goo blog サービス終了のお知らせ 

孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  エルドアン大統領、再び政敵逮捕の強権手法 あまり批判の声が聞かれないトランプ政権

2025-03-31 22:42:38 | 中東情勢

(エルドアン大統領の最大の政敵であるイマモール・イスタンブール市長。イスタンブールで1月撮影。 汚職容疑で逮捕 【3月28日 ロイター】)

【これまでも批判勢力・クルド人勢力・政敵を強権的に排除してきたエルドアン大統領】
トルコのエルドアン大統領には従来の世俗主義国家トルコにおいてイスラム主義を強めているという批判に加え、その強権的支配に対する批判もあります。

これまでも批判勢力、クルド人勢力に対し大規模な弾圧を実施してきました。

2016年7月15日に国軍の一部がクーデターを画策し失敗に終わった事件をきっかけに、同事件の背後にギュレン師支持勢力があるととして大規模な粛清を実施。

****トルコ、警官9000人を停職に 「ギュレン派」摘発*****
トルコ警察は(2017年4月)26日、警官9000人以上を停職処分にした。米国在住のイスラム指導者フェトゥラ・ギュレン師とつながりがあるからという理由で、国家安全保障のためだと説明している。

スレイマン・ソイル内相は、「『秘密のイマーム(イスラム指導者)』という名で、警察組織に浸透する」ギュレン派ネットワークを対象にしたと述べ、今後も取り締まりを続けると説明した。

タイイップ・エルドアン大統領は、ギュレン師が昨年7月のクーデター未遂の首謀者だと断定しているが、ギュレン師はこれを否定している。

トルコでは同日、ギュレン師支持者の一斉摘発が行われ、関与が疑われる1000人以上が拘束された。トルコでは数カ月にわたり、こうした一斉摘発が相次いでいる。

大規模な「ギュレン派」摘発に欧州各国は警戒を強めており、欧州連合(EU)加盟交渉の停滞につながっている。
ドイツ外務省は「大勢の一斉検挙に懸念と共に留意している」と表明した。

軍関係者による昨年7月15日のクーデター未遂後、兵士、警官、教師、公務員など4万人が逮捕され、12万人が解雇ないしは停職処分を受けた。

エルドアン大統領は16日に、大統領権限拡大の是非を問う国民投票に僅差で勝ったばかり。
批判勢力はこれによってエルドアン氏の権限が独裁に近いところまで拡大するのではと、懸念している。
国民投票の2日後、トルコ議会は9カ月続いてきた非常事態宣言をさらに3カ月延長した。【2017年4月27日 BBC】
***********************

選挙でクルド人政党が支持をのばすと、その党首を逮捕し、解散に追い込む対応も。

****トルコでの「集会・結社・言論の自由の侵害」*****
(中略)
2023年5月28日のトルコ大統領選の決選投票でレジェップ・タイイップ・エルドアンが勝利した。BBCはその翌日「今後、野党やLGBTQコミュニティはさらに標的にされ、人権や言論の自由への侵害も、これからの数年間で悪化する可能性がある」と報じた。

2022年には国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が「トルコのエルドアン大統領は、人権と民主主義の規範を前例のないほど破壊している」と指摘している。その人権侵害の一つがクルド政党やクルド人政治家に対する弾圧である。

2015年にトルコ政府とPKKの和平交渉が頓挫し、2016年7月にクーデター未遂が起きると、約5万人が逮捕、約180のメディアが閉鎖された。

2016年11月、トルコの治安当局は、クルド人が支持する政党である人民民主党(HDP)の共同党首のセラハッティン・デミルタシュとフィゲン・ユクセクダーと議員十数人を逮捕した。HDPは合法政党としてトルコ大国民議会で第3位の59議席を持つ政党であった。

欧州人権裁判所(ECHR)はデミルタシュ氏を即時解放しなければならないとの判決を下しているが、トルコ政府はそれを無視した。

選挙で当選したHDPの多くの市長も投獄され、政府が任命した市長に置き換えられた。1万6000人を超えるHDPの党員や支持者らも逮捕されている。

さらに2021年、トルコの検察は憲法裁判所に対し、HDPの解党を要求した。これに対しHDPは「民主主義と法への大きな打撃」だと批判している。トルコ当局によるメディアへの管理・統制も強まっており、数十人のクルド人ジャーナリストが拘束・逮捕されている。

トルコ政府が「テロ対策」の名の下にクルド人の政党や政治家、ジャーナリストを弾圧し続けていることは、米国国務省の「人権慣行に関する国別報告書」でも指摘されている。【2023年8月18日 「在日クルド人とともに」】
********************

2023年の大統領選挙で苦戦が予想されていましたが、選挙の半年前に最大野党の有力候補であったイスタンブール市長を「3年前にトルコ最高選挙評議会を“愚か者”と呼んだ」として有罪とし選挙戦から排除。

****エルドアン氏の対抗馬探し混迷、野党有力候補に有罪判決****
トルコの裁判所が(2022年12月)14日、最大都市・イスタンブールのイマモール市長(52)に対し公務員を侮辱した罪で禁錮刑と政治活動禁止の判決を言い渡したことで、野党勢力は大統領選を半年後に控えたこの時期に、エルドアン大統領の対抗馬探しで窮地に立たされている。

次期大統領選は、20年近く政界を牛耳ってきたエルドアン氏を追い落とす絶好の機会だ。協和人民党(CHP)など野党6党は、来年の選挙に向けて政策のすり合わせに努めてきた。

ただ、複数の関係筋によると、野党内では候補者について意見が割れたまま。この課題についてオープンな議論さえ始まっておらず、インフレやリラ安、生活水準の急激な低下で落ち込んだ支持を取り戻そうと焦るエルドアン氏に塩を送る形になっている。

14日の判決の確定には上級審の承認が必要だが、そうした野党側の状況下で有力候補の1人とされてきたCHPのイマモール氏は政治生命に黄信号が灯った。

元ビジネスマンのイマモール氏は2019年のイスタンブール市長選で勝利し、世俗派として25年ぶりに与党・公正発展党(AKP)などの親イスラム政党からイスタンブール市長職を奪回した。今回の判決はイマモール氏の注目度を高める面もある。(中略)

エルドアン氏の対抗馬としては、アンカラ市長のヤワシュ氏とCHP党首のクルチダルオール氏の2人が候補に挙がっている。クルチダルオール氏は繰り返し出馬の意向を表明しているが、イマモール氏に比べて選挙戦が不得手との見方もある。

サバジュ大学のBerk Esen准教授(政治学)は「今回の判決でイマモール氏がエルドアン氏の最も苦手なライバルであることが浮き彫りになった」と指摘。「野党勢力と野党支持の有権者は、イマモール氏の立候補を求め圧力をかけ始めるだろう」と述べた。(後略)【2022年12月17日 ロイター】
*****************

結果的エルドアン大統領は2023年5月28日に行われた大統領選挙の決選投票で勝利しました。エルドアン大統領の得票率は52.14%、対立候補のケマル・クルチダルオール氏は47.86%でした。

【政敵イマモール・イスタンブール市長を逮捕 ここ10年で最大規模の抗議デモ】
しかし、2024年4月の統一地方選挙でエルドアン与党は敗北、最大野党のイマモール氏はイスタンブール市長選挙で勝利し、エルドアン大統領にとってその人気は次期大統領選挙に向けた脅威となっていました。

エルドアン大統領は再びイマモール市長逮捕によって彼を排除しようとしています。

****トルコ大統領「政敵排除」の観測も イスタンブール市長逮捕 デモ、通貨安…混乱拡大****
トルコの捜査当局は23日、最大都市イスタンブールのイマモール市長を汚職の疑いで正式に逮捕し、内務省は同氏の職務執行を一時差し止めると発表した。イマモール氏は20年以上も中央政界で権力を維持し、強権をふるうエルドアン大統領の最大の政敵。次期大統領選をにらんだ政権側の差し金ではないか−といった観測が国内外で広がっている。

イマモール氏は19日に身柄を拘束され、通貨トルコ・リラは対ドルで一時、史上最安値を更新した。イスタンブールや首都アンカラなどでは抗議デモが連日行われ、当局は22日には300人以上を拘束した。

イマモール氏は23日、X(旧ツイッター)に「(逮捕は)完全な違法」であり、国民に対する「裏切り」だと投稿し、大規模デモの実施を呼びかけた。

最大野党、共和人民党(CHP)のイマモール氏は2019年の選挙で勝利し、イスタンブール市長に就任。その後、エルドアン氏率いる与党、公正発展党(AKP)の候補との選挙戦も複数回制した。国内では高い知名度を誇る。

エルドアン氏を巡っては「終身大統領」の座に関心があるとの見方もある。03年に首相、14年には大統領に就任。閣僚の任命権や国会の解散権など広範な権限が大統領に移管された17年の憲法改正を受け、18年の大統領選でも当選した。

イスラム色の濃い政策を進め、批判的なメディアなど反対勢力を抑圧したエルドアン氏は、同時に経済低迷と深刻な物価高を招いた。最近では支持率でイマモール氏を下回る世論調査結果もあったという。

エルドアン氏は憲法改正後、18年に続き23年5月の大統領選でも再選された。規定では大統領任期は2期までだが、欧米メディアの報道では、選挙の前倒し実施や憲法改正の場合、次の選挙にも出馬できる。

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によると、イマモール氏はこの数年間に他の汚職容疑にも問われており、今後の推移次第では大統領選への出馬が禁止される恐れもある。

また、同氏の出身校であるイスタンブール大学は18日、別の大学からの転校に不適切な問題があるとして同氏の学位を取り消した。トルコ憲法では、大学卒でなければ大統領にはなれないとされる。

欧州連合(EU)行政執行機関トップのフォンデアライエン欧州委員長は「トルコは民主主義の価値、とりわけ特に選挙で当選した者を支えなくてはならない」とし、懸念を表明。ベーアボック独外相は、トルコの政界は「野党政治家の居場所がどんどん小さくなっている」と評した。【3月24日 産経】
********************

野党・共和人民党(CHP)はイマモール氏を2028年に予定される大統領選挙の候補者に選出し、全面対決の構え。

****逮捕の市長、野党大統領候補に=現職の「政敵」、出馬不許可も―トルコ****
トルコの国政野党・共和人民党(CHP)は23日、最大都市イスタンブールのイマモール市長(職務停止中)を2028年に予定される大統領選挙の候補者に選出した。

同氏はエルドアン大統領の「最大の政敵」とされてきたが、23日に汚職容疑で逮捕された。容疑を全面否認し、CHPも「政治的動機に基づく不当な逮捕」と非難している。

イマモール氏は逮捕前の身柄拘束(今月19日)に先立つ18日、大統領選立候補に必要な大学卒業資格を剥奪された。今後の訴追手続き次第では、立候補が認められない可能性もある。【3月24日 時事】 
*******************

イマモール氏逮捕以来、連日大規模な抗議デモが行われており、ここ10年では最大規模にもなっています。

****イスタンブールで野党主催の数十万人デモ、市長逮捕に抗議****
トルコ最大都市イスタンブールのイマモール市長逮捕を受け、同市では29日、数十万人が抗議集会に参加し、ここ10年あまりで最大規模の反政府デモとなった。

エルドアン大統領の政敵であるイマモール氏が19日に汚職容疑で逮捕されて以来、トルコ全土で連日抗議デモが続いている。デモはおおむね平和的なものたが、これまでに約2000人が拘束された。

イマモール氏が所属する最大野党共和人民党(CHP)が29日にイスタンブールで主催した集会では同氏の手紙が読み上げられ、群衆から歓声が上がった。手紙には「私は恐れない。皆さんが私の後ろについている。国民は抑圧者に対して団結している」と書かれていた。

CHPの党首は集会で、何百万人もの国民がイマモール氏の釈放と選挙を求めていると演説。市長に対する告発は根拠がなく政治的動機によるものだと訴えた。CHPはエルドアン大統領を支持するとされるメディア、ブランド、店舗のボイコットを呼びかけた。

エルドアン大統領は、抗議活動を「ショー」と一蹴し、法的措置をちらつかせ、CHPに対し国民の「挑発」をやめるよう求めている。【3月31日 ロイター】
***********************

【アメリカ・トランプ政権からはあまり聞こえないエルドアン批判】
イマモール氏逮捕の数日前、エルドアン大統領はトランプ大統領と電話会談を実施しています。

****米トルコ首脳が電話会談、ウクライナ・シリア問題を協議****
トルコ大統領府は16日、エルドアン大統領がトランプ米大統領と電話会談し、ロシアとウクライナの戦争終結、シリアの安定回復に向けた取り組みについて協議したと発表した。

大統領府によると、エルドアン大統領はトランプ大統領に対し、ロシアとウクライナの戦争を終結させるためのトランプ氏の「断固とした、直接的なイニシアチブ」に支持を表明し、トルコは「公正で永続的な平和」のために尽力し続けると述べた。(後略)【3月17日 ロイター】
*******************

「強い指導者」のイメージを好むトランプ大統領にとっては、強権支配批判のあるエルドアン大統領も好ましい政治家の一人になるでしょう。

****独裁制の刃、一般市民の抗議行動がトルコの民主主義の最後の砦に****
(英エコノミスト誌 2025年3月29日号)

欧米諸国はエルドアン大統領にほとんど抵抗していない。
「大統領は数日前にエルドアン氏と重要な会談をした」 トランプ政権のスティーブ・ウィットコフ中東担当特使は3月21日、メディアの取材でこう言った。

「トルコからは前向きな明るいニュースがたくさん出てくる」 そんな発言が出た頃、トルコでは十数年ぶりの大規模な抗議行動が全国に拡大していた。

ひょっとしたらウィットコフ氏は、米国の「F-35」戦闘機をトルコに売る見通しや、トルコがウクライナの戦争の調停関与に意欲を示していることに言及していたのかもしれない。

だが、トルコで最も有力な野党政治家のエクレム・イマモール氏が3月19日に逮捕されたことやその後の抗議行動についてウィットコフ氏が何も語らなかったことに、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は恐らく気づいていた。

このトルコの指導者は欧米諸国の首都に漂うムードを読み、国外から見た自分の立場を国内の弾圧に利用している。(後略)【3月31日 JBpress】
********************

下記はトルコ国営メディアのものですから、政権に都合のいい話ばかりですが・・・

****トランプ氏、 大使候補者会議でエルドアン氏を「優れた指導者」と称賛****
トランプ米大統領は、トルコを「良い国」と表現し、エルドアン大統領を「良い指導者」と称賛しました。

トランプ氏は火曜日、ホワイトハウスで開かれた大使候補者との会合でこの発言をしました。この会合では、それぞれの候補者が自己紹介をし、担当する国について話しました。

駐トルコ大使候補のトム・バラック氏がトルコについて語った際、同国の歴史的重要性を強調しました。「トルコは最も古い文明の一つです」とバラック氏は述べました。

それに対し、トランプ氏は「良い国だし、良い指導者でもある」と応じました。
トランプ氏は12月にバラック氏を駐トルコ大使に指名しました。

エルドアン大統領は月曜日、米国との関係が「大きく前進する可能性がある」と述べました。
「地域のために、あらゆる困難や両国の協力を妨げるロビー活動があっても、これを実現すべきであり、実現できると信じています」と、エルドアン氏は閣議後の記者会見で語りました。【3月27日 TRT】
*********************

さすがにルビオ米国務長官は懸念をトルコ側に伝えていますが・・・

****米国務長官、トルコに懸念伝達 イスタンブール市長逮捕受け****
ルビオ米国務長官は27日、トルコ最大都市イスタンブールのイマモール市長逮捕を受けた抗議活動や拘束について、同国のフィダン外相に懸念を伝えたと明らかにした。

トルコでは、エルドアン大統領の最大の政敵であるイマモール氏逮捕を受け、過去10年で最大規模の反政府デモが広がり、全土で多数の人が拘束されている。

ルビオ氏は記者団に「われわれは事態を注視し、懸念を表明している。特に、緊密な同盟国の統治にこのような不安定さが生じるのは好ましくない」と述べた。

トルコのイェルリカヤ内相によると、19日の抗議デモ発生以降に1879人が拘束された。

ルビオ氏は25日にワシントンでフィダン氏と会談した。会談後に「トルコにおける最近の逮捕や抗議活動について懸念を表明した」とⅩに投稿したが、トルコ外交筋はそうした描写に異議を唱えていた。【3月28日】
**********************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ベネズエラ孤立化作戦」 米、ベネズエラ産石油・ガス購入国に25%関税 

2025-03-30 23:33:50 | ラテンアメリカ

(ベネズエラ通貨急落、米関税で石油産業に打撃−国民がドル買いに殺到【3月28日 TBS CROSS DIG with Bloomberg】)

【一時はマドゥロ政権には「米国との新たな関係」に期待も】
アメリカ・トランプ政権がベネズエラ・マドゥロ大統領に圧力をかけつつ、ベネズエラに拘束されていたアメリカ人6人を解放させる「取引」で成果をあげたことは、2月2日ブログ“ベネズエラ  アメリカ人6人解放、米からの不法移民の強制送還にも同意 トランプ流「取引」?”でも合取り上げました。

ベネズエラでは大統領選挙での不正を糾弾する野党勢力の反対を押し切って、1月10日、現職のマドゥロ大統領の3期目となる就任式が行われました。

大統領就任前だったトランプ氏は、1月9日に一時的に拘束されたベネズエラの野党指導者マリア・コリナ・マチャド氏に危害を加えないようマドゥロ政権に要請。

トランプ米大統領は1月20日、ベネズエラからの石油購入を停止する可能性が高いと述べ、マドゥロ政権への圧力を強化。

もとよりアメリカとベネズエラはチャベス前政権以来犬猿の仲ですが、トランプ第1次政権は当時の野党指導者だったフアン・グアイド氏をベネズエラの指導者と認めてマドゥロ政権転覆を狙いましたが、失敗した経緯も。

一方、不法移民強制送還を進めるトランプ政権はベネズエラ出身の人たちのアメリカ滞在資格延長を認めないとする方針を発表しました。

不法移民強制送還についてはマドゥロ政権の協力も必要・・・という状況での「取引」の一環でしょうか、両者が話し合い、マドゥロ政権が拘束していたアメリカ人6人を解放、不法移民強制送還についてもマドゥロ政権は受け入れる・・・という話に。

“マドゥロ政権は「米国との新たな関係」に期待を表明”ということで、従来の“犬猿の仲”も変化するのか・・・という動きも一時見られました。

****米強制送還の190人到着=マドゥロ政権「新たな関係」期待―ベネズエラ****
トランプ米政権が不法移民として強制送還したベネズエラ人約190人が10日、母国に到着した。同国に制裁を科す米国との合意に基づくもので、マドゥロ政権は「米国との新たな関係」に期待を表明した。

送還されたベネズエラ人は、米南部テキサス州エルパソから国営航空会社の旅客機2機で帰還。ベネズエラ外務省は、国営航空機が2019年の米制裁発動以来初めて米国に着陸できたとして、「経済封鎖への勝利」と位置付けた。

マドゥロ大統領は「尊重と意思疎通に基づく米国との新たな関係構築」に意欲を示した。【2月12日 時事】
**********************

【マドゥロ政権への圧力を強めるトランプ政権 ベネズエラ産石油・ガス購入国に25%関税】
ベネズエラ・マドゥロ政権側には「米国との新たな関係」への期待もあったのでしょうが、トランプ政権側のマドゥロ政権への厳しい対応には変化はなかったようです。

トランプ大統領だけでなく、キューバ系アメリカ人のルビオ米国務長官も対ベネズエラ強硬派です。

トランプ政権は3月15日、第2次大戦中に日系アメリカ人を強制収容するために使われた敵性外国人法を活用し、ベネズエラのギャング組織のメンバーら数百人を国外に追放するなど、両国の緊張関係が続いています。

****米国務長官、ベネズエラに送還者受け入れ要求 追加制裁警告****
ルビオ米国務長官は18日、ベネズエラに対し、米国から送還された自国民を受け入れなければ追加制裁を科すと警告した。

ルビオ氏は「マドゥロ政権がこれ以上の言い訳や遅延なく、強制送還便を受け入れない限り、米国は新たに厳しい制裁を科すだろう」とXに投稿した。

ベネズエラ通信省はコメント要請に現時点で応じていない。

マドゥロ政権は米国などの制裁に反発しており、ベネズエラを弱体化させることを目的とした「経済戦争」に等しい違法な措置だと主張している。【3月19日 ロイター】
********************

そして、いよいよベネズエラ経済の根幹でる石油収入への圧力強化も。

****米、ベネズエラ産石油・ガス購入国に25%関税 4月2日発効****
トランプ米大統領は24日、ベネズエラから石油やガスを輸入する国に対し、25%の関税を課すと表明した。4月2日に発効するとした。

トランプ大統領は、ベネズエラが「非常に暴力的な性質」を持つ「数万人」を米国に送り込んできていることが理由と、ソーシャルメディアに投稿した。

米政権は、独裁色を強めるベネズエラに対する制裁を再開しており、今月4日には、米石油大手シェブロンに与えていたベネズエラでの事業許可を取り消すと発表。30日間の猶予を与えていたが、米財務省は24日、猶予期間を5月27日まで延長した。

ベネズエラ産石油を購入する国を関税で罰することでベネズエラの輸出に打撃を与え、値引きを余儀なくさせる可能性があり、トランプ大統領が1期目の2020年に課した同国への二次的制裁と同様の効果をもたらしそうだ。

アナリストらによれば、シェブロンに対する猶予期間延長で米国の顧客に引き渡された石油の代金は同社に支払われると同時に、今後数週間のうちにベネズエラから輸出される原油量、特に米国向けの原油量が急減することは避けられる。

シェブロンはノーコメントとした。

ベネズエラ政府はプレスリリースで「ベネズエラと石油・ガスを取引する国に25%の二次関税を課すという新たな攻撃を断固として拒否する。この恣意的で違法かつ望みのない措置は、われわれの決意を弱めるどころか、わが国に対して課された全ての制裁の失敗を裏付けるものだ」とした。

<対シェブロン猶予期間延長>
トランプ大統領は記者団に対し、今回の関税は既存の関税に上乗せされると述べた。

原油価格は関税発表で1%上昇したが、シェブロンに対する猶予期間延長を受けて、上値は抑えられた。

中国は、石油輸出国機構(OPEC)加盟国であるベネズエラの石油の最大の買い手。直接および間接的にベネズエラ産の原油と燃料を1日当たり約50万3000バレル輸入し、これは総輸出量の55%を占める。

スペイン、イタリア、キューバ、インドも、ベネズエラ産原油を購入している。

コンサルティング会社ゴールドウィン・グローバル・ストラテジーズのデービッド・ゴールドウィン社長は新たな関税について、ロシア産石油に対する世界的な需要を増加させるという皮肉な効果をもたらす可能性があると指摘。「中国やインドはロシア産原油を買えるのに、ベネズエラ産を入手するという追加関税リスクを冒すことはないだろう」と述べた。【3月25日 ロイター】
********************

【シェブロンに続き「ベネズエラ孤立化作戦」】
米石油大手シェブロンに続き、トランプ政権は共和党献金者の「石油王」企業にもベネズエラからの撤退命令を。

****トランプ氏、石油会社にベネズエラ撤退命じる 共和党献金者の企業も****
富豪ハリー・サージェント氏の企業、シェブロンに続き「ベネズエラ孤立化作戦」の標的に

米共和党の献金者である石油王ハリー・サージェント3世氏は、米国と南米ベネズエラの対立関係を緩和させようと水面下で取り組んできたことで知られる。だがトランプ政権は28日、同氏の石油取引会社にベネズエラからの撤退を命じた。

サージェント氏が所有するフロリダ州の複合企業の一部であるグローバル・オイル・ターミナルズは、米財務省からベネズエラでの事業許可を取り消された。

同国で事業を展開するスペインの石油・ガス会社レプソルや他の外国石油会社も同様の措置を受けた。米石油大手シェブロンは先月、同様の通知を受け取っていた。事業縮小の期限は5月下旬とされている。

これはベネズエラ孤立化に向けたトランプ政権の作戦をエスカレートさせたもので、ベネズエラ人の強制送還対象者の受け入れに消極的な態度への不満などが背景にある。

サージェント氏はトランプ氏のフロリダ州の私邸「マールアラーゴ」でゴルフをプレーし、その翌日にはベネズエラの首都カラカスに向かうといった行動が知られており、米国のベネズエラにおける商業的関与を深化させようと働きかけてきた。

ベネズエラには世界最大級の石油・ガス埋蔵量があるとされている。同国のニコラス・マドゥロ大統領はサージェント氏を「アブエロ」(スペイン語で祖父の意)と呼んでいる。(中略)

財務省は3月4日、シェブロンがベネズエラで石油を生産することを認めるバイデン政権時代の許可を正式に取り消していた。事業撤退期間として30日間を与えたが、物流面で実行は困難だった。トランプ政権は24日、シェブロンの事業許可を5月下旬まで延長した。【3月30日 WSJ】
*********************

国営ベネズエラ石油(PDVSA)と契約しているベネズエラのガス会社にアメリカが与えていたライセンスも取り消されたとのこと。

トランプ政権の「ベネズエラ産石油・ガス購入国に25%関税」で、ベネズエラ通貨は急落しています。

****ベネズエラ通貨急落、米関税で石油産業に打撃−国民がドル買いに殺到****
ベネズエラ人がドル買いに走り、同国通貨が過去最安値を付けている。トランプ米政権が同国の石油産業を締め付け経済危機が再燃するとの懸念が高まっているためだ。

トランプ大統領は今週、ベネズエラ産石油購入国に25%の関税を賦課することを認める大統領令に署名し、同国のマドゥロ政権への圧力を強めた。これを受け同国産石油の主要な買い手に動揺が広がり、出荷停止やタンカーの航路変更の動きなどが見られた。

ベネズエラは為替レートの安定を維持するため、石油収入を為替市場に投じており、この状況は通貨ボリバルへの圧力となる。大幅なドル不足が見込まれる中、企業・個人ともにドルを買うため闇市場に殺到している状況だ。

ボリバルの並行レートは、27日に1ドル=106ボリバルに下落。年初は1ドル=66ボリバル程度で推移していた。公式レートとの差は過去5年余りで最大となっている。

コンサルティング会社エコアナリティカのAGCディレクター、アレハンドロ・グリサンティ氏は米国の措置について「キャッシュフローと石油生産の観点で米政権がベネズエラ政府に取った最も強力な措置だ」と指摘している。

マドゥロ政権はドルの使用を広く認めるなどして経済の安定化を図ってきたが、ボリバル急落でインフレが加速し、経済の安定が崩れる恐れもある。(後略)【3月28日 Bloomberg】
***********************

【ルビオ国務長官 ベネズエラが隣国ガイアナを攻撃すれば、米軍の力を行使してガイアナを守ると厳しく警告】
なお、約1年前の昨年4月4日ブログ“ベネズエラ  「公正さ」は期待できない7月大統領選挙 隣国ガイアナとの石油資源をめぐる争い”でも取り上げたように、ベネズエラは隣国ガイアナと石油資源の領有権をめぐって緊張がありましたが、依然としてベネズエラは軍事行動もチラつかせながら領有権を主張しているようです。

この件に関して、ルビオ国務長官は米軍の力を行使してガイアナを守るとマドゥロ政権に対し厳しく警告しています。

****ベネズエラが石油資源豊富なガイアナ攻撃すれば武力行使、米国務長官が警告****
米国のマルコ・ルビオ国務長官は27日、ベネズエラが新たに石油資源を発見した隣国ガイアナを攻撃すれば、米軍の力を行使してガイアナを守ると厳しく警告した。

キューバ系米国人のルビオ氏が嫌うニコラス・マドゥロ大統領率いるベネズエラは、ガイアナが実効支配するエセキボ地域の領有権の主張を強めており、今月初めには侵入したと非難された。

ガイアナを訪問したルビオ氏は共同記者会見で、「今、国務長官として断言できる。冒険主義には結果が伴う。攻撃的な行動には結果が伴う」と述べた。

米石油大手エクソンモービルによるガイアナでの石油事業をベネズエラが攻撃した場合、米国はどう対応するかと問われたルビオ氏は、「彼らにとって非常に悪い日、非常に悪い週になるだろう」と答えた。

軍事的な対応を明言することは避けたが、ルビオ氏は「われわれは強力な海軍を有しており、ほぼどこにでも行ける」と述べた。

ルビオは、情報共有の強化などを通じてガイアナとの安全保障協力を強化する協定に署名した。両国は数年前、共同海上パトロールに合意していた。

ガイアナのイルファーン・アリ大統領は、ベネズエラの主張を「不当」と呼んだルビオ氏の立場を歓迎し、「米国の保証により、わが国の領土保全と主権が確保されることを非常に嬉しく思う」と述べた。

ベネズエラのイバン・ヒル外相はテレグラムでの声明で、ルビオ氏の発言を米政府の「脅しと虚勢の古いシナリオ」として拒否し、「われわれは紛争を必要とせず、求めてもいないが、外国の利益がわが国のエセキボに関する現実を書き換えようとすることも許さない」「この紛争から手を引け!」と付け加えた。

米国のマウリシオ・クラベルカロネ中南米特使は以前、米国が湾岸地域と同様の「拘束力のある」安全保障関係をガイアナと築くことを構想していると述べた。湾岸地域では、米軍が石油資源の豊富なアラブ君主国を特にイランから守っている。 【3月28日 AFP】
*********************


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ミャンマー  犠牲者数が増加しそうな巨大地震 救援に動く中国・ロシア トランプ政権は?

2025-03-29 22:47:44 | 災害

【死者数は1万人を超え、損害は国内総生産(GDP)を上回る可能性があるとの推測も 国軍支配の及ばない地域もあって被害の全容は不明】
↑の霞がかかった不鮮明画像は2007年正月にミャンマーの中部マンダレー・サガイン方面を旅行した際に、旧日本兵の慰霊碑が建つ丘(サガインヒル)からエーヤワディー川にかかるインワ鉄橋(アヴァブリッジ)を眺めたもの。

28日に同地域を強烈な地震が襲ったのは周知のところですが、TVのニュースで橋が崩落している画像を目にしましたので、「ひょっとしたらこの橋だろうか・・・?」と思った次第。(今ウィキペディアで確認したところ、やはり崩落したのはこの橋のようです。新旧2本かかっていますが、奥の橋でしょうか)

橋の崩落で、救援活動にも大きな支障が予想されます。
「マンダレー地方とサガイン地方を結ぶ橋が崩壊したため、救援隊の物資輸送はさらに困難になると予想される。また、地震により電力供給と通信が機能しなくなった。ミャンマー赤十字社は緊急対応措置を実施しており、スタッフやボランティアが可能な限りの支援を行っている」(国際赤十字・赤新月運動のミャンマー駐在プロジェクトコーディネーターのマリー・マンリケ氏)【3月29日 レコードチャイナ】

****ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビルでも捜索 各国が支援****
28日にミャンマーを襲ったマグニチュード(M)7.7の大規模地震による死者が1002人に達したと、国営MRTVが29日に報じた。捜索活動が本格化する中、海外からの援助も届き始めた。

負傷者は2376人、行方不明者は30人に上るという。ミャンマーの軍事政権はこの日朝、死者694人、負傷者1670人と明らかにしていたが、大幅に増加した。

国営メディアを通じた声明で「道路、橋、建物などのインフラが被害を受け、民間人に死傷者が出ている。現在、被災地では捜索・救助活動が行われている」と発表した。

ミンアウンフライン総司令官は前日、あらゆる国から援助や寄付を受け入れるとして、支援を呼びかけていた。

米地質調査所(USGS)の予想では、ミャンマーの死者数は1万人を超え、損害は国内総生産(GDP)を上回る可能性があると推定した。被害の多くは震源地に近いミャンマー第2の都市マンダレーで確認されている。

また、震源から約1000キロ離れたタイの首都バンコクでも33階建ての高層ビルが倒壊。がれきの下に閉じ込められた建設作業員の救助活動が29日も行われている。

中国大使館は、援助隊37人がこの日早朝、ミャンマーの旧首都ヤンゴンに入ったとフェイスブックに投稿した。医薬品や生命反応を検知する機器を持ち込んだという。

タス通信は、ロシアが救助隊員120人、医師、捜索犬を派遣すると伝えた。

トランプ米大統領は28日、ミャンマー政府関係者と話したと明かし、何らかの支援を提供すると述べた。

タイ当局によると、バンコクでは9人が死亡、101人が行方不明で、その大半が倒壊したビルのがれきに閉じ込められた労働者だという。【3月29日 ロイター】
********************

震源に近いサガイン(ザガイン)地域は国軍と民主派勢力の戦闘が激しい地域でもあります。

****ミャンマー国軍が村を空爆、子供含め50人以上死亡…銃撃15分間・爆弾2発情報も****
ミャンマーの地元メディア「キット・ティット」などによると国軍は11日、北西部サガイン地域の村を空爆し、子供を含む市民ら50人以上が死亡した。現地では当時、民主派勢力が設置した行政事務所の開所式が行われており、国軍は民主派勢力が集まった場所を狙ったとみられる。
現場には数百人の住民らがいたとの報道もあり、死者数はさらに増える可能性がある。空爆による死者数は2021年2月の軍事クーデター以降、最大規模とみられる。報道などによると11日朝、式典中に国軍の戦闘機とヘリコプターから爆撃と発砲があった。銃撃は15分ほどに及び、爆弾2発が落とされたとの情報がある。

現場を撮影したとみられる動画では、黒焦げになったバイクや木造の建物のがれきが散乱し、数か所から炎や黒煙が上がっていた。(後略)【2023年4月12日 読売】
*******************

****「ミャンマー国軍が住民遺体を見せしめに」 北部ザガイン地域で24人虐殺か…民主派「挙国一致政府」が非難****
クーデターで実権を握ったミャンマー国軍に対抗し、民主派が樹立した「挙国一致政府(NUG)」は22日、国軍が北部ザガイン地域ブダリン郡区で今月中旬に少なくとも24人の民間人を非人道的に殺害したと非難する声明を発表した。
声明によると、同地域のモンユワに拠点を置く北西軍管区司令部の国軍部隊が9月30日、ブダリン郡区で抵抗勢力と衝突し、大敗を喫した。国軍は報復として10月11~20日、同郡区の17の小区や村を襲撃。地上部隊による殺害や放火、戦闘機による空爆で少なくとも24人を殺害し、60人を「人間の盾」として連行した。

NUGは「軍は長年、民間人を標的とする戦術を利用してきた」と指摘。「国際社会が軍の横暴を許し続けるなら、非人道的な戦略、戦術、ドクトリン(原則)を持つ組織は存続し、勢いづいてしまう」と訴えた。
 ◇   ◇
◆「恐怖を与え、民主派への支援を躊躇させる狙い」か
NUGが声明の中で「最も衝撃的な殺害」と表現したのが、ザガイン地域のシパー村で起きた事件だ。住民6人が殺害され、切断された遺体の一部が民家の柵の上に陳列されていたという。

現場を目撃した住民らは本紙の取材に「民間人に恐怖を与え、民主派武装組織『国民防衛隊(PDF)』への支援を躊躇(ちゅうちょ)させる狙いだ」などと憤った。【2024年10月25日 東京】
*********************

現在は通信も途絶えている地域が多く、また、そもそも上記のように激しい戦闘が行われて地域で国軍の支配が及んでいない地域もあって、被害の全容はつかめていません。

そのため“米地質調査所(USGS)の予想では、ミャンマーの死者数は1万人を超え、損害は国内総生産(GDP)を上回る可能性があると推定した”というのもあり得る話で、今後犠牲者は拡大することが予想されます。

最大都市ヤンゴン周辺は大きな被害は出ていないようです。
“ヤンゴンの周辺は、被害はほとんどありませんが、この先のネピドーにつながる幹線道路を走っていくと、いたるところで損壊がみられるということです。”【3月29日 TBS NEWS DIG】

【巨大地震が多い活断層地帯】
もともと震源地域は巨大地震が多い活断層地帯のようです。

****ミャンマー地震、なぜ被害拡大?活発な断層沿いに人口が密集****
ミャンマー中部を震源とするマグニチュード(M)7・7の地震で、被害が拡大した背景には、ヤンゴンに次ぐ第2の都市マンダレーを含めた都市部を貫くように国土を縦断する断層の一部が動き、大きな揺れを引き起こしたことがありそうだ。
 
今回、南北約1000キロに延びる「ザガイン断層」の一部がずれたとみられる。広島大の中田高名誉教授(変動地形学)によると、この断層の周辺では、過去100年の間にもM7級の地震が起きており、世界的にも活動度が非常に高いことが知られている。

マンダレーの北部や首都ネピドーの南部でも、1930年代以降、M7級の地震が複数回発生している。一方で今回の震源を含む一帯では、約200年前にM8級の地震が起きて以降、大規模な活動はなかった。

ザガイン断層沿いには平地が広がっており、近年では一部に都市が発展し、人口が密集している。中田さんは「農村部とは異なり、都市部ではブロックやコンクリートで建物が造られる。耐震性が低ければ被害は容易に拡大する」と話す。

ミャンマーはもともと、プレートの境界があるほか、活断層で地震活動が活発な地域だ。こうした特徴は日本にも当てはまり、中田さんは「自分が住んでいる地域に大きな地震を起こす活断層があるのか、家の耐震性は十分か、液状化や崖崩れなどの恐れはないか、改めて認識し、万一に備え自らの命を守る必要がある」と指摘した。【3月29日 毎日】
*******************

そう言われると、2007年のミャンマー中部旅行時にマンダレー近郊の遺跡、ミングォンの“建設が中断された世界最大の仏塔の台座”を観光しました。↓

そこには大きな亀裂が。18世紀末、当時の王様が世界一の仏塔を作ろうという夢を抱いて工事をはじめましたが、王様の死去で工事は中断、1839年の地震でその台座にもヒビが入ってしまいました。

今回地震の大きさを示すのが被害範囲の広さ。

****ミャンマー大地震 国境接する中国・雲南省では1705人負傷 国営メディア報道****
ミャンマー中部を震源とするマグニチュード7.7の大地震で、国境を接する中国・雲南省では1705人が負傷したと国営メディアが報じました。

国営の新華社通信によりますと、南部の雲南省瑞麗市では、これまでに住宅458戸が被害を受け、1705人がけがをしたということです。
瑞麗市は震源地からおよそ300キロの距離で、ショッピングモールの壁が崩れるなどの被害も出ています。

水道や電気、通信、交通などのインフラは徐々に復旧しているということです。【3月29日 TBS NEWS DIG】
*******************

更には“震源から約1000キロ離れたタイの首都バンコクでも33階建ての高層ビルが倒壊。がれきの下に閉じ込められた建設作業員の救助活動が29日も行われている。”【冒頭 ロイター】

バンコクの建設中のビルが倒壊した件は長周期振動の影響の可能性とも。
“長周期地震動は、地震の揺れが1往復するのにかかる時間(周期)が2〜10秒と通常の揺れより長く、遠くまで伝わる性質が特徴。高層の建物固有の揺れの周期と共振しやすく、震度は小さくても高層階で大きな揺れになるケースがある。【3月29日 毎日】

【救援を世界に求める軍事政権のこれまでにない対応 動きが早い中国・ロシア 対外支援を停止したトランプ政権は?】
そして被害の甚大さを示すのがミャンマー軍事政権の対応。
かつて、大規模洪水の際に国際支援を断って批判を浴びたことがありますが、今回は積極的に支援を呼びかけています。

****ミャンマーでM7.7の地震 国軍、国際支援を要請****
ミャンマーの軍事政権は28日、大規模な地震の発生を受け、国際的な人道支援を求める異例の要請を行った。また、6つの地域に非常事態を宣言した。

AFPの記者によると、負傷者が治療を受けているネピドーの病院にミン・アウン・フライン国軍総司令官が訪れた。また、軍政の報道官はAFPに対し、「国際社会には、一刻も早く人道支援を提供してほしい」と述べた。

被害の規模はまだ明らかになっていないが、自然災害の際に軍事政権が支援を求めるのは極めて異例であることから、大きな被害が出ている可能性がある。

軍政は声明で、サガイン、マンダレー、マグウェー、北東部シャン州、ネピドー、バゴーの最も被害が大きい6つの地域に非常事態を発令したと発表した。 【3月28日 AFP】AFPBB News
*******************

スー・チー氏の拘束など人権侵害で欧米の国際批判を受けている軍事政権は必然的に中国やロシアと接近していますが、今回地震の救援についても中国・ロシアが素早い動きを見せています。

****ミャンマー地震 ロシアや中国が救助隊を派遣****
28日に発生したミャンマー中部を震源とする強い地震を受け、ロシアや中国が救助隊を派遣しています。

タス通信によりますと、ロシアの非常事態省は28日、プーチン大統領の指示を受け、120人の救助隊員や医師、心理学者などをミャンマーに派遣したと発表しました。モスクワ郊外から飛行機2機でミャンマーに向かったという事です。

また、中国外務省の報道官は、中国の救援チームが29日、ミャンマーに到着したことを明らかにしました。
国営・新華社通信によりますと、救援チームは人命探知機やドローンなども使い救助活動を行う予定だということです。

アメリカのトランプ大統領は28日、「本当にひどい事が起きた」と述べ、支援を行う考えを示しました。
トランプ政権は対外援助を担うUSAID=アメリカ国際開発庁の解体を進めていますが、国務省の報道官は「USAIDは災害対応のチームを維持している」と述べ、要請があればUSAIDのチームを派遣する考えを示しました。【3月29日 日テレNEWS】
************************

アメリカ第一主義のもとで対外支援を停止し、USAID解体を進めるトランプ政権は「USAIDは災害対応のチームを維持している」とのことですが、今回災害でどのような対応を見せるのか注目されます。

****中国、地震被災のミャンマーに1億元の緊急支援表明*****
中国国家国際発展協力署の李明(り・めい)報道官は29日、ミャンマーで起きた地震について、地震災害が重大な人的・物的被害をもたらしたと述べ、中国政府はミャンマー政府の要請に応じ、1億元(1元=約21円)の緊急人道支援と救援隊2チームの派遣、テントや毛布、救急キット、食品、飲料水など必要な物資の提供を決定したと発表した。

また中国政府の支援物資は第1陣が31日に発送される見込みで、今後もミャンマー側の需要に応じ、援助を続ける用意があると表明した。【3月29日 新華社】
******************

いずれにしても、前述のように戦闘地域も多く重なることから、救援だけでなく今後の復旧・復興は難航しそうです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アルゼンチン  IMFも評価する「ミレイ改革」 年金削減反対デモ、仮想通貨「詐欺疑惑」で不信感も

2025-03-28 22:52:51 | ラテンアメリカ

(米メリーランド州オクソンヒルで開催された保守政治行動会議(CPAC)年次総会で、「自由万歳、ふざけるな!」と書かれたチェーンソーを持つイーロン・マスク氏(左)。右はアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領(2025年2月20日撮影)【2月26日 AFP】)

【財政黒字・物価上昇沈静化で評価も様変わりの「ミレイ改革」】
大統領選挙中にチェーンソーを振り回して様々な規制をぶち壊すパフォーマンスや過激な主張で人気を博して当選したアルゼンチンのミレイ大統領の自由主義的な改革は「壮大な実験」とも見られていますが、就任1年目はマクロ経済的には物価も落ち着き、財政も好転し、予想された以上の成果を残しています・・・・という話は、2024年12月25日ブログ“アルゼンチン  自由放任主義者のミレイ大統領の「壮大な実験」 物価・財政は改善 低所得層は生活苦”でも取り上げました。

****「痛み」伴う改革で成果 トランプ氏と連携模索―ミレイ大統領就任から1年・アルゼンチン****
アルゼンチンのミレイ大統領が就任して、10日で1年となった。インフレ退治に向け補助金削減など国民の「痛み」を伴う経済改革を断行し、一定の成果をもたらした。

外交ではトランプ次期米大統領との連携を模索。トランプ氏が返り咲きを決めた米大統領選後、外国首脳として同氏と最初に対面で会い、蜜月ぶりをアピールしている。

「最も重い鎖から解放されつつある」。
ミレイ氏は11月、月間のインフレ率が約3年ぶりの低水準になったと成果を誇示した。アルゼンチンは歴代の左派ポピュリスト政権が予算のばらまきを繰り返し、インフレが慢性化。4月には年間のインフレ率が300%近くにまで悪化した。

「小さな政府」を掲げるミレイ氏は、就任直後から財政面で大なたを振るった。公共料金への補助金を削減し、新規の公共工事も停止。

議会では議席数の劣勢をはね返し、規制緩和や国営企業の民営化を盛り込む法案可決に成功した。

財政が黒字に転じると、国外に逃避していたドルが流入。アルゼンチンは債務不履行を繰り返した過去があるが、格付け大手は11月、「救済を求めず返済する能力」が改善したと認め、格上げした。

一方、緊縮財政に伴う副作用も目立つ。国内総生産(GDP)は今年4~6月期まで3四半期連続で前期比マイナスを記録。賃金も伸びず、今年前半には国民の約53%が貧困状態に陥った。

「ミレイ氏の実験は依然、大きな間違いを犯す可能性がある」(英誌エコノミスト)と厳しい見方も出ている。それでも「古い政治」との決別を訴えるミレイ氏への反発は限定的で、政権支持率は50%前後で安定している。

対外政策では親米路線を前面に打ち出し、中ロなどで構成する新興国グループ「BRICS」参加を見送り。温暖化問題を軽視するトランプ氏に歩調を合わせるかのように、11月の国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)では代表団に引き揚げを命じた。

ただ、関税導入による保護主義を掲げるトランプ氏に対し、ミレイ氏は経済を市場競争に委ねるのが基本姿勢で、両者には対立の火種もくすぶっている。【2024年12月11日 時事】
*****************

当初「変人」扱いだった国際的評価は「うまくやってる」と様変わりの様相も。

****アルゼンチン大統領ハビエル・ミレイが“国家”を嫌う理由 「最悪なお金の使い方をするものとは何か。それが国家だ」****
異色のアウトサイダーとして登場し、過激な改革案で2023年にアルゼンチンの大統領となったハビエル・ミレイ。就任から1年が経過したいま、実績も出し、世界が彼を見る目は当初とは異なっている。

仏誌「ル・ポワン」が、毀誉褒貶あるその思想や政策の現在地について、ミレイにインタビューした。 

ハビエル・ミレイは異色の大統領である。取材を申し込むと、本人から直接、音声メッセージとともにサムズアップする本人の絵文字が送られてきた。ミレイは、ドナルド・トランプが米大統領選で勝利した後、最初に面会した外国の国家元首だ。イーロン・マスクとも頻繁に意見交換をしているという。 

いまや経済再建や官僚制打破の分野で一大スターとなっているのだから、そこには何の不思議もないだろう。トランプはミレイを気に入ったようで、次のように評している。 「短期間で見事な仕事をやってのけている。『アルゼンチンを再び偉大な国にする』は、いい調子で進んでいるな」 

かつてミレイを不出来な学生のように扱っていた国際通貨基金(IMF)ですら、いまは手のひらを返したかのように彼を褒めたたえているのだから、まったくもって滑稽な話だ。 

「緊縮財政計画を掲げて選挙運動をして、その計画をそっくりそのまま実行した政治家が、ほかに誰か思い当たりますか。ハビエルは、議席数が40ほどしかない少数派でありながら、それをやってのけたのです」 こう語るのは、ミレイの政党「自由前進」の議員マルティン・メネムとベルティ・ベネガス・リンチだ。

 一方、駐仏アルゼンチン大使のイアン・シエレキは次のように言う。 「ミレイをポピュリストだと批判する人が、フランスにもときどきいますが、それはメディアの手抜き仕事が原因です。時間をかけてミレイやアルゼンチンを理解しようとは、まったく思っていないのです」 

「たしかにヨーロッパの場合、システムが共和主義なので、反システムを掲げる勢力はポピュリストだと言えます。しかし、アルゼンチンの場合、システムの構造が70年前から、ずっとポピュリストなのです。ですから、アルゼンチンでは、反システムを掲げる勢力は、徹底した経済的自由主義と共和主義の陣営なのです」 

ミレイは歳出の30%削減のほかに、大掛かりな財政引き締め策を実施した。GDP比で5%あった財政赤字だけでなく、GDP比で10%あった中央銀行の赤字(いわゆる「準財政赤字」)をなくすことに取り組んだのだ。 

このショック療法によって、アルゼンチンの人々は息を吹き返し、未来を見据えて計画を立てられるようにもなった。 

貧困率は2024年12月に36.8%まで下がった。とはいえ、貧困率が依然として高い水準にあることは、ブエノスアイレスの路地でゴミを漁ったり、寝泊まりしたりする生活困窮者の集団を見ればわかる。 

政府と国民(とりわけ年金生活者)の合意のもとで始まった改革も進んでおり、IMFによれば、2025年と2026年のアルゼンチンの経済成長率は5%に達すると見込まれている。 

増税でしか財政赤字の削減はできないという立場の国は多い。そういった国がミレイ流の財政赤字削減策から学べることは何かあるのだろうか(中略)

「国家は小さくなるべきだ」
──アルゼンチンでは、どんな方針で官僚制の規模縮小を進めているのですか。 
政府を大きくすれば、それに応じて政府がどんどんいい仕事をするようになるとはかぎりません。それどころか、逆効果になることも多々あります。かつてのアルゼンチンがいい例です。 

政府が大きくなるにつれて、非効率になっていきました。ですから問うべきなのは「どうすれば国家が効率的に機能するようになるのか」ではなく、「これは本当に国家が面倒を見るべき事柄なのか」です。 

経済学者のミルトン・フリードマンが言っていますが、お金の使い方には4通りあります。自分のお金を使うのか、それとも他人のお金を使うのか。自分のために使うのか、それとも他人のために使うのか。 

自分のお金を自分のために使うことには、二つの利点があります。一つは、そのお金を稼ぐのがいかに大変だったのかを、あなたが熟知していることです。また、何にそのお金を使えば、自分のためになるのかを、ほかの誰よりもよく知っているのは、あなた自身です。 

一方、最悪の組み合わせは、他人のお金を他人のために使うことです。なぜかといえば、あなたはそのお金を得るのがどれほど大変だったのかを知りませんし、そのお金をよく知りもしない人のために使おうとしているからです。 

さて、ここでクイズです。そのような最悪のお金の使い方をするのは何かご存じですか。 正解は、国家です。 

──あなたはチェーンソーを振りかざして政府を小さくしようとしています。政府をどれくらい小さくするのが目標なのですか。 政府の規模は、できるかぎり小さくしたいです。国家は、テクノロジーで解決すべき問題だというのが私の持論です。テクノロジーが進歩したら、それに応じて国家も小さくなるべきです。 

国家には存在理由が二つあります。第一の理由は、人類が平和的共存に失敗したことです。国家は生存権、自由権、私有財産権など、もろもろの権利を守るためのテクノロジーだと言えるでしょう。 

ただ、国家には存在理由がもう一つあって、こちらは有害です。それは国家に、一種の「保険」の役割を担わせようとするものです。 これは国家の役割を変えてしまいます。そのせいで国家が一般庶民の生活の細かい部分まで踏み込んでくるようになり、ときには病気そのものよりも有害な薬を与えたりするようになるのです。【3月26日 COURRIER Japon】
*********************

【年金削減に抗議する高齢者 若者も参加】
“国家に、一種の「保険」の役割を担わせようとする・・・・ときには病気そのものよりも有害な薬を与えたりするようになる”・・・一昔前にもてはやされた「福祉国家」に対する批判のようです。

個人的には賛同しません。 
ミレイ大統領は国家が介入せず市場に任せておけば自ずと最適な状態に至ると根拠なき楽観主義のようですが、自由な競争に勝利できる強者にとってはそうかも。

しかし、競争でふるい落とされる多くの者、弱者にとっては弱肉強食のジャングルと化します。そこに介入するのが国家の役割だと考えています。もちろん、国民がすべてを国家に頼る姿勢では解決できず、政治家による人気取りのバラマキが害悪をもたらすというのは同意しますが。

前回ブログで取り上げた“徹底的なコストカットで国の財政が改善された一方、国民の生活は苦しくなっています。(中略)一方で国民生活には、しわ寄せが。電気・水道といった公共サービスの大幅な補助金カットに加え、賃金も伸びず、貧困率は50%を超えました。 路上生活者に配給を行うNGOによると、配給者は日増しに増えているといいます。”【2024年12月15日 TBS NEWS DIG】という側面が今後どうなるのかが「ミレイ改革」の真価を決めることになるでしょう。

****「お年寄りを殴らないで!」年金削減で大混乱…警官隊と高齢者が衝突 サッカーファンも加わり最大規模のデモに…“放水車”投入も アルゼンチン****
アルゼンチン・ブエノスアイレスで、政府への抗議デモが暴徒化し、警官隊と衝突する混乱が発生した。デモ隊はレンガや石を投げつけるなど過激化。警官隊も放水車を投入し応戦した。

高齢者を中心に行われたこのデモは、ミレイ大統領の年金削減に対する抗議が発端で、サッカーファンの若者も加わり大規模なものとなった。

アルゼンチンで政府への抗議デモが激化
アルゼンチン・ブエノスアイレスで12日、国会議事堂周辺は大混乱となっていた。撮影されたのは、市民と警官隊の衝突だ。政府への抗議デモで、一部が暴徒化したのだった。

巨大なゴミ箱を押して突撃する人たちもいれば、小さなゴミ箱を持って突撃する男性の姿もみられた。さらにデモ隊はレンガや石などを投げつける様子もうかがえる。

一方、警官隊は放水車などを投入し、応戦していた。中には車体を叩いて抗議した男性が拘束される姿も撮影されている。

年金削減に抗議する高齢者と若者が結集
デモでカメラがとらえたのは、「お年寄りを殴らないで!私はあなたのお母さん、娘、それかおばあちゃんかもしれないのよ!」と声を上げる高齢者の姿だ。

お年寄りたちは“アルゼンチンのトランプ”とも呼ばれるミレイ大統領の年金削減などに抗議していたのだ。デモがここまで大規模になったのには、サッカー大国特有のある理由もあった。

参加者の高齢者を守るためにサッカーファンの若者も加わるよう呼びかけられ、デモ隊の人数が最大規模になっていたのだ。

一方、沈静化を図りたいミレイ政権は、暴動を起こした市民のサッカースタジアムへの入場を制限している。
(「イット!」 3月14日放送より)【3月23日FNNプライムオンライン】
********************

【暗号資産(仮想通貨)に関する詐欺疑惑でミレイ大統領への信頼がた落ち】
話の本筋である「国家の役割を極力小さくして、なるべく自由主義に委ねるのが是か非か」ということは、「ああも言える、こうも言える」ということで、立場によって意見が異なり、なかなか判断が難しい面も。

それよりずっとわかりやすいのはスキャンダル。(そのため、日本の政治もスキャンダルばかり追いかけているようにも・・・・)

ミレイ大統領を襲ったスキャンダルは暗号資産(仮想通貨)に関する疑惑。

****通貨危機のアルゼンチン、大統領の「詐欺疑惑」で仮想通貨も信頼がた落ち****
アルゼンチンの暗号資産(仮想通貨)市場が、ある仮想通貨の暴落をきっかけに混乱に陥っている。この仮想通貨に同国の大統領が関与している疑惑が浮上し、外国の投資家が対アルゼンチン投資をためらう懸念さえ発生している。

アルゼンチンは以前から、ラテンアメリカ地域では最もブロックチェーン活用が進んでいる国の1つとされていたが、今回の仮想通貨危機で評価が失墜したことで、大きな転機を迎えてしまった。

アルゼンチンは人口比で見た仮想通貨の普及率が世界トップクラスだ。近年、国民の多くが経済の動揺とアルゼンチンペソ下落に対するヘッジ手段として、ビットコインやステーブルコインを購入してきた。

この明るいシナリオが崩れ始めたのは、ハビエル・ミレイ大統領による「X」での投稿が原因。400万人近いフォロワーに向け、あるミームコインへの投資を推奨したのだ。

ミームコインとは投機性の非常に強い仮想通貨で、その価格はもっぱらソーシャルメディア上の「バズり」や、著名人によるお墨付きで高騰するため、インサイダー取引の温床になりかねない。

リバタリアン(自由至上主義者)のミレイ大統領は問題の投稿で、ほぼ無名の「$LIBRA」という仮想通貨が、数十年に及ぶアルゼンチンのハイパーインフレの悪循環を反転させ、海外からの投資を増やして経済を再生させるのに役立つだろうと述べた。

だが、この誇大広告はあっというまに破綻した。$LIBRAの価格は、ミレイ大統領の投稿後に殺到した初期投資家により急騰したが、数時間で暴落した。

ソーシャルメディア上では詐欺だとの批判が溢れ、大統領は問題の投稿を削除し、$LIBRAとの関係を否定した。3日後には、ミレイ氏の関与を調査するため、連邦判事が任命された。

インフレにより価値が下落した自国通貨からの逃避手段と見なされてきた多くの仮想通貨にも、$LIBRA暴落による衝撃は波及した。(中略)

<仮想通貨を受け入れる土壌>
$LIBRA危機以前、アルゼンチンでは仮想通貨を巡る市場が活況を呈していた。

アルゼンチンでは国民の多くが3桁のインフレ、常態化した通貨危機、貧弱な銀行システムに悩まされており、不安定な経済のもとで仮想通貨が人気を呼ぶ絶好の舞台が整っていた。

世界有数の仮想通貨取引所である米コインベースによれば、アルゼンチンはデジタル資産を受け入れる好条件が整っている。総人口4500万人のうち、約500万人が日常的にデジタル資産を利用している。

専門家らによれば、利用者は仮想通貨を、入手が制約されることが多い米ドルにアクセスするための回避策とみなしているという。アルゼンチンでは、慢性的な金融不安のもとで米ドルが人気のある資金の安全な逃避先となっている。(中略)

一部の投資家はソーシャルメディア上で怒りを爆発させ、ミレイ大統領による詐欺に引っかかったと主張している。同氏に批判的な立場からは、弾劾手続きの開始を求めている。

一方で政権の支持者は、ミレイ氏は政治的動機による攻撃の被害者だとして擁護している。(後略)【3月7日 ロイター】
******************

暗号資産(仮想通貨)・・・日本ではピンと来ませんが、経済が不安定なアルゼンチンでは、仮想通貨を入手が制約されることが多い米ドルにアクセスするための回避策とみなしているという事情があって、影響が拡大しているようです。

****LIBRAスキャンダル、アルゼンチン人の過半数がミレイ大統領に不信感****
最近の調査で、アルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領にの支持率が急激に低下していることが明らかになった。回答者の57.6%がリバタリアンの指導者に不信感を抱いている。

これは、同氏が関与したLIBRA暗号資産スキャンダルに続くものであり、投資家に数百万ドルの損失をもたらした。

アルゼンチン国民、ミレイ大統領に不信感
(中略)「暗号資産詐欺スキャンダルが発覚してから1ヶ月以上経過した今、ミレイをどの程度信頼していますか?」と尋ねられた際、36%のみが大統領を信頼していると答え、6.4%が未定であった。(中略)

同氏の全体的なイメージも悪化し、58.5%の回答者が否定的な認識を持っている。対照的に、41.1%は好意的な意見を持っている。彼の政権に対する国民の支持もこの感情を反映しており、58.4%が彼の管理を不支持とし、41.6%が引き続き支持している。(中略)

評判に対するダメージにもかかわらず、ミレイのラ・リベルタード・アバンサ党は10月26日の選挙を前に世論調査でリードを続けている。党は36.7%の支持を得ており、対立する連合ウニオン・ポル・ラ・パトリアの32.5%を上回っている。スキャンダルがミレイのイメージを傷つけたが、彼の政治運動を完全に崩壊させたわけではないことを示している。【3月27日 BE[IN]CRYPTO】
*********************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカの対外支援停止の深刻な影響 中国などの肩代わりは可能か?

2025-03-27 22:58:43 | アメリカ

(ウガンダのエイズ支援組織のカウンセラーと住民。この組織は米政府の支援を受けて活動している=2月、カンパラ【3月27日 共同】)

【大統領令差し止めをめぐる政権と司法の対立も】
アメリカでは与党共和党は「トランプ党」と化し、民主党は敗戦のショックから立ち直れない状況で精彩を欠き、議会が大統領権限をチェックする機能を失っています。

そうしたなかで、司法が度々大統領令を差し止めるなどの判断を示し、これに政権側が反発する形で大統領・政権と司法の対立が表面化しています。

大統領周辺からは担当判事の弾劾を求める声も。

政権の意に沿わない判断で目立つのは地裁レベルで、最高裁においては以前から言われているようにこれまでのトランプ大統領の保守派最高裁判事任命という「成果」によって保守化している現状がありますが、必ずしも自動的に政権を支持するという訳でもないようです。

****米最高裁長官、大統領に異例の苦言 トランプ政権と司法界の摩擦を象徴****
ロバーツ米連邦最高裁長官は18日、米政権の施策を差し止めた判事を「弾劾すべきだ」と攻撃したトランプ大統領に対し、「不適切な対応だ」と批判する声明を発表した。大統領に裁判所トップが苦言を呈するのは極めて異例で、トランプ政権と司法界との摩擦を象徴する一件となった。米メディアが報じた。

トランプ氏は18日、交流サイト(SNS)に投稿し、敵性外国人法を使った犯罪組織メンバーの強制送還を差し止めた連邦地裁の判事を「狂った極左」「問題を起こす扇動者」などと罵倒し、弾劾されるべきだとした。

また犯罪組織を含む不法移民対策は、昨年の大統領選で自身が「歴史的な大勝を収めた理由だ」と指摘。厳しい対策の推進は有権者が望んでいることだと強調した。

トランプ氏の投稿後、ロバーツ氏が発表した声明は、「司法判断に対する不同意への対応として弾劾は不適切」と指摘。不服があれば「上訴手続きがある」と司法の場で争うよう求めた。

政権が敵性外国人法の布告を発表した15日、ワシントンの連邦地裁が差し止め処分を出したが、政権は200人以上の強制送還を断行した。

米国では政権が進める職員解雇や資金凍結などを裁判所が一時差し止めるケースが続発。トランプ氏側近の実業家のマスク氏や、共和党議員が担当判事の弾劾を呼びかけており、司法への圧力を警戒する声が出ている。【3月19日 産経】
********************

トランプ大統領の目玉政策である「アメリカ第一主義」に基づく対外支援の停止、そしてリベラルな「偏見」によってアメリカの利益にならない対外支援を行っている元凶としてのアメリカ国際開発庁(USAID)を解体するという政策についても、司法からは差し止めが起きています。

****米最高裁 USAID海外援助停止めぐり トランプ政権の主張退ける****
アメリカのトランプ政権がUSAID=アメリカ国際開発庁による海外援助への資金拠出を一時的に凍結したことをめぐり、連邦最高裁判所は資金を速やかに支払うよう求めた連邦地方裁判所の命令を支持しました。トランプ政権の主張を退けた形です。

トランプ大統領はことし1月、アメリカ政府の海外援助を90日間停止する大統領令に署名し、USAIDが行う海外援助は一部を除き、一時的に停止しています。

事業費を受け取っていた複数の団体が資金拠出の凍結は違法だとして訴訟を起こし、連邦地方裁判所は先月25日、すでに完了した事業の費用およそ20億ドル、日本円にしておよそ3000億円を支払うようトランプ政権に命じました。

この命令について政権側は無効だと主張し、最高裁判所に差し止めを求めていましたが、5日、最高裁判所は地方裁判所の命令を支持しました。 トランプ政権の主張を退けた形です。

最高裁判所の9人の判事は保守派が多数を占めていますが、5人が政権の主張を退けることに賛成しました。

アメリカの複数のメディアは司法がトランプ大統領に対する監視機能を果たそうとする姿勢の表れだと伝えています。【3月6日 NHK】
*********************

****米連邦判事、USAID解体の差し止めを命令****
米メリーランド州の連邦地裁は18日、ドナルド・トランプ政権がアメリカ国際開発庁(USAID)を閉鎖しその事業を停止し続けることを差し止めた。 

連邦地裁のセオドア・チュアン判事は判決で、トランプ大統領の側近イーロン・マスク氏が主導する「政府効率化局(DOGE)」によるUSAID解体は、「さまざまな形で」合衆国憲法におそらく違反すると述べた。(中略)

ホワイトハウスやアメリカの保守派の間では、各地の下級裁判所の判事たちが権限を逸脱して大統領命令を遅らせたり差し止めたりしているという認識にもとづき、いらだちが募っている。

アメリカでは、ひとつの州の連邦判事による決定が、その政策の施行を全国的に差し止めることができる。 アメリカではこれまで共和党か民主党かを問わず、大統領の政策をひとりの連邦判事が全国的に差し止められる権限について、ホワイトハウスはしばしば抗議してきた。

連邦判事のそうした権限を疑問視する政権もあった。トランプ政権が、この行政府と司法府の対立に何らかの終止符を打とうとするのか、注目されている。 【3月19日 BBC】
********************

司法の差し止め命令が出ても政権側は対外支援を停止する姿勢を崩していません。

****トランプ政権、対外援助の凍結維持へ 連邦地裁差し止めでも****
トランプ米政権は対外援助の凍結を維持する見通し。政権が裁判所に提出した文書から明らかになった。

トランプ大統領は1月20日の就任初日、対外援助を90日間停止する大統領令に署名。連邦地裁は先週、トランプ政権による対外援助の凍結を一時差し止めるよう命じていた。

政権は文書で連邦地裁の一時差し止め命令に従っていると主張。凍結した援助を見直した結果、全ての契約において、政権が終了もしくは停止することが許される内容になっていると判断したと指摘した。

また、大統領令に依拠しない援助については、米国際開発局(USAID)と国務省には援助を停止する法的権限があると主張した。(後略)【2月20日 ロイター】
************************

一律の支援停止の妥当性については司法が介入する余地がありますが、見直した結果、継続するか廃止するかは政権の判断・・・ということでしょうか。

【アメリカの対外支援停止で多くの国々・分野で深刻な影響】
「敵性外国人法」を適用し、数百人のベネズエラ人をエルサルバドルに追放した件でも、政権は司法命令を実質的に無視した形になっており問題化しています。このあたりの司法と大統領権限の関係、また、対外支援が実際にどうなっているのかについてはよくわからない部分もあります。

実質的には対外支援の多くがストップしているように見えます。

****対外援助8兆円削減へ=見直し対象の9割、途上国に打撃―米****
トランプ米政権は26日、国際開発局(USAID)の対外援助のうち、540億ドル(約8兆円)相当のプログラムの打ち切りを決定したと明らかにした。見直し対象としていた対外援助の92%を削減。米国の支援を受けてきた途上国に深刻な打撃を及ぼしそうだ。

国務省によると、複数年にまたがる対外援助プログラム6200件(約582億ドル相当)を見直し、現政権が掲げる「米国第一」の外交政策に合致しないと判断した約5800件について契約解除を決めた。【2月27日 時事】 
******************

****対外援助プログラム、過去6週間で80%超廃止=米国務長官*****
ルビオ米国務長官は10日、過去6週間にわたる審査の結果、米国際開発局(USAID)のプログラムの80%超が廃止されたことを明らかにした。

ルビオ長官はX(旧ツイッター)への投稿で、取り消された5200件の契約には、米国の中核的な国益に貢献しない形で、数百億ドルもの資金が費やされたと指摘。約1000件の残りのプログラムは今後、国務省の管轄下で、議会との協議のもと「より効果的に」管理されると述べた。

また、連邦政府規模の縮小を進める米実業家イーロン・マスク氏率いる「政府効率化省(DOGE)」の職員にも感謝の意を表した。

トランプ米大統領は、1月20日の就任初日に全ての対外援助の90日間の停止を指示する大統領令に署名している。【3月11日 ロイター】
*********************

こうしたアメリカの対外援助の停止が難民・女性・マイノリティ・人権支援から公衆衛生分野に至るまで多くの国・分野で多大な人道上の危機を招きかねないことは以前から指摘去れているところです。

影響が大きい分野のひとつが公衆衛生面。

****トランプ米政権の対外援助打ち切りで「50カ国の治療・予防に影響」 WHO事務局長****
アメリカが数百億ドルに及ぶ対外援助を凍結していることで、エイズウイルス(HIV)やポリオ、エムポックス(サル痘)、鳥インフルエンザなどの対策プログラムが影響を受けていると、世界保健機関(WHO)のトップが12日、訴えた。

アメリカのドナルド・トランプ大統領は、同国の国際開発局(USAID)について、支出が「全く説明できない」とし、閉鎖する措置を講じている。

一方、WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は、資金面での他の解決策が見つかるまで、援助の再開を検討するようトランプ政権に求めている。

12日のスイス・ジュネーヴでのバーチャル記者会見でテドロス事務局長は、アメリカの援助資金凍結について初めて公に言及。特に、PEPFAR(米大統領エイズ救済緊急計画)の停止を指摘し、これにより50カ国でHIV治療や検査、予防サービスが停止したと述べた。

「アメリカ政府が取っている行動には、世界の健康に深刻な影響を与えると懸念しているものがある」「診療所は閉鎖され、医療従事者は休暇を取らざるを得なくなっている」
また、救命サービスが一時的に再開されても、全体の混乱は収まっていないと付け加えた。

各国の保健専門家は、アメリカの援助削減によって病気が拡散したり、ワクチン開発が遅れたりする懸念があると警告している。

USAIDは年間約400億ドルを人道援助に費やしており、これはアメリカの年間政府支出の約0.6%に相当する。その多くは健康プログラムに向けられている。

USAIDの資金の大部分はアジアやサハラ以南のアフリカで使われている。欧州では主にウクライナでの人道支援に使用されている。(中略)

USAIDの凍結に加えて、トランプ大統領はアメリカをWHOから脱退させた。
ジョー・バイデン前政権下では、アメリカはWHOの最大の資金提供国であり、2023年にはWHOの予算のほぼ5分の1を拠出していた。(後略)【2月13日 BBC】
**********************

直接的な生命の危機に及ぶものとして特に影響が大きいとされるのがエイズウイルス(HIV)関連。 死者が10倍に増加するリスクも指摘されています。

****米の対外援助凍結、HIV新規感染が1日で2000人に=国連機関****
国連合同エイズ計画(UNAIDS)は24日、米国が凍結した資金援助が再開されないか、代わりの資金源が確保されない場合、全世界で1日に2000人が新たにエイズウイルス(HIV)に感染し、エイズ関連の死者が10倍に増加する可能性があると警鐘を鳴らした。

トランプ大統領は1月20日の就任と同時に、対外援助のほぼすべてを凍結した。

UNAIDSのウィニー・ビャニマ事務局長はジュネーブで記者団に対し、公衆衛生向け資金の中断とより広範なサービスへの影響はエイズウイルス感染者とエイズ患者に計り知れない打撃を与えていると語った。

ビャニマ氏は「米国の突然の資金援助凍結で、多くの診療所が閉鎖され、何千人もの医療従事者が解雇されている」と強調した。米国際開発局(USAID)の資金援助が90日間の凍結期間後の4月に再開されない場合、あるいはほかの政府が代わって提供しない場合、今後4年間で630万人がエイズ関連で死亡する恐れがあると説明した。

最新のデータによれば、2023年の世界のエイズ関連の死者は60万人と報告されている。ビャニマ氏は「したがって、死者は10倍に増えるということだ」と述べた。

HIV感染症・エイズの予防と治療に向けて世界の対応を調整するUNAIDSは昨年、米国から5000万ドルの資金援助を受けており、これは同機関の予算全体の35%に相当する。【3月25日 ロイター】
*******************

トランプ米政権は、貧困国の子ども向けワクチンの購入を支援する官民連携団体GAVIワクチンアライアンスへの資金提供を打ち切るとともに、マラリア対策の取り組みを縮小する計画とも。

【これまでインフラ融資に偏っていた中国の対外支援 アメリカの肩代わりは?】
アメリカに代わってグローバルサウスへの影響力を拡大したい中国や日本など他の国がアメリカの穴埋めするのも現実には困難な状況。

****広がる米国「援助停止」の影響、中国や日韓に肩代わりできるか****
中国はアジアでの重要な対外援助国として米国に取って代わるのに最も適した立場にあるものの、完全に置き換わることには消極的かもしれない。一方、アジアの経済大国である韓国と日本も十分な対外援助国にはならないかもしれない。

トランプ米大統領が対外援助を一時停止し、対外援助事業を担ってきた国際開発局(USAID)の解体に動いたことを受け、極めて重要な妊婦向けの医療から災害支援に至るまでのアジアでの救命プロジェクトの存続が危ぶまれている。

中国は世界2位の経済大国だが、対外援助の手法は米国とは大きく異なっている。中国は主として返済が必要な融資を実施し、インフラプロジェクトに重点を置いていると専門家らは指摘する。

オーストラリアのシンクタンク、アジア太平洋開発・防衛会議のエグゼクティブディレクター、メリッサ・コンリー・タイラー氏は「中国は、民主主義の促進やメディアの自由、市民社会、LGBT(性的少数者)、女性の権利といった分野でギャップを埋めるために行動する可能性は極めて低い」とし、「これらの重要な分野を米国の対外援助削減の犠牲にさせないことが他の援助国にとって極めて重要だ」と強調する。

米国は2024年に世界で総額560億ドルの対外援助を実施したが、うち324億8000万ドルはUSAIDを通じて実行されていたことが米政府のデータで示されている。

このデータによると、24年の米国の対外援助のうち約70億ドルが南・中央・東アジアとオセアニアに供与された。

中国は対外援助のデータを閲覧可能な状態で提供していない。ただ、ローウィー研究所の23年の報告書は中国が15―21年に東南アジアに対して年間約55億ドルの政府開発資金を支出し、うち4分の3はインフラ整備に使われたと指摘している。

もっとも、中国の資金提供の大部分は非譲許型の融資として実施されている。

ローウィー研究所のインド太平洋開発センターのアレクサンドル・ダヤント副所長は、米国の対外援助からの撤退は「(中国にとって)世界開発での役割を再定義する機会になる」としながらも、中国がその役割を果たすとは予想していないと話す。

ダヤント氏は「中国は歴史的に見てインフラ融資に重点を置いてきた。米国が資金を援助してきた民主主義や保健、教育にも踏み込むと思ってはならない」とくぎを刺した。

<地域での影響力>
専門家らは韓国と日本も支援に乗り出す可能性があるものの、そのためには両国が援助予算を大幅に増やす必要があると指摘する。

経済協力開発機構(OECD)によると、かつて外国からの援助を受けていた韓国は2024年の政府開発援助(ODA)予算が48億ドルと過去最高になり、30年までに2倍超へ引き上げることを目指している。(中略)

一方でOECDのデータによると、韓国と日本の23年の援助予算は計220億ドル超と、米国が同年に対外援助に費やした800億ドルの3分の1未満にとどまる。

ミッチェル氏は「米国の援助に取って代わるには大幅な増額が必要となる」とし、日本の援助活動は既にアジア太平洋地域に集中していると指摘した。

中国の優先事項は米国とは異なるものの、中国がこの地域で影響力を高める機会を見逃すことはないだろうとの見方もある。

外交問題評議会のシニアフェロー、ジョシュア・カーランツィック氏は「中国はこれまでは他国のさまざまな種類のプロジェクトを支援するための融資が大部分を占めていたが、アジア全域で補助金を劇的に増やすだろう。中国にとってはこの地域でのアメリカの影響力をさらに低下させる明らかなチャンスとなる」と語った。

ミッチェル氏は、中国が新たな地平を切り開こうとしている兆候が既にいくつかあるとして「中国は昨年、初めてとなる気候変動資金を提供した。このことは開発援助の資金提供国とみなされることをより受け入れようとしている兆候かもしれない」との見解を示した。【3月23日 ロイター】
*********************

中国も、国内経済の不調、更にトランプ関税による先行き不透明感もあって、どこまで新たな分野での資金提供か可能かは疑問なところも。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パレスチナ・ガザ地区  停戦合意破綻 攻撃を強めるイスラエル 西岸地区でも進む土地収奪

2025-03-26 23:41:22 | パレスチナ

(パレスチナ自治区ガザ南部ハンユニスで、イスラエルの攻撃で破壊された建物と子ども=20日(ロイター=共同)【3月25日 共同】)

【破綻した停戦合意 攻撃を強めるイスラエル 増加する住民犠牲】
周知のようにパレスチナ・ガザ地区では、停戦合意の第1段階を終了したものの、ハマスの人質全員解放、イスラエルの完全撤退、恒久的和平という第2段階に進めず、イスラエル・アメリカがハマスに人質全員解放を迫るなか、イスラエル軍の空爆が18日から再開、それに続いて地上作戦も再開されています。

****イスラエル、地上作戦を再開 ガザ住民に「最後通告」****
イスラエルは19日、パレスチナ自治区ガザ地区で地上作戦を再開したと発表した。ガザの住民に対しては、人質を返還し、イスラム組織ハマスを権力から排除するよう求める「最後の警告」を発した。

イスラエル軍は今週、1月の停戦開始以来最も激しい空爆を実施。ガザ民間防衛隊のマフムード・バッサル報道官は19日夜、イスラエルが空爆を再開して以来、ガザ地区で少なくとも470人が死亡したと述べた。

イスラエル軍は「安全地域を拡大し、北部と南部の間に部分的な緩衝地帯を作るために、ガザ地区の中部と南部で標的を絞った地上作戦を開始した」と発表した。

停戦維持を求める外国政府の一斉の呼び掛けにもかかわらずイスラエルが新たな爆撃を続ける中、19日には逃げる民間人の長い列がガザ地区の道路を埋め尽くした。

イスラエルのイスラエル・カッツ国防相はビデオ声明で、2007年以来ハマスが支配している「ガザ地区の住民」に「これが最後の警告だ」と述べ、「米国大統領の助言に従い、人質を返し、ハマスを排除すれば、他の選択肢が開かれるだろう。世界の他の場所に行きたい人々にはその可能性も含まれる」と語った。

ドナルド・トランプ大統領は今月、「ガザの人々へ。美しい未来が待っているが、人質がこのままならそれはない。このままなら、あなた方の命はない!」と発言していた。

2023年10月7日のハマスの攻撃で拘束された251人の人質のうち、58人が依然として拘束されている。そのうち34人については、イスラエル軍が死亡を確認している。

これまでのところ、ハマスはイスラエルの空爆に対して軍事的に反撃しておらず、ハマスの幹部は停戦合意を軌道に戻すための協議に応じる用意があると述べた。しかし、3段階から成る停戦合意を再交渉するというイスラエルの要求は拒否している。

幹部は「ハマスは交渉の扉を閉ざしていないが、新しい合意は必要ないと主張している」とAFPに説明し、イスラエルに「交渉の第2段階を開始するよう」求めた。

停戦合意の第1段階は3月初めに期限切れとなり、その後の進め方を巡る協議は行き詰まっている。 【3月20日 AFP】
*********************

イスラエルの完全撤退を要求するハマスと、ハマスの壊滅を目指すイスラエルの間の溝はまったく埋まっておらず、第2段階のハードルは極めて高く、停戦合意が破綻するのは予想されたことでもありますが、第1段階の間にその溝を埋める何らの動きも策も知恵もなく、予どおり破綻した・・・という感があります。

「とりあえず止めればいい。あとのことは・・・・」というトランプ仲介外交の帰結でもあります。

ガザ住民は「どこへでも好きな所へ行け」と「最後の警告」をされても、住民が人質をとっている訳でもなく、他に行き場もなく、どうしようもありません。ただ攻撃の激しい場所を避けて逃げまどうだけです。

その後もイスラエル軍の攻撃は激しさを増しています。
“イスラエル軍がガザ最南部ラファを攻撃、地上作戦の範囲を拡大…停戦合意は崩壊の様相”【3月21日 読売】

イスラエル軍が包囲するラファでは住民5万人が孤立しています。

****イスラエル軍のガザ攻撃で21人死亡、ラファで住民5万人孤立****
パレスチナ自治区ガザの保健当局は24日、イスラエル軍によるガザ全域への空爆で、少なくとも21人が死亡したと発表した。イスラエル軍はエジプトとの国境に近いラファで作戦を展開し、空爆と地上攻撃を激化させている。

保健当局はイスラエルが18日にガザへの攻撃を再開して以来、約700人のパレスチナ人が死亡したと報告した。少なくとも400人の女性と子どもが含まれているという。

ラファでは、イスラエル軍が部隊を派遣したテル・アル・スルタン地区に数千人が閉じ込められていると地元当局が発表した。

声明で「近隣地域との連絡は完全に途絶えており、住民の安否は不明だ。家族はがれきの中に閉じ込められ、水も食料も医薬品もなく、医療サービスは完全に崩壊している」と訴えた。

パレスチナ民間緊急サービスは、5万人の住民がラファ地区に取り残されていると発表した。

イスラエル軍は、テル・アル・スルタンを包囲し、「テロのインフラ拠点を解体し、地域のテロリストを排除する」と表明した。【3月24日 ロイター】
********************

ガザ住民の犠牲者は増え続けています。
食糧も医薬品も途絶えています。

“「遺体がいたるところに」ガザの医師たち、イスラエルが数百人のパレスチナ人を殺した夜を語る”【3月22日 HUFFPOST】

****ガザ情勢「悪化の一途」=イスラエル軍猛攻、物資欠乏―レバノン側でも応酬****
イスラエル軍は、21日夜から22日にかけてもパレスチナ自治区ガザの北部などに対する激しい攻撃を続けた。中東の衛星テレビ局アルジャジーラは、猛攻で住民が行き場を失う中、空爆、砲撃と同時に地上侵攻が行われていると報道。食料や医薬品も欠乏しており、「状況は悪化の一途をたどっている」と伝えた。

地元保健当局によると、18日の大規模軍事作戦開始以降の死者は630人を超えた。過去48時間の死者は130人に達した。

イスラエルは今月2日、イスラム組織ハマスに人質を解放するよう圧力をかけることなどを目的に、ガザへの人道支援物資搬入を停止した。食糧供給の不足が次第に深刻化し、現在は「子供に1回分の食事を確保することさえできない」(アルジャジーラ)状況だ。

国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、ガザで満足に機能している病院は皆無だ。攻撃が続く中で、かろうじて一部の機能を維持している病院や仮設診療所に負傷者が次々運び込まれるが、医薬品が足りず、対応しきれない状態だ。(後略)【3月22日 時事】 
*********************

“誤って”かどうかはわかりませんが、赤十字すら攻撃対象に
“イスラエル軍、ガザ地区の赤十字事務所を誤って攻撃”【3月25日 日テレNEWS】

最後の頼みの綱である国連も支援活動を縮小せざるを得ない状況です。

****国連、ガザ人道支援縮小 イスラエルの攻撃再開で****
国連は24日、イスラエル軍によるガザへの攻撃再開を受け、職員の安全を考慮してガザ住民に対する人道支援活動を縮小すると発表した。グテレス事務総長は「去るわけではない。住民の生存と保護に欠かせない支援は継続する」と強調した。

国連によると、ガザでは現地職員以外に国際職員約100人が活動中。縮小により国際職員の約3分の1に当たる30〜35人がガザから退去する。

ガザ停戦合意は1月19日に発効したが、今月18日のイスラエル軍の大規模空爆実施を受け停戦は事実上崩壊。19日には中部デールバラハで国連職員が利用していた施設がイスラエル軍の攻撃を受け、1人が死亡、6人が負傷した。【3月25日 共同】
*********************

こうしたなか、この事態を招いた一方の当事者でもあるハマスに対する抗議の声もガザでは上がっているようです。当然でしょう。

****ガザで反ハマスの抗議デモ 事態収束要求、数百人参加****
中東の衛星テレビ、アルジャジーラは26日、パレスチナ自治区ガザ北部で25日にイスラム組織ハマスに対する抗議デモがあり、数百人の住民が参加したと報じた。

ガザでハマスへの抗議活動が起きるのは珍しい。住民は「戦争をやめろ」と書かれた横断幕を掲げ、イスラエル軍の攻撃激化で悪化する事態の収束を求めた。

デモでは、「食べ物がない。安全がない。水もない。もう十分だ」「ハマスは出て行け」と叫ぶ参加者もいた。

一方、パレスチナ通信によると、イスラエル軍は26日もガザ各地で攻撃を続けた。北部ジャバリヤやベイトラヒヤでは計9人が死亡。南部ハンユニスでも無人機攻撃で死傷者が出た。【3月26日 共同】
********************

アメリカは「4月下旬ごろまで暫定的に停戦し、その間に人質を解放する」という停戦案を提示しており、ハマスは検討中とのこと。

****「4月下旬まで」の停戦案検討か ハマス、米提示****
イスラム組織ハマスは21日、パレスチナ自治区ガザで4月下旬ごろまで暫定的に停戦し、その間に人質を解放するとした米国の提案を検討中だと明らかにした。ロイター通信が伝えた。

イスラエル軍は21日もガザ各地で空爆や地上侵攻を継続。ハマスが米国案を受け入れるまで攻撃を続ける構えで、ハマスの対応が焦点となっている。

一方、国連はイスラエル軍による18日の大規模空爆以降、ガザで200人以上の子どもが死亡したと表明した。中東メディアによると、18日以降のガザ全体の死者は600人近くに達している。

ロイターによると、停戦交渉を仲介するエジプトはハマスに対し、拘束する人質全員の解放とイスラエル軍のガザ完全撤収に関して期限を設定することを提案したという。ハマスは仲介国を通じて、イスラエル軍の攻撃停止を模索している。【3月22日 共同】
*********************

【ネタニヤフ首相は政権維持で「大成功」】
イスラエル側は強硬な姿勢で、ハマスが人質解放に応じない場合、ガザの制圧地域を拡大して一部を併合するなどと警告しました。

****「人質解放しなければガザ一部を併合」イスラエル国防相が警告 ハマスはアメリカの提案含め協議を通じた停戦再開に前向き姿勢****
パレスチナ自治区ガザへの攻撃を再開したイスラエルの国防相は、イスラム組織ハマスが人質解放に応じない場合、ガザの制圧地域を拡大して、一部を併合するなどと警告しました。(中略)

イスラエル軍は地上作戦を再開していますが、カッツ国防相は21日、ガザの制圧地域を拡大するよう軍に指示したとの声明を出しました。「ハマスが人質解放を拒めば拒むほど、より多くの土地を失い、イスラエルによって併合されるだろう」などとして、ガザの一部を併合すると警告しています。

こうした中、ハマスは前日に続いて21日もイスラエルに向けてロケット弾2発を発射しました。

一方で、ハマスは来月下旬まで暫定的に停戦を延長し、その間に人質を解放するというアメリカの提案を含め「様々な案の検討を続けている」とし、協議を通じて停戦の再開を目指す姿勢も示しています。【3月22日 TBS NEWS DIG】
***********************

しかし、イスラエルも非ユダヤ人が居住するガザを併合してどうするのでしょうか?
非ユダヤ人がますます増加することになりユダヤ人国家を危うくすることになります。また、パレスチナ人に選挙権などの権利を与えなかったり、追放したりすれば「人種差別国家」として国際批判を強めるだけです。 
だからこそパレスチナ人国家を樹立して「2国家共存」しかない・・・・と、イスラエル・トランプ政権以外は考えているのですが。

当面の話としては、ネタニヤフ首相はガザ攻撃再開で極右政党の協力を取り付けることで、予算案を成立させる事が出来、とりあえず自身の政治生命をつないだ形になっています。ガザ住民の多くの犠牲と引きかえに。

****イスラエル、政権維持へ「終わりなき戦闘」=ハマス壊滅は非現実的―ガザ攻撃再開から1週間****
イスラエルのネタニヤフ政権が、パレスチナ自治区ガザへの大規模攻撃を再開してから25日で1週間が経過した。政権維持のためネタニヤフ首相がイスラム組織ハマスとの停戦合意を無視し、「終わりなき戦闘」(地元紙ハーレツ)を始めたという批判が、イスラエル国内でも高まっている。

ネタニヤフ氏は戦闘再開に当たり、2023年10月のハマスによるイスラエル奇襲で拉致された人質の奪還と、ハマスの壊滅が目標だと強調した。しかし、奇襲以降ガザで長期にわたり続いた戦闘でもハマスを無力化できなかったことから、今回の大規模攻撃で組織根絶に追い込めると見込むのは非現実的だ。

元イスラエル軍情報機関トップのアモス・ヤドリン氏は、「二つの目標は段階的にしか達成できない」と指摘。それでも政権が戦闘再開を決断したのは、25年予算の議会可決を図るためだったとの見方を示す。

ネタニヤフ政権は、今年1月の停戦発効に反発して極右政党「ユダヤの力」が連立を離脱して以降、苦しい議会運営を強いられていた。今月31日までに予算を可決できなければ、憲法規定により議会は自動的に解散となり、ネタニヤフ氏は総選挙で政権の座から引きずり降ろされる可能性があった。

しかし、大規模攻撃が再開された18日、ユダヤの力はこれを評価して連立復帰を決定。予算は25日可決され、選挙は当面回避された。

ヤドリン氏はこうした政局を踏まえ、ハマスとの交渉で人質解放の道筋が付いたとしても、ネタニヤフ氏が停戦を継続させる可能性は低かったと解説。「予算可決後に首相が人質救出を優先してくれるよう願う」と述べた。【3月25日 時事】
********************

こうしたネタニヤフ首相の「ガザ攻撃再開」による政権維持について、その目論見は「大成功」したと伝えています。

【ヨルダン川西岸地区で進む土地収奪】
一方、ヨルダン川西岸地区でもイスラエル人入植者による土地収奪が加速しています。

****イスラエル人入植者、牧羊装いヨルダン川西岸の土地強奪 報告書****
イスラエルの入植活動を監視するNGO「ピース・ナウ」と「ケレム・ナボット」は、イスラエル人入植者は近年、牧羊拠点の設置を通じてパレスチナ自治区ヨルダン川西岸の土地の14%を奪っているとの報告書を発表した。

「悪しきサマリア人」と題する報告書は、入植者が過去3年間に奪った全ての土地の70%は「牧羊活動を装って」奪ったものだと指摘。

イスラエルが1967年から占領している西岸の入植者について、牧畜を通じてパレスチナ人の農地に進出し、パレスチナ人に対して徐々に土地への立ち入りを禁じているとしている。

また、入植者はパレスチナ人を追い出すため、「イスラエルの政府と軍の支援を受けて」嫌がらせや脅迫、暴力などを行っているとし、2022年以降、西岸全域でパレスチナ人の牧羊コミュニティー60以上がこのような方法で土地を追われたと報告している。

こうした被害の圧倒的多数は、1990年のオスロ合意でイスラエルの完全支配下となったC地区に集中している。

イスラエルの閣僚を含む極右政治家らはここ数か月、友好的なドナルド・トランプ米政権を利用して、2025年内にヨルダン川西岸の一部または全部を併合することを提案している。 【3月22日 AFP】
********************

ヨルダン川西岸の一部または全部を併合がイスラエルにとって良いことではないのは、ガザ併合の話と同じです。しかし、極右勢力の動きは止まりません。

こうしたなか、『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』でアカデミー賞のドキュメンタリー長編賞を受賞したヨルダン川西岸出身のハムダーン・バラール監督が入植者に襲撃された後、イスラエル軍に身柄を拘束される事態も。

****オスカー受賞のパレスチナ人監督、イスラエル軍が拘束 共同監督明らかに****
占領下のヨルダン川西岸におけるイスラエル人の入植の実態を描き、アカデミー賞のドキュメンタリー長編賞を受賞した映画『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』の共同監督の一人、パレスチナ人のハムダーン・バラール氏が24日、西岸で入植者に襲撃された後、イスラエル軍に身柄を拘束された。同じく監督を務めたイスラエル人のユヴァル・アブラハーム氏が明らかにした。

アブラハーム氏はX(旧ツイッター)に、バラール氏が「入植者の集団」に襲撃されたと投稿。「殴られて頭と腹部を負傷し、出血していた。自ら呼んだ救急車に(イスラエルの)兵士が乗り込んで来て、連行された。その後、どこにいるか分からない」とつづった。

イスラエル軍の占領に反対するNGO「ユダヤ非暴力センター」は、事件が起きたのは西岸南部の集落スシヤで、メンバーが襲撃の様子を撮影したとしている。

イスラエル軍はAFPに対し、情報の真偽を確認中だと回答した。 【3月25日 AFP】AFPBB News
*********************

「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」は、イスラエル軍による村の破壊を阻止しようとしたマサーフェル・ヤッタ地域の住民たちの闘いを記録した映画で、第97回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー映画賞を受賞し、バラールさんらは3月2日の授賞式に出席していました。

その後、同氏は解放されたようです。激しい暴行を受けたようですが。

****「ノー・アザー・ランド」パレスチナ人監督、イスラエル軍から解放される。兵士からの暴行を証言「特に攻撃された」****
(中略)「ノー・アザー・ランド」で共同監督を務めたパレスチナ人のバーセル・アドラーさんはSNSで、ハムダーンさんが治療を受けている写真を添え、軍から解放されたことを報告。「彼は兵士や入植者から全身を殴打されました」と訴えた。写真からは、バラールさんの服に血がついていることがわかる。

バラールさんは、イスラエル人入植者たちが村を襲撃したとき、入植者たちはバラールさんの頭を「サッカーボールのように」蹴ったとAP通信に述べている。軍に拘束された後も目隠しをされ、イスラエルの兵士らが交代で見張りに来るたびにバラールさんを蹴ったり棒で殴ったりしたとも証言している。(後略)【3月26日 HUFFPOST】
******************


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アフリカ、コンゴとスーダンにおける紛争の現況

2025-03-25 23:12:55 | アフリカ

(スーダンの国軍と準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」の戦闘で荒廃した首都ハルツームをパトロールする国軍派の戦闘員(2025年3月24日撮影【3月25日 AFP】)

【コンゴ 反政府勢力を支援するとされる隣国ルワンダに強まる国際圧力】
コンゴとスーダン、アフリカで続く二つの紛争の現状。

コンゴでは2月16日ブログ“コンゴ  反政府勢力M23の攻勢止まらず 拡大する子供への性暴力・徴兵 鉱物資源をめぐる争い”で取り上げたように、隣国ルワンダに近い東部で、ルワンダが支援しているとされる反政府勢力M23と政府軍の戦いが続いています。コンゴ政府は1月以降、衝突で7000人が死亡したと発表しています。

背景にあるのは、ルワンダの大虐殺(1994年)にも共通するツチ・フツの民族対立。M23はルワンダ・カガメ政権と同じツチ族。

もう一つの要因はコンゴの地下に眠る豊富な資源。そのために周辺国・関係国の介入を招きやすく“資源の呪い”の事例ともなっています。(このあたりの詳細は2月16日ブログ参照)

****コンゴ反政府勢力、東部要衝に進軍 政府はルワンダが支援と非難****
コンゴ民主共和国(旧ザイール)の反政府勢力「3月23日運動(M23)」が(2月)16日、東部・南キブ州の州都ブカブ中心部に進軍したと明らかにした。コンゴ政府はM23を支援する隣国ルワンダが停戦要請を無視しているとして非難した。

M23は1月下旬、北キブ州の州都ゴマを奪取後、商業の中心都市であるブカブを目指していた。ブカブ進軍で同国東部において政府の統制がさらに弱まることになる。

政府も反政府勢力のブカブ進軍を認め、ルワンダ軍も同市に入ったと非難。ただ、市全域がM23の支配下にあるわけではないとしている。

ルワンダは、同国がツチ族主導のM23と共に戦闘に加わっているというコンゴや国連、西側諸国の主張を否定し、コンゴ軍と共闘するフツ族民兵の脅威から自国を防衛していると主張している。

英外務省は声明で「M23とルワンダ軍がブカブに入ったことは、事態の深刻なエスカレーションで、地域紛争が拡大する危険性を高めている」と懸念した。

国連によると、ブカブ進軍に当たって戦闘はほとんど見られなかったという。

コンゴは、電気自動車や携帯電話のバッテリーの主要部品であるコバルトの世界最大の生産国。また、銅生産では世界第3位で、コルタン、リチウム、スズ、タングステン、タンタル、金などの鉱床もある。【2月17日 ロイター】
**********************

上記記事にもあるようにルワンダはM23支援を否定していますが、国際社会のルワンダへの圧力が強まっています。

****ルワンダ軍のコンゴ撤退要求=反政府勢力「支援」と非難決議―国連安保理****
アフリカ中部コンゴ(旧ザイール)東部で政府軍と反政府勢力「3月23日運動(M23)」の衝突が激化している問題を受け、国連安保理は21日、M23による侵攻を非難し、敵対行為の即時停止を求める決議を全会一致で採択した。

また、M23を支援しているとして隣国のルワンダ軍を指弾し、同国軍に「コンゴ領土からの無条件の即時撤退」を要求した。

決議はまた、コンゴ軍も特定の武装組織を支援していると糾弾した。今年1月にM23が攻勢を強めて以降、安保理がコンゴ情勢を巡って決議を採択するのは初めて。決議案はフランスが起草した。

ルワンダは、自国の安全保障に関する懸念に対応していないとして「持続的な解決策にならない」と反発した。【2月22日 時事】 
********************

ルワンダに対しては、国連・西側諸国にはかつてのルワンダ大虐殺を阻止できず、ジェノサイドを座視したことへの“負い目”があり、これまで強い対応は取られてきませんでしたが、ここにきてその流れも変わってきたようです。

(ルワンダ大虐殺に関しては、これまでの通説(ツチ・フツの対立で起き、国際社会は見殺しにした。そして現ルワンダ大統領のカガメが救世主として大虐殺を止めた)に対する異論・検証も行われているようです)

コンゴはかつてベルギーの植民地でしたが、その形態は他のアフリカ諸国とは少し異なります。

*******************
1885年のベルリン会議でヨーロッパ列強はアフリカ大陸を分割し、それぞれが支配する国を決めました。他の列強諸国が政府主導で植民地支配を進める一方、コンゴはベルギー国王の“私有地”として統治されることになりました。

そのため、ベルギーの法律が適用されず、他のアフリカ諸国よりも恐ろしい人権侵害が繰り広げられたのです。

それは、ベルギー王室からの一方的な行為だけではなく、元々その地域に住む人々の間でも行われるようになりました。統治の手段として、少数派の氏族(クラン)を支配層へと仕立て上げ、銃器を与えることによって他の氏族を支配させたからです。【テラ・ルネッサンス ブログ】
********************

このあたりの事情がコンゴの現在の混乱の遠因となっているとの指摘があります。
また、ベルギー軍はルワンダ大虐殺当時、国連PKOの主力でした。“見殺し”の責任を問われてきた立場でもあります。

そのベルギーとルワンダの関係がコンゴをめぐって悪化、断交に至っています。

****ルワンダ、ベルギーと断交 コンゴ民主の紛争巡り対立****
ルワンダ外務省は17日、隣国コンゴ民主共和国での紛争を巡り、ベルギーが「ルワンダや周辺地域を不安定化させようとしている」と非難し、断交したと発表した。

ルワンダはコンゴ東部で政府軍と戦闘を続ける反政府勢力「3月23日運動(M23)」を支援しており、即時停戦を求める欧米諸国の圧力に反発している。

ルワンダ外務省は声明で、ベルギーの外交官に対し、直ちに国外退去するよう要求。ベルギーのプレボ外相は遺憾の意を示し、対抗して同様の措置を取ると表明した。

コンゴ東部では1月以降に戦闘が激化し、M23は北キブ州の州都ゴマを制圧するなど支配地域を拡大。欧州連合(EU)が17日、ルワンダ軍やM23の幹部ら計9人を渡航禁止や資産凍結の対象に指定するなど、欧米諸国の間でルワンダへの制裁が広がっている。【3月18日 日経】
*******************

ルワンダの反発にもかかわらず、ルワンダへの批判・制裁は強まっています。

****「優等生」ルワンダに批判 コンゴ武装勢力支援で制裁****
鉱物資源が豊富なコンゴ(旧ザイール)東部での紛争を巡り、反政府武装勢力「3月23日運動(M23)」を支援する隣国ルワンダへの批判が高まっている。

多数派フツ人がツチ人を殺りくした1994年の大虐殺後に「アフリカの奇跡」と言われる発展を遂げ「優等生」と称された。だが、M23を通じて鉱物資源の確保を狙っているとみられ、欧米諸国は態度を一変、制裁を科す動きが広がる。

ルワンダ軍の支援を受けるM23は1月以降、攻勢を強めて北キブ州の州都ゴマなどを掌握。州知事を一方的に任命して支配体制の確立を進めている。住民50万人以上が避難し、人道危機が続く。

「M23への支援を担っている」。米財務省は2月、ルワンダのカガメ大統領の側近を制裁対象に指定し、米国内の資産を凍結した。

M23を支援する背景として、コンゴに住みカガメ氏と同じ民族のツチ人を保護する名目のほか、ロシアのウクライナ侵攻など力による現状変更が横行する国際情勢に影響されたとの指摘もある。【3月25日 共同】
******************

【「交渉」が始まる動きも】
戦闘の方は、ようやく「交渉」が報じられるようになっています。

****コンゴ、反政府勢力と直接和平交渉か 隣国アンゴラが18日から開始と声明を発表****
アフリカ中部コンゴ(旧ザイール)で政府と反政府勢力「3月23日運動(M23)」の衝突が続いている問題で、隣国アンゴラは12日、コンゴ政府とM23が和平に向けた直接交渉を18日からアンゴラで始めると声明を発表した。

ロイター通信によると、政府報道官は実際に交渉に参加するか明言を避けた。

コンゴでは今年に入り、M23が鉱物資源の採掘拠点である東部の複数都市を制圧して衝突が激化。コンゴ政府は1月以降、衝突で7000人が死亡したと主張している。米国などはコンゴ東部と国境を接するルワンダがM23を支援しているとして非難している。【3月13日 産経】
*****************

****コンゴがルワンダと初交渉 東部紛争で、カタール仲介****
コンゴ(旧ザイール)東部で続く政府軍と反政府勢力「3月23日運動(M23)」の戦闘を巡り、コンゴのチセケディ大統領とM23を支援する隣国ルワンダのカガメ大統領が18日、カタールの首都ドーハで会談した。仲介したカタール政府が発表した。ロイター通信によると、1月の戦闘激化後、両首脳の直接交渉は初めて。

3カ国首脳は共同声明で、平和的解決に向けた協議の継続で合意したと表明した。ただM23を巡り、「テロリスト」とみなすコンゴと、支援するルワンダの隔たりは大きく、戦闘終結につながるかどうかは不透明だ。

鉱物資源が豊富なコンゴ東部では1月以降、M23が政府軍への攻勢を強め、北キブ州の州都ゴマを掌握するなど支配地域を拡大。欧米諸国は即時停戦を求め、ルワンダへの圧力を強めている。【3月19日 共同】
*****************

今のところ、交渉の成果に関する報道はまだ目にしていません。

【スーダン 首都中心部を国軍が奪還も、西部ダルフールを支配するRSF 増加する民間人犠牲】
スーダンでは国軍(SAF)と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)の統合問題を背景に、軍が主導する統治評議会議長のトップ、ブルハン国軍最高司令官と、同副議長でRSF司令官のダガロ氏の権力闘争としての武力衝突がおきています。

2023年4月15日に始まったこの内戦ではすでに数万人が死亡し(地元メディアによれば2万8000人以上が死亡)、1200万人以上が家を追われ、世界最大規模の飢餓と避難民危機が生じているいます。

バイデン前米政権は23年12月、スーダン国軍とRSFの双方が戦争犯罪をしたと判断。今年1月には、RSFが特定の民族を対象に大量虐殺(ジェノサイド)をしたと認定しています。

更にやはり1月には、スーダンの国軍トップ、ブルハン将軍に制裁を科したと発表しています。国軍が学校や病院を攻撃するなど市民に危害を加えたのが理由

戦闘の方は激しく続いており、犠牲者は増加の一途。

*****スーダン南部で200人以上殺害 準軍事組織が攻撃と人権団体****
国軍と準軍事組織、即応支援部隊(RSF)の内戦が続くアフリカ・スーダンの人権団体は18日、RSFが同国南部白ナイル州の複数の村を攻撃し、3日間で女性や子どもを含む200人以上を殺害したと表明。誘拐や逃げようとした住民への銃撃もあったとし、戦争犯罪だと非難した。

23年4月に始まった内戦は首都ハルツーム近郊や西部ダルフール地方を中心に戦闘が続き、終結の兆しは見えていない。死者は少なくとも数万人に上るとみられている。(後略)【2月18日 共同】
******************

戦況について、今年に入って国軍が優勢になっているとの報道を目にしています。

****スーダン軍、中部の州都に進攻 準軍事組織から奪還か****
準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」との戦闘を続けるアフリカ北東部スーダンの国軍は11日、RSFの勢力下にあった中部ジャジーラ州の州都ワドマダニに進攻したと発表した。

RSFは11日、ワドマダニを失ったと表明した。RSFはワドマダニを取り戻す考えを示しており、戦闘激化につながる可能性もある。

国軍とRSFの戦闘は2023年4月に開始。ロイター通信によると、RSFは同年12月に要衝のワドマダニを掌握した。(後略)【1月12日 共同】
********************

そして首都ハルツームでも、RSFに奪われていた大統領官邸を国軍が奪還したようです。

****スーダン、正規軍が大統領官邸奪還=衝突2年「重大な転機」か****
アフリカ北東部スーダンの正規軍は21日、対立する準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」が占拠していた首都ハルツームの大統領官邸を奪還したと発表した。約2年に及ぶ両組織間の戦闘で「極めて重大な転機」(英BBC放送)になるとみられている。

BBCなどによると、正規軍はハルツーム中心部にある大統領官邸と政府庁舎を管理下に置いた。軍報道官は国営テレビで「わが軍は敵の兵士と装備を完全に破壊し、大量の武器を押収した」と主張。「完全な勝利」まで戦闘を続けると宣言した。【3月21日 時事】
******************

“一方、RSFはスーダン西部での支配を強化している。並行政府の樹立を目指しているが、国際的な承認を得られる可能性は低い。”【3月21日 ロイター】とも。

RSFの前身は、かつて西部ダルフール地方で30万人が死亡し、「世界最悪の人道危機」とも呼ばれた虐殺を主導した民兵組織です。

もっとも、民間人犠牲を顧みない攻撃は国軍・RSFに共通したことです。
ダルフールのほぼ全域を支配するRSFに対し、国軍は市場への空爆も。

****スーダン軍、ダルフールの市場を攻撃 死者数百人 監視団体****
スーダンの内戦監視団体は25日、国軍が西部ダルフール地方の市場を空爆し、数百人を殺害したと非難した。
スーダンでは2023年4月からほぼ2年にわたり、国軍と準軍事組織「即応支援部隊」が戦闘を続けている。

両陣営の残虐行為を記録してきた有志の法律家団体「エマージェンシー・ロイヤーズ」は、スーダン軍の戦闘機がダルフール北部のトラ市場を「無差別に空爆し、民間人数百人を殺害、数十人に重傷を負わせた」と発表した。空爆が行われた日時については言及していない。

ダルフールでは通信遮断が発生しているため、AFPでは独自に死傷者数を確認できていない。また、軍はこれまでのところ取材に応じていない。

ダルフールのほぼ全域を支配するRSFは、軍が「虐殺」を行ったと非難した。(後略)【3月25日 AFP】
********************

現段階では内戦終結の兆しは見えていません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パナマ運河 香港企業が港湾事業売却 奏功した米の棍棒外交 中国は激怒 南北米大陸で増す対米不信

2025-03-24 22:32:45 | ラテンアメリカ

(パナマ運河入口のバルボア港。CKハチソンが運営する=2025年3月12日 【3月18日 新潮社Foresight】)

【アメリカ側の警戒感:中国が米国との紛争時にパナマ運河を閉鎖する】
周知のようにグリーンランドと並んでトランプ大統領が欲しがっているのがパナマ運河。そのためには軍事行動も排除しないとも。

****米国は「パナマ運河取り戻す」、トランプ氏就任演説で****
トランプ米大統領は20日の就任演説で、太平洋と大西洋を結ぶパナマ運河を「取り戻す」と表明した。西部開拓時代に領土拡張を正当化するために使われた標語「マニフェスト・デスティニー」を引き合いに出し、宇宙開拓計画についても触れた。

パナマ運河は米国が数十年にわたり運河の大部分を建設し、完成後には管理権を握っていたが、99年にパナマに全面返還していた。

トランプ氏は運河の管理権を渡すべきではなかったと主張し、米国の船舶は非常に高額な通行料の支払いを強いられ、「公平に扱われていない」と述べた。

トランプ氏は就任前から、米国がパナマ運河の管理権を取り戻すために軍事行動や経済措置を取る可能性を排除しないとの考えを示していた。

これに対しパナマのムリノ大統領はXへの投稿で、米国を含む世界貿易のために責任を持って運河を管理していると言明。その上で、パナマ運河は「パナマのものであり、これからもそうあり続ける」と述べた。(中略)

トランプ氏はパナマ運河以外にも、デンマーク領グリーンランドの獲得に意欲を示しているほか、カナダ併合を巡る発言を繰り返すなど、他国に食指を動かしている。

トランプ氏は就任演説でメキシコ湾の名称を「アメリカ湾」に改める意向も再び示した。

「米国は再び自らを成長国家とみなすだろう。われわれの富を増やし、領土を拡大し、都市を築き、期待を高め、国旗を新しい美しい地平へと運ぶ国家だ」と強調。「われわれはマニフェスト・デスティニーを追及し、星々に米国の宇宙飛行士を送り出し、火星に星条旗を立てる」と述べた。【1月21日 ロイター】
**********************

トランプ政権が問題視しているのは、香港企業が運河の両端にあたる太平洋側の港と大西洋側の港の運営権を握っており、有事の際にパナマ運河の運用が中国によって左右されるとの認識です。

****パナマ運河、紛争時に中国が閉鎖する恐れ 米国務長官が警戒****
ルビオ米国務長官は30日、中国が米国との紛争時にパナマ運河を閉鎖するという緊急対応策を用意していることには「疑いの余地がない」と述べ、米国は国家安全保障上の脅威とみられる事態に対処すると強調した。

パナマ運河は米国が建設し、1999年にパナマに返還するまで管理してきた。トランプ米大統領は就任演説で、パナマ政府が運河返還時の協定に違反し、中国に運営を譲り渡したと批判した。一方、パナマ政府はこれを否定している。

ルビオ氏はメーガン・ケリー・ショーのインタビューに応じ、パナマ運河に対する中国の影響についてトランプ氏の懸念を改めて示した。

パナマ運河は、香港企業、長江和記実業(CKハチソンホールディングス)の子会社が運河の両端にあたる太平洋側の港と大西洋側の港の運営権を握る。

ルビオ氏は長江和記実業について、「(中国)政府の指示は何でも従わなければならない」ため米国にとってのリスクだと指摘。「もし紛争時に中国政府がパナマ運河を閉鎖するよう指示すれば、そうせざるを得なくなるだろう。実際、中国にそのような緊急対応策があることを全く疑っていない。これは直接的な脅威だ」と懸念を示した。【1月31日 ロイター】
********************

1999年にパナマ運河がアメリカからパナマに返還された際、いくつかの港湾運営権が民間企業に移行しました。その際、香港系のHutchison Portsが複数の港を取得しました。

なお、パナマ運河に隣接する港湾にはシンガポール系企業が管理運営するロドマン港やパナマ政府が一部関与する公営港湾もあって、すべてを香港系企業が管理運営しているものでもありません。

【米圧力でパナマ政府は「一帯一路」離脱表明 中国反発】
ルビオ国務長官は2月2日にパナマを訪問してパナマ側に対応を求めています。パナマ側は“中国企業の事業見直しに意欲を示した”とも。

****米国務長官、パナマ政府に運河周辺の中国企業問題で対応要求****
ルビオ米国務長官は、パナマ運河付近の港を運営する中国企業に対する米国の懸念に直ちに対応するようパナマ政府に求めた。(中略)

パナマのムリノ大統領は2日、同国を訪問したルビオ氏と会談。会談後、パナマ運河の主権は議論の余地がないと強調した一方、香港に本社を置くCKハチソン・ホールディングスが運河の両端にある港の運営権を握っていることを含め、パナマにおけるいくつかの中国企業の事業見直しに意欲を示した。

同大統領は、重要な問題を巡ってトランプ氏と直接会談することが重要だと述べた。【2月2日 ロイター】
******************

更に、ムリノ大統領は、パナマに運河の運営権があると反論した一方、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」から離脱する方針を示しています。

****米国務長官と会談したパナマ大統領「一帯一路」から離脱方針示す…運河は「我が国が運営」****
米国のルビオ国務長官は2日、就任後初となる外遊先の中米パナマでホセ・ラウル・ムリノ大統領と会談し、パナマ運河から中国の影響力を排除するよう求めた。

ムリノ氏は、パナマに運河の運営権があると反論した一方、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」から離脱する方針を示した。(中略)

米側の発表によると、ルビオ氏は会談で、トランプ氏が「中国共産党が運河を管理している現状は脅威だ」と指摘していると伝え、「早急な変化がなければ、米国は必要な措置を取る」と警告した。運河の再管理を主張するトランプ氏は軍事力の行使も示唆している。

ムリノ氏は会談後の記者会見で「運河は我が国が運営していることに疑いはなく、今後も変わらない」と強調し、トランプ氏の主張を否定した。

一方、パナマは港湾運営会社に対する監査を始めている。ムリノ氏は、パナマが中国と国交を結んだ2017年に交わした「一帯一路」の協力に関する覚書について「私の政権では更新しない」と明言し、早期終了も検討する考えを示した。米側に歩み寄った形で、中国の反発は必至だ。【2月3日 読売】
*********************

当然ながら中国は反発しています。

****パナマ政府の「一帯一路」離脱表明に中国側が抗議「パナマ政府と国民に確かな利益」****
(中略)中国外務省の趙志遠外務次官補は7日、中国に駐在するパナマ大使と会談し、「中国とパナマは『一帯一路』建設の枠組みのもとで実りある成果をあげ、パナマ政府と国民に対して確かな利益をもたらした」と述べたうえで、パナマ政府の方針に抗議しました。

さらに、趙次官補は「アメリカが圧力や脅しといった手段を使って中国とパナマの関係を損ない、『一帯一路』建設を破壊しようとしていることに断固反対する」と述べ、アメリカの対応を非難しました。

そのうえで、「パナマが両国関係を大局的に見たうえで両国民の長期的な利益を考慮し、外部からの干渉を排除して正しい決断を下すことを期待する」述べ、再考を促しました。(後略)【2月8日 TBS NEWS DIG】
*********************

アメリカとパナマの間では運河通航無料をめぐる混乱も。

****米、運河通航無料「同意」と発表 パナマ側は否定****
米国務省は5日、太平洋と大西洋を結ぶ交通の要衝パナマ運河を巡り、パナマ政府が米政府の艦船の通航料を無料にすることに同意したと発表した。トランプ米大統領はパナマ運河の管理権奪回を主張し、圧力をかけていた。

これに対し、パナマ運河庁は声明を出し「通航料の調整はしていない」と無料化を否定した。「艦船の通航に関して米国の当局者と対話する用意がある」と交渉過程との認識を示した。

トランプ氏は米国の船舶がパナマ運河の通航料を徴収される現状が不公平だと非難し、是正されなかった場合には管理権の返還を要求すると主張してきた。【2月6日 共同】
*******************

どうして米船舶が通航料を徴収されるのが「不公平」なのかは知りません。

【香港企業 米資産運用会社率いる投資家連合に港湾事業売却 事前の承認要請がなかったことに習近平氏怒る】
長々とこれまでの経緯をなぞってきたのは、ここにきて事態が急展開したため。

****パナマ運河の港湾事業、香港企業がアメリカの資産運用会社率いる投資家連合に3兆4000億円で売却へ…中国は非難****
香港企業CKハチソン・ホールディングスがパナマ運河の港湾事業を米資産運用会社が率いる投資家連合に売却すると発表したことについて、中国政府で香港政策を担当する国務院香港・マカオ事務弁公室が強く非難している。
 
同弁公室は13日と15日、中国共産党政府の意向を代弁しているとされる中国系香港紙・大公報の記事をホームページに転載した。

CKハチソンが今月、パナマ運河主要2港の港湾事業などを米資産運用会社のブラックロック率いる投資家連合に228億ドル(約3兆4000億円)で売却すると発表したことに関し、「国家の利益を考慮したのか。中国と世界に損害を与えるのか」と批判したものだ。

これに関連し、香港紙・明報は17日、中国当局が売却の事前通告がなかったことを問題視しているとの見方を報じた。明報は「民間企業への政治的包囲は私有財産保護を定めた香港基本法に違反する」との財界人の指摘を伝えた。香港の経済界では、中国政府の民間取引への介入に対する警戒が広がっているとみられる。【3月17日 読売】
********************

米ブルームバーグ通信は3月18日、香港系複合企業が世界各地に保有する港事業の権益を米資産運用大手が率いる共同事業体に売却する件について、中国当局が調査を始めたと報じています。

中国、習近平国家主席は長江和記実業が中国当局との調整をしないまま売却を決めたことに不満を募らせている・・・と言うか、もっと平たく言えば、怒っているようです。

****中国主席、パナマ運河巡る米主導グループとの取引に怒り=WSJ****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は18日、中国の習近平国家主席が香港企業によるパナマ運河権益売却計画に怒りを示していると伝えた。米主導の投資家グループに売却することについて香港企業から事前に承認要請がなかったことも一因という。(中略)

この取引を巡っては、中国への裏切りとして批判するコメントが国営メディアに掲載された。一方、トランプ米大統領は歓迎の意を示した。

WSJが複数の関係筋の話として伝えたところによると、習指導部は元々、パナマ運河権益問題をトランプ政権との交渉材料にするつもりだったという。【3月19日 ロイター】
*********************

****トランプの脅しに屈した「香港大富豪」に中国が激怒...「国益のために犠牲を払うのは当然」****
<パナマ運河問題で怒り心頭...。第2次トランプ政権がもたらす地政学的変化の中で、立場を悪化させる中国>

香港の大富豪・李嘉誠(レイ・カーセン)は、最新の地政学的対立の波をまともにかぶっている。原因はパナマの港湾関連資産だ。

パナマ運河を中国の支配下から取り戻すというトランプ米大統領の脅しを受け、李はこの戦略的要衝の港湾事業を約230億ドルで米投資会社に売却することにした。李はこれまで地政学的リスクを巧みに回避してきたが、今回は違った。(中略)

中国当局はこれまでも、ビジネス上の意思決定でナショナリズムを何より重視するよう要求してきた。今回もトランプ政権との外交交渉に力を入れる代わりに、米中の間で地政学的課題に直面する企業を攻撃することにした。

中国の当局者は、中国発の企業が中国の国益のために犠牲を払うのは当然だと考えている。当局の領有権主張に沿った地図の使用や、現体制に都合のいい(だが自社の利益に反する)決定の強制など、中国政府は政治的忠誠心の証明をたびたび企業に要求する。

中国に拠点を置く企業が、中国政府の犠牲になるのは今回が初めてではない。
通信機器大手・華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)は2010年から、第5世代(5G)技術の先進国市場戦略の一環としてカナダへの投資を開始した。

だが18年、副会長兼最高財務責任者(CFO)の孟晩舟(モン・ワンチョウ)が逮捕され、その後カナダ人が中国国内で拘束されたことで、流れは一気に逆転した。

カナダ政府は22年、5G通信網からのファーウェイの排除を発表。既存の5G機器とサービスについても24年6月までの撤去を求め、ファーウェイは10年間のカナダ投資で多額の損失を出した。

動画投稿アプリのTikTok(ティックトック)と親会社バイトダンス(北京字節跳動科技)も、アメリカ事業で同様の逆風に直面している。

中国政府は国内企業に対する矛盾したアプローチを続けている。中国経済は雇用と経済成長を民間部門に依存しているが、指導部は依然として企業の信頼性と政治的忠誠心に疑念を抱いたままだ。

中国当局は高いハードルや障壁、脅迫を企業統制の手段に用いる傾向がある。問題の背後にある政治的緊張を緩和する努力は二の次だ。現体制は明らかに経済的利益より政治的安定を優先している。

国内企業への統制強化は、中国の地政学的利益につながる貿易や安全保障、経済発展上の機会損失を招いている。トランプの関税はカナダやEUなどの反発を買っているが、民主主義体制の先進国にとって権威主義を強める中国との関係強化は困難だ。

さらに共産党が政府、軍、民間、学術界など中国のあらゆる面をコントロールすると宣言しているため、「当局の影響が及ばない中国」との交流も難しくなっている。

自国の民間企業に対しても影響力を強める中国は、第2次トランプ政権がもたらした地政学的変化の中で、立場をむしろ悪化させている。【3月24日 Newsweek】
********************

このまま売却されるのか、中国が差し止めるのかは不透明です。

****パナマ港湾売却阻止へ圧力 米に対抗、香港企業に再考迫る―中国****
香港の複合企業がパナマ運河港湾の運営権を米投資会社に売却する計画を巡り、中国政府が阻止しようと香港側へ圧力をかけている。習近平政権は、事業売却は「国益」に反すると主張。パナマ運河の奪還を目指すトランプ米政権への対抗姿勢をむき出しにしている。

香港系企業の港湾運営は「違憲」 パナマ司法長官が見解
「全ての中国人への裏切りだ」「国家の利益を考えたのか?」。中国政府で香港政策を担当する香港マカオ事務弁公室は今月、売却を批判する中国系香港紙・大公報の論説を2度にわたり公式サイトに掲載した。「一国二制度」下の香港において、同紙は習政権の意向を伝える手段として利用されることが多く、間接的に売却元企業へ再考を迫った形だ。

香港の長江和記実業(CKハチソン・ホールディングス)は4日、パナマ運河の要衝にある2港湾の運営権などを米投資会社ブラックロック率いる連合体に228億ドル(約3兆4000億円)で売ると発表。「中国がパナマ運河を支配している」とのトランプ大統領の不満に対処した格好で、ハチソンに巨額の収益をもたらす取引だ。交渉には同社創業者で96歳の李嘉誠氏も参加し、数週間で話がまとまったと報じられている。

一方、中国側は売却を事前に把握していなかったもようで、いら立ちを強めている。米ブルームバーグ通信は18日、中国当局が売却に関する調査を開始したと報道。国家市場監督管理総局などが、安全保障リスクや独占禁止法違反の有無を調べるという。

ただ、中国側も表立った介入には踏み切りにくい事情がある。香港では2020年に国家安全維持法が施行され、政治や社会の各方面で中国本土との一体化が進む。中国当局の力で国際的な商取引がつぶれれば、外資の香港離れが加速しかねない。中国にとっては、企業が自主的に取引を停止するか、香港政府が差し止めに動く展開が望ましい。

中国側の意をくむように、香港政府トップの李家超行政長官は18日、記者団に「外国政府が経済・貿易において脅迫的手段を用いることに反対だ。いかなる取引も法規制に沿う必要がある」と指摘。米国が売却を「強要した」とのシナリオを念頭に、法的対処の可能性を示唆した。

近く売却の最終的な合意文書が締結される見通し。習政権は今後、香港側への圧力をさらに強めていくとみられる。【3月24日 時事】
*****************

香港企業CKハチソン・ホールディングス(長江和記実業)は中国当局が激怒することは百も二百も承知のうえでの今回売却計画でしょう。背景に何があったのかは知りません。

単純に「今が売り時」との経済的判断なのか、アメリカ側から有無を言わせぬ圧力があったのか・・・

【米の棍棒外交に不信感を募らせる南北アメリカ大陸諸国】
上記【3月24日 Newsweek】は中国側の理不尽な対応を批判していますが、それ以前に問題とすべきはアメリカ・トランプ政権の欲しいものは何でも手に入れようとする対応でしょう。

「軍事行動も排除しない」というジャイアンのような棍棒外交は、抗うすべもない、かつ、対米依存度の高いパナマのような国には短期的には極めて有効でしょう。(パナマの輸出先の約20〜25%がアメリカ向け、輸入の約30%もアメリカから パナマは独自の中央銀行を持たず、米ドルを法定通貨として使用 パナマ運河取引量の約70%がアメリカ関連)

ただ、長期的・総合的判断は別物。長年アメリカは南北アメリカ大陸において、時に軍事介入したり、時にクーデターを画策したりわが物顔でふるまってきました。

結果、中南米諸国にはアメリカに対する強い不信感があります。(カナダへの脅迫で、カナダを含めて南北全体に・・・と言っていい状況にも) 今回のパナマ運河に関する件は、そうした不信感を更に助長させるものでしょう。
その不信感の広がりは南北アメリカに限ったものではないでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ  トランプ関税で全面的貿易戦争の様相 米・相手国生産者の不安・とまどい 幾つかの論点

2025-03-23 23:17:45 | 経済・通貨

(【3月5日 TBS NEWS DIG】)

【報復関税の連鎖で全面的貿易戦争の様相】
トランプ関税・・・あまりにも多くの事柄が動いており(しかも、やると言ったり、やめると言ったり・・・)、一体今どの国に対して、何に対して、いくらの関税追加がなされているのか、それに対する報復関税は課されているのか・・・正直なところ、全然把握できていません。

大まかには‟トランプ氏は合成麻薬の流入対策の不備を理由にしたメキシコ、カナダ、中国への制裁関税に加え、12日には全ての国に対する25%の鉄鋼・アルミ関税を発動。さらに4月2日には、相互関税や自動車関税を予定している。”【3月14日 毎日】という状況。

確かなのは、‟米国発の全面的な貿易戦争の様相を呈してきた”ということ。

****鉄鋼・アルミ関税に各国反発 全面的貿易戦争の様相****
ドナルド・トランプ米大統領が鉄鋼・アルミニウムを標的に25%の追加関税を発動したのを受け、主要な貿易相手国・地域は12日、相次いで報復措置を発表した。これに対し、トランプ氏はさらなる対応を宣言。米国発の全面的な貿易戦争の様相を呈してきた。
欧州連合は4月以降、総額280億ドル(約4兆1000億ドル)相当の米国からの輸入品に報復関税を段階的に導入すると発表。カナダは13日から、207億ドル(約3兆円)相当の米産品に追加関税を課すと表明した。中国は、「必要なすべての措置」を講じるとした。

EU欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は、バーボンウイスキーからオートバイに至るまで適用されるEUの報復措置は「強力だが適切」なものだと主張。

これに対しトランプ氏は記者団に、報復措置に「当然」対応するとし、米国はEUとの「金融戦争に勝つ」と語った。

一方、欧州最大の輸出立国、ドイツのオラフ・ショルツ首相は、米国の関税政策を「間違っている」と非難し、インフレ高進を警告。中国外務省は「貿易戦争に勝者はいない」と批判した。

日本は、関税適用から除外されなかったことに遺憾を表明。オーストラリアは不当だと反発しながら、英国とともに、報復には及ばなかった。メキシコも直ちには報復しないと表明、ブラジルは反応せずとの姿勢を示した。 【3月13日 AFP】
********************

こうした関税措置は報復の連鎖を生んでいます。

****報復の連鎖…EUの“アメリカ産ウイスキー50%報復関税”受けトランプ大統領がワインに200%関税…「反撃する決意」EU再反発****
アメリカのトランプ大統領は13日、EU(ヨーロッパ連合)がアメリカ産のウイスキーへの追加関税を撤廃しなければ、ワインなどの酒類に200%の関税を課す考えを示しました。

EUは、アメリカによる鉄鋼・アルミニウム関税への対抗措置として、アメリカから輸入するウイスキーなどに4月1日から報復関税を課すことを決めています。

これについてトランプ大統領は自身のSNSで「EUがウイスキーに50%という厄介な関税を課した」と指摘した上で、「撤廃されなければフランスやEU加盟国から輸入されるワインやシャンパン、アルコール製品に200%の関税を課す」と投稿しました。

これに対してフランスのサン=マルタン貿易担当相は、SNSで「ヨーロッパ委員会やパートナーとともに反撃する決意を固めている。脅しに屈することなく、常に自国の産業を守っていく」と反発しています。【3月14日 FNNプライムオンライン】
******************

さすがにEUもビビったのか、4月中旬に先延ばしにするとしていますが、生産者の不安は消えません。

****「まず理解できない」フランス・パリのワイン生産者や農家から不安の声 「EU産ワインに200%の関税」発動されれば約15兆円損失との試算も****
アメリカのトランプ大統領が「EUのワインに200%の関税をかける」と警告する中、戸惑う生産者や農家の思いをフランス・パリで取材しました。

トランプ政権がEUからの鉄鋼とアルミニウムに追加関税を課したのに対抗し、EUは4月1日からアメリカ産のバーボンウィスキーなどに関税を課すとしていましたが、4月中旬に先延ばしにすると明らかにしました。

これに先立ち、トランプ大統領は「EUのワインに200%の関税をかける」と警告していました。

こうした中、パリで21日から始まったワインの見本市には200を超える小規模のワイン経営者や農家が一堂に会し、例年約1万人の客が訪れます。

農家からは「まず理解できないし、それから怒りも少しある」「アジアやヨーロッパで新たな輸入業者を見つけて補おうと考えている」といった声が聞かれました。

フランスにとってアメリカはワインの最大の輸出先で、今回、200%の関税が発動されればフランスで920億ユーロの損失が出るとの試算もあります。【3月22日 FNNプライムオンライン】
*********************

生産者の不安・とまどいはアメリカ・相手国を問わず共通です。

****米中貿易戦争がエスカレート、米国の農家は耐えられるのか―独メディア****
2025年3月3日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、中国が米国による追加関税への報復措置を検討する中で「米国の農家は耐えられるのか」と題した記事を掲載した。(中略)

環球時報が中国による報復措置について「米国産農産物に対する追加関税の可能性が高い」と報じていることに言及。中国は第1次トランプ政権期の18年に、大豆や牛肉、豚肉、小麦、トウモロコシ、高粱(コウリャン)など主要な米国産農産物に対し最大25%の報復関税をかけ、中国による米国産農産物輸入額が23年は前年比20%減、昨年は同14%減と減少を続けているものの、それでも輸入総額は約300億ドル(約4兆5000億円)に上っており、中国は依然として米国農産物の最大市場であることを指摘した。

そして、もし中国が新たな報復関税を発動すれば米国産農産物の対中輸出はさらに減少する見込みであり、米国の農業関係者や商業者は中国の需要の減少を補うために他の市場を探し始めているものの、中国市場は彼らにとって「代替不可能」な存在であり、中国市場抜きにはやっていけない状況は変わらないと論じた。(後略)【3月4日 レコードチャイナ】
******************

【トランプ大統領「全く曲げるつもりはない」】
報復関税の連鎖を呼ぶ関税戦争について、さすがに実業家でもあるマスク氏は関税の負の側面を憂慮しているようです。

****マスク氏率いるテスラ トランプ政権の関税政策に「競争力を失う」と慎重な対応を要請****
イーロン・マスク氏が率いる電気自動車大手「テスラ」がトランプ政権の関税政策について、テスラが報復関税の対象となれば競争力を失う可能性があるとして、アメリカ政府に慎重な対応を求めました。
テスラはUSTR(アメリカ通商代表部)に宛てた11日付の書簡で、政権の関税政策について「公正な貿易を支持する」としつつも「うかつにもアメリカ企業が損害を被ることのないように」と要望しました。

過去に起きた貿易摩擦を念頭に、相手国の報復関税に直面することを避けたいとしています。

また、関税の上昇に伴う国内のサプライチェーンの問題点を指摘し、「アメリカの製造業者が不当に負担を強いられることがないように」と求めています。

国内企業が対応する時間が必要だとして、政権が相手国へ関税を発動する「実施時期についても考慮すべき」と指摘しています。

テスラを巡っては株価が大幅に下落していて、マスク氏がトランプ政権のもとで推し進める人員削減などへの反発が業績に悪影響を及ぼすのではとの懸念が広がっています。【3月14日 テレ朝news】
********************

今のところトランプ大統領の考えは変わらないようです。

****トランプ氏、関税による景気後退の可能性巡り直接の言及避ける****
トランプ米大統領は9日に放送されたFOXニュースの番組「サンデー・モーニング・フューチャーズ」のインタビューで、関税政策によって米国が景気後退に陥るかどうか直接的な言及を避けた。

年内の景気後退入りを想定しているかと聞かれたトランプ氏は「われわれは非常に大きなことを実行しているので、一定の経過期間が存在する。少し時間はかかるが、われわれにとって必ず素晴らしい事態になると思う」とだけ語った。

トランプ氏は先月2日、包括的な関税が国民にとって「短期的な」痛みをもたらす可能性があると発言していた。

ただ側近や政府高官は関税の悪影響を繰り返し否定している。

9日にはラトニック商務長官がNBCテレビの「ミート・ザ・プレス」で、関税を通じて一部の外国製品の価格は高くなるが、逆に国産品は割安になると主張。「米国が景気後退に突入することは絶対にない」と断言した。【3月10日 ロイター】
********************

****トランプ氏、関税引き上げの考え「曲げるつもりない」 市場に不安****
トランプ米大統領は13日、金融市場に不安を与えている関税引き上げについて「全く曲げるつもりはない」と述べ、たとえ米経済に打撃を与えるとしても検討中の関税を強行する姿勢を示した。ホワイトハウスで記者団の質問に答えた。

関税政策を修正する可能性を問われたトランプ氏は「鉄鋼もアルミニウムも自動車も、全く曲げるつもりはない。我々は何年もの間、ぼったくられ続け、不要なコストを負担させられてきた」と明言。欧州連合(EU)などから米国は不当な扱いを受けてきたとの持論を改めて展開し、米国に高率の関税を課す国に同程度の関税を発動する「相互関税」などを、予定通り実行する考えを示した。(後略)【3月14日 毎日】
***********************

【トランプ関税に関する幾つかの論点】
細かく取り上げたらきりがないので、トランプ関税に関する総論的な指摘を要点のみいくつか。

****トランプ氏の「対等関税政策」は本当に米国に有利か?国際貿易秩序崩壊の可能性も―独メディア***
(中略)トランプ大統領が対等関税を発動する背景について、米国が国際貿易で不公平に扱われ、各国における米国製品への関税が、米国による輸入関税より高いため、貿易の不均衡すなわち貿易赤字が生じているとの認識を持っていると分析する一方で、経済学者からは「ドルが世界的な準備通貨である以上、米国が国際貿易で大規模な貿易赤字を維持してもドルの流通が活発になり、外国に流出したドルが株式投資や不動産購入によって戻って来ることを考えれば、実際には(低関税の貿易赤字という現況は)米国にとって有利に働く」との見方が出ていることを紹介した。

また、経済学者たちはトランプ大統領による関税措置が米国の輸入商品の価格を引き上げ、インフレを悪化させる可能性があるとも警告しているとし、中国、カナダ、メキシコに対する関税が全て効力を発揮した場合、米国の消費者価格は最大0.7%上昇する可能性があるというS&Pグローバル・レーティングスの推計を紹介。

関税政策によって米国内の製造業者や小売業者は恩恵を受けつつも、一方で原材料の輸入コストの上昇やサプライチェーンの混乱にも直面することになると指摘した。

さらに、米国の輸出業者は貿易相手国による報復措置に苦しむ可能性があり、中国、カナダがすでに報復措置を発表し、EU加盟国内でも報復を示唆する声が上がっており、他の国々も報復の流れに追随するとの予想が出ているとした。(後略)【3月11日 レコードチャイナ】
*********************

トランプ大統領の狙いは声高に叫んでいる「生産のアメリカの回帰」ではなく、「消費税の一種の導入による財源確保」にあるとの指摘も。

****生産のアメリカ回帰は起こらない? トランプ関税に隠された「真の狙い」****
(中略)いったいトランプは何を考えているのか。本人談にしたがえば、「麻薬と不法移民の流入を阻止する」「不当な通商慣行をただす」「国内製造業の復活」が目的という。がしかし、本当の狙いは別のところにあると、私は考えている。

トランプの本命は、4月2日から始まる全世界向け一律関税であり、これについては発動の延期も対象の緩和もない。なぜそう考えるのか。以下、説明してみたい。

トランプ関税の真の狙いはどこに?
まず、関税とはどのように徴収されるものか。(中略)最終的には消費者が負担する。つまりこれも、消費税の一種と言い換えることもできるだろう。とりわけ、対象国や対象品を絞らず、広く一律に課した関税であれば、「輸入全品を対象にした消費税」に近しい。

(中略)アメリカの場合、州単位で類似の間接税制はあるが、国全体では消費税の類は、存在しない。同国では、歳入と歳出のギャップが年2兆$に迫り、国債発行残高はGDP比120%を超える財政状況のため、新規財源として消費税制度は喉から手が出るほど欲しいだろう。

ただ、日本を見てもわかる通り、消費税に対しては左派・右派問わず、猛烈な反発が起きる。ましてやアメリカでは、税金不払いを標榜するティーパーティ運動や、小さな政府を強く志向するフリーダムコーカス(自由議員連盟)の影響力が強く、彼らはトランプ支持層とも重なる。だから、口が裂けても「新規に消費税を導入する」などと言えはしない。

そこで、「関税」の登場だ。「麻薬と不法移民対策」「工場の国内回帰」などのお題目で擬装しているが、一皮むけば、単なる大型間接税に他ならない。(後略)【3月17日 海老原嗣生氏 PHPonline】
*******************

トランプ関税は結局のところアメリカの消費者が負担することになる・・・というのは、多くの論者でほぼ共通した認識です

****「トランプ関税」の本当の敗者は米国の消費者…どうなる?米国抜きの世界経済、中国に好機を与える可能性も****
BRICSの概念を提唱した元ゴールドマン・サックス会長で元英国財務大臣のジム・オニールが、2025年2月24日付のProject Syndicateで、トランプが関税措置を政策手段とすることで、世界各国は米国市場を離れ、結局米国は孤立し米国の消費者が敗者となると論じている。

(中略)米国は他国に比較し国内貯蓄率が恐ろしく低く、所得と富の不平等が著しい。もし米国をより偉大な国にするというなら、財政状況を改善し、特に貧困層の所得を幅広く増加させ、より包摂な成長を達成する必要があろう。

(中略)トランプとその側近は、米国の主要貿易相手国に対して関税引き上げの脅しをかけ続けて、米国への輸入全体を減らすことが、物価上昇を通じて、または、米国の貯蓄率を上げざるを得ないことで、米国の消費者に害を及ぼすという事実にも平然としているように見える。

米国は世界の GDPの15〜26%を占めているとはいえ、それ以外の世界経済はその3〜5.5倍はあり、他の国々が米国の消費者に頼ることなく、多角化すれば良いと考えることは容易に想像できる。(後略)【3月19日 WEDGE】
*****************

そもそもトランプ関税には、経済的目標を直接的に追求する場合に発動される「実効関税」と、政治的な譲歩や交渉の駆け引きを目的とした「ディール関税」の二つがあるとの指摘も。

****トランプ政権発足から2カ月“トランプ関税”構成する「実効関税」と「ディール関税」の背後にある戦略的意図は****
(中略)
トランプ政権が使い分ける「実効関税」と「ディール関税」
まず実効関税とは、貿易収支の改善を直接的な目標とし、輸入品に対する価格障壁を設けることで国内生産を保護し、輸入依存度を低減させるものである。例えば、米国が長年抱える対中貿易赤字を是正するため、中国からの特定製品(例:電子機器や鉄鋼製品)に高関税を課すケースがこれに該当する。この場合、関税は経済的成果を定量的に測定可能な形で設計される。

対して、ディール関税は、相手国との交渉において譲歩を引き出すための「脅し」として機能する。関税の導入自体が最終目的ではなく、交渉のテーブルに相手を着かせるための手段である。例えば、カナダやメキシコとのNAFTA再交渉時に見られたような、関税をちらつかせて貿易協定の改定を迫る手法が典型例である。

そして、この二面性は単なる通商政策の違いに留まらず、国家安全保障や地政学的優位性の確保に直結する。実効関税は、産業基盤の強化やサプライチェーンの自国回帰を促し、長期的な経済的レジリエンスを高める。

一方、ディール関税は、短期的な外交成果を追求しつつ、相手国との力関係を再定義するツールとして機能する。

トランプ政権がどちらの関税を採用するかは、その時々の経済状況や国際関係の文脈に依存するが、いずれにせよ経済安全保障の強化が背後にあることは明らかである。(後略)【3月19日 Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹氏 FNNプライムオンライン】
****************

いずれにしても、本来は膨大な準備を要する関税変更への拙速とも思える対応は恣意的に運用される懸念がるとも。

****トランプ政権「相互関税」に恣意的運用の懸念 4月2日公表 国ごと税率、広範な算出基準****
トランプ米政権が4月2日に公表する「相互関税」の制度設計を急いでいる。相手国と同水準まで関税を上げるとした相互関税について、米政府は相手国の税率だけでなく、非関税障壁なども考慮し、国ごとに一つの関税率を決める見込みだ。

ただ、200カ国近くある貿易相手ごとに、客観的で公正な数値を短期間に算出するのは困難で、恣意(しい)的に運用される懸念がぬぐえない。(中略)

相互関税について、CSISのラインシュ氏は「貿易ルールを無視し、小国をいじめる中国と同じような行動を、米国がするのだと世界に示す」ようなものだと指摘している。【3月23日 産経】
********************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

欧州 トランプ大統領の「欧州離れ」に対し、独自の安全保障対策を探る動き加速 ロシアは反発

2025-03-22 22:41:04 | 欧州情勢

(【3月7日 テレ朝news】)

【トランプ大統領の「欧州離れ」「欧州軽視」】
トランプ大統領による急激な国際政治・経済の変革のひとつがウクライナに関してウクライナ・欧州の頭越しにロシアと進む交渉に見られるような「欧州離れ」「欧州軽視」とも言える動きで、その背景には欧州の地盤沈下があります。

****トランプはまさに暴走機関車!枚挙にいとまがない暴政、ロシア支持の暴挙…なぜ国民に“支持”されるのか?広がる「唯一超大国」論****
(中略)このように、世界を大混乱に陥れてまで自己主張と強圧的姿勢を取り続けるトランプ氏の態度は、第一次政権(17~21年)当時と比較しても、異常なほど際立っている。

トランプ暴走の背景にあるのが、近年のグローバル・パワー・シフトだ。具体的には、EUの地位低落、中国経済の不振の二つがある。

まず、EUについては、01年「9・11テロ」以後、大規模なテロとの戦いが長期化するにつれて米国の足かせとなり、とくに07年以来、同国経済の減速が露呈し始めたころから、欧州諸国の間では、米国との「デカップリング(切り離し)」論が台頭しつつあった。

そして一時は、「アメリカ一極支配」から脱し、独自の通貨「ユーロ」に根差した独自の経済体制、さらには独自の新たな政治機構の樹立まで唱える動きまで見え始めていた。

ところがその後、アイルランド、ギリシャ、ポルトガル、イタリアなど加盟国の間で深刻な財政危機や信用不安が露呈したほか、20年には、英国がEU離脱に踏み切ったことなどをきっかけとして、EUそのものの地位低落を招き、今日に至っている。 

とくに、英国離脱後のEU経済の停滞は深刻化してきている。ドイツ経済を見ると、19年第4四半期以降、昨年末まで5年間ほぼ横ばい状態を続けており、成長見通しも立っていない状態だ。同期間中のフランス、イタリア、スペイン各国経済も、成長が見られるものの、2.9~5.6%程度にとどまっている。

この間、11.4%の成長を記録した米国経済との差は広がる一方だ。「Capital Economics」の指摘によると、停滞要因として、人口動態、ハイテク分野の起業家精神欠如など、経済構造的問題が挙げられるという。

10年ほど前までは、欧州安全保障の米国依存からの脱却をめざし、独自の「欧州軍」創設構想まで持ち上がったことがあったが、その後、足踏み状態が続いている。

それどころか、地続きの隣国であるウクライナの安全保障確保でさえも、それぞれ自国の経済的事情から立ちすくみ、依然として米軍依存から脱却できていない。

3月に入り、トランプ―ゼレスンキー首脳会談決裂を見かねたマクロン仏大統領はじめEU各国首脳が、ようやく欧州諸国による対ウクライナ軍事支援増強に向けて動き出したが、各国の思惑があり、具体的にどのような安保強化策が打ち出せるかは不透明だ。

トランプ政権が、ウクライナ休戦協定締結に向けて、欧州同盟諸国抜きでロシアと直接交渉に乗り出したのも、その背景には明らかに、EU地盤沈下がある。【3月10日 WEDGE】
*******************

トランプ大統領は第1次政権の2018年にも貿易問題で、「我々には多くの敵がいると考えている」と発言し、そのうえで「EUは敵だと思う」とも語っています。「アメリカを利用している」とも。安全保障面でも欧州の負担の少なさを事あるごとに批判しています。

これまでは欧州に「カネをもっと出せ!」と主張してきたトランプ大統領ですが、いよいよNATOから距離を置く姿勢も報じられています。

****トランプ政権がNATO軍最高司令官ポストの放棄検討と米報道 議会は懸念****
米NBCニュースは19日までに、米軍の指揮官が担ってきた北大西洋条約機構(NATO)欧州連合軍の最高司令官ポストを手放すことをトランプ政権(共和党)が検討していると報じた。政権が進める支出削減に向けた米軍再編案として浮上しているという。報道内容に関し議会共和党から懸念の声が上がった。

報道によると、国防総省は米軍の司令部や部隊の大幅再編を検討していて、その1つとしてNATO欧州連合軍の最高司令官ポストを手放す案が出ている。同ポストは約75年にわたり米軍の大将級が務めてきた。

NATO欧州連合軍の最高司令官は現在、米欧州軍司令官を務めるカボリ陸軍大将が兼任し、ロシアの侵略を受けるウクライナへの支援任務も担う。

ポストを手放すことになった場合、NATOを牽引(けんいん)してきた米国の立ち位置を変えることにつながる可能性がある。(中略)

上院軍事委員会のウィッカー委員長(共和党)と下院軍事委員会のロジャース委員長(共和党)は19日、報道を受けて「懸念」を表明する共同声明を発表した。

NATO欧州連合軍最高司令官のポスト放棄や米軍再編などの対応は「米国の抑止力を弱め、敵対国との交渉における米国の立場を損なう危険性がある」と指摘。議会との協力や関係部局との調整がない大幅な米軍再編は「受け入れない」と述べた。【3月20日 産経】
********************

【欧州で強まる米依存脱却の動き “はずみ”になりそうなドイツの国防費拡大を可能とする憲法改正】
こうしたトランプ大統領の「欧州離れ」「欧州軽視」とも言える動きに対し、ロシアの脅威のもと、欧州ではこれまでの安全保障上のアメリカ依存を見直そうとする動きが広がっています。

その欧州の動きの“はずみ”になりそうなのが、主要国ドイツにおける国防費拡大を可能とする憲法改正でした。

****ドイツ連邦議会で‟財政規律緩和”の憲法改正案可決 国防費拡大が可能に****
ドイツの連邦議会で、財政規律を緩和する憲法改正案が可決されました。対ロシアを念頭に急務とされる「国防支出の拡大」について、厳しい財政ルールから除外されることになります。

ドイツの下院にあたる連邦議会では18日、財政規律を緩和する憲法改正案が賛成多数で可決されました。

改正案では、国内総生産=GDP比の1%を超える国防支出や、新たに設ける5000億ユーロのインフラ投資への基金に対して、国債発行を抑制するルールから除外されます。ドイツでは、厳しい財政規律が長年維持されてきましたが、対ロシアを念頭にヨーロッパで独自の防衛力強化が求められていて、方針を大転換したことになります。

今回の改正案は、先月の総選挙で勝利したメルツ氏の保守政党と、ショルツ首相の中道左派政党が中心となって協議してきました。この2党で連立協議も進んでいて、早ければ来月にもメルツ首相が誕生する見通しです。【3月19日 TBS NEWS DIG】
*********************

これまでは、憲法で、財政赤字をGDPの0.35%未満に抑える「債務ブレーキ」が定められていましたが、改正案では、GDPの1%を超える国防費が「債務ブレーキ」の対象から外れます。

このドイツの動きはEUが掲げる再軍備計画にも大きな追い風となります。

****EU、「再軍備」125兆円=ロシアの脅威に対抗―欧州委員長****
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は4日、ウクライナへの侵攻を続けるロシアの脅威に対抗するため、8000億ユーロ(約125兆円)規模の「再軍備計画」を表明した。

トランプ米政権は欧州の安全保障への関与に消極的な姿勢を示しており、EUは6日、ベルギー・ブリュッセルで特別首脳会議を開いて計画の詳細を議論する。

フォンデアライエン氏は記者発表で、複数のEU加盟国による防空システム、ミサイル、ドローンなどの共同調達を促す融資制度の新設を首脳らに書簡で提案したと説明。

EU加盟国に課された財政規律の緩和やEU予算の活用を含め、再軍備計画が実行されれば「安全で強靱(きょうじん)な欧州のため、8000億ユーロ近くの防衛費を捻出できる」と訴えた。【3月4日 時事】
******************

こうした動きの背景にあるのは“トランプ米政権は欧州の安全保障への関与に消極的”という、もっと平たく言えば、ロシアがウクライナを越えて更に欧州に迫るいざというときアメリカは欧州を守ってくれないかもしれないという不安です。

ドイツの次期首相が確実視されているメルツCDU党首は「(トランプ大統領は)欧州の運命にあまり興味を持っていない」とも。 ドイツの憲法改正を、マクロン仏大統領は「歴史的な採決だった」と評価しています。

****欧州再軍備に追い風 ドイツ基本法改正案可決 保守派の次期首相、「米国重視」を修正****
ドイツ連邦下院は18日、基本法(憲法に相当)改正案を可決し、メルツ次期首相は国防増強とインフラ整備で大型の財政支出を目指す姿勢を鮮明にした。ドイツが緊縮財政からの脱皮に動き出したことは、欧州連合(EU)が掲げる再軍備計画にも大きな追い風となった。(中略)

18日、ベルリンを訪問したマクロン仏大統領は記者団に、「歴史的な採決だった。ドイツ、欧州の双方にとってよいニュースだ。投資を促すことにもなる」と議会の動きをたたえた。

北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長も、SNSで「NATO防衛力にも大きな変化をもたらす」と歓迎した。

ドイツはEUの域内総生産(GDP)の4分の1を占める経済大国で、基本法が改正されれば波及効果は大きい。

メルツ氏は2月の総選挙で保守系、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が勝利した後、CDU党首として首相就任を確実にした。CDUは東西冷戦中の西ドイツ時代から、防衛政策で米国との同盟関係を最重視してきたが、メルツ氏は「欧州の結束」優先の方針に転じた。

テレビ討論会で、米国は「欧州の運命にあまり興味を持っていない」と述べ、トランプ米政権の「欧州離れ」に警鐘を鳴らした。18日には下院採決を前に、「欧州の防衛体制に向けた最初の一歩」と法案の意義を強調した。

債務ブレーキは2009年、CDU出身のメルケル前首相時代に定められた。財政均衡を重視するドイツの姿勢は、11年に始まったユーロ圏債務危機で貫かれ、EUの緊縮財政に受け継がれた。加盟国の財政赤字の膨張を押さえ、EU全体の財政健全化に貢献する一方、起債を伴う大型投資の足かせにもなってきた。

ドイツの国防費は昨年、GDP比2%。フランスは3〜3・5%、英国は3%を長期的目標に掲げる。(後略)【3月19日 産経】
**********************

今回改正案は21日にドイツ連邦参議院(上院)でも採択されています。

【フランス・マクロン大統領のフランスの“核の傘”を欧州に広げようという動き】
もうひとつ、安全保障面での欧州の動きとしては、フランス・マクロン大統領のフランスの“核の傘”を欧州に広げようという動きがあります。

****マクロン仏大統領「核抑止力で欧州の同盟国守る」 議論開始を表明****
フランスのマクロン大統領は5日のテレビ演説で、自国が保持する核兵器による抑止力を欧州全体で行使するための議論を開始する意向を表明した。

トランプ米大統領が、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの軍事支援の一時停止を命じ、欧州の防衛にも消極的な姿勢をみせる中、ロシアの脅威に対し、欧州全体の軍事力、抑止力を強化し、これまでの対米依存からの脱却を加速させる。

マクロン氏は演説で、ウクライナとロシアの停戦に向け「ウクライナがロシアと強固な平和を交渉できるようになるまで、ウクライナの抵抗を支え続けなければならない」と述べ、ウクライナが求める停戦後の安全の保証を支援する意向を強調した。

またロシアが多額の国防費支出で軍事力を大幅に増強していると指摘。「欧州諸国は自国を守り、さらなる侵略を抑止しなければならない」と語った。そのうえで、英国と並ぶ核兵器保有国としてフランスが「抑止力によって欧州の同盟国を守るための戦略的議論を開始することを決めた」と述べた。

トランプ氏はウクライナへの軍事支援の一時停止を命じたほか、停戦に向けた協議でも、ロシア寄りの姿勢が目立っている。マクロン氏は「米国が我々の側にとどまることを信じたい。だが、そうでない場合の備えも必要だ」と述べ、「防衛および安全保障問題における欧州の独立性を強化しなければならない」との認識を示した。

ロイター通信によると、フランスは290発の核弾頭を保持しており、潜水艦や航空機で核ミサイルを運用している。

2月のドイツ総選挙で第1勢力となった野党統一会派「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」の一角、CDU党首で次期首相となる可能性が高いメルツ氏は選挙後、米国への防衛依存を低減し、仏英の核抑止力による防衛の拡張について議論する意向を示していた。

一方、欧州各国首脳はウクライナ支援のためにロンドンで2日に開かれた会議で、フランス、英国を中心に欧州諸国で「有志国連合」を形成し、停戦後のウクライナに平和維持部隊を派遣する方針で一致した。

ただ、米国は一貫してウクライナに米軍を派遣しない方針を変えておらず、当初期待された平和維持部隊の後方支援なども実現が見通せない状態となっている。マクロン氏は演説で、10日以降に有志国の軍司令官をパリに招き、具体策を協議する方針を明らかにした。【3月6日 毎日】
****************

マクロン大統領はドイツの次期首相となる見通しのメルツ氏からの要請を受け、今回の決断に至ったとしています。

ロシアはマクロン大統領のこうした動きを「ロシアの脅威だ」などと批判し、「ロシアがヨーロッパに対して戦争を準備しているという非難はナンセンスだ」などと主張しています。【3月6日 テレ朝newsより】

【欧州 ウクライナ軍支援強化の取組 ハンガリー・オルバン首相は反対】
欧州の主要国やカナダ、ウクライナなどは3月15日、停戦後のウクライナを守る「有志連合」の結成に向けて、オンラインの首脳会議を開き、ロシアへの圧力を強化することで合意しました。

また、EUの執行機関である欧州委員会のフォンデアライエン委員長は3月18日、アメリカの焦点がインド太平洋地域にシフトする中、ロシアは欧州の民主主義国家との対決に向けて準備を進めているとの見方を示し、ロシアへの警戒を明らかにしています。

ウクライナ問題に関してEUは、20日の首脳会議でウクライナへの軍事支援強化などを盛り込んだ文書についてロシア寄りのハンガリーが反対したため合意に至らず、残る26カ国で採択しました。3月6日のEU特別首脳会議でも、オルバン首相の反対で支援に合意できなかっ経緯があります。

****EU首脳会議でウクライナ軍事支援強化持ち込んだ文書が“ロシア寄り”ハンガリーの反対で合意至らず「反ヨーロッパ的」ゼレンスキー大統領が批判****
EU(ヨーロッパ連合)の首脳会議で、ウクライナへの軍事支援強化などを盛り込んだ文書についてハンガリーが反対したため合意に至らず、残る26カ国で採択しました。

20日に開催された首脳会議にはウクライナのゼレンスキー大統領もオンラインで参加し、ウクライナに対する支援策について話し合いました。

協議の結果、EUはウクライナへの軍事支援を強化することや、ロシアに対して責任を追及することなどを盛り込んだ文書をまとめました。

しかし、ロシア寄りの姿勢を示すハンガリーのオルバン首相が反対したため合意に至らず、文書は残る26カ国で採択しました。

これについてゼレンスキー大統領は「同盟全体の決定を1人が阻止するのは反ヨーロッパ的だ」とオルバン首相を批判しました。【3月21日 FNNプライムオンライン】
********************

ウクライナの将来的な安全保障に向けた支援計画を協議するための会合もイギリスで開かれ、およそ30の有志国の軍事担当者らが参加しました。

“停戦後のウクライナへの平和維持部隊の派遣については「ウクライナ軍は今や、ヨーロッパ最強の軍隊の一つになった。我々はその能力を強化し、周辺に配置することについて話している」と述べ、ウクライナ軍を支援するための“限定的な派遣”となる可能性を示しました。”【3月21日 TBS NEWS DIG】

こうした欧州の一連の動きをロシアは再び強く批判。

****ロシア、欧州の「軍国主義化」計画を批判****
英国でウクライナの安全の保証に向けた西側諸国の軍高官による会合が開かれたのを受け、ロシア大統領府(クレムリン)は20日、欧州諸国が平和を求めずに「軍国主義化」を計画していると非難した。

フランスや英国などの欧州主要国は、ドナルド・トランプ大統領が1月に就任して以来、米国がもはや欧州防衛に尽力していないとの懸念から、軍事費の増額を模索している。

ロシアはトランプ氏との関係を密にするにつれ、3年以上続くウクライナ侵攻をめぐる怒りの矛先を欧州に振り向け、和平への障害は主に欧州連合と英国だと非難している。

クレムリンのドミトリー・ぺスコフ報道官はAFPを含むメディアに対し、「EUと欧州諸国からのシグナルは、大部分が欧州の軍国主義化計画に関するものだった」「欧州は自らの軍国主義化に着手し、戦争屋じみてきた」と述べた。

英国のキア・スターマー首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ロシアとウクライナの停戦後、ウクライナに平和維持部隊を派遣する用意があると述べているが、ロシアはこの考えに猛反対している。

マクロン氏は、フランスの「核の傘」を欧州全域に拡大することについて議論を始めるとも述べている。
ロシアのセルゲイ・ショイグ安全保障会議書記は20日、こうした発言は「現在欧州にまん延している反ロシア感情を反映」していると指摘した。

また、ドイツの次期首相就任が確実視されるキリスト教民主同盟のフリードリヒ・メルツ党首が、ロシアは「欧州侵略戦争」を仕掛けていると主張して国防費の大幅増額を提案したことについて、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は「ドイツの政治エリートの歴史的復讐(ふくしゅう)心」を反映したものだと指摘。

ロシア側に攻撃計画はないが、「ドイツがそのような発言をするということは、ドイツには攻撃計画があるということだ」と付け加えた。 【3月21日 AFP】
*******************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする