前月18日に行われたパキスタン総選挙で下院第1党となった野党パキスタン人民党(PPP)議会派と、同第2党のパキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)は9日、連立政権樹立に向けた正式文書に調印しました。
連立には第5党のアワミ民族党(ANP)の参加も決まっており、3党があと5議席以上を確保すればムシャラフ大統領の罷免に必要な3分の2以上獲得することになります。
上院は与党が過半数を占めていますが、下院で罷免決議された場合、ムシャラフ大統領が辞任要求に応じずに居座っても死に体化は不可避とされています。
また、PPPのザルダリ共同総裁とPML-Nのシャリフ元首相は9日、ムシャラフ大統領に解任されたチョードリー前最高裁長官を「新政府発足から1カ月以内に復職させる」ことで合意しました。
この問題では、司法の独立を掲げる前長官が復職すれば、ザルダリ氏が問われている汚職事件の審理が再開される可能性が高いため、PPP・ザルダリ氏が「新しい議会が決める」としたのに対し、シャリフ氏は「即時の復職」を要求して、両者の連立協議の大きな障害になっていました。
チョードリー前長官が復職した場合、昨年10月の大統領選で再選されたムシャラフ氏の出馬資格をめぐって審理を続けていた最高裁が当選を「無効」にする可能性があり、政局は一気に流動化する可能性があります。
ムシャラフ大統領に解任されたチョードリー前最高裁長官。
その前長官は大統領当選を無効にする可能性があります。
汚職で刑事訴追を受けるザリダル氏は、シャリフ政権時に罪に問われ、ムシャラフ大統領のもとで8年間収監されています。
シャリフ氏は政権時、ムシャラフ大統領を引き摺り下ろそうとして失敗、逆に大統領への殺人未遂罪などで終身刑を科され国外追放に。
そのザリダル氏とシャリフ氏が連立してムシャラフ大統領の罷免に・・・。
おそろしくドロドロした怨念の関係です。
ただ、ムシャラフ大統領にとっては、最高裁の判断、議会の罷免決議の両面で“あとがない”状況に追い込まれていることは間違いありません。
11日、ムシャラフ大統領は国民議会(下院)を17日に初招集するとあきらかにしました。
PPPとPML-Nの連立内閣組閣へ向けて具体的に動きだすのでしょうが、どの報道でも言われているように、この両者の隔たりは大きく、今後協調した関係が継続できるかは疑問です。
特に、イスラム武装勢力への対応で大きな差があります。
テロとの戦いでアメリカと協調するPPPに対し、イスラム教を重んじる立場のシャリフ氏は選挙公約に武装勢力掃討の即時停止を掲げています。
ムシャラフ大統領の罷免あるいは死に体化、連立政権内での政策不一致、更にザリダル・シャリフ両者とも政治の表に立てない状態でのリーダー不在・・・そういったことで、パキスタン政治が漂流する事態も危惧されます。
そして、それはアフガニスタンの戦況にも、アメリカの進める“テロとの戦い”の今後にも直結する問題です。
そのパキスタンではこのところテロが相次いでいます。
・パキスタン北部ラワルピンディで前月25日、赤信号で停車していた軍の車列に徒歩で近づいた男が自爆し、軍車両3台が大破。車内にいた陸軍医療隊トップのムシュタフ・ベーグ総監(中将)や通行中の市民ら少なくとも8人が殺害され、20人以上が負傷。
・アフガニスタン国境に近い南西部バルチスタン州デラブグティでも25日、走行中の軍車両が路上の仕掛け爆弾の遠隔操作により爆破され、兵士3人が死亡。
・パキスタン北西部の部族支配地域、南ワジリスタン管区で28日、無人飛行機から発射されたミサイルが民家を直撃し、住民ら13人が死亡。
パキスタンのトライバルエリアを拠点とするアルカイダ関連のアラブ人を狙った、アフガニスタンに駐留する米軍による攻撃の可能性が高いとされています。
・パキスタン北西部のスワート渓谷の主要都市ミンゴーラで2月29日、警察幹部の葬儀中に自爆攻撃があり、少なくとも44人が死亡、90人が負傷。
この警察幹部は、同日、北西部の町で、通過中の警察車両が道路脇に仕掛けられていた爆弾で吹き飛ばされた際に殉職。この爆発で警察官3人も死亡。
・パキスタン北西辺境州のZarghon村で2日、部族長や地元当局者ら数百人による会合「ジルガ」の最中に自爆テロがあり、少なくとも35人が死亡。犯人は10代と見られている。
・パキスタン東部ラホールの海軍付属海戦大学で4日、乗用車が警備兵に制止され、乗っていた男2人が自爆した。爆発の影響で近くにあった圧縮天然ガス(CNG)タンクや駐車中の乗用車も爆発し、少なくとも7人が死亡、15人が負傷。内務省広報官は自爆した2人のうち1人は「10代後半の少年」と発表。
・パキスタン東部のラホールで11日、自動車爆弾を使った自爆攻撃が連邦捜査局(FIA)と高級住宅地の2か所でほぼ同時に発生し、子ども2人、FIA関係者12人を含む少なくとも25人が死亡、負傷者は約170人。
頻発する件数と同時に、テロ対象が警察官の葬儀、部族長老の「ジルガ」、連邦捜査局といった権力・支配構造そのものであり、非常に挑戦的な犯行であることが印象的です。
今後発足する新政権はテロ対策で不一致を抱えており、この事態にどのように対処できるのでしょうか。
犯行に少年がかかわっているケースが見られるのも特徴です。
15~20歳前後の少年を、自爆テロの実行犯に仕立て上げる秘密訓練所の様子を報じた記事がありました。
*****パキスタン:訓練所で自爆テロ犯に洗脳される若者********
武装組織は、貧しいが信仰心の厚い家庭で育った15~20歳までの子供たちに狙いを絞り実行犯をリクルートしている。ビデオに登場する司令官は「20歳以上だと知識がついて洗脳しにくい。生活に余裕があれば、信仰心も薄らぐ」とその理由を明かした。
訓練は、パレスチナやアフガニスタンなどで続く「イスラム教徒の悲劇」を毎日、子供たちに説き聞かせることから始まる。「米国が諸悪の根源だ」と教え込むためだ。さらに「軍隊に対抗するためには自爆テロしかない。自爆の後は永遠の命が神から与えられ、食事にも困らない天国に行ける」と洗脳する。
少年たちは1カ月もたたないうちに自爆を志願し始める。指名されないと、泣き叫ぶほどの興奮状態に陥るが、司令官は「精神をさらに高揚させるため、しばらくはわざと指名しない」と語った。
指名を受けた時点ですでに「標的」が決まっている。実行には、両手か片手を上げればわきの下のひもが爆弾を起爆させる自爆ジャケットを着用する。検問で両手を上げた瞬間に爆発する仕組みだ。
ただ、自爆テロ実行直前に心変わりをして逃げ出す少年もいる。その場合は、見届け役が遠隔操作で実行犯のジャケットに仕込まれている遠隔起爆装置を使い強制的に爆破することもあるという。
証言した有力者は「貧困が自爆テロのリクルートを容易にし、純真な少年がテロに悪用されている」と怒った。【2月19日 毎日】
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悲惨・卑劣としか言い様のない現実です。
連立には第5党のアワミ民族党(ANP)の参加も決まっており、3党があと5議席以上を確保すればムシャラフ大統領の罷免に必要な3分の2以上獲得することになります。
上院は与党が過半数を占めていますが、下院で罷免決議された場合、ムシャラフ大統領が辞任要求に応じずに居座っても死に体化は不可避とされています。
また、PPPのザルダリ共同総裁とPML-Nのシャリフ元首相は9日、ムシャラフ大統領に解任されたチョードリー前最高裁長官を「新政府発足から1カ月以内に復職させる」ことで合意しました。
この問題では、司法の独立を掲げる前長官が復職すれば、ザルダリ氏が問われている汚職事件の審理が再開される可能性が高いため、PPP・ザルダリ氏が「新しい議会が決める」としたのに対し、シャリフ氏は「即時の復職」を要求して、両者の連立協議の大きな障害になっていました。
チョードリー前長官が復職した場合、昨年10月の大統領選で再選されたムシャラフ氏の出馬資格をめぐって審理を続けていた最高裁が当選を「無効」にする可能性があり、政局は一気に流動化する可能性があります。
ムシャラフ大統領に解任されたチョードリー前最高裁長官。
その前長官は大統領当選を無効にする可能性があります。
汚職で刑事訴追を受けるザリダル氏は、シャリフ政権時に罪に問われ、ムシャラフ大統領のもとで8年間収監されています。
シャリフ氏は政権時、ムシャラフ大統領を引き摺り下ろそうとして失敗、逆に大統領への殺人未遂罪などで終身刑を科され国外追放に。
そのザリダル氏とシャリフ氏が連立してムシャラフ大統領の罷免に・・・。
おそろしくドロドロした怨念の関係です。
ただ、ムシャラフ大統領にとっては、最高裁の判断、議会の罷免決議の両面で“あとがない”状況に追い込まれていることは間違いありません。
11日、ムシャラフ大統領は国民議会(下院)を17日に初招集するとあきらかにしました。
PPPとPML-Nの連立内閣組閣へ向けて具体的に動きだすのでしょうが、どの報道でも言われているように、この両者の隔たりは大きく、今後協調した関係が継続できるかは疑問です。
特に、イスラム武装勢力への対応で大きな差があります。
テロとの戦いでアメリカと協調するPPPに対し、イスラム教を重んじる立場のシャリフ氏は選挙公約に武装勢力掃討の即時停止を掲げています。
ムシャラフ大統領の罷免あるいは死に体化、連立政権内での政策不一致、更にザリダル・シャリフ両者とも政治の表に立てない状態でのリーダー不在・・・そういったことで、パキスタン政治が漂流する事態も危惧されます。
そして、それはアフガニスタンの戦況にも、アメリカの進める“テロとの戦い”の今後にも直結する問題です。
そのパキスタンではこのところテロが相次いでいます。
・パキスタン北部ラワルピンディで前月25日、赤信号で停車していた軍の車列に徒歩で近づいた男が自爆し、軍車両3台が大破。車内にいた陸軍医療隊トップのムシュタフ・ベーグ総監(中将)や通行中の市民ら少なくとも8人が殺害され、20人以上が負傷。
・アフガニスタン国境に近い南西部バルチスタン州デラブグティでも25日、走行中の軍車両が路上の仕掛け爆弾の遠隔操作により爆破され、兵士3人が死亡。
・パキスタン北西部の部族支配地域、南ワジリスタン管区で28日、無人飛行機から発射されたミサイルが民家を直撃し、住民ら13人が死亡。
パキスタンのトライバルエリアを拠点とするアルカイダ関連のアラブ人を狙った、アフガニスタンに駐留する米軍による攻撃の可能性が高いとされています。
・パキスタン北西部のスワート渓谷の主要都市ミンゴーラで2月29日、警察幹部の葬儀中に自爆攻撃があり、少なくとも44人が死亡、90人が負傷。
この警察幹部は、同日、北西部の町で、通過中の警察車両が道路脇に仕掛けられていた爆弾で吹き飛ばされた際に殉職。この爆発で警察官3人も死亡。
・パキスタン北西辺境州のZarghon村で2日、部族長や地元当局者ら数百人による会合「ジルガ」の最中に自爆テロがあり、少なくとも35人が死亡。犯人は10代と見られている。
・パキスタン東部ラホールの海軍付属海戦大学で4日、乗用車が警備兵に制止され、乗っていた男2人が自爆した。爆発の影響で近くにあった圧縮天然ガス(CNG)タンクや駐車中の乗用車も爆発し、少なくとも7人が死亡、15人が負傷。内務省広報官は自爆した2人のうち1人は「10代後半の少年」と発表。
・パキスタン東部のラホールで11日、自動車爆弾を使った自爆攻撃が連邦捜査局(FIA)と高級住宅地の2か所でほぼ同時に発生し、子ども2人、FIA関係者12人を含む少なくとも25人が死亡、負傷者は約170人。
頻発する件数と同時に、テロ対象が警察官の葬儀、部族長老の「ジルガ」、連邦捜査局といった権力・支配構造そのものであり、非常に挑戦的な犯行であることが印象的です。
今後発足する新政権はテロ対策で不一致を抱えており、この事態にどのように対処できるのでしょうか。
犯行に少年がかかわっているケースが見られるのも特徴です。
15~20歳前後の少年を、自爆テロの実行犯に仕立て上げる秘密訓練所の様子を報じた記事がありました。
*****パキスタン:訓練所で自爆テロ犯に洗脳される若者********
武装組織は、貧しいが信仰心の厚い家庭で育った15~20歳までの子供たちに狙いを絞り実行犯をリクルートしている。ビデオに登場する司令官は「20歳以上だと知識がついて洗脳しにくい。生活に余裕があれば、信仰心も薄らぐ」とその理由を明かした。
訓練は、パレスチナやアフガニスタンなどで続く「イスラム教徒の悲劇」を毎日、子供たちに説き聞かせることから始まる。「米国が諸悪の根源だ」と教え込むためだ。さらに「軍隊に対抗するためには自爆テロしかない。自爆の後は永遠の命が神から与えられ、食事にも困らない天国に行ける」と洗脳する。
少年たちは1カ月もたたないうちに自爆を志願し始める。指名されないと、泣き叫ぶほどの興奮状態に陥るが、司令官は「精神をさらに高揚させるため、しばらくはわざと指名しない」と語った。
指名を受けた時点ですでに「標的」が決まっている。実行には、両手か片手を上げればわきの下のひもが爆弾を起爆させる自爆ジャケットを着用する。検問で両手を上げた瞬間に爆発する仕組みだ。
ただ、自爆テロ実行直前に心変わりをして逃げ出す少年もいる。その場合は、見届け役が遠隔操作で実行犯のジャケットに仕込まれている遠隔起爆装置を使い強制的に爆破することもあるという。
証言した有力者は「貧困が自爆テロのリクルートを容易にし、純真な少年がテロに悪用されている」と怒った。【2月19日 毎日】
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悲惨・卑劣としか言い様のない現実です。