
(米国の移民当局が公開したジョージア州にある現代自動車工場での不法滞在・就労の取り締まり(ICEのホームページより)【9月8日 聯合ニュース】)
【「韓国が日本の方式をまねる必要はない」が「韓国も妥結急げ」】
トランプ関税については、日本はとりあえず“15%”でトランプ大統領の大統領令署名に漕ぎつけていますが、韓国は未だ公式文書には至っていません。
****米国、日本車に先に15%関税…韓国車は25%のまま****
「1カ月2100億ウォン(約223億円)、一日70億ウォン」。米国の自動車関税が15%でなく25%である場合、韓国自動車業界に生じる損失推算額だ。
トランプ米大統領が4日(現地時間)、日本産輸入品相互関税15%、自動車品目別関税15%を骨子とする米日貿易合意を公式的に履行する内容の行政命令に署名した。両国の貿易合意から44日ぶりだ。これで米国は日本産輸入品のほぼ全体に15%の関税を適用し、自動車および自動車部品に15%関税を適用する。米国はその間、日本産自動車に従来の関税2.5%に品目別関税25%を加えた27.5%の関税を課してきた。
韓国は日本より8日後の7月30日に関税交渉が妥結したが、行政命令が遅れ、対米自動車輸出競争国の日本との価格競争力でひとまず遅れをとることになった。
トランプ大統領が欧州連合(EU)に続いて日本との関税交渉に関する行政命令に署名したことで、韓国はこれらの国より10%ポイントほど高い関税を負担しながら対米輸出市場で競争するしかない。韓国の輸出はすでに厳しい状況を迎えている。(中略)
7月30日、韓国政府は対米3500億ドル規模投資をテコに関税を25%から15%に引き下げる合意案を米国から引き出した。しかし公式文書までは受けていない。 産業部の関係者は「引き続き(米国と)協議している」と明らかにした。
続いて「特に自動車品目関税などで米国と合意をした主要国はEUと日本、韓国ほど」とし「(初期交渉当時)政権はまだ発足していなかったうえ、合意も遅れた側面があり(明文化に)時間がかかる」と説明した。
しかし終盤の交渉が難航している。通商当局は先月25日の韓米首脳会談で共同合意文に15%関税を明示する案を推進したが、不発に終わった。韓国が約束した3500億ドルを▼いつ(時期)▼どのように(調達方式)▼どこに(投入先)投資するのかを先に明文化するべきという米国側の要求のためだった。 (中略)
西江大のホ・ユン国際大学院教授も「大きい枠組みで数字などは決まったが、解釈に隔たりがあるようだ」とし「3500億ドルの対米投資でも米国は直接投資の比率が高くなることを望み、韓国はもう少し裁量権を持つことを望むはず」と分析した。
大統領室の姜由楨(カン・ユジョン)報道官は「日本が完了したからといって韓国も完了するという形で接近することではない」と述べた。「韓米関税交渉の明文化に速度を出す計画があるのか」という質問には、「速度の問題ではない。交渉主導者間で最大限に国益となる点を見いだし、成果が具体化される時、最も私たちの国益になるだろう」と答えた。
大統領室は今回の米日貿易合意とは関係がなく慎重に協議を続ける方針だ。 与党の関係者は電話で「米連邦控訴裁がトランプ大統領の『相互主義』関税を不法と判決するなど随所に不確実性が残存している」とし「合意文を早期に書くことが交渉を総体的に展開する過程で最終的にむしろ不利になることもあり得る」と話した。【9月6日 中央日報】
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“日本は関税引き下げという火急の問題を解決する見返りに自国の国益を譲った”というのが韓国メディアの評価です。
“今回の大統領令によると、日本は米国と関税算定方式・投資・エネルギー・農産物・航空宇宙製品に至るまで幅広い貿易条件を文書で明確に規定している。米国産米の購入を75%増やし、トウモロコシ・大豆など年間80億ドル(約1兆1800億円)相当の農産品も購入することにした。5500億ドル規模の対米投資については、米政府が投資先を選定するようにするなど、米国の統制権まで許容した。日本は関税引き下げという火急の問題を解決する見返りに自国の国益を譲った。”【9月6日 朝鮮日報】
そのうえで、「韓国が日本の方式をまねる必要はない」としながらも日本に遅れをとって関税で不利になっている現状に対し、「交渉のスピードは上げなければならない」「韓国も妥結急げ」という思いもあります。
【不法移民摘発で韓国人労働者がターゲットになったことで韓国社会に広がる怒り】
そんな対米交渉を急ぎたい韓国の神経を逆撫でした感があるのが、トランプ政権による不法移民摘発の標的に韓国人労働者がなったこと。
ジョージア州の現代自動車とLGエナジーソリューションのバッテリー合弁工場建設現場で行われた不法移民摘発でビザなどの問題で約300人の韓国人労働者が拘束され(拘束者全体は475人)、しかも犯罪者として扱われる様子が拡散したことで韓国社会に怒りが広がっています。
****「投資誘致要請しながら不意打ち」「両手束縛は衝撃」…米国の韓国人社会が激高****
米移民当局がジョージア州の韓国企業建設現場を急襲し韓国人300人を拘禁した状況に在米韓国人は不安感に包まれたまま事態の推移を注視している。
韓国人の間ではジョージア州の現代自動車とLGエナジーソリューションのバッテリー合弁工場建設現場で起きた大規模な韓国人取り締まりをめぐり「衝撃的だ」「米国が韓国に投資誘致を要請しながら不意打ちを食らわせた格好」という激高した反応が出ている。
一部では「彼らのビザが訪問・滞在目的に合わないということなら取り締まりの口実を提供したのではないか」とし問題点を見つけて根本的に改善することが至急だという話も出ている。
ワシントンDCに居住する韓国人のシンさんは6日、「トランプ大統領が自身の熱烈支持層であるMAGA陣営の反移民世論を意識して政治的効果を狙い韓国の大企業をターゲットにしたようで怒りがこみ上げてくる」と話した。
また別の韓国人キムさんは「映画のようなことが起きた。強力犯でもないのに取り締まり過程でヘリコプターが飛び軍用車が大挙動員され、両手を縛られたまま連行された。取り締まり過程自体がとても非人権的だ。取り締まりの映像を見て衝撃を受けた」と話した。
米国在住韓国人最大のネットコミュニティのひとつであるミッシーUSAの公開掲示板では、今回の大規模取り締まりに対するコメントが数十件に上るなど熱い話題として浮上した。ある会員は「とても残念なことが起きた。工場建設初期段階なので経歴がしっかりとした社員を送ったはずなのにこれはどういうことなのか」とコメントした。
また別の会員は「MAGA陣営の女性政治家が米政府当局に通報した結果というニュースを見て腹が立った」と、また別の会員は「熱心に働きもせず自分たちの暮らしが苦しい理由を外国人、特に東洋人のせいと考えているのだ。いらいらする」と吐露した。(後略)【9月7日 中央日報】
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****現代自の米工場での労働者拘束、韓国に衝撃広がる-対米投資に影****
米ジョージア州にある韓国企業の電気自動車(EV)用バッテリー工場で行われた大規模な不法移民摘発は、韓国に大きな衝撃を与えた。李在明大統領がホワイトハウスでトランプ大統領と会談し、韓国企業による数千億ドル規模の対米投資を約束してから、わずか2週間足らずの出来事だった。
韓国当局は週末を通じて、現地で拘束されていた現代自動車とLGエナジーソリューションの合弁事業の建設現場にいた自国民300人の解放に向けて動いた。
拘束された労働者がどのようなビザを保有していたのか、また現場に立ち入る資格があったのかは依然不明。韓国政府は、行政手続きが完了次第、チャーター機を派遣して帰国させる方針を示した。
今回の取り締まりは李、トランプ両氏が首脳会談を行い同盟関係を誇示し、新たな貿易協定を確認した直後という微妙なタイミングで起きた。両国間の合意には、米国で事業拡大を進める韓国企業を支援するための3500億ドル(約51兆6000億円)規模の投資ファンド(うち1500億ドルは造船業向け)設立が盛り込まれ、民間企業も追加で1500億ドルの直接対米投資を約束していた。
今回の摘発により李政権には国内で圧力がかかるほか、米韓の間で大きな外交問題に発展する恐れもある。6日には韓国の主要紙が一面で取り上げたほか、手首や腰、足首を拘束されバスに乗せられる労働者のテレビ映像は国民の怒りを呼んだ。
韓国最大の発行部数を誇る朝鮮日報は6日、拘束された労働者がバスに手をつく写真を掲載。ジョージア州の収容施設の映像も紹介し、「カビに覆われており、刑務所よりひどい」と報じた。
ソウルにある崇実大学のキム・テヒョン教授は摘発について「背後から刺されたような気分だ」と述べ、「大半の韓国人が憤りを禁じ得ない」と指摘。韓国企業は「必然的に」対米投資計画に慎重になるだろうと語った。
今回の摘発は、韓国による巨額の対米投資計画に影を落としている。韓国の代表的投資プロジェクトに関わる労働者の拘束は、米国での事業展開には想定以上の政治・法的リスクが伴うと企業に受け止められかねない。
現代自動車は8月、2028年にかけて行う米国への投資額を260億ドルに引き上げると発表。3月に公表した210億ドルから50億ドル上積みされた。自動車や鉄鋼、ロボットの生産拡大を目指すとしている。【9月8日 Bloomberg】
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釈放交渉は“韓国のチョ・ギジュン駐ワシントン総領事は7日(現地時間)、米移民・税関捜査局(ICE)の施設で記者団に対し、拘束者の帰国時期について「水曜日(10日)ごろと考えている」と明らかにした。”【9月8日 聯合ニュース】という形で終わったようです。
今回の不法移民摘発は共和党所属の極右系の政治家トリ・ブラナム氏による移民・関税執行局(ICE)への通報がきっかけとなったとされています。
同氏には批判のメールが殺到していると、もともと反米意識も強い韓国左派系メディアのハンギョレは報じています。 “現代自動車を通報した米国の極右政治家に「なんて愚かな…」米ネット民から批判殺到”【9月8日 ハンギョレ】
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ブラナム氏は、企業がコスト削減のために違法な労働力を搾取しているという趣旨の主張を展開しているが、ネットユーザーの反応は冷淡だ。
あるネットユーザーはブラナム氏のフェイスブックへのコメントで、「人をICEに通報しておきながらうそをつくな。彼ら(外国人労働者)がいくらもらっているか気にしたこともなく、強制労働にも関心がない。あなたは厚かましい機会主義者にすぎない」と批判した。
別のネットユーザーは「あなたは、屋根裏部屋の環境は苛酷すぎると言って、アンネ・フランク(ナチスの占領地で隠れ住まなければならなかったユダヤ人の暮らしを記録した『アンネの日記』の主人公)をゲシュタポに通報したはずだと断言する」と皮肉った。
ブラナム氏は選挙での自身の勝利のために外国人嫌悪感情に寄りかかっている、とも指摘されている。(後略)【9月8日 ハンギョレ】
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ただ、ハンギョレは明示していませんが、通報者ブラナム氏へ批判を浴びせているのは、おそらく韓国人ネットユーザーではないかとも想像されます。
いずれにしても今回の事件は、トランプ関税で苛立っている韓国社会に改めてアメリカへの不信感をうえつけることになりそうです。