孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン  5年に及ぶ内戦に、ようやく“出口”を探る動きも

2019-11-30 22:18:07 | 中東情勢

(サウジアラビアに解放され、イエメン首都サヌアに到着した同国の反政府武装勢力「フーシ派」の構成員ら(2019年11月28日撮影)【11月29日 AFP】)

 

【戦闘は下火に イエメンへの関与を低下させるサウジ、イラン】

2015年3月から続いている中東イエメンの内戦は、暫定政府を支援して空爆を続けるサウジアラビアとイスラム教シーア派のフーシ派を支援しているとされるイランとの代理戦争ともなっていますが、見るべき資源もない中東最貧国の内戦ということで国際的関心も低く「忘れれた戦争」とも呼ばれてきました。

 

ここのところは戦闘に関する報道もほとんど見かけません。

それは「忘れれた戦争」という関心の低さのほかに、戦闘自体がひと頃に比べて下火になっていることを反映したものでしょう。

 

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最近忘れられた戦争とよばれたイエメン内戦について、ほとんど報道がなくなりましたが(せいぜいホデイダの小競り合い位か)、これは戦闘行為が非常に下火になっていて、マスコミも書く記事が無くなってきたからと思われ、それ自体は歓迎すべきことかと思います。

これはおそらく、hothy軍(フーシ派)のドローンで東部州の石油施設を手痛くやられたサウディが、イエメン空爆を縮小しているためと、他方イランの方も、取りあえずそのミサイル、ドローンの威力を見せつけたので、少し様子を見るかというとことかもしれません。【10月25日 「中東の窓」】

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イエメン内戦に油を注いできたサウジアラビアは石油施設攻撃で手痛い被害を受けて、イエメン介入を主導してきた実力者ムハンマド皇太子は戦略の見直しを迫られています。

 

同じく内戦を油を注いでいたイランについては、上記では“ミサイル、ドローンの威力を見せつけたので・・・”とありますが、それよりは、制裁でイラン国内が大変な状態となっており、とてもイエメンどころではなくなっているということで、イエメンへの関与が低下しているのではないでしょうか。

 

昨日のイランの話題でも取り上げたように、国民の不満は、国内経済が停滞して市民が困窮しているにもかかわらず、シリアやレバノン、イエメンに資金をつぎ込んでいる対外拡張政策にも向けられています。

 

更に言えば、サウジアラビアとともにイエメンに介入していたアラブ首長国連邦(UAE)は、実質的には暫定政府というよりはアデンを中心とした南部分離主義勢力を支援してきましたが、独自の対イラン政策や、“取るものはそこそこ取った”ということで、すでにイエメンから手を引いています。

(9月3日ブログ“UAE  イエメンから撤退 アメリカの「対イラン封じ込め」に綻び イエメン内戦の様相も変化”)

 

上記のように外部勢力の関与が低下すれば、おのずと内戦も下火になります。

 

【“出口”を探る動き】

そのため、“出口が見えない”という言葉が枕詞のように使われていたイエメン内戦についても、最近は戦闘のニュースではなく、停戦に向けた動きなどが報道の中心になってきています。

 

先ずは主戦場となっていた重要港湾都市ホデイダ。

 

****イエメン暫定政府とフーシ派、港湾都市ホデイダに共同監視所を設置****

イエメン暫定政権とイスラム教シーア派の反政府武装組織フーシ派は、一色触発だった港湾都市ホデイダにおける緊張緩和を目指す動きの一環として、共同監視所を設置した。

 

国連のマーティン・グリフィスイエメン担当事務総長特使は23日、ツイッターで、ホデイダの前線沿いへの監視所4か所を設置と、連絡将校の配置を前向きな動きと評価した。

 

2018年12月、国連の仲介により暫定政府とフーシ派の和平協議がスウェーデンで行われ、ホデイダでの停戦など数々の進展がみられた。これを受けてホデイダでの戦闘の大部分は停止された。

 

国連は今年5月、フーシ派がホデイダと近隣の二つの港から撤退したと発表。停戦合意以降で最初の実質的な前進となった。

 

暫定政府当局者は匿名でAFPに対し、監視所はこれまでのところ「順調に」機能していると述べた。 【10月24日 AFP】

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石油施設被害を受けたサウジアラビア・ムハンマド皇太子も、これまでのイエメン介入に対する国内批判を封じ込めるためにもイエメン停戦に向けて動いているように見えます。

 

****イエメン暫定政権と独立派が和解、戦闘収束 サウジ仲介****

内戦が続く中東のイエメンで、ハディ暫定政権と南部地域の分離独立派が5日、サウジアラビアの首都リヤドで和解に合意し、双方からなる政府をつくる協定に署名した。

 

反政府武装組織フーシに対抗するために共闘していた暫定政権と独立派は今年8月に衝突し、「内戦のなかの内戦」が勃発。三つどもえの戦闘は収まった格好だが、内戦が収束に向かうかは見通せないままだ。

 

ロイター通信などによると、今回の協定では、新たな暫定政府が30日以内に組織され、分離独立派「南部暫定評議会」(STC)にも複数の閣僚ポストが配分されることになる一方、STC側の兵力は暫定政権の管理下に置かれる。暫定政権はSTCが占拠していた南部アデンに戻るという。

 

暫定政権の後ろ盾で、仲介を続けてきたサウジアラビアのムハンマド皇太子は署名の式典に同席し、「この協定は、内戦を終結させる政治的解決に到達するために、各勢力間の広い対話の扉を開くものだ」と述べた。

 

皇太子には「内輪もめ」を一刻も早く収束させ、対フーシで結束を強めたい意向があるとみられる。【11月6日 朝日】

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上記記事では“皇太子には「内輪もめ」を一刻も早く収束させ、対フーシで結束を強めたい意向があるとみられる”とありますが、財政を悪化させ報復被害を受けるこれまでのような空爆ではなく、できれば和平協議を・・・と考えているのではないでしょうか。

 

****サウジ、イエメン反体制派128人を解放****

サウジアラビアは28日、捕虜としてきたイエメン反政府武装勢力「フーシ派」の構成員128人をイエメン首都サヌアの空港に送り、解放した。5年にわたるイエメン内戦の終結に向けた取り組みに弾みをつける狙いがある。

 

捕虜らは赤十字国際委員会の飛行機3機で到着。空港内でフーシ派指揮官らや親族と対面する様子をAFP特派員が目にした。

 

イエメンに駐留するサウジ主導の連合軍は今週、フーシ派の捕虜200人の解放を予告したほか、2016年から商用便の運航が停止されているサヌアの空港から、診療の必要な患者を航空搬送することを認めると表明していた。

 

サウジ政府高官は今月、フーシ派との「チャンネルは開いている」と表明。その後、同派はサウジへの攻撃を停止している。

 

同派は捕虜送還の決定をたたえている。 【11月29日 AFP】AFPBB News

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先述のようにイエメンどころではないイランも内戦停止は歓迎するところでしょう。

 

“内戦が収束に向かうかは見通せない”状況ではありますが、さしもの5年にわたるイエメン内戦もようやく“出口”を探す動きに期待がもてる・・・・ように思えます。

 

甚大な犠牲を出したあげくの遅きに失した動きではありますが。

コメント

イラン  容赦ない鎮圧行動で国民不満を抑え込む

2019-11-29 23:14:10 | イラン

(【11月29日 BBC】 走る車の中から撮影された、私服の治安当局者もしくは民兵が男性を拘束している様子)

 

【最高指導者ハメネイ師  外国勢力と結びついた「悪党」による「極めて危険な陰謀」】

ガソリン価格を引き上げ(補助金削減)に端を発したイランでの反政府抗議行動は、アムネスティ・インターナショナルが少なくとも143人が死亡した報告しているように多大な犠牲者を出しましたが、抗議行動を「極めて危険な陰謀」とする最高指導者ハメネイ師は「完全に鎮圧した」としています。

 

****反政府デモは「極めて危険な陰謀」、既に鎮圧=イラン最高指導者****

イランの最高指導者ハメネイ師は27日、約2週間続く反政府デモについて、「極めて危険な陰謀」によるものだと主張したうえで、デモを完全に鎮圧したと明らかにした。

政府が11月15日に予告なしにガソリン価格を引き上げたことがきっかけで始まったが、即座に政治問題に焦点が移りデモ参加者は指導部の交代を要求している。

イラン政府は、国外追放者に加え、米国やイスラエル、サウジアラビアなどの外部勢力と結びついている「悪党」によりデモが過激化したと主張している。

ハメネイ師のウェブサイトによると、同師はデモ鎮圧に加わった民兵組織「バシジ」との会合で、極めて危険な陰謀はイランの人々により鎮圧されたと強調した。

ラハマニファズリ内相は、国内の約731の銀行、70のガソリンスタンド、140の政府機関が放火され、治安部隊の拠点50カ所以上が攻撃を受けたと明らかにした。また、約20万人がデモに参加したという。国営イラン通信(IRNA)が報じた。

国会の安全保障委員会メンバーによると、7000人が逮捕さえた。ネットニュースサイト、Entekhabが伝えた。

イラン政府はデモ参加者と治安部隊の衝突などで死亡した人の数を公表していないが、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは今週、少なくとも143人が死亡したとの見方を示した。【11月28日 ロイター】

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最高指導者ハメネイ師は、当初から政府のガソリン価格引き上げを支持する姿勢を表明していました。

 

保守強硬派に近いとされる最高指導者ハメネイ師だけでなく、穏健派とされるロウハニ大統領も抗議行動を厳しく批判していました。(政策責任者としては当然ですが)

 

****イラン大統領、社会の「不安定」容認しないと警告 抗議デモ受け****

ガソリンの値上げに対する抗議デモが起きているイランで、同国のハッサン・ロウハニ大統領は17日、イランは社会の「不安定」を容認しないと警告した。2日間の抗議デモでは2人が死亡、数十人が当局により拘束され、インターネットへのアクセスも制限された。

 

ロウハニ師は「抗議を行うのは国民の権利だ。だが、抗議行動は暴動とは違う。われわれは社会の不安定を容認すべきではない」と明言。抗議デモの発端となったガソリンの値上げを擁護した。イラン政府は急激な景気悪化の中、ガソリンの値上げを社会福祉費用に充てる計画だとしている。

 

抗議デモは15日のガソリン値上げ発表の数時間後に起こった。政府の発表によると、1か月当たり60リットルまでのガソリン価格は、これまでの1リットル1万リアル(約26円)から1万5000リアル(約39円)に引き上げられ、60リットルを超えると3万リアル(約78円)になる。

 

抗議デモでは、道路が封鎖されたり公共物が放火されたりし、複数の負傷者が出て、数十人が拘束された。

 

デモ発生の翌日にはインターネットへの接続が制限された。インターネット監視団体ネットブロックスの16日のツイッター投稿によると、「イランでは現在、インターネットがほぼ全土でシャットダウンされている」という。 【11月18日 AFP】

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アメリカの制裁によって財政的に追い詰められている状況ではガソリン価格引き上げは止むしということ、および抗議行動を放置しては体制の危機につながりかねないということで、穏健派・保守強硬派ともに価格引き上げ強行・抗議行動の「鎮圧」の方向で一致したということでしょうか。

 

政府は、現金支給の懐柔策も。

 

****イラン、国民に現金支給…反政府デモ沈静化狙う****

イラン政府は19日、国民の約7割に当たる低・中所得層に対し、1世帯当たり月額最大205万リアル(実勢レートで約1900円)の現金支給を始めた。過激化した反政府デモを沈静化する狙いがある。

 

イランの推計人口は約8200万人で、地元メディアによると、現金は19日、約2000万人の世帯の銀行口座に振り込まれた。数日中に、さらに4000万人の世帯にも支給されるという。

 

政府は財源について、「ガソリン用の補助金の削減分を充てる」と説明している。

 

一連のデモは、政府の補助金カットでガソリン価格が値上がりしたことへの反発が発端となった。ガソリン価格の高騰は産業界への影響が大きく、高止まりしている物価のさらなる上昇を招く可能性が高いため、「少々の現金支給では国民の不満は収まらない」(外交筋)との見方もある。【11月19日 読売】

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【米国の制裁によって経済が疲弊し、若者を中心に社会不安につながりつつある】

国民の不満の背景には、生活苦があります。

 

****イランデモ、死者100人超か ガソリン値上げ、若者「生活苦しい」****

ガソリン価格の値上げを機に、イランでは異例の激しい反政府デモが15日から続いている。死者は100人を超える可能性がある。イランと敵対する米国の制裁によって経済が疲弊し、若者を中心に社会不安につながりつつある。(中略)

 

制裁、経済悪化の一途

(中略)イランでは17年末にも物価高に抗議するデモが起き、20人以上が死亡した。この時に発端となった地方都市のデモは、ロハニ政権と対立する勢力の関与が疑われる政治的なものだった。だが、今回はそうした組織的な関与や政治色は乏しい。

 

イランの経済専門家は「米国の制裁で原油収入が激減し、政府の財源が苦しくなる中で、ガソリン値上げは理論的には正しい。だがタイミングが最悪だった」と指摘。「輸送費が高騰して、あらゆる物の価格が上がり市民の不満は増大するだろう」と分析する。

 

ガソリンはこれまで、政府の補助金で1リットル1万リアル(実勢レートで約8円)だったが、1カ月で60リットルまでは1万5千リアル(約13円)に、それ以上購入した場合は3万リアル(約25円)に値上がりした。イランでは、平均月収が3万円程度。平均的な家庭ではガソリンは月100リットル以上は消費するとされるため、影響は大きい。

 

また、公共交通機関が十分には発達しておらず、移動は自家用車やタクシーなどの車に頼らなければならないのが実情だ。政府は貧困層を中心に1世帯で月額最大205万リアル(約1860円)の現金支給を始めた。だが、市民の不満を抑えられるかは不透明だ。【11月21日 朝日】

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また、こうした苦しい市民生活を強いている状況で、シリアやレバノンなど各地の親イラン勢力支援のために多額の資金を使っていることにも批判の矛先が向けられました。

 

【「最高指導者は神様のように暮らす。国民の我々は、物乞いのように暮らす」】

問題は「鎮圧」の仕方で、「狙撃」を含むデモ参加者への容赦ない暴力が使用されたようです。

その先兵となったのが、おそらく、冒頭記事で最高指導者ハメネイ師が会合をもったことが報じられている民兵組織「バシジ」でしょう。

 

****イラン各地のデモ、流血の鎮圧 映像流出でネット遮断****

建物の入り口を挟んで撮影された映像では、血を流して歩道に横たわる10代少年を女性が見つめているように見える。その脇を走って通り過ぎる人たちに、機動隊員が警棒をふりかざして殴りかかる様子も見える。

 

南部シラーズで撮影された別の映像では、倒れて動かなくなった男性を集まった人たちが助けようとしている。煙が充満した道路で、大勢が後退していく。怒鳴る声、悲鳴、銃声が聞こえる。

 

もうひとつの映像は、首都テヘランを走る車の中から撮影されたもので、私服の治安当局者もしくは民兵が男性を拘束している。女性が叫んでいる。


 

こうした映像が国外に流出するのを恐れて、イラン政府は11月初めに8日間以上もインターネットを遮断した。石油価格急騰に対する抗議行動が、国内各地で広がる最中のことだ。

 

今ではインターネット接続は一部復活し、それに伴いソーシャルメディアには政府の強硬な取締りによる流血沙汰の動画が再び出現し始めた。

 

その内容は恐れられていたよりも残酷で、苛烈だ。抗議に参加して命を失った人たちについても、どういう人で、なぜ犠牲になったのか、それぞれの物語が浮上しつつある。

 

錯綜する情報

イラン当局は死傷者数について、公式発表は何もしていない。しかし、国際人権団体アムネスティー・インターナショナルが入手し、信頼できると判断した情報によると、11月15日に抗議デモが始まって以来、少なくとも143人が死亡している。

 

同団体によると、デモに参加して死亡した人のほとんどは、治安当局による意図的な銃器の使用によって犠牲になった。それ以外では、1人が催涙ガスを吸引後に死亡し、1人が殴打されて死亡したという。

 

アムネスティーはツイッターで、「イランによるインターネット遮断ほどロジスティック的に複雑な対応はかつてなかったと、デジタル技術の専門家たちは言う。どうやらイラン当局は、自分たちがこうやって政府庁舎の屋根から丸腰の抗議者を狙撃している様子を、私たちに見せたくないようだ」と動画を投稿した。


 

アムネスティーは実際の死者数は143人よりはるかに多いと見ている。イラン国内の活動家や当局筋はBBCペルシャ語に対して、200人以上だと話している。

 

一方でイランの外交官は先週、こうした数字は「憶測」に過ぎないと反発し、「欧米の組織」が「根拠のない主張」をしていると批判した。

 

ハッサン・ロウハニ大統領は国内の抗議について、イランに敵対する国々が仕組んだ計画に沿って「反政府分子」が引き起こしたものだと話している。

 

しかし、イラン国民がスマートフォンで撮影した動画の多くは、生々しく残酷で正視するのが難しいが、見ればイラン政府の公式見解に疑念が生じる。

 

デモ鎮圧に使われることの多い民兵組織「バシジ」や治安部隊が、無防備な抗議者を路上で痛めつけたり、至近距離で群衆に実弾を打ち込む様子などが、こうした動画には映っている。

 

「数千人が負傷か拘束」

イランの保健当局が広く献血を呼びかけていることからも、デモ鎮圧によって数千人が負傷した可能性がうかがえる。

 

病院関係者はBBCペルシャ語に、負傷した抗議者を探して治安部隊が病院を捜索していると話した。1人の医師によると、当局は患者の包帯をめくりその下に銃創がないか確認している。銃で撃たれた傷があると、その場で逮捕されてしまうという。

 

イランの司法当局は22日、イラン革命防衛隊が「騒乱の指導者や中心的存在」を約100人逮捕したと発表した。デモに参加したものの、器物損壊などの犯罪行為とは関係ない多くの人は釈放されたという。

 

一方で、イラン国内の消息筋はBBCペルシャ語に、拘束された人数は数千人に上ると話している。

 

一部の都市では、軍の兵舎やスポーツ競技場が学校が、収容施設として使われている。そうした学校に近い高層ビルに住むジャーナリスト、アリネジャド・マシフさんはツイッターで、収容者が手荒く扱われている様子の動画を投稿。

 

「政府は事態を抑えられなくなると恐れる余り、抗議デモが続く間、テヘランの学校を休校にして、『雪』のせいにした。けれども実際には、このビデオが示すように、抗議者の逮捕に学校施設を使った。イランの独裁者はこの戦いで敗れる」と書いた。


 

イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は、抗議参加者たちは「国外と関係する」と主張するものの、情報省は議会に、拘束されたほとんどは貧困家庭出身の無職な若者だと報告した。

 

「物乞いのように暮らす」

(中略)

集まった動画には、政府や国を支配する聖職者や治安部隊のシンボル、あるいは銀行やガソリンスタンドを標的にする抗議の様子が映っていた。

 

デモの中心地はもっぱら国の西側、イラク国境沿いにあるクルド系の町村や、テヘラン、カラジ、シラーズといった主要都市の近郊に集中していた。いずれも、国内でとりわけ失業率の高い地域だ。

 

シラーズではデモ隊が、「ガソリンの値段が上がる、自分たちは貧乏なのに」と繰り返していた。

 

テヘラン近郊のマラルドでは、「最高指導者は神様のように暮らす。国民の我々は、物乞いのように暮らす」と大勢が繰り返していた。

 

イスファハーンのデモ隊は、「ガザを拒否する。レバノンを拒否する。自分たちはイランに命を捧げる」と唱えていた。


 

中東におけるイランの活動をめぐり、不満があるのは明らかだ。革命防衛隊は中東各地で、民兵組織の武装や訓練、報酬の支払いに何十億ドルと費やしている。イランの国境を越えて敵と戦わなければ、敵はテヘランの路上にまでやってくるというのが、その大義名分だ。

 

しかし、国内各地で抗議するイラン国民は、その資金は国内と国民の未来に使われるべきだったと主張する。

 

ドナルド・トランプ米大統領は昨年、イランの核兵器開発をめぐる国際合意から離脱し、イランの石油生産と金融業を制裁で狙い撃ちにした。

 

米政府の制裁に加え、国内に横行する汚職とお粗末な経済運営のせいで、イラン経済はいまや破綻寸前だ。それでも政府は、従来の方針を変えようとしていない。

 

被害者は何を

イランの国営メディアや治安部隊に近い新聞各紙は、抗議に参加する人たちをごろつき、ならず者として描写し、公共の施設を荒らして略奪するのが目的だと伝えた。

 

しかし、犠牲者の遺族たちからBBCペルシャ語が聞いた内容は、別の状況を物語っている。

40歳のファティマさんは2人の子供の母親だった。テヘラン近くのデモで亡くなった。遺族によると、ファティマさんは失業とインフレに抗議してデモに参加した。

 

西部ケルマンシャーのアルミン・カデリ君は10歳だった。遺族によると、パンを買いに外出して、命を落とした。

 

被害にあった家族の多くはBBCペルシャ語に対して、自分たちの家族は経済危機への怒りを表明しようと家を出たのだと話した。政府当局はそれに、銃弾で応えたのだと。【11月29日 BBC】

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穏健派とされるロウハニ大統領は、こうした「鎮圧」をどう見ているのか?支持しているのか?

イランには保守強硬派も穏健派もない。あるのは強権支配体制だけだ・・・と言われることもありますが、今回の事態をを見ると、「やはり、そうなのかな・・・」という感も。

 

【国外への情報提供者の逮捕 アメリカは情報提供を求める】

なお、上記のようなデモ情報を国外に知らせた者への追及も強まっています。

 

****イラン、「CIAに関与した」8人を逮捕 デモ情報を国外へ共有****

国営イラン通信は27日、「米中央情報局に関与し」、ガソリン価格の値上げをきっかけとした抗議デモに関する情報を国外へ送っていたとして8人を逮捕したと報じた。

 

IRNAは情報省の防諜(ぼうちょう)機関トップの話として、逮捕した500人超のうち「最近発生した暴動に関する情報を集め、国外に送ろうとしていた」8人を特定し、逮捕したと報じた。うち6人は「暴動に参加して命令を実行していた」とみられるという。

 

イランの大敵である米国は、インターネット規制をくぐり抜けるよう人々に求め、写真や映像など抗議デモに関する大量の情報をイランから受け取ったと明かしている。

 

マイク・ポンペオ国務長官は26日、「イラン政府の不正に関する2万近くのメッセージや映像、写真、メモを(記号化メッセージアプリ)テレグラムを通じて受け取った」と述べた。 【11月29日 AFP】AFPBB News

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アメリカは受け取った情報をもとに、ここぞとばかりにイラン批判を強めるのでしょうが、その情報を発信した多くの者が厳しい弾圧を受けることにもなっています。

 

イランを追い込んで体制転換に・・・というのがトランプ政権の描くシナリオですが、体制転換の可能性は少なく、おこりうるのは厳しい弾圧、多くの犠牲者、困窮する市民、強権化する政治です。

 

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中国高速鉄道 急速に拡大するも、赤字体質の問題も 日本が受注したインド高速鉄道に暗雲

2019-11-28 23:05:37 | 中国

(今年7月21日 広州から桂林への移動で乗車した中国高速鉄道の広州南駅で高速鉄道乗車を待つ人々の様子)

 

【急速に拡大する中国高速鉄道 年末には3万5000キロに】

中国のいわゆる四大発明とは羅針盤・火薬・紙 ・印刷.を指しますが、三大発明として、印刷術・火薬・羅針盤の3つがあげられることもあります。

 

これらが中国起源の技術かどうかは別にして、世界に大きな影響を与えた技術であることは間違いありません。

 

そして、現代中国の「新4大発明」とされるのが、高速鉄道、モバイル決済、ネット通販、シェア自転車だそうです。

 

この言葉の由来は、“17年5月に北京外国語大学で行われた調査がきっかけだと指摘。20カ国から来た留学生に「自分の国に一番持ち帰りたい技術」を尋ねたところ、最も多かった回答が、高速鉄道、モバイル決済、シェア自転車、ネット通販だった”【2018年4月4日 レコードチャイナ】ということで、一見してわかるように、この4つの技術は決して中国で発明されたものではありません。

 

例えば高速鉄道に関しては、“国際鉄道連合(UIC)によると、世界初の高速列車の運行は1964年の日本の新幹線から始まった。フランスでは55年に時速331キロが達成された。しかし東京と大阪を時速210キロで結んだ新幹線が、最初の定期運行の高速列車とされている」とした”【同上】とのこと。

 

何より、自転車シェアリングなどは、2015年から2018年に業界が急成長ののち衰退し、短期間のうちに過去のものとなっています。

 

そうしたなかで、中国で急拡大している「高速鉄道」はいたく中国人民の自尊心をくすぐるようで、高速鉄道関連の話題は非常に多く目にします。

 

****わが高速鉄道の「世界への影響力は空前の規模」だ!=中国メディア****

中国が「名刺」と自負している中国高速鉄道。日本よりずっと遅れて高速鉄道網を広げ始めたが、その総延長は今や日本を大きく超えており、さらなる拡大を続けている。

 

中国メディアの今日頭条は22日、中国高速鉄道が年末には3万5000キロにまで達すると紹介する記事を掲載した。

記事によると、11月22日に行われた中国国家鉄路集団の会議で、鉄道の総距離が年内には13万9000キロに達し、そのうち高速鉄道は3万5000キロになることが明らかになったという。中国の鉄道技術は各方面で世界トップレベルになったと伝えた。

特に中国が世界を先駆けているのは「高原の厳しい気候での建設」だと記事は紹介。日本では青海チベット鉄道とも呼ばれる青蔵(せいぞう)鉄道は、世界で最も高所を走る高原鉄道となっている。記事は、凍土や寒さ、空気の薄さなど難題をクリアして成し遂げた偉業だと自賛している。

また、時速350キロでの自動運転の実現でも世界初で、世界の鉄道システムのスマート化でも世界のリーダーになっていると紹介。

 

さらには、中国高速鉄道は利用者がスマホ1つですべて利用できるようになっていて、スマホで乗車券を購入して席を選び、スマホで改札口を通り、食べ物の注文もできるといかに進んでいるかを伝えた。

利用者の数も今年は延べ36億人が予想され、2012年と比較すると実に92%の増加であるという。中国高速鉄道は海外にも輸出されており、「世界への影響力は空前の規模」だと中国高速鉄道の躍進ぶりを伝えている。

実際、中国が高速鉄道にかける期待と資金は並外れて大きく、さすが国家事業だけあると言えるだろう。しかし多くの路線では赤字が続いており、厳しい現実があるのも事実のようだ。【11月26日 Searchina】

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【赤字体質 料金見直しも】

「国策」として急拡大する中国「高速鉄道」の赤字体質については、以下のようにも。

 

****中国高速鉄道は赤字を抱えながら、なぜ今なお拡大を続けるのか=中国メディア****

中国は国策として高速鉄道網の整備を進めており、総延長はすでに圧倒的に世界一の規模となっている。だが、なかには利用客数の少ない路線もあって、赤字となっている路線も多い。

中国メディアの今日頭条は10月31日、中国高速鉄道の運営が赤字になることは「もはや珍しいことではない」と指摘する一方、多くの中国人はどれほどの規模の赤字なのかは良く分かっていないと伝え、中国高速鉄道の運営における収支について考察する記事を掲載した。

記事は、中国の国営鉄道会社である中国国家鉄路集団有限公司の傘下にある18の鉄道局のうち、2018年に黒字を確保できたのはわずか8つの鉄道局だけであり、それ以外はいずれも赤字であったことがメディアによって報じられたと紹介。そして、瀋陽鉄道局やハルビン鉄道局、成都鉄道局の18年の赤字額は100億元(約1535億円)を上回ったと伝えた。

続けて、中国高速鉄道はなぜ赤字になるのかと疑問を投げかけ、それには3つの理由があると主張。

まず1つ目は高速鉄道の「建設コスト」であり、中国は今なお高速鉄道網を拡大し続けているため、路線拡張のための投資が収益を圧迫しているのだと指摘した。また、高速鉄道は建設コストのみならず、運営コストも高いと指摘し、時速350キロメートルで高速鉄道を走行させる場合、電力コストだけでも1時間あたり5000元(約7万5000円)以上もかかるのだと指摘した。

また、中国は国土が広く、人口は西部に比べて東部に多いと指摘し、「路線によって乗車率に大きなばらつきがある」と紹介。中国の東部は乗車率が高く、中西部は乗車率が低い傾向にあり、中西部における損失を東部が補っている構図になっていると指摘した。

さらに記事は、中国はなぜ莫大な赤字が出ていても高速鉄道の建設を続けるかと疑問を投げかける一方で「高速鉄道は中国国民の生活を豊かにする存在であると同時に、中西部の都市の経済成長を促進し、内需拡大に寄与するインフラでもある」と指摘し、中国は目の前の赤字ではなく、将来の成長を見据えているのだと伝えた。【11月3日 Searchina】

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しかし、いくら国策といはいえ“中国鉄路総公司の債務は約85兆5000億円”となると、“料金見直し”の話が出てきます。

 

****赤字路線が大半の中国高速鉄道、乗車料金の見直しは妥当なのか=中国メディア****

中国では2018年末までに日本の新幹線に相当する「高速鉄道」の営業距離が3万キロ近くに達したが、利益が出ている路線は北京ー上海間や北京ー広州間など一部に限られている。

 

中国鉄路総公司の債務は約85兆5000億円とも報じられており、とうとう価格の見直しを行うことになったようだ。中国メディアの今日頭条は22日、中国の高速鉄道は値上げするのかと題する記事を掲載した。

記事はまず、中国高速鉄道は11月に入り、全国ほぼ横並びの価格がようやく見直されることになったと紹介。エリアごとに市場規模を見ながら価格を値上げ、あるいは値下げすると伝えている。

 

これまでの高速鉄道の価格計算は、1等席で1キロメートル当たり0.3366元(約5.2円)、2等席は1キロあたり0.2805元(約4.3円)で、10%以内の上下幅と一律に定められていたという。

 

しかし、建設コストは山地か平地かでかなりの差があり、一律の価格では不公平だとの声が上がっていたようだ。

記事は、中国全土でも黒字路線はほんのわずかで、ほとんどの路線では赤字経営だと指摘。北京ー上海間のように人気の高い路線では値上げし、空席率の高い路線では、価格を下げることで乗客を増やし「薄利多売」で収入増を目指すことになるとしている。

 

安くすることで乗車率を増やすというのは、乗車料金の割引になる学生や軍人などで実証済みであり、逆に人気の路線では価格を上げても乗車率は高いままというのは、祝祭日や長期休みで実証済みだとしている。

高速鉄道の赤字は以前から指摘されており、価格の見直しに迫られることは予想されていた。しかし、ユーザーからは「すでに飛行機のほうが安いことさえあるのに、これ以上高くなれば誰が高速鉄道に乗るのだ」という疑問の声が目立った。

 

中国高速鉄道は、速くて安いことで庶民にも受け入れられてきたが、度重なる値上げで割高感が増すと客が離れることになりかねない。かといってこれ以上赤字を増やすわけにもいかず、中国高速鉄道は難しいかじ取りが求められていると言えるだろう。【11月25日 Searchina】

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更にスピードをあげることも物理的には可能なようですが、騒音問題、環境負荷、そしてコスト的に問題が大きいようです。

 

****中国高速鉄道は時速400キロでの営業運転は可能なのか=中国メディア****

北京市と上海市を結ぶ京滬(けいこ)高速鉄道は最高時速350キロメートルでの営業運転が行われており、これは営業速度としては世界最速となっているが、将来的に中国高速鉄道は時速400キロを超える速度で営業運転が行われることはあるのだろうか。(中略)

記事は、中国鉄道学会理事長である盧春房氏の見解として、中国高速鉄道が時速400キロで営業運転を行うためにはレールの安定性や車両性能の高さ、各種制御の正確性および十分な電力供給といった要素が重要となると強調。

 

同時に営業運転である以上は安全性や快適性、環境への配慮も求められることになると指摘し、現時点では快適性や環境への配慮といった点で「十分な技術が確立されていない」と論じた。

続けて、中国高速鉄道は過去に行った試験走行で時速487キロ以上を記録しており、速度を出すことだけならすでに技術的に可能であるとし、これまでの試験では高速走行時の車両の揺れや車両内の気圧変化といった点では基準をクリアしていると指摘。しかし、車両内の騒音については基準値を超えていたと論じた。

また、時速420キロで走行する場合の電力消費は時速350キロでの走行時より44%も増大すると伝え、電力消費の大きさとそれに伴う二酸化炭素の排出量の増加は「受け入れがたいもの」だと指摘した。

一方で記事は、中国ではすでに設計最高速度が400キロを超える高速鉄道車両の組み立てが行われていると伝え、「努力を重ね、問題を1つずつ解決していけば中国高速鉄道の最高速度を高めていくことは十分に可能だ」と伝えた。【11月25日 Searchina】

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【日本への強い意識】

海外受注で日本の新幹線をライバル視していることもあって、日本人が中国高速鉄道をどのように評価しているかもいたく気になるようです。

 

*****中国高速鉄道を利用した日本人客は「こんな感想を抱くらしいぞ」=中国メディア*****

中国人の生活を大きく変えた高速鉄道。多くの面で日本の新幹線を超えたとさえ自負する中国人は多い。では、日本人が高速鉄道を利用すると新幹線と比べてどう感じるのだろうか。中国メディアの今日頭条は21日、日本人旅行客による高速鉄道の感想を紹介する記事を掲載した。

記事によると、この日本人旅行客は中国高速鉄道を利用して「中国人も言い返せない2つの問題点」を指摘したそうだ。その1つは「保安検査に時間がかかりすぎる」こと。

 

新幹線には保安検査がないので面倒に感じるのは十分に理解できることだ。休日だと検査に非常に長い列ができるため、十分時間に余裕をもって行動しないと列車に乗り遅れてしまう中国人も少なくない。

 

筆者は、「保安検査は安全のためには欠かせない」としながらも、高速鉄道を利用する中国人自身も面倒に感じているので言い返せないとしている。

2つ目は「車内サービス」だ。特に車内で販売される弁当や菓子、飲み物などが通常の店と比べて非常に高く、「普通の弁当」でもかなり高価だと紹介。

 

しかも重要なことに、弁当の味は「おいしくない」うえに、種類もとても少なく、冷めていることさえあると指摘している。これには、おいしくて種類も多く適正価格な日本の駅弁と比べたら、中国人としても反論の余地がないようだ。駅弁に関する問題は、中国国内でも昔から言われているがなかなか改善されないようだ。

日本人旅行客の指摘したこの「2つの欠点」には、ユーザーからも「中国人の心の声を代弁してくれた」と歓迎する声が寄せられた。

 

あるユーザーは、保安検査に400人も並んでいて、本人は乗れたものの間に合わなかった人が多く、空席が目立つまま出発したそうだ。

 

また、3つ目の欠点に「立ち席を加えたい」という意見も目立った。中国高速鉄道は全席指定だが、指定席以外に立ち席も若干発売される。しかし、立ち席であっても2等席とまったく同じ値段であるため、どうしても不公平感が否めない。

実際に乗車してみると、中国の高速鉄道車両は揺れも少なく乗り心地はいたって快適だ。記事が指摘する欠点を克服できれば、さらに快適な鉄道となるに違いない。日本人旅行者のみならず、大多数の中国人利用者のためにも、利用者の声を反映して改善してほしいものである。【11月25日 Searchina】

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上記記事で「立ち席」とあるのは、いわゆる「自由席」のことではないでしょうか。

中国では全席指定のため、指定席以外は「立ち席」となってしまいます。

 

昔の中国の鉄道旅行は、筆舌に尽くせないほど大変でした。高速鉄道は2回しか乗ったことがありませんが、新幹線同様に快適で便利です。

 

何分にも中国は広く、陸路の移動は時間がかかります。自由席で気軽に乗れて、しかも座れるようになれば、観光客にとっても更に使い勝手がいい乗り物になります。もっとも空路との競合は、料金次第というところです。

 

【日本が受注したインド高速鉄道に暗雲】

日本と中国は受注競争を繰り広げていますが、日本側の強みは「品質の高さと安全性」ですが、中国側には建設コストの低さという大きな強みがあります。さらに、広大な国土の様々な気候のもとで運用されている経験も中国側の強みになりつつあります。

 

将来的には、日本の新幹線が中国高速鉄道と正面から勝負するのは難しくなるようにも思えます。

 

日本が受注した大きな成果がインドですが、雲行きが怪しくなっているとの報道も。

 

****日本支援の印高速鉄道計画に暗雲、主要州で野党連合が政権奪還****

インド経済の中心地・ムンバイがある西部マハラシュトラ州で、モディ首相率いる与党・インド人民党(BJP)が野党3党の連合に政権を譲ることになった。この結果、日本政府が支援する新幹線技術を用いた高速鉄道建設計画に黄信号がともった。

同計画の総投資額170億ドルの大部分は、日本政府による低利の長期融資。BJPは計画が始動した2017年にマハラシュトラ、グジャラートの2つの州政府を担っていた。

それが、BJPとこれまで同盟関係にあった地域政党「シブ・セーナー」が主導する野党連合がマハラシュトラ州政府を担当し、シブ・セーナーの党首が州首相に就任する見通しとなった。

同党の広報担当は「我々は一貫して新幹線に反対してきた」と表明。鉄道路線の大部分が他の州で敷設されるにもかかわらず、マハラシュトラ州政府が資金の大半を拠出していると不満を述べたうえで「見直しは必至だ」と語った。

高速鉄道は、ムンバイとグジャラード州のアーメダバードの508キロを結ぶ計画。だが、果物を生産する農家による反対で土地収用が難航していた。インド経済の成長率が鈍化する中、高速鉄道建設計画が遅延すれば、投資家の信頼を損ねかねない。

シブ・セーナーと連立を組む「国民会議派」の幹部は「インフラ事業に反対しているわけではないが、同時に、農家の利益を無視できない。農家が反対している事業については再考する」と述べた。

高速鉄道建設を進める「高速鉄道公社」からコメントは得られていない。

同計画に必要な土地1380ヘクタールのうち、当局がこれまで収容できたのは548ヘクタールにとどまる。政府が7月に明らかにしたところによると、2023年までに高速鉄道の運行を開始する予定となっていた。【11月28日 ロイター】

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コメント

イギリス  ジョンソン首相落選の可能性は? ファラージュ氏の突然の方針転換は?

2019-11-27 22:49:04 | 欧州情勢

(【1127日 NHK】 既成二大政党の凋落が著しい欧州政治ですが、イギリスでは保守党・労働党が健在のようです。一時は二大政党と肩を並べた離脱に関する両極の自由党・離脱党は、結局二大政党の争いに埋没したようです)

 

【保守党が安定多数確保?】

イギリスのEU離脱の行方を決める総選挙は1212日に行われます。

 

ジョソン首相率いる保守党は、来年1月末までの離脱の実現、来年末まで継続する「移行期間」を延長せず早期に完全離脱する方針を明らかにしています。

 

一方、労働党は離脱方針の是非を国民投票で改めて問う公約を発表しています。

 

****英保守党、EU離脱の移行期間延長せず 政権公約を公表****

英国の欧州連合(EU)離脱が主な争点となる英総選挙が迫る中、ジョンソン首相が率いる与党・保守党は24日、政権公約(マニフェスト)を公表した。

 

EU離脱を来年1月末までに実現するため、EUと合意した離脱協定案の関連法案の審議を年内に再開する一方、離脱後に現状の経済関係を2020年末まで継続する「移行期間」を延長しない方針を表明した。

 

英下院は協定案の批准に必要な関連法の成立まで協定案の採決を保留する動議を可決しており、関連法案の骨格は英下院で承認されたものの、成立まではなお審議が残っている状態だ。ジョンソン氏は24日、英中部テルフォードで演説を行い、「離脱を成し遂げ、英国の潜在能力を引き出す」と訴えた。

 

移行期間は離脱による企業や市民の急激な環境変化を緩和するのが目的。英国とEUはこの間に自由貿易協定(FTA)を交渉するが、締結できなければ、22年末まで延長できる仕組みになっている。

 

しかし、保守党は関税同盟などEUから早期に“完全離脱”するため、20年末までのEUとのFTA締結を目指しており、移行期間の延長は不要と判断した。

 

期間中は米国など第三国とのFTAを発効できないとの事情もあるとみられる。だが、野党からは「FTAを約1年間で結ぶのは難しい」との指摘が出ている。

 

保守党は離脱問題のほかに、総選挙で有権者の関心が高まる医療問題についての公約も発表。NHS(英国の国民保健サービス)への支出拡大のほか、看護師の5万人増員を約束した。

 

また、首相の議会解散権を縛る「議会任期固定法」の撤回も公約に掲げた。同法は前倒し総選挙をするための解散に、下院で3分の2以上の賛成を要するとしている。

 

ジョンソン氏は、離脱について国民の信を問うために、下院で前倒し総選挙の動議を3度提出したが労働党の抵抗でいずれも否決された。保守党は、撤回を公約に掲げた理由として「国が決定的な行動を必要とする場合に(政治を)まひさせる」とした。

 

一方、最大野党・労働党は離脱方針の是非を国民投票で改めて問う公約を発表している。

 

英調査会社ユーガブによると、22日時点の保守党の支持率は42%で2位の労働党を12ポイント引き離している。下院が解散した11月6日時点でも保守党は労働党を11ポイント上回っており、保守党が優勢を保ち続けている。【1125日 産経】

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選挙では、与党・保守党が過半数を獲得できるかが焦点となります。

たとえ第1党でも、過半数を獲得できないと連立を強いられ、ジョンソン首相の強気の方針も実現できません。

 

選挙予測については、日々いろんな数字が報じられていますが、概ね保守党の優勢を伝えるものが多いようです。

 

****英総選挙、保守党が安定多数確保の見通し****

英紙サンデー・タイムズに掲載されたデータプラクシスによる世論調査の分析によると、ジョンソン首相率いる与党・保守党は12月12日の総選挙で過半数を約50議席上回り、安定多数を確保する見通し。

保守党は57議席増の約349議席を獲得する見通し。 一方、労働党は約30議席減の213議席となるとみられる。

下院定数は650だが、実質的な過半数には幅がある。(中略)

ユーガブが23日公表した世論調査によると、保守党の得票率は42%と、労働党を12ポイント上回るとみられる。【1125日 ロイター】

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ただ、足元の数字では、労働党との差が縮小しているというものも。

 

****英総選挙支持率、保守党のリード差7ポイントに縮小=ICM****

英調査会社ICMがロイターの委託で実施した最新の世論調査によると、12月12日投開票の総選挙に向け、ジョンソン首相率いる与党保守党の支持率が1ポイント低下し41%となった。

一方、野党労働党は2ポイント上昇し34%。この結果、両党の支持率の差は7%ポイントに縮小した。その他、欧州連合(EU)残留派の自由民主党は13%と変わらず。ブレグジット党は1%ポイント低下の4%だった。

調査は11月22─25日の期間、2004人を対象にオンラインで実施した。【1126日 ロイター】

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****英総選挙、与党保守党リードが8ポイントに縮小−アシュクロフト調査****

26日公表されたアシュクロフト・ポーリングの世論調査結果によれば、1212日の英下院選で与党保守党に有権者が投票する可能性を示す平均スコアは、先週と同じ36だった。これに対し、最大野党・労働党は25から28に増えた。(中略)

  

アシュクロフトが4146人の成人を対象に2125日に実施した調査は、下院選で各政党に投票する可能性をゼロ(絶対ない)から100(絶対確実)までのスケールで尋ねた。【1127日 Bloomberg

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まだ投票まで2週間ありますし、イギリスの投票予測は離脱是非を問う国民投票のときの失敗もありますので、まだ確かなことはなんとも言い難いところです。

 

【ジョンソン首相落選の可能性は? 落選しても・・・】

保守党の過半数確保もさることながら、非常に“興味深い”のは、ジョソン首相自身の当落だとも。

過半数は確保したが、首相自身は落選した・・・という結果も、可能性としてはあるとのことです。

 

****ジョンソン英首相が自身の選挙区で労働党候補と接戦か 勝利を危ぶむ見方も****

12月12日の英総選挙まで1カ月を切る中、ロンドン西部にあるジョンソン首相の選挙区が注目されている。

 

同選挙区では、欧州連合(EU)の残留を訴える有権者が増加。総選挙で、EUと合意した離脱協定案での離脱を訴えるジョンソン氏の勝利を危ぶむ見方もある。

 

与党・保守党が過半数の議席を獲得しても、ジョンソン氏が落選すれば、首相の退任に追い込まれ、離脱実現への影響は必至だ。

 

「現職首相を選挙区で負かす歴史的な瞬間を作り上げよう」

16日午後2時過ぎ。ロンドン西部の選挙区「アクスブリッジ・サウスライスリップ」にある駐車場で、最大野党・労働党から出馬するアリ・ミラニ氏(25)が数十人の有権者を前に熱弁をふるっていた。

 

集まった有権者の大半はEU残留を支持する選挙区の市民で、「ジョンソンを退任に追い込め!」と気勢を上げた。残留派の男性(51)は「ジョンソン氏を落選させれば、離脱の計画を妨害できる」と話した。

 

元々、EUに懐疑的な有権者が多い同選挙区では、2016年に実施された離脱の是非を問う国民投票で残留の支持は5割未満だった。

 

だが、英メディアによると、経済への影響が必至の「合意なき離脱」が懸念されてきたことから、一部の離脱派が残留派に転向。残留派の割合が5割を超えたという。

 

労働党は総選挙で、国民投票の再実施を提案することで、残留支持者を引きつけようとしている。同選挙区で、労働党候補は15、17年の総選挙でいずれも2位でジョンソン氏に敗れたが、票差を縮めつつあり、今回は逆転を予想する声もある。

 

労働党候補、ミラニ氏の健闘の理由は、残留派増加だけではない。その個性と地域に根ざした地道な活動にもある。

 

ミラニ氏はイラン生まれで5歳の時に家族とともに英国に移住。貧困に苦しみながら、同選挙区の大学を卒業した苦労人だ。恵まれない生い立ちを乗り越えた経験が、同じ境遇の若い世代の有権者を勇気づけている。また、同選挙区に住むミラニ氏は16〜17日に約2千人の支持者の自宅を訪れるなど地元密着の選挙活動を展開する。

 

一方、15年に同選挙区で落下傘候補として出馬したジョンソン氏は地域に縁がない。保守党支持者も「ジョンソン氏は選挙区の教育や医療の問題に関心がない」と非難する。

 

ただし、現職首相が総選挙で議席を失った前例はなく、ジョンソン氏が敗退する可能性は低いとみる有権者も多い。選挙区に住むキム・レーク・ベルソン・ボンドさん(60)は「高齢者を中心に地元の離脱派は根強く、首相が負けるとは考えづらい」と話す。

 

それでも、英紙ガーディアンは、同選挙区の議席は保守党内で「(落選の)リスクのある議席」とされているとした上で「総選挙で、首相が席を失う可能性がある」と指摘した。【1118日 産経】

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地元BBCもこの話題を取り上げています。

 

****【英総選挙2019】 ジョンソン首相の議席はどうなる? 激戦区の大物議員たち****

(中略)

激戦区という言葉の伝統的な意味は、前回選挙の10%以下の票差で勝敗が決まった議席のことだ。

 

この理屈で言うと、イギリス全土で激戦区とされる選挙区は169カ所ある。しかしますます不安定になるイギリス政界では、たとえ前回は大勝したとしても、場合によっては安心できない。

 

ジョンソン首相はどうか

ボリス・ジョンソン首相は2017年の前回選挙で、アックスブリッジおよびライスリップ・サウス選挙区の議席を10.8%の僅差で守った。

 

これを首相経験者の前回結果と比べてみよう。ゴードン・ブラウン氏は50.2%、テリーザ・メイ氏は45.5%、トニー・ブレア氏は44.5%、デイヴィッド・キャメロン氏は43%だ。

 

今回の選挙最大の大波乱になり得ると言われている理由が、この数字からも明らかだ。

アックスブリッジ選挙区では2017年の選挙で、13%の票が労働党に流れた。そして現在、労働党を含めた野党各党が、ジョンソン首相を落選させようと強力に活動している。(後略) 1127日 BBC】

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部外者には“面白い”話題ですが、実際にはそうそう面白くは事は運ばないし、仮にジョソン首相が落選しても政治生命がただちに絶たれるわけではないようです。(もちろん、政治的打撃は甚大ですが)

 

****<解説>ロス・ホーキンス政治担当編集委員****

今回の総選挙において、野党にとっての夢の結果はこうだ。「投票から一夜明けて、ボリス・ジョンソンはもはや下院議員ですらありません」と。

 

ジョンソン氏打倒を目指す活動家は、何百人もの支持者がこぞって協力していると話す。アックスブリッジ選挙区の若年層や人種的マイノリティーの有権者が、勝敗のバランスを覆すと期待している。

 

首相を落選させるという野望に、希望以上の実現可能性はあるのだろうか?

 

全国的なデータを基にした推計によると、一部の閣僚は苦戦を強いられるが、ジョンソン首相自身は票差を伸ばして勝利するとみられている。もうすぐ発表される別の推計でも、似たような結果が出ている。

 

しかし、これは飽くまで「推計」だ。このところ、政界予想をなりわいにする人たちは、前にも増して慎重になっている。

もしも、保守党が選挙に勝っても、首相が落選したら。何がどうなるのか。

 

イギリスでは、上下院の議員でない人物が首相を務めた例が過去にある。

ユニヴァーシティー・コレッジ・ロンドンのロバート・ヘイゼル教授によると、1960年代のアレック・ダグラス=ヒューム首相(保守党)は、上院議員としての地位を捨て、補欠選挙で下院議員に当選するまでの間も、首相でい続けた。

 

そのため、たとえジョンソン氏が落選しても、保守党基盤で楽勝した保守党議員を辞めさせた上で、自分はその選挙区から補欠選挙で復帰をねらえるはずだと、ヘイゼル教授は言う。

 

野党の夢が実現したとしても、ジョンソン首相の政治生命がただちに絶たれるわけではなさそうだ。【同上】

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【「離脱党」ファラージュ氏の突然の方針転換は?】

今回選挙でジョンソン首相・保守党に追い風となっているのは、「離脱党」ナイジェル・ファラージュ氏の突然の方針転換です。

 

当初、全選挙区に候補者をたてて保守党と争うとしていましたので、離脱支持票の奪い合いで保守党には大きなマイナスとみられていました。

ところが一転して、前回の選挙で保守党が勝利した選挙区では候補を立てないと方針転換。

 

これで保守党は離脱支持票を固めて非常に有利な戦いとなりました。

 

****すでに息切れ?ファラージュ氏と離脱党のいま****

離脱派の立役者 ファラージュ氏

2016年にイギリスがEUからの離脱を選んだ国民投票。そのとき世界中のカメラを前に「独立記念日だ!」と叫んだ男、ナイジェル・ファラージュ氏は良くも悪くもEU離脱を象徴する人物として一躍、時の人となりました。ファラージュ氏が離脱派を勝利に導いた立役者の1人であることに疑いの余地はありません。

 

ことし4月には新たに離脱党を立ち上げ、党首に就任すると、翌月に行われたヨーロッパ議会選挙ではイギリス国内でいきなり第一党に躍進しました。

 

今回の総選挙でも「台風の目」となるのではという見方が一気に広がりました。ところがーー。

 

突然の方針転換

総選挙まで約1か月となった1111日、ファラージュ党首は突然、選挙方針の転換を発表しました。全選挙区に候補を擁立するのではなく、前回の選挙で保守党が勝利した選挙区では候補を立てないことにしたのです。

 

保守党と比べて、より強硬な形での離脱を主張する離脱党はジョンソン首相の支持者を奪うと見られていました。保守党にとっては追い風となるだけに、何か裏取引があったのではないかなどと臆測を呼びました。(中略)

 

ファラージュ氏の思惑は

それなのになぜ離脱党はおよそ半数の選挙区に候補を立てない選択をしたのか。

ファラージュ氏は過半数を何としても確保したいジョンソン首相の足元を見るかのように、保守党との選挙協力を打診してきました。「うちと組まないと、離脱票が割れちゃうよ」という戦術です。

 

親交のあるトランプ大統領からも「ジョンソン首相はファラージュ氏と選挙協力すればいい」という発言を引き出し、外からもジョンソン首相にプレッシャーをかけました。

 

しかし土壇場でEUとの合意を取り付けた自信もあってか、ジョンソン首相はファラージュ党首の誘いには乗りませんでした。どうやらファラージュ党首の戦略は裏目に出たようなのです。

 

選挙戦が始まった時10%を超えていた離脱党の支持率は、最新の世論調査で3%に。選挙方針の転換で急落しています。

 

それでもファラージュ党首は「野党が政権を取ったら離脱は実現できない。保守党のほうがましだから、過半数をとれるようにしてあげたんだ」などと、相変わらず強気です。

 

離脱党はジョンソン首相にとって救いとなるのか、あるいは壁となるのか。選挙が終わるまで、本当のところはわからないかもしれません。【1127日 NHK】

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上記記事を読んでも、どうして突然方針転換したのかはわかりません。わからない以上、“何か裏取引があったのではないか”とも勘繰ってしまいます。

 

それとも、保守党敗北、離脱とん挫の「戦犯」とされることを嫌ったのでしょうか?実際には候補者を擁立できないという内部事情でしょうか?

 

強硬に離脱を主張するファラージュ氏ですが、実際に離脱が軌道に乗ればファラージュ氏の政治的役割は終わり、誰も見向きもしなくなります。

 

ファラージュ氏にとって自身の存在感を高める都合のいいポジションは、離脱が進まない状況で、声高に離脱を叫ぶことです。

 

保守党が単独過半数を制して離脱が着実に進むことになれば、ファラージュ氏の出番はなくなりますが、そのあたりをどのように考えているのか・・・やっぱり何らかの“裏取引”を考えてしまいます。

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フィリピン  反大統領派は中国の電力供給への影響力を問題視 懸念される大統領の健康状態

2019-11-26 22:59:38 | 東南アジア

(2017年3月、式典に参加するフィリピンのドゥテルテ大統領(右)とロブレド副大統領=ロイター【11月25日 朝日】 一見親しげな両者ですが、政治的には対立関係にあります)

 

【中国がボタン押せば、フィリピン全土の電気がストップする】

アメリカなどには、ファーウェイのような中国企業に情報通信など安全保障にかかわる分野をゆだねることに対する強い警戒感があります。

 

フィリピンは、周知のように南シナ海の問題にもかかわらず、ドゥテルテ大統領は中国との関係強化に前のめりになっていますが、社会全体には中国への警戒感も強く存在します。

 

そのフィリピンで、“中国がボタン押せば、フィリピン全土の電気がストップする”という事態にもなりかねないことが問題となっています。あくまでも理論上の話ですが。

 

****フィリピンの電力網、中国が「いつでも遮断可能」 内部報告書が警告****

 フィリピンの電力供給網は中国政府の支配下にあり、紛争の際には遮断される可能性があるという議員向けの内部報告書の存在が明らかになった。

 

中国の送電会社の国家電網は、フィリピンの送電企業NGCPの株式の40%を保有している。民間の合弁企業のNGCPは2009年からフィリピンで送電事業を行っている。

 

中国がフィリピンの電力システムに介入する可能性については10年前の合意時から懸念が出ていた。

議員からは今月、取り決めについて再検討を求める声があがった。

 

内部報告書によれば、システムの主要素にアクセスできるのは中国人技術者のみで、理論上は中国政府の指示によって遠隔で動作を停止させることも可能だという。

 

中国によってこうした攻撃が電力網に行われたという前歴はない。また、喫緊にこうしたことが行われるという証拠が提示されているわけでもなく、あくまで将来的な理論上の可能性としている。

 

情報筋によれば、内部報告書は電力網が現在、中国政府の「完全な支配下」にあり、中国政府はフィリピンの電力網に混乱を引き起こす能力を保持していると警告している。

 

中国外務省は、国家電網が、NGCPのプロジェクトについて現地のパートナーとして関与していると述べた。中国外務省はまた、「フィリピンは中国にとって隣人であり重要なパートナーだ」と指摘。相互の利益の拡大とウィンウィンな関係の拡大に向けて、法と規則にのっとって、フィリピンで事業を行う中国企業を支援すると述べた。

 

電力網に関する取り決めについては2020年の電力予算を協議するなかで懸念が持ち上がった。

 

上院議員の1人は、「スイッチひとつで」電力が停止する可能性に懸念を示した。復旧には24時間から48時間かかる見通しだという。別の上院議員も中国がNGCPの株を保有していることについて、「中国の最近の行動や覇権主義的な願望を考えると、国家安全保障に対する深刻な懸念だ」と述べた。

 

NGCPはフィリピン全土で電力の送電事業を行っており、同社の報告書によれば、フィリピンの家庭の約78%に電力を供給している。2009年に民営化され、国家電網が株式を保有したほか、運営のためのスタッフも派遣している。【11月26日 CNN】

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フィリピン政府が所有する国営送電公社(TransCo)の総裁も「NGCPは中国のエンジニアに対し、フィリピンの送電回路上に遠隔モニタリングシステムを設置することを認めている。中国のエンジニアは、中国でボタンを1つ押すだけでフィリピン全土の供給を遮断できる」と発言しています。【11月25日 レコードチャイナ】

 

一方、“国家電網による遠隔モニタリングシステムはフィリピンだけでなく、インドネシアやタイでも用いられており、その目的は故障のチェックと排除、送電網の正常な運用を確保することにある”【同上】ということで、フィリピンだけの話ではないようです

 

こうした状況を受けて、議員からは調査要求が出されています。

 

****フィリピン議員、中国企業による送電事業者への出資巡り調査要求****

フィリピンのリサ・ホンティベロス上院議員は26日、中国企業がフィリピン唯一の送電事業者に出資していることについて、安全保障が脅かされかねないなどとして、調査を要求する決議案を提出した。

同議員は、防止策を講じない限り、中国の操作による停電やインターネット接続障害、選挙への介入などの可能性があると指摘。

「わが国の海域や領土で攻撃的に振舞う外国が、わが国の送電網を支配することについて、じっくり考えて欲しい」とし「その国はわれわれの選挙を妨害し、テレビやインターネットなど通信技術へのアクセスを遮断することができ、国の経済や安全保障を崩壊させかねない」と訴えた。

中国の国家電網公司は、ナショナル・グリッド・コーポレーション・オブ・フィリピン(NGCP)と呼ばれるコンソーシアムに40%出資している。【11月26日 ロイター】

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おそらく、ドゥテルテ大統領と反大統領派の確執の一環なのでしょう。

 

【麻薬対策責任者に対立派の副大統領を任命するも、18日後には解任】

ドゥテルテ大統領の施策を特徴づけているのは、対中国宥和政策と、あと何といっても実質的に警察や謎の組織による超法規的殺人をも容認している麻薬対策でしょう。

 

最近は国際社会・メディアも“慣れて”しまったのか、あまり麻薬対策に対する批判は目にしなくなりましたが、状況は以前と変わっていないようです。

 

****フィリピン麻薬戦争、殺されているのは農民=弁護士ら来日し訴え****

「麻薬の売人」「テロリスト」と名指しされ、警察や軍、あるいは正体不明の集団にいきなり殺され、容疑者は捕まらない―。フィリピンから弁護士らが来日し、ドゥテルテ政権下で激化している「超法規的殺害」の実態を訴えている。

 

東京都内で21日に開かれた集会で、マリア・ソル・タウレ弁護士は「『麻薬戦争』と政府は言うが、犯罪組織の大物は安泰で、貧しい人だけが殺されている」と強調した。

 

ドゥテルテ大統領が就任した2016年、「政治の在り方を大きく変える」と新政権に期待したが、過去3年間で「大きく変わった」のは人権状況だったとソル・タウレ弁護士は振り返る。

 

16年からの麻薬戦争で「無実を証明する機会すらなく殺される」法の枠外の殺人が一気に広まった。こうした中で殺害された人は必ずしも麻薬とは関係ない「農民が圧倒的に多い」という。

 

フィリピンの貧困の原因の一つが大土地所有制だ。歴代政権は繰り返し農地改革を打ち出してきたが現場では履行されず、同弁護士は「約束された畑を要求すると殺害されている」と語った。

 

農民運動を支援するアリエル・カシラオ前下院議員も農地改革について「証書だけが配られ、土地が配られていない」と指摘。

 

抗議の農民が弾圧される中、「日本政府が支援するフィリピン政府の軍が武装もしていない農民を殺している」として、日本政府に支援の再考を働き掛けてほしいと呼び掛けた。

 

中部ネグロス島でサトウキビ労働者の組合を率いるジョン・ミルトン・ロサンデ事務局長も来日する予定だったが、直前に逮捕された。

 

21日の集会では、保釈中の自宅からインターネットでつないだ動画で発言し「軍が事務所に来て銃器を置いていき、後から来た警官が武器の不法所持容疑で逮捕するのがフィリピンのやり方だ」と逮捕の不当性を訴えた。

 

ソル・タウレ弁護士ら一行は26日まで日本に滞在、24日午後に横浜市のかながわ県民センターで講演会を行う。【11月23日 時事】

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その麻薬対策を巡って最近、一つの騒動がありました。

 

フィリピンでは副大統領は大統領とセットではなく、別個に選挙で選ばれますので、大統領と対立する人物が副大統領になることもよくあります。現在もそういう状況です。

 

ドゥテルテ大統領は、その反大統領派の副大統領を麻薬対策の責任者に任命したとのこと。

 

****副大統領、挑発受けて立つ フィリピンの麻薬戦争を批判****

多くの死者を出し、「麻薬戦争」とも言われるフィリピンの麻薬犯罪取り締まりを担う責任者に、ドゥテルテ大統領の手法を批判してきたロブレド副大統領が就任した。ドゥテルテ氏の挑発的ともいえる任命を受けて立った格好だ。

 

麻薬犯罪撲滅を掲げるドゥテルテ氏の下、フィリピンでは密売などに関わったとされる5500人以上が警官に殺害されている。無実の人や貧困層が殺害される例も多く、ロブレド氏は先月もメディアに「麻薬戦争は失敗。調整が必要だ」と語っていた。

 

これに対し、ドゥテルテ氏は先月末、ロブレド氏を麻薬取り締まりを管轄する省庁間委員会(ICAD)の共同委員長に任命。「批判する者は答えをもっているべきだ」と、その手腕を試す人事であることを隠さなかった。

 

6日に受諾したロブレド氏は会見で「多くの人がわなだと言ったが、罪なき人が殺されるのを止めるチャンスになるならと考えた」と話したが、どの程度の権限が与えられるかは不明だ。

 

フィリピンでは大統領と副大統領が別々の選挙で選ばれるため、主張や政治的立場が対立することが珍しくない。【11月7日 朝日】

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「おやおや・・・」と思っていたら、18日後には今度は解任。

 

****比大統領、麻薬問題責任者を解任 起用から3週間足らず****

フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は、自身の「麻薬撲滅戦争」を強く批判するレニ・ロブレド副大統領を、麻薬問題の責任者から解任した。大統領報道官が24日、明らかにした。その数日前にも大統領はロブレド氏を、国家機密を託すに当たらない「そこつ者」だと評していた。

 

ドゥテルテ大統領が推進する麻薬撲滅運動では、警察が多数の麻薬売買容疑者を殺害し、人道に対する罪を犯しているとの疑いが持たれている。3週間足らず前に責任者に任命されたロブレド氏は、「無分別な」殺害を終わらせると改革を宣言していた。

 

ドゥテルテ氏は19日、ロブレド氏が米大使館職員と国連の薬物専門家と協議したことに反発。国家の機密事項を不注意に第三者と共有しかねない「そこつ者」であり、「信用していない」と話していた。

 

これに対しロブレド氏は、大統領からの信頼がないのなら、自身を責任者から解任すべきだと訴えていた。

 

ロブレド氏の即時解任を発表したサルバドール・パネロ大統領報道官は、「副大統領は、本件に過度に集まっている国際的関心に訴えた。つまり副大統領が行ったことは、わが国を辱めることだ」と断じた。

 

ロブレド氏の任命については当初から懐疑的な声があり、同氏をおとしめるための計略か、あるいは単に同氏が麻薬撲滅戦争を繰り返し非難していることを受けての衝動的な反応ではないかとの見方が出ていた。

 

ロブレド氏の解任を受けて国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、同氏が掲げた改革提案を実現していく真の機会は与えられなかったと指摘した。 【11月25日 AFP】AFPBB News

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****フィリピン副大統領、18日間で麻薬担当の職解かれる****

(中略)解任の理由について、パネロ大統領報道官は24日、現地メディアに「大統領は忍耐強く待ったが、2週間以上たっても彼女は明確な麻薬犯罪防止策を出さなかった。人々の命が関わる政策で1日は永遠に値する」などと明かした。

 

現地報道によると、ロブレド氏は責任者に就任後、ドゥテルテ氏と麻薬犯罪について議論する場はなかったとされる。

 

パネロ氏はまた、ロブレド氏が「大統領が私が嫌いなら、辞めろと直接言うべきだ。そもそも、なぜ任命したのか」と20日に発言したため、ドゥテルテ氏がこれに応じて解任したとの見方も示した。

 

ただ、この発言に先立つ19日の時点で、ドゥテルテ氏はロブレド氏を麻薬関係の閣僚にすることを取りやめると発言し、麻薬犯罪の重要情報をロブレド氏に公開していないとも述べていた。【11月25日 朝日】

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さすが、「フィリピンのトランプ」と称されるドゥテルテ大統領らしい騒動ですが・・・。

 

【健康状態の政治判断への影響は?】

ドゥテルテ大統領は天皇陛下の即位の礼に参列するため訪日したものの、耐えがたい痛みがあるとして予定を切り上げて帰国したように、体調が非常に悪いことはかねてより知られているところです。

 

****比大統領、体調不良を認める 2週間姿見せず****

健康状態をめぐり憶測が飛び交っていたフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が15日、体調不良を認め、人生が「私の健康を侵しつつある」と述べた。ドゥテルテ氏はここ2週間にわたって公的な場に姿を見せていない。

 

先月バイク事故に見舞われたドゥテルテ氏は、その翌週に天皇陛下の即位の礼に参列するため日本を訪れた際、背骨に「耐え難い痛み」を訴え、予定を切り上げて帰国していた。

 

ドゥテルテ氏は先月初め、自己免疫疾患の「重症筋無力症」を患っていると公表。この病は筋肉の衰弱を引き起こし、まぶたが垂れ下がる症状によって視界不良に至る可能性がある。事故があったのは、持病の公表からわずか10日後のことだった。

 

ドゥテルテ氏は現地テレビ局GMAニュースのインタビューで「もし、『健康状態は万全か?』と聞かれれば、もちろん違う」と述べ、「私が持つすべての病気は、もう年老いているためだ。人生が私の健康を侵し始めた」と語った。

 

健康不安を受け、ドゥテルテ氏の指導力に対する懸念が高まっている。サルバドール・パネロ大統領報道官によると、ドゥテルテ氏は先週以降、地元の南部ミンダナオ島のダバオで休養を取りながら執務を行っている。 【11月18日 AFP】

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個人的な経験からすれば、頭痛がしたり、歯が痛いだけでも、発想はネガティブなものになっていまい、創造的な仕事はできません。

 

大統領の「耐え難い痛み」に苦しむ健康状態は、政策決定・政治判断に大きな影響があるのではないでしょうか。

上記の副大統領をめぐるドタバタも、そうした混乱の一つではないでしょうか?

 

たとえ“休養を取りながら執務”が可能だったとしても、その内容は心身ともに問題がない場合とは大きく異なるものになってしまうように思うのですが・・・。

 

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オーストラリア  中国の政治的干渉に高まる警戒感 国内には懸念されるヘイトの風潮も

2019-11-25 23:04:18 | オセアニア

(【1125日 NHK】 スパイになるよう打診されたとASIOに明かし、今年3月にモーテルの部屋で死亡しているのが見つかった中国系オーストラリア人中国系オーストラリア人ジャオ氏)

 

【中国の政治力行使への警戒感】

オーストラリアは経済的には中国との関係が極めて強く、輸出では全体の三分の一、輸入でも四分の一弱を中国が占めており、輸出入全体では対中国貿易は日本やアメリカの3倍近い規模になっています。

 

一方で(“それだけに”と言うべきでしょうか)、政治的には保守派を中心に、存在感を強める中国への反発もあり、以前から中国のオーストラリア政治への影響力行使の疑惑に対する警戒感が存在しています。

 

****豪州、外国からの政治献金禁止へ 中国の影響力増大を懸念****

ターンブル首相は5日、オーストラリアが外国勢力による政治介入を防ぐ政策の一環として、外国からの政治献金を禁止すると発表。背景には中国による影響力拡大に対する懸念があるとみられる。

 

外国勢力が、オーストラリアや世界の「政治プロセスに影響を与えようと、これまで前例のない、ますます巧妙な工作を行っている」と、ターンブル首相は首都キャンベラで記者団に語った。また、「中国の影響について懸念すべき報告がある」と指摘した。

 

世界では約3分の1の国が外国からの政治献金を認めており、オーストラリアや隣国ニュージーランドもそれに含まれる。米国や英国、欧州の数カ国では、こうした献金は禁止されている。

 

ターンブル首相によると、今回導入する新たな法律は、米国の外国代理人登録法を一部参考にしたもので、外国の介入を犯罪とみなし、外国政府のために働くロビイストに対して登録を義務付ける。

 

オーストラリアでは、中国政府が影響を拡大しつつあるのではないかとの懸念が高まっており、自国の政治家と中国政府の国益との関係が注目を集めている。

 

地元メディアのフェアファックス・メディアやオーストラリア放送協会(ABC)は6月、中国の利益を促進するため、中国が組織的に豪州政治への「浸透」工作を行っていたと報じた。中国側は、こうした報道を否定している。

 

中国外務省の耿爽報道官は、オーストラリアの内政に介入したり、政治資金を使って影響を及ぼそうという意図は中国にないと述べた。「同時に、オーストラリアには偏見を取り払い、中国と中国との関係について、客観的かつ前向きな態度で評価することを求めたい」と、耿報道官は付け加えた。

 

しかし、野党労働党のサム・ダスチャリ上院議員は先週、党の方針に反して、中国の南シナ海での領有権主張を支持するような発言をした録音が表面化したことを受け、党の幹部職を辞職した。(後略)【2017126日 ロイター】

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そうした中国警戒感がある状況での出来事。

 

****「スパイを豪連邦議員に」 中国の試みを捜査 オーストラリア*****

中国系オーストラリア人の高級車ディーラーを政治工作員にして連邦議会に送り込もうとしたとされる中国の試みについて、オーストラリア当局が捜査を進めている。情報機関のオーストラリア保安情報機構(ASIO)が24日夜、明らかにした。

 

豪メディア大手ナイン系列で24日夜に放送された報道番組「60ミニッツ」で、中国の工作員が高級車ディーラーのボー・「ニック」・ジャオ氏に100万豪ドル(約7400万円)を支払い、メルボルンの選挙区から連邦議会選に立候補させようとしたという疑惑を報じた。

 

ジャオ氏は昨年、スパイになるよう打診されたとASIOに明かし、今年3月にモーテルの部屋で死亡しているのが見つかった。

 

ASIOのマイク・バージェス長官は24日夜声明を出し、ASIOは以前からこの件について知っており、「積極的に捜査を進めている」と明らかにした。バージェス氏が声明を出すのは異例。

 

バージェス氏は、ジャオ氏の死も捜査対象になっているため、これ以上のコメントは避けるとした上で、「敵対する外国の情報活動は、依然としてわが国とわが国の安全保障に対する脅威となっている」と指摘した。

 

オーストラリア議会の情報・安全保障合同委員会で委員長を務めるアンドリュー・ハスティー議員は、「超現実的」で「スパイ小説から飛び出した話のようだ」と述べた。

 

オーストラリアでは23日に、中国のスパイだったという「威廉王」こと王力強氏が、香港で活動する中国軍の情報将校の身元と、台湾やオーストラリアで行われている活動の内容と資金源に関する詳細な情報を豪当局に提供していたと報じられたばかりだった。 【1125日 AFP】

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こうした事件を内々に知る立場にあったASIOの元長官が下記のような警告も。

 

****中国が豪政治の「乗っ取り」企図、保安機関元トップが警告****

中国が水面下で狡猾(こうかつ)に組織的なスパイ活動と利益誘導を駆使してオーストラリア政治体制の「乗っ取り」を企てていると、オーストラリア保安情報機構の元トップが豪紙とのインタビューで警告した。

 

このインタビューは、今年9月までの5年間ASIOの長官を務めていたダンカン・ルイス氏のもので、22日付の豪紙シドニー・モーニング・ヘラルドに掲載された。ルイス氏がASIO長官退任後にメディアのインタビューに応じるのは初めてだ。

 

ルイス氏はシドニー・モーニング・ヘラルド紙外信部長とのインタビューで、豪政治関係者は誰もが中国諜報(ちょうほう)活動の標的となる可能性があり、何年間も気付かれないままにその影響が及び続ける恐れがあると警鐘を鳴らした。

 

「(中国の)スパイ活動や内政干渉は水面下で狡猾に行われている。その影響が表面化するのは何十年後かもしれないが、その時は既に手遅れになっているだろう。ある日、目を覚ましたら、我が国の政府が我が国にとって有益でない決断を下していたということになりかねない」

 

さらにルイス氏は、中国による乗っ取りは政界にとどまらず、地域社会や財界にも及んでいると指摘。基本的に活動の指令はオーストラリア国外から出ているという。

 

中国による大規模な利益誘導作戦の例としてルイス氏は、豪政党に多額の献金をしている中国人工作員の存在を挙げ、メディアや大学も標的となっていると警告。「疑心暗鬼を引き起こすつもりはないが、賢明に認識しておく必要がある」と訴えた。 【1122日 AFP】

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中国側は「妄想に取りつかれている」「でっち上げている」と反発しています。

 

****豪内政への干渉疑惑、中国は「でっち上げ」と否定****

中国の情報機関が豪連邦議会へのスパイの送り込みを画策していたとされる疑惑を巡り、中国外務省は25日、中国は他国の国内問題に干渉しようと試みたことはなく、その意図もないなどとして疑惑を否定した。

一部の豪テレビ局や新聞は24日、中国の情報機関がメルボルンの高級車ディーラーの男性に対して、連邦議会選への出馬と引き換えに100万豪ドルを提供すると持ち掛けていた、と報じた。(中略)

中国外務省の耿爽報道官は、25日の定例記者会見で、一部の豪メディアは中国の干渉をでっち上げたと強調した。

報道官は、豪州の一部の政治家・組織・メディアが中国に関する問題で「妄想に取りつかれている」とし「いわゆる中国のスパイが豪州に潜入しているといった話を常にでっち上げている」と発言。

「どれほど突拍子のない話であれ、どれほど装いを変えても、嘘は嘘だ」と述べた。【1125日 ロイター】

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【“中国スパイ” 豪・台湾の政界にも影響】

昨日は、前出【AFP】最後に書かれているように、“中国スパイ”に関する別の話題も。

 

****中国人スパイ 豪に亡命求める 工作活動の情報と引き換えに ****

香港と台湾などでスパイ活動に関わっていた中国人の男性が工作活動に関する情報と引き換えに、オーストラリアへの亡命を求めていると現地メディアが伝えました。

 

男性の亡命が認められれば、中国の影響力をめぐって冷え込んだ両国関係がさらに悪化することが予想され、オーストラリアがどのように対応するか注目されます。

 

オーストラリアの大手紙シドニー・モーニング・ヘラルドなどによりますと、亡命を求めているのは香港と台湾、それにオーストラリアでスパイ活動に関わっていた中国人の男性です。

香港で抗議活動が続くなか、中国軍からの指示で民主派の情報を収集したり、韓国人になりすまして台湾に入り、来年1月に行われる総統選挙に向けた工作を行ったりしたとされています。

男性はこうした工作活動の内容と資金源についての情報や、香港で活動する中国軍の幹部の情報をオーストラリアの情報機関に持ち込んで、亡命を求めていると報じられています。

現在、観光ビザでシドニーに滞在していて、中国に戻れば死刑になると訴えているということです。

男性の亡命が認められれば、中国によるスパイ活動の一端が明らかになる一方で、中国の影響力をめぐって冷え込んだ両国関係がさらに悪化することが予想され、オーストラリアがどのように対応するか注目されます。【1124日 NHK】

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“韓国人になりすまして台湾に入り、来年1月に行われる総統選挙に向けた工作を行ったりした”ということですから、当然に総統選挙を控えた台湾でも問題になっています。

 

****台湾与党、中国は「民主主義の敵」と批判 選挙干渉疑惑受け****

台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の与党・民主進歩党(民進党)は25日、1月11日の総統選・立法委員(国会議員)選挙を前に中国が台湾の政治に介入しているとの報道を受けて、中国は「民主主義の敵」だと批判した。

オーストラリアの報道によると、中国人スパイを名乗る男が亡命を求めており、中国が台湾、オーストラリア、香港でどのような政治的な干渉を行っているか豪保安情報局(ASIO)に情報を提供したという。

台湾独立を志向する民進党の卓栄泰主席は記者会見で、フェイクニュースの多くは中国発だとして、さらなる調査が必要だと指摘。「民主主義の敵は中国だ。現在、台湾にとって最も野心的な敵および競合相手も中国だ」と述べた。

報道によると中国人亡命者は、台湾で親中路線の最大野党、国民党の韓国瑜・高雄市長などをメディアが好意的に取り上げるよう誘導する手助けをしたと述べている。

卓氏は、国民党は選挙の直接的な敵だが、最大の挑戦を仕掛けてくるのは「最強の破壊力」を持つ中国だとした。

国民党の韓氏は中国共産党から金銭の受領があった場合は選挙への出馬を撤回すると表明した。

これとは別に国民党の報道官は、この問題は「共産党の間抜けなスパイ行為」の1つで、早急の調査が必要だと強調。また、台湾政府はこの問題を「選挙操作」のために使おうとしていると訴えた。

そのうえで「蔡政権や国家治安当局に関連事案の説明を求める。この問題について曖昧な態度を取って選挙に影響を及ぼすのはやめるべきだ」と述べた。【1125日 ロイター】

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香港問題で中国との関係が逆風になっている国民党にとっては、更に状況を苦しくさせる問題でしょう。

 

最初の話題にせよ、後の話題にせよ、中国の関与が実際会ったのかどうかはわかりません。

ただ、“日頃の行い”から強い疑惑を持たれるというのは“不徳の致すところ”でしょう。

 

【豪国内の“中国スパイ”より懸念すべき風潮】

オーストラリアを取り上げたついでに、最近見たオーストラリア社会に関する懸念すべきニュースも。

 

****男がスカーフ着用の妊婦を殴打、イスラム嫌悪か 豪シドニー****

オーストラリアのシドニーで、無抵抗のイスラム教徒の妊婦に殴る蹴るの暴行を加えた男が起訴された。豪イスラム関係評議会は「イスラム嫌悪」に基づく襲撃事件だと非難している。

 

事件は20日、シドニー西部のカフェで起きた。店の防犯カメラ映像には、ヘッドスカーフを着用した女性3人が談笑しているテーブル席に男が近づき、いきなり飛び掛かるようにして女性1人を殴りつける様子が映っている。女性に男を挑発する様子はなかった。

 

男は何度も女性を殴り、女性が床に倒れ込むと今度は踏みつけるなど、周囲の人々が力づくで引き離すまで暴行を続けた。警察によると、被害者の女性は妊娠38週で、病院に搬送されたが既に退院したという。

 

男は「暴行によって身体障害と平穏侵害を引き起こした」罪で起訴された。保釈は認められない。男の動機について警察は明らかにしていないが、複数の余罪で追起訴する可能性があるという。

 

事件を受け、AFIC21日に発表した声明によると、男は被害者と友人の女性たちに向かって「反イスラム的なヘイトスピーチ(憎悪表現)を叫んでいた」という。ラテブ・ジュネイドAFIC議長は、「人種差別とイスラム嫌悪に基づいた襲撃なのは明らかだ。そのように対処されることを期待する」と述べた。

 

豪チャールズ・スタート大学の最近の研究報告によれば、オーストラリアではイスラム嫌悪が「継続的な現象」となっており、特にヘッドスカーフを着用した女性が被害に遭う事例が多いという。 【1122日 AFP】

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世界各地で噴出する若者らの既成政治への怒り アルジェリア、レバノン、イラク

2019-11-24 21:42:28 | 民主主義・社会問題

(香港理工大学の構内に立てこもった学生たちにスマートフォンの光で支持の意思を示す人々(19日)【1124日 WSJ】)

 

【より直接的な行動を選択する若者 既成の政治エリートへの怒り】

これまでも取り上げてきたように、南米、中東、香港など世界各地で政治に対する抗議行動が発生し、その多くか過激化しています。

 

そうした抗議デモの中心にいるのは、これまで政治には関心がないとされていた若者たちであり、その行動を特徴づけているのは新世代の暗号化メッセージアプリの活用です。

 

若者たちは既成政治への不信感から、従来のような投票によって政治に関与するという方法ではなく、より直截的方法でその不満を噴出させているように見えます。

 

*****世界でデモ拡散、民衆を突き動かす怒り *****

過去の抗議活動を踏襲しながら、新たな社会運動の輪郭を形成

 

今年6月、対話アプリでつながった数十万人が香港市内を占拠した。中国政府によって市民生活が脅かされるのを阻止しようと立ち上がった若者たちだ。

 

それから4カ月余りが過ぎ、反政府デモは世界10カ国以上に拡大した。チリやボリビア、レバノン、スペインなど、数百万人の市民がデモに参加。平和的なものもあるが、その多くが暴徒化している。

 

数千人が負傷し、多数の死者も出ている。デモ隊は道路や空港を封鎖し、自分たちの激しい怒りの矛先が向いている機関に攻撃を加えている。

 

イランは16日、インターネットを遮断。全土に広がるデモを鎮圧するため武力行使に踏み切った。中南米では大規模デモが拡散しており、その波は5カ国目となるコロンビアも飲み込んだ。

 

世界に飛び火するデモを線でつなぎ、関連づけることは不可能だ。だが、数多くの地域で市民が蜂起しているという事実(その多くは戦術やスローガンまで共有している)は、「アラブの春」や1968年の学生デモなど過去の抗議活動を踏襲しながら、新たな社会運動の輪郭を形成している。

 

デモの直接の発端は国ごとに異なる。だが、その根底には社会や経済に対する似たような不満があり、既存の政治秩序に対する変革要求をあおる構図となっている。(中略)

 

抗議活動が発生している都市の多くは、所得格差が大きい。デモで中心的な役割を果たしている若者の多くは、両親と同水準の豊かさが得られるのか疑問を抱えながら生きている。

 

彼らの怒りの矛先は政界のエリートたちへ向けられている。市民の感覚とはかけ離れ、自分たちや同じような身分にある者にしか仕えないエリートたちのことだ。

 

デモ活動の勢いを猛烈に高めているのが「ワッツアップ」や「テレグラム」といった新世代の暗号化メッセージアプリだ。互いにまったく面識のない大規模なデモ隊グループが、匿名でやり取りすることを可能にしている。

 

ツイッターやフェイスブックなどのプラットフォームは考えを広く公開するには素晴らしい場所だが、こうした新たなテクノロジーでは、デモ隊予備軍を互いにつなぐことで、大規模な行動についてリアルタイムで合意を形成することができる。しかも、身元が割れるのを恐れずに。

 

またネットが世界をつないでおり、活動家たちは他国の同じようなデモ隊の動向を注視し、彼らとつながることで学んでいる。

 

カタルーニャ州バルセロナでは、独立を求めるデモ隊が「香港のデモ戦術」と題されたパンフレットを配布。伝説の武道家、ブルース・リー氏の有名な助言である「水のようにあれ」をスローガンにした香港デモ隊の「奇襲」戦術を踏襲している。

 

香港のデモ隊は、警察の目や監視カメラに向かってレーザー光を照射しているが、チリでも同じ手法が用いられるようになった。

 

「これらの抗議活動は一度限りの特異な現象ではない」。こう指摘するのは、カーネギー国際平和財団でデモ活動を研究するリチャード・ヤングス氏だ。「これは主流派の現象になりつつあり、世界の政治における主要な特性として今後も続くだろう」

 

ヤングス氏はその理由として、現在の政治制度が自分たちの要求にうまく対応していないと考えられていることがあると述べる。デモ参加者は「政治からは身を引き、より直接的な行動を選択している」。

 

多くのケースにおいて抗議活動の最前線にいるのが若年層、しかもかなり若い層だ。チリでは、地下鉄の改札口を飛び越えて入った高校生らがデモ発端のきっかけだ。香港では平日夜開催のデモでも、制服をまだ着たままの少年・少女らが参加している。

 

若者の参加は、それまで広く浸透していた「スマートフォン中毒の若者世代は基本的に無関心で、ネット上の幻滅感を現実の世界で行動へと変えることはない」という通念を覆す。

 

この抗議活動を突き動かしているのは、おそらく成功体験だろう。デモが発生した国では、指導者が次々とデモ隊の要求に応じざるを得ない状況に追い込まれた。だが、デモ隊はさらなる要求を掲げ、戦い続けている。

 

「デモを長く継続するほど、より多くのものを政治家から引き出せる可能性がある。政治家は今、われわれを恐れているからだ」。今月、バグダッドで起きた数十年ぶりの大規模なデモに参加した無職のイラク人、ワリード・イブラヒムさん(32)はこう話す。イブラヒムさんらを突き動かしているのは、経済発展を実現できない政界のエリートたちへの激しい怒りだ。

 

レバノンでは10月、ワッツアップ通話への6ドルの税金案に反対する市民デモが発生。サード・ハリリ首相は課税案を撤回したものの、10月下旬には辞任に追い込まれた。デモ隊は目下、宗派の違いに基づく政治制度を改革するよう要求している。

 

香港では、本土当局に譲歩を余儀なくさせるという、かつてなら想像もできなかったことを成し遂げた後も、若者がデモを続けている。

 

中国当局が後ろ盾となっている香港政府は8月、デモの引き金となった容疑者の本土引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案を正式に撤回。だがデモ隊は、普通選挙や警察の暴力行為に関する調査など、要求をさらに強めた。

 

デモ続行の決定は、匿名のメッセージグループ間で決定され、その後、デモは激しさを増した。

 

チリの旧世代の目には、デモに参加する若者らは、苦労して手に入れた選挙権などを当たり前のものだと考えていると映る。

 

同国では、長い流血の独裁体制を経て、30年前に民主主義へと移行した歴史があり、若者はこれを経験していない。チリは民主化後に経済が着実に成長し、根強い格差もこの20年で解消に向かっている。

 

大学教授のセバスチャン・バレンズエラさんは「若者は民主化後に育っており、軍事独裁(政権)の記憶はない。だが、選挙は何の役にも立たないと考えており、投票しない」と話す。

 

民主主義・選挙支援国際研究所の報告書によると、1990年代初頭以降、投票率は世界的に低下しており、政府に対する信頼感が総じて下がっていることを示唆している。

 

今年世界的な現象となったデモが、長期的にどのような変化をもたらすのかは不明だ。社会運動による影響は、その渦中で明らかになることはほとんどない。そして、答えがないまま、数世代にわたって議論されるかもしれない。

 

すでに確立された遺産もある。テクノロジーを活用してリアルタイムで市民の抵抗を促す匿名グループが持つ力だ。まるで10年前の行進や占拠などの運動が、スローモーションのように思える。

 

例えば、20代の香港デモ参加者イユさん。彼女は、7月のデモ隊による立法会(議会)占拠に直前で加わった一人だ。平和的な行進になると思っていたが、テレグラムのさまざまなチャンネル上でのやりとりを見ていると、次第に雰囲気が変化していくのが分かったという。その直後、香港政府のシンボルである立法会の占拠に参加するボランティア募集の告知メッセージを受け取った。

 

数分の間に、同じメッセージを受け取った数百人のデモ参加者が立法会前に集まり、実行の機会をうかがっていた。そして一斉に建物の中へと流れ込んだ。香港デモの象徴的な瞬間だった。

 

「数カ月前は、暴力的な行動はしたくなかった」と語るイユさん。「今ではもう気にしない」【1124日 WSJ

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【アルジェリア 従来同様の大統領選挙を拒否する人々】

今日報じられている事例としてはアルジェリアがあります。

 

*****アルジェリアでデモ拡大 12月大統領選へ刷新要求****

北アフリカのアルジェリアで、12月の大統領選を前に支配体制の刷新を求めるデモが拡大した。

 

大統領選の立候補者審査に不正があったとの見方が市民の間で強まり、2月から40週続いてきた金曜日の抗議活動が再び活性化。選挙は受け入れられないとの抗議が広がっている。

 

1212日に予定される大統領選には20人以上が立候補を申し出たが、最終的に必要条件を満たしたとされる5人に絞り込まれた。うち2人は首相経験者で、他の3人も4月まで20年続いた長期政権下で閣僚などを務めた人物。“清新な候補”は現れなかった。【1124日 共同】

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アルジェリアでは今年4月にブーテフリカ前大統領が抗議デモにより辞任に追い込まれて以降、政治空白に陥っていました。

 

空白からの回復にあたり、旧来の手法を踏襲しようとする政治エリートたちに対し、民衆は政治体制の改革を求めています。

 

****政治空白続くアルジェリア、デモ隊の首都立ち入りを禁止*****

アルジェリアのアハメド・ガイドサラハ軍参謀総長は18日、政治改革を求めて各地から集まってきたデモ隊の首都アルジェへの立ち入りを阻止するよう警察に命じた。

 

アルジェリアは今年4月、長期政権を維持してきたアブデルアジズ・ブーテフリカ前大統領が抗議デモにより辞任に追い込まれて以降、政治空白に陥っている。前大統領の辞任後も数か月にわたって大規模デモが続いているが、暫定政府は12月に大統領選を実施すると発表した。

 

デモ隊は、選挙の前にまず政治改革と前大統領派の排除を行うよう求めている。一方、ガイドサラハ氏は何としても年内に大統領選を実施する構えだ。アルジェでは昨年2月以降、毎週火曜日と金曜日にデモ隊が結集している。

 

ガイドサラハ氏によると首都立ち入り禁止令は、デモ隊を首都に輸送する「車やバス」を食い止めるのが目的。車両を押収し「所有者に罰金を科す」としており、移動の自由を悪用して「市民の平和を害する」「悪意ある複数の集団」への対策として必要だとしている。 【919日 AFP

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【レバノン ヒズボラ支配への抵抗】

レバノンでは宗教・宗派間の権力分割、その背後で実質的影響力を高めるヒズボラという政治構図がありますが、人々はこうした既成政治への不満を表明しています。

 

*****アンタッチャブル「ヒズボラ」へ反抗はじめたレバノン市民*****

レバノンでは10月中旬より、政治改革、腐敗撲滅、生活の向上等を訴える抗議運動が激化、1029日にはハリリ首相が辞任する事態となった。アウン大統領は1031日、抗議運動の要求通り、テクノクラートから成る新政府を組織したいと述べた。

 

米国のポンペオ国務長官は、新政府の設立を要求し、軍と治安当局が彼等からデモ参加者の権利と安全を守るよう要請した。もし、レバノンが経済改革を遂げ、腐敗と戦うのであれば、国際機関と協力して経済支援をしたいと国務省筋は述べた。この支援には昨年誓約されたが凍結されている117億ドルの支援パッケージが含まれる。

 

今回のレバノンでの抗議運動は、政治改革、反腐敗を超える注目すべき点がある。それは、レバノンの政治を支配して来たイランが支援するヒズボラへのあからさまな反抗である。

 

ヒズボラは今回のデモまではほとんど手を触れることの出来ない存在だった。しかし、そのシーア派の支持者すらデモに参加した。

 

ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師はデモ当初の1019日には新政府樹立の要求に反対していた。25日には街頭デモは「混乱と崩壊につながる空白」を生みつつあると警告した。

 

しかし、抗議運動はこの脅迫を無視し抗議を継続したのである。改革運動の参加者は、ヒズボラは閣僚の人選に介入しようとするかも知れないが、アウンが非政治的な政府を求めたことは一歩前進だ、と見ているようだ。(後略)【1121日 WEDGE

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【イラク イランの影響力への反発】

イラクでも、内戦からの復興を実現できていない無能な既成政治への不満が噴出しており、その怒りの矛先はイラク政治に大きな影響力を有しているイランにも、更には、こういう混乱期に人々を扇動して影響力を拡大してきたサドル師にも向いているようです。

 

****「出口なし」イラク民衆の怒りはどこへ向かうのか*****

イラクでは9月初めより、大規模な反政府デモが起こっている。政府の腐敗、無能、失業等に対する抗議である。デモは一時小康状態となったが、政府側の強硬な弾圧によって多くの死者が出ており、未だ収まる気配はない。

 

イラクのアブドゥル・マハディ首相政権は昨年の選挙後、第1党となったシーア民族派のサドル派とイランに支持されたアミリ派(シーア派民兵組織の政党)の妥協によって生まれた政権であるが、サドル派は首相を見限り、アミリは様子見の態度を取っている。

 

イラクでは以前にも同様なデモ、騒乱が発生したが、今回の運動はイランに支援されたシーア派民兵組織及びイランそのものにも、また、以前の民衆運動を支持したサドル師に対しても民衆の怒りが向けられている。

 

政府においては、より強硬な鎮圧策を支持するグループ、当面首相が対応すべきとするグループ、首相退陣を予期して次の首相候補を模索するグループなどに別れている。騒乱はより過激になり、自信を持ち、大規模になりつつある。

 

今回の抗議運動の大きな特色は、雇用、電力不足、腐敗というような具体的な問題への抗議というよりも(勿論、それもあるが)、サダム・フセイン以降の基本的な政治体制(シーア、スンニー、クルド3派による大政翼賛的パワーシェアリング・システム)への挑戦となっていることである。

 

ナジャフの宗教指導者(シスターニ師)、イラン、サドルを含め、従来の権威全般に対する否定的な性格を帯びている。従って、政府側の対応は難しい。アブドゥル・マハディ首相は、後任についての合意が出来れば辞任する用意のある旨表明しているが、単なる首のすげ替えだけでは収まらない可能性がある。

 

今のところ、抗議運動は、特定の政治勢力による扇動ではなく、自発的な性格を持っているが、今後どの程度組織化が進むのか注目される。サドル派がこれに乗る可能性はあるが、今回は運動主体側がサドル派をも既成政治の一部として攻撃しており、見通しにくい。

 今

回の政府側の対応は、従来に比べて強硬なものであり、政府側の危機感の表れである可能性が大きい。今後、政府側がより強硬な鎮圧策に出るかどうかはイランの考え方によるところが大きい。

 

体制維持への危機感が強くなれば、イラン系民兵組織による本格的な弾圧に出る可能性があるが(そうなれば、イランの影響力が強まる)、当面は首相の交代や選挙の実施などによるアメと強い鎮圧策というムチを混ぜながら対応していくのではないかと思われる。

 

今回の運動が主張しているように、今の3派によるパワーシェアリングの体制が政府の非能率、腐敗の温床となっていることは事実だが、これに変わる体制(例えば、与党、野党による政権交代システム)を築くのは容易ではない。宗派政治からの脱却はイラク政治の大きな課題であるが、実現するとしても時間がかかる(政党の非宗派化は徐々に進んではいるが、未だ未成熟)。斬進的に進めていくほかないであろう。

 

イラクの現政治体制は、シリアのように抑圧的なものではなく、またレバノンにように機能不全なものではないので、大きな騒乱状態に陥るとは思われない。

 

但し、やっとIS戦に勝利し、選挙で選ばれた新政権による安定への方向が見え始めた時点での今回の騒乱が長引けば、スンニー派過激分子、IS残党等の反政府活動が復活し、経済、政治の停滞が深刻化することが危惧される。【1120日 WEDGE

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各地での若者らを中心とする民衆の既成政治への怒りの噴出は、これまで一定の成果を獲得していますが、単なる一時的なものでなく、より基本的な政治の変革に至るかどうかについては難しいものがあります。

 

SNSなどを活用した、特定の政治勢力によらない行動であるだけに、長期的な政治改革を具体化していくには不向きな面もあります。

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シリア情勢 難航予想の憲法起草委員会

2019-11-23 22:56:08 | 中東情勢

(シリア北西部イドリブ県カーにある避難民キャンプで、政府軍による前夜の空爆で負傷した少女(20191121日撮影)【11月23日 AFP】)


【不安定化するシリア北部】

シリア北部では、米軍撤退によって生じたトルコ軍の侵攻、国境地帯からのクルド勢力の撤退という事態を受けて、トルコ軍、クルド人勢力、シリア政府、更にはIS残党などが絡み合う形で、不安定な情勢が続いています。

 

****シリア北部で爆弾14人死亡 クルド人撤退地域、テロか****

シリア北部テルアビヤドの市場で2日、車に積んだ爆弾によるとみられる爆発があり、シリア人権監視団(英国)によると、市民のほか、トルコ側部隊の兵士らを含む少なくとも14人が死亡し、21人が負傷した。

 

犯行声明などは出ていないが、トルコのアナトリア通信は、少数民族クルド人の民兵組織「人民防衛部隊(YPG)」によるテロの可能性があると伝えた。

 

テルアビヤドはトルコ国境に接しており、10月にトルコ軍が地上侵攻した後、クルド人勢力が撤退を強いられた地域。現在はトルコ側部隊などの勢力下にある。【113日 共同】

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****シリアのクルド人支配中心都市で同時攻撃、6人死亡****

シリア北東部のクルド人支配地域の中心都市となっているカミシリで11日、爆弾が3か所で同時に爆発し、少なくとも民間人6人が死亡した。

 

直前には、イスラム過激派組織「イスラム国」がカミシリで活動していた米国人のカトリック司祭を殺害したと発表したが、同時攻撃に関する犯行声明はこれまでのところ出ていない。(中略)

 

シリアのクルド人支配地域で少数派のキリスト教徒らを支援している在仏団体「ルーブル・ドリエント」は、司祭の身元について、ジョセフ・ハンナ・イブラヒム司祭だと確認している。

 

同団体は司祭殺害は「テロ攻撃」であり、今回の同時爆発も「教会近く」で起きたとして非難している。(中略)

 

クルド人部隊とバッシャール・アサド政権派の部隊が治安維持を分担しているカミシリを含め、シリア国内には約100万人のキリスト教徒が住んでいる。 【1112日 AFP

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****シリア北部の町で爆発 市民18人死亡 治安の悪化懸念 ****

トルコの実質的な管理下にあるシリア北部の町で16日、爆発が起きて市民18人が死亡し、トルコ国防省は、クルド人武装組織による犯行とみて非難する声明を発表しました。シリア北部では、トルコが軍事作戦に踏み切って以降、爆発事件が相次ぎ、治安の悪化が懸念されます。(中略)

 

これまでに犯行声明は出されていませんが、トルコ国防省はシリア北部のクルド人武装組織が車に積んだ爆弾を爆発させたとして非難する声明を発表しました。

バーブの町は、トルコが3年前に過激派組織IS=イスラミックステートから奪還し、その後も敵対するクルド人武装組織を国境地帯から排除するため実質的な管理下に置いてきました。

トルコが先月、シリア北部で軍事作戦に踏み切って以降、トルコが管理下に置くシリア側の領土で爆発事件が起きるのはこれで3件目で、軍事作戦にクルド人武装組織が反発する中、さらなる治安の悪化が懸念されます。【1117日 NHK】

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【東部油田地帯には米軍残留】

一方、米軍はシリア北部からは撤退するものの、クルド人勢力が支配するシリア東部の油田地帯のデリゾール付近には兵員を残すとされています。

 

*****米軍撤退後の行く末は****

米軍の撤退宣言はなされたものの「撤退後」を論じるのはまだ早そうだ。

 

トランプ大統領は、IS指導者の死を受けた1029日の演説後、シリアについて「我々は出ていく、だが油田地帯を守るため一部の駐留は継続する」と明言。油田地帯のあるデリゾール付近で数百人規模の兵の駐留を検討している模様だ。

 

シリア最大の油田地帯はアラブ系住民が多数を占めており、クルドによる支配を快く思わない住民もいるという。

 

一方で、石油利権は当然、アサド政権も取り戻して中央集権化を徹底させたい意向だ。

 

ロシアの仲介により、アサド政権との交渉が一気に進むかに見えたクルド地域だが、米軍の駐留継続で再び膠着状態が予想される。【1123日 GLOBE+】

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デリゾール油田地帯も、米軍・クルド人勢力、シリア政府軍・ロシアが絡み合う形で、今後いろんな動きがありそうです。

 

【空爆続くイドリブ 難民キャンプにも攻撃】

反体制派の最後の拠点となっているイドリブについては、最近はあまり報道がありませんが、政府軍・ロシア軍の攻撃は続いているようです。

 

****シリア避難民キャンプを政府軍が空爆 「子どもたちだ、テロリストじゃない」****

シリアの内戦を逃れ、避難民キャンプでようやく一息つけると思っていた人々の頭上に20日夜、政府軍のロケット弾が降ってきた。「夜の祈りを終えた時、大きな爆発音が聞こえた。走って兄弟のテントに戻ると、炎に包まれていた」と、避難民のアブ・マフムードさんは語った。

 

現場は、トルコ国境に近いシリア北西部イドリブ県のカー村にある避難民キャンプ。シリア国内各地から戦火を逃れてきた人々が、白い粗末なテントを並べて暮らしている。

 

21日朝、そのテントの列の一部が灰燼(かいじん)に帰し、金属製の骨組みだけが残る惨状があらわになった。マフムードさんの兄弟はやけどを負い、ロケット弾の金属片でけがをしたものの、命は助かった。ただ、その妻と娘は焼け跡から遺体で見つかった。

 

シリア人権監視団によると、この空爆で子ども8人と女性6人を含む民間人16人が犠牲になった。国連は、空爆で近くの産科病院にも被害が出たと発表。調査を要請する方針を明らかにしている。

 

イドリブ県は、8年間にわたるシリア内戦で、今もバッシャール・アサド大統領の支配を逃れている残り少ない地域の一つ。県内には約300万人が暮らすが、その半数は内戦で家を失ってこの地に逃れてきた人々だ。

 

アサド政権軍とロシア軍はイドリブ県への空爆を強化しており、今年58月だけで民間人1000人以上が死亡、40万人が家を追われた。

 

行き場を失った人々の多くは北へ逃げ、トルコ国境沿いに身を寄せた。空爆の危険が少ない場所だと考えられていたからだ。

 

「ここはなかなか安全だと感じた。だが、今やここにも危険が迫っている」とマフムードさん。「私たちを放っておいてくれ。ここにいるのは子どもたちだ、テロリストじゃない」と訴えた。 【1123日 AFP

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難民キャンプを攻撃対象にするとは、戦争というのは非情で悲惨なものです。

 

【シリアの今後に向けて協議する「憲法起草員会」は難航予想】

ただ、イドリブ総攻撃といった話は最近聞きませんので、今後は軍事的圧力をかけつつも、外交的な面が中心になるのでしょうか。

 

****シリア情勢の今後は****

ロシアの主導により、シリア情勢の中心は今後、軍事から外交にシフトするとの期待が高い。

 

20126月から、国連主導の下でアサド政権と反体制派による内戦終結と和平に向けた「ジュネーブ会議」が開かれてきた。

 

再び開かれたジュネーブ会合の場での焦点は、選挙実施に向けた憲法を制定する「憲法起草委員会」の開催だ。委員はアサド政権側、反政府勢力、市民社会から各50人。

 

だが、意思決定には委員の75%以上の賛成が必要とされており、150人という人数の多さも相まって、今後の曲折が予想されている。

 

委員の中に、YPGは含まれていない。トルコの強硬な反対があるからだ。

 

エルドアン大統領は、「トルコがテロリストと交渉することはありえない」と主張するが、国土の4分の1を実質的に支配するクルド勢力の排除は、和平を骨抜きにする。

 

トルコもそこは理解しているとみられ、PKKYPGの引き離しと、YPGの武装解除の道を模索しているようだ。

 

今回のYPGのトルコ国境付近からの撤退は、PKKの反対を押し切って実行されたと言われており、引き離しの機運が高まれば、トルコも軟化姿勢を見せる可能性がある。

 

また、内戦以降国交を断絶しているトルコとアサド政権も、ロシアの仲介でゆくゆくは交渉が始まると期待されている。【1123日 GLOBE+】

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ただ、憲法委員会での各勢力の協議は難航が予想されています。

 

****シリア憲法委、怒号飛び交い一時中断 国連の説得で再開****

内戦が続くシリアの和平に向けた対話の核となる憲法委員会は、2日目の10月31日から、実質的な審議に入った。アサド政権と反体制派の代表が初めて同じ会議の席に着いた議場は、感情的なもつれが火を噴いて一時中断したが、仲介役の国連の説得で再開した。

 

憲法委にはアサド政権、反体制派、市民社会から各50人の委員計150人が出席。複数の関係者によると、31日に三つのグループで順番を回しながら一人ずつ意見表明をする中で、アサド政権側委員の一人が、軍がいかに勇敢に戦ったかを強調し、犠牲者を悼む趣旨の発言をしたという。

 

市民社会側の女性判事が「私の兄弟は戦争で犠牲になった」と話すと、政権側委員から「シリア軍が殺すはずがない」といった声が上がった。これに対し、反体制派が反発。不規則発言をやめさせるよう訴える怒号などが飛び交い、議場は騒然となって多くの委員が退席した。

 

議事は1時間ほど中断したが、進行役のペダーセン国連シリア担当特使らが、アサド政権と反体制派から一人ずつ出した共同議長らを説得し再開したという。

 

シリア内戦では8年間で約40万人が犠牲になったとされ、アサド政権と反体制派の遺恨は深い。ペダーセン氏は30日の憲法委初日、委員に忍耐強くあるよう呼びかけていた。【112日 朝日】

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上記「初会合」以降の動きに関する報道は目にしていません。

長年にわたり戦闘を繰り広げ、今もイドリブで対峙しているアサド政権側と反体制派が新たな憲法制定で合意するというのは、正直なところなかなか想像しづらいところがあります。

 

また、前出のように、参加が認められていないクルド人勢力をどうするのかという問題もあります。

 

期待はできませんが、さりとて、難民キャンプの子供たちが空爆にさらされるような状況を改善するためには、なんらかの前進をはかる必要があります。

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新疆ウイグル族弾圧  内部文書リークで明らかにされた実態

2019-11-21 22:51:28 | 中国

(中国・新疆ウイグル自治区カシュガルで、モスク(イスラム礼拝所)を出るウイグル人を見張る警察(2017626日撮影)【1118日 AFP】)

 

【国際的攻防の焦点となる新疆ウイグル族問題 中国支持国も多数存在する現状】

中国との貿易交渉を有利に進めるための「カード」としての思惑もあってか、新疆ウイグル自治区におけるイスラム系ウイグル族等へ行っている弾圧をアメリカがさかんに取り上げていることは、1026日ブログ“米中貿易交渉の「カード」して取り上げられるウイグル族の人権問題 「強制労働」による中国綿製品”でも取り上げました。

 

最近では・・・

 

****ポンペオ米国務長官、中国によるウイグル族弾圧をやめるよう声明****

ポンペオ米国務長官は5日、中国共産党政府によるイスラム教少数民族ウイグル族への人権弾圧に関し声明を発表した。

 

ポンペオ氏は、中国当局によるウイグル族活動家の親族や、自治区の収容施設での体験談を発表した出所者に対する嫌がらせや投獄、恣意(しい)的な拘束が相次いでいるとする複数の報告があるとして、「深く苦悩している」と表明した。

 

ポンペオ氏は、こうした迫害が「国務省高官との面会直後に起きた事例が複数回ある」と指摘。また「中国共産党による弾圧政策の犠牲となった勇敢な人々やその家族に対し、心からの弔意を表する」とした。

 

その上で、「米国は中国政府に対し、中国国外に住するウイグル族に対する全ての迫害をやめ、恣意的に拘束された全ての人々を解放するよう改めて要求する」と訴えた。

 

一方、中国の人権状況を監視している「中国問題に関する議会・行政府委員会」(CECC)は5日、税関・国境警備局(CBP)に書簡を送り、自治区で拘束されているウイグル族を強制的に働かせて製造された中国製の衣料品の米国への輸入を禁じるよう要請した。

 

書簡によると、問題の衣料品は米国内のスポーツ用品大手アディダスやアパレル大手H&M、エスプリなどの店舗や通販サイトで販売されているという。【116日 産経】

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国連を舞台にした攻防も行われており、先月末には、日本や米英など23カ国が中国批判の共同声明を出していますが、注目すべきは、これに反対して中国支持の共同声明が54カ国から出されたこと。

 

数の上からすれば、中国支持が倍以上存在しており、国際社会における中国の存在感の高まりを反映しているように思われます。

 

****国連、ウイグル問題で攻防 欧米日本など23カ国「拘束停止を」 中国支持派は54カ国**** 

中国が新疆ウイグル自治区で少数民族ウイグル族を大規模拘束している問題について、日本や米英など23カ国が29日、国連総会第3委員会で、中国に対して懸念を示し、恣意的な拘束をやめるよう求める共同声明を出した。

 

これに対抗してロシアやパキスタンなど54カ国は中国を支持する声明を発表。ウイグル問題で加盟国が賛否の立場に分かれ、応酬を繰り広げた。

 

第3委は人権問題を扱う。ウイグル族の拘束に懸念を示したのは他に欧州各国やカナダ、オーストラリアなど。英国のピアス国連大使が代表で共同声明を読み上げ、「信教の自由を含む人権を尊重するため、国内法や国際義務を守るよう中国政府に求める」と強調。また、国連関係機関の現地調査を認めるよう呼びかけた。

 

米国のクラフト国連大使は演説で100万人以上が収容施設に拘束されているとし、「非難する」と述べた。

 

中国を支持する共同声明にはエジプト、ボリビア、コンゴ民主共和国などが名を連ねた。ベラルーシの代表が声明で「(施設では)すべての民族グループに対する基本的人権が守られている」と強調。

 

中国の張軍国連大使は演説で、中国を支持する国が上回ったことを念頭に「米国の主張は不人気だ。米国やその他の数カ国は国際社会に対抗し、これ以上間違った道を進むべきではない」と自らの政策の正当性を主張した。

 

また中国と同調する約20カ国が演説に臨み、「内政干渉する口実に人権問題を利用してはならない」(ミャンマー)といった指摘が目立った。

 

今年7月にジュネーブで開かれた国連人権理事会でも賛否に分かれた加盟国グループがそれぞれ書簡を提出するなど、国連の舞台でウイグル問題をめぐる攻防が続いている。【1030日 産経】

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100万人以上が収容施設に」という数字については、個人的には「本当だろうか?」という疑問もありますが、人権団体「東トルキスタン国民覚醒運動」は、それよりはるかに多くの人が中国政府に拘束されている恐れがあると主張しています。

 

****中国のウイグル収容施設500か所近くを確認 100万人超が被収容の恐れ****

人権団体「東トルキスタン国民覚醒運動」は12日、中国・新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル人らが拘束されている収容施設や刑務所を、500近く確認したと発表した。

 

100万人が収容されていると一般的に言われてきたが、同団体はそれよりはるかに多くの人が中国政府に拘束されている恐れがあると主張している。

 

米ワシントンを拠点とするETNAMは、イスラム教徒が多数を占める新疆ウイグル自治区の独立を目指す人権団体。グーグルアースで地図画像を調査し、ウイグル人たちに自身が持つ文化を捨てるよう圧力をかけているとされる「強制収容所」とみられる182か所の位置を地図に示した。

 

刑務所とみられる施設209か所と労働収容所とみられる施設74か所も特定した。これらの詳細については後に共有するという。

 

ETNAMのカイル・オルバート氏はワシントン郊外で記者会見を行い、「これらの(施設の)大半は、これまで確認されていなかった」と述べ、拘束されている人の数は従来考えられていたよりもはるかに多い恐れがあると指摘。「それどころか、われわれが確認できていない施設がさらにあるのではないかと懸念している」と語った。

 

活動家や目撃者らによると、中国政府はウイグル人たちを拷問にかけて多数派の漢民族に強制的に統合しており、イスラム教徒のウイグル人に礼拝や禁酒、豚肉を食べないなどの信条を捨てるよう圧力をかけている。

 

オルバート氏は、中国政府の政策は「投獄による大虐殺」であると表現し、ウイグル人が永久に拘束されるのではないかと懸念した。

 

中国政府は当初、収容所の存在を否定していたが、イスラム教徒に職業訓練を提供して過激思想を持たないようにしていると政策を正当化している。 【1113日 AFP】

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人権団体「東トルキスタン国民覚醒運動」は中国と対峙している一方の当事者ですから、その中国批判の「数字」については過大にとらえられている可能性も一定に留意する必要があろうかとは思います。

 

【米紙にリークされた弾圧の実態 「情け容赦は無用」】

そうしたウイグル族弾圧が国際的に注目されるなかで、習近平国家主席の生々しい発言などを含む内部文書が米紙ニューヨーク・タイムズにリークされ、中国当局の弾圧の実態が改めて明らかになっています。

 

****ウイグル人に「情け容赦は無用」、中国政府の内部リークで新事実明らかに 米報道****

中国・新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル人に対する弾圧の新たな事実が、中国政府関係者が米紙ニューヨーク・タイムズにリークした大量の内部文書によって明らかになった。

 

NYタイムズが16日付の紙面で報じた文書によれば、習近平国家主席はウイグル人の取り締まりに「情け容赦は無用」とハッパを掛けていた。文書には、習主席のこれまで非公開だった演説の内容や、ウイグル人監視や支配に関する報告が含まれている。

 

NYタイムズに文書をリークしたのは、中国政界既成勢力の匿名の人物。リークによって、習主席を含めた政権幹部らによる「ウイグル人大量拘束の責任回避」を阻止したかったという。(中略)

 

中国共産党は米国など国際社会が批判を強めているウイグル人弾圧をひた隠しにしてきたが、今回、NYタイムズが入手した403ページの内部文書によって、これまで知られてこなかった弾圧の実態があらわになった。 

 

文書によれば、習主席は2014年にウイグル自治区の鉄道駅で31人が死亡したウイグル人による無差別攻撃事件の後、当局者を対象にした演説で、「独裁の仕組み」を活用して「テロリズム、侵入、分離独立」に対する「情け容赦は無用」の全面闘争を指示している。

 

2016年に陳全国氏がウイグル自治区の新たな党書記長に就任すると、収容施設の数が急速に拡大。陳氏はウイグル人弾圧を正当化するため、2014年の習主席の演説内容を自治区当局者らに配布し、「拘束すべき者たちを一網打尽にせよ」と促していた。
 
また、文書によれば、中国政府は自治区に帰省したウイグル人学生らが家族が行方不明、または施設に収容されたなどと知った場合の問い合わせに対する想定問答集も作成。当局者らはこうした学生に対して、家族は「過激思想ウイルス」に感染したため、軽い病が深刻化しないうちに治療が必要だと説明するよう指導されていた。

 

さらに、党内にはウイグル人弾圧を不服とする者もいることが、文書からうかがえる。

 

ウイグル自治区莎車県の責任者だった王勇智氏は、収容施設に拘束されていたウイグル人計7000人以上を自らの判断で釈放したが、党の指示に背いたとして2017年から18年に取り調べを受け、処罰対象となった。流出文書によると王氏は、大量拘束によって対立が激化してウイグル人の憎悪が深まることを恐れたと当局に供述している。 【1117日 AFP】

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上記記事最後にある王勇智氏については、“民族間対立を解消するために経済発展に力を入れる政策をとっており、それまでの評価は高かった。だが、陳全国時代以降は、全県で強制収容された2万人のムスリムのうち7000人をひそかに釈放していたことがばれ、「党中央の新疆政策に対する深刻な違反」で拘留、起訴され、権力剥奪ほか懲罰を受けたという。”【1121日 福島 香織氏 JB Press 「すっぱ抜かれた悪行、新疆と香港を踏みにじる中国」】とも。

 

また、“想定問答集”については

 

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・・・・例えば、ウイグル人留学生が夏休みに新疆の実家に帰ってきたとき、家に父母がおらず親戚も失踪、隣人たちも姿がない。みんな強制収容されていて、学生が当局の官僚に「家族はどこにいますか」と問い合わせてきたとする。そのとき、どう答えるべきか? といった模範解答も指示されている。

 

「彼らは政府が建てた研修学校にいる」と答えるのが模範解答例だ。もし学生がさらに説明を求めたら「彼らは罪を犯したのではないが、学校から離れることはできない」と答える。

 

さらに「もしもあなたが彼らを支持するのならば、それは彼らのためにも、あなたのためにも良いことだ」という言い方で、学生の答え方次第で家族の拘禁時間が短くなったり延長したりすることを伝えるよう指示されている。つまり恫喝だ。

 

父母の強制連行を学生に見られた場合、父母の学費を誰に支払ってもらえるのか学生が知りたがった場合、労働力を奪われ畑を耕す人間がいなくなったといわれた場合の模範解答もある。そして官僚に恨みを抱きそうな人間に対しては、恫喝を交えて、共産党の助けに感謝し、沈黙するように求めよと指示している。【同上】

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中国側は、「本来の意味を文脈から切り離して、内部文書だとするものを吹聴し・・・」と反発しています。

 

****内部文書流出報道のウイグル弾圧問題、中国政府が正当性強調****

中国・新疆ウイグル自治区の少数民族ウイグル人に対する弾圧に関し、膨大な量の公式文書がリークされたことを受け、中国政府は18日、この問題で政府が「寛大になることは決してない」と明言した。(中略)

 

中国外務省の耿爽副報道局長は18日の定例記者会見で、同紙に対し「本来の意味を文脈から切り離して、内部文書だとするものを吹聴し、新疆で行われている対テロおよび脱過激化の取り組みを中傷、非難している」と指摘し、「事実から目を背けている」と批判。

 

さらに「中国は暴力的なテロリストらとの戦いで寛大になることは決してない」と断言した。

 

また耿氏は、新疆では1990年代から2016年までの間に「暴力的なテロ事件が何千件も発生」したが、過去3年間は現行の政策によりあらゆる攻撃が阻止されたと述べた。

 

今回のリークにより、中国の極西に位置する同自治区で多数のイスラム教徒らが拘束されている問題に改めて注目が集まっている。 【1118日 AFP】AFPBB News

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【胡錦濤政権の新疆政策を否定して強硬政策に転じた習近平】

福島 香織氏は、その内容、これまでの実例などからして、ねつ造文書をつかまされた可能性もゼロではないとしながらも、“全文読んだわけではないが、一部公開されているものを読む限りでは、本物ではないか、と見ている。”として、習近平政権における対ウイグル族政策の変化について以下のようにも。

 

****すっぱ抜かれた悪行、新疆と香港を踏みにじる中国****

・・・・こうした新疆における暴力事件を受けて、習近平は新疆政策に関する4つの秘密演説を展開する。

 

その中で習近平はウイグル人の大規模拘束を直接命令はしていないが、「専制」を手段として、新疆からイスラム過激派分子を徹底排除することを呼び掛けている。

 

また習近平は、経済発展を通じて新疆の不安定さを抑制していくという以前の中国指導者のやり方について、「それでは不十分だ」「イデオロギー上の問題を解決して、新疆地域のムスリム少数民族の思想を作り変える努力を展開せよ」と指示。これは2009年の7.5ウルムチ騒乱以降、胡錦濤政権が展開した経済優先の新疆融和政策を批判している内容といえる。

 

胡錦濤政権は、7.5ウルムチ騒乱の原因は当時の自治区書記の王楽泉の腐敗政治によるウイグル人搾取に対する不満と恨みがあると見た。

 

そこで、ウルムチ騒乱を鎮圧したのち、経済発展によって民族間の格差と不満を解消する比較的融和的な政策を打ち出した。だが、習近平はこれを生ぬるいと批判したのである。

 

自分の前の指導者の政治が失敗だったことを証明することで自分の政策の正しさをアピールするやり方は、中国に限らず政治家の常套手段だが、習近平の場合、胡錦濤の新疆政策を否定するために必要以上に強硬政策に転じたともいえそうだ。

 

ニューヨーク・タイムズによると、2014年ごろから登場した再教育施設と称する強制収容施設は、当初は数十人から数百人のウイグル人を収容する小型施設が多かった。

 

施設の目的は、イスラム教への忠誠を捨てさせ、共産党への感謝の情を植え付けることだった。だが、20168月に陳全国が書記になると、数週間後に地方官僚に召集をかけて、習近平の秘密講話を引用しながら、新たな安全コントロール措置と強制収容所の拡大を命じたのだという。

 

このスクープは、共産党が現在行っている新疆政策がけっして、国際社会に対し説明しているようなウイグル人の再就職支援といった「善意」の目的ではなく、また建前で謳う多民族国家や人類運命共同体といった理想とは程遠い、「専制」による民族・宗教・イデオロギー弾圧であり、支配管理強化であることの明確な証拠となるものと言えるだろう。

 

今、新疆で起きている問題は、間違いなく人道の問題なのだということを証明する内部資料という意味で、このスクープの意義と影響は大きい。【1121日 福島 香織氏 JB Press

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【香港の「新疆化」】

福島氏は更に続けて、香港の「新疆化」の懸念も指摘しています。

 

****つながっているウイグル問題と香港問題****

・・・・若者の中国専制に対する命がけの抵抗を中国は「テロ」と表現し、その弾圧を正当化しようとし、さらには、数千人の若者を「暴動」に関与したとして手当たり次第に拘束し、どこに収容されているのか、ケガの手当てがされているのか、弁護士にも家族にもわからないという人が多々存在する。

 

香港の人権団体・本土研究社によれば、深圳に近い山間部に、「反テロ訓練センター」の建設予定があり、19億香港ドルの予算が計上されているという。

 

この施設は新疆ウイグル自治区のテロ対策施設を参考にしており、実際に香港警察は2011年から毎年エリート警官を7人ずつ新疆ウイグル自治区のテロ対策施設での研修に派遣しているそうだ。

 

訓練センターには新疆と同じく反テロ再教育施設のような洗脳施設も併設されるのではないかとの話も出ている。

 

ウイグル人の中にISのテロに参与する人間がおり、香港のデモ参加者の中にも破壊活動や血生臭い暴力を振るう人はいる、というのは事実だ。

 

だが、それを理由に、ウイグル人全員、香港人全員が無差別に捕まえられ、拷問や虐待が行われていることを国際社会は座視してはいけないだろう。

 

また、どのような犯罪者にも最低限の人権があり、公正な司法プロセスに従って裁かれるのが現代文明国家を名乗る最低の条件だ。中国がその最低限の条件・法治を備えない限り、中国のテロ対策、暴徒鎮圧という建前での暴力的権力の行使に、一分の説得力もない。

 

ウイグル問題、香港問題はつながっている。それが台湾や南シナ海周辺国家や、あるいは日本に波及する可能性が、絶対ないとは言い切れない。だからこそ、私はウイグルや香港の問題に関心を持ち続けてほしいと繰り返し訴えるのである。【同上】

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コメント

ポーランド  保守ポピュリズム「法と正義」政権で進む非リベラル・中国型モデル

2019-11-20 22:33:43 | 欧州情勢

(10月13日、選挙の出口調査の発表後、支持者に語りかける与党「法と正義」のカチンスキ党首(右)と笑顔のモラビエツキ首相【10月14日 朝日】)

 

【司法の独立を脅かす司法改革 自由市場からの決別】

****姜尚中「ベルリンの壁崩壊から30年、米中対立は似た者同士のねじれが生じている」****

11月9日、ベルリンの壁崩壊から30年を迎えました。(中略)


あの頃、私たちはどこかで東西対立を水と油のように考えていて、壁の崩壊とともに冷戦が終わり世界は平和になっていくはずだという多幸症的な高揚感がありました。

 

しかし、世界はむしろ混乱のるつぼと化し、至る所で揺り戻しが起きています。旧ソ連をはじめ東側の処方箋の間違いが歴史によって証明された一方で、資本主義は今や地球の隅々を覆うようになり、その内部に格差や環境破壊など大きな矛盾を抱え込んでいます。

 

そして、米ソ対立に代わって米中対立が新たな冷戦として語られるようになりました。

現在の米中対立は、他面では似た者同士の角逐という側面があることを見逃してはなりません。

今の中国が望んでいるのは、国家社会主義ならぬ国家資本主義です。他方米国では世代間の対立、階層間の格差、さらに地理的な分断が進み、民主社会主義が広がっています。

 

中国は国家資本主義、米国には民主社会主義の動きが出ているのですから、冷戦たけなわの頃には想像もできないねじれが生じています。社会主義対資本主義という冷戦のロジックで米中対立を考えていくのは誤りでしょう。

ベルリンの壁崩壊から30年。この機会に、西側を形作っていた基本的な価値を見直す時です。冷戦崩壊後、称揚されてきた北欧型福祉社会でもポピュリズムが台頭しています。

 

そして、独裁的な統治システムで、高い成長率を誇り、テクノロジーの面でも進化しつつある中国型モデルが、民主主義や議会主義で混乱する社会より、より効率的で望ましいという考えが広がろうとしています。

 

果たして、かつての西側諸国も中国型モデルにより接近していくか。それとも、そのモデルはどこかで破綻するのか。今後の大きな課題になるはずです。【11月20日 姜尚中氏 AERAdot.】

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“独裁的な統治システムで、高い成長率を誇り、テクノロジーの面でも進化しつつある中国型モデルが、民主主義や議会主義で混乱する社会より、より効率的で望ましい”という「中国型モデル」への接近の一例が東欧におけるハンガリー・オルバン政権であり、ポーランドの「法と正義」政権でしょう。

 

ポーランドについては、10月14日ブログ“ポーランド “EU懐疑派”の右派与党「法と正義」、総選挙で過半数維持 微妙なEUとの関係”でも取り上げたように、「法と正義」政権が進める司法改革が司法の独立を脅かしているとしてEU司法裁判所から違法判決を受けています。

 

しかし、政権側はEUの批判を無視して更に司法の政治化を進め、経済分野においても自由市場を制約する方向に踏み出すことを表明しています。

 

****ポーランド、経済分野で国家の役割拡大 司法改革推進へ=首相****

ポーランドのモラウィエツキ首相は19日、議会で施政方針演説を行い、経済分野で国家の役割を拡大すると表明、欧州連合(EU)が批判する司法改革をさらに進める意向を示した。

首相は、与党「法と正義」が引き続き福祉予算と国内企業の政府保有株を拡大すると表明。自由市場改革を進めていた過去の政権と決別する姿勢を強調した。

首相は「ネオリベラル派は我々の価値体系に混乱をもたらした。多くの人が、国家は足かせだと信じるようになってしまった」とし「極端は良くない。普通の状態に戻るべきだ」と訴えた。

同国では先月13日に下院選が実施され、法と正義が勝利。さらに4年間、政権を担うことが決まった。

2015年に政権に就いた同党は、司法改革を実施。EUは法の支配と司法の独立が脅かされるとして、訴訟を起こしている。

モラウィエツキ首相は、今後どのような司法改革を進めるか詳細は明らかにしなかったが、同党は司法制度の効率化に向け改革を実施する方針を表明。野党は、これまでの司法改革で司法の政治化が進んだと批判している。

19日遅くに行われた信任投票では、454議員中237議員が賛成票を投じ、首相が信任を得た。【11月20日 ロイター】

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【ナショナリズムを鼓舞するポピュリズム】

EUから非民主主義的との批判を受けながらも、カチンスキー氏率いる「法と正義」は、ナショナリズムに訴える形で、国民の強い支持を維持しています。

 

****ポピュリスト政権がまい進を続けるポーランド****

10月13日に行われたポーランドの総選挙では、保守ポピュリストの与党「法と正義」(PiS)が、下院での得票率を4年前の37.6%から約44%に伸ばし安定多数を獲得、大勝した。野党「市民のプラットフォーム」は得票率27.4%にとどまった。

 

欧州にいわゆるポピュリスト政権が複数成立してから一定の時間が過ぎ、その成否が分かれ始めている。イタリアやギリシャのように、余り何もできなかったポピュリスト政権が支持を減らしている国がある一方、今回のポーランドPiSのように大勝するものもある。

 

勝利するのは、よかれあしかれ「実績」があると見られているということである。

 

PiS人気を支える最大の要因は、社会的弱者への手厚い保護政策である。特に子育て世代への手厚い支援(子供一人当たり月500ズロティ、約127ドルを支給)、年金支給年齢の引き下げ(67歳であったのを男性65歳女性60歳に)、26歳以下の若者への所得税免除など、一見左派的な政策は、強い支持を獲得した。再選されれば、最低賃金をほぼ2倍にすると約束している。

 

これら福祉政策は、ポーランドの好調な経済に支えられてきた。今やポーランド経済はEU第7位であり、2018年も5.4%の高い経済成長率を記録している。

 

同時に、カチンスキーPiS党首は、巧みにポーランド人のナショナリズムに訴えてきた。彼の双子の兄弟レフ・カチンスキーは2010年4月10日に、カチンの森追悼記念式典に出席するため搭乗していた飛行機の墜落事故で亡くなった。

 

それ以来、ヤロスラフ・カチンスキーは黒の背広と黒のネクタイで過ごしている。そもそも双子のカチンスキー兄弟は、ポーランドで人気の子役俳優であった。

 

EUは、PiSの敗北を望んでいたであろう。ハンガリーのオルバン政権と並んで、「非リベラルな民主主義」に大真面目に取り組んでいるのがPiSであり、特に最高裁の権限に対して制限をかけている政策は、EUから法の支配の観点より再三にわたり注意を受けているが、ポーランドは聞く耳を持たない。

 

10月10日には、欧州委員会が、ポーランドが司法の独立を脅かしているとして、欧州司法裁判所に提訴した。しかし、ポーランド国民にはほとんど影響がなかった。PiSは前回選挙よりもさらに得票率を伸ばした。

 

カチンスキーは、いわゆる「西側」のリベラリズムを否定している。これは、1990年代以降東欧諸国に対して「高圧的」に接してきた西側諸国への、旧共産諸国内の反発に支えられている。

 

無条件、無批判に、ブリュッセルの言うまま改革を進めてきたが、それはあまりに単なるコピー「ゼロックス近代化」であった、その中で自分たちを見失ってしまった、という感覚が国民に持たれており、PiSの自己主張は、国民の支持を受けている。

 

特にカトリック色の強いポーランドで、伝統的な家族観の復活を訴えるPiSの戦略は支持されている(カトリック教会もPiSを支持)。ドイツに対して今更のように第二次大戦の賠償を請求しているのも、同じである。PiSはポーランド国民に、「尊厳を取り戻させた」と感じられている。

 

1989年の革命を支えた人々も、彼らのヴィジョンがないがしろにされたままブリュッセル(EU)主導の「改革」が無批判に勧められたと感じている。PiSは、EUで不評の「司法改革」についても、旧共産党との決別のために必要であると説明してきている。

 

ただ、今回の勝利は、PiS自身が期待していたほどには大きくなかった。得票率は伸ばしたものの、下院での議席数は変わらなかった。

 

その上、上院では野党の統一候補擁立が成功し、これまでの過半数を失った。これまで上下院で過半数を持っていたため、必要な社会保障改革法制を容易に議会で通すことができたが、これからはやや難しくなる。PiSが掲げていた憲法改正も、難しいだろう。

 

しかし、下院で安定多数を持っている限り、政権は安泰であり、ブリュッセルは煙たい政権ともう4年付き合わねばならない。

 

リベラル・デモクラシーを支持する側としては、経済原理だけでなく、最低限の生活保障、人々の誇りや尊厳と言った気持ちに対する配慮を取り戻さなければ支持を獲得することは難しいという教訓をポーランドの選挙結果が改めて示していると、認識する必要があろう。【11月5日 WEDGE】

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上記にある「ポーランド司法改革」のEUによる司法裁判所への提訴は、11月5日に「EU法違反」との判決が出ています。補助金削減等の制裁措置がとられるのでしょうか。

 

【歴史の書き換え】

「法と正義」(PiS)が鼓舞するナショナリズムは、「ホロコースト」へのポーランド人の関与という歴史的事実の否定にも向かっています。

 

****歴史はどうして書き換えられるのか ポーランド首相がネットフリックスに抗議 世界を覆う歴史修正主義****

「ポーランドの死の収容所」は正しくない

急激に保守化が進むポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ首相が米映像ストリーミング会社ネットフリックス(Netflix)に対し「作品で使用された地図は第二次大戦でナチス・ドイツによって占領されていたポーランドが死の収容所の責任があると誤って伝えている」と抗議しました。

 

問題になったのはナチス・ドイツの強制収容所で2万7900人の虐殺に関わったとしてドイツで有罪判決を受けたものの、判決が確定する前に死亡したウクライナ系米国人ジョン・デミャニュク氏に焦点を当てたネットフリックスの『The Devil Next Door(隣に住む悪魔)』です。

 

モラウィエツキ首相はフェイスブックでその書簡を公開しています。「多くのポーランド人が隣人のユダヤ人を助けようとして殺害された。ポーランドはナチスに占領された国々の中でユダヤ人を匿ったとして死刑宣告を受けた唯一の国だ」

 

「にもかかわらずポーランドが強制収容所の設置や維持管理、そこで行われた犯罪に責任を負っていたと視聴者に信じ込ませるように騙している。当時、ポーランドは独立した国家として存在しなかったばかりか、強制収容所では何百万人ものポーランド人が虐殺された」

 

「この恐ろしい間違いは意図的ではないと信じている。できるだけ速やかに訂正されることを望んでいる」。

 

モラウィエツキ首相はアウシュビッツ強制収容所から逃れた後にレジスタンスに参加したポーランド人情報部員の報告書を添付しました。

 

ポーランドはホロコーストに加担したのか

ポーランド外務省はツイートでも「ネットフリックスは歴史の真実を語れ!」と抗議しています。(中略)

 

これに対してネットフリックスの広報担当者はメディアに「作品に対する懸念があるのは知っている。至急、検討する」とコメントしています。

 

ドイツは1939年にポーランドに侵攻。アウシュビッツを含む6つの強制収容所を開設し、ユダヤ人を中心に流浪の民ロマ、スラブ人、同性愛者、心身障害者ら300万人以上を虐殺しました。ホロコースト(ナチスによる大虐殺)の犠牲者は全体で600万人とモラウィエツキ首相は指摘しています。

 

しかし歴史は単純に「加害者」と「被害者」に二分できるわけではありません。「加害者」に支配された「被害者」が自らの命を賭してさらに弱い立場の「被害者」を守ることもあれば、自分の身を守るために虐殺する側の「加害者」に回ることもあるのです。

 

「ポーランド人のホロコースト加担は否定できない」

前者より後者の方が多くても何の不思議もありません。それが戦争であり、人間の弱さだからです。

 

英BBC放送は「戦中、戦後、ユダヤ人や他の民間人に対するポーランドの残虐行為はいくつかあった。1941年、おそらくナチスの扇動を受けたポーランド北東部イェドバブネの村人は、300人以上のユダヤ人を生きたまま焼き殺した」と指摘しています。

 

しかしポーランドでは昨年2月、ホロコーストにポーランドが国として加担したと非難した人に対して、最高3年の禁錮や罰金を科す法律が成立しました。しかし同年6月、米国やイスラエルの反発を受けて最高3年の禁錮などの罰則が取り除かれました。

 

イスラエルのルーベン・リブリン大統領は「多くのポーランド人が第二次大戦でナチスと戦う一方で、ポーランドとポーランド人がホロコーストに関与したことを否定できない」と指摘しています。

 

ロシアの脅威に直面するポーランドの安全保障は米国なしでは成り立ちません。来年の大統領選で再選を目指す米国のドナルド・トランプ大統領は喉から手が出るほどユダヤ人の票がほしいため、イスラエルに同調する必要があります。そしてポーランドは米国には逆らえないのです。

 

今年はベルリンの壁崩壊から30年。新自由主義(ネオリベラリズム)にのみ込まれたポーランドでは2004年の欧州連合(EU)加盟で若者の国外流出がさらに加速、国内では経済格差が拡大し、急激に保守化が進んでいます。

 

保守の与党「法と正義」は10月の上下両院選でともに44%前後の得票率を記録し、強さを見せつけました。旧ソ連に支配されていた冷戦下では共産主義というイデオロギーがナチスによる占領とホロコーストという民族の悪夢を封印していました。

 

しかし「法と正義」はポーランドの歴史に一点のシミもないという民族的ナショナリズムをあおることで経済格差を解消できない失政への不満を他に向けようとしているのです。

 

世界中に広がる歴史修正主義

こうした傾向はポーランドだけにとどまりません。(中略)

 

冷戦終結でイデオロギーの時代が幕を下ろして30年。従軍慰安婦や徴用工問題に象徴される日韓「歴史戦争」は被害救済そっちのけで対立がエスカレートしています。再び台頭するナショナリズムによって不都合な歴史は世界中で塗りつぶされるか、書き換えられようとしています。

 

過剰に歴史を語る政治家を信用してはいけません。歴史は政治家ではなく、歴史家によって語られるべきだからです。【11月2日 木村正人氏 YAHOO!ニュース】

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 「ポーランドが国として」ということと、「ポーランド人が」ということとの間には差異がありますが、往々にして無意識あるいは意図的に区別されないこともあるようです。

なお、ホロコーストにポーランドが加担したという表現を禁止する法案を成立させたとき、激しいイスラエルからの批判に対し、モラウィエツキ首相は法案成立後、「ホロコーストに協力したユダヤ人もいた」と述べ、イスラエルとの関係はさらに悪化しました。(「ホロコーストに協力した」云々については、そういう者・組織もあったでしょう。ユダヤ人であれ、ポーランド人であれ)

 

その際、元政治家で首相の父親がインタビューで「ユダヤ人をワルシャワ・ゲットーに追い込んだのは誰か知っているか? ドイツ人だと思うだろう。違う。ユダヤ人が自主的に行ったんだ。そこは別天地で、厄介なポーランド人と付き合わなくて済むと聞かされたからだ」と語り、息子の首相を擁護しています。【2018年3月22日 Newsweek】

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ここまでくると「やれやれ・・・」という感じですが、ポーランドにしろ、イスラエルにしろ、あるいは日本にしろ、韓国にしろ、自分たちの歴史に一点のシミもないという民族的ナショナリズムは「危険」な発想でしょう。

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