじませた。
 
ジュネーブのOHCHR筋は産経新聞の取材に対し、「ロシアではまだ多くのなすべき仕事が残っている」と指摘し、露側の見解に疑問を示す一方、当該国政府の政治的な判断で拠点が閉鎖されることは極めてまれだとの見方を示した。
 
同筋は今回の事態が、人権擁護活動などに携わり、政府に批判的なNGOへの締め付けを強化する露当局の動きと「当然、一致している」と見ている。

ロシアでは近年、国外から援助を受け、「政治活動」に携わるNGOをスパイと同義の「外国の代理人」とする法律や、外国のNGOの活動を禁止できる法律が相次ぎ発効し、NGOの活動が極めて困難になっている。

OHCHR自身もこれまで、露当局による集会やインターネット上の表現の自由の規制などの動きに強い反対を表明してきた。
 
難民支援などで国際的に知られるロシアの人権活動家、スベトラーナ・ガヌシキナさんは、政府によるOHCHR拠点の閉鎖方針について「誰からも(人権問題で)指図を受けたくないという露政府の意思の表れだ」と指摘した。【4月17日 産経】
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中国もロシア同様、海外とつながるNGOが中国の体制を脅かすという政権の警戒感を強く抱いており、全国人民代表大会(全人代)常務委員会は4月28日、「海外NGO国内活動管理法」を成立させています。

一方、ロシアの有力治安機関、連邦捜査委員会のバストルイキン委員長が、中国にならったインターネット規制の導入すべしとの考えを発表しています。

“第3次プーチン政権は比較的自由な言論が許容されていたネットの統制に力を入れており、ネット上の発言を「過激主義」の取り締まり対象とする新法を施行するなどしている。
軍と特務機関、大手通信会社は14年7月、ロシアのネットを外界から遮断する演習を行っており、「有事」のネット隔離も視野にある。
今年9月の下院選や18年春の大統領選に向け、政権がいっそうの言論統制を狙っているとの見方は強い。”【4月25日 産経】

ロシアと中国、国内統制強化で似たような国情にあるようです。

なお、中国、ロシア両国は29日、弾道ミサイル発射を繰り返し新たな核実験強行への動きなども見せる北朝鮮への対抗策としてアメリカ、韓国が検討する高高度迎撃ミサイルシステム「THAAD(サード)」の韓国配備への懸念を改めて表明しています。

「THAAD(サード)」の韓国配備は、中国とロシアの戦略的な安全保障に直接的な脅威となるものであり、朝鮮半島の核問題の解決に寄与せず、既に高度の緊張関係にある現状をさらに煽り、地域の戦略バランスを崩すとも主張しています。【4月30日 時事より】
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難民問題 欧州でも、アフリカ・アジアでも オーストラリアでは「同情している訳にはいかない」

2016-04-29 22:47:47 | 難民・移民

【4月28日 AFP】

拒絶姿勢が強まる欧州難民問題 再び「地中海」ルート犠牲者も
欧州に押し寄せるシリアなどからの難民・移民の問題については、EUとトルコの難民送還合意やトルコ・レバノンにおける難民の厳しい状況などについて、4月13日ブログ「欧州難民問題 送還合意はしたものの双方に課題 トルコ・レバノンにおける難民らの厳しい生活」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160413で取り上げました。

また、難民問題でトルコの協力を必要としているドイツ・メルケル首相の苦境については、4月17日ブログ「EU  イギリス離脱には耐えられても、フランス・ドイツで反EU感情が高まると・・・」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160413でも触れたところです。

なお、メルケル首相については、エルドアン大統領からの風刺作家告訴などで難題を突き付けられているのは事実ですが、ただ「苦悩」しているだけのヤワな政治家ではなく、したたかに今後に向けて対応していること、支持率も難民増加で低落した後、トルコとの合意などで回復していることなどの“しぶとさ”も指摘されています。
(「メルケル流「エルドアン大統領侮辱事件」のしのぎ方」佐藤伸行氏 4月20日 フォーサイト http://www.fsight.jp/articles/-/41122 )

最近の話題としては、24日の大統領選で、「移民排斥」を訴える極右・自由党候補のホーファー国民議会(下院)議員(45)が得票率でトップで、2位の左派・緑の党出身候補とともに決選投票に進むことになったオーストリアで、難民流入阻止の姿勢を強めていることが報じられています。

****難民入国、拒否可能に オーストリア、下院で法案可決****
昨年中東などから多くの難民が入国したオーストリアの下院が27日、今後難民らが殺到した場合は、ほとんどの入国を拒絶できるようにする法改正案を可決した。周辺国を「安全な第三国」と見なし、難民らにこうした国で難民申請をするよう求める内容だ。人権団体は「難民保護の放棄だ」と批判を強めている。(中略)

オーストリアは伝統的に手厚い難民保護制度を持ち、昨年は約9万人が難民申請した。人口1人あたりでEUで2番目に多い。

政権は当初は難民の受け入れを表明した。だが、多くの国が難民らを素通りさせ、オーストリアに向かわせるようになると方針を転換。難民抑制策に次々と着手し始めた。

背景に、難民受け入れ反対の右翼「自由党」の勢いが止まらない事情がある。同党は政府が抑制策を出すたび、より強い姿勢を強調している。【4月29日 朝日】
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オーストリアは昨年10月にはスロベニア国境でフェンス建設を計画していることを明らかにし、今年2月には難民申請の受け入れ数を1日最大80人に制限すると発表しており、台頭する極右勢力と政権与党が対難民強硬姿勢を競いあう形にもなっています。
欧州側の拒絶にもかかわらず、欧州を目指す人々は止みません。

****せめて息子だけでも欧州へ、アフガンの親たちの苦渋の選択****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンに標的にされている同国のモハメドさんは、ズボンを少し下げて、胴回りの爆弾の破片による複数の傷痕を見せてくれた。欧州に移民らを密入国させる密航業者に10代の息子2人を託すという苦しい決断を正当化するために──。

モハメドさんの息子たちのように、欧州へ渡るアフガン人の少年たちの数が前例のないほど急増している。(後略)【4月28日 AFP】
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周辺国による「バルカンルート」の事実上の閉鎖措置及びEU・トルコの送還合意で、懸念されたように、より危険な「地中海ルート」利用者が急増しています。

“国際移住機関(IOM)によると、北アフリカや中東などからイタリアに入国した難民らは、2月は3827人だったが、3月は9677人に急増。4月11〜17日の1週間では4651人に達し、ギリシャに入国した553人の8倍以上となっている。”【4月21日 毎日】

その結果、密航船遭難の悲劇も。

****<難民>「地中海」に再び・・・密航船転覆、500人死亡か****
リビア沖の地中海でイタリアに向かっていた密航船が転覆し、難民ら約500人が死亡した恐れが強まっている。背景には、トルコからギリシャ経由でバルカン半島を北上する「バルカンルート」が閉鎖され、北アフリカからイタリアに向けて地中海を渡る「地中海ルート」をたどる難民らが再び増えている事情がある。
 
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が20日、生存者の証言として事故発生を明らかにした。確認されれば、地中海での密航船の海難事故では過去1年間で最悪規模という。(中略)

救助されたエチオピア人男性は国際移住機関(IOM)のスタッフに「妻と生後2カ月の赤ん坊が目の前の海で亡くなった。皆、数分で死んでしまった」と語った。生存者は数日間、海上を漂流。救助された際には「イタリアに行きたい」と訴えたという。

イタリアのレンツィ首相は「アフリカの兄弟姉妹が死の旅路をたどらなくて済むように手助けする唯一の方法は、出身国での雇用創出だ」と主張し、対アフリカ投資促進など難民危機対応のための欧州共同債の発行を提案している。【4月21日 毎日】
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アフリカでもアジアでも 不均衡がある限り
厳しい状況が続く欧州難民問題ですが、難民の問題は別に欧州に限った話ではなく、安全と豊かさに不均衡がある限り世界中のどこでも発生します。特に、移動や情報収集が容易になった現代では。

****難民危機」南アフリカでも アフリカ全土から十五万人が流入****
欧州への難民流人が深刻化する中で、アフリカ諸国から南アフリカヘの移住を求める移民・難民も急増している。隣国のジンバブエ、モザンビークのほか、五千キロ以上離れたエチエピア、ソマリアからも移住者が押し寄せている。

アフリカは、国連の人口統計では、最も人目増加率の高い大陸だが、猛烈な勢いで北の欧州と南アフリカに、経済機会を求めて移動している。
 
南アフリカはアパルトヘイト(人種差別体制)を克服した国家。その一方で、外国人の流入には極めて厳しく、移住者に対する暴力事件も激増中だ。
 
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、二〇一四年~一五年六月末までの一年半で、二十四力国の十五万人が南アフリカで難民申請を行った。

ただ、このうちの八一%が申請を却下された。UNHCRは、「世界の平均(申請拒否率二一%)を遥かに超えている」と、南ア政府に改善を求めている。

ヨハネスブルクなど大都市部や国境周辺では、難民テントが急増中で、「もう一つの難民危機」が進行している。【選択 4月号】
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アジアでも。

****南アジアなどから「難民」が急増 香港で政策課題に浮上****
香港で、南アジアなとがら流人する「難民」対策が政治課題になっている。
 
香港へ入国後、難民申請をして審査待ちの人は約一万一千人で、二〇一四年から倍増。毎月の新規申請者数は一三年の約十三倍に増えた。八割はインドやべトナム、パキスタン、インドネシアなどアジア渋国出身。

経済難民が多く、数年かかる審告期間中、非合法に働くとされる。
 
申請者の増加に伴い、香港行政府高官は、インドなどからの入国者に対して、事前に資格審査を行うべきと発言。三月には行政府に影響力を持つ元保安局長らが、難民を受け入れる根拠の国連拷問等禁止条約からの脱退や、申請者を収容するキャンプ建設などに言及した。
 
人権団体や、香港のインド人コミュニティが反発しているが、問題の行方は、香港の民主派陣営も注目。
「雨傘運動」を主導した「学民思潮」の関係者は、「条約から脱退すれば、中国本土からの亡命者も守れなくなる」と懸念している。【選択 4月号】
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オーストラリア・ターンブル首相「同情している訳にはいかない」】
アジアからの難民問題でしばしば問題視されるのが、オーストラリアの難民政策です。

オーストラリアは押し寄せる難民対策に苦慮し、国内には入れずに国外の施設に収容する措置をとっていますが、この国外収容施設の環境が劣悪で人道上の問題があると批判を受けています。

****オーストラリア「招かれざる客」を追い払え****
「国境を守る」ため打ち出したのは、人権を脇に置いてでも難民を追い返す政策だった

わが国に不法に入国しようとする難民船は1隻残らず追い返す──そう威勢よく公約して13年秋にオーストラリア首相となったのが、保守系の自由党党首トニー・アボットだ。政治家の公約なんて選挙が終われば紙くず同然、と思ったら大間違い。この男は本気だった。
 
あんなに広くて人口密度の低い国なのに、しかも国連難民条約に加入しているのに、オーストラリアは欧米先進国に比べると難民の受け入れ数が極端に少ない。「国境を守る」ためにアボットが奮闘してきたからだ。

■「難民船の阻止」
アボットは昨年12月に議会で、「過去12カ月間、ほぼ1隻たりとも」難民船は上陸していないと語っている。だが、それを実現するために彼が何をしたかは明かさなかった。
 
実際には海軍が出動し、難民船の上陸を力ずくで阻んでいた。粗末な船に乗り込み命懸けで海を渡ってきた人々が正当な政治亡命者であるか否かを確かめることもなく、すべての難民船を出港地(たいていはインドネシア)へ追い返していたのだ。(中略)

■豪州版グアンタナモ
公平を期すために言えば、この国はアボット以前から、正規の難民申請手続きを経ずに船で不法入国しようとする外国人を第三国の難民収容所に、名目上は「一時的」に移送する政策を採用してきた。送り先はパプアニューギニアと、太平洋の小さな島国ナウルである。
 
だがパプアニューギニアのマヌス島にある収容所を視察した国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによれば、そこでの収容者の扱いは「残酷で屈辱的」であり、「彼らが出身国に帰るよう促す意図的な試み」だと批判している。

昨年11月下旬には複数の収容者がアメリカとカナダの当局に書簡を送り、自分たちは「オーストラリア版グアンタナモ」に拘束されていると訴え、難民としての受け入れを懇願している。

■ジャングルの動物扱い
オーストラリア政府はパプアニューギニアおよびナウルとの間で、収容者の難民申請が正当なものと判定された場合は、当該人物をパプアニューギニアまたはナウルが受け入れるとの取り決めを交わしている。
 
だがナウルに暮らす難民50人余り(主としてパキスタン人)を取材したオーストラリアのメディアによれば、彼らは清潔な水や十分な食料も与えられず、働く場所もなく、「ジャングルの動物のように見放された生活」をしているという。

ある難民が言う。「パキスタンにいれば、いずれタリバンに殺される運命だった。でも、あそこで死ぬのは10分とかからない。ここでは私たちはじわじわと、苦しみながら死んでいくしかない」

■危険な国に送り帰す
英ガーディアン紙が昨年3月と8月に伝えたところでは、オーストラリア政府はシリアからの難民たちを、送還されれば「間違いなく殺される」と1人が訴えたにもかかわらず、「信じ難いほどの手間」を掛けてシリアに送り帰しているという。

ちなみにオーストラリア政府は現在、「自発的」に出国を選択した難民申請者に対して、1万豪ドルを支給している。

■カンボジアとの協定
この仕組みで、もしかすると潤っているかもしれないのがカンボジアだ。同国は昨年9月、オーストラリアで難民認定された人たちを受け入れる代わりにに、オーストラリアから4年間で4000万豪ドルの支援を受け、それで難民の再定住を支援することで合意している。
 
だが人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは「難民保護の実績がなく、深刻な人権侵害が蔓延している国」に彼らを送り込むのは「難民を『安全な第三国』に送り届けるというオーストラリア政府の取り組み」と合致しないと批判している。

■政治難民も拒絶
昨年7月以降は、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)ジャカルタ支部で難民と認定されても、オーストラリアには定住できなくなっている。

スコット・モリソン移民・国境警備相(当時)によれば、「まずインドネシアで難民認定を受け、それからオーストラリア行きの機会を待てばいいという甘い考え方」をやめさせるための措置だ。
 
これはおかしい。オーストラリア政府は従来、UNHCRの基準で認定された難民は受け入れるが、正規の手続きを経ずに難民船で勝手にやって来る人は不法入国者として追い返すと主張してきたはずだ。

■恒久的保護を否定
まだある。昨年末には難民に対する期間限定ビザを復活する法案を可決している。このビザは、難民がオーストラリアで最大5年間は働いて暮らすことを保障するが、恒久的な保護は与えない。出身国の政治的状況が改善したと政府が判断すれば、本人の意思にかかわらず送還されることになる。
 
この法案は難民の定義を狭め、当局側の決定に対する不服申し立ての権利も制限しており、「命の危険がある場所へと難民を送還しやすくする法案」だとの批判も上がっている。
 
しかし「国境の保全」に邁進するアボットの耳に、そんな批判は届かない。彼は時限ビザ法案可決の翌日、これで不法難民阻止の手続きがすべてそろったと満足げに語った。難民にとって、オーストラリアはさらに遠い国になった。【2015年1月20日 Newsweek】
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上記記事の後、昨年9月には保守派のアボット氏からリベラルを自任し、保護を求める難民への共感を示してきたターンブル氏に首相は変わりましたが、今のところ難民政策は大きくは変わっていないように見えます。

****イラン難民が焼身自殺、豪州から移送された島しょ国ナウルで****
オーストラリアから太平洋の島しょ国ナウルに移送されたイラン難民の男性(23)が27日、国連(UN)職員の訪問中に焼身自殺を図った。豪移民局が29日、明らかにした。

オーストラリアの移民政策に批判的な人々からは、男性の「意味のない死」はオーストラリアの強硬な移民政策が原因だと批判の声が上がっている。
 
男性は重度のやけどを負い、豪クイーンズランド州ブリスベンに空路搬送されたが、29日に死亡した。ナウル政府は、男性の焼身自殺が「政治的抗議行動」だったと述べている。
 
オーストラリアの難民政策は国連を含め国際社会から厳しく非難されている。オーストラリアは正式な難民であろうともボート難民の入国を拒否しており、ボートで入国しようとした難民認定希望者らをナウルの収容施設に移送している。これまではパプアニューギニアにも移送していたが、違憲判決を受けて閉鎖が決定された。【4月29日 AFP】
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上記記事にもあるように、パプアニューギニア・マヌス島の施設は違憲判断に基づいてパプアニューギニア政府によって閉鎖が決定されていますが、オーストラリア側は入国は認めない方針です。

****パプアニューギニア、豪の難民収容施設を閉鎖へ****
パプアニューギニア政府は27日、同国のマヌス(Manus)島にオーストラリア政府の資金で運営されていた難民収容施設の閉鎖すると発表した。前日の26日には同国の最高裁判所が、同施設での難民認定申請者の収容は憲法違反との判断を示していた。
 
パプアニューギニアのピーター・オニール首相は声明で、「判決を尊重し、政府は豪政府に対して、領外審査センターに現在収容されている難民申請者に対して別の措置を講じるよう直ちに要請する」と述べた。
 
船での入国を試みた難民申請者をマヌス島か、太平洋の島国ナウルの審査センターに移送するという豪州政府の政策については、これまでにも国際的に批判の声が上がっていた。
 
オニール首相の決定に先立ち、豪州のピーター・ダットン移民・国境警備相は、パプアニューギニア最高裁の判断にかかわらず、豪州の国境警備政策の有効性は変わらないと述べるとともに、マヌス島に収容されている850人全員は豪州への入国を認められることはなく、本国への送還か、第三国定住のいずれかしかないと述べていた。【4月27日 AFP】
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“ターンブル首相は、難民を受け入れない政府の方針は明確にすべきとした上で、「同情している訳にはいかない」と、譲らない姿勢を示した。政府は容易に受け入れることで、密入国を助長したり、ボートの沈没による犠牲者を増やすのを避けるためと説明している。”【4月28日 JAMS.TV】

「同情」か「人としての責務」か・・・・難民受入が多くの問題を惹起しやすいものであることは事実です。自分たちの豊かさと暮らしやすさを犠牲にして、どうしてよそ者を受け入れる必要があるのかという主張もわかります。人間だれしも自分のことが最大の関心事ですから。

ただ、“それでいいのか?”という自問も必要でしょう。そのうえで「よそ者は来るな!」と言うのであれば、当然のことのようにではなく、せめて恥ずかしそうに言ってほしいという気はしています。
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ルワンダ  大虐殺から22年 多くの服役囚が刑期を終えて釈放予定 被害者・加害者はどう向き合う?

2016-04-28 22:58:57 | アフリカ


(虐殺者と生存者同士が協調しなければ、ルワンダに未来はないと語るルワンダのポール・カガメ大統領 【4月2日 COURRiER Japon】

虐殺した側と生き延びた側が提携する、歴史的にも稀有な試み
アフリカ・ルワンダでは22年前、1994年4月6日に発生したルワンダのジュベナール・ハビャリマナ大統領とブルンジのシプリアン・ンタリャミラ大統領の暗殺からカガメ氏(現在のルワンダ大統領)率いるツチ系反政府勢力・ルワンダ愛国戦線 (RPF) が国内を制圧するまでの約100日間に、フツ系の政府とそれに同調するフツ過激派によって、多数のツチとフツ穏健派が殺害されました。

正確な犠牲者数は明らかとなっていませんが、およそ50万人から100万人の間、すなわちルワンダ全国民の10%から20%の間と推測されています。【ウィキペディアより】

ルワンダでの大虐殺(ジェノサイド)の悲惨さについては、多くのメディア・書籍等で紹介されていますが、最近目にした記事では以下のようにも。

****100万人を虐殺した3万人が、もうすぐ社会に戻ってくる 死刑を廃止した国で「和解」は実現するのか****
・・・・ルワンダの場合、その虐殺法は単純なもので、かつ強烈な個人的憎悪をもって行われた。およそ100万人が虐殺行為に参加し、20万人が実際に殺害を行ったとされている。

虐殺は民家や仕事場、校庭、教会、病院、そして町の通りでも行われた。近隣住民が近隣住民を、教師が生徒を、医者が患者を殺した。司祭までもが信者の虐殺に協力していたのだ。

「初めは人を切るのもためらわれるけど、時間が経つと慣れてくるんだ」
フランス人ジャーナリストがまとめた本の中で、フツ族の男性アルフォンスはそう語った。
「何人かはさっさと殺す正確なやりかたを覚えたみたいだった。首の横をかっ切るか、後頭部をぶっ叩くんだよ」

だが、サディスティックな快楽を求めた者たちは、こうした「効率的」なやりかたを嫌った。
一般的な「殺しかた」はこうだ。まず、「身をもって思い知るがいい」という合い言葉のもと、ツチ族の人間の手足を切り落とす。そのまま被害者を放置し、絶命するまでの激しい苦痛にさらしておくのだ。
女性は集団でレイプされ、それからガソリンを浴びせられた後、火を放たれた。
鋭利な槍で女性器から喉元までを串刺しにされた者もいた。

連れて行かれる前に、ツチ族の親は子供たちを掘込み便所の中で溺死させなくてはならなかった。
殺しを拒否したフツ族の者も、多くは同じ目にあわされた。

大量の人間を殺した一日の終わりに、彼らは集まってパーティを開き、ビールを浴びるように飲んで、盗んだ牛でバーベキューをした。・・・・【3月26日 COURRiER Japon】
*******************

殺害された者の数も、その殺戮の様子も想像を絶するものがありますが、それまで穏やかに暮らしていた隣人がある日突然、鉈(ナタ)や釘の刺さった棍棒を手に襲い掛かってくるというところに大きな恐怖を覚えます。

ジェノサイドから22年・・・・虐殺の罪で今も服役しているおよそ3万人が刑期を終えて社会にもどってきます。
そのとき、家族を殺され、自分自身もひどい傷を負わされた多くの被害者は、もっどて来る加害者とどのように向き合うのか・・・・加害者は新たな社会で被害者とどのように向き合うのか・・・・という深刻な問題が起きます。

****100万人を虐殺した3万人が、もうすぐ社会に戻ってくる 死刑を廃止した国で「和解」は実現するのか*****
犠牲者の数、80万人から100万人。1994年、人類史最大の虐殺行為のひとつが遂行されたルワンダ。だがいま、この国は死刑を廃止し、虐殺の実行者たちを刑務所から社会に復帰させようとしている。その数、およそ3万人――。(中略)

虐殺者たちの「心のケア」
(中略)新政府は13万人を逮捕したが、このうち約3万人はまだ収監されている。私の横に座っているこの男と同様、囚人のほとんどの刑期が15~20年である。つまり、まもなく釈放されるのだ。

囚人の大規模な釈放はこれが初めてではない。刑務所の混雑を緩和するため、2003~07年にかけて大量の囚人が釈放された。つまり、虐殺歴を持つ人間はすでに社会へと戻っている。

しかし、現在も収監されている者たちは、より残虐な罪を犯し、裁判でも罪を認めようとしなかったために長期の刑を言い渡された人間である。

現在のルワンダ人がいう「ジェノサイド・イデオロギー」に強く傾倒していた彼らは、投獄されている間に、抜本的に変化した社会へと戻っていくことになる。

過去20年で、1000万人の人口を抱えるこのルワンダ共和国は、経済成長、医療や教育水準の向上、民族差別の厳格な禁止などにより、着実に国家再興への道を歩んできた。

それなのに、今になって重い罪を犯した囚人たちを釈放することで、また混乱の日々が戻ってくる恐れがあるのだ。あるルワンダ在住のビジネスマンは私にこう語った。
「私たち市民はみんな懸念しています。懸念せざるをえません」

現在、囚人たちは市民として生活するための教育プログラムの受講を義務づけられ、職業訓練なども受けられる。

だが、彼らの「心」に対する対策はほとんど施されていない。ルワンダは依然として貧しい国だ。囚人に質素な食事を出すのが精一杯で、とても丁寧なカウンセリングする余裕などない。

また、ルワンダ人は他人と話さずに一人で物事を決めるのを良しとする文化を持つ。「ルワンダ人は語らず」という格言は、国のどの地域でも通じるほどだ。
いちおうは臨床心理士スタッフのケアが受けられ、ソーシャルワーカーの訪問もあるとはいえ、誰も悩みや苦しみを打ち明けようとはしない。そもそも親密な友人にさえ話さないのだから、当然である。(中略)

ドイツとルワンダにおいては、虐殺の「後」も異なっていた。
ドイツでは勝利した連合国が22人のナチス幹部をニュルンベルク裁判にかけた。そのうち12人は絞首刑、9人は懲役刑に処された。

だが、ホロコーストに関与した大多数の者は罪に問われなかった。結局、ドイツにいたほぼすべてのユダヤ人の排除にヒトラーは成功したことになる。

一方、ルワンダでは約30万人のツチ族が生き残り、亡命先から70万人が戻ってきた。
政権を握ったRPFは「一人の人間として、ルワンダの人々はもう一度ともに生きていかねばならない」と宣言した。
彼らはフツ族と連合政権を立ち上げ、いかなる差別も禁止したのである。

ジェノサイドを経験した国のなかでも、虐殺した側と生き延びた側が提携する試みなど存在しない。
歴史家のフィリップ・ゴルヴィッチは語る。
「ルワンダ以外で誰もそんなことを試みようとはしませんでした。互いに近づこうともしないのです」(後略)【3月26日 COURRiER Japon】
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簡単ではない「許す」ということ
被疑者側のツチ系でもあるカガメ大統領は上記にもあるように、いかなる差別も禁じる施策を進めてきました。フツ・ツチといった区別も身分証などでも記載されません。

もともとフツとツチは同一の由来を持ち、その境界が甚だ曖昧であったものを、宗主国ベルギーが植民地統治に利用する形で両者を区分し、その中で両者間の社会的対立が生まれたと言われています。
“ようするに植民地支配をしたベルギー人はルワンダのフツ族とツチ族が憎み合うシステムを構築したのである。”【2015年12月30日 WEDGE】

ジェノサイドを乗り越えて新たなルワンダを建設していくために、ツチであろうがフツであろうが、被害者であろうが加害者であろうが、いかなる差別も禁じるというカガメ政権の強い意志を受けて、国民においても、もはや加害者フツの責任は問わない、これを許す・・・という声もありますが、そう簡単な話ではないことは言うまでもありません。

****ルワンダ虐殺、癒えぬ心 犠牲者80万人の悲劇から22年****
民族対立により、未曽有の集団殺害(ジェノサイド)が起きたアフリカ中部ルワンダ。悲劇の始まりから4月で22年となった。真実の究明と国民和解に向けた試みは続いているが、人々の心のわだかまりはまだ解けない。

首都キガリの高等裁判所第1法廷。50代のムバルシマナ被告が入廷すると、裁判長は「集団虐殺を計画・指揮した罪で審理を続ける」と告げた。

裁判記録や現地報道によると、被告は多数派民族フツの小学校教師だった。町に検問所を設け、逃げようとする少数派民族ツチを殺すよう人々に指示するなどしたとされる。その後は偽名を使ってデンマークに潜んでいたが、2010年に逮捕され、ルワンダへ強制送還された。
 
この日の公判で検察官は「時間がかかっても事実を明らかにする」と述べたが、被告は「弁護人が検察とぐるになり、私に罪を着せようとしている」と弁護人解任手続きを要求した。
 
虐殺の背景にはツチとフツの対立があった。政府は1999年に国民統合和解委員会を設置。主に裁判を通じて、真実の究明と国民の和解を図ってきた。
 
虐殺の主導者らを裁判所で裁く一方、扇動に乗せられて虐殺に加担した市民については、謝罪と賠償を重視する「ガチャチャ法廷」に委ねられた。住民が学校や広場に集まり、加害者の自白や被害者の証言で罪状や刑罰を決める。06~08年に集中的に開かれ、100万人以上が裁きを受けた。
 
だが、和解が進んだと考える人は決して多くない。放牧を営むミッシェル・ウワブカヤさん(82)は子ども3人と妻を殺された。

ガチャチャ法廷にも出席したが「加害者がウソばかり並べ立て、みんなで罪状を決めた。素人に虐殺を裁くことなんてできない」。
 
この事件に関わったとして13年服役した元被告(61)は「謝罪はしたが、心からの言葉じゃなかった。政府が『ツチを殺せ』と連呼していたし、一人だけ抵抗するのは難しかった。仕方がなかった」と話した。
 
元被告の家は、ウワブカヤさん宅から数百メートル離れた集落にある。2人は今も頻繁に顔を合わせるが、言葉を交わすことはない。

襲った隣人、許すしか
一方、加害者を許そうと努めている被害者もいる。
 
94年4月当時、女子中学生だったベスティン・ムカンダヒロさん(35)は両親と兄弟7人を殺された。「襲撃者は、ほとんどが顔見知りの隣人たち。私は彼らを許そうと思う。この集落以外に生きていく場所がないから」
 
ムカンダヒロさんによると、一家が避難した教会にフツの民兵が押し寄せ、ナタで襲いかかった。教会を逃れて自宅に行くとそこにも民兵が現れ、父親(当時50)を殺害。姉(同30)はナタで両手両足を切り落とされ、数十分後に死亡した。ムカンダヒロさんもレイプされて気を失った。翌朝、湿地へ逃げ込み、泥水を飲んで生き延びた。
 
数カ月後、妊娠していることを知った。自殺を考えたが、「神様が与えてくれた命」と産むことにした。今は農業を続けながら、虐殺が起きた当時の家で妹たちと暮らす。加害者との間にできた娘は親元を離れ、寮から学校に通う。
 
収穫や出荷の作業では、元加害者たちと一緒に作業することもある。「虐殺の記憶は消えない。でも彼らを許さなければ、妹や娘たちを養っていけない」
 
ルワンダのプロテスタント人文・社会科学大学で平和構築学を教える佐々木和之上級講師は「政府は裁判などを通じて『和解はおおかた達成された』と強調するが、そうでない人たちも多くいる。いまだに加害者による謝罪や賠償がなされていないケースも多く、気持ちを整理できない被害者も少なくない」と話す。

生々しい記憶、引き継ぐ
虐殺から22年。ルワンダでは人口約1200万人の約6割が25歳未満で、国民の半数以上が当時の出来事を直接知らない。政府は約400カ所に記念館などを設置し、記憶の風化を防ごうとしている。(後略)【4月28日 朝日】
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「虐殺の記憶は消えない。でも彼らを許さなければ、妹や娘たちを養っていけない」・・・・「許す」とは言いつつも、心の奥底には消せないものがあるようにも感じられます。

虐殺行為を許せるか・・・という問題は、別にルワンダに限った話ではありません。
良し悪しは別にして、私を含めて日本人には「水に流してしまう」風潮もあるようにも。

****ルワンダ人の友人がアメリカ軍の原爆投下について聞いてきた****
・・・・アメリカが太平洋戦争で原子爆弾を広島と長崎に投下した事実について聞かれてどう答えてよいのか分からなかった。私自身は戦争の話題や質問に対しては嫌悪感が先に立つのであまり話したくないほうである。

実は原爆で広島では20万人、長崎では10万人が被害を受けて死んでいるのが事実である。東京大空襲では10万人の死者が出ている。

太平洋戦争の日本人の死者は軍人が230万人、一般人が80万人死亡している。合計日本人の310万人が被害を受けているのだ。

私自身はそんな話を得意になって話せば話すほど気分が悪くなってくるから過去のアメリカや連合軍の「原爆投下の非人道的な罪」を問題視することは止めて「水に流して」しまいたいタイプの日本人である。・・・・【2015年12月30日 中村繁夫氏 WEDGE】
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もちろん日本について言えば、韓国・中国、そして東南アジアの国々において加害者としての立場、許してもらえるのかという問題があります。

このように「許す」云々はルワンダだけの問題ではありませんが、ルワンダの場合は、加害者が隣人であり、その加害者がまた隣人として戻ってくる、そして一緒に社会を構築していかなければならない・・・という特殊性があります。

虐殺行為を「許す」かどうか・・・という話は、宗教的な価値観とも結びつく話で、私の手に余る問題ですから、今回はそういう話があるということだけ。

なお、日本に日本人特有の心情があるように、アフリカにはアフリカ特有の心情も。

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・・・・だがアフリカのような集団主義的な文化が強い地域では、比較的「和解」が進展しやすいようだ。

実際、ルワンダでは、加害者が行方不明者の遺体の場所を明らかにすることで、残された家族が遺恨をぬぐい去るという例が多い。

それどころか、遺族の営む農業や牧畜に加害者が進んで協力するというケースまであり得るのだ。【前出COURRiER Japon】
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大虐殺関与をめぐってフランス・ルワンダ両国は依然対立
国内的にはツチ・フツの対立に封印をしようとしているカガメ政権ですが、大虐殺当時のフツ系政権と親密な関係にあったフランスに対しては、フランス軍が大虐殺に関与したとして、その責任を追及しています。

一方、フランス側は、2010年にはサルコジ大統領がルワンダを訪問し「ここで起こった忌まわしい犯罪を防ぎ、止めることができなかったという過ちについて、フランスを含む国際社会は反省をまぬがれない」と述べ、虐殺前のルワンダに大きな影響力を持っていたフランスが大虐殺を防止できなかったという「甚だしい判断の誤りを犯した」ことは認めましたが、大虐殺への関与は認めず、謝罪も行っていません。

このサルコジ訪問で政治的決着がなされたのかと思いましたが、その後も大虐殺関与をめぐってルワンダ・フランスは対立は続いています。カガメ大統領はフランスを許してはいないようです。

一昨年は、カガメ大統領のフランス批判に対し、フランス側は、ルワンダ首都キガリで行われた虐殺20年の追悼式典への閣僚参加を中止するなどギクシャクしています。

****ルワンダ大虐殺へのフランス軍関与疑惑、当時の司令官が否定****
アフリカ中部ルワンダで1994年に起きたジェノサイド(大量虐殺)をめぐってフランス軍の関与が疑われている問題で、当時現地に展開していた仏軍の司令官だった退役将軍が証言し、フランス側の対応を擁護したことが7日、明らかになった。

フランス軍は94年4月、多数派フツ)人が主導する政権下で3か月間に少数派ツチ人を中心に80万人が犠牲となった大虐殺が始まる数日前に、国連主導の作戦でルワンダに部隊を展開していた。

当時フランスはフツ人主導の民族主義政権と同盟関係にあったことから、ルワンダのポール・カガメ大統領はフランス政府が大虐殺に加担したと繰り返し非難している。
 
情報筋が7日に明かしたところによると、国連主導のターコイズ作戦を当時率いていた仏軍のジャンクロード・ラフルカード将軍(72)は、94年6月にルワンダ西部ビセセロの丘でフツ人がツチ人を殺りくするのを放置したとの主張をめぐり、証言に立った。
 
この事件では生存者らが、仏軍部隊は6月27日にビセセロに戻ると約束したにもかかわらず3日後まで戻ってこず、その間に数百人のツチ人が虐殺されたと主張し、2005年にフランス国内で訴訟を起こしている。
 
情報筋によれば、ラフルカード将軍は訴追対象ではなく、いつでも参考人招致に応じる証人の1人として、1月12日と14日に行われた長時間の審理で証言。フランス軍の兵士がフツ人の過激派たちに武器を提供したとの疑惑について、「全くの作り話」だと改めて否定した。
 ラ
フルカード将軍は「ターコイズ作戦の下で、武器弾薬をフツ人に提供した事実はない。弾丸1発さえもだ。仏軍兵士のいた場所では、虐殺も虐待も一切起きなかった」と述べるとともに、大虐殺の実態が明らかになるには時間がかかったと主張。

「フランスも国際社会も、地元民や政府当局の関与を全般的に過小評価していた」と説明し、ビセセロへの到着が遅れたのは部隊が120~130人と少人数だったうえ、西部キブエから尼僧たちを避難させる作戦を優先して遂行していたためだと弁明した。【2月8日 AFP】
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南スーダンは前副大統領復帰で再スタート、スーダン・ダルフールは住民投票実施 ともに先行き不透明

2016-04-27 23:03:22 | スーダン

【4月27日 AFP】

南スーダン:前副大統領復帰で「世界で最も恐ろしい人権状況の一つ」改善への期待
和平合意が結ばれながらもキール大統領率いる政府軍とマシャール前副大統領率いる反政府勢力による内戦が停止せず、深刻な人道危機が続いている南スーダンですが、ようやく和平に向けた具体的動きが実現しました。

****南スーダン反政府勢力トップが副大統領復帰、和平へ期待高まる*****
南スーダンの反政府勢力を率いるリヤク・マシャール前副大統領が26日、首都ジュバに帰還し、副大統領の就任宣誓を行った。世界で最も新しい国家である南スーダンでは2年以上前から激しい内戦が続いており、マシャール氏は「団結」を呼び掛けた。
 
マシャール氏が国連機から降り立つと、白いハトが放たれ、閣僚や外交官らが出迎えた。同氏は「人々が一致団結し、傷を癒やしていけるよう、国民を一つにまとめていく必要がある」と語った。
 
その後直ちに、宿敵であるサルバ・キール大統領の官邸を訪れ、大統領の前で副大統領の就任宣誓を行った。キール氏は握手したマシャール氏を「弟」と呼び、統一政府の樹立に向けて「直ちに行動を起こす」と述べた。
 
この激しい内戦の終結を目指して昨年8月に結ばれた和平合意では、移行政府を打ち立て、2年半のうちに選挙を実現させるとしている。
 
この合意に基づいて定められたマシャール氏の帰還は当初18日に予定されていた。遅れが出たことで、敵対する双方を首都に立ち戻らせ、権力を分かち合っていくための交渉に何か月も費やしてきた国際社会からは怒りの声が上がっていた。
 
統一政府でキール大統領とマシャール氏が協力し合い、現在首都内の各キャンプにいる数千人規模の武装勢力同士に停戦を守らせるのは、さらに難題になると予想される。

双方は互いに深い疑念を抱いており、もはやキール氏にもマシャール氏にも従わなくなった民兵部隊らとの戦闘は続いている。
 
これまでの内戦では数万人が犠牲になり、200万人以上が家を追われている。民族間対立は再燃し、甚大な人権侵害が横行している。
 
マシャール氏の帰還により、山積する問題が早急に解決されるはずだという期待が大きく膨らんでいるものの、即効薬はないのが実情だ。【4月27日 AFP】
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南スーダンの惨状はこれまでも何回か取り上げてきましたが、国連人権高等弁務官が「世界で最も恐ろしい人権状況の一つ」だ語る状況にあります。

****南スーダン、民兵に報酬として「女性のレイプ」許す 国連報告書****
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は11日、南スーダン軍が民兵への報酬として、女性へのレイプを許していると述べ、南スーダンを「世界で最も恐ろしい人権状況の一つ」と評した。
 OHCHRは、新たに発表した報告書で「評価チームが受け取った情報によると、(政府軍の)スーダン人民解放軍(SPLA)と合同で戦闘に参加している武装民兵たちは『できることは何をやってもよいし何を手に入れてもよい』という取り決めの下で、暴力行為を繰り返している」と述べた。

「それゆえ若者たちの多くが、報酬として畜牛を襲い、私有財産を盗み、女性や少女たちをレイプしたり拉致したりした」と報告書は付け加えた。
 
また、OHCHRは報告書の中で、反政府勢力を支持していると疑われた民間人らが、子どもたちを含めて、生きたまま火を付けられたり、コンテナの中で窒息死させられたり、木から吊るされたり、バラバラに切り刻まれたりしていると述べた。
 
ゼイド・ラアド・アル・フセイン国連人権高等弁務官は、残忍なレイプが「恐怖を与える道具、そして戦争の武器として」組織的に用いられていると指摘し、南スーダンは「世界で最も恐ろしい人権状況の一つ」だと述べた。【3月11日 AFP】
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報告書によれば、北部の州では去年4月から9月までの間に、1300人以上の女性が被害に遭ったということです。
政府軍やこれに連携する武装グループが、支配下に置いた女性や少女を商品のように見なしているとも指摘しています。

内戦の背景には部族対立もあるとは言われていますが、新たな国家を目指して希望に燃えてスーダンからの分離独立を果たしてまだ5年も経過していないこの国で、なぜにかくも残虐な行為が横行するのか理解に苦しむものがあります。

相互不信の根深さ、これまでの経緯を考えると、先行きについてはあまり楽観的にもなれませんが、事態改善に向けて動き出すことを強く願います。(PKOに参加している日本自衛隊のためにも)

【「世界最悪の人道危機」スーダン・ダルフール:行政形態に関する住民投票は実施されたものの・・・・
一方、南スーダンを分離したスーダンでは、西部のダルフール地方で、これまた最悪の人道危機とも言われる紛争が続いていました。

一応、主要反政府勢力と政府との間の和平合意がなされて、メディアに取り上げられる機会は少なくなっていますが、未だ「安定」とは言い難い状況にあるようです。

****ダルフール地域****
2011年以降,スーダン政府とダルフール反政府勢力「解放と正義運動(LJM)」及び「正義平等運動(JEM)分派」との間で、和平合意(ダルフール和平のためのドーハ文書:DDPD)が締結されている。

2014年4月25日には、カタール政府の資金拠出を得て、「ダルフール内部対話(DIDC)」履行委員会の発足が合意され、同年8月25日には、正義平等運動スーダン派(JEM-Sudan)元戦闘員をスーダン国軍(SAF)及びスーダン警察へ統合する治安措置履行の開始式典が挙行された。

2015年1月,スーダン政府は、ダルフール開発に尽力してきた国連人道調整官の国外退去処分を決定し、和平プロセスへの影響が懸念されたが、2月23日には、LJMが政党化を発表し、続いて、3月27日には、スーダン解放運動モハンメディアン・イスマイール・バシャル派(SLM-MIB)が、スーダン解放運動ミンニ・ミナウィ派(SLM-MM)より分離し、スーダン政府との間で和平合意を締結する等、合意履行は遅延しつつも、和平へ向けた取り組みが継続されている。
  
しかしその一方で、2014年3月から、中央ダルフール州などのジャバルマッラ、北ダルフール州及び南ダルフール州で反政府勢力及びスーダン政府との衝突が多数発生し、国内避難民が引き続き発生するなど、人道情勢の回復は遅れている。

2015年9月におけるバシール大統領の2ヶ月の停戦令(12月31日にさらに1ヶ月延長)、スーダン革命前線(SRF)の6ヶ月の敵対行為の停止宣言などの理由によって、一時的にダルフールの戦闘は小康状態にあったものの、2016年1月に入り中央ダルフール州ジャバルマッラを中心に、政府軍とSLM-AWの戦闘が再開され、現在までに多くの国内避難民の発生が確認された。
  
このような状況のなか、政府は4月にダルフールの住民投票を実施する旨決定した。投票が行われた場合、ダルフールは現状の5州体制を維持するのか、それとも1つの「地域」としてまとまり、地域憲法を制定するのか、いずれかとなる。

この間、政府とJEMやSLM-MM、SLM-AW等のダルフール反政府勢力との和平交渉は引き続き行われているものの、未だ妥結してない。

スーダン国軍及びNISSの部隊である「Rapid Support Forces」による攻撃や空爆の活発化に加えて、ムーサ・ヒラール(国連の制裁対象者)による北ダルフール州都市の占拠等が確認されている。

なお、同地域では、UNAMIDが治安維持等のため駐留しているが、正体不明の武装勢力による同部隊への攻撃事案が発生しているほか、スーダン政府との間にコンテナの搬入、査証の発給、アクセス許可の問題を抱えている。
  
従来のスーダン政府と反政府勢力間における対立に加えて、ダルフール地域では概ね2013年以降、水や金等の資源や土地問題に起因する部族間対立が顕著となっており、同地方の不安定な治安情勢の大きな要因となっている。

ダルフールには、アフリカ系農耕民族とアラブ系遊牧民族の間の伝統的対立が存在しているが、この伝統的対立に加えて近年では、アフリカ系部族同士やアラブ系部族同士の対立も発生している。
  
2014年7月から8月にかけて、ダルフールの有力部族であり、アラブ系牧畜民であるリゼイカート族とマアーリア族が、土地・資源の支配権を巡って対立し、「Rapid Support Forces」、国境管理部隊(Border Guards)の関与も行われた結果、約320名の死者を出すなど、大規模な戦闘に発展した。

その後、各部族の散発的な戦闘が各地で断続的に発生したが、2015年2月から5月にかけては、リゼイカート族とマアーリア族が再度、土地の支配権を巡って対立し、百名を越える数十名の死傷者を出した。

こうした部族間紛争について、スーダン政府及びUNAMIDは 仲介による停戦乃至和解会合の開催等の調停合意を試みている。

また、長らく続いた紛争によってダルフールの経済は疲弊し、小型武器が蔓延した結果、一般犯罪の増加や武装ユニットによる犯罪行為が多数発生している。【日本外務省HP】
******************

いろんな組織名が出てきて非常にわかりにくい文章ですが、そのことが示すように、反政府勢力、アフリカ系農耕民族やアラブ系遊牧民族と言っても一枚岩ではなく、多くの組織・部族が自己利益のために暴力手段を厭わない行動を続けているところにダルフール紛争の解決の難しさがあるように思えます。

上記外務省HPでも触れられているダルフールにおける住民投票は今月11日からの3日間行われました。

****スーダン・ダルフール地方で住民投票が実施 「世界最悪の人道危機」に終止符は打たれるか****
北アフリカに位置するスーダン共和国のダルフール地方で、行政形態を決めるための住民投票が今月11日(月)から始まり、昨日13日(水)をもって終了した。

スーダンでは2003年から13年間続く紛争で、これまで30万人以上が犠牲になっている。
今回の投票は、スーダン政府とダルフール反政府勢力との間で締結されているドーハ和平合意の最終段階として行われる。

本投票では、北・西・中央・南・東ダルフールへと5つに分割されているダルフール地方を、現在の分割形態を残すかもしくは一つの地域へ統合するかに関して争われており、スーダン政府は、今回の投票が長年続く紛争の根本的問題を解決することに繋がっていくとの見解を示している。

その一方、反政府軍やその他の反対派は今回の投票は公平ではないと訴えており、投票のボイコットを呼び掛けている。

またアメリカ国務省は、「現在のルールや状況下で投票が行われれば、それはダルフールの人々の意志を確かに表したものだと考える事は出来ない。」と声明を出している。
 
世界最悪の人道危機
2003年2月、アラブ系中心の政府に不満を募らせたダルフール地方の黒人系住民が「スーダン解放軍」(Sudan Liberation Army)、「正義と平等運動」(Justice and Equality Movement)などの反政府勢力を組織して蜂起、紛争が勃発した。

その後、スーダン政府軍と政府軍を支援する民兵組織「ジャンジャウィード」(Janjaweed、"馬に乗った悪魔"を意味する)により黒人居住の村々が襲撃され、地元の農民や一般市民はジャンジャウィードの手による無差別殺戮・強制移住の犠牲となった。

正式な人数は把握されていないものの、これまでに30万人以上が死亡、250万人以上が避難民になり(今年だけでも10万人以上の避難民が生まれたと推定されている)、440万人が人道支援を必要としている。スーダン政府はジャンジャウィードとの繋がりを否定している。

なお、ダルフール紛争での無差別殺戮や強制移住は正式にジェノサイド(集団殺害)の認定は行われてはいないものの、元アメリカ国務長官のコリン・パウエル氏は当時これをジェノサイドと表現している(2004年)。(関連記事:イスラム国は「ジェノサイド(大量虐殺)」に関与、アメリカ政府が発言。注目すべき点は何か?)。

なおダルフール地方では1956年のスーダン独立以来紛争が頻発しており、1972年から1983年の11年間を除く期間に、200万人の死者、400万人の国内避難民、60万人の難民が発生したと考えられている。
 
国際指名手配中のバシール現大統領は2020年に引退?
今月上旬、1989年のクーデター以来スーダン大統領を務めるオマル・アル=バシール氏が、2020年をもってその職を辞する意向をBBCのインタビューで表した。

バシール大統領にはジェノサイドや戦争犯罪、人道に対する罪への関与の疑いで、国際刑事裁判所(International Criminal Court, ICC)から逮捕状が出されている。

バシール大統領は以前にも大統領職を辞する意向を示しその後撤回したことがあるため、今回の発言に対しても一部の専門家は疑問を呈している。

バシール大統領は昨年4月に行われた選挙で94パーセントの得票率を獲得し当選したが、同選挙は最大野党がボイコットした状態で行われていた。
 
なお、ダルフール地方が一つに統合されることは反政府軍が独立を求めるための追い風となるため、スーダン政府は同地方の統合に反対していると考えられている。

投票の結果は予定では来週発表される。今の状態から察するに、ダルフール地方は分割されたまま残る可能性が高いが、その場合は選挙の不公平さなどを理由とし、政府側・反対派との間での更なる紛争に繋がっていく懸念もある。

しかしながら、その反対に仮にダルフール地域が統一された場合を考えても、その後、独立の機運の高まりへと繋がり、政府側との間で更なる軋轢が生まれるかもしれない。

長年続く紛争の政治的解決の着地点がどこになるのか、今後の動向に注目したい。【4月15日投稿 原貫太氏 huffingtonpost】
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結果は予想されていたように、スーダン政府が支持しているとされる現行の分離状態維持というものでした。しかも97%以上の高率で!

****スーダン・ダルフールの住民投票結果は現在の5州分割状態を支持****
選挙委員会は、スーダン西部・ダルフール地方における住民投票結果は現在の5州分割状態を支持したと発表しました。

住民投票の有権者の97%以上は、ダルフール地方で一つの地域を作るよりは、現在の5つの州に分割された状態て残るほうを選んだとのことです。

投票は、統一された地域の方がより多くの自治を可能にすると主張する主要な反政府勢力と反対グループによってボイコットされました。

今回住民投票は、30万人もの住民が死亡した13年に及ぶ紛争を終結させる和平プロセスの一部でした。

住民投票に先立って、スーダンのオマール・アル・バシル大統領(ダルフールに関する戦争犯罪容疑で国際刑事裁判所(ICC)によって指名手配れています)は、今回住民投票は自由で公明正大な投票であると語っています。

しかし、アメリカ政府は、「現在の規則と状況の下で」行われる住民投票は信用できないと警告していました。

投票は現在の不安定な状況下で行われ、250万人にのぼる避難民の多くは投票のための登録はなされませんでした。

選挙委員会によれば、321万人の有権者のうち308万人が今月始めの国民投票に参加したとのことです。

反政府勢力は、彼らが土地所有紛争に対する中央政府ハルツームの影響力とみなすものを終わらせるために、自治権の拡大を求めてきました。

中央政府が1994年にダルフール地方を3つの州に分割し、その後更に5つの州に分割したことが、中央政府ハルツームからのより強い支配を招き、2003年に始まった紛争を誘発することになったと、反政府勢力は考えています。

特派員によれば、南スーダンが2011年に成功したように、統一されたダルフールは独立を助長するための基盤を反政府勢力に与えることになると考えているとのことです。(後略)【4月23日 BBC】
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上記は英語原文からの私の勝手な翻訳ですから、内容は不正確であることをお断りしておきます。(原文はhttp://www.bbc.com/news/world-africa-36120926で)

321万人の有権者のうち308万人が参加して(反政府勢力ボイコットにもかかわらず)、97%超の高率で政府支持案が賛同されるというのは、何の証拠もありませんが、全くの茶番であることが確信できます。
どこかの数字、あるいは全部の数字にウソ・操作があると思われます。あるいは、分離支持の者だけが選挙登録されたか。

反政府勢力のボイコット理由はよく知りません。アメリカ政府も言っているように公平性が期待できない選挙ということなのでしょう。(もし、負けそうだからボイコットするというのが本音の理由なら、民主主義の否定ですが)

今年1月以来、政府軍と一部反政府勢力との間の紛争が再発し、国連PKO担当官は安保理あての報告で、3月末日には10万人超の難民が生じていると報じているとの情報もあります。

今回住民投票を受けて紛争が本格的に再燃する事態とならないことを、これまた強く願います。

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東アフリカを中心に横行する「アルビノ狩り」は、経済成長に伴うごく最近の風習

2016-04-26 22:47:07 | アフリカ

(「アルビノであることに誇りを」という趣旨で、コンゴ民主共和国の首都キンシャサで昨年10月に開催された啓発ファッションショー【2015年10月28日 AFP】)

完全にそろった骨格なら7万5000ドルとも、8万ドルとも
アフリカやアジアで頻発する“アルビノ(先天性白皮症の患者)”殺害や“魔女”殺害といった、呪術的な背景を持った行為についてはこれまでも何回か取り上げてきました。

2015年1月26日ブログ“アフリカ社会に根深い呪術 アルビノ殺害・遺体売買 「魔女」との糾弾”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150126
2013年6月7日ブログ“パプア・ニューギニア 頻発する「魔女狩り」 近年強まる魔術信仰”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20130607
2011年8月24日ブログ‟アフリカ 「まじない」「魔女」など呪術的なものに関する暴力”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110824 など

「アルビノ」殺害については、主に東アフリカのタンザニア、ブルンジ、ウガンダなどで横行しています。
更に、近年ではアフリカ南部や西部の国々でも増加しています。

****東アフリカに広がる「アルビノ狩り」の恐怖****
先天的な色素異常で肌が白くなる白皮症(アルビノ)は、なぜかアフリカ東部に患者が多い。世界的には約2万人に1人がアルビノなのに対して、アフリカ東部では約3000人に1人だといわれる。

アフリカ東部では07年頃から、アルビノを狙った誘拐・殺人事件が頻発している。タンザニアの呪術医たちがアルビノの人肉は「権力や幸福、健康をもたらす」と主張しているため、「薬」の材料として高値で取引されているからだ。

これまでにタンザニアやブルンジ、ウガンダなどアフリカ東部で数百人が殺害されている。10月末には、タンザニア国境に近い隣国ブルンジの川で9歳のアルビノの少年の切断された遺体が発見された。

タンザニアの警察当局によれば、両手足、性器、鼻、舌、耳がそろっていれば8万ドルという高値が付く。このため、一獲千金を目指して隣国のルワンダやブルンジまで「アルビノ狩り」に行く者が後を絶たない。

タンザニアでは先月末の総選挙で、初めてアルビノの国会議員が誕生した。彼女は、隠れて生活する者もいるアルビノの救世主になれるだろうか。【2010年11月17日号 Newsweek】
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アルビノの比率は“アフリカ東部では約3000人に1人”とのことですが、10倍以上の“タンザニアの人口3500万人のうちアルビノは約15万人”【2011年10年5月7日 AFP】という数字もあります。
いずれしても、“アルビノの赤ちゃんが産まれた場合、差別を免れるために、親が故意に殺すこともあるという。”【2011年10年5月7日 AFP】とのことですから、実際の出現率はよくわかりません。

ブルンジでは今年2月には、5歳の少女が犠牲になっています。

****アルビノの5歳少女、手足切断された遺体で発見 ブルンジ****
アフリカ中央部の内陸国ブルンジで、5歳のアルビノ(先天性色素欠乏症)の少女が自宅から連れ去られ、手足を切断された遺体で見つかった。当局が19日、発表した。呪術に使用する目的だったとみられている。

AFPの取材に応じた地元当局者によれば、武装した男たちが今月17日午前1時(日本時間同8時)ごろ少女の自宅に押し入り、両親を襲って少女を連れ去った。

事件発生直後に少女の両親から知らせを受けた近隣住民らが男たちを追跡したところ、手足を切断された少女の遺体が見つかったという。「男たちは少女の腕を1本、持ち去っていた」と当局者は述べた。

誘拐殺人事件として捜査が始まったが、少女の自宅から金品は何も盗まれていなかったことから当局は、襲撃犯らの狙いが少女だったことは明らかだとしている。

アフリカの一部の国々では、遺伝子の変異による色素欠乏のため肌が白く髪が黄色いアルビノの人々が殺害され、体の一部が呪術に使用される事件が後を絶たない。ブルンジでは2008年以降、20人以上が犠牲になっている。

ブルンジでこの種の事件が起きたのは2012年以来4年ぶり。4年前の事件は首都ブジュンブラからあまり離れていない場所で起きた。

アルビノの人体は隣国タンザニアで高値で取引され、呪術によく利用される。赤十字社(Red Cross)によれば、完全にそろった骨格に7万5000ドル(約840万円)の値が付く地域もあると言われているという。【2月20日 AFP】
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“ブルンジでこの種の事件が起きたのは2012年以来4年ぶり”とのことですから、ブルンジでは一定に収まってきているということでしょうか。

【マラウイ:警察による保護や捜査がきちんとなされず、犯人が野放しになっている】
タンザニア南西部の細長い内陸国マラウイもまた、アルビノ殺害の多い地域です。

****アルビノの女性殺害で10人逮捕 マラウイ、主犯格は親族****
アフリカ南東部マラウイで、先天性色素欠乏症のアルビノの女性(21)を殺害したとして男10人が逮捕された。

マラウイではアルビノの人の殺害が相次いでおり、国連のチームが2週間をかけて現地調査を行っているさなかだった。

25日の警察発表によると、容疑者の男らは女性を農場へ引きずって行って殺し、遺体から骨8個を取り除いた後、袋に詰めて現場へ埋めた。「アルビノの骨は大金をもたらす」という噂を聞いたことが動機となり、殺害に至ったという。

主犯格の38歳の容疑者は被害者のおじだった。

マラウイでは過去2年にアルビノの人が少なくとも8人殺害されている。いずれも骨を呪術の儀式に使うのが目的だったとされる。【4月26日 AFP】
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“マラウイでは過去2年にアルビノの人が少なくとも8人殺害されている”とのことですが、もっと多い数字も報じられています。

マラウイでは未だに「アルビノ」殺害が減っていないようで、今年4月3日にも、わずか2歳のアルビノの赤ちゃんが、母親と一緒に寝ていたところを何者かに連れ去られる事件が起きました。後日、頭蓋骨、歯、着ていた服が発見され、死亡が確認されました。

人権団体アムネスティでは、マラウイにおける警察による保護や捜査がきちんとなされず、加害者が裁かれないまま野放しになっている状況を問題視しており、マラウイ大統領あての署名活動を現在行っています。

****迷信で命を狙われるアルビノの人たちを守って****
皮膚や髪の毛や眼の色が薄いアルビノ(先天性白皮症の患者)の人たちは、その見た目ゆえに、偏見を持たれることが少なくありません。偏見が原因で命を落とす人たちもいるのです。

東アフリカのマラウイでは、数千ものアルビノの人たちとその家族が、日々、誘拐や手足の切断、殺害といった恐怖の中で暮らしています。

「アルビノの人たちの骨や身体の一部を呪術師に渡し、煮て食べれば富をもたらす。彼らの泣き叫ぶ声が大きいほど、切断部位に宿る力は強力になる」――社会にまん延するこうした迷信が、彼らを危険にさらしています。

警察による保護や捜査がきちんとなされず、加害者が裁かれないまま野放しになっている状況が、この問題にさらなる拍車をかけています。

アルビノの人たち関する誤った考えを正し、彼らの保護と加害者の処罰を徹底するよう、今すぐマラウイ大統領に求めてください。(中略)

恐怖の中で生活するアルビノの人たち
マラウイでは、アルビノの人たちを標的にした犯罪が2015年だけでも45件に上ります。そのうち、少なくとも11人が命を奪われ、5人が誘拐されていまだに行方不明のままです。

2016年1月にも、53歳のアルビノの女性が実の兄弟に両腕を切り落とされ殺害されました。3月には、わずか9歳の少年が母親の目の前で拉致され、その1週間後、切断された頭部が近隣の村で発見されました。
アルビノの遺骨を掘り起そうと墓が荒らされる事件も頻発しています。

問われる国の保護と防止対策
アルビノの人たちを狙った事件で、これまでに逮捕されたのはわずか数名です。逮捕されても、無罪放免になるか軽い刑を受けただけです。

アルビノに対する社会的意識は変わらず、差し迫った危険を恐れて、親が子どもを退学させたり、市街地に引っ越す家族もいます。

2015年3月、マラウイ大統領はアルビノの人たちに対する暴力を厳しく非難しました。事件の捜査と加害者処罰を徹底し、危険にさらされている人たちの保護を関係機関に命じました。しかし、その後も逮捕や刑罰の状況には、何の変化も見られていません。【アムネスティ・インターナショナル日本】
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署名期間は2016年3月28日~6月27日(予定)で、https://www.amnesty.or.jp/get-involved/action/malawi_201603.htmlから署名ページに入ることができます。

【「殺害したアルビノの遺体の一部を幸運のお守りに使うという風習は、突然降って湧いたものだ」】
呪術、魔術を信じる人間心理というのは2015年1月26日ブログでも触れたように、微妙なものがあります。
「アルビノ」殺害に関しては、急増したのはごく近年のことで、「アルビノ」の骨に魔力が云々も比較的最近に流布された考えのようです。

****アルビノ襲撃急増の背景を追う、国連専門家****
アフリカでは先天性色素欠乏症のアルビノを標的にした襲撃が、ここ10年で急増している。「魔術」や謎めいたオカルト信仰に起因する襲撃だという見方がある一方で、それだけでは説明がつかないと指摘する専門家もいる。

自らも先天性色素欠乏症であるナイジェリア人のイクポンウォサ・エロ氏は、国連(UN)が初めて起用したアルビノの人権問題の専門家だ。アフリカ全土でアルビノが無残に殺傷されている原因の解明に取り組んでいる。
 
2006年以前にもアフリカではアルビノ襲撃事件がまれに起きていたが、過去10年間に大陸全体で激増していることを重く見たエロ氏は、この問題が明らかに一つの社会現象になっており、より踏み込んだ調査が必要だと訴えている。

エロ氏はAFPの取材に対し「『魔術』のせいだと言えば皆、そうかと思ってしまう。だがそれは正しくないだろう」と語った。
 
アルビノに対する暴力の大半は、アフリカ東部のタンザニアで発生している。06年以降、タンザニアでは何十人ものアルビノが虐殺されたり重傷を負わされたりしている。同国では、地中からダイヤモンドを掘り出すための儀式で、アルビノの遺体の一部が使われているという報告がある。
 
さらに近年は、タンザニアから数千キロ離れたアフリカ南部や西部の国々でも、アルビノ襲撃事件が急増。そのうちの一つシエラレオネでは、07年以降少なくとも60人のアルビノが殺害されている。
 
アルビノの体の一部を持っていれば富がもたらされるという珍妙で、まじないめいた言い伝えが、この広大なアフリカの各地で比較的、短期間になぜ信奉されるようになったのか。エロ氏は、これこそが鍵となる問いだとみている。
 
切断されたアルビノの遺体に魔力があるという考えが、植民地化以前のアフリカ大陸に広くあったことを示す証拠は知られていない。
 
タンザニアとブルンジでアルビノの被害が増加している原因を解明しようと、赤十字国際委員会(ICRC)が09年にまとめた報告書でも「殺害したアルビノの遺体の一部を幸運のお守りに使うという風習は、突然降って湧いたものだ」とされている。

■「魔術」以外の原因
エロ氏は「魔術」以外の原因を探ることが自分の使命だと話している。「いろいろな説がある」中で、エロ氏が「信ぴょう性がある」と考え特に注目しているのが、アフリカの富の増大だ。

この説は、アフリカの経済成長で新たな個人の富がもたらされたことにより、一部のコミュニティーで憤りや疑念が膨らんでいると指摘している。

エロ氏によると、極端な例では「資本主義が奇跡の現象として受け止められ、ある人はとても裕福なのに、自分はどうしてこんなに貧しいのか、人々が理解できない」でいる。

そうした状況で、アルビノの遺体の部位が富をもたらすという自称「呪術医」の言葉が説得力を持ち、それをうのみにしてしまう人がいて、さらに広まっている可能性がある。【3月16日 AFP】
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資本主義経済の浸透・経済成長がもたす「格差の拡大」のなかで、どうして彼らだけが・・・、自分も金持ちになりたい・・・そういう思いが、「アルビノ」呪術の背景にあるとの指摘です。

もっとも、“完全にそろった骨格に7万5000ドル(約840万円)の値が付く地域もある”という話になると、呪術云々ではなく、単純な商品経済の原理に従って「アルビノ」を殺害しようとする輩が出てくるようにも思えます。

7万5000ドル(約840万円)もの金額で購入するのは「成功者」でしょうが、金持ちになったらなったで、もっとカネが欲しい・・・・ということで「アルビノ」購入するのでしょうか。
“民主的な”選挙の必勝祈願(日本のダルマのようなもの)として購入する者も多いように聞きます。

ダルマにしてもそうですが、人知を超えたものに対する思い・心理というのは、一概に迷信云々と嗤うべきものではありませんが、ただ同じ人間を殺害して、その遺体の一部を・・・というのは最低です。

「アルビノ狩り」のハードルを低くしている背景には、自分たちと異なる少数者への差別・排斥の心理もあるでしょう。醜悪です。

それにしても、アフリカにおいて内戦・紛争や飢餓などで失われる人命のなんと「軽い」ことか。
「アルビノ狩り」もそのひとつです。
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イエメン  和平協議再開 当事者にはラストチャンスの危機感も イスラム過激派掃討でも効果

2016-04-25 23:13:34 | 中東情勢

(銃を手に戦闘に参加する子供たち【4月13日 NHK】 
子供は洗脳が容易なことから、少年兵の問題はイエメンだけでなく、アフリカの内戦・紛争地域でも多く見られます)

停戦発効、21日から和平協議再開
中東最貧国イエメンの国民生活を更に苦境に追いやりながら続くイランとサウジアラビアの代理戦争」とも呼ばれる内戦について、休戦の動きが出ていることは3月19日ブログ“イエメン 「忘れられた紛争」も内戦休止の動き? 新たな南北分断か 楽観視できない今後”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160319で取り上げたところです。

イエメンの混乱を簡単にまとめると、以下のとおりです。

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2011年1月 、「アラブの春」の影響を受けて市民による反政府デモが発生してサレハ大統領は退陣し、ハディ副大統領が翌2012年2月の暫定大統領選挙で当選。

2015年2月、サウジアラビア国境に近い北部を地盤とするイスラム教シーア派系武装組織「フーシ派」が事実上のクーデターで首都サヌアを掌握。

ハディ暫定大統領は南部アデンに逃れましたが、翌3月には「フーシ派」の勢力がそのアデンにも迫り、後ろ盾のサウジアラビアへ逃れました。

「フーシ派」をシーア派の地域大国イランが後押ししていると言われ、イラン及びシーア派の影響力拡大を嫌うスンニ派の地域大国サウジアラビアは他の湾岸諸国と共同でイエメンに軍事介入、空爆を継続しています。

なお、失脚したサレハ前大統領は「フーシ派」と共闘しており、イランが支持するシーア派の「フーシ派」とサレハ前大統領の連合勢力と、サウジアラビアが空爆支援するハディ暫定大統領・政府軍という内戦構図となっています。
【20015年10月3日ブログ「イエメン内戦 イランはサウジの「誤爆」批判 サウジはイランの武器供与批判 戦況は「泥沼」化も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20151003)より再録】
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産油国でもない最貧国の内戦ということでサウジアラビアやイラン以外の国際社会ではあまり関心も高くありませんが、戦闘が激しくなった去年3月以降、およそ6400人が死亡していますので、なんとか決着させる必要があります。

死傷者だけでなく、子供たちが教育を受ける機会を奪われ、戦闘に駆り出されるということもあって、このことはイエメンの将来への大きな傷となります。

****イエメン 子どもたちが戦闘に ユニセフが危機感****
内戦状態が続いているイエメンで任務に当たっていた、ユニセフ=国連児童基金の日本人職員は、子どもたちが戦闘に駆り出されていると危機感を示すとともに、中立的な立場の教員のもとで、子どもたちに教育を受けさせる必要があると訴えました。

イエメンでは去年3月以降、政権側と反体制派が衝突し、政権側を支援する隣国サウジアラビアが空爆を行うなど、内戦状態が続いていて、今月中旬から停戦に入り、18日の和平協議に向けて調整が行われています。
停戦の直前まで首都サヌアで任務に当たっていた、ユニセフイエメン事務所の職員、大平健二教育専門官は13日、都内でNHKのインタビューに応じました。

この中で大平専門官は、「検問所では子どもが自動小銃を持ち、軍服を着ている姿を見かける」と述べて、子どもたちが戦闘に駆り出され、その数は確認できただけで、およそ850人に上ると説明しました。

さらに、学校で教員などが、子どもたちに敵対心をあおるような話をするケースがあると指摘したうえで、「教育を受けていないと自分で判断ができず、上の立場の人が正しいと言えばそれが殺人であっても、いいことだと考えてしまう」と述べ、危機感を示しました。

大平専門官は、停戦を維持させて、子どもたちをできるだけ早く教育の場に戻したうえで、一方の勢力に偏らない中立的な立場の教員を育成するための支援の必要性を強調しました。【4月13日 NHK】
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3月19日ブログで取り上げた休戦の動きは、4月10日からの停戦として現実のものとなりました。
なお、停戦発効が10日深夜(日本時間11日朝)という関係でしょうか、報道によって開始日を4月10日とするものと4月11日とするものがあります。

****<イエメン内戦>一時停戦発効 戦闘収束は不透明****
内戦が続くイエメンで11日、ハディ政権とイスラム教シーア派武装組織フーシの間で一時停戦が発効した。

18日から予定される和平協議に向けた信頼醸成措置の一環だが、昨年3月に内戦が激化して以降に一時停戦が持続した例はなく、戦闘収束につながるかどうかは不透明だ。

現地からの報道によると、首都サヌア郊外などでは停戦発効直前の10日夜まで激しい戦闘が続いた。一時停戦に期限は設けられていない。【4月11日 毎日】
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イエメンではこれまでも何回か停戦の試みはありましたが、最終的な和平には至っていません。(前回和平協議は昨年12月に中断しました。)

今回も、停戦発効後の戦闘が発生しており、停戦の実効性を危ぶむ声も出ていました。

****イエメンで武力衝突、停戦崩壊の危機 南部では自爆テロも****
イエメンで国連の仲介による停戦発効から2日目を迎えた12日、アブドラボ・マンスール・ハディ暫定大統領派と、イランの支援を受けるイスラム教シーア派系の反政府武装勢力「フーシ派」の衝突が複数の箇所で起きた。当局者らが明らかにした。反政府側は停戦が危機に瀕していると警告している。
 
当局者らによると、衝突が起きたのは東部のマーリブ県や、フーシ派が掌握する首都サヌアの北東に位置するニームなど。マーリブ県のサルワー地区では、フーシ派および同派と連携するアリ・アブドラ・サレハ前大統領派の勢力が2か所の丘陵の奪取を試みているという。
 
一方、イエメン当局者によると南部アデンでは同日、国際テロ組織アルカイダの構成員とみられる男が軍の新兵が集まっていた場所で自爆し、イエメン兵5人が死亡した。男は基地に向かっていた新兵の集団の中に紛れ込んでいたという。
 
イエメン南部では大統領派と反政府派の戦闘による混乱に乗じて、アルカイダやイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が勢力を伸ばそうとしている。【4月12日 AFP】
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更に、18日再開予定だった和平協議も延期され、今回もまたか・・・という感も漂いました。

****イエメン和平協議再開できず 国連の仲介難航****
内戦状態が続く中東イエメンの和平協議は、18日に再開される予定でしたが、反体制派が参加を拒んだため開かれず、国連が仲介する戦闘終結へのプロセスは難航が予想されています。

イエメンではハディ政権と反体制派との間で激しい戦闘が続いていましたが、国連が仲介して、去年12月に中断した和平協議を再開するため、今月10日から双方が停戦に入りました。

ところが、18日にクウェートで行われる予定の協議について、反体制派が「政権側が停戦を守らなければ協議に参加しない」と主張して出席を拒んだため、協議が始まる見通しは立っていません。

政権側と反体制派の間では、停戦に入ったあとも一部の地域で戦闘が続き、双方が相手が停戦を守っていないと主張しています。

国連によりますと、イエメンでは戦闘が激しくなった去年3月以降、およそ6400人が死亡し、混乱に乗じて過激派組織が活動を活発化させていて、こうした動きに対抗するためにも戦闘の終結が求められています。

しかし、協議を再開できないなか、国連が仲介する戦闘終結を目指すためのプロセスは早くも難航が予想されています。【4月19日 NHK】
********************

上記のような停戦後の戦闘行為、和平協議再開の延期などもありましたが、戦闘状態は一定に収まっており、和平協議も21日から再開されています。

****イエメン内戦、和平協議始まる 当事者クウェート入り****
中東イエメンの内戦終結に向けた国連の仲介による和平協議が21日、クウェートで始まった。18日に現地入りしたハディ暫定大統領派に続き、首都サヌアなどを占拠する反政府組織「フーシ」の代表団も21日までにクウェートに到着した。
 
フーシは2014年に首都サヌアを占拠するなど勢力を伸長。南部アデンに逃れてフーシに対抗するハディ氏を支えるため、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などが15年3月にイエメンでの空爆を始めた。その後、両陣営はたびたび停戦に合意したが長続きせず、戦闘を再開して双方を非難する状態が続いてきた。
 
今回の和平協議に先立ち両陣営は停戦に合意、4月11日午前0時に発効している。ただ南部タイズなどで散発的な戦闘が続いている模様だ。
 
和平の条件としてハディ政権側が「フーシの首都からの撤退、武装解除」を掲げる一方、フーシ側は新たなイエメン政府への参加などを先に議論するよう求めている。(後略)【4月23日 朝日】
****************

今回は本気?】
和平協議の今後の見通しについては、何とも言い難いものがあり、これまでも進展してこなかったという事実もありますが、当事者の本気度及び仲介役の国連の力の入れようはこれまでにないものがあるとも。

****イエメン情勢(和平協議等****
シリアの方では和平協議は反政府派が出席を凍結したままですが、イエメンの方は、hothy-サーレハ連合の出席が(確か3日)遅れ、開始が遅れたものの、今のところ順調に進みだした模様です。

al qods al arabi net は、会議関係者の話として、最初の会合では双方とも、今回の協議が下手をすると最後の協議になるかもしれない、との危機感もあり、柔軟性を示し、まずますの始まりであったとしていると報じています。

その危機感は国連にも強く、会議の準備に当たっては、これまでとは比べ物にならないくらい、関係者と密接な打ち合わせを行い、種々のシナリオを検討した由。

他方イエメンの民衆等の間では、協議が失敗した場合には、双方とも決定的な軍事的勝利を求め、これまで以上の戦闘が起きるだろうとの懸念が強まっている由。

他方、現地情勢としては、若干の停戦違反を除いては、非常に静かであるが、報道によれば、特にhothy連合が、停戦崩壊後、または協議の後の自己の立場を強くするための停戦違反を繰り返しているが、更にその軍事力が弱体化し他地域、または強化したい地域に大量の増援部隊を送っているとのことで、具体的には、タエズ、イッブ、ダリア、ハッジャ及び一部のマアレブ地域等に送り込んでいる由。
これらの地域では、停戦前、政府軍の激しい攻撃で、hothy連合の軍事的立場が弱体化し、崩壊に瀕していたところもあった由

なお、サウディ等アラブ連合軍の報道官が、停戦崩壊の場合は、政府軍とともに決定的軍事的な勝利を求めると発言したことは先に報告済み(後略)【4月24日 野口雅昭氏 「中東の窓」http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/5040951.html
*******************

当事者が“危機感”を持って協議に臨んでいるとのことですので、なんとかそこに期待したいものです。

【アルカイダ系イスラム過激派掃討も進展
なお、これまでイエメンでは内戦の混乱に乗じる形でアルカイダ系の武装組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が勢力を拡大して、「テロの温床」となることが懸念されていましたが、停戦によって余裕ができたせいか、政府軍・アラブ連合軍はAQAPの拠点を制圧しています。

****イエメン南部でアルカイダ800人超殺害、州都を奪還 連合軍発表****
サウジアラビア主導のアラブ連合軍は25日、中東イエメン南東部で同軍の空爆支援を受けたイエメン軍が国際テロ組織アルカイダ系武装組織の拠点を攻撃し、戦闘員800人以上を殺害したと発表した。
 
連合軍の司令部が国営サウジ通信(SPA)を通じて発表した声明によると、今回の作戦は、イエメンを拠点とする武装組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」に昨年4月から1年にわたって占拠されていた南東部ハドラマウト州の州都ムカラで行われた。殺害した中には複数のAQAP指導者も含まれているとしている。
 
一方、ムカラからAFPの電話取材に応じた匿名の軍情報筋は、アブドラボ・マンスール・ハディ暫定大統領を支持するイエメン部隊がムカラ市内と原油ターミナルを奪還したと語った。AQAPは抵抗することなく西の方角へ撤退したという。【4月25日 AFP】
*********************

“AQAPは港の関税収入を活動資金にしていたとされ、支配権を失ったことは大きな打撃となりそうだ”【4月25日 時事】とも。

前出「中東の窓」によれば、アデンなどでも掃討作戦が行われているようです。
「テロの温床」となることを防止できれば、それも停戦の大きな成果でしょう。
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シリア  和平協議は崩壊の瀬戸際 ロシアはクルド人勢力との連携も強化 難民問題でメルケル首相の苦悩

2016-04-24 22:19:16 | 中東情勢

【4月24日 AFP】

反体制派が交渉ボイコット 停戦は崩壊の危機に直面 最終的には米ロの判断か
シリア内戦をめぐる一連の和平協議は1月下旬に始まり、2月27日にアサド政権と反体制派との間で一時停戦が発効して以降、戦闘は一定程度、抑制されてきました。

3月24日に2度目の中断に入った後、国連のデミストラ特使は今月13日、およそ3週間ぶりにスイスのジュネーブにある国連ヨーロッパ本部で協議を再開し、27日まで協議が行われることになっています。

しかし、反体制派の主要団体「高等交渉委員会(HNC)」代表団はシリアでの戦闘再燃と人道支援の停滞に抗議し、公式の和平協議をボイコットしており、事実上は協議は始まっていない状況が続いています。

ただ、HNC代表団はジュネーブにとどまっており、デミストラ特使との話し合いには引き続き応じる姿勢も見せています。

HNC代表団が交渉への正式参加保留を発表した後も、政府軍による一部反政府勢力への攻撃は激しさを増しています。

この間、メディアで報じられるシリア関連のニュースでは、“停戦破綻に現実味”“和平協議離脱を表明”“「和平」瀬戸際に”“停戦崩壊に警鐘”“停戦形骸化進む”といった、和平協議と停戦の破綻に限りなく近づいている現状を示す文言が並んでいます。

****シリア市場空爆で市民44人死亡 反体制派、和平協議離脱を表明****
内戦が続くシリアの北西部で19日、2か所の市場が政府軍によるものとみられる空爆を受け、市民少なくとも44人が死亡した。和平協議のためにスイス・ジュネーブ入りしている反体制派の代表者らは、このような攻撃が相次いでいることを受け、協議から離脱すると表明した。(中略)
 
(空爆があった)イドリブ県は、国際テロ組織アルカイダ系武装組織「アルヌスラ戦線」が掌握している。
アルヌスラ戦線はイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」同様、停戦の適用対象からは除外されており、政府軍は同組織の支配域に対する攻撃は継続している。

シリア反体制主流派の最大組織「高等交渉委員会(HNC)」は、マーレトヌーマンでの空爆は「大虐殺」であり、明らかな停戦違反だと非難した。
 
HNCは18日、シリア国内で戦闘が激化し人道支援が阻害されていることに抗議し、和平交渉への正式な参加を保留すると発表していた。

HNCの報道官は、今回の空爆はこの決断に対する「(バッシャール・)アサド大統領による報復」だったという見方を示している。

シリアの5年に及ぶ内戦を終結させるために長く続けられてきた一連の和平交渉における最新の協議は、停戦が希望をもたらしているにもかかわらず、今週もまだ始まっていない。

米露が仲介したこの部分停戦により、シリア全土で暴力行為が激減したものの、最近特に同国第2の都市アレッポ(Aleppo)の周辺で戦闘が急増しており、和平協議の完全決裂を危惧する声も上がっている。
 
HNCの調整担当者リヤド・ヒジャブ氏は19日、「シリア人たちが日々、包囲作戦や飢餓、空爆、毒ガスやたる爆弾で死亡している状況で、(和平)交渉に参加することは、道徳的にも人道的にも適切ではない」と述べ、自身を含むHNCの代表団が22日までにジュネーブを去る意向であることを明らかにした。

ただ、協議を仲介する国連(UN)は、協議はまだ頓挫していないと強調。スタファン・デミストゥラ(Staffan de Mistura)特使は、国連の仲介者を通じた間接協議が今週いっぱい続けられる見込みだと述べている。【4月20日 AFP】
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3月にプーチン大統領が主要部隊の撤収を表明したロシアも、相当程度の部隊が残存しており、政府軍の攻撃を支援しているようです。

****<シリア>政府軍、アレッポ南郊攻撃準備・・・・「和平」瀬戸際に****
内戦下のシリアでアサド政権が週内にも、北部の激戦地アレッポ周辺の反体制派に対して大規模な軍事作戦を始める準備をしていることが19日、政府軍当局者への取材で分かった。

反体制派は、政権が本格的な攻撃を始めればジュネーブで開催中の和平協議を離脱する構えを見せており、協議が暗礁に乗り上げる恐れが高まった。
 
シリアでは2月27日、ロシアや米国の提唱で、政権と反体制派との間で一時停戦が発効した。双方が市街地を二分して激戦を続けてきたアレッポ周辺でも一時的に、戦闘が小康状態になっていた。
 
だが、4月に入って反体制派の一部が停戦対象外の国際テロ組織アルカイダ系勢力「ヌスラ戦線」と連携し、政権側への攻撃を強化。アサド政権も空爆を再び激化させるなど緊張が高まっている。
 
シリア北部での作戦に関わる軍将官は取材に「攻撃準備は最終段階だ」と説明。政府軍や政権側民兵組織はアレッポ南郊に攻撃部隊を集結させ、反体制派の攻撃対象の絞り込みも進めているという。
 
政権側は今年2月、トルコからアレッポ北方に至る反体制派の主要補給路を断っていた。今回の作戦では、南や西からもアレッポの反体制派支配地域への圧力を強める方針だ。
 
また軍当局者は、政権を支援するために空軍や特殊部隊、軍事顧問を派遣しているロシア軍について、3月にプーチン大統領が主要部隊の撤収を表明した後も「撤収は一部だけで、作戦遂行能力は維持している」と証言。アレッポ攻撃でも協力を得られるとの見通しを示した。
 
ロシア軍は、政権側が3月下旬に過激派組織「イスラム国」(IS)から中部パルミラを奪還した際も、空爆や作戦指揮などに関与していた。
 
約2年ぶりとなる今回の本格的な和平協議は今年1月に始まり、2度の中断を経て今月13日から再開。アレッポでの攻防激化によって和平協議への悪影響が懸念されるが、軍当局者は政治的解決は困難との見方を示した。【4月20日 毎日】
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****シリア関係国会合の開催必要=停戦崩壊に警鐘―国連特使****
シリア内戦の和平仲介役、デミストゥラ国連特使は22日、アサド政権側と反体制派の和平協議が続けられているジュネーブで記者会見し、停戦崩壊の恐れを指摘した上で、事態悪化を食い止めるため、関係国の閣僚会合を開く必要があるとの認識を示した。

特使は「停戦はまだ保たれているが、速やかに行動を起こさなければ、窮地に陥る」と述べた。反体制派の主要団体「高等交渉委員会(HNC)」代表団はシリアでの戦闘再燃と人道支援の停滞に抗議し、公式の和平協議をボイコットしている。【4月23日 時事】
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23日にも政府軍は反体制派支配地域に相次いで空爆を加え、民間人少なくとも30人が死亡したとも報じられています。空爆・戦闘は北部の大都市アレッポの他、首都ダマスカス東方の反体制派が掌握する都市ドゥマ、中部ホムス県の都市タルビセなどで行われているようです。

****空爆で30人死亡、停戦は事実上崩壊か シリア****
シリア各地で23日、同国政府軍と反体制派による大規模な戦闘が発生し、少なくとも30人の一般市民が死亡した。スイス・ジュネーブでの和平交渉が停滞する中、過去8週間続いた停戦協定が危機に瀕している。
 
在英の非政府組織(NGO)「シリア人権監視団」の代表は、戦闘がエスカレートしたことにより、シリア政府軍とイスラム過激派組織以外の反体制派間で合意された停戦協定は事実上崩壊したとみられると述べた。(中略)
 
政府軍によるアレッポ空爆は2日目を迎え、22日には25人の一般市民が死亡、40人が負傷していた。【4月24日 AFP】
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反体制主流派の最大組織「高等交渉委員会(HNC)」は政府軍のアレッポ近郊などでの攻撃を停戦違反と非難してボイコットの理由としていますが、当初からアルカイダ系ヌスラ戦線は停戦の適用対象からは除外されており、ヌスラ戦線と共闘するイスラム主義反政府勢力も攻撃対象となることについては予想されていたことです。

軍事的には、ロシアの支援で戦況を立て直した政府軍ペースで進んでおり、和平交渉を頓挫させることで反体制派が得られるものはあまりないようにも思えます。
アサド政権側は、交渉が決裂すなら「それはそれで構わない。一気に攻勢を強めよう」といったところではないでしょうか。

一旦交渉から正式離脱してしまうと、状況が悪化しても交渉復帰はハードルが高くなり困難となります。

なんだかんだ言っても、停戦が継続した方が民間人犠牲ははるかに少なくてすみます。
停戦が崩壊の危機に直面しているのは事実ですが、まだ崩壊した訳でもありませんので、最後の一線でなんとか立て直してもらいたいものです。

“アサド政権関係者は朝日新聞の取材に対し「和平協議が崩壊する可能性は50%。最後は米国とロシアがどう判断するかだ」と語った。”【4月20日 朝日】

ロシアは長期戦の泥沼に引きずり込まれるのは望んでいないでしょうし、アメリカはアサド政権の残存云々よりIS対応に関心は移っていると言われていますので、両国ともこのまま和平協議の枠組みが崩壊することは避けたいところではないでしょうか。

クルド人勢力をめぐるロシア、アメリカ、トルコ、シリア政府の微妙な関係
こうした情勢にあって、最近目を引いた記事が2件

ひとつは、ロシアが北部クルド人勢力との連携を強めていることを報じたものです。
トルコとの関係で躊躇するアメリカを後目に、ロシアがクルド人勢力と接近していることは従前から言われていることで、ロシアは和平協議へのクルド人勢力参加も支持していますが、ロシアが武器支援等の対象としているのはクルド人民兵組織「クルド人民防衛隊(YPG)」ではないそうです。

****ロシア、クルド人と連携を強化-シリアとイラクで****
ロシア政府は、シリア北西部でクルド人部隊と共同で戦うために派兵を行ったほか、イラク内のクルド人に武器を提供していると述べた。

これは、独自の国家を持たない少数民族集団であるクルド人と長い間連携している米国を出し抜き、この地域でロシアの影響力を拡大しようとする戦術の一環だ。

ロシアとクルドの当局者によれば、クレムリンは一部のクルド人グループとの関係を促進することで、この地域でロシアの足場を維持しようと意図している。

これは武器・弾薬の提供や石油取引を通じてクルド人との関係を強化しようとするものだ。それはまた、シリアのアサド政権との関係を通じて確立したロシアのプレゼンスを土台にしている。
 
米国防当局者によれば、ロシアの支援はシリア西部のクルド人グループの一つである「アフリン・クルド」(シリアの都市アフリンに住むクルド人)に集中しているようだ。
 
アフリン・クルドはこれまで米国から支援を受けてこなかった。米国が支援してきたのは、シリアのクルド人民兵組織「クルド人民防衛隊(YPG)」だった。
 
米国は、過激組織「イスラム国(IS)」に対する戦いでシリアのクルド人戦闘員に頼り、最も効率的な同盟部隊の一つとして評価している。

米国によるクルド人支援に対して、トルコは怒っている。トルコ政府と敵対するクルド人の非合法武装組織、クルド労働者党(PKK)と緊密な関係を持っているとの理由でYPGを脅威とみているからだ。米国、トルコ、欧州連合(EU)はPKKをテロリスト集団とみなしている。
 
米国は、ロシアがシリア国内で部隊と武器を再配備しようとしており、それはロシアが全面的な戦闘に近く復帰する準備のためではないかと懸念している。シリアのクルド人へのクレムリンの接近策は、こうしたなかで浮上してきた。
 
ロシアのプーチン大統領は先週、ロシア軍の兵士たちがシリアの戦略的要衝であるアレッポ周辺でシリアのクルド人とともに戦っていると述べた。ただし米情報当局者は、こうした兵士が前線にいるのかどうかを疑問視している。
米当局者は、プーチン大統領の発表は米国とトルコに対する挑発である公算が大きいと述べた。
 
ロシアはシリアに2つの基地と、兵士と航空機(その数は知られていない)を維持している。当局者によれば、ロシア軍は依然、シリアにいる同盟者に対して空からの支援と地上の攻撃標的に関する情報を提供している。(後略)【4月22日 WSJ】
*********************

クルド人勢力関連では、政府軍とクルド人勢力が衝突したとの報道も。

****シリア北東部で政権側とクルド人が衝突、数十人死亡 停戦で合意***
シリア北東部カーミシュリーで3日間にわたり政権側部隊とクルド人部隊が交戦し、クルド側によると双方で計数十人が死亡した。シリア政府とクルド人勢力は22日、無期限の停戦で合意した。
 
戦闘は20日、クルド人が多数を占めるカーミシュリーの検問所で起きた小競り合いを発端に発生。カーミシュリーがあるハサカ県はカーミシュリー空港や同市の一部などを政権側が支配しているが、それ以外の大半はクルド人勢力が掌握している。ただ、双方が衝突することはまれだった。
 
クルド系治安組織の声明によると、カーミシュリーの空港で行われた協議の結果、双方は無期限の停戦で合意した。永続的な解決策を探るため、協議を続けていくという。戦闘では一般市民に17人、クルド人戦闘員に10人、政府側に31人の死者が出たとしている。【4月22日 AFP】
******************

この「クルド人勢力」が「クルド人民防衛隊(YPG)」なのか、ロシアが武器支援する「アフリン・クルド」なのかは知りませんが、“シリア北東部”とのことですから、恐らくYPGでしょう。

まさに誰が敵で誰が味方かわからないシリア内戦を表していますが、“双方は無期限の停戦で合意した”とのことですから、あくまでも局地的な衝突であり、今後政府軍とクルド人勢力が大きく対立することはないのでしょう。
(クルド人勢力が自治権の拡大、あるいは事実上の独立を求めるという話になると、また別問題ですが)

メルケル首相 「安全地帯」でトルコ主張に同意
もうひとつの注目記事は、かねてよりトルコが主張していたシリア領内での「安全地帯」について、ドイツ・メルケル首相が賛同したというものです。

****独首相「シリアに安全地帯」案を支持****
ドイツのメルケル首相は、内戦が続くシリアの人たちが国外に逃れなくても済むよう、シリア国内に住民を保護する「安全地帯」を設ける案を支持する考えを示し、今後、関係国の議論が活発になりそうです。

ドイツのメルケル首相は23日、シリア難民への対応などを話し合うためトルコを訪れ、シリアとの国境近くにある難民キャンプを視察しました。

その後、トルコのダウトオール首相とともに記者会見したメルケル首相は、「戦闘が行われず、相当な程度の安全が確保された地域が必要だ」と述べ、シリアの人たちが国外に逃れなくても済むよう、シリア国内に住民を保護する「安全地帯」を設ける案を支持する考えを示しました。

この案は、これ以上の難民の受け入れを避けたいトルコが、過激派組織IS=イスラミックステートの脅威からシリアの人たちを守るという名目で主張してきましたが、EU=ヨーロッパ連合は、シリアの主権に関わるとして慎重な姿勢を示しています。

しかし、メルケル首相としては、去年1年間でドイツにたどり着いた難民や移民が100万人を超え、受け入れに寛容な政策が国内で強い批判も浴びるなか、トルコの主張を支持して難民の流入を抑えるねらいがあるとみられます。

「安全地帯」の設置は、具体化すればシリアのアサド政権の反発を招くのは必至とみられますが、ドイツが支持を表明したことで今後、関係国の議論が活発になりそうです。【4月24日 NHK】
**********************

シリア政府が主権侵害として反対している「安全地帯」を維持するためには空軍力を含めた強固な軍事力が必要になります。政府軍を支援するロシア軍と衝突することもあり得ます。


国境地帯で勢力を拡大するクルド人勢力との関係もあります。(トルコの狙いは難民対策よりクルド人勢力抑制かも)


そうしたことから、アメリカもEUもこれまでトルコの主張には耳を貸してきませんでしたが、難民問題でトルコの協力を必要不可欠としているメルケル首相としては、この際そんなことも言ってはいられない・・・・ということでしょう。

4月17日ブログでも取り上げた、トルコのエルドアン大統領を過激な表現で風刺したコメディアン・作家のヤン・ベーマーマン氏に対するトルコ政府の告訴に関し、メルケル首相が“司法に判断をゆだねる”として司法手続き続行を容認した件といい、最近のメルケル首相はトルコからのどんな無理難題でものむ腹づもりのようです。
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バングラデシュ  止まないイスラム過激主義者によるテロ事件

2016-04-23 22:45:00 | 南アジア(インド)

(国教としてのイスラム教に反対する世俗主義・少数派グループの人々【http://www.newstime.jp/news/bangladesh-considering-abandoning-islam-as-official-religion-after-extremist-attacks】)

テロの対象となったのは、ヒンズー教徒、キリスト教徒、大学生、大学教授
経済成長に向かって動き出したイスラム教国・バングラデシュで、イスラム過激派による世俗主義的なブロガーや出版関係者などへの暴力事件が頻発していることは、2015年11月28日ブログ“バングラデシュで頻発するテロ 社会不満から過激思想へ 貧困と疎外がもたらす「テロの温床」”で取り上げました。

前回ブログ以降も、こうしたイスラム過激派によるテロが相次いでいます。
その対象は、ヒンズー教徒、キリスト教徒、世俗主義的な人物・・・と、イスラム過激派に批判的な人物なら手あたり次第という感もあります。

****ヒンズー教の僧侶殺害、イスラム過激派を逮捕 バングラデシュ****
バングラデシュの警察当局は26日、ヒンズー教の僧侶を殺害した容疑で、非合法イスラム過激派組織「ジャマートゥル・ムジャヒディン・バングラデシュ(JMB)」の構成員3人を逮捕した。イスラム教徒が大多数を占める同国では最近、少数派に対する襲撃が相次いでいる。

警察当局によると、JMBの構成員3人は事件の起きた北部ポンチョゴル県で逮捕された。3容疑者は逮捕時に武器を所持していたという。

事件は21日にヒンズー教寺院で発生。拳銃と包丁で武装した男2人が僧侶を襲撃した。(中略)

僧侶の殺害をめぐって警察は、今回の逮捕に先立ち、JMB構成員2人と同国最大のイスラム主義政党「イスラム協会」の活動家をすでに逮捕していた。

米テロ組織監視団体「SITEインテリジェンス・グループ」によると、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」がこの事件で犯行声明を出している。
 
バングラデシュでは最近、キリスト教徒やイスラム教シーア派、イスラム神秘主義のスーフィー教徒、イスラム改革派のアフマディー教徒らが、イスラム過激派に襲われる事件が急増している。【2月26日 AFP】
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殺害方法も、拳銃と肉切り包丁で武装した男2人が寺院に押し入り、寺院内の自宅で朝の礼拝の準備をしていた僧侶のジョゲスワル・ロイ師(45)に襲い掛かって首を切り落とし殺害したというように残忍です。

****IS、キリスト教徒殺害と声明=バングラ****
過激派組織「イスラム国」(IS)は23日、バングラデシュ北部クリグラム地区で、イスラム教からキリスト教に改宗した男性(68)を殺害したとの声明を発表した。米テロ組織監視団体SITEが明らかにした。

AFP通信によると、男性は22日、刃物を持った2人組の男に襲われて殺害された。1999年にキリスト教に改宗したといい、ISは「見せしめに殺した」と強調した。【3月23日 時事】 
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****バングラでまた襲撃事件 イスラム過激派批判の学生、なたで殺害****
バングラデシュの首都ダッカで6日、自身のフェイスブックでイスラム過激派を批判した法学生が男らになたで襲撃され、殺害された。バングラデシュでは、世俗派の活動家やブロガーが暗殺される事件が相次いでいる。
 
7日の警察発表などによると、殺害されたのはジャガナート大学で法律を学ぶナジムディン・サマドさん。6日夜、交通量の多い大学前の路上で少なくとも4人の男に頭をなたで斬りつけられた。その後、倒れたところを至近距離から1人に銃撃され、その場で死亡したという。
 
地元紙ダッカ・トリビューンは襲撃犯たちが「アッラー・アクバル」(アラビア語で「神は偉大なり」の意)と叫んでいたと伝えている。
 
警察は暗殺事件とみて、サマドさんのフェイスブックへの書き込みが犯行の動機となった可能性を捜査している。これまでのところ犯行声明は出ていないという。
 
イスラム教徒が国民の大多数を占めるバングラデシュでは昨年、無神論者のブロガー4人と世俗派の出版社経営者1人が刃物で斬りつけられて殺害されており、いずれもイスラム過激派の犯行とみられている。【4月7日 AFP】
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そして今日も。今度は、イスラム過激派活動地域で学校を設立した大学教授です。

****なたでめった切り…バングラ、今度は大学教授が犠牲に****
バングラデシュの警察当局によると、北西部ラジュシャヒで23日、大学教授が何者かになたで襲われて殺害された。同国ではイスラム過激派による世俗派や無神論者の活動家の殺害が相次いでおり、警察は今回も同様の事件とみて捜査を行っている。
 
殺害されたのはラジュシャヒ市の公立大学で英語を教えていたレザウル・カリム・シディーク教授(58)。市内の自宅から徒歩でバス停に向かっていたところ、背後からなたで切り付けられたという。
 
地元警察幹部はAFPの取材に「シディークさんの首は少なくとも3度切り付けられた跡があり、70~80%切断されていた」と説明。襲撃の特徴から判断してイスラム過激派集団の犯行とにらんでいると語った。
 
警察の話では、シディーク教授は音楽などの文化的なプログラムに携わっており、非合法のイスラム過激派組織「ジャマートゥル・ムジャヒディン・バングラデシュ(JMB)」の拠点だったバグマラに学校を設立していた。
 
バングラデシュでは2013年以来、世俗派のブロガーが殺害される事件が多発しており、いずれも国内で生まれ育ったイスラム過激派の仕業とみられている。今月初めにも首都ダッカで同様の事件が起きたばかりだった。【4月23日 AFP】
******************

しばしば犯行声明などを出している「イスラム国」(IS)が、どれだけ実態ある組織としてバングラデシュに存在しているのかはわかりません。

【“経済成長の結果として過激派とのつながりが発生した”との指摘も
前回ブログでは、こうした過激派テロが相次ぐ背景として、経済活動が活発化して一部にその恩恵を享受する層が出現し始めると、その他の貧困に放置されたままの多くの者の間では社会に対する不満が大きくなること、そして
貧困に留め置かれた者の不満を政治に反映させるチャンネルが不在の場合、不満はテロ・暴力事件として暴発することなどを指摘しました。

また、政権側の弾圧で『野党不在』になりつつあり、代わるはけ口としてイスラム勢力が伸びてきているといった見方もあることなども。

JICA専門家を経てバングラデシュでコンサル業を起業されている田中秀喜氏は、経済成長によって貧困状態から脱し、ある程度の教育水準や経済水準が実現したことがイスラム過激主義の拡散を助けていること、弱体化した野党勢力が、現政権に対抗する手段はもはやテロぐらいしかない・・・という状況に追い込まれていることなどの要因を指摘されています。

****バングラデシュ・ブロガー連続殺人事件 経済成長がイスラム過激派を育てる****
ISIL、アルカイダ、ボコ・ハラム......世界各地で、イスラム過激派との衝突やテロが起きている。

バングラデシュでは、今年に入って5人のブロガーが殺された。彼らはいずれも、「イスラム教に対して批判的」とされる記事を書いていた人物だ。

これまでバングラデシュは、穏健なイスラム主義の国家として認知されていた。しかし、ブロガー連続殺害事件の背景には、イスラム過激派の影が見え隠れしている。

日本を含む先進国のメディアは、イスラム過激派の影響下にある国々を単なる貧しい国々と見てしまいがちで、貧しい国々であるがゆえに起きる過激派事件ととらえる傾向がある。しかし、事実はそうではない。

バングラデシュは経済成長を遂げつつあり、世界最貧国からも既に脱している。
つまり、バングラデシュにおいてはむしろ、経済成長の結果として過激派とのつながりが発生したのではないかと考えられるのだ。

バングラデシュは世俗主義的な国
今年2月以降、バングラデシュで殺された5人のブロガーたち。彼らはいずれも、イスラム過激派から「イスラム教に対して批判的」とされていた。

政府当局の捜査では、国内のイスラミストグループによる犯行との見方が示されている。(中略)

これだけを見れば、バングラデシュではイスラム過激派が猛威を振るっているように見えるが、実際の所、原理主義的思想はマジョリティにはなっていない。
ダッカで暮らしていても、非常に世俗的な社会であることを日々感じている。

では、なぜこのようなイスラム過激派との関わりが想定される事件が立て続けに起きているのだろうか?

外国人銃殺事件とブロガー殺害事件
政府当局は捜査の結果、ブロガー連続殺害事件はイスラミストグループ「アンサルラ・バングラ・チーム」による犯行としている(複数のメンバーが逮捕されている)。

これに対し、前回の記事でお伝えした邦人殺害事件を含む外国人殺害事件については、元野党第一党BNP(中道右派)グループの指示によるヒットマンによる犯行で、政府の社会的信用を失わせる目的があったとしている。

外国人殺害事件はISILが犯行声明を出しているが、与党アワミ・リーグ(中道左派)率いる政府としては、BNPグループが関与していると睨んでいるのだ。

しかし、BNPグループもイスラム過激派と無縁ではない。BNPグループの中には連合政党としてジャマティ・イスラムがあるからだ。

ジャマティ・イスラムはイスラム主義政党で、2001年からの5年間はBNPと連立政権を組んでもいた。彼らは中東のイスラム諸国と太いパイプがあり、多額の資金援助を受けているという情報もある。

ジャマティ・イスラムはもともとイスラム主義ではあるが、原理主義的ではなかった。しかし、近年党内に過激派思想を持つ集団が存在している。つまり、いずれにせよ背景にはイスラム原理主義的勢力がある……という見方だ。

回りくどくなったが、今年バングラデシュを騒がせた殺人事件のいずれもが、背景を辿っていくとイスラム過激派勢力に辿り着く、ということなのだ。

貧困からの脱出が、過激派思想を育てる
通常の殺人事件は、標的の存在を認知しなければ起こらない。

今回のようにブロガーの殺害に至るには、犯人にある程度の教育水準や経済水準が求められる。読み書きができ、コンピューター・リテラシーを持っていなければ、そもそもブロガーたちを認知することが不可能だからだ。

学校に通ったことがなく字が読めない、或いはPCを持とうにも金がないし、それ以前の問題として村に電気が来ていない……というような、以前のバングラデシュのような貧困社会では、なかなか起こりえなかった犯罪だと言えるだろう。

ところが、最近のイスラム主義政党の支持者や活動家は、一般の与野党の支持者たちと同等もしくはそれ位以上の学歴保持者なのだという。

この背景には、国の教育制度が整い、それほど裕福でなくても一定レベル以上の学歴を身につけられる社会が実現していることがある。

また、イスラム過激派の持つ宗教思想はごく偏狭で狂信的な教義である。この教義を能動的に理解し、同調するに至るには一定の教養が必要である。
 
一般に、教育レベルが上がると、宗教の影響力は低くなりやすい。しかし、一定レベル以上の教育を身につけたマス層のなかに、少数だがイスラム教に自らのアイデンティティを見出す者がいる。教育を身につける人々の数が増えれば、過激派思想に染まる若者の数も増える……という現象が起きているのだ。
 
事実、ブロガー殺人事件の容疑者のなかには、イギリス国籍を持つベンガル人も存在している。また、外国人殺害事件が起きてから複数のイスラム過激派のアジ トに当局の捜査が入ったが、拳銃や手製爆弾などを含む武器に加えジハーディストの思想本が見つかっている。書物が過激派思想の浸透に重要なものとなってい るのだ。

教養や経済力を持つ層も、イスラム過激派思想と無縁ではないのだ。

テロ行為に追い込まれる野党勢力
さらに、バングラデシュ国内の政治事情も背景として見逃せない。
 
野党第一党としてかつては国政を担ったこともあるBNPと、その連合相手のジャマティ・イスラムは、どちらも弱体化の一途をたどっている。
 
BNPは2014年初頭の選挙をボイコットしたせいで、国政レベルのプレゼンスを消失した挙句に内部で仲間割れ。ジャマティ・イスラムは1971年の独立戦争時にパキスタン側についた過去があるのだが、その咎を今頃になって戦争犯罪人裁判で指弾され、幹部が軒並み逮捕、処刑されている。
 
両政党とも、現政権に対抗する手段は、もはやテロぐらいしかない……という状況に追い込まれていると言っても過言ではない。
 
追い込まれたジャマティ・イスラムが中東の過激派と連携し、そこに現状に不満があり過激派思想に染まった若者たちが絡み合い、連続して事件を発生させているのではないだろうか。

日本にとっても他人事ではない
一定レベル以上の教養を身につけた青年たちが、中東から発信される過激思想に感化されて犯行に至る……という点において、バングラデシュの事件は、パリ同時多発テロ事件の犯人像と似通っている部分が多い。
 
中東を挟んで西と東で起きた事件であり、イスラム過激派がらみということもあって、多くの日本人にとっては他人事に映るだろう。
 
けれど、実際はもっと身近なものだ。
90年代に、高学歴者層が自らのアイデンティティに疑問を抱え、偏った教義に心酔していった結果、起こったテロ事件がある。そう、オウム真理教事件だ。
 
一定の教養や経済力があったとしても、現状への不満が歪な思想と結合すれば、容易にテロに結びついてしまう。

グローバリズムやインターネットがそれに拍車をかけているのだとすれば、何とも皮肉な話である。【2015年12月21日 ジセダイ総研】
*******************

確かに、その日暮らしで生きるのに精一杯の社会では、思想的背景を持ったテロ事件は起こりにくいのかも。
経済成長によって、ある程度の教育を受け、情報収集手段なども持った者のなかに、成長の実態、格差の拡大などを認識し、過激な思想・行動に走る者も出てくるということでしょうか。

バングラデシュは、まだ成長が今ほど加速していない10年ほど前に、1週間程度観光したことがあるだけですが、社会に対するイスラム教の影響力については、そんなに強くないようなイメージも受けました。あくまでも旅行者の印象ですが。

アジアのイスラム教国、インドネシアやマレーシアも、イスラム教に関しては穏健な国と見られていましたが、近年やはりイスラム過激主義の浸透が危惧されています。

経済成長に伴う不安定な状況、インターネットのよる情報収集・発信の容易さなどが共通の背景にあるのでしょうか。

また、こうしたイスラム過激主義の問題は、一昨日とりあげたミャンマー、スリランカ、タイなどでの過激な仏教ナショナリズムの台頭とも共通の背景を有するのでしょうか。

バングラデシュについて言えば、従前より「ホルタル」と呼ばれる、暴力的な妨害行為を伴う野党勢力主導のゼネストの習慣があったように、政治が暴力に結びつきやすい土壌もあるのかも。

なお、バングラデシュは独立した当初は非宗教的国家を宣言していましたが、1998年の憲法改正によりイスラム教が国教として定められています。

昨今のイスラム教以外の信者を狙ったイスラム過激派によるテロ事件が複数起きたことにより、イスラム教を国教から廃止すべきだという世論が高まっていて、バングラデシュ最高裁判所はこの主張を検討し始めているとの情報もあります。【http://www.newstime.jp/news/bangladesh-considering-abandoning-islam-as-official-religion-after-extremist-attacks

この話がどういう方向に進んでいるのかは知りませんが、この動きが現実味を帯びれば、それに対するイスラム主義からの反動が怖いような気もします。
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イスラエル  自爆テロで高まる報復空爆の懸念 パレスチナ人の生活を分断する「壁」

2016-04-22 21:56:01 | パレスチナ

(「壁」によって分断された街 パレスチナ自治区で生きる若者たちの無情な現実を描くパレスチナ映画「オマールの壁」【映画.com】)

ガザ地区でIS支持者が増加
パレスチナ自治政府ガザ地区をめぐっては、ガザ地区からイスラエルへのロケット弾攻撃と、イスラエル軍による報復空爆という何度も繰り返されています。

3月12日早朝にも、11日に行われたロケット弾攻撃に対する報復としてイスラエルの戦闘機がイスラム原理主義組織ハマスの拠点を空爆し、近くに住む兄妹3人が死傷した件は、3月13日ブログ「イスラエル ガザ地区ハマスのIS接近を警戒 更なる混乱の可能性も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160313でも取り上げたところです。

3月13日ブログでは、タイトルにあるように“ハマスのIS接近”について触れましたが、ガザ地区ではハマス以上に過激でISに近い組織も生まれているようです。

****ガザ地区ではISが台頭****
・・・・ところが、ここへきてガザ情勢をめぐる構図を大きく変えかねない動きが出てきた。ガザ地区で過激組織「イスラム国」(IS)の支持者が増えているというのだ。

15年に入り、ガザではハマスとは別のイスラム原理主義武装勢力がIS支持を表明。「パレスチナにイスラム国家を建設する」と主張し、ハマスを「世俗派」扱いして攻撃する。活動の詳細は明らかでないが、ISがガザでイスラエルを狙うミサイルを製造し始めているとの報道も目立つ。

対テロ国際研究所のボアズ・ガノル本部長は「テロの世界では、新たに出現した組織がより過激で破滅的な主張を打ち出し、『われわれこそ本物だ』と訴えて勢力を広げていく」とし、ガザでISが台頭する恐れがあると警告した。

「武力闘争」を掲げてきたハマスを上回る過激組織の出現で、ガザ情勢は従来の「イスラエル対パレスチナ」の枠組みを超え、世界的な「対IS戦争」の一環として対処していくことを迫られつつある。【4月22日 産経】
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膠着した現状への不満から、より過激な動きが生まれるというのは、ある意味自然な流れでしょう。
そうした一部の過激行動によってもたらされる悲劇は甚大なものがありますが。

イスラエル軍兵士による負傷パレスチナ人容疑者の「処刑」】
前回ブログ以降のパレスチナ・イスラエル関連の事件としては、イスラエル軍兵士によるパレスチナ人容疑者「処刑」の様子をとらえた動画が拡散して非難を浴びています。

****イスラエル兵、負傷パレスチナ人を「処刑」 動画公開で物議****
パレスチナ自治区ヨルダン川西岸で24日、イスラエル兵が、兵士襲撃事件の容疑者とされる負傷したパレスチナ人の男(21)の頭部を撃ち射殺する出来事があった。射殺場面を捉えた動画はインターネット上で拡散し、非難の声を集めている。
 
イスラエル人とパレスチナ人との間では昨年10月以降、暴力事件が相次いでおり、この動画によって状況がさらに悪化する恐れがある。
 
動画には、ヨルダン川西岸ヘブロンで、負傷し路上に横たわるパレスチナ人の男が写されている。男は別の男と共にイスラエル兵を刃物で刺したとされ、兵士に撃たれたとみられる。その後、問題のイスラエル兵が理由なく男の頭部を撃ち抜き、射殺した。
 
動画をネットに投稿したイスラエルの人権団体「ベツェレム」の広報担当者はAFPに対し、イスラエル兵の発砲は「処刑」に当たると非難。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルも、兵士の行為を正当化する理由はなく、戦争犯罪の可能性を念頭に捜査すべきだと主張した。
 
イスラエル軍は、この兵士の身柄を拘束し、調査を開始したと発表。モシェ・ヤアロン国防相は「最大限の厳格さ」で対処すると言明した。【3月25日 AFP】
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パレスチナ自治政府のジャワド・アウワド保健相は「戦争犯罪」の行為と指弾し、イスラエル軍がパレスチナの民間人に対して行う現場での処刑を物語る非常に明白な証拠と主張しています。

ネット上で動画が拡散するという事態に、さすがにイスラエル側も当該兵士を拘束のうえ、故殺容疑で起訴していますが、国内には兵士の行為を擁護する声も少なくないとか。

****負傷のパレスチナ人頭部を銃撃、兵士を起訴 イスラエル****
イスラエルの軍事裁判所は18日、負傷したパレスチナ人の容疑者の頭部を銃で撃って死なせたとして、軍の兵士を故殺(謀略のない殺人)の罪で起訴した。地元メディアなどが報じた。

容疑者の男性は3月24日、ヨルダン川西岸ヘブロンで兵士を襲撃した際に負傷し、無抵抗の状態で頭部を撃たれて死亡した。この様子をとらえた映像を人権団体が公表し、パレスチナ側が反発。

イスラエル側でも国防相らが問題を認める一方、右派系の政治家らが擁護するなど大きな議論となった。

昨年10月以降、エルサレムやヨルダン川西岸などでパレスチナ人がイスラエル人を襲撃したり、イスラエル当局と衝突したりする事件が相次ぎ、死者は双方で200人を超えている。【4月19日 朝日】
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カザ地区境界に暮らすイスラエル住民の恐怖と怒り
占領地の現状、圧倒的軍事力によるバランスを失した報復攻撃等から、(私個人を含め)国際世論はイスラエルに対し厳しい目を向けていますが、パレスチナ側からの攻撃にさらされているイスラエル住民の恐怖も大きなものがあります。

****境界線付近の住民にとって「戦争」は日常だ****
パレスチナ自治区ガザ地区との境界線から歩いて数分にあるイスラエルの小さな村、ネティブアサ。民家の前では子供たちが屈託のない笑顔で走り回る。

近くのバス停には、壁に色とりどりの絵などが描かれたコンクリート製の箱形施設があった。ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが撃ち込んでくるロケット弾から身を守るための防空壕だ。村の至るところに設置されている。
 
「これまで何千発ものロケット弾を受けてきた。威力はより強力で、精度も高くなってきた」。1982年から村に住み、農業を営むイラ・フェンロンさん(38)が嘆いた。数年前までは砲撃を知らせる警報が1日に20回も鳴り、住民らを不安に陥れた。
 
フェンロンさんは息子(15)と娘(11)を育てる母親だ。ガザとの境界は高さ数メートルのコンクリート壁やフェンスで仕切られているが、「私が子供のころは壁はなく、ガザの市場に行っていた。今の子供たちは防空壕を必要としない普通の生活を知らない」と訴える。
 
イスラエル軍は2005年にガザから撤退以降も封じ込めを続け、14年夏にはハマスとの間で過去最大規模の軍事衝突に発展した。停戦合意後も双方が砲撃を繰り返し、境界線付近の住民にとって「戦争」は日常だ。
 
境界に近い南部地域の民間防衛を担当するキース・アイジクサンさんは「毎日、軍担当者と10〜15回は連絡を取る」と話す。

イスラエル軍が誇る防空システム「アイアンドーム」は「小型ミサイル(やロケット弾)を撃墜する技術は十分でない」(アイジクサンさん)とされ、境界線近くの村には配備されていない。住民は防空壕に逃げるしかなく、政府は境界から7キロ範囲の7千〜8千世帯の壕建設費用を負担した。
 
14年のガザ衝突での死者は、パレスチナ側が約2200人で、多数は民間人だ。対するイスラエルは兵士を中心に約70人。イスラエルは「正当な攻撃」とするが、容赦ない軍事作戦に対しては国連人権理事会が非難決議を採択するなど、国際社会の視線は厳しい。
 
フェンロンさんは「伝えられるのはパレスチナの言い分ばかり。われわれがどんな目にあっているかは全く報じられない」と憤る。(後略)【4月22日 産経】
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ハマスメンバーによるバス自爆テロ 懸念されるイスラエル軍の報復空爆
イスラエル国内では都市部でも、常にテロの脅威にさらされています。

****バス爆発で21人負傷=テロか、衝突激化の恐れ―エルサレム****
エルサレム南部で18日、路線バスが爆発し、少なくとも21人が負傷した。イスラエル紙ハーレツによると、2人が重体。爆発は爆弾によるもので、イスラエルの国内治安機関シャバクは「テロ攻撃」と主張した。

パレスチナ人の犯行であれば、昨秋以降続くイスラエルとパレスチナの衝突が激化する恐れもある。ネタニヤフ首相は「犯人や支援者を探し出し、報復する」と述べた。

バスは爆発後、全焼し、別のバスや車にも炎が燃え移った。爆弾はバス後部に仕掛けられていたという。

AFP通信によれば、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスは「(イスラエルへの)当然の報い」と爆発を称賛するコメントを発表したが、犯行声明は出していない。【4月19日 時事】 
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ハマスは組織としての犯行かどうかについては触れていませんが、実行犯はハマスメンバーではあるようです。

“報道によれば、彼は西岸のハマス・メンバーの19歳の青年でベツレヘム出身のabd al hamid abu surur とのことで、ハマスは彼がそのメンバーであることを確認したが、ハマスの組織としての犯行か否かは明言せずに、問題はイスラエルの占領の継続で、誰でも個人的にであれ、組織としてであれ、このような形で抵抗することは当然だとして、犯行を正当化した由。”【4月22日 野口雅昭氏 「中東の窓」】

イスラエル当局も、ハマスメンバーによる犯行と断定しています。

****バス爆発は自爆テロ=ハマスのメンバーが実行―イスラエル当局****
イスラエル治安当局は21日、エルサレム南部で18日に発生したバス爆発事件は、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスのメンバーによる自爆テロだったと断定した。また、事件に関与したとして、別のメンバー数人を拘束したことを明らかにした。

2000年代初頭の第2次インティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)以降、イスラエルでは自爆テロはほとんど起きていない。今回の自爆テロを受け、イスラエルがハマスに報復する可能性もある。【4月22日 時事】
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ロケット弾攻撃と報復空爆というこれまでのパターン、ネタニヤフ首相の「犯人や支援者を探し出し、報復する」との発言からして、またガザ地区への報復空爆が行われ、そしてまた民間人犠牲者が出ることが強く懸念されています。

【「この壁のせいで生きづらい。俺たちに自由はない」「形は違っても『占領』はそこにある」】
前出の、ガザ地区との境界付近に暮らすイスラエル住民、フェンロンさんの怒りはもっともではありますが、一方で、ガザ地区はイスラエルの封鎖によって「天井のない監獄」と化し、ヨルダン川西岸地区は「壁」によって侵略・分断され、イスラエル国内あってはパレスチナ人が「アラブ系イスラエル人」として差別を受けるという現実もあります。

東京地区などでは、パレスチナ映画「オマールの壁」が公開されているようです。

*****オマールの壁****
「パラダイス・ナウ」のハニ・アブ・アサド監督が、緊張下にあるパレスチナの今を生き抜く若者たちの現実を、サスペンスフルに描く。第66回カンヌ映画祭ある視点部門審査員賞を受賞し、第86回アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた。

長きに渡る占領状態により、自由のない日々を送っているパレスチナの若者たち。パン職人のオマールは、監視塔からの銃弾を避けながら、分離壁の向こう側に住む恋人のもとへと通っていた。

そんな日常を変えるため、オマールは仲間ともに立ち上がるが、イスラエル兵殺害容疑で捕えられ、秘密警察より拷問を受けることとなる。

そこでオマールは、囚人として一生を終えるか、仲間を裏切りスパイになるかという究極ともいえる選択を迫られる。

100%パレスチナの資本によって製作され、スタッフは全てパレスチナ人、撮影も全てパレスチナで行われた。【映画.com】
*********************

*****パレスチナの壁、映す「占領」 イスラエルが築いた450キロ****
 ■乗り越え仕事へ 「自由ない
撮影があった高さ約8メートルのコンクリート壁は、エルサレム郊外のパレスチナ人の村アブディスにある。「パレスチナに自由を」といった落書きがあった。

「仕事や学校に行くため、恋人に会うため壁を乗り越え、警察に捕まる人は今もいるし、撃たれることもある」。村で育ったアブドラ・アヤドさん(22)は壁を見上げて言った。「この壁のせいで生きづらい。俺たちに自由はない」

《パン職人のオマールは分離壁をよじのぼっては、壁の向こうに住む恋人ナディアのもとに通っていた》

壁の向こう側は、イスラエル発行の身分証を与えられたパレスチナ人が多く住む東エルサレムの街。行くためにはイスラエルの検問を通らねばならず、車でたどり着くには10キロ以上の遠回りを強いられる。

イスラエルは壁の建設を「テロリストの侵入阻止のため」としてきたが、実際には1967年の第3次中東戦争の休戦ラインを越えて、パレスチナ側に大きく食い込んでいる。パレスチナの村は分断され農地や病院、学校に行けなくなり、家を追われた人もいる。

《オマールはこんな毎日を変えようと仲間と共に立ち上がったが、イスラエル兵殺害容疑で捕らえられ、一生とらわれの身になるか仲間を裏切ってスパイになるかの選択を迫られる》

撮影はイスラエル北部ナザレでもあった。「アラブ系イスラエル人」が多く住む街だ。48年のイスラエル建国後、その領内となった郷里から離れたアラブ人とその子孫を一般にパレスチナ人と呼ぶが、残った人たちはアラブ系イスラエル人と呼ばれ、イスラエル人口の約2割を占める。

映画の監督、主演男優・女優もアラブ系イスラエル人。ナディア役のリーム・ルバニーさん(19)は出身地ナザレで日常的に差別を感じているといい、「形は違っても『占領』はそこにある。私は100%、パレスチナ人」と言い切った。

《苦渋の末、イスラエルに協力したオマールは恋に破れ、壁にのぼれず、崩れ落ちてしまう。通りがかりの老人に励まされ、再びのぼろうとする》

ルバニーさんは言う。「壁はあまりにも高く、厚い。けれども信じるものがあれば、のぼることができるのです」

占領の長期化に絶望した若者がイスラエル人を襲撃する事件も後を絶たず、イスラエル人の多くが壁の建設を支持しているという過去の調査結果もある。パレスチナ人は「壁」をどう乗り越えられるのか。映画はそれを自問しているように感じた。
 
 ■分断が狙い、わなには落ちぬ 壁テーマの映画を撮った監督
「オマールの壁」のハニ・アブ・アサド監督(54)が、滞在先の米国で電話インタビューに応じた。

――分離壁に囲まれた人々の暮らしとは。
壁はイスラエルとの間ではなく、パレスチナ人同士の社会を分断する。ほとんどの壁は、パレスチナ人が住むヨルダン川西岸の中にある。2人の恋人を引き離す壁は占領の象徴だ。イスラエルはユダヤ国家を守るため、パレスチナ人を支配し、土地から離れざるを得ないようにしている。

――あなたはイスラエル国籍を持つ「アラブ系イスラエル人」でもあります。
私はパレスチナ人だ。パレスチナ人には、境界を封鎖されて身動きが取れないガザ地区、ある程度は移動が出来る東エルサレムやヨルダン川西岸の住民、海外のパレスチナ難民に加えてイスラエル側の地域に住む「アラブ系イスラエル人」もいる。

私たちは旅行はできるが、より深刻なことはアイデンティティーを失ったことだ。パレスチナ人はみんな占領下で、二級市民のように暮らしている。

――この映画で訴えたいことは。
イスラエルの狙いはパレスチナ人の社会を分断し、一つの国家にさせないことだ。映画監督としての私の仕事はこのわなに陥ることなく、弱者の声を届けることだ。【4月14日 朝日】
******************

イスラエル住民のロケット弾攻撃やテロへの恐怖・怒りは分かりますが、パレスチナ人が置かれた圧倒的な現実を改善しない限り、いくら壁を高くしても、何度報復空爆を行っても、その恐怖・不安・怒りを鎮めることはできないでしょう。
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ミャンマーだけでなくスリランカ、タイでも拡大する過激な仏教ナショナリズム

2016-04-21 23:09:47 | 東南アジア

(憎悪の連鎖:ミャンマー中部マンダレーの僧院前に立つ「イスラム教徒の蛮行」の写真を並べた掲示板【4月26日号 Newsweek日本版】)

ロヒンギャ排斥を煽る過激派仏教徒
ミャンマー西部のラカイン州に多くが暮らすイスラム教徒ロヒンギャ(約80万人とも推計されていますが、実態は不明)は、バングラデシュからの不法移民としてミャンマー政府から市民権を認められておらず、国内多数派仏教徒から迫害を受けるなど、「世界で最も迫害を受けている少数民族」(国連のキンタナ特別報告者)とも呼ばれています。

ミャンマーでの迫害を逃れようにも、バングラデシュ政府もロヒンギャを自国民とは認めず、ミャンマーに属する民族集団だと主張しており、周辺国のタイやインドネシアも受け入れを拒否しており、ロヒンギャ難民は「人間ピンポンゲーム」のように、押し付け合いの対象となっています。
(2015年5月26日ブログ“ロヒンギャ難民 「不干渉」では済まされない東南アジア諸国の対応 豪・日など含めた全体の問題”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150526など)

最近はメディアで取り上げられることが少なくなりましたが、状況が改善している訳でもないでしょう。

****ボート転覆、約20人死亡=ミャンマー沖****
ミャンマー西部ラカイン州沖で19日、60人以上が乗ったボートが転覆し、20日の国連の声明によると、子供9人を含む推定21人が死亡した。行方不明者もおり、死者はさらに増える見通しという。

声明によると、乗客の多くはラカイン州にある避難民キャンプで暮らす人々で、買い出しのため乗船していた。AFP通信によれば、死者は全員イスラム系少数民族ロヒンギャだという。【4月20日 時事】 
*****************

“買い出しのため乗船”ということですから、海外亡命のような話ではないようです。ただ、背景には不自由な避難民キャンプ生活があるのでは・・・とも想像されます。

****ミャンマー政府の主導で進むロヒンギャ絶滅作戦****
ミャンマー(ビルマ)で暮らす少数民族のロヒンギャ族を取り巻く状況は、ホロコーストやルワンダ大虐殺に匹敵する「ジェノサイド(集団虐殺)への最終局面」に入っている。しかも迫害を主導するのは政府の最上層部だ・・・・歴史的な総選挙を目前に、英ロンドン大学クイーンメリー校の「国際国家犯罪イニシアチブ」が、18カ月にわたる調査の結果を発表した。

ロヒンギャ族絶滅作戦がミャンマー政府によって30年前から進められていることを示す「有力な証拠」が見つかったという。106ページの報告書には、入手した公文書や詳細な目撃証言などを根拠に、深刻な食料不足や雇用機会・医療サービスの欠如、イスラム教徒以外の村民や仏教徒から受ける差別や暴力の実態が克明に示されている。

ロヒンギャ族はミャンマーに住むイスラム教徒の少数民族。110万人ほどいるが、基本的人権は否定されており、政府は彼らの存在を同国の歴史から抹消しようとしているらしい。

ロヒンギャ族はレイプや拷問、殺害、恣意的な拘束や土地の接収などの人権侵害を受けている。居住地や移動の制限、散発的な虐殺も行われ「政府は長期的に、この集団の弱体化と排除」を図ろうとしているという。

政府はロヒンギャ族を自国民と認めず、赤ん坊が生まれても出生証明を発行しない。彼らは今度の選挙で投票も立候補もできない。「ジェノサイドは、段階的に進む社会プロセスとして捉えることが重要。さもないと最悪の事態を迎える前に介入できない」と言うのは、この調査を主導した法学教授のペニー・グリーンだ。

「今回の選挙で、ロヒンギャ族の政治プロセスからの排除は一層進む」とグリーンは言う。それはホロコーストや、ツチ族を中心に80万人以上が殺されたルワンダ大虐殺に匹敵し、20世紀の南アフリカにあったアパルトヘイト(人種隔離政策)よりもひどい状況にある。

ロヒンギャ族は不法移民やテロリスト扱いされ、彼らの暮らす西部ラカイン州では、民族主義者や仏教徒から「人種的宗教的憎悪」の標的にされている。

苦痛を与えて排除を狙う
「大量虐殺という手段に出なくても民族集団を消すことは可能だ」と、ラカイン州で4カ月の実地調査を行ったグリーンは言う(調査チームは同州北部への立ち入りを拒まれた)。極度の苦痛を与えれば、人々はその土地を去る。残った人々は無権利状態で事実上の収容所暮らしを強いられ、やがて世界各地へ散っていくことになるだろう。

迫害は、ラカイン州の仏教徒女性がレイプ後に殺害される事件が起こったことなどを背景に12年に激化。加害者はロヒンギャ族の複数の男性とされる。何百人ものロヒンギャ族が殺され、10万人以上が家を追われた。

「事情が複雑過ぎて、迫害が起きている理由や12年に状況が急変した理由を完全には理解できない」と、グリーンは言う。確かに虐殺が激化したのは12年だが、その前から本格化していた。

ミャンマーのロヒンギャ族の正確な人口は統計がないので分からない。ミャンマー政府はロヒンギャという民族名も否定している。グリーンによれば、政府は彼らをバングラデシュから不法入国した「ベンガル人」と位置付け、ロヒンギャ族の存在自体を認めていない。

総選挙が終わっても、ロヒンギャ族に明るい未来はない。今年もまた、何千もの人々が貧困と迫害から逃れようと危険な航海に乗り出すことだろう。【2015年11月5日 Newsweek】
*******************

上記記事で言う“総選挙”とは、アウン・サン・スー・チー氏が圧勝した先の総選挙ですが、民主化運動の旗手でもあったスー・チー氏もロヒンギャ問題に関しては多くを語りません。

おそらく、仏教徒が多数を占めるミャンマー国民の間に存在するロヒンギャへの強い拒否感を考えると、うかつにこの問題に触れることは政治的に大きなリスクを伴うという判断もあってのことでしょうが、国際人権団体などからは、そうした消極姿勢を非難されてもいます。

ただ逆に、ミャンマー国内においてロヒンギャ排斥運動の中心となっている仏教徒組織からは、ロヒンギャに対する明確な反対姿勢を示さないスー・チー氏への批判も出ています。

****<ミャンマー総選挙>仏僧の全国組織が反スーチー氏姿勢****
◇「イスラム寄り」と批判
ミャンマー総選挙(11月8日投票)を巡り、アウンサンスーチー氏が率いる最大野党「国民民主連盟(NLD)」に対し、仏僧の全国組織が反NLDキャンペーンを展開している。

スーチー氏の姿勢を「イスラム教徒寄り」とみなしているからだ。仏教徒が国民の9割を占めるこの国で仏僧の影響力は絶大だが、投票行動にどう反映されるかは不透明だ。

この組織は民政移管後の2013年6月に結成された「仏教保護機構」(通称マバタ)。仏教徒とイスラム教徒の対立激化に伴い仏教ナショナリズムが高揚する中で急拡大。今や全国屈指の「圧力団体」となり、機構によると、全国50万余の仏僧のうち推定30万の仏僧が機構を支持している。(中略)

スーチー氏は宗教対立について、仏教界への配慮もあり「微妙な問題」として発言を控えてきたが、機構は、仏教徒保護法への姿勢に反発。選挙戦に入った今年9月以降、「法律に反対する候補や政党に投票しないように」とのキャンペーンを本格化させた。

機構には、軍政期にスーチー氏と「民主化」で共闘した仏僧も多く、穏健派から急進派まで幅広い。中央執行委のメンバーで、イスラム排斥運動を主導してきたウィラトゥー師は「NLDが選挙に勝てば、カラー(ベンガル系イスラム教徒=ロヒンギャ=への蔑称)がこの国を統治する」などと危機感をあおる。

ミャンマーの仏僧は世俗の政治には関与しない、との不文律があり、選挙権もない。憲法は宗教の政治利用を禁じており、NLDは9月、「仏教組織が政治に関与している」と中央選管に申し立てた。

だが、選管は「政党や候補者による宗教の政治利用を防ぐのが我々の責務。仏僧に対しては何もできない」と釈明。イエトゥ大統領報道官も「民主的な社会では誰でも自分の意見を表明できる」と機構を擁護した形だ。

機構は全国に250の支部を置く。仏僧が各地で与党「連邦団結発展党(USDP)」への投票を説いているとみられ、一部メディアは「政権や与党が背後で動かしている」との見方を伝えている。(後略)10月25日 毎日】
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ロヒンギャなどイスラム教徒への強い排斥姿勢を示す仏教徒組織は、単に街中での示威行動にとどまらず、政治において、イスラム教徒の拡大阻止を念頭に置いた法律を成立させています。

****差別政策の推進****
2013年5月、ラカイン州当局は、ムスリムのみに2人までの産児制限を課した。「ムスリムの人口急増」がその理由である。ただし、この時は国際社会の批判もあり、明確な形では施行されなかった。

6月、「仏教保護機構」(ティロカ代表)、969運動に近い僧グループの民族宗教保護協会(Ma BaTha)が結成された。
仏教保護機構、民族宗教保護協会は同年7月、仏教徒女性と異教徒男性の結婚を制限する「仏教徒女性特別婚姻法案」など関連4法案を連邦議会に提出した。

法案では、仏教徒の女性は異教徒との結婚に両親の同意が必要で、男性は仏教への強制改宗をさせる内容である。強制改宗は、ムスリムが結婚しようとする異教徒に行っていることへの対抗措置という主張である。また、イスラム教で認められている、一夫多妻制の禁止も盛り込まれた。

アウンサンスーチーは当初、同法案への反対を表明したが、969運動始め仏教界の反発を受け、ひざを屈した形になった。

仏教界に詳しい地元誌『教育ダイジェスト』のキーウィン記者によると、僧の8割が心情的にも969運動を支持しているという。(中略)

(成立した)4法の内容は、以下の通りである。

人口調整法(産児制限法) - 第1子出生後、36ヶ月(3年)間は次の子供を産むことを禁じ、妊娠した場合は強制堕胎も可能にする。法自体は全住民が対象だが、出生率の高いロヒンギャを標的にした物と指摘された。

仏教徒女性特別婚姻法 - 仏教徒女性と、非仏教徒男性の婚姻を規制する法律。(中略)

改宗法 - 仏教徒の改宗を許可制にする。改宗は18歳以上のみに許可され、改宗申請者は最低5人の委員による面談の上、90日間の学習期間を通して「宗教の本質、当該宗教の婚姻、離婚、財産分与のあり方、および当該宗教の相続と親権のあり方」を検討させる。(中略)

一夫一妻法 - 一夫多妻を禁じる。在緬外国人も適用される。(後略)【ウィキペディア】
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スリランカでも同様の動き
こうしたイスラム排斥運動を主導するウィラトゥ師を中心とする過激な仏教徒組織については、2015年3月21日ブログ“ミャンマー 強硬派の仏教グループの扇動で高まる仏教ナショナリズム”http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150321でも取り上げたところですが、同ブログでも触れたように、ミャンマーだけでなく仏教国スリランカでも同様の動きが見られます。

****スリランカとミャンマーに出現した仏教過激派連合を問う(荒木 重雄*****
奇妙な情報を聞いた。イスラム過激派「イスラム国」の台頭に刺激されてか、スリランカの仏教過激派がミャンマーの仏教過激派と国際連携に動き出したというのである。

スリランカ側の中心人物は、仏教国粋団体「ボドゥ・バラ・セナ(BBS)」のグナナサラ幹事長。相手は「ビルマのビンラディン」と呼ばれ、イスラム教徒へのあまりにも過激なヘイトスピーチ(憎悪表現)で名を売った高僧アシン・ウイラトゥー師。スリランカで会合し、「イスラム過激派による強制改宗と共に戦う」ことで合意したという(『選択』2014年11月号)(後略)【2015年1月20日 オルタ】
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現実的にはさほどイスラム社会が大きな割合を占めている訳でもないのに、両仏教国でイスラム排斥の過激仏教徒が台頭する背景として、荒木氏は、スリランカにおけるタミル人との内戦の終結、ミャンマーにおける少数民族問題の緊張緩和によって、仏教徒のナショナリズムの矛先が新たな“敵”としての弱小イスラム集団に向けられていると指摘しています。

イスラム教徒によるテロ行為を警戒する国際的風潮が、そうした新たな“敵”への攻撃を正当化・助長しているのでしょう。

スリランカにおいては、2014年に仏教徒によるイスラム教徒襲撃事件が報じられています。

****仏教集団がイスラム教徒を襲撃、55人死傷 スリランカ****
スリランカ南西部沿岸のアルトゥガマで、仏教過激派集団がイスラム教徒の居住地区を襲撃し、少なくとも3人が死亡、52人が負傷した。警察や国連人権高等弁務官が明らかにした。

警察によると、同地ではこの数日前、僧侶がイスラム教の若者4人に襲われる事件が発生。これを受けて15日、僧侶が率いる仏教民族主義集団がアルトゥガマで大規模集会を開いた。

参加者は集会後にイスラム教徒の居住地域に向けてデモ行進し、双方が衝突してイスラム教徒の住居や商店が破壊され、住民はモスクに避難した。

警察はこの事件に関連して、多数派民族シンハラ族の12人を逮捕した。逮捕者の中には仏教集団のメンバーも含まれるという。(中略)

国連のピレイ人権高等弁務官は、「同国内の他のイスラム地域にも暴力が広がることを懸念する」と述べ、スリランカ政府に対して関係者の逮捕や憎しみをあおる言動の抑止、少数宗教の保護のために全力を尽くすよう促した。

ボリビア訪問中のスリランカのラジャパクサ大統領は、ツイッターに「法をもてあそぶ者は容認しない。全関係者に自制を求める」と投稿した。

2011年の国勢調査によると、スリランカの人口は70.2%を仏教徒が占め、ヒンドゥー教が12.6%、イスラム教9.7%、キリスト教7.4%。数年前から仏教民族主義が台頭していた。【2014年6月18日 CNN】
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「全関係者に自制を求める」とは言いつつも、ミャンマーのロヒンギャに対する暴力行為においても、政府・警察はこれを黙認・協力する姿勢が見られたところで、スリランカでも同様ではないでしょうか。

タイのソーシャルメディアで拡大する仏教過激思想
過激な仏教ナショナリズムの台頭はタイでも注目されています。

****タイを侵食する仏教過激派の思想****
ソーシャルメディアでイスラム教徒への攻撃を呼び掛ける僧侶が注目を集め、過激思想がネット上で爆発的に広がり始めた。

アピチャート・プンナジヤント(30)は、タイの首都バンコクの有名な「大理石寺院」の首席説教師。この童顔の僧侶は書類を次々に取り出し、テーブル
の上に広げて見せる。

アピチャートは指先で書類をたたきながら、これは07年以降にマレーシア国境に近いタイのディープサウス(深南部)で殺された僧侶20入と負傷した24人のリストだと言う。マレー系イスラム教徒が多数を占める同地域では、04年から反政府勢力の破壊活動が続いており、6500人以上の死者が出ている。

犠牲者の大半はイスラム教徒の一般市民だが、アピチャートはお構いなしだ。1人の僧の殺害は仏教全体への攻撃と見なすべきだと主張する。「僧侶が殺されたり傷つけられることに対し、以前は苦痛を感じたが、今はその段階を過ぎ、もはや苦痛は感じない。復讐あるのみだ」

アピチャートは昨年秋、タイ深南部で憎が1人殺されるたびに1力所のモスク(イスラム教礼拝所)に火を放てと、ソーシャルメディアでフォロワーに呼び掛けた。タイ政府はすぐにアピチャートのフェイスブックアカウントを一時的に閉鎖したが、この騒ぎは彼の注目度を上げただけだった。その後の数カ月間で、フォロワーは少なくとも数
千人増えた。(中略)

「私の目標は、何か起きているかを仏教徒に気付かせることだ」と、アピチャートは言う。「イスラム教徒は(深南部の)3県だけではなく、国全体を占領しようとしている」
 
アピチャートは、ミャンマー(ビルマ)の過激派僧侶で12年と13年の暴動を扇動したアシン・ウィラツに心酔している。ウィラツやミャンマーの強硬派仏教徒組織「マバタ」と違い、アピチャートは政府の支援を受けていないが、過激な仏教ナショナリズムの波にうまく乗ったことは明らかだ。

タイでこうした過激思想が台頭した背景には、14年の軍事クーデター以降の経済の不振と社会の不満がある。「タイの仏教界では反イスラム感情が強まっている」と、国際軍事情報企業IHSジェーンズのアナリスト、アンソニー・デービスは指摘する。「ごく一部の過激派だけではなく、主流派の間にも広がりつつある」

仏教界からも懸念の声が
(中略)アピチャートのことを知っているという深南部の学生たちは不安を口にする。「宗教紛争が発生して、仏教徒とイスラム教徒の殺し合いが起きることを心配している」と、パッタニ県で宗教を学ぶ25歳の学生は言った。

仏教関係者の間にもアピチャートらへの懸念が広がっている。「仏教徒を名乗ってはいるものの、彼らは恐ろしい連中だ」と、仏教学者のスラクーシバラクサは言う。「(アピチャートは)僧侶を辞め、仏教徒であることもやめるべきだ。仏の教えは非暴力、友愛、哀れみの心だ。仏教をカルト化し、ナショナリズムや民族主義と結び付けるのは危険だ」

政府と仏教界の一部がアピチャートの言動に対し、非難の声を上げているのは心強い。それでも過激な主張は間違いなく人々の間に広まっている。(中略)

次は何をするのかと質問すると、落ち着いた声で答えたが、通訳は英語に訳すのをややためらった。
「次の計画は、火炎瓶を作ることだ。私だけでなく、国中の仏教徒が作る。もちろん、どこかに投げるためだが、それがどこかは誰も知らない」【4月26日号 Newsweek日本版】
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仏教にしても、キリスト教やイスラム経にしても、本来は隣人へ愛やいたわりを説き、世界の平和を求める教えなのでしょうが、偏狭なナショナリズムや偏った世界感と結びつくと、その情熱は危険な方向へ向かいます。
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