(コンゴ・ゴマ郊外の難民キャンプ 1年前の様子です。
“flickr”より By cyclopsr
http://www.flickr.com/photos/endrevestvik/2374208984/)
【再び内乱 再びツチ・フツ対立 再び資源争奪】
コンゴでの戦闘が激化しています。
****コンゴ東部で戦闘激化、政府軍も退却 国際紛争化の懸念*****
アフリカ中部コンゴ(旧ザイール)東部で、政府軍と反政府勢力との戦闘が激化している。反政府側は中心都市ゴマに接近、政府軍は退却を始めている。ルワンダが関与している可能性があり、国際紛争化の懸念も出ている。
戦闘は8月に始まり、10月下旬から激化。08年1月に結ばれた停戦協定は破られた。国連は、この数カ月で20万人が家を追われたと推計する。
反政府勢力は元コンゴ軍の将軍ヌクンダ氏の「人民防衛国民会議(CNDP)」。94年のルワンダ虐殺の後、虐殺に関与したフツ族がコンゴに逃げて民兵化した。ヌクンダ氏は、このフツ族民兵から少数派ツチ族を守ることを名目にしている。
29日にはCNDPがゴマの北12キロの避難民キャンプ付近まで進攻したため、約4万5千人の避難民が逃げ出した。政府軍も退却し、住民の自動車やバイクを奪って逃げる兵士もいるという。 【10月30日 朝日】
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記事にあるようにCNDPとコンゴ政府は1月に停戦していますが、紛争の背景には、コンゴ東部地域から隣国ルワンダを舞台とするツチ人勢力とフツ人勢力の政治的対立があります。
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ルワンダで94年、フツ政権によるツチ人大虐殺が起き、報復を恐れたフツ人は国境を越えてコンゴに逃げ込んだ。その中の一部の強硬派フツ人は武装勢力「ルワンダ民主解放勢力(FDLR)」を結成し、コンゴ政府がこれを支援した。このためヌクンダ将軍ら政府軍内のツチ人兵士はこれに反発し、軍を離脱して政府とFDLRを相手に武装闘争を始めた。
コンゴ東部地方には武装勢力が乱立し、ツチ、フツの両勢力ともこの地方で取れる各種鉱物資源を資金源にしているとみられている。各勢力とも住民虐殺などの残虐行為を働くことで知られ、ヌクンダ将軍には戦争犯罪を主導した疑いで国際刑事裁判所から逮捕状が出ている。【07年10月16日 毎日】
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遡ると、上記のフツ・ツチの対立とダイヤモンドなどの鉱物資源をめぐる争いが絡み合って、政府側を支援するアンゴラ、ナミビア、ジンバブエ、反政府側を支援するウガンダ、ルワンダ、ブルンジなど周辺国を巻き込んで“アフリカ史上初めての世界戦争”とも言われた内乱が98年から02年7月まで続きました。
更に遡ると、ルワンダのジェノサイドに行き着きます。
その意味では、今回の紛争は“またか・・・”という感じもします。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは9月29日、以前武装勢力に拉致されて少年兵に仕立てられた後、いったん解放されていた子供たちが再び戦闘に駆り出されている実態を訴える調査報告書を公表しています。
****元少年兵を「再徴集」****
報告書は、東部の北キブ州で、武装解除計画に基づき家族の元に戻った少年兵の半数近くが再徴集された恐れがあると指摘。過去の戦闘経験が生かせるとみられているためで、逃げ出そうとした者は、見せしめのために他の子供たちの前で拷問されたり、殴り殺されたりしているという。 【9月30日 時事】
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【ドス代表:「MONCは必要なあらゆる手段を講じる」】
今回の紛争で気になっているのは、政府軍が撤退し、ゴマの難民キャンプに迫る反政府軍の矢面に立っているのが国連PKO部隊であること、また、このツチ族を基盤とする反政府軍CNDPをルワンダが支援していると言われているという点です。
国連が展開している最大のPKOである国連コンゴ民主共和国ミッション(MONUC)のアラン・ドス代表は、28日段階で、「ゴマを防衛し人道危機を防ぐため、MONCは必要なあらゆる手段を講じる」と語っています。
難民が流入するゴマでは、市長が「人々は先を争い、市内はパニックだ」と話しているような事態となっています。
MONUCは反政府勢力の進攻を阻止するため武装ヘリコプターを出動させたとも報じられています。
【変わるPKOの武力行使】
もともと、PKOにおいては武力行使は限定されていましたが、ルワンダでのジェノサイドを国連PKOが防げなかったことから、その後は武力行使にも積極的になってきています。
そのことを現実に経験したのも、コンゴでのPKOであるMONUCでした。
2005年3月1日、ネパール、パキスタンなどのPKO部隊約240人が民兵の武装解除のため装甲車で移動中、突然攻撃を受け、これに攻撃用ヘリ3機も動員して反撃し、少なくとも民兵50人以上を殺害したという事件がありました。
国連本部定例記者会見では「このPKOに付与された権限が変わったのか」といった質問が相次ぎました。
報道官は「権限に変わりはない。地域を平静に戻すための断固とした取り組みの一環である」と説明、「任務の範囲内」という認識を示しました。
ただ、今回は、反政府軍CNDPと国連PKO・MONUCの出方次第では、これを数段上回る本格的な戦闘になる可能性もあります。
“MONUC代表ドス氏によると、北キブ州でCNDPの非正規戦闘員と対峙(たいじ)しているのは同国に駐留するMONUC部隊1万7000人のうち6000人足らず”【29日AFP】と報じられていますが、このMONUCの数字については“ゴマには800人しかおらず、増員には数日かかる”【30日朝日】との報道もあり、よくわかりません。
MONUC部隊はインド、パキスタン、バングラデシュ、南アフリカ軍などで構成されています。
潘基文国連事務総長は、「人道的な大惨事に至る可能性がある」と警告しています。
今回、国連PKOは大規模戦闘になっても住民を最後まで守るのでしょうか?
国連のPKO部隊が結果として住民を見殺しにした事例としては、ルワンダのジェノサイド以外にも、95年7月ボスニア・ヘルツェゴビナで起きた、第2次世界大戦後のヨーロッパ最大の惨劇といわれる「スレブレニツァの虐殺」もあります。
国連防護部隊(UNPROFOR)はスレブレニツァに「安全地帯」を設け、ムスリムをそこに避難させていましたが、守備していた400人の軽装オランダ軍は武力で勝るセルビア人武装勢力に強要されるかたちで、このムスリムをセルビア人側に引渡ことになりました。
この結果虐殺されたムスリムは8千人とも言われています。
この事件は、PKOを派遣したオランダにも深い傷跡を残すことになりました。
現在ところ、反政府勢力CNDPは、“ゴマ周辺の避難民を支援する人道支援団体に限り「人道的通行」を許可する”として、意図的な大惨事を起こす考えはないようにも行動していますが、進軍を阻むMONUCに対しては厳しい姿勢を崩していません。
【カガメ・ルワンダ大統領「わたしは人を守る側につく」】
更に、注目されるのは、かつて国連・国際社会に見捨てられたルワンダの対応です。
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コンゴ政府はルワンダ軍が国境を越えてコンゴ軍に攻撃したと非難、アンゴラに支援を求めている。ルワンダ政府は否定しているが、ゴマの北のMONUC拠点も29日、ルワンダ側から砲撃を受けた。【10月30日 朝日】
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当時ルワンダ愛国戦線(RPF)を率い、現在ルワンダ大統領の席にあるカガメ大統領は、目の前で虐殺が行われているときじっと動かなかったUNAMIR(PKOである国連ルワンダ支援団)司令官ダレール将軍のことを「人間的には尊敬しているが、かぶっているヘルメットには敬意を持たない。UNAMIRは武装してここにいた。装甲車や戦車やありとあらゆる武器があった。その目の前で、人が殺されていた。私だったら、絶対にそんなことは許さない。そうした状況下では、わたしはどちらの側につくかを決める。たとえ、国連の指揮下にあったとしてもだ。わたしは人を守る側につく。」と、語ったそうです。
そのルワンダがCNDPを支援して、国連PKO・MONUCと対決することになるのか?
かつてルワンダで何十万もの住民を見殺しにした国連・国際社会へ、“本当に住民を守る気があるのか?守れるのか?”という挑戦でしょうか。