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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

エジプト  巨大プロジェクト 「見せかけの繁栄」か、あるいは「国家の生き残り戦略」か

2025-06-24 23:36:08 | 北アフリカ
(現在建設中の新行政首都は、現在のカイロから 東へ60キロのところに位置。すでに一部機能の移管も進んでおり、カイロ中心部からアクセスするLRTの運行が開始されています。【JICA】)

【見かけの民主主義】
停戦に向けて大きく動いたイラン情勢は「現在進行形」なので、もう少し様子をみてから・・・。

パレスチナやイラン、更にはシリア、レバノン、イエメン・・・と「火種」に事欠かない中東にあって、最近あまり人目を引くような報道がないのが、以前は中東地域をリードする立場にあったエジプト。今でも「地域大国」の一つではありますが、イラン・サウジアラビアがリードする最近の中東情勢にあっては影が薄い感じも。

目立った話題がないのは、強権的な色合いを濃くするシシ大統領のもとで、「力による安定(不満の封じ込め?)」が続いているせいかも。国民の一定数も、そうした「安定」を受入れているのでしょう。(自分たちの生活が曲りなりにも続けられるなら・・・の話ですが)

強権的シシ政権については、2019年9月23日ブログ“my favorite dictator”に対する「恐怖と沈黙の壁」を破る異例の抗議デモ・・・など。

****シシ政権下の政治的抑圧と自由の欠如について****
エジプトのシシ政権下における政治的抑圧と自由の欠如は、アラブ諸国の中でも際立って深刻で、表面的な安定の裏で広範な監視・弾圧体制が敷かれています。以下に、主要な点を詳しく説明します。

◆ 1. シシ政権の政治体制:「見かけの民主主義」
2013年、シシ将軍(当時)は軍によるクーデターでムルシー大統領(民選)を追放
その後、大統領選(2014・2018年)でいずれも90%以上の得票で当選
選挙は行われるが、実質的な対抗馬が排除されており、競争性なし
国会は親政権派で固められ、制度的には民主主義的装いだが、実態は強権体制

◆ 2. 言論・報道の自由の制限
● 報道機関の統制
国営メディアに加えて、主要な私営テレビ・新聞も政府系企業や軍が実質支配
国外メディア(BBC、Al Jazeeraなど)に対する敵視も強く、記者の逮捕・拘束例が多い

● インターネット検閲・SNS監視
5,000以上のサイトがブロック対象(人権団体、ニュースサイトなど)
SNS投稿で政府を批判しただけで、「フェイクニュースの拡散」などの名目で逮捕
例:2022年、パン価格高騰に抗議した若者が逮捕・懲役刑

◆ 3. 市民社会・NGOへの弾圧
● NGO法の制定(2019年)
NGOの活動・資金調達を内務省と諜報機関が事前許可・監視
海外から資金を得たNGOは「外国の手先」とされ、活動停止命令

● 著名人・活動家の弾圧
例:アーラ・アブデルファッターフ(アラブの春の象徴的活動家)は2022年も獄中
女性の権利活動家、LGBTQ支援者なども多数拘束
国連や欧州人権機関から非難されても釈放されず

◆ 4. 拘束・拷問・超法規的措置の横行
● 事例
国連の報告によると、政治犯は6万人以上と推定(ただし正確な数は不明)
政治活動家、学生、記者、SNSユーザーなどが正規裁判を経ずに長期拘束
「失踪」扱いの例もあり、家族にすら行方が知らされない

● 刑務所の実態
国際人権団体(アムネスティ、ヒューマン・ライツ・ウォッチ)によると、
過密収容・医療放置・拷問・性的虐待が蔓延
2021年には有名な「スコルピオ刑務所」での虐待が告発され、国内外で波紋

◆ 5. 軍と情報機関の支配構造
情報機関(特にGIS=General Intelligence Service)はメディア・選挙・投資・宗教活動まで監視
軍は経済にも深く関与しており、軍批判は「国家反逆」とされる
軍出身のシシ大統領は、「軍を非政治化するどころか、国家の中心に据え直した」

◆ 6. 国際社会の反応と限界
● 欧米諸国の態度
アメリカは年間約13億ドルの軍事支援を続けている(戦略的同盟国)
EU諸国は人権問題を非難しつつも、移民抑止や安定維持を優先

❗その結果、「抑圧体制であっても地域の安定を保てば黙認される」構図ができてしまっている。

シシ政権は、「秩序・安定の代わりに、自由と多様性を放棄する」というモデルを事実上採用しており、国民の沈黙は必ずしも支持を意味しないというのが実情です。【ChatGPT】
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【相次ぐ巨大プロジェクト】
そのシシ大統領はかつての「中東の盟主」として復活したいという思いがあってのことでしょうが、エジプト政府は派手な巨大プロジェクトをいくつも打ち上げています。

カイロ東部の新行政首都建設に続いて、カイロ西部の砂漠地帯に人工水路を引き、総面積6.8平方キロの新都市「ジリアン」を開発する計画が発表されています。

問題は、軍と関係のある企業の利権拡大に利用されていること、財政状況を悪化させていること、一般庶民とは縁んのない話であること・・・等々。

****エジプトがまた新都市構想を発表、カイロ西部に人工水路を引く...得をするのは一体誰?****
<「ジリアン」と呼ばれる新都市の建設は、シシ大統領の巨大プロジェクトの一環とされており、他にも回路東部に新行政首都建設の計画もあるが...>

カイロ西部の砂漠地帯に人工水路を引き、総面積6.8平方キロの新都市「ジリアン」を開発する──エジプト政府が今月初めに発表した構想が物議を醸している。

これはシシ大統領が進める巨大プロジェクトの一環で、ほかにカイロ東部での590億ドル規模の新行政首都建設、モノレール計画、高速鉄道、複数の高級都市開発計画などが進行している。

エジプト政府はこうした事業が長期的な経済成長を牽引すると主張するが、財源となる対外債務は膨れ上がる一方だ。また、政権による統制力の強化や、軍と関係のある企業の利権拡大に利用されているとの批判もある。

エジプト経済はIMF主導の改革によって上昇傾向にあるが、シシ政権が派手なプロジェクトへの支出を抑制できなければ成長の足かせとなりかねない。実際、エジプトの債務返済負担は既に国家支出の50%を超えており、今後さらなる財政悪化を招く恐れも指摘されている。【6月17日 Newsweek】
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****シシ政権が進める巨大プロジェクト****
① 新行政首都(New Administrative Capital)
● 概要
建設場所:カイロの東方約45km、スエズ運河に近い砂漠地帯
面積:約700平方キロ(シンガポールとほぼ同規模)
総事業費:当初は約450億ドル→現在では590億ドル以上

計画内容:
官庁街(大統領府・国会・省庁など) 高層ビル群(アフリカ一の超高層ビル「アイコニックタワー」) モスク、教会、ビジネス街、大型ショッピングセンターなど
高速鉄道・モノレールでカイロと接続

● 問題点・リスク
カイロの人口集中・老朽化対策という「大義」がある一方、富裕層・エリート官僚中心の都市
水資源やエネルギー供給への圧力
一般国民が恩恵を受けにくく、社会格差をむしろ拡大する恐れ
国債増発や為替リスクに直結

● 現在の進捗(2024年末〜2025年)
国会議事堂や一部省庁はすでに完成・移転済み だし全体の入居率・商業稼働率は低く、「見せかけの開発」とも批判されている

② 新都市「ジリアン(Gillian)」計画
● 概要
建設場所:カイロ西方の砂漠地帯
面積:6.8平方キロ(東京都文京区より少し小さい)
計画内容:
高級住宅地、商業・娯楽施設、人工湖、観光リゾートなどを併設 中東版「スマートシティ」を標榜

● 問題点
水資源の確保が非常に困難。ナイル川から長大な人工水路を建設予定だがコストは不明
一部では「富裕層の隔離都市」として、貧富の分断を強めるとの懸念

● 現在の状況
計画発表は2023年末~2024年ごろ、まだ着工の段階に入っていない
国家財政の悪化により、計画凍結や延期の可能性も示唆されている

③ スエズ運河経済特区(SCZone)
● 概要
スエズ運河周辺に物流拠点・工業団地・港湾施設などを整備 
中国・湾岸諸国・欧州諸国の直接投資を呼び込む輸出型経済圏

● 目的
エジプト経済の多角化(観光・農業依存からの脱却) 雇用創出と外貨獲得 地政学的ポジション(アジア〜欧州の中継地)を活用  

● 資金
各国の企業による官民パートナーシップ 中国の一帯一路政策との連携(例:中国天辰公司が化学プラント建設)
日本や韓国の進出も報道されている

● リスク
エジプトの行政手続き・汚職・通貨不安定性が外資誘致の障害
地域インフラ整備の遅れ、港湾機能の競合(ドバイ、ジブチなど)


これらのプロジェクトは、国家の将来を賭けた「賭け」とも言えますが、エジプト経済の根本的な構造改革(農業依存・軍経済の脱却)を伴わないままの拡張は、極めて危ういバランスの上にあるともいえます。【ChatGPT】
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【巨大プロジェクトの資金調達】
計画実現の上での問題は資金。

****巨大プロジェクトの資金調達源****
エジプトのシシ政権が進める一連の巨大インフラプロジェクト――特に新行政首都や**「ジリアン」などの新都市開発計画**――は、非常に野心的で、その総額は数十兆円規模にも及びます。こうしたプロジェクトの資金調達源については、以下のような仕組みとリスクが混在しています。

【1】主な資金調達手段
■ 海外からの融資・支援(特に湾岸諸国)
UAE、サウジアラビア、クウェートなどの湾岸諸国からの直接支援や投資が柱。
例:新行政首都プロジェクトは、UAEの不動産大手「キャピタル・シティ・パートナーズ」との協力で進められていた(ただし後に契約は見直される)。
シシ政権は湾岸諸国との関係を戦略的に強化し、政治的見返りと引き換えに資金を得ている。
中国からの融資やインフラ投資も一部活用(特に鉄道・電力インフラなど)。

■ エジプト国内での土地転売・不動産収入
新首都や新都市開発に伴い、「国家所有の土地を民間企業や富裕層に高額で売却」し、それを財源に。
これにより「資産の現金化」が進むが、実需が伴わない場合はバブル的リスクが高い。

■ 国家開発公社・軍系企業による自己資金投入
エジプトでは国軍が経済の広範囲を握っており、軍系企業(例えばアラブ建設社など)が半官半民的に投資・開発している。 軍による主導で土地収用やインフラ整備が迅速に行われ、国家予算以外の資金が動員されている。

【2】なぜ強行するのか?
シシ政権はこのような**「見栄えの良い巨大事業」**を通じて、
国内の雇用創出・経済成長の演出
軍の利権確保・体制基盤の安定
政治的レガシー(ナセル、ムバラクに並ぶ国づくり)
を狙っている。

【3】しかしリスクは極めて高い
● 財政悪化と債務膨張
エジプトの対外債務は2024年時点で1,650億ドルを超える。
通貨価値の急落(2022年以降でエジプトポンドは大幅下落)により、返済圧力が深刻化。

● 実需の乏しさ・ゴーストタウン化懸念
新行政首都の住宅は富裕層・官僚向けで、一般庶民は手が出せない。
こうしたプロジェクトが国民全体に波及するには時間がかかり、「砂漠の中の空都市」化の懸念も強い。

● IMF・世界銀行との緊張
エジプトはIMF支援を受けているが、その条件として国家支出の見直し・補助金削減・通貨の自由化が課されており、
「新都市開発のような支出が矛盾している」との批判も。

【まとめ】
エジプトの巨大プロジェクトの資金源は、「湾岸諸国からの支援+土地売却+軍主導の事業収益+国際金融支援」の組み合わせです。しかし、それは持続的な内需や生産力に裏打ちされたものではなく、政治的・財政的なリスクを抱えた「見せかけの繁栄」とも言われています。【ChatGPT】
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【外国との関係・地政学的背景、IMF評価】
****エジプト・シシ政権の巨大インフラ計画に対する外国との関係・地政学的背景と、それに対するIMF・世銀などの国際金融機関の評価・批判****

【1】湾岸諸国との関係 〜「経済支援と地政学の取引」〜
湾岸諸国(サウジアラビア、UAE、クウェートなど)は、2013年のシシ政権発足以降、エジプトを戦略的に支援してきました。その理由は、シシ政権のムスリム同胞団排除を支持(湾岸君主制(特にサウジ、UAE)はイスラム主義の台頭を敵視)など。

ただし2022年以降、湾岸諸国は支援のスタイルを「無条件な援助」から「投資重視」に転換、現在は、「エジプトが資産を売り、湾岸諸国が買い叩く」構図も批判されつつあります。

【2】中国との関係:一帯一路構想(BRI)との連動
エジプトは中国の「一帯一路(BRI)」におけるアフリカ北岸の要衝 スエズ運河周辺を含むインフラ・製造業プロジェクトで中国の存在感が拡大

【3】IMF・世界銀行の評価と批判
● IMFの立場
エジプトは2016年以降、複数回にわたりIMFの融資プログラムを受けており、その条件として、補助金削減(特に燃料・パン)、エジプトポンドの変動相場制への移行、国家主導経済から民間主導経済への転換、系企業の透明性向上と経済支配縮小を求められています。

● IMFの批判点
IMFは新首都建設やジリアンのような「エリート向け巨大都市開発」を、明示的には支持していません。
むしろ「これらは短期的な成長の演出であり、債務を拡大させるだけで国民の貧困には寄与しない」と懸念。
IMFの内部文書でも、軍経済(military economy)を温存したままの構造改革では持続可能な成長は困難という立場です。

【4】「見せかけの繁栄」 vs 「国家の生き残り戦略」
● シシ政権の立場
巨大プロジェクトは「人口爆発への備え」「観光・不動産主導の成長」を目的としており、一種の「国家ブランディング」ともいえる
軍や官僚機構の利益構造とも密接に連動しており、政権支持基盤の維持に不可欠

● 国際社会の懸念
IMFや国際金融筋は「エジプトは構造改革よりもプロジェクト主義に偏りすぎている」と批判
世界銀行も、公共支出の不透明性や不平等の拡大を問題視

【結論】エジプトは何を賭けているのか?
シシ政権の巨大プロジェクト群は、単なる経済開発ではなく、「人口1億超の巨大国が、軍と国家エリートを温存しつつ体制維持を図る、最後の大勝負」という面があります。

しかし、国内の貧困率上昇、食糧・水・外貨の逼迫、外国依存度の増大(湾岸・中国・IMF)という状況では、「砂上の楼閣」になりかねないリスクもはらんでいます。【ChatGPT】
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トランプ政権 不法移民のリビアへの強制送還検討 更にガザ住民100万人も リビアは依然治安混乱

2025-05-17 23:22:39 | 北アフリカ

(「国民統一政府(GNU)」とアブドゥルハミド・ドベイバ首相に仕える「第444旅団」のメンバー、5月13日、首都トリポリのアブ・サリム地区で警備にあたっている。(ロイター)【5月15日 ARAB NEWS】)

【トランプ大統領の不法移民対策のあれやこれや】
トランプ大統領の強硬な移民対策は、すべてが思い通りにはいかないことも。

****連邦最高裁 「敵性外国人法」での不法移民の追放を当面差し止め トランプ氏「アメリカにとって悪い、危険な日」****
アメリカの連邦最高裁判所はトランプ政権による「敵性外国人法」を適用した不法移民の国外追放について、当面、差し止めるよう命令しました。 

トランプ政権は戦時下の法律「敵性外国人法」を適用して、ベネズエラのギャング組織のメンバーだとする不法移民をエルサルバドルへ国外追放しています。 

アメリカの連邦最高裁判所は16日、こうしたトランプ政権による国外追放について、当面、差し止めるよう命じました。 移民側が不服を申し立てる機会を確保するための措置で、連邦控訴裁判所に審理を差し戻し、控訴裁が判断を下すまでは政権は対象者を国外追放できないとしています。 

一方で、最高裁は不法移民の国外追放に戦時下の法律である「敵性外国人法」を適用することの是非は判断しませんでした。 

強硬な不法移民対策をアピールしてきたトランプ政権にとっては痛手で、トランプ大統領はSNSへの投稿で「最高裁は我々が犯罪者をアメリカから追い出すことを許さない!」と強く不満を示したうえで、「アメリカにとって悪い、危険な日だ!」と最高裁を批判しています。【5月17日 TBS NEWS DIG】
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この種の司法判断はこれまでも似たようなものが司法各レベルで出されていますが、それらがどのように違うのか素人には判然としません。

米連邦最高裁は4月19日にも、ほとんど使われたことのない戦時法を用いて適正な手続きなしにベネズエラ移民を国外追放するのを一時的に差し止める命令を出しています。

また、5月1日は米南部テキサス州の連邦地裁は、トランプ政権による「敵性外国人法」を活用した不法移民対策は違法との判断を示し、同法に基づく強制送還を禁止する命令を出しています。

ただ、政権側は間違っているのは司法の側だとして、司法判断を軽視するような形で強硬な対応をこれまで続けてきているようにも思えます。

“エルサルバドルに誤送還された移民、最高裁が帰国させるよう指示するもトランプ氏は従わず”【4月15日 HUFFPOST】

司法への圧力も。

****不法移民かくまった地方判事を司法妨害罪で起訴 米連邦大陪審*****
米連邦大陪審は13日、不法移民が逮捕を免れるのを手助けしたとして逮捕・拘束されていたウィスコンシン州の裁判官を司法妨害罪で起訴した。
ドナルド・トランプ大統領は1月の就任以降、不法移民の徹底的な取り締まりを公約に掲げているが、同氏は適正な手続きを順守していないとする複数の裁判所と対立している。

起訴されたウィスコンシン州ミルウォーキー郡巡回裁判所の裁判官ハナ・デュガン被告は先月、逮捕された。司法妨害罪で有罪となれば、5年以下の禁錮刑を科される。

デュガン被告は、移民税関捜査局捜査官をはじめとする連邦捜査官が、裁判所の廊下でメキシコ国籍の男を拘束しようとしているのを知り、法廷から逃れるのを手助けしたとして起訴されている。

デュガン被告の逮捕は民主党の激しい反発を招く一方、共和党の一部からは称賛された。

米連邦捜査局を監督するパム・ボンディ司法長官はFOXニュースで、デュガン被告の逮捕を擁護し、不法移民をかくまった場合、「私たちは見つけ出す」と厳しく警告していた。

起訴状によると、事件は4月、デュガン被告が勤務する裁判所で発生。連邦捜査官が軽犯罪で起訴されていた不法移民の男を逮捕するために同裁判所を訪れた時、デュガン被告は「明らかにいら立ち、対決的で怒りに満ちた態度を見せ」、不法移民の男を捜査官から遠ざけるために陪審員用のドアを使って法廷から連れ出したとされる。

不法移民の男は裁判所の建物外に出たが、捜査官から逃走しようとしたところを逮捕された。 【5月14日 AFP】*****************

強制的に送還するのは問題も多いし、金銭的にも大変なので、カネで自発的出国を促す対策も。
“トランプ政権が新たな不法移民対策 自発的な母国への帰国に約14万円を支給”【5月6日 TBS NEWS DIG】
不法移民の摘発と強制送還に比べたら安上りとか。

また、新たな流入を防ぐために
****米共和党、亡命希望者から手数料1000ドル徴収を検討****
(中略)
亡命申請者の主な出身国の一つであるアフガニスタンでは、1000ドルは約2年半分の賃金に相当し、同じくベネズエラでは平均で約3か月分の収入にあたる。

法案ではまた、仮入国許可を受けた者には1000ドル、労働許可証には6か月ごとに550ドル(約8万円)、永住権(グリーンカード)申請のための在留資格変更には1500ドル(約21万円)の手数料が想定されている。

なかでも注目されるのは、共和党が連邦政府の管理下にある子どもを引き取る保護者候補に対し、8500ドル(約120万円)の手数料を課そうとしている点だ。このうち5000ドル(約70万円)は、子どもが裁判を欠席して国外退去を命じられなかった場合に限り、数年後に返還されるとしている。

米国移民評議会の上級研究員アーロン・ライヒリンメルニック氏はSNSで「これはほとんどの引き取り手を躊躇させる額だ」と指摘している。(後略)【4月29日 AFP】
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変わったところでは・・・というか、内容によっては、やや“悪趣味”な面もある対策も。

****移民が米市民権かけて争うリアリティー番組 国土安全保障省が検討****
米国土安全保障省は16日、移民が米市民権をめぐって競うリアリティー番組への参画を同省が検討しているとの報道内容を認めた。

(中略)米紙ウォールストリート・ジャーナルによると、カナダ系米国人のロブ・ワーソフ氏が企画したこの番組で、参加者は自分こそが最も米国人にふさわしいことを証明するために対決する。

ワーソフ氏は、「これは移民版『ハンガー・ゲーム』ではない」「『負けたら船で国外追放する』という話ではない」と説明しているという。

「ハンガー・ゲーム」とは、テレビ中継される中で、子どもたちが生き残りを懸けて最後の一人になるまで殺し合うディストピア小説とその映画版のこと。

WSJは、ワーソフ氏のチームが作成した36ページにわたるスライド資料を検証した。
番組には、誰が鉱山から最も高価な貴金属を回収できるかを争う「ゴールドラッシュ」対決や、チームに分かれてフォード社の自動車「T型フォード」のシャシー組み立て競争などが含まれる可能性がある。

同番組は、移民の入国審査が長年行われていたエリス島への到着から始まり、各1時間のエピソードごとに出場者1人が脱落していく内容。【5月17日 AFP】
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【不法移民のリビアへの強制送還も検討 司法は阻止】
そうしたなかで物議を醸したのが、不法移民のリビアへの強制送還。

****リビアへの不法移民強制送還、米連邦地裁が認めない判断****
トランプ米政権が今週にも不法移民を初めてリビアに強制送還する可能性が浮上してきた中で、マサチューセッツ州の連邦地裁が7日、こうした措置は送還対象者が移送先で迫害される恐れがないかどうかの審査なしで強制送還を実行するのを禁じた先の裁判所命令に対する「明確な」違反であり、強制送還は認められないとの判断を示した。

ロイターは6日、米政府がこれまでリビアにおける囚人の扱いを非難してきたにもかかわらず、早ければ7日にも米軍機で不法移民が同国に送られる可能性があると伝えていた。

この報道を受け、人権団体などがマサチューセッツ州の連邦地裁に対して、これらの人々を正当な手続きを経ずにリビアに直接、ないし第三国経由で送るのを差し止める仮処分を申し立てた。【5月8日 ロイター】
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“地中海経由で欧州を目指す移民・難民の「玄関口」であるリビアには移民収容所が多数あり、その劣悪な環境が問題となっている。国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は2021年の報告書で、子供を含む収容者が性暴力の被害に遭っている可能性があるとし、「ぞっとする地獄の光景だ」と非難。米国務省は昨年発表された23年版の人権報告書で「過酷で生命が脅かされる」状況だと指摘している。”【5月7日 毎日】というのが、これまでのリビアの現状に関するアメリカの認識だったのですが。

【トランプ政権がパレスチナ人100万人をリビアに移住させる計画】
この不法移民リビア送還の中で出てきた話でしょうか、不法移民だけでなくパレスチナのガザ住民もリビアに・・・という話。

****トランプ政権“パレスチナ人100万人をリビアに移住”計画進める 米報道****
アメリカのNBCテレビは16日、トランプ政権がパレスチナ人100万人をリビアに移住させる計画を進めていると報じました。

NBCテレビによりますと、トランプ政権は、パレスチナ自治区ガザ地区から最大100万人のパレスチナ人をリビアに恒久的に移住させる計画に取り組んでいるということです。

また、計画の見返りにトランプ政権は、数十億ドル規模のリビアの資金凍結を解除する可能性があると伝えています。

計画は最終合意には至っていないものの、トランプ政権とリビア指導部との協議も行われ、真剣に検討されているとしています。【5月17日 日テレNEWS】
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すでにパレスチナ難民を多く受入れているヨルダンも、難民流入で治安悪化を懸念するエジプトも受入れを拒否していますので、「それではリビアに」ということでしょうか。

ガザではイスラエルがハマス壊滅のための更なる軍事作戦拡大強化を始めています。
“イスラエル軍がガザ住民に避難を要求 戦闘拡大への準備か”【5月17日 毎日】
“イスラエル軍がガザ軍事作戦を拡大 各地の攻撃で93人死亡 トランプ氏歴訪終了と同時に 被害拡大避けられず”【5月17日 TBS NEWS DIG】

周知のように、リビアでは東西勢力が分裂して争う状況が続いており、まともな国家機能があるようには思えません。

以前から、サハラ砂漠は不法移民・難民の“捨て場”になってきました。

****EU資金でサハラ砂漠に移民遺棄 北アフリカ3か国****
欧州連合(EU)は20日、北アフリカのチュニジア、モロッコ、モーリタニアがEUの資金を使って移民を砂漠に遺棄しているとの国際報道団体の指摘内容を認めた。

仏紙ルモンドや米紙ワシントン・ポストが連なる調査報道団体「ライトハウス・リポーツ(Lighthouse Reports)」は広範な調査の結果、EUが「大規模な強制退去システム」と深刻な権利侵害に加担していると批判した。

報告書は「欧州は移民がEUに来るのを阻止するために、北アフリカ諸国において毎年何万人もの黒人を砂漠や辺境に置き去りにする秘密作戦を支援し、資金提供し、直接関与している」と指摘。そうした作戦は「EUや欧州諸国から提供された資金、車両、装備、情報、治安部隊に支えられ実行されている」と述べている。

欧州委員会のエリック・マメル報道官は、この調査に関する報道陣の質問に対し、「これは難しい状況だ。事態は急速に動いているが、われわれは引き続き対処していく」と述べた。

報告書によると、チュニジア、モロッコ、モーリタニアで難民や移民は「肌の色に基づき拘束され、バスに乗せられ、何もない場所、しばしば乾燥した砂漠地帯に連れて行かれた」。水も食料も与えられなかったという。

中には国境地帯に連行され、「当局によって人身売買業者やギャングに売られた」人々もいるという。

EUはチュニジア、モロッコ、モーリタニアと、欧州への非正規移民の流入を阻止するための資金援助協定を結んでいる。

最近の合意で、EUはチュニジアに1億5000万ユーロ(約250億円)を提供し、追加支援も約束した。また、モーリタニアには2億1000万ユーロ(約350億円)、モロッコには6億2400万ユーロ(約1060億円)を支援する協定を結んでいる。【5月22日 AFP】
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欧州の人権尊重もいささか怪しい感じも。

【リビア 東西対立に加えて民兵組織間の争いで混沌】
リビアに関する報道はほとんど目にしないのでよくわかりませんが、2020年の停戦以降も続く東西分裂に加えて、首都トリポリを抱える西の方では民兵組織間の争いもあって、治安状況はよくありません。と言うか、まともに国家統治が機能しているようにも思えません。

****指導者殺害、治安回復、また銃撃戦...カダフィ後の「分断」リビアでいま起こっていること****
<リビアの首都トリポリの人口密集地帯で連日銃撃戦が行われている。長年の混乱から回復途上にあった国の知られざる現状>

リビアで地元民兵の指導者が殺害されたことを受け、5月12日、首都トリポリで敵対する武装勢力同士の銃撃戦が発生した。国際社会からは沈静化を求める声が上がっている。

リビアのアブドゥルハミド・ドベイバ首相は衝突の翌日である5月13日に、X(旧ツイッター)に治安が回復した旨を投稿した。ドベイバはこの投稿内で、事態の鎮静化に貢献した内務省、国防省、軍、警察を称賛している。

また、同ポストでは、今回の混乱を無事納めることができたことを「非正規勢力を排除するための決定的な一歩」としており、リビア国内の「非正規勢力」の排除を訴えた。

今回の衝突の鎮圧に関与したリビア国防省傘下の「第444旅団」も、この鎮圧作戦が「成功裏に終了した」と、トルコの国営通信社アナドル通信に語っていた。

しかし、国連リビア支援ミッション(UNSMIL)によると、5月13日夜にも同様の衝突が発生している。UNSMILはXに、5月13日、14日と連日、治安状況への懸念を表明し、緊張緩和を求める旨の投稿を行った。

リビアで一体何が起こっているのか。

トリポリは厳戒態勢に
今回の衝突は、強大な民兵組織「安定支援機構(SSA)」の指導者、アブデル・ガニ・アル=キクリ(通称「ゲニワ」)が殺害されたことに端を発している。

SSAはリビアの暫定的国家元首機関である大統領評議会の傘下にある組織。大統領評議会は2021年に国連が承認したプロセスを通じて「国民統一政府(GNU)」と共に政権を担っている。

リビアのテレビ局がキクリの死を報じた後、5月12日午後9時からトリポリでは発砲音や爆発音が確認された。SNS上では、夜間に撮影された衝突の映像と思われる投稿が拡散されている。

AFP通信は、人口密集地でもあるトリポリの南部郊外で起きた今回の衝突は、トリポリを拠点とする武装勢力と、トリポリから東に200キロ離れたミスラタを拠点とする対立勢力との間で発生したものだと報じている。

現在、衝突の舞台となったトリポリには厳戒態勢が敷かれている。
トリポリとその郊外の一部地区では、13日以降、学校が当面閉鎖されている他、当局は住民に屋内での待機を呼びかけている。

保健省はトリポリ市内の病院や医療センターに対して非常事態に備えるよう指示した。内務省は「市民の安全のため」として市民に外出自粛を要請している。

アメリカの移民政策にも影響する?
2011年の反乱でムアマル・カダフィ大佐の政権が崩壊して以来、リビアは長年の混乱からの回復途上にある。
2020年の停戦によって、ある程度の平穏は取り戻されたが、リビアは今なお分断されている。国際的に承認されたGNUがトリポリやリビア北西部を統治している一方、東部のベンガジは「国家安定政府(GNS)」が実権を握っている。

今なお、リビア中に存在する各派閥が同国の石油・ガス資源の支配をめぐって争っている。今回の衝突によってリビアの情勢はさらに不安定さを増すことになるだろう。

他にも、現在、トランプ米政権がアメリカからリビアへの移民送還を検討しているとCNNなどが報じており、リビアの不安定化はアメリカの移民政策にも影響があるかもしれない。

ドベイバ首相は治安回復を宣言しているが、「非正規勢力」との衝突は続くのだろうか。その可能性について、現在もさまざまな憶測が飛び交っている。【5月14日 Newsweek】
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こんな状況に、ガザから100万人も押し寄せれば、事態は一層混沌とします。
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リビア  東西勢力の対立が続き、民兵組織による無法状態も 様々な利害を求めて関与する外国勢力

2024-07-05 22:58:51 | 北アフリカ

(リビア西部では、著名な民兵が国家公認の活動を行っている。【5月15日 ARAB NEWS】)

【昨年9月の大洪水被害拡大も東西の政治勢力が分裂するという国の混乱がもたらした人災】
カダフィ政権崩壊後、13年にわたり東西に分裂(トリポリの国連承認政府と東部のハフタル政権)して争うリビアですが、ここ2,3年、リビアに関する情報はほとんど目にしません。

例外的に多くのメディアが取り上げたのが昨年9月東部デルナで起きた大洪水。
暴風雨「ダニエル」の直撃を受け、2つのダムが決壊し大洪水が発生、死者は3985人、行方不明9000人以上とされています。

自然災害ではありますが、東西の政治勢力が分裂するという国の混乱によりインフラ整備が進んでいないとする人災の面も指摘されています。そうした状況への住民の不満も報じられていました。

****リビア大洪水から1週間 行政の責任問う大規模デモ 市長宅に放火も****
およそ4000人の犠牲者が出ている大洪水の発生から1週間、リビア東部では当局に対して被害の責任を問う大規模な抗議デモが行われました。

ロイター通信などによりますと、リビア東部のデルナで18日、洪水のきっかけとなったとされるダムの決壊は事前の警告を放置した行政の怠慢だとして、市民らが抗議デモを行いました。

市民らはリビア東部を拠点とする「東部政府」の議会議長の解任などを求めています。 また、デモの参加者の一部は暴徒化し、市長の自宅が放火される事態に発展したということです。

国連機関の発表ではデルナを中心に少なくとも3958人が死亡し、9000人以上が行方不明となっています。【2023年9月20日 テレ朝news】
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“市民らはリビア東部を拠点とする「東部政府」の議会議長の解任などを求めています”・・・・純粋に住民の怒りのあらわれなのか、背後に東西分裂の政治情勢、何らかの工作があるのかは知りません。

【“匙を投げた”国連】
いずれにしても「東西分裂」状態はその後も続き、国連も“匙を投げた”形にもなっています。

東西分裂状態のリビアで和平協議を仲介する国連リビア支援団(UNSMIL)のバシリー事務総長特別代表は今年4月6日、「リビア指導者らの政治的意思の欠如」で協力が得られず和平の進展が期待できないとして、仲介を断念したと説明、辞意を表明しています。

****国連リビア特別代表が辞意 和平見通せず、仲介断念****
東西分裂状態のリビアで和平協議を仲介する国連リビア支援団(UNSMIL)のバシリー事務総長特別代表は16日、ニューヨークの国連本部で記者団に対して辞意を表明した。「リビア指導者らの政治的意思の欠如」で協力が得られず、和平の進展が期待できないとして、仲介を断念したと説明した。後任は未定。

バシリー氏は2022年9月から同代表。内戦状態のリビアを外国勢力が代理戦争に利用していると指摘し「状況は悪化している」と訴えた。

リビアでは40年以上統治したカダフィ独裁政権が、11年に北大西洋条約機構(NATO)の軍事介入を受けて崩壊した。【4月17日 共同】
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【多くの民兵組織が恣意的な支配を続ける無法状態】
単に東西間で争っているだけでなく、その内部には多くの独立性を持った民兵組織があって、それぞれが争っている状況でもあり、“リビアは無法状態と制度崩壊に耐え続け、破綻国家に近いものとなっている”というのが現況です。

****カダフィ政権崩壊から13年、武装集団がいまだリビアを支配する理由****
2011年10月20日、ムアンマル・カダフィが故郷のシルテ近郊で反政府武装勢力に拘束され殺害されたが、同年初めに大規模な抗議デモが発生した際にリビア国民が望んでいた安定と民主主義の時代を迎えることはできなかった。

それどころか、国連リビア支援ミッションの懸命な努力にもかかわらず、リビアは依然として深く不安定な状態にあり、2つの対立する政権によって分断され、多数の武装グループが支配権を争っている。

ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院のフォーリン・ポリシー・インスティテュートで北アフリカ・イニシアティブのエグゼクティブ・ディレクターを務めるハフェド・アル=グエル氏は、アラブニュースへの寄稿で次のように述べた。

「憲法と選挙の枠組みに関するコンセンサスの欠如による永続的な膠着状態が続いており、地元と国際的な利害関係者が現状維持に固執することで深まっている」

リビアは、トリポリを拠点とするアブドルハミド・ドゥバイバ首相の国連承認による国民合意政府と、ベンガジを拠点とするハリファ・ハフタル将軍の国民安定政府の間で分裂している。

この溝を埋めようとする最新の努力は、下院と国民統合政府寄りの高等評議会による合同委員会の設立に結実し、国政選挙への道を開くことを目指した。しかし、これはまだ実施されていない。

3月にカイロで開かれたアラブ連盟主催の会合や、2月初旬に国民和解会議を開催しようとしたアフリカ連合の努力も、UNSMILが選挙と国民和解を実現させるのにほとんど役立たなかった。

「革命後のリビアを安定させる必要性から、根深い政治的分裂や外部からの干渉に対処する必要性へと急速に発展した(国連の)任務は、リビアの複雑な状況に適していないことが一貫して証明されている」

「ポスト・カダフィのリビアで民主的な統治を復活させるための組織的な試みではなく、単に失敗を管理することに堕している」

「調停と政治的対話に重点を置いているが、それは崇高なものでありながら、停戦を完全に実施し、統治への移行を管理し、利己的な外部の干渉者による武器や傭兵の流入を抑制するために必要な影響を行使できていない」

4月16日、セネガルの外交官アブドゥライ・バティリー氏は、国連のリビア特使を辞任した。
「この状況では、国連がうまく機能するはずがない。将来的に解決する余地はない」とバティリー氏は当時声明で述べ、当初4月28日に予定されていた国民和解会議の延期を発表した。

「リビア国民を犠牲にして遅延戦術や策略によって現状を維持しようとする現指導者たちの利己的な決意は止めなければならない」

リビアの財政は、競合する外国勢力の支援を受ける2つの政権間で分裂しており、リビア国民や国際社会から見た両政権の正統性の問題は依然として残っている。

リビアが統一的で安定した政権を確立できない主な理由は、間違いなく外国の関与である。専門家によれば、紛争で自分たちが好む側を後援することで、外部アクターは定期的に火に油を注いできたという。

実際、専門家たちは、リビアは、石油、武器契約、戦略的影響力といった戦利品を奪い合う、外国の利害を争うプレイグランドに過ぎなくなっていると考えている。

こうした目的を推進するために、外部のさまざまな利害関係者がリビア国内の民兵を後援しており、それによって国の安全保障機構の分断が複雑化し、長期化している。

ハフタル将軍は、リビア国軍としても知られるリビア・アラブ武装軍を指揮している。ハフタル氏の旗の下には複数の武装集団が所属しているが、その多くは独自の指揮系統の下で活動し、リビア東部全域で独自の襲撃やパトロールを行っている。

一方、リビア西部では、安定支援部隊、ミスラタ対テロ部隊、特別抑止部隊(ラダアとして知られる)、444旅団、111旅団、ナワシ旅団、統合作戦部隊といった著名な民兵組織が、国家公認の独自の活動に従事している。情報収集や監視、街頭パトロール、国境警備、移民キャンプの監督などである。

「今日のリビアでは、武装集団が権力を誇示し、領土支配を維持できる唯一の存在である」と、英国を拠点とする英国王立サービス研究所のアソシエートフェロー、ジャレル・ハルチャウイ氏はアラブニュースに語った。

「これらのグループには明確な指揮系統がなく、必ずしも中央国家の権威に従ったり、明確で組織的な方法で人員を管理したりしていない。彼らは本質的に非公式で、しばしば欠陥があり、機能不全に陥っている」「その欠点にもかかわらず、彼らは領土を支配し、武力を行使することに関しては強力である」

これらの武装集団は、国全体の治安状況を改善する任務を負っているが、しばしば互いに衝突している。統一政府と治安機構を確立するための国際的な努力にもかかわらず、この暴力はほとんど収まる気配がない。

2023年8月、トリポリでラダアと444旅団が街頭で交戦し、55人が死亡した。今年2月には、SSA(安定支援部隊)のメンバーを含む少なくとも10人が市内で射殺された。

今年のイード・アル・フィトルの祝典中、首都でSSAとラダア民兵の衝突が発生した。この直近の暴力事件では死傷者は出なかったものの、リビアの危険な治安状況について新たな懸念が生じた。

リビアの人道的状況は、2020年10月の国連主導による停戦合意以降、いくぶん改善されたとはいえ、一般市民は政治的・経済的不安定の矢面に立たされ続けている。

民兵の小競り合いにより、約13万5000人が国内避難民となっている。2022年の国連報告によれば、さらに30万人が人道支援を必要としている。

悲惨な人道的状況は、昨年9月にリビア沿岸部を襲った壊滅的な嵐によってさらに悪化した。ダニエル嵐は東部の都市デルナの2つのダムを決壊させ、その結果、水の奔流が行く手すべてを平らにした。米国国際開発庁によると、この暴風雨で少なくとも5,900人が死亡し、44,000人以上が避難した。

「リビアの安定を達成するには、何年もかかる長期的な戦略が必要であり、主要な諸外国からの多大なコミットメントが必要である」

SSAとRaadaは、リビアの内務省や国防省の直接の権限下にあるわけではない。とはいえ、彼らは公的資金を受け、2021年に首相と大統領評議会から与えられた特別な地位の下で独立して活動している。

リビアの武装集団は、国連や人権団体から、戦争犯罪を平気で犯していると非難されることが多い。国連が昨年発表した報告書によると、これらの民兵は殺人、レイプ、恣意的逮捕、奴隷制に関与していた。

アムネスティ・インターナショナルの2023年の報告書でも、SSA、LAAF、その他いくつかのグループが性的暴力、拉致、公開処刑を行い、表現の自由を制限していることがわかった。

リビアの市民は、これらの集団、特に国家によって支援され、合法化された集団の責任を追及する力を持っていない。

ハルチャウイ氏は、安定を達成するための第一歩は、武装集団が政府機関に浸透し、リビア国家の不可欠な一部となり、「汚職や違法行為にますます関与していることを認識することだ」と考えている。

彼は言う: 「したがって、汚職に取り組むことが最初の焦点となる。そうすれば、政府行政、金融、石油、富の採取など、物理的な安全保障以外の分野への武装集団の拡大を遅らせることができるからです」「汚職が解決されれば、さらなる対策を検討することができる」

しかし、リビア軍が国内の多くの武装集団を抑制できない背景には、複数の要因がある。
その最たるものが、リビアの「政治指導者、経済機関、そして外国が、日々の活動のために武装集団の保護を必要としている」ことだ。「この保護は、石油生産、外交、契約締結、対テロ情報収集などの活動に必要なのです」

このような活動によって、これらのグループはより強固で強力な存在となり、ひいてはその影響力を削ぐことがより難しくなるのだ、と彼は言う。

「この逆説は、日常的な活動をこれらのグループに依存し続けることは、彼らを強化するだけであり、将来いつの日か正式な勢力に取って代わるという究極の目標を妨げることを意味する」

2023年7月、対立する2つの政権がリビアの多額の石油収入の分配を監督する委員会の設置に合意し、変化の兆しが見えた。

国連安全保障理事会(UNSMIL)は当時の声明で、「公的資金の支出の透明性と資源の公正な分配という基本的な問題に対処するため、高等財政監視委員会を設置するという大統領評議会の決定を歓迎する」と述べた。

とはいえ、カダフィ時代からの開放性、経済成長、国際社会との生産的な関わりからほど遠く、リビアは無法状態と制度崩壊に耐え続け、破綻国家に近いものとなっている。【5月15日 ARAB NEWS】
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カダフィは間違いなく独裁者であり、国際的にも厄介な存在ではありましたが、彼を排除した結果は、民主化ではく、民兵間、東西間で争う混乱状態でした。

【石油、武器契約、戦略的影響力といった戦利品を求めて混乱リビアをプレイグランドとする外国勢力】
“リビアが統一的で安定した政権を確立できない主な理由は、間違いなく外国の関与である”・・・脆弱なリビアに対しては中東、ロシア、欧州など様々な国が独自の思惑から軍事介入を行ってきました。

リビアから遠く離れた中国も、その中に加わっているようです。

****イタリアでリビア向けの中国製ドローンを押収、UAEなどを通じて途上国中に拡散する実態****
<「風力タービンの部品」と偽った貨物は、重さ3トン超、翼幅20メートルにもなる軍用ドローンだった>

イタリア南部の税関・専売庁(ADM)は、アメリカの情報協力を得て1週間前から行ってきたおとり捜査により、リビアに送られる予定だった未申告の貨物を押収したと発表した。貨物の中身は「軍事ドローン」だった。

イタリア南端にあるカラブリア州の当局は7月2日、中国からジョイア・タウロ港に到着した6つのコンテナを調べたところ、「軍事目的で使われるドローンの胴体と翼」を発見したと明らかにした。

税関当局の声明によれば、「風力タービンの部品」と偽って送られてきたこれらの部品は実際にはドローンで、組み立てると1機あたりの重量は3トン超、全長が約9.75メートル、翼幅約20メートルになる巨大なものだった。当局が公開した写真から、これらの部品は中国製の軍用ドローン「翼竜」のものであり、中国からアラブ首長国連邦(UAE)を経由してイタリアに到着した。

(イタリアでの押収の現場)
本誌はこの件について中国外務省にコメントを求めたが、これまでに返答はない。

中国は過去10年で軍用ドローンの開発・輸出を大幅に拡大してきた。世界各地で取引されている中国製ドローンは「翼竜」のほかに「彩虹」や「WJ」もよく知られており、購入国リストにはアルジェリア、エチオピア、インドネシア、イラク、ヨルダン、カザフスタン、モロッコ、ミャンマー、ナイジェリア、パキスタン、セルビア、トルクメニスタンやウズベキスタンなど途上国が並ぶ。

リビアへの武器禁輸も無視
エジプト、サウジアラビアやUAEも「翼竜」を購入しており、これらのドローンがリビア東部の軍事組織「リビア国民軍」のハリファ・ハフタル司令官の手に渡ったと報じられている。ハフタルはリビア東部と南部の一部を支配し、2020年から首都トリポリで国連が承認するリビア政府と対立を続けている。

リビアは2011年にNATOの支援を受けた反体制派が最高指導者ムアマル・カダフィ政権を転覆させて以降、10年以上にわたって内戦状態が続いている。国連の禁輸措置により、地中海に面するリビアの港への(およびリビアの港からの)武器および軍装備品の移送は禁止されている。

(中略)英タイムズ紙は6月30日、イタリア当局が週末に3つの疑わしいコンテナの出荷を阻止する準備を進めていると報道した。カナダが4月にリビアへの軍装備品売却を阻止したことをきっかけに始まった長期的な調査の一環として行われたものだ。

カナダでは4月に元国連職員2人が、リビアに中国製のドローンなどを売却する計画に関与したとして逮捕された。問題の計画ではその後、ハフタルが支配するリビア国内の油田から採掘された原油が中国に輸出されることになっていた。

ハフタルはロシアのウラジーミル・プーチン大統領の盟友で、過去にはプーチンの私兵と呼ばれたロシアの民間軍事会社「ワグネル」の支援も受けていた。プーチンは2023年9月、ハフタルをクレムリンに迎えている。

ロシア軍は地中海を挟んだ反対側のナポリに司令部を置く米海軍第6艦隊に対抗すべく、リビア東部のトブルク港へのアクセスを拡大したいと考えており、プーチンがハフタルとの会談を行った背景にはそうした狙いがあるとみられる。

米国務省は6月、ロシアの国有企業ゴズナクにも、10億ドル超相当のリビアの「偽札」を印刷して「リビアの経済問題をさらに悪化させた」として、ゴズナクに制裁を科した。【7月4日 Newsweek】
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“リビアは、石油、武器契約、戦略的影響力といった戦利品を奪い合う、外国の利害を争うプレイグランドに過ぎなくなっている”

“リビアの「政治指導者、経済機関、そして外国が、日々の活動のために武装集団の保護を必要としている」”

かくして、内部で武装民兵組織が互いに争い、恣意的な支配を行い、外国勢力が関与して混乱の火に油を注ぐ・・・無法状態リビアの混乱がおさまる兆しはありません。

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モロッコ地震  旧宗主国フランスからの支援を受入れを渋るモロッコ 微妙な仏・モロッコ・アルジェ

2023-09-11 23:19:33 | 北アフリカ

(地震の後、がれきの中を歩いて避難する住民ら=モロッコ・マラケシュ郊外で2023年9月9日【9月10日 毎日】)

【「過去120年あまりで最大規模」 死者2100人超 更に増加する恐れ】
北アフリカ・モロッコ中部で8日深夜(日本時間9日朝)に発生したマグニチュード(M)6.8の地震で、内務省は9日深夜、死者が2012人、負傷者が2059人に上ったと発表しいています。しかし、被害の全容は分かっておらず、犠牲者は今後さらに増える可能性があります。

****死者2100人超に=「この世の終わり」「助けて」―山間部で救助難航か・モロッコ地震****
北アフリカのモロッコ中部で8日に起きた強い地震で、被災地では10日も懸命の救助活動が続いた。AFP通信によると、これまでに少なくとも2122人が死亡、2400人以上が負傷した。犠牲者はさらに増える恐れがある。被災者らは「われわれには助けが必要だ」と支援を求めた。

震源とみられる中部アルハウズ県などで住宅を含む建物が倒壊し、多数の死者が出ている。被害の大きい地域は山間部で、現地に入るルートの確保は容易ではない。救助活動は難航しているもようだ。モロッコ王室は9日、3日間の服喪を宣言した。

震源に近い町の男性はフランスのテレビに「石が落ちてきて、人の叫び声が聞こえた。何が起きたか分からなかった。この世の終わりだと思った」と地震の様子を語った。別の男性は「食べ物も飲み物も、住むところもない。誰も助けに来ない」と悲痛な表情を浮かべた。

中部の観光都市マラケシュでは、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録されている旧市街で建物に被害が出た。世界保健機関(WHO)の東地中海地域事務局は、X(旧ツイッター)に「マラケシュとその周辺で30万人以上に影響が出ている」と投稿した。

マラケシュや周辺地域では、地震に遭遇した外国人観光客らが住民と共に逃げ惑った。大勢の人々は余震や建物の倒壊を恐れ、夜間も路上で過ごした。

国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)の専門家は9日の声明で「人命救助は今後24〜48時間が極めて重要だ」と強調。救援活動は数カ月に及ぶとの見通しを示した。

米地質調査所(USGS)などによれば、震源はマラケシュから南西に約72キロ離れたアトラス山脈の山中。日本政府関係者によれば、邦人の被害情報は入っていない。

モロッコでは1960年の西部アガディール地震で1万2000人超が死亡した。今回はそれ以来の規模の被害になるとみられている。【9月11日 時事】 
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モロッコは、「世界最大の迷路」とも呼ばれるフェズの旧市街、「青の街」として有名なシャウエン、「南方の真珠」とも評され、屋台・大道芸などで活気あふれるマラケシュ旧市街、更にはサハラ砂漠観光等々、観光的には見どころが多い国で、日本でもおそらくアフリカではエジプトに次いでツアー観光客が多い国ではないでしょうか。

ですから常時一定数の日本人観光客も滞在していると思われますが、新婚旅行中のマラケシュのホテルで地震に遭遇し怖い体験をされた方などはいらっしゃるようですが、今回地震で被害にあわれた日本人は今のところは報告されていないようです。

地震の被害がおおきくなった理由は、「過去120年あまりで最大規模」(アメリカ地質調査所)という地震そのものの規模に加えて、深夜という時間帯、更に、建物の多くが耐震性を考慮していないものだったことなどがあげられます。

【難航する救助・支援活動 期待される国際支援】
いずれにしても、時間との勝負の救助活動ですが、途上国モロッコに大きな力があるとは残念ながら思えません。
しかも交通も寸断されている山間部の被害が大きいということで救助活動は難航しています。

支援にあっても、寝泊まりの場所・食料・水・電気など、すべてが不足していることが想像できます。

****モロッコ地震、食料や水などの確保に苦戦 各国が相次ぎ支援へ****
マグニチュード(M)6.8の地震発生から3日目を迎えた10日のモロッコの被災地域では、食料や水、避難場所をなかなか確保できない状況に置かれている。

震源地を含めて被害が大きかった場所の多くが山間部に位置し、たどり着くのに苦労するため救助活動も難航。国営テレビによると、これまでに死者は2122人、負傷者は2421人に達した。行方不明者の捜索は続いており、既に1960年以降に同国で起きた地震として最大となった死者数はさらに増える公算が大きいとみられる。

中部の都市マラケシュから南に40キロ離れたムーレイ・ブラヒム村では、被災した男性(36)が「われわれは何もかも、家も全て失った」と語り、まだ政府からほとんど支援が受けられないので水や食料、電力が不足していると訴えた。

こうした中でモロッコ政府は10日、被災者支援に充当する緊急予算を計上。救助チームの強化や水と食料、テント、毛布の配布に動きつつある。【9月11日 ロイター】
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こうした状況でスペインなどから救助隊も入って活動しています。

****モロッコ地震 死者2000人超 各国が救助隊を派遣****
これまで2000人以上が犠牲となるなど、甚大な被害が出ているモロッコで発生した地震で、各国が救助活動の支援に入りました。(中略)

救助活動が続くなか、スペインは軍の救助隊を派遣したほか、フランスやカタールなど各国が支援に入っています。

日本時間12日朝に生存率が急激に下がるとされる発生から72時間を迎えるため、迅速な活動が期待されています。【9月11日 テレ朝news】
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スペインはジブラルタル海峡をはさんで対岸。歴史的には19世紀からモロッコを侵略し、20世紀初頭にはジブラルタル海峡に近い北部リーフ地域はスペインの植民地となりました。

独立後の今でも、セウタとメリリャはスペインの飛び地となっています。

そうした地理的近さ、歴史的つながりもあってのスペイン救助隊の活動でしょう。

【歴史的経緯に加え今日的課題もあって、フランスからの支援受け入れに消極的なモロッコ】
一方、1912年フェズ条約で北部リーフ地域以外のモロッコ大部分を植民地としたのがフランス。
なお、フランス・スペイン以外にも、「列強」のドイツやイギリスもモロッコを狙っていました。 

映画「外人部隊」や「モロッコ」もこの植民地時代のモロッコが舞台。 「カサブランカ」は第2次大戦中のモロッコが舞台。
こうした映画で独特の印象があるモロッコですが、フランスにとっては良くも悪くも深い絆が。

そういう旧宗主国の立場として、フランスは国際救助・支援活動の中心にあってしかるべきところ。
実際、上記記事によれば一部支援はフランスからも入っているようですし、本格的支援活動についても、マクロン大統領は「準備は出来ている、あとはモロッコ側の判断次第」といった趣旨の発言をしています。

しかし今朝のTV報道によれば、モロッコ側はフランスからの支援受入れに消極的のようです。

****モロッコ・人道支援受け入れ・政治的駆け引き****
米国、中東諸国、ヨーロッパなど世界中の国が様々な支援を提案しているが、フランスを含む複数の国に対してモロッコ側が受け入れを渋っている。 マクロン大統領はムハンマド国王6世に文書を送っている。【9月11日 JCCテレビすべて】
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フランスとモロッコの間には、植民地時代からの「因縁」があるようです。昨年のサッカーWカップでも「因縁の対決」が話題になりました。

****歴史が生んだ因縁対決=フランスとモロッコ―W杯サッカー****
14日の準決勝で激突するフランスとモロッコには、歴史的な因縁がある。

フランスはモロッコの旧宗主国で、国内には多くのモロッコ系住民が暮らす。前回王者にダークホースが挑む構図となり、互いの意地がぶつかり合う熱戦になりそうだ。

フランスは1907年からモロッコに軍事侵攻を始め、12年に植民地化。モロッコはナショナリズム高揚などを背景に、激しい闘争を経て56年に独立を果たした。地理的な要因もあり、同国は今大会で破ったスペイン、ポルトガルに支配されていた歴史も併せ持つ。

今大会の準々決勝でフランスとモロッコがいずれも勝利した10日夜にはパリのシャンゼリゼ通りに約2万人が集まり、一部が暴徒化。当初は両チームのサポーターが平和的に喜びを分かち合っていたものの、警官隊に爆竹を投げ付けるなどし、70人以上が身柄を拘束される事態に発展した。

準決勝の日にはさらなる人出が予想され、再び混乱が起きる可能性もある。(後略)【2022年12月13日 時事】
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このあたりは日本と韓国の関係などを考えれば、ある程度想像できるところですが、同じフランス植民地だったアルジェリア・フランス関係に比べたら、モロッコ・フランス関係は悪くなかったとも。

両国の間には、植民地支配をめぐる歴史的経緯以外にも、フランスがモロッコなど北アフリカからの移民を制限していること、マクロン大統領の電話盗聴事件にモロッコが関与しているとされていること、更に西サハラ分離独立をめぐってモロッコと対立関係にある隣国アルジェリアとフランスの関係が改善されていることなど、今日的対立要因もあります。

なお、前出サッカーWカップ「因縁の対決」(勝負はフランスの勝利)直後に、フランスはモロッコに対するビザ発給制限撤廃を発表し、両国関係の緊張緩和を図っています。

****フランス、モロッコに対するビザ発給制限撤廃を発表****
フランスのカトリーヌ・コロナ外相は金曜日、モロッコ人に対するビザ発給制限を撤廃することを発表した。1年以上緊張状態が続いた両国の関係が改善の兆しを見せている。

コロナ外相は金曜日、モロッコの首都ラバトでモロッコのナセル・ブリタ外相と会談した後、「我々はパートナーとしてのモロッコとの間に領事関係を再確立するための措置をとった」と述べた。

フランスでは不法移民への対策を求める世論の圧力を受けて、昨年、アルジェリア、モロッコ、チュニジア国民へのビザ発給を制限することを発表した。フランス国内の不法滞在者の強制送還をこれらの国が拒否していることが理由とされている。

フランスに対しモロッコから見返りがあったかについては、直ちには明らかにされなかった。ブリタ外相は、フランスの制限撤廃は制限導入と同様に一方的な決定だったとしている。

フランスはモロッコに対し、同じ旧植民地であり東隣のアルジェリアよりも全般的に良好な関係を保ってきた。

しかし、2021年夏に、モロッコがスパイウェア「ペガサス」によりエマニュエル・マクロン大統領の携帯電話などを監視していた疑惑が報じられると、両国の関係は悪化した。モロッコはこの疑惑を否定し、「ペガサス」の保有についても否認している。

ビザ発給制限の撤廃は、サッカーワールドカップカタール大会準決勝でフランス対モロッコ戦が行われた2日後に発表された。(後略)【2022年12月17日 ARAB NEWS】
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【アルジェリアとの関係改善を図るマクロン仏大統領】
マクロン大統領は昨年8月にアルジェリアを訪問して、アルジェリア独立戦争の過去の清算に加えて資源確保のために関係改善を図っていますが、このことはアルジェリアと対立するモロッコにすれば「不快」な動きともなっています。

もともとフランスとアルジェリアの間には、植民地支配・独立戦争という「負の遺産」があります。
マクロン大領は過去の清算を行いたいようですが、アルジェリア指導部の抵抗で清算が進まない事態に苛立ちも。

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アルジェリアにおけるフランスの植民地支配の負の遺産から脱却したいというマクロン大統領の長年の願望と、彼が持つアルジェリア当局がそうした負の遺産に固執しているという印象と不満は、昨年大きな問題を引き起こし、今回の訪問にも影を落とすかもしれない。

選挙運動中にマクロン大統領は、アルジェリアの国民性はフランスの支配下で鍛えられたものであり、同国の指導者はフランスへの憎しみに基づいて独立闘争の歴史を書き換えてしまったと示唆したのだ。

その結果、アルジェリアはフランス大使を召還して協議し、領空をフランス機に対して閉鎖する事態となった。このため、サヘル地域(サハラ砂漠南縁部)でのフランスの軍事作戦の輸送ルートも複雑化した。【2022年8月25日 ARABNEWS】
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こうした状況を変えるべくなされたのが、昨年8月のマクロン大統領のアルジェリア訪問でした。

****フランス、アルジェリアと関係改善探る 中ロの接近警戒****
フランスのマクロン大統領は(2022年8月)27日、アルジェリアのテブン大統領とエネルギー分野の連携強化などを盛り込んだ共同声明に署名した。

中国、ロシアのアルジェリアへの接近を警戒し、旧宗主国として関係改善を模索する。天然ガス産出国のアルジェリアに欧州への供給増を働きかける狙いもある。

マクロン氏は25~27日にアルジェリアを訪問した。共同声明は「両国は新たな関係を始める」と明記し、天然ガスや水素分野などでの協力強化を宣言した。アルジェリアがフランスから独立した独立戦争(1954~62年)を巡り、歴史検証委員会を共同で立ち上げることでも合意した。

訪問の背景には、中ロのアルジェリア接近への危機感がある。中国は5月、アルジェリアと事業費4億9千万ドル(約670億円)の石油開発で合意した。

タス通信によると、ロシアとアルジェリアは11月「砂漠の盾2022」と名付けたテロ対策の軍事訓練を初めて共同で実施する予定だ。

米欧が主導する国際秩序に対抗するため、中ロはアフリカ大陸との関係強化を目指している。

一方の(アルジェリア大統領)テブン氏は7月末、メディアのインタビューに「(中ロなどでつくる)BRICSに興味を持っている。経済的にも政治的にも力を持っている」として参加に関心を示した。BRICSはウクライナ侵攻で孤立を深めるロシアが重視している。

仏・アルジェリア関係は独立戦争などを巡る長年のしこりがある。フランスが独立運動を激しく弾圧したことや、仏軍側に立って戦ったアルジェリア人「アルキ」を見捨てた過去があることが今も不信感につながっているためだ。

マクロン氏が2021年「フランスが植民地化する前にアルジェリアという国はあったのだろうか」「アルジェリアのシステムは疲弊している」などと発言したことも、関係悪化に拍車をかけた。

マクロン氏は今回の共同声明を関係修復に向けた一歩と位置付け、中ロとの接近を食い止めたい考えだ。アルジェリアでは広くフランス語が通じ、多くのアルジェリア移民がフランスに渡っている。経済面の協力をもとに関係改善を進めやすいとみている。

アルジェリア産天然ガスの欧州への供給増を求める狙いもある。ウクライナ危機に絡んでロシアが欧州連合(EU)への供給量を絞っており、欧州各国は代替の調達国を探す必要がある。

アルジェリアは主要天然ガスの主要産出国だ。EU統計局によると、20年にEUが輸入した天然ガスはロシア産(43%)、ノルウェー産(21%)に続きアルジェリア産が8%を占めた。パイプラインで供給を受けるイタリアやスペインの依存度が高いほか、フランスも自国の天然ガス需要の8~9%が液化天然ガス(LNG)で調達するアルジェリア産だ。

マクロン氏は26日、「EUが天然ガス調達国を多角化するのに貢献してくれている」と語った。アルジェリアがイタリアへのガス供給拡大を決めたことに謝意を示した。今回のアルジェリア訪問には仏エネルギー大手エンジーのカトリーヌ・マクレガー最高経営責任者(CEO)が同行しており、フランスへの供給についても働きかけがあった可能性がある。【2022年8月28日 日経】
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チュニジア  「アラブの優等生」の混迷 権限集中を進めるサイード大統領 一様ではない評価

2023-01-30 22:33:00 | 北アフリカ
(12月17日、チュニジアの首都チュニスで、議会選挙の投票をするサイード大統領【2022年12月18日 産経】)

【「盗まれた革命」か、独裁返りか】
周知のように、2010年から2012年にかけて中東・北フリカのアラブ諸国に民主化を求める大規模反政府運動が瞬く間に拡散し、強権的な独裁・王権支配の多くの国で国家体制を揺るがし、幾つかの独裁政権が倒れました。

いわゆる「アラブの春」ですが、その発端となったのが、北アフリカのチュニジアであり、その後多くの国が独裁・紛争などに「後退」するなかで、唯一「アラブの春」の成果としての民主主義を維持できているのが、そのチュニジアであることも、しばしば取り上げられるところです。

しかし、その「唯一の成功例」とされるチュニジアにおいて、サイード大統領が議会を停止し、権力を独占する体制に移行しつつあることは、2021年12月19日ブログ“チュニジア 「アラブの春」の唯一の「成功例」が存続するのか、独裁の復活か”で取り上げました。

それから1年以上が経過しましたが、事態に大きな変化はなく、サイード大統領への権力集中、その体制固めが進行しています。

サイード大統領が首相を解任、議会を停止し、権限を自身に集中させているのは、単なる権力欲という訳でもなく、それなりの背景があってのことではあります。

独裁を打破した革命の精神を受け継ぐのは、党利党略に明け暮れる政党ではなく、サイード大統領の方だとの見方もあるようです。

実際、党利党略に明け暮れる政党政治・議会は市民が困窮するなかで有効な解決策を提示できず、そうした事態を打破しようとするサイード大統領を支持する若者らも存在します。

独裁崩壊後の議会では政党対立が繰り返され、行政は汚職が横行。経済状況は革命前より悪化しました。

そうした状況に、若者活動家らは「路上の若者が独裁者を追放したのに、権力層は残り、腐敗している。革命は盗まれた」と怒りました。

そのころ、デモを続ける若者活動家に寄り添い、その怒りに共感したのが、のちに大統領となる憲法学者サイードでした。

サイード大統領が21年7月、イスラム系政党ナハダと世俗派が対立を続け、機能が麻痺した議会の閉鎖を突然宣言。

全政党が「大統領のクーデター」と批判するなか、若者たちは路上に出てサイードの強硬措置を支持して歓喜したとのことです。

サイード大統領による首相解任・議会停止以前から、チュニジア政治は混乱していました。

****独裁返りか? チュニジア「アラブの優等生」報道が無視してきたこと****
<大統領サイードの全権掌握には、反対デモが起こっているだけでなく、賛成の声もある──欧米メディアが使い続ける「優等生」という表現が誤解を助長してきた、チュニジア政治と民主化プロセスの複雑性とは>

7月25日、チュニジアのカイス・サイード大統領が、ヒシャム・メシシ首相の解任と、議会の30日間停止を発表した。首都チュニスの議事堂周辺には治安部隊が配置され、議員たちの立ち入りを禁止した。

さらに翌日、サイードは法相代行と国防相も解任し、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラの支局閉鎖を命令。一般市民についても3人以上の集会を禁止した。一連の措置について、ラシド・ガンヌーシ議会議長は「クーデター」だと厳しく批判した。

そんなことはない、とサイードは言う。チュニジア憲法80条は、「国家の一体性および、国家の安全保障や独立を脅かす差し迫った危険」が生じた場合、国家元首が全権を掌握することができると定められているというのだ。

確かにチュニジアは、長く経済が停滞し、議会は迷走し、新型コロナウイルスの感染者が急増している。だがそれが、国家の差し迫った危険かどうかは、議論が分かれるところだろう。本来なら憲法裁判所が裁定を下す問題だろうが、そのような法廷はない。

チュニジアはこうした政変とは無縁の国のはずだった。2011年のアラブ諸国の民主化運動「アラブの春」に先駆けて、25年近く権力の座にあったジン・アビディン・ベンアリ大統領を権力の座から引きずり降ろした後も民主主義体制が維持されてきた唯一の国であり、アラブの優等生だった。

だが、欧米メディアが使い続けてきたこの表現は、一種の誤解を助長してきた。まるでチュニジア政治には、民主化以外の道のりはなくて、デモの次は選挙、その次は憲法制定と、直線的に進化している印象を生み出したのだ。

独裁を試してもいい?
興奮気味の社説が、「本物の民主主義」への平和的な移行が起きていると語るとき、チュニジア政治の複雑性や、民主化のプロセス全般の複雑性は割愛されていたのだ。

サイードの全権掌握が、チュニジアの民主化の終わりを意味するのかどうかは、まだ分からない。それに、チュニジアで民主主義が壊れそうになったのは、この10年でこれが初めてではない。2013年には野党党首が暗殺されて、長期にわたり政局が混乱した。

2015年には、チュニジアで民主的に選ばれた初の大統領であるベジ・カイドセブシが、議会第2党のイスラム主義政党アンナハダとの協力を拒んだため、またも政局が混乱した(カイドセブシは議会第1党で世俗的な政党ニダチュニスの元党首だった)。

結局、カイドセブシと、アンナハダ党首のガンヌーシの間で和睦が生まれたが、それは2人が、相手に自分の意思を押し付けるだけの大衆の支持(つまり議席)がない現実を受け入れた結果だった。

それでも、2013年の暗殺事件が大掛かりな騒乱に広がらなかったことや、15年に2人の大物政治家の間で協力関係が構築されたこと、そして19年にカイドセブシが任期中に病死したとき平和的な権力の引き継ぎが行われたことは、大いに称賛に値する。

だからといって、今後もチュニジアの民主化が続くとは限らない。チュニジア情勢を丹念に追ってきた専門家なら、それを知っているはずだ。チュニジアの経済難、アイデンティティー問題、エリート層における旧秩序への回帰願望、そして議会の機能不全を考えれば当然だろう。

実際、現在のチュニジアでは、サイードが全権掌握を発表したことに対して、賛成のデモと、反対のデモの両方が起こっている。

現地からの報告によると、サイード支持派は、首相の政権運営と高止まりしたままの失業率に辟易していた。さらにこの1年のコロナ禍で、チュニジアの医療体制は大打撃を受けた。だから今、「もっと大きな権力を与えてくれれば、国民の生活を改善できる」と約束する独裁者に、賭けてもいいかもしれないと思う人が増えているのだ。

欧米人がチュニジアで交流する専門家やジャーナリストや社会活動家は、より公正で民主的な社会を構築したいと言うかもしれない。だが、幅広い庶民はどうだろう。少なくともここ数日路上に繰り出している人々は、民主主義についてもっと複雑な感情を抱いているようだ。

「成功例」というプリズム
彼らが求めているのは、特定の政治体制ではなく、雇用と社会的なセーフティーネットをもたらしてくれる、もっと実務能力の高い政府だ。

確かにこの10年で、チュニジアの人々はより大きな自由を得た。しかし経済難ゆえに、彼らの多くが自由を手放して、なんらかの形の権威主義を試してみてもいいと思うようになった可能性がある。

(中略)そこで厄介な問題となるのは、米政府も「チュニジアはアラブの春の成功例だ」というプリズムを通して物事を見る傾向があることだ。専門家も民主活動家も、チュニジアは民主化を成し遂げたのだから、もっと支援するべきだと主張してきた。

実際、アメリカは2011年以降、チュニジアの民主主義定着のために、総額14億ドルの支援を約束してきた。具体的には、国内の治安と安全保障、民主主義実践の強化、持続可能な経済成長などが含まれている。

もし、サイードの議会停止・全権掌握が一時的なものではなく、長期にわたり続くことになったら、つまりサイードが独裁と化したら、アメリカはこうした援助を停止または打ち切るのか。

それは価値観的には正しい判断かもしれないが、安全保障を考えるとリスクが高い。チュニジアはこれまでにも過激派分子を多く生み出してきたし、イスラム過激派の武力が交錯する隣のサヘル地域も不安定だ。

ひょっとすると、チュニジアは民主主義体制とか独裁体制といった、国家の体制に基づき外交政策の大枠を決める時代が終わりつつあるという教訓なのかもしれない。政治体制は変わるものだ。それも驚くほどあっという間に。【2021年8月2日 Newsweek】
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【権限集中を進めるサイード大統領】
サイード大統領の権限集中の軌跡を簡単にたどると、2021年9月、解任で空席となった首相に、国内で世界銀行のプロジェクトに携わった経験があるものの政治的には未知数の女性地質学者のナジラ・ブーデン氏を指名。

“チュニジア大統領、司法最高評議会を解体 裁判官ら強く反発”【2022年2月7日 ロイター】

****チュニジアで改憲案の国民投票 大統領の権限強化へ****
チュニジアで25日、カイス・サイード大統領の権限を強化する憲法改正案の是非を問う国民投票が行われた。大統領にほぼ無制限の権限を与える内容で、民主化運動「アラブの春」発祥の地である同国を独裁体制に回帰させるものだと批判されている。

サイード氏はちょうど1年前、行政府を解任し、議会を停止して自身の権限を強化。反対派からはクーデターだと非難を浴びた。だが同国では、独裁政権を率いたジン・アビディン・ベンアリ元大統領が失脚した2011年からの10年以上、経済危機と政治的混乱が続いており、生活が改善しないことに不満を抱く国民の多くはサイード氏を支持した。

サイード氏はここ1年、自身の権限を強化してきたが、経済の大きな改善にはつながっていない。今回の改憲案は可決される見通しだが、投票率の高さが同氏に対する世論の支持の指標となる。改憲案の可決に必要な最低投票率は設定されていない。

改憲案は大統領に対し、軍の指揮権や、議会の承認なしに行政府を任命する権限を与える一方で、大統領の罷免を事実上不可能とする内容。

また、大統領は議会に法案を提出できるようになり、議会は大統領の法案を優先させなければいけない。反対派は、改憲によりチュニジアが独裁体制に後戻りする恐れがあると警告している。(後略)【2022年7月26日 AFP】
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憲法改正案は「賛成94.6%」で成立したものの、野党が投票をボイコットするなかで投票率は30.5%にとどまりました。

これまでも民主主義を根付かせるため、様々な困難を乗り越えてきたチュニジアでは、新憲法が成立したとしても、すぐに独裁になる可能性は低いという見方もあります。

一方で、「アラブの春」で独裁体制が倒れた後、民主選挙でイスラム政党が勝利。政治が混乱し、強い権力を持つ大統領が再び登場するという流れは、エジプトとも重なる・・・という見方もあります。

昨年末には議会選挙が行われましたが、主要政党がボイコットし、8%台の低投票率(その後の正式発表では11.2%)にとどまりました。

****チュニジア議会選挙の投票率わずか8.8%、主要政党はボイコット****
(2022年12月)17日に行われたチュニジア議会選挙で、選挙管理当局が発表した暫定投票率はわずか8.8%にとどまった。権限強化を進めるサイード大統領に反発した主要政党は選挙をボイコットし、経済悪化などを背景に国民の間にも現政権への不満が広がっている構図が浮き彫りになった。

有力野党の1つである「救国戦線」は、低い投票率はサイード氏の政権に正当性がない証拠だとして大統領の辞任を求めるとともに、国民に大規模なデモや座り込みによる抗議に動くよう呼びかけた。

別の有力政党「自由憲政党」を率いるアビル・ムッシー氏もサイード氏の退陣を要求し、国民の9割以上がサイード氏の政治プランを拒否したと強調した。

投票所近くで話しを聞いたある有権者は「今回の選挙には納得していない。これまでの選挙では真っ先に投票してきたが、今は興味がなくなった」と語った。

17日は、ちょうど11年前にこのチュニジアで独裁体制に抗議する男性が焼身自殺を図り、中東・北アフリカの民主化運動「アラブの春」につながった節目の日。ただ同国ではサイード氏が政権を掌握して以来、昨年7月に議会を停止し、大統領令だけで政策運営を行うなど強権的な姿勢を打ち出し、民主主義の先行きに暗雲が立ち込めている。【2022年12月19日 ロイター】
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“権利保護団体によると、チュニジアではサイードによる権力掌握以来、民間人に対する軍事裁判がますます一般的になっている”との指摘も。

****チュニジア政権、反サイード派の政治家を拘束****
チュニジアの軍事控訴裁判所は20日、即時発効の14か月の禁固刑をマフルフ氏に言い渡した、と同氏の弁護士を務めるイネス・ハラス氏は述べた

チュニス:チュニジアの私服警官が21日早朝、軍事裁判所の判決後、カイス・サイード大統領に批判的な著名人一人を拘束したと、被拘束者の弁護士が述べた。

ザイフェディン・マフルフ氏は、2021年3月のチュニス空港でのにらみ合いの際、警察を侮辱した罪で有罪となっていた。

弁護士が投稿したフェイスブックの動画によると、イスラム国家主義政党アル・カラマのマフルフ党首は、車に押し込まれる前に「クーデターを打倒せよ」「チュニジア万歳」と叫んでいたそうだ。

権利保護団体によると、チュニジアではサイードによる権力掌握以来、民間人に対する軍事裁判がますます一般的になっているという。(中略)

野党連合「国民救済戦線」(NSF)の代表は、21日、ジャーナリストに対し、この判決は「復讐の精神」を反映していると述べた。アーメド・ネジブ・チェビ氏は、「私たちは自由の殺害と民主主義の破壊を目の当たりにしています」 と述べた。「民間の反対勢力や政治的敵対勢力の指導者たちを排除したいという願望が存在しています」

20日遅くに大統領府のフェイスブックに掲載された声明では、「すべての腐敗した人々と、自分たちは法を超越すると信じている人々に対処する」取り組みを呼びかけている。【1月22日 ARAB NEWS】
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【11%台投票率に終わった議会選挙の決選投票】
1月29日に行われた議会選挙の決選投票も投票率は11%あまりでした。

****議会選決選、投票率11.3%=大統領への不信あらわ―チュニジア****
チュニジアで29日行われた議会選挙(定数161)の決選投票で、選挙管理委員会は投票締め切り後、暫定投票率が11.3%だったと発表した。

昨年12月の第1回投票と同じく異例の低投票率で、「政治改革」と称して強権化を進めるサイード大統領への国民の不信があらわになった。

第1回の投票率は11.2%で、23人が当選。決選投票は第1回で過半数を得票した候補者がいない131選挙区の上位2人によって行われた。暫定結果は2月1日までに、最終結果は3月4日までに発表される。【1月30日 時事】 
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****投票率11%、国民の負託なきチュニジア議会****
(中略)
「チュニジア国民は本日、カイス・サイードのプロセスや選挙を受け入れないという最終決定を下した」。主要野党勢力Salvation Frontを率いるネジブ・チェビ氏は記者会見でそう語った。

チュニジアでは生活必需品が店頭から消える一方で、政府は破産回避のために外国の救済を求め、助成金を削減している。経済状況は悪化しており、多くの国民が政治に失望し、指導者に怒りを感じている。

「私たちは選挙を求めていません。欲しいのはミルクや砂糖、食用油です」。29日、チュニスのEttadamon地区で買い物していた「ハスナ」という女性はそう語る。(後略)【1月30日 ARAB NEWS】
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サイード体制が独裁・強権支配に陥っているのか、あるいは、民主主義が根付かない状況での不毛の政党政治の弊害を取り除き、市民生活の安定に資するのか・・・評価が難しいところです。


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エチオピアとリビア  国内で戦闘再燃の懸念

2022-08-28 21:40:20 | 北アフリカ
(27日、衝突が起きたリビア・トリポリで炎上する車両【8月28日 産経】)

【再燃したティグレ人勢力との戦闘】
アフリカ東部エチオピアでは、ノーベル平和賞受賞者でもあるアビー首相率いる政府軍と以前国の実権を握っていた少数民族ティグレ人勢力が激しい戦闘を繰り広げ、双方が非人道的な行為を行っているとも報じられていましたが、3月に政府側が休戦を発表し、一応の小康状態を保ってきました。

ただし、ティグレ人勢力TPLFとは別のオロモ人主体の反政府武装勢力「オロモ解放軍(OLA)」との衝突を報じられていました。

一方で、そうした内戦以上に飢餓の脅威にもさらされています。

そのエチオピアで、政府軍とティグレ人勢力TPLFの戦闘が再燃したとのこと。

****エチオピア北部で戦闘再開 5か月の休戦に幕****
エチオピア北部で24日、政府軍と反政府勢力「ティグレ人民解放戦線」の間で戦闘が発生した。3月に宣言された休戦は5か月で破綻し、和平交渉への打撃となった。

戦闘再開が伝えられてから数時間後には、エチオピア空軍が、TPLFの武器を積んで隣国スーダン経由で領空を侵犯した航空機を撃墜したと発表した。

アフリカ2番目の人口を有するエチオピアでは、政府軍とTPLFとの間で2020年11月から1年9か月にわたり内戦が継続。今年3月に休戦が発効し、戦闘で荒廃した北部ティグレ州への国際支援が3か月ぶりに部分的に再開されていた。

だが政府軍とTPLFはこれまで、相手側が和平に向けた努力を阻害していると非難し合っており、今回の戦闘再開についても互いに責任があると主張している。

国連のアントニオ・グテレス事務総長は、戦闘の再開に「深い衝撃を受けた」と表明。「敵対行為の即時停止と和平交渉の再開」を呼び掛けた。 【8月25日 AFP】
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エチオピア政府側は、24日午前5時ごろにTPLFが、ティグレ州南東部から隣接するアムハラ州側へ攻撃をしかけたと主張しています。

TPLF側は、政府軍がここ数日、軍の再配置を進めていたと指摘し、政府軍が24日午前5時ごろ、ティグレ州への攻撃を始めたと訴えています。

【深刻な食糧不足への国際支援も困難に 民間人犠牲も】
いずれにしても、国連世界食糧計画(WFP)によれば、ティグレ州内に暮らす人々の約半数が深刻な食糧不足に陥っているとされており、戦闘の再開により支援物資がさらに届きにくくなり、州内の状況は悪化することが懸念されています。

問題のティグレ州の出身者の一人が世界保健機関WHOのテドロス事務局長です。

****親族が「飢えている」 WHO事務局長、故郷エチオピアの窮状嘆く****
世界保健機関のテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は25日、故郷のエチオピア北部ティグレ州の状況をめぐる個人的な苦悩を吐露し、親族が苦しみ飢えているにもかかわらず、連絡も支援もできないことを嘆いた。

スイス・ジュネーブのWHO本部で記者会見したテドロス氏は、ティグレ州には多くの親族が住んでいると説明。「お金を送りたいが、送れない。飢えていることを知っているが、助けることができない」と語った。同州は完全に封鎖された状態で、「誰が死んだのか、誰が生きているのかさえ分からない」という。

内戦が続くエチオピアでは、ティグレ州の住民600万人が2年近くにわたり基本的なサービスから事実上切り離されている。テドロス氏は、封鎖が「銃弾や爆弾だけでなく、銀行や燃料、食料、電気、医療を武器にして人々を殺してきた」と非難した。(中略)

テドロス氏は、戦闘再開は悲劇だとしつつも、「現実には、戦争は決して止まっていなかった」と指摘。休戦中もティグレ州は封鎖されたままで、食料や医薬品はほとんど入手不可能だったと説明し、「必要不可欠なサービスの再開と封鎖の中止」を改めて訴えた。

また、自身がWHO事務局長の立場を乱用し、出身地への人道支援を繰り返し訴えたとの批判に反論。人々の健康が懸念される国について取り上げることが自身の職務であり、「私はイエメンのためにも同じことをし、現地を訪問した。シリアのためにもしたし、ウクライナのためにもしている」と主張した。 【8月26日 AFP】
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子供を含む民間人犠牲者も報じられています。

****エチオピア北部の幼稚園に空爆、子ども死亡 ユニセフが非難****
国連児童基金(ユニセフ)は27日、エチオピア北部ティグレ州で幼稚園が空爆を受け「複数の子どもが死亡し、負傷者も出ている」と非難した。(中略)

内戦終結に向けた和平交渉への期待が薄れる中、ティグレ州の州都メケレが空爆を受け、市内最大の病院関係者によると、子ども2人を含む少なくとも4人が死亡した。

地元テレビ局は、死者数は子ども3人を含む7人と報じ、大破した遊具や、鮮やかな絵で彩られた建物ががれきと化した様子を放映した。

これに対しエチオピア政府は、軍事施設のみを標的にしたと主張。TPLFが「民間人の居住地域に偽の遺体袋を遺棄」し、空爆被害をでっち上げたと非難した。

しかし、ユニセフのキャサリン・ラッセル事務局長は、空爆が「幼稚園を直撃した」として、「強く非難する」とツイッターに投稿した。(中略)

国連は3月、「エチオピア空軍が行ったとみられる」空爆で1〜3月に少なくとも304人の民間人が死亡したと発表。難民キャンプ、ホテル、市場などが戦闘機と無人機による空爆を受けており、戦争犯罪に当たる恐れがあると警告している。 【8月28日 AFP】
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【東西分裂のリビア 昨年段階の選挙実施予定も立ち消えに】
もう一か所、リビアでも戦闘が再燃したようです。

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リビアでは国の統治や豊富な石油資源をめぐり、東西にそれぞれ拠点に置く政治勢力同士が対立している。

西部のトリポリに拠点を置くのは、先の内戦後に国連主導の和平交渉の一環で設置されたアブドルハミド・ドベイバ首相率いる「国民統一政府」。

東部には、代表議会や、ハリファ・ハフタル司令官率いる軍事組織が拠点を置き、ファトヒ・バシャガ元内相を暫定首相に据えている。【8月28日 AFP】
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そのリビアでは、昨年には選挙実施で東西両勢力を統一するスケジュールも発表されましたが、素人目にも選挙ができるような状況でないようにも思えました。

****10年続いたリビア内戦終結へ 平和は確立されるのか****
(2021年)5月15日、カダフィの独裁の後の10年の混乱を経て、ようやくリビアに単一の暫定政府が成立した。リビアを立ち直らせるチャンスが訪れている。

ここ半年ほどの経緯は、およそ次の通りである。
2020年11月にチュニジアのチュニスで会合した「リビア政治対話フォーラム」(国連の主導で設立されたリビアの地域的あるいは分野別の利益を代表する勢力・派閥の代表者74名で構成された組織)が合意したロードマップには、新たに統一的な暫定政権を設けること、暫定政権は今年(2021年)12月24日に実施されるべきこととされた大統領選挙と議会選挙の準備を取り進めることが規定された。

暫定政権は大統領評議会(大統領と二人の副大統領)および国民統一政府(首相、二人の副首相、その他閣僚)から構成されると定められた。今年2月5日、同フォーラムは暫定政権を構成するメンバーを選出した。

次いで、3月10日、アブドゥルハミド・ダバイバ首相が率いる内閣を議会(東西の対立を抱えている)が承認し、5月15日に新内閣が発足した。これまで対立して来た、国際的に承認されたトリポリのリビア国民統一政府(GNA)と、ハフタル司令官率いる東部のリビア国民軍(LNA)は、平和裏に権限を移譲したのである。
 
これまで相対立し争って来た勢力が単一の暫定政権に合意出来たことは特筆すべきことである。LNAを含め国内の諸政治勢力とこれに連携する軍事組織、およびそれぞれの支援勢力を有する諸外国も少なくとも表面的には支持の姿勢である。(中略)

しかし、事態がどう転ぶかは分からない。既に草案ができている憲法を成立させ、選挙法を整備し、予定通り(2021年)12月24日に選挙を行えるかについて、まだ確かなことは言えないであろう。【2021年6月9日 WEDGE】
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案の定と言うか、その後滞在対立は激化、未確認ながら首相暗殺未遂事件が報じられるような状況になり、選挙も立ち消え。

****リビアの混迷加速 2人の首相、暗殺未遂の観測も****
国家分裂状態が続く中東のリビアで政治危機が深刻化している。東部トブルクの「代表議会」は10日、西部の首都トリポリを拠点とする暫定政権のドベイバ首相はすでに任期が終了したとして、元内相を首相に指名した。

ドベイバ氏は民主的な選挙が実施されていないとして辞任を拒否。東西の両勢力がそれぞれ支持する2人の「首相」が並び立つ事態となった。

ロイター通信によると、代表議会ではこの日、首相選出の投票直前に他の候補者が出馬を辞退したとして、議長がバシャガ元内相の首相選出を宣言した。

東西両勢力による内戦が続いたリビアでは2020年に停戦が成立し、ドベイバ氏率いる暫定政権が昨年12月に予定された大統領選の実施を担った。国連なども後押ししたが、東西の勢力は投票規則などをめぐり対立。選挙は実施できず、東部勢力はドベイバ氏の任期は終了したと主張していた。

国連などは現在もドベイバ氏と暫定政権に正統性があるとしているが、東部を拠点とする有力軍事組織「リビア国民軍」(LNA)がバシャガ氏の首相選出を支持するなど、事態は混迷の度を深めている。

代表議会の首相選出に先立ち、10日にはドベイバ氏が暗殺未遂に遭ったとの未確認情報が流れた。公式声明などは出ておらず実態は不明。一方、トリポリ市内には対立する複数の武装勢力が展開しており、治安悪化の懸念も強まっている。

リビアでは11年のカダフィ政権崩壊後、周辺国も巻き込んだ内戦が起きるなど混乱が続いている。【2月11日 産経】
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新旧首相をそれぞれ擁する東西勢力は今年5月には衝突も。

****リビア首都で新旧首相勢力が衝突、バシャガ新首相が撤退****
リビアの首都トリポリで17日、衝突が発生した。バシャガ新首相が首都に入ったが、退陣を拒むドベイバ首相の勢力が反撃し、バシャガ氏は数時間後に首都を離れた。

同国では3月から対立する政権が併存しており、政治的な膠着の長期化や紛争拡大のリスクが浮上している。【5月18日 ロイター】
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【再び大規模衝突の危険も】
そして、大規模衝突につながることも懸念される衝突が再び。

****リビア首都で武力衝突、23人死亡 東西で新たな大規模紛争の恐れ****
東西で国家分裂状態にある北アフリカ・リビアの首都トリポリで27日、暫定統一政府と代表議会の支援勢力同士が衝突し、少なくとも23人が死亡、6か所の医療施設が攻撃を受けた。政治情勢の緊迫化を背景に新たな大規模紛争に発展する恐れも浮上している。

トリポリの複数の地区で26日夜から27日にかけ、小規模の銃撃や爆発があった。攻撃を受けた建物からは煙が立ち上るのが確認できた。

AFP特派員によると、27日夜までに状況は沈静化したもようという。

保健省は最新情報として、この衝突で23人が死亡、140人が負傷したと報告した。

リビアでは国の統治や豊富な石油資源をめぐり、東西にそれぞれ拠点に置く政治勢力同士が対立している。
西部のトリポリに拠点を置くのは、先の内戦後に国連主導の和平交渉の一環で設置されたアブドルハミド・ドベイバ首相率いる「国民統一政府」。
東部には、代表議会や、ハリファ・ハフタル司令官率いる軍事組織が拠点を置き、ファトヒ・バシャガ元内相を暫定首相に据えている。

国連リビア支援団は、民間人が居住する地区で無差別の砲撃が行われているとして、双方に「即時停戦」を求めた。

国民統一政府(GNA)によると、今回の衝突は、トリポリでの武力衝突の回避を目指す交渉決裂後に起きた。 【8月28日 AFP】
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【“国家が存在しない”状況で困窮する市民生活】
リビアの東西対立は今更の話で、驚くことではありませんが、わからないのは、こんな国家機能が存在しないような状況で市民生活が営めるのだろうか?ということ。

やはり、市民生活は相当に苦しいようです。

****1日最大18時間…酷暑のリビア、慢性的停電に国民の忍耐も限界****
これが私のベッドルームだ」。戦火で国土が荒廃した北アフリカ・リビアで、マフムード・アグイルさんは、後部座席を取り除いて自身と2人の子どものための睡眠場所を確保した自家用のライトバンを指さした。

立派な家があるものの、酷暑の中で慢性的な停電が続いているため、エアコンの利いた自動車で眠らざるを得ない。「朝目覚めると、ひどい背中の痛みに見舞われる」とこぼし、「これが近ごろのわれわれの生活だ」とうんざりした表情を見せた。

リビアの原油確認埋蔵量はアフリカ最大だが、国民は1日最大18時間にも及ぶ停電を耐え忍んでいる。

10年にわたる戦争や暴力、深まる貧困、分断した政府に対し、多くの国民の忍耐は限界に達している。首都トリポリや第2の都市ベンガジでは今月、数千人がデモを行い、「働くための照明が必要だ」などと連呼した。

不発弾を処理する組織で働くアグイルさんは「たとえ電気がきていても、とても弱い。照明をともすのがせいぜいだ」と話す。

北大西洋条約機構が支援した2011年の蜂起で独裁者ムアマル・カダフィ大佐が死亡して以降、治安悪化や燃料不足、インフラの劣化や経済的な苦境に見舞われ、今は危機的な電力不足が国民生活を直撃している。

■すべてひどい状況
アグイルさん宅の外壁には、幾つもの弾痕が刻まれている。度重なる暴力事件に見舞われてきたリビアを物語るようだ。
「保健衛生や教育、道路もすべてひどい状況だ。われわれには何もない」と訴える。

カダフィ政権下のリビアは、原油収入に支えられた寛大な福祉国家だった。しかし、紛争や分断、資源の浪費、インフラの荒廃、石油関連施設の封鎖によって、今や見る影もない。

約700万人のリビア国民は、燃料を大量消費して排ガスをまき散らす発電機を頼りにしている。

■国家の不在
トリポリに拠点を置くアブドルハミド・ドベイバ暫定国民統一政府首相は、今月新たに三つの発電所の稼働を開始すると述べ、民衆に自制を呼び掛けた。

一方、東部では、元内相のファトヒ・バシャガ氏がトブルクの「議会」やハリファ・ハフタル司令官の支持を得ている。

ドベイバ氏がバシャガ氏に権力を引き渡すよう圧力をかけるため、東部の支持者はここ数か月、主要な石油関連施設での生産を制限している。

ベンガジに住むアハメド・ヘッジャージさんは障害のある4歳の息子を抱え、無力感に包まれている。使用する医療器具には電気が必要だが、停電により治療に重大な支障を来たしている。

ヘッジャージさんは「(体制は)われわれが電気を使えるよう保証しなければならない」と述べた。

イスラム教の犠牲祭(イード・アル・アドハ)の前に、「お金を引き出すために早い時間帯に銀行に行ったが、午後3時まで列に並ぶ羽目になった」という。「なぜかって? 国家が存在しないからだ」 【7月20日 AFP】
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“国家が存在しない”状況では、当然と言えば当然ですが、「いい加減にしろ!」と言ってもどうにもならない・・・憂うべき状況です。
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エジプト パンの値上げは政治的なタブー ウクライナ穀物輸出再開に向けた4者協議は週内に合意署名か

2022-07-19 22:12:48 | 北アフリカ
(5月中旬、カイロ市内で売られるアエーシ。小麦価格上昇の影響を受けて値上がりしている=蜘手美鶴撮影【5月22日 東京】)

【すでに上昇していた小麦価格はウクライナ侵攻で更に高騰、「小麦戦争」へ】
周知のように食料輸出大国ウクライナとロシアの戦争状態によって世界の食料需給は大きな影響を受けています。
特に影響が大きいのが多くの国でパンなどの主食に使われる小麦価格の高騰です。

食料品価格はウクライナ侵攻以前から上昇傾向にあって国際的問題となっていましたが、ウクライナ侵攻を受けた更なる高騰で一部の国では飢餓の危機や政情不安を惹起する状況にもなっています。

****ウクライナ侵攻で世界は「小麦戦争」へ****
農業大国ウクライナに対するロシアの侵攻は、世界の小麦市場に深刻な混乱をもたらしており、一部の国では飢餓を引き起こしかねないと懸念されている。

■世界の主食
「Feeding Humanity(人類への食料供給の意)」と題する著書がある経済学者のブルーノ・パルマンティエ氏は、「小麦は世界中で食べられているが、どこでも生産できるわけではない」と指摘する。

 輸出できるだけの小麦を生産している国も、十数か国しかない。中国は世界一の生産国だが、14億の人口を養うために小麦を輸入している。

 小麦の輸出大国は、ロシア、米国、オーストラリア、カナダ、ウクライナ。輸入国の上位は、エジプト、インドネシア、ナイジェリア、トルコなどだ。

■価格高騰の理由
穀物価格は、2月にロシアがウクライナ侵攻を開始する前からすでに高騰していた。背景にはいくつかの要因がある。

まず、新型コロナウイルス流行による打撃から経済が立ち直るにつれ、燃料価格が上昇し、窒素ベースの肥料の価格も高騰した。またコロナ関連規制の解除に伴い、あらゆる製品の需要が急増し、世界のサプライチェーンに大きな混乱を来した。さらに昨年の熱波で、カナダでは農作物が壊滅的な被害を受けた。

■ウクライナ侵攻が事態を悪化させた訳
ロシアのウクライナ侵攻開始後、小麦価格はさらに高騰。5月の欧州市場では1トン当たり400ユーロ(約5万5000円)超と昨夏の2倍となった。開発途上国にとってはあまりにも大きな変化だ。

侵攻開始前、欧州の穀倉地帯と言われるロシアとウクライナは、世界の穀物輸出の30%を占めていた。また国連食糧農業機関によると、30か国以上が小麦の輸入需要の30%を両国に依存している。

■ウクライナへの影響
ロシアの海上封鎖によって、ウクライナでは2500万トン相当の穀物が輸出できず、農場や港のサイロに足止めされ、鉄道や車両で出荷された分は、海上輸送の6分の1にとどまっている。

また侵攻が続く中、小麦の種まきをする時期を迎えた農家は、防弾チョッキを着て作業したり、地雷などの除去を専門家に依頼したりする必要に迫られた。ウクライナの穀物協会UGAによると、今年の小麦の収穫高は前年比40%減と予想されている。

米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、ロシアによる封鎖は「武力による脅しだ」と非難。世界の国々を「屈服」させ、対ロシア制裁の解除を狙うウラジーミル・プーチン大統領の意図的な戦略だと述べた。
経済学者のパルマンティエ氏は「戦時下において、生産大国は文字通り他国の運命を握る」と言う。

■今後の見通し
他の小麦生産大国に目を向けても、中国は在庫を放出する見込みがなく、熱波で不作のインドは輸出を一時禁止している。

2022〜23年度の世界の小麦生産高は約7億7500万トンで、前年度より450万トン減ると、米農務省は予測している。同省は、ウクライナなどでの減産分は、カナダ、ロシア、米国での増産によって「一部」相殺されるとみている。

だが専門家は、収穫が始まったここ数週間で価格は下落しているものの、市場がウクライナ侵攻の影響を織り込み、不況の懸念が高まっていると指摘している。

ロシアの黒海封鎖によるウクライナからの穀物輸出停止をめぐり、両国は今週、仲介国トルコで国連関係者を交えて3月以来となる対面協議を実施した。トルコのフルシ・アカル国防相は、一定の進展があったとし、来週の再協議で最終合意に至る可能性を示唆している。 【7月16日 AFP】
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【世界最大の小麦輸入国エジプトの苦境 問題は統治の在り様にも】
小麦など食料品価格の高騰は地域的には、ウクライナ・ロシアからの輸入に頼る割合が高い中東・アフリカで大きくなっており、また、紛争地域の国際支援も打撃を受け飢餓に直結する事態にもなっています。

パンの価格の値上がりは、中東各地で政治問題になっており、イランでは5月、小麦関連の政府補助金の削減をきっかけに、小麦を原料としたパスタやパンの価格が3倍になって各地でデモが起きました。イラクやレバノン、スーダンなどでも、小麦やガソリンの価格高騰に怒った市民のデモが伝えられています。

小麦の世界最大輸入国でもあるエジプトも小麦調達・価格高騰に苦しんでいます。

****エジプト、庶民にパン供給の重圧 小麦の増産に躍起****
世界最大の小麦輸入国エジプトが国産小麦の増産を急いでいる。ロシアのウクライナ侵攻で両国に8割を頼っていた輸入小麦の調達がにわかに難しくなり、自給率の向上を迫られている。

小麦の確保は、手厚い補助金で庶民にパンを安く届ける仕組みの大前提。主食を割安に供給する重圧が政権を突き動かしている。

6月初め、首都カイロ近郊のギザにある集荷所に、周辺の農家が収穫したての小麦の袋を続々と運び込んでいた。「小麦は畑の3割だったが、次の作付けは9割に増やそうと思っている」と農家のアリ・タンタウィさん(69)は話した。「国の安定のため、協力するのは当然だ」

エジプト政府は3月、小麦農家に増産奨励策を打ち出した。小麦1アルデブ(150キログラム)につき65エジプトポンド(約460円)を上乗せ支給すると決めた。買い取り価格が1割弱高くなる。小麦農家には肥料の調達も優遇し、高騰している市場価格より大幅に安く売り渡す。

エジプトの2021年の小麦の輸入量は国内需要の半分強に当たる約1200万トン。このうちロシア産が6割、ウクライナ産が2割を占めた。2月にロシアがウクライナに侵攻すると黒海からの出荷が滞り、ルーマニアなどからの代替調達に追われた。遠くインドからも小麦をかき集める事態に追い込まれた。

収穫量の6割は政府に売り渡すよう義務化
政府は「小麦の在庫は4カ月分ある」と民心の安定に躍起だが、輸入依存度を下げようという機運は今回の危機で高まった。

シシ大統領は5月、「国民のニーズに応えるという難題に直面している」と認め、増産に向けた「未来プロジェクト」を打ち出した。1990年代に当時のムバラク政権が着手し、その後停滞していた南部トシュカの農場開発計画の推進にも意欲を示した。ムサイラヒ供給・国内通商相は「24年までに国内需要の65%を賄えるようにする」との目標を掲げる。

小麦農家には優遇策の「アメ」を強調する一方で「ムチ」もある。今年の収穫量の6割を政府に売り渡すよう義務付け、違反者を逮捕した。許可なく民間に売るのも禁じた。

政府の買い取り価格は一律だ。交渉次第で高値になる民間業者向けより、どうしても割安だという。カイロ近郊の農家アブドラさん(65)は「政府への出荷は強制されるべきではない」と声を潜めた。小麦より果物や葉物野菜を大消費地のカイロに新鮮なまま出荷する方が稼げる、というのが近郊農家の本音だ。

政府が小麦の調達に腐心するのは、安価にパンを提供する現行制度に不可欠だからにほかならない。低所得者向けに政府が補助金で価格を抑えた平たいパンは、1枚当たり0.05エジプトポンド。10枚買っても約4円という安さで、製造コストの10分の1にも満たないとされる。人口の約7割が恩恵を受けている。

「アエーシ」と呼ぶ平たいパンは「生活」を意味するアラビア語の語源通り、エジプトの食卓に欠かせない。人口の3割が貧困層で、小麦の国際価格がウクライナ危機で高騰しても、政府はこのパンの価格を維持する姿勢を変えていない。低所得者とは違い、専用のカードを持たない高所得者らはこの安値では買えないが、政府は補助金なしのパンも3月に小売価格を固定した。

名古屋市並みの都市が毎年生まれるのと同じ
ウクライナ危機の長期化で小麦価格が高止まりするほど、政府は財政負担が膨らみ「逆ざや」問題に苦しむ。政府は2021年度予算でパンの補助金に約450億エジプトポンドを割り当てた。22年度は大幅な増加が避けられない。

中東で最大の人口を抱えるエジプトは20年に1億人を突破し、年2%のペースで増え続けると国連は推計している。1年で200万人も増え、名古屋市に迫る規模の都市が毎年出現する計算になる。食糧調達の切迫感は強い。

11年前にエジプトでムバラク政権を倒した民主化運動「アラブの春」は、食糧高への庶民の不満が一因だった。中東には未整備の社会保障制度を補うかのように、食糧価格を補助金で安く抑える国が多い。この暗黙の社会契約が破綻すれば、市民の不満の矛先は為政者に向かいかねない。

既に野菜など価格統制の対象外の食品は大きく値上がりし、エジプトの5月のインフレ率は前年同月比15%を上回った。「どうしてキュウリがこんなに高いの?」「シシに聞いてくれよ」。露天の市場で大統領を名指しして不満を垂れる人も珍しくなくなった。強権的な体制の国では異例のことといえる。物価高の波が主食にまで及べばどうなるか。シシ政権が小麦の調達に奔走するのは、危機感の高まりの裏返しだ。【6月20日 日経】
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上記記事にある11年前にムバラク政権を倒した民主化運動「アラブの春」だけでなく、1977年、サダト大統領(当時)がパンの価格を引き上げ、激しい暴動が起きています。その教訓から、パンの値上げは歴代政権にとって政治的なタブーだとなっています。

エジプト・シシ政権が小麦価格高騰に苦しむのは単に小麦需給動向という外的要因によるだけでなく、そもそもエジプトの、軍部や権力周辺だけが甘い汁を吸い、国民全体の利益がないがしろにされてきた統治にも大きな問題があるとも指摘されています。(このあたりはエジプトだけの話ではなく、食料問題で悩む国の多くは、基本的に統治に問題があることが多いと思われます。)

****食料危機でも腐敗は横行 政情不安のエジプトとレバノン****
ウクライナ戦争による小麦の輸入難で中東、アフリカ諸国は食料危機に直面しているが、中でも小麦の輸入世界一のエジプトと破綻国家レバノンは窮地に陥っている。だが、その背景には「両国の支配勢力が国民そっちのけで私腹を肥やす〝腐敗の構造〟がある」(中東アナリスト)ようだ。

パンの値上げが暴動に直結
(中略)政府がパンの価格へ特別に注意を払っているのは、これが政情不安に直結する問題だからだ。エジプトでは70年代からパンの値上げがあるたびに反政府暴動が繰り返されてきた。  

30年の長期にわたって支配してきたムバラク元政権が「アラブの春」で打倒された要因の一端はパンの価格に対する国民の不満があった。このためクーデターで政権を奪取したシシ大統領は30億ドル(約4000億円)もの補助金でパンの価格を維持、生活苦に対する国民の怒りを抑えてきた。  

だが、ウクライナ戦争後のパンの価格の高騰に政府批判も高まり、ネット上では、〝飢えの革命〟〝シシよ、去れ〟など政権にとっては危険なハッシュタグまで現れた。政府はこうしたネット上の投稿を即刻削除し、批判の取り締まりを強化。同時に富裕層ら50万人からパンの配給を受ける権利などをはく奪、対策に躍起になっている。
 
シシ政権誕生直後は同氏がエジプトの英雄ナセル元大統領に雰囲気が似ていることもあって支持が高かったが、軍指導部や大統領の取り巻きなど一部だけが利権を享受している現実に失望感が広まった。今回の食料危機の対応を誤れば、人口2200万のカイロなどでいつ暴動が起きてもおかしくないだけに、政権の懸念は強い。

甘い汁を吸う軍部
食料危機が深まったのはシシ政権が国民の生活改善や政治・経済改革を怠ってきたことが大きな要因だ。2016年にはIMFから改革を約束して120億ドルの支援を受けたが、国民の生活向上にはつながらなかった。それどころか、国家の借金は10年以降膨らみ、それまでの4倍である3700億ドルにまで増えた。  

「エジプトは近年、支配層の2%が甘い汁を吸い、残りの98%が苦しい生活を余儀なくされてきた。この構図はシシ政権でも全く変わっていない」(中東アナリスト)。特にシシ大統領の出身元である軍部は支配勢力の中核的な存在で、さまざまな企業を経営するコングロマリットでもある。  

その軍部とシシ政権がエジプト復興の起爆剤として一体となって取り組んでいるのが新首都の建設だ。カイロの人口は50年までには2倍の4000万人に急増するとの予測があり、建設事業で経済を活性化し、人口密集問題も解決しようという試みだ。  

新首都の建設地はカイロ東方45キロメートルにある砂漠地帯のど真ん中だ。政府の30に上る省庁や各国の大使館などが移転し、完成すれば650万人が住む都市となるというのが青写真だ。建設費用は約400億ドル(5兆円)。だが、「問題はこの新首都建設で得をするのは誰か、ということだ」(同)。  

メディアなどによると、建設を推進する都市開発公社の株式の51%は軍が保有、新首都圏の土地や不動産の売却などを取り仕切っている。しかも省庁が移転したカイロの跡地はみな一等地にあるが、この跡地の売却も事実上、同公社が独占しており、大きな利益が軍部に転がり込む勘定だ。軍に対する監査は一切ない。(後略)【6月18日 WEDGE】
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【トルコ・イスタンブールでの4者協議、週内にも合意署名か】
トルコ・イスタンブールでのロシアとウクライナの軍事代表と、仲介するトルコ、国連の4者で行われている穀物輸出再開を目指す協議では輸出航路の安全確保などで合意したと報じられています。

ウクライナからの小麦などの輸出がストップしているのはロシアが海上封鎖する黒海沿岸の港湾からの輸出ができなくなっているためですが、ロシア側は「我が国は最高レベル(プーチン大統領)で、輸出に何の支障も無いことを表明していた」「機雷は敷設した側が除去する必要がある。ウクライナ側が港に仕掛けた」(ロシアのベルシニン外務次官)と、責任は機雷を敷設したウクライナ側にあるとしています。

ウクライナ側には機雷を取り除けばロシアがそれを利用して港などへの攻撃を仕掛けてくるとの懸念があります。

ウクライナからの輸出再開のためには、この問題の解決が必要ですが、協議でこの問題がどのように扱われているかは定かではありません。

****穀物輸出巡る4者協議、週内に合意書署名も ロ・トルコ首脳19日会談****
トルコのアカル国防相は18日、ウクライナに滞留している穀物の輸出再開を巡るロシア、ウクライナ、トルコ、国連の各代表団による協議が週内に再び開かれる公算が大きいという認識を示した。

各代表団は先週イスタンブールで開催した会合で、輸出航路の安全確保などで合意した。ただ、国連のグテレス事務総長は、戦争終結に向けた和平交渉の実現には「長い道のり」があると述べていた。

国連報道官によると、グテレス氏は18日、ウクライナのゼレンスキー大統領と現在進められている穀物輸出再開に向けた協議について話した。

アカル国防相は「穀物や食料の輸送に関する計画や原則を巡り合意に達した。これを受けた会合が今週中にも開かれる見通し」と述べた。

別のトルコ政府高官は「複数の小さな問題点を巡り交渉は続ている」としつつも、「今週中に合意書に署名されることが期待されており、私も楽観視している。最終的な合意に至るまで、さほど時間はかからないだろう」と述べた。

また、ロシアのウシャコフ大統領補佐官は、プーチン大統領が19日にイランのテヘランでトルコのエルドアン大統領と会談し、ウクライナの穀物輸出を巡り協議すると明らかにした。

会談にはイランのライシ大統領も同席し、シリア情勢に関する協議も行われるという。【7月18日 ロイター】
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“週内に合意書署名も”ということはあと数日ですが、仮に穀物輸出で合意できても、ウクライナの停戦交渉とはまた別ものとも。

****ウクライナ穀物輸出巡る合意、停戦交渉再開につながらず=ロシア交渉担当者****
ウクライナとの停戦交渉に参加したロシアののレオニード・スルツキー議員は15日、ウクライナの穀物輸出を巡る合意が得られたものの、これがロシアとウクライナの交渉再開につながることはないと述べた。ロシアのタス通信が報じた。

ウクライナとロシア、国連、トルコは13日、ウクライナの穀物輸出の再開に向けた協議をトルコのイスタンブールで開き、輸出航路の安全確保などで合意した。【7月16日 ロイター】
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チュニジア  「アラブの春」の唯一の「成功例」が存続するのか、独裁の復活か

2021-12-19 21:50:54 | 北アフリカ
(民主化運動「アラブの春」のきっかけとなった若者の焼身自殺から11年となる17日に行われた、強権的な統治を強める大統領に抗議するデモ【12月18日 NHK】)

*****「アラブの春」唯一の成功事例チュニジアで大統領が首相解任・議会停止****
「アラブの春」・・・北アフリカ・チュニジアの一都市の露天商の一人の若者が地方役人の理不尽な対応に抗議して焼身自殺したことに端を発する2010年12月18日に始まったチュニジアのジャスミン革命は、2010年から2012年にかけて中東・北フリカのアラブ諸国に民主化を求める大規模反政府運動として瞬く間に拡散し、強権的な独裁・王権支配の多くの国で国家体制を揺るがし、幾つかの独裁政権が倒れました。

しかし、その後の推移は周知のように、シリア・イエメン・リビアのように今も続く内戦の混乱をもたらすことになった国、エジプトのように混乱を経て強権支配政権に戻ってしまった国など、ほとんどの国で“失敗”に終わったとされています。

そうした“失敗”した「アラブの春」の中で、民主化を達成し、その後も維持しているとして、唯一の成功例とされているのが北アフリカ・チュニジアです。

チュニジアでは労働総連盟など4団体が与野党を仲介して民主化を軌道に乗せ、2014年成立の新憲法のもとで大統領選と議会選が2度ずつ行われました。4団体は「チュニジア国民対話カルテット」として15年にノーベル平和賞を受賞しています。
 
憲法学者だったサイード氏は無党派層に支えられて2019年に大統領に当選。一方、同年の議会選で第1党となった穏健イスラム政党ナハダは、メシシ氏の首相就任を支持しました。

しかし、“成功例”チュニジアの政治が、絶えない汚職、改善しない経済不況、更にコロナ禍のなかで今年7月以来危機に瀕しています。

外交・国防を指揮する大統領と内政を担う首相の間で政治の主導権をめぐる争いがあるとされていましたが、7月25日、サイード大統領はメシシ首相を解任し、議会を停止しました。
***************************

サイード大統領はメシシ首相を解任し、議会を停止したのち、地質学者のブーデン氏を首相に任命し、初の女性首相が誕生しました。

****チュニジアで新内閣発足=初の女性首相****
チュニジアのサイード大統領は11日、ブーデン新首相率いる内閣を任命する大統領令に署名した。サイード氏は7月、反政府デモの拡大などによる「緊急事態」を名目にメシシ首相(当時)解任と議会停止を一方的に宣言。政府不在のまま大統領の権限拡大を図り、独裁的な強権姿勢に批判も強まっている。
 
同国初の女性首相となるブーデン氏は地質学者で、政治の要職に携わった経験に乏しい。既存政治の刷新を打ち出し国民の政治不信を払拭(ふっしょく)する狙いもあるとみられるが、手腕は未知数だ。同氏は汚職根絶と市民の生活改善に尽力する意向を表明。サイード氏も11日の演説で「困難な状況だが成功できる」と語った。【10月11日 時事】
**********************

議会の停止・政界外の人物を首相指名ということで、実質的にサイード大統領のもとに政治権力が集中した形になっています。

11年前に打破したはずの「独裁」がまた復活したのか・・・・

****「アラブの春」きっかけの焼身自殺から11年 チュニジアでデモ****
北アフリカのチュニジアでは、民主化運動「アラブの春」のきっかけとなった若者の焼身自殺から11年となる17日、強権的な統治を強める大統領に抗議するデモが行われました。

デモが行われた12月17日は、チュニジアで11年前、路上で野菜を売っていた若者が警察の取り締まりに抗議して焼身自殺を図った日です。

これをきっかけに起きた民主化を求める市民の運動によって当時の政権が崩壊し、アラブ諸国に波及して「アラブの春」と呼ばれました。

チュニジアではその後、民主化が進みましたが、ことし7月、サイード大統領は経済の悪化や政治の混乱が続く国を立て直すためだとして、議会を停止し、強権的な統治を強めています。

この日、デモに参加した人たちは、大統領の措置が民主化の動きに逆行しているとして「自由を求める」などと訴えました。

市民の間で反発が広がる中、サイード大統領は、来年7月に憲法改正の是非を問う国民投票を実施した上で今の議会に代わる新たな議会の選挙を行う方針を示していますが、民主化のプロセスを再び軌道に乗せられるのか不透明な情勢です。【12月18日 NHK】
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上記記事にあるように、サイード大統領は、来年7月に憲法改正の是非を問う国民投票を実施した上で今の議会に代わる新たな議会の選挙を行う方針を示しています。

****チュニジア大統領、22年に国民投票と議会選実施表明 新憲法制定へ****
北アフリカ・チュニジアのサイード大統領は13日、来年7月に新憲法制定へ向けた国民投票、同12月に国民代表議会選挙をそれぞれ実施する方針をテレビ演説で明らかにした。ロイター通信が伝えた。
 
サイード氏は今年7月に議会を停止し、国家の全権を事実上掌握している。今後のロードマップを示した形だが、独裁的な統治の長期化に国内外の懸念が強まりそうだ。
 
演説での説明によると、来年1月からオンラインで公聴会を実施し、新憲法起草を目的とした専門家会議も設置。国民投票は7月25日に行うという。また、来年12月17日に予定する議会選まで現在の議会停止状態を維持するとした。
 
サイード氏は「我々は革命と歴史の道のりを正したい」と訴えた。アラブ諸国で数少ない独裁制から民主制への転換の成功例とされてきたチュニジアでの政治的後退に、欧米主要国からも危惧する声が出ている。【12月14日 毎日】
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チュニジアの迷走の背景には、独裁政権打倒でも一向によくならない、あるいはむしろ悪化している経済・失業の問題があります。

そして経済苦境の改善に議会・政府が有効に対処できていない現実があります。

そうはいっても、通常なら首相解任・議会停止の時点で「独裁」復活として国際的に批判されるところでしょう。今後1年間、議会停止が続くということなら、なおさら。

“チュニジアでの政治的後退に、欧米主要国からも危惧する声が出ている”のは、かなり抑制された反応のようにも思えます。欧米としても“「アラブの春」の唯一の成功例”を否定したくない・・・という空気があるのかも。

****経済失速、議会停止 チュニジアの「アラブの春」の末路*****
「アラブの春」の発端となった北アフリカのチュニジアは、唯一の民主化の成功例と見なされてきた。だが2020年の国民一人あたりの国内総生産(GDP)は11年の革命の前より2割近く低下し、国民の暮らし向きが良くなっているとは言い難い。

チュニジアは21年11月中旬、国際通貨基金(IMF)との借り入れ交渉を開始した。支援要請を受けたIMFは、チュニジア政府に対して、まず補助金および肥大化した公的部門の賃金の削減を実施するよう促している。
 
チュニジア経済は、新型コロナウイルス禍の後退と共に回復が期待されていた。しかし、11月下旬に発表された政府資料では、GDP成長率や財政赤字の対GDP比率、総債務の対GDP比率が軒並み悪化した。

同国の雇用相は11月15日の時点で、チュニジア最大の労働組合「チュニジア労働総同盟」(UGTT)との合意事項の履行を確約するなど余裕を見せていただけに、急激な方向転換となった。
 
経済の先行きが怪しくなるなか、政治面でも内政において芳しくない動きが顕在化し始めている。11月9日、第二の都市スファックスの沿岸地域のアグエレブ町で、埋め立て処分場の再開に抗議していたアブデル・ラゼリ・ラシェヘブさん(35歳)が治安部隊の催涙ガスで死亡する事件が発生した。その後、悪化するごみ危機を巡り、怒りの収まらない群衆と治安部隊との対立は拡大し、今日まで続いている。
 
チュニジアでは21年7月、大統領のサイード氏が首相の解任と議会の停止を行い、議会制民主主義からの逆行を印象付けた。

サイード氏は12月13日、国営テレビを通じた演説で総選挙を「来年12月」とし、それまでは議会が開かれないことになる。

議会を主導していたイスラム政党アンナハダは「クーデター」とサイード氏を非難しているが、アンナハダ政権下の経済苦境にコロナ禍も重なり政府批判の声が高まっていたこともあり、国民の中にはサイード氏の「独裁」を歓迎する声も少なくない。
 
また空席となった首相の座には、初の女性首相としてナジュラ・ブーデン・ラマダン氏がサイード氏により任命されていたが、10月には、テレビ番組にてこれを非難していた国会議員とジャーナリストが、国家の安全保障を犯そうとしたとの容疑で逮捕されている。11月末に彼らは釈放されたが、22年1月には公聴会が予定されているなど、完全な自由の身には程遠い。
 
「アラブの春」の唯一の民主主義が存続するのか、転機にある。【12月19日 WEDGE】
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リビア  12月24日に大統領選挙・議会選挙が予定されているも、実施できるのかは不透明

2021-10-23 23:41:09 | 北アフリカ
(2021年9月24日/リビア、首都トリポリ、暫定政府に対する不信任決議案が可決されたことに抗議する人々【9月25日 kkk】)

【12月24日 内戦を抜けて新たな国造りに向かう大統領選挙と議会選挙の予定】
カダフィ政権が「アラブの春」で倒れた後、東西勢力の内戦状態が続く北アフリカ・リビアについて取り上げたのは、今年4月26日ブログ“リビア・イエメン 内戦状況下での市民による新しい取り組み 女性起業家も”が最後のようです。

ずいぶん間隔があいているのは、この間あまり目だったニュースがなかったためです。

4月26日ブログでも触れたように、ようやく暫定統一政府が成立して、「これから・・・」という話になりそうですが、なかなかそうはならないのがリビアの現実。

そのリビアでは12月24日に新たな国造りの土台となる大統領選挙と議会選挙が予定されています。
これまでの経緯などについては、以下のようにも。

****10年続いたリビア内戦終結へ 平和は確立されるのか****
5月15日、カダフィの独裁の後の10年の混乱を経て、ようやくリビアに単一の暫定政府が成立した。リビアを立ち直らせるチャンスが訪れている。

ここ半年ほどの経緯は、およそ次の通りである。
2020年11月にチュニジアのチュニスで会合した「リビア政治対話フォーラム」(国連の主導で設立されたリビアの地域的あるいは分野別の利益を代表する勢力・派閥の代表者74名で構成された組織)が合意したロードマップには、新たに統一的な暫定政権を設けること、暫定政権は今年12月24日に実施されるべきこととされた大統領選挙と議会選挙の準備を取り進めることが規定された。

暫定政権は大統領評議会(大統領と二人の副大統領)および国民統一政府(首相、二人の副首相、その他閣僚)から構成されると定められた。今年2月5日、同フォーラムは暫定政権を構成するメンバーを選出した。

次いで、3月10日、アブドゥルハミド・ダバイバ首相が率いる内閣を議会(東西の対立を抱えている)が承認し、5月15日に新内閣が発足した。これまで対立して来た、国際的に承認されたトリポリのリビア国民統一政府(GNA)と、ハフタル司令官率いる東部のリビア国民軍(LNA)は、平和裏に権限を移譲したのである。
 
これまで相対立し争って来た勢力が単一の暫定政権に合意出来たことは特筆すべきことである。LNAを含め国内の諸政治勢力とこれに連携する軍事組織、およびそれぞれの支援勢力を有する諸外国も少なくとも表面的には支持の姿勢である。

実業家のダバイバが大物政治家を差し置いて首相に選ばれたことは驚きであったらしいが、(カダフィ時代の腐敗の匂いは引き摺っているが)いずれの方面とも話が出来るとされる彼が首相であることは助けとなっているようである。

他方、彼はトルコに近いようであり(5月初め、トルコのチャウショール外相はリビアを訪問して会談した)、また東部のミスラータ出身でもあり、ハフタルとの関係はどうかという問題もあろう。
 
しかし、リビアの前途はとてつもなく多難である。政治的・地理的に分裂し、国民が日常生活に窮する国で、軍や中央銀行を含め分断した政府機構を一つにまとめる必要がある。休戦(10月以来概ね維持されている)が維持されねばならない。国連が設定した1月23日の期限を無視して今なお外国軍隊と傭兵が存在し、彼等の策謀の危険は去っていない。
 
ハフタルのLNAは現在、ロシア、UAE、エジプトが支持しており、2019年4月から2020年6月にかけてトリポリを奪取しようとして失敗したが(トランプ政権も暗黙裡に侵攻を支持するような姿勢を見せていた)、これが大変な殺戮を招くこととなった。

LNAの侵攻を食い止めたのはトルコの大量の軍事援助である。リビアの和平プロセスにとり最も手に負えない問題は、合意を無視して数万人の外国兵が未だにリビアに存在すること、特にトルコ軍の存在である。

5月8日には、トルコ軍とその傭兵に撤退を要請した暫定政府のナジラ・アル・マンゴーシュ外相に対し、民兵が彼女を探してトリポリのホテルを急襲するという事件もあった。
 
いずれにせよ、米国をはじめ西側は、リビアがロシアとトルコの食い物にされるのを防ぐまたとない機会を逃すべきではない。

米国はこれを機にリチャード・ノーランド(駐リビア大使)をリビア担当特使に任命した。これは、公式にはGNAを承認しながらハフタルのトリポリ侵攻を支持するようなそぶりを見せたトランプ政権の出鱈目なリビア政策を清算し、米国がリビアの政治プロセスに真剣に関与するというメッセージを発することになろう。

しかし、事態がどう転ぶかは分からない。既に草案ができている憲法を成立させ、選挙法を整備し、予定通り12月24日に選挙を行えるかについて、まだ確かなことは言えないであろう。【6月9日 WEDGE】
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これまで、西のリビア国民統一政府(GNA)を支援してきたトルコと、東のハフタル司令官率いるリビア国民軍(LNA)を支援してきたロシアなどが、軍隊・傭兵を送り込んでおり、その撤退が進んでいないことで、つねに戦闘再開の危険が存在しています。

【予定どおりに選挙を行えるのは不明】
“予定通り12月24日に選挙を行えるかについて、まだ確かなことは言えない”・・・上記記事は6月9日ですから、それも当然かもしれませんが、今に至ってもよくわかりません。

一応、9月時点の情報では、東の武装勢力を率いてきたハフタル司令官が大統領選挙に出馬するようだ・・・とのことでした。

****リビアの大統領選挙****
(中略)アラビア語メディアは、リビア国司令官と称するhaftara 将軍が、22日付けの命令で、23日以降彼の権限を東部軍管区参謀長に移管し、彼は9月23日から12月24日の間軍務から離れると公表したと報じています。
どうやらこれは、リビア国会(トブルクにあり東部地区の権力源)が、先日選挙を12月24日とすると決定し、その前の3月間軍職にあったものは、大統領候補の資格がないと決定したことに対応するためのものの由

何しろ、このhaftar将軍というのが、政治的軍人の典型と言おうか、昔の中国の軍閥宜しく、アラブ諸国(特にUAE,、エジプト)のみならず、ロシア米仏等の間を駆け回りその支援を得ては、リビア内戦を煽り扇動してきた人物だが、政治的な遊泳術に比べたら軍事的才能はさっぱりで、トリポリ攻略戦でも大敗を喫しているという人物で、彼が大統領選に出るということは、リビアも遂にそこまで堕ちたかと言う気もするが、これまでの長いリビア内戦の経緯に鑑みれば、一つの区切りになるのかという気もします。

しかし上記メディアによれば、リビア国会の中にも、議長が評決もしないで、選挙法を決めたことに対して、無効とする反対意見もあるとのことで、リビアの悲劇(喜劇?)はまだまだ続きそうです。【9月23日 「中東の窓」】
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9月21日には、東部に本拠を置く議会(代表議会のことか)が、暫定首相の不信任案を可決し、“ドベイベ首相は、選挙で選ばれた議員に権力を引き継ぐまで辞任しないと誓い、衆議院の不信任決議を却下した。”【9月25日 kkk】との政治混乱も。

そうした状況で、議会選挙は来年1月に延期されるのでは・・・との報道も。

****リビア議会選は来年1月か 東西対立で延期***
東西内戦の停戦を受け暫定統一政府が統治しているリビアで5日、東部勢力で構成する代表議会が、統一議会の選挙を大統領選から1カ月後に実施するとの考えを示した。AP通信が伝えた。西部勢力の立場は不明。

リビアでは12月24日に大統領選と議会選が見込まれていたが、議会選が来年1月になる可能性が出てきた。(後略)【10月6日 産経】
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下記記事によれば、“選挙を行う法的枠組みが未だ整っていない”というのが現状のようです。
(なお、下記記事のタイトルの意味は不明です)

****リビアでカダフィ一族の復権はあるのか****
リビアでは昨年11月に国連主導の下で、新たな統一的な暫定政権を設けること、そして、この暫定政権は今年12月24日に実施されるべきこととされた大統領選挙と議会選挙の準備を取り進めることが合意された。

暫定政権は去る2月に成立した。相対立し争う勢力が単一の暫定政権に合意出来たこと自体、特筆すべきことであり、12月の選挙を経て最終的な解決を目指す段取りがともかくも整ったことは、リビア情勢にやっと希望を持たせるようにも思わせた。

しかし、12月に予定通り選挙が行われるのか? その結果として事態は安定化に向かうのか? 全く不透明である。さまざまな報道があるが、情勢は混沌としているようだ。
 
そもそも、選挙を行う法的枠組みが未だ整っていない(60日以内に法的枠組みを整えるとの期限があったがそれはとうに過ぎた)、あるいは選挙法についてコンセンサスが存在しないようである。
 
9月初めにトブルク所在の代表議会(House of Representatives)の議長アギーラ・サーレフは大統領選挙法を可決させた。しかし、ライバル機関と目されるトリポリ所在の高等国家評議会(High State Council)は協議にも与っていないとして承認を拒んでいる。
 
国連は、選挙が行えないよりは好ましいとして、少々無理でもこの選挙法で選挙を行いたい構えのようであるが、危険が伴う。

そもそもリビアのような分断された国の選挙では明確な多数派は構成されにくく、敵対する側は敗北を認めず、選ばれた大統領は弱体ということになりかねないが、選挙法にコンセンサスがなければ、危険は一層大きく、国の分断と混迷を深める危険があろう。

一方、議会選挙法は代表議会において未だ審議中らしく、成案を得るに至っていない。
 
大統領選挙にはサーレフは出馬するつもりなのであろう。彼が成立させた大統領選挙法との平仄を合わせるつもりであろうが、彼は議長の職を退いたとの報道もある。
 
同じ東部を地盤とするとはいえ、サーレフは、「リビア国民軍(LNA)」を率い「リビア国民統一政府(GNA)」に抵抗してきたハリファ・ハフタルの排除を試みているように見える。

ハフタルは出馬して勝てば良し、負ければリビア国民軍の司令官に戻る(現在は公式には司令官を退いている)だけということであろう。【10月21日 WEDGE】
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もうすぐ11月という時点で、“議会選挙法は代表議会において未だ審議中らしく、成案を得るに至っていない”ということでは、なかなか12月24日選挙実施というのは難しいようにも思えますが・・・

****リビア首相、12月24日選挙実施を支持****
リビアのアブドゥル・ドベイバ首相は21日、国連が支援する和平計画に想定されているように、国政選挙を12月24日に実施することを支持した。

首相はトリポリで行われたリビア安定化会議で、2011年にNATOが支援する反乱によりムアンマル・カダフィ政権が崩壊して以来の長期にわたる危機を終わらせることは可能だと述べた。【10月22日 ARAB NEWS】
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選挙実施を支持・・・本来は候補者が出そろって、選挙戦がスタートしている時期ですが・・・。

選挙が予定どおり行われるかも不明ですが、問題は、仮に選挙を行っても、(おそらく東西勢力が大統領選挙、議会選挙に出てくるのでしょうが)負けた方が選挙結果を認めて、その後の統一国家運営に協力する・・・とは到底思えないことです。

【移民・難民の無差別大量逮捕 追い詰められる移民・難民】
統一的な政権が機能していないリビアで、現在どういう統治がおこなわれているのか、市民生活はどうなっているのか、まったく想像できないのですが、かねてより、リビアは欧州を目指す移民・難民の出発点となっており、その移民・難民を食い物にする業者の無法がまかり通っているという話は聞きます。

移民・難民を苦しめているのは悪質業者だけではないようです。

****リビア:首都トリポリで大規模な無差別逮捕――数千人が拘束され、医療を受けられず放置される人も***
リビアの首都トリポリで、10月1日に行われた移民・難民の無差別大量逮捕によって、収容センターに拘留された移民・難民の数が、その後5日間で3倍以上に激増したと、現地で活動する国境なき医師団(MSF)が確認した。

治安の悪化で、MSFが市内で毎週行っている移動診療は中断を余儀なくされ、逮捕を免れた人も外出を恐れ、医療機関受診をためらう状況が続く。

市内3カ所の収容センターで医療活動を行っているMSFは当局に対し、弱い立場にある移民・難民の大量逮捕を中止したうえで、収容センターに不法に収容されている人びとの解放と人道目的でのリビア出国を認め、他国での再定住に向けた国際便の即時再開を求めている。

無力な人びとへの暴力
トリポリ市全域では、この3日間で少なくとも5000人の移民・難民が政府の治安部隊によって拘束された。自宅を襲撃され、捕らえられた人の多くは、性暴力を含む激しい暴力を受けたとも報じられている。国連によると、移民の若者の1人が死亡し、少なくとも5人が銃に撃たれて負傷したという。

襲撃を受けた1人、アブドさん(仮名)は「武装した覆面の治安維持部隊員によって、家が襲撃されました。両手を縛られ、家の外に引きずり出され、荷物や大事な書類をまとめる時間が欲しいと必死に頼みましたが、聞き入れられませんでした。収容センターに連行される途中に、私は小銃で頭を殴られ大けがを負い、足を叩かれて骨折した人もいました。その後、医師が手当てをしてくれましたが、覆面をした男たちに車に乗せられ、気が付いたときにはアル・マバニ収容センターにいたのです。4日間をそこで過ごし、無力な人びとが武器で殴られるのを目の当たりにしました。4日目になんとか脱出できました。」と話す。

逮捕された人びとは国営の収容センターに送られ、清潔な水や食料、トイレもほとんどない、不衛生でひどい過密状態の場所に閉じ込められた。逮捕されたときにうけた暴力により、大勢の人が救急医療を必要としているはずだとMSFは見ている。

リビアでMSFのオペレーション・マネジャーを務めるエレン・バン・デル・ベルデンは「私たちは治安部隊が、さらに多くの社会的弱者の身柄を意味もなく拘束し、非人間的かつ過密状態に収容するといった強硬手段に訴えるのを目の当たりにしています」と話す。

収容所の劣悪な環境と続く暴力
10月4日と5日、MSFは逮捕された人びとが送られた、シャラ・ザウィヤとアル・マバニという市内2カ所の収容所の訪問に成功した。

シャラ・ザウィヤ収容センターの想定収容人数は200~250人だったが、少なくとも550人が同じ部屋詰め込まれ、その中には妊婦や新生児がいるのも目撃した。約120人が1つのトイレを共有し、独房のドアの近くには尿の入ったバケツが並んでいた。食事が配られると、収容された女性たちがこの状況に抗議する騒ぎが起きた。

アル・マバニ収容センターでは、本来飛行機を入れるための格納庫や独房があまりにも過密で、中にいた男性は腰を下ろすこともできない状況だった。

独房の外では、数百人の女性や子どもが、日陰も仮住まいもない野外で拘束されていた。収容された人の中には、3日間何も食べていないという男性や、1日1回、パン1枚とプロセスチーズ3個だけを受け取るのが常だという女性もいた。MSFは、何人かの男性が意識不明の状態で、緊急治療を必要としているのを発見した。

アル・マバニを訪問した際には、拘束された移民・難民のグループが脱出を試みているところも目撃。しかし、このグループは激しい攻撃を受けていた。至近距離で2回の激しい銃撃の音が聞こえ、それから男性らは無差別に殴られた後、車に押し込められ、どこかへ連れていかれてしまった。

収容施設での医療活動
(中略)「収容センターで身柄を拘束する人の数を増やすのではなく、意味のない収容をやめ、このような危険で居住に適していない施設の閉鎖に動くべきです」とバン・デル・ベルデンは話す。

「これまで以上に移民・難民は危険にさらされて生活しています。出国しようにも選択肢はごく限られているので、リビアに閉じ込められたも同然です。今年に入ってから2度も人道援助目的の出国便が正当な目的なく差し止められたのですから」【10月7日 国境なき医師団】
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選挙の実施が、こういう世界が良い方向に向かうスタートとなるのか・・・。
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チュニジア  首相解任・議会停止 大統領は権限を強化し、2か月を経て女性新首相を任命

2021-09-30 22:30:08 | 北アフリカ
(チュニジアの首相に指名されたナジュラ・ブーデン・ラマダン氏【9月30日 毎日)】

(【9月30日 NHK】サイード大統領(右)と新首相 なんとなく両者の力関係が出ているようにも・・・)

【「アラブの春」唯一の成功事例チュニジアで大統領が首相解任・議会停止】
「アラブの春」・・・北アフリカ・チュニジアの一都市の露天商の一人の若者が地方役人の理不尽な対応に抗議して焼身自殺したことに端を発する2010年12月18日に始まったチュニジアのジャスミン革命は、2010年から2012年にかけて中東・北フリカのアラブ諸国に民主化を求める大規模反政府運動として瞬く間に拡散し、強権的な独裁・王権支配の多くの国で国家体制を揺るがし、幾つかの独裁政権が倒れました。

しかし、その後の推移は周知のように、シリア・イエメン・リビアのように今も続く内戦の混乱をもたらすことになった国、エジプトのように混乱を経て強権支配政権に戻ってしまった国など、ほとんどの国で“失敗”に終わったとされています。

そうした“失敗”した「アラブの春」の中で、民主化を達成し、その後も維持しているとして、唯一の成功例とされているのが北アフリカ・チュニジアです。

チュニジアでは労働総連盟など4団体が与野党を仲介して民主化を軌道に乗せ、2014年成立の新憲法のもとで大統領選と議会選が2度ずつ行われました。4団体は「チュニジア国民対話カルテット」として15年にノーベル平和賞を受賞しています。
 
憲法学者だったサイード氏は無党派層に支えられて2019年に大統領に当選。一方、同年の議会選で第1党となった穏健イスラム政党ナハダは、メシシ氏の首相就任を支持しました。

しかし、“成功例”チュニジアの政治が、絶えない汚職、改善しない経済不況、更にコロナ禍のなかで今年7月以来危機に瀕しています。

外交・国防を指揮する大統領と内政を担う首相の間で政治の主導権をめぐる争いがあるとされていましたが、7月25日、サイード大統領はメシシ首相を解任し、議会を停止しました。

****チュニジア大統領が首相を解任、新首相と行政権行使へ****
チュニジアのサイード大統領が25日、メシシ首相を解任し、議会を閉鎖した。新たな首相とともに、大統領自ら行政権を引き継ぐ考えを表明した。

2011年の「アラブの春」で民主化を実現したチュニジアが、大統領と首相、議会の権限を分けた2014年の新憲法制定以来、最大の政治危機に直面している。

大統領の発表を受け、首都チュニスには新型コロナウイルス対策の外出禁止令の発令中にもかかわらず、多くの支持者が集まったが、大統領の行動への支持がどこまで広がるかは不透明だ。

大統領は声明で、今回の行動は憲法に則ったものだと説明した。また、暴力的な反応には武力で応じると警告した。

一方、議会の議長を務める第1党のイスラム政党・アンナハダの党首は、大統領が改革と憲法に対するクーデターを起こしたと主張。「われわれは政府がまだ存続しているとみなし、アンナハダの支持者と国民は改革を守る」と述べ、大統領側との対決姿勢をあらわにした。

国民の間には、長年にわたる汚職や行政機能の悪化、失業の増加を受けて政治への不満がたまっていた。さらにコロナ禍が、経済に追い打ちをかけた。

同国が経済・財政危機に直面し、コロナ対策にも追われる中、サイード大統領とメシシ首相は、ここ1年ほど対立していた。

憲法の規定では、大統領は外交と国防にのみ直接の権限を持つが、サイード大統領は先週の政府のコロナワクチン接種体制の不備を巡り、軍がコロナ対応の指揮を執るよう指示していた。

憲法を巡る争いは本来、憲法裁判所で解決を図ることになっている。だが、判事任命で紛糾したため、憲法制定から7年が経った現在も、憲法裁は設置されていない。【7月26日 ロイター】
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【政変の背景には様々な事情も とは言うものの・・・・】
この事態は、大統領がクーデター的に民主主義を行う議会・首相を排除して独裁に乗り出した・・・というほど単純明快な話ではありません。

こうした事態に至った背景・理由はもちろんあります。

しかし、いろんな事情はあるにせよ、大統領が全権を掌握する独裁体制になっているではないか・・・・と言えば、そうも言えます。

****独裁返りか? チュニジア「アラブの優等生」報道が無視してきたこと****
<大統領サイードの全権掌握には、反対デモが起こっているだけでなく、賛成の声もある──欧米メディアが使い続ける「優等生」という表現が誤解を助長してきた、チュニジア政治と民主化プロセスの複雑性とは>

7月25日、チュニジアのカイス・サイード大統領が、ヒシャム・メシシ首相の解任と、議会の30日間停止を発表した。首都チュニスの議事堂周辺には治安部隊が配置され、議員たちの立ち入りを禁止した。

さらに翌日、サイードは法相代行と国防相も解任し、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラの支局閉鎖を命令。一般市民についても3人以上の集会を禁止した。一連の措置について、ラシド・ガンヌーシ議会議長は「クーデター」だと厳しく批判した。

そんなことはない、とサイードは言う。チュニジア憲法80条は、「国家の一体性および、国家の安全保障や独立を脅かす差し迫った危険」が生じた場合、国家元首が全権を掌握することができると定められているというのだ。

確かにチュニジアは、長く経済が停滞し、議会は迷走し、新型コロナウイルスの感染者が急増している。だがそれが、国家の差し迫った危険かどうかは、議論が分かれるところだろう。本来なら憲法裁判所が裁定を下す問題だろうが、そのような法廷はない。

チュニジアはこうした政変とは無縁の国のはずだった。2011年のアラブ諸国の民主化運動「アラブの春」に先駆けて、25年近く権力の座にあったジン・アビディン・ベンアリ大統領を権力の座から引きずり降ろした後も民主主義体制が維持されてきた唯一の国であり、アラブの優等生だった。

だが、欧米メディアが使い続けてきたこの表現は、一種の誤解を助長してきた。まるでチュニジア政治には、民主化以外の道のりはなくて、デモの次は選挙、その次は憲法制定と、直線的に進化している印象を生み出したのだ。

独裁を試してもいい?
興奮気味の社説が、「本物の民主主義」への平和的な移行が起きていると語るとき、チュニジア政治の複雑性や、民主化のプロセス全般の複雑性は割愛されていたのだ。

サイードの全権掌握が、チュニジアの民主化の終わりを意味するのかどうかは、まだ分からない。それに、チュニジアで民主主義が壊れそうになったのは、この10年でこれが初めてではない。2013年には野党党首が暗殺されて、長期にわたり政局が混乱した。

2015年には、チュニジアで民主的に選ばれた初の大統領であるベジ・カイドセブシが、議会第2党のイスラム主義政党アンナハダとの協力を拒んだため、またも政局が混乱した(カイドセブシは議会第1党で世俗的な政党ニダチュニスの元党首だった)。

結局、カイドセブシと、アンナハダ党首のガンヌーシの間で和睦が生まれたが、それは2人が、相手に自分の意思を押し付けるだけの大衆の支持(つまり議席)がない現実を受け入れた結果だった。

それでも、2013年の暗殺事件が大掛かりな騒乱に広がらなかったことや、15年に2人の大物政治家の間で協力関係が構築されたこと、そして19年にカイドセブシが任期中に病死したとき平和的な権力の引き継ぎが行われたことは、大いに称賛に値する。

だからといって、今後もチュニジアの民主化が続くとは限らない。チュニジア情勢を丹念に追ってきた専門家なら、それを知っているはずだ。チュニジアの経済難、アイデンティティー問題、エリート層における旧秩序への回帰願望、そして議会の機能不全を考えれば当然だろう。

実際、現在のチュニジアでは、サイードが全権掌握を発表したことに対して、賛成のデモと、反対のデモの両方が起こっている。

現地からの報告によると、サイード支持派は、首相の政権運営と高止まりしたままの失業率に辟易していた。さらにこの1年のコロナ禍で、チュニジアの医療体制は大打撃を受けた。だから今、「もっと大きな権力を与えてくれれば、国民の生活を改善できる」と約束する独裁者に、賭けてもいいかもしれないと思う人が増えているのだ。

欧米人がチュニジアで交流する専門家やジャーナリストや社会活動家は、より公正で民主的な社会を構築したいと言うかもしれない。だが、幅広い庶民はどうだろう。少なくともここ数日路上に繰り出している人々は、民主主義についてもっと複雑な感情を抱いているようだ。

「成功例」というプリズム
彼らが求めているのは、特定の政治体制ではなく、雇用と社会的なセーフティーネットをもたらしてくれる、もっと実務能力の高い政府だ。

確かにこの10年で、チュニジアの人々はより大きな自由を得た。しかし経済難ゆえに、彼らの多くが自由を手放して、なんらかの形の権威主義を試してみてもいいと思うようになった可能性がある。

もちろん、今後チュニジアで何が起こるか、そして他国がどんな反応を示すかは完全に不透明だ。2011年1月にベンアリを追放して以来のチュニジアに対する世界の注目、そしてジョー・バイデン米大統領が唱える価値観ベースの外交という方針を考えると、アメリカは少なくとも何らかの措置を講じるプレッシャーを感じているだろう。

そこで厄介な問題となるのは、米政府も「チュニジアはアラブの春の成功例だ」というプリズムを通して物事を見る傾向があることだ。専門家も民主活動家も、チュニジアは民主化を成し遂げたのだから、もっと支援するべきだと主張してきた。

実際、アメリカは2011年以降、チュニジアの民主主義定着のために、総額14億ドルの支援を約束してきた。具体的には、国内の治安と安全保障、民主主義実践の強化、持続可能な経済成長などが含まれている。

もし、サイードの議会停止・全権掌握が一時的なものではなく、長期にわたり続くことになったら、つまりサイードが独裁と化したら、アメリカはこうした援助を停止または打ち切るのか。

それは価値観的には正しい判断かもしれないが、安全保障を考えるとリスクが高い。チュニジアはこれまでにも過激派分子を多く生み出してきたし、イスラム過激派の武力が交錯する隣のサヘル地域も不安定だ。

ひょっとすると、チュニジアは民主主義体制とか独裁体制といった、国家の体制に基づき外交政策の大枠を決める時代が終わりつつあるという教訓なのかもしれない。政治体制は変わるものだ。それも驚くほどあっという間に。【8月2日 Newsweek】
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【長引く「一時的措置」 強化された大統領権限】
腐敗と混乱をもたらす「民主的な体制」よりは、結果をもたらす独裁のほうがましか・・・・どうかは、多くの議論があるところで、チュニジアだけでなく、中国・ロシア、その他多くの国々で問題となるところです。

チュニジアの場合も、「一時的」とされた大統領の全権掌握が長引くにつれて、独裁への不安・批判も高まっていました。

****チュニジアの民主政治に危機 政変2カ月、大統領独裁に懸念の声****
北アフリカ・チュニジアのサイード大統領が7月25日に「緊急事態」として国民代表議会の一時停止と首相解任を宣言してから、間もなく2カ月となる。

議会再開と新首相指名はいずれも実現しておらず、9月18日には首都チュニスで反発する市民数百人のデモが起きた。大統領の独裁化を懸念する声も上がり、アラブ諸国では数少ない成功例とされた同国の民主政治は危機を迎えつつある。(中略)

地元紙アルアンワルのナジュム・アルアカリ編集長は電話取材に「イスラム政党と議会は数々の過ちを犯した。大統領の目的は国の方向性を正し、汚職を止めることで、世論調査でも国民の大多数が支持している」と指摘したが、時間の経過と共に欧米諸国を含む内外の懸念は強まっている。
 
ロイター通信によると、チュニジア大統領府は22日、「大統領は政令によって立法行為が可能」などと、権力を強化する新たな施策を発表した。政治制度改革の準備委員会を設置する一方、議会停止は継続するという。今後、国内で反発が強まりそうだ。【9月24日 毎日】
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上記記事にある9月22日に発表された、「大統領は政令によって立法行為が可能」などと、権力を強化する新たな施策については、以下のようにも。

****サイード大統領、緊急事態における新たな特別措置を発表****
チュニジアのカイス・サイード大統領は9月22日、緊急事態における特別措置に新たな措置を加えた大統領令を発表した。

発端は全国的な反政府抗議デモ
チュニジアでは、大統領への権力集中を避けるため、2014年の憲法改正以来、首相が内政を担う。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大と、それに伴う経済悪化への政府対応の遅れに対して国民の不満が爆発し、議会解散と首相退任を訴えるデモが発生していた。

こうした状況を踏まえ、2021年7月25日に、サイード大統領は、緊急事態における大統領の特別措置を定めた憲法第80条を適用し、ヒシェム・ムシーシ前首相の解任、国民代表議会の30日間の活動停止、全議員の免責特権の剥奪を発表した(2021年7月28日記事参照)。

8月23日には、これらの措置について無期限に延長することを大統領令によって決定している。そして今回、追加措置が発表された運びだ。

なお、今回の大統領令では、新たに以下を主要項目とする措置を加えることが発表された。

憲法の前文(一般原則)、権利と自由に関する第1章と第2章、さらに7月25日に公示された特別措置と矛盾しない全ての憲法の規定は引き続き有効とする。

法案の合憲性を審議するために設けられていた暫定機関を廃止する。
大統領は、大統領令によって組織される委員会の助力を得て、政治改革に関連する法律の修正案の作成に責任を負う。

立法文書は、大統領によって署名される法令の形で公布される。
大統領は、政府の長が議長を務める閣僚委員会の助力を得て行政権を行使する。

大統領への権力集中に対する批判の声
9月22日付のフランス「ルモンド」紙は、サイード大統領は今回の特別措置によって、2014年の憲法改正以降採用されている、大統領は外交と安全保障に関してのみ権限を有し、行政の長は首相とする「混合議会制」を「大統領制」へと移行させようとしていると指摘している。

新たな大統領令の発表を受け、「民主潮流党」「アル・ジョンフリ(共和党)」「エッタカトル(労働と自由のための民主フォーラム)」「アフィック・トゥーネス(チュニジアの地平線)」の4政党は共同声明を発表し、今回の大統領令は民主的な憲法を侵害するものだと強く批判した。

また、国民代表議会議長でイスラム穏健派政党「アンナハダ」の党首ラシェッド・ガヌーシ氏も、フランス通信社AFPのインタビュー(9月23日付)で、今回の大統領令は1959年憲法への逆行で、2011年のジャスミン革命における国民の意思に反するものだと批判した。その上で、大統領個人への権力集中を阻止するための平和的闘争を呼び掛けている。

サイード大統領は2021年9月20日、2011年のジャスミン革命の発端となった市民暴動が起こったシディ・ブジッドを訪問した際、近く特別措置の延長と新首相の任命を行うと述べている。【9月29日 JETRO】
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【女性地質学者を新首相に任命 実質的にはサイード大統領が内政も担う形か】
こうして強化された大統領権限のもとで、新首相が任命されました。

****チュニジア初の女性首相を大統領が指名 政変2カ月、混乱解消に向け****
北アフリカ・チュニジアのサイード大統領は29日、地球物理学者の女性ナジュラ・ブーデン・ラマダン氏を首相に指名し、直ちに組閣作業に入るよう指示した。ロイター通信が伝えた。

女性の首相は同国で初。アラブ諸国で数少ない民主政治の成功例とされた同国だが、7月から政治混乱が続いており、首相指名を機に解消へ向かうか注目される。
 
チュニジアではこの1年、経済低迷や新型コロナウイルス禍への政府の対応不足に抗議するデモが活発化。憲法学者出身のサイード氏は7月25日、「緊急事態」としてメシシ首相の解任と、首相を支えるイスラム政党アンナハダが第1党の座を占める国民代表議会の停止に踏み切った。
 
同国憲法では本来、大統領が外交と安全保障、首相は内政を担当する。しかし、サイード氏は9月22日に「大統領は政令によって立法行為が可能」などとする施策も発表し、ほぼ全権を掌握した。
 
大統領の強権発動に対し、主要政党や全国労組「チュニジア労働総同盟」から独裁化を危惧する声が上がり、26日には首都チュニスで数千人規模のデモが起きた。欧米主要国などからも懸念が示されていた。
 
新首相に指名されたブーデン氏は政界で無名に近く、政府関係の職歴もほとんどないという。政変で更に悪化した経済難に対処できるかは不透明だ。(後略)【9月30日 毎日】
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新首相のナジュラ・ラマダン氏は地質学者で、以前、国内で世界銀行のプロジェクトに携わった経験があるとのことです。【9月30日 NHKより】

実質的には、サイード大統領が内政に関しても今後とも主導していくということなのでしょう。

議会を今度どうするのか、経済再建・コロナ対策で成果を示せるか・・・「アラブの春」唯一の成功事例チュニジアは正念場を迎えています。

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