孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ  分離壁の“向こう側”には・・・・  “監獄”ガザからの脱出

2009-07-31 21:16:12 | 国際情勢

(分離壁の“向こう側”で遊ぶパレスチナ人の子供達 “flickr”より By severinelaville
http://www.flickr.com/photos/8596531@N07/522980639/)

【拡大する入植地】
パレスチナ情勢は、昨年末から今年1月に行われたイスラエルによるガザ空爆・進攻、その後のイスラエル右派ネタニヤフ政権の誕生、パレスチナ側で続くファタハ・アッバス議長とガザ地区を実効支配するハマスの内部対立・・・こうした情勢で、膠着状態が続いています。

6月17日に行われたクリントン米国務長官とリーベルマンイスラエル外相のワシントンD.C.での会談で、アメリカ側は和平の前提としてパレスチナ自治区へのユダヤ人入植地建設の凍結を強く求めましたが、イスラエル側は断固としてこれを拒否しています。
そうしたなかで、イスラエル入植地は拡大を続けています。

****ヨルダン川西岸のユダヤ人入植者、30万人超える*****
27日付のイスラエル紙ハーレツは、同国の占領下にあるヨルダン川西岸のユダヤ人入植者の人口が30万人を超えたと報じた。人口増加に伴う入植地拡大は、パレスチナとの2国家共存を目指す和平交渉の大きな阻害要因となっている。
同紙によると、西岸の入植者は6月末時点で30万4569人となり、半年間で2.3%増加した。【7月27日 時事】
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【“姿を見えなくてもパレスチナ人は壁の向こうに存在している”】
拡大する入植地とともに現在のヨルダン川西岸の実情を示すのが“分離壁”
「テロリストのイスラエルへの侵入を防ぐため」と称してヨルダン川西岸地区に建設されている“分離壁”(イスラエルとパレスチナの境界に建設されているのはでなく、90%以上がパレスチナの中に侵入してパレスチナ側の土地を奪いながら建設されています。)は、壁建設の中止と徹去を求める国連決議(2003年10月21日)や国際司法裁判所の勧告(2004年7月9 日)が出された後も建設が続けられ、パレスチナ人の土地と生活を分断しています。

その分離壁に関して、イスラエルで放映さているあるCM(携帯電話会社セルコム)が話題になっていることが、8月5日版Newsweek日本語版に紹介されています。
そのCMの概要は・・・イスラエル兵が分離壁に沿って車を走らせている。突然、壁の向こうからサッカーボールが飛んで来る。兵士たちはボールをパスし合った後、壁の向こうに蹴り返す。高さ6mの壁の反対側にいるのはサッカー好きのパレスチナの若者 CMメッセージ「何を求めているかって?ちょっとした楽しみさ」・・・といった内容です。

“このCMがイスラエルで論争を引き起こした。(中略)ヨルダン川西岸に分離壁やフェンスを設置して以来、イスラエル国民は自爆テロから守られていると感じてきた。だがセルコムのCMによって、姿を見えなくてもパレスチナ人は壁の向こうに存在しているし、彼等が平和共存のパートナーになる可能性がることをイスエル人は思い出した。「CMは国民の心を揺さぶり、パレスチナ人が消えることはないと思い知らせた」とイスラエルの国会議員ダニエル・ベンシモンは言う。・・・・”【8月5日版Newsweek日本語版】

もちろん激しい批判もあり、兵士がボールではなく催涙弾を壁の向こうに放り込む映像が動画サイトにアップされたとか。
また、イスラエルのアラブ系住民やパレスチナ人の反応も冷めたもので、「左派は、パレスチナ人に親切にすればうまくいくと言わんばかりだ。イスラエルによる占領という事実から目をそむけている」との声もあるようです。

ガザ侵攻直後というタイミングの問題はあったにせよ、先の総選挙で極右政治家リーベルマンや右派ネタニヤフを強く支持したイスラエル国民がこのCMで“心を揺さぶられた”とは俄かには信じがたいところがあります。
しかし、全ての戦争は“敵”も同じ人間であり、同じように生活があり、同じように家族や恋人がいるという簡単な事実を想像することができないイマジネーションの欠如から起きるものであり、今回CMが分離壁の向こう側で暮らす普通の人々への想像を惹起してくれたのであれば、それは価値があったと思われます。(セルコムの作成意図はわかりませんが。)

【トンネル密輸に依存するガザ地区】
一方、ガザ地区の方は、復興が進んでいません。

****封鎖解けず物資枯渇*****
ガザはイスラム原理主義組織ハマスによる07年6月の武力制圧以降、イスラエル、エジプト両境界を徹底封鎖されてきた。ガザの復興に封鎖解除が不可欠だが、「ハマス排除」をもくろむネタニヤフ・イスラエル政権にその用意はない。アッバス議長率いるパレスチナ自治政府もハマスのガザ支配を断つ力に欠ける。

国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、先月中にガザに運び込まれた物資はトラック計2583台分。ハマス支配前の約2割に過ぎない。物資の大半は食料品で、ガソリンやディーゼル燃料の搬入は病院向けなどの例外を除き、半年以上前から中断したまま。復興作業に必須のセメントも枯渇して、市価は10倍以上に高騰した。ガザ経済は結局、エジプト境界の地下に掘られたトンネル密輸に依存している。

国際社会は3月、約45億ドル(約4500億円)の復興支援を約束したが、ハマスがアッバス議長側と「和解」してガザ情勢を正常化するよう迫り、まだ実際の拠出はしていない。双方は協議を続けているが、権力争いも絡んで一筋縄でいかない。一方、イスラエルはガザに拘束されている自国兵が解放されない限り、封鎖の解除には応じない。ガザ復興はそれぞれの思惑に埋没し、後回しの状態だ。「停戦」後、強硬派のネタニヤフ首相が登場し、中東和平交渉は再開のめどが立っていない。パレスチナ側は、成果の見込めない交渉再開に応じない構えだ。
和平進展に意欲を見せるオバマ米大統領は現在、中東地域の包括和平を念頭に置いた独自案を構想中とされる。パレスチナ政策調査研究センターのハリル・シカキ代表は「米国の関与が事態打開のカギになる」と指摘。「オバマ政権が(イスラエル、パレスチナ双方への)『圧力源』になれるかどうかが試される」と解説した。【7月20日 毎日】
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【監獄からの脱出】
上記記事は、復興が一向に進まないガザ地区から「外の世界」への脱出を渇望する住民が増加している状況、また、査証(ビザ)取得を不法仲介する闇業者が暗躍している状況をも伝えています。

****パレスチナ:停戦半年 「ガザは監獄」募る脱出への思い 不法ビザにすがる住民****
「ビザの入手に重要なのは、その国を訪れる『正当な理由』をいかに見つけるかだ」
ガザ市のビルの一室で、闇業者の一人が打ち明けた。事務所には看板も何もないが、連日、人づてに聞いた客が集まる。以前は仕事にあぶれた若者が大半だったが、「停戦」後は年配者が目立つようになった。最近の来客数は月間約200人に上り、攻撃前の約7倍に急増しているという。

境界を閉ざされたガザは時に、「監獄」に例えられる。外国の病院で治療を受けるなど特別な理由がない限り、住民に越境の自由はない。イスラエル軍の攻撃中、外国籍の保持者が優先的に保護されるのを目の当たりにした。「外国籍は『保険』」(住民)。ビザを取って海外で亡命申請しようという意識が広まった。(中略)
「(欧州連合=EU=の加盟国間を自由に移動できる)シェンゲンビザなら3500ドル。アフリカなら旅券(パスポート)さえ2000ドルで手配できる国もある」。闇業者は料金表を見せ豪語した。

こうした商売が横行する中、代金をだまし取られるケースも続発している。「ガザは政治的、社会的に崩壊した」と公務員の男性(40)は話す。闇業者に3000ドルでビザ入手を依頼したが、渡されたのはパソコンで模造した偽物だった。金を取り戻すことは難しい。彼はそれでも「子供の将来が不安。人間らしい生活をしたいから」と言い、改めて別の業者に接触すると言い切った。(後略)【7月20日 毎日】
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【「たこ揚げ」のギネス世界記録】
暗いニュースが多い中で、少しはほっとする記事も。

****ガザの子ども6000人、たこ揚げギネス記録に挑戦*****
前年末-今年1月の戦闘で荒廃したパレスチナ自治区ガザ地区北部の海岸で30日、6000人以上の子どもたちが「たこ揚げ」のギネス世界記録に挑戦し、貴重な平和な一時を楽しんだ。
イベントは国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)がサマーキャンプ活動の一環として開催したもの。海岸上空には色とりどりのたこ3000枚以上が舞い上がった。世界ギネス協会の審査員は治安上の理由でガザ入りできなかったため、正式認定はまだ。これまでの「同じ場所で一度に揚がるたこの数」世界記録は、2008年にドイツで樹立された710枚という。
UNRWAのサマーキャンプには今年、24万人の子どもたちが参加している。イスラエル軍の大規模な軍事攻撃では子ども300人以上を含む1400人のパレスチナ人が犠牲となり、子どもたちの多くは受けた心の傷を今も癒せずにいる。【7月31日 AFP】
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米中新時代におけるインド  アメリカとの関係強化、印パ関係は相変わらず

2009-07-30 21:37:01 | 国際情勢

(インドの原潜モデルだそうですが、今回進水した「アリハント」(サンスクリット語で「敵を破壊する者」)と同型だかどうかはわかりません。
“flickr”より By Harsha 24/7
http://www.flickr.com/photos/27885460@N03/2993877113/)

【新興経済・軍事大国と貧困・カースト・毛派】
中国と同様に、インドという国も“大きく”かつ“急速に変化し始めた”国であるだけに、整理されていない混沌を内包しているように見えます。
世界経済の中心のひとつに躍り出ようかという経済力と潜在的可能性、ITなど先端技術における先進性の一方で、世界最大の貧困層を抱え、カースト制のような身分制度が強固に残る社会であることは周知のところです。
(7月14日ブログ「インド・ネパール  カースト制克服への取組み 皆番号制と給付金」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090714

また、国際政治のパワー・ゲームにおいてアメリカや中国を牽制する力を発揮する一方で、国内には共産党毛沢東主義派(毛派)が東部州を中心に跋扈し、それらの州では都市部以外は毛派の「領土」となっているとも言われる現状があります。
(5月24日ブログ「インド  IT選挙と毛派の「領土」」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090524

****毛派、異例の首相暗殺警告=非合法化に報復-インド****
インドの極左武装組織、共産党毛沢東主義派(毛派)は21日、東部のジャルカンド州で声明を出し、シン首相と与党国民会議派のガンジー総裁について「(スリランカの反政府勢力に爆殺された)ラジブ・ガンジー(インド元首相)と同じ運命をたどるだろう」と述べ、暗殺を警告した。ロイター通信が伝えた。
インド政府が最近、毛派をテロ組織として非合法化したことに反発、報復を意図したものらしい。毛派が中央政府の要人暗殺の可能性にこれほど強く言及するのは異例。【7月22日 時事】
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この記事で驚いたのは、“インド政府が最近、毛派をテロ組織として非合法化した”という部分、つまり、最近まで毛派は非合法ではなかったという点です。
国際的にその軍事力の増強・近代化が注目を集めていることと、国内では毛派に地元警察さえ怯えて署から出てこない地域が広く存在するという面が、なんともアンバランスに思えます。
「そんな世界が注目するような軍事力があるなら、先ず国内の武装組織を一掃すればよかろうに・・・」と、単純に考えてしまいます。もちろん、それができないのにはそれなりの事情があるのでしょう。

【「G2」米中新時代 米印関係強化】
27,28日にワシントンで行われた「米中戦略・経済対話」は、国際政治の軸がアメリカ・中国の「G2」に移りつつあることを強く世界に印象付けました。
オバマ大統領は開会式演説で「米中関係は21世紀を形成する」と強調、中国の胡錦濤国家主席も開会に合わせ「両国は人類の平和と発展など重要な案件について一緒に責任を負うべきだ」とのメッセージを寄せています。

そうした「G2」・米中新時代において、インドは上述のような混沌を抱えながらも、今まで以上に重要な役割を果たすことになります。
現在は、中国とは同じ新興国として経済・貿易問題や温暖化問題などで共通の立場に立つことも多くありますが、すでにアフリカなどでの資源獲得競争で中国と争っているように、今後はより“ライバル”として、利害が対立することが多くなるのではないかと推察されます。

一方でアメリカとの関係は、核不拡散条約(NPT)の例外を認める形で昨年10月に米印原子力協定が発効して、その関係が次第に強くなってきています。
インドを訪問したクリントン米国務長官とインドのクリシュナ外相は20日、米企業がインドに二つの原子力発電所を建設すると発表しました。アメリカの協力による原発建設が具体的に決まったのは初めてです。
またアメリカの先端兵器の輸出に道を開く協定の締結でも合意し、両国の戦略的関係の強化を印象付けています。

****軍事協定に調印=米国務長官、インド首相と会談*****
インド訪問中のクリントン米国務長官は20日、ニューデリーでシン首相、クリシュナ外相らと会談し、戦略的パートナー関係の強化に向け外相級の「戦略対話」を開始することで合意した。両国は同日、米国からインドへの高性能兵器輸出の管理に関する協定に調印、軍事分野での交流強化に弾みがつきそうだ。
インドは軍の近代化を進める中で、伝統的にロシアへの依存が強かった兵器調達先の多角化を進めている。近く予定している多目的戦闘機126機の調達で、ボーイングとロッキード・マーチンの米企業2社も売却に名乗りを上げているが、戦闘機のような高性能兵器の輸出には、第三国への技術漏えい防止などを念頭に2国間の協定が必要とされている。
インドと米国は2004年に戦略的パートナー関係の構築で合意。08年には核拡散防止条約(NPT)未加盟のインドに、米国から核燃料や原子炉などの売却を可能にする原子力協力協定を締結し、両国の関係は新たな段階に入った。【7月21日 時事】
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インド外交は長く“非同盟”を旗印にしてきましたが、グローバル化、インド自身の存在の巨大化、G2体制における中国との競合・・・というなかで、今後はアメリカとインドが協調しながら中国を牽制するといった場面が多くなるのではないでしょうか。

【建国以来の課題 パキスタン関係】
そのインドは先日初の国産原子力潜水艦の進水式を行っています。

****中パ刺激 軍拡拍車も インド、初の国産原潜 核抑止力強化****
インドが初の国産原子力潜水艦の進水式を行った。弾道ミサイルを搭載できる原潜の保有によって、陸海空からの核戦力を備え、核抑止力を強化することになる。インドは近年、新型戦略原潜の配備を進めるなど海軍戦力を増強する中国に対抗し、海軍の近代化を強く推進しており、原潜の保有もその一環だ。ただ、隣国のパキスタンが早くも、インド洋における軍事バランスを崩すものだと批判するなど、原潜の保有は、地域の安全保障環境と中印パ3カ国の軍事情勢に微妙な変化をもたらす可能性がある。(中略)

(今回進水した原潜)「アリハント」についてパキスタン海軍報道官は27日、「インド洋周辺地域全体の安全保障の枠組みを危険にさらす波乱の第一歩だ」と非難。外務省は「(パキスタンは)自国を防衛し、南アジアの戦略的均衡を維持するため適切な手段を講じるだろう」との報道官声明を発表した。
インドは「先制不使用」を核政策の基本とし、核の保有は抑止力との立場だ。しかし、パキスタンを刺激した原潜の保有は今後、南アジアにおける軍備増強の傾向にさらに拍車をかけそうだ。【7月29日 産経】
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インド外交にとって、カシミール領有問題で対立するパキスタンとの関係が、建国以来の一大問題であり続けています。更に、アフガニスタン・パキスタン戦略の観点から、パキスタンを不安定にしたくないアメリカの思惑も関係してきます。
ムンバイ同時テロで悪化した両国の関係を修復すべく、クリントン米国国務長官の17日の訪印を前にして、インドのシン首相とパキスタンのギラニ首相は16日、非同盟諸国の首脳会議が開かれたエジプト・シャルムエルシェイクで会談しました。
両首相は会談後、共同声明を発表し、昨年11月のムンバイ同時テロ事件後、中断していた高官級定期対話(和平プロセス)の再開で原則合意したことを明らかにしました。
共同声明で両首相は、「テロ対策は包括対話と結びつけるべきでない。インドはすべての懸案事項についてパキスタン側と話し合う用意があると表明した」と発表しています。
テロ事件の扱いとは切り離して、包括対話の再開を地ならしする動きとみられていますが、一方で、インド・シン首相は、記者会見で「ムンバイ同時攻撃の犯人が正当に責任を問われるまで、包括対話を始めることはできない」と述べ、パキスタンが求めている包括和平対話をすぐに再開する可能性を否定しています。
 
なんだか真意がよくわからない共同声明ですが、インド国内では“パキスタンに譲歩した”と不評のようです。

****インド野党 シン首相に集中砲火 共同声明、パキスタンに譲歩*****
インドのシン首相が、パキスタンへの外交姿勢をめぐり野党の批判にさらされている。印パの首相が16日にエジプトで会談した後に発表した共同声明の内容が、パキスタンに譲歩したものだと受け止められているためだ。野党からは「首相はパキスタン陣営に行ってしまった」との声さえあがっている。(中略)

野党は共同声明にある「テロ対策は包括的対話と結び付けられるべきではない」との文言を問題視している。インドは2008年11月のムンバイ同時テロ後、パキスタンとの包括的対話を中断し、同国に、テロに関する情報提供や関与した人物の処罰、パキスタンを拠点とする対印テログループの摘発などを要求してきた。だが、パキスタンの対応は不十分だとの認識だ。
インドは、パキスタン側がテロ対策を施すことを包括的対話の前提としている。にもかかわらず、共同声明がテロ対策と包括的対話を関連付けないとしたことで、29日の本会議で野党は「共同声明は大きな方針転換だ」と批判した。(後略)【7月30日 産経】
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対立する利害を調整するための外交に100%の自国利益を求める批判は、そうした批判が大衆的支持を得やすいこともあって、往々にして外交を機能不全にしてしまいます。
それはともかく、インドは建国時に“異質な”パキスタンと国を分かつ形になって、その関係に苦慮している訳ですが、中国はチベット・ウイグル・モンゴルを内に取り込んで今その対応に同じく苦慮しています。
対外関係は国内問題のように強権的処理はできませんが(行えば戦争です)、“外国との関係”と割り切ってしまえば、対応の仕方もあるように思えます。
国内に対立する集団を抱え込むと、力による一時しのぎが可能なだけに、その分根本的な解決が難しいかもしれません。

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フィリピン  MILFと即時停戦 アロヨ大統領の権力居座りへ強まる反発

2009-07-29 21:22:59 | 国際情勢

(昨年12月10日 フィリピンのスーパースター・ボクシング世界チャンピオンのManny Pacquiaoから、チャンピオンベルトのレプリカを贈られ、にこやかな表情のアロヨ大統領(左)。 そんなに権力にしがみつくような人にも見えませんが・・・
“flickr”より By MICHAEL REY BANIQUET
http://www.flickr.com/photos/michaelbaniquet/3100209776/)

フィリピンのミンダナオ島での反政府勢力との戦闘、および、アロヨ大統領の求心力低下というフィリピン政治事情については、3月29日ブログ「フィリピン 戦闘が続くミンダナオ島 求心力を失うアロヨ大統領」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090329)で取り上げたところですが、今日はその後の状況についてです。

【ミンダナオ島で停戦】
ミンダナオ島では、イスラム教徒の自治拡大を要求する反政府武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)とアロヨ政権の和平交渉が昨年8月に決裂、その後散発的に交戦が続いていました。
政府軍とMILFの戦闘による混乱に伴い、これまで地域の治安を担っていた地元有力者や警察などの力が低下し、リドと呼ばれる一族同士の抗争や、イスラム勢力同士の争いも多発して、避難民が増加。6月時点で、政府発表によると、避難民は3月以降約4万人増え、24万人を超える状況となっていました。【6月2日 毎日より】

7月に入ってからも、「ミンダナオ島のコタバト市中心部の教会近くで5日朝、爆弾が爆発し、少なくとも5人が死亡、約45人が負傷した。」「スルー州ホロ島で7日、教会近くに仕掛けられた爆弾が爆発、少なくとも市民2人が死亡、学生ら20人以上が負傷した。」といった記事が見られました。
前者についてはMILFとの関連、後者については同じくイスラム原理主義過激派、アブサヤフとの関連が報じられています。

ここにきて、ようやくMILFとの即時停戦が23日発表されました。

****フィリピン:MILFと即時停戦を発表****
フィリピン政府は23日、南部ミンダナオ島で続くイスラム反政府組織「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」に対する戦闘を、即時停戦すると発表した。
大統領府のエルミタ官房長官は、「MILFとの和平交渉再開に向け環境を整えるため」とした。また、MILF側が和平交渉再開の条件としている、指名手配中の3人のMILF司令官の追跡の中止について、エルミタ氏は継続するとしている。
MILFの和平交渉団長のイクバル氏は毎日新聞の電話取材に対し、「停戦宣言は歓迎するが、交渉再開時期は現段階では分からない。重要なのは、実際に実行されるかどうかで、3司令官の問題など課題がある」と話した。
政府側とMILFの和平交渉が昨年8月、決裂して以降、国軍とMILFの一部部隊の戦闘が発生。国軍によると双方で約350人が死亡、現在も25万人以上が避難民となっている。 【7月23日 毎日】
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今回停戦については、27日に任期中最後の施政方針演説を行い、30日には訪米してオバマ大統領と会談する予定のアロヨ大統領が、“成果”をアピールするために行った一時的措置で、帰国後、政府軍側が再び挑発行為を繰り返すのではないかと懸念する声もある・・・との報道もあります。【7月25日 毎日】

そのアロヨ大統領については、3月29日ブログでは“政権が絡む汚職疑惑などで大統領の支持率は低迷、「もはや政権末期」、1986年にマルコス独裁政権が倒れてから「最も不人気な大統領」とも言われています。”と記載しましたが、そのあたりは今も変わっていないようです。

【アロヨ包囲網】
10年5月の大統領選で任期(6年)が切れるアロヨ大統領ですが、憲法改正によって議院内閣制を導入し、首相として権力を維持しようとしているとも言われています。
こうした見方に対し、改憲に反対するカトリック教会や、反アロヨグループなどが反発を強めています。

****フィリピン:改憲巡り政局混乱、教会も加わり政権批判展開*****
フィリピンではキリスト教徒が国民の9割を占め、教会の動向が政治に大きな影響力を持っている。(憲法改正を発議する議会の設置を求める)決議案の可決後、キリスト教団体が、真っ先に他の市民団体と共闘して反改憲運動を展開することを発表。国民に大きな影響力を持つカトリック司教協議会や、アキノ元大統領に近いさまざまな団体も相次いで賛同した。また、現職官僚が「政治的混乱を招き、経済に悪影響を与える」と発言するなど、改憲の動きに批判が集中している。

マルコス独裁政権を86年に「ピープルパワー」で倒した陰の立役者の国軍周辺でも、同調する動きがみられる。クーデターを企てたとして06年に身柄拘束されたリム准将が、拘置先から、国軍兵士に運動への参加を呼びかけた。また、元国軍参謀総長のビアゾン上院議員も、現役兵士が運動に参加する可能性を明らかにした。国軍のスポークスマンは8日、「集会に参加した兵士は除隊にする」と、強い姿勢で臨むことを表明したが逆に、軍内部に動揺が広がっていることを示した、との見方も出ている。

アロヨ氏は憲法改正で、大統領制から議会制へ移行させ、首相として権力の座に居座ることをもくろんでいるとされる。8日に公表された民間機関の調査ではアロヨ氏の支持率は26%で、歴代大統領で最低を更新中。アロヨ氏周辺では、汚職疑惑が何度となく持ち上がっており、地元メディアの間では「アロヨ氏は退任後、汚職容疑で逮捕されることを恐れているため、権力の座に執着している」との見方が定説となっている。(後略)【6月9日 毎日】
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6月10日には、マニラ首都圏マカティ市など全国主要都市で10日夜、憲法改正に反対する集会が開かれました。事実上の反アロヨ大統領の集会で、マカティ市では2万人以上が参加しています。
この憲法改正・首相としての居座りに対する批判は今も続いており、アメリカでもワシントン・タイムズが社説で「マルコス独裁政権の手法と似ている」と酷評しています。

****フィリピン:強まる反アロヨ 「改憲で大統領再選」推測*****
フィリピンで憲法改正に反対するグループが連合体を結成し、反アロヨ大統領の動きを強めている。来年5月で任期が切れ、再選が禁じられているアロヨ氏は、改憲で議院内閣制を導入し、首相として権力を維持しようとしていると言われる。今月末のオバマ米大統領との会談を前に、米紙ワシントン・タイムズが社説で「マルコス独裁政権の手法と似ている」と酷評するなど、改憲の動きは国外にも波紋を広げている。

アロヨ氏は27日に行った、任期中最後の施政方針演説で「私は任期の延長を求めたことはない」と発言した。しかし、反アロヨグループは「与党が多数を占める下院に担がれる形を演出してアロヨ氏が改憲を進め、権力の座にしがみつくシナリオを描いている」と指摘する。演説で明確に改憲を否定しなかったことが、不信感を増幅させている。実際、下院では改憲に向けた工作が進んでいる。

反アロヨグループは施政方針演説の当日、約60団体が結集し、1万人規模の決起集会を開催した。大統領選の不正疑惑をきっかけに05年、抗議の辞任をした元閣僚グループやキリスト教系団体、労働団体などからなる連合体を形成し、「高潔」な大統領候補を絞り込んで強力な選挙運動を進める計画だ。

一方、30日にアロヨ氏とオバマ大統領の会談が予定されている米国では、26日付ワシントン・タイムズの社説が、「オバマ 殺菌剤」との見出しで、アロヨ政権が抱える汚職や人権問題などを取り上げ、改憲で延命策を図ろうとしていると指摘した。「ホワイトハウスへの招待は、彼女の問題の多い政治を認めるだけだ」と評し、アロヨ包囲網は国内外で広がりつつある。(後略)【7月28日 毎日】
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アロヨ大統領がそこまでして権力に固執する事情については、「汚職にまみれており、権力を失った途端に逮捕されるのを恐れているからだ。彼女には権力が必要で、権力が彼女に金を与え、権力と金が周囲の人々を従わせている。」(憲法改正に反対する連合体結成の仕掛け人の一人で、アロヨ大統領の下で01年から05年まで社会福祉開発相を務めたコラソン・ソリマン氏(56)の発言)・・・とも言われています。【7月28日 毎日】

ところで、このアロヨ包囲網にはアキノ元大統領に近いグループも参加していますが、そのアキノ元大統領については、結腸がん闘病中で、「神が母に、どれくらい時間を残しているか分からない」(四女で女優のクリス・アキノさん)という状況だそうです。

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イラン  政権内部の保守派に亀裂 最高指導者の権威も失墜

2009-07-28 21:32:17 | 国際情勢

(当局に拘束されたデモ参加者の家族と対面するムサビ元首相(写真中央)
“flickr”より By Hamed Saber
http://www.flickr.com/photos/hamed/3739152840/)

【イランで相次ぐ飛行機墜落事故】
イランでは、15日に北西部のガズビンで、民間航空会社カスピアン航空のロシア製ツポレフ154型機が墜落し、168人が死亡する事故が起きましたが、24日にはイラン北東部マシャドの空港で、テヘラン発の民間航空会社、アリア航空のロシア製イリューシン62型機が着陸に失敗し、少なくとも17人が死亡、約20人が負傷したようです。

ツポレフ154型機は旧ソ連時代の老朽化した機体で、ここ7年の間にイランで3回も墜落しているとか。【7月26日 Newsweek】
イリューシン62型機の方も、相当に古い機種のようです。
ロシア製の古い機種というと、機種自体の安全性能は別にしても、未だにその手の機種を使用している国は整備が充分でない国が多く、あまり乗りたくない機種です。

23年ほど前になりますが、西安から北京への中国国内線を利用した際、離陸まもなく4発のプロペラのうちのひとつが停止して、空港に緊急帰還したことがあります。そのとき別の機体に乗り換えて再出発したのですが、今度はエンジン不調で滑走路を走りまわるだけで離陸できませんでした。
これらの機種は、時代からして多分ソ連製だったのではと思いますが、これも整備の問題でしょう。
中ソ対立の影響が残っていた時代で、部品手当ても充分でなかったのでは。今の中国はそんなことはありませんが、当時はそんな状態でした。
イランも経済制裁で部品等の手当ても充分ではないために、事故のリスクが増大しているのかも。

【大統領 最高指導者の書簡を無視】そのイランのアフマディネジャド政権ですが、改革派の抗議活動を一応押さえ込んだようにも見えるのですが、思いのほか飛行状態は不安定なようです。
アフマディネジャドの縁戚にあたるマシャイ副大統領を12人の副大統領の筆頭に昇格させた人事で、アフマディネジャド大統領に対する保守派内部の批判が噴出して対立があらわになる一方で、最高指導者ハメネイ師の「解任」を命じる書簡が大統領によって数日間無視されるという形で、最高指導者の権威は“墜落”しそうな状態です。

****イラン:人事巡り強硬派内に亀裂 ハメネイ師の威信低下****
先月の大統領選後の混乱が続くイランで、保守強硬派のアフマディネジャド大統領による人事を巡り、身内の強硬派が猛反発している。大統領を支持する最高指導者ハメネイ師の「撤回命令」にも大統領は異例の抵抗を示し、ハメネイ師の面目が丸つぶれになるとともに強硬派内の亀裂が深刻化している。
発端はアフマディネジャド大統領が今月16日、マシャイ副大統領を12人の副大統領の筆頭に昇格させた人事だ。マシャイ氏は昨年、「イスラエル国民はイランの友人」と発言、保守系聖職者から非難を浴びた。反イスラエルは革命体制の「国是」であり、解任騒ぎにもなったが、大統領はイスラエル敵視発言を繰り返しているにもかかわらず、同氏を擁護した。
筆頭副大統領は大統領不在時に代行を担う要職だ。イラン学生通信によると、今回の人事に対し、大統領支持派の多くの政治家や聖職者が反発。国会のアブトラビ・ファルド副議長は21日、マシャイ氏の即時解任を求め、「これは体制の戦略的決定だ」と迫った。
しかし、国営イラン通信によると大統領は「マシャイ氏は革命の忠実なしもべであり、昇格には1000もの理由がある」と反発。22日のファルス通信によると、ハメネイ師も大統領に、書簡で「解任」を命じたが、大統領は「説明する機会が必要だ」と抵抗する姿勢を崩していない。
大統領の息子と副大統領の娘が結婚して両者は親類関係にあり、人事への反発には「身内重用」への批判も込められている。

ハメネイ師は行政、司法、立法の三権を束ね、軍やメディアも統括する最高権威だが、大統領選でアフマディネジャド大統領の再選を承認した判断を巡り、改革派や保守穏健派から、これまでタブーだった「批判」を浴びている。反対派勢力は8月初旬の大統領2期目の就任式ボイコットを呼び掛けており、難しいかじ取りを迫られている。
そうした中、ハメネイ師は身内の強硬派から噴き出したマシャイ氏の解任要求と、大統領の「予期せぬ反抗」の板挟みとなった。保守穏健派系のニュースサイト・アフタブがハメネイ師の「最高指導者」という呼称を侮辱とも受け取れる「指導者」と公然と言い換えるなど威信低下が著しく、体制の屋台骨を揺るがしかねない事態になりつつある。【7月24日 毎日】
毎日新聞 2009年7月24日 22時14分
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この問題は、マシャイ氏が24日に就任辞退を表明し、一応落着しました。
しかし、大統領側の判断は、ハメネイ師が統括している国営テレビがハメネイ師の書簡を公開して大統領に決断を迫ることでようやくなされたもので、約1週間にわたって、大統領支持を鮮明にしていた「最高権威」の意向を大統領が公然と無視していたことになります。

【閣僚辞任で新たな国会信任が必要】
こうした保守強硬派内部の亀裂、最高指導者の権威の失墜という問題は今後のイラン政局に影響するように思われます。
先ずは、その影響は閣僚辞任問題として表面化しています。
大統領は、筆頭副大統領の任命問題で口論となったとされるモホセニエジェイ情報相を解任しましたが、反発するサファルハランディ文化イスラム指導相も辞表を提出、憲法規定で閣僚全員が国会の新たな信任を受ける必要が出てきたと報じられています。

****イラン:情報相解任 文化イスラム指導相辞表で政権は混乱****
イランのアフマディネジャド大統領は26日、モホセニエジェイ情報相を解任した。一方で、サファルハランディ文化イスラム指導相は辞表を提出。これで政権は05年の発足以来、21閣僚のうち過半数の11人が退任したことになり、憲法規定で閣僚全員が国会の新たな信任を受ける必要が出た。政界要人から「政権はもはや非合法だ」との発言が出るなど、政治混乱が高まっている。
メヘル通信は26日、情報、文化イスラム指導、保健、労働・社会問題の4閣僚が解任されたと報じた。その後、大統領府は情報相の解任を発表、他の3閣僚については否定した。2人以上解任すると退任閣僚が過半数となり、国会の信任が必要になると認識し、1人だけの解任にとどめたとみられる。だが、文化イスラム指導相は自ら大統領に辞表を提出し、「私はもう大臣ではない。政権は空白になった」と語った。(後略)【7月27日 毎日】
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アフマディネジャド大統領の2期目の就任式は8月5日に行われると伝えられていますが、就任式に向けて、さらなる混乱も予想される事態となっています。

【相次ぐ拘束者の死亡】
改革派への対応としては、抗議行動参加者が大量に拘束されており、しかも拘束中の死亡者が相次ぎ、その処遇のあり方が問題視されています。

****イラン:元議長が治安機関批判 「シオニストよりひどい」*****
イラン大統領選の不正疑惑に対する抗議活動に絡み、改革派大統領候補だったカルビ元国会議長は25日までに、「治安機関はシオニスト政権(イスラエル)よりひどい」との表現で、暴力的な取り締まりなどを非難した。反イスラエルを国是とするイランの要人が、イスラエルと比べて当局を批判するのは異例だ。
カルビ氏はモホセニエジェイ情報相への書簡をウェブサイト上で公開した。改革派中心の抗議行動への暴力的な取り締まりや、拘置中の逮捕者の扱いを厳しく批判し、「特に女性に街頭で平気で警棒を振るうのは、(イスラエル占領下にある)パレスチナでのシオニストよりひどい」と酷評した。
カルビ氏の発言は、24日、刑務所に拘置中の男性が死亡したとの情報を受けたものだ。大統領選以来約2500人が逮捕され、うち500人以上が今も拘束されているとみられている。(後略)【7月26日 毎日】
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上記記事では、改革派の黒幕とされる保守穏健派の重鎮ラフサンジャニ元大統領の弾圧批判なども紹介されていますが、改革派のヌーリ元内相も、革命で追放された元国王と、アフマディネジャド大統領を支持する最高指導者ハメネイ師を比較し、「(当時の)限定的な闘争が国王追放につながるとは誰も想像しなかった」とウェブ上で述べ、現在の抗議活動も同様の事態の端緒になり得る、との可能性を示唆しているそうです。

25日に続き、26日にも拘束中の抗議活動参加者が更に1名死亡したことがイラン国内で報じられています。
こうした事態に、ハメネイ師は“拘束施設の閉鎖”を命じる形で鎮静化を図ろうとしています。

****デモ参加者の拘束施設閉鎖を=最高指導者が命令-イラン*****
イランのジャリリ最高安全保障委員会事務局長は28日、先月の大統領選後に発生したデモの参加者らが多数拘束されている問題で、最高指導者ハメネイ師が「必要な基準に達していない拘束施設」の閉鎖を命じたことを明らかにした。国営メディアが伝えた。
大統領選をめぐっては、不正があったと訴える改革派候補ムサビ元首相らを支持する大規模デモが起き、当局は最大約2000人のデモ参加者を拘束。現在も300人前後が収監されているもようだ。拘束中にデモ参加者2人が死亡したと報じられるなど体制側の対応に批判が強まっていた。【7月28日 時事】 
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この最高指導者ハメネイ師の指示にアフマディネジャド大統領がどのように対応するのかはまだ報じられていませんが、ここでまたもめるようだと、イラン政権も乱気流に突入することになりかねません。

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中国  望まれる“国際的地位の高まりに見合った国内社会の成熟”

2009-07-27 20:50:29 | 世相

(“flickr”より By mashroms
http://www.flickr.com/photos/mashroms/2385772874/)

【撲殺、乱闘、人身売買・・・】
中国では経済的問題・社会的不公正などをめぐって、数千人、数万人規模の民衆暴動が頻発していること、著しい経済格差が存在していること、中国共産党の一党支配による歪みが存在すること・・・などは周知のところですが、ここ数日のニュースを見るだけでも中国社会の問題の根深さが窺えます。

****買収反対で経営者を撲殺、中国の鉄鋼労働者****
中国・吉林・省通化市の鉄鋼大手・通化鋼鉄集団で24日、業界再編に伴う解雇を示唆された労働者が、同社の買収計画を進めていた同業の建竜鋼鉄(本社北京)の社長を殴り殺すという事件が起きた。事態を受けて当局は27日、買収計画の中止を発表した。
国営英字紙チャイナ・デーリーによると、民間企業の建竜鋼鉄の陳国軍社長は同日、通化鉄鋼の工場を訪れ、同社の買収を発表。「労働者の多くを3日以内に解雇すると告げて、労働者を幻滅させ、怒らせた(地元警察官)」という。 約3000人の労働者が工場を占拠して抗議し、陳社長を何回も殴打。その後、警官隊と衝突した。労働者らは、救急隊が重傷を負った陳社長を搬送するのを妨害し、陳社長は病院で死亡が確認されたという。(後略)【7月27日 AFP】

****中国で武装警官と海軍、100人以上が乱闘*****
香港の人権団体・中国人権民主化運動ニュースセンターは27日、中国浙江省舟山市で25日に、武装警察官と海軍兵士が街頭で衝突し、3人が負傷したと伝えた。
両者の衝突は異例。武装警察官10数人と海軍将校ら3人が、口げんかから殴り合いを始め、乱闘の参加者は100人以上に膨れあがった。地元派出所の警察官が介入し、両者を引き離したという。武装警察は公安省に所属して治安維持などを担当する。【7月27日 読売】

****人身売買から子ども5人を保護、中国******
中国・貴州・省貴陽に24日、人身売買から救出された子ども5人が、列車で到着した。中国では、女性や子どもの人身売買が依然として問題となっているが、多くの社会学者が、同国の「一人っ子政策」が人身売買に拍車をかけていると指摘している。一人っ子政策の下では、男の子が重宝されており、男の子が欲しい夫婦が女の子を売り飛ばす事例が目立っている。【7月27日 AFP】

****胡主席長男の関連企業に贈賄疑惑、中国がウェブ情報を遮断*****
中国の胡錦涛国家主席の長男、胡海峰氏(38)が前年まで社長を務めていた企業が、贈賄の疑いでナミビア当局の捜査を受けていると報道されたことを受けて、中国当局は23日、この企業「Nuctech」に関連する検索を検閲するなど、インターネットの情報遮断を開始した。国営メディアはこの問題について全く報道していない。(後略)【7月25日 AFP】

****中国“世襲将軍” ネット上で批判 人民解放軍「上将」に劉少奇の子ら3人*****
中国国家軍事委員会主席を兼務している胡錦濤国家主席は20日、馬暁天副総参謀長(中将)ら軍幹部3人を階級最高位にあたる上将に昇格させる人事を発表した。胡錦濤指導部が積極的に進めている軍幹部の若返りの一環だが、昇格した3人はいずれもかつての指導者の子供であることが話題となり、インターネットなどでは「世襲批判」が起きている。(後略)【7月22日 産経】
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労働争議での経営者撲殺、警察と軍の乱闘、人身売買、権力者親族の汚職と隠蔽工作、権力者子弟の出世・・・・それぞれの問題の背景にはそれぞれの事情がある訳ですが、少なくとも日本的価値観に立つと、中国社会が未だ“民主的成熟”の段階とは程遠いところにあること、社会の根底をなす最低限のルール・モラルに関する意識が未成熟なこと・・・そんな印象が否めません。

いくら生活がかかった労働争議だからといって、いくら経営者が不公正に思われるからといって、撲殺してしまうというのは・・・・
警官と軍人が喧嘩することはあるでしょうが、周囲が止めることなく、逆に100人以上の乱闘になるというのは・・・・
一人っ子政策のゆがみはあるのでしょうが、我が子を売り飛ばしてしまうというのは・・・・
相変わらずの権力者優遇がまかり通り、国家的にそれを隠蔽しようというのは・・・・

もちろん、中国社会の全てがこうしたことばかりではありませんが、未だ“やっていいこと、やってはいけないこと”に関する最低限のルールが確立されていない側面を引きずっているように思われます。
しかし、“民度の低い国民だ”と嘲笑ってすむ問題ではありません。
中国社会内部がどのような問題を抱えていようが、国際社会における中国の経済的・政治的・軍事的存在感は着実に高まっています。

【「世界第2位の経済大国」と米中新時代】
経済的には、日本を抜いて「世界第2位の経済大国」になることが確実な情勢です。
****中国「世界2位の経済大国」へ 「内需主導」成長路線で*****
第2四半期(4~6月)の国内総生産(GDP)成長率が7・9%となり、政府目標の「8%前後」達成が視野に入った中国。今年、マイナス成長を見込む日本を尻目に、GDPで米国に次ぐ「世界第2位の経済大国」の地位を射止めることがほぼ確実となった。「巨大市場」を武器に成長の軸足を「内需」に移す経済政策が奏功した。
2008年は9・0%成長と6年ぶりに1ケタ成長にとどまった中国だが、同年のGDPはドル換算で約4兆2950億ドル(約404兆円)で、日本の約4兆3480億ドルにあと530億ドルに迫っている。中国はすでに07年、ドイツを抜いて世界3位に浮上している。
人口差が大きく、1人当たりGDPではなお隔たりはあるものの、中国の経済学者は、「GDPで日本を抜いて世界2位になれば心理的、政治的に象徴的な出来事」と指摘する。(後略)【7月17日 産経】
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中国の存在感の高まりによって、国際情勢はアメリカと中国を基軸とした動きを見せるようになりつつあります。
*****米中新時代占う好機に=27日に戦略・経済対話初会合*****
米中両国が安全保障や経済分野の課題を閣僚レベルで討議する「米中戦略・経済対話」の初会合が27日、ワシントンで開会する。ブッシュ前政権時代の経済対話の枠組みを安保・政治分野にも拡大し、「最大規模の中国代表団」(米高官)を迎えて行う会合で、米中新時代の方向性を占う好機になりそうだ。
戦略・経済対話は、2006年から米財務長官と中国副首相の間で行われてきた戦略経済対話(SED)に安保・政治分野を加えた枠組みで、オバマ大統領と胡錦濤国家主席が4月の首脳会談で正式合意した。年1回開催される。
ワシントン開催の今回は、クリントン国務長官とガイトナー財務長官が、それぞれ戦略対話、経済対話を主宰。中国側は戴秉国国務委員と王岐山副首相が代表団を率いる。【7月26日 時事】
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【望まれる社会的成熟】
こうした国際情勢において、中国には「責任ある大国」となってもらわないと困りますし、何より日本にとっては協調していける隣国になってもらわないと困ります。
今の中国社会は、社会主義的理念が機能しない社会に、過去の封建的因習と剥き出しの弱肉強食的な資本主義がはびこっているようにも見えます。
社会を調整する何らかの価値観が必要とも思えます。それが単純な民族主義・愛国思想であっても困ります。
あまりにも急速な国際的役割の高まりに、国内社会内部の成熟が追いついていない感がありますが、世界のためにも、日本のためにも、今後の社会的成熟が望まれます。

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イラク  クルド自治区選挙 クルド版「変化」は支持されるのか?

2009-07-26 12:55:43 | 国際情勢

(正確なところはわかりませんが、クルド自治政府議長バルザニ氏の支援集会の様子でしょうか。後方ポスターの大きな顔写真はバルザニ議長です。 中央で片手を挙げているのがバルザニ本人のようです。
下方の馬のロゴは「刷新と再構築」を主張している与党連合のものです。
“flickr”より By kurdistan كوردستان
http://www.flickr.com/photos/kurdistan4all/3735947323/)

【クルド自治政府と中央集権化を強めるマリキ首相】
イラクでは6月末で駐留米軍の戦闘部隊が都市部から撤退しましたが、マリキ首相のもとで国内治安が維持できるのか不安を抱えています。
揺さぶりをかけるアルカイダ勢力によるテロの頻発、政権主流をなすシーア派とスンニ派の対立再燃、シーア派内部の確執、イランの影響、そして北部のクルド自治区との対立・・・・問題は山積していますが、政権運営に自信を深め、強引な政治手法も目立つようになっているとも言われるマリキ首相がどのように対応していくのかが懸念されています。

その大きな問題のひとつであるクルド自治区では25日、自治政府議長と議会の選挙が行われました。
クルド自治政府・議会は、産油都市キルクークの自治区への編入や油田の開発・収益の配分などを巡ってイラク中央政府と対立を続けていますが、中央集権化を強めるマリキ首相のもとで、協調体制がとれるのかが課題となっています。
もし、問題がこじれてクルド側が独立志向を強めることになると、イラク国内のアラブ対クルドという対立・紛争にとどまらず、多くのクルド人が居住し、その対応に苦慮しているトルコやイランへも飛び火して、中東全体が一気に不安定化することにもなります。
それだけに、アメリカも、この問題への慎重な対応をマリキ首相、クルド双方に要請しているようですが・・・

****イラク:クルド議長、再選濃厚 政府と対立続く*****
イラク北部のクルド自治区で25日、自治政府議長と議会(定数111)の選挙が行われた。中央政府と対立する現職議長や議会主流派が有利と見られ、領土や油田、政治権限などの対立課題について、選挙の結果、自治区と中央政府が歩み寄ることは期待できそうにない。中央集権化を志向するマリキ首相は、民族・宗派間対立や治安維持への取り組みで米国とも緊張関係にあり、クルド側と米国との間で難しいかじ取りを強いられる局面が続くことになりそうだ。

現地からの報道によると、クルド自治政府議長選ではマスード・バルザニ議長(62)の再選が確実視されている。議会選でも、議席の約7割を占めるクルド民主党(KDP)とクルド愛国同盟(PUK)の2大政党の優位は「変わらない」(クルド人ジャーナリスト、イブラヒム・シャリーフ氏)との見方が目立つ。開票作業はバグダッドで行われるため、結果確定には数日かかる見通しだ。

クルド自治政府・議会は、産油都市キルクークの帰属や油田の開発・収益の配分、権限区分などを巡って、中央政府と衝突を続けている。6月末には議会がキルクークなどをクルド側に編入する憲法案を可決。バルザニ氏は「妥協はしない」と明言している。訪米中のマリキ首相は23日、クルド自治区との対立は「最も危険な問題の一つ」と深刻視していることを認めた。
イラクで多数派を占めるイスラム教シーア派のマリキ首相に対し、オバマ政権は今月初旬にイラクに派遣したバイデン副大統領らを通じて、クルド側やスンニ派との政治的和解を進めるよう圧力をかけている。しかし、イラク政府幹部は「外部からの介入だ」として、強く反発した。
オバマ米大統領は22日、マリキ首相との会談後、「イラクの安定と成功には、すべての民族、宗派の居場所が必要だ」と述べ、改めて和解を促した。(後略)【7月25日 毎日】
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記事にある“6月末には議会がキルクークなどをクルド側に編入する憲法案を可決”という問題については、マレン米統合参謀本部議長がキルクークを電撃訪問し地元政治家らと会談して鎮静化をはかっています。
新憲法案は住民投票を経て発効しますが、25日に予定されていた投票は延期されています。
イラク憲法はキルクークの取り扱いについて、フセイン前政権が進めた住民のアラブ化政策以前の状態への復帰と人口調査を行ったうえ、住民投票で帰属を決めると定めています。
期限は07年末でしたが未だ実施されておらず、国連の仲介で協議が続いている最中に今回自治議会の決定が行われました。【7月14日 毎日より】

【既成政党の権力独占に挑む「ゴラン」】
クルドにおいては、長くクルド民主党(KDP)とクルド愛国同盟(PUK)の二大政党が支配的な地位を維持しています。
KDPは、自治政府議長再選が確実視されているマスード・バルザニ議長が率いており、彼の甥は自治政府首相、息子は情報機関を仕切る立場にあります。
一方、PUK議長は現イラク大統領のジャラル・タラバニ氏で、その息子は自治政府の駐米代表、甥は防諜部門のトップにあります。

両党はこれまで激しい内部抗争を続け多くの犠牲者を出しており、フセイン政権時代には、イランと結ぶPUKに対抗して、KDPは宿敵フセイン政権と手を結ぶ・・・といったねじれた関係を見せるまでに対立していました。
しかし、クルド独立という“大義”を共通すること、そして何より現実的支配体制の維持という点で利害を共通することから、現在は両者で上記のように権力を分け合う関係になっています。
今回選挙にあっても、両者は「クルディスタニ・リスト」という合同候補者リストをつくって選挙にのぞんでいます。
この連携は4年前の選挙でもとられ、野党に圧勝しています。

両党の権力・石油利権の独占に対して、今回選挙では改革派政党「ゴラン」が戦いを挑んでいます。
“ゴラン”とはクルド語で“変化”の意味だそうで、クルド版オバマをイメージしています。
アメリカ国内では医療保険改革問題で支持率を下げているオバマ大統領ですが、彼のキャラクターと彼の唱えた“change”のスローガンは、これまで現実政治の壁に参加を阻まれてきた世界中の多くの人々の心を捉えるものがあったようです。

「ゴラン」党首は元PUK政治家で地元のメディア王でもあるムスタファ氏です。
既成二大政党の権力独占、住民サービスの不備に愛想をつかしてPUKを離反したそうで、「反汚職、公共サービス・インフラの整備」を掲げています。【7月8日号 Newsweek日本語版】

まあ、メディア王が選挙に乗り出すというのは他の国でもあることで、実際どれだけ既成政党と違うのかは定かではありませんが、既成二大政党の同盟が過半数を占めることが予想されているなかで、どこまで国民の支持を集められるか注目されます。
投票用紙を一度自治区の首府アルビルに運んだあと、公正を期してバグダッドで公式な開票が行われるため、最終結果が出るまでには数日かかる見通しとのことです。

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キルギス  バキエフ大統領再選 不正選挙批判とバランス外交

2009-07-25 13:10:45 | 国際情勢

(天山山脈を望む草原を馬で・・・というワンパターン・イメージしかないキルギス。女性を車でさらって結婚を迫る誘拐婚なんて習慣もあるとか。
“flickr”より By eatswords
http://www.flickr.com/photos/eatswords/3743977973/in/set-72157621645763651/)

【現職圧勝】
中央アジアのキルギスで23日に行われた大統領選で、現職のバキエフ大統領(59)が9割近い支持を集めて再選を決めました。
一部野党は大規模な選挙違反があったと主張していますが、結果は動かないでしょう。
“民主的・公正な選挙”に敏感なアメリカも、アフガニスタンへの輸送拠点となるマナス基地存続問題でようやくバキエフ大統領の了承をとりつけたばかりという経緯があって、政権を揺るがすような批判は行わないと見られています。

****キルギス:バキエフ大統領が再選 抗議運動の広がり困難か******
24日の中央選管の発表によると、開票率73.1%で、バキエフ大統領が85.5%を獲得。野党連合「統一人民運動」を率いるアタムバエフ元首相が7.5%、残りの4候補は3%以下だった。投票率は79.4%。

バキエフ大統領は05年に起きた民衆革命を経て、同年の選挙で初当選したが、就任後は独裁的な手法を強めており、国内で反発を招いている。しかし、多くの国民が「安定と継続」(政治評論家のカザクパエフ氏)を求めたうえに、野党勢力が統一候補を絞れなかったことも有利に働いた。大統領陣営は官僚組織を動員するなど、現職の強みを生かし圧勝した。
これに対し、統一人民運動は23日夜、首都ビシケク市内で1000人以上の集会を開催。選挙結果を受け入れず、抗議運動を続ける考えを強調した。ただし同運動は具体的な方針を固めていないうえに、他の野党勢力との連携も乏しく、支持の広がりは難しい模様だ。

キルギスは米軍が北部のマナス基地に駐留するほか、ロシアも基地を持つ中央アジアの要衝となっている。全欧安保協力機構(OSCE)の選挙監視団は24日、選挙で多くの不正行為が行われたと批判した。一方で「マナス基地の問題があるので、米国は野党を支持する行動は避ける」(外交筋)との見方も出ている。【7月24日 毎日】
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【名簿に名前なく投票できず】
民主主義の基盤が確立していない国が多いため、いろんな国で選挙は行われますが、選挙後に“不正があった”として政治的混乱が起きるケースが頻発しています。
イランもそうですが、実際どの程度の不正があったのかは、よくわかりません。
キルギスの大統領選挙についても、大規模な不正があったと野党側は主張しています。

****キルギス:揺れる大統領選 不正横行の指摘相次ぐ*****
中央アジアのキルギスで23日実施された大統領選は、バキエフ大統領の再選が確実視されているが、野党陣営は「大規模な選挙違反があった」と主張している。実際、選挙期間中の首都ビシケクでは、「不公平な選挙」を疑わせる様子を随所で見聞きした。

「私の目の前で堂々と違反が行われていた」。野党「統一人民運動」のアタムバエフ元首相の陣営が23日夜に開いた集会。参加した女性法律家のジルドゥスさん(33)は、強い口調で訴えた。
それによると、ジルドゥスさんは同陣営の監視員として、午前8時の投票開始時間より前に、ビシケク市内の投票所に着いたが、すでに一つの投票箱が投票用紙でほぼ埋まっていたという。投票が始まると、15~20人の一団が繰り返し投票していることに気がついた。抗議したところ、警備員に「投票の邪魔だ」と戸外へ連れ出されてしまったという。
そもそも選挙名簿に名前が記載されておらず、はっきりした理由が分からないまま、投票できなかった有権者も少なくなかったようだ。取材に同行した現地の男性(37)もその一人。自宅近くの投票所に足を運んだところ、名簿に名前がなく、係員に何度か抗議したが、耳を貸さない。メディアの証明書をみせたところ、係員は一変して投票を認めた。
試みに同日夕、市内中心部で、無作為に10人の有権者に投票動向を尋ねてみたところ、4人が名簿に自分の名前が記載されていなかったため、投票できなかったと答えた。

投票日前のビシケク市内は、「バキエフ支持」の看板であふれていた。野党「アク・シュムカル」のサリエフ候補によると、野党陣営が市や地区の担当部署に看板設置の許可を申請しても、「外観を損なう」などの理由で、ほとんどが却下されたという。テレビの選挙広告も95%の時間がバキエフ氏に割かれ、残りの5%を5候補で分け合う状態だった。
政治評論家のカクチェキエフ氏は「キルギスには官僚が常に現職大統領におもねる『権威主義』が色濃く残っている」と指摘した。【7月24日 毎日】
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“10人中4人について有権者名簿記載がなく投票できなかった”ということであれば、「9割近い支持で再選」というのも殆ど意味をなしません。
それとも、日本でいう住民票異動などの手続きがされていなかったといいた事務的な問題でしょうか?
選挙活動にしても、“民主選挙”には程遠い実態のように思われます。
欧州安保協力機構(OSCE)の選挙監視団は、バキエフ大統領側が「権力を使って有権者を脅した」と、選挙に不正があったことを発表しています。
なお、キルギスで07年12月に行われた憲法改正に伴う議会選挙でも、「選挙法違反」による野党党首への立候補取り消しや、主要野党の1つに対する訴訟などの不正が問題なっています。

【チューリップ革命は今】
キルギスでは05年、議会選のやり直しと大統領の辞任を求め、野党勢力が南部から抗議行動を起こして首都ビシケクの大統領府を占拠、北部出身だった当時のアカエフ大統領は逃亡し、政権は崩壊しました。
世に言う“チューリップ革命”です。
【ウィキペディア】によると、チューリップはキルギスを代表する花で、暴力を伴わず政権を崩壊させたグルジアのバラ革命、ウクライナのオレンジ革命にならって名づけられたとのことです。

“チューリップ革命”での野党側指導者のひとりがバキエフ大統領で、その後権力の座につくことになりました。
“野党指導者で元首相のバキエフ氏は同年7月の選挙で大統領に就任した。だが、ともに革命を率いた他の野党リーダーは相次いで離反。議員の殺害や、度重なる集会などで社会不安が増大した。
バキエフ氏は野党の取り込みを図り、不穏な状態だった社会の安定化には成功したものの、懸案だった失業者対策や汚職問題に改善はみられず、アカエフ氏と同様、親族を重用した統治体制が国民の批判の的となっている。”【7月24日 朝日】

前政権の独裁・不正選挙を批判し、民衆革命で権力につきながら、自らも強権・不正選挙で権力維持をはかる・・・ため息が出る現実です。
政治的混乱が表面化しているのはグルジア、ウクライナも同様で、当時の“色の革命”の成果に大きな疑問が投げかけられています。

【米ロを天秤にかけたバランス外交】
ところで、バキエフ大統領は、空軍基地残存を求めるアメリカと、旧ソ連の中央アジア地域で影響力保持を狙うロシアを天秤にかけるかたちで“バランス外交”を行っています。
20億ドルの財政支援を申し出たロシアの影響力で一時閉鎖の方針が決められていたマナス米空軍基地は、3倍以上の使用料値上げをアメリカから引き出し、残存で合意しています。

****キルギス米軍基地、事実上存続へ 非軍事物資の輸送拠点*****
アフガニスタンでの米軍の対テロ作戦の支援拠点となってきたキルギスのマナス米空軍基地について、キルギスと米国は非軍事物資の「中継輸送センター」として使用することで合意した。キルギスは今年8月の基地閉鎖を決めていたが、アフガン安定化を優先課題に掲げるオバマ政権が継続を求めていた。非軍事に限定されるが、米国の足場が事実上存続することになる。

インタファクス通信によると、キルギス議会の軍事委員会は23日、両国政府の合意を了承した。サルバエフ外相は、合意は1年間の時限的なものだとしている。また、合意された中継輸送センターの使用料は6千万ドル(約57億円)で、これまでの基地年間使用料1750万ドル(約17億円)の3倍以上になる。
米空軍基地は、01年の米同時多発テロを受けて首都ビシケク郊外のマナス空港に置かれ、約1500人の外国部隊が駐留。インフラが整い、比較的治安が安定した場所にある同基地は利便性が高く、米国としては作戦を進める上で重要な拠点だ。

しかし、旧ソ連の中央アジア地域で影響力保持を狙うロシアが、経済危機に苦しむキルギスに20億ドルの財政支援を提供し、それと引き換えのようにキルギスは今年2月、米軍基地閉鎖の方針を決めた。
その後、オバマ政権が発足して米ロ間に協調への空気が生まれると、ロシアのメドベージェフ大統領は米軍や北大西洋条約機構(NATO)によるアフガン安定化作戦に対し、物資輸送のルート提供など一定の協力姿勢を示すようになっていた。
中ロや中央アジアでつくる上海協力機構(SCO)の首脳会議が今月ロシアで開かれた際には、アフガン支援が主要議題となり、同国のカルザイ大統領も招かれた。同大統領はキルギスのバキエフ大統領に支援拠点の継続を要請、ロシアも条件付きで容認したと見られる。【6月23日 朝日】
**********************

一方、マナス空軍基地での米軍駐留の継続が決まったのに対抗して、ロシアは現在駐留している首都ビシケク近郊のカント空軍基地の施設を拡充に加え、南部オシでも新たな駐留基地を提供するよう要求しています。
中央アジアでは、中国もエネルギーなど経済分野で影響力を強めています。

アメリカ、ロシア、更には中国といった大国のパワー・ゲームのなかで最大限の利益を引き出そうという“バランス外交”ですが、手玉にとっているつもりが、いつか自国が大国に翻弄されている事態に気づく・・・なんだか危なっかしくも見えます。
世界情勢が変化したとき大きなツケを払う結果にならなければいいのですが。


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イタリア  治安法施行 自警団による違法移民の捜索、摘発

2009-07-24 21:55:51 | 世相

(イタリア ベルルスコーニ首相 “flickr”より By CiuPix
http://www.flickr.com/photos/lorenzopierini/3506384537/)

【スキャンダルでも根強い支持】
18歳のモデルとの関係が公になって「未成年者の元に通う男とは暮らせない」と奥さんから離婚されることになったイタリアのベルルスコーニ首相、こんどは売春婦との会話のやりとりを録音したとされるテープが左派系有力誌エスプレッソのウェブサイト上で公開される・・・と、なにかとスキャンダラスな話題が続いています。

「女性は自分の力で手に入れるものだ」との堂々たる反論でこれらを否定はしていますが、さすがに人気にも翳りが見えているとか。
ベルルスコーニ氏の支持率は4ポイント下落して49%と、2008年の就任以来初の50%割れとなっています。
また、6月に行われた欧州議会選では、首相率いる中道右派の与党「自由国民」が得票率35.3%と、昨年4月の総選挙を2ポイント下回りました。
それでもまだ麻生総理にはうらやましい支持率ですから、首相と右派政権に対する根強い支持が国民にあるとも言えます。

【「多民族国家イタリアという左派の考えを我々は認めない」】
そんなイタリアで不法滞在の外国人に厳罰を科す「治安法案」の制定が進められているということは、6月5日ブログ「不機嫌な時代 ヨーロッパ・オーストラリアで広がる移民への不寛容」 
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090605)でも取り上げたところです。

***伊下院:不法滞在外国人厳罰化の治安法案可決、上院通過も*****
不法滞在の外国人に厳罰を科す、ベルルスコーニ政権による「治安法案」が、イタリア下院で可決され、月末にも上院を通過しそうな情勢になっている。ナポリターノ大統領は「外国人嫌悪を助長する」と公に不快感を表明しており、大統領が署名しない場合、法制化に時間がかかりそうだ。
イタリア政府は今月上旬、リビアからの移民上陸を初めて拒否し強制送還に乗り出し、外国人排斥を強めた。ベルルスコーニ首相は「多民族国家イタリアという左派の考えを我々は認めない」と発言。野党から「人権無視」との批判を浴びている。治安法案を機にイタリアは移民寛容策から排斥へと大きく転換しつつある。

イタリアでは北アフリカから船で来る移民をこれまで、南部シチリア島などに一度上陸させ、難民審査をしてきた。だが、今月6日以降、リビアからの移民約500人を強制送還した。
移民排斥を公約してきた極右政党・北部同盟のマローニ内相は「不法移民対策の歴史的転換点」と強硬策の継続を唱えている。これに対し、中道左派の野党・民主党や国連難民高等弁務官事務所、カトリック団体は「乗船者の多くは難民で、妊婦や子どもがおり、人権侵害だ」「イタリアが多民族社会なのは否定できない事実」と批判している。
イタリアには滞在許可証を持つ外国人約400万人のほか、約100万人の不法移民がいる。統計上、犯罪は減り続けているが、政府は「外国人犯罪の増加」に焦点を当て、移民対策の必要性を暗に説いてきた。 【5月18日 毎日】
*******************

【自警団による違法移民の捜索、摘発】
結局、法案は上院でも可決され、ナポリターノ大統領が14日に調印して施行されることになりました。

****イタリア:違法移民に厳罰の治安法施行 過剰防衛を警告*****
移民を巡る社会問題が先鋭化しているイタリアで、違法移民をかくまう市民には禁固刑を科し、自警団による巡回を合法とする治安法が施行された。欧州議会やローマ法王庁などからも「外国人差別を促す」「ファシズムの再来」との批判が出ていたが、安定多数の中道右派与党が押し切り、野党は、外国人を犯罪者とみなす市民の過剰防衛が広がる危険を警告している。

治安法の主な内容は、(1)違法移民は5000~1万ユーロ(66万~132万円相当)の罰金を科し、国外に追放する(2)医師と学校職員を除く公務員には、違法移民に関する情報を当局に報告する義務を課す(3)元警察官らで組織された自警団は違法移民の捜索、摘発ができる(4)違法移民に部屋を賃貸した者は6カ月から3年の禁固刑--など。
移民関係以外では、スプレーでの落書きなどに最高6カ月の禁固刑を科し、飲酒運転に対する免許取り消しも盛り込まれた。
ベルルスコーニ政権が提出した法案を、中道右派与党が上下院で可決。ナポリターノ大統領が14日に調印し、発布した。

イタリアでは戦前のファシスト政権下で、自警団がユダヤ人や共産党員を弾圧する事件が多発した。治安法導入は、むしろ外国人排斥の風潮を助長する恐れが指摘されている。
現にミラノでは、外国人排斥を唱える右派与党「北部同盟」の下院議員が「外国人の多い地下鉄にミラノ人の専用座席を設けろ」と訴える騒ぎも起きた。
イタリアには合法滞在の外国人約400万人のほか、約100万人の不法移民がいるが、統計上、犯罪は年々減っている。にもかかわらず、ベルルスコーニ政権は発足当初から「外国人犯罪の増加」に焦点を当て、治安悪化を説いてきた。
このため、歴史の苦い教訓や右傾化の行き過ぎを懸念する大統領は、調印に当たり、上下両院議長と首相、内相にあてて、自警団の巡回を懸念する意見書を送った。【7月24日 毎日】
**********************

移民の存在が社会にもたらす影響は非常に大きなものがありますので、違法移民に対する厳しい対応に賛同する考え方もあるでしょう。
しかし、そうした移民問題に対する考え方は別にしても、「元警察官らで組織された自警団は違法移民の捜索、摘発ができる」というのは、“不気味”なものを感じます。

公権力による法の執行とは別なところで、社会にくすぶる不満が“自警団”の憎悪による暴力というかたちで、社会の底辺に位置する者へ向けられる事態も想像されます。
こうした“自警団”なるものを是とする考え方は、どうも生理的に受けつけません。
ナポリターノ大統領の懸念も、もっともなことに思えます。

それでも、こうした法が施行されるというのは、随分と“不気味”な世の中になってきたものです。

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アフリカ  外国企業による農地囲い込み “新たな植民地主義”の批判も

2009-07-23 21:39:39 | 世相

(ギニア 1日の農作業を終えて家路につく人々 “flickr”より By martapiqs
http://www.flickr.com/photos/poma/57910977/)

【人類の6人に1人は十分な食糧を得ることができていない】
昨年、原油価格と並んで食糧価格が急騰して世界各地で暴動などが発生、食糧危機とも言える状況になったことはまだ記憶に新しいところです。
その影響で、世界の飢餓人口は10億人を超えています。

****世界の飢餓人口10億人超える、農業投資拡大を FAO*****
国連食糧農業機関(FAO)は19日、世界的な金融危機と食糧価格上昇の影響で、世界の慢性的な栄養不足の人の数が前年から1億人以上増え、過去最高の約10億2000万人になると予測した報告書を発表した。
アジア太平洋地域で6億4200万人、アフリカ大陸のサハラ砂漠以南で2億6500万人、ラテンアメリカとカリブ海地域で5300万人、中東と北アフリカで5200万人だとしている。うち途上国の栄養不足の人は1500万人だという。この報告書では栄養不足の人の数は2009年に11%増加すると予測されている。
記者会見したFAOのジャック・ディウフ事務局長は、1年間の増加幅としては過去最悪で、人類の6人に1人は十分な食糧を得ることができていないと述べた。

また7月にイタリアで主要8か国(G8)首脳会議が開かれることをふまえ、ディウフ事務局長は食糧安全保障は世界的に緊急にとりくむべき政治の問題だと指摘し、農業部門への投資拡大を訴えた。
記者会見に同席した世界食糧計画(WFP)のジョゼット・シーラン事務局長は、過去2年間に食糧不足が原因でいくつかの途上国で発生した発生した暴動について語り、「空腹な世界は危険な世界だ」と警鐘を鳴らした。【6月20日 AFP】
*************************

【今後も価格上昇続く】
食糧需給は、食糧危機当時と比較すると一段落してはいますが、食糧不足・食糧価格上昇の基本的構図は今も変わっていません。
FAOは食料問題を各国首脳級が話し合う「食料サミット」を11月16~18日にローマで開くことを決めています。昨年6月にも緊急開催しており、2年連続の「食料サミット」開催となります。

食糧の多くを海外に依存する日本にとっても大きな問題であり、農水省は今後も需給は逼迫し、価格上昇が続くという見通しを発表しています。

****世界食料需給:穀物需給逼迫と価格上昇続く 18年見通し*****
農林水産省は1月16日、独自の情報収集と分析に基づく2018年の世界の食料需給見通しを発表した。
人口が急増しているアジア・アフリカ地域の消費拡大や米国のバイオ燃料需要の増大で、小麦やトウモロコシ、コメなど穀物の需給逼迫(ひっぱく)傾向と価格上昇が続くとしている。

穀物消費量は、06年からの12年間で約5億トン増加して約26億トンになると予測。アジア・アフリカで肉の消費が増え、家畜の飼料としての需要が大幅に伸びたり、米国でトウモロコシを原料とするバイオ燃料の需要が約3倍に増えることなどを見込んだ。消費増に生産が追いつかず、消費量に対する在庫量の割合を示す期末在庫率は18年に13%と、70年代以来の低水準に落ち込むとみている。
06年と比較した価格はコメが34%、小麦が35%、トウモロコシが46%、牛肉が31%上昇すると分析。農水省は「食料需給は予断を許さず、国内の農業生産を強化しなければいけない」(食料安全保障課)としている。【1月16日 毎日】
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【新たな被支配 あるいは 新たな植民地主義】
こうした食糧需給逼迫の予測を背景に、企業利益の追求、更には食糧安全保障的な発想もあって、アフリカで外国企業による農地囲い込みが進行しています。農業部門への投資拡大の一形態とも言えますが、自国向けの作物を大規模に栽培し、世界的な食料価格高騰の再来に備え、安定した食料調達先とすることを目的としています。

****外国企業に収奪されるアフリカの土地、新たな被支配の構図*****
世界の耕作地が不足し、食糧を増産する必要に迫られている国々がアフリカ大陸に目を向けるなか、かつて植民地化されていたこの大陸は対応を誤ると新たな被支配の時代に入る可能性があると、専門家らが警鐘を鳴らしている。
その一方で、外国に広大な土地を貸し出すと、アフリカの食糧不足が解消されるとともにさらなる開発がもたらされると、期待を寄せる人々もいる。

■アジアの企業とリース契約
2008年、韓国の物流企業・大宇ロジスティクスはマダガスカルで、320万エーカー(約130万ヘクタール)の農地開発を行うための第一段階の承認を、マダガスカル政府から得たと発表した。しかし、この計画はその後、マダガスカルの政情不安が原因で撤回された。
ケニア政府は前年12月、カタール政府と土地のリース契約を結んだことを発表した。カタールから港や道路、鉄道などの建設に350万ドル(約3億2700万円)の投資を受ける見返りに、同国に10万エーカー(約4万ヘクタール)の土地を貸し出すという内容だ。
中国・重慶の種子会社「Chongqing Seed Corporation」は前年5月、穀物価格の世界的高騰に対処すべく、タンザニアの740エーカー(約300ヘクタール)の土地を借り受けてコメを栽培することを明らかにした。
こうした動きについて、ある専門家は次のように危惧(きぐ)する。「投資をして技術を駆使することで、食糧生産高を上げることは可能だろうが、アフリカ人の雇用を創出することにはならないのではないか」

■アフリカ内部でも分かれる意見
(中略)国際食糧政策研究所(IFPRI)は4月の報告書で、「アフリカの希少な資源の争奪戦にほかの役者も参加するようになると、途上国の社会的・政治的な不安定の度が増すだろう」と警鐘を鳴らしている。
だがナイジェリアのあるエコノミストは、アフリカの多くの国でインフラが整備されておらず開発も遅れている点を挙げ、開発のための土地の貸し出しは成長の道筋をつけるものだと主張している。

■G8では土地取得規制の方針が示されたが・・・
2002年の国連食糧農業機関(FAO)の報告によると、アフリカの耕作可能な土地8億700万ヘクタールのうち、耕作が行われているのはわずか25%。
一方で、大規模な農地開発には、生態系が破壊される恐れがあるとして、環境保護団体の目が光っている。
今月初めにイタリアのラクイラで開催された主要国(G8)首脳会議(サミット)では、先進国側が、外国企業などによる途上国の土地取得を規制する計画を発表した。 
これについて、食糧問題を担当する国連のオリビエ・デシューター氏は、「投資する側には何らの義務も課されない。数百万ヘクタールもの土地が、簡単な契約書のもと、タダ同然で売られている。こうしたことはすべて、人々に知られることなく行われている」と話している。【7月22日 AFP】
*********************

国際食料政策研究所(IFPRI)は6月29日の報告で、「囲い込みが貧しい途上国の食料難や人権問題、生態系破壊を悪化させることが懸念される」と指摘、契約に関する「国際的行動規範」を作ることを提言しています。
この報告では、三井物産がブラジルで10万ヘクタールの土地を保有する企業を買収したことも一例として挙がっています。

一般的には農業投資の拡大は食料増産や生産性向上に役立ちますが、無秩序な“農地争奪戦”が過熱すれば、途上国などからの農作物の収奪ともなります。“新たな植民地主義”との批判もあります

****農地囲い込み 国際的な行動規範が必要だ*****
農地取得に熱心なのは中東産油国と中国だ。豊富な外貨準備をもとに、アジアやアフリカですでに10万ヘクタール単位の農地を手に入れ、小麦やトウモロコシ、綿花などを栽培する計画を進めている。
交渉中の案件も含めると、これらの国や企業が購入または賃借した農地は2000万ヘクタールに達するという。日本の耕地総面積の4倍強の農地が囲い込まれつつある。

農業開発の資金が不足している途上国にとって、農地の提供には、土地改良やかんがい施設の整備、新たな農業技術の導入といった利点がある。
一方、軍事的、経済的な圧力で、途上国側が不利な条件の下、農地を収奪されたり、無理な開墾によって水の汚染や生態系が破壊される問題も指摘されている。
国連食糧農業機関(FAO)は「農地や水を丸ごと買い上げるのは新たな植民地主義だ」と警告している。途上国側の農民の反対で取得を断念した例も出始めた。

こうした動きは、世界一の食料輸入国である日本にとっても、座視できない問題だ。
国際ルールの策定には日本も積極的に関与し、途上国の食料事情や環境に十分配慮したものにすることが肝要だ。食料輸出国による一方的な輸出規制に歯止めをかけ、貧しい国に食料が行き渡るよう努めることも大事だ。
日本が優先すべきは、農地争奪戦への参入ではない。40%にとどまっている食料自給率を引き上げることである。(後略)【7月12日 読売】
**********************

農地を提供する国は飢餓を出している国も多いことも懸念される点です。
エチオピア、スーダン、ザンビア、カンボジアなどでも大規模な農地買収が進められています。
飢餓を出して莫大な食糧援助を受けている国から大量の食糧が持ち出される・・・というのは、許容しがたいものがあります。
そうした外国企業投資による資金や技術が地元住民の便宜に資する形で循環すれば大きな問題ともならないのでしょうが、残念ながら「良い統治」が欠如した現実には、地元住民が飢餓で苦しむなかで先進国の胃袋を満たすために輸出作物が作られるということにもなりがちです。

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スペイン  ジブラルタルは“返せ” セウタ・メリリャは“わが領土”

2009-07-22 21:39:06 | 国際情勢

(写真手前がジブラルタル 奥に見えるのがアフリカ・モロッコ “flickr”より By Mingo.nl
http://www.flickr.com/photos/mjhagen/1580319869/)

【ユトレヒト条約以来初めて】
地中海から大西洋への出口を塞ぐように狭まるジブラルタル海峡。
ヨーロッパ・イベリア半島と北アフリカ・モロッコが向き合う形で、イベリア半島に海に突き出た部分がジブラルタル。
海峡は、狭いところでは14kmほどです。

古代より、ゲルマン民族の大移動、カルタゴのハンニバルのローマ侵攻、イスラム・ウマイヤ朝(サラセン帝国)のヨーロッパ侵攻など、歴史の舞台となった地でもあります。
15世紀にイスラム教徒からジブラルタルを奪還し、1501年にはスペイン王国領土となりましたが、1704年スペイン継承戦争中に英軍に占領され、1713年のユトレヒト条約でイギリスに割譲されて現在に至っています

地中海と大西洋を結ぶこの地が戦略的に重要であろうことは素人にもわかります。
イギリス海軍にとっても要衝となっていました。
(現在では麻薬密輸ルートとしての機能があるとも)

一方、スペインはイギリスに返還を求めており、ジブラルタルに対する主権を主張しています。
スペイン側の思いを表すエピソードとしては“1981年、イギリスのチャールズ皇太子とダイアナ妃の新婚旅行の第一目的地となった。ジブラルタルの返還を求める立場のスペイン国王フアン・カルロス1世はこれに抗議し、結婚式への参列をボイコットした。”【ウィキペディア】といったものもあります。

****スペイン閣僚、英国領ジブラルタルを初訪問*****
スペインのモラティノス外相は21日、イベリア半島南端に位置する英国領ジブラルタル(人口約3万人、6・5平方キロ・メートル)を訪問し、ミリバンド英外相、ジブラルタルのカルアナ首席閣僚(首相に相当)と会談した。
ジブラルタルの返還を求めるスペインの閣僚が訪問したのは、ジブラルタルが英領になった1713年以来初めて。

3者は約4時間にわたって会談し、租税回避や密輸などの組織犯罪対策、環境保護の分野などで協力を進めることで合意した。主権に関する問題は協議されなかった。会談後の記者会見で、モラティノス外相は「主権回復を求めるスペイン政府の立場は変わらない」と強調した。【7月22日 読売】
********************

【スペイン主権を望まない住民】
ジブラルタルはイギリスの海外領土として、イギリス女王によってジブラルタル総督が任命されていますが、地域内における問題は、議会の多数党党首より選出される首相の率いる内閣がこれにあたり、高度な自治が行われています。
ジブラルタルのスペイン返還が実現されないのは、単にこの地が要衝であることだけでなく、地元住民がスペインの主権を望んでいないこともあるようです。
2002年にはイギリスとの間で共同主権の検討がなされましたが、住民投票で90%以上が反対の意思を示したため、この構想は実現しなかったこともあります。【ウィキペディア】

【セウタとメリリャは「植民地ではない」】
ジブラルタルはスペイン領域内に飛び地として存在するイギリス領ですが、そのスペインは対岸のモロッコ領内にセウタ(海峡を挟んでジブラルタルと向かい合うアフリカ側の都市)とメリリャという2都市を飛び地として有しています。
スペインのフアン・カルロス国王が2007年11月、このセウタとメリリャを75年の即位後初めて訪問しました。このとき、両都市を「いまだ返還されていない植民地」と見なすモロッコが猛反発したこともあります。

***********************
メリリャの人口6万5000人のうち半数以上がモロッコ系(セウタでは約3割)。セウタやメリリャのモロッコ人は、10年以上暮らせば永住権が取得でき、スペイン国籍も申請できることになっているが、実際には永住権は取れても国籍の取得は難しく、3分の1のモロッコ系住民が無国籍だ。

スペイン政府が国籍を与えることを渋っているのは、スペイン国籍を取得したらフランスやドイツでも合法的に住めるようになり、せっかく増えてきた人口が流出しかねないし、新たな不法入国者を招きかねないこと。そしてメリリャの人口の半分以上がモロッコ系の国民になったら、単なる植民地だと見られかねなくなることだ。セウタとメリリャを植民地だと見なして返還を要求し続けるモロッコに対して、スペインは固有の領土だと拒み続けているが、その根拠の1つが「住民のほとんどがスペイン人」だった。しかし住民の多くがモロッコ系になれば、この言い訳は通用しなくなる。

一方でスペインは、国際社会に対しては「セウタやメリリャの住民は、スペイン本土の住民と同等の権利を有しているので、植民地ではなく本土の一部」だと釈明している。ジブラルタルの住民はイギリス国会の選挙に参加できないから、不当な植民地支配でスペインに返還すべきだが、セウタやメリリャの住民はスペイン国会の選挙にも参加できるから、植民地ではなくモロッコに渡す必要はない・・・という論理なのだが、それならモロッコ系住民にも同等の国籍を与えなくてはならなくなる。そこでモロッコ系住民にはとりあえず永住権を与え、国籍は様子を見ながら少しずつ与えるという、現在の中途半端な政策になったようだ。【「世界飛び地領土研究会」(http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Lake/2917/africa/melilla.html)より】
********************

ジブラルタルを返せとイギリスに言いつつ、メリリャ・セウタは植民地ではなくモロッコに返す必要はない・・・というロジックは、面白いと言うか、無理があるというか・・・。
国家の論理とか、“わが国固有の領土”云々の議論は、往々にしてこんなものです。

なお、“セウタやメリリャに住むモロッコ系の住民は、モロッコへの返還を望んでいるかといえばまったく逆。せっかく豊かで近代的な「ヨーロッパの飛び地」の居住権を手に入れたのに、「アフリカの町の住民」には戻りたくないということ”【同上】とのことです。

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