孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

コロナ「追跡アプリ」はコロナ後の監視社会への扉を開くのか?

2020-05-31 23:02:39 | IT AI

(【5月26日 CNN】中国で入場時にチェックされる「健康コード」)

【中国・杭州 市民の病歴や生活習慣を点数化し、「健康スコア」としてスマホ表示】
中国が「幸せな監視社会」とも言われるような超監視社会であることはこれまでもしばしば取り上げてきました。

新型コロナ感染拡大阻止を目的として更に監視体制は強化され、スマホ上に表示される緑、黄、赤の3段階が至る所でチャックされる「デジタル通行手形」となっていることも、よく報道されています。
(問題は、この3段階表示の基準がブラックボックスで、当局に都合が悪い人物は「要注意」とされて、日常生活がままならない状況に追い込まれることもあり得るというところです)

そうした中国の状況を前提にしたうえでも、「そこまでやるか・・・」と唸ってしまったのが下記記事。

****市民の健康状態を点数化しスマホにコード表示、中国・杭州市がシステム導入を検討****
中国浙江省の杭州市で、市民の病歴や生活習慣を点数化し、「健康スコア」としてスマートフォン上のQRコードで表示するシステムの導入が検討されている、と米CNNが報じた。個人情報の管理が進む中国だが、この案についてはSNS上でプライバシーの侵害だと批判が相次いでいるという。 

コード表示は新型コロナウイルスの感染拡大防止対策として2月に杭州市で始まり、中国各地に拡大した「健康コード」の進化形。

健康コードは利用者が「アリペイ(支付宝)」や「ウィーチャット(微信)」といったスマホのアプリに身分証番号などの個人情報を登録すると、その人が感染しているリスクが緑、黄、赤の3段階で示される。 

細かい定義は地域によって異なる部分があるが、緑は基本的に健康に問題がないこと、黄はコロナ感染者との濃厚接触や入国直後といった理由による隔離期間中など、赤は感染者であることなどを示している。

判断の基準は明確に説明されていないが、家族関係や移動履歴などのデータから、感染者との濃厚接触の可能性や感染地域への出入などをはじき出す仕組みとみられる。中国各地のさまざまな施設や公共交通機関で健康コードを確認することが当たり前になり、「デジタル通行手形」として機能している。 

CNNによると、健康スコアは健康コードをヒントにした恒久的なシステム。個人の病歴や健康診断結果、生活習慣のデータに基づいて算出される。杭州市保健委員会の公式サイトに掲載された案によると、0から100までのスコアが赤から緑のグラデーションで色付けされる。 

1日に歩いた距離が1万5000歩に達したら5点、睡眠時間が7.5時間あれば1点が追加される。減点の例としては、蒸留酒の「白酒」200ミリリットルを飲んだらマイナス1.5点、たばこ5本を吸えばマイナス3点などがある。 

さらに企業や町内会にも、メンバーの運動や睡眠、健診などの状況に応じてグループ単位のスコアを付ける案も検討中。市保健委員会はデータの収集方法や、スコア取得を義務化する可能性、市民生活や企業活動への具体的な影響には現段階で特に触れていないという。 

杭州市の案に対して中国のSNSには、プライバシーの侵害だと問題視する書き込みが多く寄せられている。データが保険会社やマーケティング会社の手に渡ったり、雇用差別につながったりする可能性も懸念される。CNNは「技術面の問題として健康状態を点数化すること自体の難しさを指摘する声も上がっている」とも伝えた。【5月31日 レコードチャイナ】
********************

現在でもアリババが提供する『芝麻信用(セサミクレジット)』は、中国でインフラとも言えるほど、社会に定着したサービスとなっていますので、その健康面を更に詳しくしたものと考えれば、こういうものが出てくるのは「必然」なのかも。

****中国で「信用スコア」が社会インフラに*****
「信用スコア」とは、個人に紐づくデータをもとに信用度を分析し、スコア化する仕組み。学歴、職業、年収、さらには購買履歴などの膨大な個人データからAIが分析し、数値を弾き出す。可視化された信用度は、融資・ローンなどの可否判断といったサービスに展開される。(中略)

芝麻信用がユニークなのは、提携サービスの利用状況などから膨大なデータを収集し、スコアを算出している点。たとえば、評価軸としてECモール「天猫(Tmall)」、決済サービス「アリペイ」の利用履歴、さらにはSNSにおける交友関係なども用いていると言われている。スコアに応じて、さまざまなサービスで特典を享受できるのも特徴だ。

さらに注目したいのは、中国でこうした「信用スコア」をもとに社会基盤がつくられつつあるということ。たとえば、一定スコア以上で空港の専用レーンをつかえたり、ビザ申請手続きが簡易化されたりと、公共機関で優遇を受けられる仕組みもはじまっている。【2019年11月25日 HUFFPOST】
**********************

「健康スコア」が一般化されれば、スコアが悪い者は就職も結婚もできない、保険にも入れない・・・ということにも。

【各国で導入が進む「追跡アプリ」】
こうした「監視社会」が他人事でないのは、日本などでも新型コロナの関係で「追跡アプリ」開発が進められており、こうした「追跡アプリ」の使用・普及が中国のような「監視社会」への第1歩となるのでは・・・という懸念があるからです。

****コロナ追跡アプリ、政府主導で グーグルとアップル要求****
政府は8日、官民共同で進めていた新型コロナウイルスの感染追跡アプリの開発について、今後は厚生労働省が主導すると決めた。運用も厚労省が担う。

米グーグルと米アップルが、追跡アプリ用共通規格の利用などは政府が主体となることを求めたため、方針転換を迫られた。アプリの運用開始は予定していた今月上旬からずれこみ、早くて今月下旬の見通しだ。
 
このアプリは、スマホの近距離無線通信「ブルートゥース」を使い、一定時間近距離にあったスマホ端末を記録する仕組み。アプリの利用者に新型コロナの陽性が判明すると、記録された端末に「濃厚接触の可能性」を通知し、持ち主に注意を促す。情報は匿名化され、個人は特定できない。(後略)【5月12日 朝日】
******************

同様のアプリ運用はイギリスでも6月から開始されます。

****英、コロナ追跡システムが6月1日稼働開始=首相****
英国のジョンソン首相は20日、新型コロナウイルス検査で陽性反応を示した人と接触した可能性がある人を追跡するシステムが6月1日に稼働開始すると明らかにした。 

来月初めまでに検査実施件数は1日当たり20万件に達し、追跡システムにより毎日1万件の追跡が可能になるとの見通しを議会で示した。【5月21日 ロイター】
********************

“NHSX(NHS(イギリス国民保険サービス)のデジタル部門)によると、アプリの利用は義務ではなく希望者のみ。また、アプリ内に蓄積される個人情報は最初に登録する郵便番号の一部のみで、位置情報などは利用者の許可がないと収集できないようになっているという。
また、「デジタル握手」の記録や分析もアプリ内では行わず、イギリス国内のサーバーに送られる。”【5月5日 BBC】

もっとも、ハッキングなどの意図せざる事態、あるいは、政府の隠された意図なども可能性としては皆無ではありません。

フランスでも6月から稼働するとのことですが、警戒感が強いようです。
利用者は相当割合いないと、このシステムはあまり意味がなくなります。

****感染者との接触通知アプリ不人気 仏、55%が「使用しない」****
30日付のフランス紙フィガロは、新型コロナウイルスの感染再拡大防止策の一つとして国が開発した、感染者と濃厚接触した可能性を知らせるスマートフォン向けアプリに関し、世論調査で55%が使用しないと答えたと伝えた。
 
同様のアプリは日本を含め各国で導入や準備が進んでいる。フランスでは6月2日に行う2段階目の制限緩和に合わせて稼働。政府はプライバシーは侵害しないと訴えて任意での使用を促しているが、公権力への警戒心の強い国民性が普及を抑制する可能性もある。
 
千人を対象に行った世論調査で「確実に使用する」と回答したのは19%。「たぶん使う」は26%だった。【5月31日 共同】
******************

【何に怒って何に笑うのかが、把握されていく】
当然ながら、こうした「追跡アプリ」のメリットは大きなものがあります。
いっぽうで、コロナ後の社会の監視システムにつながっていくのでは・・・との懸念も。

****新型コロナ「追跡アプリ」がもたらす恐ろしい未来****
世界的ベストセラー『サピエンス全史』(河出書房新社)の著者ユヴァル・ノア・ハラリは、世界で蔓延している新型コロナウイルス対策について、『アルジャジーラ』にこう語っている。
「感染症の大流行とそれによる経済的な危機を軽減するために、使えるテクノロジーはすべて使うべきだ」
 
世界では現在、新型コロナの感染者を追跡するスマートフォンのアプリが30種類ほどシステム開発されており、各国で導入されている。
 
追跡アプリとは、PCR検査で陽性反応が出た人の行動を把握し、その人物と接近した人などを追跡することで、感染拡大を抑えようというものだ。
 
日本でも、官民共同で進めていた感染者追跡アプリを厚生労働省が主導して開発・運用することが決まっている。ただ、グーグル社とアップル社の規格を利用するため、導入は6月以降になりそうだ。(中略)

ハラリは、先のコメントにこう付け加えている。「ただ、慎重に使うべきなのです」
 
追跡アプリに対する警戒感は根強い。人の行動を追うだけに、プライバシーの侵害に繋がったり、政府による監視に使われたりするのではないかという懸念が議論になっているのだ。
 
新型コロナが収束した後も、引き続きそうした技術が使われる可能性も否定できず、そうなれば新型コロナが私たちのプライバシーの概念を変えてしまいかねない、と見る向きもある。そしてその先には、恐ろしい世界が広がる可能性も考えられる。
 
では、既に導入されている国で、そもそも追跡アプリはどんな形で使われているのだろうか。

強硬なアプローチを採用する韓国
まずは日本でも追跡アプリが話題になった韓国だ。
 
韓国の追跡システムは、言うなれば、犯罪者を追跡するように、感染者と感染の可能性がある接触者を追いかけるものだ。
 
スマホの位置情報で彼らがどこにいるのかを把握し、さらにクレジットカートなどの情報を紐付け、誰がどこで食事や買い物をしたのかがわかるようにもなっている。各地に張り巡らされた監視カメラの情報とも繋がれ、行動が追跡される。これによって、感染後の行動だけでなく、感染前の行動も把握する。 
 
自分がどこで何をしていたのかすべて調べられると考えると、気持ちが悪いが、韓国に国外から入国する際には、政府系の追跡アプリのダウンロードが義務付けられている。(中略)

監視の度合いが強まっている中国
プライバシー上の懸念を無視して追跡アプリなどによる新型コロナ対策に乗り出しているのは、韓国だけではない。韓国以上に徹底監視しているのは中国だ。
 
中国では、大手IT企業の「アリババ」と「テンセント」がそれぞれアプリを開発。ユーザーはアプリをダウンロードし、個人情報だけでなく、体温や健康状態なども入力して監視される。過去14日間の移動履歴や、感染者などに接近した記録も残される。
 
また、人口比で世界で最も監視カメラの数が多い中国だけに、監視カメラによる監視も行われているという。
 
そして外出して公共交通機関を使ったり、店舗に入ったりする際には、健康状態を示す色分けされた「ヘルスコード」(QRコード)を提示する必要がある。
 
グリーンなら安全で移動が許されるが、レッドならどこにも出歩けない。店舗や職場などにも行けない状態で、自主的に隔離生活を送る必要がある。
 
ちなみにこのサービスは政府が実施していると喧伝されているが、実際にアプリを調べてみると、個人のデータが警察にも送られていることが暴露されている。
 
普段からネット監視や検閲などが厳しく行われている中国なら、もはや驚きすらしないが、それでも新型コロナ対策によって、当局が国民の健康状態などさらなる個人情報を入手できてしまっていることは看過できない。監視の度合いが強まっているのである。(中略)
 
アジアのみならずヨーロッパでも
新型コロナ対策の成功国として評価されている台湾でも追跡アプリが導入されている。14日間の自主隔離をしなければならない人たちがアプリを利用し、少しでも家から離れたりすると警告が届くシステムだ。ちなみに違反者には罰金が科される。(中略)

また香港では、隔離の際に行動をトラックするリストバンドをつけるよう義務付けられているし、シンガポール政府が開発した新型コロナ対策アプリも接近した人たちを記録するものだ。
インドでも、政府が開発したアプリのダウンロードが国民全員に実質強制され、利用されている。
 
アジアだけではない。
ドイツ政府も、睡眠時間や脈拍、体温を管理するスマートウォッチ用のアプリを提供している。
アイスランドではGPS(全地球測位システム)を利用した追跡アプリが使われた。

スマホユーザーの80%が参加しないと……
米国では、咳をしている人や熱のある人を把握し、屋外でソーシャル・ディスタンスが保たれているかをチェックできるドローンも開発されている。
 
当局はプライバシーなどの問題で追跡ドローンの採用には慎重になっている。つい先日も、導入を検討していたコネチカット州で人権団体から批判が起こり、中止に追い込まれている。ただ民間の遊園地や交通機関などから導入希望があるという。
 
米国のある調査によれば、世界でこうしたアプリのインストールを国民に強制している国としては、中国とインド、そしてトルコが確認されている。
 
これらの追跡アプリは、使う国によって効果が大きく違う。国民にインストールを強制する国のアプリは、プライバシーを無視してデータを集めるため、比較的、効果的に機能している。
 
その一方で、インストールが義務ではない国では、その効果は非常に限定的だと言われている。
英国では、「スマートフォンユーザーの80%が参加して協力しないと追跡アプリは効果がない」との声もある。(中略)

監視がニューノーマルになるコロナ後
それでも、個人の情報が新型コロナ対策という大義のもとに吸い上げられていることは事実である。
 
多くの国が、個人情報は記録しないと主張し、新型コロナが落ち着けば、追跡システムは作動させないとも言っている。だが、それを額面通りに受け止めるべきではないとの声もある。
 
ハーバード大学ケネディ行政大学院教授で国際政治学者のスティーヴン・ウォルトは、米誌『フォーリン・ポリシー』でこんな指摘をしている。

ニューノーマル(新しい常態)に向けて準備をしたほうがいい。政治的なご都合主義と、今後の新たなパンデミックへの不安によって、多くの政府がいま導入している新しい力をそのまま維持しようとするだろう。旅行に行けば、体温を測られたり、綿棒で鼻の奥の検体を採られたりすると考えたほうがいい。多くの国で、携帯電話をチェックされることにも慣れないといけないし、あなたの写真も撮られるし、位置情報で居場所を追われる。しかも、そうした情報が公衆衛生目的に限らない使い方をされることもあるだろう。コロナ後の世界では、ビッグ・ブラザー(政府)が監視をすることになるのだ」

「何に怒って何に笑うのか」も把握される
また冒頭のハラリも、さらなる懸念をこう示す。
「いまの焦点は感染症だけである。だがその監視システムには、身体の内部の情報が必要になる。体温や血圧、脈拍などだ。そして監視活動が『皮膚の内側』にまで及ぶと、他の数多くの目的で活用できるようになる」
 
例えば、私たちがどこで何をし、何を見ているかという客観的な情報だけでなく、何を感じているのかという主観的な情報まで取得されるようになっていくという。
「何に怒って何に笑うのかが、把握されていくのです」
 
そうなれば、私たちの政治的な意見や考え方などが監視システムに把握されてしまう可能性もある。
 
中国で習近平国家主席の発言を報じるニュースに、人々がどんな感情を抱いているのかが分かってしまうし、政府に怒りを抱いているとみなされた人は、「矯正」されるかもしれない。
 
現在の技術的進歩を考えれば、そう遠くない未来にそういったテクノロジーは現実になるだろう。
これを手にした権力者は、今以上に完全な独裁体制を築くこともできるかもしれない。追跡アプリは、恐ろしい未来への重要な「一歩」になるかもしれない――。そんな見方もある。
 
新型コロナ危機という人命に関わる状況において、人々のプライバシー侵害に対するハードルが下がり、厳しい監視システムを導入する機会を得た国々が、コロナ後にどのような変化を遂げていくのか、注視が必要である。【5月25日 山田敏弘氏 Foresight】
**********************

冒頭の中国における「健康状態を点数化」は“監視活動が『皮膚の内側』にまで及ぶ”状況のかなり近くまで到達しているようにも。

習近平国家主席の発言を報じるニュースにどのように反応したかが記録される・・・それをもとに当局が「要注意」と判断した人物は「矯正センター」に送られ再教育をうける・・・・そんな未来もあるのかも。

中国であり得るなら、他の国でも・・より隠蔽された形で。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

香港  習近平政権による国家安全法により崩壊する「一国二制度」 「移住」の選択も現実味

2020-05-30 22:49:44 | 東アジア

(香港の警察に拘束された抗議デモ参加者(24日)【5月26日 WSJ】 香港の未来は?)

【「一握りの違反者を対象にしているにすぎない」とは言うものの、強権的「一国一制度」の強要】
中国の全国人民代表大会(全人代)で国家安全法を香港に導入することを決定したことは報道のとおり。

今後具体化される法律によって、香港における反中国的抗議行動、香港の独自性を求める言動が厳しく封殺されることになること、また、今回の法制定が香港の頭越しに決定されたということにおいて、「香港人が香港を統治する」との原則の下で維持されてきた「一国二制度」は崩壊し、中国の「一国一制度」に組み込まれることが予想されています。

このまま香港政府に任せていては、民主派勢力の反中国的行動を封じるこの種の法制定は市民の強い反対で出来ないという判断で、業を煮やした習近平政権が香港の実質的直接統治に乗り出したともとれます。

****全人代 香港抑圧に「一国一制度だ」と反発 デモの再燃必至****
(中略)香港に導入される国家安全法では、国家分裂や政権転覆行為、組織的なテロ活動、外国勢力による介入が禁止される見通しだ。制定されれば、1989年の天安門事件の犠牲者を追悼する集会なども恒久的に禁止される可能性がある。(中略)
 
中国は9月に実施予定の立法会(議会)議員選をにらみ、民主派への圧力を強めている。(中略)
 
香港のミニ憲法である基本法は23条で「香港は自ら国家分裂、政府転覆などの行為を禁じる法律を制定しなければならない」と定めている。香港政府は97年の返還後、国家安全条例の制定に向けた動きを進めたが、2003年に50万人規模の反対デモが起き、制定を見送った経緯がある。
 
「返還後、最も争いのある条例を今回のようなやり方(香港の立法会の審議を経ない方式)で立法化するのは香港人を全く尊重していないに等しい」(民主派議員)といった怒りや不満が香港で広がっている。【5月22日 産経】
*****************

****香港の反体制活動規制へ 中国、国家安全法制を採択 米中の対立、先鋭化****
(中略)(全人代)閉幕後、会見した李克強首相は「一国二制度を安定させ、香港の長期的繁栄を維持するものだ」と意義を強調した。
 
香港の憲法にあたる香港基本法23条は、国家の分裂や政権転覆の動きを禁じる法律を「香港政府が自ら制定しなければならない」と定める。だが、2003年に50万人規模の反対デモが起きるなど、香港市民の度重なる反発により現在まで制定に至っていない。
 

決定は、中国も香港の治安維持に責任を有し、立法権限を持つ点を明確にした。23条を骨抜きにし直接統治に乗り出す手法とも取れるが、全人代常務委の王晨副委員長は「昨年の風波(騒動)で国家安全の危機に直面した。憲法に合致する手続きで、一国二制度は揺るがない」と主張した。
 

今後、全人代常務委が立法作業を進めるが、6月に審議が始まれば8月にも可決、成立する可能性がある。香港立法会(議会)による審議の機会はない。

 

香港に適用する法律は、15年に中国本土で制定された「国家安全法」が土台になりそうだ。同法には共産党政権の転覆を図ったり反乱を扇動したりする行為を阻止する規定がある。反政府デモを呼びかけたり外国組織と連携したりすることが処罰対象になる恐れがある。決定は、取り締まりのため中国の政府部門が香港に出先機関を設置できると規定。スパイ行為を監視・摘発する国家安全省などが想定されているとみられる。
 

米国は反発を強め、ポンペオ国務長官は27日の声明で、香港の高度な自治が維持されているとは言えない、との見解を公表。

 

米国が香港に与えてきた貿易やビザ発給に関する優遇措置を見直すかどうかが、米中対立の新たな焦点になりそうだ。通商紛争に端を発した衝突が、台湾問題や新型コロナウイルス対応に加えて香港問題でも先鋭化した格好で、両国の対立は新たな段階を迎えている。【5月29日 朝日】

**********************

 

香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は圧政を敷く権力者の常として、「一握りの違反者のみを対象としている」という説明をしています。

****国家安全法は「一握りの違反者のみ対象」 香港行政長官が擁護****
香港の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は26日、中国政府が制定を目指す「国家安全法」について、「一握りの違反者のみを対象としている」と述べ、同法案により広がった外国企業や投資家の懸念の払拭(ふっしょく)に努めた。
 
中国・全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で「国家安全法」の審議が始まった22日、香港株式市場は2015年以来となる大幅下落となったが、林鄭氏は報道陣に対し、香港の自由が危険にさらされるという懸念は「まったく根拠がない」と指摘。
 
また「自由は保障され、香港の活気のほか、法の支配や司法の独立、人々が享受しているさまざまな権利や自由といった革新的価値はこれからも存在し続ける」と述べた。
 
さらに、同法案は「一握りの違反者を対象にしているにすぎない」とし、「法を順守し、平和を愛する大多数の住民を保護するものだ」と強調した。
 
一方で、中国本土の警察は香港の抗議デモ参加者を逮捕できるようになるのかと記者から質問された際には「それはあなたの思い過ごしだ」と一蹴。「合法的に行われれば」反政府デモは今後も許可されるとしたが、国家安全法の下ではどのような主張が違法と見なされるのかについては明確にしなかった。 【5月26日 AFP】
******************

しかし、“中国外務省の出先機関「駐香港特派員公署」は25日、昨年の香港民主化デモにおける一部の行動について、「本質的にテロリスト」および外国勢力と結託した「トラブルメーカー」であり、国家安全保障に対する「差し迫った危険」だとの認識を示した。”【5月25日 ロイター】という考え方と重ね合わせれば、中国の意向におとなしく従うものは罰せられることはないが、中国の意向に沿わない者は「テロリスト」として弾圧されるという姿が浮かび上がってきます。

こういう批判を許さない体制は、基本的に民主主義とは異なる独裁・強権政治にほかなりません。
今後の厳しい取りまりをうかがわせる動きがすでに見えています。

****中国、国家安全法の下で香港に情報機関設置も=前行政長官****
香港の梁振英・前行政長官は23日、中国が香港版「国家安全法」の下で、植民地時代のような情報機関を設置する可能性があるとの認識を示した。(中略)

同氏は「西側諸国を含め、すべての国には国家の安全を守る法律がある」とし「国家安全保障の法的なギャップを埋めるため、そうした組織が必要となっても不思議ではない」と述べた。

梁氏は、同法について、主に独立に向けた動きやテロを念頭に置いたものだと発言した。【5月25日 ロイター】
*****************

****中国公安当局、香港警察を「全力で指導」…統制強化が鮮明に****
中国公安当局は28日、趙克志国務委員兼公安相の主宰で幹部会議を開き、全国人民代表大会(全人代=国会)が採択した香港に国家安全法制度を導入する方針を「貫徹しなければならない」と強調した。
 
香港の反体制活動の取り締まりを狙った法制度の実施に、中国公安当局が主体的に関与する姿勢を示したものだ。制度導入により設置ができるようになる香港の出先機関の要員として、中国の公安当局者が派遣される可能性が出てきた。
 
会議では、中国政府に対する抗議デモなどに対処して秩序回復にあたる香港警察を「全力で指導し、支持しなければならない」との認識も示され、外交と防衛を除き広範囲に「高度な自治」が認められている香港への統制を強める思惑がさらに鮮明になった。【5月29日 読売】
*******************

【「香港人には2つの選択肢がある。他の国に行くか、残って最後まで戦うかだ」】
こうした動きに香港では激しい反対運動が起きてはいます。
“(民主派を支持する人気の香港紙、蘋果日報「アップルデイリー」)発行人の黎智英(ジミー・ライ)氏は、国家安全法が発表された後にツイッターで、「香港人には2つの選択肢がある。他の国に行くか、残って最後まで戦うかだ。私は最後まで戦う。香港は私の住む場所だ」と述べた。”

しかし、現実問題として、中国本土で進行する今回の動きを香港で阻止することは難しいでしょう。

唯一ありうるとすれば、アメリカの制裁的措置で香港の国際的金融センターとしての地位が失われることを防ぐため、実際の法制定にあたって何らかの譲歩がなされる・・・という可能性ですが、習近平国家主席としては、たとえ香港の国際的地位を失おうが、アメリカの激しい反対に直面しようが・・・と、腹をくくったうえでの今回対応ではないでしょうか。(香港の国際的地位、それを危うくするようなアメリカの措置などについては、話が長くなるので、また別機会に)

すでに米中関係は極度に悪化し、コロナ禍に関して賠償請求すら出ている状況では、今更アメリカの出方に配慮する必要性もなくなった、何を言われようがやりたいようにやる・・・・といった感じなのかも。

戦いの展望が開けない状況では、もう一つの選択肢「他の国に行く」も現実味を増してきます。

****手詰まりの香港 移民熱再び SNS削除の動きも****
中国の全人代で28日、香港市民の基本的人権に制限を加える「国家安全法」を香港に導入する方針が決まったことを受け、香港社会では中国への怒りや生活への不安とともに、手詰まり感が広がっている。台湾などへの移民希望者も急増中だ。
 
2014年の香港民主化運動「雨傘運動」の元リーダーで、政治団体「香港衆志」幹部の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏は同日、記者会見し、「米国の対中制裁として、香港への優遇関税措置が凍結される可能性が高い」と述べ、国際社会による中国への圧力強化に期待を示した。
 
香港からの輸入品に適用されている優遇措置がなくなれば、香港は経済的ダメージを受けることになる。とはいえ、中国側が香港の立法会(議会)を無視して国家安全法を導入しようとする中、香港側にそれを阻止する手立ては他にない。(中略)

最近、若者を中心に市民の間では、VPN(仮想私設網)を利用する動きが広がっている。
 
香港は中国本土と異なり、VPNを使わなくても自由にネットにアクセスできる。しかし中国が国家安全法を香港に導入する方針を明らかにした21日以降、VPNのソフトをダウンロードする件数が一気に増えている。香港メディアによると、21日の件数だけで前日の6倍に増加したという。
 
「香港でも中国本土並みにアクセスが制限されるかもしれないうえ、VPNを使えばプライバシーの保護に有利だからだ」と香港市民の利用者は解説する。
 
フェイスブックなど会員制交流サイト(SNS)上の政治的発言を削除する動きも広がっているという。
 
移民の問い合わせも急増中だ。移民斡旋(あっせん)業者の「環球海外物業・投資移民」では22日以降、電話だけで毎日30件以上の問い合わせがある。普段の7、8割増で「半分以上が台湾を希望している。カナダやオーストラリアも多い」という。【5月28日 産経】
********************

“香港メディアによると、関連議案が全国人民代表大会(全人代)に提出された22日、香港の移民手続きの代行サービス会社には通常の5~6倍の問い合わせが殺到。六つの電話回線が全てふさがった。台湾や米国、カナダなどへの移住相談が多かったという。” 【5月24日 朝日】

【台湾、イギリス 受入れ対応に着手】
「他の国に行く」ということであれば、民族的・文化的にも、また、中国との対決姿勢という点でも、台湾がファーストチョイスでしょう。

台湾側でも受入れ対応に着手しています。

****台湾、香港の活動家に人道援助提供する計画策定へ=蔡総統****
台湾の蔡英文総統は27日、香港で民主化を求めるデモに関与している人々に人道援助を提供するための計画を策定すると表明した。(中略)

蔡総統は記者団に対し、「香港からの友人に人道援助を提供する行動計画を提案する」と述べ、「われわれは、民主主義と自由を求める香港の人々の決意を支持し続ける」と語った。

蔡総統は計画の詳細やタイミングは明らかにしなかったが、対中政策を担当する大陸委員会が計画を主導し、当局の作業部会が宿泊場所や雇用も含め、必要な予算や資源について調整を行うと説明した。

台湾には亡命を求める香港の活動家に適用できる難民法はないが、政治的理由で自由と安全が脅かされている香港市民を支援することは法律で約束している。

蔡総統は、香港からの移民は過去1年間に急増しており、この傾向は続くと当局がみていると明らかにした。【5月27日 ロイター】
********************

****台湾が香港人受け入れへ対策チーム 蔡総統表明「自由と民主主義のために」****
香港で反中活動を禁じる「国家安全法制」の施行が決まったことを受け、台湾の蔡英文総統は29日、政治的理由で移住してくる香港人を受け入れる目的で、政府の対策チームを設置したと表明した。(中略)

香港で国家安全法制が施行されれば、自由や人権が中国本土並みに制限されるとの懸念が出ており、多くの住民が海外移住を検討している。

香港から台湾への移住には専門技術の保有や投資など一定の条件が課されているが、政治的理由による渡航者は台湾の法律に基づき、必要な援助や保護を受けられる。現時点では受け入れ制度が十分に整備されていないことから、対策チームは長期滞在や保護に関する包括的な制度を早急に策定する。
 
近年、香港から台湾への移住者が増えており、台湾政府統計によると、2016年には1086人だったが、19年に1474人となった。(後略)【5月29日 産経】
**********************

香港の旧宗主国イギリスも対応を検討しています。

****英外相、海外市民旅券の香港人に「市民権も」 国家安全法めぐり****
ニク・ラーブ外相は28日、中国が反体制活動を禁じる「香港国家安全法」の導入を停止しない場合、英国海外市民旅券を保有する香港人に対し、英市民権を獲得する道を開く可能性があると述べた。

英国海外市民旅券(BNO)とは、香港がイギリスの植民地だった時代に香港人に対して発行されたもので、イギリス人が保有する旅券とは異なる。

現在、約30万人の香港人がBNOを保有している。BNO保有者は、イギリスにビザなしで最長6カ月間滞在できる。(中略)

ビザなし滞在を延長、将来的な市民権獲得も
ラーブ英外相は、英国海外市民旅券(BNO)をめぐる方針を変更する可能性を明らかにした。
「中国が国家安全法導入という道を進み続け、実際に施行するのであれば、我々はBNO保有者に認めているビザなしでの英国滞在期間を6カ月から12カ月に延長し、就労や就学を申請するために英国へ渡航できるようにするだろう。また、滞在期間はさらなる延長が可能で、それ自体が将来的な英国市民権を獲得する手段を与えることになるだろう」(中略)

市民権の自動的付与を求める声も
一部の下院議員からは、自動的に市民権を付与する方法を求める声が上がっている。下院外交委員会のトム・トゥゲンハート委員長(保守党)は、BNO保有者には自動的にイギリスに居住し就労する権利が与えられるべきだと述べた。

英政府はこれまで、香港のBNO保有者に対し完全な市民権を与えるよう求める声を一蹴してきた。

昨年、香港で10万人以上が完全な市民権を求める請願書に署名した。英政府はこれに対し、英国市民と英連邦市民だけが英国内に居住する権限を持っているとし、BNO保有者への完全な市民権の付与は、香港返還時の中国との合意違反になると説明した。(後略)【5月29日 BBC】
************************

台湾やイギリスへの移住が現実のものとならないように願ってはいますが・・・
また、移住という選択肢があるのは、一定に経済的資力のある人々でしょう。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ  白人警官の黒人への過剰暴力事件は、トランプ大統領のツイートをめぐるバトルへ

2020-05-29 22:25:19 | アメリカ

(米ミネソタ州ミネアポリスで、警官の膝で首を押さえつけられるジョージ・フロイドさん(2020年5月25日撮影)【5月27日 AFP】)

【「黒人であることが、死刑宣告になってはらない」】
アメリカにおける人種問題は今更の話で、特に白人警官の過剰な暴力等によって黒人などが犠牲になる事件が大きな社会問題になったりもします。

そうしたなかでも、今回のケースは酷すぎるのでは・・・という感じが。

****「息ができない…ママ」 警官に首押さえつけられ黒人男性死亡 米****
米ミネソタ州ミネアポリスで26日、警官が手錠をかけられた黒人男性の首を膝で5分以上押さえつけ、男性が死亡する事件が起こった。

これについてミネアポリスのジェイコブ・フレイ市長は「すべての点で間違っている」「黒人であることが、死刑宣告になってはらない」と非難。関与した警官4人を免職にしたと発表した。
 
この様子を捉えた動画が拡散し、警察によるアフリカ系米国人に対する扱いに対し再び激しい非難の声が上がっている。
 
死亡したのは40代とみられるジョージ・フロイドさん。上半身裸のフロイドさんは首を押さえつけられた状態で

「膝が首に。息ができない…ママ、ママ」と懇願していた。通行人が撮影した映像には、フロイドさんの声が徐々に小さくなり、警官らが「起きろ、車に乗れ」と言っても反応しなくなった様子が収められていた。
 
フロイドさんは病院に搬送されたが、死亡が確認された。
 
弁護士によるとフロイドさんは、偽造の疑いで警官に呼び止められたという。弁護士は「この虐待的で過剰かつ非人道的な力の行使が、警官に非暴力な容疑をかけられた一人の人間の命を奪った」と訴えた。
 
警官により黒人男性が窒息死した事件としては、2014年にニューヨークでエリック・ガーナーさん(当時43)が、たばこの違法販売容疑で拘束された際、首を締められ死亡した事件がある。ガーナーさんの死によって、抗議運動「Black Lives Matter(黒人の命も大切)」が全国的に広がった。 【5月27日 AFP】
********************

事件の状況をもう少し詳しく説明する記事によれば・・・

****フロイドさんに何があったのか****
警察の声明によると、偽の20ドル札を使おうとした客がいると商店から通報があった。

警察によると、警官たちは自動車内にいた男性を発見。車から離れるよう命令すると、男性が抵抗したという。その後、「警官たちは容疑者に手錠をかけ、彼の体調に異常が見られることに気づいた」という。

現場で撮影された動画からは、フロイドさんと警察のやりとりがどうやって始まったのかは映っていない。しかし、白人警官1人に膝で首を押さえ付けられたフロイドさんが「息ができない」、「殺さないで」と言っているのが確認できる。

目撃者たちは警官に対し、フロイドさんの首から膝をどけるよう求めた。「鼻血が出ている」、「首から離して」といった声も上がった。

フロイドさんは動かなくなり、ストレッチャーに乗せられて救急車で運ばれたが、その後死亡が確認された。【5月28日 BBC】
********************

事件を起こした警官は懲戒免職にはなりましたが、訴追はされていません。

****黒人男性死亡で抗議デモ、市長は警官の訴追求める 米ミネアポリス****
(中略)
ミネアポリス警察の実力行使に関する方針では、気道をふさがないように容疑者の首を膝で押さえ付けることを警官に認めている。

ミネアポリスのジェイコブ・フレイ市長は、「(警官4人は)懲戒免職となった」、「正しい判断だ」とツイートした。
フレイ氏は、「アメリカで黒人だというだけで、死刑宣告であってはならない。白人警官が黒人男性の首に膝を押し付けるのを、私たちは5分間、目にした。5分間もだ。誰かが助けてくれと言っているなら、本当なら助けなくてはならないはずだ」と述べた。

ミネソタ州選出のエイミー・クロブシャー上院議員(民主党)は、ただちに外部組織が徹底的に捜査するよう求めた。
連邦捜査局(FBI)が捜査に乗り出しており、連邦法違反で訴追する可能性について、州司法当局に報告する方針。

アフリカ系アメリカ人に対する警察の残虐行為の告発は、米各地で起きている。最近はメリーランド州で、男性がパトカーの中で警官に射殺され、大きな注目を集めた。

2014年のガーナーさんの事件では、事件から5年以上たった昨年8月、ガーナーさんの逮捕に関わったニューヨーク市警の警官1人が懲戒免職となった。訴追された人はいない。

BBCのジェシカ・ルッセンホップ記者によると、フロイドさんの事件への対応では、拘束に関与した警官4人が即座に懲戒免職になったことが、何より意外だった。

また、結局は大勢がデモに参加したものの、市当局は速やかに断固とした行動をとることで、パンデミック中に大規模な抗議デモが起きないようにしたかったのだろうと指摘した。

米自由人権協会(ACLU)のペイジ・フェルナンデス氏は、フロイドさんの事件について、「この悲劇的な動画が、警察が黒人の命を奪うことを阻止するための意味ある変化がほとんど起きていないことを物語っている」と述べた。【同上】
********************

【白人女性による差別的事件も】
フロイドさんの事件が報じられた27日には、別の差別的な事件に関する報道も。

****犬をつなぐよう注意した黒人男性を警察に通報、白人女性に非難殺到 米****
米ニューヨークのセントラルパークで野鳥観察をしていた黒人男性に犬をリードでつなぐよう言われた白人女性が、「命の危険がある」として警察に通報する様子を映した動画が拡散し、アフリカ系米国人に対する差別だと非難する声が上がっている。
 
この動画は、通報された黒人男性のクリスチャン・クーパーさんが撮影したもので、ツイッターで3000万回以上視聴されている。
 
25日に女性が犬を散歩させていたのはセントラルパークの野鳥観察スポットで、この周辺では犬はリードでつなぐこととされている。
 
女性は犬を必死にコントロールしながらクーパーさんに近づき、携帯電話を操作しながら「アフリカ系米国人男性が私の命を危険にさらしていると通報してやる」と言い放った。
 
そして女性は緊急通報番号911に電話し、「セントラルパークにアフリカ系米国人男性がいて、私を撮影し、私と犬を脅している」と説明した。
 
この動画が投稿されると、この女性のことをオンラインで特権意識を持った白人女性を表す名前「カレン」と呼ぶなど、ソーシャルメディアでは怒りの声が広がった。
 
ニューヨークのビル・デブラシオ市長はこの女性は「単純明白な人種差別主義者だ」と批判。「女性は男性が黒人だったから警察を呼んだのだ。規則を破っていたのはこの女性だったのに、男性の方が犯罪者だと決めつけた。これがなぜなのか私たちは分かっている。この種の憎悪はわれわれの町では許されるべきものではない」とツイッターに投稿した。
 
問題の女性は資産運用会社フランクリン・テンプルトンに勤務するエイミー・クーパーさん。通報されたクリスチャン・クーパーさんと名字は同じだが、他人。
 
エイミーさんは米テレビ局NBCのインタビューで謝罪をしたが、自分は脅されていると感じたため過剰反応しただけで、人種差別主義者ではないと主張した。「みなさん、特にあの男性とその家族に対して心から謝罪する」とエイミーさんは語った。
 
勤務先であるフランクリン・テンプルトンは26日、調査の結果、問題の従業員を即時解雇したと明らかにした。 【5月27日 AFP】AFPBB News
********************

【抗議行動は一部暴徒化】
フロイドさんの事件への抗議行動は、一部暴徒化する状況にもなっています。

****米警官が拘束の黒人死亡、抗議拡大 一部暴徒化、略奪も****


米中西部ミネソタ州ミネアポリス市で、白人警官が取り押さえた黒人男性を死亡させた25日の事件を受け、この警官を殺人罪に問うよう求める抗議活動が広がっている。

27日夜から28日未明にかけ、デモ隊の一部が商業施設を放火したり略奪したりした。捜査当局は厳正な捜査を行うと強調し、沈静化を図っている。
 
(中略)それでも、抗議活動は止まらず、27日夜には市警分署前に数千人が集まり、警察側が催涙弾を発射するなどの騒ぎになった。デモ隊の一部は暴徒化して近くの商業施設を襲撃。それに絡んだとみられる死者も1人出た。
 
ミネソタ州のティム・ワルツ知事は28日、事件について「正義と公正を求め続けなければならない」などとして抗議に理解を示しつつ、「一部が不法で危険な行いに関与した」と暴徒化した参加者らを非難。治安を保つために州兵を投入する知事令を出した。抗議活動はロサンゼルスやニューヨークなど各地にも広がっている。
 
トランプ大統領は28日、事件の動画を見たとして「本当にひどい。衝撃的な光景だった」などと話した。

司法省は事件の調査に最優先で取り組む方針を表明。抗議する人々の間では警官の起訴に時間がかかっているとの不満も広がるが、地元郡検察のフリーマン検察官は「捜査を正しく進める必要がある。そのために時間を与えてほしい」などと訴えた。
 
米国では、警官の黒人に対する過剰な暴力が各地でかねて問題になっており、今回の事件にも「またか」との受け止めが強い。
 
2014年にはミズーリ州ファーガソンで黒人少年が警官に射殺されたことをきっかけに大規模なデモが発生。ニューヨークでも同年、黒人男性を取り押さえようとした警官が男性の首を後ろから締め上げ、この男性が死亡する事件があった。この事件では警官は不起訴となり、抗議活動が起きていた。【5月29日 朝日】
***********************

ミネソタ州のティム・ウォルツ知事は28日、警察を助けるため州兵を動員したとのことですが、“これまでのところ、ミネアポリスの警察署にも、平和裏に行われたデモでも、州兵の姿は見られない。”【5月29日 ロイター】

【SNSをめぐる大統領とツイッター社のバトルに】
上記記事によれば、トランプ大統領も「本当にひどい。衝撃的な光景だった」と話していたそうですが、より大きな関心は暴徒の方にあるようです。

“トランプ米大統領はツイッターに、ミネアポリスのフレイ市長が事態を収拾できなければ、自身が州兵を送り込んで「すぐに仕事を終わらせる」と投稿した。” 【5月29日 ロイター】

そしてトランプ大統領の暴徒鎮圧を求めるツイートは、「暴力の賛美」と判断され、全く別の問題にも火を付けることにもなっています。

*****ミネソタ州デモ巡るトランプ大統領の投稿、ツイッターが注意喚起****
米ツイッターは、米中西部ミネソタ州・ミネアポリス近郊で黒人容疑者が警官に拘束される際に受けた行為で死亡した事件を受けた激しい抗議活動を巡るトランプ大統領のツイートのひとつについて「暴力を美化している」と注意喚起する表示をつけた。(中略)

トランプ大統領は「悪党らはジョージ・フロイド氏への追悼をおとしめており、許せない。たったいまウォルツ知事と話し、軍は知事を全面支援すると伝えた。われわれは事態を掌握するだろうが、略奪が始まったら発砲が始まる。ありがとう!」とツイートした。

現在、このツイートを読もうとすると、「このツイートは暴力の美化に関するツイッターの規則に違反しています。しかし、ツイッターはアクセス可能にするのが公共の利益と判断しました」という通知が表示され、それをクリックしないと読めない。

ツイッターは、この措置について「人々を暴力行動にかきたてないため」と説明。コメント付きでリツイートはできるが、「いいね」をつけたり、返答、リツイートはできないとしている。

ツイッターは今週、トランプ氏の大統領選郵送投票を巡る投稿に、ファクトチェック(真偽確認)を促す警告マークを表示。トランプ氏はこれに反発し、28日にソーシャルメディア企業の規制強化に向けた大統領令に署名した。【5月29日 ロイター】
************************

トランプ大統領のツイートの翻訳分は【時事】によれば、以下のようにも。
“「これらの悪党は(死亡した黒人男性の)ジョージ・フロイドの名誉を傷つけている。ワルツ州知事とさっき話をして軍は最後まで一緒にいると伝えた。どんな困難でも私たちはコントロールするが、略奪が始まれば、射撃が始まる」”【5月29日 時事】

暴徒化した抗議行動のコントロールを求めるのは当然ですが、「略奪が始まったら発砲が始まる」云々の発言は、トランプ大統領らしいと言えばそれまでですが、およそ民主主義国リーダーの発言とは思えません。

天安門事件を起こすよう国か、麻薬犯罪が疑われる者を超法規的に殺害する国か・・・そんな国の指導者の言い様です。

なお、トランプ大統領は2016年の選挙戦当時、天安門事件について「(中国政府は)暴動を抑え込んだ」と、「暴動」という表現を使用しています。

いずれにしても、28日にソーシャルメディア企業の規制強化に向けた大統領令に署名した直後のツイッター社の判断ですから、今後トランプ大統領が「報復」にでることが予想されます。

****トランプ氏「ソーシャルメディア閉鎖も」、ツイッター警告に反発****
トランプ米大統領は27日、ソーシャルメディア企業を規制もしくは閉鎖するとけん制した。短文投稿サイト運営の米ツイッターが前日、トランプ氏のツイートに初めて、読者にファクトチェック(真偽確認)を促す警告マークを表示したことが背景とみられる。

トランプ大統領はツイッターへの投稿で、明確な証拠を示すことなく、ソーシャルメディア企業の政治的偏向を改めて批判。「共和党はソーシャルメディアプラットフォームが保守派の見解を全面的に封じ込めていると感じている。こうした状況が起こらぬよう、われわれはこれら企業を厳しく規制もしくは閉鎖する」とし、「今すぐ行いを改めるべきだ!」と述べた。

トランプ大統領は前日、郵送投票について「実質的に不正」で「不正選挙」につながるとツイート。郵送投票を採用する州が複数ある中でカリフォルニア州知事だけを取り上げ、攻撃していた。その後、このツイートには青い「!」マークとともに郵送投票に関する真偽確認を促すメッセージが表示された。

クリックすると、ツイッターが集めた郵送投票に関するニュースや情報を掲載したページに移動する。【5月27日 ロイター】
***********************

****SNS投稿への介入阻止=運営会社の免責を制限―米大統領令****
トランプ米大統領は28日、インターネット交流サイト(SNS)への投稿に対する運営側の介入を阻止するための大統領令に署名した。11月の大統領選を控え、自身の主張に対する異論は、信ぴょう性の確認が目的であっても認めない姿勢を鮮明にしたもので、批判の声が出ている。
 
大統領令は、ツイッター社がトランプ氏の投稿を「要事実確認」と注意喚起したことを受けた措置。トランプ氏はホワイトハウスの署名式で「独占企業から言論の自由を守る。彼らは歯止めなき力を持っている」と同社の対応を非難した。【5月29日 時事】 
*********************

ミシガン州の暴徒より、こちらのSNSをめぐるバトルの方が、より大きな問題となりそうです。

事実関係が怪しい(あるいは、明らかにフェイクと思われる)メッセージを垂れ流し、それが注意喚起されるとSNS運営会社を締めあげようとする・・・「日本にとってアメリカは価値観を同じくする国」と言っていいもかのか怪しくなります。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インドが抱える多くの国境問題 中印国境紛争にトランプ大領が仲裁申し出

2020-05-28 23:12:42 | 南アジア(インド)

(ネパールの首都カトマンズで、インドの道路建設に反対するデモ隊(2020年5月11日撮影)【5月20日 AFP】)

【相変わらずのカシミール問題】
インドは周辺国と多くの領有権をめぐる争いを抱えていますが、言うまでもなくその最大の問題はパキスタンとの間で絶えず問題となるカシミールの帰属問題。

インド支配地域における統治は非常に厳しいものがあって、最近でも住民(多くはイスラム教徒)との衝突が伝えられています。

****検問所で男性射殺、抗議のデモ隊 軍と衝突 インド・カシミール****
インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方のインド側で13日、男性が検問所で兵士に射殺された。これを受け、多数のデモ参加者が怒りの声を上げ、印政府軍の兵士らと衝突した。当局と地元住民が明らかにした。
 
インド政府は昨年8月、ヒマラヤ地域にありイスラム教徒が多く住むジャム・カシミール州の自治権を剥奪した。同州では事態の沈静化を図るため夜間外出禁止令が出され、緊張が高まっていた。
 
死亡した男性は、同州の中心都市スリナガル郊外の検問所付近で車を運転していたところ、治安部隊の兵士らに銃撃された。警察は、「疑わしい状況」の中、検問所2か所で止まるよう指示したものの男性が無視したため、兵士らが車に向かって発砲したと述べた。
 
目撃者はAFPに対し、男性は検問所で兵士らの質問に答えるため車から降り、その後車に戻ろうとした際に撃たれたと話している。
 
男性死亡のニュースが広がると、多くの住民が通りに出て反インドデモに参加し、「インドは帰れ!」「自由を我らに!」などと叫んだ。
 
投石する覆面姿のデモ参加者らも見られ、軍はデモ隊を解散させるため催涙弾や散弾を発射した。衝突が激化したことを受け、同地域では携帯電話のサービスも停止された。 【5月14日 AFP
************************

【ネパールとも領土問題激化】
伝統的にインドの影響力が強いネパールとの間でも係争地域があるようです。

****ネパール新地図にインドとの係争地域、領土問題激化必至****
ネパール政府は18日の閣議で、インドとの領有権問題の火種となっている地域を領土に含む新しい地図を発表することを決定した。政府関係者らは、新地図は戦略的に重要な領土を含んでいると述べている。
 
シバ・マヤ・トゥンバーンヘ法務相がAFPに語ったところによると、新地図にはリプレク地域と、カラパニおよびリンピヤドゥラの一部地域が含まれている。

これらの地域一帯は計300平方キロメートル以上の広さで、インドおよび中国と国境を接する重要地域と考えられている。
 
今月に入り、インドが北部ウッタラカンド州でネパールとの係争地であるリプレク峠に至る全長80キロの道路を開通させて以降、ネパール各地では抗議デモが相次いでいる。
 
ネパール側はカリ川に沿って国境を定めた1816年の条約に基づき、リプレク峠の領有権を主張しているが、両国はカリ川の水源について合意していないことから領土問題が生じている。
 
トゥンバーンヘ法務相は新地図の発表と平行し、「ネパールは国境問題を解決するために外交ルートを通じてインドとの対話を始める」と語った。
 
リプレクと隣接するカラパニ地域には1962年のインドと中国による国境紛争以降、インド軍が配備されているが、ネパールはカラパニ地域の領有権を主張している。
 
インドとネパールは両国そろってカラパニ地域とリプレクを自国の政治地図に含めてきたが、ネパールの地図にはこれまでリンピヤドゥラは含まれていなかった。
 
国境問題専門家のブディ・ナラヤン・シュレスタ氏は、「それはネパールが最初に地図を作成した1970年代に論争となった問題だが、その際、リンピヤドゥラ地域はインドとの協議の後に地図に含めるとの決定が下された」と述べる。
 
ネパール側は、インドの新道路建設を「一方的な行為」と非難している。一方、インド側は新道路について、「完全にインドの領土内にある」と主張し続けている。
 
ネパールはこれ以降、カラパニ付近に治安部隊を配備している。
 
インド軍のM・M・ナラバニ陸軍参謀長は15日、ネパールの反応について「どこか他からの要請」を受けているのだろうと述べ、中国の関与をほのめかした。【5月20日 AFP】
***********************

ネパールに対しては近年中国が影響力を拡大していますが、それぞれが親インド、親中国という外交路線が異なる各政党が争う不安定な政治状況のなかで、中国・インドとの関係も揺れ動いています。

2018年2月からは、親中国とされる統一共産党・オリ氏が首相の座にあります。

****ネパール新首相にオリ氏任命=親中派政権誕生へ****
ネパールのバンダリ大統領は15日、昨年11〜12月に実施された下院選(定数275)の結果を受け、統一共産党(UML)のオリ議長(65)を新首相に任命した。

UMLは下院選の選挙戦以降、共産党毛沢東主義派(毛派)と共闘。現在、両党は合併に向けた協議を進めており、親中派とされる両党による新政権が近く誕生する見通し。
 
オリ氏が首相を務めるのは2015〜16年に続き2度目。地元紙カトマンズ・ポストは、下院の任期5年のうち「最初の2年半の首相をオリ氏が、後半を毛派トップのダハル元首相が担う取り決めを両派が結んだ」と報じた。【2018年2月5日 時事】
********************

【中国とも普段に小競り合い】
インドは、その中国とも国境での小競り合いを普段に繰り返しています。

ブータンの東にあるアルナーチャル・ブラデーシュ州は1954年からインドが実効支配していますが、中国も領有権を主張しています。さらに、両国はカシミール地方の東部アクサイチンの領有をめぐって、1962年の中印戦争で直接戦火を交えた経緯もあります(その後アクサイチンは中国が実効支配しているが、インドが領有権を主張している)。 【2017年8月7日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】

更にインドが影響力を有するブータンでも、2017年に道路建設を進める中国と、これを阻止するインドの間でにらみ合いがあって、国際的にも注目されました。

****ブータンを挟んで対峙する中国とインド:「幸せの国」は戦場になるか****
ブータンといえば、ヒマラヤに位置する小国でありながら、国民の97パーセントが「幸せ」と答える「世界一幸せな国」として知られます。その国家運営は、国内総生産(GDP)に代表される経済水準より、国民の幸福に注目した国民総幸福量(GNH)に重点を置いたものです。 
 
しかし、その「幸せの国」をめぐり、中国とインドの両軍がにらみ合う事態となっています。 

8月3日、中国政府はブータンと中国の国境付近のドクラム(Doklam:中国名洞朗)高原にインド軍が兵舎を建設していると指摘し、「地域の緊張を高めている」として即時撤退を要求。

これに対して、インド政府は「ブータン領内に中国軍が不法に侵入している」と非難したうえで、「外交を通じた中国への働きかけを続ける」と述べながらも、中国側の要求に応じる気配をみせていません。 
 
インド政府高官によると、両軍それぞれ300名ほどの兵士が、150メートルほどしか離れていない位置にあるといいます。 
 中
国とインドは、いずれも10億人以上の人口を抱え、急速な経済成長を経た大国であるだけでなく、ともに核保有国でもあります。両国がブータンをめぐって対立する状況は、膨張する中国と、それに危機感をつのらせるインドの間の摩擦を象徴するものといえます。(後略)【2017年8月7日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】
********************

こうして見てくると、インドの国境は問題地域ばかりで、その関係国はパキスタン、中国、ネパール、ブータン。
どこで火を噴いてもおかしくない状況です。というか、小競り合いが日常化しているとも。

【トランプ大統領が中印国境紛争を“仲介や仲裁をする用意と意志がある”】
最近でも中国・インドの間で小競り合いがあったようで、中国との対立を深めるアメリカがインドに肩入れする形で中国を批判しています。

****中印が国境で小競り合い、米が中国を非難****
米国は20日、中国とインドの国境で発生した小規模な衝突について、現状変更に向けて利用しているとして中国を非難し、インドに抵抗を促した。
 
アリス・ウェルズ国務次官補代行(南・中央アジア担当)は、ヒマラヤ地域の小競り合いの増加を、領土紛争が絶えない南シナ海で中国が長年にわたり影響力を強めてきたことになぞらえた。
 
ウェルズ氏は米シンクタンク、大西洋評議会に対し、「中国による侵害が言葉の上だけのものという思い違いをしている人がいれば、インドと話す必要があると思う」「南シナ海に目を向ければ、中国の作戦行動のやり方が分かる。それは規範と現状の変更に向けた絶え間ない侵害、絶え間ない試みだ」「これには抵抗しなければならない」と述べた。
 
中国は、インドが支配する領域約9万平方キロに対する領有権を主張している。
 
国務省からの退職を控えるウェルズ氏は、米国はインド側の主張を支持すると改めて表明し、中国とインドの両政府に対し、問題を外交的に解決するよう促した。 【5月21日 AFP】
**********************

中国を批判するだけでなく、トランプ大統領が中印国境紛争を“仲介や仲裁をする用意と意志がある”とのこと。

****トランプ米大統領、中印国境紛争に「仲介の用意」と申し出****
トランプ米大統領は27日、中国とインドに対し「激しい国境紛争を巡り、米政府には仲介や仲裁をする用意と意志があると伝えた」とツイッターへの投稿で明らかにした。

山間部の国境地帯では最近、両国の兵士による衝突が起きている。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗し、インドが国境地帯で道路や空港の建設に動いていることが引き金になっているという。

トランプ大統領は1月にもカシミール問題を巡るインドとパキスタンの情勢について必要なら支援する用意があると表明している。【5月27日 ロイター】
**********************

もっとも、明らかにインド側に肩入れする姿勢を示していながら、仲介・仲裁と言われても、中国が応じるはずもないとは思いますが。

トランプ大統領は、1月にはインド・パキスタンのカシミール問題についても「支援する用意がある」と発言しています。

****印パのカシミール問題、米に支援の用意=トランプ大統領****
トランプ米大統領は、カシミール問題を巡るインドとパキスタンの情勢について「極めて緊密に」注視していると述べ、必要なら支援する用意があると語った。ただ、どのように支援するかは言及しなかった。

トランプ大統領は、世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)の合間に予定されているパキスタンのカーン首相との会談を前に、貿易と国境の問題は会談において重要な重要な問題であると述べた。一方、カーン首相はアフガニスタン問題が最優先課題だと指摘した。

トランプ大統領は「貿易が極めて重要な問題となる。また、われわれは一部の国境問題についても協力しており、パキスタン・インド間の情勢に関連し、カシミール問題について協議している。可能であれば、支援を行う」と述べた。

その上で「事態を注視しており、極めて緊密に注視している」と述べた。

インドとパキスタンによる過去3回の戦争のうち、2回がカシミールを巡って行われ、同地域での衝突は戦争に発展するリスクをはらんでいる。【1月22日 ロイター】
*********************

「支援」というのがどういう意味合いなのかは知りません。

【過去の経緯・込み入った事情には無頓着なトランプ大統領】
ただ、カシミール問題にしろ、中印国境紛争にしろ、トランプ大統領がどこまで認識しているかは、かなはだ怪しいところで、モディ首相に「あなた方は中国と国境を接しているというわけではないでしょう」と語り、モディ首相および世界を驚かせたことがあります。

****真珠湾訪問「何のため?」 地理歴史にうといトランプ氏浮き彫り、米記者新刊****
ドナルド・トランプ米大統領はインドと中国が国境を接していることを知らず、ハワイの真珠湾を訪問する意味もよく理解していなかった──米紙ワシントン・ポストの記者2人による新著「A Very Stable Genius(非常に安定した天才)」の内容の一部が15日、同紙に掲載され明らかになった。

フィリップ・ラッカー記者とキャロル・レオニグ記者が手掛けた同書は、トランプ氏の気まぐれな振る舞いの数々とともに、基礎的な地理や歴史に対する無知ぶりを浮き彫りにしている。
 
同書によるとトランプ氏は、インドのナレンドラ・モディ首相との会談の席で、「あなた方は中国と国境を接しているというわけではないでしょう」と発言したという。実際にはインドと中国は隣国で、1962年にはヒマラヤ山中の係争地をめぐって紛争も起きている。
 
このトランプ氏の発言と、インドが直面する中国の脅威を否定するような態度を受けて、「モディ氏は驚きに目を見張った」「モディ氏の表情は徐々に、衝撃から懸念へ、そして諦めへと変わっていった」と同書は記している。
 
この首脳会談の後、米国との外交関係から「インドは一歩引いた」とトランプ氏側近の一人は著者らに語ったとされる。(後略)

新著は、「彼(トランプ氏)は時々、危険なほど無知だ」との米ホワイトハウス元上級顧問の言葉も引用している。【1月16日 AFP】
*********************

まあ、そいう過去の経緯に無頓着だからこそ、エルサレムの首都認定みたいな決断もできるのでしょう。
その結果がどうなるかは別問題ですが。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アフガニスタン  タリバンとアフガン政府、交渉に向けての信頼醸成進む 米軍撤退も前倒しで進展

2020-05-27 22:50:39 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタン首都カブールから約50キロ離れたバグラムの米軍基地横にある刑務所から解放され、バスに乗る旧支配勢力タリバンの捕虜ら。アフガニスタン国家保安局提供(2020年5月25日撮影、公開)【5月27日 AFP】)

【3日間の停戦、捕虜解放で進む信頼醸成】
アフガニスタンでは、ガニ大統領とアブドラ氏の政府内対立も両氏が権力分担する形で「一応・当面」解消し、タリバンとの交渉に向けて事態はようやく動き出したようです。

先ずはタリバンからのラマダン明け停戦の発表が。政府側もこれに応じる形で停戦が実現。

****タリバン、3日間限定の停戦を発表…ラマダン明け祝祭で****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは23日、イスラム教の断食月(ラマダン)明けの祝祭に合わせ、24日から3日間限定で政府軍との停戦に応じると発表した。
 
アシュラフ・ガニ大統領は政府軍に対し、タリバンへの攻撃停止を指示した。
 
アフガンでは、今年2月の米国とタリバンの和平合意後も、政府軍とタリバンが激しい戦闘を続けている。【5月24日 読売】
******************

アフガニスタンでは新型コロナウイルスの感染者が約1万人に達する中、政府とタリバンの戦闘が激しさを増していました。

この3日間の期間限定停戦で、そうした戦闘がなくなる訳でもありませんが、両者の信頼醸成には一定に役立つでしょう。

2月末のアメリカ・タリバンの和平合意に基づく捕虜交換が進んでいないことが、タリバン・アフガン政府の交渉の障害となっていましたが、こちらも前進。上記の停戦の影響もあってのことでしょう。

****アフガン大統領、タリバンの捕虜最大2000人解放の手続き開始****
アフガニスタンのアシュラフ・ガニ大統領は24日、同国の旧支配勢力タリバンの捕虜最大2000人の解放に向けた手続きを開始した。

タリバンがイスラム教の断食月「ラマダン」明けの24日から始まった祝祭「イード・アル・フィトル」の3日間停戦すると発表し、予想外のこの提案に善意を示した。
 
ガニ氏はまた、アフガン政府は祝祭中の停戦というタリバンの申し出を受け入れ、タリバンとの和平協議に入る準備があるとも述べた。
 
ガニ氏のセディク・サディキ報道官はツイッターへの投稿で、捕虜を解放する決定は「善意の意思表示」であり、「和平プロセスの成功を確実にするため」に下されたと説明した。これに先立ちガニ氏は同日、タリバン捕虜解放の手続きを加速させると発表していた。
 
2月に署名された米国とタリバンとの合意には、アフガン政府がタリバンの捕虜最大5000人を解放し、タリバン側はアフガン治安部隊約1000人を解放すると定められていた。捕虜交換は、長らく待ち望まれている政府とタリバンの和平交渉に先立つ信頼醸成の動きとみられている。 【5月25日 AFP】
*******************

アフガニスタン政府側は「停戦延長」を求めているようですが、期限が切れた27日現在どうなっているのかは、まだ情報を目にしていません。

****アフガニスタン当局、タリバン捕虜2000人近くを解放 停戦延長を呼び掛け****
アフガニスタン当局は26日、旧支配勢力タリバンの捕虜およそ900人を解放したと発表した。これに先立って別の捕虜約1000人も解放されており、24日に始まったイスラム教の祝祭「イード・アル・フィトル」の3日間停戦するというタリバンの申し出に対し、アフガン政府が約束した捕虜2000人の解放を実行した形だ。
 
19年近く続く紛争で2度目となる今回の歴史的停戦は、アフガニスタンのほぼ全土で守られている。26日は停戦最終日に当たり、アフガン当局はタリバン側に停戦の延長を呼び掛けている。
 
捕虜らは戦場には戻らないとの誓約書に署名したが、解放された捕虜の一人は、外国軍が駐留し続けるのであれば戦闘を続けると話した。
 
解放された捕虜にはそれぞれ、アフガニスタン通貨で約7000円が支給された。捕虜たちは刑務所からバスで首都カブールに到着すると、互いに別れを告げてタクシーに乗って自宅へ帰っていた。
 
タリバンのスハイル・シャヒーン報道官はツイッターに、捕虜900人の解放は「良い進展」だと投稿。タリバンが「著しい」数のアフガニスタン軍兵士を解放するともコメントしたが、時期については明らかにしなかった。
 
アフガニスタン当局は、タリバンが停戦を延長すれば本来3月10日に予定されていた和平交渉も始められるとの期待を示している。
 
米国とタリバンの和平合意にはタリバン捕虜最大5000人の解放とアフガニスタン軍兵士約1000人の解放が規定されており、タリバン側はすでにアフガン軍兵士約300人を解放している。 【5月27日 AFP】AFPBB News
*******************

【前倒しで進む米軍撤退 11月選挙前に完全撤退発表?】
こうした情勢の落ち着きが続けば、トランプ大統領の進める米軍撤退も軌道に乗ってくるでしょう。

****トランプ氏、アフガンの米軍撤収を再度表明 日程は定めず****
トランプ米大統領は26日、アフガニスタンから駐留米軍を完全に撤収させる意向をあらためて示した。ただ、日程は特に定めていないと説明した。

トランプ氏は11月の大統領選に向けた成果として、米軍の完全撤収を目指しているとみられる。

ホワイトハウスでの会見で「(米軍は)19年も駐留している。十分だと思う。望めばわれわれはいつでも撤収できる」と語った。

11月26日の感謝祭祝日が撤収時期の目標になるかとの質問に対しては、「日程は設定していない。適切だと判断した時期に撤収する」と説明した。【5月27日 ロイター】
*********************

トランプ大統領にとっては、すべては再選戦略絡みですが、アフガニスタン撤退も。
おそらく11月選挙前に完全撤退を打ち出して、アメリカの最も長く続いた戦争に終止符をうった大統領を強くアピールするつもりなのでしょう。

アメリカは今年2月、タリバンとの合意により、タリバン側が恒久的な停戦について話し合うなどの条件を満たせば駐留部隊を14カ月以内に完全撤退させると表明。1万2000〜3000人の規模を、まず7月までに8600人に削減する方針を示していました。

撤退計画はひと月近く「前倒し」で進んでいるようです。

****米のアフガン駐留部隊縮小、計画を大幅前倒しで達成=当局者****
米とNATO軍の当局者によると、アフガニスタンに駐留する米軍の規模を8600人程度に縮小するとの目標が、6月上旬までに達成される見込みとなった。当局者の1人によると、新型コロナウイルス感染拡大を懸念し、予定よりも早く撤退を進めていたという。

米国と反政府武装勢力タリバンが2月に署名した和平合意では、約1万3000人だった駐留部隊の規模を、7月半ばまでに8600人に縮小し、状況が許せば2021年5月までに完全撤退させることとなっていた。

別の当局筋によると、米国は、必要不可欠でない人員および新型ウイルス感染に対するリスクが高いとみられる人員を早期に撤退させたという。【5月27日 ロイター】
**********************

米軍撤退後のアフガニスタンがどうなるのか、タリバンが新たな政治状況でどのような役割を演じるのか、タリバンが政治参加する場合、個人の権利はどのように守られるのか、特に女性の権利は・・・よくわかりません。

よくわかりませんが、アメリカ有権者はそんなことには興味がないので、トランプ大統領もまた再選に関係ないそんなことには無関心でしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

米ロ、中国 新たな軍拡時代 新START条約失効で核開発競争再燃も

2020-05-26 22:41:59 | 国際情勢

(極超音速の滑空弾頭を迎え撃つ米開発のグライド・ブレイカー(右、想像図)【2月6日 Newsweek】)

【新軍拡時代】
昨年8月の中距離核戦力(INF)全廃条約失効以来、米ロ、中国は新たな軍拡時代に入ったとも言われています。

****米ロ、INF条約失効=対中視野、新軍拡時代入りも-破棄通告から半年****
1987年に米国と旧ソ連が締結した中距離核戦力(INF)全廃条約が2日、失効した。

米国とロシアの間では、新戦略兵器削減条約(新START)延長の議論も深まらず、トランプ米大統領が目指す、ロシアに中国も加えた「21世紀の軍縮」実現のめども立っていない。冷戦末期に構築された核軍縮体制は曲がり角を迎え、新たな軍拡の時代に逆戻りする恐れもある。

INF条約は射程500~5500キロの地上発射型ミサイルの発射実験と製造、保有を禁止した。トランプ政権はロシアが条約に抵触する地上発射型巡航ミサイル「ノバトール9M729」(北大西洋条約機構=NATO=名「SSC8」)を開発し配備したと批判、INF条約の破棄を2月2日に通告した。条約の規定に従い通告から6カ月後に失効することになった。
 
米国家安全保障会議(NSC)のエドモンズ元ロシア部長は「ロシアは長年(米国を)欺いてきた」と非難している。
 
これに対し、ロシアは違反を否定し、逆に米国のミサイル防衛システムが条約に違反していると反論。プーチン大統領は7月3日、条約を停止する法案に署名した。 【2019年8月2日 時事】
***********************

最近、アメリカの「新兵器」に関する発表が2件。
再選に向けて「アメリカ、すごいぞ!」の空気を醸していこうというトランプ大統領の思惑にも沿うものでしょう。

****米大統領、謎の新ミサイルに言及=「17倍速い」と自慢****
トランプ米大統領は15日のホワイトハウスでの会議で、既存兵器の「17倍速い」と主張する新型ミサイルを開発中だと語った。国防総省はトランプ氏の発言について詳細な説明を控えており、波紋を呼んでいる。CNNテレビなどが16日までに伝えた。
 
トランプ氏は「私たちは誰も見たことのない信じられないレベルの兵器を開発している。今ある兵器の17倍速いと聞いた」と誇らしげに語った。

また、中国やロシアの極超音速ミサイル開発に触れて「選択の余地はない。造らなければならない」と強調した。会議にはエスパー国防長官も同席していた。【5月17日 時事】 
*****************

既存兵器の「17倍速い」・・・広告でよく目にする「当社従来品に比べ・・・」のような表現ですが、既存兵器がどのレベルのものなのかは知りません。

極超音速ミサイル開発ではロシアが先行、更に中国も開発しており、アメリカとしてはこれに対応する必要に迫られています。

****ロシアに先を越された極超音速兵器の開発急ぐアメリカ****
<ロシアと中国に音速の5倍で飛ぶ極超音速ミサイル配備で先を越されたアメリカは、極超音速の迎撃を目指すが>

米国防総省は極超音速ミサイルを迎撃できる防衛システムの開発を加速させるため、大手軍事企業と新たな契約を結んだ。軍事力の増強を進めるロシアは既に「あらゆるミサイル防衛網を突破できる」と称する極超音速の新型ミサイルを実戦配備している。

米国防総省の下部機関、防衛先端技術計画局(DARPA)は1月28日、航空宇宙・防衛大手ノースロップ・グラマンが進める「グライド・ブレイカー」開発計画に130億ドルを提供する契約を結んだ。

DARPAによればこの計画は、「極超音速システムに対する防衛技術を開発・実証するため」2018年に始まった。新契約は迎撃能力を獲得するための投資だと、国防総省は述べている。(中略)

極超音速とはマッハ5、つまり音速の5倍以上の速度のこと。中国とロシアは既に極超音速ミサイルの配備を発表しているが、アメリカは攻撃と防衛いずれも極超音速兵器を保有しておらず、開発を急いでいる。

さらに先へ進むロシア
その間にもロシアは攻撃用に加え、防衛のための極超音速兵器も備えていると報道されている。ロシア国営コングロマリット・ロステック傘下のKBPインストルメント・デザイン・ビューローの航空防衛システム部門主任デザイナー、バレリー・スルーギンは1月29日、ロシア国営タス通信に、地対空ミサイルと機関砲を併せ持つ近距離対空防御システム、パーンツィリSに、新たに極超音速性能が加わったと語った。(中略)

スルーギンによれば、パーンツィリは巡航・弾道ミサイルはもちろん、極超音速兵器をも迎撃できる。いずれは対艦用に使うことも可能で、将来的にはより小型のミサイルに搭載してミニドローンを攻撃させることもできるとスルーギンは言う。

ロシアは既に2つの極超音速兵器を実戦配備している。1つは空中発射弾道ミサイルKh-47M2キンジャール、もう1つは最高速度が音速の27倍に達すると言われる極超音速滑空ミサイル、アバンガルドだ。

さらに少なくとももう1つ、潜水艦や艦船から発射できる巡航ミサイル、3M22ジルコンも開発中だ。これら3つはいずれも核搭載可能なシステムだ。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2017年以降毎年、年初に行う年次教書演説で、極超音速兵器に触れ、アメリカが軍縮協定を破棄し、地球規模のミサイル防衛網の構築を進めているため、ロシアはそれに対抗せざるを得ない、と述べてきた。

1月15日に行った今年の年次教書演説では、ロシアの軍備増強は歴史的な局面を迎えたと宣言した。「ソビエト時代も含めて、核ミサイルの開発史上初めて、ロシアは他国を追うのではなく、追われる立場となった。ロシアが既に保有している兵器を、他の主要国はいまだに開発できていない」

ドナルド・トランプ米大統領は今年初めに行った演説で、アメリカは「多くの極超音速兵器」を建造中で、アメリカのミサイルは「大きくて強力で正確で致命的で速い」と豪語した。

だが国防総省の報道官は昨年11月、本誌の取材に、ロシアと中国が極超音速技術の兵器化に踏み切ったため、「戦闘能力の非対称性が生じ、わが国はこれに対処しなければならない立場だ」と明かした。

その言葉どおり、国防総省は12月に極超音速の空対地ミサイル、AGM-183A 空中発射型迅速対応兵器の開発でロッキード・マーティンに10億ドル近い資金を提供する契約を結んでいる。【2月6日 Newsweek】
***********************

音速の27倍といった「極超音速」兵器が配備されると、防衛システムが何かの異常を検知した場合、これに応戦するか否かの判断猶予時間が非常に限られてきます。人間の判断能力がついていけるのかどうか・・・そこらも心配です。

もう1件のアメリカ新兵器はアニメなどではお馴染みの「レーザー兵器」
音速の27倍以上、光の速さの兵器です。

****米海軍、太平洋で新型レーザー兵器の実験成功 無人機を破壊****
米海軍太平洋艦隊は22日、飛行中の航空機も破壊出来る高エネルギー性能の新たなレーザー兵器の実験を艦船が実施し、成功したとの声明を発表した。(中略)

この兵器の性能は明かしていない。ただ、英シンクタンク「国際戦略研究所」は2018年の報告書で、出力は150キロワットとしていた。(中略)

米海軍は、レーザー兵器は無人機や小型武装艦艇に対する防御で効果的で有り得るとも指摘した。

CNNは2017年、中東のペルシャ湾上で米海軍水陸両用輸送船「ポンス」に乗船し、30キロワットの出力を持つレーザー兵器の実射訓練を取材したことがある。

レーザー兵器担当将校は当時、レーザー兵器の仕組みについて「大量の光量子を接近してくる物体に浴びせる」と説明。「風の影響や相手との間の距離を含め懸念する材料はない。光の速さで標的に対応出来る」と続けていた。【5月23日 CNN】
**********************

【米、オープンスカイ(領空開放)条約の脱退をロシアに通告】
軍拡を競う米ロ、更には中国・・・そうした状況を受けて、アメリカ・トランプ大統領はロシアを強くけん制しています。

****米、領空開放条約の脱退を通告 ロシアが違反と主張*****
トランプ米政権は22日、偵察機による領空での相互監視活動を認めたオープンスカイ(領空開放)条約の脱退をロシアに通告した。インタファクス通信によると、ロシアのリャプコフ外務次官が在モスクワの米国大使館から脱退手続きを開始したとの正式な通告を受けたと述べた。6カ月後に有効となる。
 
米政権は21日の脱退方針表明の際に、ロシアの違反が理由だと主張して具体例を列挙し、条約にとどまる利益がないとして判断を正当化している。
 
軍事面での透明性や相互信頼の低下が懸念される。トランプ大統領は復帰の可能性も示唆しており、米ロ交渉も焦点となる。【5月22日 共同】
**********************

オープンスカイ(領空開放)条約は、非武装の偵察機が相互の領域内の軍事活動や施設に対する監視・偵察飛行の実施を認め、互いの軍事活動の透明性を高めることを目的に、1992年に調印されたもので、30カ国以上が加盟しています。

ロシアは「ロシア側はいかなる違反もしていない」(21日、グルシコ外務次官)と反論しています。

ロシア・グルシコ外務次官は、アメリカが同条約から脱退すれば、中距離核戦力(INF)全廃条約の失効に続いて「欧州の軍事安全保障システムへのさらなる打撃となる」と指摘、「米国の同盟国の利益も損なう」と訴えています。【5月22日 時事より】 

その「米国の同盟国」である欧州各国は、今回のアメリカの脱退方針を「遺憾」として再考を求めています。

****欧州、米脱退表明「残念」=EU外相は再考求める―領空開放条約****
独仏伊など欧州11カ国は22日、トランプ米政権による領空開放(オープンスカイズ)条約脱退表明に対し「残念だ」と遺憾を示す共同声明を発表した。欧州・大西洋の安全保障における条約の重要性を訴え、「われわれは条約を履行し続ける」と強調した。
 
11カ国はいずれも条約締約国。声明ではロシアの条約違反への米国の懸念は「共有する」と指摘。「ロシアに(飛行)制限解除を求め続ける」とも述べた。
 
また欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)も22日、米国の脱退表明は「残念だ」とする声明を発表。「脱退は別の締約国の履行問題に対する解決策にはならない」と語り、米国に再考を求めた。
 
一方、北大西洋条約機構(NATO)は同日、大使級の会議で対応を協議した。事務総長は声明で「選択的な履行は条約を傷つけた」とロシアを非難。米国を条約に残留させるため、ロシアに早期順守を働き掛ける方針を示した。【5月23日 時事】
**********************

【新START条約失効で核開発競争再燃の道も】
中距離核戦力(INF)全廃条約の失効、新兵器開発競争、オープンスカイ(領空開放)条約の脱退というアメリカ・トランプ政権の強気・対決姿勢の先には・・・

****トランプ政権、核実験の再開を議論…米紙報道****
米紙ワシントン・ポスト(電子版)は22日、米政府高官らの話として、トランプ政権が1992年以来となる核爆発を伴う核実験の実施について協議したと報じた。政権内には、核実験の実施が、ロシアや中国との核軍縮交渉に有利になるとの考え方があるという。
 
記事によると、安全保障を担当する高官の会議が今月15日に開かれ、核実験実施の是非が話し合われた。参加者間で意見の相違が大きく、会議では結論に至らなかったという。関係者の一人は「他の手段で中露の脅威に対抗し、核実験の再開は回避することが最終的に決まった」と話したとしている。
 
米国は、96年の国連総会で採択された核実験全面禁止条約(CTBT)を批准していない。ただ、条約の精神を尊重し、他の主要核保有国と共に爆発を伴う核実験は凍結してきた。
 
一方、米政府は、批准国のロシアが近年、爆発力を抑えた低出力の核実験を秘密裏に実施しているとして非難している。中国についても、核実験場で「高水準の活動」がみられるなどと指摘している。
 
トランプ政権は中露に対する抑止力を高めるため、核戦力の増強を進めているが、核軍拡競争につながるとの懸念も出ている。【5月23日 時事】
**********************

“核実験の実施が、ロシアや中国との核軍縮交渉に有利になる”かどうかは、判然としません。際限のない核開発競争に逆戻りする危険性もあります。

ただ、トランプ大統領の交渉戦術の“好み”としては、核実験の実施で強気の圧力を相手にかける・・・という方法でしょう。

視野に入れている核軍縮交渉は、来年2月に失効する新戦略核兵器削減条約(新START条約)に関する交渉。
トランプ大統領としては、現在条約外でフリーハンドの立場にある中国を巻き込んで新たな枠組みをつくりたいところですが、現在のところは進展していません。中国にはメリットのない話ですから。

****求められる米ロの新START条約延長と中国の核軍備管理体制への組み込み****
2010年に米ロが署名した新戦略核兵器削減条約(新START条約)は、期限延長の措置が執られない限り、来年2月に失効することになる。

新START条約は、米ロ両国が保有し得る核弾頭数の上限を1550個、運搬手段の上限を700個と定め、それ以前に比べると、核弾頭数は3分の1削減され、運搬手段は半分以下に削減されたことになる。
 
もし新START条約が無くなるようなことがあれば、核競争が復活しかねないとして、憂慮する声が高まっている。

例えば、ロシアのアントノフ駐米大使(元国防副大臣)とゴッテモラー米元軍備管理・国際安全保障担当国務副長官は連名で、Foreign Affairs誌(電子版)に‘Keeping Peace in the Nuclear Age’と題する論説を4月29日付けで寄稿、新START条約は延長されるべきであると言っている。

論説は「もし条約が延長されない場合には、2021年は予測不能の時代の始まりとなるだろう。米ロ両国の相手の戦略核兵器能力の理解は減り、信頼は急速に失われるだろう。米ロは相手の理解が減るにつれ、最悪のシナリオに備えた計画を立てざるを得なくなるだろう。通信手段と透明性が減るにつれ、偶発的な核の使用のリスクが高まり、危機が核戦争にエスカレートする機会が増えるだろう」と述べ、強い危機感を示している。
 
新START条約は、米ロ両国の核弾頭と運搬手段(ICBMとSLBM搭載のミサイルと戦略爆撃機)の数を大幅に削減するとともに、細かい検証の体制を作った。

両国の検証チームは相手国の核弾頭と運搬手段につき頻繁に現地査察を行うとともに、特定日にミサイルと核弾頭がどのように展開されているかにつきデータを交換してきた。

このように、米ロ両国が相手に対し、自国の戦略核兵器の手の内をすべて知らせることにより、米ロの戦略核兵器についての透明性と予見可能性が確保され、相互の信頼性が高まり、戦略核兵器についての米ロの関係は極めて安定的なものとなった。

これは言ってみれば模範的な軍備管理体制であり、この体制を続けることは、米ロ両国の安全保障にとってのみならず、世界の平和と安定にとっても重要である。
 
ロシアはいち早く新START条約の期限延長に賛成している。(中略)

しかし、トランプ政権は新START条約に中国を含めるべきであると考えているようである。2月に国務省が議会に送った報告によれば、トランプ政権は米国の核の安全が重要課題で、条約の期限が単純延長されれば、その間中国の核能力が増大することが懸念されるとしている。

ポンペオ国長官は昨年12月10日、記者会見で新START条約につき「世界の戦略的安定に影響を及ぼす全ての当事者を対象にすべきだ」と述べたと報じられた。これは明らかに中国を念頭に置いての発言である。
 
核軍縮に中国を含めるべきであるというのは、一般論としてはその通りである。しかし、新START条約に中国を参加させるべきであるという議論は別の話である。
 
まず、中国の戦略核能力はまだ米ロに比べ限定的である。中国は現在300の核弾頭を持っていると見られているが、新START条約で米ロが保有し得る核弾頭は1550である。中国が持っている戦略ミサイルは128基と言われるが、米国は新START条約の下で640基を保有している。1つの条約で規制するには釣り合いが取れない。
 
何よりも、中国には条約に加盟するメリットがなく、中国には条約に加盟するインセンティブがない。

米ロは相手が戦略核を制限することに大きなメリットを見出したのであり、それだからこそ新START条約に賛成した。

トランプ政権は条約への中国の参加を求めているが、中国の参加の代償を払う気配はない。中国から見れば条約への参加は義務のみを負うものである。中国外務省の報道官は2月、中国は米ロとの軍縮討議に参加する意図はないと述べたと報じられている。

トランプ政権が新START条約への中国の参加に固執すれば、条約の期限までに合意が得られず、条約が失効する恐れがあるが、失効だけは何としてでも避けるべきである。
 
他方、中国を核軍備管理体制に組み込む必要があることも論をまたない。そのためには新START条約とは別のフォーラムを検討すべきだろう。【5月25日 WEDGE】
*******************

昨今の米中対立の激化からすれば、中国を含んだ枠組みというのは当分は見込めそうになく、そこにこだわれば「失効」、そして核開発競争という道も現実のものとなってきます。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新型コロナによる経済混乱に拍車をかける東アフリカなどのバッタ「蝗害」 深刻な食糧危機に

2020-05-25 23:10:33 | 食糧・飢餓

(【5月18日 NATIONAL GEOGRAPHIC】)

【バッタ「第2波」 より大規模に】
「第2波」襲来といえば新型コロナの話のようですが、今回は「バッタ」の話。

東アフリカを中心とするサバクトビバッタ大発生の「蝗害」については、以前も取り上げたことがあります。
(3月8日ブログ“バッタによる「蝗害」 東アフリカから南アジアに拡大 70年に一度の危機 コロナとバッタで混乱拡大”)

数千万匹~数百億匹ものバッタの「蝗害」は、全ての作物を食べつくして人々を飢餓に追いやる、新型コロナ以上の脅威となります。2019年後半から年初の「第1波」に続いて、当時からすでに予想されていたように、今「第2波」が起きています。しかもより大規模に。

****アフリカでバッタ大量発生の第2波、食料不足の危機****
「この…大群は…恐ろしい」
 
アルバート・レマスラニ氏は4月、アフリカ、ケニア北部で息を弾ませながらこう言った。レマスラニ氏は自身を撮影した動画のなかで、サバクトビバッタの群れをはたきながら歩いている。体長5センチ余りのサバクトビバッタは厚い雲のように同氏を取り囲み、1万組のトランプが一斉に切られているかのような羽音を立てる。

「数百万匹はいます。あちこちで…食べています…悪夢が現実になったような光景です」。レマスラニ氏はうめくように語った。

最大2500万人が食料不足に
レマスラニ氏(40)はケニア中部の村オルドニイロに家族と暮らし、ヤギの世話をしている。ヤギたちは低木や高木を食べて生きている。

レマスラニ氏は地元の言い伝えでしかサバクトビバッタを知らなかった。ところが2020年、食欲旺盛なサバクトビバッタの大群が数十年来の規模で東アフリカに押し寄せた。
 
サバクトビバッタは底なし沼のような食欲の持ち主で、農業に壊滅的な被害をもたらす恐れがある。成虫は自身の体重と同じ量の植物を1日で食べることができる。サバクトビバッタの体重は約2グラムだ。

群れはニューヨークを埋め尽くしても余りある規模の700億匹に達することもあり、その場合、約13万6000トンもの作物が1日で失われる計算になる。もっと小さな4000万匹の群れでも、3万5000人分の1日の食料に匹敵する量の植物を1日で食べてしまう。
 
今回の大量発生は、エチオピアとソマリアでは過去25年、ケニアでは過去70年で最悪の規模となっている。

一帯は作物の生育期を迎えており、新型コロナウイルスの影響で対策が難航している間に、サバクトビバッタの群れは増殖している。国連食糧農業機関(FAO)は、東アフリカの最大2500万人が2020年、食料不足に見舞われると試算している。
 
FAOによれば、エチオピア、ケニア、ソマリア、ジブチ、エリトリアの約1300万人がすでに「深刻な食料不安」に陥っているという。深刻な食料不安とは、丸1日何も食べられないか、食料が底を突いている状況のことだ。
 
レマスラニ氏は「私たちは将来の心配をしています。このような大群が押し寄せれば、家畜を食べさせることができなくなるためです」と語る。農業従事者は作物の心配もしている。「神がバッタを消し去ってくれるよう、私たちは祈りをささげています。新型コロナウイルス感染症と同じくらい恐ろしい存在です」

群生タイプに「変身」 
サバクトビバッタは湿った場所に産卵するため、乾燥地域に大雨が降ると大発生する。植物が近くにある砂地に産卵すれば、幼虫は羽が生え餌を求めて飛び立つまで、そこで生き延びることができる。
 
サバクトビバッタは通常、分散する空間があれば、互いを積極的に避ける。しかし、環境が良好な場合、個体数は3カ月ごとに20倍まで増える。個体数の急増によって密度が高まると、ある行動の変化が誘発される。「孤独相」から社会的な「群生相」に変わり、大群を形成するのだ。(中略)

近年、繁殖と移動の条件はただ良好なだけではない。まさに理想的な条件だ。2018年から2019年にかけて、海水温の異常な上昇と関連づけられているサイクロンがインド洋から次々と上陸し、「何もない一角」と呼ばれるアラビア半島の砂漠が水浸しになった。その後、サバクトビバッタが急増した。(中略) 

2019年6月までに、サバクトビバッタの大群は移動し、紅海を渡ってエチオピアとソマリアに到達。そして、10〜12月に東アフリカで降り続けた異常な大雨に助けられ、南のケニア、ウガンダ、タンザニアまで拡大した。
 
バッタたちが東アフリカに上陸してからは良好な繁殖条件が続いているため、群れはその規模を拡大し続けている。FAOで東アフリカの回復チームを率いるシリル・フェランド氏は「20倍かどうかはわかりませんが、(個体群は)はるかに大きくなっています」と話す。FAOは、サバクトビバッタの状況を世界規模で監視している。 
 
2019年後半、サバクトビバッタの第1波が到来したとき、ほとんどの作物は成熟期に達していたか収穫後だった。しかし、第1波より大規模な現在の「第2世代」は、何よりタイミングが気掛かりだ。 
 
東アフリカでは、主要な作物の生育期が3月中旬ごろに始まる。この時期はバッタの攻撃を特に受けやすいと、慈善団体ファーム・アフリカで農業技術の責任者を務めるアナスタシア・ムバティア氏は言う。「(バッタに)新芽を食べられたら、作物は生育できません。種をもう一度まくしかありません」。しかし、生育に最適な天候はもう終わっているため、2度目の栽培は失敗する可能性が高い。
 
殺虫剤の散布も困難 
バッタの爆発的な増加を食い止めるため、政府はしばしば空中あるいは地上から殺虫剤を散布する。しかし、FAOのフェランド氏は、新型コロナウイルスが世界的に流行しているため、殺虫剤を調達するのが難しいと述べている。

「供給の遅延が発生しています。航空便が世界規模で減少しているため、今は(殺虫剤の在庫)管理が通常と全く違う状況になっています」 

 バッタの大発生をあまり経験したことがないケニアのような場所では、殺虫剤をどこに散布すべきかの判断がさらに難しくなっている。バッタの飛行パターンは主に風によって決まり、1日に約130キロの距離を移動することもある(1988年には、サバクトビバッタがわずか10日間で西アフリカからカリブ海に到達している)。 
 
長距離を高速で移動するバッタの群れを追跡するため、FAOは現地に暮らす人々からの情報を頼りにしている。レマスラニ氏も情報提供者の一人で、1月に自らバッタの大群の追跡を開始した。 

レマスラニ氏は広範な人脈を活用し、バッタの群れを見かけた人から電話をもらうようにしている。電話を受けたらバイクタクシーに乗って群れがいる場所に急行、eLocust3mというモバイルアプリに座標を入力している。

eLocust3mは米ペンシルベニア州立大学のプラントビレッジ・プログラムを主催するデイビッド・ヒューズ氏らがFAOの依頼で開発したアプリ。追跡データは政府と共有され、政府が最善策を判断することになる。(後略)【5月18日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
***********************

【新型コロナ重複で対応はより困難に】
新型コロナ禍と重なったことで、国際支援も滞っています。

“今回、FAOは各国に約1億3800万ドルの資金協力を呼びかけている。少なくとも現状で金額だけ比べると、15年前より規模は小さい。 
 
しかし、今回の場合、タイミングが悪すぎる。ただでさえアフリカの問題は各国の関心を集めにくいが、新型コロナで各国の景気は冷え込んでいる。そのため、寄せられた支援は3月3日段階で5200万ドルにとどまる。 
 
つまり、前回より各国の手が回らない状況は、バッタの大群にとって勢力を広げやすくする要因になる。いわば新型コロナがバッタに手を貸しているともいえる ” 【3月7日 六辻彰二氏 YAHOO!ニュース】

そうした状況に加えて、物理的にも物資輸送がストップする状況で、上記のように“新型コロナウイルスが世界的に流行しているため、殺虫剤を調達するのが難しい”事態にもなっています。

【「新型コロナ」「蝗害」で深刻な食糧危機に 「ウイルスそのものよりも、経済的影響によって多くの人が死ぬ」】
被害は作物を食い荒らされる農家だけの問題ではありません。

農産物供給が減少すれば食糧価格は上昇し、多くの人々が十分な食料を入手することができなくなり「飢餓」が発生します。

更に、新型コロナの感染拡大による経済活動停滞が、こうした食料危機を更に深刻化させることも容易に想像できます。

もともとある貧困、そこにのしかかる新型コロナによる経済混乱、更に東アフリカなどではバッタの「蝗害」も・・・ということで、“ウイルスそのものよりも、経済的影響によって多くの人が死ぬ”ことも危惧されています。


****食料入手に苦しむ人、コロナで倍増か WFPが警鐘****
新型コロナウイルスの感染拡大により、最低限の食料の入手さえ困難になる人が今年は世界で倍増し、2億6500万人に上る可能性がある。国連世界食糧計画(WFP)が21日、そんな内容の報告書を発表した。ビーズリーWFP事務局長は「飢餓パンデミックの瀬戸際にいる」と警鐘を鳴らす。
 
WFPなどが公表した「食料危機に関するグローバル報告書」によると、2019年は、55カ国・地域の1億3500万人が深刻な食料危機に陥っていた。主な理由は紛争(7700万人)や天候(3400万人)、経済危機(2400万人)だった。地域別ではアフリカ(7300万人)、中東・アジア(4300万人)が特に多かった。
 
今年は新型コロナの感染拡大によって各地で経済活動が停滞しており、深刻な食料危機に苦しむ人の激増につながることが懸念されているという。
 
エチオピアやソマリア、ケニアなどの東アフリカ諸国では最近、サバクトビバッタの大量発生により、作物が食い荒らされる被害も広がり、食料問題の深刻化にさらに拍車がかかる可能性がある。
 
21日に国連安全保障理事会の会合に出席したビーズリー氏は「我々が直面しているのは世界規模の健康被害だけでなく、人道的な大惨事だ。ウイルスそのものよりも、経済的影響によって多くの人が死ぬという現実的な危険性がある」と指摘。

安保理がリードする形での停戦の実現のほか、世界各地で1億人に食料や個人用防護具を配布しているWFPへの支援を訴えた。 【4月23日 朝日】
*******************

“安保理がリードする形で”・・・とてもそんな状況にないのは周知のところ。世界をリードすべき米中両国は非難の応酬、責任のなすり合いに終始しており、救済どころではないようです。

バッタの問題はアフリカだけではありません。
バッタは海を越えて移動しますので、パキスタン・インドの南アジアに、更には中国にも。

****アフリカでバッタの大群第2波発生、中国も警戒―仏メディア****
2020年4月29日、仏国際放送局RFIは、東アフリカ地域で大量のバッタが農作物を食い荒らす被害の第2波が発生しており、中国政府も警戒を強めていることを報じた。(中略) 

そして、中国農業科学院植物保護研究所の張沢華(ジャン・ザーホア)研究員が「6月ごろに中国大陸もバッタの高リスク期に入る」との見方を示したことを紹介した上で、国家発展改革委員会、農業農村部、国家糧食・物資儲蓄局など11部門が先日連名で今年の食糧安全性確保に関する通知を出し、新型コロナウイルスの影響で食糧供給が滞り、社会の安定が揺らぐことのないようにするため5つの「重点任務」を打ち出したとしている。 

記事によれば、5つの重点任務は、食糧生産の総合能力強化、栽培面積と生産量の基本的な安定確保、食糧備蓄の安全管理強化、食糧の市場や流通の管理徹底、食糧の緊急対応能力強化となっている。【5月1日 レコードチナ】
********************

食品価格上昇・食糧難が起きると、必ずそれは政治混乱を招きます。
政治混乱は、更なる経済混乱を・・・とスパイラル的に悪化することも。

日本はコロナ禍については“一息”ついたところですが、世界のコロナ禍に伴う食糧難、それに拍車をかける東アフリカなどの「蝗害」による混乱・犠牲はこれから本格化すると見た方がよさそうです。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インドネシア  中国漁船の現代「蟹工船」への反発 保守化・圧政回帰への流れにジョコ大統領は?

2020-05-24 22:33:00 | 東南アジア

(インドネシア人船員の遺体を「海葬」する中国漁船 【5月16日 Share News Japan】)

【中国漁船はインドネシア人船員を酷使する現代「蟹工船」か】
1週間ほど前に目にした記事。

どういう事情かはわからないものの、「一帯一路」を掲げて世界への貢献、地域の安定・平和を口にはするものの、中国の東南アジア諸国蔑視の臭いがプンプンするようにも感じられ、気になっていました。それ以前に、人間性の問題でしょうか。

****中国漁船がインドネシア人船員の遺体を海に投げ入れ****
中国漁船で操業中に亡くなったインドネシア人船員の遺体が海に投げ入れられたとの報道を受け、インドネシア政府は14日、国連人権理事会に「水産業での人権侵害に注視するよう求めた」と発表した。
 
発端は、韓国のテレビ局・MBC(文化放送)による今月5日の報道だった。MBCが入手した映像は太平洋上で3月30日に撮影されたといい、漁船の甲板で男たちがオレンジ色の布に包まれた棺を抱え、海に投げる様子が映っている。
 
この報道についてインドネシアのルトノ外相が7日に開いた会見によると、中国漁船で働いていたインドネシアの男性船員が死亡し、3月に海に投げ入れられた。昨年12月にも同じ船で働いていたインドネシアの船員2人の遺体が、同様に海に沈められた。

3人の死因は不明だが、中国人船長は「いずれも感染症にかかっていたため、他の船員の合意のもとで海葬にした」と説明しているという。(後略)【5月16日 朝日】
*********************

「海葬」と言えば聞こえはいいですが、遺体を海に処分した・・・とも。

この件に関して、東南アジアに詳しい大塚智彦氏が下記のように報じています。やはりインドネシア側で批判の声が広がっているようです。

単に水葬の問題だけでなく、劣悪な労働環境の問題もあって、現代の「蟹工船」のようです。

****中国漁船船員水葬の波紋拡大*****
中国漁船に乗り組んでいたインドネシア人船員が操業中の太平洋で病死し、その遺体が海に投棄された「水葬」事件は、その後別の中国漁船でも同様の事案が発生していたことなどが新たに判明した。

こうした事態を受けてインドネシア政府は中国政府に抗議して真相解明を求めただけに留まらず、中国漁船に船員を斡旋、派遣していたインドネシアの派遣業者を人身売買容疑で容疑者認定したほか、スイス・ジュネーブにある国連人権理事会(UNHRC)に対して問題提起をするなど中国との2国間関係にとどまらず、国際問題に発展しようとしている。

こうした背景には中国漁船によるインドネシア人乗組員への過酷な環境での労働や人権侵害に抵触するような操業実態が次第に明らかになったことなどにより、国際社会、特に東南アジア各国がより厳しい目を中国に向け始めているという状況もある。

今回の一連の経過は4月27日に韓国南部釜山漁港に寄港した中国漁船3隻の船団から1人のインドネシア人船員が急病で地元病院に急搬送されたが、肺炎の疑いで死亡したことに端を発している。

さらに1隻の漁船で密かにインドネシア人船員が撮影したという動画が韓国の文化放送(MBC)によって放映されて、ネットで拡散された。その映像に対しインドネシアでは衝撃が走った。

その動画には太平洋サモア沖海域で操業中に病死したとされるインドネシア人船員の遺体が入っているとみられるオレンジ色の遺体袋が甲板から中国人の手によって海中に「投棄」される様子が記録されていた。

この動画放映をきっかけに航海中のインドネシア人船員が1日18時間労働、酷い時には30時間連続労働、食事は6時間おきに10から15分、海水ろ過水か海水そのものを飲まされていたなどの過酷を通り越した人権上問題がある中国漁船の労働実態がMBCなどの取材で次々と明らかになったのだった。(※参考=5月14日「中国漁船、死亡船員を水葬に」)

このためインドネシア外務省は3隻に乗っていた残るインドネシア人14人を即刻帰国させるとともに、5月7日には駐インドネシア中国大使館の肖千大使を外務省に呼んで事実関係の調査報告を求める事態になった。
 
■ ソマリア沖インド洋でも水葬事例
外務省や国家警察などの調査でその後、別の中国漁船に乗り組んでいたインドネシア人船員ハルディヤント氏がアフリカ北東部ソマリア沖で操業中に死亡、遺体は同様に1月23日、海中に投げ込まれて「水葬」されていたことが5月18日に判明した。(中略)

こうしたことから中国漁船に乗り組んで航海中に死亡した場合、海中投棄という方法がこれまでも継続的にとられていた可能性も浮上している。

事態を重視したインドネシア政府は5月16日に中国漁船にインドネシア人を船員として斡旋して派遣していた派遣業3社を立ち入り調査し、書類などを押収、捜査した結果「違法な条件で違法に船員を派遣していたことは人身売買に相当する」として3社とその関係者を容疑者に認定、さらに捜査を継続している。

またインドネシア政府はジュネーブ駐在代表を通じてUNHRCに対して「漁業に従事しているインドネシア船員の人権状況について特に問題を喚起したい」と今後協議を行うよう求めた。

中国側に対しても漁船の所有会社、船長などに対する事情聴取を通じてインドネシア船員との雇用契約が国際的な労働基準に準拠したものであるのか、操業中に死亡したとするインドネシア人船員の死因などに関する詳細な事実関係の究明と報告を求めている。

中国漁船の船長は「死因は感染症で他の船員への感染の恐れがあった」「水葬は家族の了承を得ている」「契約では操業中の死亡は水葬とするとなっている」と韓国の捜査機関などに主張していると伝えらえているが、インドネシア側はいずれの主張も確認できないとしている。
 
■ 東南アジアで横暴ぶり目立つ中国企業
今回は太平洋やインド洋で操業する中国漁船の過酷で非人道的対応が焦点となっているが、東南アジアでは中国企業による地方政府や地元住民とのトラブルが最近特に目立つようになっている。

フィリピンではマニラ首都圏で多数の中国人が観光ビザで入国して本土の中国人を対象にしたオンラインの違法カジノやネット詐欺に従事。中国政府の通報で摘発して強制送還させる事案が続いた。

またカンボジアやラオスなどでは中国企業による賃金不払いや工場からの有害物質による環境破壊や周辺住民の健康被害なども報道されている。

こうした事例は、東南アジア各国に深刻な感染被害をもたらせている新型コロナウイルスが中国・武漢から広がったことや、各国がコロナ対策で必死の最中に中国が領有権問題がある南シナ海に調査船を派遣してベトナムやマレーシアの排他的経済水域(EEZ)内に進入して調査をすることなどから、国際的な反発を招いている。一連の中国の行動、活動は東南アジア地域での対中感情の悪化を招いているといえる。

もっともラオスやカンボジアなどは中国政府の「一帯一路」構想に基づく巨額の経済援助、投資・開発・工場誘致などのため正面切って中国を批判することは控えざるを得ない状況となっており、その深刻な影響は一般国民が負わされる事態となっている。

フィリピン政府も南シナ海の領有権問題を中国との間に抱えながらも経済援助や対米関係とのバランスから硬軟両様を使い分ける外交となっており、こうした東南アジア各国の事情が中国に付け入る隙を与えているとの見方が有力だ。

そうした中、やはり親中国といわれるインドネシアのジョコ・ウィドド大統領だが、東南アジアで最も感染死者数が多く(5月22日時点で1326人)、感染者数はシンガポールに次いで2番目(同2万796人)というコロナ禍の感染拡大が止まらないことに加えて、3月初旬のインドネシア人初感染まで多くの中国人観光客がインドネシアを自由に訪問していたことなどに対して中国、中国人への国民視線が変化してきているという。

そこに今回のインドネシア人船員への深刻な人権侵害が疑われる事案が明るみに出たことで、インドネシア人の対中感情に微妙な影響を与え始めていることは間違いないといえそうだ。【5月24日 大塚智彦氏 Japan In-depth】
*******************

海外で働く労働者への虐待・人権侵害については、これまでも中東などでの家政婦女性の問題が頻繁に起きています。

【南シナ海で相次ぐ中国漁船の違法操業】
ジョコ大統領個人が親中国というだけでなく、インドネシアを含む東南アジア世界における中国の経済的影響力を考えれば、中国との間でことを荒立てたくないと政治指導者が考えるのは当然の話です。

悪く言えば、そうした状況をかさに着て、南シナ海では中国側には東南アジア諸国を軽視する動きも見られます。

****インドネシア、中国を警戒 南シナ海で漁船相次ぐ違法操業****
インドネシア北端のナトゥナ諸島付近で、2019年末から中国漁船が相次いで違法操業を行い、インドネシア側が警戒を強めている。

政府は19年12月に正式に中国側に抗議したが、その後も中国漁船の姿が目撃されたという。国軍の軍艦や戦闘機が現地に派遣されるなど緊張が高まっている。1月8日に現地視察したジョコ大統領は「ナトゥナは過去も現在もインドネシアで、そこに交渉の余地はない」と強調した。
 
ナトゥナ諸島付近は、インドネシアの排他的経済水域(EEZ)と中国が管轄権を主張する「九段線」の一部が重なっており、これまでも両国がにらみ合ってきた。インドネシア政府によると、19年12月中旬に中国漁船約60隻が中国当局の船に同伴される形でEEZ内で違法操業したとされる。 
 
ジョコ氏は海域で活動する国軍部隊を視察。また中国漁船に不安を募らせる地元の漁業者との面会後、「外国船はEEZを通過することはできるが漁業は認められない。豊かな海洋資源に対する主権を守る」と述べた。 
 
南シナ海での海洋権益を巡っては、フィリピンやベトナムが中国と対立してきたが、インドネシアは従来は中立的な立場だった。

ところが16年ごろからナトゥナ諸島近海で中国漁船の違法操業が相次ぎ問題化。17年には海域の名称を「北ナトゥナ海」にすると発表し、翌年には国軍基地を整備した。 
 
ただ、中国との過度な対立は避けたいのが実情で、地元メディアが1月以降も海域で中国漁船の姿が目撃されたと伝えていたが、ジョコ氏は「インドネシア領海には入っていない」と否定した。 
 
一方、中国外務省の耿爽(こうそう)副報道局長は8日の定例記者会見で、両国に「領土主権の争いはなく、南シナ海の一部海域で海洋権益の主張が重複している」と説明。「我々はインドネシアと引き続き相違点を適切に処理し、両国関係と地域の平和、安定の大局を守ることを望んでいる」と述べた。【1月9日 毎日】 
*********************

しかし、冒頭の「海葬」事件のような話で国民の対中国感情が悪化すれば、ジョコ大統領としても、これまでのようい「穏便に」済ませることも難しくなると思われます。

【保守化、圧政への回帰の流れにジョコ大統領は?】
ジョコ大統領の国内政治における立ち位置に関しては、比較的国民支持は高いものの、与党の実権は党首のメガワティ元大統領が握っており、ときにメガワティ氏らの意向が優先することもある・・・というところ。

そのあたりに関して“数々の衝突が舞台裏で起きている。専門家はジョコ・ウィドド氏が離党する可能性があるとすら見ているぐらいだ。”【下記記事】とも。

現在、インドネシア政治は保守化の傾向を強めています。、ジョコ大統領はこうした動きに必ずしも賛同しないものの、強く抵抗もできないというのが実態でしょう。

今後は、メガワティ党首らの意向によって、圧政のスハルト時代に回帰するような動きも見られるようです。
ジョコ大統領がこの流れに抗することができるのか、それとも流されるのか?

****コロナ禍で加速化するインドネシアの独裁政権回帰****
新型コロナ感染者数と同時に増加する数値
3月初に新型コロナウイルスの第一感染者が確認されてから、2カ月で1万人を突破したインドネシア。現在は世界平均と同等の7%程度に低下したが、4月上旬の致死率9.5%は世界的に見ても高く、その対策は国際社会から批判されている。
 
インドネシア政府は4月3日に新たな保健省令を発効し、自治体が発行するガイドラインに基づく強制性の低い行動制限「大規模社会的制限(PSBB)」を発動した。
 
この実行性担保を目的として、警察長官は翌日に5つの警察内部向け通達文書を発出したが、この中の一つ「サイバー空間での犯罪対応について」に注目が集まっている。政府・大統領への侮辱行為を告発する項目が含まれていたのだ。
 
コロナ禍で政府への侮辱行為の容疑で逮捕された人数は、公開された情報だけでも3名以上。この容疑による身柄の拘束は、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領が着任した2014年7月から2020年3月の新型コロナ流行前の6年間でたった10人程度。ここ2カ月の間に政府のコロナ対応を侮辱したことで逮捕された人数は。明らかに特異に見える。
 
新型コロナ感染者数と同時に増える政府批判の逮捕の裏には、インドネシアで起きている政界でのうねりが透けて見える。(中略)

圧政のスハルト政権、混沌のジョコウィ時代
現在こそ民主国家であり、世界最大規模の2億人近くを巻き込む大統領選挙を5年に一度行うインドネシアだが、かつては「新秩序」という名の独裁政権が32年間も続いており、軍出身のスハルト元大統領が絶対的存在だった。(中略)

公平かつクリーンな政治を標榜し、市民を中心とした大衆主義の色が強い政策を多く打ち出すことで、ジョコ・ウィドド氏はまず地方政治において一躍その名を轟かせた。小さな港町ソロの市長からジャカルタ都知事にまで上り詰めた後、勢いはさらに増した。

都知事就任後わずか2年で、2014年7月の大統領総選挙で華々しく勝利した。今もなおインドネシア政治の舞台で現役を続けている「新秩序」出身の政治家たちとは無縁のジョコ・ウィドド氏は、スハルトの右腕だったプラボウォ氏に圧勝を収めた。

まるでスハルト「新秩序」の続編
ジョコ政権は、まず汚職撲滅の進展で成果を出し始めたように見えた。(中略)しかし、周辺国のフィリピンやマレーシアと比較すると、インドネシアの水準は劣位が続いている。
 
ジョコ・ウィドド氏の大統領着任4年目の2018年は、汚職撲滅委員会(KPK)にとって苦難の絶えない1年だった。(中略)ジョコ・ウィドド大統領は、国民の期待とは裏腹に自身の公約である「汚職撲滅委員会(KPK)強化」を放置していた。
 
言論の自由に関して言えば、ジョコ政権はかえって望ましくない方向に走っている。「新秩序」の勢力に乗っ取られるかのように、就任後早くも言論の自由を制限する兆しを見せた。
 
ジョコ・ウィドド大統領は前大統領任期中に発効された「情報および電子商取引に関する 2008 年度法令第 11 号(UU ITE)」における「名誉棄損」に係る項目の削除案を却下した。この法律では名誉棄損の成立条件が曖昧なため、政府や大企業などによって恣意的に使われかねないと批判の声が殺到していた。(中略)
 
過去の人権問題の解決においても、進展は見られなかった。特にパプア州では、軍人による先住民への圧力が今もなお続いている。さらに、1998年の学生デモ隊への暴力や東ティモールでの人権問題に関わりを持つ容疑者を大臣に抜擢したことも、ジョコ政権に多くの疑問が持たれることにつながった。

国民のさらなる懸念を招く3つの法案
2019年の総選挙で再度出馬したプラボウォに勝ち、ジョコ・ウィドド氏の再選が決定されると、事態はさらに悪化。同年の8月から10月、ジャカルタを中心に数万人の大学生による反対運動が全国で勃発した。きっかけは、3つの問題法案だった。(中略)

ジョコ・ウィドド大統領はこれら法案の策定に関与していなかったと公言し、UU KUHPおよびUU Keamanan Siberへの署名を延期としたが、同内閣の法務・人権大臣が法案策定プロセスに関与していると報道されている。

新内閣は人権よりも経済成長を優先
選挙結果を巡る混乱の中、2019年10月、ジョコ・ウィドド大統領の第二期就任式は行われた。就任演説は、第一期に期待された「クリーンな政治」のメッセージはなく、「経済成長」一色だった。

「汚職撲滅」や「人権問題の解決」「言動の自由の保護」などの言及はなく、他方で「外部環境の変化への対応」「産業育成」「経済成長」が強調された。(中略)

総選挙の対戦相手、かつ最大の野党勢力を率いるプラボウォ氏を防衛大臣に任命したことは国内専門家の懸念を呼んだ。これに加え、プラボウォ氏の政党、Gerindra党の副党院長エディ氏にも同じく大臣の座が与えられた。こうしてGerindra党がジョコ内閣に組み込まれた今では、野党は議席数の1割まで圧倒的に弱くなった。(中略)
 
独裁政権時代に戻ってしまうのか
この疑問のヒントになるのは、ジョコ・ウィドド氏が所属するPDI-P党の党首である元大統領メガワティ氏の演説内容だ。メガワティ氏は2019年8月にバリ島で開催された党総会で、スハルト独裁政権の象徴「国策大綱(GBHN)」復活の必要性を語った。
 
国の長期的な開発計画である「国策大綱(GBHN)」は国民協議会(下院・上院)/国民議会(下院)によって策定される。この場合、国民による直接選挙に大統領の選出を委ねるよりも、両院を通じた「間接選挙」のほうが議会が与しやすい大統領を選ぶことができる。(中略)
 
この動きにはジョコ・ウィドド大統領自身は反対を示しているが、次のインドネシア政権がメガワティ氏の与党が間接選挙で選出する傀儡大統領による独裁政権になる可能性は排除できない。

インドネシアは今、大統領の意思や主張を尊重せず与党PDI-Pが暴走している状態とも見ることができるだろう。(後略)【5月18日 JBpress】
************************

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国・オーストラリア関係 米中対立が飛び火した形で中国による報復的な輸入制限措置へ

2020-05-23 22:59:48 | オセアニア

(中国は豪州産大麦に追加関税を課した(写真は18日、大麦の種植え作業を行う豪ビクトリア州の農家)【5月22日 WSJ】 緑色のものは大型トラクターです。)

 

【豪のコロナ発生源に関する「独立調査」要求に中国激怒 「豪州は中国の靴の裏にくっついたガム」】
オーストラリアが政治的にはアメリカと同盟関係にあるものの、経済的には大きく中国に依存し、米中対立のはざまで微妙な立ち位置にあることは、これまでも時折取り上げてきました。

次世代通信規格「5G」導入を巡っては、情報工作への懸念を深めたオーストラリア当局が中国企業を排除し、中国が不満を示しています。
 
また、オーストラリアと歴史的につながりが深い南太平洋の島嶼国では、中国が巨額の財政支援を通じて影響力を拡大しており、オーストラリアも経済協力の拡大で対抗しようとしており、南シナ海をめぐるアメリカの中国けん制にもオーストラリアは同調しています。

しかし、一方で、最大貿易相手国の中国は、オーストラリアの輸出入額の約4分の1を占める存在です。その中国との関係はオーストラリアにとって死活的に重要です。

そうした微妙な中豪関係ですが、トランプ大統領がコロナ禍の責任転嫁の中国批判を強めるなかで、オーストラリアが中国からの厳しい圧力にさらされる形にもなっています。

素人目には、中国としてはさすがに(本来の敵である)アメリカに対しては慎重に動かざるを得ないものの、オーストラリアに対してなら“うっぷんを晴らすかのように”強硬な姿勢でのぞめる・・・というようにも見えます。

最近の中豪関係のもつれの発端は、5月8日ブログ“新型コロナの武漢ウイルス研究所起源説をめぐる米中の確執 困惑する豪 武漢起源も薄めたい中国”でも取り上げたように、コロナに関するオーストラリアの感染発生源に関する「独立した調査」要求でした。

中国は、このオーストラリアの要求を、アメリカの尻馬に乗ったものとして激しく反発しています。

****豪「感染源の調査が必要」、中国「豪の行動に失望」…対立先鋭化****
新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、オーストラリアと中国の対立が先鋭化している。スコット・モリソン豪首相が、感染源などの調査が必要との考えを示したのに対し、中国が強く反発している。
 
モリソン氏は先週、コロナウイルスの爆発的感染が中国から世界へ広がった経緯について、「独立した調査が必要だ」と述べた。
 
これに対し、駐豪中国大使の成競業氏は、豪州メディアのインタビューに「国民はオーストラリアの行動にいら立ち、失望している」と語った。さらに、事態が悪化すれば中国で豪州産ワインや牛肉の消費が落ち込み、豪州への旅行客や留学生が減るかもしれないと警告した。
 
豪州にとって、中国は輸出額の約3割を占める最大の貿易相手だ。成氏の発言は、経済的報復措置をほのめかしたものとみられる。
 
豪ABC放送によると、サイモン・バーミンガム豪貿易相は28日、「重要な保健分野の政策が、経済的な脅しで変えられることはない」と不快感を示した。【4月28日 読売】
*****************

****豪州は中国の靴の裏にくっついたガム―中国紙編集長****
中国紙・環球時報の胡錫進(フー・シージン)編集長は29日、オーストラリアに対する批判的な発言をしたことについて「後悔していない」との見解を示した。 

胡氏は27日、中国版ツイッター・微博(ウェイボー)で、「オーストラリア政府は最近、米国に追従して中国への非難が行き過ぎている」と批判。「オーストラリアはいつも同じこと(中国に対する非難)をしている。中国の靴の裏にくっついたガムに少し似ていると思う。時にはこすり落とすための石を探さなければならない」と述べた。 (後略)【5月2日 レコードチャイナ】
*********************

オーストラリアは、別にアメリカのお先棒を担いでいる訳ではないと弁解。

****新型コロナ、豪政府が米国の武漢研究所発生説に困惑****
複数の関係筋によると、新型コロナウイルスの発生源を調べる「独立調査」を求めているオーストラリア政府が、米国の対応に困惑している。(中略)

オーストラリアのバーミンガム貿易・観光・投資相は8日、ABCラジオとのインタビューで、独立調査を提案したことで中国との通商関係が悪化するのではないかとの批判に対し「米国の言いなりになって(調査を求めて)いるのではない」と発言。

「オーストラリア政府の一部の主張と米政府の一部の説明には大きな違いがある。オーストラリアは独自の分析、独自の証拠、独自の勧告に基づいて、この問題を世界保健総会に提起する」と述べた。

中国外務省は、独立調査を求める動きを「政治工作」と非難。オーストラリアに対し「イデオロギー的な偏見を捨てる」よう求めている。【5月8日 ロイター】
*********************

中国は、18日から行われたWHO年次総会で、60カ国共同提案に賛同する形で、新型コロナウイルスの発生源などをめぐる国際的な調査による検証を受け入れる姿勢を示しています。(現段階での調査については「時期尚早」としていますが)

このWHOでの調査の話と、オーストラリアが求める「独立調査」は全くの別物というのが中国の立場です。

****新型コロナ調査決議案巡る豪州の主張は「ジョーク」、中国が批判****
在豪中国大使館は、新型コロナウイルスに関する調査を求める世界保健総会(WHA)の決議案が、オーストラリアによる国際調査呼び掛けの正当性を裏付けているとの同国の主張は「ジョークでしかない」と批判した。

同大使館の報道官は電子メールの声明で「WHAで採択されるCOVID─19(新型コロナウイルス感染症)に関する決議案は、オーストラリアの独立した国際調査の呼び掛けとは全く異なる」と指摘。

「WHAの決議案がオーストラリアの呼び掛けの正当性を裏付けていると主張することはジョークでしかない」と一蹴した。【5月19日 ロイター】
*****************

【中国 報復ではないとしながらも、豪からの輸入を制限 「(豪からの)電話に出ない」厳しい対応】
中国は、単なる口先の脅しだけでなく、(独立調査要求への報復ではないとしながらも)現実にオーストラリアからの食肉・大麦輸出に制限をかけています。

****中国、豪州の食肉処理施設4カ所からの輸入を停止****
オーストラリアのバーミンガム貿易・観光・投資相は12日、中国が豪食肉処理場4カ所からの輸入を停止したと明らかにした。

両国の関係は新型コロナウイルスの発生源調査などを巡り悪化しており、主要農産物の輸出に影響が出る可能性が懸念されている。

同相の声明によると、(中略)ラベル表示に問題があったためという。

同相は、キャンベラでの記者会見で「これらの食肉処理施設には数千人の雇用が関連している。さらに多くの農家が畜牛の販売でこれらの施設に依存している」と述べ、中国による輸入停止に失望感を示した。

ただ、オーストラリアが新型コロナの発生源調査を呼び掛けたことを受けた措置ではないと指摘した。
衛生証明書やラベル表示に誤りがあったことが輸入停止の理由だとの通達があったという。

ラベル表示の問題は2017年にこれらの食肉処理場などが数カ月、中国への出荷停止となった際にも指摘されていた。

中国外務省の趙立堅報道官は12日の会見で、輸入停止は、検査・検疫規定の違反があったためで、新型コロナ関連調査を巡る対立とは関係ないと述べた。【5月12日 ロイター】
*********************

****中国、豪州産大麦に5年間の反ダンピング関税-19日発動****
中国は18日、オーストラリア産大麦に対して5年間の反ダンピング(不当廉売)関税を課すと発表した。
  
中国商務省の声明によると、豪州産大麦は19日から73.6%の反ダンピング税と6.9%の反補助金税の対象となる。中国は豪州産大麦の最大の買い手。
  
パンデミック(世界的大流行)となった新型コロナウイルス感染症(COVID19)の発生源に関する独立した調査を豪州が呼び掛けたことで、ここ数週間にわたり豪州と中国との間に緊張が高まっていた。
  
豪州のバーミンガム貿易・観光・投資相は17日、中国が関税を発動する場合は世界貿易機関(WTO)に申し立てを行う考えを示していた。2017年の中国向け大麦輸出は14億豪ドル(約980億円)だった。【5月19日 Bloomberg News】
********************

大麦輸出への高関税の影響については、オーストラリア側の負担が大きいようです。

*******************
オーストラリアの政府関係者はロイターに対し「代替市場は多くない。大麦をサウジアラビアに輸出することは可能だが、中国向けよりも大幅に値引きされるだろう」と述べた。

対照的に、世界トップの大麦輸入国である中国は、フランスやカナダ、アルゼンチンなど主要な生産国からの輸入にシフトできる。【5月18日 ロイター】
*******************

関税そのものもさることながら、注目すべきは中国側の取り付く島もない厳しい対応です。

****豪当局「中国側が電話に出ない」、貿易問題で話し合いできず****
2020年5月18日、観察者網は、中国がオーストラリアからの輸入大麦に反ダンピング税の賦課を発表したことについて、オーストラリアの関係閣僚が「中国が電話に出なかった」と語ったと伝えた。 

中国商務部は18日に公式サイト上で「19日よりオーストラリア産の輸入大麦に反ダンピング税を賦課する」との公告を発表した。18日には中国の鍾山(ジョン・シャン)商務部長がこの件をめぐって「両国間で意思疎通を保っている」とコメントした。 

一方で、オーストラリアのバーミンガム貿易・観光・投資相は17日、豪公共放送ABCに対して「鍾部長との討論を求めたが、受け入れられなかった」と語り、リトルプラウド農業相も「近ごろ、中国の農業部長との通話ができなくなっている。彼らとのコミュニケーションを求めたが、現在直面している難題について討論するチャンスはないと返事をされた」と述べたという。 

中国外交部の趙立堅(ジャオ・リージエン)報道官は、18日の記者会見でこの件について質問を受けた際に「オーストラリアの貿易相が中国と連絡を取りたいのであれば、正規の外交ルートを通じて連絡を取るべき」と回答するとともに、オーストラリア産大麦への反ダンピング税発動は新型コロナウイルスの発生源についてオーストラリアが調査を求めていることへの報復ではなく、「正常な貿易救済調査案件であり、わが国は関連法規や世界貿易機関(WTO)のルールに則って調査を進めている」との姿勢を改めて強調した。【5月19日 レコードチャイナ】
*******************

【「国際貿易における公正な取引相手」としてのイメージを損なう中国】
中国側の“報復ではなく”云々は、日本の韓国に対する輸出制限措置をも連想させます。
中国は、輸入先をオーストラリアからアメリカに切り替えるようです。

オーストラリアとしては、トランプ大統領の対中国批判のとばっちりを受けたような状況なのに、輸出をそのアメリカにもっていかれる・・・という、納得しがたいところでしょう。

アメリカ・トランプ政権は、対中国交渉の「成果」を誇ることにもなるのでしょう。

ただ、こうした貿易制限措置は、長期的・総合的にみた場合、あまり賢明な判断とは言えません。

****習主席がもてあそぶ三角関係、豪州巻き込み複雑化 ****
米中の貿易戦争が豪州にも飛び火
 
恋愛の三角関係というのは、メロドラマやハリウッド作品のお決まりの展開だった。だがここにきて、世界の農産物貿易においても、それが繰り返されている。 
 
中国は18日、豪州産大麦(主にビール醸造に使用される)に80.5%の追加関税を課した。補助金による支援を受けて、不当に廉価で販売されているというのがその理由だ。

その数日前には、中国は豪州産牛肉についても、検査・検疫の要件に違反したとして、輸入を一部禁止している。オーストラリアが新型コロナウイルスの発生源を巡り、徹底した国際調査を求めたことから、豪中関係は悪化の一途をたどっている。 

ここで最も興味深いのが、中国が税関総署ウェブサイトに5月14日掲載した告知で、米国産大麦の購入を許可した点だ。それまで米国産大麦の輸入は認められていなかったが、米中の貿易合意に基づき変更が求められた。 
 
中国は5月初旬に初めて豪州産大麦への関税発動に踏み切る構えを示しており、その数日後のタイミングで米国産大麦の輸入解禁を発表したことを偶然として片付けるのは難しい。

中国が追加関税をちらつかせて以降、豪州産大麦の価格は急落している。オーストラリアは資源の主要輸出国である一方、中国はその最大の買い手であり、購入規模は群を抜く。 

米国にとって、小麦に比べると大麦の輸出は取るに足らない規模だ。だが、この一連の動きから浮かび上がってくるのは、米中の貿易合意がはらむ本質的な矛盾だ。

米国はこれで、大麦の対中輸出を通じて大儲けするかもしれないが、世界の市場は廉価な豪州産大麦であふれることになるだろう。

これまで米国産大麦を購入していたかもしれない国々は、米国産にこだわる理由はなくなる。しかも、米国産大麦のコスト競争力に関して、根本的には何も変わっていない。

米農家が生産を拡大したところに、再び中国の政治的な風向きが変わるようなことがあれば、米農家は行き場のない大麦を大量に抱えることになりかねない。 
 
この状況は中国にとって、米国とその親密な同盟国の1つである豪州との間に摩擦を引き起こすと同時に、「中国を怒らせるな」とのメッセージを送ることで他国をけん制することにもなる。

パンデミック(世界的大流行)の渦中に米中貿易合意の目標がなんとか達成できたとしても、これが米国の利益にどうかなうのかは不透明だ。 
 
その一方で、今回の動きは「国際貿易における公正な取引相手」としての中国のイメージ向上には何らつながらない。

中国は豪マレー・ダーリング盆地の農家に対して灌がいインフラ向けの資金を提供していることは、生産の補助金に当たると主張している。だが、豪貿易相によると、大麦輸出は国内の別の産地からのものが大半を占める。 
 
米中の覇権争いが制御不能に陥った世界の新たな現状において、食糧供給は政争の具の色合いをますます強めている。

国家主義的な主張を唱える政治家は、太平洋の両側で稼ぎを得ている。農家(いずれの国でも)が恩恵を受けているかどうかは、また別の問題だ。【5月22日 WSJ】
*********************

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

タイ  コロナ沈静化でも非常事態継続 政権には反政府行動抑制や風紀引き締めの思惑?

2020-05-22 22:32:33 | 東南アジア

(再開したバンコク・ラチャダー鉄道市場【5月21日 FNN PRIME】)

【新規感染者が1桁かゼロでも非常事態宣言を6月末まで継続】
タイでは新型コロナ感染はほぼ沈静化し、経済活動も徐々に再開されつつあります。

****タイ新規感染、2カ月ぶりゼロ=段階的に経済正常化へ****
タイ保健省は13日、新型コロナウイルスの新たな感染者がゼロだったと発表した。新規感染者が出なかったのは3月9日以来、2カ月ぶり。タイ政府は感染状況を慎重に見極めながら、経済活動を徐々に正常化させる考えだ。
 
13日時点の累積感染者は3017人で、94%の2844人が回復している。保健省当局者は「感染を最初に克服する国の一つになるため、手洗いやマスク着用、人との距離の確保を励行し続けてほしい」と呼び掛けた。【5月13日 時事】 
*****************

*****“インスタ映え”市場が再開 体温検査と消毒で防止策****
タイの首都・バンコク中心部。
日が沈み、徐々にテントに明かりがともってきた。

ここは、“インスタ映え”すると、日本人観光客にも人気のナイトマーケット。
新型コロナウイルスの影響で、一度は姿を消したが、15日に営業を再開した。

入り口では、体温検査と消毒などの感染防止策がとられている。

タイではこの1週間、新たな感染者が連日1桁台に抑えられ、16日の発表では1人もいなかった。
規制の緩和が進む中、17日はデパートも再開予定で、徐々に日常が戻りつつある。【5月16日 FNN PRIME】
********************

しかし、プラユット首相は感染の第2波を招く恐れがあるとの理由で非常事態宣言を6月末まで延長。

****タイ非常事態、来月末まで延長=反政府派は解除要求―新型コロナ*****
タイ政府は22日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、全土に発令している非常事態宣言の期限を今月末から6月末に延長する方針を決めた。反政府派はプラユット首相が非常事態宣言を利用して権限を強化していると訴え、解除を求めている。
 
タイは3月26日に非常事態を宣言し、夜間外出禁止令を出したほか、外国人の入国を禁じた。3月下旬〜4月上旬に100人を超えていた1日当たりの新たな感染者は今月5日以降、1桁かゼロに抑えられている。
 
政府は商業施設の営業再開を認めるなど、今月初めから行動規制を段階的に緩和。6月は緩和対象をさらに広げる予定で、感染の第2波を招く恐れがあるとの理由で宣言の延長を決めた。【5月22日 時事】 
*********************

【反政府行動封じ込めの狙いも 更には風紀引き締めもあるのでは・・・】
“感染の第2波”云々はもちろんわかりますが、 “今月5日以降、1桁かゼロ”という感染状況からすれば、非常事態宣言が解除されるのが普通のように思えます。

解除しないのは、新型コロナ対策ではなく、継続した方が反政府行動を封じ込めるなど、政権に都合がいいからではないか・・・と思われます。おそらくこの点は間違いないでしょう。

更に言えば、単に政治活動だけでなく、社会生活一般についても、“この際”タイの伝統にそぐわないと(軍事政権を実質的に引き継ぐ)プラユット政権が考えるものは一掃してしまおう・・・との思惑もあるのでは・・・

下記のような些細なニュースにも、そんなことを感じてしまいます。

****新型コロナでキスシーンの撮影が禁止に―タイ****
2020年5月20日、中国の映像メディアの梨視頻は「新型コロナウイルス拡散防止のため、タイの文化部がキスシーンの撮影を禁止した。特殊効果とカメラアングルで調整する」と報じた。 

記事によると、新型コロナウイルス感染拡大を防止するため、タイでは殴り合いやキスシーンなどの濃厚接触に関わる芝居の撮影が禁止された。

撮影チームは風通しのよい空間で作業を行い、現場スタッフは50人を超えてはならない。画面に映らないスタッフはマスクを着用し、少なくとも1メートルから2メートルの距離をとらなければならないという。(後略)【5月21日 レコードチャイナ】
******************

感染拡大防止のためキスシーンの撮影を禁じるなら、一般生活におけるキスもセックスも禁止でしょうか?

経済活動は徐々に再開されてはいますが、プラユット首相のお気に召さない夜の産業などは後回しにされるのでは・・・。「風紀引き締め」ですね。

そうした産業に眉をひそめる向きは多々あるかもしれませんが、タイの基幹産業でもある観光業を支えている重要分野であり、何よりも、そういう場で生計を立てている人々は、経済的にも余裕のない貧困層であり、また、社会的に弱者であることも多い人々です。

ナイトライフの再開が先送りされることは、そうした人々の暮らしが立ち行かなくなることを意味します。

****タイの一大産業「ナイトライフ」が苦境に…コロナ直撃の今****
タイのナイトライフ産業に大打撃…現状を取材

東南アジアのタイでは、バーやパブ、クラブといったナイトライフが大きな産業になっています。しかし新型コロナウイルスは、こうした夜の経済を直撃しています。

豊かな自然やビーチ、そして文化遺産…。年間4千万人の外国人が訪問する観光大国・タイ。その魅力は昼だけではありません。

夜になると街の雰囲気は一変し、バーやナイトクラブなどが、街の主役に取って代わります。中でも首都バンコクは世界でも有数のナイトライフが楽しめると評判です。(中略)       

年間6千億円の一大産業…再開はまだ先に
タイのナイトライフエコノミーは、年間で55億ドル=日本円で6千億近くを稼ぎ出しているといわれます。しかし、これらの業種はリスクが高いとして、営業が再び認められるのは早くても6月下旬、それより先になる可能性もあります。

バンコクから2時間離れたリゾート地パタヤも大打撃を受けてました。バーやパブが並ぶ通りは、ほとんどが閉鎖されたまま…再開をあきらめた店も増え始めています。 

トランスジェンダー女性も苦境
市内のとある場所を訪れると…トランスジェンダーの女性たちが支援物資を受け取るために並んでいました。ここはLGBTの人を支援する団体の施設。パタヤに住むLGBTの人の多くは、ショーやパブなどのナイトライフ産業に携わっていて、この危機で仕事を失う人が続出しています。

看護婦:
「生活で感染リスクはありますか?」
プイさん:
「気をつけて生活してます。ずっと家にいて外出してないです」

この日、相談に来てたのは、トランスジェンダー女性のプイさん。プイさんはコロナ危機が起きるまでは「ティファニーズ・ショー」という老舗のニューハーフ・キャバレーで働いていました。

芸歴は19年。コロナ危機の前は、収入は月5万バーツありましたが、仕事が途絶え、今は日々の食事を買うお金にも困っています。

プイさん:
「私はお金持ちじゃなく、田舎から出てきてパタヤで働いているんです。」
「収入がなくて、とても大変です。固定費などは変わらないから。」

商売道具である体のキレを維持するため友人と自宅でエクササイズをするのが日課です。観光産業が戻るのを待つ日々ですが、ショーのお客さんは、外国人がメインのため、再開の見通しは全く立っていません。

プイさん:
「新型コロナで、私の思い描いていたものは、全て変わってしまいました。」
LGBTの支援団体のディレクターによると、パタヤにはおよそ2万人のLGBTがいてその大半が困難に直面しているといいます。

「いまはLGBTの権利や同性婚問題は後回しで、まずは生活が最優先です。」
「感染者が0になっても、パタヤの景気が元に戻るのは、1年はかかるのでは」

厳しい対策が功を奏し、タイの感染者は大きく抑え込まれ、一度は完全に姿を消した人気のナイトマーケットが5月15日、再びバンコクに戻ってきました。
再び活気あるタイの夜が戻ってくる日を多くの人が待ち望んでいます。【5月21日 FNN PRIME】
**********************

タイの伝統的価値観を重んじるプラユット首相が、LGBTやナイトライフ産業で働く人々の生活を気遣うことは・・・まずないでしょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする