孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イスラエル  NPT再検討会議に反発  ガザ支援船団を攻撃

2010-05-31 22:43:40 | 国際情勢

(5月22日 トルコ・イスタンブールを出港するガザ支援船「Mavi Marmara」と見送る人々 “flickr”より By IHH Humanitarian Relief Foundation/TURKEY
http://www.flickr.com/photos/ihhinsaniyardimvakfi/4638082693/)

【中東非核化構想】
28日閉幕した核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、10年ぶりに最終合意文書の採択にこぎつけましたが、実質的な成果は小幅な前進にとどまったと評価されています。
“「採択とする」。議長が28日夕、最後の全体会合で最終合意文書の採択を宣言すると、会場からまばらな拍手が起きた。大きくもなく、小さくもない。まるで会議の成果を象徴するようだった”【5月29日 毎日】

こうした背景には、“「盛りだくさん」とされた00年会議のように多数の課題を抱えたくない核保有国と、オバマ米大統領が訴える「核兵器なき世界」の追い風に乗り、核軍縮を大幅に進めたい非核保有国の意識の格差があったようだ”【5月30日 毎日】とも言われています。

そうしたなかで最後までもめたのが、イスラエルの核問題を念頭に置いた、中東非核化構想の取り扱いでした。
結局、リブラン・カバクトゥラン議長(フィリピン国連大使)が27日に提示した最終案を原案通り採択しました。
これにより、中東非核化などを求めた中東決議(95年)の履行に関する国際会議を、国連事務総長らが12年に開くことが明記されました。

最大の問題点は、イスラエルを名指するかどうかという問題でしたが、会議への出席を求める国として、NPT未加盟のイスラエルを名指しすることは避けながら、別の文脈で、イスラエルのNPT加盟の重要性に言及した00年会議の最終文書に触れ、すべての中東諸国が非核保有国としてNPTに加盟することを求めるという、中東諸国、アメリカ双方が妥協する形になったようです。

前回会議では、イスラエルをめぐる同様の構図が決裂の主因だっただけに、どういう形であれ、最終文書に「イスラエル」が盛り込まれたことは、アメリカが一定の譲歩をした結果であり、アメリカの姿勢の変化が鮮明となったとも報じられています。【5月30日 産経より】

一方、NPT加盟の非保有国でありながら、平和目的の原子力研究をかくれみのに核開発を進めている疑いが持たれているイランは、会期中、国連安全保障理事会に追加制裁の草案が提示されたため、全会一致による最終文書採択に協力するかどうか懸念されていましたが、最終文書中で名指しの批判が回避されたこともあり、結局は採択に賛成しました。

【オバマ大統領の“確約”】
こうした決定にイスラエルは反発しています。
****決定に従う義務なし=NPT再検討会議を非難―イスラエル首相****
カナダを訪問中のネタニヤフ・イスラエル首相は29日、声明を発表し、28日に採択された核拡散防止条約(NPT)再検討会議の最終文書について、「深刻な欠陥があり、偽善的だ」と非難。「NPT非加盟国のイスラエルは会議の決定に従う義務はない」と述べた。
また、ネタニヤフ首相は「最終文書は中東の現実や中東や世界全体が直面している真の危機を無視している」と述べ、核疑惑の渦中にあるイランが文書の中で言及されなかったことを疑問視した。【5月30日 時事】
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イスラエルはアメリカ・オバマ大統領から、イスラエルの国益を損ねる内容にはならないとの「確約」を得ていたと主張しています。
****「国益損ねないと約束された」、NPT最終文書にイスラエル反発*****
イスラエルの政府高官は30日、ベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相が最終文書採択の前に、イスラエルの国益を損ねる内容にはならないとの「確約」を米国のバラク・オバマ(Barack Obama)大統領からされていたと声明で発表した。
声明は「2週間前、ネタニヤフ首相はイスラエルの戦略と抑止力を大幅に向上させることなどを明確に保障する個人的メッセージをオバマ大統領から受け取った」「イスラエルの重大な国益を損なうような決議が国連(UN)採択されないことを約束された」などとしている。(中略)
ネタニヤフ首相は6月1日に米国でオバマ大統領と会談する。【5月31日 AFP】
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素人的には、イランの核開発疑惑が国連制裁の対象にもなり、イスラエルによる核施設攻撃すら取りざたされるのに、イスラエルの核保有が国際的に放置されるという現状は、やはりダブルスタンダードと言うしかないように思えます。
1日のネタニヤフ首相とオバマ大統領の会談で、今回の問題がどのように触れられるのか注目されます。

【“力”の政策がもたらす孤立化】
今日は、もうひとつ、イスラエル絡みの記事がありました。
****ガザ支援船をイスラエル軍が強襲、10人以上死亡 トルコ強く抗議****
イスラエルによって封鎖されているパレスチナ自治区ガザ地区へ支援物資や援助活動家らを運んでいた支援船団6隻のうちの少なくとも1隻が31日、イスラエル特殊部隊の強襲を受け、イスラエル軍の発表によると少なくとも10人が死亡した。
船団結成に関与したトルコの人道支援団体IHH(Foundation of Humanitarian Relief)のガザ支部はAFPの電話取材に対し、強襲を受けたのはトルコ船籍の船で、トルコ人を中心に15人が死亡したと語った。
一方、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスが運営するアルアクサテレビは、死者は20人に上ると報じている。同テレビは、黒服のイスラエル軍兵士がヘリから船へ降下して船上で活動家たちと衝突する様子や、船の甲板に倒れている負傷者の様子を放映した。

イスラエルの民放チャンネル10によると、攻撃したのはイスラエル海軍の特殊部隊で、船の乗客らから斧(おの)やナイフで反撃されたため発砲したという。
船団は、建材などの支援物資約1万トンや活動家ら約700人を乗せ、31日午前にガザ沿岸の封鎖海域に到達する見通しだった。

トルコ外務省はただちにイスラエル大使を呼び、強く抗議。「イスラエルの非人道的な行動を厳しく非難する」「公海上で発生し、国際法違反に相当するこの遺憾な出来事は、2国間関係に取り返しのつかない結果をもたらしかねない」とする声明を発表した。【5月31日 AFP】
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この支援船団については、次のように報じられており、その扱いが注目されていました。
“30日午後3時(日本時間午後9時)のキプロス出発から約6時間後、支援船団を阻止するため、イスラエルのミサイル艇3隻が北部沿岸ハイファの海軍基地を出発した。ミサイル艇に同乗した記者が電話で伝えたが、すぐに電話を切るよう命じられた。
ガザでは封鎖に反対する活動家らが国際社会に対し、支援船団の保護を求めている。船団は当初、29日にガザに接岸する予定だったが、遅れが重なり、今後24時間以内の接岸が見込まれている。ガザではパレスチナ国旗のほか、船団を派遣したギリシャ、アイルランド、スウェーデン、トルコなどの国旗を掲げた船に乗った漁業関係者らが海に出て待機している。
イスラエル側は封鎖を破ろうとする支援船団の試みを「不法行為」と非難。船団をとらえてアシュドッド港にえい航し、反パレスチナ活動家らの身柄を拘束する構えだ”【5月31日 AFP】

中東の地域大国としての存在感を増しつつあるトルコ・エルドアン政権は、昨年1月の世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で、エルドアン首相がイスラエルのパレスチナ自治区ガザ攻撃をめぐりイスラエルのペレス大統領と激しくやり合い、途中退席するなど、イスラエルへの対抗姿勢を明確にしてきています。

“力”による安全保障を追及し、周辺国との妥協を排し、独自のパレスチナ政策を推し進めるイスラエルですが、一方で地域での孤立化を強めており、長い目で見たとき、こうした強硬策が本当にイスラエルの安全保障に資するのかどうか疑問に思えます。

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韓国海軍哨戒艦沈没事件  中国(PRC)の北朝鮮への対応「please remain calm」

2010-05-30 15:00:25 | 国際情勢

(5月29日 日中韓首脳会議 “flickr”より By KOREA.NET - Official page of the Republic of Korea
http://www.flickr.com/photos/koreanet/4649784748/

【偶発的衝突の懸念】
韓国海軍哨戒艦沈没事件に伴う朝鮮半島情は緊張の度を増しています。
****北が重火器、韓国は潜水艦訓練 強まる偶発的衝突の懸念*****
朝鮮半島情勢は27日、北朝鮮が非武装地帯(DMZ)に対空砲を搬入したことが明らかになり、韓国は対潜水艦訓練を実施するなど、偶発的な軍事衝突への懸念が高まっている。
北朝鮮の朝鮮人民軍総参謀部は27日、黄海上などでの南北間の偶発的な衝突防止のための合意を「無効化する」との通告文を、朝鮮中央通信を通じ発表した。南北協力に関する軍事的保障措置を全面撤回し、開城工業団地への陸路通行遮断の検討に入り、韓国軍の心理戦には警告通り「無慈悲に」対応する-とした。・・・・【5月28日 産経】
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韓国側は、DMZ周辺で拡声器を使った対北宣伝放送を再開するとしていますが、北朝鮮が対空砲などで拡声器を破壊した場合、韓国側も自衛権を発動し反撃する可能性もあり得ます。
また、日本海側の北朝鮮の海軍基地から出航した小型潜水艦4隻については、2隻は帰還していることが確認されましたが、残り2隻の動向はわからず、あらたな韓国漁船などへの攻撃も懸念されています。

「宣戦布告」という言葉も飛び交うようになっています。
“北朝鮮の朝鮮中央通信によると、29日付の労働党機関紙・労働新聞は論評で、韓国が哨戒艦沈没事件を、日米両国と国連安保理に提起する動きを見せていることについて、「われわれに対する宣戦布告と見なし、無慈悲で強力な懲罰で対抗していく」と警告した”【5月29日 時事】
中朝国境地帯に住む北朝鮮住民の間では、「6月4、5日頃に戦争が起きるのでは」といった“Xデー”のうわさが数日前から流れているとも。【5月27日 読売】
こうした互いに対応をエスカレートさせている緊張状態では、偶発的衝突が、双方とも意図しない全面的衝突へ拡大する危険が常にあります。

【中国の“微妙な変化”も】
このような中、注目されているのが中国の北朝鮮への対応です。
安保理での制裁決議にしても中国の同意なしには進みません。韓国は現在、日中韓首脳会談で中国の協力を求めています。
****日韓、中国に共同歩調要請へ 首脳会談2日目****
鳩山首相と温家宝中国首相、李明博韓国大統領は30日午前、韓国・済州島で2日目の首脳会談を開いた。韓国哨戒艦沈没を受けた朝鮮半島情勢で意見交換し、日韓は国連安保理など北朝鮮への対応で中国に共同歩調を取るよう求めるとみられる。鳩山首相は29日の日韓会談でも大統領に安保理への韓国の問題提起を積極支持する考えを伝達。日中韓首脳会談でも同様の見解を表明する見通し。【5月30日 共同】
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中国は従来より、北朝鮮の後ろ盾として北朝鮮を支援する姿勢をとっていますが、今回は従来とは異なる空気も若干あるようです。
中国の姿勢転換を報じる記事もありました。
****中国が韓国寄りに転換か 哨戒艦沈没で*****
ロイター通信は26日、韓国哨戒艦沈没で、韓国と北朝鮮双方の主張と距離を取り、両国に冷静な対応を求めてきた中国が28日からの温家宝首相の訪韓を機に姿勢を変化させ、韓国が求める国連安全保障理事会への問題提起に一定の理解を示す可能性があると報じた。複数の米政府当局者の見方としている。中国は安保理を通じた追加制裁には反対する見通し。【5月27日 共同】
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温家宝首相は28日、韓国を訪問して李明博大統領と会談した際、客観的、公正に判断して中国の立場を決めるとしたうえで、結果によっては「誰もかばうことはしない」と述べ、北朝鮮を無条件に擁護しない方針を示唆しています。
聯合ニュースは「中国政府が一方的に北朝鮮側に立たないという意味に解釈でき、注目される」との韓国側の見方を伝えています。【5月28日 毎日より】
しかし、「中国は正義を主張する責任ある国家として、韓国側と関連国による共同調査を重視する」(29日温家宝首相)という調査重視の基本姿勢は崩していません。
“韓国青瓦台(大統領府)によると、温首相は28日に行った李大統領との会談で「事態を是々非々でえり分け、客観的で公正な判断で立場を決める」と語った。事件に対する中国の中立姿勢は変わらないものの、韓国側はそこに微妙な変化を感じ取っており、今後も、日本のような支持国を多く募ることで、中国の説得を進めたい考えのようだ”【5月29日 毎日】とも。

その中国の北朝鮮への対応については、最近やや距離を置き始めているとも報じられています
****中国が北朝鮮向け支援を制限か 「核融合に成功」報道後*****
北朝鮮メディアが今月12日に「核融合反応に成功」と報道した直後から、中国当局が北朝鮮向けの支援物資の運搬を一部停止し、経済協力プロジェクトの凍結も検討している模様だと、中朝関係筋が明らかにした。金正日(キム・ジョンイル)総書記の訪中直後に新たな核開発を誇示するような動きを見せた北朝鮮に中国側は強い不快感を抱いているとみられ、独自の制裁措置をとっている可能性がある。
関係筋によると、中朝国境地帯の各地の貿易拠点で、定期的に北朝鮮に搬出されるコメやトウモロコシなどの穀物や化学肥料、医薬品、工作機械などの支援物資を積んだトラックの流れが、今月中旬から停止、または大幅に減少しているという。
また、昨年10月の温家宝(ウェン・チアパオ)首相訪朝の際などに合意した経済協力プロジェクトのうち、中朝国境の鴨緑江に新たに建設する橋などを除く多くの計画の凍結が、中国政府内で検討されているという。・・・・
【5月30日 朝日】
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ただ、中国遼寧省トップの共産党委員会書記が北朝鮮新義州市を訪問し、中朝国境を流れる鴨緑江をまたぐ新たな大橋建設などをめぐり、北朝鮮側と協議したもようだとの報道もあります。
“韓国の哨戒艦沈没事件で朝鮮半島情勢の緊張が高まる中の訪朝は、中朝国境地域の安定を確認する目的があった可能性もある。事件を受け、国際社会が北朝鮮に対する包囲網を形成する一方、中国は関係を前進させていることもうかがわせる”【5月28日 時事】 

【中朝国境の動向】
南北間の非武装地帯(DMZ)だけでなく、中朝国境でも中朝双方がそれぞれ国境付近の警戒を強めている動きも見られます。これは、国内の混乱に乗じた脱北者の流入などを警戒しているとのこと。【5月29日 朝日】
そのなかで、不思議な動きも。
****北朝鮮が中朝国境に重火器を配備、消息筋*****
北朝鮮が中朝国境を守る警備隊に迫撃砲を追加配備する一方、国境一帯に放射砲旅団を展開させたことが分かった。
対北朝鮮消息筋は26日、ことし2月までに平安北道や咸鏡北道など中朝国境全域の国境警備隊の各中隊に82ミリ迫撃砲を運用する火力支援小隊が新たに編成され、実戦配備が終わったと明らかにした。
国境警備隊は人民武力部所属だが、主な任務は脱北防止など違法な出入国の取り締まりであるため、これまでは主に小銃など軽武装だった。(中略)北朝鮮内部では火力増強の背景について「中国側から南朝鮮(韓国)の特攻隊が攻撃してくる可能性がある」と説明しているという。
米国の自由アジア放送(RFA)も26日、北朝鮮の国境警備隊に迫撃砲や機関銃など重火器が配備されたと報じた。
これとは別に、軍事境界線一帯や海岸に集中配備されてきた放射砲が中朝国境にも配備され、中国と北朝鮮の間で微妙な緊張が走ったとされる。
消息筋は、このほど咸鏡北道・茂山、両江道・甲山など中朝国境付近で122ミリ放射砲旅団が配備されたとし、「北朝鮮内部でも中国側が不快に思う恐れがあると指摘する声が出ている」と伝えた。

韓国情報当局もこうした北朝鮮軍の動向を把握し、背景と意図を探っている。消息筋は、北朝鮮が国境での取り締まりを強化しているとはいえ、民間人を相手に迫撃砲や放射砲を配備したとみるには無理があると指摘し、3万~4万人に達する警備隊の戦力を歩兵部隊の水準に引き上げ、有事の際に戦力として活用する意図か、中朝間の微妙な葛藤(かっとう)を反映するものかもしれないと分析した。【5月26日 聯合ニュース】
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“中国側から南朝鮮(韓国)の特攻隊が攻撃”というのはどういうことでしょうか?

【「please remain calm」】
中国指導部が北朝鮮の勝手な行動を苦々しく見ているのは想像に難くないですが、北朝鮮を追い込んだ結果、北朝鮮体制が崩壊して難民が中国側に押し寄せる、あるいはアメリカ側の勢力が中国国境に迫るという事態は中国としても避けたいところでしょう。
また、先日も取り上げた中国側の「我々にも有権者(コンスティテュエンシー)がいる」という発言にみられるように、中国指導部は国内の政治勢力や世論の動向に注意深く配慮する必要があります。

“何をするか予測できない同盟国・北朝鮮の手綱をどうにか引こうと水面下では工作を続けるが、表だって強硬な措置を取ることは避けるだろう”というのが、大方の見解です。
「(中国の英語表記の略称)PRCの意味は、People's Republic of China(中華人民共和国)じゃなくて、実は『please remain calm(どうか冷静さを保ってくれ)』と関係国すべてに対して何もせず報復に出たりもしないよう頼んでいるんだ、というジョークがある」【5月28日 AFP】

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インドの「赤の回廊」  繰り返される「インド共産党毛沢東主義派」のテロ活動

2010-05-29 14:43:57 | 国際情勢

(ジャングルの中で整列する「インド共産党毛沢東主義派(ナクサル)」の部隊 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos
http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/4496566637/)

【掃討作戦への報復テロ】
インドで、“また” インド共産党毛沢東主義派によると思われるテロが起きています。
****列車脱線、毛派テロか インド東部、76人死亡*****
インド東部の西ベンガル州で28日未明、何らかの原因で脱線した急行列車に、逆方向から来た貨物列車が突っ込み、PTI通信によると76人が死亡、約200人が負傷した。
同州警察は、極左武装組織のインド共産党毛沢東主義派による犯行とみている。現場には、毛派武装グループによるものとみられる周辺地域からの治安当局の撤退などを求める内容のビラが見つかったという。
脱線の原因は不明だが、線路の一部が取り外されており、破壊工作の可能性が高い。だが、爆弾による爆発との見方も残っている。

現場は同州の州都コルカタ西方約135キロのジャールグラム付近で、毛派の活動が活発な地域。毛派は同日から治安機関などに攻勢をかけると宣言していたことから、治安当局は警戒を強めていた。
毛派は、貧困層や低カースト層の解放などを掲げ、貧困地帯で強い支持基盤を持つ。治安機関などを狙った攻撃を繰り返しており、今年4月には中部チャッティスガル州で警官隊が襲われ約70人が死亡、5月にも同州で警官らが乗ったバスが爆破され、少なくとも40人が死亡した。【5月29日 産経】
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別記事によれば、
“警察幹部は地元テレビの取材に「インド共産党毛沢東主義派(ナクサル)の一部勢力が犯行声明を出した」と述べ、最初の列車の脱線について「線路の一部が撤去されていたのが原因」との見方を強調した。
ナクサルは、貧しい農民が中心となり、貧困の改善やカースト(身分制度)による差別の撤廃を要求。「社会主義革命」を掲げて武力闘争を続けており、昨年のテロ活動で市民を含む1000人近くが死んだ。ネパールの旧武装組織で最大政党「ネパール共産党毛沢東主義派」との連携が指摘されている。”【5月28日 毎日】

5月17日のバス爆破事件では、爆破装置は遠隔操作が可能なもので、道路に埋められていたとみられています。バスには40~60人が乗っており、警察官もいましたが、犠牲者のほとんどが一般の市民でした。【5月17日 朝日より】

4月6日の警官隊襲撃事件では、密林地帯を巡回していた中央警察予備隊が重武装の毛派グループ数百人に包囲され自動小銃や地雷で襲撃されました。援軍に駆けつけた警官隊の装甲車も爆破されたとのこと。【4月7日 AFPより】

上記AFP記事によれば、武装能力を一段と強化した毛派グループによる襲撃は、インド政府がインド北部から東部に広がる「赤い回廊」と呼ばれる密林地域で前年から展開している毛派掃討作戦への報復とみられています。
貧農層らの権利を掲げ毛派が1967年に西ベンガル州で開始した反政府武装闘争は、現在ではインド28州のうち、20州にまで拡大しています。

【「赤い回廊」を支配する暴力の脅威】
毛派は、50年までに国家転覆を目指しているとの報道もあります。
****50年までに国家転覆=インド極左が目標****
インドのピライ内務次官は5日、ニューデリーでの講演で、極左反政府勢力の共産党毛沢東主義派(毛派)が、2050年までに連邦政府の転覆を目指しているとの見方を明らかにした。押収した毛派の文書から判明したという。
同次官は「毛派の士気は極めて高く、高度に訓練されている」とし、武装活動で軍経験者の支援を受けている可能性が高いと指摘した。【3月6日 時事】
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ただ、現在の毛派がこうした「革命」を目指すイデオロギー集団かどうかには疑問があります。
そうした毛派は70年代の後半に完全に消滅し、90年代に入って登場した現在の毛派と直接の関係はほとんどないとも言われています。【09年5月20日号 Newsweekより】

毛派の脅迫・暴力による被害を受けている一般市民の様子、また、治安維持にあたるべき警察が全く無力な様子を上記Newsweekは次のように書いています。

“夜遅く、家の電話が鳴った。電話の主は私の妹で、声が震えていた。インド共産党毛沢東主義者を自称する極左武装勢力のメンバーから夫に電話があり、「保護料」を支払えと言われたのだと言う。要求額は米ドルに換算して1000ドル以上。警察には通報するなと、脅迫者は念押しした。
警察に通報しようなどと思う人はそもそもいない。妹夫婦が暮らすインド東部の貧しいジャルカンド州は長年、毛沢東主義派(毛派)の極左反政府武装勢力が事実上の「領土」として支配している。地元の警察官は恐怖のあまり、めったに警察署の外に出ようとすらしない。
妹は途方に暮れていた。要求金額は、中級レベルの公務員をしている夫の給料のざっと5ヵ月分。しかも夫婦がどうにか金をかき集めたとしても問題は解決しない。武装勢力が1回だけの支払いで許してくれることは少ない。
支払いを拒むという選択肢はあり得ない。支払いを渋った人のなかには、腕を切断されたり、耳や鼻をそぎ落とされた人もいる。村を離れて逃げるわけにもいかない。夫が職を失えば、一家は生活していけなくなる。”

“この数日前、隣のビハール州の都市ガヤ近くの村が毛派に襲われた。武装グループはやすやすと村に押し入り、村の実力者の家を襲って略奪を行った。その後、家にいた女性たちに外に出るよう命令し(一家の主と息子たちは所用で不在だった)、ダイナマイトで家を爆破すると、どこかへ消えていった。
地元の警察署長は、通報を受けて警官隊を村に派遣したと主張しているが、村人たちによれば、警察がやって来たのは襲撃者が去ってから15時間近く後だったという。
その数日後には、夜遅くに、ジャルカンド州の都市ハザリバグ近くの村を100人近い毛派の武装グループが
襲った。襲撃者たちはある学校の教師を警察のスパイと決め付け、妻の懇願も聞き入れずに連行。木に縛り付けて拷問を続けた後に殺害した。”

中国と並ぶ新興国の雄たるインドで、なぜこんな無法がまかり通っているのか?
Newsweekでは、極度の貧困と、地方・農村の窮状に関心を持たない政治家に原因があるとしています。
“武装勢力が好き放題振る舞えるのは極度の貧困のせいだと、そのアジャイ・クマル・シンという人物は言った。「道路がないので、経済発展がほとんど進まない。道路を造ろうとしても、毛派の攻撃によってことごとく破壊されてしまう。道路が開通すれば潜伏地帯の安全が脅かされると、(武装勢力は)分かっているからだ」
それに、州政府の政治家や高官は都市に住んでいるので、貧しい村々の経済開発に熱心でないのだと、シンは指摘する。政治家がその気になれば、さすがの毛派も開発を阻止できないはずだと、シンは考えている。「人類は海底にトンネルを掘った。田舎の村に道路を通せないはずがない」”

【治安優先アプローチへの批判】
さすがに昨年から、インド政府も毛派を「国内最大の脅威」と位置づけて掃討作戦を展開していますがが、武力に偏重し、根底にある貧困問題・社会問題をなおざりにしたアプローチに対する批判もあります。

****インド 毛派テロ対策 武力行使に限界 経済へ暗雲も*****
インドの東部から中部、南部にかけての貧困地帯である「赤の回廊」で、極左武装組織「インド共産党毛沢東主義派(インド毛派)」のテロが頻発している。中部チャッティスガル州ダンテワダ地区で17日、バスが路肩爆弾によって爆破され、少なくとも40人が死亡。4月6日には同地区で警官が武装集団の襲撃を受け、76人が死亡した。同国政府はインド毛派を「国内最大の脅威」と位置づけ、掃討作戦を展開しているが、武力に偏重したアプローチには限界もある。

次期首相候補の一人と目されるチダムバラム内相の下で、インド政府は「グリーンハント作戦」と呼ばれる毛派掃討作戦を開始した。同内相は、2008年11月のムンバイ同時テロ後に任命された。しかし、武装警察を大量に動員した「鉄拳」政策には、貧困問題に取り組む市民グループだけでなく、与党「統一進歩同盟(UPA)」内部からも批判がある。

 ◆軍は消極姿勢
隣国ネパール共産党毛沢東主義派(ネパール毛派)と連携しているともいわれるインド毛派の活動の背景には、「赤の回廊」の村落に残る封建制度や同地域が経済発展から取り残されている現実がある。しかし、地域ごとに事情は異なり、中央政府が押しつける解決策よりも、地域の実情に応じたきめ細かい対応が求められる。
チダムバラム内相は治安優先のアプローチを取っている。しかし、武力行使は、根本的な経済社会問題の解決にはつながらず、問題を悪化させるだけだと懸念する者もいる。地元の警察当局者は、中央政府が派遣する武装警察部隊は地元の言葉を話せず、すべての地元住民を毛派として扱い、潜在的な敵対者と見なしていると嘆く。

内務省では、インド毛派は地方の不満から生まれた大衆運動とは考えられていない。同省の用語では、毛派は「犯罪者」や「テロリスト」と同義語であり、こうした姿勢が同派との対話の余地を狭めている。チダムバラム内相は、毛派が暴力放棄を宣言して初めて、交渉が行われるとの立場を繰り返し言明しているが、非現実的な条件だと批判する政治家は多い。

毛派への対応をめぐり、政府内にも亀裂がみられる。警察を管轄する内務省とは異なり、軍は毛派への武力行使に消極的だ。4月の警察官襲撃事件の後、政治家やアナリストらは空軍と陸軍に武力行使を求めた。しかし、軍と国防省は、武力行使は問題をこじらせるだけであり、空爆は市民の犠牲者が出るとして要求を拒んだ。
治安問題で内務省が支配的な立場を占める。経済的疎外、社会的不平等、民族の代表権問題などは他の政府機関が対応するため、包括的な対策には官僚主義の壁がある。毛派のテロは、主に農村部に限られるため、ムンバイ同時テロ後のように、中産階級から行動への圧力がかかることはない。このため、インド政府は容易に問題から注意をそらすことができる。(後略)【5月21日 オックスフォード・アナリティカ】
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経済的疎外、社会的不平等、民族の代表権問題、官僚主義、見捨てられた農村・・・すべて“新興国の雄”“世界最大の民主主義国”インドの抱える根幹的問題であり、一朝一夕には解決困難にも思えます。
(逆に言えば、これだけの問題を抱えながら驚異的発展を続けるインドの潜在力の大きさには驚嘆すべきものがあります)
「インド共産党毛沢東主義派(ナクサル)」が革命集団であるかどうかは別として、革命を目指すグループが存在しても不思議ではない状況です。


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ハンガリー  在外ハンガリー系住民への国籍付与

2010-05-28 23:05:52 | 国際情勢

(ハンガリー極右政党「ヨッビク」の自警団組織「マジャル・ガーダ」のメンバー
“flickr”より By daskar
http://www.flickr.com/photos/daskar/2386240536/)

【「他国」に少数派として取り残された人々への連帯感】
東欧ハンガリーでは、今年4月の総選挙で、中道左派の与党・社会党が惨敗し、中道右派政党「フィデス・ハンガリー市民同盟」が圧勝しました。
その「フィデス・ハンガリー市民同盟」は、公約だった国外在住のハンガリー系住民にハンガリー国籍を付与する法案を成立させ、周辺国に波紋が広がっています。

****ハンガリー:在外同国系住民に国籍 スロバキアは対抗措置*****
ハンガリー国会は26日、周辺国のハンガリー系住民が、国外で暮らしながらハンガリー国籍を取得できるようにする法案を可決した。第一次大戦(1914~18年)での敗戦に伴い、「他国」に少数派として取り残された人々に連帯感を示すのが狙い。一方、人口の約1割をハンガリー系住民が占める隣国スロバキアはハンガリーから政治的介入を招く恐れがあるとして猛反発している。

200万人以上と言われる在外ハンガリー系住民への国籍付与は、4月のハンガリー総選挙で圧勝した中道右派政党「フィデス・ハンガリー市民同盟」の公約だった。圧倒的多数で可決された改正国籍法によると、祖先が第一次大戦以前のハンガリー領の出身で、本人もハンガリー語を話せるなど一定の要件を満たせば、ハンガリー国外で暮らしたまま国籍を取得できる。ただ、同国の外交筋によると、「選挙権は与えられないなど実質的な権利は限られている」という。

ハンガリーの決定に対し、スロバキアは「自国民保護」などを理由に政治的介入を招く恐れがあるとし、対抗措置として同日、国会で二重国籍を禁じる法案を可決した。スロバキアもハンガリーと同様、これまで二重国籍を認めてきたが、国籍法改正により、結婚や出生などの場合を除き、自国民が自発的に外国籍を取得した場合にはスロバキア国籍をはく奪することになった。ハンガリー国籍の取得を妨げるのが狙いだ。

中東欧のハンガリー系住民はルーマニアの約140万人を筆頭に、スロバキアで約50万人、セルビアで約30万人が暮らしている。スロバキアでは人口比が大きいことに加え、6月12日に総選挙を控えていることも、この問題がとりわけ重大視される要因となった。現地外交筋によると、最大与党の中道左派「スメル」や、連立与党で民族主義的な「国民党」が「ハンガリーへの対抗姿勢を前面に押し出すことで国民感情に訴えている」という。
中東欧には、ナチス・ドイツがドイツ系住民の保護を理由に当時の隣国チェコスロバキアに侵攻、第二次大戦に発展した歴史がある。こうした経験が、今回のハンガリーの措置に対する周辺国の警戒感につながっている。【5月27日 毎日】
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上記記事ではスロバキアの反発を取り上げていますが、国外ハンガリー系住民が最も多いルーマニアへの影響もあるのではないでしょうか。
ルーマニアの人口の約7%、特に西部トランシルバニア地域では20%を、ハンガリー系住民が占めています。
コソボが独立した際、ルーマニアは、コソボに倣い西部トランシルバニア地域のハンガリー系住民も独立を宣言、あるいは自治権の拡大を要求するのではないかと不安があり、コソボの一方的独立を承認しない旨を宣言しています。

【極右政党ヨッビクの大躍進】
中道右派政党「フィデス・ハンガリー市民同盟」が圧勝した4月の総選挙の背景としては、金融危機で深刻な通貨危機に見舞われたハンガリーでは失業率は現在も11%を超える高水準で、政治家がらみの汚職も相次ぎ、与党・社会党の支持が低下していたことが挙げられています。【4月12日 朝日より】

4月の総選挙での、もうひとつの変化は極右政党ヨッビクの大躍進でした。
これまで国会に議席を持たなかった極右政党ヨッビクは、一躍47議席(定数386)を獲得しました。
“ヨッビクは、一般的には右派ないし極右政党とみなされている。ロマ人の犯罪摘発強化、反グローバリズムなどを掲げる。欧州の一部メディアではヨッビクをファシスト政党としていたり、反ユダヤ主義政党としている。また、ヨッビク内には「マジャル・ガーダ」という名の自警団組織が存在し、ナチスの突撃隊と比較されることもある。”【ウィキペディアより】

【国内少数派ロマへの差別・迫害】
中道右派政党「フィデス・ハンガリー市民同盟」の圧勝、極右政党ヨッビクの大躍進ともに民族主義の高まりを表す動きで、今回の在外ハンガリー系住民への国籍付与もその流れから出てきたものと思われます。

ハンガリーにおける民族主義の高まりは、国外においては上記のような在外ハンガリー系住民への国籍付与の問題となりますが、国内で懸念されるのは、人口約1000万人のうち約60万人を占めるロマ(ジプシー)への差別・迫害の問題です。
ロマへの差別・迫害はヨーロッパ全般、特にドイツ・東欧で見られる問題で、別にハンガリーに限った話ではありませんが、ハンガリーでは08~09年に少なくとも9人のロマが殺害されています。【5月28日 毎日より】

第二次大戦中は「劣等民族」としてナチスに虐殺された歴史を持つロマですが、社会的に疎外され貧困の中にあることから、実際のところ犯罪にかかわるケースも多く、そのことが更にロマへの反感・差別を強めるという悪循環があります。
「他国」に少数派として取り残されたハンガリー系住民に連帯感を示す気持ちがあるのであれば、国内に存在する少数派への寛容もあってしかるべきかと思いますが・・・。
金融危機などで、社会全体の余裕がなくなると“寛容”が消え、こうした弱者への差別・迫害も増加しがちです。

欧州はギリシャに端を発する経済危機の崖っぷちにあり、今後の状況いかんでは、少数民族や移民などへの反発が更に高まることも懸念されます。

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チャド  国連PKO撤退を要請  安定化したのか?

2010-05-27 22:04:55 | 国際情勢

(08年2月 攻勢をかけたチャド反政府勢力の兵士 かなり幼いようにも見えますが・・・ “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos
http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/2242906009/)

【チャド政府:PKO撤退を要請】
アフリカでスーダンと国境を接するチャドは、世界最悪の人道危機と呼ばれたスーダン西部ダルフール地方の紛争に絡んで多数の難民を抱え、また、スーダンとチャド双方が相手国の反政府組織を支援しあう形で対立していました。
そのチャド政府が、スーダンとの関係改善もあって、PKOのチャドからの撤退を要請、国連安保理もこれを採択したそうです。

****チャドPKO撤退を採択 政府の要請で安保理*****
国連安全保障理事会は25日、国連平和維持活動(PKO)の「中央アフリカ・チャド派遣団」を撤退させる決議を全会一致で採択した。チャド政府が撤退を要請していた。受け入れ国の求めでPKOが撤退するのは異例。
同派遣団は2007年、隣国スーダン・ダルフール地方からの難民保護などを目的に設立。チャドでは大統領選が近く予定され、治安維持能力をアピールしたい思惑に加え、スーダンとの関係改善などがPKO撤退を求める理由としてとりざたされている。しかし、実際の治安情勢は流動的で、撤退による治安の悪化を懸念する声も強い。【5月26日 朝日】
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【スーダンとチャドの関係正常化、ダルフール停戦】
確かに、今年1月スーダンとチャドは、関係正常化の取り組みの一部として、それぞれの領土への反政府勢力の駐留を止めさせ、その活動を停止させるため国境合同軍を配備することに合意しました。
2月には、チャドのデビ大統領がスーダンを訪問し、敵対関係の終結に合意しています。

こうしたスーダン・チャドの関係改善を受ける形で、ダルフール紛争についても、スーダン政府と最大の反政府勢力「正義と平等運動(JEM)が2月23日、仲介国カタールの首都ドーハで、和平の枠組み合意に正式署名して停戦しました。
****ダルフール停戦成立 政府と反政府勢力が正式署名*****
世界最悪の人道危機と呼ばれたスーダン西部ダルフール地方の紛争で、スーダン政府と最大の反政府勢力「正義と平等運動(JEM)」は23日夜、仲介国カタールの首都ドーハで、和平の枠組み合意に正式署名し、停戦した。
国連の推計で30万人が犠牲になった紛争の解決に大きな期待がかかる。だが、JEMとの交渉は過去に失敗例がある上、20日に合意がまとまった後も政府軍とJEMの衝突が起きたとされる。交渉期限である3月15日までに、最終合意できるかは不明だ。また、ほかにも反政府勢力が20近くあり、全体の和平交渉は難航している。
AFP通信などによると、枠組み合意は12項目。交渉期限や停戦、避難民らの帰還、政府による被害者への補償のほか、JEMの政党化と政権参加に合意する内容だ。(後略)【2月24日 朝日】
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しかし、最終合意に向けた交渉は難航し、継続協議に入ったことが報じられていました。
****スーダン:和平合意至らず、継続協議に ダルフール紛争*****
アフリカ北部スーダンの西部ダルフール地方の紛争を巡って先月23日、和平枠組み合意に調印したスーダン政府と主要反政府勢力「正義と平等運動(JEM)」などは、期限として定めた15日を過ぎても最終合意に至らず、カタール・ドーハでの継続協議に入った。AP通信が伝えた。
政府は4月に予定される大統領選など総選挙を前に最終合意を実現したい方向だ。しかし、和平合意に参加しているのは、20以上ある反政府勢力の一部だ。JEMは数百万人のダルフール避難民の選挙参加を求め、選挙の延期を要請。また、政府が他反政府勢力とも並行して交渉していることに不快感を示している。【3月16日 毎日】
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小規模組織10派が2月に統合した組織「解放と正義運動(LJM)」は、3月18日、スーダン政府との間で和平交渉の枠組み合意に調印、3か月の停戦に入りました。
最大組織「正義と平等運動(JEM)」は、こうした政府とLJMとの合意に強く反発しています。

【なおも続く戦闘】
その後、スーダンは大統領選挙に突入し、「正義と平等運動(JEM)」との最終合意交渉がどうなったのかよくわかりません。
よくわかりませんが、ダルフール及びチャド・スーダン国境付近の情勢はそんなに安定している訳もないようです。今月初めには、チャド東部スーダン国境近くで247人の死者を出す戦闘があったことも報じられています。

*****チャド東部スーダン国境近くで激しい戦闘、247人死亡*****
アフリカ中部チャドの東部のスーダン国境近くで政府軍と反政府武装勢力との戦闘が激化し、8日までの2日間に247人が死亡した。チャド政府は反政府勢力がスーダン政府の支援を得ているとして、スーダン政府を批判している。
AFP通信などによると、スーダン西部ダルフール地方を拠点にするチャドの反政府勢力が、4日ごろに国境を越えて侵攻してきたという。首都ヌジャメナの 東約600キロの町アムダムなどで激しい交戦となった。チャド政府は8日、前日からの戦闘で反政府勢力の民兵225人が死亡、政府軍も22人が犠牲になっ たと明らかにした。
チャド東部には「世界最悪の人道危機」と呼ばれるダルフール紛争のスーダン難民が約25万人おり、チャドの国内避難民も約16万人いる。戦闘でNGOや国連の援助活動に支障が出ている。
チャド政府は、背後にスーダン政府が絡んでいるとして批判、スーダン政府は「チャドの国内問題」と否定している。両国はこれまでも互いに反政府勢力を支援していると批判し合ってきた。5月に入りカタールの仲介で関係正常化に合意したばかりだった。【5月9日 朝日】
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【権力と金をめぐる争い】
こうして見ていくと、PKO「中央アフリカ・チャド派遣団」の撤退は大丈夫かしら・・・という感がします。
もっとも、かねてより、外国勢力、特にフランスがチャドの独裁政権を支えているとの批判もありました。
チャドには、国連PKO「中央アフリカ・チャド派遣団」に連携してアフリカ連合ダルフール派遣団(AMIS)や欧州連合部隊 チャド・中央アフリカ(EUFOR Tchad/RCA)も活動しています。
今回のPKO撤退で欧州連合部隊EUFORはどうなるのでしょうか?

欧州連合部隊の中核は旧宗主国フランスで、08年2月の反政府勢力攻勢の際には、ミラージュ戦闘機による攻撃などで政府軍を支持する軍事介入を行ったとの反政府勢力側からの批判もあります。
デビ大統領にしても、反政府勢力にしてもあまり評判はよくないようです。

****チャドはいつの日か主権を失うのではないか*****
(08年)1月31日、イドリス・デビ大統領の転覆を目指し反政府3派がンジャメナ攻撃を開始。数日間の戦闘の後、フランスに支援された政府軍隊が鎮圧に成功した。しかし、同戦闘により民間人約160人が死亡。数万人が避難を余儀なくされた。チャド政府は、隣国スーダンが反政府グループを支援していると非難。これに対し、スーダン政府はデビ政権がダルフールの反乱グループを支援していると非難している。
この様な状況下、スイス在住の反対派リーダー、モーリス・ヘル・ボンゴ氏は、アムネスティ・インターナショナルに対し次のように語った。

ンジャメナを攻撃したのはマハマト・ノウリ、ティマネ・エルディミそしてアブデルワヒドだ。ノウリは、ハブレおよびイドリス・デビ政権の閣僚で、デビの義理の兄弟だ。また、エルディミはデビの甥で、長い間デビの首席顧問を務め、彼の政策を指導してきた。彼らの経歴からして、突然民主主義者になったとは思えない。彼らが欲しているのは権力と金だ。チャドは石油産出国になって、多くの金があるのだから。デビは、開発政策を推し進め自身と血族のために金を得たいのだ。

チャドは、北部はイスラム教、南はキリスト教と土着宗教に分かれている。北部の指導者はスーダンを始めとするアラブ諸国にチャド問題の本質は宗教であると告げている。スーダンはチャドに対し強い影響力を持っており、その力は、人種差別主義政府になってから更に悪くなっている。
デビは、チャドとスーダン国境およびダルフールに住むザガワ族の出身で、この部族はスーダン政府から軽んじられてきた。デビは、大統領になる前からダルフールのザガワ族の支援を約束していた。
フランスの介入は逆効果だ。フランスは、アフリカに民主政権が誕生することを欲していない。彼らは腐敗したリーダーを望んでいる。だから独裁者のデビを支援しているのだ。【IPSJapan2008/02/28】
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スーダンとチャド、政府側と反政府勢力側、更に権益を求める外国勢力・・・住民の生命・安全を委ねるべき存在は?

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パキスタン  「ラシュカレ・タイバ」総裁に事実上の無罪判決 懸念される印パ関係悪化

2010-05-26 23:03:01 | 国際情勢

「ラシュカレ・タイバ」の創始者で、宗教福祉団体「ジャマートゥル・ダワ」のリーダーであるサイード氏
“flickr”より By lckykhi
http://www.flickr.com/photos/luckykhi/3506974273/)

【「ラシュカレ・タイバ」創始者に無罪判決】
インドにとっては、08年11月におきたムンバイ同時多発テロは9.11にも相当する衝撃を与えました。
その実行犯のうち、唯一の生き残りに対して今月3日、有罪が言い渡されています。

****ムンバイ同時襲撃事件、実行犯に有罪****
インドの裁判所は3日、166人が死亡した08年のムンバイ同時襲撃事件の実行犯として、唯一生存したまま拘束、起訴されたパキスタン人モハメド・アジマル・カサブ被告(22)に対し、インドに対する戦争の罪や殺人罪などで有罪評決を言い渡した。
カサブ被告は86の罪に問われたが、その大半で有罪となった。量刑は4日、最高で死刑の判決が言い渡される。
ムンバイ同時襲撃事件は、高級ホテル3軒とレストラン、ユダヤ教関連施設の入ったビル、ムンバイの主要鉄道駅で、銃で武装した実行犯10人が無差別に銃撃を行った事件。事件は60時間にわたって続いた。【5月3日 AFP】
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一方、インド・パキスタン関係を悪化させるのではないかと思われるニュースがパキスタンから伝えられています。
****パキスタン:インド同時テロ「首謀者」無罪に*****
パキスタン最高裁は25日、08年11月にインド・ムンバイであった同時多発テロ事件を巡ってインド政府が「首謀組織」と名指ししたパキスタンのイスラム過激派勢力「ラシュカレ・タイバ」のサイード総裁について、「関与の証拠はない」として政府の身柄拘束要求を却下し、事実上の無罪判決を言い渡した。インド側の激しい反発と印パ対話への影響が予想される。【5月25日 毎日】
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「ラシュカレ・タイバ」は、1989年にパキスタン軍統合情報部(ISI)の肝いりで創設、カシミール地方の分離独立を目指し武装闘争を展開しました。ISIはアフガニスタンの旧政権タリバンを支援しており、このため、ラシュカレトイバもアルカイダとの関係は深いと言われています。
「ラシュカレ・タイバ」は、01年にニューデリーで起きたインド国会襲撃事件や06年のムンバイの連続列車爆破テロなど大規模なテロ事件への関与を指摘されてきました。

9.11以後、アメリカやインドの強い要求で、当時のムシャラフ・パキスタン大統領は「ラシュカレ・タイバ」の活動を禁じ、資産を凍結しましたが、インド政府はISIが今もラ「ラシュカレ・タイバ」を支援しているとみています。
なお、「ラシュカレ・タイバ」の活動禁止後、その母体組織「マルカズ」は宗教福祉団体「ジャマートゥル・ダワ」に衣替えし、表面上はそれまでの武装組織とは別組織としての体裁をとりながら、パキスタン国内での募金活動や街頭デモなど公然と行っていました。08年12月には、宗教福祉団体「ジャマートゥル・ダワ」も活動禁止となっています。

昨年9月、パキスタンはそれまでインド側からの再三のサイード氏逮捕の要請を無視していましたが、ニューヨークで開催が見込まれる印パ外相会談を控え、サイード氏に対し反テロ法違反の疑いで捜査を開始する形で歩み寄りを見せていました。

また、パキスタン当局は昨年11月25日、ムンバイの同時テロに関与したとして、過激派組織「ラシュカレ・タイバ」のメンバー7人を、パキスタン・ラワルピンディのテロ特別法廷に起訴しています。これも、インドやアメリカの非難をかわす狙いとみられていました。
パキスタン側の裁判では、インド側の捜査結果も証拠採用されました。

【印パ対話再開に暗雲】
ムンバイのテロによって、もともと犬猿の仲でもあるインド・パキスタン関係は冷却化し、包括対話も中断していましたが、パキスタン側の上記のような歩み寄りの姿勢もあって、先月末、対話再開の方向で合意したばかりでした。
****印パ首相会談 “雪解け”アピール 対話再開努力で合意*****
インドのシン首相とパキスタンのギラニ首相は29日、南アジア地域協力連合(SAARC)首脳会議が開催されているブータンで会談した。両首相は、2008年11月のムンバイ同時テロ以降、冷却化した両国関係を改善する必要があるとの認識で一致し、中断している包括対話の再開に向けて努力していくことで合意した。
両首相は相互に不信感があることを認めた上で、両国外相にそれぞれ、発想を新たにし包括対話再開につながる方法を見いだすよう指示した。
シン首相は「インドはすべての問題について協議する準備があるが、テロ問題がすべての進展を阻んでいる」と指摘し、パキスタンを拠点にインドを攻撃する武装集団の根絶を改めて要請。ギラニ首相は、ムンバイ同時テロに関与したとされる7人を訴追したことなどを伝え、理解を求めた。
両首相の会談は昨年7月以来。会談後、インドのラオ外務次官とパキスタンのクレシ外相はそれぞれ記者会見し、両国関係の“雪解け”をアピールした。印パ関係の安定を求める米国などの意向もあり、前向きな姿勢を打ち出さざるを得なかったとみられる。【4月30日 産経】
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パキスタン側は、テロへ関与した人物がいることは認めても、大部分の謀議は「インド国内で行われた」という考えであり、「パキスタン黒幕説」は否定しています。
今回の「ラシュカレ・タイバ」サイード総裁への事実上の無罪判決によって、こうした基本姿勢の違いが明らかになっています。
インド・シン首相はパキスタン・ギラニ首相に対し、「(パキスタンを拠点とする)テロはインド国民にとって最大の懸案だ」と指摘しており、パキスタン側の対応は対話に向けたインドの姿勢を硬化させることが懸念されます。
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韓国海軍哨戒艦沈没問題 李大統領、武力報復には言及せず ただし、不測の事態も

2010-05-25 23:17:25 | 国際情勢

(5月24日 海軍哨戒艦「天安」沈没事件に関する国民向け談話に臨む李大統領 重圧はいかばかりでしょうか “flickr”より By GreenDominee
http://www.flickr.com/photos/green_leader/4637545176/)

【ギリギリ選択】
韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は24日、同国哨戒艦「天安(チョンアン)」が北朝鮮の魚雷攻撃で沈没したとする韓国軍・民間合同調査団の調査結果が出たことを受け、国民向けのテレビ演説で、哨戒艦沈没問題を国連安保理に提起するなどの方針を明らかにしました。
しかし、李大統領は、武力報復には言及していません。

****韓国艦沈没:李大統領の対応発表 関係考慮でギリギリ選択*****
韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は24日、海軍哨戒艦「天安(チョンアン)」の沈没事件を「北朝鮮の軍事挑発だ」と断じ、開城工業団地以外の南北交易の中断や国連安全保障理事会への問題提起などを行うと表明。韓国政府はさらに、黄海での米韓合同の対潜水艦訓練を近く実施▽大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)に基づく近海での海上封鎖訓練の実施--などを発表した。

北朝鮮にこれ以上の「挑発」を自制させるために断固とした姿勢をアピールしたことで、厳しい対応を求める保守派からも「大統領が断固とした意思表明を行った」と評価する声が強いが、内容は「象徴的措置にとどまった」(北朝鮮専門家)という側面も強い。李大統領は、金正日(キム・ジョンイル)総書記の名指し批判も避けており、南北関係を完全に断絶させることは避けつつ、できるだけ厳しい姿勢を示すというギリギリの選択をしたといえる。

李大統領は談話で、外遊中の閣僚ら17人が死亡した83年のラングーン事件と、乗員乗客115人が死亡した87年の大韓航空機爆破事件を「軍事挑発」だと列挙した。だが、冷戦下の当時は南北交流などなかった。交流中断など韓国独自の措置が必要になったのは、今回が初めてだ。
軍艦への魚雷攻撃は戦争行為だが、軍事的報復策を取るのは現実的な対応とは言えない。22日の韓国紙「東亜日報」の世論調査でも、韓国が「相応する軍事的対応」を取ることに「反対」が59.3%と、「賛成」30.7%の約2倍だった。(中略)

一方、韓国は今や、北朝鮮を経済的に支える国の一つになっている。韓国統一省によると、開城工業団地を含めた北朝鮮からの昨年の輸入総額は9億3000万ドル(約840億円)。これに対して、今回の交易中断で北朝鮮が被る直接的打撃は約3億ドル(約270億円)程度だ。
同省によると、開城工業団地には現在、韓国企業121社が進出し、約4万人以上の北朝鮮労働者が勤務している。給料と社会保険料を合わせて、北朝鮮は年5000万ドル(約45億円)以上を受け取る計算だ。北朝鮮にとっては貴重な外貨収入源となっているだけに、撤退すれば猛反発してくることは必至だ。
韓国紙、朝鮮日報によると、工業団地を閉鎖した場合には韓国政府の負担も5億ドル(約450億円)に及ぶという。結局、李大統領は「開城工業団地については、その特殊性を勘案して今後検討していく」と表明するにとどめた。【5月24日 毎日】
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【自衛権行使と“主敵”】
李大統領は談話で、北朝鮮が韓国の領海・領空・領土を侵犯した場合は「即座に自衛権を発動する」と表明しています。
「自衛権」とは、軍事的に相手側が武力で侵攻すればそれに相応する措置を取ることができる権限で、国連憲章や国際法で認められています。自衛権の対象となる海外からの侵害とは、必ずしも自国領域の侵害に限ったものではなく、公海やその上空で自国の船舶や航空機が攻撃された場合も、自衛権を発動できます。
核兵器使用の兆候に自衛権を行使すべきかどうかについては学者の間でも論争となっていますが、先制的自衛権については国際法的に「違法」との見解が優勢だとされています。
“これに関連し、青瓦台(大統領府)の李東官(イ・ドングァン)弘報(広報)首席秘書官は、自衛権は専門家間や国際的にある程度概念が確立されており、軍事的脅威の撃退だけでなく侵害を取り除くために必要な行為まですべてを含むとし、「先制的自衛権は含まれていない」と説明した。”【5月24日 聯合ニュース】

また、李大統領は25日、大統領府であった会議のなかで、「我が軍は過去10年間、主敵の概念を確立することができなかった」と述べ、北朝鮮を「主敵」と位置づける考えがあることを示唆しています。
韓国はかつて国防白書で北朝鮮を主敵としていましたが、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代の04年版白書からこの表現を削除しています。

【北朝鮮「即時全面戦争を含むあらゆる強硬措置で対処」】
今回の「魚雷攻撃」は、金正日総書記の指示との見方がされています。
****北朝鮮の魚雷、狙いと誤算…黄海銃撃戦報復か****
「魚雷攻撃」は、金正日総書記の指示との見方が支配的だ。戦力の劣勢を補うための軍事的抑止力の誇示、後継候補とされる三男、金ジョンウン氏への権力継承と関連した軍の士気向上などを狙ったとみられる。
専門家の多くは、「攻撃」理由として、2009年11月、黄海の北方限界線(NLL)近くで起きた南北艦艇銃撃戦で敗北した報復を挙げる。この交戦は、北朝鮮側に複数の死傷者と艦艇の損害を出す韓国の圧勝に終わり、北朝鮮軍は威信回復の反撃機会をうかがっていたとの見方が有力だ。
銃撃戦の結果は、北朝鮮が在来型の戦力で韓国とは戦えない現実を露呈した。韓国国防研究院の白承周安保戦略研究センター長は「北朝鮮はハイテク化した韓国艦艇との性能差など、水上戦力の脆弱さを認識している。このため潜水戦力の強化で、軍事的優位を得ようとの戦略変化があった」と指摘する。
高麗大学の柳浩烈教授も「魚雷の水中爆発で哨戒艦を撃破できる軍事能力があり、海だけでなく、陸でも空でも、変則的な打撃を与えられることを韓国にわからせた」と分析する。【5月21日 読売】
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もっとも、金正日総書記は今月3~7日に訪中した際、胡錦濤国家主席との首脳会談で、「我々はやっていない。韓国が勝手に我々の犯行と言っているだけだ」と自身の口から述べたと報じられています。

北朝鮮は、韓国の制裁措置への反発を強めています。
****北朝鮮「あらゆる強硬措置で対処」 韓国の制裁発表に*****
北朝鮮の朝鮮中央通信は25日、哨戒艦沈没事件で独自の北朝鮮制裁を発表した韓国に対し、「(韓国の)『報復』『制裁』に対して即時全面戦争を含むあらゆる強硬措置で対処する」とする論評を発表した。また、北朝鮮の軍当局者は、韓国艦艇が北朝鮮領海を侵犯しているとして「侵犯が続くなら、軍事的措置が実行される」と警告した。・・・・韓国政府内でも「この状況で北の軍部が何も仕掛けて来ない可能性は低い」(大統領府当局者)との見方が広がっており、新たな挑発行為に備えるほか、サイバーテロも警戒。空港や主要駅での警備を強めている。(後略)【5月25日 朝日】
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また、朝鮮中央通信によると、南北軍事実務会談の北朝鮮側代表団団長は25日、韓国海軍の艦艇が黄海海上の北朝鮮領海を侵犯しているとして韓国軍に通告文を送り、「侵犯が続くなら、実際の軍事的措置が実行される」と警告しています。
北朝鮮は、韓国側が黄海上の境界線と設定した北方限界線(NLL)を認めず、これより南に独自の「海上軍事境界線」を設定しています。同海域では韓国艦艇が活動しており、今回の通知により、緊張が一層高まることが懸念されています。【5月25日 時事より】
同様に、北朝鮮軍は24日、韓国軍哨戒所が掲示している北朝鮮を非難するスローガンの除去を要求しており、韓国側が要求に応じず、拡声機などを新たに設ける場合は、除去のための射撃を行うと警告しています。韓国が24日から北朝鮮向けの軍事宣伝放送を再開することに合わせた措置とみられています。【5月25日 朝日より】

金正日労働党総書記が全軍や人民保安省に万全の戦闘態勢に入るよう指示したとの情報もあります。
****金総書記、戦闘態勢指示か=脱北者団体*****
韓国の脱北者団体「NK知識人連帯」は25日までに、北朝鮮の金正日労働党総書記が全軍や人民保安省に万全の戦闘態勢に入るよう指示したとの情報を明らかにした。韓国哨戒艦事件の調査結果が発表された20日、北朝鮮国防委員会の呉克烈副委員長が有線ラジオを通じて伝えたという。
同団体が北朝鮮の情報提供者の話として明かしたところによると、呉副委員長は一般家庭向けの有線ラジオ「第3放送」を通じて談話を出し、「戦争は望まないが、南朝鮮(韓国)がわが共和国を攻撃するなら、これを機に祖国統一の偉業を必ず成就すること」が金総書記の命令だと強調したという。【5月25日 時事】
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【不測の事態も】
李大統領は武力報復には言及していませんし、“北朝鮮に対する「軍事的対応」について世論調査では、59%が反対している(22日付、東亜日報)”というように、韓国世論も武力行使や戦争は回避したい意向です。
韓国にとって、武力衝突による経済的損失は、あまりに大きなものがあります。
北朝鮮にとっても、戦争になった場合、旧式の軍隊や兵器に頼らざるを得ない北朝鮮の圧倒的不利は明らかで、北朝鮮側もこれを十分に認識していると思われます。
こうしたことから、韓国が武力に頼らない外交を続ける限り、戦争にはならないとの見方が大勢ですが、一方で上記のような反撃姿勢を強める北朝鮮の対応もあって、不測の事態、突発的衝突の可能性、それが全面的衝突に発展するリスクも否定できません。多くの戦争は、理性的判断とは別のところから起きています。

【中国とアメリカ】
韓国が求める国連安全保障理事会での議論については、中国がカギを握っています。
先の金正日総書記訪中の際は、「中国は、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁の枠組みを超える支援はできない」と、温家宝首相が北朝鮮への大規模支援を断ったことが報じられています。【5月17日 読売】
また、核拡散防止条約(NPT)再検討会議においても、中国は「北朝鮮の核実験を非難する」との表現を削除するよう求めてはいますが、一方で、09年の北朝鮮制裁決議への実質的言及は認める姿勢を示しています。
このように、最近の中国の北朝鮮に対する姿勢は支援一辺倒ではなくなっていますが、武力衝突とか北朝鮮体制の崩壊となると話は別でしょう。北朝鮮体制を決定的に不安定化させる措置には賛同できないと思われます。

ソウルで25日、柳明桓(ユ・ミョンファン)外交通商相らと会談した中国の武大偉・朝鮮半島問題特別代表は、韓国との緊密な協力に同意したものの、「調査結果を真剣に検討する」と述べるにとどめ、国連安全保障理事会での協議を求めている韓国への支持を明言しませんでした。
なお、北京で開かれていた2回目の米中戦略・経済対話では、朝鮮半島情勢の安定維持が重要だとの認識で米中が一致したとのことで、国連安保理による制裁強化は別としても、半島情勢の緊張緩和に向けてアメリカと連携するものとみられています。

オバマ米大統領は24日、政府の関連部局に北朝鮮政策の見直しを指示するとともに、米軍幹部に対し、北朝鮮のさらなる攻撃に備えて韓国軍と緊密に連携するよう指示しています。
朝鮮半島有事の際の韓国軍の作戦統制(指揮)権は現在米軍にあります。
米国防総省報道官は、韓国が発表した対潜水艦米韓共同軍事演習は「近い将来」実施するとし、海上封鎖訓練の実施についても協議していることを明らかにしています。【5月25日 ロイターより】
ただ、現在2万8000人規模とされる在韓米軍が展開兵力を増強した場合、北朝鮮側が「侵略行為」として過剰に反応するリスクもあります。

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米中戦略対話  「人民元切り上げ」問題の動向 「我々にも有権者(コンスティテュエンシー)がいる」

2010-05-24 22:09:25 | 国際情勢

(会議に先立ち、上海万博を訪れたクリントン米国務長官 “flickr”より By U.S. Department of State
http://www.flickr.com/photos/statephotos/4632360396/)

【経済摩擦解消よりも、地域の安全保障をめぐる緊急課題を優先】
米中戦略対話が24日から北京で行われています。
アメリカからは、クリントン国務長官やガイトナー米財務長官をはじめ、これまでで最大規模の約200人の代表団が派遣されています。
米中間には、以前より「人民元切り上げ」に関する経済問題がありますが、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領が24日、同国哨戒艦が北朝鮮の魚雷攻撃で沈没したとする調査結果が出たことを受け、この問題を国連安保理に提起する方針を示したことを受けて、北朝鮮対策などの安全保障問題が優先する形になったようです。

****緊急課題優先、摩擦二の次=北やイランへの対応協議―米中対話****
米中戦略対話が24日、北京で始まった。クリントン米国務長官は哨戒艦沈没事件への対応で中国側に協力を要請するなど、両国は対話で摩擦解消よりも、地域の安全保障をめぐる緊急課題を優先させており、同対話が国際的な重要課題に関する米中2大国の直接協議の場となることを印象付けた。
米中関係は今年初め、台湾への武器売却問題や、オバマ大統領とチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の会談などで悪化したが、4月に胡錦濤国家主席が訪米し、修復に向かっている。ただ中国側には、「米中間の問題が解決したわけではない」(外交筋)との思いが強い。
このため胡主席は開会式で、「中国国民にとって国家の主権や領土保全ほど重要なものはない」と強調。中国の「核心的利益」にかかわる台湾やチベット問題で譲歩する考えのないことを改めて示した。【5月24日 時事】 
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「人民元切り上げ」については、3月、アメリカの超党派130議員が「中国政府による人民元相場の操作で、米産業が被害を受けている」として、ガイトナー財務長官とロック商務長官に対し、中国を為替操作国と認定し直ちに行動するよう求める公開書簡を送る事態となり、米中関係が一時緊張しました。
結局、アメリカは4月、為替操作国の認定作業を延期しましたが、延期の引き替えに、アメリカ政府が求めるイラン制裁決議案への中国の協力を取り付けたのではないかとの“取引”が一部では噂されていました。

【「圧力をかければ、我々は動けない」】まあ、“取引”と呼ぶかどうか別として、国際政治に限らず、世の中すべて“ギブ・アンド・テイク”で動いています。“取引”はともかく、アメリカ側の中国への姿勢が軟化した背景には、中国からの「圧力をかければ、我々は動けない」との要請があったようです。

****人民元切り上げ、春先に中国が示唆 米に「圧力やめて」*****
中国の通貨「人民元」の切り上げを声高に求めていた米国政府に対し、3月中旬~4月中旬に中国政府から「圧力をかければ、我々は動けない」との要請があったことがわかった。米国側は「圧力」をかけなければ、中国側が切り上げに動く意思を示唆したものと受け止め、切り上げを強く求める姿勢を改めた。中国側は「我々にも有権者がいる」と一党支配の社会主義国として異例の表現も使い、米国側に配慮を求めたという。
米政府高官ら複数の関係者が朝日新聞に明らかにした。米国側によると、中国側から「圧力をかけるのをやめて欲しい(ドント・プレス・アス)。米国が圧力をかけ続ければ、我々は動くことができない。我々にも有権者(コンスティテュエンシー)がいる」と伝えられたという。

米中間では、3月中旬から4月中旬にかけて、北京でのガイトナー財務長官・王岐山(ワン・チーシャン)副首相会談や、ワシントンでのオバマ大統領と胡錦濤(フー・チンタオ)・国家主席の会談などがあり、こうした場で中国側の意思が伝えられた模様だ。
米政府は、オバマ大統領が「国家輸出戦略」を打ち出しており、輸出拡大に有利になるよう、人民元高・米ドル安の状況をつくりだしたいところ。3月上旬には、大統領自身が「中国がより市場志向の為替レートに移行していくことは、世界的な不均衡の是正に向けて不可欠な貢献をもたらす」と述べ、切り上げの必要性に言及していた。
米議会はさらに強硬で、中国を16年ぶりに「為替操作国」に認定し、強く人民元切り上げを迫るよう米政府に求めた。自らの輸出振興のために自国通貨を不当に安くしているという「操作国」に名指しすれば、米国からの圧力の象徴になるとみられていた。

しかし、中国側の要請に呼応するように、米政府は4月、為替操作国の認定作業を延期した。以後も表立って人民元切り上げを強く求める行動を控えている。
米中両政府は24、25日の第2回米中戦略・経済対話を前に、ガイトナー財務長官が王副首相らと23日に北京で会食する。対話では人民元切り上げが表明されることはない模様だが、ギリシャの財政危機を機に金融市場で混乱が起きていることもあり、米政府は23~25日の間、中国の姿勢に変わりがないかを確認するとみられる。【5月23日 朝日】
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アメリカの圧力に屈した形で切り上げに追い込まれるのでは、国内的に批判が高まり耐えられない・・・ということでしょうが、「我々にも有権者(コンスティテュエンシー)がいる」というのは面白い表現です。
一党独裁国家である中国における“constituency”(有権者、支援者層)とは何を指すのでしょうか?

中国共産党指導層には、上海閥とか太子党などの政治勢力があり、普段に厳しい政治闘争が繰り広げられていることはよく伝えられるところです。
また、インターネットを中心にした世論の動向を指導部が非常に気にしていることも報じられています。
急激な人民元切り上げは、中国輸出産業にとっては死活問題にもなり、社会不安の火種にもなります。
そうした対外強硬論に傾きがちな指導層内の対抗勢力、国内世論を指しての“constituency”でしょう。
中国指導部にとっては、アメリカなどの国際批判より、国内のそうした批判が政権維持にとってはるかに重要なファクターでもあるようです。

【「独自の管理可能で段階的な方法で」】
****米中戦略・経済対話、中国主席は段階的な為替改革を再表明*****
24日から始まった米中戦略・経済対話で、胡錦濤・中国国家主席は、為替制度改革を段階的に進める方針を改めて示した。
同国家主席は「中国は、独自の管理可能で段階的な方法に従い人民元相場の形成メカニズムの改革を引き続きしっかりと進める」と語った。
また、米中両国は、経済政策において一段と協力し「完全な景気回復」を達成するためともに取り組む必要があるとの認識を示した。 
さらに、より均衡のとれた成長を達成するために内需を拡大するとも表明した。 
一方、ガイトナー米財務長官は、貿易障害を取り除き、より均衡のとれた世界経済を達成するため、ともに協力することが必要との認識を示した。
長官はまた、国内で開発された最先端技術の大きなシェアを中国企業に対して与えるという政策を緩めるよう間接的に促した。 

一方、クリントン国務長官は、北朝鮮に対して、他国同様、中国も圧力をかけるよう促した。
クリントン国務長官は「北朝鮮による韓国哨戒艦の沈没でわれわれは今、深刻な問題に直面している」と指摘。「この問題を解決するため協力し、朝鮮半島の平和と安定のためにわれわれの共通の目的を達成する必要がある」と語った。
韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領は24日、同国哨戒艦が北朝鮮の魚雷攻撃で沈没したとする調査結果が出たことを受け、この問題を国連安保理に提起する方針を示した。 国民向けのテレビ演説で述べた。  

24日付の中国人民日報は「人民元の上昇は米中貿易不均衡の解決や、米国の雇用問題の解決にはならない」と指摘。「中国は国内経済状況の必要性を基に人民元相場の形成メカニズムの改革を進めている」との見解を示した。【5月24日 ロイター】
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“独自の管理可能で段階的な方法”というのが“為替操作”にもなる訳ですが、「人民元相場の形成メカニズムの改革を引き続きしっかりと進める」とも言っていますので、その成果を見せてほしいところです。


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ポーランド  “カチンの森”事件を超えて、対ロシア関係改善の兆し

2010-05-23 13:45:46 | 国際情勢

(映画「カティンの森」の処刑シーン “flickr”より By Peio Sanchez
http://www.flickr.com/photos/46251304@N05/4339824853/)

【「正当化できない全体主義による残虐行為」】
アンジェイ・ワイダ監督の映画「カティンの森」を観ました。
30数年前、パイプ椅子を並べただけの新宿の狭い空間で、同監督の「灰とダイヤモンド」や「地下水道」の暗い映像を観た頃が思い出されるものがありました。

周知のとおり、“カチンの森”事件は、第2次世界大戦中にソ連のグニェズドヴォ近郊の森で約4400人のポーランド軍将校、国境警備隊員、警官、一般官吏、聖職者がソ連の内務人民委員部によって銃殺された事件です。(「カチン」は現場近くの地名で、事件とは直接関係ないものの、覚えやすい名前であったためナチス・ドイツが名称に利用したとのことです。)
1939年9月、ナチス・ドイツとソ連の両方に侵攻されたポーランドは敗北しましたが、ソ連の占領下に置かれたポーランド東部では、武装解除されたポーランド軍人(ソ連軍発表で23万人)や民間人がソ連軍の捕虜になり、強制収容所へ入れられました。その一部が“カチンの森”事件の犠牲者です。

独ソ戦の勃発後の1943年、この地域を占領下に置いた際にこの情報を耳にしたドイツ軍が最初に遺体を発見。ナチス宣伝相ゲッベルスは対ソ宣伝に利用するために調査・発表を行います。
これに対し、ソ連・スターリンは、1941年に侵攻してきたドイツ軍によってなされた犯行であると主張、ポーランド側にも「“カチンの森”事件はドイツの謀略であった」と認めるように迫ります。

ソ連支配下のポーランドでは、ソ連側の虐殺と知りながらも、それを口にすることは許されず、ナチス・ドイツの犯行という嘘を受容することが国民に強要されます。
父親がこの“カチンの森”事件の犠牲者でもあるアンジェイ・ワイダ監督の映画「カティンの森」は、犠牲者の残された家族が、ソ連による嘘の強要を認めず、生命の危険を冒しながら抵抗するさまを軸に展開します。

以来、“カチンの森”事件は、ポーランドとソ連・ロシアを隔てる心の壁となっていましたが、長い時間を経て、1990年、ゴルバチョフはソ連の内務人民委員部がポーランド人を殺害したことを認めました。
そして、2010年4月7日、プーチン首相はポーランドのトゥスク首相と共にスモレンスク郊外の慰霊碑に揃って跪き、事件を「正当化できない全体主義による残虐行為」とソ連の責任を認めました。ただし、ロシア国民に罪をかぶせるのは間違っていると主張し、謝罪はしていません。【以上、ウィキペディアより】

【赤の広場に連合国軍、ポーランド軍】
今月9日に、ロシアの赤の広場で、第二次世界大戦の対ナチス・ドイツ勝利65周年を祝う記念式典が、ポーランド軍部隊も軍事パレードに加わる形で挙行されました。
****ロシア:対独戦勝65周年 ポーランド軍も65年ぶり参加******
ロシアは9日、第二次世界大戦の対ナチス・ドイツ勝利65周年を迎え、全国72都市で記念式典が開かれた。モスクワの「赤の広場」ではロシアや旧ソ連から1万人以上の兵士が参加して軍事パレードが行われ、大戦時に旧ソ連とともにドイツと戦った「連合国」の米英仏軍部隊約300人が初めて参加。ポーランド軍部隊も対独戦勝利直後の45年6月以来65年ぶりに行進に加わった。

式典でメドベージェフ大統領は、「自由のために戦った」当時の旧ソ連や連合国の兵士をたたえ、現代の脅威に立ち向かい、世界の安全保障を確保するための「連帯」の必要性を訴えた。
式典にはドイツのメルケル首相、中国の胡錦濤国家主席ら20カ国以上の首脳が出席。ポーランドからはコモロフスキ大統領代行(下院議長)、ヤルゼルスキ元大統領が出席し、関係改善を強く印象づけた。ただオバマ米大統領とブラウン英首相は内政事情で欠席。サルコジ仏大統領とイタリアのベルルスコーニ首相は出席の意向を表明していたが、ギリシャ財政危機をめぐる欧州内の対応を理由に直前に訪問を取りやめた。
旧ソ連からはバルト3国のラトビア、エストニアら7カ国首脳とキルギス臨時政府のオトゥンバエワ代表が出席。08年に交戦したグルジアのサーカシビリ大統領は招かれず、野党指導者のブルジャナゼ元国会議長らが出席した。ウクライナ、ベラルーシ、モルドバの大統領は式典に先立つ8日に行われた独立国家共同体(CIS)首脳会議に出席後、自国での式典などのため帰国。ウズベキスタンのカリモフ大統領は今回、訪露しなかった。【5月9日 毎日】
***********************************

昨年6月6日に行われた、第二次世界大戦中に連合軍がナチス・ドイツ占領下の欧州大陸を解放に導いたノルマンディー上陸作戦の決行日「Dデー」65周年の記念式典について、ロシア政府は、オバマ大統領以外の各国首脳の演説で、ナチス打倒に果たしたソ連の貢献への言及がなかったと抗議を表明していました。
今回は、諸般の事情で(あるいは、それを理由に)欧米首脳の列席はなかったものの、米英仏軍部隊約300人が参加する形になっています。ラトビア、エストニア首脳の参加も意外な感があります。

また、対ナチス・ドイツ勝利65周年記念式典に、ドイツのメルケル首相が出席しているというのも興味深いものがあります。過去のナチスと現在のドイツを峻別する論理的整理によるものでしょうが、日本との違いは大きいようです。ただ、実際のメルケル首相の胸中はどんなものでしょうか。

そうした興味深いこととは別に、ポーランドとの関係で言えば、部隊・首脳の参加という形で、ロシアとの関係改善が印象的です。
秘密にされてきた事件に関するロシア側の資料も、ポーランドへ引き渡されることになりました。

****「カチンの森」ロシア軍資料、ポーランドへ引き渡し*****
ソ連スターリン体制下でポーランド人将校ら2万人以上が集団銃殺された70年前の「カチンの森事件」をめぐり、ロシアのメドベージェフ大統領は8日、ポーランドのコモロフスキ大統領代行に対し、ロシア軍検察の捜査資料67巻を引き渡した上で、引き続き資料の秘密解除を進めていくと言明した。
ソ連政権は「カチン事件はナチスの犯行」と偽り、同事件は長く両国関係の摩擦の象徴だった。メドベージェフ氏は、9日の対独戦勝65周年式典のため訪ロしたコモロフスキ氏と個別に会談、自らの命令で秘密解除を続けると表明。コモロフスキ氏は「カチンの真相解明は両国関係発展の基盤になる」と歓迎した。
ゴルバチョフ政権がソ連秘密警察の犯行と認めた1990年以降、軍検察が捜査を始めたが、被疑者死亡を理由に2004年に終結。捜査資料も国家機密保護を理由に183巻中67巻のみがポーランド側に開示可能とされていた。
今後、捜査資料の公開が進めば、スターリンら指導部の犯罪者特定や被害者の名誉回復につながる。【5月9日 朝日】
************************************

【「事実を尊重して初めて、国と国が信頼しあえる」】
こうした関係改善を加速させた要因のひとつとして、カチンの森事件の式典へ参加予定だったポーランドのカチンスキ大統領夫妻ら96人を乗せた政府専用機が4月10日、ロシア西部で墜落・全員死亡した事故に対するロシア側の対応・配慮が、ポーランド側に概ね好感を持って受け入れられたことがあります。
対ロシア強硬派の先頭にいたカチンスキ大統領が、自らの事故で関係改善を推し進めたというのも、皮肉な結果ではあります。

今後のロシアとの関係について、ポーランド・シコルスキ外相は「(墜落の)3日前には、両国首脳が会談し、カチンの森事件の慰霊碑の前で初めてロシア首相が追悼のスピーチをした。この地域では歴史が重要だ。(歴史の)事実を尊重して初めて、国と国が信頼しあえる」【5月26日号 Newsweek日本版】と語っています。

両国が冷静に歴史的事実に向き合うことを可能ならしめたのは、事件からすでに70年ほどが経過したという“時間の流れ”ではないでしょうか。
当時20歳の若者も、今は90歳。大きな悲しみと憎しみの感情を乗り越えていくには、やはり時間が必要でしょう。

【「スターリン復活」に見る危うさも】
一方、ロシア国内では、スターリン再評価の動きと、これに反対するロシア首脳の発言があります。
****スターリン礼賛…露大統領府が阻止へ圧力*****
第2次大戦の独ソ戦戦勝65周年を祝う9日の式典に合わせて、ロシア各地で旧ソ連の独裁者スターリンのポスターなどを公共の場に掲示する動きが相次いでいる。
ロシア第2の都市サンクトペテルブルクでは5日、巨大なスターリンの顔が車体にペイントされた路線バスが登場した。モスクワ市も2月、幹線道路沿いなどにスターリンのポスター10枚を展示する計画を発表。極東ウラジオストクではポスター掲示が始まった。

こうした動きに、露大統領府は反対する姿勢を明確にしている。大統領直属の戦勝記念式典実行委員会はモスクワ市の計画に待ったをかけた。同市は4月末、「クレムリンの圧力により」(ベドモスチ紙)計画の撤回に追い込まれた。
ロシアでは、原油価格の高騰で経済が好調だった2008年末ごろまで、国営テレビで「スターリン礼賛」が横行するなど、ソ連を大国に導いた「偉大な指導者」としてスターリンを再評価しようとする当局の意向が明らかだった。
だが、メドベージェフ大統領は09年10月、スターリンの「犯罪」について「いかなる理由でも正当化されない」と発言。プーチン首相も今年4月、「全体主義の残虐行為への評価は覆しえない」と述べるなど、軌道修正している。
政治学者アレクセイ・マカルキン氏は、08年の金融危機を境に、政権は経済を近代化する必要を痛感したと指摘。そのために利用できる欧米との関係を悪くしないため、政権は「スターリン復活」による対外イメージの悪化を避けようとしていると話す。【5月8日 読売】
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その時の事情次第で「スターリン復活」もありうるような危うさがあります。
単に漫然とした“時間の流れ”だけではなく、論理的整理・総括も必要なようです。

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キルギス  南部の混乱続く ウズベク人との民族対立再燃の懸念も

2010-05-22 11:37:25 | 国際情勢

(4月17日 南部ジャララバード 集会を開こうとする暫定政府支持者に抗議するバキエフ前大統領支持の女性 “flickr”より By plasmastik
http://www.flickr.com/photos/plasmastik/4522896184/)

【「背後にバキエフが控えている」】
4月初めに政変が起きたキルギスですが、バキエフ前大統領支持勢力の抵抗が南部で続き、まだ情勢は安定していません。

****キルギス:前大統領支持派と臨時政府が衝突 死傷者出る*****
中央アジアのキルギス南部で、先月の政変により追放されたバキエフ前大統領の支持者が臨時政府への抗議行動を活発化させている。14日には双方が衝突し、死傷者が出る事態に発展、キルギス情勢は再び混迷を深めている。
バキエフ派の支持者は13日、キルギス南部にある同国第2の都市オシで約1000人の住民が州庁舎に乗り込み、4月の政変で解任されたバキエフ派の州知事の復職などを要求。オシ市内の空港にも侵入した。さらにジャララバードやバトケンでも同派が州政府庁舎を占拠した。
14日にはジャララバードで、臨時政府の支持者ら約500人がバキエフ派に占拠された州政府庁舎を奪還しようと試みた際、衝突が発生。双方の間で銃撃戦となり、同国保健省によると、1人が死亡、44人が負傷した。

臨時政府のテケバエフ副代表(憲法改正担当)は14日のテレビ番組で、一連の庁舎占拠について「背後にバキエフ(前大統領)が控えている」と指摘。治安機関はバキエフ氏周辺が反政府運動に100万ドル(9250万円)相当をつぎ込んだと主張する。政府はイサコフ副代表(防衛担当)を全権代表としてオシに派遣し、情勢沈静化に当たっている。
キルギスは歴史的に南北間の地域対立が激しく、バキエフ氏が基盤とした南部では、北部出身者が多い臨時政府への反発が根強い。臨時政府は来月に新憲法承認の国民投票、10月に大統領と議会の同時選挙を予定しているが、バキエフ派の抵抗が続く中、難しい対応を迫られそうだ。
また、キルギス南部とウスベキスタン、タジキスタンにまたがるフェルガナ盆地は、イスラム原理主義への支持が根強いことから、キルギス情勢の混乱は中央アジア全体に影響を及ぼす恐れもある。【5月14日 毎日】
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キルギスの政変でベラルーシへ出国したバキエフ前大統領は、出国当時は「辞表を提出した」と言われていましたが、出国後は辞任を否定しています。
****バキエフ氏、大統領辞任否定=臨時政府「辞表ある」と反論-キルギス****
キルギス政変で失脚し、事実上の亡命生活に入ったバキエフ氏は21日、ベラルーシの首都ミンスクで記者会見し、「わたしは正当に選ばれたキルギス大統領だ。国民の破局的状況に責任を負う」と述べ、大統領辞任を否定した。
これに対し、キルギス臨時政府当局者は同日、「バキエフ氏は(米ロなどの)大国や国連によってキルギスから出国させられ、辞表を提出した」と反論。「彼が民衆によって打倒され、もはや国を統治していないことは明白」と強調した。
バキエフ氏は15日に出国した後、カザフスタン経由で週初にベラルーシ入りした。【4月21日 時事】
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【支援するロシア、前大統領をかくまうベラルーシ】
キルギスの暫定政府は4月27日、ベラルーシに逃れたバキエフ前大統領を「大量殺害」などの容疑で訴追したと発表、さらに、民衆デモ弾圧を指揮したコンガンチエフ元内相の刑事訴訟に着手しました。
コンガンチエフ元内相は、1500人以上の死傷者を出した4月上旬の反政府デモへの弾圧で主導的な役割を果たしたとみられており、政変後はロシアに出国していました。
ロシア治安当局は、この発表前にすでにコンガンチエフ内相をモスクワ市内で拘束しキルギスへ送還したことが報じられています。【4月26日 毎日】
他国に先駆けて臨時政府を事実上承認したロシアのキルギス暫定政権への肩入れ度合いがうかがわれます。

ロシア軍基地とともに、米軍がアフガニスタンへの物資輸送拠点に使っているマナス空軍基地も存在するキルギスでは、米ロ双方がその影響力を争ってきました。政変後、臨時政府を樹立した野党勢力の指導者から「バキエフ大統領の追放にロシアが役割を果たした」との発言もありましたが、プーチン首相は「ロシアは今回の暴動には一切関係がない」と関与を否定しています。
バキエフ前大統領は「外国の力なしにこうした作戦を実施することは事実上不可能だ」と述べていますが、「ロシアが自分を見捨てたとは思わない」「背後にロシアがいるとは言えないし、信じたくない」とも語っています。【4月9日 毎日より】

一方、バキエフ前大統領を受け入れたベラルーシのルカシェンコ大統領は、バキエフ前大統領引き渡しに応じていません。
「ヨーロッパ最後の独裁者」とも呼ばれるベラルーシ・ルカシェンコ大統領ですが、最近は、旧ソ連の国ではありますがロシアとは一定の距離を保ち、ロシアとEUを天秤にかけ、双方から経済支援を引き出す外交を展開しています。
ロシアが支援するキルギス暫定政府に抗する形でバキエフ前大統領を受け入れ続けるベラルーシ・ルカシェンコ大統領に対し、ロシアは“苛立っている”とも言われています。
ウクライナ、キルギスと、カラー革命をひっくり返して親ロシア政権が誕生している流れで、次にロシアが標的にしているのがグルジアとベラルーシだとも。

【底流に南北対立】
話が横道にそれてきました。本筋に戻すと、バキエフ前大統領が国外で暫定政府への抵抗を続けていることもあって、国内情勢は冒頭記事のように安定していません。
キルギスの政治情勢には南北間の対立が基本にあり、北部利益を代表するアカエフ元大統領に対する南部での反発から「チューリップ革命」が起きてバエキフ前大統領が誕生し、今回は南部を地盤とするバエキフ前大統領を北部勢力が野党を支援する形で追い出した・・・という流れが従来から言われています。
(なお、暫定政府の中心人物で、暫定大統領ともなったオトゥンバエワ氏自身は、南部オシの出身です。)

このように、強権的支配に対する民主化運動の抵抗、一族支配への反感(バキエフ前大統領の次男マクシムが最近民営化された通信会社や電気会社を支配下に収めた際、電力の大幅な値上げによる経済不安が生じたため、野党や国民から批判の対象となっており、これが反政府運動の引き金の一つとなったと言われています)というだけではありませんので、南部における不穏な状況が続いています。

【再燃する民族対立】
前大統領が基盤とする南部は民族構成が北部とも異なり、ウズベク人が多い地域でもあります。
全国的には、キルギス人が70.9%、ウズベク人が14.3%、ロシア人が7.8%、その他7%ですが、ウズベキスタンに隣接する南部ジャララバード州ではウズベク人が4割を占めています。

そうした土地柄、キルギス南部最大の都市オシでは、ソ連末期の1990年にキルギス系とウズベク系住民が衝突し、死者・行方不明者600人(数字には諸説あるようです)を出す惨事も起きています。
今回の政変の混乱で、再びこの民族対立にも火がつきかねない懸念があります。

****キルギス暫定大統領を決定 2人死亡の南部で非常事態****
インタファクス通信によると、流血の政変でバキエフ政権が崩壊した中央アジア・キルギスの暫定政府は19日、暫定政府を率いてきたオトゥンバエワ元外相代行を2011年末までの暫定大統領とする決定をした。
一方、失脚したバキエフ前大統領の基盤である同国南部ジャララバードでは同日、キルギス人のデモ隊約3千人が少数民族のウズベク系の大学を襲撃しようとしてウズベク系住民と衝突。保健省によると2人が死亡、60人以上が負傷し、暫定政府はジャララバードなどに非常事態を宣言した。

暫定政府には、オトゥンバエワ氏を暫定大統領とすることで政権の権威を高め、バキエフ前大統領支持者らによる混乱が南部で連日続いている事態の早期収拾を図る狙いがあるとみられる。
暫定大統領の任期は11年12月31日まで。オトゥンバエワ氏は同年に実施される大統領選に立候補しない。
政変に伴う前倒し大統領選はこれまで、今年10月10日に行われる議会選と同時に実施される可能性が高いとみられていた。
ジャララバードでは、バキエフ氏や親族の家の襲撃に関与したとしてデモ隊がウズベク系指導者の引き渡しを要求。ウズベク系住民らが対抗し、発砲も起きたという。【5月20日 京都新聞】
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バキエフ前大統領が南部を支持基盤としている、一方、南部はウズベク人が多い・・・では、バキエフ前大統領とウズベク人の関係は?・・・という基本的なことが今までわからずモヤモヤしていたのですが、上記記事によれば“バキエフ氏や親族の家の襲撃に関与したとしてデモ隊がウズベク系指導者の引き渡しを要求”とありますので、南部において、バキエフ前大統領支持勢力とウズベク人勢力は対立関係にあるようです。

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