孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  タリバンが州都クンドゥズを攻略 16年末完全撤退を控えたアメリカの憂鬱

2015-09-30 22:30:48 | アフガン・パキスタン

(29日、アフガニスタン北部クンドゥズでバイクにまたがるタリバンの戦闘員(AP)【9月29日 産経ニュース】)

治安回復の兆しが見えず、撤退計画も調整
アフガニスタン駐留米軍はピーク時は10万人を超えていましたが、昨年末までに戦闘部隊が撤退。今年中には訓練などのアフガニスタン治安部隊への支援を中心とする5500人まで削減、16年末には完全撤退することになっていました。

米軍撤退にともない今年からアフガニスタン軍が治安の全権を担っていますが、タリバンの活動によって治安回復の兆しが見えないため、今年3月に訪米したアフガニスタンのガニ大統領とオバマ米大統領の会談によって、今年については1万人近い約9800人規模を維持することで合意しています。

この際、オバマ大統領は16年末の米軍の完全撤退は「変更しない」と強調しています。

米軍の撤退スケジュールのスローダウンは、脆弱なアフガニスタン軍の補強にはなりますが、駐留外国軍の完全撤収を和平交渉の条件とするタリバンとの交渉を更に難しくすることにもなります。

その後も、5月13日には、外国人客に人気の宿泊施設が武装集団に襲撃され6人の外国人を含む14人が死亡する(タリバンが犯行声明)など、テロの犠牲になる民間人は過去最悪のペースで増加。

タリバンは治安部隊や省庁、外国人を狙った攻撃を連日のように繰り返し、6月22日には、首都カブールでタリバンが開会中の議会を襲撃、治安部隊との間で約2時間にわたり銃撃戦となり、市民ら少なくとも2人が死亡、40人が負傷しました。

首都の国家中枢が攻撃を受ける事態に、アフガニスタン治安部隊の能力への不安が表面化しました。

7月7日には、隣国パキスタンの首都イスラマバード近郊で、タリバンとアフガニスタン政府の和平に向けた直接協議が行われ、双方は今後もアフガンの平和と安定に向けて交渉を継続することで合意しました。

しかし、長らく生存が疑問視されていたタリバンの最高指導者オマル師の死亡が公表されたことで、タリバン組織内が混乱、和平協議は立ち消えとなっています。

後継者をめぐってタリバン組織の分裂、イスラム国(IS)の影響拡大なども予測されましたが、新指導者とされるマンスール師と当初反目していた故オマル師の弟と息子がマンスール師への支持を表明するなど、今のところは一応、序列2位にいたマンスール師が新指導者として組織を把握しているようです。

ただ、アフガニスタン政府との和平協議を主導してきたマンスール師は、その融和的な姿勢に組織内部で反発を受けており、逆に強硬策を示すことで支持をつなぎ止めようとしているようで、指導者交代後はタリバンの攻勢が一層強まっています。

新指導者マンスール師は和平交渉については、アメリカなどとの安保協定破棄を新たな条件としています。

****タリバン、和平に新条件=安保協定破棄を要求―アフガン****
アフガニスタンの反政府勢力タリバンの最高指導者マンスール師は22日、「この国に平和をもたらしたければ、政府は外国による占領を終結させ、侵略者との安全保障協定を破棄すべきだ」とする声明を出した。タリバンが和平の条件として米国などとの安保協定破棄を掲げたのは初めて。

マンスール師は「占領から解放されれば、アフガンの問題はアフガン人同士の話し合いで解決できる」と強調。米軍を主力とする駐アフガン国際部隊に敵意をあらわにする一方、非営利団体による支援活動は「称賛すべき行動だ」と述べ、協力姿勢を示した。

国際部隊は昨年末、アフガンにおける戦闘任務を完了し、規模を1万2000人程度に縮小。
一方、アフガン政府は昨年9月、米国との安保協定に調印し、2016年末までの米軍の駐留継続を可能にした。

アフガンではタリバンがテロ活動を継続する一方、過激派組織「イスラム国」も勢力を伸ばしつつある。政府は国際部隊の駐留延長を求めており、マンスール師はこうした動きをけん制した。【9月22日 時事】
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2001年に新生アフガニスタン政府が発足して以来の大きな軍事的敗北
こうした流れの中で、アフガニスタン北部にある州都でもあるアフガニスタン第5の都市クンドゥズで28日未明、タリバンが市街地に侵入し、同日午後までに地元州知事公舎や警察本部を含む大半の重要施設を占拠する事態となっています。

****アフガン北部の都市、タリバーンがほぼ掌握 500人脱獄****
アフガニスタン北部クンドゥズ州の州都クンドゥズが28日、反政府勢力タリバーンに襲われ、同日夜までにほぼ掌握された。
アフガン内務省の報道官は28日深夜、クンドゥズがほぼ「敵の手」に落ちたと述べた。

同報道官がこれに先立ち発表したところによると、タリバーンは同市の刑務所を包囲したほか、州警察トップの官舎などを攻撃。アフガン治安部隊が軍の航空支援を受けて応戦していた。(中略)

タリバーンの最高指導者、マンスール師は声明でクンドゥズ掌握を祝う一方、戦闘員らに「作戦終了後は住民の生命や財産、尊厳を守ることに注意を払うべきだ」と呼び掛けた。

タリバーンはパキスタンなどから新たに戦闘員が加わって勢力を強め、今年春以降クンドゥズ州の各地で政府軍との衝突を繰り返してきた。(後略)【9月29日 CNN】
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2001年に新生アフガニスタン政府が発足して以来、州都が陥落したのは初めてで、大きな軍事的敗北となっています。

****タリバーン、アフガン北部の州都掌握 議会など次々占拠****
・・・・州当局者らによると、タリバーンは少なくとも数百人とみられ、3方向から市内に侵入。治安部隊を銃撃戦で圧倒し、州議会や裁判所、州知事公舎などを次々占拠し、刑務所に収監されていた仲間ら約600人を脱獄させた。

地元テレビは「路上に多数の遺体が放置されている」という住民の声を伝えた。中心部の交差点や国連事務所にタリバーン政権時代の旗が掲げられた映像も流した。(中略)

アフガン北部は比較的治安が良かったが、パキスタンを追われたウズベク人武装勢力が昨年ごろから地元のタリバーンと合流し、各地で治安部隊との衝突が広がっている。【9月29日 朝日】
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この衝撃的な軍事的敗北に、アフガニスタン軍は米軍の空爆支援を受けて、奪還に乗り出しています。

****アフガン軍、タリバンからの州都奪還作戦を開始 米も空爆で支援****
アフガニスタン政府軍は29日、前日に旧支配勢力タリバンによって大部分を制圧された北部の要衝クンドゥズの奪還作戦を開始し、米軍も空爆で作戦を支援した。

タリバンは28日、クンドゥズ州の州都クンドゥズの政府関連施設を掌握した後、刑務所からタリバン司令官らを含む受刑者数百人を脱走させた。タリバン側にとっては、2001年に政権の座を追われて以降最大の勝利となり、同市からは多数の住民が避難した。

同市陥落は、北大西洋条約機構(NATO)による訓練を受けたアフガニスタンの治安部隊に大きな精神的打撃を与えるとともに、タリバンが地方の拠点だけにとどまらず支配域を拡大し得る能力があることを見せ付けた。

NATOが出した声明によると、米軍もクンドゥズ州内で空爆を実施。ただ、標的については公表されていない。

この戦闘による犠牲者数は明らかになっていないが、アフガニスタン保健省は、クンドゥズにある病院にはこれまでに16人の遺体が搬送されており、負傷者は190人以上に上っているとしている。

奪還作戦の開始後も、同市の大部分は依然タリバンの支配下にあり、戦闘員らが盗んだ警察車両や赤十字のバンに群がる様子が目撃された。

またタリバンが公開したある動画では、戦闘員らが治安当局から奪った戦車や装甲車を披露し、「アッラー・アクバル」(アラビア語で「神は偉大なり」の意)と叫んだり、シャリア(イスラム法)の徹底を誓ったりしている。

現場で取材に当たっているAFP記者によると、タリバン戦闘員らは29日夜、近郊にある空港に迫りつつあったが、新たな空爆で一部が押し戻された。

アフガニスタンの情報機関によると、この空港付近への空爆で、タリバンが同州の「影の知事」に任命していた人物やその補佐官、さらに戦闘員15人が死亡したと発表した。

アユーブ・サランギ内務次官は、治安部隊はクンドゥズ奪還の用意が整っていると述べるとともに、タリバンがいかにして過去14年間で初めて主要都市の中心部を掌握できたのかを調べていくと語った。【9月30日 AFP】
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一般市民が生活する市街地に対する米軍の空爆は制約があり、今後の奪還作戦ではアフガニスタン軍の能力が問われます。

****都市奪還へ米軍が空爆、戦闘で市民170人死傷 アフガン****
・・・アフガンのガニ大統領は大統領府で行った記者会見で、刑務所と警察本部は治安部隊が奪還したと強調。

陸軍大隊や特殊部隊もクンドゥズに到着し、「同市のテロリストは掃討されつつある」と語った。ただ、「敵は市民を盾として使っている」とも述べ、「市や民家を空爆することはできない」としている。

このためクンドゥズ全体の奪還にどれくらいかかるかの見通しは立っていない。【9月30日 CNN】
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政治の機能不全を招いているガニ氏とアブドラ氏の確執
今回の事態では、わずか半日余りの戦闘で州都を奪われるという、イラク軍の対IS敗退を思わせるようなアフガニスタン軍の軍事能力も問題ですが、一番の問題は、こうした事態を招いた政治的機能不全にあるように思われます。(イラクの場合もマリキ前首相のシーア派偏重の政治に問題があったように)

****政権内対立、治安の連携崩壊****
不正にまみれた大統領選の混乱を経て、ガニ大統領が対立候補のアブドラ行政長官と挙国一致政権を発足してから29日で1周年。記念日は政権にとって屈辱に満ちたものになった。

国内では、駐留米軍の完全撤退を来年末に控え、わずか半日余りの戦闘で人口30万人の都市を明け渡してしまった政権への非難が沸騰している。

クンドゥズ州議会のアサドゥラ・サダト議員は「助けを求めて何度も陳情したのに、政権は縄張り争いに明け暮れて対応を怠った」と批判した。

昨年、隣国のパキスタンで始まった軍事作戦で押し出されたウイグル人武装勢力がアフガン北部の地元タリバーンと合流して以降、クンドゥズの治安は悪化していた。

同市がタリバーンの大規模攻撃にさらされたのは今年3回目。近郊の村々から約4万人の避難民が市内に流入するほど危機は切迫していた。

しかし、ガニ氏が任命した州知事とアブドラ派の旧軍閥が対立し、それぞれの支持者が幹部ポストを握る治安組織の内部で「連携が崩壊していた」(サダト氏)という。

政権内では、今も国防相が決まらない異常事態が続いている。ガニ氏が指名した候補者をアブドラ派が中心となって議会で否認し続けているためだ。

一方、タリバーンも今年7月末に最高指導者オマール幹部の死去が明らかになり、マンスール幹部の後継就任への不満が噴出。かつてない内紛を経験した。

クンドゥズのタリバーン司令官は、いち早くマンスール支持を表明した有力者の一人だ。陥落直後、マンスール幹部は成果を誇示する声明を出した。今回の作戦が、求心力を高めたい新指導部に強力な追い風になったことは間違いない。【9月30日 朝日】
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混乱した大統領選挙は、ガニ氏とアブドラ氏が権力を分担する形で一応収拾したものの、やはりその後遺症は大きいものがあるようです。

危機が迫るなかにあっても権力争いに終始するようでは、仮にクンドゥズを奪還できたとしても、今後の見通しは暗いものがあります。

16年末完全撤退を控えて、アメリカ・オバマ大統領の苛立ちも募っているかと思いますが、新生アフガニスタンのもとで芽生えた女性の権利拡大などの動きが、再度のタリバン支配によって摘まれてしまうのは非常に残念です。

早すぎる悲観論かもしれませんが、ついついそんな思いを抱いてしまうアフガニスタン政府の実態です。

イラクの“裏切り”】
アメリカの苛立ち・落胆について言えば、アフガニスタン政府・軍の能力欠如の実態とともに、(アメリカの立場からすれば)アフガニスタン同様に米軍が多大な犠牲を払ったイラクもアメリカを“裏切る”事態となっています。

****虚仮にされたオバマ政権 ロシアの“第2の矢”に衝****
ロシアのシリアへの軍事介入に大慌てのオバマ米政権に再び衝撃が走った。

ロシアがイラン、イラク、そしてシリアの3カ国と過激派組織「イスラム国」(IS)の情報を共有する「統合情報センター」の設置で合意したからだ。

米国から巨額の軍事支援を受けるイラクの“裏切り”行為にオバマ政権は完全に虚仮にされた格好だ。

この「統合情報センター」の設置は27日、イラク軍から突然発表された。
米国にはまったく事前の通告がなく、オバマ政権は蚊帳の外に置かれた状態で、大慌てでアバディ首相らイラク側に確認を急いだ。(中略)

ロシアのプーチン大統領は米国の「有志連合」に対抗する「反IS連合」を提唱しており、4カ国はこの中核になる見通しだ。

オバマ政権にとって寝耳に水のこの決定は、アサド・シリア政権に対する軍事支援強化に続くプーチン大統領の中東への影響力拡大の“第2の矢”である。

「米国にとっては、“ロシアにまたしてもやられた”という感情よりも、イラク政府に裏切られたという方がショックだ」(ベイルートの消息筋)。(後略)【9月30日 佐々木伸氏 WEDGE】
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アサド政権軍事支援のためのロシア機のイラク上空通過についても、イラク政府が認めるのはアメリカへの配慮から難しいのでは・・・と言われていましたが、あっさりイラクは了承し、アメリカは失望しています。

アメリカからすれば、なんのためのアフガニスタン・イラクだったのか・・・という話にもなりますが、当然ながら両国には両国の事情もあります。(なにも頼んでアメリカに来てもらった訳でもありません)
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イラン  聖地巡礼事故 国連総会でサウジアラビア政府を「無能」と指弾 懸念される両国の関係悪化

2015-09-29 22:13:59 | 中東情勢

(写真は2011年の「悪魔への投石」儀式へ訪れた巡礼者の波。何回も繰り返される大事故から、大巡礼「ハッジ」において最も危険な儀式と言われてきました。当局による対策も取られてはきたのですが。
「悪魔への投石」儀式は、“犠牲祭の3日間、巡礼者は毎日、25メートルの柱3本に、それぞれ7つの小石を投げなければならない”というものだそうです。【2011年11月7日 AFP】)

聖地巡礼で繰り返される圧死事故
9月24日、サウジアラビアの聖地メッカ近郊のミナで、イスラム教徒の大巡礼「ハッジ」を行っていた大勢の巡礼者が折り重なるように倒れて死亡した事故で、犠牲者の数は増え続け、現在のところ769人と報じられています。

この日は、ミナで悪魔を象徴する柱に投石する儀式の日とされ、巡礼者約200万人の大半が周辺にいたとみられています。事故は宿営地と儀式の会場をつなぐ通りで起きました。

巡礼者が殺到するメッカ周辺での圧死などの事故は過去にもたびたび起きており、1990年7月2日、やはりミナで、巡礼者が移動するためのトンネル内で転倒事故が起き、1426人が死亡しています。

また、2006年にも、同じ儀式の日にミナで約350人が死亡しています。【9月25日 朝日より】
“この儀式では、1994年から2006年の間に4回の圧死事故が発生し、計1000人以上が死亡している。”【9月25日 AFP】とも。

なお、メッカでは9月11日、建設工事用のクレーンが倒壊して聖モスクに激突し、少なくとも107人が死亡した事故も起きています。

これだけの犠牲者を出しながらも、毎年大勢の巡礼者が押し寄せる・・・その宗教的熱狂は部外者には理解しがたいものがあります。

当然ながらサウジアラビア当局の安全管理への批判がでますが、サウジアラビア側は巡礼者の規則に従わなかった行動に原因があるとしています。

****巡礼者圧死、サウジの安全対策に疑問符 「事故前から人々が失神****
サウジアラビア西部にあるイスラム教の聖地メッカ近郊で24日に発生し、大巡礼「ハッジ」で過去25年に起きたものとしては最多の717人が死亡した圧死事故を受け、安全対策に数十億ドルを投じたのにもかかわらず事故を防げなかった同国当局の対応力に対する疑問の声が上がっている。

現場となったメッカ近郊のミナでは、事故が起きる前から、巡礼者らは不満をもらしていた。
事故当時、現場にいたスーダン人のある男性巡礼者は、今回の大巡礼の運営体制は今までに自分が参加した4回の中で最もひどかったと語った。

男性は、「人々は事故前からすでに脱水状態に陥ったり、失神したりしていた」「人々はあちこちで互いに倒れ掛かっていた」と語った。また男性のサウジアラビア人の同行者は、「何かが起こりそうだ」と心配を口にしていたという。

サウジアラビアの内務省は、ハッジの安全確保、交通と群衆の整理に警官10万人を配備したと発表していた。警官らは、約200万人近くの人々が一挙に集まる地域の警護を任されていた。

しかし、ロンドンから取材に応じた、聖地の再開発に批判的なイルファン・アラウィ氏は、こうした警官らは言語能力に欠け、しっかりした訓練もされていないと批判。「彼らは大量の人々をさばく方法を知らない」と語った。

■サウジ当局は巡礼者らを非難
一方、サウジ当局は巡礼者らが規則に従わなかったのが事故原因だと巡礼者らを非難している。

ハリド・ファリフ保健相はニュース専門衛星テレビのアルイフバリヤで、「多くの巡礼者らは定められた時間を守らず移動していた」と指摘し、「もし指示に従っていれば、このような事故は回避できたはずだ」と語った。

24日の悲劇は、安全対策向上を目指し、10年の期間と10億ドル(約1200億円)以上の費用をかけて建設された5階建てのジャマラート橋周辺で起こった。(中略)

全長が1キロ近くあるジャマラート橋は、1時間に30万人の巡礼者がこの儀式を行うことができる。

アラウィ氏は「何人の人が入ることができ、何人の人が出ることができるのか、群衆管理のシステムを作るべきだ」と語り、現状に比べたらラグビーやサッカーの国際試合の管理体制のほうがしっかりしていると指摘した。

ミナではこの他、巡礼者の移動に使われる高架鉄道や宿泊用の防火テントなどの設備や安全対策が、ここ数年の間に導入されていた。(c)AFP
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群集事故としては日本でも2001年7月に、死者11人・重軽傷者247人を出した明石花火大会歩道橋事故が起きています。

事故を未然に防ぐには、滞留を発生させず、人の流れを管理する対応が必要とされます。
いったんパニックが発生してしまうと、手に負えなくなります。

さすがに、サウジアラビアのサルマン国王も24日、ハッジ(大巡礼)の運営方法見直しを指示しています。

“サウジアラビア政府は、事故の原因としてハッジの重要な行程になっている石投げの儀式に向かう人たちと逆の方向から来た一団が道路の交差点に集中したことや、当時、気温がおよそ40度で、多くの巡礼者が疲れていたことなどを挙げていますが、さらに徹底した捜査を行ったうえで、ハッジの運営を改善する方針を国内外に示しています。”【9月27日 NHK】

【「サウジ王室に死を」「事故を起こしたのはシーア派だ」】
これだけの犠牲者を出したことだけでも衝撃的なニュースですが、単なる事故にとどまらない可能性があるのは、死亡した769人のうち226人がイラン人で、20か国以上に及ぶ犠牲者を出した国々のなかでもイランが突出して多く、未だ連絡がとれていない者も多数いるということで、イラン政府がサウジアラビアの対応を強く批判していることです。

国連総会に出席するため、ニューヨークを訪問しているイランのロウハニ大統領は、、演説を終えた後、訪問の半ばで、イラン人巡礼者の葬儀に出席するためイランに戻ると発表されました。

****イラン大統領は前倒し帰国 770人死亡の聖地事故でサウジと対立「聖地取り戻せ****
イラン国営通信によると、国連総会出席のため訪米中のイランのロウハニ大統領は、約770人が死亡したサウジアラビア西部メッカ近郊での巡礼者の将棋倒し事故で犠牲となったイラン人の葬儀に参列するため、米国での滞在を短縮し28日に帰国することを決めた。

イランでは事故に関連しサウジを非難するデモが発生するなどしており、対立する両国の関係がいっそう悪化する可能性も出ている。

「サウジは責任を認め、世界のイスラム教徒と犠牲者の家族に謝罪すべきだ」。イランの最高指導者ハメネイ師は27日、こう述べ、サウジ側を牽制(けんせい)した。
イスラム教で重視される大巡礼(ハッジ)期間中の24日に起きた事故では、イラン人も少なくとも約170人が死亡し、イランでは安全対策の不備を指摘する声が相次いだ。

これに対しサウジ側は「悲劇を政争の具にすべきではない」(ジュベイル外相)と反論するなど両国間の応酬が続いている。

シーア派大国イランは、内戦状態が続くイエメンやシリア問題でスンニ派の盟主を自任するサウジと対立。サウジは、イランと欧米など6カ国が7月に結んだイラン核問題の最終合意についても、イランの影響力拡大への懸念などから反対の立場を取ってきた。

そんな中で今回の事故を受け、イランの首都テヘランでは27日、数百人がサウジ大使館前に集まり、「聖地を(シーア派に)取り戻せ」「サウジ王室に死を」と非難。

スンニ派諸国ではネット上で、「事故を起こしたのはシーア派だ」との噂が流布されるなど、宗派間の不信や根強い対立感情も浮き彫りとなっている。

ただイランは、最終合意の履行に向けたこの時期に周辺国との急速な対立激化は避けたいのも本音。

最終合意後で初となる今回のロウハニ師訪米ではオバマ米大統領との直接対話が実現するかにも注目が集まっているが、その一方で同師には、前倒しで帰国して事故対応に当たることで事態を沈静化させたいとの考えがありそうだ。【9月28日 産経】
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周知のように聖地メッカを守護するサウジアラビアがイスラム教スンニ派の盟主を自任するのに対し、イランはシーア派の盟主。

イランのシリア・イラク・イエメンでの影響力拡大、アメリカ等との核問題合意などに対し、サウジアラビアは激しく反発。両国の確執は混迷する中東情勢を左右する大きな軸となっています。

その両者の関係を悪化させかねない・・・そういう事故でもあります。

国連総会演説で、イランのロウハニ大統領はサウジアラビア政府を「無能」と批判しています。

****イラン大統領、米国を批判 国連演説「サウジは無能****
イランのロハニ大統領は28日、ニューヨークで開催中の国連総会で演説し、シリアやイラク、イエメンで続く内戦について、米国の軍事介入が原因だと批判した。また、巡礼中の事故でイラン人ら700人以上の死者を出したサウジアラビア政府を「無能」と厳しく非難した。(中略)

サウジの巡礼中の事故には演説の冒頭で触れ、行方不明者の確認や遺体の引き渡しが滞っているとサウジを批判。事故原因の究明と再発防止を強く訴えた。【7月29日 朝日】
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“イランは、最終合意の履行に向けたこの時期に周辺国との急速な対立激化は避けたいのも本音”【前出産経】とのことですが、国連総会で「無能」呼ばわりされた聖地守護者としてのプライドが高いサウジアラビアが黙っているのか・・・やや不安でもあります。

国内強硬派をなだめるためにも、強い言葉の批判が必要なのでしょうが・・・・。

【「ザリフの手は血で染まった」】
一方、今回国連総会においては、保守穏健派ロウハニ大統領にとって国内強硬派を刺激しかねないもうひとつの“事件”も。

****<イラン外相>オバマ米大統領と握手 強硬派に波紋も****
イラン学生通信によると、イランのザリフ外相は28日、国連総会開催中のニューヨークでオバマ米大統領と握手を交わした。

イランと米国は、1979年の在イラン米大使館襲撃事件を受けて80年に国交を断絶。強硬派を中心にイラン内で波紋が広がりそうだ。

イランのロウハニ大統領の一般討論演説後、ザリフ氏が会場を去ろうとした際にオバマ氏、ケリー米国務長官と鉢合わせし、短いあいさつと握手を交わしたという。

報道を受け、強硬派のマンスール・ハギガットプール国会議員(国家安全保障外交委員会)は「事実なら、ザリフ氏は大きな過ちを犯した。謝罪すべきだ。我々は米国を信用していないし、正常な外交関係を持つには大きな隔たりがある」と話している。

また、ファルス通信の投稿欄は「ザリフの手は血で染まった」などと過激な批判が相次いでいる。2013年の国連総会の際、ロウハニ師がオバマ氏と電話した時も、帰国した同師に靴が投げられるなどの反発が起きている。【9月29日 毎日】
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ザリフ外相としては、難航した核問題協議でなんとか合意に漕ぎつけた安ど感などもあって、ごく自然に手が出たのでしょうが、イランでは“あるまじき行為”と映るようです。

どこの国でも、自分たちの主張だけ声高に叫び、相手の立場を一切みとめようとしない“強硬派”の存在は、こうした“強硬派”の単純明快な主張は世論の受けがいいということもあって厄介なものです。
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北朝鮮  党創建70周年記念で全住民に特別激励金支給? 中朝関係は? 核実験・ミサイル発射は?

2015-09-28 22:44:02 | 東アジア

(強制収容所を監視する北朝鮮女性兵士 中国からの脱北者強制送還が増加し、北朝鮮は女性用強制収容所を拡充しているとか。北朝鮮側は強制収容所の存在を否定していますが、強制労働・暴力・飢餓・処刑などに服役者はさらされており、何千人もの服役者が死亡しているとも 【9月21日 Mail Online】http://www.dailymail.co.uk/news/article-3242787/North-Korea-expands-space-women-notorious-gulags-large-numbers-forcibly-returned-China.html
ありそうな話ですが、これも実態はよくわかりません。)

特別激励金支給報道の一方で、臨時徴収の報道も
北朝鮮については、毎回取り上げるたびに断るように、情報統制が厳しい「不思議の国」ですから実際のところはよくわかりません。

そんな北朝鮮について、びっくりするような話が。
来月10日の朝鮮労働党創建70周年記念日を前に、全住民に1カ月分の生活費に当たる特別激励金を支給するとか。

****金正恩氏が全住民に1カ月分の生活費 激励金支給へ****
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が来月10日の朝鮮労働党創建70周年記念日を前に、全軍人と住民に1カ月分の生活費に当たる特別激励金を支給する。朝鮮中央通信が25日に伝えた。

軍人や労働者のほか、年金や補助金、奨学金の受給者にも支給するという。このため大学生や退職者、無職の人も含め、高校生以下を除く全住民に支給されるとみられる。

元朝鮮労働党幹部の北朝鮮脱出住民(脱北者)によると、過去に金日成(キム・イルソン)主席や金正日(キム・ジョンイル)総書記の時代に成果を上げた企業所や農場に対し特別激励金を支給したことはあったが、全住民に支給するのは初めてという。

朝鮮中央通信によると、今回の決定は23日に発表された最高人民会議(国会に相当)常任委員会の政令によるもの。【9月25日 聯合ニュース】
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本当でしょうか?
今の北朝鮮に、どこを探せばそんな資金的余裕があるのか?
紙幣印刷の輪転機を回してバラ撒けば出来ないこともないでしょうが、それでは経済が大混乱しそうです。

一方で、党創建70年記念行事に合わせた建設事業や閲兵式への支援名目に8月、住民1世帯当たり中国元で40元(約750円)が徴収されたという、まったく逆の話も報じられています。

****北朝鮮情勢】羨望のはずの海外勤務辞退者続出のわけ…党創建70年行事で外交官に1億円超ノルマ、工作員も外貨稼ぎに追われ****
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)政権が10月10日の朝鮮労働党創建70年行事の費用を捻出するため、住民からの徴収に加え、外交官らに1人当たり最低100万ドル(約1億2千万円)の外貨融資取り付けを課していることが23日、複数の消息筋への取材で分かった。

ノルマに耐えかね、羨望の的とされた海外勤務を辞退するケースも続出。対外的には、核実験やミサイル発射を示唆する強硬姿勢で臨み、経済難にあえぐ内部にも圧迫を強め続ける実態が浮かぶ。

北朝鮮幹部と接触のある消息筋らによると、党創建70年記念行事に合わせた建設事業や閲兵式への支援名目に8月、住民1世帯当たり中国元で40元(約750円)が徴収されたという。北朝鮮の一般労働者の月給に倍する額だ。

水害復旧名目としても成人1人当たり2千ウォン(約260円)や軍手などの現物供出が課されたという。地方によっては、記念日を前に金日成(イルソン)・正日(ジョンイル)父子の銅像建設にも動員され、大干魃(かんばつ)に見舞われた国民生活に追い打ちをかけている。

巨額の外資誘致を義務付けるなど、在外公館勤務者にはいっそう過酷なノルマが求められ、業績低迷から幹部を30、40代の若手に交代させる動きもみられる。

工作機関の偵察総局は海外の工作員に、今月までに1人20万ドルを上納するよう指示。「未納者はクビだ」と迫られ、諜報活動などの本来業務よりも外貨稼ぎに追われる状況だという。

ノルマに耐えかねて自ら帰国を申請する海外要員も増えているとされる。外国文化に触れ、外貨を手にできることから北朝鮮で憧れの仕事といわれてきた海外勤務の志願者も目に見えて減少しているという。

在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)にも記念行事への出席を募っているが、1人約30万円の参加費に加え、通行料などとして追加出費を強いられ、敬遠する空気が強いとされる。

党創建70年を前に、北朝鮮は新たなミサイル発射や核実験実施を相次ぎ示唆している。長距離弾道ミサイル「テポドン2号」の開発だけで、北朝鮮住民1年分の食糧に相当するトウモロコシ約250万トンを賄える約8億5千万ドルを費やしたと試算されている。

中朝関係の悪化で主力の石炭輸出も振るわず、慢性的な外貨不足に拍車が掛かる。党創建70年行事を「史上最大の負債まみれの宴だ」と自嘲する北朝鮮関係者もいるという。【9月28日 産経】
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こちらの情報も、韓国・北朝鮮に厳しい産経の記事ですから鵜呑みにはできませんが、前記の“全住民に1カ月分の生活費に当たる特別激励金支給”とは真逆の“住民1世帯当たり中国元で40元(約750円)が徴収”とのことです。

もっとも、40元(約750円)が北朝鮮の一般労働者の月給に倍する額というのはどうでしょうか?
平均月収が約400円ということでしょうか?

韓国銀行(中央銀行)が昨年発表した2014年の北朝鮮の名目国民総所得(GNI)は、韓国の通貨基準で換算すると、1人当たりで138万8,000ウォン(約14万円)とのことですから、ひと月では1万円強になります。(韓国の北朝鮮に関する発表数字も政治的バイアスがあるかも)

実際の国民生活は、こうした公式の貨幣経済統計には表れないものにも依存しており、必ずしもこの数字が生活実態を反映しているものでもないかも。

臨時徴収を負担できるのは限られた階層でしょうから、全住民ではなく一部エリート層への課金だったのでは?

いずれにしても、そんな財政的に苦しい北朝鮮が全住民に特別激励金支給というのは、考えにくい話です。

冷え込む“血で固められた友誼” ただ、北を見放せない中国
中国との関係も「よく実態がわからない話」のひとつです。

****中朝の“血で固められた友誼”に亀裂 北兵士困窮し越境強盗 国境に高まる「緊張****
“血で固められた友誼(ゆうぎ)”といわれてきた中朝関係がかつてないほど冷え込んでいる。

中国からの支援も中朝貿易も激減したことを受け、最近、困窮した北朝鮮側の兵士が国境を越えて金品を奪う事件が急増。中朝国境に緊張が高まっている。

「毎年の中秋節前は書き入れ時だが、今年はさっぱりだ」
吉林省の延辺朝鮮族自治州図們市。中国と北朝鮮を結ぶ図們大橋(通称・中朝友誼橋)の近くで今月下旬、土産店を経営する朝鮮族女性が嘆いた。毎日の売り上げは昨年の7割に落ちたという。

280元(約5300円)を払い橋を渡って北朝鮮を6時間観光するコースはあるが、今申し込むのは、朝鮮戦争を経験した老人とその家族だけだ。

この女性によると、金正日時代までは、北朝鮮と中国の要人の相互訪問が頻繁で、中国メディアが北朝鮮の特集を組むなど好意的に取り上げることがよくあった。中国人の中に北朝鮮に興味を持つ人が多かったが、そうした“宣伝”がなくなると、国境を訪れる観光客の数も激減した。(中略)

中国税関の統計によると、2015年上期の中朝貿易総額は約154億元(約2900億円)で、昨年と比べて約13・6%減少した。中国の地方政府や国有企業によるさまざまな名目の北朝鮮の支援もほとんどなくなったという。

北京の朝鮮問題研究者は「金正恩(キム・ジョンウン)政権内の親中派である張成沢(チャン・ソンテク)一派を粛清したことが習近平指導部の逆鱗(げきりん)に触れた」と指摘。

北京で3日に行われた抗日戦争勝利70周年の軍事パレードに出席した崔竜海(チェ・リョンヘ)・朝鮮労働党書記が冷遇され、中国共産党要人の誰とも会談できなかったのも、中朝関係の悪化を象徴している。

中国からの支援がなくなり、困窮した北朝鮮の兵士が国境を渡り、金品を奪うために中国人を襲う事件が急増。昨年12月と今年4月には中朝国境近くの中国人宅が2度襲われ、計7人の中国人が殺害された。

こうした事件は韓国紙の報道で表面化したが、ほんの一部にすぎないと証言する関係者もいる。延吉市内のタクシー運転手は「これまで北朝鮮に同情していたが、イメージが急速に悪化した」と肩をすくめた。【9月25日 産経】
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9月3日に北京で行われた抗日戦争勝利70周年については、北朝鮮側が軍事代表団を送ることを拒否していたとも。

****北朝鮮、中国式典への参加拒否していた 依然冷えた関係****
北朝鮮が、9月3日の中国戦勝70周年記念式典に軍事代表団を送ることを拒否していた。韓国の金章洙(キムジャンス)駐中国大使が18日、国政監査で答弁した。北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)第1書記は中韓接近に不快感を持っているとされ、中朝関係が依然、冷却関係にあることを裏付けた。

金大使によれば、2013年ごろから中朝間の軍事交流がなくなった。北朝鮮は、関係改善を訴える中国の誘いを一切無視。中国は式典を巡り、北朝鮮に軍事代表団の派遣と軍事パレードへの北朝鮮軍の参加を求めたが、北朝鮮は拒否したという。

韓国政府は、中国が現在、北朝鮮に航空燃料は供給しているが、兵器や実弾の支援はないとみている。

また、金大使によれば、18日までに北朝鮮の核実験場や長距離弾道ミサイル発射基地に特別な動きはみられないという。【9月18日 朝日】
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中国の“要請”に従わない北朝鮮に、中国側は苛立ちを強めているように見えます。

****中国外相、北朝鮮に自制要求=「安定かき乱すな****
中国の王毅外相は19日、北京で開かれた北朝鮮核問題をめぐる国際セミナーで演説し、北朝鮮が長距離ミサイル発射や核実験実施を示唆していることを念頭に、「緊張をもたらしかねないいかなる新たな行動も取るべきではない」と述べ、自制を求めた。

王外相は「朝鮮半島に戦乱が起きることは誰にとっても何の利益もない。北東アジアの平和と安定の大局をかき乱す考え方ややり方は取るべきではないし、賢明ではない」と強調。国連安保理の対北朝鮮制裁決議にも触れ、「6カ国協議参加国は決議を履行する義務がある」と訴えた。

セミナーは北朝鮮が核放棄を約束した2005年9月19日の共同声明採択から10年を記念し、中国外務省のシンクタンク、国際問題研究院が主催。18、19両日に開かれ、各国から政府当局者や専門家らが参加したが、出席者によれば、北朝鮮の参加者はいなかった。【9月19日 時事】 
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もっとも、中国としても、半島情勢の安定や6か国協議を考えると北朝鮮・金政権を切るに切れないところでもあるようです。

****それでも中国が北朝鮮を見放すことができない理由****
やはり中国にとって北朝鮮は手放せない相手、なのか・・・。
1~7月までに中国から北朝鮮へ原油50万トンや物資が「例年どおり」支援されていた。先週、韓国の統一省が国会に提出した資料で分かった。

13年に北朝鮮が3回目の核実験を行ったことを機に、表向きは中国の北朝鮮に対する冷遇が始まったとみられている。1月には、中国が北朝鮮向けの原油パイプラインを閉じたとの臆測も飛び交ったが、噂にすぎなかつたことが裏付けられた形だ。

韓国政府による発表は「北における交通量に変化がない」から、と状況証拠に基づく判断ではあるが、中国が北朝鮮を見限ることができない理由は確かにある。6力国協議の再開だ。

再開の見通しは立っていないが、中国は6力国協議を通じた北朝鮮問題の解決を今でも願っている。原油の支援を断つことができないのも、北朝鮮を協議に連れ戻すための「アメ」が必要だからだろう。 

ただ、中朝両国とも自ら歩み寄る気配はなさそうだ。今月、中国の抗日戦争勝利70年記念式典に招待されていた金正恩第1書記は参加を拒否。朝鮮労働党の崔竜海書記が代理で参加したが、1人の官僚にも会えないという冷たい扱いを受けると、予定を繰り上げて帰国した。

中国としては「生かさず殺さず」といったところか。だが金にとっては、まんざらでもないのかも。【9月29日号 Newsweek日本版】
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動きが報じられる核実験 動きが止まったミサイル発射準備
前出【朝日】にもある核実験については、何らかの動きがあるとも報じられています。

****北朝鮮の核実験場に動き=「目的は不明」―米研究所****
米ジョンズ・ホプキンス大高等国際問題研究大学院の米韓研究所は24日、北朝鮮北東部の豊渓里にある核実験場の18日付の人工衛星画像を公開した。

北朝鮮による核実験の観測が浮上する中、研究所は新たな活動を確認できると分析。ただ、目的は不明で、保守作業から実験の準備まであらゆる可能性があると指摘した。(後略)【9月25日 時事】
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ただ、韓国は、北朝鮮がまもなく核実験を行うという兆候は見当たらないと発表しているそうです。【9月26日 Iran Japanese Radio】

北朝鮮は2006年、2009年、2013年に3回の核実験を行い、これにより朝鮮半島の緊張が発生し、対北朝鮮制裁が行使されています。

一方、長距離弾道ミサイルについては、動きを止めて各国の反応を探っている可能性も指摘されています。

****北朝鮮、ミサイル発射準備が止まる 海外の反応探る****
北朝鮮が、10月10日の朝鮮労働党創建70周年に際して示唆していた長距離弾道ミサイルの発射は、準備の動きが止まっている。

10月10日の記念日まで2週間となっても、平安北道東倉里(トンチャンリ)のミサイル発射場には機体が搬入されていない。2012年12月の前回発射時とは異なる動きで、海外の反応を探っているとの指摘や、発射の必要性に迫られていないとの見方もある。(後略)【9月28日 朝日】
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なにかと、よくわからない国です。
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南米コロンビア  左翼ゲリラ組織との和平交渉が「6カ月以内の和平実現」に向けて進展

2015-09-27 22:38:28 | ラテンアメリカ

(キューバの首都ハバナで握手するコロンビアのサントス大統領(左)と「コロンビア革命軍」のヒメネス司令官(右)。中央はキューバのラウル・カストロ国家評議会議長(2015年9月23日撮影)【9月24日 AFP】 なお、サントス大統領が和平交渉に出席したのは今回が初めてだそうです。)

世界第2位の国内難民を抱える国
南米・コロンビアの現状については、今年5月10日ブログ「南米コロンビア 国内避難民600万人 左翼ゲリラとの和平交渉が進展はしているものの・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150510)で取り上げました。

非常に意外な感がするのは、上記ブログ表題にあるように、コロンビアでは全人口の13%に及ぶ600万人もの国内避難民が存在し、国際NGO「ノルウェー難民評議会(NRC)」が5月発表によれば、欧州を揺るがす難民問題の震源地となっているシリアの760万人に次ぐ数字であり、イラクの約340万人、スーダンの310万人をも上回っています。

これは、人口の1%が土地の50%を所有しているとも言われる不平等と貧困を背景に、左右の武装組織、麻薬組織が抗争を続けてきた結果です。

****コロンビア 世界第2位の国内難民を抱える国*****
コロンビアにおいては85年以降、政府対左翼ゲリラ、左翼ゲリラ対右翼民兵組織の抗争が国内各地で頻発していました。

さらに90年代初頭の大規模麻薬カルテルの消滅により、左翼ゲリラ及び右翼民兵組織が麻薬を資金源として勢力を拡大したため、紛争が激化した経緯があります。

このため各紛争地域で危険にさらされている農民を中心とした人々は避難を強いられ、周辺都市へと避難しました。紛争終結後も紛争への恐怖心が消えなかったこと及び、農地家屋を紛争によって失ったことから農村部に帰還しない場合が多いため、多くの国内避難民が発生したようです。(外務省資料より)

この結果、都市部での生活環境の悪化が進行し、貧困に苦しむ人々の中から“生きる手段”として、麻薬組織や武装組織に関与する者が生まれてくるという悪循環があります。【2008年4月21日ブログより再録】
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武装組織については、下記のとおり。

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コロンビアには主要な左翼系反政府組織として、「コロンビア革命軍(FARC)」と「国民解放軍(ELN)」の二大勢力が存在し、全国でテロ活動を行っています。

また、パラミリタリーと呼ばれる極右非合法武装集団は、政府との交渉の結果ほとんどが武装放棄しましたが、和平プロセスに参加しなかった少数グループが新興組織として、殺人、誘拐、恐喝等の違法行為を行っています。【外務省】(5月10日ブログより再録)
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【「平和の時が来ている」】
その中でも最大組織である「コロンビア革命軍(FARC)」は、“最盛期の02年には構成員2万1000人を擁し国土の3分の1を実効支配したが、政府の掃討作戦などにより現在は6400人に縮小した。”【9月24日 毎日】とのこと。

勢いを失ったFARCとコロンビア政府の間では2012年10月から和平交渉が行われており、交渉議題5項目のうち、「農地改革と農村開発の取り組み方」に続いて2013年11月には「ゲリラ戦終結後の政治参加」で合意、2014年5月には麻薬問題の解決に向けて協力することでも合意・・・というように、和平に向けて「進展」はしていることは前回5月10日ブログでも取り上げたところです。

今般、懸案事項となっていたゲリラ兵士らの処罰方法で合意に達したことで、和平実現に向けて大きな前進がみられました。

****コロンビア、左翼ゲリラと和平へ 半世紀の内戦終結か****
南米コロンビアの政府と左翼ゲリラ「コロンビア革命軍」(FARC)は23日、6カ月以内に和平実現の最終合意を交わすことで一致した。

和平への動きはこれまで何度も頓挫してきたが、難航していたゲリラ兵士らの処罰方法に双方が合意したことで、半世紀近く続く内戦が終結する可能性が高まっている。

1960年代半ばに結成されたFARCは中南米最大の反政府ゲリラとされ、テロや誘拐を繰り返し、内戦による死者は22万人にのぼる。コロンビア政府は掃討作戦を繰り返したが制圧できず、2012年から和平交渉を進めてきた。

コロンビアのサントス大統領は23日、キューバの首都ハバナでFARCの最高司令官ロドリゴ・ロンドニョ氏と初めて会談。仲介したキューバのラウル・カストロ国家評議会議長のほか、ノルウェーやチリの代表が立ち会った。

和平実現のための最終合意の期限を16年3月23日と定め、その後60日以内にFARC側が武装解除するとの内容で一致した。

虐殺や拷問、誘拐など内戦中の重大犯罪を裁く特別法廷の設置のほか、重大犯罪をした兵士らは恩赦の対象外となること、罪を認めれば量刑は禁錮5~8年とすることなどが合意に盛り込まれた。

サントス氏は合意後の記者会見で「必ず和平を実現する。失敗はない。平和の時が来ている」と指摘。ロンドニョ氏は「戦った者も指揮した者も、勇気を持って責任を引き受ける必要がある」と述べた。

これまでの和平交渉ですでに、ゲリラメンバーの政治参加や麻薬撲滅、地雷除去などについて合意。今後の交渉では、戦闘終結のための具体的な方法を詰めることになる。

キューバを訪問したローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は20日、「コロンビアの平和と和解の道にこれ以上の失敗は許されない」と述べ、和平交渉の進展に期待。サントス氏のキューバ訪問は、23日になって急きょ発表された。【9月26日 朝日】
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非常に喜ばしいことではありますが、「6カ月以内に和平実現の最終合意を交わすことで一致した」とは言いつつも、具体的な手順は定められておらず、その実効性を危ぶむ声もあります。

****コロンビア和平実現なるか=具体論先送り、冷めた見方も****
南米コロンビアで半世紀以上続いた武力紛争の終結に向け、政府と左翼ゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)が「6カ月以内に和平合意する」と発表した。

サントス大統領とFARC指導者のティモチェンコ司令官が記者会見で握手し、交渉進展を演出。
だが、和平実現への具体的な手順は先送りされ、「茶番にすぎない」(ウリベ前大統領)との冷めた声も上がっている。

交渉前進では、支持率低迷にあえぐサントス氏の強い意向が働いた。10月25日に地方選を控え、地元紙は「大統領は選挙前に手柄を急いだ」と分析。

一方のFARCは、後ろ盾だったベネズエラやキューバの支援を失って弱体化が進んでおり、有利な条件で交渉を進めようと焦りがあったとされる。

共同声明は、新設の特別法廷で紛争中の犯罪行為を認めた場合、最大8年間「自由を制限する」と規定した。
だが、FARCは誘拐や爆弾テロを繰り返しており、国民から「処罰が軽過ぎる」と批判の声が上がりかねない。

犠牲者への補償でも、財源や金額などの具体的な言及はなかった。【9月26日 時事】
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サントス大統領は“2010年、対FARC強硬路線を取ったウリベ大統領の後継者として就任したが、直後に対話路線に変更。これが国民から支持され、14年に再選を果たしていた”【9月24日 毎日】ということで、和平交渉の成果を有権者に具体的に示したがっていた・・・とのことのようです。

ウリベ前大統領の批判も、和平交渉への姿勢の違いによるものでしょう。ただ、ウリベ前大統領の批判は「FARCとの合意は民主主義に対するクーデターである」と激しいものです。

****元大統領アルバロ ウリベがコロンビア政府とFarcの合意を、民主主義に対するクーデターであると批判****
元大統領アルバロ ウリベは、フアン マヌエル サントス大統領政府と共産主義ゲリラ組織コロンビア革命軍(Farc)の合意について、民主主義に対する攻撃であると批判しています。

「Farcとの合意は民主主義に対するクーデターである。」と2002年から2010年まで大統領を2期務めたアルバロ ウリベ上院議員は、9月23日にキューバ ラ ハバナで政府とFarcによる合意について、チリの日刊紙ラ テルセラの取材に答えています。

「Farcは2700人の失踪に責任があり、世界最大のコカインカルテルであり、1998年から2003年の間に1794人を誘拐し、2万人以上の児童を徴兵しています。」とセントロ デモクラティコ党を率いるウリベ元大統領は語っています。

和平合意によりFarcゲリラたちは刑務所に収監されることなく、制約なしに選挙に出馬することが可能になると、ウリベは批判しています。

「これは民主主義に対する侮辱です。コロンビアの軍は民主主義の軍であり、独裁体制下の軍ではありません。テロ組織とコロンビア軍を同列に置こうとするサントスの目論見を拒絶します。」と元大統領は強調しています。

現大統領サントスはアルバロ ウリベ政権の国防相を務めており、ウリベの後継者として大統領選挙に出馬し当選しています。【9月27日「音の谷ラテンアメリカニュース」】
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FARCの方は、“(ベネズエラの前大統領)チャベス氏は13年に死亡し、(キューバの)カストロ兄弟は老いた。革命軍の間では、後ろ盾を失い、国民からも支持されず孤立、弱体化していく懸念が膨らんでいたとみられる。”【同上】とも。

サントス大統領とFARC、両者の思惑が一致したことでの今回合意ですが、何事につけそれなりの事情はあるもので、要は最終的な結果を出せるかどうかです。

なお、前回5月10日ブログでも紹介したように、「FARCの武装放棄後、その構成員が社会復帰できず一般犯罪に手を染めるなどのおそれもあり、仮に和平交渉がまとまったとしても、治安の動向は予断を許さないものと思われます。」【外務省】という指摘もあります。

コロンビアとベネズエラ 双方の大使を相手国に再び派遣することで合意
一方、コロンビアは隣国ベネズエラとの間で、“ベネズエラ・マドゥロ政権による密輸業者取締りを名目にしたコロンビア人追放”という問題を抱えていたことは、9月11日ブログ「ベネズエラ 迫るデフォルトの足音 野党指導者逮捕で政府批判を圧殺 国内コロンビア人の難民化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150911)で取り上げたところですが、この問題も関係正常化に向けた取り組みがなされています。

****関係悪化のベネズエラ・コロンビア、大使再派遣で合意****
南米ベネズエラのマドゥロ大統領と隣国コロンビアのサントス大統領は21日、エクアドルの首都キトで会談し、自国に呼び戻していた双方の大使を相手国に再び派遣することで合意した。

ベネズエラ側が8月に突然、国境を封鎖したことで両国間で急速に緊張が高まっていたが、関係の正常化と国境問題の解決に向け対話を始めるとしている。

報道によると、両首脳の会談はエクアドルとウルグアイの仲立ちで実現。大使の再派遣のほか、問題のきっかけとなった国境周辺での密輸や暴力に関する調査の実施や、23日にベネズエラの首都カラカスで両国間の最初の対話を行うことなどが盛り込まれた。ただ、8月から続く国境封鎖の解除にはつながらなかった。

この問題では、ベネズエラ軍兵士がコロンビア人とみられる密輸組織から国境周辺で銃撃されたとして、マドゥロ氏が8月に国境封鎖を決定。非常事態を宣言し、軍を派遣した。

ベネズエラ国内ではコロンビア人住民への摘発が始まり、約2万人が国外に逃れた。【9月22日 朝日】
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“国境封鎖の解除”のニュースはまだ目にしていません。
チャベス前大統領の時代から、ベネズエラはコロンビアに対し過激な対応を行い、やがて緩和するといったことを繰り返していますので、今回もそのうち改善されるのでしょうが、追放され難民化したコロンビア人2万人が強いられている犠牲は看過できないものがあります。
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シリア  ロシアのアサド存続を前提とした「大連合」構想を支持する気運も国際的に拡大

2015-09-26 22:39:41 | 中東情勢

(トルコからエーゲ海を渡りギリシャ・レスボス島に到着したシリア難民  子供たちを抱えボートを下りる(ロイター=共同)【9月25日 共同】)

イラン・トルコが関与した部分停戦
連日報じられているように押し寄せる難民・移民が欧州を揺るがしていますが、現実問題としては難民受け入れにも限界がありますので、いかに難民の発生・移動を抑制するかが重要な課題となっています。

その難民・移民の発生源の最大なものがシリアであり、シリア情勢の改善があらためて認識されています。

そのシリアに関するいくつかの話題。
一つ目は、部分的な停戦合意の件。

****<シリア>6カ月間の部分停戦で合意 政権側と反体制派*****
内戦が続くシリアで、アサド政権側と反体制派が西部ザバダニなど3カ所で6カ月間の局地的な停戦に入ることで合意した。

政権側に加勢するレバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラの指導者ナスララ師が、25日に明らかにした。

ザバダニなどの停戦を巡っては、アサド政権の後ろ盾であるイランがシリア反体制派との直接交渉に乗り出しており、停滞するシリアの包括的和平協議に一石を投じる動きとして注目されていた。

ヒズボラ系のメディアによると、一時停戦はザバダニと北西部イドリブ県の二つの村が対象。
政権側が攻勢を強めるザバダニから反体制派戦闘員の退避を認める一方、反体制派は包囲するイドリブ県の村からシーア派住民の避難を容認する。

ロイター通信によると、双方は、アサド政権が拘束する反体制派メンバー約500人の釈放でも合意した。【9月26日 毎日】
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このザバダニと北西部イドリブ県の二つの村をめぐる部分停戦については、8月13日ブログ「シリア イラン、トルコ、ロシア、サウジアラビアなど関係国に動きも 地域限定48時間停戦も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150813)でも取り上げました。

中東情勢に詳しい野口雅昭氏のサイト「中東の窓」によれば、“これまで2度合意した停戦が破られたところ、今回は争点の全部についての合意ができた由。又停戦は国連が監視することになった由”(http://blog.livedoor.jp/abu_mustafa/archives/4943155.html)とのことです。

野口氏は“今回の事件は局地的な停戦ではあるが、ある意味で最近のシリア内戦を象徴しているところがある。例えば、交渉はトルコで行われ交渉当事者はアサド政府ではなくイランで、反政府側にはトルコが後ろ盾でいた。おまけにアサド軍が関係したのはイドリブの2の村落のみでザバダニ攻撃はヒズボッラーと民兵であった”とも指摘されています。

アサド政権を支えるイラン及びヒズボラ、反体制派を支援するトルコが関与しての停戦合意ということで、関係国・関係勢力の間での停戦に向けた流れが今後加速されることになれば、より包括的なシリア停戦も現実味を増してきます。

アメリカのシリア政策破綻
シリア情勢をめぐる二つ目の話題は、アメリカのシリア政策の破綻を示す事例。

***武装組織に装備引き渡す=米軍訓練のシリア反体制派****
過激派組織「イスラム国」に対抗するため、米軍主導の有志連合の訓練を受けたシリアの反体制派「新シリア軍」が、支給されたピックアップトラックや弾薬の一部を国際テロ組織アルカイダ系の「ヌスラ戦線」に引き渡していたことが25日、明らかになった。通行の安全を確保するためだったという。

米軍が25日に新シリア軍から受けた通報によると、新シリア軍は21、22の両日、ピックアップトラック6台など、支給された装備の約25%をヌスラ戦線に渡した。

ヌスラ戦線は、新シリア軍が入国の際、全ての武器を引き渡したと主張していたが、米軍は強く否定していた。

米軍が事実を一転して認めた経緯から、新シリア軍の基盤のもろさや、戦闘地域に戻った新シリア軍と円滑な意思疎通を図ることの難しさが浮き彫りになった。

新シリア軍は、米軍がシリア国外で訓練を施した反体制派に付けた呼称。米軍は21日、訓練を終えた第2陣約70人がシリアに戻ったと発表していた。【9月26日 時事】 
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今回の事態は、シリアでISと戦うため穏健派のシリア人戦闘員を「訓練し、装備を与える」というアメリカの取り組みが破綻していることを示していますが、こうした事態は初めてではありません。

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・・・・当初の計画では5億ドル(約600億円)をかけて、毎年約5400人のシリア反体制派の戦闘員を3年間にわたって育成することになっていたが、訓練にふさわしい対象者を見つけるのが難しく、実際に訓練を受けた人数は計画をはるかに下回っている。

最初に訓練プログラムを終えた54人は今年7月にアルヌスラ戦線の攻撃を受け少なくとも1名が死亡した。国防総省は54人の身に何が起きたのか、十分に把握していない。

第2陣の約70人は先週末シリアに送られたが、その直後から戦闘員の離反や、他勢力への装備の引き渡しなどの情報がツイッターで流れていた。【9月26日 AFP】
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第1陣54名については、米中央軍のロイド・オースティン司令官が9月16日、現在シリアで戦闘に参加しているのはわずか「4、5人」にすぎないと明らかにしています。
「4、5人」・・・・冗談のような数字です。

介入を強めるロシア・プーチン大統領
シリア情勢をめぐる三つ目の話題は、シリアへの関与を加速させるロシアの動きです。
最近のロシアの動きに関する記事の見出しだけ並べても下記のとおりです。

シリアに空軍基地設置も=政権支援で可能性排除せず―ロシア【9月17日 時事】
ロシア、シリアに戦闘機派遣か=「直接介入」の臆測呼ぶ【9月19日 時事】
ロシアから戦闘機供給=「無人」偵察機も―シリア軍【9月22日 時事】
ロシア、シリアにさらに2拠点建設か=「駐留準備」と軍情報大手【9月23日 時事】
プーチン政権、イラン、シリアの反米「大連合」の形成呼びかけ アサド政権救済しつつ「善玉」演出【9月24日 産経】
「イスラム国」単独空爆計画=米が共同戦線拒否なら―ロシア【9月24日 時事】

アサド政権への軍事的支援を強め、対イスラム国(IS)のアサド政権を含む「大連合」を構築することで、アサド政権の存続、ひいてはロシアの影響力の存続を図る、もしアメリカ等がこの考えに賛同しないならロシア単独での対IS攻撃も辞さない・・・というロシアの攻勢です。

アメリカ・オバマ政権としては、本音のところはともかく、現段階で「アサド存続」を容認することはシリア政策の失敗を認めることにもなり、国内保守派の反発を招くことにもなります。ロシアの軍事介入は「シリア情勢の混迷を深めるだけだ」というのが、アメリカの現在の公式姿勢です。

もともとシリア内戦は、アサド政権打倒に反政府勢力が立ち上がったことから始まったものであり、当然ながら、これまで欧米が支援してきている反政府勢力はアサド政権存続を容認することはできません。

28日にはオバマ米大統領とプーチン露大統領が会談する予定となっていますので、そこで何らかの方向性が打ち出される可能性もあります。

****露のシリア介入は「火に油」?「建設的関与」? 28日の米露首脳会談で打開なるか****
米、ロシア両政府は24日、国連総会が開かれているニューヨークで28日にオバマ米大統領とプーチン露大統領が会談すると発表した。会談は、今後のシリア、ウクライナ情勢などをめぐる力関係や方向性を規定するものとなりそうだ。

アーネスト大統領報道官は24日の記者会見で、シリアのアサド政権を支援するためのロシアによる軍事介入について、「支援はシリア情勢の混迷を深めるだけだ」と強調した。カーター国防長官も「内戦の火に油を注ぐ」と、ロシアを強く牽制(けんせい)した。

オバマ大統領は首脳会談で、こうした米側の原則的な立場を表明する一方、ロシアの「建設的な関与」を求める見通し。これはイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の掃討に限り、ロシアの関与を許容する用意があるとの姿勢を示すものだ。

ロシアはシリアに装備などを搬入しており、「米国が支援する反体制派への攻撃に加え、イスラム国を単独で空爆する構え」(米政府筋)もみせている。

ロシアの狙いは、米軍主導の有志連合にロシア、アサド政権、イランなどを加えた「大連合」の形成を認めさせることにあるとみられている。

だが、大連合構想は「アサド政権を事実上容認させることによる延命策」(同)にほかならず、オバマ政権としては到底首を縦に振れない。

こうした事情と、ロシア軍の介入という既成事実を前に政権は、(1)ロシアの排除は困難(2)有志連合にロシアのみを組み込み、単独の軍事行動を封じることが次善の策−などの判断に傾いているという。

政権はまた、「ロシアがシリアの政権移行に米国と取り組むなら、『共通の協力分野』を見いだすことも可能だ」(カーター長官)としている。こうした考えをオバマ大統領も首脳会談で示す見通しだが、プーチン大統領は応じない公算が大きい。

一方、ウクライナのポルトラク国防相は24日、ワシントンで記者会見し「ロシアには、シリアでの軍事活動を活発化させ、ウクライナ問題から国際社会の注意をそらす狙いがある」との見方を示した。【9月26日 産経】
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アサド大統領も参加した「移行期間」 国際的に広がる容認姿勢
個人的には、これまでも何回も書いてきたように、シリアの現状は悲惨を極めており、アサド政権打倒にこだわって内戦をこのまま続けるより、アサド政権存続(将来的な退陣予定を含めて)でも、とにもかくにも停戦を実現することが急務であると感えます。

自国民にたる爆弾や化学兵器を使用するようなアサド政権が民主的な政権と言い難いのは当然ですが、戦乱が収まればそうした非道も行われなくなりますし、国際監視体制でアサド政権の今後の行動を制約することも可能になります。

軍事的には劣勢にまわっているアサド政権ですが、仮に政権が崩壊すれば、その空白を埋めるのは、欧米が期待するような穏健派反政府勢力ではなく、ISやアルカイダ系ヌスラ戦線、あるいはそれらと同様なイスラム過激派勢力でしょう。そして、そうした諸勢力間の戦闘が更に続くとも思われます。

自らの主張のために戦闘を続け、国民の犠牲を顧みない姿勢は、アサド政権の非道と同じレベルの所業です。

とにかく、国民の半数が避難生活を余儀なくされ、犠牲者だけが増え続ける現状を早急に停止する必要があります。
端的に言えば、そのためであればアサドでも何でもかまいません。
アサド大統領がかねてから主張してるように、シリア情勢の改善は政治的解決でしかありえないと考えます。

アサド存続を含むロシアの構想を容認する向きも増えているようです。
前出野口雅昭氏は、アラビア語メディアの情報として、以下のように紹介しています。

****シリア情勢****
・・・・ドイツを始めとして、多くの西側国も、シリア問題の政治解決の話し合いにはアサドの参加が必須であるとのロシアの主張を支持し始めている。

特にドイツが顕著であるが、米英仏も含めて、その後アサドの役割はなくなると主張しつつも、政治解決の交渉段階、さらにその後の移行期間でのアサドの役割を認めるところが増えている。

元も強硬であったトルコも、交渉、移行期間へのアサドの参加を認めるにいたった。

ロシア大統領府筋は25日、広範な国際社会の参加を得たシリア問題に関する国際会議とのドイツの示唆を歓迎し、これにはロシア、イラン、米の他にサウディ等のアラブ諸国、トルコ、その他の主要国も含まれるべきだろうと語った。(後略)【9月26日 野口雅昭氏 「中東の窓」】
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ロシア・プーチン大統領は、サウジアラビアサルマン国王(9月16日 電話協議)、トルコ・エルドアン大統領(9月23日会談)、イスラエル・ネタニヤフ首相(9月21日会談)と、アサド政権に批判的な国々の首脳とも会談を重ねており、公式見解はともかく、水面下では一定に根回しが進んできていることも想像されます。

アサド政権関係筋からは、ロシアと米国は「暗黙の合意」に達しているとの情報も流れています。

****シリア内戦終結について米露が「暗黙の合意」、アサド大統領顧問****
シリア内戦の終結についてロシアと米国は「暗黙の合意」に達していると、バッシャール・アサドシリア大統領の顧問ブーサイナ・シャアバン氏が23日夜、シリア国営テレビのインタビューで語った。

シャアバン氏は「現在の米政権はシリア危機の解決策を見出すことを望んでいる。この解決策に到達するため、米国とロシアの間に暗黙の合意が存在する」と述べた。

「今や米国は、ロシアはこの地域(=シリア)について深い知識を持っており、状況の評価も優れていると認識している」、「現在の国際情勢は緊張緩和に向かっており、シリア危機の解決に向かっている」(シャアバン氏)

シャアバン氏は2011年以降24万人以上が死亡し、数百万人が避難を強いられたシリア内戦について「欧米の姿勢に変化」が起きたと指摘した。

数十年前からシリアの政権を支援してきたロシアは、アサド大統領退陣をシリアでの和平協議開始の前提条件として受け入れることはないと表明している。

米国は4年以上前からアサド大統領の退陣を主張してきたが、ジョン・ケリー米国務長官は先週、「(アサド大統領退陣が解決への)第1日目や1か月目などである必要はない」と発言した。

今月23日にはフランスのフランソワ・オランド大統領が「シリアで平和が回復することを望む全ての国が貢献できる」新たなシリア和平協議の開催を呼びかけた。

オランド仏大統領は「(アサド大統領)退陣のない政権移行はあり得ない」との姿勢を崩していないが、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は24日、協議にはアサド大統領も関与すべきだと述べた。【9月26日 AFP】
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「暗黙の合意」の信憑性はともかく、ケリー米国務長官の発言は興味深いところです。

停戦合意に向けた障害は、オバマ政権が国内保守派の反対に抗して方針転換できるか、「アサド憎し」で引かない反政府勢力をどうやって説得するか(アメリカの役割でしょうが)・・・でしょう。

一時的にせよアサド容認につながるような方向への転換は、オバマ大統領にとっては、弱腰批判や“レッド・ライン”騒動の再現を招く事態ともなり厳しい選択でしょうが、シリア国民の生命・安全・生活を第一と考えれば、踏み込むべき選択だと考えます。
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欧州難民問題  EU分担計画決定も、問われる連帯 消極的な中東欧の事情 政治情勢への影響

2015-09-25 23:05:56 | 難民・移民

(ハンガリー国境前で足止めされた難民らが寝泊まり。セルビア北部ホルゴシュ(ロイター=共同)【9月25日 産経】)

EU 受け入れ分担計画を異例の多数決で決定
シリアなどの中東、その他北アフリカ・アジアから戦後最大規模で難民・移民が押し寄せるEUは、受け入れに前向きなドイツ・オーストリアなどの国々と、受け入れに否定的なハンガリーやスロバキアなど中東欧諸国の対立が続いていましたが、ドイツなども自国だけでは限界があること、国際社会からも受け入れ拡大を求める圧力が強まるなかで受け入れ進まなければ、EUが基本理念に掲げる「人権」の看板に傷がつきかねないことなどから、異例の「多数決」によって難民申請者12万人の受け入れ分担計画を決定しました。

****EU、12万人分担決定 中東欧の反対押し切り、連帯に禍根も****
中東や北アフリカの難民や移民の流入問題で、欧州連合(EU)の内相・法相理事会は22日、難民申請者12万人の受け入れ分担計画を異例の多数決で決めた。

対応を急ぐため、中東欧の反対を押し切った形だ。23日の臨時首脳会議では、シリア周辺国支援など根本的な原因への対処に議論の比重が移るが、EUの連帯に疑問符がつく形となった。

「いま決めなければ欧州の信頼が失われていた」。議長国ルクセンブルクのアッセルボルン外務・移民相は記者会見でこう語り、重要案件は全会一致で決める慣例に従わず、採決に踏み切った理由を説明した。

分担計画では独仏など西欧の支持派と、中東欧の反対派が対立。第二次大戦後最大規模といわれる移民危機で団結できないEUに、国際社会もいらだちを強めた。

妥協は最後まで成立せず、採決ではチェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアの4カ国が反対。フィンランドが棄権した。

決定した今後2年間の計画ではイタリア、ギリシャの難民申請者計6万6千人を各国で分担。予定されたハンガリーからの移送分5万4千人は、同国の反対を受け、イタリアとギリシャから1年後に割り振る追加枠とした。流入が急増した他国にも適用できる。難民申請者は受け入れ国を選べず、他国への移動を防ぐ措置も盛り込まれた。

計画自体は受け入れを義務づけるものではないが、加盟国はEUとしての決定には従わねばならない。欧州委員会のティメルマンス第1副委員長は履行しない国があれば「違反手続き」を取る可能性に言及した。

EUは首脳会議を控え、分担計画の決着を急ぐ必要もあった。問題解決には域外からの流入を抑える方策が欠かせず、首脳会議ではトルコなど難民を多く抱えるシリア周辺国、国連世界食糧計画(WFP)などに対する支援も協議する予定だ。

アブラモプロス欧州委員(移民・内務担当)は受け入れ計画が決まり、「首脳(の議論)もはるかに楽になる」と述べた。

だが、反対した中東欧の不満は根強い。チェコのホバネツ内相は「王様は裸だとすぐに分かるだろう。常識は失われた」と計画に改めて疑問を投げかける。スロバキアのフィツォ首相は「私が首相である限り、わが国で分担は実行されない」と述べ、一致した計画の履行に不安が残るのが実情だ。【9月23日 産経】
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“計画自体は受け入れを義務づけるものではないが、加盟国はEUとしての決定には従わねばならない”とか、“反対を強める中東欧を切り崩すため、最も分担人数が多いポーランドを説得。採択文書に「割り当て」の文言を盛り込まず、ポーランドがこだわった「自主的な受け入れ」で折り合いをつけた。”【9月24日 朝日】など、よく理解できない部分もありますが、要するにEUとして分担計画を策定し加盟国に履行を迫るということのようです。

スロバキア・ハンガリーなど反対国は納得しておらず、混乱は今後も続きそうです。

****スロバキア、難民分担拒否で提訴へ=ハンガリー、対独批判****
欧州連合(EU)加盟国による難民12万人分担受け入れ案に反対したスロバキアのフィツォ首相は23日、記者団に「われわれは二つの方向へ進むだろう。一つは提訴であり、もう一つは(決定された分担を)履行しないことだ」と語った。ロイター通信が伝えた。

22日のEU内相・法相理事会では東欧4カ国が採決で分担受け入れに反対。フィツォ首相は自身の在任中はEUの難民割り当てを引き受ける考えがないと宣言しており、全加盟国による履行は既に困難になっている。

受け入れ案に同じく反対したハンガリーのオルバン首相は23日、訪問先のドイツ南部バイエルン州で記者会見し「『道義的な帝国主義』はあってはならない」と訴えた。EU全体での責任共有を求めてきたメルケル独首相をけん制した。

オルバン首相は「全ての難民を受け入れるかどうかをドイツが決めるのは構わない。だが、その強制力は彼らにだけ及ぶべきだ」と主張した。【9月23日 時事】
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【「難民らは結局、豊かな国に移っていく」】
9月16日ブログ「難民問題に背を向けるハンガリーなど東欧諸国 過去のホロコーストへの向き合い方を指摘する声も」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150916)でも触れたように、ここまで反対する国に難民を割り振っても、難民へのまっとうな対応は期待できず、割り振られた難民も災難なようにも思えます。

“難民申請者は受け入れ国を選べず、他国への移動を防ぐ措置も盛り込まれた”とのことですが、現実にはよりよい処遇を求める人の流れを押しとどめることは難しいように思われます。

****結局、豊かな国へ****
・・・・難民受け入れを加盟国が分担する案には、積極的に受け入れてきたドイツやスウェーデンなどの負担を軽減するだけでなく、歯止めのかからなくなった流れを押しとどめる狙いも。

難民をEU全体で受け入れ、後に加盟国に振り分けることができれば、人々が自らの意思で受け入れ国を選ぶことはできなくなるからだ。

ただ、欧州に上陸した人々がいくつもの国を通過してドイツなどを目指すのは、難民の地位を保障する制度や支援態勢が整っているからだ。

受け入れを分担する仕組みを機能させるには、各国任せにしてきた難民の認定審査をEU主導で行うように改めなければならない。

受け入れ態勢の違いはさらに大きな問題だ。
EU内でも域外からの外国人の居住や就労は許可を得た国だけに限られる。その一方で、多くの国は移動の自由を保障するシェンゲン協定に加盟し、国境審査なしで他国に移動できる。

これまで密航船で欧州に渡ってイタリアやギリシャで滞在が認められた人の中には生活が成り立たず、他国に移動して事実上の不法移民となった人が少なくない。

東欧の外交官は「受け入れを分担しても、難民らは結局、豊かな国に移っていく」と冷ややかだ。【9月24日 朝日】
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域外からの流入を抑制する対策に軸足を移し始めたEU
しかし、シリアやトルコ・ヨルダンなどその周辺国を見るだけでも、膨大な難民流入予備軍が存在し、今のような状況が続けば、いずれ受入は破綻することは容易に想像されます。

EUとしては、差し当たりの受け入れ態勢を確立したうえで、今後は難民らの流入を抑制する対策を強化する方向のようです。

****EU、流入抑制へ軸足 移動の経由地となるトルコの協力カギ EU大統領「非難合戦は終わった****
中東・北アフリカの難民や移民の流入問題で、欧州連合(EU)が域外からの流入を抑制する対策に軸足を移し始めた。

23日の臨時首脳会議はシリア難民支援のため、最低10億ユーロ(約1300億円)を追加拠出し、シリア周辺国への支援も拡大する方針で合意。特に欧州に向かう移民らの経由地となるトルコとの協力強化に焦点を当てている。

トゥスクEU大統領はブリュッセルでの首脳会議後の記者会見で「移民や難民の最大の波がくるのはこれからだ」とし、無秩序な流入を許す「開放政策」を是正する必要性を強調した。

シリア国内や周辺国では難民ら約1200万人が厳しい生活下にある。今後、欧州に向かう可能性があるため、環境改善を支援して流入を抑えたい考えだ。

EUによると、10億ユーロは国連世界食糧計画(WFP)や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などに提供。周辺国の支援はトルコやヨルダン、レバノンなどを対象とする。

また、EU域外との国境管理強化のため、EU主導の難民申請者登録施設の設置など、ギリシャとイタリアへの支援を11月末までに行う。

難民申請者の受け入れ分担をめぐり、西欧と中東欧の確執も一時露呈したが、トゥスク氏は「非難合戦は終わった」と強調した。

EUがとくに重視するのが、トルコの協力だ。EU首脳は「あらゆるレベルの対話を強化する」とし、トゥスク氏は10月5日にトルコと首脳会談を行う意向を示した。

EUはトルコに10億ユーロの支援も検討中で、引き換えに移民らの渡航を手引きする業者らの取り締まりなどを求める考え。

トルコの国内のクルド人に対する強硬姿勢をEUが懸念するなど、EUとの関係がぎくしゃくしているトルコの協力を得られるかは不透明だが、EUは流入問題で「トルコがカギ」(ハーン欧州委員)とみている。

一方、シリア内戦の解決も大きな課題。従来、欧米はアサド大統領の排除を目指してきたが、メルケル首相は24日、「アサド氏を含む多くの当事者と対話せねばならない」とも語った。【9月24日 産経】
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日本も、外務省が25日、国際機関を通じてレバノンなどに計約4億8千万円の緊急無償資金協力を実施すると発表しています。

9月7日ブログ「広がる難民支援の動き 日本では? 世論が割れるドイツではメルケル首相批判も EUの統一的対応は難航」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150907)でも取り上げたように、難民として国外に出られる人はまだ経済的に恵まれた方で、国外脱出の資金を工面できない貧しい人々は戦乱の国内にとどまるしかないという現実があります。

シリア国内や周辺国における環境改善策は欧州のためだけではなく、そこに暮らす欧州に脱出できない貧しい人々にとっても福音となります。

現実政治に様々な影響
こうした欧州に向かう難民らの流れを抑制しようとする策が効果を持つかどうかわかりませんが、上記の中東欧国の問題以外にも、すでに現段階でも様々な問題が生じています。

難民の“押し付け合い”で、かつて独李戦争を戦ったクロアチアとセルビアの関係が再び悪化しています。

****難民めぐり対立再燃=物流停止の「制裁」応酬―セルビアとクロアチア****
中東などから西欧を目指す難民の対応をめぐり、クロアチアとセルビアが批判を応酬し、互いに両国間の物流停止措置を講じる事態に発展した。

両国には1990年代前半のクロアチア独立をめぐる紛争で民族が激しく対立した過去があり、深刻な関係悪化が懸念されている。

ハンガリーが15日に対セルビア国境を封鎖して以降、セルビアに着いた難民らはクロアチアに流入。これまで4万4000人以上が殺到した。

クロアチア政府は「もはや限界」として、両国間の検問所の大半を閉鎖。それでも難民の流れは止まらず、21日には協力に応じないセルビアからの貨物輸送車の入国を禁じる「制裁」に出た。

クロアチアはセルビアに対し、難民をハンガリーやルーマニアにも移送するよう要求。(中略)
だが、セルビアは難民が自らの意思でクロアチアに向かっており、阻止する立場にないと主張している。

ブチッチ首相はクロアチアの物流停止を「経済的攻撃だ」と非難。セルビアもクロアチアからの貨物車の入国停止に踏み切った。(中略)

ロイター通信は「難民問題が両国関係の時計の針を逆戻りさせている。『貿易戦争』が勃発した」と伝えた。【9月25日 時事】 
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また、欧州各国において難民受け入れに否定的な勢力の台頭を招いています。

****難民拒否の野党が優勢=総選挙まで1カ月―ポーランド****
10月25日投票のポーランド上下両院の総選挙まで1カ月となった。主要な争点は、中東などから欧州に押し寄せる難民への対応。

難民受け入れに否定的な最大野党の右派「法と正義」が優勢で、欧州連合(EU)の一員として責任を果たすべきだとの立場を取るコパチ首相の中道右派与党「市民プラットフォーム」は伸び悩む。

政権交代が起きれば、難民政策で大きな方針転換もあり得る状況だ。

ポーランドは従来、地域協力の枠組みを持つハンガリー、チェコ、スロバキアと連携し、難民受け入れ義務化に反対していた。しかし、コパチ首相は16日、難民問題について「欧州はわれわれに結束を期待している」と下院で演説。ポーランドは22日のEU内相・法相理事会で難民12万人分担受け入れ案に賛成した。【9月24日 時事】 
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難民らに背を向ける中東欧諸国
難民受け入れを拒否する中東欧諸国については、9月16日ブログでは、これらの国々がホロコーストという残忍な過去と折り合いをつけていないことがるとの指摘をとりあげました。

そうしたこと以外にも、いろいろいろな事情があります。

中東欧諸国はこれまで移民の流人がなかったため、宗教・民族的にかなり均質で、異質な「難民・移民」への抵抗感が強いこと、中東やアフリカ情勢への人々の関心は薄く、メディアも詳しく伝えていないことなどもあります。

更には、西欧への屈折した思いもあるようです。

****東欧諸国はなぜ受け入れず背を向けるのか****
これらの国々はこれまで大量の移民を受け入れた経験がほとんどなく、最近まではむしろドイツなどに出稼ぎ労働者を出す側だった。

今の難民危機が始まるよりもずっと前から、ドイツやフランスでは東欧からの出稼ぎ労働者の大量流入が問題になっていた。

そのため東欧の人々は複雑な思いを抱いている。自分たちが出稼ぎに行くことを歓迎してくれなかった国々に、今になって「外国人を受け入れろ」と言われても……というわけだ。(中略)

さらに、東欧の人々はここ数年の経済の低迷で欧州統合への希望を失っている。西欧諸国に説教されれば反発するだけだ。

「東欧の人々はEUに加盟すれば危機から脱して豊かになれると思っていた。彼らは今、裏切られたと感じている」と、ブルガリアの政治評論家、イワンークラステフは書いている。「(東欧が求めていたのは)観先客で
あって、難民ではない」(後略)【9月29日号 Newsweek日本版】
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【「敵意のある見方を退けてほしい」】
難民受け入れを巡っては様々な問題があり、現実的にとれる方策にも制約がありますが、議論の出発点には困難な境遇にある人々への思いやりがあってしかるべきでしょう。

敵意をむき出しにして最初から問題点をあげつらい、実際に困難な状況になれば「それみたことか」というのでは、単なる偏狭な排外主義に過ぎません。難民・移民問題への対応を困難にしているのは、異質な人々を疎外して共存を難しくしている、そうした偏狭な人々の存在です。

****ローマ法王、米議会で演説 移民や格差の解決呼びかけ****
訪米中のフランシスコ法王は24日、米議会で演説を行い、不法移民の受け入れや地球温暖化対策への参加を呼びかけた。(中略)

法王は移民問題について、「私たちこの大陸の人間は外国人を怖れない。なぜならほとんどがかつては外国人だったからだ」と指摘。共和党の大統領候補指名レースに出馬し、不法移民の大量送還を唱えているドナルド・トランプ氏など、一部の保守層の考え方に対して反論する含みを持たせた。

法王はよりよい生活を求める移民の国という米国の建国の趣旨を示唆。米国内の不法移民とシリアなどから欧州に殺到している難民を関連づけて、「この大陸にも、自分たちと愛する家族のためによりよい暮らしやチャンスを求めて北に向かう人が数多くいる」と指摘し、中南米からの移民を一種の難民として扱うべきだとの考えを示した。(後略)【9月25日 CNN】
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アメリカ・中国首脳会談  事前の“配慮”や“牽制”はあるものの・・・・

2015-09-24 23:16:10 | 中国

(22日 ワシントン州に到着した習近平夫妻 【9月23日 ロイター】)

ローマ法王訪米と重なった習近平主席訪米
昨日まで中国・西安を観光旅行しており、ニュースにも殆ど接していなかったせいで、ここ数日の出来事には疎くなっています。

私が中国でガイド氏と習近平国家主席の話をしていた頃、その習近平夫妻はアメリカへ向かい22日にはワシントン州シアトルに到着しています。

****サイバー、南シナ海が焦点=米中首脳、25日に会談****
オバマ米大統領と中国の習近平国家主席は25日、ホワイトハウスで会談する。中国によるサイバー攻撃や南シナ海への進出、人権、経済構造改革が主要議題となる。

一方、気候変動やアフガニスタン復興などに関し、両国の取り組み状況を確認する。

両首脳は対立点をめぐり率直にやりとりするほか、協力分野の拡大を目指す。アジア太平洋の安定と繁栄に向けて米中両国が国際的な既存の秩序や規範の順守で一致できるかどうかが焦点となる。【9月24日 時事】 
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おそらくは、オバマ大統領との会談ではそんなに驚くような話は出ないと思いますが、そうはいっても世界に大きな影響力を有する両国ですから、アメリカとの大国関係を世界と中国国内にアピールしたい習近平主席、中国へのアメリカ国内の不満を背景に、中国を牽制したいオバマ大統領、両者の思惑で訪米・会談前からいろいろな動きが見られます。

そもそもの話で、習近平主席の訪米と時期的に被るタイミングで、もう一人の「超大物」、ローマ法王も訪米しています。

****ローマ法王が米に到着・・・正副大統領が出迎え****
ローマ法王フランシスコは22日、キューバからワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地に到着し、6日間の訪米を開始した。

オバマ大統領とバイデン副大統領がそれぞれ妻子を伴って空港で出迎えるという、異例の対応で歓迎した。

法王は米、キューバの54年ぶりの国交回復で仲介役を務め、今回は初訪米となった。23日にホワイトハウスでオバマ氏と会談し、24日にはローマ法王として初めて米上下両院合同議会で演説する。

米CNNによると、27日に東部フィラデルフィアで行われる野外ミサの入場券は、ネット上の予約開始から30秒で1万枚が売り切れた。【9月23日 読売】
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影が薄くなってしまうことも懸念される中国が、どうしてこんなスケジュールを認めたのだろうか?・・・と疑問に感じたのですが、やはりいろいろあったようです。

****中国「法王の訪米ずらして」・・・習氏と同時期懸念****
中国の 習近平 ( シージンピン )国家主席が22日から米国を訪問するにあたり、中国政府が同じ時期に訪米するローマ法王フランシスコの日程をずらすよう、米側に再三要請していたことがわかった。

外交筋が明らかにした。法王の訪米に注目が集まり、習氏の訪米が色あせることを懸念した模様だ。

米側は、双方の都合が合う時期を考慮した結果、同時期に受け入れることを決めたとし、中国側の要請を受け入れなかった。

米側の対応は、中国に宗教の自由や人権問題の改善を求めるメッセージとの見方が出ている。法王は、習氏がワシントンに到着する24日に米議会で演説する予定。【9月21日 読売】
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敢えて同じタイミングにセットしたことは、アメリカ側の宗教の自由や人権問題に関する中国への牽制でもあるようです。

【「重要な問題はほとんど平行線をたどることが予想される」】
会談にむけての基本的な姿勢は、中国への圧力を強めたいオバマ大統領に対し、強気の姿勢を崩さない習近平主席・・・といったところです。

****米中首脳会談 サイバー攻撃、南シナ海…どこまで押すかオバマ氏 対等意識し“挑発”重ねる習氏****
 ■圧力の絶好の機会
オバマ大統領にとり今回の首脳会談は、約1年4カ月の残りの任期における米中関係を決定づけかねず、サイバー攻撃、東・南シナ海問題など対立する分野で、一段と強い姿勢を示せるかが注目点だ。

オバマ氏は、過去の首脳会談開催時とは異なる2つの環境の変化を背に、会談に臨むことになる。

一つは中国経済に衰えが見え、習近平国家主席の指導力に疑問が投げかけられていること。そして、より強い態度で中国に対処すべきだとの主張が、次期大統領選の候補らからオバマ政権に向けられていることだ。

オバマ氏には、中国への圧力を強める絶好の機会だといえなくもない。

オバマ政権は中国のハッカー攻撃への対抗策として、攻撃に関与した個人、企業に対する制裁措置を準備している。
背景には、中国が相次ぎ盗み出している機密情報や技術を、軍事技術や装備の開発に転用し、米国の軍事・インフラ施設を無能力化する「サイバー戦争」にも活用する、と深刻に受け止めていることがある。

制裁の発動に踏み切る場合でも、首脳会談で習氏の出方を見極めた後になる見通しで、会談でオバマ氏が制裁の構えをどこまで打ち出すのか、注目される。

対話と圧力を使い分ける対中戦略はこれまで、ほとんど効果がなく、こうした状況のさらなる固定化を回避することは難しそうだ。

 ■「重要問題は平行線」
中国の官製メディアは9月中旬から、習近平国家主席の訪米をめぐり、「新型大国関係を前進させる旅」などと報じ、米中首脳会談に向けた友好ムードを意図的に演出している。

だが、首脳会談について、中国外務省関係者は「今の中国と米国は、協力よりも対立することの方が多い。重要な問題はほとんど平行線をたどることが予想される」と厳しい見通しを示している。

江沢民氏や胡錦濤氏の時代は、国家主席の訪米前に投獄中の民主化活動家を病気療養などの名目で渡米させたり、米国が求める人権問題の改善などで一定の歩み寄りをみせ、いい雰囲気をつくることが一般的だった。

しかし今回、習主席は逆に、訪米前に米国に対し挑発ともいえる行為を繰り返した。7月には北京などの人権派弁護士らを100人以上拘束し、世界中の人権団体から批判を受けた。

また、米国が抗議している南シナ海での人工島建設の継続をも宣言し、9月初めには米アラスカ州沖に5隻の中国海軍艦を展開。国際金融の発言力強化を狙ってアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立を主導する一方、8月には米国が切り上げを求めている人民元を唐突に切り下げ、世界の市場を混乱させた。

中国が強気を崩さない理由について、共産党関係者は、減速こそしているが経済成長に習主席は自信を深めており、意図的に米国と対等な関係を築こうとしていると分析する。同時に、米大統領選を控え、レームダック(死に体)化しつつあるオバマ政権が本気で中国と対立することはないと判断しているようだ。

習近平政権は当面の緊張緩和よりも米国の政権交代の前に、実現したいことを強引に進め、外洋拡張などで既成事実をつくりたい思惑がある。【9月21日 産経】
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アメリカ:人権問題やサイバー攻撃問題で圧力をかける姿勢も
“7月には北京などの人権派弁護士らを100人以上拘束”については、習近平氏自身の指示ではなく、関係部署の独断だったのでは・・・との見方もあるようです。

9月14日には、昨年10月に「騒動を起こした」容疑で拘束され、今年1月に「違法経営」容疑で北京市公安局に逮捕された中国の著名学者・人権活動家の郭玉閃氏(38)が解放されており、訪米を控えた習指導部が柔軟な姿勢を示したものとの見方もるとのことです。【9月15日 時事より】

一方、アメリカ側は、中国が求めている容疑者の身柄引き渡し問題で一定の配慮を示しています。

****中国人の容疑者、米側が引き渡し 主席訪米前に配慮か****
中国政府は18日、中国当局が贈収賄などの疑いで行方を追い、逃亡先の米国に身柄の引き渡しを求めていた中国人実業家、楊進軍容疑者(57)が強制送還処分を受けて帰国したと発表した。

米国は引き渡し要請に慎重だったが、習近平(シーチンピン)国家主席の訪米を前に、両国の協力をアピールしたい中国に配慮した可能性がある。(中略)

習指導部は「反腐敗」の新たな取り組みとして、昨年から「猟狐(キツネ狩り)」などと称し、海外逃亡した官僚や企業家らの摘発と流出した資産の回収に注力。逃亡先の国々に身柄の引き渡しを求めてきた。

しかし、北京の外交筋によると、米国は、中国当局が本人の背景を示す資料や犯罪の証拠を積極的に提出しない▽収賄でも死刑が適用されることへの人権的な配慮――などを理由に慎重な態度を取ってきた。

容疑者の身柄引き渡し問題は、22日からの習氏の公式訪米でも話題となる見通しだ。
米側が引き渡しに応じたのは、「反腐敗」を米中協力の新たな領域としてアピールしたい中国に配慮し、ほかの分野での交渉を優位に進めようとの狙いも透ける。【9月19日 朝日】
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こうした“配慮”の一方で、“牽制”と思われるような動きもあります。

****ケリー氏、中国活動家らと面会…人権問題で圧力****
米国のケリー国務長官は23日、ワシントン市内で、中国の人権活動家や中国で当局に拘束されている活動家の家族と面会した。

25日に行われるオバマ大統領と 習近平 ( シージンピン )国家主席との首脳会談を前に面会することで、オバマ政権は中国に人権問題でも圧力をかけていく姿勢を鮮明にした。(中略)

ケリー長官はオバマ政権が中国の人権状況への懸念を深めていることを伝え、習氏との会談で政治犯の釈放や法規制の見直しなどを求めていくことを約束した。【9月24日 読売】
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著名人権派弁護士に対する拷問・監禁を伝える報道なども、そうした牽制の一環とも思われます。

****人権派弁護士、5年ぶり消息=拷問・監禁も「中国に残る」―米メディア****
中国で国家政権転覆扇動罪により有罪判決を受け、2014年8月の出所後も公安当局の監視下に置かれ、詳しい消息が不明だった著名人権派弁護士・高智晟氏の声が米メディアを通じて5年ぶりに伝えられた。

高氏は米AP通信のインタビューに応じた。内容を伝えた米政府系放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)中国語サイトなどによると、高氏は監禁中に顔に電気棒を当てられる拷問を受けたと明かす一方、どんな苦難があっても米国に滞在する家族と離れ、中国に残ることが「神が私に与えた使命だ」と述べた。(後略)【9月24日 時事】
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また、首脳会談を控えた22日には、中国で3月に米国人女性企業家がスパイ容疑で拘束されていたことを支援者がウェブサイトで明らかにしています。

近年大きな問題となっているのが中国によるサイバー攻撃です。

***オバマ大統領「サイバー攻撃に対抗措置も」 中国を牽制****
オバマ米大統領は16日、今月下旬に訪米する中国の習近平(シーチンピン)国家主席との首脳会談で、中国側が米企業などの情報を盗み取るサイバー攻撃の問題が主要議題になるとした上で、解決されない場合は「対抗措置を準備している」と語った。

オバマ氏自ら制裁をちらつかせることで、習氏の訪米を控えた中国を牽制(けんせい)した。(後略)【9月17日 朝日】
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中国:経済カードでこの訪米を押し切る戦術
中国側の動きとしては、中国軍機による米軍機への異常接近も報じられていますが、こうした行為が偶発的なものか、習近平主席の意向を反映したものか、あるいは、習近平指導の軍幹部粛清への不満を持つ一部軍部の習近平指導部への“揺さぶり”なのか・・・そのあたりはよくわかりません。どちらかと言えば、後者の線が感じられます。

そうなると、米中関係にしろ、日中関係にしろ、習近平主席の思惑とは別の要素で動く部分があることにもなります。

****中国軍機、米軍偵察機の約150メートル先を横切る 黄海上空で****
25日の米中首脳会談を前に、米国防総省のクック報道官は22日、黄海上空の国際空域で中国軍のJH7戦闘機が米軍の電子偵察機RC135を捕捉して異常接近し、「危険な方法」で横切ったと明らかにした。

現場は中国・山東半島の東約130キロの上空で15日に戦闘機2機が飛来し、うち1機が偵察機の約150メートル先を横切ったとしている。

昨年8月には南シナ海上空で、中国軍の戦闘機が米軍の対潜哨戒機に約9メートルまで異常接近し、下方約15〜30メートルを横切るなど挑発行動を繰り返した。このとき米政府は、「建設的な軍事関係の推進を侵害するものだ」と強く非難したが、報道官は今回、「前回と似たような事案ではない」などと述べるにとどめた。習近平国家主席が訪米して日程を開始しており、対中批判を抑えたとみられる。

中国は9月、海軍艦船を米アラスカ州沖に展開しており、今回の異常接近が意図的である可能性もある。

中国軍機による米軍機の捕捉は東シナ海や南シナ海でもほぼ常態化しており、米上院軍事委員会のマケイン委員長は「アジア太平洋地域で、中国が強引な行動を続けていることを示すものだ」と非難した。【9月23日 産経】
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一方、習近平主席は中国の経済力を見せつけ、アメリカにとって中国との関係強化が“得策”であることをアピールしています。

****習近平氏訪米】「米中関係を正しい方向に」 経済カードで米に揺さぶり****
・・・米中関係が視界不良に陥るなか、習氏はまず米経済界など民間へのアピールを通じ、米国内の中国経済に対する失速懸念を押さえ込み、安全保障問題の懸案が山積するオバマ米大統領との首脳会談に臨む構えだ。

習氏の訪米は2013年のカリフォルニア州訪問以来、2年ぶり。公式訪米は習政権ではこれが初めて。国家副主席時代から米中の「新型大国関係」という持論を掲げ、米側に対等な地位を認めさせたいという考えは、経済が減速期に入った現在も変わらない。

22日にシアトル市内で開かれた米中関係団体の会合で、習氏はこの対米関係の持論を踏まえつつ、相互利益を求める「ウィンウィン」の関係構築を訴え、米中関係を「正しい方向に向けて築いていくべきだ」と述べた。

習氏は同日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルに掲載された単独インタビューでも、「中国は米国と手を携えて地域・国際問題に取り組むことを望んでいる」と対米重視を強調。

中国経済の減速については「発展の過程で生じている問題」として、中国経済の先行きに過度の懸念は無用−との認識を示した。

こうした経済カードを前面に押し出すため、中国からは企業家を含めて千人規模の代表団が訪米した。習氏はシアトルで航空機大手ボーイング社の工場を訪ねるとともに、訪問に合わせて同社の大型機30機の調達契約をまとめた。

マイクロソフト、グーグルなど米IT企業のトップを集めた会合にも出席し、中国市場が米国のIT分野にとって、いまなお巨大な市場であることを示す。

中国でのインターネット環境は、ネット監視による統制や強化でグーグル傘下のサービスが締め出されるなど、「冷戦状態」とまで酷評される状況だ。

こうした国家統制は何ら変わっていないものの、インターネット利用者は中国政府の集計で6億6800万人に達したとされる。中国は米国の関連業界の足元を見透かす形で、米経済界への揺さぶりをかけた形だ。

中国の経済カードの重要度については、中国と海外との間で判断に大きな開きがみられる。だが、中国側からは「世界第1と第2の経済体」(王毅外相)などと巨大経済を武器とする見方が示されるなど、なおも経済カードでこの訪米を押し切る戦術がにじんでいる。【9月23日 産経】
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ボーイング旅客機300機の発注は、定価で380億ドル(約4.5兆円)規模とのことです。
ボーイング社CEOは、中国に内装や塗装などを行う工場を建設することも発表しています。

また、17日には中国の国有企業が米国企業と米西部カリフォルニア州ロサンゼルスとネバダ州ラスベガスを結ぶ高速鉄道の建設で合意したことも発表されています。

表に出てくる話以外にも・・・・
なんだかんだで事前の動きはありますが、会談では、人権問題や南シナ海問題で中国が大きく譲ることは考えにくく、サイバー攻撃問題では、高官協議を続けるとか、意見交換の場を設ける・・・といったところではないでしょうか。

それなら首脳会談が無意味かと言えば、そうも言えません。
表に出てくる話はあまりなくても、そうした表の話とは別に、両首脳のやり取りが今後の両国の動きに影響することは十分に考えられます。
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中国・西安  最終日 街中を行き惑う・・・いつものことですが

2015-09-23 21:16:10 | 身辺雑記・その他


(ライトアップされた西安市街中心に位置する鐘楼  明の太祖朱元璋が、西から長安に向かう龍の夢を見たが、その龍は巨大なライバルの出現を意味していると占いに出たことから、龍を鎮めるために建てられたとされています。場所は今の場所ではなかったようですが)

9月22日 中国・西安観光3日目

朝方小雨が降っている様子。

ただ、今日は陝西省歴史博物館や大雁塔付近などをひとりでぶらつく予定なので、小雨程度なら大きな支障はありません。

出かける頃には霧雨が降ったり止んだりといった程度。
陝西省歴史博物館へは地下鉄で移動。

チケット売り場には長蛇の列が。
前日ガイド氏から聞いた話では、「無料で入れるがすごい列ができており、パスポートチェックなど面倒。有料ならすんなりとはいれます」とのこと。

霧雨のなかを並ぶのも面倒なので、有料で“すんなり”と入ろうとしたんですが、特別展示用のチケット売り場などもあって、どこでチケットを買えばいいかよくわからず、あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。

ある売り場で、香港から来たようなおばさんが流ちょうな英語でいろいろ説明してくれたのですが、ほとんど理解できませんでした。

よく訳がわからないまま、とりあえず何かしらかのチケットをゲット。本当にこれで入館できるか自信がなかったのですが、なんとか入れました。
いつもこんな調子です。

ただ、チケット売り場付近に英語の案内などあってもよさそうに思うのですが。

館内展示については旅行記サイトへ譲りますが、さすがに歴代王朝の都であった「長安」の博物館ですから、質的に高い水準のものがそろっているようです。

やはり、こういうところはガイド案内付きで来るべきでしょう。素人では何が重要な展示なのか判断できませんので。

展示内容はともかく、客が多いのには困りました。(ほとんどが中国の方のように見えます)
大体、博物館なんてひっそりとしているものと相場が決まっていますが、館内にも人があふれかえり、列をつくりながら展示物の前を移動していく状態。

中国人民がこんなに歴史に興味あるとは知りませんでした。
いつもこんな調子なのでしょうか?

歴史博物館ですから、当然に西安事件を含めた抗日戦争を扱った展示室もありますが、こちらは閑散としていました。

歴史博物館を出て、地図上ではすぐ近くの大雁塔へ。

“すぐ近く”で楽勝のはずだったのですが、どこにあるのか、やはりわからなくなってしまいました。
これまたなんとか、かんとか、たどり着いて、チケットを買うと、これが大雁塔ではなく「大雁塔地下宮」なる、おそろしくB級なワンダーランドのチケットでした。

どれだけ「B級なワンダーランド」かは旅行記サイトで。(「秘宝館」までありました)
話の種にはなりました。

地上にもどって大雁塔へ・・・・と思ったのですが、見えてはいるのですが、塀で囲まれていて入り口がわかりません。
延々と塀沿いに歩いて、ほぼひとまわりして、「大雁塔は塀の外から眺めるだけで、中には入れないのかも・・・」とあきらめかけたときに、ようやく入り口を発見。

入り口を案内した付近見取り図ぐらい設置しておいて欲しいものです。
(道に迷った私が想定外の方向からやってきたせいでしょうか)

大雁塔に向かう途中の店で食べようとした昼食の麺が、やはり昨日と同じように痺れるような味付けで、ほとんど手つかずで残してしまいましたので、大雁塔では手持ちのパンなどで飢えをしのぎます。(こういうこともよくあるので、朝食の残りのパンを非常食として持ち歩いていました。)

大雁塔見物を終えて地下鉄駅近くまで歩いて戻り、4時過ぎ頃、イスラム系の店でやっと食事に。
チャーハンと卵・トマトスープといったものですが、両方とも2~3人前ぐらいの量があります。
あまり残すのも悪いので、頑張ってある程度の量を食べます。

一旦ホテルに戻り休憩。明日は朝のフライトで上海経由で帰国です。
暗くなった頃、西安市街の最後の散策へ。

ライトアップされた南門、鐘楼などをカメラに収め、職場へのお土産のお菓子などをスーパーで購入。

以上、短い西安旅行でしたが無事終了。
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中国・西安  厳しい手荷物検査や順法精神のことなど

2015-09-22 09:35:49 | 身辺雑記・その他

921日 月曜 中国・西安

 

西安観光2日目 今日は昼は一人で市内を散策 夜は現地旅行社手配で餃子ディナー+ショー観劇+夜市案内など

 

ホテル(南門近くのユースホステル)でランドリーサービスをお願いするのですが、受付女性が持参した汚れ物(下着)を広げて種類・数を確認するのは止めてもらいたいものです。中国ではよくあります。

 

今日は、ホテルのすぐ近く、南門に入場し、城壁を貸自転車でサイクリング。

 

貸自転車は2時間54元(約1100円)ですが、保証金として200元(約4000円)が必要です。

 

城壁の上は、3車線ぐらいの幅があって、1周すると14kmぐらいではないでしょうか。

ただ、サスペンションが固い自転車で石畳の道を走るのはそれほど快適とは言えません。

 

特に、旅行に出てから腰痛が再発し、痛み止めでなだめている身としてはちょっと心配。

 

南門からスタートして西門から、かつて三蔵法師が長安を後にして旅立ったシルクロードを遥かに望む・・・のですが、生い茂る木々で視界が遮られ、見えるものも大きなビルだけという訳で、そんな感慨もありません。

 

当初は1周するつもりでしたが、乗り心地がイマイチなので、西門を過ぎて北側の城壁が近づいたあたりで引き返しました。

 

29年前、城壁に上がったところにあった売店で玉の香炉を買いました。

値段はまったく覚えていませんが、せいぜい5~6千円ではないでしょうか。

 

個人的には、白味がかった緑色が非常に気にいっており、当時は改革開放間もない頃で売り手側に商品販売の理念に乏しく、かなりの貴重品を他の安い商品と同価格で売っていたのでは・・・これはかなりのお宝ではないか・・・と勝手に思っています。勝手に思う分は自由です。

 

今回旅行の最大目的は、この城壁サイクリングと、29年前の記憶がまったくない兵馬俑の再訪でしたので、昨日・今日で一応の目的達成です。

 

南門から降りて、城壁外の小雁塔(707年建築の仏塔で1343m)へ。

地図上の距離はそんなにないのですが、地下道を降りたり上がったり、道に迷ったりで結構疲れました。

 

小雁塔近くのお店で昼食

牛肉麺(15元 約300円)ですが、食べているうちに口の中が痺れてきました。唐辛子の辛さではなく、痺れる辛さです。やっぱり食べ物は、普段食べ慣れたものが一番です。

 

小雁塔は13層の最上階までのぼれます。(30元 約600円)

途中休みながらようやく最上階へ(くぐり穴を抜けるようにして最上階にあがります) 普段歩かない生活をしていますので、階段はダメです)

 

昨日ほどではありませんが、今日も西安はガスっています。

小雁塔境内は、西安観光地としては人が少なく落ち着けます。

 

小雁塔見物を終えて、地下鉄で移動して鼓楼(1380年建築)へ。

 

地下鉄は南北2線。 料金は数駅程度なら一律2元(約40円)のようです。

 

なにしろ地下を掘ると遺跡がザクザク出る土地柄ですから、なかなか建設が進まなかったようですが、近年は建設を優先する方向で進んでいるようです。

1400万人の大都会ですからやむを得ないでしょう。

 

鼓楼は、名前のとおり大太鼓で時刻を知らせていた建物で、建物内には大太鼓が並んでいます。

 

中国は地下鉄や重要施設などでは、空港のような手荷物検査を行いますが、ここではライターも没収されました。歴史遺産ですから煙草の火で燃やされては困る・・・ということでしょうか。

 

日本では「煙草を吸わないように」の張り紙1枚ですませるところですが、中国では順法精神が根付いていませんので、とにかく検査・没収ということでしょうか。

 

中国で手荷物検査が厳しいのは、ウイグル・チベットなど、抑圧している少数民族を抱える中国では、テロの脅威が現実的なこともあります。

 

順法精神という点では、あいかわらず赤信号でも横断する人が散見されます。

日本では、法律・ルールは皆が守ることで社会が安全・スムーズに保たれるという認識が基本にありますが、中国人にとっては法律・ルールは政府・権力者が勝手に決めたもので、違反すると処罰されるので一応は従うが、見つからないなら、できる限り無視するのが当然・・・という意識でしょうか。

 

ちょっと言い過ぎでしょうか。

 

もっとも、手荷物検査をしない日本では、新幹線の中で焼身自殺するような事件もおきました。

あのときは、中国では「なぜ日本は手荷物検査しないのか?」という声が多くあったようです。

 

鼓楼を起点に屋台街が北へ伸びており、大変な人出です。

飴を路上で長く引き伸ばしたり、飴に混ぜた胡桃を大きな木槌で叩いたり・・・パフォーマンスも楽しい通りです。

 

ツクツクのような三輪車でいったんホテルに戻り、夜の餃子ディナーショウまで休憩。

三輪車は乗る前に値段交渉が必要です。外国人ということで2~3倍にボラれているように思いますが、まあゴタゴタするのも面倒なので。

 

市内中心部幹線走路での走行は禁止されているせいか、歩道を走ったりしています。

ドライバーはイスラム系が多いとか。

 

餃子ディナーは・・・まあ、こんなものでしょう。

一人で来ているのは私ぐらいです。

1時間の食事タイムのあと、そのままの座席でショーを観劇します。

伝統的な舞踊・音楽をベースにした上品で美しいダンスと楽器演奏です。

 

面白いのは観客のほとんどが欧米人で、特に、餃子ディナーをセットにしているのは欧米人だけといってもいいぐらいです。東洋系は私ぐらい。

 

後ろの座席でショーだけ観る中国人が若干いる程度。

(中国の人は高いお金を出して餃子を食べる人はいないのでしょう)

 

昨日のショーは、逆に中国人や韓国人ばかり。見事に客層がわかれています。

昨日のショーはアクロバティックな雑技にファッションショーを加えたような構成で、派手なエンターテイメントを志向しているのに対し、今日のショーは伝統的な文化を感じさせる舞踊・音楽を重視しているという差の結果でしょうか。

 

ショーのあとは、ライトアップされた城壁などを眺めながら昼間来た屋台街へ。

イスラム系の人が多く店をだしている屋台街で、昼間より賑わっています。

 

簡単に屋台街を歩いたのちホテルへ。

 

明日は、一人で市内散策です。

大雁塔などを予定しています。

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強力な指導者・始皇帝の光と影 玄宗皇帝、蒋介石そして習近平

2015-09-21 09:19:44 | 身辺雑記・その他

920日 中国・西安

 

1日目の観光から帰って、ホテルで一休みしています。

今日は現地旅行社に頼んで、日本語ガイドと運転手つきで専用車で観光でした。

 

行ったのは、西安というより、中国あるいは世界でも有数の観光地、兵馬俑。

秦の始皇帝が自分の墓を守るためにつくった、等身大より若干大きめの数千もの兵士の像が地中に並んでいる遺跡です。

 

29年前の記憶は全くなく、ガイド氏の詳しい説明で興味深く楽しめました。

よく知られているように、兵士像は実際の兵士を模したようで、一体毎に体格・表情・服装・髪型などがすべて異なる・・・というのが兵馬俑のすごいところです。

 

詳しくは旅行記サイトに帰国後アップします。

一人旅で日本語ガイド・車をチャーターというのは非常に高くつくのですが、やはりこういう場所は解説がないと面白味も半減しますので、高い費用も致し方ないところです。

 

兵馬俑の隣は、始皇帝の墓。小高い丘になっています。

昔はこの丘を上れたのですが、現在はふもとまで歩いて行けるだけで上れません。

ちょっとがっかり。

 

地下には、水銀の川だか池だかとか、侵入者を殺すための仕掛けとか、いろいろあると言われていますが、発掘はされていないとのこと。

 

丘全体を覆う巨大なドームを作ってから発掘するとのことですが、墓泥棒に荒らされていなければ、すごいものがたくさん見つかるのでは。(発掘に関する当局の考えとか、墓泥棒に荒らされていないかなど、ネット検索すればすぐわかる話ですが、なにぶんネット事情が十分でないので帰国後に確認します)

 

秦の始皇帝という人物は、中原を統一して強大な国家を作っただけでなく、法律・文字・貨幣・度量衡などを統一し、現代で言えば高速道路ような軍用道路を整備し、長城を築き・・・と、まさに中国の基礎を作った人物です。

 

ただ、上記の自分の墓を作るにあたっては、秘密を守るために作業にあたった72万人を生き埋めにしたとも言われるように、「中国の夢」実現のために人民の犠牲を顧みなかった側面もあります。

 

巨大な土木事業や戦争ではさらに多くの人々が犠牲になっていることでしょう。

そうした過酷な統治がもたらす無理で人心が乱れ、彼の帝国は子3代15年の短期間で崩壊しました。

 

ちなみに、現代の「中国の夢」を実現するべく習近平国家主席が打ち出した「一帯一路」はここ西安が起点となります。

 

すでに西安は、城壁内には華やかな商店が、郊外には高層建築が立ち並ぶ巨大都市ですが(ガイド氏の話では人口1400万人)、今後は内陸部経済発展を牽引していくことが期待されています。

ちなみに習近平主席は西安近郊の出身だとか。

その習近平氏へのガイド氏の評価はやや厳しいものでした。

 

腐敗一掃運動のせいで、潤滑油としての賄賂が抑制され、経済がうまくまわらなくなっている。彼は若いころの下放時代に紅衛兵だったので、今でもそうした毛沢東的な、文化大革命的な傾向がある・・・等々。

 

腐敗・汚職は中国社会に上から下まで行き渡っており、それを否定しても庶民の暮らしは改善しない。腐敗一掃を政敵を倒すために利用している・・・とも。

 

日本の江戸時代にも、「水清くして・・・・」とも言われた改革路線がありましたが、そんな感じでしょうか。

わかる部分もありますが、腐敗・汚職を簡単に容認するのも日本的感覚では、いかがなものか・・・というところではありますが。

 

話を始皇帝陵にもどすと、いろいろ言われている話をもとにその地下宮殿をミニチュアセットで再現した施設が近郊にあって、そこも覗いてみました。

 

内容はともかく、狭い建物のなか、大勢の中国人観光客で身動きでないほどの盛況でした。

 

ちなみに、中国の観光施設の入場料は非常に高いように思われます。

兵馬俑の150元(約3000円)はともかく、地下宮殿が40元、華清池が150元、市内の城壁とか鐘楼などでも相当の入場料がいります。

 

兵馬俑近郊の農民は立ち退きを迫られましたので、今は兵馬俑のガイドとか職員として働いており、入場料はこうした元農民の給料の原資ともなっているとか。

 

また、多くの元農民は土産物屋などを開業していますが、観光客は兵馬俑観光後はこうした土産物屋が立ち並ぶエリアを必ず通るように誘導されます。

 

入場料については、昔は外国人料金は別料金で、中国人料金の何倍もしていましたが、今はそうした二重価格はなくなりました。

 

なお、どこでもそうですが、兵馬俑のような観光地の食事も相当なものです。

お昼に食べた西安名物の麺料理は、びっくりするぐらいの大皿で出てきましたが、値段も70元(約1400円)と驚きでした。

 

ちなみに、夕食は市内のローカルなお店で済ませましたが、そちらは10元(約200円)。

 

兵馬俑・始皇帝陵、地下宮殿のあとは、華清池へ。

唐・玄宗皇帝の妃である「傾国の美女」楊貴妃が入浴したお風呂があることで有名です。

 

さしもの「大唐」も玄宗皇帝末期、彼が政治に興味を失い、楊貴妃を溺愛するような日々を送っていたこともあって、国が傾き、荒廃していきます。

 

国運が衰退したのは、玄宗皇帝一人の責任ではなく、政治・社会体制の行き詰まりの結果でもあるのでしょうが。

 

ただ。楊貴妃に会えるならともかく、個人的にはお風呂場よりは、日中戦争の時代、張学良が蒋介石ををここで拘束して対日本の戦争を迫り、国共合作のきっかけとなった「西安事件」の現場であることの方に関心があります。当時の弾痕などが残っています。

 

華清池の裏山である麗山にはロープーウェイで登れるのですが、この日西安は視界が悪かったので、登っても大したものは見えないのでは・・・と思い、ロープーウェイはキャンセルしました。

 

特に、午前中はすっぽりと霧に覆われたように真っ白でしたが、霧なのか、黄砂なのか、例のPM2.5なのか・・・定かではありません。

 

午後になっても幾分残っているということは単純な霧ではなく、黄砂やPM2.5のような環境汚染なども関係しているのでしょう。

 

華清池観光後、西安中心部のホテルにもどり、ガイド氏とも別れます。

休憩後、夜は「唐劇・十三王朝」というショー見物に一人ででかけました。

 

チケットは現地旅行社を通して予約してありましたが、支払金額は228元(約4500円) 実際は「グレードアップ」してもらったとのことで380元(約7600円)の席でした。

 

ガイド氏曰く「ファッションショーです」

ダンスショーですが、衣服がテーマのひとつにもなっていますので、確かにそんな感もあります。ほかに、雑技のようなパフォーマンスの要素も。

ステージの左右と奥のスクリーンを使った映像は迫力もありました。

 

説明は、中国語・英語のほかに韓国語でも表示されますが、日本語はなし。

驚いたのは、最後の部隊挨拶で流れた曲が韓国のアリランだったこと。

 

韓国からの観光客が随分と多いのでしょう。

昨今の中韓蜜月を物語るような演出ですが、その一方で日本の影が全く見えないのはちょっと寂しい感も。

 

明日は、一人で市内をぶらつく予定ですが、城壁の上を貸自転車でサイクリングなどもいいのではと考えています。

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