孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  31年ぶりの国勢調査 ロヒンギャ問題・宗教対立に波紋も

2014-08-31 23:19:44 | ミャンマー

(4月ミャンマー旅行のヤンゴンで見かけたイスラムの葬列)

課題解決の基礎になる国勢調査
ミャンマーで31年ぶりの国勢調査が行われました。

****人口900万人少なかった=ミャンマー国勢調査****
ミャンマー政府は30日、今年3~4月に31年ぶりに実施した国勢調査の暫定結果を発表した。人口は5141万人余りで、従来の推計値より900万人程度少なかった。1983年の前回国勢調査では約3530万人だった。

ミャンマーの人口はこれまで83年の調査などに基づき推計約6000万人とされてきたが、AFP通信によると、キン・イー移民・人口問題相は推計値を下回ったのは、出生率の低下が原因である可能性を指摘した。【8月30日 時事】 
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国連との合意を基に、資金的には国際支援を仰ぐことで実施が可能となったようです。

****ミャンマーで来年国勢調査=「問題は資金」―国連人口基金****
ミャンマーで1983年を最後に実施されていない国勢調査が30年以上の空白を経て2014年に行われる見通しとなった。

国連とミャンマー政府が最近、実施の方針で合意したものだが、来日した国連人口基金(UNFPA)のオショティメイン事務局長は31日、「問題は資金だ」と懸念が残っていることを訴えた。

国勢調査に必要な資金は5800万ドル(約58億円)。事務局長によると、英国やノルウェー、スイス、オーストラリアが一部の支援を表明しているが、まだ半分にも満たない。【2013年5月31日】
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少数民族問題では出口も見えつつあるような・・・
ミャンマーで国勢調査がこれまで実施されなかったのは、長年、国軍と少数民族武装勢力との内戦が続いてきたことなどが指摘されています。(今回もカチンなど一部紛争地域は戸別調査ができず、推計値となっているようです。)

ミャンマーには多くの少数民族・反政府武装勢力が存在しますので、政府との関係についてはそれぞれ濃淡がありますが、最近はおおむね収束の方向にあるようです。

****ミャンマー政府、連邦制導入で少数民族と合意****
ミャンマーで昨年11月から続く同国政府と少数民族勢力代表の停戦交渉で、少数民族側が最重要課題に掲げる「自治権を認める連邦制導入」について、ミャンマー政府が合意したことが16日、分かった。

交渉筋が明らかにした。ミャンマー全土での双方の停戦に向けた最大の懸案が解消された形で、早ければ9月中とされる停戦合意成立に向け、大きな進展となる。

交渉筋によると、政府と18の少数民族勢力の交渉代表が15日、ヤンゴン市内で協議。交渉の最大のネックだった少数民族側の要求を政府側が受け入れた。

自治の範囲や少数民族側の武装維持など、その他の課題は停戦合意後に協議するとし、双方とも停戦を優先させた。

政府側には、来年の総選挙を前に、民政移管後の同国最大の懸案とされた和平問題で前進をアピールする狙いもあるとみられる。【8月17日 読売】
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今回の国勢調査は、どの民族が何人存在するかを明らかにすることで、ミャンマーの抱える最大の課題のひとつである少数民族問題の基礎的数字を提供するものでもあります。

深まる宗教対立
少数民族問題が収束の方向にある一方で、近年ミャンマー社会を揺るがしているもうひとつの大きな課題である宗教対立の方は好転していません。

多数派である仏教徒と少数派イスラム教徒の衝突が、折に触れて噴き出すミャンマーですが、特に、西部ラカイン州のイスラム教徒ロヒンギャについては、そもそも彼らはバングラデシュからの不法移民であり、ミャンマー国民ではないとの仏教徒側の認識もあって、多くの犠牲者・難民を出す状況となっています。

****ミャンマー:ラカイン州避難民14万人、帰還めど立たず****
来日した国連世界食糧計画(WFP)ミャンマー事務所長のドム・スカルペリ氏(47)が毎日新聞のインタビューに応じ、仏教徒とイスラム教徒の対立が続く西部ラカイン州で避難民約14万人の帰還のめどが立っていないことを明らかにした。

スカルペリ氏は「互いの不信感を取り除くには今後も長い時間がかかる。避難民は焼かれた家を再建できていない」と話した。

同州では2012年6月以降、多数派の仏教徒と少数派のイスラム教徒・ロヒンギャ族の衝突が激化し、多数の死者が出ている。

スカルペリ氏によると、3月には州都シットウェにあるWFP事務所が襲撃されるなど治安が回復しておらず、政府による仲介も効果が出ていないという。

慢性的な栄養不良で成長が遅れている5歳未満の子供も多く、WFPは政府とともに食糧支援を強化する方針だ。

また北部カチン州では、昨年5月に政府と少数民族カチン族の武装組織「カチン独立軍(KIA)」が停戦に合意したが、スカルペリ氏は「まだ紛争は続いている」と述べた。

WFPは約5万人の避難民に食糧支援を行っており、政府は今年8月に改めて停戦合意できるように準備を進めているという。

日本は昨年、WFPミャンマー事務所の活動に20億円を拠出するなど最大の支援国で、スカルペリ氏は「日本の支援のおかげで我々の活動は成り立っている」と述べた。【7月4日 毎日】
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前出の連邦制導入合意にはカチン族も含まれているのでしょうか?

“3月には州都シットウェにあるWFP事務所が襲撃される・・・・”という背景には、後出記事にあるように、多数派仏教徒側の「国連や国際NGOは少数派のロヒンギャ族寄りだ」との強い反発があります。

【「ロヒンギャ族との回答は認めない」】
今回の国勢調査は、仏教徒側が「ロヒンギャはミャンマー国民ではない」とするロヒンギャ問題を刺激する形にもなっています。

****国勢調査、民族対立の火種 ミャンマーで約30年ぶり*****
ミャンマーで30日、約30年ぶりの国勢調査が始まった。

人口動向の正確な把握は経済発展に向けた政策立案に欠かせないが、民族問題を抱えるミャンマーでは調査自体が対立の火種になる危険をはらむ。西部ラカイン州では調査のあり方をめぐる暴動も起きている。

最大都市ヤンゴンでは30日、各地区で調査員を務める学校教師らが家々を回り始めた。国勢調査は政治的な混乱などで1983年を最後に途絶えた。(中略)

ただ、135の民族を抱えるとされるミャンマーでは、民族に関する調査をめぐり異論が絶えない。

一昨年、多数派の仏教徒ラカイン族とイスラム教徒ロヒンギャ族が衝突して約200人が死亡した西部ラカイン州。

州都シットウェーではロヒンギャ族の扱いをめぐり、ラカイン族の僧侶や住民による調査ボイコット運動が起きた。

運動を担うラカイン族住民組織のタントゥンさん(56)は「ロヒンギャという回答が調査票に残れば民族の存在を認めることにつながる」と主張。政府が同調しなければ国勢調査には応じないと訴えた。

 ■国際機関へ暴動も
シットウェー市内の店舗や住宅には、調査拒否の意思を示すために仏教徒の旗が掲げられた。

今月26日、国際NGOの米国人女性職員が団体事務所に掲げられたラカイン族の家主による仏教旗を外したところ、一部の住民が目撃。これを契機に国際援助機関に対する暴動に発展した。

翌27日も市中心部にある国際機関の事務所前には仏教旗を掲げた数十人の群衆が集結。別の組織の事務所の窓ガラスは投石によって大半が割られた。駆けつけた警官隊が排除に向けて威嚇射撃。情報省によるとラカイン族の少女(11)が被弾して死亡した。

国連やNGOの外国人職員61人、現地職員86人が警察施設やホテルに避難し、一部はチャーター機などでヤンゴンに退避した。

28日に事態は沈静化したが、ラカイン族による暴動の背景には「国連や国際NGOは少数派のロヒンギャ族寄りだ」との強い反発がある。

タントゥンさんによると、政府は30日、国勢調査について「ロヒンギャ族との回答は認めない」と約束、ラカイン族のボイコット運動は収束した。

これに関し、現地の英国大使館は「調査は公正かつ脅迫を受けずに、すべての人が参加できる形でなされるべきだ」との声明を出した。今後国際社会の批判が高まる可能性がある。【3月31日 朝日】
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「ロヒンギャ族との回答は認めない」・・・・5141万人余りという今回調査結果のなかで、ロヒンギャの人々はどのような扱いになっているのでしょうか?

このラカイン州の混乱に、テイン・セイン大統領は政府主導での解決に意欲を見せています。

****ミャンマー宗教対立、大統領が政府主導解決に意欲 ****
ミャンマーのテイン・セイン大統領は3日、国民向けのラジオ演説で、西部ラカイン州での宗教対立について「地域の治安確保に私自身が努力する」と述べ、政府主導の解決に意欲を示した。

ラカイン州では2012年以降、仏教徒のラカイン族とイスラム教徒のロヒンギャ族との武力衝突が続き200人以上が死亡している。

ラカイン州とバングラデシュとの国境でも緊張が高まっており、大統領は演説で「対立は国際問題にもなりかねない」と危機感をにじませた。

政府は6月、国軍幹部の少将をラカイン州首相に指名し事態の収拾に乗り出した。ミャンマーでは今月に入り、中部マンダレーでも仏教徒とイスラム教徒との衝突で死者が出ている。【7月3日 日経】
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しかし、ラカイン州のロヒンギャ問題については、まずロヒンギャの法的地位を明確にする必要があります。
大統領はかつてロヒンギャへの市民権付与を検討する旨を発言していたかと思いますが、その話はその後どうなったのでしょうか?

「ロヒンギャ族との回答は認めない」といった対応がまかりとおるのであれば、ロヒンギャをミャンマーから排除しない限り混乱は続きます。

ただ、ミャンマーを追われてもロヒンギャには行く場所がありません。バングラデシュも不法侵入者扱いですし、タイなど他の国々もロヒンギャの流入を拒否しています。

憎悪に駆り立てられる人々
ひとの心の中に存在する差別・不信感というものは消し去ることが難しく、ことあるごとに問題を引き起こします。

****ミャンマー:疑心暗鬼生む…火のないところに立つ煙****
ミャンマーでは「火のないところに煙は立たぬ」ということわざは通用しない。根拠(火)のないところからでも、うわさが立つ。

 ◇宗教暴動…きっかけは「でっち上げのレイプ事件」
今月初め、中部マンダレーで仏教徒とイスラム教徒の住民が衝突する宗教暴動が再燃。今は情勢は沈静化したが、現地はなお夜間外出禁止令下にある。
 
発端はうわさだった。喫茶店に勤める仏教徒女性がイスラム教徒の経営者らにレイプされたというもので、事件がインターネット上に流れると、翌日の今月1日、武装した仏教徒の襲撃が始まった。
両教徒それぞれ1人が死亡、数十人が負傷し多数の住居や宗教施設が破壊された。

内務省は20日になって国営紙で「レイプ事件は(警察に告訴した女と背後の人物たちの)でっち上げだった」と発表した。

それによると、喫茶店に女性店員は存在しなかった。仏教徒の女が、喫茶店の経営者を恨む人物の誘いに乗り、報酬目当てに被害者を演じた。

事件はイスラム教徒を中心に十数人が登場する難解な構図で、発表内容には不可解な点が多い。仏教徒女性は通常イスラム教徒と結婚すれば改宗するが、被害者を演じた女は仏教徒だという。

イスラム教徒とみられる「主犯の男」は「逃亡」したが26日に隣国タイで拘束。ただ今も名前以外は何も分からない。

宗教暴動は軍政の重しが外れた「民主化」と共に噴き出した。異教徒への敵意をあおるうわさや言動が未成熟なメディア、規制の緩んだネットを通じて拡散し、憎悪をあおるという図式を繰り返す。

最初の宗教暴動は2012年6月、西部ラカイン州で起きた。その時も仏教徒女性へのレイプ事件が発端だった。イスラム教徒の「主犯の男」は逮捕後、刑務所で自殺したと発表された。

テインセイン大統領の指示で発足した調査委員会は、200人以上の死者と14万もの避難民を出した一連の暴動について精査はしたが、レイプ事件には触れなかった。

 ◇事件の情報すぐブログで拡散、騒乱の引き金に
今回のケースも核心部分が「闇」のままだという点では同じだ。

内務省は「女がレイプされた痕跡はなかった」と結論付けたが、当初、女の告訴はすぐにニュースサイト(ブログ)に載り、暴動への引き金を引いた。

その後ブログには当局者しか撮れないとみられる、暴動で落命したイスラム教徒の生々しい遺体写真が載り、騒乱に拍車をかけた。

宗教暴動は、大統領が警告するように「民主化にとって最大の脅威」だ。国軍が秩序回復のため出動し、全権が国軍に委譲される事態もあり得る。「民主化の逆行」を、少なからぬ国民が懸念する。

今回のレイプでっち上げは個人的な怨恨(えんこん)にとどまる事件だったのかもしれない。今のタイミングで暴動を起こす政治的な意図も判然としない。

だがブログへの事件のリークなど警察当局者の関与が疑われ、陰謀論を一笑に付すことはできない。

問題は、こうした不透明感が疑心暗鬼を生み、人々を憎悪に駆り立てていることだ。
来年後半に総選挙、大統領選挙を控え、その前哨戦として今年後半にも国会議員補欠選挙が予定される。

「政治の季節」に入り、宗教暴動が政治利用されないか、不安がかすめる。【7月30日 毎日】
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警察当局者も関与した陰謀かどうかはわかりませんが、仏教徒側にイスラム教徒への不信感を煽る勢力が存在することは、以前のブログでも何回か触れたところです。

彼らは、このままでは仏教国ミャンマーがイスラム教徒によって乗っ取られてしまう・・・・と主張しています。

通常「仏教国」と言われるミャンマーですが、イスラム教徒は言われている以上に相当に多いという話に驚いたこともあります。(前回調査では4%)

国勢調査結果で、イスラム教徒の数が予想以上に多い場合、仏教徒側の不安・憎悪を更に刺激するおそれもあるのでは・・・・。
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ウクライナ  ロシアの「国民に隠された戦争」 犠牲者も増大 国民も泥沼化を懸念

2014-08-30 22:55:23 | ロシア

(8月24日 ドネツク ウクライナ政府軍捕虜に“敗戦パレード”を強いる親ロシア派女性兵士 戦いは人間の理性を失わせます “flickr”より By John https://www.flickr.com/photos/25437334@N02/14854945260/in/photolist-oCFtFS-oFmvN7-oXzC3a-oCF7br-oXzCV2-oXmWXz-oVLwYc-oCM3WC-oXFVZ1-oFebcY-oFDKwo-oFDKsL-oDNttX-oDNNEy-oWgEPq-oDNNeJ-oFmhjc-oDuLNJ-oXRaKc-oCCjPh-oV5NjJ-oEMpzP-oEjMQe-oU52jU-oEPDsq-oBNyMz-oY6CYx-oW4JGJ-oXQ85a-oFAktk-oW4pxm-oY6gqH-oFABj9-oY6bng-oFAFNP-oFANs1-oY6edr-oFAvBr-oW4spJ-oY6iCD-oW6ZrE-oE7xgk-oXb3D3-oBgi42-oUDiaw-oFomiu-oY8QuV-oFCYMV-cS9YAG-oAKfT8)

【「ロシアは最も強力な核保有国の1つ」】
ウクライナへのロシアの事実上の介入行動で事態が緊迫しています。

ロシア・プーチン大統領は「ロシアは最も強力な核保有国の1つ」と、核兵器を誇示する形で欧米側を牽制するような発言も行っています。

****プーチン氏、核能力誇り軍事対決の断念を促す 欧米けん制か****
ロシアのプーチン大統領は29日、同国は大規模な紛争を望まず、自ら攻め入る意図も持たないとしながらも、核抑止力と軍事力の効率化と近代化を進めていると述べた。

同国のタス通信によると、若者との会合で表明した。「ロシアは最も強力な核保有国の1つ。これは現実だ」ともし、「ロシアに対する侵略行為を撃退する準備を常時進めなければならない。(敵性国家は)軍事衝突でロシアに立ち向かわない方が良いことに気付くべきだ」と強調した。

これら挑戦的な調子の発言は、ウクライナ東部情勢へのロシアの介入に反発を強める欧米諸国のけん制を狙ったものともみられる。

同大統領はまた、ロシア大統領府を通じた声明で、親ロシア派武装勢力は東部で一般住民を危険にさらし犠牲者も出していたウクライナ軍の作戦を阻止したと主張し、親ロシア派への支持を公然と打ち出した。

ウクライナ東部情勢に関しては、英政府筋が29日、CNNの取材にロシア軍要員4000~5000人がウクライナに入ったことを明らかにした。

これら要員は部隊として編成され、東部のルガンスク、ドネツク両州で戦闘に参加しているとし、軍事侵攻を拡大していると指摘。さらに、国境周辺に兵士約2万人が集結し、増員の可能性もあるとした。

4000~5000人との数字は、米政府当局者が先に明らかにしていた約1000人から大幅な増加となっている。

英政府筋は、これら要員の主要任務は親ロシア派武装勢力の支援などで、ウクライナ政府への圧力を維持することと推測。

ただ、ウクライナとの国境付近からロシアが併合したクリミア半島へ達する地上の回廊構築を目指す野心的な意図も否定出来ないと分析した。

ロシアによるウクライナへの軍事介入については、北大西洋条約機構(NATO)が先に同国内に侵入したとするロシア軍部隊の衛星写真を証拠として公表していた。

これに対し、ロシアのラブロフ外相はコンピューターゲームから借りた画像と切り捨て、侵入の事実を否定していた。

米ホワイトハウスのアーネスト報道官は、ロシア大統領府の発言が何であれロシア軍部隊がウクライナに侵入し、同国軍の拠点を攻撃したのは事実と主張している。【8月30日 CNN】
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昨日ブログでも触れたように、けんか腰になっている者を相手に話を穏便におさめるのは至難の業です。

こうした挑発的ともとれるような強気の姿勢は、次第に抜き差しならない、後戻りできないところに自分を追い込むおそれがあり、非常に危険でもあります。

****ロシアは介入停止を=ゴルバチョフ氏****
ノーベル平和賞受賞者のゴルバチョフ元ソ連大統領は30日、ウクライナ東部へのロシアの軍事介入は「全世界に飛び火する恐れがある」として、介入をやめるようプーチン政権に強く求めた。ロシアのラジオ局に語った。

ゴルバチョフ氏は、故ライサ夫人がウクライナ系。ロシア人とウクライナ人は「一つの民族だ」と述べ、直ちに殺し合いをやめるため手を尽くさねばならないと訴えた。

その上で「国家間の紛争となり、規模が拡大し、総動員となれば、欧州を舞台としたおぞましい激戦に突入する恐れがある」と警告した。【8月30日 時事】 
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今さらゴルバチョフ元ソ連大統領が何を言おうが、政治的な影響は全くありませんが、彼が懸念しているところは至極もっともな不安です。

【「国民に隠された戦争」で増加する犠牲者
強気なプーチン大統領ですが、その一方で、公にされない「国民に隠された戦争」でロシア側の兵士の犠牲も膨らんでおり、ロシア国内でも問題となる可能性があります。

****露越境 内外から“証拠” 「隠された戦争」アフガン想起*****
ウクライナ東部の戦闘にロシア軍の正規部隊が投入されている可能性が高まり、4月からの紛争は新たな段階に入った。

プーチン露政権は軍の投入はおろか親露派への武器供与すら否定してきたため、国際的な信用失墜は決定的だ。

戦闘で多数のロシア軍兵士が死亡しているとの情報も出ており、「国民に隠された戦争」が将来的に国内の反発を招くことも考えられる。

露有力紙の独立新聞は29日、大統領付属人権委員会に兵士の親族から問い合わせが殺到しており、消息を絶った者は数百人にのぼると報じた。

同委員会メンバーによれば、消息不明者の多くが露南部ロストフ州での演習に参加することになっていたという。

同委員会は著名な人権活動家らで構成され、プーチン政権とは複雑な関係にある。

兵士や親族の聞き取り調査を行った同委員会メンバーは、2008年のグルジア紛争と同様の手法で兵士が投入されている可能性を指摘。

当時、兵士らは国境付近の演習に参加する旨を口頭で伝えられ、身元を示す書類などは全て取り上げられていたという。

ロイター通信も28日、同委員会メンバーの話として、ウクライナ東部ドネツク州で弾薬を運搬していたロシア軍部隊が攻撃を受け、100人以上が死亡、約300人が負傷したと報じた。

ウクライナの親露派組織幹部も先に、ロシア軍兵士らは「休暇」を取得してウクライナ政府軍との戦闘に加わっていることを明らかにしていた。

ロシアではウクライナ政権や米欧を批判する「愛国ムード」が高まっており、プーチン政権が親露派を見捨てれば弱腰批判にさらされる。

ここにきて親露派への武器供与だけでは戦況を好転させられなくなり、ひそかな形で部隊を派遣したとの見方が出ている。

3月のクリミア併合に先立ち、プーチン大統領は「現地に軍は送っていない」と強調しながら、後に派兵の事実を認めた。

ウクライナ東部へのロシア軍投入が確実になった場合、プーチン政権に対する国際的反発が強まるのは必至だ。

影響力のある主要テレビ局は政権の統制下にあり、プーチン大統領の支持率は8割超の水準にある。国内で政権批判が急速に広がる可能性は高くない。

ただ、自国兵士を秘密裏に戦場へ送り込む手法は、旧ソ連による1979年のアフガニスタン侵攻を想起させるとも指摘され始めている。【8月30日 産経】
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「国民に隠された戦争」の犠牲者を公にするような行為は、当局によって圧力がかかります。

****ロシア兵士母は「スパイ」=ウクライナでの戦死告発****
ロシア法務省は29日、ウクライナ東部でロシア兵多数が戦死した疑惑を告発した人権団体「ロシア兵士の母の会」サンクトペテルブルク支部を「外国エージェント(スパイ)」として登録した。インタファクス通信が伝えた。

軍事介入の一端を暴かれたプーチン政権の圧力との見方が強い。

外国エージェント登録制度は、反プーチン政権デモを主導したNGOつぶしのため、欧米などから資金援助を受ける団体の活動を規制するためにつくられた。

母の会サンクトペテルブルク支部長で大統領人権諮問委員でもあるポリャコワ氏は「侮辱に等しい」と猛反発し、今回の登録に不服を申し立てる方針だ。【8月30日 時事】 
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国民の間でも厭戦気分?】
当局側のプロパガンダ・情報操作もあって、ロシア国民はウクライナ紛争で愛国心を鼓舞されている・・・と一般的には報じられていますが、国民一般の間でも、ながびくウクライナの紛争には厭戦気分が強まっているという世論調査もあります。

今後、犠牲者が増えるような事態となると、紛争への国民支持は更に低下することも考えられます。
今のところは、紛争への支持低下にかかわらず、プーチン支持率は非常な高止まりのようです。

****ロシア:ウクライナえん戦 軍事紛争「支持しない」43%****
ウクライナ東部で政府軍と親ロシア派武装勢力の戦闘が長期化するなか、ロシア国内で「えん戦機運」が広がっている。

ロシアの独立系世論調査機関レバダセンターが29日発表した調査によると、ロシアとウクライナの軍事紛争が始まった場合、政府を「支持する」のは41%で、ウクライナ南部クリミアを強行編入した3月時点の74%から激減。「支持しない」は3月の13%から43%と3倍以上に増え、初めて支持を上回った。

ロシアがクリミアをほぼ「無血」で軍事制圧したのと異なり、ウクライナ東部は戦闘で多数の犠牲者が発生し、80万人以上とされるウクライナ難民がロシアに流入している。

ロシア軍のウクライナ侵入で両国の本格的な軍事衝突に発展する可能性が指摘されるなか、ロシア国民の間で戦闘の泥沼化への懸念が強まっているようだ。

またウクライナ東部のドネツク州、ルガンスク州のロシア編入を支持する人は、4月の35%から21%に落ち込んだ。

一方、プーチン大統領の最新支持率は84%で、前回(8月上旬)の87%より若干下がったが、依然として高い数字を維持している。【8月30日 毎日】
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上記世論調査がどれだけロシア国民一般の意向をあらわしているのかわかりませんので、軽々にはものは言えませんが、もしこのような厭戦気分がロシア国内に広まれば、プーチン大統領の威勢を和らげる一番の薬になりそうです。

自身の高支持率を傷つけない形でウクライナ東部からの名誉ある撤退が可能なら、国内世論を無視してまで、民間航空機を撃墜するようないかがわしい集団にこれ以上つきあって国際批判を浴びる必要もないと、プーチン大統領も考えるのではないでしょうか。
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ロシアと中国  自国の将来に不安を感じる人々

2014-08-29 23:09:29 | ロシア

(出産のために訪米した中国人妊婦ら=2013年2月、米カリフォルニア州ロサンゼルス近郊チノヒルズ 【2013年6月10日 zakzak】)

制裁覚悟でウクライナへ介入するロシア・プーチン大統領
ロシア・プーチン大統領は、7月以降戦局が不利になりつつあったウクライナ東部の親ロシア派勢力がウクライナ政府軍に一掃されて、ウクライナに対するロシアの影響力を失う事態は絶対に避けるために、強引にロシア軍をウクライナ領内に侵入させて形勢の挽回を企てています。

欧米が求めた親ロシア派を抑制する方向ではなく、これまでも秘密裡に行ってきた親ロシア派支援をより大胆に展開する方向のようです。

親ロシア派勢力を残存させた状態で停戦に持ち込み、ウクライナ東部の自治権の拡大、ウクライナのEU・NATO接近の阻止でロシアの影響力を行使したい思惑でしょう。

26日にベラルーシの首都ミンスクで、ウクライナのポロシェンコ大統領とロシアのプーチン大統領と初めて長時間にわたり会談した首脳会談直後の展開だけに、「そこまでやるか・・・」という感があります。

アメリカ・EUの反発・批判、制裁強化は覚悟のうえの行動でしょうから、すみやかにロシアに手を引かせるのは難しいところです。

アメリカ・EUにとって、ロシアと直接戦火を交えるような事態は論外ですから、対応策としては対ロシア制裁強化ということになるのでしょうが、今も制裁の応酬になっているように、制裁を課す側にも大きな痛みが伴います。

ロシア向けの輸出のストップ、天然ガスの流入停止、欧州金融市場で存在感を持つロシアマネーの撤退・・・等々。

ただ、ロシア側が国際批判に耳を貸さず強引に行動する以上は、制裁強化は“武器を使わない戦争”であり、一定の犠牲が伴うのはやむを得ない・・・との強い覚悟で臨む必要があるでしょう。

日本も、北方領土絡みでロシアとの軋轢は避けたいところではありますが、ここはやはり国際秩序を無視するロシアに対して厳しい姿勢が必要でしょう。

なお、ロシア・プーチン大統領のこうした強引な手法は、ロシアの孤立化、経済への悪影響をもたらすもので、一時的な民族主義の鼓舞になっても、長期的にみればロシアの衰退を招く誤った選択であることはこれまでも繰り返しているところです。

【「ロンドングラード」】
“強いロシア”を掲げるプーチン大統領ですが、ロシア革命時の列強によるシベリア出兵以来、“ロシアは敵意を持った国々に囲まれており、それらの国々との間に自国影響下にある緩衝地帯を設けないと安心できない”・・・ロシア指導者にはそんな心理・不安感もあるように思えます。

中国にとっての北朝鮮もそのような緩衝地帯ですが、そうした防御態勢を必要とするということは、自国システムの脆弱性を認識していることの表れともいえます。

現段階では国民からの圧倒的支持を誇るプーチン大統領ですが、孤立化・経済停滞が長期化した際にはどうでしょうか?

****世界一の領土なのに…ロシア人はなぜ外国に行きたがるのか****
ロシアではこの夏、旅行会社が突然倒産し、ツアーや航空券を購入していた人々が旅先で足止めを食らうという報道が相次いだ。業界の価格競争に加え、経済の先行き懸念から旅行客が減っていることが響いた。

だが、このニュースが気づかせてくれたのは逆に、最近のロシア人がいかに外国旅行好きかということだ。

報道によると、近隣を除く外国に出た人は2013年に3850万人で大半が旅行者だ。00年の980万人、05年の1480万人から急増した。

昨年の米国からの出国者は5540万人だったが、カナダやメキシコに向かった人を除けば2620万人。米国は人口でロシアの2倍超、経済水準もはるかに上であるにもかかわらずだ。
立ち位置がロシアに近いブラジルからの出国者は490万人だった。

なぜ世界一の領土を持ちながら、外国に行きたがるのか-。

知り合いの若者は「国内は高い上にサービス水準がひどい。ビザ(査証)取得で苦労しても、倹約してでも外国に行く」と話す。自国がひどいから外に向かうという、強烈な何かが感じられるのだ。

ウクライナ問題を受け、ロシア国内は政権礼賛と反欧米の「愛国ムード」。政権がこの先、ソ連時代のように国境まで閉ざそうとしたら何が起きるのだろうか。【8月29日 産経】
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ロシアの海外旅行者の多さが“自国がひどいから外に向かう”ということを示すのかどうか・・・は即断はできませんが、海外で動く巨額のロシアマネーの存在も、結局自国の将来を不安視しているせいでは・・・とも感じさせます。

****ロンドングラード」に象徴されるロシアマネーの浸透****
・・・・英国はどの欧米諸国より、ロシアの富が社会の上流に浸透している。

ソビエト連邦の崩壊後に台頭したオリガルヒ(新興財閥)が「ロンドングラード」(グラードはロシア語で市の意味)に注ぎ込んできた金額を考えると、デビッド・キャメロン首相率いる英政権は、ロシアの非道にどれほど怒りを覚えようとも、オリガルヒを弾圧できないだろうという批判がある。

ロンドンの金融街シティはロシア人を締め出すべきではないというメモが流出したことも、そうした批判の正当性を裏付けているように見える。

英国は、英国債に100万ポンド以上を投資している外国人に、3年間の「投資家」ビザを発給している。2年後にその国債を保有し続けていれば、1000万ポンドで居住権を手に入れることもできる。

2008年第3四半期から2013年第3四半期までの間に、ロシア人には、この種のビザが433件発給されている。これはどの国より多く、近い数字は中国人の419件のみだ。

英国には、オリガルヒの子弟向けに枠を用意した学校は、ダリッジ・カレッジ以外にも何十校もある。

独立学校協会(ISC)によれば、2013年に私立学校に在籍する非英国人の生徒のうち、8.3%がロシア人だったという。年間の学費にすると最大で6000万ポンドをロシア人が支払っている。ロシア人の生徒数は、2009年以降倍増した。

オリガルヒは、ロンドンのマンションやペントハウスを買いあさっている。不動産会社のサビルズによると、チェルシーやウェストミンスターといった「一等地」の購入者の4%がロシア人で、平均630万ポンドを投じているという。

興味深いことに、別の不動産業者によれば、最近、あるロシアの顧客から「妙な」電話があり、2件の大規模な不動産を今すぐ売却したいと相談されたという。ウクライナ危機に関連しているのかもしれない。

ロシア人が所有する不動産の数は、実際には、ロシア人の名義で登記されている不動産の数よりも多い。
ロシア人はオフショア組織の名義で登記することを好み、そうした組織は把握されていないためだ。

英国の海外領土、特に秘密主義のペーパー会社で知られる英領バージン諸島などは、これで大きな利益を得ている。

バージン諸島のある有力な弁護士は、依頼人の15~20%がロシア人だと話している。同じくらい活発なのは中国人くらいだ。

その弁護士によれば、ここ数週間、ロシア人からの依頼が少し増えているという。(後略)【英エコノミスト誌 3月22日号】
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ロシアのオリガルヒ(新興財閥)以上に、海外志向が強いのが上記記事でも指摘されている中国富裕層です。

【「裸官」と「出産ツアー」】
中国では、いつでも海外に逃亡できるように職権を利用して家族を海外に移住させ、個人資産を移した上で自分だけが国内に要職で残る「裸官」と呼ばれる官僚が多数存在し、習近平国家主席の進める腐敗撲滅運動の対象ともなっています。

****150人超が米に逃亡…中国「腐敗官僚の引き渡しを****
中国公安省は150人以上の腐敗官僚が米国に逃亡しているとして、米司法当局に身柄の確保と引き渡しを求めていく方針を決めた。12日付の中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報などが伝えた。習近平指導部が進める綱紀粛正の一環だ。

米中は犯罪人引き渡し条約を結んでいないが、中国側は米司法当局とのハイレベル協議開催などを通じ、捜査への協力を要請する。(中略)

中国では職権を利用して家族を海外に移住させ、個人資産を移した上で自分だけが国内に要職で残る“高飛び予備軍”への批判も強まっている。

「裸官」と呼ばれており、逃亡ルートに使われやすい香港に隣接する広東省では先月、2190人が「裸官」の烙印(らくいん)を押され、このうち866人が閑職に追われている。【8月13日 産経】
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海外への“高跳び”を予定した「裸官」も、自国の将来を信じていないことの表れですが、将来への不安は役人だけでなく中国富裕層に共通しているようです。

アメリカ市民権を得るための“中国人出産ツアー”はそうした思いがもっと鮮明です。

****子に米国籍を」中国人出産ツアー*****
芝生の緑が鮮やかな住宅街のプールサイドで、妊婦たちがくつろいでいた。バーベキューの香ばしいにおいが漂うと、中国語の会話がいっそう弾んだ。

カリフォルニア州ロサンゼルス東部のローランドハイツ。中華料理店や中国系銀行が多い地区にある高級住宅地「フェザンハイツ」では、塀に囲まれた敷地の門から妊婦や乳母車を押す女性が出入りしていた。米国で出産するため中国から来た女性たちだ。

「生まれてくる赤ちゃんに、人生の選択肢を増やしてあげたいの」。北京から1カ月前に来たという女性(35)は話した。公務員。職場には、米国にいることを隠している。夫は建設会社を営み、中国生まれの長女は3歳。長男は米国で生まれれば、市民権(国籍)を得て「米国人」になる。

到着後、高級ブランドのバッグや洋服を買うため約1万ドル(約100万円)を使った。「店では客の9割が中国人妊婦だったわよ」。帰国前に大量の離乳食も買う。「中国製は安全ではない」からだ。(中略)

米国に移る別の手段として「投資移民」も、中国人を引きつける。

米議会は1990年、時限立法で投資移民制度を作った。100万ドル(約1億円)、失業率の高い地域では50万ドルを投資し、米国人10人を雇うなどの条件を満たせば、投資家にビザを、ゆくゆくは永住権を与える。2015年まで延長され、恒久化されるとの観測もある。

カリフォルニア州サンフランシスコの東にあるオークランド。外国人投資家と投資案件をつなぐ連邦政府認定の受け皿「地域センター」を設立したトム・ヘンダーソン代表(65)は「中国人投資家のカネが失業率の高い町で雇用を生み、投資家は永住権を得る。ウィンウィン(ともに勝者)の関係です」という。

地域センターは、全米に300以上。オークランドでは設立から約2年半で2700万ドル(約27億円)の投資を集めた。99%が中国からだという。

オークランドの地域センターの胡珂星・中国代表(35)は「移民の理由を聞かれたら、ほとんどの人は教育のためと答える」と話す。「ただ、根底には中国の将来への悲観がある」とも指摘した。

19世紀半ば、米西海岸のゴールドラッシュで一獲千金を夢見た中国人が太平洋を渡った。20世紀末、中国から米国を目指した出稼ぎは、厳しい労働に耐えた。

89年の天安門事件後、中国人学生が米国の留学先にとどまり、自由を求めて中国から米国へ逃れた。

いま、官僚や国有企業の社員ら中国の新しい富裕層が、一党支配の将来を見通せない中、出産や投資で米国に活路を求めている。【8月23日 朝日】
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****年2万人、中国人妊婦が殺到****
・・・・中国共産党の機関紙・人民日報系の経済紙「国際金融報」は13年9月、同年に米国で出産する中国人妊婦が2万人に達する見通しだと伝えた。関連業者は500社に上るとしている。

・・・・ベイエリアカウンシル経済研究所のショーン・ランドルフ所長によれば、2012年の投資移民の応募者約7600人のうち、6100人が中国人。今年、上限1万人の枠が初めて埋まる、とみられている。

今後10年間、毎年6千人に投資移民のビザが発給されると、経済効果は約280億ドル(約2兆8千億円)との試算も。中国からの投資移民は、無視できない影響力を持ちつつある。

中国には、経済成長を経てもなお未来を信じることができない富裕層がいる。米国は、その資金も糧に経済危機からの立ち直りをはかる。二大経済大国のいびつな関係を、ヒトとカネの動きが映し出している。【8月23日 朝日】
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政治的にはアメリカ・欧州と鋭く対立しながら、資産・我が子の将来を欧米に託す・・・なんとも奇妙な現象です。

ロシア・プーチン大統領にしても、中国・習近平国家主席にしても、ロシアや中国の独自性を強調しますが、そうしないと自国システムが欧米社会に呑み込まれてしまう不安感があるのでしょう。

そして“呑み込まれる”には、呑み込まれるだけの理由(脆弱性・問題)が存在するのでしょう。

それを感じ取った人々のうち、余裕がある人々は海外に保険をかけることになります。

そして、指導者が独自性を振りかざして欧米との融和を拒めば、更にいびつな自国システムの問題は深刻となっていきます。
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デング熱  日本国内で感染 温暖化の影響で感染地域拡大

2014-08-28 22:36:43 | 疾病・保健衛生

(代々木公園での蚊の駆除作業 【8月28日 NHK】)

エボラ出血熱は感染者2万人超?】
西アフリカのエボラ出血熱は相変わらずの猛威をふるっており、「制御できない状態」が続いています。

****エボラ熱感染、2万人突破も=封じ込めに6~9カ月―WHO****
世界保健機関(WHO)は28日、西アフリカのエボラ出血熱について、「実際の感染者数は(公表人数より)2~4倍多い可能性がある」との見解を発表した。

感染国では6~9カ月で封じ込めを目指すが、収束までに2万人を超える感染者が出る恐れもあると予測。

対策費は今後6カ月で約4億9000万ドル(約510億円)に上ると試算した。

WHOによると、リベリア、ギニア、シエラレオネ、ナイジェリア4カ国の26日時点の死者は、疑いを含めて計1552人、感染者は3069人に達している。【8月28日 時事】 
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致死率50%としても、死者が1万人を超えることもあり得ます。

約510億円で封じ込めができるなら、国際社会で分担すれば随分安い費用にも思えます。特に、戦闘・紛争で湯水のごとく浪費しているおカネに比べれば。本当に“封じ込め”ができるなら・・・・。

デング熱:感染源は代々木公園
そんな折、ある種の蚊で媒介される熱帯・亜熱帯性ウイルス病であるデング熱患者が日本でも見つかったことが話題になっています。感染源は東京・代々木公園のようです。

****代々木公園で蚊に刺されたか 都が駆除進める*****
熱帯や亜熱帯の地域で流行している「デング熱」に、海外への渡航歴のない埼玉県の20代の女性と東京都の20代の男性が、新たに感染していたことが分かりました。

2人は、27日に「デング熱」への感染が確認された埼玉県の10代の女性と同じ学校の学生で、いずれも東京・渋谷区の都立代々木公園で蚊に刺されて感染した疑いがあることから、東京都は念のため、公園内で蚊の駆除を進めています。

新たに感染が確認されたのは、埼玉県の20代の女性と東京都の20代の男性で、このうち女性は症状が落ち着いているということですが、男性は発熱の症状があり、都内の病院に入院中だということです。

「デング熱」は蚊が媒介する感染症で、ヒトからヒトには感染しません。

「デング熱」については、27日に国内でおよそ70年ぶりに、埼玉県の10代の女性が感染していたことが分かりましたが、埼玉県や東京都によりますと、2人はこの女性と同じ都内の学校に通う学生で、全員海外への渡航歴はないということです。

3人は今月の初旬から20日ごろにかけて、東京・渋谷区の都立代々木公園でダンスの練習などをしていた際、蚊に刺されて感染した疑いがあるということです。(中略)

念のため、3人が蚊に刺されたとみられる場所の周囲を29日朝まで立ち入り禁止にして、薬剤を散布して蚊の駆除を進めています。【8月28日 NHK】
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デング熱の症状は、発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、皮膚発疹などですが、ほとんどの場合、問題なく順調に回復するそうです。
ただ、まれに生命を脅かすデング出血熱に移行します。

“治療せずに死亡に至る割合は1~5%で、適切な治療を行えば、その割合は1%を下回る。”【ウィキペディア】

先進国製薬会社にとって研究開発が採算がとれない多くの熱帯病同様に、デング熱も特効薬はなく、対症療法で重症化を防ぐことになります。

【「感染拡大は非常に速い。新たな地域でも確認がされている」】
これまでも、海外旅行者が日本帰国後に発症することはしばしばあり、昨年は249人が発症しています。
ただ、今回は日本国内で感染したということで注目されています。

デング熱のウイルスを媒介する蚊は、主にヒトスジシマカとネッタイシマカの2種類です。
感染力はネッタイシマカの方が強いのですが、日本国内に生息するのはヒトスジシマカと見られています。
ヒトからヒトへの感染はありません。

このヒトスジシマカの生息地域は、年間の平均気温が11度以上の地域とほぼ重なっていて、温暖化の影響で北上しているそうです。

戦後の昭和25年に行われた調査では、生息する地域の北限は栃木県の北部でしたが、50年後の平成12年の調査では秋田県の北部で確認、その10年後の平成22年の調査では青森県の一部でも確認されています。【8月28日 NHKより】

対応としては、水たまりなどの清掃といった環境をきれいに保ち蚊の発生を防止すること、体の免疫力を維持して、刺されても発症しないようにすること・・・でしょうか。

WHOによると、世界の総人口の40%以上にあたる25億人以上がデング熱感染のリスクにあり、毎年世界では5000万~1億件のデング熱感染が報告されているそうです。

特にアジア地域では非常に多い疾患で、4年前の2010年にもアジア一帯で大流行しました。
2010年10月13日ブログ「アジア各国でデング熱の感染拡大」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20101013

****デング熱、アジアで感染拡大****
蚊が媒介する感染症で有効な治療法が無いデング熱がアジアで広がっている。英連邦競技大会(コモンウェルス・ゲームズ)が開催中のインドでは、20年ぶりに多い感染者数となっている。

デング熱は感染拡大の速度が最も速い感染症の1つ。世界保健機関(WHO)は、デング熱が「この数十年で劇的に拡大」しており、世界で25億人が感染の危険にさらされていると警告した。

WHO高官によれば、感染の危険にさらされている人のうち70%がアジア地域の人びとだという。

アジア地域で感染が増加した主な原因には、気候変動により気温が上がったことや、人口増加、外国旅行の増加などが挙げられる。

また、都市部の蚊の生息数が急速に増えたことにより、これまでよりも多くの人びとがウイルスに接触する機会が増えたという。

WHOの統計によると、ことしに入り8月までに報告された感染者数がアジア地域で最も多かったのは、インドネシアの8万65人。次いでタイが5万7948人、スリランカが2万7142人だった。

WHOアジア地域のヨゲシュ・チョードリー氏は、デング熱が国内でまん延するだけでなく、これまでに感染例の少なかった国にも広がっていると指摘し、「感染拡大は非常に速い。新たな地域でも確認がされている」と語った。(後略)【10月12日 AFP】
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上記WHO関係者の「新たな地域でも確認がされている」という発言のとおり、今回日本でも・・・という話です。
今後、温暖化が進めば、日本でもマラリアなども発生するのかも。

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マラリア媒介蚊は日本に2種類います。比較的軽症の三日熱マラリアを媒介するシナハマダラカは日本全国に広く分布しています。

一方、重症の熱帯熱マラリアを媒介するコガタハマダラカは沖縄の宮古・八重山諸島に分布していますが、今のところ、沖縄本島では見つかっていません。

温暖化が進めば、沖縄本島から、九州南部、四国の太平洋地域まで拡がるといわれています。【地球環境センター】http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/22/22-2/qa_22-2-j.html
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マレーシアでも感染者・死者が急増
個人的な話になりますが、今度の日曜日から8日間ほど、マレーシアのマラッカに旅行します。
当然、マレーシアはデング熱発生地域ではありますが、「最近の状況はどんなものだろうか?」と調べてみると、あまり芳しくありません。

当局発表によれば、マレーシア国内で今年1月1日~8月2日の7カ月間に見つかったデング熱感染者は5万6810人(昨年同期間は4万756人)、死者は110人(同32人)とのことで、感染者、死者ともに昨年より急増しています。

マレーシア政府当局も対応に取り組んではいるようです。

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マレーシア保健省はデング熱の感染拡大を防ぐための対策を行っており、国民に対しても自宅の周辺などでデング熱を媒介する蚊の繁殖がしやすいような環境を作らないよう呼びかけている。

また、実際に蚊が繁殖しやすいような環境がないかどうか2週間に1度調査を行っているという。

全国の病院ではデング熱の患者に対応するための体制を整えている。【2月8日 エマージング・マーケット】http://response.jp/article/2014/02/08/216807.html
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普段、ゲストハウスみたいな所を利用するときは蚊取り線香を持って行きます。(忘れることも多いですが)
今回のマレーシア旅行は格安(1泊3500円程度)ではありますが、一応ホテルを利用する予定です。

電気蚊取りでも持参しようか・・・でもかさばるし・・・・蚊取り線香はホテル室内では煙いし・・・・と迷っていますが、実際問題としては、デング熱より信号のない道路の横断の方がはるかに危険です。
以前クアラルンプールでは、横断しているとき車にはねられそうになりました。

2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)で大騒ぎになったときも、中国・東南アジア方面の旅行の際、「せめてマスクをして・・・」とも思ったのですが、暑くて1日でやめてしまいました。

まあ、普通の人の危機意識というのはそんなものでしょう。だからこそ、多くのリスクの中でも生きていけるとも言えますが。
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パレスチナ  主要課題棚上げで停戦合意 問われぬ責任 いつかまた“次”が

2014-08-27 23:21:00 | パレスチナ

(停戦を“勝ち取った”ことを喜ぶガザの子供 10年後は戦闘員となり、また戦うのでしょう “flickr”より By Joe Topichak https://www.flickr.com/photos/124795662@N03/14859856048/in/photolist-oD7DuC-oTCmqS-oTNdVw-oDtPQ5-oVqpRr-oVpxak-oU26QU-oDjuLn-oVueeh-oCYwL3-oD82F1-oD82Rm-oD82VQ-oD82SU-oD82Nq-oTvyx1-oD2rMj-oVEkjx-oDy7WU-oTWozW-oDz7MR-oU2qcU-oVEjRD-oTU8W1-oVxkHH-oVxkCx-oVxkMa-oVxkCH-oVxkC2-oVxkMk-oVUc7J-oTAZuq-oD7Dcf-oVJDYc-oV5aSp-oVGAj8-oTWwoG-oTU8BJ-oDtf4N-oV9yHM-oVqiNt-oTNdMW-oDA8uG-oV9z2c-oCVBFm-oD9aAM-oVNRxU-oV4j1z-oDGtn6-oVEkX6)

主要課題先送りで、交渉は難航も
イスラエルとガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスは26日、期限を決めない長期的な停戦で合意し、50日間にわたって続いた両者の戦闘は“ひとまず”収束しました。

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エジプト政府が発表した声明によりますと、合意には、イスラエルがガザ地区の再建を進めるため、経済封鎖を緩和して支援物資や建設資材を円滑に運び入れることや、ガザ地区の沿岸で漁業ができる範囲を拡大することなどが盛り込まれました。

一方で、イスラエルが求めていたガザ地区の非武装化や、ハマスが要求した経済封鎖の抜本的な解除については、1か月以内に交渉を再開するとしていて、先送りされたものとみられます。【8月27日 NHK】
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ガザ地区の非武装化や経済封鎖の抜本的な解除という基本的な課題については先送りして、とりあえず停戦したという感じです。

****ガザ戦闘:停戦合意 和平実現、高いハードル 主要課題棚上げ***
パレスチナ自治区ガザ地区を巡る戦闘で、イスラエルと自治区を拠点とするイスラム原理主義組織ハマスは26日午後7時(日本時間27日午前1時)から、無期限停戦に入り、双方の戦闘は止まった。

停戦合意は、ハマスが要求するガザ封鎖解除やイスラエルが求める武装解除など主要課題について議論を棚上げしたままで、交渉は難航も予想される。

交渉団メンバーのハマス幹部、アブマルズーク氏は「パレスチナの人々による(イスラエル占領に対する)抵抗の勝利を確固たるものにする理解に達し、交渉を終えた」と述べた。

一方、イスラエルのネタニヤフ首相の報道官は同日夜、「エジプトの提案する無期限停戦を受け入れた」とする声明を発表した。

合意では、これまでの交渉で双方の間で隔たりが大きかったハマス側の武装解除や、包括的なガザ地区の封鎖解除など主要課題については約1カ月をめどに協議を進めるとしている。

ハマスのロケット弾攻撃にさらされてきたイスラエル南部の市長らは停戦合意について「テロへの屈服だ」と述べ、政府の対応を批判。南部の住民の約6割は攻撃再開を恐れて避難したままで交渉の行方は不透明だ。

米国のケリー国務長官は同日の声明で「強く支持する」と歓迎する一方、「これは(無期限停戦の)確定ではない」とも明言し、長期的な和平実現には追加交渉が必要との厳しい見通しも示した。

戦闘が本格化した7月8日以降、パレスチナ側は市民を中心に2100人以上が死亡、約10万人が自宅を失った。イスラエル側は兵士64人と市民6人が死亡した。【8月27日 毎日】
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イスラエルについて言えば、今朝のTVニュースによれば、地上戦開始直後は82%にものぼったネタニヤフ首相の支持率が現在は38%に急落しているとのことで、長引く戦闘への不満が表面化しているようです。

また、地下トンネルの相当数を破壊するという現実的戦果も得ていますし、19日の戦闘再開後、2006年のイスラエル兵拉致事件に関与したとされるハマスの軍事部門「カッサム旅団」の幹部3人(うち2人はガザ南部の司令官)を殺害することにも成功しています。

これ以上続けても増大するガザ住民の犠牲に国際批判も高まりますので、もうこのへんで・・・といったところでしょう。

ハマスの方は、ガザ住民の被害が膨らんでおり、不満の矛先がイスラエルと同時に自分たちに向く危険もあります。また、兵士や幹部の犠牲、ロケット弾の消耗など、長引き戦闘の負担が大きくなってきているのではないでしょうか。

7月末時点での、双方の兵器・兵士に関する“収支決算”は以下のようにも報じられています。
8月に入って11日間ほどの停戦期間はありましたが、現在は更に消耗が進んでいることになります。

****ハマスのロケット弾、6割を消費か ガザ戦闘****
パレスチナ自治区ガザでのイスラエル軍とイスラム組織ハマスの軍事衝突で、イスラエル軍は31日までに、今月8日の交戦開始以降、ハマスは保持していたロケット弾の約6割を消費したと主張した。同軍の報道担当者がCNNに明らかにした。

作戦開始の時点でハマス保有のロケット弾総数は推定で約1万発。
このうちイスラエル領内へ発射されたのは2600発以上。イスラエル軍が迎撃ミサイル「アイアンドーム」などで撃ち落としたのは3000発以上としている。

ただ、ハマスはガザ地区内にイスラエル軍が把握していない多数の地下トンネルを築いている可能性があり、より多数のロケット弾の所持も考えられる。

米ワシントン近東政策研究所によると、これらロケット弾の多数はイランやシリアが供与しているが、ガザで製造されているのもある。

アイアンドームのミサイル1発の価格は約6万2000米ドル(約639万円)。これまで500発以上を発射しており、総費用は3100万ドル以上となる。英軍事情報企業ジェーンズによると、同ミサイルの発射装置の製造費は約5000万ドル。

米シンクタンクのランド研究所は、同ミサイルの性能改善はここ数カ月間で顕著だが、イスラエルはコスト増加の問題に直面していると指摘した。

イスラエルが発見、破壊などしたハマスの地下トンネルは今月28日の時点で計32。トンネル破壊がイスラエルの軍事作戦の主要目標の1つだった。ただ、同軍の報道担当者はこれらトンネルの総数の情報は入手していないことを認めた。

同軍によると、地下トンネルの建設費用は1カ所につき約300万ドルとしている。

また、これまでの軍事作戦で殺害したハマスの戦闘員らは300人以上。米国務省はハマスの戦闘員の全体数は数千人規模と見ている。これとは別に民兵組織がありその総数は9000人との情報がある。

一方、イスラエルの正規軍は約17万6000人。今回の作戦に伴い一部の予備役も招集した。予備役兵士の総数は数十万人規模とされる。

同軍は31日、予備役兵士1万6000人を新たに招集していると発表。これで今回の軍事作戦に駆り出された予備役兵士は計8万6000人となった。【7月31日 CNN】
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“「アイアンドーム」などで撃ち落としたのは3000発以上”と“(「アイアンドーム」を)これまで500発以上を発射”の関係はよくわかりません。

いずれにしても、ハマスもロケット弾を無尽蔵に保有している訳でもないですから、一定数を残して停戦しないと“次”がなくなります。相当にロケット弾を消耗していることも考えられます。

イスラエルにとっても、戦闘は金食い虫です。

問われることもない2000人超の犠牲者を出した戦闘の責任
“イスラエル政府当局者は26日、ロイター通信に、今回の合意はハマスが7月中旬に拒否した、無条件での戦闘停止を柱とする停戦案と基本的には同様のものだとの認識を示し、ハマスに大きな譲歩はしていないことを強調した。”【8月27日 産経】

“譲歩”云々はともかく、確かに基本的課題は先送りであり、このような内容で停戦できるならもっと早い段階で停戦できなかったのだろうか、戦闘は避けられなかったのだろうか・・・2000人超える犠牲者はなんだったのか・・・という感もあります。

ハマス側は当然のように“成果”を誇示しています。
“ハマス政治部門のナンバー2、アブーマルズーク氏は26日、ネット上で、停戦合意は「(ハマスによる)抵抗の勝利だ」と宣言”【同上】

“発表を受けて、ガザ地区では、パレスチナの旗を手にした市民が大勢、街に出て停戦を祝っています。”【8月27日 NHK】

TV画像では、停戦を祝う人々の中には銃を手にした覆面のハマス戦闘員風の人物も多く見受けられます。
おそらく「経済封鎖解除を勝ち取った!勝利した!」と誇示するのでしょうが、実際はどうでしょうか?

「停戦を勝ち取った」ということで、多大な犠牲を住民に強いたことへのハマス自身の反省もなく、おそらく住民からその責任を問われることもあまりないのでしょう。

その結果、いつかまた“次”が起こり、さらなる犠牲者がでます。
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リビア  アラブ首長国連邦・エジプトの軍事介入で更に混乱拡大 内戦の恐れ

2014-08-26 23:03:13 | 北アフリカ

(民兵組織の勢力争いの舞台となった首都トリポリの国際空港 “flickr”より By zoom tony https://www.flickr.com/photos/120919226@N08/14844506810/in/photolist-oBKYGA-oTaEJ4-oV9TZJ-oBZXjz-oA8aD4-oNFk4Y-oApRUd-oRh6Rn-oTaCEL-oSu9pA-oSDXK9-oyWqca-oCB7VD-oAYNF1-oQ7amz-oPmh5D-oQm1S9-oSk43a-oPT4Wi-oR9NDC-oNYrVQ-oC3f69-oSwQHm-oyvZCZ-oyB97d-oPCWbG-ozHCKK)

民兵組織の勢力争いにイスラム主義への距離感も絡んで混乱拡大
混乱が拡大するリビア情勢については、7月29日ブログ「リビア 首都でも東部でも戦闘が続く  議会選挙はリベラル勢力勝利か」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140729)でも取り上げましたが、様々なイスラム武装勢力や民兵組織があちこちで戦闘を行っており、一体誰と誰が戦っているのか? 政府はどういうスタンスのなのか? 政府軍はどのように関与しているのか? 選挙が行われた議会はどうなったのか?・・・等々、断片的な情報だけでは全体像が分かりづらい混乱状態となっています。

下記記事では、そのあたりの国際空港を中心とした首都トリポリにおける戦闘、政府・議会の対応などについては、比較的わかりやすく整理されています。

****リビア、内戦状態 民兵の抗争激化、政府も分裂****
3年前にカダフィ政権が崩壊したリビアで、民兵組織間の戦闘が激化している。

ほとんどの外国大使館は退去し、首都の国際空港も閉鎖。政府や議会が民族派とイスラム派に分裂して統治機能を失っている。弱体な国軍は民兵を抑えられず、ほとんど内戦再発の状況になっている。

アラビア語衛星放送アルジャジーラの報道によると、首都トリポリの国際空港が23日、首都の東方のミスラタを拠点とするイスラム系民兵組織によって制圧された。

首都では、今年7月初めから、ミスラタ民兵組織と首都の南西のジンタンを拠点とする民兵組織が、戦闘を続けていた。

ジンタンの民兵組織は、部族有力者や旧カダフィ政権から離反した旧政権幹部などからなる民族派と連携しているとされる。

空港を巡る戦闘は、今月17日から18日にかけて、ミスラタ民兵の拠点に正体不明の爆撃機による攻撃があったことをきっかけに激化していた。

空港では、エジプトとチュニジアからの航空便が飛んでいたが、空爆以来、運航は止まった。

 ■首都は停電続く
トリポリでは停電が続き、市中心部で民兵同士の銃撃戦が起きてほとんどの外国人が退去している。在リビア日本大使館は7月下旬にカイロに退避した。

ジンタンとミスラタの両民兵は、2011年8月に北大西洋条約機構(NATO)の支援を受けた反カダフィ勢力がトリポリを陥落させた時には、首都を挟み撃ちして攻略した。
首都陥落後にはともに治安維持に当たっていたが、徐々に勢力争いが始まった。

カダフィ政権崩壊後、12年に選挙をへて制憲議会が発足した。政府や議会は民兵の国軍への編入を進めたが、弱体な軍は編入された民兵組織を統率できず、民兵は編入後も、元の組織の司令官や、ジンタンやミスラタなど本拠地とのつながりを維持した。

同時に議会では、民族派と旧反体制組織の「リビア・ムスリム同胞団」などのイスラム系勢力の対立が起きた。民族派はジンタン民兵と、イスラム派はミスラタ民兵と連携。民兵が各派の要人や省庁の警護にあたるなど政治勢力と民兵勢力の結びつきが生まれていた。

こうしたなかで今年6月、新憲法ができないまま、制憲議会に代わる暫定議会議員選挙があり、民族派が多数となった。

暫定議会は混乱を避け、8月初めにエジプト国境に近い東部のトブルクで初会合を開いた。しかし、イスラム派は「(トブルクでの会合は)無効だ」としてボイコット。

政府は制憲議会時代に任命された民族派に近いサニー暫定首相がそのまま政務を仕切っているが、ほとんど機能していない。

 ■停戦交渉進まず
国連リビア支援派遣団(UNSMIL)のレオン代表は抗争する民兵間の停戦を提案しているが、交渉は進んでいない。

イスラム勢力の台頭を嫌うエジプトやアラブ首長国連邦(UAE)などが民族派を支援しているともされ、抗争はより広域化しかねない。

一方、東部のベンガジでは、別の武装勢力同士の抗争が同時に続いている。
対立するのは、国際テロ組織アルカイダともつながり、議会を否定するイスラム過激派「アンサール・シャリーア」と、元国軍将軍のハフター氏が率いる民兵組織。

アンサール・シャリーアは、12年秋に起きたベンガジ米領事館襲撃事件で米大使殺害に関与したとされる。【8月25日 朝日】
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首都トリポリでイスラム系民兵組織「ミスラタ」と戦う民兵組織「ジンタン」は、東部ベンガジでイスラム系組織と戦う元国軍将軍のハフター氏と連携していると言われています。

この元国軍将軍のハフター氏や民兵組織「ジンタン」を、記事によっては“リベラル派”“右派”とも称しています。イスラム系武装勢力と対立する“世俗派”といういうとでしょう。上記記事では“民族派”とされています。

“弱体な軍は編入された民兵組織を統率できず、民兵は編入後も、元の組織の司令官や、ジンタンやミスラタなど本拠地とのつながりを維持した”ということで、ときにハフター氏の意を受けて政府軍特殊部隊がイスラム勢力を攻撃したりもしています。

議会も機能せず
従来の制憲議会ではイスラム主義勢力が優勢でしたが、6月の選挙で発足した暫定議会においては“世俗派”が多数を占めるところとなりましたが、イスラム資力はこれをボイコットしています。

選挙は新憲法策定を担う制憲議会が世俗派武装組織の圧力を受けて解散したことに伴うもので、暫定議会が新憲法成立までの間、暫定的に国会の役割を果たす位置づけとなっています。


****リビア:暫定議会を初招集 イスラム政党がボイコット****
6月の選挙によるリビア暫定議会(定数200)が4日、東部トブルクで初招集された。

首都トリポリや東部ベンガジで世俗派民兵とイスラム武装勢力の武力衝突が続き、エジプト国境に近いトブルクで本会議を開く異例の事態となった。

さらに、イスラム政党が議会をボイコットし、国内分裂の根深さも浮き彫りとなった。

選挙では治安悪化のために一部選挙区で投票が行われず、12議席が欠員となった。

AP通信によると、4日の本会議には当選者188人のうち、世俗派を中心に少なくとも144人が出席。
イスラム組織ムスリム同胞団系などのイスラム政党は「トリポリで国会を開くべきだ」と主張しボイコットした。

暫定議会は、憲法制定後に正式な国会が発足するまで立法機能を担う。

当初は中央政府に不満を抱く東部の部族勢力に配慮し、東部の主要都市ベンガジで開かれる予定だった。
しかし、7月中旬以降に世俗派民兵とイスラム武装勢力の衝突が激化したため、トブルクに変更になった。

双方の衝突は4日もトリポリやベンガジで続き、7月以降の死者は230人に上った。
世俗派には政府軍の一部も加勢している。トリポリでは国際空港が破壊され、大型燃料タンクへの砲撃も相次いでいる。

ベンガジではイスラム武装勢力が優勢で、特殊部隊の基地などを占拠している。内戦状態になったことから、日本や欧米諸国は大使館を一時的に閉鎖。外国人労働者も陸路で次々と出国している。【8月5日 毎日】
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UAE・エジプトがイスラム勢力を空爆
重要拠点であるトリポリの国際空港を巡っては、上記記事にもあるように7月中旬から、これまで空港を抑えていた世俗派民兵組織「ジンタン」とイスラム系民兵組織「ミスラタ」が激しい攻防を続けていましたが、「ミスラタ」が掌握するところとなっています。

この状況で、イスラム武装勢力側が所属不明の航空機により爆撃を受けたことで、混乱は周辺国を巻き込む形で拡大しています。
“22日夜の空爆では戦闘員13人が死亡、20人が負傷した。これに先立つ18日夜にも、所属不明の航空機2機が軍事拠点を空爆したという。”(空港を掌握したイスラム武装勢力側の発表)【8月24日 AFP】

この“所属不明の航空機”はアラブ首長国連邦(UAE)のもので、エジプトが基地を提供していると報じられています。

****<UAE>リビアの武装勢力を空爆 エジプトと連携し****
米ニューヨーク・タイムズ紙は25日、複数の米政府高官の話として、アラブ首長国連邦(UAE)とエジプトが連携し、リビアのイスラム主義武装勢力を2回空爆したと報じた。

リビアでは首都トリポリでイスラム主義勢力が空港を焼き打ちするなど戦闘が続いており、米国と欧州の4カ国は同日、共同声明で即時停戦を求めた。

同紙によると、空爆について米国は事前に相談されなかったといい、事後もエジプト政府は実施を否定した。UAEも認めていない。

空爆が事実ならば中東の「親米国」に対する米国の影響力が低下していることを示す事例と言える。

空爆は過去1週間に実施され、いずれも首都周辺のイスラム主義武装勢力の拠点に打撃を与えた。UAEが機材とパイロットを提供し、エジプトが基地を提供したという。

UAEもエジプトも、イスラム主義組織のリビアや他の中東諸国での台頭に懸念を強めており、空爆の背景になったとみられる。米ホワイトハウスや国務省は空爆の公式確認は避けた。

リビアではトリポリや第2の都市の東部ベンガジなどで世俗派民兵とイスラム主義勢力が武力衝突を続けている。

米国と英仏独伊の4カ国は25日の声明で停戦を求めるとともに、リビア政府や暫定議会に国内各派の意向を反映した融和的政策を実施するよう求めた。【8月26日 毎日】
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“空爆は世俗主義勢力を支援するためで、秘密裏に行われた。エジプトとUAEは、両国と関係が深い米国にも空爆を通告しなかったという。”【8月26日 読売】ということですが、実際のところはもちろんわかりません。

本当にアメリカへの通告がなかったのなら、“中東の「親米国」に対する米国の影響力が低下していることを示す事例”とも言えるでしょう。どうしていちいち「世界の警察官」でもないアメリカの承諾がいるのか・・・と言えば、そのとおりではありますが。

ただ、2012年9月にベンガジの米国領事館が襲撃されて米大使らが死亡した事件が、アメリカ国内的にオバマ政権・クリントン国務長官(当時)に対する責任問題となっています。

いつまでそんなことを・・・とも思える議論ではありますが、いずれにしてもオバマ政権はこれ以上リビアに関わりを持ちたくない・・・そんな雰囲気もあるのではないでしょうか。

ただでさえ、「イスラム国」をめぐってシリア領内でも空爆すべきかどうかで揉めているのに、更にリビアの空爆など表立って相談されても困るでしょう。

少なくとも、おいそれと関与する訳にはいかないので、仮に相談されても「やるなら、勝手にやってくれ」という話にもなるのでは。

これでリビアの混乱が、UAE・エジプトを巻き込んでますます深まったことは間違いありません。

****独裁崩壊3年、内戦の恐れ=中東諸国の軍事介入も―リビア****
2011年のカダフィ独裁政権崩壊から3年たったリビアで武装勢力同士の対立が激化し、内戦に陥りかねない情勢となっている。

事態の泥沼化が続き、混乱収拾は当面難しい。
各地で続く部族間の武力衝突に「国家のイスラム化」をめぐる争いも絡む。

中東地域でのイスラム勢力伸長を警戒するアラブ首長国連邦(UAE)は限定的な空爆による軍事介入に踏み切ったもようだ。(後略)【8月26日 時事】
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「カダフィ政権時代に(内戦を)経験したが、今の状況の方がずっと悪い」「混乱が支配している無政府状態で、食料や燃料、水、電気の供給が長時間途絶えている」(国外に退避したリビア在留外国人)【8月3日 AFP】という声も出ています。
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トルコ  エルドアン首相、大統領に鞍替え 憲法改正で「強い大統領」を目指す

2014-08-25 21:51:02 | 中東情勢

(後任の首相に自身の側近であるダウトオール外相(左)を指名したエルドアン首相(右)【8月22日 ロイター】)

熱心なイスラム教徒や低所得層を中心に絶大な人気
トルコで8月10日に行われたトルコ初の直接選挙の大統領選において、予想されたように現首相の首相のレジェップ・タイイップ・エルドアン氏(60)が52%の得票率で勝利しました。

主要野党の統一候補としてイスラム協力機構(OIC)のイフサンオウル前事務局長(70)と、クルド人のデミルタシュ氏(41)も出馬しましたが、得票率はイフサンオウル氏が約36・6%、デミルタシュ氏が9・6%にとどまりました。

首相3期目のエルドアン氏は、与党公正発展党(AKP)の内規でこれ以上の首相続投は不可能なことから今回、大統領選にくら替え出馬したものです。

****トルコ:大統領選出のエルドアン氏 世俗派との融合課題****
2002年から3期連続の単独政権を達成した公正発展党(AKP)の創設者。圧倒的な存在感とカリスマ性から国父的存在と言われる。

イスタンブール郊外の下町に育った。大柄で筋肉質。サッカー好きでプロのチームから誘いが来るほどの腕前だったが、敬虔(けいけん)なイスラム教徒の父親の強い勧めで宗教指導者養成校に入学。マルマラ大学経済商学部に進学し、政治活動を始めた。

1994年、イスタンブール市長に当選。98年、イスラム教をたたえる内容の詩を集会で朗読して政教分離違反で逮捕され、4カ月服役した。

01年、「イスラムの伝統を重んじた民主主義」を掲げてAKPを結成した。
徹底した「どぶ板選挙」で知られる。

熱心なイスラム教徒や低所得層を中心に絶大な人気があり「英雄」と呼ばれる。

だが最近は酒の販売規制や人前でのキスの禁止などを奨励して、世俗派が「イスラム回帰」と反発。昨年夏には大規模な反政権デモに発展し、メディアなどを徹底的に弾圧して「独裁者」とも評された。

今後、大統領の権限を拡大し、政教分離を定めるトルコの国是をゆがめるような事態となれば、世俗派との溝はさらに深まる。

国家の象徴として国民融合を図るのか、新たなる分断をもたらすのか。かじ取りが注目される。
エミネ夫人との間に2男2女。【8月13日 毎日】
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首相としての功績
エルドアン首相はトルコ経済を牽引し、外交においても地域大国としての存在感を示し、ひところはイスラム民主主義のモデルとも見られていました。

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在任11年に及ぶ首相としての功績も、それと同じくらい輝かしい。AKPが政権を握った2002年11月以降、経済成長率は平均およそ5%で推移してきた。インフレは抑制された。

軍もしっかりした文民統制下に置かれた。

トルコのクルド民族の権利拡大については、エルドアン氏は過去のどの政治指導者よりも大きな進展を遂げた。

そして2005年には、歴代首相が誰一人として成し得なかったことをやってのけた。欧州連合(EU)と加盟交渉を始めたのだ。(後略)【8月16日号 英エコノミスト誌】
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軍部は、エルドアン首相・AKPのようなイスラム主義台頭を警戒する世俗主義の牙城であり、最大の既得権益層であった訳ですが、エルドアン首相はこれまで度々イスラム主義政権を引き摺り下ろしてきた軍部との権力闘争に勝利し、その政治的影響力を抑え込むことに成功しました。

トルコ内のクルド人勢力はトルコ民族主義からは警戒される存在ですが、そのクルド人の権利を一定に拡大することで、クルド系住民の選挙でのエルドアン・AKP支持を獲得しました。

トルコ経済が「中所得国の罠」を抜け、ランクアップするために必要とされるEU加盟については、後述のようなエルドアン首相の強権支配が強まるにつれてEU側の不信感が強まり、現在は加盟交渉は殆ど停滞しています。

もともとEU側にはイスラム国トルコへの強い警戒感がありますので、エルドアン首相が進めるイスラム主義及び強権支配体制によって、加盟の可能性は非常に低いのが実情です。

また、大学など公の場での女性のスカーフ着用(トルコではイスラム主義の表明とみなされる)を認める法案を成立させるなど、信条でもある穏健なイスラム主義を推し進めています。

強まる強権支配傾向
ゆるぎない権力と名声を手にしたエルドアン首相ですが、昨年夏の反エルドアンデモを力で封じ込めた対応のような強権支配傾向が強まっていることが指摘されています。

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しかし、エルドアン氏がアンカラのチャンカヤ宮殿(大統領官邸)の主になることを憂慮すべき理由もある。

軍と世俗的な支配階級、政界野党が皆、エルドアン氏を恐れるようになると、同氏は独裁色を強めていった。

昨年夏、トルコの市民が街頭に繰り出し、ゲジ公園で抗議デモを行った際、同氏の取った対応は、催涙ガスを持った機動隊を出動させることだった。

昨年、エルドアン氏の家族までをも巻き込む汚職スキャンダルが勃発すると、司法をより強固に掌握した。
批判に対しては、エルドアン氏は自由なメディアや個々のジャーナリストを攻撃し、インターネットを検閲しようとした。(後略)【8月16日号 英エコノミスト誌】
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憲法改正で大統領権限強化を目指す
エルドアン首相は大統領へ鞍替えするにあたり、これまで儀式的だった大統領職にフランスのような大きな権限を与えようと考えています。

そのためには憲法改正が必要になり、憲法改正のためには議会で3分の2の賛成が必要です。

もし、このエルドアン首相の計画が実現できれば、エルドアン氏に権力が集中した現行体制が続くことになります。

その計画に向けて、大統領職を手にしたエルドアン氏の次の布石は、次期首相に自身の傀儡を据えることです。

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エルドアン氏の意図を試す最初の試金石は首相選びだ。

8月中旬、大統領を退任するアブドラ・ギュル氏が首相の座を目指す意思を表明した。ギュル氏は国内外で広く尊敬を集めるだけでなく、短い期間だが、かつて首相を務めたこともある。

そのうえ、同氏はAKPの共同創設者の1人として、エルドアン氏と張り合えるだけの政治的影響力を持っている。(後略)【8月16日号 英エコノミスト誌】
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過激な言動が目立つエルドアン首相に比べ、ギュル大統領は穏健で広く信頼されていますが、近年は政治姿勢を巡って両者の間に溝が生じていることも指摘されています。

“最近ではエルドアン政権が反対派による汚職追及キャンペーンを封殺するため、インターネットを規制したことにギュル大統領が公然と異議を唱えるなど、2人の対立が表面化していた。”【8月25日 産経】

昨年末頃、イスラム主義内部におけるエルドアン首相とギュレン師の率いる「ギュレン運動」の確執が注目されましたが、ギュレン派はギュル大統領が首相に就任してエルドアン大統領の権限に歯止めをかけることを期待していました。

結局、エルドアン氏は次期首相には、煙たい存在のギュル大統領ではなく、自身の側近を起用しました。

****経済面の手腕、未知数 トルコ次期首相、ダウトオール氏***
大統領選に当選したトルコのエルドアン首相は21日、首相の後継者にダウトオール外相を選んだ。
外交手腕に優れた右腕とも言える存在だ。

ただ、トルコの政権で最も重要な経済運営は未知数。主要経済閣僚に誰が就くかが、「エルドアン体制」の今後を左右する。(中略)

大学教授の経験から生まれた柔らかな語り口は「敵を作らない」とも言われる。2009年から務める外相では、時に過激な発言で国外と摩擦を引き起こす首相の「火消し役」として、欧米からの高い評価を受けていた。

ただ、経済面での実績はない。エルドアン体制が継続してきた最大の理由は、1人あたり国内総生産(GDP)をこの10年で約3倍に引き上げた経済発展だ。2010年のGDP成長率は9・2%を記録した。

最近は成長にも陰りが見え、14年のGDP成長率予想は2・2%にとどまる。経常赤字体質に9%台の高インフレ、高金利に加え、中東情勢の不安による輸出減の懸念もある。

誰もが注目するのは、トルコ経済を支えた最大の功労者であるババジャン副首相の去就だ。ただ、ババジャン氏は昨年12月に発覚した政権の大規模汚職などを嫌い、再入閣を拒んでいる。【8月23日 朝日】
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エルドアン首相の“ギュル氏排除”はかなり露骨だったようです。

****エルドアン・トルコ次期大統領 権力固めへ後継党首は最側近****
 ■かつての盟友・ギュル氏“締め出し”
トルコ大統領選に勝利したエルドアン首相(60)が、28日の大統領就任前に党内権力の強化を進めている。

イスラム系与党・公正発展党(AKP)の後継党首に最側近のダウトオール外相(55)を指名。
かつての盟友で、党重職への復帰に意欲をみせていたギュル大統領(63)憲法規定で党籍離脱中=を実質的に締め出し、次世代にも影響力を拡大することで、党内基盤をいっそう強めそうだ。

ギュル大統領はエルドアン首相の勝利から一夜明けた今月11日、退任後は「(自身が)創設に深く関わったAKPに戻るのが自然だ」と述べ、再び党内で指導的役割を担うことに意欲を示していた。

トルコ憲法は大統領が在職中、特定の党に所属することを禁じており、ギュル大統領の発言は、エルドアン首相の党首退任後を見越したものとも受け止められた。

ところが、エルドアン首相側は、後継党首を正式に決める臨時大会を大統領就任式の前日となる27日に開催すると決定。ギュル大統領の復党が不可能な時期に開催することで、影響力の排除を狙ったと受け止められている。(中略)

一方、後継党首に指名されたダウトオール外相は、エルドアン首相の最側近として知られる。

指名の背景について、トルコ有力英字紙ヒュリエト・デーリー・ニューズ(電子版)は、エルドアン首相が「簡単に操れる人物を後継に求めた」ことがあると指摘する。

エルドアン首相が権力を固めるため、AKPの世代間闘争を利用しているとの見方も強い。結党時からの「第1世代」を代表するギュル大統領を排除し、比較的若い世代のダウトオール外相らを重用することで、影響力を次世代にも拡大させたいとの思惑だ。

来年6月には総選挙が予定されており、AKPが大勝すれば、エルドアン首相が目指す大統領権限の大幅強化に向けた憲法改正が現実味を増す。

行き場を失ったギュル大統領が新党結成に動くとの観測もあり、今後の去就にも注目が集まっている。【8月25日 産経】
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来年6月の総選挙がでAKPが大勝し、エルドアン首相が目指す大統領権限の大幅強化に向けた憲法改正が実現・・・ということになれば、エルドアン大統領はミニ・プーチン化することが懸念されます。
国民融合と言うよりは、反対派は力でねじ伏せる方向でしょう。
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タイ  暫定首相へ選任で、プラユット陸軍司令官の権力が更に強化 懸念される軍事独裁化

2014-08-24 23:04:30 | 東南アジア

(プラユット陸軍司令官・国家平和秩序評議会議長・暫定首相 軍服姿とスーツ姿 【8月21日 WSJ】)

軍政の独裁状態が強まる
タクシン元首相支持勢力と反タクシン派の長年の対立・混乱でマヒ状態になったタイでは、5月22日に軍部クーデターが起き、プラユット陸軍司令官が全権を掌握し、今も戒厳令が敷かれたままです。

プラユット陸軍司令官は、これまでも軍事政権・国家平和秩序評議会の議長として三権を凌駕する権限を有していましたが、このたび国民立法議会(暫定議会)によって暫定首相に選ばれ、日常の国政運営も直接担うことになりました。

そもそも暫定首相を選んだ国民立法議会なるものが、国家平和秩序評議会がその議員を指名したもので、200議員のうち、現役・退役軍人を含む軍関係者が105人を占めるという軍主導のものです。

今回のプラユット陸軍司令官の暫定首相受諾は、民政移管までに軍部によって、軍部が意図する内容の“改革”を断行するとの強い意志の表れに見えます。

****タイ、強まる独裁色 暫定首相にプラユット陸軍司令官 全議員が「同意*****
タイ軍政トップのプラユット・チャンオーチャー陸軍司令官(60)が21日、クーデター後にできた国民立法議会(暫定議会)によって暫定首相に選ばれた。国王承認をへて正式に就任する。

軍政が示した行程では、民政移管まで1年余。この間に、独裁色をさらに強めた軍政が進める「改革」が、タイの将来を左右する。

午前10時に開会した議会で首相候補として提案されたのは、プラユット氏だけ。

投票は、議員が1人ずつ同意か不同意を表明する形で行われ、投票をしない正副議長計3人を除く191人全員が「同意します」と述べた。

議員は、プラユット氏が議長を務める軍事政権・国家平和秩序評議会が7月末に任命。その半数以上が現役・退役軍人だ。

この間、プラユット氏はバンコク近郊にある陸軍基地で過ごした。報道陣の「首相の責務は重いが、心配はないか」との質問に「心配はない」と答えた。

暫定首相に就いたプラユット氏にはさらに権限が集中し、軍政の独裁状態が強まる。

そもそも、7月にできた暫定憲法は、国家平和秩序評議会議長として、プラユット氏に「国家の安定に必要な場合」、行政、立法、司法の三権すべてに命令できると規定する。加えて、日常の国政運営も直接担うことになるからだ。

軍政は今後、民政移管後にも及ぶ制度改革と新憲法の起草を進める。新憲法は国民投票にかけずに制定できる。

一連のプロセスが示すのは、プラユット氏を頂点とする軍政が誰にも口を挟ませずに「改革」を断行する、との意向だ。それを支える戒厳令も、当面解除される見通しはない。【8月22日 朝日】
********************

なお、“月内にも発足する暫定内閣は、タナサック国軍最高司令官やプラジン空軍司令官、ナロン海軍司令官ら軍人が内閣の枢要ポストを固める「軍人主導型内閣」となる見込み。”【8月21日 時事】とのことです。

批判を許さない軍政
問題は、「改革」を軍部の力で推し進める方法であり、また、軍部・プラユット暫定首相が意図する「改革」の中身です。

いつ果てるとも知れないタクシン派・反タクシン派の抗争に疲れたタイ国民の大半は、軍部の力による統治と改革を支持しています。

8月に行われた世論調査では、軍人ばかりになる暫定議会について48%が「満足」、38%が「非常に満足」と回答しています。【8月6日 産経より】

一部の反政府活動家以外の大半の国民にとって、差し当たりは絶対的権力の非情な側面は自分には無縁のものであり、混乱を鎮めて安定をもたらしてくれる頼もしい存在に見えます。古今東西の多くの独裁者と国民世論の関係のように。

しかし、その絶対的権力がいったん暴走し始めると、もはや誰も止めることができません。

民主主義というのは、時間と手間をかけながらもそうした危険を防止する装置・システムであるはずですが、円滑に機能するためには意見の違いを収束させる政治的技術を必要とします。

少数派は選挙結果や議会における多数決を一定に受容する、多数派は少数派の批判を受け止め、その意思を一定に汲み取る・・・・。

政治混乱の決着を繰り返される軍事クーデターた国王の仲裁に頼ってきたタイ民主主義には、未だその政治技術が育っていないと思われます。

一部には、そうした傾向をタイ民主主義の“独自性”として認める向きもありますが、自らの手で混乱を収束できない未熟さ・限界と見るべきでしょう。

****動けない批判勢力****
クーデターから22日で3カ月。バンコクには兵士の姿はなく、表面上は普段の暮らしが戻っている。

しかし、軍政を批判する自由はなく、タクシン派の政党や団体の幹部、クーデターに批判的な言論人などは監視下に置かれている模様だ。

インラック政権で副首相の一人だった人物は匿名を条件に「党の会議が禁じられ、今後の戦略を議論できない。今は、じっとしているしかない」と語った。

軍政に批判的な人々には「軍政が居座らないか」との心配も芽生える。プラユット氏が「国民の協力がなければ現状は延長される」とも述べているからだ。

クーデターが繰り返されてきたタイで、国民や国際社会が軍に寛容だったのは、政治混乱を収めた後、民政復帰するタイミングが比較的早かったためだ。

タイは、日系企業約4千社が進出する日本の産業界にとって有数の生産拠点。軍政が民政復帰の行程表を越えて続くようなら、日本政府も企業も寛容であり続けるわけにはいかなくなる。【8月22日 朝日】
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音楽やダンスなども使ったソフト路線で「国民和解」を演出している軍部ですが、批判は一切許されていません。

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・・・・クーデター後のタイの大きな変化は、デモ隊による騒乱状態が解消されたことです。
バンコク市内は平穏が保たれています。治安の回復は多くの国民が望んでいたことですが、これは軍政による厳しい締め付けによるものです。

今も戒厳令が出されたままで、5人以上の集会は禁じられています。クーデター批判や王室に対する不敬罪の取り締まりが強化され、数百人の活動家やジャーナリストが拘束されました。Facebookも一時遮断されるなど言論と表現の自由はほとんど認められていないのです。・・・・【8月19日 NHK「時論公論」】
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帰国したインラック前首相に対する軍部・プラユット暫定首相の扱いも注目されます。

****前首相、2週間ぶり帰国=刑事告発に徹底抗戦―タイ****
外遊中だったタイのインラック前首相が10日夜、約2週間ぶりに帰国した。

インラック氏は首相在任時の政策遂行で刑事責任を追及されており、それを逃れるためタイを出国したまま海外逃亡を続けるのではないかとの観測が浮上していた。

地元メディアによると、前首相はシンガポールからチャーター便でバンコク郊外のドンムアン空港に到着。人目を避けるため、同空港の裏口から車に乗り込んだという。

タイ国家汚職追放委員会(NACC)は、インラック前政権が推進した「コメ担保融資制度」の運営をめぐり、前首相が職務怠慢で国家に巨額の損失を与えたとして、5日に前首相を検察に告発。

前首相の代理人は告発がずさんな捜査と不十分な証拠に基づいているとして、徹底抗戦の構えを見せている。【8月11日 時事】 
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タクシン派排除の「改革」】
軍部・プラユット暫定首相が意図する「改革」の中身については、「国民和解」とは言いつつも、実質的にはタクシン派排除を狙ったものになると推測されています。

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今のタイをひと言で言うと、タクシン氏の支持基盤である北部や東北部の農家や都市部の低所得者層、つまりかつて支配階級に抑え込まれていた声なき人々が、富の分配と平等を求めて立ち上がったのに対し、既得権益を守ろうと王室に近いエリート層や知識階級、都市部の中間層などが抵抗、それを軍が支えている。これが今のタイの対立の構図です。【8月19日 NHK「時論公論」】
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反タクシン派からすれば、タクシン派への農民・貧困層の支持は、インラック前政権が推進した「コメ担保融資制度」のようなバラマキ政策などによって“金で買われたもの”であり、そのように金で買われる無教養な農民・貧困者には国政に参画する資格がない・・・という話にもなります。

ただ、特定階層を手厚く遇する施策というのはどこの国でもあります。
(日本でも生産者米価はかつて、非常に“政治的”に決定されていました)

その必要性やコストも考慮しながら、選挙・議会でその妥当性・是非を判断すべきものであり、選挙制度をいじったり、選挙を回避したりする理由にはならないように思います。

****タクシン派排除が狙いか****
軍政が実現しようとする「改革」とは何か。今のところ、軍政は「真の民主主義を実現して国家を前進させる」とうたうだけだ。

今回のクーデターは、インラック政権の打倒を目指した政治混乱が引き金となった。インラック氏は、2006年のクーデターで政権を追われたタクシン元首相の実妹。

懸念されるのは、改革の方向性がタクシン派の封じ込めや排除に偏り、議会制民主主義の原則から逸脱することだ。

タイでは、国王を頂点に軍や官僚、財閥、知識人層が支配層を形づくってきた。
だが、タクシン派は多数派の農民や労働者の支持を集めることに成功し、選挙で勝ち続けてきた。

これを阻止することが「改革」だとすれば、「ゆがんだ制度をつくるしかない」(タクシン派政権の元閣僚)。

地元報道によると、反タクシン色が強いとされる選挙管理委員会が非公式に提出した改革案には(選挙をへない)任命議席の拡大、下院議員の立候補資格を大卒以上に、連続3選の禁止などが含まれている。【8月22日 朝日】
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欧米からの批判 中国への接近 ミャンマー軍事政権化
欧米諸国はこうしたタイ軍政に批判的で、すみやかな民政復帰を求めていますが、タイ軍政はこれに反発し、中国との関係を強めています。

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アメリカやEU、それに日本はクーデターを批判し、とくにアメリカは軍事協力や要人の交流を凍結するなど厳しい措置をとってきました。

ところが各国がタイと距離を置いている間に中国が関係を強化しています。
軍政はクーデター直後から中国に接近し、凍結したインラック政権によるプロジェクトのうち中国が関連する高速鉄道計画は復活する見通しです。これでは民主化を促す国際社会の圧力も効果が薄れてしまいます。【8月19日 NHK「時論公論」】
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かつてタン・シュエ議長が軍事独裁政権を率い、今は民主化を進めるミャンマーとは逆コースをたどっているようにも見えます。

****タイとミャンマー 民主化への苦闘に目配りを 柴田直治*****
・・・・キンオーンマーさんとヤンゴンの喫茶店で会った。88年に国を離れ、タイを拠点に民主化活動を続けた。入国禁止が解除された2012年10月に帰国。タイでは92年と06年のクーデターを経験した。

「タイ人は自国の民主主義は他国と違うと主張するが、自信過剰だ。クーデターはクーデター。軍の本質は変わらない」

両軍政に共通点は多い。なかでもタイの軍政がテレビ局を相次いで閉鎖、ネットも含めて検閲を徹底させ、集会を禁止している点は「ビルマモデルを踏襲したのでは」(国境なき記者団)とみられている。

・・・・タイには日系企業4千社が進出し、ミャンマーは「最後のフロンティア」といわれる。

気になるのは、日本の経済界や在留邦人から「政治が安定する軍政は経済にプラス」「クーデターは日本でいえば政治改革」「大統領はやはり軍出身者がいい」といった声が聞こえてくることだ。

民主化への苦闘に無頓着すぎないか。【7月25日 朝日】
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経済政策は「タクシノミクス」で
なお、バラマキ政策、ポピュリズム等の批判が強いタクシン派の経済政策ですが、タクシン派を政治排除しようという暫定政権の経済政策も基本的にはタクシン派の政策と同じ路線になりそうです。

****タクシン抜きの「タクシノミクス****
・・・・3人目として最も注目すべきは、NCPO(国家平和秩序評議会)諮問委員に就任し、外交・国際経済分野(主に対中・対日関係)を担当するソムキット・チャトーシーピタック(曾漢光)だろう。

タクシン政権(2001年-06年)においては経済担当副首相兼商務相などを担当し、(1)農民債務の一時モラトリアム(支払猶予)(2)村落開発基金創設(3)OTOP(1村1品運動)(4)不良債権問題早期解決のための政府主導資産管理会社(TAMC)創設――などを柱とする「タクシノミクス」の立案・推進者として辣腕を揮い、一時は内外から半永久政権とまでいわれたタクシン政治にとっての最大の功労者と評価されたほど。

他の諮問委員の顔ぶれからして、ソムキットがNCPOの経済政策の柱と見て間違いないだろう。

タクシン政治打倒を掲げてクーデターを推進したNCPOが、国軍幹部にとって最大の弱点といわれる経済政策を、タクシン政権の経済・財政部門最大の功労者に委ねるというのだから、なんとも奇妙な話だ。

だが、現在のタイを考えた時、政治家としてのタクシン個人はともかくも、こと経済・財政政策に関するかぎり、「タクシノミクス」が最も現実的な手法ということになりそうだ。

だとするなら、インラック政権打倒(=タクシン政治根絶)を掲げた運動から今次クーデターを経て現在に至る一連の政治過程の持つ意味が、朧気ながら浮かびあがってくる。

先ずはタクシン排除ありきではあるが、その真意はABCM複合体(Aristocrat=王室、Bureaucrat=官僚、Capitalist=財閥、Military=国軍)による“永続的な富の独占”――こう考えるのは、穿った見方に過ぎるであろうか。【8月16日 樋泉克夫氏 フォーサイト】
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ウクライナ東部  強行突破したロシアの支援トラック団  攻勢を強める政府軍  26日に多国間首脳会議

2014-08-23 22:47:00 | 欧州情勢

(20日夜 ウクライナ首都キエフの独立広場で行われた軍事パレード https://www.youtube.com/embed/TrBlHJOfikM?rel=0 )

ウクライナ「許容しがたい国際法違反だ」 ロシア「これ以上の遅れは容認できない」】
ウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力との戦闘が続くウクライナ東部へのロシアによる大規模な支援物資移送トラック団(280台)については、援助物資だけでなく武器・弾薬等が隠されているのではないか、人道支援を名目にしたロシアの軍事介入ではないか・・・との疑惑もあって、ロシア側が強行すれば新たな火種になることも懸念されていました。

ロシアによれば、支援物資は食料、医薬品、寝袋など12種類の計1856トンとされており、12日にモスクワを出発。

当初は戦闘地域を避けるため、ボロネジからウクライナ北東部ハリコフ州を経由してドネツク、ルガンスク両州に入る予定でしたが、ウクライナ側が拒否したため、ルガンスク州との国境に向かうルートへ変更。

ウクライナ政府は16日、「赤十字国際委員会(ICRC)による人道支援物資」と認める決定を出し、赤十字国際委員会(ICRC)が活動主体となることを条件に移送が認められる運びとはなりましたが、中身のチェックが進まず、トラックは検問所に留め置かれる状態が続いていました。

この間にもウクライナ政府軍は、親ロシア派のドネツクに次ぐ拠点都市であるルガンスクへの攻勢を強め、ウクライナ軍報道官は20日、親ロシア派が支配してきた東部ルガンスク州の州都ルガンスクで、大半の地区を奪還したと発表。

足止めされていたロシア支援団はしびれをきらした形で、ウクライナ政府の同意がないまま、22日に国境を強行突破して約50キロ先のルガンスクへ向かう事態となりました。

****ロシア支援車列、国境突破=親ロ派先導、ウクライナ同意なし****
政府軍と親ロシア派の戦闘が続くウクライナ東部ルガンスク州に向けたロシアの人道支援物資のトラック約280台が22日、ウクライナ政府の同意がないまま国境を強行通過し、一部が州都ルガンスクに到着した。

赤十字国際委員会(ICRC)でなく、同州を支配する親ロ派が先導しており、ロシアの「人道介入」に国際社会の懸念が高まるのは必至だ。

ICRCは予定された先導を断念した理由について「ルガンスクでは砲撃戦が続き、安全の保証が得られていない」と説明した。

ウクライナは「(ロシアによる)侵入」(保安局)、「国際法違反」(外務省)と猛反発した。

ロシアの人道支援物資を積んだトラックは21日以降、国境の検問所で足踏み状態が続いていた。
プーチン政権はルガンスクでの食料・飲料水不足などの深刻化を背景に、「強行突破」を決断したもようだ。

26日に予定されるロシア・ウクライナ首脳会談を前に新たな火種になる可能性もある。【8月22日 時事】 
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ウクライナのポロシェンコ大統領は「検査を受けず、赤十字国際委員会(ICRC)の付き添いも無いまま100台以上のトラックが入国したのは許容しがたい国際法違反だ」と非難する声明を発表。

一方、ロシア外務省は越境に先立ち「これ以上の遅れは容認できない。ロシア側は行動することを決定した」との声明文を発表しています。

ウクライナ側は「ウクライナ政府も、赤十字国際委員会もトラックに詰まれた物資の中身を知らない」と批判していますが、少なくともロシア側が積み荷の検査を拒否したといった話はないようですので、おそらくロシアが言うように民生支援物資だったのでしょう。

また、検査についてはウクライナ側が本気で行えば、いくら280台とはいっても、そんなに日時を要するとも思えませんので、ロシアからの住民支援を嫌い、あるいはルガンスク攻略への支障を恐れて、ウクライナ側が意図的に遅らせていたのでは・・・と推測されます。

北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長は22日、無断越境について「ロシア自身がたきつけ続けてきた地域の危機を深めるだけだ」と厳しく痛烈に批判しています。

アメリカ国家安全保障会議のヘイデン報道官も22日、事前の合意に反して、物資の完全なチェックを行わず赤十字国際委員会(ICRC)の付き添いもない上、規定ルートを24時間以内に往復するとの手順も守られていないとロシア政府を批判する声明を発表しています。

これに対し、プーチン大統領は同日、ドイツのメルケル首相と電話協議し、「ロシアの人道支援に対するウクライナ側の露骨な引き延ばしを考慮し、出発の決定がなされた。更なる遅滞は容認され得なかった」と主張しています。【8月23日 毎日より】

ルガンスクに物資を届けたトラックの一部は、すでにロシアに戻り始めています。

****ロシアの人道支援トラック、ウクライナを出てロシアに戻り始める****
ロシアがウクライナ東部の親露派支配地域に支援物資を送るためとして派遣したトラックの一部が23日、ロシアに帰り始めた。欧州安保協力機構(OSCE)の監視員が明らかにした。

ロシア国境にある「ドネツク(Donetsk)」と呼ばれる検問所を監視するOSCEのポール・ピカール監視団長代理はAFPに対し、トラックが通過し始めたが正確な台数は分からないと述べた。

一方、ロシア通信は税関職員の話として、「トラックの最初のグループ34台の通関検査が終わり、 それらの車両はロシア国内に戻った」と伝えた。税関職員によると、6グループのトラックが税関を通ってロシア国内に戻る見通しだという。

トラックの車列は、ロシア政府、ウクライナ政府、赤十字国際委員会がトラックの通過について合意形成を模索する間、ウクライナ国境に近いロシア領内で1週間足止めされていた。

その間ロシア政府は一部のトラックの積み荷を報道陣に公開し、水、食料、医薬品、発電機など約1800トンの支援物資を運んでいると発表していた。

しかしトラックの車列は22日、ウクライナ政府の許可を得ず、赤十字の監視員も付けないまま越境してウクライナ領内に入った。

ロシアの国営テレビによると、トラックの車列は22日夜にウクライナ東部のルガンスクに到着し、支援物資を積み下ろしたという。

ロシア政府は支援物資を積んだトラックは280台だと発表していたが、OSCE監視団は22日に出した声明で、ウクライナ領内に入ったトラックは6グループの227台しか数えていないと発表していた。【8月23日 AFP】
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ウクライナ側はルガンスクの大半の地区を奪還したと発表していますが、親ロシア派の先導でそのルガンスクに向かった物資はどのようにして住民の手にわたるのでしょうか?

ロシアに戻るトラックで、親ロシア派に対するロシアの軍事支援の証拠となるようなものが運び出されたというようなことはなかったのでしょうか?

“トラックが通過し始めたが正確な台数は分からない”・・・・そんなアバウトな対応でいいのでしょうか?
よくわからない点はあります。

ロシア軍はウクライナ国境地域に「短期間でウクライナを侵攻できる相当な部隊」(アメリカ国家安全保障会議のヘイデン報道官)を配備しているとされています。

NATOによると、総数は約2万人。アメリカ国防総省のカービー報道官は22日、ロシア軍の増強が先週、続いていたことを明らかにしています。

26日にウクライナのポロシェンコ大統領、ロシアのプーチン大統領、EUなどが参加してベラルーシの首都ミンスクで開催される多国間首脳会議では今回の件が問題とされるでしょうが、とりあえずは、上記ロシア部隊が動くような事態にならなかっただけでもよかった・・・とも思えます。

ルガンスクの大半を奪還 ドネツクを包囲】
戦況は、先述のように政府軍が親ロシア派を追い詰める形になっています。
ウクライナ政府軍はルガンスクの大半を奪還したとしており、最大の拠点都市ドネツクの市街戦も想定される状況になっています。

****100万都市、迫る本格市街戦 ウクライナ軍、親ロ派拠点包囲 東部・ドネツク****
ウクライナ東部の政府軍と親ロシア派との武力衝突が、同派最大拠点で人口約100万の都市ドネツクに及び、本格的な市街戦に突入する恐れが出てきた。

包囲網を狭める軍は住民に退避を呼びかけるが、都市機能がまひしており、もはや逃げることも困難だ。(中略)

ドネツク市内では、今月上旬から、銃撃や砲撃、爆発が中心部に及んでいる。病院が激しい銃撃を受けて1人が死亡したほか、11日には刑務所が攻撃を受けて受刑者が死亡し、約100人が脱走する事件も起きた。いずれも誰が攻撃したのか不明だ。(中略)

ドネツクでは夜ごと砲撃や銃撃の音が響きわたる日が1カ月続いた。8月に入って軍が「ドネツク包囲完了」を発表すると、総攻撃の情報が広がり、住民はパニックに陥ったという。(中略)

国連難民高等弁務官事務所によると、ウクライナ東部の避難民は8月4日現在、公的機関に登録されただけで10万2642人。6月初旬の38倍にもなった。

しかし、ドネツクから南に約100キロのドネツク州マリウポリの市社会サービス局は、ドネツクと周辺からの避難民の数が、8月第2週の約1500人から、第3週には急に千人前後に減ったとする。

何度も施設を破壊されながら避難の足の役割を果たしていた鉄道が、戦闘激化で完全に止まったからだ。(後略)【8月19日 毎日】
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財政破たん状態のウクライナに攻勢かける資力があるのか・・・という点については、“経済的に破たん寸前のウクライナは、IMFから融資を受けています。IMFは公式通り、ウクライナ政府に歳出の削減やガス価格の引き上げといった財政改革を求めていますが、ウクライナ政府は実質的にIMFからの融資を戦費に流用しているとみられます。いわば西側の総がかりでウクライナ政府を支援していると言っても、過言ではないでしょう。”【8月23日 六辻 彰二氏 YAHOOニュース】とのことです。

ポロシェンコ政権内では東部の完全制圧を目指す声も
当面は、26日に開催される多国間首脳会議で停戦を含めて協議されます。

ただ、現在の政府軍に有利な戦況を考えると、ウクライナ側に今停戦に応じるインセンティブは弱いようにも思えます。

一方、ロシア・プーチン大統領にとっては、このまま親ロシア派が制圧されることになると、国際的に孤立した上に、ウクライナにおける足場を失い、直接占拠したクリミアを除くウクライナ本土が完全に欧米側に取り込まれてしまうという“戦略上の失敗”になります。

なんとか親ロシア派を残存させた形で停戦に持ち込みたいところではないでしょうか。
そのためにウクライナ国境のロシア軍をちらつかせて欧米側を牽制しようとの思惑でしょうが・・・・。

ただ、ロシアとしても、このまま親ロシア派との繋がりを続けていると、マーレシア航空機撃墜事件や18日の避難民バス砲撃事件のように、深みにはまる恐れもあります。

****ウクライナ:政府軍、親ロシア派が停戦条件に言及****
ウクライナ東部で続く政府軍と親ロシア派武装勢力の戦闘を巡り、双方の指導部が18日、停戦条件に言及した。

17日にベルリンで行われたウクライナ、露、仏、独の4カ国外相会合でロシアが「停戦の必要性」を強く主張したことを受けての動きとみられる。

ただ、条件の隔たりは大きいうえ、ポロシェンコ政権内では東部の完全制圧を目指す声も強く、戦闘停止は現実的となっていない。

ウクライナのクリムキン外相は18日、停戦に不可欠な条件として(1)対露国境の実効性ある管理確立(2)全欧安保協力機構(OSCE)による監視活動の保障(3)人質解放での進展−−を挙げた。

親露派に対するロシアからの軍事支援の流れを断ち切ることを重視している模様だ。

対する親露派組織「ドネツク人民共和国」の「首相」ザハルチェンコ氏は「道理にかなう提案があれば、交渉に応じる」と述べつつ、「我々を『国家』と認める必要がある」と強調した。

水面下では、双方の組織内で変動が起きている。親露派側では「首相」のボロダイ氏、「国防相」のストレルコフ氏ら、ロシア出身の強硬派指導者が相次いで辞職し、地元出身者と入れ替わった。

ポロシェンコ政権でも、主戦派のパルビー前国家安全保障国防会議書記が同会議のメンバーから除外された。

カーネギー国際平和財団モスクワセンターのトレーニン所長は、親露派内部の変化について「将来の交渉へ向けて、より確実な布陣にしようとの(プーチン政権の)意図が示唆されている」と自身の論考で指摘。

ロシアが送付した人道支援物資に関しては「国際社会の関心を戦闘から人道危機へと移す狙いがあり、ロシア国内での『行動』の要求にも応えるものだった」と分析した。

一方、ウクライナ安保会議の報道官は18日、東部ルガンスク近郊で避難民を乗せたバスなどの車列が、親露派武装集団の多連装ロケット砲の攻撃を受けたことを明らかにした。

ロイター通信によると、報道官は19日、これまでに15人の遺体を収容したと説明した。
親露派集団の指導者は車列への砲撃を否定しているという。

ルガンスクは親露派の拠点の一つで、戦闘の激化により避難民が続出している。【8月19日 毎日】
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ウクライナ東部での約4か月前の戦闘開始以来、死者の合計は2200人を超えています。
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エボラ出血熱  感染国での混乱拡大 不十分な国際支援 急がれる治療薬の量産

2014-08-22 23:14:04 | 疾病・保健衛生

(リベリア 感染地域を隔離封鎖しようとする兵士と対峙する地域住民 “flickr”より By Richard Girard https://www.flickr.com/photos/socialnetworkingnews/14963383146/in/photolist-oNgfuA-oMkPPQ-oQBEbC-ov7BJo-owqCPr-ot1JGU-oyoPgb-oygjBb-oxnd9d-oweHa2-oNJzxv-owfbTY-owfauW-oKz763-oMktpr-oyKha1-oRdrDy-oyKVTq-ot2UAE-oFeUVj-ov75Y5-ov7nSK-ov7inJ-ov7WDK-ov7uiP-ov7oNd-ov7KpF-ov7i7n-ov7bWN-oMkjrX-ov81iP-oN48ip-ov7dLZ-oMzmoW-otasrE-oN49Uv-ov87C2-ov84YM-ov7Z6E-ov7qcV-ov87VD-oMA65N-oMkpci-oMzJ8C-ov87iY-ov7RCW-ov7R7K-oMBSGa-ov8bN9-oMzY3w)

感染が拡散する危険も
西アフリカで猛威をふるうエボラ出血熱については、8月16日ブログ「エボラ出血熱 発表数字より深刻な実態 求められる国際支援」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20140816でも取り上げましたが、犠牲者は更に増加しています。

****エボラ熱死者、1350人に=2日間で100人超増加―WHO****
世界保健機関(WHO)は20日、西アフリカで感染拡大が続くエボラ出血熱に関し、18日までの死者が感染が疑われるケースを含め計1350人に上ったと発表した。17日から2日間の死者は106人で、依然速いペースで増えている。感染者は計2473人。

国別の累計死者数は、リベリアが576人、ギニアが396人、シエラレオネが374人、ナイジェリアが4人。17、18の両日では、リベリアで95人が死亡したが、ナイジェリアでは死者が出なかった。【8月21日 時事】 
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そのなかで「ナイジェリアとギニアでは明るい兆しもある」(19日WHO報道官)ということです。ナイジェリアでは新たな犠牲者が出ないそうです。【8月19日 時事より】
ギニアでも、新たな感染例の数が著しく減少しています。

しかし、コンゴで“発生源が不明の出血熱”発生も報じられています。
西アフリカ以上に医療体制が不十分な地域ですから、もしエボラ出血熱だとすると厄介なことになります。
コンゴでは以前にもエボラ出血熱が発生したことがあります。

****コンゴ民主共和国で出血熱、10日で13人死亡 保健省****
アフリカ中部・コンゴ民主共和国(旧ザイール)の保健省は21日、同国北西部で今月11日以降、発生源が不明の出血熱で13人が死亡したと発表した。

いずれも発熱や下痢、嘔吐(おうと)といった症状を見せた後、末期には「黒い物質」を嘔吐したという。最初の犠牲者は妊娠中だった女性で、残りの12人(医療従事者5人を含む)は女性と接触した後に死亡した。

これまでに死亡患者らと接触した約80人が観察下に置かれている。

犠牲者の体からは検体が採取され、病原体の特定のための検査にかけられる予定。結果は1週間以内に出るとみられている。

西アフリカではエボラ出血熱が多数の死者を出しており、アフリカ内外への拡大が懸念されている。【8月22日 AFP】
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感染拡大はアフリカだけの問題ではありません。
飛行機を使って人が遠隔地に行き来している時代ですから、思わぬ地域への飛び火もありえます。

韓国ではエボラ発生地域からの入国者の隔離に失敗したとのことです。
もちろん、この者は現在までのところでは陰性ですが、万一この者がその後発症すれば韓国での感染拡大もありえる・・・ということになります。あくまでも理屈上そうした事態もありうるという話ですが。

そうなれば、韓国との往来が極めて多い日本にも・・・ということで、決してアフリカだけの問題、対岸の火事ではありません。

****エボラ発生地域から入国の男性が行方不明…釜山に恐怖拡散****
西アフリカを中心にエボラ出血熱が猛威を振るう中、エボラ感染者が最も多いとされる地域から入国した男性が釜山で行方不明となり、韓国国内は恐怖に包まれている。

韓国当局によると、リベリア出身の20代男性が、大邱(テグ)国際空港から入国。しかしその後、当初より宿泊予定だった釜山のホテルにチェックインしていないことがわかった。

エボラ発生地域からの入国者であるため入国の際、体温チェックを行った結果、陰性。出入国管理局は90日間の国内残留許可を与えたが、エボラウィルスは潜伏期間があることから、男性が感染していないとの確証は、もてない。そのため、追跡観察ができるよう宿泊先を把握していた.

出入国管理局は、男性を不法在留者として手配したが、現在のところ行方は掴めていない。【8月22日 WoW!Korea】
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なお、WHOは「航空機による旅行でエボラ出血熱に感染する危険性は低い」との見解で、過度の移動制限などは必要ないとのこです。

しかし、感染拡大を恐れるアフリカの国々では感染地域との言移動制限を行う国が増えており、感染国の孤立化が進んでいます。

感染国は混乱状態
一方、エボラ発生地域内においては、感染中心地域の隔離が行われていますが、その地域の住民が十分な食料・医療も与えられず、隔離地域の孤立化でエボラとは別の危機が起きていることは、これまでのブログで伝えてきたところです。

また、対策にあたる医療スタッフへの不信感もぬぐえず、リベリアの首都モンロビアでは16日、武装集団が感染者隔離施設を襲撃し、入所者17人が逃走、感染の原因にもなる施設内の備品が持ち去られるという事件がおきています。

この件に関しては、リベリア当局が逃走した17人全員を見つけ、特別施設に移送したとのことです。

更に、感染拡大予防のため、スラム地域の強制撤去という問題も起きています。

****エボラ出血熱 医療不信で施設襲撃****
西アフリカでエボラ出血熱の患者が過去最大の規模で増え続けているなか、最も多くの死者が出ているリベリアでは、現地の医療に対する不信感が強まっていて、医療施設が何者かに襲撃されるなど混乱が広がっています。(中略)

現地で不信感が強まっている背景には、エボラ出血熱の致死率が極めて高く、医療施設に入っても有効な治療法がないことや、医療従事者が感染を広げているのではないかとの誤解と偏見があるためだとみられています。

このためWHOは、「正しい知識があれば感染拡大は防げる」として冷静な対応を呼びかけていますが、モンロビアの住民はNHKの取材に対し、「エボラ出血熱は恐怖だ。感染の予防には限界があり、早く薬を開発してほしい」と話していて、感染拡大への強い不安が首都でも広がっている実態が浮き彫りになっています。

住民の不信感強まる
患者が増え続けているギニアでは、地元の治安部隊が感染拡大を防ぐためだとしてスラム街を強制的に撤去する作業を行い、住民の間からは行きすぎた対応だとして批判の声が上がっています。(中略)

しかし住民からは行きすぎた対応だとして批判の声が上がり、住民の1人は、「同じギニア人なのになぜここまでするのか。どうせエボラ出血熱で死亡するのだろうから放っておいてほしい」と述べています。

一方、最も多い数の死者が出ているリベリアの首都モンロビアでは、「エボラ出血熱の疑いで死亡したとみられる男性が路上で2日間、放置されていた」と伝えられています。

AP通信によりますと、放置されていたのは男性の遺体で、住民が地元の当局に何度も通報したにも関わらず、2日間にわたって対応しなかったということです。

このため住民は当局を批判していて、感染の拡大に歯止めがかかっていないなか、地元の当局に対する住民の不信感が強まっています。【8月18日 NHK】
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感染者隔離施設襲撃事件が起きたリベリアでは、当局側の一方的なスラム地域隔離に対し、住民が抵抗するという異常な事態も起きています。

****リベリア、住民隔離で軍部隊と衝突****
エボラ出血熱の勢いは止まらず、西アフリカでこれまでに1350人以上の死者を出す史上最悪の事態となっている。大流行を食い止めるべく大規模な取り組みが行われているが、その結果、リベリアでは異様な事態が起きている。

リベリア政府は19日、首都モンロビアにあるスラム地域の隔離に踏み切り、その結果、怒った住民と当局の衝突が起きた。

先週、暴徒らの手で隔離施設から“解放”された患者を連れ戻し、午後9時から午前6時までの外出禁止令を全国で施行。

さらには、エボラ出血熱が西アフリカで猛威を振るっているという話はデマだとする悪質なうわさとも闘わなければならない。

これら全てに対応するだけの力を、リベリアの公衆衛生当局はそもそも持ち合わせてはいなかった。

対策チームの経験豊富なメンバーに言わせると、リベリアの状況は“悪化の一途”をたどっているということだ。一方で、国境なき医師団は、モンロビアは“破滅的な”状況にあると語っている。

リベリアでは、患者数、死者数ともに他の国々よりも多くなっており、死亡した患者はこれまでに576人に昇っている(ギニアでは396人、シエラレオネでは374人)。また、医療従事者のウイルスへの感染も数十例報告されている。

◆感染の拡大
・・・・国境なき医師団によると、体調不良や恐怖心から職場を離れる医療スタッフが続出したことで、ほとんどの国で病院が閉鎖され、路上や住宅に遺体が放置されたままの状態だという。

今回の大流行の影響を受けている国々では、感染の拡大を封じ込めようと隔離区域が設けられた。リベリアでは軍隊を派遣し、隔離区域の警備を強化している。リベリア、ギニア、シエラレオネの隔離区域では、現在100万人以上が暮らしている。

しかし、食料や物資が区域内に届かないのではないか、困窮した住民が隔離区域からの逃走を試みるのではないかといった懸念が広がっている。(後略)【8月21日 ナショナルジオグラフィック】
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支援増強要請に対する国際社会の反応は「全くない」】
リベリアの状況は、リベリア単独で対処できる限界を超えているように見えます。
現地で治療にあたっている「国境なき医師団」からは、こうした危機的状況にもかかわらず国際支援が不十分なことへの批判も出ています。

****支援団体、エボラ危機への国際社会の対応を批判****
リベリアとシエラレオネにおけるエボラウイルスの拡散は、死に至ることもあるこの感染症の過去最悪のアウトブレイク(集団発生)――公式発表によれば、少なくとも1229人が犠牲になった――を封じ込めようとする他の西アフリカ諸国の努力を上回ってしまう恐れがある。

しかし、ギニア、リベリア、シエラレオネの3カ国でエボラ出血熱を封じ込めようと先頭に立って奮闘している国境なき医師団(MSF)によれば、被害に見舞われている国々からの支援増強要請に対する国際社会の反応は「全くない」という。

アフリカ大陸の他の地域におけるエボラ出血熱の集団発生に長らく対処してきた実績を持つMSFは、感染した患者を隔離する病室の確保に苦労していると話している。現地では国際的な支援団体がMSFのほかにはほとんどなく、リベリアの公衆衛生サービスも完全に崩壊しているという。

孤軍奮闘する国境なき医師団、「1つの国が丸ごと崩壊する瀬戸際にある」
この危機はリベリア経済全体にも悲惨な波及効果をもたらしている。リベリアはシエラレオネと同様、1990年代の内戦からの回復がまだ初期段階にとどまっている。(中略)

「この伝染病に対抗しようという意思と、プロとしての意識と、支援の手配が全くないことに我々は本当に驚いている。我々はもう何カ月も前から叫び続けてきた。状況はさらに悪くなっている。1つの国が丸ごと崩壊する瀬戸際にある」

医療従事者が恐れているのは、もしこの病気をリベリアで――そしてシエラレオネでも――制御できなければ、他の西アフリカ諸国にも広がり続けるだろうということ。そして、ウイルスの封じ込めが比較的成功しているギニアなどの国々でも再び感染者が出てしまうことだ。

リベリアのロファ郡では先週、124人の患者が新たに確認され、60人が死亡した。世界保健機関(WHO)とリベリア政府当局は、実際の患者の数はこれをはるかに上回っている恐れがあると警告している。遠く離れたジャングルの中には医療従事者がほとんど入ることができないからだ。(中略)

MSFによると、支援する力を持つ国連などの主要国際機関は、シエラレオネとリベリア――どちらも弱い国で、その医療従事者が主な犠牲者に含まれている――の現場に資格のあるチームを派遣することに消極的だという。

「リベリアの状況は破滅的だ。私は軽々しくこの言葉を使っているわけじゃない」と(この地域のMSFの対応を調整している)ドゥ・ル・ビーニュ氏は言う。

「人口130万人の都市であるモンロビアでは、開いている病院が1つたりともないため、緊急事態の内に緊急事態を抱えた状況になっている。人が医療を受けられる場所がない。自動車事故に遭っても行き場がないんですよ」【8月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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【「ZMapp」 一定量を製造できるのは年末
隔離地域での混乱・医療崩壊、周辺国の移動制限と感染国の孤立化、国際社会の不十分な支援・・・・これらは基本的にはエボラ出血熱に対する有効な治療薬が未だ存在しないという事実、いったん感染が拡大したらどうしようもないという恐怖に起因しています。

そうした状況で、未承認薬の「ZMapp」投与患者が回復した事例も報じられています。

****エボラ出血熱:治療薬投与で「回復兆候」 リベリア政府****
西アフリカ・リベリアのブラウン情報相は19日、エボラ出血熱に感染し、米製薬会社が開発中の治療薬「ZMapp」を投与されたリベリア人医師ら3人に「目覚ましい回復の兆候」があると明らかにした。ロイター通信が伝えた。

世界保健機関(WHO)が12日、感染者に未承認の治療薬の投与を条件付きで容認した後、投与された患者が回復の兆候を示したのは初めて。

ZMappの効果と安全性が確認されれば、感染地域への迅速な供給を求める声が高まりそうだ。

ただ、製薬会社は既に在庫は尽きたとし、一定量を製造できるのは年末になるとの見方も出ている。【8月20日 毎日】
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リベリアでエボラ出血熱に感染しアメリカに移送されて「ZMapp」による治療を受けていた米国人医師も回復して退院したそうです。

これらが「ZMapp」による効果なのか、自然治癒なのかはさだかではありませんが、他の有効な治療薬がない現段階では期待も高まります。

しかし、開発段階で大量生産体制にはないため、その供給は著しく制限されているようです。供給が限られていると、使用できない犠牲者が増大しますし、“誰に使うのか”という微妙な問題にもなります。

【8月20日 毎日】に言う“一定量を製造できるのは年末になる”というのが、どの程度の量なのか?
現在把握されている感染者は計2473人ですが、実際はもっと多いと思われます。

「ZMapp」の開発会社は社員9人のベンチャー企業で、生産はアメリカ大手タバコ会社の子会社とか。

もし当該企業だけでは十分な量の供給が間に合わないのでれば、もっと大規模に、いろんな製薬会社・研究機関などで作れないのか?

一般論としては、薬の開発には膨大な開発費用がかかりますので、その製造特許は開発企業の知的財産として保護されないと製薬会社は開発コストを回収できず、ひいては新薬開発のインセンティブがなくなります。

しかし、エボラ出血熱のように患者が極めて限定されている場合は、膨大なコストをかけて製品供給してもコスト回収が見込めず、そもそも市場原理では開発・製造されません。

「ZMapp」も政府による支援があってはじめて開発された薬です。

であるなら、この際、WHOなどが開発企業に開発費用の支払いを保証する形(最終的には加盟各国政府が費用を分担する形)でその製造法を完全に一般公開させ、製造能力がある企業・機関で一斉につくる・・・というのはできないものでしょうか?

そうすれば多くの患者に使用することも可能になります。
仮に「ZMapp」の効果が認められなかったにしても、次の段階に進むことができます。

なんらかの治療薬を見つけないと、今後も人類はエボラ出血熱感染拡大の恐怖に怯え続けなければなりません。
「ZMapp」以外にも、カナダ・テクミラ社の「TKMエボラ」、日本・富士フイルムの「ファビピラビル」が期待されています。
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