孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  ハマス、他派に停戦遵守を呼びかけ

2008-06-30 13:20:21 | 国際情勢

(ガザ地区の病院 “flickr”より By dAVIDb1
http://www.flickr.com/photos/giant-steps/2314988174/)

【停戦合意 封鎖解除】
18日のブログで取り上げたように、イスラエルによる経済封鎖で困窮するガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスとイスラエルの間で“停戦合意”が成立しました。
その概要は“イスラエルとハマスは19日午前6時、相互に暴力を停止し、この後3日間、順守状況を監視する。「平穏」が続けば、イスラエルはガザへの物資の輸送制限を徐々に緩和。そして第2段階として、拉致イスラエル兵の解放やラファ検問所の再開について、本格的に協議する。”という内容でした。

実際、当初「平穏」が続いたので、イスラエルは22日、停戦発効から3日間が過ぎたことを受け、ガザへの境界封鎖の段階的緩和を始め、食料や商品などトラック90台分の運搬を許可しました。

【再封鎖】
しかし、24日、ガザ地区から発射されたロケット弾3発がイスラエル南部に着弾、2名が負傷。
ハマスとは別組織ですが、これまでハマスと協調してきたイスラム原理主義組織の“イスラム聖戦”が攻撃を認めています。
イスラエル軍がヨルダン川西岸ナブルスで24日に行った掃討作戦で指導者が殺害されたことを受け、ガザから報復を加えたものです。

「今回の停戦に西岸は含まれておらず、イスラム聖戦がガザから攻撃したのは明確な合意違反。」【6月25日 時事】との見方がありました。
ハマス幹部は攻撃直後に「停戦を維持する」と表明しましたが、イスラエル軍の反撃が懸念される状態になりました。

イスラエルは25日、ガザ地区からロケット弾攻撃があったことを受け、ガザ地区との境界にある3つの検問所(カルニ、スファ、ナハル・オズ)を閉鎖したと発表。
エレツの検問所のみは通行可能に保たれました。

ガザの窮状打開のための一縷の希望として期待された今回の停戦ですが、実行前からイスラエル・オルメルト首相が「われわれは幻想を抱いていない。今回の停戦は脆弱なもので、短期間で終了する可能性がある」と述べていたように、極めて不安定・脆弱な合意であり、25日の検問所再封鎖の報に接し「ああ、やっぱりダメかね・・・」と落胆を感じました。

【再解除 停戦遵守】
それでも、ガザをこのままにしておけないのは、“統治責任”をガザ住民に負うハマスも、封鎖で国際世論の批判が強まっているイスラエルにしても同じであり、再度の仕切り直しがなされたようです。
イスラエル政府は29日、「過去数日間比較的治安が良好だった」ことを受けて、25日に封鎖した検問所2か所(カルニ、スファ)について、物資の輸送に限り封鎖を解除すると発表しました。

更に“喜ばしい”ニュースが入りました。
****ハマス、他派に「停戦守れ」 真剣な姿勢みせる****
【6月29日 朝日】パレスチナ自治区ガザを支配するイスラム過激派ハマスが、自派以外の武装勢力に停戦順守を呼びかけ、イスラエルとの停戦に真剣な姿勢を続けている。ガザの経済を崩壊させたイスラエルの境界封鎖を和らげるのが狙い。停戦違反のたびに境界封鎖が繰り返され、ガザの生活が楽になる見通しが立たないためだ。
27日にはガザからイスラエルへ迫撃砲弾が撃ち込まれ、3度目の停戦違反が起きた。いずれもハマス以外が実行。停戦対象でない別の自治区ヨルダン川西岸でイスラエル軍が続ける攻撃への報復だった。
 ガザのハマス内閣を率いるハニヤ首相は27日、ガザ市内のモスクで記者団に対し「みんなが停戦合意を尊重し、パレスチナ人を苦しめている封鎖を終わらせなければならない」と語った。ハマスの強硬派幹部アッザハール氏は28日、サウジアラビア紙との会見で、すでに停戦違反者の拘束を始めたことを明らかにした。
 イスラエルの治安機関「シャバク」の元長官顧問で、イスラム過激派を研究するシュタインバーグ博士は「ハマスは組織原理としてイスラエルとの共存を認めることはない。だが支配者の責任として、住民の苦しみを放置することもできず、封鎖緩和を期待できる停戦を選んだ」と指摘する。
****************

【当事者責任】
ガラス細工のような脆弱な合意ですので、これを書いている今にでも、“衝突再開”となっている可能性もあります。
ただ、ハマスが“支配者の責任”から、これまで協調してきた他の武装組織に対し“停戦違反者の拘束”を行ってでも“停戦遵守”を徹底するというのは、「やっと、本筋が見えてきたような気が・・・」と期待させるニュースです。

アメリカや第三国の仲介による和平合意ではなく、戦いの当事者であるイスラエルとハマスが、「ガザをなんとかしなければ」との思いから“一歩”踏み出したことは画期的にも思えます。
喜んでいられる間だけでも、せいぜい前向きに喜びたいところです。

なお、イスラエル政府は29日の閣議で、2年前にレバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラに拉致され、既に死亡しているとされるイスラエル兵2人の遺体と、イスラエルが拘束しているレバノン人らとの交換に応じることを承認したそうです。
2人は06年7月12日に国境付近の戦闘でヒズボラに拉致され、これがきっかけで34日間にわたりイスラエルとヒズボラの間で戦闘が繰り広げられました。
シリアとのゴラン高原返還交渉もありますが、こうした緊張を抑える動きが本格化することを願いたいものです。
ただ、イスラエルはイラン核施設爆撃を想定した大規模演習を実施・・・なんて話もありますので、どうなることか。
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マレーシア  多民族国家の問題 イスラムへの改宗のケース

2008-06-29 11:12:17 | 世相

(クアラルンプール(KL)のチャイナタウンにあるヒンズー寺院“sri maha mariamman”
イスラム原理主義政党PASが治めるコタバルからKLに戻ると、チャイナタウンの安宿に泊まりました。朝食をとりにホテル近くを歩いているときこの寺院を目にしました。建物の装飾などは全く覚えていませんが、寺院のなかでぼんやりすごしたわずかな時間は今も覚えています。
“flickr”より By superciliousness
http://www.flickr.com/photos/superciliousness/125077655/)

【アブドラ首相、退任を表明】
マレーシアでは3月の総選挙で、それまで絶対多数を占めていた与党が3分の2を割り込み140議席(定数222議席)に後退。
与党の中核をなすマレー人組織「統一マレー国民組織」(UMNO)を率いるアブドラ首相の政権運営に対し、22年間にわたってマレーシアとUMNOを支配してきたマハティール前首相が辞任を求め、自らも5月にUMNOを離党する事態となっていました。

この事態に、6月13日、アブドラ首相は12月に予定されている党大会において党総裁選に出馬せず、首相の座をナジブ副首相に譲ることを明らかにしました。
マレーシアはマレー人(65%)の他、華人(25%)、インド人(7%)などからなる多民族国家で、マハティール前首相の掲げたマレー人優遇政策“ブミプトラ政策”によって国をまとめてきましたが、与党に反旗を翻したアンワル元首相が中心となる野党勢力の拡大で、この“ブミプトラ政策”がどうなるか注目されます。
(3月16日 http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080316

【多民族国家における宗教問題】
民族の違いは、宗教・文化の違いとなって社会の軋轢を生みますが、これまで“マレー人=ムスリム”という大前提で、経済的に優位にある華人・インド人の協力を求めながら、マレー人の地位を引き上げていく“ブミプトラ政策”が採られてきました。

従って、イスラムからの改宗はこの体制の根幹を揺るがす問題であり、1月22日に取り上げた“リナ・ジョイの棄教問題”といった深刻な事態を招きます。
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080122
最近目にしたのは、イスラムへの改宗に関する話題。

****ヒンズー教かイスラム教か、死者の埋葬方法めぐって当局と家族が対立*****
【6月27日 AFP】マレーシアで、自殺した男性の埋葬方法をめぐってヒンズー教徒の家族とイスラム教振興局が対立し、葬儀が行えない事態となっている。
男性は22日に自殺。イスラム教振興局は、男性はイスラム教に改宗しており、葬儀はイスラム教の儀式にのっとって行われるべきだとした。
これに対し男性の家族は、改宗については何も聞いておらず、男性はヒンズー教徒の教えを実践していたと主張。男性が死亡したことを警察に届け出た後で初めて、改宗とイスラム教での埋葬について聞かされたとしている。
男性の兄弟は、改宗の証拠として渡されたのは男性が書いたとされるメモだけで、メモには男性が書いたことを示す書名や指紋の押印もなく、改宗に立ち会った証人もいないと話している。
家族はペナン高等裁判所による仲裁を求めており、その間、男性の遺体は病院に安置されたままになっている。
マレーシアでは、イスラム教徒以外の家族の反対を押し切って当局が遺体を持ち去る問題が相次いでいる。
さまざまな文化的背景を持つ人々が住むマレーシアでは、イスラム教への改宗をめぐって家族に亀裂が生じ民族間の緊張が高まっていることを受け、政府が改宗に関する新しい法律を提案している。(c)AFP
**************

【多民族国家の今後は?】
日本は世界的に見て最も宗教色の薄い部類の国ですから、宗教・信仰の自由は当然のことのように思われますが、多くの国では難しい問題です。
特に、改宗や他宗派に対し“不寛容”(あるいは“厳格”)とも思われるイスラムと他宗教が共存するマレーシア社会ではいろいろな問題が生じます。

多数派とはいっても65%しかないマレー人の社会的地位が低下するようなことがあると、逆に宗教的主張は先鋭になることも予想されます。
また、野党勢力はアンワル元副首相の人民正義党(PKR)のほか、華人系主体の民主行動党(DAP)、イスラム原理主義の全マレーシア・イスラム党(PAS)(最近は中国系、インド系その他少数民族の権利や利益を認める大変革を図っているという話も聞きますが、どうでしょうか?)という寄り合い所帯ですので、恐らく宗教がらみの問題では統一的な対応は難しいかと思われます。

マレーシアは物見遊山の旅行などで一見すると多民族が協調して生活しているようにも見えます。
民族紛争が多発する世界において、ひとつのモデルのようにも見えるのですが、その実態はやはり難しいものがあるようです。
今後のマレーシアの動向は、ひとりマレーシアの問題に留まらず、異なる民族・文化がいかに共存できるかという大問題へのひとつの示唆になりうるのではないかと考えています。


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インド・ムンバイ 最も危険な列車と女子登校促進“現ナマ”作戦

2008-06-28 19:48:40 | 世相

(ムンバイの通勤列車 “flickr”より By Globe Treader
http://www.flickr.com/photos/globe_treader/2245979671/)

【1日平均死者12人】
未だに旧名称ボンベイのほうが馴染みがいいムンバイ、人口1400万人とも1800万人とも言われる世界最大規模の都市です。
個人的には、3年前に南インドを旅行した際に最後に立ち寄り、両替詐欺で1万円ほど巻き上げられたことがあって、非常にイメージがよくありません。

そんなムンバイから2件、面白い記事がありました。
最初は通勤列車の話題:【6月27日 AFP】。
http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2411105/3081207
なにしろ世界最大規模の都市で、しかも日本ほどは交通インフラも整備されていませんので、ムンバイの通勤列車は世界でも最も混雑する、そして最も危険な列車だそうです。

ラッシュ時には乗車率は250%にもなり、定員200人の車両に500人が詰め込まれます。
鉄道警察の発表では、昨年は3997人が死亡、負傷者が4307人。
今年は、1-4月ですでに1146人が死亡し、1395人が負傷しています。
1日平均12人が列車で死亡していることになります。

にわかには信じがたい数字ですが、死因の3分の1、負傷原因の多くを占めるのは、混雑のため車両に乗り込むことができず、車両の端につかまった状態で無理やり「乗車」したものの、手が離れてしまったというケース。
鉄道当局は「乗客数を制限するという手もあるが、どちらにしても人々は出勤しなければいけない。こうした人々は線路に座り込んで列車の運行を邪魔する」と話しています。

日本の終戦直後の“鈴なり”状態のイメージです。
よくインドやバングラデシュなどの写真で見て“危なくないのだろうか?”と思っていましたが、やはり危ないようです。
話がそれますが、こういった国ではバスの混雑も殺人的で、バングラデシュなどでもバスの屋根に大勢人が乗っています。
車内より若干安く、ずっと涼しい・・・ということのようですが、道路事情の良くない国ですから、大きく揺れたりすると“命と引き換え”になりそうです。

そして、死因の半分近くを占めるのが、線路上を歩いていて列車にはねられるというケース。
隣のホームに移動する陸橋が整備されていないためで、線路を渡るのは違法ですがインドでは珍しくないそうです。

インドに限らず、アジアの国々では“陸橋”なんてしろものがあるほうが珍しいぐらいです。
今年5月に旅行したベトナムでも、ハノイ駅でやはり陸橋がなく、深夜、寝台列車に乗るため荷物を引きずりながら線路を歩いて横断しました。
乗車券のゴタゴタで頭がいっぱいで、何も考えずに手前の線路に止まっている列車の直前を横切ったとき、その列車から大きな警笛。
飛び上がるぐらいびっくりしました。
列車のライトが目に入り、一瞬“轢かれる!”と思ったほどです。

【命の重さ】
1日平均12人通勤列車で死んでいる、それでも乗る方も運行する方も“まあ、仕方がない”・・・通勤事情とか交通問題といったことに留まらず、インドいう社会における“命の重さ”が日本で考えるものとは大きく異なっているということを示唆しているように思えます。
そうでなければ、ムンバイのすさまじいスラムでの生活なんて、想像することすらできません。

【1ルピーの教育革命】
もう1件の話題は、“ムンバイ市内の公立の小中学校では、この4月から、女子にかぎり登校すると1日1ルピー(約2・5円)が支給される”というもの。【6月17日 産経】
http://news.goo.ne.jp/article/sankei/world/m20080617019.html 

授業料は無料ですが、「家の手伝いをさせられるなどで女子児童の出席率が非常に悪い。少しでも、登校させようという気持ちに親がなってくれれば…」・・・ということのようです。
1ルピーの現金収入は、少額とはいえ、スラムに住む貧困層にとって貴重な小遣い銭となっています。

この女子の登校率が悪いという問題は、インド社会における劣悪な女性の地位という根本問題に根ざしたものです。
インドでは妊娠中に胎児が女性と分かった段階で中絶する行為が広く行われています。
医師が胎児の性別を告げることはインドでは禁止されていますが、親の求めに応じ「お子さんは立派な兵士になりますよ」と示唆しているのが実情とか。
その結果、男児と女児の比率は2001年が1000対927。

女の子の誕生が歓迎されない風潮の背景には、一般的な男尊女卑の考え方が根強いということだけではなく、結婚の際、娘の実家が嫁ぎ先に金品を贈るダウリという因習もあります。
経済発展とともにダウリが高額になり、娘をもつ親の負担が増しているという事情があるそうです。

男尊女卑の風潮などから、妊娠・出産時に男女の選別が行われる問題は中国などでも顕著です。
“一人っ子政策”のため、インドなどより激烈とも言えます。
中国では、05年の出生比率は女児を100とすると男児は118.88といびつになっており、この差は農村部では更に大きな数字になっています。
江蘇省連雲港においては、女児100人に対し男児163.5人という結果が出たそうです。
結果として生じた嫁不足のため、女性を無理やり誘拐してくるというような犯罪行為も地方では多く見られるそうです。

【女性大統領は誕生したものの・・・】
インドでは女性大統領が誕生しましたが、それとこれ(一般社会における女性の地位)とは別問題のようです。
インディラ・ガンジー元首相の権威も、彼女がネール元首相の血筋を引いているという事情によるものです。

社会全体における女性の地位の見直しが不可欠なのは言うまでもありませんが、そうは言っても先ずは可能なところから・・・ということでは、“1ルピー”で女性の就学率が少しでも改善するなら結構なことかと思います。
少なくとも“何もしない”よりはずっとましでしょう。
女性胎児の中絶対策などを話し合う会議の場で、「こんなことでは文明社会の一員であると胸を張れない。国家の恥だ!」とシン首相が激怒したそうですから、インドも今後変わる・・・のかな?

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バングラデシュ  マイクロクレジットで貧困から脱出・・・という話

2008-06-27 18:02:02 | 世相

(バングラデシュ NGOのBRACが運営するワークショップとその女性主任 “flickr”より By mknobil
http://www.flickr.com/photos/knobil/66832714/)

【最近の政情 両政界トップを釈放】
バングラデシュでは軍部主導の選挙管理内閣が非常事態宣言のもとで強権的に政界・社会の汚職・腐敗・犯罪一掃を進め、二大政党のトップである前首相・元首相を拘束、年末に総選挙を実施して民政復帰を行う予定であることを6月7日のブログで触れました。

その後、11日にアワミ連盟(AL)を率いるハシナ元首相は仮釈放され、病気治療のための渡米が許可されています。(事実上の亡命、または国外追放)
15日には、もう一方の大物、バングラデシュ民族主義党(BNP)を率いるアジ前首相も釈放されることが発表されました。
(アジ前首相は出国の意向は今のところないと表明しています。)
両者の釈放で、二大政党AL及びBNPの反発を和らげ、年末の総選挙を実現させようとの政府の意向のようです。

【電動リキシャ】
話は全く変わりますが、バングラデシュというと真っ先に思い浮かぶのは、通りに溢れたリキシャの群れ。
やせ細ったリキシャワーラーが力を振り絞って漕ぐリキシャに乗っていると、ちょっと居心地の悪いこともありますが、このほど充電可能な電動リキシャが発売されるとのこと。

“リキシャの運転手は、週7日間、1日最低12時間は働く。1日の稼ぎはたいてい150-200タカ(約200-300円)だ。だが肉体を酷使するその労働には人権団体から「非人道的」との非難が寄せられている。”
“リキシャ台数は推定100万台。その半数が首都ダッカに集中しており、南アジア最悪とも言われる交通渋滞の元凶ともされる。”

ひと晩の充電で丸1日もち、価格は従来の2倍ですが、4倍のスピードが出るので日銭も増え、もとはとれるとのこと。
“貧しい運転手たちの非人道的な働き方に終止符を打ちたかった”というのが開発の動機だったとか。【6月26日 AFP】

そうなれば結構なことですが、他のアジアの国で見られるバイク型のリキシャとどう違うの?という疑問も。
きっとバイクリキシャよりは電動リキシャのほうが、価格が低く燃費もいいのでしょう。
(なお、リキシャは借り受けが多く、1日の賃料が100タカぐらいと前回旅行のとき聞きました。)

【沸騰都市 ダッカ】
そんなリキシャと車と人であふれる首都ダッカが、先日NHKの“沸騰都市”で取り上げられていました。
その大まかな内容は以下のとおり。
***********
世界最貧国のひとつだったバングラデシュは、この5年、5%近い経済成長を続けている。
物乞いで溢れていた通りは、仕事で活気に満ちた通りに変身。
建築ラッシュでレンガは飛ぶように売れる。

その成長の主役は貧困層。
「ダッカに行けば豊かになる」 
政府にも頼れないこの国の人々が自らの力で貧困から抜け出そうとしている。

成長を牽引するのは繊維産業で、雑居ビルに1万を超える縫製工場がひしめいている。
中国の人件費の三分の一の安さを武器にそのシェアを奪い、縫製工場は1ヶ月に50件も増えている。
工員の殆どは10代後半の農村から出てきた女性。
1ヶ月の初任給は、2500円。ミシンをマスターすれば、800円上積みされる。

自転車操業であるが、なんとか1回目の返済をクリア。
経営者「3ヶ月後にまた来てください。見違えるようになっていますよ。」
実際3ヵ月後、工場は数倍に拡大していた。

担保もない起業家に開業資金を融資するのはNGOが経営するBRAC銀行。
BRACの運営資金500億のうち、寄付や援助は2割だけで、残りはビジネスから生み出した自己資金である。
「貧しい人々は援助の対象でなく、自力で成長すると信じている。私達は機会を与えるが、貧困から抜け出すのは本人であり、自らの運命を変えなければいけない。」BRAC創始者の言葉。

女性貧困層を対象にしたマイクロクレジット。
油など日用雑貨を商う女性。
夫の病気のため、仕入れ代金がなくなり、品揃えができず、客足もめっきり減った。
5人組の連帯保証でBRACから借り入れを決意、商品をそろえる。
売上げは狙い通り3倍近くに増えた。

“情報格差が貧困のベースにある”とBRACは格差解消を目指して、インターネット普及にも力を入れる・・・・
**********

【着実な成長】
2年ほど前にほんの数日物見遊山で旅行しただけですが、それでもその国が元気があると聞くと嬉しいものです。
特に貧困層が自助努力によって減少していると聞けばなおさらです。
もっとも、2年前の旅行時の印象は、“インフラが整備されないまま車社会に突入して交通は困難を極めている。産業・社会の基盤となる電力供給が滞りがちで停電がしばしばある・・・”といった感じで、“沸騰”というほどのものではありませんでした。

成長率でみて5%平均ですから、他のアジア諸国(中国、カンボジア、ベトナム、インド、ラオス)に比較してそんなに高いという訳ではありません。“着実に成長している”という数字です。
http://dataranking.com/table.cgi?LG=j&TP=ne02-3&RG=4&FL= )
なお、上記資料によると、アジア諸国のなかで中国を押さえて一番成長率が高いのは、なんとミャンマーです。
本当でしょうか?あの電力事情の悪さのなかでどうしたら10%超の成長ができるのか不思議です。)

“着実な成長”のおかげで、貧困層は確かに減少しています。
国際協力銀行の資料(http://www.jbic.go.jp/japanese/oec/environ/hinkon/pdf/bangladesh_fr.pdf )によると、都市部でも農村部でも貧困層は減少しており、10年前に比べると10ポイントほど低下しています。13~14年前に比べると19ポイント近い大幅減です。
ただ、この間ジニ係数は上昇しており、格差も拡大していることが窺われます。

【BRAC等NGOのマイクロクレジット】
この成長の背景にあるといわれるのがマイクロクレジットですが、ユヌス氏のグラミン銀行(主に農村部に展開)については、私のブログでもこれまで数回取り上げてきました。
今回NHKがとりあげたのは世界最大のNGOのBRAC(Bangladesh Rural Advancement Committee)銀行。
バングラデシュでは多くのNGOがこぞってマイクロクレジットに進出しており、貸付の累積ではグラミン銀行に及びませんが、貸出残高ではNGOがグラミン銀行を上回っています。

貧困解消にも貢献できて、自主財源も稼げる・・・というところでしょうが、なかにはいろんな弊害もあるとか。
“5人組”の連帯保証制度で、他のメンバーの返済にあてるため、なけなしの家財道具を売らせたとか、高利貸しに借金させたとか・・・。
(2月23日ブログでみたように、グラミン銀行は現在“連帯保証制”はとっていません。TVではBRAC銀行の貸出審査で連帯保証を他のメンバーに確認するシーンがありましたが、BRAC等のNGOでの扱いはよくわかりません。)

貸す側が“どのように使っているか”確認せず、返済にしか注目してない場合、借り入れた資金を自分で使わず、他の村人に少しだけ利子を上乗せして又貸しするケースもよくあるとか。
借りた資金を生活のために消費してしまい、余裕のある他のメンバーなどから借りて取りあえず返済しているというような“マイクロクレジット・バブル”の発生も懸念されているとも。
(「社会実情データ図録」 http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1055.html)

“BRACが貧困層の自立に貢献してきたことは分かるが,どうも貧困層がBRACの利潤拡大に利用されているように思われる。”(小柳尚正 http://econgeog.misc.hit-u.ac.jp/mizuokazemi/seminaristen/koyanagi/bridges.htm )といった声もあるようです。

そうそういい話ばかりでもないようですが、2005年末で2250万人がマイクロクレジットを利用しており、貧困家庭の75%をカバーしています。
利用者の殆どが女性であるということから、家庭内での意思決定権、選挙への進出、教育などの非所得面での女性の地位向上に貢献しています。
バングラデシュ政府は、マイクロクレジットを行うNGOを監督する機関“MRA”、NGOへマイクロクレジット資金を提供する機関“PKSF”などの、制度・システム整備を進めています。



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シエラレオネからジンバブエまで  “TIA”(This is Africa.)

2008-06-26 17:05:42 | 国際情勢

(99年当時シエラレオネ政府の選挙スローガンは "The future is in your hands." でした。反政府勢力RUFは“じゃ、投票なんかできないようにしてやろう。”と住民の腕を切り落としました。冗談ではなく現実です。
もちろん、恐怖心を煽るとか、生産力をそぐといった意味合いもあったでしょうが、RUFも自分達の“悪い冗談”を楽しんでいたのでは・・・と思われます。・・・“TIA”
写真は13歳。アメリカ大使館で撮影されたもの。
“flickr”より By Travlr http://www.flickr.com/photos/travlr/83149636/)

【シエラレオネ ブラッド・ダイヤモンド】
先日、公開から1年以上たっていますが、ディカプリオ主演の“ブラッド・ダイヤモンド”を観ました。
アフリカのシエラレオネを舞台にした巨大ダイヤモンド原石をめぐるストーリーですが、90年代末期のシエラレオネの現実を背景したドラマです。

当時、サンコー(99年逮捕、03年病院で死亡)率いる反政府勢力“統一革命戦線(RUF)”が隣国リベリアのテーラー(97年大統領就任、03年失脚亡命、現在国際戦犯法廷において“人道に対する罪”等で公判中)と協力して“シエラレオネ内戦”を引きおこしていました。

サンコーのRUFはダイヤモンドをリベリアに密輸、見返りにリベリアのテーラーから武器や兵員訓練を受けるという関係があり、その関係を支えていたダイヤモンドは映画のタイトルにもなっている「血のダイヤモンド」、あるいは「紛争ダイヤモンド」「汚れたダイヤモンド」と呼ばれていました。
シエラレオネ内戦については07年8月15日(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20070815)で、また、テーラーの裁判については1月30日(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080130)に取り上げたところです。

【手足の切断】
映画の冒頭でRUFが平和な村にトラックで押し寄せ、銃を無差別に乱射して殺戮を行うシーンがありました。
とりわけ強烈なのが、「手があるから投票なんてするんだ。だから投票できないように切り落としてやる。(切り落とす位置は)長手袋がいいか?短い手袋にするか?」と村人の手を刀で切り落とすシーンです。

正視に耐えないシーンですが、シエラレオネ内戦で横行した暴力のひとつで、実際に罪もない何千人もの人々が手足を切り落とされています。
現実は映画のシーンよりもっとむごいものがあります。

アブドル・サンコー(28歳)のケース
マンゴーを探している時に捕らえられた。食料運搬係をすると申し出たが、見覚えのあるゲリラ兵に、教師で裏切り者だと糾弾された。ゲリラは村を焼き払い、彼を告発したゲリラ兵がサンコーの家から斧を持ち出して彼を地面にねじ伏せ、右手を切り落とした。次に左手を切断し、意識を失って倒れておる間に口の周辺を切り、耳の一部を切り取った。そして他の多くの犠牲者に言い捨てたように「(カバー)大統領のところへ行け。大統領がおまえの手を取り返してくれるぞ。」と嘲り笑った。
(佐藤陽介 シエラレオネ―――忘れられた内戦――― 
http://www.jca.apc.org/unicefclub/unitopia/2002/Sierra.htm より)

【少年兵】
映画では、RUFに連れ去られた少年が恐怖と薬物によって“少年兵”に洗脳されていきます。この少年を連れ戻そうと探す父親が、ダイヤ探しと絡み合うひとつの話の流れになっています。
この少年兵も現実でした。RUFだけでなく政府軍も使用していたとも言われます。
シエラレオネだけでなく、スーダンでもウガンダでも見られます。
洗脳しやすい子供は使いやすいのでしょう。
映画の中、10歳ぐらいの子供達が自分の背丈ほどもある自動小銃を構えて無差別に人々を打ちまくるシーンも印象的です。

少年を探す男の妻と娘がいることがわかったギニアの難民キャンプ。
映画ではCGでしょうか。見渡す限り、視界いっぱいにひろがる難民キャンプが圧倒的です。
現実に36万人が国外に避難、このうち24万人がギニアに向かったそうです。

ディカプリオ演じる主人公は極端なアパルトヘイトを行っていたローデシア(現在のジンバブエ)の出身。
革命で母親はレイプされ殺され、父親はかぎで逆さに吊るされた・・・。20歳前後に傭兵としてアンゴラで戦う。
「共産主義と戦っているつもりだったら、資源(石油・ダイヤ)を目当ての戦いだった。」

ローデシアからジンバブエへの移行は、(今ではムガベ大統領が人種対立を煽っていますが、当時は)白人地主を温存する形で比較的融和的に行われ、国際的にも高く評価されたものでした。
しかし、現地では映画のような話“ぐらい”はあったことは想像に難くありません。
特に、ムガベ大統領が白人農園を強制的に接収し始めてからは、ごく普通の光景になったことでしょう。

アンゴラも東西冷戦下でのアメリカ・ソ連・中国の代理戦争、冷戦終結後は石油とダイヤモンドに支えられた資源戦争が、いつ果てるともなく続きました。

【傭兵】
映画では、このアンゴラ、シエラレオネで活躍(RUFにダイヤと引き換えに武器を売り渡す一方で、政府軍に雇われてRUF鎮圧を行う)する傭兵隊長“コッツィー大佐”という人物が登場します。
現実世界では最近、04年に赤道ギニアで発生したクーデター未遂事件の首謀者とされる英国人雇兵、サイモン・マンが話題になっています。
この事件はイギリス元首相サッチャーの不肖の息子もからんだ事件ですが、マン被告は18日、“南アフリカ、スペイン、米国の各国政府がこの赤道ギニア大統領転覆計画を承認していた”と証言しました。
南アフリカの秘密情報局の長官から、クーデターを実行せよという内容のメッセージを受け取っていたと話していますが、南ア外務省は翌19日夜「荒唐無稽でこっけいな証言。繰り返し言うが、被告は自らの行為の結果を受け止めなければならない」との声明を発表しました。

【TIA】
映画には他にも多々、印象に残るシーンがありますが、一番頭にこびりつくのは、話のあちこちで、ときに自嘲的に口にされる言葉“TIA”(This is Africa)でした。
手足の切断、少年兵、レイプ、利益に目のくらんだ政府軍、裏切り、貧困・・・人命の重さなど全く感じられない世界・・・TIA。

「全て白人たちの植民地のせいだ。外国人をみんな殺せ!」・・・そんな理性のひとかけらもない言葉であっても、現実の圧倒的な貧困、格差のなかでは、そこから這い上がれずにもがき苦しむなかにあっては一抹の共感も否定しきれない世界・・・TIA。

「このアフリカの赤土を見ろ。俺達の血を吸った色だ。」(コッツィー大佐)、「こんなアフリカなんか誰も関心はない。RUFだってこんな国を治めるつもりはない。ダイヤを手にしてこの国を出るんだ」(RUFの部隊長)・・・TIA。

内戦に苦しむアフリカ、TVの画面に映される国際ニュースはクリントン大統領の不倫騒動。
“紛争ダイヤモンド”取引を否定する欧米各国、独占ダイヤ取引企業。
先進国女性の手を飾る“ブラッド・ダイヤ”・・・TIA。

【ジンバブエ】
最近でもスーダン、和平交渉の行き詰るウガンダなど、TIAの現実はいくらでもありますが、ローデシアの生まれ変わりジンバブエでは、与党・ムガベ大統領の暴力によって、ついに大統領選挙の決選投票から野党候補が離脱する事態に。

欧米はもちろん、周辺国も非難を強めており、国連安全保障理事会は23日、ジンバブエ政府を非難する議長声明を中国、ロシア、南アフリカも含む全会一致で採択しました。
また、ネルソン・マンデラ前南アフリカ大統領は、英ロンドンで開催された同氏の90歳の誕生を祝う夕食会で、「隣国ジンバブエの指導者らによる悲劇的な失敗」について「人類の進歩を振り返ってみると、残念ながら同じような失敗がくり返されている」と指摘しています。

ツァンギライ議長は「これは全面戦争であり、選挙ではない」と、国際社会の平和維持部隊による解決を呼びかけています。
しかし、「米英がいかに批判を強めようとも、最後に決めるのはジンバブエ国民だ」と居直るムガベ政権に対し、非難する以上の手立てがないのも現実。
軍事介入となると実現は難しい情勢です。南部アフリカ開発共同体(SADC)も25日、スワジランドで会合を開きましたが、ジンバブエに影響力を持つ南アのムベキ大統領は欠席しました。

また、4月に周辺国での荷揚げ拒否というかたちで、ジンバブエ向け武器売却を米国などの国際圧力で阻止されている中国は、「大統領選を行って、国の安定を取り戻すよう期待する」(劉建超・中国外務省報道官)など、内政不干渉をたてにムガベ政権を支持する構えをみせているとか。

This is Africa. ・・・と言うより、 This is World.か?


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イラン  テヘランの女性専用公園、“癒しの島”キシュ島

2008-06-25 15:46:35 | 国際情勢

(イランのリゾート地“癒しの島”キシュ島 いい雰囲気です。イランは是非訪れたい国のひとつです。突然の爆撃とかなければ。
“flickr”より By N_Creatures
http://www.flickr.com/photos/anitzsche/2319644574/)

イランの核施設が攻撃された・・・との噂が一時市場に流れたようですが、イランはこれを否定。
シリアの例はともかく、さすがにこれはデマだったようです。
ただ、イスラエルはイラン核施設攻撃を想定した大規模演習を行っているそうですから、そのうち・・・ということはありえます。

国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長が20日、「情勢は深刻かつ、切迫している」とした上で、もし対イラン攻撃が実施されたら辞任する旨を発言していますので、現実味を帯びているのでしょうか?
一方で、欧州連合(EU)はアメリカの要請にこたえて23日、核開発疑惑を抱えたままウラン濃縮活動の停止に応じていないイランに対する新たな制裁措置で合意しました。
追加制裁措置の内容は、イラン最大の国営メリ銀行のEU域内の資産凍結と営業停止が柱で、さらに、イランの核・弾道ミサイル計画にかかわっていると欧米諸国がみなす担当者・専門家の入国が禁じられる見通しです。

シリア、レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマス、イラクのシーア派組織など、中東全域にいまや強い影響力を持っているイランとの衝突となると、大変な問題になります。
そんな物騒な話はメジャーなメディアに任せて、今日はイラン社会の一面を伝える記事2件から。

【テヘランに女性専用公園】
ひとつは、首都テヘラン初の「女性専用」公園が5月にオープンしたという話題。
(6月19日 AFP http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2407336/3042770)

「母親たちのパラダイス」と名づけられたこの公園は、金曜日以外は男性の立ち入りが全面的に禁止されます。
男性の門番が入り口に立ち(公園内スタッフは全員女性)、周囲には高さ4メートルの鉄板がめぐらされ、男性たちののぞき見を防いでいるそうです。
公園内では、ヘッドスカーフとコートを脱いで、タンクトップ姿でジョギングを楽しんだり、バドミントンに興じる女性などが見られるとか。
また敷地内では青空エアロビクス教室が開かれ、サイクリングコース、体育館、アーチェリー場まであります。

アフマディネジャド市長(当時)が大統領選に当選した後任に、同氏とは不仲だった実務派のカリバフ氏が市長に当選したことで、長期間延期されていた計画が現実したもので、市長は同様の公園を今後数か月で少なくとも3つ作る計画だそうです。

これに対し、「2009年の大統領選で女性票を集めたいというのが市長の魂胆よ」との声も。
ジェンダー学を専攻している大学院生の女性は、「責任ある市民として行動し、女性を敬うよう、男性たちを教育する必要がある」と。

もちろん上記意見のように、そもそもこのような施設が必要になること自体が、現実イラン社会あるいはイスラム社会において、いかに女性が制約されているかを示している・・・とも解釈できます。
その一方で、“まあ、こんな施設が出来るだけましでは?イランも思ったより柔軟な社会なのかも。少なくともタリバン支配のアフガニスタンではありえないし・・・”とも思えます。
また、“大統領選挙のための人気取り”というのも、ある意味ではイラン社会が“選挙による民意”という“民主主義”をベースにしていることを示している・・・ともとれます。

【経済特区 キシュ島 “癒しの島”へ】
もうひとつの記事はイラン南部、ドバイの対岸にあたるキシュ島の話題。
(6月24日 毎日 http://mainichi.jp/select/world/news/20080624ddm007030007000c.html)

この島は関税が減免された一種の経済特区で、かつて外国製品が安く買える「買い物天国」としてイラン人の人気を集めましたが、今は国内客向けの観光リゾートに変容しているそうです。

“ヤシの街路樹が整備された島は、南国ムードが漂う。中心部の大型ショッピングモール「楽園」の洗練された造りや雰囲気はドバイに見劣りしない。女性はヘジャブ(ベール)を外せないが、髪の露出はテヘランより進んでいるようだ。”

しかし、輸入品に関しては、今や乗用車などを除き、全国どこでもキシュ島と同じ程度の値段で輸入品を購入できるそうで、米国製家電の代理店社長(46)は「イスラム革命後は自主自立へと経済統制を強めたが、今は逆に規制緩和を進め、徐々にグローバル化に向かいつつある」と指摘しています。

“(キシュ島は)最近はオイルマネーなどで潤った中間層以上が都会の騒々しさから逃れる「癒しの島」になっているという。近場の海外旅行先ドバイに比べ、宗教的な制約はあるが、イランの変化の最先端をのぞくことができる。”

【キシュ島の石油製品商品取引所】
また、キシュ島で今年2月、石油製品の商品取引所が開設されました。
“イラン核問題に絡み、米国で「イラン脅威論」が高まる中で開設準備が進められたため、「取引通貨をユーロにして米国の『ドル支配体制』に挑戦する狙いでは」との観測を生んだ。だが、取引通貨は当面イラン・リアルが中心だという。”
“仮にイランにユーロ建ての指標ができ、取引が活発になれば、国際的なドル離れが加速する。「オイルユーロ」への移行はドルの暴落と米国の弱体化につながる--。そんな指摘も流れた。”
“イランは外貨準備高(外貨の蓄積)の基軸通貨をドルからユーロへと切り替えているが、近い将来に予定している原油取引を含め、すべての商品取引をユーロに転換する方針だ。ユーロの価値が高まっているし、米国と政治的に敵対しているという理由もある。”

現状は“まだ外国企業の参加はほとんどなく、助走段階”といったところのようです。
また、今後の取引拡大については、アメリカとの関係を修復しない限り、期待している親米のアラブ湾岸諸国の参加は望めないというジレンマがあります。
また、ユーロ建てについては、湾岸諸国は自国通貨のレートをドルに連動させるペッグ制を採用しており、ドル下落は自国通貨の価値を下げることから、ユーロ取引は乗り気ではないだろうという推測もあるとか。

【石油依存のイラン経済】
イランにおける石油の役割については、“アフマディネジャド政権の経済政策は最悪だが、国家経済が破綻(はたん)しないのは石油があるからだ。国民の不満や経済失政の穴を石油の利益で埋め合わせてきた。イラン経済は石油という薬物に依存するスポーツ選手のようなもので、薬が切れると倒れてしまう。”
“石油が豊富で、国民の税金をあてにする必要がないので、国民の意思を反映した政治システムが確立しない。つまり、石油は非民主的な権力がその足場(支配力)を強めるのを助けてきた。「民主主義」の発展を阻害してきたとも言える。”との指摘があります。【6月24日 毎日】

先のキシュ島のモデルとも見られるのが対岸のドバイ。
“世界の中継貿易地”として脚光を浴びるドバイ首長国は原油の埋蔵量が少なく、将来への危機感から多角化に取り組み、いち早く石油依存経済を脱却しました。

“ドバイは市場を開放して外国資本を導入。GDPの石油部門の比率は90年の3割に対し、今や5%を切る。
一方のイランは現在、7割超。輸出収入の8割以上を石油に頼る典型的なモノカルチャー経済である”

そのドバイは経済制裁を受けるイランの部流基地でもあります。
“ドバイと好対照のイランだが、ドバイの急成長にイランの存在が極めて重要な役割を担ってきたことは見逃せない。ドバイは、核問題で国連安保理の経済制裁決議を受けたイランへの物流最前線だ。ドバイが輸入する物資の7割は再輸出されるが、うち7割がイラン向け。米国製品もドバイ経由でイランに流れる。”

テヘランの女性専用公園、“癒しの島”キシュ島・・・核開発疑惑をめぐる欧米との応酬からは窺えない、イラン社会のまた別の側面が垣間見えます。
イランが今後“脱石油”を実現していくうえでは、アメリカ・イスラエルとの関係を安定させ、外国資本が流入できる環境を整える必要があります。
核開発をめぐる“危機”は、その意味でもイランにとっては望ましからざる状況のように思えます。
ただ、イスラエル・アメリカの意向もまたありますから・・・。



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ミャンマー  スー・チーさん、軟禁下13回目の誕生日

2008-06-24 13:45:34 | 国際情勢

(サイクロン被災者にその救援活動について訊ねる軍幹部 “flickr”より By TZA
http://www.flickr.com/photos/tza/2475555228/)

ミャンマーからの報道は相変わらず暗澹たる気分にさせるものばかりです。

*****ビルマ(ミャンマー)軍政、被災者に退去強要*****
「ビルマ当局は、サイクロン被災者に対して避難シェルターからの強制退去や支援物資の没収を行っている」。国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(AI)は今週バンコクで、更なる苦難に直面している被災者の現状について報告した。
 同団体によると、サイクロン被災者のための一時避難場所となっている修道院や学校では、ビルマ軍政および軍主導の大衆組織USDA(連邦団結発展協会)が多くの避難民を追い出しているという。
 AIは、軍政による強制退去の報告をこれまでに30件以上把握していると発表。また、軍政による援助物資の押収や横流しなど不正行為についても40を越える報告があるとしている。
 国連緊急援助調整室(OCHA)のスポークスマンはIPSとの取材に応じて「ビルマ当局の行為は国際法に違反しており、決して許されるものではない」と語った。
 国連は今週、「サイクロン発生から1ヶ月が過ぎ、援助を受けることができた被災者は僅か半分ほどである」と話した。現在もなお、国際援助機関による被災地への立ち入りは制限されている。国連事務総長と軍当局との話し合い以降、デルタ地帯に入ることを許された国連機関や援助団体の数は僅か20である。【6月13日 IPS】
********************

一方で、民間のサイクロン被災者支援活動は、軍政には反政府活動に通じるものと映るようで、これら活動に対する軍事政権の妨害も行われています。
とにかく自分達意外が社会的活動を行うこと、その結果自分達の無策ぶりが明らかになることを恐れているようです。

*****ビルマ(ミャンマー):民間人の災害復興支援/援助活動は犯罪?******
トゥーラー氏は5月3日のハリケーン被害者のために寄付を募り、援助を行うグループを主宰していた。この団体は作家、芸術家、役者、コメディアンなどが参加する総勢420人のボランティアグループだった。
 6月に入り、警察がトゥーラー氏をラングーンの自宅から連れ去り、いつ釈放されるかわからない。警察は同時にサイクロン被害者と援助活動の画像を記録したコンピュータも持ち去った。トゥーラー氏は1988年と2007年にも軍事政権の抑圧に抗議する学生や僧侶への支援活動で逮捕されている。
 ビルマで長年活動するキリスト教慈善団体「ワールド・ビジョン・インターナショナル」のディーン・ハーシュ総裁はIPSの取材に応じ、市民グループ、ビジネスマンが逮捕を恐れながらも、積極的に独自の支援を組織している様子を語った。さらにハーシュ総裁は僧侶の活動にも言及。僧侶は政府や国際的NGOが入り込めないような地域にもアクセスを持ち支援活動を指導しているという。
 ビルマの安全保障専門家ウィン・ミン氏は「寺院を被災者に開放するなど支援を惜しまない僧侶と人々の間に心の絆ができた。無能力振りを露呈した軍事政権は、この絆を軍事政権への脅威として恐れる」と説明。アムネスティ・インターナショナルは、ボガレの僧院に避難した人々が政府によって排除されたと報告している。【6月15日 IPS】
*******************

更に、軍政による“官僚主義的な手続き”が支援活動を阻害しているという報告もあります。
国連や人道支援団体は支援活動を行うために2~3の省庁から許可が必要とされ、その手続きによって支援物資やスタッフ派遣が遅れ、多くの被災者を苦しめています。
その結果、「ビルマのサイクロン被害で未だに100万人以上の被災者が全く支援を受けられない危機的状況にある」(国連)、「搬送した支援物資1万1,046トンのうち、6割しか被害者に届いていない」(世界食糧計画(WFP))という状況にあります。

【軟禁下13回目の誕生日】
一方、アウン・サン・スー・チーさんは19日、63歳の誕生日を自宅軟禁下で迎えました。
3回に及ぶ断続的な拘束・軟禁により、拘束・軟禁下での誕生日は今年で13回目ですが、解放への展望は全く見えていません。

国内の民主派などは「国家防護法の定める軟禁期間は最長5年」と主張していましたが、軍政は「同法は1年を限度とする軟禁と5年を限度とする延長を定めている」とし、最長6年の軟禁は「適法」との見解を公表しました。
軍政は軟禁開始の起点を03年5月の拘束時ではなく、同年11月の尋問終了時に置いていると見られるため、スー・チーさんの軟禁は09年11月まで続く公算が大きいとされています。
更にその後についても、軍政筋によると、「一時解放後に再拘束し、新たな6年の軟禁下に置く」という選択肢も軍政内部で語られているとか。 【6月19日 朝日】

【軟禁生活の様子】
3回の拘束・軟禁を合計すると、すでに12年半という長期に及んでいる軟禁生活の詳細を上記記事が伝えています。

**********
 自宅には支援者の63歳の女性とその娘(34)が住み込みで料理など、身の回りの世話をしている。女性たちは日常生活に必要なものはメモ書きにして、敷地の入り口の警官詰め所で、買い物係の支持者の男性(45)に渡し、買いに行ってもらう。
 軍政は一切費用負担しないが、ミャンマー中部に住む支持者の宝石商の女性が、ヤンゴン在住の男性を通じて必要な代金を支払うなど支持者に支えられた生活だ。
 スー・チーさんが生まれた火曜日と、「ビルマ建国の父」でもある父、故アウン・サン将軍が生まれた土曜日には好物の野菜カレーを食べるという。近所の料理店の出前をとることもある。料理店は、スー・チーさんの健康を気遣い、化学調味料を使わず、塩分を少なめにするなどしているという。
 健康を維持するため、エアロビクスを習慣にしているという。朝晩は仏像の前で祈り、日中は瞑想(めいそう)するなどしている。健康とされるが、最近は軍政が担当医の訪問を許さず、診断が受けられない。
 自宅訪問は、上層部の許可がなければ、軍政関係者ですら禁止。電話線は切断され、外部と連絡はとれない。テレビや新聞はあるが、「軍政のプロパガンダが著しい」として見ていないという。反軍政側や海外のニュースも入るラジオが唯一の情報源という生活だという。 【6月19日 朝日】
************

少し個人的に心配なのは、外部との接触を絶たれた軟禁生活によって、思考が次第に先鋭化したり硬直化したりすることがないのか?いわゆる“浮世離れした”精神状態にならないのか?ということです。
「軍政のプロパガンダが著しい」とテレビ・新聞は避けているようですが、開放後に国民を率いるリーダーとして現実に柔軟に対応していくためには、テレビ・新聞から伝わる普通の人々の暮らしぶりとの共感を保ったほうがいいような気がしますが・・・。
そうでなくても、彼女は庶民とはかけ離れた“エリート”“お嬢様”でもある訳ですから。

それから、こんな記事もありました。
*****韓国などの国際共同事業体、ミャンマーの天然ガスを中国に販売へ****
ミャンマー沖で2つの海上ガス田を操業する国際コンソーシアム(共同事業体)の中核である韓国の大宇インターナショナルは23日、産出した天然ガスを中国石油天然気集団公司(通称ペトロチャイナ)に販売する内容の覚書を前週交わしたと発表した。【6月23日 AFP】
*****************



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子供を取り巻く環境  紛争・貧困・疾病

2008-06-23 13:32:48 | 世相

(スーダン北部の少女 砂漠をロバで水汲みに出かけるのが毎朝の日課 “flickr”より By Vit Hassan
http://www.flickr.com/photos/vithassan/132763499/)

最近目にした児童・子供に関する記事をピックアップしてみました。

【少年兵】
紛争が続くスーダンから。

*****【6月8日 AFP】スーダンのダルフール地方から隣国チャドの難民キャンプに逃れてきた子どもたちが誘拐され、武装勢力に売られたのち、少年兵としてスーダンに送られていると人権擁護団体が発表した。
難民キャンプの指導者らによると、子どもたちは「白昼堂々と誘拐され、近隣で活動する武装勢力に売られている」という。人身売買の対象になっているのは主に9-15歳の少年だという。*****

【栄養失調・コレラ】
世界で年間約970万人が5歳の誕生日を迎えられずに命を落とし、また、飢えが原因で約5秒に1人の子どもの命が消えています。
先日20日は「世界難民の日」でしたが、多くの難民を抱えるスーダンでは大きな困難が人々にのしかかります。
とりわけ、弱い立場にある子供達に。

*****【6月20日 毎日】ユニセフが支援する同国南部ジュバの「アルサバ子ども病院」。薄暗い病室のベッドで、サンデー・ポニちゃんが点滴を受けながら寝ていた。重度の栄養失調とコレラに苦しんでいる。体重はわずか6キロ。腕は折れそうなほど細い。目からは生気が失われ、体は微動だにしない。母マリエアさんが不安そうに見守る。
マリエアさんは野生の果物を探しては子どもに与え、自分は何も食べずに水を飲んだ。だが、母乳が出なくなり、生後間もないサンデーちゃんは栄養失調に陥った。約70キロの道のりを2日間夜通しで歩き続けて病院にたどり着いた。
病院での食事は持参が原則。付き添うマリエアさんは、隣の人の食事が幸運にも余れば分けてもらっている。彼女は懇願した。「子どもの命だけは」。それ以上は何も言わずにうつむいた。******

【マラリア】
蚊が媒介する伝染病「マラリア」で命を落とす人は世界で年間100万人以上います。このうち約8割はサハラ砂漠以南のアフリカに暮らす5歳未満の子どもだそうです。
スーダンでは、蚊帳のあるベッドで寝ている5歳未満児は約2割。
スーダン南部では年間約2万7000人の子どもがマラリアで死亡しているそうです。

*****【6月20日 毎日】スーダン南部・ジュバ中心部から約2キロのカトゥール診療所。医師は1人だ。待合室には高熱の子どもを抱えた母親たちが列をなしていた。
エマニュエラ・ロレンスちゃん(生後5カ月の女の子)。採血検査の結果、「マラリアですね」と医師。母親のシアナさんは覚悟していた様子でうなずいた。
診療所では薬は無料だが、在庫がなければ市場の薬局などで購入するしかない。治療薬は最低でも5ドル。平均的な家族が1週間暮らせる額で、貧しい人々には手が出ない。診療所は薬の補充を政府に要請したが、2週間たっても返事はない。
結局、薬をもらえなかったシアナさん。「子どもを助けたいけど、どんなに頑張っても薬を買う余裕はない」。しがみつくエマニュエラちゃんを抱き、静かに診療所を後にした。******

【エイズ】エイズに関する、当然とも思える報告

*****【6月20日 IPS】HIV感染率が10%を上回る社会に住む子供たちが教育を受ける機会は、通常の半分ぐらいしかないことが明らかになった。
親がエイズによって死亡すると、多くの子供たちは学校を離れることを余儀なくされる。それは、心理的なストレスが原因の場合もあるし、家庭の経済状況がそれを許さなくなる場合もある。
国連によれば、エイズによって親を亡くした子供の数は、2000年の850万人から2006年の1400万人まで急拡大しているという。こうした子供の80%はアフリカにいる。*****

【児童労働】
次は児童労働に関するエジプトからの記事ですが、別にエジプトに限らず広く途上国全般に見られる問題であり、エジプトより更に過酷な環境も珍しくはないかと思います。

*****【6月16日 AFP】国民の20%が貧困ライン以下、もう20%が貧困ライン上ぎりぎりの暮らしをしているエジプトでは、子どもは必須な働き手であり、子どもの労働は当たり前の光景となっている。
エジプトの子どもの10人に1人は、働かざるをえない状況にある。ユニセフは、エジプトの6-14歳児の就労人口を270万人(全15歳未満人口の10%)と推定している。
また、彼らの労働環境は劣悪な場合が多いという。
エジプトは世界10位の綿花生産高を誇るが、5月からの収穫期には約100万人の子どもが駆り出され、1日11時間労働をさせられていると、ユニセフは指摘する。
エジプトは1990年の「子供の権利条約」を批准している。
2年前にはスザンヌ・ムバラクエジプト大統領夫人が国際労働機関(ILO)と共同で「子どもの労働にレッドカード」キャンペーンを展開するなど、政府はたびたび啓発に力を入れているが、同条約の内容は無視され続けている。*****

【新日系人】
次の記事は日本が深く関わっている問題。フィリピンから
父親が引き取りにきてくれるだけ、まだ救いのあるケースでしょうか。

*****【6月20日 毎日】日本人の父とフィリピン人の母の間に生まれ、母とともにフィリピンで暮らしていた日本国籍を持つ男児(8)が母に物ごいを強いられたうえ、結核を患い、路上で泣いて立ちすくんでいるところを昨年6月、孤児院に保護された。「新日系人」は数万人ともいわれ、厳しい暮らしを強いられる例も多い。
男児は両親の離婚後、03年に母とフィリピンに来た。姉2人は日本に残り、家族は離れ離れになった。
当初、母子は親類の家で暮らしていたが、日本でためた金が底をつくと友人の家を転々とし、最後はマニラ首都圏で路上生活をするようになった。
保護された時の男児は、あばら骨が浮き出るほどやせ、結核にかかっていた。物ごいを拒む男児に母は暴力を振るったという。
知らせを受けた父は今年3月、フィリピンに飛んできた。「この子は、これまで見たこともない輝くような笑顔を見せ、足にしがみついたまま離れなかった」と、孤児院職員のレルマさんは対面の様子を話した。*****


ほんの10日ほど振り返るだけで、このような記事が簡単に集められるというのは全く残念なことです。
日本も紛争・貧困・疾病に苦しむ人々・児童に向けた援助・支援の取り組みをこれまで行ってきています。
もちろん、国内にも資金を必要とする緊急の課題はいくらでもあります。
上記のような問題は第一義的にはその国の問題であり、途上国側の政治・社会システムが改善されない限り根絶ができない問題でもあります。

ただ、そうであっても、日本における人々の暮らしぶりを考えれば、まだまだ協力できる余地があるように思われます。
そして何よりも、単に政府が資金をいくら拠出するというだけでなく、ひとりでも多くの国民がこうした世界の現状に関心を向けるような取り組みが一番求められているように考えます。

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中国  四川大地震義援金に見る中国社会のひとつの側面

2008-06-22 11:50:42 | 世相

(香港での募金活動の様子 日本人的には“募金箱は中が見えないものにして欲しいのだけど・・・”とも思ってしまいます。“flickr”より By eightland  
http://www.flickr.com/photos/eightland/2501882838/)

中国・四川大地震は中国社会に大きな衝撃を与え、全国・各界から義援金が集まりました。
その義援金に関する面白いレポートを2件目にしました。
中国社会の一端を窺わせるものです。

ひとつは「四川大地震義援金で中国社会はどう人物評価する?」(張旭梅 6月6日 IPS)。
http://www.news.janjan.jp/world/0806/0806050843/1.php

【義援金ランキング】
中国では、有名人や大手企業が寄付した義援金や義援物資の金額がマスコミに公表され、ネットサイトにはこれを受けた「芸能界義援金ランキング」「スポーツ界義援金ランキング」「企業義援金ランキング」など、たくさんの義援金番付があって、これがネットサイトで熱い議論を呼んだそうです。

中国国内でも人気がある香港のトップスターの義援金はランキングでは10万元(日本円で150万円)。
「地位に比べて金額が少ない」「10万元だけじゃ、がっかり」、「義援金はその人自身の価値を示しているんだ」とネットユーザーの間に不満の声が多かったとか。

義援金の額は一般人でも悩ましい問題で、企業内では“周りの人の寄付金額を見ながら自分の年齢と職階にふさわしい、最も無難な金額を寄付するのがルールだ。特に自分の上司よりも多く寄付するのはタブー”とか。
これは日本でも同じで、例えば“慶弔金相場”みたいなものがネット上で山ほどあるのは、日本人も同様の悩みを抱えているからです。(私個人もよくこの手の問題に悩みます。)
今回もこのルールに従って、上司を越えないように抑えた額にしたところ、周囲はずっと多額を寄付しており、とんだ赤っ恥をかいてしまったというケースが紹介されています。
ひとつの問題は、誰がいくら寄付したかが広く公開されてしまうところにある訳ですが、その点はまた後ほど。

大手企業の義援金ランキングでは、外国系企業より中国企業の方が随分多額の寄付をしていたことがわかり、「今後は中国企業を応援し、国産品を使おう」とネット上で呼びかける意見が多く寄せられたそうです。

【「不動産王」の失敗】
ネット上で一番話題になったのが、著名な「不動産王」のケース。
この社長の不動産開発会社は業界トップで、年間の売上高523億元で、純利益は48億元。
今回220万元の義援金をだしたのですが、これが少なすぎるとしてネットで袋叩きにあったそうです。

220万元というと約3300万円ですから、特に中国の物価水準を考えるとかなりの高額に思えるのですが、ネット上では「1000万元を出す企業もあるのに比べ、本当に少ない」「あんなに儲けているのに、これしか寄付しないなんて、もう呆れた」「この企業のマンションと株は買わないことにする」・・・等々の批判が寄せられたそうです。
社長は「中国は災害の多い国だから、(企業の募金活動は持続しなければならないので)寄付が負担になってはいけない」等の釈明をしましたが、結局“1億元(約15億円)”追加募金を公表するはめに追い込まれました。
しかしそれでも、「イメージアップの演出にすぎない」と評判はよくないとか。

もちろん中国でもこのような“格付け”を問題にする意見も多く、義援金格付けの是非についてネットからマスコミまで広く議論されているそうです。
金額で愛国心の程度は量れないとか、大災害の前では経済的に余裕のある人は義援金、余裕のない人は気持ちだけでいいとか、基準を定めると家計の苦しい人には負担となって慈善事業の本来の意味もなくなる、格付けはやめようと呼びかける声が多く寄せられているそうです。

義援金をめぐる同様の騒動に関するもうひとつのレポートが「四川大地震、救援募金の多寡で揺れ動いた中国社会」(姫田小夏 6月18日 DIAMOND online)。
http://news.goo.ne.jp/article/diamond/world/2008061804-diamond.html

【募金システム】
中国での募金活動については、次のように説明されています。
“企業単位、学校単位、そして町内単位で、募金運動はほぼ100%に近い参加で行われた。「市」は「区」を管理し、区はその下に枝分かれする「街道(ジエダオ、町内の意)」を、街道はさらにその下に広がる居民委員会を、そして居民委員会は「小区(シャオチュー、団地からなるコミュニティに相当)」を管理しているのだが、今回の募金も、このように日ごろから市民管理に使われるネットワークを使って見事に吸い上げられた。”

こうしたシステムに加え、募金箱の横に係りの人間がたっており、しかも、そこに置かれた「紅板」という赤いボードに各人の義援金の額が書き込まれるという状況で行われるので、それ相当の額を出さざるを得ない雰囲気があるそうです。
ちなみに、これも中国だけでなく、似たようなことは日本でも見られます。
お祭りなどで、町内会への寄付金額が「だれそれさんから幾ら戴きました!」とみんなの前で読み上げられるとかはよくあることです。
なんとかの羽根募金でも、仕事上関係のあるひとが職場へ寄付を求めてまわってくると出さない訳にはいきません。「みなさんいくらぐらいですかね?」「いえ、もうお気持ちで。まあ、大体、このくらいが多いようですが・・・」「じゃ、私もその額で」なんてこともよくあります。

話を中国に戻すと、このような仕組みもあって、生活が楽ではない人々も“はした金を出す訳にはいかない”ということで、3日分の食費に相当する100元(1500円)を寄付する主婦、200元を出すアパートで寝たきりの病人・・・といったことになるそうです。
“「紅板」は「どんな貧困層でも50元は当たり前」と無言で語り、庶民は物価高の苦しいさなかをなけなしの財布からひねり出した。”

【日本人駐在員は・・・】
逆に、募金額が桁違いに少なかったのが、外国人駐在員が最も多い居住区だったそうです。
誰がいくらを寄付したかマンションの掲示板に張り出されているのですが、高収入の外国人家庭にもかかわらず、その金額は4割近くが10元、20元、50元などの2桁の募金。
とりわけ、日本人の募金が少なかったとか。
月1000元ぐらいの収入しかない門番でも20元とか50元は出しているのに、日本人の寄付は10元(150円)。
「駐在員の身分でたったの10元?」「門番と同じか、それ以下じゃないの!」と出入りの家政婦たちはささやきあっているとか。
中国人のホワイトカラーの場合、外資系に勤務となれば収入の10分の1に相当する1000元程度の寄付は当たり前で、「外資系ホワイトカラーだったら500元、600元は最低ですよね」とも。

もちろん、寄付行為は“気持ち”の問題であって、額の問題ではない・・・当然です。
自国民と外国人では差がある・・・それもそうです。
ただ、その土地で暮らす以上は、周囲からどのように見られているのか、もう少し配慮があってもよさそうな気がします。
きつい言い方をすれば、外国人だけ固まって特殊な地域に住み、中国社会でも富裕な人々を相手にビジネスを行い、一般の中国の人がどのように見ているかとか、中国社会での一般的習慣なんて全く関心がないでは・・・とも推測されます。
それでは、まるで昔の植民地に本国から乗り込んだ役人みたい・・・と言うと言い過ぎでしょうか。

【「気は心」ではない社会】
最初のレポートでも取り上げていた、「不動産王」のケースがここでも話題になっています。
“メンツの国の怖さというものを垣間見た瞬間である。この国では、「気は心」という言葉はほとんど通じない。人にものを贈るときは高価で豪華なものでなくてはならない、という暗黙律があるし、人々は「気は心」から来る「小さな贈り物」などは何の価値も持たないと切り捨てている。もちろん、寄付金なども「善良な気持ち」や「好意」なんかで行なうものでなく、PRに使えなければ意味がない。”

「気は心」が通じない国というのは、日本からすると“はしたなさ”“粗野さ”のイメージにもなります。
ただ、つい50年前、毛沢東の大躍進政策の失敗で2000万人が餓死したという社会です。
それまでも、清朝末期の混乱、列強の進出、日中戦争と絶えず庶民の暮らしは極限状態に置かれてきました。
生活の厳しさは日本とは全く違うものがあります。
“生きる”ことに必死な社会では、形あるものだけが信頼されることもあるのでしょう。
一昨日も触れた精神風土の違いに加えて、そこらが反映した風潮とも思われます。

そうした面は豊かさが社会全体に広がるなかで、少しずつ変わっていくところではないかと期待していますが、当面はそのような日本文化との差異を踏まえて付き合うことが大切でないかと思っています。
9月に北京を旅行しようかと計画しています。
なかなか休日がとれないので、弾丸トラベルになりそうですが、長城ハイキング(金山嶺から司馬台)も予定しています。
「気は心」が通じないとなると、チップなんかははずんだほうがよさそうですね。


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ジンバブエ  ムガベ大統領「私を解任できるのは私を指名した神のみだ」

2008-06-21 13:38:29 | 国際情勢

(上機嫌で談笑するムガベ大統領(左)、ヨーロッパ最後の独裁者とも呼ばれるベラルーシのルカシェンコ大統領(中央)、ご存知ベネズエラのチャベス大統領(右) 役者がそろっています。 06年の国際会議での写真 “flickr”より By ethanz http://www.flickr.com/photos/ethanz/249250325/)

【神の指名】
これまで何回か経済崩壊、ムガベ大統領の強権政治、不正が懸念される大統領選挙について取り上げた南部アフリカ・ジンバブエ。
(最新ブログでは6月6日 http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080606

そのムガベ大統領が演説で「(対立野党である)MDCがこの国の政権を握ることは永遠にない。わたしを解任できるのは、MDCでも(旧宗主国の)英国政府でもなく、わたしを指名した神のみだ」と述べたそうです。
誰でもおかしいと思うように、明らかなすり替えがあります。
ムガベ大統領をかつて指名したのは“神”ではなく“国民”です。(前回選挙も疑念がもたれていますが・・・)
その“国民”が選挙でMDCを指名すれば当然に交代しないといけない・・・自明のことです。
その“自明のこと”が履行されないというのがジンバブエの現実です。

【対立野党への弾圧】
大統領選挙の決戦投票は今月27日に迫っていますが、19日には対立野党MDCのナンバー2でもあるテンダイ・ビティ事務局長が国家政権転覆罪などで訴追されました。
有罪の場合は死刑となる可能性もあります。
ビティ事務局長は3月29日に行われた下院選・大統領選において、投票結果を不正に操作する計画の詳細を含む書類を作成したという国家政権転覆罪をはじめ、選挙での不正や「大統領が邪悪な人間であるかのように見せたこと」など4つの罪に問われているそうです。【6月20日 AFP】
選挙結果の不正操作は大統領サイドが行っているのでは・・・というのが大方の疑念ですが。

また上記記事によると、人権団体アムネスティ・インターナショナルは“ジンバブエ各地で12人の遺体が見つかり、その大部分は「拉致犯による拷問で死亡した」とみられる”との声明を発表しています。
アムネスティは、被害者を拉致したのは与党支持者とみられ、政府当局者とみられる武装集団が付き添っているケースもあったとしています。

【南ア 連立を提案】
こうした混迷状態のなかで、地域大国でもある隣国の南アフリカ・ムベキ大統領は、ムガベ大統領と対立候補であるMDCのツァンギライ議長の両候補と相次いで会談し、大統領選の決選投票を中止し、与野党の統一政権を組むよう提案したそうです。【6月19日 朝日】
南ア・ムベキ大統領は南部アフリカ14か国で作る南部アフリカ開発共同体で、ジンバブエの危機的状況の打開に向け仲介役に選ばれていますが、仲介に消極的だとして非難を集めています。
4月の開票結果が先延ばしされていた時点で、南アフリカのもっと強い働きかけがあれば・・・という思いもします。

【選挙辞退の動き】
野党MDC(民主変革運動)にも動揺が広がっているようで、決選投票への出馬取りやめを検討する動きが報じられています。
****ジンバブエ野党、大統領選の決選投票参加を再検討か****
ジンバブエ最大の野党、民主変革運動(MDC)は22日に、今月27日に予定されている大統領選挙の決選投票への参加の是非を検討することを計画している。同党のスポークスマンが20日、AFPに明らかにした。
「暴力と脅迫がまん延しているなか、決選投票で国民の意思が実現される状況なのか、決選投票がよい結果につながるのか見極めたい」【6月21日 AFP】
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上記記事によると、MDCの法務責任者は“あくまで選挙運動を続ける”としているそうです。
また、“大統領側が暴力をエスカレートさせ、MDC支持者の被害が増大。死者は少なくとも70人に達しており、暴力の拡大を防ぐため、ツァンギライ議長に撤退を促す声が各方面から上がっている。”【6月21日 時事】という報道もあります。

確かに、この恐怖が支配する事態では、正常な投票行動は期待できません。
仮にムガベ大統領を上回る票を得ても、それが公表されることはまずないようにも思えます。
そうなると、大勢の犠牲者を出しながら、一体何のための選挙か・・・ということになります。

84歳のムガベ大統領個人の問題と言うより、現在の政治・社会システムから利益を得ている集団がどうしてもその既得権益を手放さない、万一権力を失うと自分達の過去の罪が問われかねないので権力を手放すことができない・・・そういう既得権益集団の問題のように思えます。
“無理が通れば道理が・・・”という事態ですが、なんともやりきれない現実です。



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