孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ブータン  初の国民議会選挙 民主化か民族浄化か?

2008-03-25 12:04:08 | 世相
ヒマラヤ山脈の王国ブータンで24日、初の国民議会(下院)選挙が行われ、伝統的エリート層を代表するブータン調和党が47議席中44議席を獲得し圧勝しました。
対立党の国民民主党の間には目立った争点はなく、両党とも伝統文化の保護や開発の推進などを掲げています。
今回の歴史的な選挙は12月31日に行われた上院選挙に続きブータン王室自らが主導したもので、絶対君主制から立憲君主制への移行の総仕上げと位置づけられています。

ブータンでは王室の人気が高く、民主主義の概念に不安を抱き民政移行に消極的な国民も少なくないそうです。
そんな国民に国王自ら投票に行くよう呼びかけたそうです。
また、ワンチュク前国王は「今日の国王は良き君主でも、もし悪しき君主が現れたらどうするのだ?」と人々を諭したとも。
このような国王自らの呼び掛けが奏功し、中央選管が発表した投票率は約80%に達しました。

そんななかで、多くの報道が“世界一熱心な有権者”として取り上げているのが、投票所までの600km(今回選挙は出生地で投票を行うことになっています。)を徒歩で踏破した65歳女性。
以前激しい乗り物酔いをしたことがあり、それ以来車には乗りたくないそうですが、「自動車で移動できないという理由だけで、投票の機会を失いたくないからね」とのこと。

こうした話はいかにもほのぼのとした感じで、“桃源郷”“秘境”ブータンならではと思わせます。
ただ、チベット系住民を主とするこの国には総人口の5分の1にもあたる12万人以上のネパール系難民が発生したとも言われる別の側面があることは、3月5日のブログでも紹介したところです。
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080305

85年、公民権法(国籍法)が制定され、定住歴の浅い南部のネパール系住民は“不法滞在者”扱いされるようになり、また、“民主的で英明な”前国王の進める“一国家・一民族”の理念のもと89年には「ブータン北部の伝統と文化に基づく国家統合政策」が施行され、チベット系の民族衣装着用の強制(ネパール系住民は免除)、ゾンカ語の国語化、伝統的礼儀作法(ディクラム・ナムザ)の順守、教育現場でのネパール語の禁止など、文化的にも圧迫も強まりました。
反抗する者は拘束・拷問を受けたとも言われます。
国王は国外への脱出を行わないように呼びかけ現地を訪問したそうですが、社会一般的にはこのような施策は“民族浄化”と呼ばれるものです。

この混乱を避けるかたちで、多くのネパール系住民が出国を余儀なくされ、ネパールの難民キャンプで生活しています。
ブータンは彼らを“自主的な出国者”と扱っており、ブータンへの帰国は困難な情勢で、先日はネパールの難民キャンプでの大規模火災もありました。
アメリカはこのキャンプの難民6万人の受け入れを申し出、約2万5000人が申請しました。
これまでに100人がすでにネパールを出国、ブータンで選挙が行われる24日にはさらに出国する予定と報じられていました。【3月24日 AFP】

ネパール系難民を基盤とする左派反政府勢力(URFB)は、難民を排除した選挙実施に異議を唱え、「戦いの強化」を誓う声明を発表、今後の攻撃を予告しています。
今年1月には首都ティンプーなど計4カ所で爆弾による爆発が続発し、女性1人が負傷しました。
初の総選挙についてURFBは、「ワンチュク前国王が自らの不正行為を国際社会の目から隠ぺいするためのうわべだけのものだ」と批判しています。

なお、ブータンにはチベッチ動乱を逃れてきたチベットからの難民が生活しています。
また、ネパールでは南部に生活するインドからの移住者達が、権利拡大を要求して反政府活動を続けています。

ブータンではワンチュク前国王の発案で、単に経済的指標だけではない、国民の幸福感の指標「国民総幸福量(GNH)」を政策の指標としています。
現在「国民総幸福量委員会」ではGNHを数値化する作業を行っています。
委員会はすでに1000人近くに調査を実施し、幸福度を計る項目をリストアップし、中でも、仏教が重視する心の安らぎのほか、健康、教育、グッドガバナンス(良い統治)、生活水準、共同体の活力や生態系の多様性といった項目に重きが置かれているそうです。

すでに行っている調査によれば、人口約67万人のブータン国民のうち68%が幸福であると感じているとか。
幸福を感じない国民への対策として、今後10年間で貧困層縮小に向けた政策を実施、1日1ドル以下で生活する貧困層を現在の25%から15%に削減したい考えだそうです。【3月24日 AFP】

国民総幸福量・・・すばらしい考えだと思います。
しかし、その“幸福”が一部少数者の犠牲の上に成り立つものであっては意味がありません。
GNHの重点項目に、“民族の垣根を越えた共存”といったものを入れてほしいと思います。


コメント
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