孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア産石油・ガス取引をめぐる買い手・売り手双方の思惑が絡み合う混沌状態

2022-05-31 23:20:16 | 資源・エネルギー

(「サハリン2」の洋上施設【ウィキペディア】)

【EUのロシア産石油禁輸 ハンガリー譲らず全面禁輸には至らず】
EUは化石燃料(石油・ガス・石炭)の脱ロシア依存方針を3月24,25日に開催された首脳会議で決定し、行政を担う欧州委員会が5月4日、原油は6か月以内、精製した石油製品はことしの年末までに、輸入を禁止する制裁案を打ち出しています。

しかし制裁の発動には27の全加盟国の一致が必要で、供給の多くをロシアに頼るハンガリーやスロバキアが反発、調整が続いていました。

30日の首脳会議ではロシア産石油について大半の輸入を禁止することで合意したものの、ハンガリーの反対を受け、全面禁輸には至りませんでした。一方で、「年末までに事実上、ロシア産石油のうち約90%の輸入が停止されるだろう」(フォンデアライエン委員長)とも。

****EU、ロシア産石油禁輸で合意 パイプライン経由は対象外****
欧州連合は30日、ベルギー・ブリュッセルで首脳会議を開き、ロシア産石油について、大半の輸入を禁止することで合意した。ハンガリーの反対を受け、全面禁輸には至らなかった。
 
全面禁輸をめぐっては、これまで数週間にわたって折衝が続けられてきた。しかし、自国経済への打撃を懸念するハンガリーが強く抵抗したため、パイプラインによる輸入を禁輸対象から外すことで妥協が図られた。
 
シャルル・ミシェル欧州理事会常任議長(EU大統領)は首脳会議中に「ロシア産石油の3分の2以上が直ちに(禁輸)対象となる。ロシアの戦費調達源を断つものだ」とツイッターに投稿。「ロシアに戦争を終わらせるよう最大限の圧力をかけることになる」と述べた。
 
ドイツとポーランドもロシア産石油をパイプライン経由で輸入しているが、両国は輸入停止方針を打ち出している。このため欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は、EU全体で「年末までに事実上、ロシア産石油のうち約90%の輸入が停止されるだろう」と語った。
 
EUの対ロシア制裁は今回で第6弾となる。今総会では石油禁輸のほか、ロシア最大手銀行ズベルバンクを国際銀行間通信協会(スイフト)の決済網から排除する措置や、ロシア国営テレビ局3社への制裁、戦争犯罪を問われている個人のブラックリスト掲載なども承認された。 【5月31日 AFP】
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まずは海上輸送分から禁輸という妥協です。
パイプライン経由分についても、ドイツなどが独自に取引を止めるということですが、ハンガリーなどにパイプライン経由でのロシア産石油輸入を認める期間は、明らかにされていません。

ハンガリー・オルバン政権がEU内にあって独仏の西欧的民主主義とは異なる、むしろロシア・中国を称賛するような独自の政治的価値観を掲げて独仏などと対立していることはこれまでもたびたび取り上げてきました。

ハンガリーがロシア産石油に大きく頼る状況であることは事実ですが、今回の執拗な抵抗は、上記のようなEU主要国との政治的対立が背景にあると想像されます。

****なぜハンガリーはEUの「ロシア産石油の全面禁輸」を阻止したのか その思惑とウラ事情****
(中略)EUの一員で、NATO=北大西洋条約機構の加盟国でもあるハンガリーは内陸国。ロシア産石油への依存度は6割近くにのぼり、輸入禁止措置は経済に大きな影響をもたらします。(中略)

ジャック・ドロール研究所 トマ・ペルランカルラン上席研究員
「これはエネルギー問題ではなく、何よりも政治的問題です」

ロシアのプーチン大統領と近い関係にあるとされるオルバン首相。また、独特の事情も。

ジャック・ドロール研究所 トマ・ペルランカルラン上席研究員
「オルバン首相はEUから(資金拠出への)譲歩を引き出すため、制裁を利用しているのです」

実はハンガリー、去年の性的少数者への差別的な法律の施行や、司法・メディアへの介入が原因でEUとの関係が悪化しています。法の支配に反するとして、EUからの一部の資金が拠出されない状況ですが、今回はEUの全会一致のルールを逆手に自国の主張を押し切った形です。

大きいとは言えないハンガリーの存在が、EU全体に影響を及ぼす事態となっています。【5月31日 TBS NEWS】
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また、対ロシア禁輸に限っても、“ヨーロッパではロシアからの原油や天然ガスがなくては困る国が多く、表向きはロシアへの経済制裁に同意するポーズを見せているものの、裏ではロシアとの取引を続けている国もあり、ハンガリー、チェコ、ブルガリア、スロバキアなどが、その典型的な例です。”【5月30日 浜田かずゆき氏 MAG2NEWS】というように、各国(特に中東欧諸国)の事情は異なります。

【国内事情優先のインド アメリカは“腫れ物に触る”ような慎重な扱い】
更に、世界的に見ると、対ロシア禁輸制裁に参加せず、逆に安価になったロシア産石油購入を急拡大させているとして注目(一部からは批判)されているのがインド。

****インドのロシア産原油輸入、ウクライナ侵攻以降急増****
リフィニティブ・アイコンのデータによると、ロシアが2月24日にウクライナに侵攻して以来、インドは3400万バレルのロシア産原油を輸入したことが分かった。他の製品を含むロシアからの輸入総額は2021年の同時期と比較して3倍以上となっている。

世界第3位の石油輸入国であるインドは、輸入代金削減のために値崩れの激しいロシア産原油に目をつけた。
インドは今月、2400万バレル以上のロシア産原油を輸入。4月の720万バレル、3月の約300万バレルから急増。6月には約2800万バレルを輸入する予定だ。

政府統計によると、エネルギー輸入の急増により、2月24日から5月26日までのインドのロシアからの物品輸入総額は、昨年同期の19億9000万ドルから64億ドルに増加した。

西側諸国が侵攻に対して制裁に乗り出す中、インドはロシアのエネルギーを継続して輸入していると非難されているが、これらの輸入は国全体の需要のほんの一部に過ぎないとして批判を一蹴。急な輸入停止は消費者のコストを押し上げると主張し、「安価な」ロシア産原油を輸入し続けるとしている。【5月31日 ロイター】
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“米財務省は、ローゼンバーグ・テロ資金調達・金融犯罪担当次官補が24日にインドに出発したと発表した。ウクライナ侵攻を受けてロシアに制裁を科す中、インドのロシア産原油購入抑制を目指し、政府当局者や企業などと協議する。”【5月25日 ロイター】と、アメリカは自制を求めていますが・・・・

アメリカにとってインドは対中国包囲網クアッドの重要メンバーであり、“腫れ物に触る”ような慎重な扱いも。
インドも、対中国戦略を考えるとアメリカと決定的に対立することは望んでいませんが、ロシア制裁不参加については、兵器のロシア依存などもあって、国内事情優先を貫くかまえのようです。
米印ともに“微妙”なところ。

****対中包囲網に期待のインド 不安材料は対露融和姿勢****
インドにとり、中国との対立が長期化する中で、対中包囲網として日米豪印の協力枠組み「クアッド」の重要性は増している。インドはウクライナ侵攻をめぐって対露融和姿勢を続け、国際社会に失望感も漂う。モディ首相には首脳会合を通じ、自由主義陣営の一員としての立場を強くアピールする狙いもあった。

インドにとって、安全保障面の最大の懸案は、2020年の国境付近での衝突を契機に関係が悪化した中国への対応だ。中国は現在も係争地付近で軍事用インフラの整備を進めており、戦力で劣るインドの対応は後手に回っている。

今回、多国間の自由貿易協定に消極的なモディ氏が、米国の新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」参加を表明したのは、米国などとの関係強化を通じ対中包囲網を強固にしたい思惑もある。

ただ、インドの対露融和姿勢はクアッドの結束の不安材料となりかねない。米国は直接の批判は避けているが、インドによるロシア産石油購入について「急拡大は望まない」と遠回しにくぎを刺している。

「世界最大の民主主義国」として存在感を示し、対外投資を呼び込んできただけに、モディ氏は自国への反発拡大は慎重に避けたい考えがある。モディ氏は24日の首脳会合で「われわれの相互信頼と決意は、民主主義勢力に新たなエネルギーを与えている」と述べ、民主主義国家としての立場を改めて強調した。【5月24日 産経】
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【ロシア ガスを政治的圧力手段として“活用”】
石油以上にロシアが政治的圧力手段として“活用”しているように見えるのが天然ガス。

NATO加盟に踏み切ったフィンランドに対しては・・・

****ロシア、フィンランドへのガス供給停止***
フィンランドの国営ガス会社ガスムは21日、ロシアからの天然ガス供給が同日停止されたと発表した。ロシア国営天然ガス企業ガスプロムはガスの代金をロシアの通貨ルーブルで支払うよう要求していたが、フィンランドは拒否していた。
 
ガスムは「供給契約に基づき、(ロシアから)フィンランドへの天然ガス供給は停止された」とし、代わりに同国とエストニアを結ぶパイプライン「バルティック・コネクター」経由で別の供給源から天然ガスを供給するとしている。 【5月21日 AFP】
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すでに4月段階でポーランドとブルガリアに対しても供給を停止しています。

****ロシア、ポーランドとブルガリアへのガス供給停止…「ルーブル払い」拒否を理由に****
ロシア国営ガス会社ガスプロムは27日、ポーランドとブルガリアに対し、パイプライン経由の天然ガス供給を停止したと発表した。

ロシア側はガス代金の支払いを自国通貨ルーブルで求めているが、ポーランドとブルガリア側が拒否したためだ。2国は当面、国内のガス供給に影響はないとしている。(後略)【4月27日 読売】
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更に、オランダ・デンマークに対しても。

****ロシア、オランダへのガス供給停止へ****
オランダの一部国営ガス企業ガステラは30日、ロシア国営天然ガス企業ガスプロムから、ガス供給を31日に停止するとの通知を受けたと発表した。
 
ガスプロムは、ロシアによるウクライナ侵攻を受け西側諸国が科した制裁を回避するため、代金をロシアの通貨ルーブルで支払うよう要求していたが、ガステラは拒否していた。
 
10月にかけて20億立方メートル分の供給が停止される見通しだが、ガステラはこれを予期して他の供給元からガスを購入していたと説明。オランダのロブ・イェッテン気候・エネルギー政策相はツイッターに「一般家庭へのガス供給には影響しない」と投稿した。
 
オランダ政府によると、同国はガス供給の約15%をロシアに頼っており、年間約60億立方メートルを購入している。ロシアは他の欧州諸国に対し同様の措置を取ってきており、21日にはフィンランドへのガス供給を停止していた。 【5月31日 AFP】
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****デンマークのエネルギー大手、ロシアからのガス供給停止を警告****
デンマークのエネルギー大手エルステッドは30日、ロシアの国営天然ガス企業ガスプロムの輸出部門、ガスプロム・エクスポートが同社へのガス供給を停止する可能性があると警告した。ルーブル建てでの決済を拒否しているためという。

デンマークエネルギー庁は、ロシアがエルステッドへのガス販売を停止しても供給には直ちに影響はないとしている。また、ガスが不足した場合の緊急計画を準備しているという。【5月31日 ロイター】
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オランダ、デンマークは大きな影響はないとしていますが、そこらは国によって事情は異なります。

****イタリア、ロシア産ガス輸入停止ならGDPに2%打撃=経済団体****
イタリアの経済団体コンフィンドゥストリアは、ロシアからの天然ガス輸入が6月に停止された場合、今年と来年の国内総生産(GDP)が年平均で約2%の打撃を受けるとの見通しを示した。

「ロシアからのガス輸入が止まれば、既に悪化しているイタリア経済に非常に強い影響を及ぼす可能性がある」とし、産業界向けの大規模なガス供給不足やエネルギーコストの一段の上昇がマイナス影響をもたらすと指摘した。

イタリアが昨年輸入した天然ガスのうち、ロシア産は最大の40%を占めた。【5月30日 ロイター】
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ドイツにとっても、すでに完成したにもかかわらず、アメリカの強い要請もあって事業停止している「ノルドストリーム2」の問題がありましたが、ウクライナはドイツ政府に対し、「ノルドストリーム1」経由のガス輸送も停止するか、大幅に削減するよう要請したと明らかにしています。

ウクライナは代替経路の提供が可能としていますが、ドイツからすれば「ノルドストリーム」は、ガス取引においてこれまであまり誠実とは言い難い(ロシア以上に信用できない)ウクライナを避けるために進めてきた事業であり、ウクライナ経由に代替するのは、ウクライナに生殺与奪の権利を与えるような話にも。

一方、ロシアは、ロシアの意向に沿う国にはガス供給を確約。

****セルビア、ロシアと3年のガス供給で合意 首脳が電話会談***
セルビアのブチッチ大統領は29日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、新たに3年の天然ガス供給契約で合意したと明らかにした。(中略)セルビアはガスプロムとの10年のガス供給契約が今月末で期限切れとなる。

ブチッチ氏は、セルビア国内のガス貯蔵設備拡大についてプーチン氏と協議したことも明らかにした。

欧州連合(EU)加盟を目指すセルビアに対し、西側諸国は外交政策でEUと歩調を合わせロシアに制裁を科すよう求めている。【5月30日 ロイター】
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【調達の多様化が難しい天然ガス 買い手・売り手とも“仁義なき戦い”状態】
天然ガスというのは原油と比較して産地が限られており、そもそも調達の多様化が難しい資源であるとの指摘も。

****現実的にはこんなに困難、欧州が打ち出すエネルギー「脱ロシア依存」の真意****
(中略)
天然ガスを大量に産出できる国は限られる
(中略)ロシアから欧州にパイプラインで輸出されている天然ガスの量を考えると、短期間で再生可能エネに置き換えるのは困難である。再生可能エネのインフラが整うまでの期間については、他の地域からの天然ガス調達に頼らざるを得ないだろう。だが、ロシア以外の調達先を確保するというのは、それほど単純な話ではないのだ。
 
実は天然ガスというのは原油と比較して産地が限られており、そもそも調達の多様化が難しい資源である。全世界の天然ガス埋蔵量の大半(約70%)は、米国、ロシア、トルクメニスタン、イラン、カタールの5カ国で占められている。ロシア以外の国から大量調達するにしても、中央アジアの北朝鮮と呼ばれるトルクメニスタンは中国との関係が深く、欧州への供給は容易ではない。
 
イランは依然として米国の制裁対象となっていることに加え、産出する天然ガスの多くが国内向けであり、すぐに輸出を拡大できるわけではない。(中略)

原発の増設と再生可能エネは消費者から見れば同じ
しかも欧州の場合、多くがパイプラインによる輸入となっており、液化天然ガス(LNG)のインフラは乏しい。LNGに切り換える場合、タンカーが接岸する港湾などを整備する必要があるほか、輸送コストの問題も生じる。(中略)

欧州では必要に応じて原発を増設することも検討されているが、原発を増設しても天然ガス不足の問題をすぐに解決できるわけではない。日本と同様、欧州においてもオール電化という家は少なく、ガスは家の暖房や給水に使われるケースが圧倒的に多いからだ。
 
原発と再生可能エネルギーは、環境問題など政治的には大きな違いがあるかもしれないが、物理的には電力を何によって作り出すのかの違いがあるに過ぎず、消費者側から見れば、ガスや石油のインフラから電力インフラへの切り換えが必要という点では何も変わらない。家庭のインフラを変換するには相応の時間がかかるので、結局のところ再生可能エネルギーへのシフトと同じ問題を抱えることになる。(後略)【5月30日 加谷 珪一氏 JBpress】
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液化天然ガス(LNG)を天然ガスに転換する設備をめぐっては、すでに奪い合いが起きており、確保に乗り出す欧州によってオーストラリアが押し出されるという事態も。

****欧州の天然ガス争奪戦、豪のLNG輸入計画がピンチ****
欧州諸国がロシアに代わる天然ガス供給源の確保を急ぐ中、オーストラリアの液化天然ガス(LNG)輸入計画が脅かされている。LNGを天然ガスに転換する設備を欧州諸国に抑えられたためで、人口の多いオーストラリア南西部は2年後に天然ガス不足に見舞われかねない。(後略)【5月312日 ロイター】
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また、一昨日ブログでも取り上げたように、ロシアがイランから顧客を奪うといった競争も。

****液化石油ガス、ロシアが値引き輸出 イランから顧客奪う****
ウクライナに侵攻し、米欧から事実上の貿易制限を受けるロシアが主要輸出品の一つ、液化石油ガス(LPG)の値引き販売に乗り出した。アフガニスタン、パキスタンなど、イランの大口顧客が相手だ。(後略)【5月25日 日経】
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買う方も、売る方も、“仁義なき戦い”状態のようですが、そういう状況もあっての日本の対応でしょう。日本外交にしては珍しい自己主張です。

****「サハリン2」、どけと言われてもどかない=萩生田経産相****
 萩生田光一経産相は31日の参院予算委員会で、日ロ合弁の液化天然ガス(LNG)プロジェクト「サハリン2」について、「どけと言われてもどかない」と述べ、日本として権益を守る意向を改めて示した。 鈴木宗男委員(維)への答弁。

鈴木委員は、ロシアのウクライナ侵略に関連し「サハリン2(の日本権益)は守られるのか」と質問。萩生田経産相は「サハリン2は、先人が苦労して獲得した権益。地主はロシアかもしれないが、借地権や(液化、輸送)プラントは日本政府や日本企業が保有している」として、権益を維持する意志を示した。【5月31日 ロイター】
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欧州などの「買ってやらないぞ」「でも欲しい」、インドなどの「安くするなら買うよ」、ロシアの「売ってやるものか」「でもどこかに売らなきゃ」・・・いろんなベクトルが絡み合うエネルギー取引事情です。
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フィリピン  懸念されるのは親中国かどうかより、新政権を生んだ「民主主義疲れ」の世界的流れ

2022-05-30 23:31:13 | 東南アジア
(【5月25日 橋本昇氏 JBpress】1986年2月 エドゥサ革命(黄色革命 ピープルパワー革命)では100万人の市民がマラカニアン宮殿に押し寄せ、強権支配者マルコス元大統領は国を追われました。)

【親中継続と見られるマルコス新政権】
フィリピンのマルコス新政権は具体的政策を明らかにしないままイメージ選挙で圧勝した感がありますが、対外的にはドゥテルテ前大統領の親中国路線を引き継ぐとみなされており、実際、就任したマルコス大統領も中国重視の発言をしています。

****「中国は友人」比次期政権、親中継続へ****
9日投開票のフィリピン大統領選で勝利したフェルディナンド・マルコス・ジュニア元上院議員(64)は、ドゥテルテ現大統領が推進した親中姿勢を継続する見通しだ。

南シナ海問題でも国際的な圧力より、中国との対話で解決する姿勢を示した。マルコス次期政権が親中姿勢を強めればインド太平洋地域の安定に影響が出かねないだけに、外交政策が注目される。

「中国は友人だ」。マルコス氏は選挙前の地元メディアのインタビューでこう明言した。南シナ海問題をめぐっては中国の権益を否定した仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の裁定を棚上げし、中国と2国間交渉で解決する意向を表明。

ドゥテルテ政権の親中姿勢も評価し、中国との領土問題に米国が関与することは「災いのもとだ」とも述べた。
ドゥテルテ氏は2016年6月に大統領に就任すると、仲裁裁判所裁定を「ただの紙切れに過ぎない」と断言し、中国接近を進めた。国内では中国支援のプロジェクトが進む。

首都マニラ中心部では今年4月、中国の全面支援で旧市街と中華街をつなぐ「ビノンド−イントラムロス橋」が完成。開通式典に出席したドゥテルテ氏は、中国を「わが国のインフラを強化するためのパートナーだ」と持ち上げ、退任が迫っても親中姿勢が変わらないことを印象付けた。

しかし、融和姿勢にもかかわらず、中国の南シナ海の実効支配は止まらなかった。昨年3月には中比が領有権を主張するスプラトリー(中国名・南沙)諸島の周辺海域で220隻以上の中国船が確認され、両国間の緊張が高まった。

こうした状況を受け、フィリピンでは経済面での中国との関係を重く見つつも、安全保障面で同盟国である米国との連携を深めたいとの空気が強まっている。3〜4月にかけ、米国との定例の合同軍事演習「バリカタン」を過去最大規模で実施したのもその流れを受けたものだ。

マルコス氏自身は「強い政治的信念はなく、考えが良く分からないタイプ」(外交筋)との評価で、ドゥテルテ政権下で亀裂が入った米比関係の修復に乗り出すのかなど不明な点が多い。

米国では父のマルコス元大統領時代の人権弾圧をめぐって集団訴訟が起き、約24億ドル(約3000億円)の賠償命令が出たが、マルコス一族は支払っていないという問題もある。

フィリピン政治評論家のアンドレア・ウォン氏は過去の人権問題などを踏まえた上で、「バイデン米大統領がどのように〝マルコス復活〟に反応するか注目される」と話している。【5月11日 産経】
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****フィリピン新大統領 マルコス氏 中国との関係重視の姿勢強調****
フィリピンの大統領選挙に勝利したフェルディナンド・マルコス氏は18日、中国の習近平国家主席と電話で会談し「新政権のもとでは中国との関係のギアをさらに上げる」として、中国との関係を重視する姿勢を強調しました。

今月9日に投票が行われたフィリピンの大統領選挙で勝利したマルコス氏は来月の新政権の発足を前に18日、中国の習近平国家主席と電話で会談しました。

中国外務省の発表によりますと、この中で習主席は「中国は周辺国との外交において常にフィリピンを優先的に位置づけていて、これまでどおりフィリピンの経済や社会の発展に積極的な支持と援助を行う」と述べ、フィリピンの新政権とも協力を深めていく考えを示しました。

一方、マルコス氏側の発表によりますと、マルコス氏は「新政権のもとでは中国との関係のギアをさらに上げ、実りある結果をもたらしていく」と述べ、中国との関係を重視する姿勢を強調しました。

またマルコス氏は両国が争う南シナ海の領有権問題を念頭に「現在の対立や困難を歴史的に重要なものにしてはならない」と述べたうえで、両国間で対話を続けていくことで一致したということです。

マルコス氏は1975年に中国との国交を樹立した故マルコス元大統領の長男で、父親が築いた縁をきっかけに中国政府の関係者などとの個人的な関係を深めてきており、18日の会談は中国寄りの姿勢を改めて鮮明にした形です。【5月18日 NHK】
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【国民草の根的にも、軍部にも強い中国への警戒感】
ただ、中国との関係はそうそう単純な単線でもないようにも思えます。
マルコス大統領はあまり政治的に確固たる考え・信念を持っているような政治家でもなさそう・・・という点以外にも、国民レベルで中国に対する警戒感も存在します。

****フィリピン新大統領が必ずしも独裁で親中でない現実****
(中略)
ここで参考までに、経済関係をめぐって米中間で激しい応酬が交わされていた2020年秋の、フィリピンにおける中国をめぐる動きを振り返ってみたい。
 
同年9月1日、フィリピン大統領府報道官は「わが国は如何なる国の属国でもなく、外交方針を決定するのは大統領である」と主張し、「米国が制裁を加える中国企業であっても、自国の利益を追求するためにはフィリピン国内における活動継続を認める」と発言した。事前に伝えられていた「米国に制裁を科された中国企業との関係を断つ方針である」とするテオドロ・ロクシンJr外相の発言を、真っ向から否定してみせた。外相発言を否定することで、同報道官はロドリゴ・ドゥテルテ大統領の対中姿勢を内外に明確に示したのである。
 
当時フィリピンでは、(1)最有力華人企業家のルシオ・C・タンが中国交通建設集団傘下の中国交通建設と組んでマニラ市南郊カビテ省で国際空港を建設。(2)ドゥテルテ大統領に極めて近い華人企業家のデニス・ウイ(黄書賢)などが中国電信集団と組んで創業した第3通信事業者(ディト・テレコミュニティー=DITO)による通信市場への参入(じつはフィリピンの通信部門は長年2大通信企業による独占状態にあった)。(3)中国能源建設集団(CEEC)によるマニラ市東郊でカリワ・ダムの建設――などの巨大プロジェクトが進行中であった。

中国に悩まされる一面も
どうやら、中国政府系企業を巻き込んでのドゥテルテ政権版の「クローニー資本主義」(縁故や家族関係が大きな意味を持つ経済体制のこと。 狭義では、権力者の親族や取り巻きが一体となり利権をあさる傾向を指す。【コトバンク】)とでも言えそうな状況が見られた。(中略)
 
10月20日、一部上院議員が「17年以来、約300万人の中国人が不法入国し、移民局関係者が400億ペソを不正に入手した」と暴露する。ドゥテルテ政権の対中姿勢に異議を表明したと受け取れるが、同時にフィリピンも大量の中国人不法入国者に悩まされていることが明らかとなったわけだ。
 
その前後のことだが、タイの華人系メディアはフィリピン共産党が反中武装闘争に乗り出したと報じている。「フィリピン国内に7カ所の軍事基地を建設し、フィリピンの主権を侵し、海洋資源を掠奪する中国企業の活動を許すドゥテルテ政権を打倒せよ」と、傘下武装組織の新人民軍(NPA)を動員し、フィリピン国内で拡大を続ける中国企業の活動阻止を決定したというのだ。
 
このように20年秋の2カ月ほどの短い時間をとってみても、フィリピン社会が中国企業と中国人への対応に苦慮していることが見て取れる。中国と中国人問題は政権や大企業のレベルを超えて、いわば草の根レベルにまで広がっていると見るべきだ。(後略)【5月21日 樋泉克夫氏 (愛知県立大学名誉教授) WEDGE Infinity】
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また、軍部にも南シナ海への進出を進める中国への警戒感があるようです。

****比海軍スービックに基地 中国けん制、米軍も利用か****
米海軍が約30年前に基地を撤収したフィリピン北部スービック湾で、フィリピン海軍は26日までに新たな用地を確保し、基地として運用を始めたと発表した。米軍も共同利用する可能性がある。

スービックが面する南シナ海で軍事活動を活発化させる中国をけん制する狙い。

スービック港湾公社幹部によると、旧米海軍基地を民間転用した空港の一部でもフィリピン空軍が監視任務のため駐留する。

フィリピン海軍によると、新基地に24日、フリゲート艦が初めて配備された。港湾公社のロレン・パウリノ総裁(59)は26日までの共同通信の取材に対し、南シナ海の権益を主張する中国を名指しし「ドゥテルテ政権は海軍の改善に尽くしたが、中国海軍の強力な能力に対しては不十分。米海軍のプレゼンスは均衡を取るのに役立つ」と強調。米国や日本の艦船の寄港を歓迎した。【5月26日 共同】
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【懸念されるのは、マルコス・ジュニア圧勝に見る「民主主義疲れ」】
マルコス新政権が親中国路線を強めるかのどうか・・・以上に重要なのは、ドゥテルテ前政権の超法規的殺人で大きく揺らいでいるフィリピンの民主主義がどうなるのか、権威主義的な傾向を強めるのかどうか・・・ということです。

別にマルコス・ジュニアが強権支配者として国を追われた父マルコス元大統領の息子であることを云々している訳ではありません。マルコス・ジュニアが「父の政治は民主主義の面で間違っていた。自分は父とは違う」と明言するなら何も問題ありません。

しかし、現実にはマルコス・ジュニアは「父の時代はいい時代だった」みたいな形で、負の側面を語ることなく、有権者もそれを受け入れたということが気がかりです。

****「民主主義疲れ」が決めたフィリピン大統領選東南アジア諸国で「民主化の逆行」が始まるのか****
5月のフィリピン大統領選で、故マルコス大統領の息子であるフェルディナンド・マルコス氏が当選した。民主主義的価値が後退し、権威主義的傾向がいっそう強まることが懸念されている。

5月9日に投票が行われたフィリピン大統領選挙で、フェルディナンド・マルコス氏(通称ボンボン、64歳)が地滑り的勝利を収めた。悪名高い独裁者フェルディナンド・マルコス元大統領(在職1965年~1986年)の息子だけに、海外メディアの報道では、とかく彼のうそや欺瞞、そしてSNSを中心とした偽情報ネットワークに注目が集まった。

しかし、マルコス氏の勝利は多くのフィリピン人有権者が「悪い男に騙された」ことが原因なのだろうか。現地でみた実像を報告したい。

1986年、首都マニラを貫く12車線のエドサ通りを怒れるデモ隊が埋め尽くした。そして戒厳令のもとで反対派への拷問や殺害を繰り返していた当時のフェルディナルド・マルコス大統領を退陣させることに成功したのだ。

のちに「エドサ革命」や「ピープルパワー革命」と呼ばれるようになったこの抗議活動は、世界的な民主化の波の先駆けとなり、その間接的影響は、韓国、台湾、中国などのアジア各国、そして東欧諸国にまで及んだとされる。

目の当たりにしたマニラの「変わらない」現状
(中略)マニラ取材中、そのすぐそばのエドサ通り沿いの歩道を歩いていた時だ。黒ずんだ、マルコス候補のキャンペーンTシャツを身にまとった細身の中年男性が目にとまった。裸足で、足の爪が長く、「ドブネズミ」を連想させる風体だ。男の周りでは、MRT(都市高速鉄道)の高架から汚水が滴り、大渋滞の大通りからは、エンジン、クラクションの音がけたたましく鳴り響いていた。小銭を渡すと、男は私の英語の質問には耳を貸さずに無表情のまま立ち去っていった。

そして、そのマルコス陣営本部の真横にあるフィリピンの有名ファストフードチェーン「ジョリビー」で食事をしていると、今度は「ハンス」と名乗る、20歳というには小柄な青年が私のテーブルにやってきて、恵みを求めてきた。聞くと、シングルマザーの母が、他の3人の兄弟を養うために苦労しているのだという。金銭的な支援が得られるので、マルコス候補を支持しているとのことだった。

こうしたマニラの「変わらない」現状を目の当たりにすると、マルコスに未来を託した人々の心情が見えてくる。
1986年に自由と民主主義を取り戻したフィリピンだが、経済的繁栄には程遠い状況が続いてきた。IMF(国際通貨基金)のデータによると、2021年のフィリピンの1人当たりのGDP(国内総生産)は3572ドル。この40年でタイやインドネシアといったASEAN(東南アジア諸国連合)の中所得国に抜かれたのみならず、最近ではついにベトナムに逆転を許した。

民衆を失望させた「停滞の30年」
「(フィリピンには)経済発展の兆しはあります。過去10年、貧困率は低下しました。ですが、まだ15~18%程度あります。人々は(富の)再分配という点ではもっとできたはずだと感じています」。フィリピン出身で、京都大学のキャロライン・ハウ教授(東南アジア地域研究)はそう解説する。

マルコス政権(1965年~1986年)の後に、幅広い勢力の支持を得て登場したのがコラソン・アキノ大統領(1986年~1992年)だった。そもそも、(マルコス元大統領を追放した)エドサ革命の端緒の一つは、彼女の夫で、マルコスと対峙した政治家ベニグノ・アキノ・ジュニアが1983年に暗殺されたことだった。

その後、アキノ夫妻の息子であるベニグノ・アキノ3世が2010年から2016年にかけて大統領を務めた。いずれもフィリピンのリベラル派政党で、2016年まで与党だった自由党の政治家だ。

だが、近年エドサ革命の物語は明らかに色褪せてきている。
マルコス候補の対抗馬だったレニ・ロブレド現副大統領を支持する公務員のロレンソさん(33)は、リベラルの牙城であるフィリピン大卒。毎年エドサ革命記念日(2月25日、祝日)にエドサ革命のモニュメント前で開かれる記念活動に参加する人数が年々減ってきていることを嘆く。「貧しい人にとってエドサ革命は間違いなのです」

そうした傾向とともに、フィリピンの民主主義回復を象徴してきた自由党の退潮が近年顕著になってきた。今回の大統領選の大きなテーマは「マジョリティーによる反自由党感情」だと話すフィリピン現地メディア記者もいたほどだ。

取材中に接したマニラのタクシーや配車サービス「グラブ」のドライバーのほとんどが、マルコスのキャンペーンカラーの赤いTシャツを着て、いかに「黄色」(自由党のシンボルカラー)が嫌いかを熱心に語るのが印象的だった。 そのうちの1人、ブランドさん(43)は、これまで眠っていたフィリピンはついに「真実に目覚めた」のだと言い切った。(中略)

「脱アキノ」の動きが進んでいる
フィリピン紙インクアイアーのコラムニスト、マニュエル・ケソン3世は、「エドサ革命の象徴はとっくに崩壊し始めている」と話す。

(中略)今回の選挙では中間層や低所得者層がマルコス支持に流れたとみられるが、彼ら彼女らの目には、エドサ革命後に政権を担った寡頭制民主主義下の伝統的エリートは「何もしなかった」どころかフィリピンを「むしろ悪くした」と映る。

筆者はASEAN10カ国すべてを訪問した経験があるが、フィリピンほど汚職が日常化している国はなかなかないと思う。

交通警察が違反キップ取り下げの代わりに現金を要求するのを初めて目撃したのもマニラだった。また、マニラの商業モールには、銃を持った警備員がいる。他の東南アジア諸国ではほとんど見ない光景だ。マニラに広がるスラム街を夜間歩くときは、身の危険を感じる。

民衆の立場からすると、国際的に非難を受けながらも麻薬戦争で治安回復に取り組み、これまでの政権が手をつけられなかった警察腐敗の撲滅に切り込んだドゥテルテ大統領は「ようやくフィリピンを変えた」リーダーなのだ。だからこそ、フィリピン国内で高支持率を維持してきた。当然、有権者としては主要候補の中で唯一ドゥテルテ路線の継承を訴えたマルコス氏を推すことになる。

一時的な現象と言い切れるか
前出のハウ教授は今回のマルコス圧勝について、「エドサ革命後の自由民主主義体制への、そしてその制度が自由と平等を実現できなかったことへの幻滅、『民主主義疲れ』が起きている明確な根拠があると思います」と総括する。自由についてはある程度実現したが、平等はおろか繁栄も実現できなかったという見方だ。

マルコス独裁時代が「暗黒時代」でなく「黄金時代」だったというナラティブ(物語)の反転、そして今回の選挙結果が許したマルコス一族再興の裏には、マルコス退場後からドゥテルテ登場までの30年間への深い失望があると見ていい。

そして、そのフィリピン政治の転換が、中国が東南アジアで影響力を拡大させる中で起きたことは特筆に値する。
父親が大統領の時代にフィリピンが中国と国交を樹立したことなどもあり、マルコス次期大統領は引き続き中国と良好な関係を築くとみられる。中国はまたドゥテルテ一族との関係強化を狙って、2018年に彼らの本拠地であるダバオ市に領事館を開設した。中国の努力は実った。

それは、今回の副大統領選で過半数の票を得て当選確実となったドゥテルテ大統領の長女、サラ・ドゥテルテ氏(43歳)が一気に2028年の次期大統領選の最有力候補に躍り出たからだ。現職のドゥテルテ氏から3代続けて親中政権が誕生する可能性は小さくない。

さらには、東南アジア全体への波及効果も気になるところだ。ASEAN大陸部に目を向けると、タイやミャンマーでは軍事政権が根付きつつある。隣国インドネシアでも、2024年に迫る次期大統領選挙へ向けて強権化と権威主義的傾向が強まることへの懸念が広がる。ジョコ大統領を、現行憲法では認められていない3期目に推す声が上がっているのだ。

マルコス当選確実の報を受け、インドネシアの英字紙ジャカルタポストは「フィリピンに続き、インドネシアでも権威主義への回帰へ向けて機が熟している」と題した記事を掲載し、危機感を示した。

民主主義を放棄し、権威主義に逆戻りするのか
「インドネシアは、30年以上にわたって軍の後ろ盾で統治してきたスハルトを、同じく民衆の力で倒し、1998年にフィリピン、タイとともに東南アジアの民主主義リーグに加盟した。(中略)インドネシアは今、東南アジアの近隣諸国に対して、完全な自由を伴う民主主義が依然として最良の政府形態であり、成果をあげられるものである、そうした希望とインスピレーションを与える立場を守れるだろうか。それとも、民主主義を同じように放棄し、権威主義に逆戻りするのだろうか」

フィリピンで現在進行中の「逆行」を、安易な考えや誤解に基づいた有権者の一時的な揺れ動きと結論づけるのは早計だ。むしろ同国で長年蓄積されたやるせなさを反映した、「民主主義がすべてをよくするとは言えない」という意識の現れとして国際社会は直視すべきだろう。ことは構造的な問題なのだ。【5月28日 舛友 雄大氏 東洋経済ONLINE】
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『民主主義疲れ』はアメリカのトランプ前大統領に象徴されるように、東南アジアだけでなく世界的な現象です。
今日のニュースでも、南米コロンビア大統領選挙では、親米路線をとってきた伝統政党候補は敗退し、決選投票に進んだのは元ゲリラの左派候補と「トロピカル・トランプ」と称される独立系実業家とのこと。

マルコス新政権が民主主義に軸足を置いた政権なら、フィリピンの事情から中国と接近することはフィリピンの判断です。しかしその軸足が揺らぎ強権支配を是認するということであれば、中国的政治と親和性がよく、その影響はアジア全体に及びます。
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イラン  ロシアと接近、中国も加えて反米協調 現実にはロシアとの競合も 実力行使のイスラエル

2022-05-29 22:54:05 | イラン
(5月26日、ギリシャ海運・島しょ政策省の関係筋などは、米国がギリシャ周辺でロシアの運航船に積まれたイラン産原油を押収したと明らかにした。写真は同日、ギリシャ沖で原油の積み替えを受けるイラン船籍のタンカー「ラナ」【5月27日 ロイター】)

【イラン・ロシア・中国で反米協調】
イラン核合意再建協議について革命防衛隊のテロ組織指定解除をめぐって“膠着状態”にあることは、5月16日ブログ“イラン 核合意再建協議は膠着状態、決裂の可能性も 国内では食料品補助金廃止で抗議行動が拡大”で取り上げましたが、その後の動きについてはほとんど報じられていません。「望み薄」との見方も。

****イラン核協議「妥結は望み薄」 米、テロ指定解除を否定****
米国のマレー・イラン担当特使は25日、上院外交委員会の公聴会で、イラン核合意の修復に向けた同国との間接協議について「ひいき目に見ても妥結する可能性は乏しい」と証言した。

イランが合意と無関係な要求をする限り「拒否し続ける。合意はない」と述べ、イランが求める革命防衛隊に対するテロ組織指定の解除に否定的な見方を示した。
 
革命防衛隊はイラン指導部の親衛隊的な性格を持つ軍事部門。2018年に核合意を一方的に離脱したトランプ前米政権が19年にテロ組織に指定しており、合意とは直接の関係はない。指定を巡って間接協議は折り合いがつかず、行き詰まっている。【5月26日 共同】
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こうした欧米との歩み寄りが進展しない状況の結果なのか、あるいは逆に、欧米との歩み寄りを阻害する背景なのかはともかく、このところはイラン同様に欧米の制裁を受けるロシアとの接近が目立ちます。

****ロシアとイラン、石油・ガス相互供給を協議****
 ロシアのノバク副首相は25日、イランと石油・ガスの相互供給や物流ハブの設置について協議したと明らかにした。欧米の対ロシア制裁に対応する措置となる。

同氏はイラン訪問中にロシア国営テレビに対し、何年も制裁下にあるイランの経験について話し合ったと語り、「相互に商品輸送を図るためにイランは主要な物流ハブになり得る」と述べた。

両国間のモノの貿易量は現在の年間1500万トンから数年内に5000万トンに拡大する潜在性があるとの見方を示した。

ロシアがイラン北部にエネルギーを供給し、イラン南部からアジア太平洋地域に石油・ガスを輸出する可能性に触れ、近い将来に合意締結があるかもしれないと述べた。【5月26日 ロイター】
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実際に、イラン産原油を積んだロシア運用の船舶が拿捕されるということも起きています。

****露イラン、原油密輸で協力か ギリシャ拿捕 米没収****
ウクライナに侵攻したロシアに対する欧州連合(EU)の制裁の対象だとして、ギリシャ当局がロシアの運用する船を拿捕(だほ)したところ、イラン産の原油を積んでいたことが判明した。

米国は26日、原油を没収して別の船に積み替え、同国に送ることを決めた。ロイター通信が複数の関係者の発言として報じた。

拿捕された船は「ペガス」で、米国はEU同様、露国防省に関係があるとして制裁対象に指定していた。ギリシャが拿捕したのは先月のことで、ペガスには19人のロシア人が乗っていた。イラン政府は在テヘランのギリシャ大使館の責任者を呼んで抗議した。

ペガスはロシアの侵攻後、船名や船籍が変わっており、ロシアとイランが協力して偽装した疑いがありそうだ。米財務省は今月25日、イランの最高指導者に直属する革命防衛隊の原油密輸や資金洗浄に関与したとして、ロシアに拠点を置く企業などを新たな制裁対象に指定、監視を強める方針を示していた。

核合意の修復を目指すイランと米国の間接協議は休止状態で、両国の対立が深まる可能性もある。【5月26日 産経】
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「敵の敵は味方」ということで、ともに欧米と対立し制裁を受けるイランとロシアが接近するというのは、ある意味自然な流れにも思われます。

【ロシアがイランの天然ガス顧客を奪う動きも】
しかし、現実はもう少し複雑。
イランにしても、ロシアにしても制裁を受けながらの生き残りに必至。自分が生き残るためには・・・

****液化石油ガス、ロシアが値引き輸出 イランから顧客奪う****
ウクライナに侵攻し、米欧から事実上の貿易制限を受けるロシアが主要輸出品の一つ、液化石油ガス(LPG)の値引き販売に乗り出した。アフガニスタン、パキスタンなど、イランの大口顧客が相手だ。

イラン核合意の再建協議でも、ロシアは土壇場で新たな条件を持ち出し、イランへの制裁解除を遅らせている。ロシアとイランの「蜜月」が揺らいでいる。

イランも核開発を理由に貿易制限の制裁を受けている。暖房、調理だけでなく自動車の燃料にも使うLPGの輸出は重要な外貨獲得の手段だ。

だが、イランの石油輸出業界のトップは地元紙に「アフガニスタンに1トン約600~700ドル(約7万7000~8万9000円)で販売していたが、最近では450ドルへの値下げを求められる」と打ち明ける。

ロシアの安値攻勢はカザフスタン、ウズベキスタンといったほかのガス供給国にも値下げを迫る。

統計サイトのワールドメーターによると、(メタンが多く液体が生じない)乾性の天然ガスをイランは年9兆立方フィート(約0.25兆立方メートル)生産する。米国、ロシアに次ぎ世界で3番目に多い。このうち3分の1程度を輸出する。

イランがガスを販売する契約を結ぶ相手はイラク、トルコ、アフガニスタン、パキスタンだ。アゼルバイジャンとはガスのスワップ取引の契約がある。その中で、長期の顧客になりそうなのはイラクだけだと複数のアナリストは指摘する。

イラン国営ガス会社(NIGC)のトップは5月中旬の記者会見で、イラクがガス購入契約の更新を求めていると明らかにした。一方、現在の契約が間もなく失効するトルコとは新たな年間契約を巡る交渉を続けていると説明した。

イランのジャーナリストは最近、ロシアがトルコへのガス供給を想定し、これから3年間、トルコのガスタンクを借りる契約を結んだという業界情報をツイッターに投稿した。これが事実ならば、イランのガス輸出には打撃となる。

NIGCのトップは日本経済新聞に対し、トルコやアフガニスタンのような顧客をロシアに奪われる可能性を否定しなかった。「効率よく安いエネルギー資源を確保する自由はどの国にもある」と述べ、仮に顧客を失っても仕方がないという姿勢をみせた。

米欧がロシア産の原油や天然ガスの輸入を停止あるいは制限する制裁を発動することで、イランは核合意の再建交渉が前進すると期待した。米国がイランに歩み寄って核合意の枠組みに復帰し、イランに科していた制裁を解除して石油や天然ガスの輸出拡大を容認すると見込んだからだ。

ところがロシアは3月、核合意の再建交渉をまとめる条件として、同国への制裁をイランとの貿易・投資に適用しないよう米国に迫った。交渉の妥結後、イランへの制裁がある程度、解除されることを見越しての対応だ。米国は応じず、交渉は宙に浮いている。国際社会でイランはロシアを頼りにしていたが、いまは、いら立っている。

イラン核合意は同国の核開発を抑制するのが目的だ。2015年、米国、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国の6カ国がイランとまとめた。18年、トランプ政権だった米国が離脱を表明すると、ロシアは中国とともにイラン寄りの姿勢を示した。【5月25日 日経】
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互いに利用しようという動きと、相手を押しのけてでも・・・という動き。
イラン国営ガス会社が“仮に顧客を失っても仕方がないという姿勢”というのは、国家としてはロシアとの協調を重視する意思決定がなされているということでしょうか?

イラン・ロシアの協調に、同じくアメリカと対立する中国も加われば、反米協調の出来上がりです。

****露、イランに接近 市場拡大、中国含め反米協調狙う****
ロシアが経済を中心にイランとの関係強化を進めている。ウクライナに侵攻したロシアは米欧の強力な制裁で経済が疲弊しており、イランを自陣に引き留めて市場拡大につなげる狙いがうかがえる。

米欧がウクライナでの戦闘への対応で忙殺される裏側で、ロシア、イランに中国を含めた反米3カ国が連携を強めている可能性も否定できない。

ロイター通信などによると、露のノバク副首相は25日、イランの首都テヘランで同国の高官と協議し、協力強化を盛り込んだ複数の文書に署名した。ノバク氏は侵攻後、米欧など「非友好国」の対露圧力が強まったため、「イランとの関係発展の必要性が高まった」と述べた。

イランでは干魃(かんばつ)による不作が続いており、露は小麦など穀物500万トンをイランに供給する見通しだ。核開発問題で米国の制裁を受けているイランの高官は、外貨を介さず、両国の通貨で決済を行うことに意欲を示した。

ノバク氏は、露がイランにエネルギーを供給し、イランは南部の港からアジア諸国に原油・天然ガスを輸出する枠組みでも近く合意するとの見通しを述べた。イランは米制裁で原油輸出が禁じられているが、中国は非公式にイランから原油を購入して同国の経済を支えている。

一見不可解なこの枠組みからは、欧州が依存脱却を進めて行き場を失う露産原油をイラン経由で搬出する狙いさえちらつく。

露とイランはすでに、協調して原油の不正取引を行っている疑いもある。ギリシャ政府が先月、同国近海で停船を命じた船にはロシア人約20人が乗っていたが、イラン産原油を積んでいたことが判明。同船は露の侵攻後、船籍や船名を変えて偽装を図ったとみられ、米国は監視を強化する方針を打ち出している。

露の侵攻で原油は高値傾向が続き、中国という〝販路〟を持つイランは、核合意を修復して対米関係を改善することへの意欲を失っていると指摘される。

昨年、25年もの長期に及ぶ包括的な協力協定をイランと結んだ中国と違い、露は近年、イランとの間で目立った協力強化を打ち出してこなかった。侵攻後のイランへの接近は、露が制裁で深刻な影響を受けていることを示すとともに、中国とイランを頼りにそのダメージの緩和に動いている可能性を示している。【5月27日 産経】
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アメリカは欧州ではNATOの同盟関係でロシアに対抗し、アジアではクアッドやAUKUS、更にはIPEFといった枠組みで中国包囲網を形成しようとしていますが、ロシア・中国更にイランが協調する形で欧米主導の枠組みに対抗する・・・そういった情勢にもなりつつあるようです。

【きな臭いイスラエルの動き】
イランにとって、アメリカ同様に・・・というか、アメリカ以上に厄介な“天敵”が、イラン核開発を絶対阻止する構えのイスラエル。アメリカはその影響を考えて直接的な実力行使には慎重ですが、イスラエルは手段を選ばず実行します。

イスラエルは、核合意などイランの時間稼ぎに過ぎないと眼中にありません。“実力”で核開発を阻止しないと・・・という立場です。

****革命防衛隊大佐を射殺=首都自宅前、イスラエル関与か―イラン****
イラン国営メディアによると、精鋭の「革命防衛隊」の大佐が22日、首都テヘラン市内の自宅前で何者かに射殺された。実行主体は不明だが、イラン側は殺害の手口から敵対するイスラエルなどの関与を疑っているとみられ、何らかの報復によって緊張が高まる恐れもある。
 
報道によれば、殺害されたハッサン・サイアド・ホダイ大佐は車で自宅に着いた際、オートバイ2台に分乗した何者かから銃弾5発を受けて死亡した。革命防衛隊は「反革命勢力のテロで暗殺された」と非難した。同大佐は革命防衛隊で対外工作を担うコッズ部隊に所属し、シリアなどでの戦闘歴があるという。
 
革命防衛隊は大佐暗殺に先立ち、イスラエル諜報(ちょうほう)機関とつながりがある集団を摘発したと発表していた。「窃盗や破壊行為、誘拐」などの容疑を主張しているが、殺害事件との関連性は不明だ。【5月23日 時事】 
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****イランの大佐暗殺に関与=イスラエルが米に伝達―NYタイムズ****
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は25日、イラン革命防衛隊の大佐が自宅前で何者かに射殺された事件で、イスラエルが暗殺への関与を米側に伝えていたと報じた。

イランは当初からイスラエルの関与を疑っており、ライシ大統領は「偉大な殉教者が流した血に対し、報復は避けられない」と宣言していた。
 
大佐は革命防衛隊で対外工作を担うコッズ部隊に所属していた。同紙が情報当局者の話として伝えたところによると、イスラエル側は、コッズ部隊の中で外国人の拉致や暗殺を担う秘密部隊「840ユニット」の活動に警告を発するために殺害したと説明したという。【5月26日 時事】 
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イランのライシ大統領は「間違いなく報復する」と報復を確約しています。

****イラン大統領「間違いなく報復する」 革命防衛隊の大佐暗殺****
(中略)イランのライシ大統領は23日、国際的組織が関与した暗殺だと非難し、「間違いなく報復する」と述べた。複数のイランメディアが伝えた。(後略)【5月23日 産経】
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その「報復」より先に、イスラエルによるイランの研究施設攻撃が報じられています。

****ドローンでイラン軍研究所攻撃か=イスラエル関与濃厚―米紙****
米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は27日、イランの首都テヘラン近郊パルチンにある国防軍需省の研究施設で25日に起きた「事故」について、イラン国内から飛び立ったドローンによる攻撃だったと伝えた。

ドローンが建物内に突っ込んで爆発したとみられ、その手法からイスラエルの関与が濃厚という。【5月28日 時事】
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イランは欧米制裁によって経済苦境にあり、食料品価格高騰をめぐって国内にデモや混乱が起きています。食料品価格を落ち着かせるためにはロシア・中国との関係だけでは不十分でしょう。
アメリカはロシア産石油の禁輸で同盟国の足並みをそろえ、エネルギー市場を安定化させるためには、イラン産石油が欲しいところ。

そうした両者の歩み寄りを促す事情もありますが、ここのところ目立つのは上述のようなロシア・中国との協調、あるいはイスラエルとの衝突といった離反の流れです。

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アメリカ  銃乱射事件ふたたび トランプ前大統領、銃規制強化ではなく学校の警備強化を求める

2022-05-28 22:15:30 | アメリカ
(ライフル協会年次総会で演説するトランプ前大統領【5月28日 TBS NEWS DIG】)

【飲酒は21歳から、ライフル銃は18歳から】
24日にアメリカ・テキサス州ユバルディで起きた児童19人を含む21人が死亡した銃乱射事件・・・・正直な感想は「またか・・・」というもの。14日には黒人が多く住むニューヨーク州バッファローのスーパーマーケットで黒人10人が自称白人至上主義者に射殺されたばかりです。

バイデン大統領も「もううんざりだ」と行動を求めてはいますが・・・

****米バイデン大統領「もううんざりだ」 小学校で銃乱射、児童ら21人死亡…容疑者の高校生は警官に撃たれ死亡****
アメリカ・南部テキサス州の小学校で24日、銃の乱射事件がおき、地元当局によりますと、児童19人と教師2人の21人が死亡しました。(中略)

容疑者は地元に住む18歳の高校生で、現場にかけつけた警察官に撃たれて死亡しました。(中略)事件のあったユバルディはヒスパニック系が多く住む地域でした。容疑者は事件の前に祖母を撃ったということですが、事件との関連や詳しい動機などはわかっていません。

また、日韓訪問を終え帰国したばかりのバイデン大統領も急きょ演説し、「もううんざりだ。今こそ、この痛みを行動に移す時だ」と述べ、銃規制の強化を訴えました。【5月25日 日テレNEWS24】
********************

犯行に使用されたのは、AR-15半自動ライフル銃。飲酒は21歳からですが、ライフル銃は18歳で購入できる・・・というのがアメリカ。

****飲酒は禁止、でも半自動ライフル銃=AR15は合法的に購入・所持できるアメリカの18歳****
(中略) 
ライフル銃は18歳、拳銃は21歳から購入“合法”
一方、アメリカでの銃の購入・所持の制度は一体どうなっているのか?

良く知られている通り、銃を持つ権利は合衆国憲法修正第2条で認められている。そして、アメリカ連邦政府のルールでは、購入者の最低年齢は、ライフル銃は18歳。拳銃は21歳とされている。ちょっとびっくりじゃないですか?

それにより、現状、アメリカの50州のうちテキサス州を含む44州では、18歳になったら合法的にライフル銃を購入できる。残りの6州は、2018年にフロリダ州パークランドの高校で起きた銃乱射事件を受けて、18歳から21歳に引き上げられた。(中略)

AR-15は、アメリカ軍が使うM-16自動小銃の民生型で、高性能と信頼性がウリだ。そのためアメリカ社会に広く普及しており、一方で殺傷能力も高いため、銃乱射事件での登場頻度も高いベストセラーだ。そんなライフル銃を18歳になったばかりで(親の同意などもなしに)合法的に買える。それが銃社会アメリカの実態だ。(中略)

お酒は20歳になっても飲めないのに…
もう一つ、年齢との関係で言えば、アメリカの成人年齢は18歳だが、一部の州は19歳や21歳などと定めている。飲酒については全米一律21歳になってからだ。

成人年齢と銃の購入、そして飲酒の年齢はそれぞれに関連し合っていそうだが、「成人になっても酒は飲めないが、AR-15は買える」。それが憲法が認めるアメリカであり、NRA=全米ライフル協会はこの状況を守り抜くために、一切の規制強化に反対する。

日韓歴訪から帰国したばかりのバイデン大統領が、その疲れにもかかわらず感情的な演説をしようと、そんなのは笑止千万なのだ。【5月27日 FNNプライムオンライン】
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【多くの国民は銃規制強化に賛同しているが・・・】
この種の事件の度にメディアでは銃規制の必要性が論じられますがほとんど進展がなく、事件が起きるたびに人々は銃砲店に押し寄せ銃を買い求めるという現実も。

銃規制を求める世論がない訳ではなく、むしろ数字的には国民の大半が規制強化を求めています。

****米国民の大半が銃規制強化支持、議会対応には確信弱く=調査****
25日に発表されたロイターとイプソスの世論調査で、米国民の大半が銃規制法の強化を支持する一方、一連の銃乱射事件を受けても議会が対応するとの見方は多くないことが分かった。

調査は940人に実施。前日にはテキサス州の高校で21人が死亡した乱射事件が起きたほか、14日には黒人が多く住むニューヨーク州バッファローのスーパーマーケットで黒人10人が自称白人至上主義者に射殺されている。

調査では、回答者の84%が全ての銃器販売での経歴調査を支持。公共の安全に脅威とされる人物の銃を差し押さえる「レッドフラッグ法」を支持した回答者は70%だった。

さらに、銃購入が可能となる年齢を18歳から21歳に引き上げることに賛成する回答は72%だった。

こうした政策は民主党、共和党で一応に大半が支持しており、これまでに公表された調査結果と一致している。

しかし、大半の回答者は議会が行動するとは考えておらず、年内の銃規制法強化を確信しているとの回答が35%にとどまったのに対し、その確信はないとの回答は49%だった。【5月26日 ロイター】
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議会が行動するとは考えていない・・・大きな理由としては後述の全米最強のロビー団体ライフル協会の問題がありますが、それにしても上記のような規制強化を求める国民が多いのに規制強化が前進しない、むしろ多くの州では緩和されているという現実は日本人には理解し難いところです。

憲法で銃所有の権利が保護されていること(想定している状況が憲法制定時と今では全く異なりますが)に加え、銃規制に反対する人々の論理は、悪いのは銃ではなく、犯人の精神状態が問題、事件を防ぐには「銃を持った善人」を増やして犯人に反撃すること、銃が持つ悪人が多い現状で銃規制を強いるのは銃の犠牲者になることを強いるもの・・・といった考え方です。

【アボット知事に詰め寄るオルーク元下院議員】
とりわけ、今回事件が起きたテキサス州は銃乱射事件が続発する土地柄ですが、事件に関しての会見を行うアボット知事(共和党)に対し、オルーク元下院議員(民主党)が「これはあなたの責任だ」と壇上に詰め寄り退場させられる場面も。

テキサス州は銃規制に消極的な共和党が強い州ですが、オルーク氏は2018年の上院選で現職のテッド・クルーズ氏を約3ポイント差まで詰めて一躍注目を集め、20220年の大統領選にも名乗りを上げています。

****今週もまた…米国で繰り返される銃乱射事件 歴代ワースト10でテキサス州が半数占める訳****
(中略)年々増加する米国の銃乱射事件だが、過去に米国で発生した犠牲者数の多い銃乱射事件ワースト10のうち、半数がテキサス州で発生していた。その理由とは―。

テキサス州ユバルディで24日午前、地元の高校に通っていた18歳のサルバドール・ラモス容疑者が、「(同居する)祖母を撃った」とフェイスブックに投稿し、続けて、「これから学校で銃撃する」などと犯行を予告する内容の投稿をしていたことが分かった。最初に撃たれた祖母は重傷を負ったとしている。

AP通信によると、容疑者は今月、現地で合法的に銃が購入できる18歳の誕生日を迎え、地元の銃砲店でライフルや弾薬を相次いで購入していた。学校でいじめを受けていたとされるが、詳しい犯行の動機などは明らかになっていない。

事件を受けてバイデン大統領は、銃規制強化の重要性を訴えたが、共和党のアボット・テキサス州知事は会見で、その必要はないとし、銃規制をめぐる意見の隔たりが改めて浮き彫りとなっている。

同州オースティンのNBC系列のテレビ局KXANは、過去に米国で起きた銃乱射事件のうち、今回を含む犠牲者数の多い事件ワースト10の半数が同州で起きていると伝えた。

テキサス州は人口規模では全米でカリフォルニア州に次いで2番目。だが、カリフォルニアがワースト10に入っているのは1984年にサンディアエゴのマクドナルド店で21人が死亡したサン・イシドロ・マクドナルド銃乱射事件だけだ。

その全米ワースト10のうち、テキサス州で発生した事件は、24日のもの以外は次の通り。

●1966年8月1日 テキサスタワー乱射事件
元海兵隊員で大学院生だったチャールズ・ホイットマン(当時25)は、テキサス大学オースティン校にある本館時計塔に狙撃ライフルなど銃器を持って立てこもり、銃を乱射。妊娠中の女性を含む14人を殺害、30人を負傷させた。うち2人は撃たれた傷がもとで後日亡くなった。ホイットマンは警察の狙撃部隊により射殺された。

●1991年10月16日 ルビーズ銃乱射事件
ジョージ・へナード(当時35)は、同州中部キリーンにあったレストラン「ルビーズ・カフェテリア」のガラス窓を車で激突させて突き破り、店内にいた客など43人を撃った後、トイレに隠れ、自殺した。この事件で23人が死亡、27人が負傷した。

●2017年11月5日 サザーランド・スプリングス教会銃撃事件
デビン・パトリック(当時26)はサザーランド・スプリングスのファーストバプテスト教会に押し入り、妊婦を含む26人を射殺し、22人が負傷した。パトリックは運転してきた車の中で自殺した。

●2019年8月3日 エルパソ銃乱射事件
米スーパーマーケットチェーン「ウォルマート」のエルパソ店に、自動小銃で武装したパトリック・クルシウス(当時21)が侵入し、銃を乱射。客ら22人が死亡し、数十人が負傷した。事件後、クルシウスは自首。裁判で被告は無罪を主張し、連邦と州裁の2つの裁判所で公判が行われる。

ちなみに、全米ワースト1は17年10月1日にネバダ州ラスベガスで起きたラスベガス・ストリップ銃乱射事件。ラスベガスの野外コンサートの観客を標的とし、ホテル32階の部屋から無差別に銃を乱射し、60人が死亡、867人が負傷した史上最悪の大量殺人。パドックは警官隊の突入前に自殺したとみられている。

(中略)では、なぜテキサス州でそのような銃乱射事件が後を絶たないのか。
その象徴的な出来事が事件後、アボット知事の記者会見中に起きた。学校の講堂で行われた会見を聞いていたオルーク元下院議員(民主党)が壇上に詰め寄り、「知事、言いたいことがある」と声を上げた。「(事件は)予測出来なかったと言ったが、十分に予測できた」などと主張。不適切な発言だとされ、オルーク氏は講堂から退場させられたが、その途中も同氏は知事に向かって、「これはあなたの責任だ」と訴えた。

オルーク氏が知事の責任を追及したのは、昨年9月に施行された銃規制緩和の新法のことだ。免許を取得せずに、一般住民が安全講習を受けなくても公共の場所で銃を人目に見える状態でも持ち歩くことが可能になったのだ。以前は、免許を持つ住民のみが拳銃の携帯を認められ、講習を修了して筆記試験や実技試験に合格することが条件とされていた。

新法の採決では、同州議会下院で共和党は民主党や銃規制推進派の反対を押し切り、賛成82、反対62で可決。アボット知事は、「ローンスター州(テキサス)に自由を浸透させた」と宣言して法案を成立させた。

これにより、CNNは「警察が銃暴力から市民を守ることが一層難しくなる」と専門家は警鐘を鳴らしたと伝えた。「銃を持つ善人と銃を持つ悪人」を警官が見分けるのが難しくなったというわけだ。

それでも多くのテキサス州の住民にとっては、「事件があるからこそ銃が必要だし、持ちたい市民の権利をはく奪することは死ねと言うこと」という銃社会独特の思考があり、それは米国の合衆国憲法修正第2条で「銃を持つ権利」がうたわれている。

これだけ全米各地で銃による犯罪が繰り返される中、テキサス州のように銃規制を緩和する州が増えつつあるのも現実だ。

これまで多くの共和党候補の支援してきた〝全米最強のロビイスト〟と呼ばれる全米ライフル協会(NRA)は27日(日本時間28日)、テキサス州ヒューストンで年次総会を3日間の予定で開く。トランプ前大統領も出席するこの会議で何が語られるか、世界中から注目が集まる。【5月27日 The News Lens】
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【トランプ前大統領 ライフル協会年次総会で「銃を持った悪人を止める唯一の方法は、銃を持った善人」】
でもって、注目された〝全米最強のロビイスト〟と呼ばれる全米ライフル協会(NRA)の年次総会。
テキサス州のアボット知事(共和党)は、直接出席せず、録画したビデオ演説を行うとのことでしたが、中間選挙を控えて活動を強めているトランプ前大統領は出席して演説。

****「銃を持った悪人を止める唯一の方法は銃を持った善人」 トランプ氏、銃規制の強化でなく“警備強化”訴え 米テキサス州****
銃の乱射事件が起きたアメリカ南部テキサス州で銃を持つ権利を主張する「全米ライフル協会」の年次総会が開かれ、トランプ前大統領が演説しました。

アメリカ トランプ前大統領
「昔から言われているが、銃を持った悪人を止める唯一の方法は、銃を持った善人。聞いたことはあるかい?」

テキサス州では24日に小学校で21人が死亡する銃の乱射事件が起きたばかりですが、トランプ氏は演説で銃規制の強化ではなく、学校に警察官や警備員を配置するなど警備強化を訴えました。

銃規制強化を求める市民
「アメリカだけで銃乱射事件が起きているのは恥ずべきことです。アメリカは変わらなくてはなりません」

一方、会場近くでは抗議集会が開かれ、「子どもたちを救え」などと書かれたプラカードを掲げ銃規制の強化を訴えました。【5月28日 TBS NEWS】
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“トランプ氏は演説で「暴力的で精神的に錯乱した者を精神病院に留め置くことをはるかに簡単にする必要がある」と指摘。また学校のセキュリティー向上に強力なフェンスや金属探知機を備えるほか、全ての学校に警官または武装した警備員を常に配置することも必要だと訴えた。”【5月28日 ロイター】

教師に銃を持たせることで学校が安全になるとも。

日本人的には「いや、いや。先ずは規制強化だろう」というところですが、常識が異なるようです。(前述のようにアメリカでも共和党支持者を含め、多くの国民は規制強化を求めていますが・・・)

【選挙活動・集票に直結する一部の「大きな声」に引きずられる党・議員】
一般世論と政党・議員の行動の乖離は人工中絶問題でも見られます。

****米民主党、妊娠中絶政策で支持集める=世論調査****
 ロイター/イプソスの世論調査によると、米国では人工妊娠中絶について、共和党の政策よりも民主党の政策を支持する有権者が多かった。共和党員の5人の2人は、同党の中絶政策を支持しないと回答した。

調査は今月16─23日に実施した。連邦最高裁が中絶の権利を認めた1973年のロー対ウェイド判決を覆す可能性が指摘される中、有権者の間で不安が広がっていることが浮き彫りとなった。

調査対象の成人4409人のうち、34%は民主党の中絶政策を支持すると回答。共和党の中絶政策を支持するとの回答は26%だった。残りの回答者は「どちらも支持しない」もしくは「分からない」と答えた。

61%の有権者(共和党員の38%、無党派の39%)は、中絶を禁止したり厳格に制限する法案を支持する候補に投票する可能性は低いと回答した。【5月27日 ロイター】
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党・議員にとっては、常識的な多数の一般的な声よりも、選挙活動に直結する一部の者の大きな声が優先する・・・ということでしょうか。

そうした“大きな声”を利用するトランプ前大統領は・・・という話にもなりますが、そこらは長くなるのでまた別機会に。

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アフガニスタン  独自の思考を市民に強制するタリバン 女性には顔を隠す服装命令

2022-05-27 23:18:11 | アフガン・パキスタン
(【2019年9月14日 GNV】 タリバンが推奨するブルカ姿の女性 これでは誰が誰かもわかりません。
なお、この写真はタリバン再支配以前の2019年当時のもので、女性が示す指先のインクは投票済みの印。今後はタリバン支配のもとで選挙も行われなくなり、こういう光景も見ることもなくなるのでしょう)

【日本の憂うべき「マスク依存症」】
落ち着く傾向の新型コロナ感染状況、あるいは、感染被害を一定に抑制できる状況になってきたことを受けて海外では各種規制の撤廃、“普通の生活”への回帰が進んでいますが、日本でも5月20日、厚生労働省は新型コロナウイルス対策のマスク着用について、人との距離が2メートル以上あれば、屋内でも屋外でも、多くの場合はマスクを外せるとする基準を公表しました。

欧米ではマスクで顔を隠すことへの違和感が強く、コロナ禍の間もマスク着用義務をめぐる議論・抗議が多くありましたが、日本人はマスクへの抵抗感があまりなく、むしろ顔を隠せることで安心感が得られ、マスク着用が必要になってもマスクを外せない「マスク依存症」的な傾向があるようです。

****マスクなしの素顔が恥ずかしい? 長引くコロナ、子どもに「依存」広がる懸念 専門家「発育妨げる」弊害訴え****
長期の新型コロナウイルス流行でマスク着用が常態化し、素顔を見せることを恥ずかしがる子どもが増えている。専門家は「コミュニケーションの発達や不登校に影響しかねない」と懸念し、子どものマスク着用の弊害を訴える。

◆オンライン授業なのにマスク着用
3月、東京都内の母親(29)は自宅でオンライン授業を受ける小学4年の娘(10)を見て不思議に思った。自宅ではふだんマスクを外し、以前はオンライン授業も素顔で参加していたが、この時はマスクを着けていた。理由を聞くと「みんな着けているから何となく」。画面の子どもの半数がマスク姿だった。
 
母親は「外でマスクを外していいと伝えた時も娘は恥ずかしがった。以前より素顔をさらすのが不安になっている」と心配する。
 
調査会社「日本インフォメーション」が2月、10~60代の会員約1000人を対象にインターネット調査を実施したところ、「コロナ収束後もマスクを使用するか」との質問に対し、10代は男女ともに約5割が「いつも必ず使用」か「できるだけ使用」と答えた。
 
理由は、10代女性では「かわいい、きれい、かっこよく見える」が最も多く、感染対策と関係がなかった。実際、東京・原宿で尋ねると、女子高校生(17)は「素顔を見せられるクラスメートは5人くらい。今さら外せない」と苦笑した。

◆「マスク依存」はコロナ前からある
「マスク依存の子どもが増えている可能性がある」と警告するのは、赤坂診療所(東京都港区)でマスク依存の患者を診てきた精神科医の渡辺登さんだ。従来のマスク依存について「人前に立つことを極度におそれる『社会不安障害』のある方らが、表情を隠すために着用していた」と説明する。依存に陥ると意思疎通が難しく、孤立して不登校や引きこもりになるリスクが増えるという。
 
広島県の男子大学院生(23)はコロナ禍前にマスク依存を経験した。「高校入学時に花粉症対策で着用したら、表情を隠せる安心感で外せなくなった」と振り返る。「コミュニケーションに困る」と悩んだ末、大学進学を機に自力で脱却した。国民のほとんどがマスク姿の現状には「望まずに依存する人が増えないでほしい」と願う。
 
渡辺さんは「子どもは顔にコンプレックスを抱えている場合も多い。感染対策のはずが、素顔を隠すことに利点を持つと、将来マスクを外せなくなりかねない」と強調。「感染リスクがない時はできるだけ外させた方がいい」と指摘した上で、「着用をやめるタイミングを政府が示してほしい」と求める。【5月10日 東京】
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他人の視線を遮断できて安心感が得られる「匿名性」への依存は、子供や女子学生、若者だけでなく会社でも「プレゼンテーションをする際に、マスクを装着していると視線が気にならずに落ち着く」 「苦手な上司と仕事をする時も、マスク越しであれば気持ちが楽になる」などの理由で広がっているようです。

前出【東京】にもあるように、「マスク依存症」的傾向は新型コロナ以前からあり、特に若い女性に“マスク女子”が目立っていました。

話は飛躍するようですが、欧米社会でイスラム教徒女性の顔を覆う服装が問題になる件を取り上げる際に、「匿名性」に隠れず、個人が面と向き合って接触するのが市民社会におけるコミュニケーションの基礎であり、日本の「マスク女子」の傾向は好ましくない風潮だと思っている旨をこれまでも述べてきました。

新型コロナによって、日本人のこの風潮が拡大し強固になったようで案じられます。

「マスク依存症」は市民社会のコミュニケーションを阻害するだけでなく、こういう他人の評価を恐れる「内向きベクトル」は、これまた話が飛躍しますが、日本の「失われた30年」をもたらしたものにも通じるもので、おそらく今後の「失われた数十年」、「沈下する日本」をもたらすメンタリティーだと思っています。

そんなにマスクが好きなら、イスラム教に改宗してニカブかブルカでも被れば?」と言いたくもなりますが・・・。

【タリバン 女性に顔を隠す服装命令 欧米は批判】
そんな日本の話はさておき、イスラム原理主義勢力タリバンが統治するアフガニスタンでは、タリバンがその本来の主張を徐々に露わにしつつあります。

****アフガンのタリバン、女性に顔を隠す服装命令 全身覆うブルカが「最善」****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の勧善懲悪省は7日、女性が公共の場で、目の部分以外の顔を布で覆わなければならないとの命令を発表した。従わなければ父親などの近親男性が投獄されたり、男性が公務員であれば解職されたりする場合があるとしている。

同省は、最も良いのは全身を覆う青い「ブルカ」だとした。アフガンの女性の大半は髪を隠すスカーフをつけているが、首都カブールなどの都市部では顔は隠していない女性が多い。

公共の場でのブルカの着用はタリバンが1996年から2001年まで政権を掌握した際に女性に強制された。

発表を受けて国連アフガニスタン支援団(UNAMA)は同日、「タリバンが表明してきた女性の人権の尊重と保護と矛盾していることを深く懸念している」との声明を出し、タリバンに即刻協議を求めるほか、他の国際組織と相談するとした。

米国などは既にアフガン開発援助を打ち切り、同国の銀行システムに制裁を科している。【5月9日 ロイター】
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日本の女性(一部男性も)なんかは、こうしたタリバン命令を大歓迎するのでしょうが、欧米基準では女性の人権の尊重に反するものとみなされます。

****米、タリバンが方針転換しなければ圧力拡大 女性の権利巡り****
米国務省のプライス報道官は9日、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が最近決定した女性の権利を制限する方針を転換しなければ、圧力を強める用意があると表明した。

ブリーフィングで「われわれには複数の手段があり、方針が転換されないと感じれば、講じる用意がある」と述べた。具体的な措置の詳細や、タリバンがどのように方針を転換する可能性があるのかには言及しなかった。(中略)

タリバンは女性の就労や女子の通学なども制限している。【5月10日 ロイター】
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****タリバンの女性の権利制限でアフガン孤立化、G7外相が人権尊重訴え**** 
主要7カ国(G7)の外相は12日、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権による女性や少女の権利の制限がアフガンを国際社会から孤立化させているという見解を示した。

G7外相と欧州連合(EU)の外交政策トップは、フランスが公表した共同声明で、女性と少女に対する制限を解除し、人権尊重に向けた緊急行動を取るようタリバンに要請した。

タリバン暫定政権の勧善懲悪省は7日、女性が公共の場で、目の部分以外の顔を布で覆わなければならないとの命令を発表。従わなければ父親などの近親男性が投獄される場合があるとした。【5月13日 ロイター】
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【TV女性司会者に対しても同様指示】
一部女性は街で抗議の声をあげています。(タリバン支配の状況でのこの種の抗議は多大な危険を伴います)

****全身覆う衣装着用に抗議=アフガン女性「正義を」と訴え****
アフガニスタンの首都カブールで10日、イスラム主義組織タリバン暫定政権が女性に公共の場で全身を覆う衣装の着用を義務付けたことに対し、十数人の女性が抗議活動を行った。多くが顔を隠さずに、「正義を」とシュプレヒコールを上げた。
 
タリバンは全身を覆うブルカの着用が最適としているが、女性らは「ブルカは私たちのヒジャブ(頭部を覆うスカーフ)ではない」と叫んだ。

女性の一人は「私たちは家の片隅に閉じ込められた動物としてではなく、人間として生きたい」と訴えた。タリバンは外に重要な仕事のない女性に「家にいるよう」命じている。【5月10日 時事】 
********************

ブルカの問題は単に服装の問題ではなく、女性の就労・教育を否定して「家にいるよう」命じるようなタリバンの歪んだ女性観を示すものでもあります。

更にタリバンは、テレビ局に対し、女性プレゼンターが放送中に顔を覆うことを徹底するよう求めています。

****アフガンのタリバン、女性TV司会者に顔を覆う服装指示****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、テレビ局に対し、女性プレゼンターが放送中に顔を覆うことを徹底するよう求めた。勧善懲悪省の報道官が19日明らかにした。

同省は今月、女性が公共の場で目の部分以外の顔を布で覆わなければならないとの命令を発表した。

報道官は、メディア関係者が政権の「助言」を快く受け入れたとロイターに述べ、国民もこの措置を歓迎するとの見方を示した。今月21日までに順守する必要があるとも述べた。

従わなかった場合の措置は明らかにしなかった。【5月20日 ロイター】
********************

“メディア関係者が政権の「助言」を快く受け入れた”とのことですが、この指示に抵抗する女性司会者も。

****女性司会者、顔覆う命令を拒否 タリバンに「抵抗続ける」*****
アフガニスタンのテレビ局「カブール・ニュース」の報道番組の女性司会者が出演中に目の部分以外の顔を布で覆うよう命じたイスラム主義組織タリバン暫定政権に抵抗し、覆わずにニュースを伝え続けている。タリバン独自のイスラム法解釈で女性抑圧を強めていると批判、「カメラの前で闘い続ける」と語る。
 
この司会者はロマ・アディルさん(26)。暫定政権は7日、女性は公共の場で顔を覆うよう命令した。19日には各テレビ局へ女性司会者に従わせるよう指導したが、アディルさんは取材に「イスラムの教えやアフガンの慣習ではなく、従う理由がない」と指摘した。【5月24日 共同】
********************

アディルさんは放送中も髪を覆うスカーフは使用しています。

私が観光した国の経験で言えば、同じイスラム教の国であるインドネシアやマレーシアでは、あるいはイランでも、髪を覆うスカーフは一般的ですが、それ以上のニカブ(目だけを出すもの)を見かけるのはまれで、ブルカ(目の部分が網目になっており、顔全体を隠すもの)を見かけることはありません。ブルカはアフガニスタン特有の服装です。

ただ、現実問題としては、こうした抵抗を続けるのは困難でしょう。その後多くの女性司会者はヒジャブやベールで目の周囲以外を覆った姿で出演しているようです。

そうしたなか、タリバン指示に抗議する男性司会者もいるようです。

****女性キャスターの顔覆うよう命じたタリバンに抗議、男性司会者がマスク着用****
アフガニスタンの報道専門チャンネル「トロニュース」の総合司会者、ニサール・ナビル氏は、放送が始まる直前に黒いマスクを着用する。イスラム主義組織タリバンの暫定政権が、女性キャスターにテレビ出演の際は顔を覆うよう命じたことへの抗議だ。

「私たちは女性の同僚を支持している。生放送のニュースや政治番組では、抗議としてマスクをしている」とナビル氏は、首都カブールにあるスタジオでAFPに語った。
 
タリバンは昨年8月の実権掌握以来、さまざまな女性の権利を制限してきた。最高指導者ハイバトゥラ・アクンザダ師は今月、女性に公共の場では顔まで完全に覆うよう義務付け、ブルカの着用が望ましいとした。
勧善懲悪省は、女性キャスターも21日以降は番組出演の際に顔を隠すよう命じた。
 
女性キャスターらは当初この命令に反発したが、22日からはトロニュースのほか、1TV、シャムシャドテレビ、アリアナ・テレビなど各局で、ヒジャブやベールで目の周囲以外を覆った姿で出演している。
 
一方、男性キャスターは命令への抗議運動を開始。黒いマスクを着用してニュース番組に出演するようになった。女性キャスターと共演することもある。
「タリバンは、こうした制限を課すことで報道機関に圧力をかけようとしている。メディアを意のままに操りたいのだ」とナビル氏は指摘する。
 
主要民放局である1TVの編集責任者、イドリース・ファロキ氏は、女性キャスターが顔を覆ったまま3時間も4時間も収録を行うのは難しいとして、「われわれはタリバンが決定を見直し、制限を撤回することを望んでいる」と述べた。
 
だが、タリバンのイナムラ・サマンガニ副報道官は今週、ツイッターへの投稿で、「ネクタイ着用の義務付けが礼儀にかなっているというなら、なぜヒジャブはだめなのか」と主張した。
 
1TVのキャスター、モヒブ・ユースフィ氏は、当局が男性キャスターの服装にも規制をかけるのは時間の問題だとし、「多くの男性キャスターが心配している。私もだ」と述べた。 【5月26日 AFP】
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「ネクタイ着用の義務付けが礼儀にかなっているというなら、なぜヒジャブはだめなのか」とのことですが、タリバンのブルカへのこだわりが単なる服装の問題ではないことは前述のとおりです。

【次第に広がるタリバン的施策】
そうしたタリバンの思考を表す動きも広がっています。

****タリバン、男女一緒の外食・公園利用禁止 西部ヘラート****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは西部ヘラートで、男女が一緒に外食したり公園を訪れたりすることを禁止した。当局者が12日、明らかにした。
 
アフガンは極めて保守的で家父長制の根強い国だが、男女が一緒に外食をする光景はよく見られる。特にヘラートは長年、比較的リベラルな都市と考えられていた。
 
だがタリバンは昨年8月の復権以来、イスラム教の厳格な解釈に従って、男女を隔離する規制を強めている。
 
ヘラート勧善懲悪省のリアズーラ・シーラット氏は「飲食店で男女を分けるよう指示している」と語った。この規則は「たとえ夫婦でも」適用される旨を店主らに口頭で伝えているという。
 
匿名でAFPの取材に応じたある女性は、11日にヘラートの飲食店で店長から夫と別々に座るよう告げられたと語った。
 
飲食店経営のサフィウラ氏(アフガンに多い1語のみの名前)は「命令には従わなければならないが、商売には非常にマイナスだ」と言い、男女同席の禁止が続けば従業員を解雇せざるを得なくなると付け加えた。
 
シーラット氏は、ヘラートでは公園の利用についても、曜日ごとに男女別に分ける法令を定めたと明らかにした。女性は木曜、金曜、土曜で、残りが男性だという。
 
指定の曜日以外に運動をしたい女性は「安全な場所を見つけるか、自宅で行うべき」だと語った。 【5月14日 AFP】
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****タリバン、人権委を廃止 「必要ない」、懸念深まる****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、昨年8月に崩壊した民主政権下で女性や子どもの権利擁護を監視していた独立人権委員会を廃止した。ロイター通信が17日までに伝えた。暫定政権は女性の権利抑圧を強めており、国際社会の懸念を一層深めそうだ。
 
暫定政権のサマンガニ副報道官は「必要性がないとみなされ、予算も計上されなかったため廃止した」と説明。必要とされれば再開するとした。
 
民主政権下の2020年に設立され、タリバンとの直接交渉に当たった国家和解高等評議会や、憲法の履行状況を監督する委員会も同様の理由で廃止された。【5月17日 共同】
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【危機的食料事情】
アフガニスタンは世界でも最悪レベルの食料事情で、本来は大規模な国際支援が必要ですが、タリバンの人権侵害を強める姿勢が障害となって国際支援も滞りがちです。

****アフガン、食料危機続く WFP「かつてない飢餓」****
世界食糧計画(WFP)などは10日までに、イスラム主義組織タリバンが暫定政権を樹立したアフガニスタンで6月から11月にかけ、人口の45%に当たる1890万人が深刻な食料危機に陥るとの予測を発表した。

小麦の収穫期を迎え3〜5月の1970万人と比べ若干改善するが、「かつてない水準の飢餓が継続する」とみている。
 
アフガンでは5〜8月に小麦の収穫期を迎え、人道支援の拡大も状況改善に寄与した。ただ、降水量の少なさから収穫量は平年を下回る見込み。ロシアによるウクライナ侵攻で国際的な食料や燃料価格も高騰。状況改善の妨げとなった。【5月10日 共同】
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太平洋島しょ国地域  中国は安保・経済を含む包括協定を提案 対抗する豪新政権 激しさを増す勢力争い

2022-05-26 22:27:33 | オセアニア
(【5月26日 日経】 オーストラリアが危機感を募らせるのも当然でしょう・・・)

【中国 南太平洋の10か国に対し警察活動、安全保障、データ通信の協力を盛り込んだ包括協定を提案】
旧日本軍の激戦地ガダルカナル島を含むソロモン諸島に影響力を強める中国と、これに反発する米・豪の争いについては、5月4日ブログ“ソロモン諸島  米中つばぜり合いの舞台に 中国による軍事基地化を懸念する米豪”でも取り上げました。

中国の進出は更に拡大して、太平洋島しょ国地域の多くの国と警察活動、安全保障、データ通信の協力を盛り込んだ包括合意を求める計画とされています。

****中国、南太平洋10か国に安保・経済協定を提案****
中国が南太平洋の10か国に対し、安全保障や経済面での協力を大幅に拡大する計画を提案したことが25日、AFPが入手した文書で明らかになった。当該国の首脳からは、中国の影響力拡大を懸念する声も上がっている。
 
入手した文書は、「包括的発展の展望」と題された協定の草案と5か年計画。中国の王毅外相が26日に開始する太平洋諸国歴訪で各国と協議し、30日にフィジーで開く外相会合での承認を目指すとみられる。
 
中国は10か国に対し、数百万ドル(数億円)規模の援助、自由貿易協定の展望、14億人を抱える中国市場への参入機会提供を提案。見返りとして、各国の警察の訓練、サイバー安全保障への関与、政治的関係の拡大、海洋地図の作成、天然資源の利用拡大を求めている。
 
南太平洋は1900年代から米国が強い影響力を有しているが、近年は米中の覇権争いが激化。中国は軍事的、政治的、経済的な足がかりの強化を目指しているものの、大きな進展には至っていない。
 
今回明らかになった一連の協定について、南太平洋諸国では警戒感が広まっている。ミクロネシア連邦のデービッド・パニュエロ大統領は他の当事国首脳に宛てた書簡で、中国側の提案は一見すると魅力的だが、中国に対し「われわれの地域への参入と支配」を許すものだと警告。提案は「不誠実」であり、中国による政治介入、主要産業の支配、通話や電子メールの大量監視が可能になると指摘した。
 
ミクロネシア連邦は米国と自由連合盟約(コンパクト)を締結しており、南太平洋諸国の中でも米国と特に緊密な関係にある。一方で他の国々は、中国の提案を有益と見なす可能性もある。
 
10か国のうち、ソロモン諸島はすでに中国との安全保障協定締約に向けた交渉を秘密裏に進めていたことが明らかになっている。流出した協定の草案には、オーストラリアから2000キロ足らずのソロモン諸島での中国海軍駐留につながる可能性もある条項も含まれていた。
 
中国による今回の提案は、ソロモン諸島との安保協定の主要要素を他の9か国に事実上拡大するもので、米国、オーストラリア、ニュージーランドの懸念を生むことは必至だ。 【5月26日 AFP】
******************

中国を警戒するミクロネシア連邦については、いかのようにも。

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ロイターが確認した太平洋地域指導者21人に宛てた書簡の中で、ミクロネシア連邦のパニュエロ大統領は、中国と西側の間で新たな「冷戦」を引き起こす恐れがあるため、「事前に決められた共同声明」を拒否すべきと主張するとしている。

パニュエロ氏は、台湾を巡る米中の緊張が高まる中、太平洋島しょ国が地政学的な対立に巻き込まれる危険性を強調。「中国がわれわれの通信インフラ、海洋領土と資源、安全保障の面で支配することによる具体的な影響は、主権への影響とは別に、中国がオーストラリア、日本、米国、ニュージーランドと対立する可能性を高めることだ」とした。【5月25日 ロイター】
***********************

【モデルはソロモン諸島との協定】
逆に中国との関係強化の推進役となるのがソロモン諸島。中国としてはソロモン諸島との関係をモデルケースとして太平洋島しょ国地域全体に拡大したい意向です。

****中国とソロモン諸島の関係、太平洋島しょ国の手本にしたい=中国外相****
中国の王毅外相は26日、中国とソロモン諸島との関係が他の太平洋島しょ国の手本となることを期待すると語った。

王氏は26日から10日間の日程で、中国が外交関係を持つ太平洋島しょ国8カ国を歴訪する。この日は最初の訪問国のソロモン諸島に到着した。

外務省ウェブサイトに掲載された声明によると、王氏は、ソロモン諸島は中国と外交関係を樹立することで「誠実で信頼できるパートナー」を得たとの考えを示した。ソロモン諸島は2019年に台湾と断交し中国と国交を結んでいる。

ロイターが確認した文書によると、中国は王外相主催の会議を来週フィジーで開催する際、警察活動、安全保障、データ通信の協力を盛り込んだ太平洋島しょ国地域全体の包括合意を求める見通しだ。【5月26日 ロイター】
**********************

王毅外相は26日にソロモン諸島の首都ホニアラでマネレ外相と会談し、「両国関係を高い水準へ引き上げたい」と強調。マネレ氏は「両国間協力の前途に期待する」と歓迎しています。

王毅外相はソロモン諸島を皮切りに、6月4日までの日程でソロモン、キリバス、サモア、フィジー、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、東ティモールの8カ国を公式訪問します。

【日本・米豪は軍事基地建設を懸念 中国は否定】
こうした中国の動きに、先日東京で開催されたクアッドの首脳会議でも強い懸念が出されています。

****“経済支援”で影響強める中国 南太平洋・ソロモン諸島では…****
(中略)
こうした中国の行動に対抗することを念頭に、クアッドの4か国は連携の強化を目指しています。

岸田総理 「東シナ海・南シナ海における一方的な現状変更の試みへの深刻な懸念を含め、地域情勢について率直な意見交換を行った」

共同声明では「太平洋島しょ国との協力をさらに強化する」と明記したうえで、岸田総理は「海洋安全保障の分野では地域諸国間の情報共有を促進する。海洋状況把握の新たなイニシアチブを4首脳で歓迎しました」と述べました。

インド太平洋地域の漁業や船の往来の安全を確保するため、人工衛星などを使い海洋状況を監視するシステムを今後5年間かけて構築することを明らかにしました。

この決定に対し、中国外務省の報道官は「小さなグループをつくり、対立を作ることこそ、海洋の平和や安定をおびやかしている」と強く反発しました。【5月24日 日テレNEWS24】
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日本や米豪の、中国はこの地域に軍事基地を建設するのでは・・・との懸念に対し、中国はこれを否定しています。

****ソロモン諸島に基地建設の「意図ない」 中国外相****
中国の王毅外相は26日、訪問先の南太平洋のソロモン諸島で、中国がソロモン諸島に軍事基地を建設する「意図は全くない」と明言した。両国は先月、安全保障協定を締結しており、その目的をめぐって臆測が広がっていた。
 
王氏は、両国の安保協定は「誠心誠意を込めた公明正大な」ものであり、国際社会の懸念には当たらないと述べた。 【5月26日 AFP】
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何をもって“軍事基地建設”とするかにもよるでしょう。前出【AFP】にあるように、公開されていないソロモン諸島との協定では(リークされた草稿では)中国海軍駐留につながる可能性もある条項も含まれていると指摘されています。

【中国に対抗する豪新政権】
この中国の影響力拡大の直接的影響を受けるのがオーストラリア。
先の総選挙でも争点となり、政権側は「中国の進出を許した」として批判を受け、与党敗北、政権交代の一因ともなりました。

新たに首相となったアルバニージー氏は太平洋島しょ国への支援を強化する方針を表明しています。
また、中国・王毅外相に対抗して、アルバニージー首相はフィジーを訪問しています。

****豪首相、太平洋島しょ国支援強化を表明 中国の攻勢に対抗****
オーストラリアのアルバニージー首相は26日、中国が影響力拡大を図る太平洋島しょ国への支援を強化する方針を表明した。

ロイターは、中国が太平洋島しょ国10カ国との間で警察活動、安全保障、貿易、海洋、データ通信分野の合意を求めるとする共同声明草案を報じた。

アルバニージー氏は「これに対応する必要がある」と言明。スカイに対し、「前政権のように(島しょ国支援を)後退させるのではなく、強化する必要がある」と述べ、労働党による新政権が海洋安全保障などで島しょ国支援強化を公約したことに触れた。

ウォン豪外相は26日にフィジーを訪問し、同国首相と会談する。23日の就任以来初の太平洋島しょ国訪問となる。

一方、中国の王毅外相は、太平洋島しょ国8カ国歴訪の最初の訪問地であるソロモン諸島に到着。来週にはフィジーで太平洋地域外相会議を主催し、5年間の行動計画について合意を求める方針だ。

フィジーのバイニマラマ首相は26日のツイッター投稿で、27日にウォン氏、30日に王氏と会談すると明らかにし、「どの交渉のテーブルでも、最も重要なのはわが国民と地球、そして国際法の尊重だ」とした。【5月26日 ロイター】
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またオーストラリアは中国を念頭に、ひも付きではないパートナーになると表明しています。

****豪外相、太平洋諸島のひも付きパートナーを否定 中国けん制****
フィジーを訪問しているウォン豪外相は26日、気候変動に関する「世界的な議論をリード」している太平洋島しょ国の声に耳を傾け、ひも付きではないパートナーになると表明した。

オーストラリアも加盟する太平洋諸島フォーラム(PIF)の事務局で演説し、豪州はこれまで気候変動や海面上昇と闘う太平洋島しょ国を軽視してきたと指摘。

しかし、労働党による新政権は気候変動対策インフラへの資金のほか、太平洋地域市民に対する豪州への移住や就労の道を提供するなどの取り組みを強化すると述べた。

また、中国を念頭に「オーストラリアはひも付きで持続不可能な財政負担を強いることのないパートナーになる」と語った。

PIFのヘンリー・プナ事務局長は、豪新政権の特に気候変動に関するコミットメントを歓迎。太平洋地域への豪外交政策に期待を示した。【5月26日 ロイター】
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キリバスなど海面上昇による水没の危機にある国も含まれていますので、気候変動対策は大きなポイントとなるでしょう。

【豪新政権発足直後に先手を打つ中国】
今回の中国の動きは、オーストラリアの新政権発足に先手を打つ形にもなっています。

****中国、南太平洋で外交攻勢****
外相が8カ国訪問、関与強める 豪州抑え込みで新政権に先手

中国が南太平洋島しょ国での影響力拡大に向けた動きを加速させる。中国の王毅(ワン・イー)国務委員兼外相は26日から10日間かけ、島しょ国7カ国と東ティモールを訪問する。地域で米豪と中国の対立が先鋭化する中、オーストラリアの新政権発足直後に中国は先手を打って地域への関与強化を打ち出した。(中略)

豪州では21日に総選挙が実施され、政権交代が決まった。「中国が太平洋でより強い影響力を行使しようとしている」。労働党政権のアルバニージー新首相は24日に出席した日米豪印4カ国の「Quad(クアッド)」首脳会議後、こう警戒を示したばかりだった。

選挙戦を通じ、労働党は中国とソロモンの安保協定締結を許したモリソン政権を批判し、地域への関与を深める方針を示してきた。習近平(シー・ジンピン)指導部はこうした動きを警戒。クアッド出席などアルバニージー氏が慌ただしく外交日程をこなす中、豪新政権の機先を制して王氏を派遣する。

王氏はキリバスやトンガも回る。太平洋島しょ国14カ国のうち中国と国交を持つのは10カ国だ。そのうち7カ国を訪問する長期訪問となる。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)はソロモンに加え「キリバスともう1カ国」が中国と安保協定に向けた交渉をしていると報じた。

王氏がこのタイミングで訪問するのは、日米豪印の首脳が24日に中国を念頭に海洋監視を強める方針を確認し、警戒心を強めているためだ。米国との長期対立をにらむ習指導部は西太平洋への影響力拡大を目指している。米同盟国の豪州を抑え込む上で、南太平洋の島しょ国との連携は不可欠とみている。

王氏は東南アジアの東ティモールも訪れる。中国企業が多く進出する同国では中国が年々影響力を強めている。南太平洋の島しょ国と合わせて押さえることで、豪州北部のダーウィンにある豪軍基地に東西からにらみを利かせることができると判断している。

地域の動きに詳しい豪シンクタンク、ロウイー研究所のミハイ・ソラ氏は「王氏の訪問は、この地域での中国の影響力拡大に歯止めをかけたい豪州の動きを阻む目的もある」と指摘する。一方、豪外相のウォン氏は25日、フィジーを26日に訪問し、バイニマラマ首相と会談すると発表した。地域での米豪と中国の勢力争いは今後、激しさを増しそうだ。【5月26日 日経】
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食料品価格高騰  その元凶と非難されるロシア 食料船の人道回廊提供の用意表明 インドの輸出制限

2022-05-25 22:24:37 | 食糧・飢餓
(ウクライナ黒海沿岸の港湾都市オデーサの埠頭近くに立つ倉庫やサイロ=3月17日撮影【5月7日 CNN】)

【食料供給を「武器」として利用していると非難されるロシア 人道回廊提供の用意を表明】
****ロシア、食料船のウクライナ出港で人道回廊提供の用意****
ロシア政府は、食料を積んだ船がウクライナを出発するための人道回廊を提供する用意があると明らかにした。インタファクス通信が25日、ルデンコ外務次官の話として伝えた。(後略)【5月25日 ロイター】
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食料品価格の高騰で、世界の貧困層は飢えの危機にさらされ、一部の国では政情も不安定化している・・・その食料品価格高騰を加速させているのが穀物輸出大国ウクライナでの戦争、ロシアへの制裁である・・・といった話は連日報じられています。

もともと食料品価格は昨年末段階から、天候関連の要因やコロナ禍からの回復需要急増などで、その高騰が懸念される状態にありましたが(価格上昇自体はその前から)、今年2月末のウクライナ戦争によって危機感は更に大きなものとなっています。

****世界で食料品の価格が高騰 主な原因と今後の展望まとめ****
世界で食糧価格が高騰を続けている。主な原因と今後の見通しを整理した。

なぜ食料価格は上昇しているのか
グローバルな食料価格が上昇を始めたのは2020年半ば、各国企業が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックのために活動を停止し、サプライチェーンが圧迫されたことによるものだ。

農産物をスーパーマーケットまで運ぶトラック輸送が利用できなくなったため、農家は牛乳を廃棄し、果実や野菜は腐るままとなり、消費者が食料の備蓄に走ったことで価格は高騰した。ロックダウンによる移動制限で移民労働者が不足したことも、世界的な収穫低下につながった。

その後も、世界各地で主要農産物に問題が発生した。大豆輸出量で世界首位のブラジルは、2021年に深刻な干ばつに襲われた。中国における今年の小麦収穫量は、これまででも最悪の部類に入る。

パンデミックの中で食料安全保障への関心が高まったことで、将来的な欠乏に備えて主要穀物の備蓄を積み上げた国もあり、グローバル市場への供給が絞られた。

2月末に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、食料価格の展望を急激に悪化させた。
国連食糧農業機関(FAO)によれば、食料価格は2月に過去最高を記録し、3月にはさらに記録を更新した。ロシアとウクライナを合わせた小麦と大麦の生産量は世界の3分の1近くに達し、調理用のひまわり油の輸出量では世界の3分の2を占めている。ウクライナはトウモロコシ輸出量で世界第4位だ。

今回の紛争によりウクライナの港湾や農業インフラが打撃を受け、今後数年にわたり、同国の農業生産が制約される可能性は高い。
一部のバイヤーは、西側諸国による制裁を理由に、ロシア産の穀物の購入を控えている。

インドネシアは4月末、調理用油の国内供給を確保するため、パーム油の輸出をほぼ全面的に禁止した。ケーキからマーガリンに至る食品全般で使われている食用油に関して世界最大の生産国からの供給が途絶えたことになる。
(筆者注:インドネシアのジョコ大統領は5月19日、輸出を禁止して3週間になるパーム油を23日から輸出できるようにすると発表しています。)

食料価格のうち最も上昇しているのは何か
パンデミックの期間を通じて、植物油の価格高騰が全般的な食料コストの上昇につながった。また、ウクライナでの戦争によりトウモロコシと小麦の出荷が制約された結果として、3月には穀物価格もやはり過去最高を記録した。

FAOによれば、4月には乳製品と食肉の価格も過去最高に達した。タンパク源へのグローバルな需要増大が続いており、またトウモロコシと大豆を中心とする家畜飼料の価格が高止まりしていることを反映している。さらに、欧州と北米における鳥インフルエンザの発生により、鶏卵や鶏肉の価格にも影響が出ている。

米国における3月のインフレ率を見ると、食肉、鶏肉、魚介類、鶏卵の指数は1年前に比べ14%、牛肉は16%上昇している。

食料価格はいつ下がるか
何とも言えない。農業生産は天候など予測困難な要因に左右されるからだ。国連のグテレス事務総長は5月初め、ウクライナの農業生産と、ロシア産食料と肥料の世界市場への供給が回復しないかぎり、グローバルな食料安全保障の問題は解決できないと述べている。

世界銀行は、2022年の小麦価格は40%以上上昇する可能性があると予測している。世銀では2023年には前年に比べ農産物価格が下落すると見ているが、アルゼンチンやブラジル、米国からの穀物供給が増大することが前提であり、これについては何の保証もない。

肥料の主要生産国であるロシアとその同盟国であるベラルーシからの買い控えの影響で肥料の価格が急騰しているため、農家が適切な量の施肥をためらう可能性がある。これは収量の減少や生産の低下につながり、危機の長期化を招くかもしれない。地球温暖化によって異常気象が以前よりも一般化しつつあり、これもまた、穀物生産にとってリスクとなっている。

最も影響を受けているのは
フィッチ・レーティングスによれば、米国では3月、インフレに占める食料価格のシェアが最大となった。これは1981年以来初めてのことだ。4月、英国における店頭価格も、過去10年以上見られなかったペースで上昇した。

だが食料価格の上昇により最大の影響を受けているのは、所得に占める食費の比率が先進国より高い開発途上国の住民だ。
国連と欧州連合が共同で設立した食料危機対策グローバルネットワークは年次報告の中で、ロシアによるウクライナ侵攻はグローバルな食料安全保障に深刻なリスクとなっていると指摘。食糧危機に直面している国として、特にアフガニスタン、エチオピア、ハイチ、ソマリア、南スーダン、シリア、イエメンといった国を挙げている。【5月17日 Newsweek】
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こうした状況で、国連や欧米から危機の原因として“標的”とされているのが、ロシアによるウクライナからの穀物輸出を封じる措置です。

****国連事務総長、ロシアにウクライナからの安全な穀物輸出認めるよう訴え****
国連のグテレス事務総長は18日、ブリンケン米国務長官が国連本部で開いた食料安全保障に関する閣僚級会議に出席し、ロシアに対してウクライナからの穀物輸出の安全を確保し、ロシア産食料・肥料への「完全かつ無制限のアクセス」を認めるよう改めて訴えた。

ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、穀物や食用油、燃料、肥料の国際価格が高騰。グテレス氏は、これが貧困国における食料、エネルギー、経済の危機を悪化させると警告し、何千万人もが食料不足とその後の栄養不良、飢饉に陥る状態が何年も続きかねないと懸念を示した。

こうした中でグテレス氏は、ウクライナ産穀物の輸出再開に向けてロシア、ウクライナ、トルコ、米国、欧州連合(EU)と緊密に連絡しているとした上で「希望を持っているが、道のりはなお遠い。安全保障と経済、金融の諸要素が複雑に絡んでいるので、全ての関係者の善意こそが求められる」と語った。

ウクライナはロシアの侵攻を受ける前まで、黒海に面した港湾から輸出品を積み出していたが、現在は鉄道ないしドナウ川の小さな港しか利用できなくなっている。

国連世界食糧計画(WFP)のビーズリー事務局長はロシアのプーチン大統領に向けて「少しでも良心があるなら、(ウクライナの)港湾をどうか開放してほしい。これはウクライナの問題ではなく、われわれが話をしている間にも、世界でも最も貧しい人々が飢餓の瀬戸際にあるということだ」とメッセージを送った。

ロシアとウクライナからの小麦供給量は合計で世界全体の3分の1近くに上る。ウクライナはトウモロコシ、大麦、ひまわり油などの主要輸出国で、ロシアと同盟国ベラルーシは肥料となるカリの輸出が世界の4割を超えている。

ブリンケン氏も、ロシアはウクライナが陸上ないし海上から食料その他重要物資を安全に輸送できるような「回廊」を設置すべきだと指摘。「目下ウクライナのサイロには推定で2200万トンの穀物があり、国外に持ち出されさえすれば、それを必要とする人々に直ちに行き渡ることになる」と述べた。【5月19日 ロイター】
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国連安保理でアメリカとロシアが激しく応酬する場面も。

****米国務長官「ロシアが食料を武器に…」強く批判****
ロシアによるウクライナ侵攻で食料危機の深刻化が懸念される中、アメリカのブリンケン国務長官は19日、「ロシアが食料を武器として使っている」と強く批判しました。

ブリンケン国務長官「ロシアは食料を武器として使用することで、ウクライナの人々の精神を破壊することができると考えている」

国連の安全保障理事会の会合でアメリカのブリンケン国務長官は、侵攻の影響でウクライナからの穀物の輸出が滞っていることについて、「ロシア軍が数百万人のウクライナ人と、世界の何百万人の人々への食料供給を人質に取っている」と強く批判しました。

アメリカは緊急食料支援として2億1500万ドル、日本円でおよそ275億円を追加拠出すると表明しています。

一方、ロシアのネベンジャ国連大使は「全くの誤りだ」と反発し、西側諸国によるロシアへの制裁が危機を深刻化させていると主張しました。【5月20日 日テレNEWS24】
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EUもアメリカと歩調をそろえてロシアを非難しています。

****ロシアは食料を「武器」に、飢餓回避に協議必要=欧州委員長****
欧州委員会のフォンデアライエン委員長は24日、ロシアはエネルギー供給と同様に食料供給を「武器」として利用しているとの考えを示し、ロシア軍による海上封鎖でウクライナから輸出できなくなっている小麦の輸送を可能にするよう、ロシアとの協議を呼びかけた。

フォンデアライエン委員長は世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で「ロシア軍はクライナで穀物や機械を没収しているほか、黒海ではロシア軍の艦船が小麦やヒマワリの種を積載したウクライナの船舶の航行を阻んでいる」と指摘。世界的な協力こそが「ロシアの脅迫に対する解毒剤」になると述べた。(後略)【5月25日 ロイター】
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ウクライナへの武器支援で黒海封鎖を打破しようとの動きもありますが、いろいろ難しい事情も。

****米が露の黒海封鎖打破へ、ウクライナに対艦ミサイル供与=関係者****
バイデン米政権は、ウクライナに新型の対艦ミサイルを供与し、ロシアの黒海封鎖を打ち破る手助けをすることを検討している。複数の関係者が明らかにした。(中略)

米国の政府高官や元高官、議会関係者に話を聞くと、ウクライナに対してより長射程で性能が強力な兵器を送る上では幾つかのハードルがある。戦争のエスカレートを巡る懸念はもちろんとして、兵器を扱うため長期の訓練が必要なことや、保守管理の難しさ、最新兵器がロシアの手にわたってしまう恐れなどが挙げられる。

そうした中で3人の米政府高官と2人の議会関係者は、米ボーイングの「ハープーン」やノルウェー企業と米レイセオンの「NSM」の2種類の対艦ミサイルをウクライナに直接供与、もしくはこのミサイルを保有する欧州の同盟国から供与する案が活発に検討されていると述べた。(中略)

米政府高官の話では、自分たちからハープーンをウクライナに提供しても良いという国は何カ国か存在するが、こと自分たちが保有するハープーンがロシア艦艇を撃沈した場合の報復を恐れ、真っ先に名乗り出たがらないという事情もある。それでも、保有数の多いある国がまずハープーンをウクライナに送ることを検討中で、この国が供与を確約すれば他国も追随するかもしれないという。(後略)【5月20日 ロイター】
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欧米諸国による黒海の封鎖を突破する実力行使を求める声も上がっていますが、アメリカなどが、ロシアとの戦争になりかねないこういうリスクをとるとは思えません。

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ジャック・キーン退役陸軍大将は、外交がうまくいかない場合、米国が主導する国際的な食料・商船護衛作戦が必要になるかもしれないと述べている。これは、人道的作戦として計画され、そう周知されるのが最善だ。

その任務は、国際的な軍艦の連合体を結成し、商船がオデッサ港と黒海から安全に出られるよう護衛することだ。それは、プーチン氏がNATOからの新たな挑発だと主張するのを可能にするようなNATOのプロジェクトではなく、有志連合として機能するものがいいだろう。【5月25日 【社説】ウクライナ穀物、封鎖突破の方法は WSJ】
*******************

冒頭記事は、このような中でのもので、ロシアも食料危機回避を求める国際世論、その危機の原因として集中砲火を浴びるリスクに一定に配慮したものでしょうか。

ただ、停戦交渉にしろ何にしろ、“話”として出ることと、実際に実行されることは別物。
実際にロシアが黒海港湾からの輸出を認めるような措置に出るのかどうかはまだわかりません。

【インド 自国ファーストの姿勢は食糧問題でも 小麦・砂糖の輸出制限】
ウクライナ問題で、ロシアほどではないにしても、欧米からの評判が芳しくないのがインド。
対ロシア制裁に参加せず、逆に安くなった石油を大量に買い付けており、ロシアの制裁逃れを助けているとも。

インドの「自国ファースト」の姿勢は食糧問題でも。

****小麦輸出一時停止のインド、輸送が混乱****
インドが先週、インフレや食糧安保をめぐる懸念から小麦の輸出を突然一時停止したことを受けて、17日には同国の主要港で多数のトラックや船が小麦を積んだまま行き場を失うなど、輸送が混乱した。
 
世界第2位の小麦生産国であるインドは13日、輸出業者が政府の許可なく新たに輸出契約を結ぶことを禁止する命令を出した。
 
この突然の発表を受け、グジャラート州のカンドラ港は大混乱に陥った。港の運営会社によると、トラック約4000台が構外で列をつくっている。小麦の積載が一部終わった船4隻も港に停泊したままだ。積載量は計8万トン前後とされる。(中略)
 
今回の輸出停止は、ウクライナ侵攻でインフレが進む中、保護貿易主義を危惧する先進7か国から批判を受けている。
 
3月に記録的な熱波に見舞われたインドでは、小麦生産にも影響が出ており、政府は減産を予想している。また、小麦価格は世界的に高騰している。 【5月17日 AFP】
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****インド、砂糖も輸出制限 小麦に続き****
インド政府は24日、今年度の砂糖輸出量を1000万トンに制限すると発表した。国内供給の確保とインフレの抑制が狙い。同国は今月半ばに小麦の輸出停止を発表したばかり。
 
インドは世界最大の砂糖生産国で、輸出はブラジルに次ぎ世界2位。
 
食料省は、9月に終わる今販売年度の輸出量を1000万トンに制限すると発表。約900万トン分の契約が既に結ばれており、うち780万トンは出荷済み。今年度の輸出量は過去最高になるとみられる。
 
インドは小麦についても、インフレと食糧安全保障を理由に、政府の許可なしに新規に輸出することを禁止している。今年は3月の気温が観測史上最高を記録し、減産が見込まれるためとしている。 【5月25日 AFP】
********************

インドが対ロシア制裁に参加しないのは、兵器のロシア依存など、これまでのロシアとの緊密な関係もあってのことですが、そうした事以外に、石油にしても食料にしても、インドと欧米では事情が異なることもあっての対応でしょう。

未だ飢餓ライン上の絶対的貧困を多数抱えるインドの場合、燃料・食料の僅かな価格変化も市民生活に大きく影響します。その程度は欧米とは比べ物にならない・・・そういう状況では「きれいごと」ではなく、国民生活を安定させる施策が何より重視される・・・・というのがモディ首相の立場でしょう。

ただ、輸出制限については、各国が同様対応をとれば、結果的にインドを含めた世界中の人々が苦しむことにもなります。

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中国・新疆ウイグル自治区  「発砲しろ」・・・「再教育施設」の戦慄の実態 「新疆公安ファイル」公開

2022-05-24 22:53:01 | 中国
(テケス看守所内部を撮影したとされる写真。収容者が手錠、足かせ、覆面をつけられ連れ出されている。訓練とみられる。画像データによると、撮影は2018年9月25日午後4時31分=「新疆公安ファイル」より【5月24日 毎日】)

【真相はわからないことだらけ】
バイデン米大統領の「台湾防衛」の意思を明確に示した発言が、歴代米政権の「あいまい戦略」を踏み越えたものか、それとも「失言」か・・・多くの識者の考えが報じられていますが、(誰しも思うことなのに)誰も言わないことがひとつ。

バイデン大統領のこの問題での「失言」だか「発言」だかは3回目です。そのたびにホワイトハウスは火消しに。

この問題は世界の平和・安定に直結する米中関係の根幹をなすものです。
もし、これが単なる「失言」であれば、バイデン大統領はお気の毒ながら、何度説明されても問題の重要性が理解できない認知症を患っている・・・としか考えられず、とても「核のボタン」を管理できる状況になく、即刻辞任を考えるべきでしょう。

そういう“当たり前”のことを誰も言わないというのは、言ってはいけないタブーなのでしょうか?
そこらは白黒はっきりさせると、どっちに転んでも面倒になるということで「あいまい戦略」でしょうか。

もし、バイデン大統領が認知症を発症していないとすれば、単なる失言ではなく、表向きのアメリカ政府の立場を追求されないように敢えて個人的「失言」の形で中国を牽制したもの・・・ということになるでしょう。なかなか手の込んだ対応です。

“お気の毒なお年寄り”か“喰えないジジイ”か・・・真相はわかりません。
別に国際関係だけでなく、世の中、真相はわからないことだらけですが。

【信ぴょう性がありそうな「新疆公安ファイル」公開】
中国の新疆ウイグル自治区における「ウイグル族弾圧」に関しても、真相はわからないけど、これまでの疑惑を裏付けるような重要な情報が。

欧米は新疆ウイグル自治区におきて100万人規模の住民が「強制収容所」に拘束されていると非難してきましたが、中国側はイスラム主義テロの過激思想に対処するための職業訓練所だとし、2019年終盤には全員が「卒業」したと発表しています。

****「逃げる者は射殺」 中国のウイグル族「再教育施設」内部資料が流出****
中国新疆ウイグル自治区で少数民族のウイグル族らが「再教育施設」などに多数収容されている問題で、中国共産党幹部の発言記録や、収容施設の内部写真、2万人分以上の収容者リストなど、数万件の内部資料が流出した。

「(当局に)挑む者がいればまず射殺せよ」などと指示する2018年当時の幹部の発言や資料からは、イスラム教を信仰するウイグル族らを広く脅威とみなし、習近平総書記(国家主席)の下、徹底して国家の安定維持を図る共産党の姿が浮かぶ。
 
今回の資料は、過去にも流出資料の検証をしている在米ドイツ人研究者、エイドリアン・ゼンツ博士が入手した。毎日新聞を含む世界の14のメディアがゼンツ氏から「新疆公安ファイル」として事前に入手し、内容を検証。取材も合わせ、同時公開することになった。
 
幹部の発言記録は、公安部門トップの趙克志・国務委員兼公安相や自治区トップの陳全国・党委書記(当時)らが会議で行った演説。特に陳氏の発言記録は「録音に基づく」とあり、正式な文書にまとめられる前の感情が交じった言葉が並んでいる。
 
収容政策で重要な役割を果たした陳氏は17年5月28日の演説で、国内外の「敵対勢力」や「テロ分子」に警戒するよう求め、海外からの帰国者は片っ端から拘束しろと指示していた。「数歩でも逃げれば射殺せよ」とも命じた。
 
また、18年6月18日の演説では、逃走など収容施設での不測の事態を「絶対に」防げと指示し、少しでも不審な動きをすれば「発砲しろ」と命令。習氏を引用する形で「わずかな領土でも中国から分裂させることは絶対に許さない」と述べ、「習総書記を核心とする党中央を安心させよ」と発破を掛けていた。
 
内部の写真が流出したのは、自治区西部イリ・カザフ自治州テケス県の「テケス看守所(拘置所)」とされる収容施設。抵抗や逃走防止の訓練とみられる様子などが撮影されている。
 
写真では、手錠や足かせ、覆面をつけられ連れ出された収容者が、「虎の椅子」と呼ばれる身動きができなくなる椅子で尋問を受けている。また、銃を持つ武装警察らが制圧訓練をしているとみられる写真や、収容者が注射のようなものを受けている写真もある。
 
これらは、中国当局が過激思想を取り除くためなどとして運用した「再教育施設」の元収容者が証言した内容とも一致した。
 
収容者のリストには、身分証番号や収容の理由、施設名などが記されている。主に自治区南部カシュガル地区シュフ県在住のウイグル族など少数民族のもので、ゼンツ氏は、数千人分を含む452枚のリストを検証。17〜18年の時点で、シュフ県の少数民族の成人のうち12・1%(2万2376人)以上が「再教育施設」、刑務所、拘置所に何らかの形で収容されていると推計した。別に警察署などで撮影された収容者約2800人の顔写真も流出した。
 
資料を見ると、1980、90年代にモスクでイスラム教を学んだなどとして17年に拘束され、テロ行為の準備罪で懲役15年の判決を受けたケースなど、テロとの結びつきが疑問視されるものが目立つ。中国当局が少しでも宗教色があると判断すれば「再教育施設」や刑務所に収容しているケースが多いとみられる。
 
この問題をめぐっては、国連のバチェレ人権高等弁務官が23日から6日間の日程で中国を訪問中だ。欧米諸国が人権侵害を指摘する自治区を訪れる。しかし、中国側は「政治的に利用することに反対する」として、人権問題の調査が目的ではないと強調している。国連外交筋は「(何も問題はないという)中国側の宣伝に利用される危険がある」と警戒を示している。
 
中国政府は「職業技能教育訓練センター」と呼ぶ「再教育施設」について、イスラム教の過激思想の影響を受けた人物によるテロ行為を防ぐために設置し、19年後半に運用を終えたとしている。中国語の学習や食品加工などの職業訓練を行ったとも主張。欧米からの「ジェノサイド」との指摘には「荒唐無稽(むけい)で、下心あるデマだ」と反論している。
 
流出文書を検証した14のメディアは、内容について共同で中国外務省にコメントを求めた。
 
日本時間24日午前9時段階で回答はないが、在米中国大使館の報道官は問い合わせに対し「新疆に関する問題は本質的に反テロ、脱過激化、反分裂主義にあり、人権や宗教問題ではない」と強調。「深刻で複雑なテロ対策の状況に直面し、新疆は、断固とした強固で効果的な脱過激化の措置を多数講じてきた。その結果、新疆では数年間連続して暴力的なテロ事件は発生していない。新疆は現在社会の安定と調和、経済の発展と繁栄を享受している」と回答した。個別の質問には答えなかった。【ニューヨーク隅俊之】
   ◇
流出した内部資料は、情報提供を受けた世界の14のメディアが取材・確認を進めた上で、取材結果を共有して検証の精度を高めた。
 
ゼンツ氏によると、資料は新疆ウイグル自治区南部カシュガル地区シュフ県と西部イリ・カザフ自治州テケス県の公安当局のコンピューターに保存されていたもので、第三者がハッキングを通じて入手し、ゼンツ氏に提供したと説明している。
 
14のメディアは、収容者リストに載っている人の家族への取材や流出写真の撮影情報の確認、衛星写真との比較、専門家への鑑定依頼などを行った。毎日新聞は検証で確認された情報の信ぴょう性と社会的意義から報道する価値があると判断した。
   ◇
今回の報道に参加したメディアは以下の通り。
BBC News(英)▽ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)▽USA TODAY(米)▽Finnish Broadcasting Company YLE(フィンランド)▽DER SPIEGEL(独)▽Le Monde(仏)▽EL PAIS(スペイン)▽Politiken(デンマーク)▽Bayerischer Rundfunk/ARD(独)▽NHK WORLD−JAPAN(日本)▽Dagens Nyheter(スウェーデン)▽Aftenposten(ノルウェー)▽L’Espresso(イタリア)▽毎日新聞
【5月24日 毎日】
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BBCなど一定に信頼性のあるメディアが検証したうえでの報道ということですから、素人的には信用してもいいかな・・・という感じがあります。

“少しでも不審な動きをすれば「発砲しろ」”という状況は、世間一般では「職業訓練施設」とは言いません。

かねて言われている「100万人」という規模については、個人的には「いくらなんでも多すぎるのでは・・・」という疑念もあったのですが、習近平国家主席の指示のもとで「200万人」規模を計画していたとか。

さすが、14億人の人口を抱える国なると、発想も日本のような島国とは違う・・・ということでしょうか。

****新疆収容施設の建設、習氏が指示 英BBC報道、目標200万人****
英BBC放送電子版は24日、中国新疆ウイグル自治区で少数民族の収容施設を建設するよう習近平国家主席が指示していたとする内部資料の内容を報じた。2018年当時の記録で、「過激な思想」を持つ200万人を収容することが目標だったという。中国の人権状況に関する国際社会の懸念がさらに高まりそうだ。
 
内部資料は政府幹部の発言記録など複数あり、新疆の警察のコンピューターから流出したという。趙克志公安相が18年6月に新疆を訪れた際に演説し、収容のための施設建設や資金増額の「重要な指示」を習氏が出したと称賛していた。【5月24日 共同】
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中国側は「嘘」「デマ」と否定しています。

****中国政府「嘘の流布」ウイグル族「再教育施設」内部資料流出報道受けて****
イギリスの公共放送BBCなどが、中国の新疆ウイグル自治区の内部資料として報じた2万人を超える収容者リストなどについて、中国政府は「嘘の流布だ」などと反論しました。

イギリスBBCなどは24日、中国の少数民族のウイグル族らを対象にした「再教育施設」に関する内部資料として、中国共産党幹部の発言記録や2万人以上の収容者リストなどを報じました。

これについて、中国外務省の汪文斌報道官は。

中国外務省 汪文斌報道官
「嘘やデマの流布では世の中の人を欺くことはできない」

記者会見で「嘘の流布だ」などと反論、「新疆ウイグル自治区の経済は発展、人民は安定して生活し仕事を楽しんでいる」と主張しました。

今回の報道は、中国を訪れている国連のバチェレ人権高等弁務官の新疆ウイグル自治区訪問に合わせ、BBCなど世界14のメディアがアメリカにいるドイツ人研究者が入手したという資料をもとに一斉に伝えました。【5月24日 TBS NEWS】
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【沈黙するバチェレ人権高等弁務官を牽制する側面も】
国連のバチェレ人権高等弁務官の新疆ウイグル自治区訪問については4日前の5月20日ブログ“中国・新疆ウイグル自治区 不妊処置を示す人口動態か 国連人権高等弁務官が今月中国訪問”でも取り上げたところですが、中国側の「やらせ」「お膳立て」による「弾圧隠し」、更には「(何も問題はないという)中国側の宣伝に利用される危険」が指摘されており、沈黙を守るバチェレ人権高等弁務官に対しアメリカは批判も。

****米、中国の新疆訪問制限を懸念 国連人権弁務官の沈黙批判****
米国務省のプライス報道官は20日の電話記者会見で、バチェレ国連人権高等弁務官が予定している中国新疆ウイグル自治区訪問について、中国政府に行動を制限されるとの懸念を表明した。

バチェレ氏についても「中国政府が新疆で人権侵害をしている疑う余地のない証拠があるのに沈黙している」と批判した。

中国外務省は20日、バチェレ氏が中国政府の招待で23〜28日に訪中すると発表。米政府や人権団体は、人権侵害はないとする中国側の宣伝に利用される恐れがあると警戒を強めている。

プライス氏は「完全な評価のために必要な立ち入りを中国が認めるとは思えない」と述べた。【5月21日 共同】
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今回の「新疆公安ファイル」公開は、こうしたバチェレ国連人権高等弁務官の対応を牽制するものともなっています。
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イギリス  国内的には苦境のジョンソン首相 北アイルランド議定書を放棄する意向

2022-05-23 23:12:40 | 欧州情勢
(【5月18日 BBC】)

【ウクライナ問題で存在感をアピールするものの、国内ではパーティー問題にインフレ進行】
イギリス・ジョンソン首相は4月9日にはウクライナを訪問してゼレンスキー大統領と会談、4月23日にはゼレンシキー大統領との電話会談でウクライナへの装甲車やドローン、対戦車兵器など武器追加供与を発表、5月3日には外国の首脳として初めてウクライナ議会で演説し、さらなる軍事支援を表明・・・と、外交面ではウクライナへの積極支援でEUを離脱したイギリスの存在感をアピールしています。

しかし、内政面では問題山積・・・だからこそ、外交面で話題作りに励んでいる(あるいは、指導力をアピール)と言うべきか・・・。

先ずは新型コロナ規制を無視したバーティー参加で罰金を課された件

****罰金の英首相、「逃げ切り」図る 世論調査は57%「辞任すべきだ」****
ジョンソン英首相は(4月)12日、新型コロナウイルス対策の行動規制中にもかかわらず首相官邸で開かれた自身の誕生日パーティーに参加したとして、警察当局から罰金を科され、支払ったことを明らかにした。

野党は辞任を求めているが、ロシアによるウクライナ侵攻で欧州が揺れる中、与党の大半は首相の指導力が不可欠と擁護しており、首相は「逃げ切り」を図る構えだ。
 
英メディアによると、現職の首相が法律違反で罰金を科されるのは初めて。罰金は50ポンド(約8000円)と報じられている。スナク財務相も同様に罰金を科された。

処罰対象となったのは2020年6月19日の集まりで、首相は「私の誕生日に10分以下の集まりがあり、職員らが祝ってくれた。当時は違反とは思わなかった」と釈明。「全面的に謝罪する」と述べる一方、今後も責務を果たすとして辞任を否定した。
 
これに対し野党・労働党のスターマー党首は「統治者として不適格」と辞任を要求。与党・保守党の一部からも「擁護できない」(ミルズ議員)との声が出始めている。
 
それでも首相が辞任を否定する背景には、ウクライナ情勢がある。2月のロシアによるウクライナ侵攻後、首相はウクライナのゼレンスキー大統領と頻繁に電話で協議。4月9日には首都キーウ(キエフ)を電撃訪問し、新たに装甲車の提供を申し出るなどウクライナ支援の姿勢を内外に示してきた。保守党のミリング議員はツイッターに「ウクライナを守るには最適の人物だ」と擁護した。
 
だが世論は厳しい。調査会社ユーガブの緊急世論調査では、英国民の57%が辞任すべきだと回答した。【4月14日 毎日】
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****パーティー問題で首相調査へ=議会にうそ?退陣論加速も―英****
英首相官邸で新型コロナウイルスの規制中にパーティーが繰り返されていた問題で、同国下院は(4月)21日、ジョンソン首相が議会にうそをついたか否か調べる動議を承認した。警察による捜査の終了後、調査が始まる見込み。結果次第で首相退陣論が加速する可能性もある。
 
野党労働党が提出した動議は、規則違反はなかったと再三述べてきたジョンソン氏の主張が虚偽だったかどうか、下院の特権委員会に調査を求める内容。与党保守党を含め反対は出なかった。首相は先週、パーティー参加で罰金を科されたことを認め、「違反行為」が明白となっている。
 
インド訪問中のジョンソン氏は、英テレビのインタビューで「隠すことは何もない。(調査の行方を)全く心配していない」と強気の姿勢を示した。【4月22日 時事】 
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ジョンソン首相への国民視線が厳しくなっているのはルール違反のパーティー問題だけでなく、経済の根幹であるインフレ問題もあります。

****4月の英物価9%上昇 40年ぶり高水準****
イギリスの4月の消費者物価指数は、電気・ガス料金が大幅に引き上げられた影響で前の年の同じ月と比べて9.0%上昇しました。およそ40年ぶりの高い水準です。

イギリスの国家統計局が18日に発表した4月の消費者物価指数は前の年の同じ月と比べて9.0%上昇しました。

4月から電気・ガス料金が大幅に引き上げられたことにより、3月の物価上昇率よりも大きくなっていて、およそ40年ぶりの高い水準となりました。

ロシアのウクライナ侵攻に伴うガソリンや食料などの価格高騰も続いていて、中央銀行にあたるイングランド銀行は年内に消費者物価指数が10%を超えると予測しています。【5月18日 TBS NEWS】
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【統一地方選挙で与党敗北】
こうしたパーティー問題、インフレ進行を受けて、地方選挙では与党への厳しい審判が下されています。
ただ、敗北は想定内で“首相辞任論が加速するかどうかは見通せない”との指摘も。

5月5日、イギリスでは統一地方選が行われました。イングランドとスコットランド、ウェールズでは主な計200の自治体で各議会の6千以上の議席が選ばれました。英領北アイルランドでも、自治政府の行方を左右する議会選が行われました。有権者は国政レベルの課題も考慮するとみられ、政権の取り組みに審判が下されると見られていました。【5月5日 共同より】

****英与党の保守党、地方選敗北 ジョンソン政権に痛手****
英各地で5日に投票が行われた統一地方選は6日に大半の開票が終わり、ジョンソン首相の率いる国政与党の保守党が議席を大幅に減らした。BBC放送が伝えた。事実上の敗北となった。首相官邸でのパーティー開催問題で批判を浴びたことや、最近の物価高騰が逆風となったもようだ。
 
ジョンソン政権にとっては痛手となった一方、一定の議席減は想定通りで「直ちに危険区域に入ったわけではない」(英メディア)との見方もある。保守党内でくすぶっていた首相辞任論が加速するかどうかは見通せない。【5月7日 共同】
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【敢えて(?)強気姿勢を貫くジョンソン首相】
そうした国内に問題を抱えるジョンソン首相ですが、攻めの姿勢で大胆な財政改革も手がけています。

****英首相、公務員9万人削減を指示 減税の財源確保で=報道****
ジョンソン英首相が、減税の財源を確保するため公務員9万1000人の削減を閣僚に命じたと、デーリー・メール紙が12日報じた。

ジョンソン氏は生活コストに関する11日の閣議で、家計への圧迫を緩和するための取り組み強化を指示。

公務員を5分の1近く削減する計画を1カ月以内に策定するよう命じた。これによって年間約35億ポンド(42億7000万ドル)を節減できるという。【5月13日 ロイター】
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公務員を5分の1近く削減・・・労働組合、野党・労働党の反発は必至ですが、政権基盤である保守層には歓迎される政策でしょうか。

ジョソン首相を生みだしたのはブレグジット支持層ですが、ブレグジット支持層ではEU離脱によって移民流入を減らせるとの考えが強く、下記の不法移民対策などもそうした政権支持層には歓迎される政策でしょう。たとえ、「非人道的」云々の批判はあっても。

ジョソン首相自身も、EU離脱のプラス面として「国境管理の主権を取り戻したこと」を挙げて来た経緯があります。

****英「不法移民、ルワンダに移送」案が波紋 「非人道的」と批判も****
英仏海峡を渡って英国に入国を試みる不法移民・難民について、英政府がアフリカ中部ルワンダに「移送」する新政策を発表し、波紋を広げている。政府は危険な密航を阻止する効果を狙うが、命がけで渡航してきた人々の身柄をさらに別の国に引き渡すことになり、「非人道的だ」といった批判の声も上がっている。
 
「制御できない移民の増加は、わが国の医療や福祉に過度な負担となる」。ジョンソン首相は4月14日、英南東部ケント州で演説し、新政策の理由を説明。そのうえで「ルワンダは世界で最も安全な国の一つだ」と述べ、移送への理解を求めた。
 
ルワンダは約80万人が死亡した1994年の内戦後、民族和解が進展。現在は政情も安定して経済成長も著しく、「アフリカの奇跡」と呼ばれている。近年はリビアなどからの難民を受け入れた実績もある。
 
英政府の説明によると、英国は今後ルワンダに1億2000万ポンド(約195億円)を投資し、移送される移民らを支援する。移送の対象となるのは今年1月1日以降の不法入国者とされるが、実際にどれだけの人数が移送されるかは不明だ。
 
だが、いわば「カネと引き換え」に人々を受け入れてもらう政策については反対の声も上がっている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は「戦争や迫害から逃れてきた人々に思いやりや共感を持つべきだ。商品のように交換されるべきでない」との声明を出した。

英国国教会の最高位聖職者のウェルビー・カンタベリー大主教も4月17日、「深刻な倫理的疑問がある」と述べた。世論調査会社ユーガブの調査でも、英国内でこの政策に反対と回答した人は42%に上り、賛成の35%を上回った。
 
ルワンダでは強権的なカガメ大統領の下、言論の自由が制限されているとの指摘もあり、ルワンダの野党からも「ルワンダは人々を歓待する国だが、まずは国内問題の解決が先だ」との声が出ているという。
 
英BBC放送によると、2021年に英仏海峡をボートで渡り、英国に到着した人々は2万8000人以上で、20年から約8000人増加した。21年11月にはボートが転覆し、27人が死亡する事故もあった。渡航者は中東やアフリカ出身者が多いという。
 
英国では、ブレグジット(欧州連合=EU=からの離脱)につながった16年の国民投票で、離脱派が移民増加を理由の一つに掲げていた。ジョンソン首相も19年の就任以降、不法移民対策の強化を訴えている。【4月29日 毎日】
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支持層が歓迎する施策なら、もともと政権に批判的な層がどのように反対しようが押し通す・・・というスタイルは、トランプ前大統領的な政治スタイルのようにも。

【ブレグジットの条件だった北アイルランド議定書を放棄 英・EU間の貿易戦争の懸念も】
EUとの関係でさらに問題となりそうなのが、ブレグジットの条件であった北アイルランドの扱いを一方的に反故にしょうという施策。ブレグジットの際に最後まで問題となったところでもあります。

****英、北アイルランド通商協定を変更へ EUは反発****
英政府は17日、欧州連合離脱(ブレグジット)協定に盛り込まれた英領北アイルランドに関する特別通商ルールを大幅に変更する意向を表明した。北アイルランドでの政治的停滞を解消するためとしているが、EUとの貿易戦争に発展する可能性がある。

変更が発表されたのは、「北アイルランド議定書」と呼ばれる離脱協定の一部。英政府は、協定内容の変更は不可能だとするEU側の立場が変わらなければ、同議定書を修正する法案を数週間以内に提出するとしている。

同議定書は、紛争を経験した北アイルランドの不安定な情勢や、EU加盟国のアイルランドと国境を接していることを踏まえて合意されたもので、イングランド、スコットランド、ウェールズの英本土3地域から到着する商品への通関検査を義務付けている。

だが、北アイルランド最大の親英派政党・民主統一党は検査義務に反発。議定書が修正されなければ、今月の自治議会選挙で歴史的勝利を収めた親アイルランド派政党・シン・フェイン党との共同統治を拒む構えを見せている。

英政府は、通関検査の大部分を廃止する方針を示した。2019年にボリス・ジョンソン首相が合意したEU離脱協定の重要な要素を事実上放棄する形になるが、ジョンソン氏はこの変更が国際法に違反するとの見方を否定している。

しかしEUは、英国が離脱協定に違反した場合、重い関税が課される可能性があると警告。議定書の再交渉には応じない意向を示している。 【5月18日 AFP】AFPBB News
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ブレグジットで問題になったのは、EU加盟国であるアイルランドと英領北アイルランドの国境において物流管理のためにハードな国境管理を復活させると、IRAのテロなど多くの血が流れた北アイルランド問題を再燃させることにもなること。

そこで、北アイルランドはEUルールに従うとしてアイルランド国境はこれまで同様にフリーに行き来できることとし、代わりにイギリス本土と北アイルランドの間で物流管理を行うとしました。当然、北アイルランド最大の親英派政党・民主統一(DUP)は「北アイルランド切り捨てだ」と反対していました。

自治議会選挙で敗北した民主統一党が態度を硬化させたこともあっての「北アイルランド議定書」反故のように見えますが、当初からジョソン首相の頭にはいずれこうした事態があるという考えもあった・・・のかも。

****英、EUと摩擦か 「北アイルランド」問題でルール変更模索****
英国が本土と英領北アイルランドの間に税関手続きが発生した欧州連合(EU)離脱に伴う通商ルールの変更に乗り出した。

北アイルランドでは議会選で勝利した親アイルランド派政党に対し、本土との一体性を重視し、第2党に転落した民主統一党(DUP)が協力を拒み、自治政府の新政権樹立が見通せない。

DUPは協力の条件として通商ルールの変更を求め、英政府が応じようとしている形だが、変更を拒否するEUとの摩擦が懸念される。

トラス英外相は17日、EUとの離脱協定に盛り込まれている通商ルールの変更に向けた法案を議会に提出すると表明した。新法案では、税関手続きの一部撤廃を含める見通しだ。

英国は2020年末でEUを完全離脱したが、北アイルランドと本土と間の物流に税関手続きを設ける通商ルールが決まった。北アイルランドとEU加盟国のアイルランドとの間で国境管理を復活させないためで、北アイルランドの帰属を巡り約30年間続いた紛争の再燃を防ぐ措置だった。

5日の北アイルランド議会選では、隣国アイルランドとの統一を掲げるカトリック系のシン・フェイン党が初めて第1党となった。

同党はアイルランド統一を求めて過去にテロ行為を重ねた過激派、アイルランド共和軍(IRA)の元政治組織。選挙戦では住民の関心が高い住宅や医療の問題に焦点を当てて支持獲得につなげた。

北アイルランドでは1998年の和平合意の下、親アイルランド派と親英派の代表政党が共同で自治政府を運営している。第1党から首相、第2党から副首相を出すのが通例だが、DUPは副首相の擁立に非協力的な姿勢を見せ、通商ルールの修正がなければ「共同統治に応じない」との姿勢を示す。DUPは通商ルールの内容について以前から「(北アイルランドが)EUに取り残された」と不満を示していた。

政権を樹立できなければ共同統治の原則が崩れ「和平が危機に陥る」(トラス氏)との懸念は強い。現地では今春、親英派と親アイルランド派の住民が衝突する暴動も起こった。

ただ、EU欧州委員会のシェフチョビッチ副委員長は17日の声明で、「一方的な行動は許されない」と英側の動きに反発。「EUはあらゆる手段を講じて対応する」と警告した。【5月20日 産経】
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再交渉を拒否しているEUも、昨年一定の譲歩案は示していました。

****「北アイルランド議定書」とは? なお続くブレグジットの通商問題****
(中略)
EUは以前から、北アイルランド議定書の再交渉は問題外であり、イギリスによる一方的な行動は悪影響を招くと警告してきた。

昨年10月には議定書の改定案を発表し、譲歩の道を模索した。その内容は以下の通り。
イギリスから北アイルランドに到着した食品の8割は、物理的な検査を必要としない
北アイルランドの輸入業者に必要な事務手続きを削減する
貿易業者の認可を拡大し、より多くの企業と製品を関税から除外する
医薬品のアイルランド海をまたぐ移動に支障が出ないよう法律を改正する
北アイルランドの政治家や企業団体といったステークホルダーとの協議体制を改善する

一方で、イギリスから北アイルランドに運ばれた製品がEUに輸送されない対策が必要だとしていた。

しかし、イギリスは先週、事態をさらに悪化させるとして、この改定案をはねつけた。

これからどうなる?
法案はイギリス議会で可決される必要があるため、一連の手続きには数カ月かかる可能性がある。
EUがどういった対応を取るかは明らかではないが、英・EU間の貿易戦争につながるとみる専門家もいる。

テリーザ・メイ前首相は、北アイルランド議定書を放棄すればイギリスの評判を損なうと警告した。
メイ氏は政府に対し、このような動きが「イギリスと、イギリスが署名した条約を順守する意志について、どんなメッセージを発するのか」考えるべきだと述べた。【5月18日 BBC】
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EUとの合意を一方的に反故にする「イギリス・ファースト」的な姿勢もトランプ的なところがあります。支持層には受けるのでしょうが・・・。

ウクライナ問題で手一杯のEUは、この件でイギリスと事を構える余裕はないのかも。
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ロシア  ウクライナ情勢の苦境で国内論調に変化も 市民生活にのしかかるインフレ 悪化する国際環境

2022-05-22 23:11:34 | ロシア
(ロシアでは果物・野菜の価格が1年前より約3割高い(政府データ)【5月21日 WSJ】)

【苦境が報じられるロシア軍 ただ、長期化などの懸念も】
ウクライナ軍の反転攻勢も伝えられるなか、ロシア軍は投入した地上戦力の3分の1を失った・・・など、ロシア軍の苦境が多く報じられています。

ただ、ロシア側が支配地域の“守り”に入れば戦争は長期化し、ウクライナ側の対応如何ではロシアの核使用も懸念される事態にもなります。

****戦車に食洗器や冷蔵庫の半導体まで転用…兵器不足でロシアの攻撃が止まる日は来るのか?【報道1930】****

ウクライナへの侵攻から間もなく3か月、ロシア軍は投入した地上戦力の3分の1を失ったとの分析もある。大量の兵力損失は、今後の戦い方をどう変えるのか。また戦争の終結は早まるのか。(中略)

■プーチン氏と軍部の関係「相当ぐらついている」
ロシア軍の制服組のトップ・ゲラシモフ参謀総長の消息が途絶えた。(中略)今、軍部で何が起きているのか。

東京大学先端科学技術研究所 小泉 悠 専任講師
「戦勝記念日は軍が主役のイベントなので参謀総長が来るべきもの。(中略)可能性は幾つかあると思うが、今回の戦争を巡って相当にプーチンの信頼を失っているという話がある。ゲラシモフは事実上更迭されているとの噂話もある。最後のチャンスを貰えるかどうかプーチンと折衝中だと。

現場の司令官クラスも罷免されるだけでなく、捕まっているのではないかという。参謀本部の中でも何人か罷免されているという話もある。軍とプーチンの関係は相当にぐらついているというのは間違いないと思う」

こうした中、16日にロシアで有名な軍事評論家のホダリョノク元大佐が国営テレビに出演し、こんな発言をしたことが物議をかもしている。
「ロシアにとって戦況は明らかに悪化している。軍事的、政治的状況の最大の問題点は、私たちは完全に孤立していて、全世界が私たちに反対していることだ」

プロパガンダ化した国営テレビで、プーチン氏に不利に聞こえるような戦況を語ることは珍しい。一体どんな意図があるのだろうか。

東京大学先端科学技術研究所 小泉 悠 専任講師
「ホダリョノク氏も随分勇気がある発言をしたと思う。こういう発言を許したのが、ホダリョノク氏の独走だったのか、それとも仕込みで何らかの理由でこういう発言をさせているのかは気になるところだ。

実は他にも何人か軍人や専門家は、『動員をかけないと勝てませんよ』とか語り始めている。戦況が厳しいということを専門家の口を借りて喋り始めている、或いは専門家がそういう発言をすることを妨げなくなってきている。では、言わせた末に何処に持っていきたいのか…もはや何々をしてもやむを得ない、という方向に世論を持って行きたいのだろう。その“何々”が何なのかということがこれからの焦点だと思う」  

■戦力は3分の1に「逃走して再編成しないと使い物にならない」
(中略)
元・陸上自衛隊東部方面総監 渡部悦和氏
「ロシア軍は厳しい状況だと言える。戦術の常識では、ひとつの部隊の存亡が30%になるとその部隊は使い物にならない。後ろに逃走して再編成しないと使い物にならない。3分の1というのは33%ですから、この時点でロシア軍をみるとかなり無理をしなければ作戦が出来ないような状態になっている。

攻撃する側は5倍の戦力でなければならないと私は言っているのだが、これが出来ないような状況になっている。だから、ドンバス地域においてロシア軍の攻撃が進捗していない。これは明らかな原因がここにあると思う」  

■食洗器・冷蔵庫の半導体を戦車に…
ロシアは兵器の増産に躍起になりたいところだが、どうやら更なる難関に直面しているようだ。1936年創業のウラル・バゴン・ザヴォート社は、ロシアの最新戦車のほとんどを製造する。しかし、ウクライナ国営メディアによると、部品不足のため3月21日に操業を停止したという。米国商務省の輸出管理担当者も「ロシアでは制裁で通信機器などに使用する半導体が足りなくなっている」と分析している。

また、驚くべき報告もある。米国のレモンド商務長官は11日、ウクライナ側からの報告として「ロシア軍の戦車を調べた際、食洗器や冷蔵庫から取り出した半導体が使われていた」と明かした。

さらにロシアの戦車連隊で、備蓄していた戦車10両のうち実際に運用できる戦車は1両しかなかったという。これは電子機器などの主要な部品が盗まれていたためだと、ウクライナの国防情報局が明らかにしている。(中略)

■“守り”の戦いで 戦争長期化 核使用の口実も―
ロシアは戦力を大量に喪失し、更には戦力を補えない状態が続いていることは確かなようだ。ウクライナ国防情報局のブダノフ情報局長は「ターニングポイントは8月の後半になる。激しい戦闘行為のほとんどは今年の終わりまでに終了するだろう」と語り、アンドルシフ内務省顧問は今後について次のように分析した。

「ロシア軍が東部で占領地を拡大する第2段階に失敗し、現在は防御戦に移行。占領地を維持する第3段階入った」
これはどういうことを意味するのだろうか。

元・陸上自衛隊東部方面総監 渡部悦和氏
「ロシアの第3段階とは、現在ロシアが占領している地域を保持することだ。そこで、ロシア軍とウクライナ軍の戦力比だが、例えばウクライナ側に防御するロシア側の5倍の戦力があるかと言えば、それはない。そうなると、もう膠着状態にならざるをえない。だから来年まで戦争は続いてもおかしくない。もしプーチン大統領がこの戦いはまだまだ続けるんだという決心を変えなければ、長くなるんだろうと思う」(中略)

更に今後の警戒すべき点について2人はロシアによるザポリージャ州、ヘルソン州の併合だという。

元・陸上自衛隊東部方面総監 渡部悦和氏
「ロシアはヘルソン州で防御態勢をどんどん作っている。ロシアにとって、ヘルソン州は絶対に明け渡したくない成果。それを確保するために一所懸命陣地を構築して、プーチン大統領に是非ロシア領にしてくださいと要望しているのだと思う。そうなると、ここが攻撃されたらロシアの領土が侵されたとして戦術核を使う、という脅しが実際に起きる可能性があると思う」

東京大学先端科学技術研究所 小泉 悠 専任講師
「(中略)でも、ザポリージャ、ヘルソンがロシア領になるということになれば、これはロシアの領土が侵されているんだという建付けになるので、核使用の布石になると見られてもおかしくはない」

実際、メドベージェフ前大統領が17日こんなことを言っている。「我が国が攻撃された場合には、即刻、超強大な報復が可能だ」

東京大学先端科学技術研究所 小泉 悠 専任講師
「一方で、戦術核にせよ何にせよ、使った場合、どこまでエスカレートするか、これはロシアには制御できない。ウクライナがどう応じるか、西側がどう応じるかにかかって来る。

従って、ロシアの核使用は現実に考えると、そう簡単に気軽に決断できる問題ではないはず。現実に我々はどのへんまでロシアを抑止できていて、何処が不利なのか、あいまいな領域はどこなのか、ということを考えながらウクライナ戦略を考えていく必要がある」

追い込まれていくロシアに対し小泉氏は、いまこそ経済制裁を西側が“働きかけ”の武器にすることを提案した。

東京大学先端科学技術研究所 小泉 悠 専任講師
「戦車の部品一つとっても、半導体であるとか、それを作るための工作機械だとか、自国じゃできないわけです。ロシアもまた国際的なサプライチェーンの中にいないと、もう大国として振る舞うことは出来ない。

だから、そこにロシアに対して働きかける余地はあると思う。経済制裁もすぐに効かないじゃないかとか、一般民衆が苦しむだけで権力者は平気ではないかとの意見もあるが、私はロシアの軍事力とか権力とか、産業とか、我々がどこを閉めたらロシアのどこが痺れるのか、相関関係をマッピングして、ちゃんと働きかける方法はまだまだあるのではないかと思う。それは対ロシアだけでなくこれから日本が色々な所で使ったり、使われたりする武器なのだろうと思います」(BS−TBS 『報道1930』 5月18日放送より)【5月30日 TBS NEWS】
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【ロシア国内で批判的な論調も】
「プーチンの戦争」を圧倒的に支持してきたロシア社会にも、メディアの論調において変化の兆しが見えます。

****露で広がる侵攻への疑問、戦況膠着で風向き変化****
戦場での失態が増えるのに伴い、トーンに変化

ウクライナ侵攻を巡り、ロシア国内で批判的な論調が広がってきた。政府寄りのコメンテーターは当初、戦いぶりと軍指導部を称えていたが、戦場での失態が増えるのに伴い、そのトーンにも変化が生じている。

ミハイル・ホダレノク退役大佐は今週テレビ番組に出演し、西側がウクライナへの兵器供与や金融支援を強化する中、ウクライナにおける「わが国の状況は明らかに悪化するだろう」と警告した。「われわれにとって最も重要なのは、軍事的および政治的な現実をしっかり認識することだ」と同氏。「これを見失えば、歴史からひどい仕打ちを受け、何が起こるか分からなくなる」

ホダレノク氏はロシアの国益にならないとして、当初からウクライナ侵攻には反対の立場だった。だが、政府の見解を代弁することで知られる国営テレビ「1チャンネル」において司会者と白熱した議論を交わすことは異例で、同氏の批判的な論調は注目を集めた。

ところが、その数日後に再び同じ番組に出演したホダレノク氏は発言のトーンを一転。政府と同じ見解を公然と展開し、近くロシア軍が勝利するとの見方を示した。

世論に大きな影響を与えるロシア国営メディアは侵攻を全面的に支持しており、政府が「特別軍事作戦」と呼ぶこの戦争を肯定的に伝えている。独立系の世論調査によると、今回の戦争とウラジーミル・プーチン大統領に対する国民の支持はなお極めて高い。

しかしながら、ロシア軍がウクライナの首都キーウ(キエフ)や北東部の都市ハリコフから後退したことで、一段と慎重な論調も広がってきた。

5月初めには、ウクライナ東部の川を渡ろうとしていたロシア軍大隊をウクライナ軍が総じて撃退。ロシア軍は戦車や装甲車を破壊され、多くの兵士を失った。これを受け、軍事評論家は恥ずべき失敗だと断じた。

ロシア政府寄りの著名司会者が務める第1チャンネルの別の番組では、元ウクライナ議員で、ロシア政府を支持したことで知られる評論家イゴール・マルコフ氏が、今回の戦争でロシアが敗北する可能性があると認めた。

マルコフ氏は「われわれの命がかかっており、勝つという選択肢しかない」としつつ、「現在の状況を見る限り、それをどう達成できるか分からない」と述べた。「戦況に関して、司令官に真実を報告していることを心から望む」

国営テレビで聞かれるようになったこうした批判は、戦争の行方と国家の運命について陰で不安をもらしているロシア国民の心境を映し出している。

2017年にクリミア半島で従軍し、仲間の兵士と連絡を取っているという徴集兵は、現場の兵士らも幻滅していると話す。「彼らは皆、常に無敵だと思っていた軍に失望させられたと感じている」

かねてロシア軍を支持していた人々も似たような懸念を口にしている。ロシアの軍事ジャーナリストで、従軍経験もあるアレクサンドル・スラドコフ氏はテレグラムで「遺憾なことが多いが、悪いことは言いたくない。だが、1つだけ疑問がある。わが軍はどこにいる?」と問いかけた。

その上で「違いに気付いてほしい。われわれはかつてハリコフ、そしてキエフでの戦いについて話していた」とし、「だが、今ではわれわれの成功は違う形に変わり、小さな町での勝利について語っている」と指摘した。(後略)【5月20日 WSJ】
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イギリス国防相の推計ではロシア軍兵士の死者は1万5千人ほどとも。
犠牲となった兵士の遺体が多数戻ることで、苦しい戦況は隠せなくもなります。「プーチンの戦争」への疑問も次第に膨らむことが予想されます。

【4月の消費者物価指数 前年同月比17.8%上昇】
苦しいのは戦況だけでなく市民生活も同様です。長期化すればするほど制裁の影響は大きくなります。プーチン大統領にとっては、戦況云々よりも政権基盤を揺るがす重大な問題でしょう。

****ロシア市民にインフレの痛み、制裁で品不足も****
西側諸国の経済制裁を受けているロシアで今、インフレが欧米の倍のペースで進行している。食品などスーパーに並ぶモノの価格が急激に値上がりし、人々の生活を直撃している。

ロシアでは景気低迷のあおりで賃金が上がらず、消費者の生活は一段と悪化している。在庫が少なくなる中、現金を手元に置いておくよりも早く使ってしまおうとする人々の行動もインフレを加速させかねず、状況はさらに悪化するとみられている。

政府のデータによると、1年前に比べ砂糖は7割弱、果物・野菜は約3割値上がりしている。食品全体では4月の上昇率は2割と、米国の2倍だ。パスタや穀物・豆類も3割以上価格が上がっている。

ロシアでは家計支出に占める食品の割合が大きいため、値上がりの影響はより深刻だ。米農務省によると、平均的な家計支出に占める食品の割合は2020年時点で米国が7.1%、英国が9.4%だったのに対し、ロシアは約29%に達した。

ロシアの賃金上昇ペースは物価上昇に追いついておらず、22年1-3月期の実質可処分所得は前年同期比1.2%減少した。22年の国内総生産(GDP)はマイナス10%程度になる見通しで、賃上げが進むとは考えにくい。

一方、4月の消費者物価指数(CPI)上昇率は米国が前年同月比8.3%、ユーロ圏が7.4%に達したが、ロシアでは17.8%と、それよりはるかに高い水準となった。

ロシアが2月にウクライナに侵攻して一連の経済制裁が科されると、インフレ率は急上昇し、それ以降は高止まりしている。洗剤や掃除用品は4月に前年同月比30%、電気製品・家電は28%値上がりした。一方、ロシアは世界有数の原油・ガス生産国であり、ガソリン価格は6%の上昇にとどまっている。

ロシアの消費者は、化粧品から宅配ピザまであらゆるものの値引き情報を求めて対話アプリ「テレグラム」に目を凝らしている。同国の反独占庁は、さまざまな商品の値上がりを巡って苦情が寄せられたことを受け、砂糖、プラスチック、ベビーフードなどの業者を対象に検査を実施した。

輸入品の在庫がなくなり、輸送費も上昇する中、長年ロシアを悩ませてきたインフレは今後も高止まりする公算が大きい。

ドイツ国際安全保障問題研究所のロシア経済専門家ヤニス・クルーゲ氏は「多くの企業はまだ、欧米製の部品やモノの在庫を持っている。数カ月分か、1年分あるかもしれない。だが、いずれは底を突き、品不足になって価格が押し上げられるだろう」と指摘した。

物価高騰や不透明な景気見通しに直面しているロシア人は、現金の価値が下がる前にカネを使うという、昔ながらの習慣に戻っている。これはインフレ下では常とう手段だが、さらなる物価上昇を招きかねない。

独立系コンサルティング会社Rポリティクの創業者タチアナ・スタノバヤ氏は「経済情勢の悪化がいつ、どれほどの速さでプーチン氏の支持率低下につながるかはまだ読めないが、国民の団結が揺らげば、早々にそうなるのは間違いない」と述べた。【5月21日 WSJ】
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【厳しさを増すロシアを取り巻く国際的環境】
「プーチンの戦争」が裏目に出て、フィンランド・スウェーデンのNATO加盟表明という、目的とは逆の事態に陥っているのは周知のところ。

それ以外にも、5月17日ブログ“カザフスタン、ベラルーシに見る旧ソ連CSTO参加国にも広がる「ロシア離れ」”でも取り上げたように、ロシアを取り巻く国際的環境は厳しさを増しています。

****ついにロシアを見限った、かつての「衛星国」たち****
<プーチン政権とロシアへの反感と抵抗を募らせる、「旧ソ連圏」の国々。今回のウクライナ侵攻には加担せず、餓死や粛清などソ連時代の残虐行為への責任も問う声が一般市民にも広がっている>

隣人と仲良くするのは難しいものだ。とりわけそれがロシアの場合には──。
ウクライナで戦争が始まって以来、かつて「衛星国」と呼ばれた国々が続々とモスクワの重力圏を離れようとしている。

足元でロシアの脅威を感じるモルドバやジョージア(グルジア)から、ロシアに借りのある中央アジアのカザフスタンまで、多くの国がウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアから距離を置き始めた。

ソ連時代の親密な関係を再検証する動きもある。かつてのソ連は「みな兄弟」と言っていたが、そんなのは嘘っぱちだと今は誰もが気付いている。みんな対等なんて話は、暴力でソ連が生まれた100年前から嘘だった。

そのソ連が崩壊してから30年を経た今、かつての衛星国の目に映る今のロシアは、単なる厄介な隣人だ。(後略)【5月19日 Newsweek】
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頼みの中国も、自分が火の粉を被ってまでロシアを支援する考えはないでしょう。

****中国ハイテク企業、ロシアとの取引ひそかに停止****
中国のハイテク企業が米国の制裁措置やサプライヤーからの圧力を受けて、ひそかにロシアとの取引から手を引いていることが分かった。中国政府は外国の制裁に屈しないよう求めているが、複数の主要企業が公表することなくロシアでの販売を減らしている。内情に詳しい関係筋が明らかにした。(後略)【5月7日 WSJ】
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もちろん、ロシアが以前として多くの地域を支配しており、東部などで攻勢をかけているのも事実です。
上記のような“ロシアの苦境”云々は、ある意味、ロシアが苦境に耐えかねで戦争を中止して欲しいという“期待”“希望”もこめられた議論でもあります。

なお、一部日本メディアで報じられている「ウクライナ、反転攻勢へ…大統領顧問『米欧提供の武器がそろう6月中旬以降』」というのは拡大解釈のミスリードとの指摘も。
互いが“大本営発表”するなかで、戦争の実態はよくわからないところも。

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