孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  進む軍政主導の「民主化」、進まない国連の調停

2008-03-11 17:00:19 | 国際情勢
ミャンマー、何か進展があれば話題にとりあげようかと思っていたのですが、いつまで待っても動きがないので、「なかなか動かないね・・・」という話。

ミャンマー軍事政権は2月9日、軍政主導の「民主化」に向け、新憲法を承認するための国民投票を今年5月に行い、新憲法下で複数政党制による総選挙を2010年に実施すると発表しました。
そして19日には、憲法起草委員会が新憲法草案を完成したと発表。
その内容はいまだ明らかになっていません。

昨年9月3日、88年のクーデターで停止された憲法に変わるべきものとして、93年の開始から“14年がかり”で作成作業を終了した新憲法基本方針では、軍の権力を維持する仕掛けがちりばめられています。

上下両院とも議席の4分の1は、選挙によらず国軍司令官が指名する「軍人議員」。
大統領は、両院の民選議員と軍人議員が選んだ計3人の候補から全議員の投票で決まるが、候補者には「軍事の見識」も求められ、軍経験者以外は排除される可能性があります。
(タン・シュエSPDC議長が転身を狙っているとの説も根強くあります。)
また、大統領や議員には「外国から影響や利益を受けていない人」との要件も設けられています。

軍事政権は2月26日に、新憲法案の是非を問う国民投票に関する法律を定めた「国民投票法」を制定して、翌日は発表しました。
同法には、ボイコット呼びかけや妨害に対する厳しい罰則が定められています。
また、国民投票に関する演説やチラシを配った者は、禁固3年に処せられます。
なお、18歳以上の国民に投票権を認めていますが、僧侶を含む宗教者は除外されています。

自宅軟禁中の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)は、軍政が国民の代表と協議することなく憲法の草案を作成したことを非難。
「一方的に作成された憲法は、国民和解プロセスを傷付けるだけでなく、国民に容認されない」と主張しています。

新憲法基本方針の段階で、軍政が「欧米諸国などと結託している」と非難するスー・チー氏やNLDは事実上排除されることが懸念されていました。

2月20日、シンガポールで開かれたASEAN・10カ国の外相会議で、スー・チー氏がかつて外国人と結婚した経験があるため総選挙に立候補できないことを、軍事政権のニャン・ウィン外相が明らかにしました。
各国外相が「時勢にそぐわない」との批判を唱えたそうですが、議長国シンガポールのヨー外相は「国には事情や歴史がある」と述べ、ASEANとして総選挙などの手続きに干渉する考えはないことを示しました。
ASEANも“腰の引けた”対応です。

ミャンマー民主化はスー・チー氏の解放が目的ではなく、国民生活の安定・向上がその目的ですから、ここに至っては、スー・チー氏の処遇にかかわず、新制度に参画して少しでも目的に沿う方向で活動するという考えもあろうかと思います。
親軍事政権政党、国民統一党(NUP)書記長は2月11日、NLDに対し、軍政が5月に実施予定の新憲法案の国民投票に参加するよう促しています。
 
しかし、スー・チー氏だけに限らず、今後NLDが総選挙に参加できるためには、“欧米諸国などと結託している”とされているスー・チー氏との絶縁の踏み絵を踏まされるような事態もあるのでは。
そうなると、NLDの総選挙参加も困難となり、あくまでもスー・チー氏を掲げて民主化を求めるグループと、現実政治に参画して何らかの影響力を行使しようとするグループへの分裂の事態も想定されます。

こうした状況で、ガンバリ国連事務総長特別顧問が6日、ミャンマーを昨年9月のデモ鎮圧後3回目の訪問。
潘基文(バンギムン)国連事務総長が軍事政権トップのタンシュエ議長にあてた親書で、民政移管プロセスに幅広い勢力が参加できるよう求めたことについて、軍事政権は「憲法案は既に完成済みであり、修正はできない」と拒否。
自宅軟禁下にあるスーチーさんの解放要求は「国民は混乱を望んでいない」も、これを拒否。

潘基文国連事務総長の提案は、1.軍政主導の新憲法起草作業へのスー・チー氏ら民主化勢力の参画 2.スー・チー氏とタン・シュエ議長の対話実現 3.スー・チー氏の自宅軟禁解除 などだったようですが、あまり現実味のない提案です。
ガンバリ特使は、スー・チー氏やNLD幹部らとも話を行っていますが、進展は見られないようです。

一方、軍事政権は8日夜の国営放送で、新憲法案の賛否を問う5月の国民投票に国際監視団を受け入れる意思がないことを明らかにしました。
国際監視団は、訪問中のガンバリ特使が提案したものですが、これに対し、国民投票実施委員会側は「国民投票は国内の問題だ」と提案を拒否しました。
なんだか、国連も“なめられてる”という感じがします。

軍事政権が強気でいられる背景は、国際的には中国とのつながりが維持されていること、国内的には先の僧侶勢力の抵抗を押さえ込んだ自信と少数民族対策がうまくいっていることにあります。

ミャンマーは人口の約6割強を占めるビルマ族をはじめカレン、シャン、カチンなど少数民族から構成され、細分すればその数は、150を超えるとも言われています。
従来から多くの少数民族が反政府・独立闘争を展開してきました。

一般的には軍政のこれらの少数民族に対して弾圧がしばしば報じられていますが、その一方で、「和解工作」も展開してきたそうです。
その結果、95年までに南東部の主要民族であるカレン族をのぞき、ほとんどの少数民族勢力と停戦が成立しています。

昨年の混乱時にもカレン族の武装勢力、カレン民族同盟(KNU)が、軍政との停戦協定に応じている他の少数民族に共闘を呼びかけましたが、これに呼応する勢力はなかったそうです。
この背景には、新憲法草案の基本原則の内容があると言われています。
軍政側から少数民族へ、“自治”をほのめかされている可能性を指摘されています。【07年10月1日 産経】

唯一抵抗を続けるカレン民族同盟(KNU)トップのマン・シャ書記長が先月14日、タイ北部メソトの自宅前で暗殺されました。
タイ警察は、KNUから軍政側へ離反した者による犯行の可能性が高いとみています。
KNUも近年は軍政側への投降が目立ち、実質最高指導者のボー・ミャ氏が06年に病死するなど勢力が弱体化していたそうです。

軍事政権が本当に今後少数民族に自治を保障し、その関係が穏やかになるのであれば、それは評価に値することですが、軍事政権と自治というのはあまり馴染まないような気もしますが・・・

今後ミャンマーの社会が大きく動く可能性を勝手に想像すると、来年総選挙で軍政側の気に入らない“民意”が示され、選挙結果の無効などの混乱が生じるケース、少数民族への自治が空手形に終わり、その抵抗運動が再開され民主化運動と連動するケースなど・・・でしょうか?
いずれにしても遠く、また多くの犠牲が出そうな話です。

コメント
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