孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン タリバン復権3年 中ロの承認に向けた動きも 進展しない女性の権利

2024-08-14 23:04:58 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタン・バグラム元米空軍基地で行われた、イスラム主義組織タリバンによる政権掌握3年を祝う軍事パレード(2024年8月14日撮影)【8月14日 AFP】 ヘリはかつての政府軍所有のものでしょうか?)

(パリ五輪のブレイキンに出場した難民選手団のマニジャ・タラシュ。英語で「アフガン女性を解放せよ」と書かれたマントを広げた。その後失格となった=9日、パリ(共同)【8月10日 共同】)

【タリバン復権3年 周辺国との外交関係は「承認された政府レベルにある」(外相)】
アフガニスタンではイスラム主義組織タリバンによる政権掌握から3年が経過しました。
国際批判にもかかわらず女性の権利が認めらないまま、タリバン支配は事実問題としては強固なものになっています。

****タリバン、政権掌握から3年 軍事パレード開催****
アフガニスタンで14日、イスラム主義組織タリバンによる政権掌握から3年の祝賀行事が行われた。

首都カブールから約40キロのかつて米軍が利用したバグラム空軍基地の跡地では、演説や軍事パレードが行われ、中国やイランの外交官らも出席した。

街では祝賀行事のための横断幕や看板を設置する作業員の姿が数日前から見られた。

アフガニスタンでは2021年8月15日、指導者らが国外脱出し、米国が支援する政府が崩壊。同日、タリバンが首都カブールに入城した。8月14日が記念日に制定されている。

イスラム教の厳格な解釈に基づく法律が導入されているアフガニスタンは、過去3年間でタリバン暫定政府の統治はより強固なものになった。

一方、女性に課している制限は批判されており、国際社会は暫定政府を承認していない。【8月14日 AFP】
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国際社会は暫定政府を承認していない・・・とは言うものの、タリバン暫定政権のムッタキ外相は周辺国との外交関係は「承認された政府レベルにある」と自信を見せています。

****ムッタキ外相「承認された政府」 タリバン復権3年、成果強調****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の復権から15日で3年となるのに合わせ、ムッタキ外相が共同通信と単独会見した。

女性に対する人権侵害を主な理由に政権を承認した国はないが、ムッタキ氏は周辺国との外交関係は「承認された政府レベルにある」と主張した。また「強固な治安部隊と国民の支持で治安を確保した」と3年間の成果を強調した。

暫定政権は今年、国連主催の会議に初出席し、国際社会との距離を縮めている。ムッタキ氏は正統な政府として外交を進める姿勢を鮮明にし、統治継続にも自信を見せた。首都カブールの外務省で13日に会見に応じた。(中略)

暫定政権は中学生以上の女子教育を停止し、国連や非政府組織(NGO)での女性の就労も制限している。国際社会はこれを批判し政権を承認していないが、ムッタキ氏は「承認を公に表明するかどうかはそれぞれの国の政治に絡んだ問題だ」と指摘した。【8月14日 共同】
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タリバン暫定政権を「承認された政府レベル」として扱っているのが中国で、タリバン暫定政権が派遣した大使を受け入れています。

****中国がタリバンの大使を受け入れ 狙いは****
今、習近平政権の大きな関心は、国内の安定にあります。 アフガニスタンとは新疆ウイグル自治区で国境を接していますので、こうした地域に過激派が浸透しないよう、アフガニスタン側での治安対策の強化を求めたい狙いがあります。 

さらに、アフガニスタンに埋蔵されているとされる石油や重要鉱物などの資源開発、それに巨大経済圏構想「一帯一路」への取り込みも進めたい思惑がありそうです。 

ただ、人権よりも実利を重視しているとも受け止められかねない中国の姿勢には、国際社会からの厳しい目が注がれることになりそうです。【23年12月21日 NHK】
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ロシアもタリバン暫定政権との距離を狭めています。

****タリバン「テロ」指定近く解除か 乱射事件受け協力重視 ロシア****
ロシア外務省は1日、アフガニスタンで2021年に実権を掌握したイスラム主義組織タリバンの「テロ組織」指定解除について検討を進めていると表明した。タス通信に明らかにした。

法務省などと共に議論しており、プーチン大統領が「最終決定」を下すことになると説明した。  

モスクワ郊外で3月下旬に発生し、140人以上の死者を出した銃乱射テロでは、過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行を主張。アフガンを拠点とするIS系の「イスラム国ホラサン州」(IS―K)が関わったとみられている。プーチン政権は、アフガンからの過激派流入を阻止するため、タリバンとの協力を深めたい考えとみられる。【4月2日 時事】
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プーチン大統領はタリバン暫定政権の承認に前向きな姿勢を示したとも報じられています。

冒頭記事によれば、政権掌握3年の記念式典にイランも参加しているとのことですから、イランとの関係も接近していると見られます。

【歩み寄りは見られない女性の権利の問題】
一方、欧米は女性の権利の問題を最重視していますが、タリバン側の歩み寄りはまだありません。

****タリバンが出席し国連会議、女性の参加はなく アフガニスタン情勢を協議****
国連は1日までの2日間の日程で、アフガニスタン情勢について話し合う会議をカタール・ドーハで開催した。アフガニスタンで2021年に復権した武装勢力タリバンの代表団も初めて出席した。タリバン政権はどの国からも政府として承認されていない。

複数の外交官は、タリバン代表団との2日間の協議は実りあるものだったとしている。

タリバン政府の主張により、市民社会団体の代表者の同席はかなわなかった。そのため、アフガニスタンからの代表団には女性が1人も含まれておらず、人権団体や活動家たちから批判の声が上がった。国連関係者は2日、アフガニスタンの市民社会団体と個別に面会した。

解決策の提示なく、タリバン政府はどうするつもりか
この会議の主催者や参加者からは、大々的な発表も、大きな打開策も、そして解決策も提示されなかった。もとからそのいずれも期待されていなかった。その代わりに、タリバン当局者や外交官たちは落ち着いていて、ひとまずは前向きな様子だった。

BBCが話を聞いた外交官たちによれば、協議のトーンは「敬意のある」「積極的で」「率直」なものだったという。何度も繰り返されたのは、「これはプロセスだ」という言葉だった。

ザビフラ・ムジャヒド報道官率いるタリバン代表団からは、譲歩も誓約も得られなかった。BBCのキャロライン・デイヴィス記者が、タリバン政府は何を提示するつもりなのかを尋ねると、同報道官は「我々は、彼ら(国際社会)が何を望み、我々がシャリア(イスラム法)に基づいて何ができるのかを見極め、前に進む」と答えた。

「シャリアに反するものについては我々は議論しない。シャリアの枠組みに収まるものなら、それを解決する。これはプロセスであり、これからも続いていく。これが我々をどこへ導き、我々がどれだけ改善していけるのか、そのうちわかるだろう」

女性めぐる問題は国内で解決と
今回議題となったのは、麻薬対策や民間セクターに関するもので、人権や女性の役割をめぐる問題よりは取り上げやすいテーマだった。

後者について、タリバンは国内の問題だとの見解を崩さなかった。「我々はこの種の問題を、他国と議論したくはない。我々は自国で解決策を見つける」と、ムジャヒド報道官は述べた。

タリバン復権から3年近くたった今も解決策がないことをBBCが指摘すると、同報道官はこう答えた。「我々はそのことを無視しているわけではない。我々は取り組んでいる。シャリアに基づく解決策を模索している」。

「ジェンダー・アパルトヘイト」
アフガニスタンでは女性や子供は中学校に通うことや、公園やスポーツジムに行くこと、特定の仕事に就くことなどが禁じられている。こうした制限が増えているアフガニスタンの状況を、国連は「ジェンダー・アパルトヘイト」と呼んだ。(中略)

欧州連合(EU)のアフガニスタン担当特使、トーマス・ニクラソン氏は「彼ら(タリバン)は(女性の権利について)話し合う準備ができているが、実行する準備ができていないと私は思う」とBBCに述べた。
「私は女性の権利をめぐる状況が変わると希望を持っている。ただ、時間的な見通しについてはわからない」(中略)

会議の成果は
(中略)タリバンが実権を握ってから3年近くがたった。BBCが取材した外交官たちの間には、一つの考えが広まっていたと、デイヴィス記者は指摘する。それは、少なくとも意見が一致するいくつかの部分で関わっていかなければ、アフガニスタンの状況はほとんど改善しないだろうというものだったという。

「とにかく、どこかからか始めなければならないと、我々は感じた」と、国連のディカルロ氏は2日の記者会見で述べた。【7月4日 BBC】
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「とにかく、どこかからか始めなければならない」というのそうでしょうが、「彼ら(タリバン)は(女性の権利について)話し合う準備ができているが・・・」というのは、やや楽観的なようにも。中国・ロシアがタリバンに接近すれば、タリバンに変革を迫る圧力も減弱します。

発言者のトーマス・ニクラソン氏自身も「希望とは必ずしも理性的なものではない」と付け加えたとのこと。

なお、過去2回の会議にタリバンが参加しなかったこともあって、今回(3回目)はタリバンが出席しやすい形で会議が開催されました。

しかし、アフガン人女性は招待されなかったことに、人権活動家らから批判の声が出ています。また、女性問題が議題とされなかったことについても、「少女や女性の人権は最優先事項ではないとする誤ったメッセージを伝えてしまう」(ノーベル平和賞受賞者マララ・ユスフザイさん)という批判も。

先日行われたパリオリンピックでは、IOC=国際オリンピック委員会はアフガニスタンの選手男女6人を招待しましたが、タリバンは女子選手3人について、自国の選手として認めない方針を示しています。

その女性選手であるユースフィ選手は、「アフガニスタンの少女や女性たちは最も重要な教育を含む基本的な人権を剥奪され、公園に入ることも許されない。彼女たちの奪われた夢と願いを代表したい」とパリオリンピックに向け決意を示す声明を発表していました。【7月9日 NHKより】

また、ブレイキンに出場した難民選手団のマニジャ・タラシュ選手(アフガニスタン出身)は、“ダンスを始めると頭のバンダナを取り去った。女性は全身を覆うブルカの着用を求められるアフガンの状況に抵抗するかのように黒髪をあらわにした。さらに黒いスエットシャツを脱ぐ。現れた水色のマントには英語で「アフガン女性を解放せよ」と書かれていた。”【8月10日 共同】とのことですが、観客や対戦相手から大きな拍手が送られたものの、試合後に「服装に政治的なスローガンを書いた」として失格になっっています。

“ブレイキンで難民選手団選手 アフガンの女性解放訴え パリ五輪”【8月10日 NHK】
“ブレイキンの難民選手、失格に 「アフガニスタン女性に自由を」”【8月10日 共同】

【閑散とした遊園地 怯える美容師】
アフガニスタンの国内現状については以下のようにも。

****女性の姿ないアフガン、遊園地閑散・美容院は地下営業…タリバン実権掌握3年****
アフガニスタンでイスラム主義勢力タリバンが実権を掌握してから15日で3年となる。女性の人権侵害などを理由に暫定政権を承認する国はなく、孤立が深まっている。戦争状態から脱して治安は回復したが、制裁と抑圧下にあり、祖国を見限って国外移住に希望をつなぐ人も多い。(カブール 吉形祐司、写真も)

国外移住希望者も
首都カブールにある遊園地「シティーパーク」は閑散としていた。時折響く歓声が園内にこだまし、入場者の少なさを印象づける。園内の光景は異様だ。観覧車も回転ブランコも無人。そして、女性の姿がない。

「10年前の開園当初は昼食もとれないほど多くの来園者がいた。過去3年は、ご覧の通りだ。女性の入園が禁止され、家族で入れないからね」。関係者が肩をすくめた。110人いた職員は今、23人だという。

「たまにしか来ない。家族で一緒に入れないから」
息子2人にせがまれて訪れた無職の男性(35)が話し始めると、別の男性が近づき会話を遮った。警備担当で「取材には許可が必要」だと言う。外務省発行の取材許可証を示すと写真を撮影し、「これではダメだ。報告しておく」と告げた。無職の男性は「今も以前も、家族で来たことはない。何も変わっていない」と口をつぐんだ。

タリバンが導入した女性の教育や就業制限などは続き、昨年、禁止された美容院は街角からなくなった。「地下営業」をする美容師4人に取材を試みたが、安全を理由に拒否。1人は「4日前に姉妹4人とともにタリバンに逮捕された」と仲介者が打ち明けた。

電話で接触したある美容師は「怖い。私を国外に連れ出してほしい。外国でなら、起きたことを全部話すから」と訴えた。地下営業の仕事場で他殺体となって見つかった美容師もいるという。誰の仕業か不明だが、同業者の間では隠れた営業でタリバンともめ事があったとの見方が広がっている。

カブールの街は、治安悪化の元凶だったタリバンが実権を握ったことで平穏が戻った。タリバンと敵対するイスラム過激派組織「イスラム国」のテロはあるが、標的は限定的だ。市場や商店街は活気づいている。

しかし、市民は一様に経済的な苦境を口にする。現実は、外見上の街の表情とは違う。

露天商が集まる中心部のタイマニ・プロジェ通りでスイカを売るアフタブッディンさん(29)は政府の元職員で、タリバンに役所を追われた。銀行に再就職したが、勤務先の支店はタリバンが利子を禁じたため閉鎖され、スイカ売りに転身した。「収入は1日に300アフガニ(約620円)。以前の5分の1で夏だけの仕事だが、他に選択肢がない」と嘆く。

自営業のカリミさん(38)は過去、米軍の燃料調達に協力していた。「将来に何の保証も安全もない。娘は学校に行くことも許されない」と、米政府が発給する特別移民ビザを申請した。祖国への未練はない。ビザ申請の手続きを終えたのは2022年7月。自宅には、いつでも出発できるようまとめた荷物を置いたまま、米政府からの連絡を待ち続けている。(後略)【8月14日 読売】
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上記記事後半は麻薬問題の現状についてのものですが、確かに路上に溢れていた薬物依存者は強制排除されたものの依存者は跡を絶たない、確かにケシ栽培は95%減となったものの、一部のタリバンとつながる農家が栽培を続け、密売ビジネスにかかわるタリバンの一部有力者の懐を潤しているという現状が報じられています。

そのあたりの話はまた別機会に。
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アフガニスタン  埋まらない女性人権に関するタリバンと欧米の認識の溝

2024-03-20 23:15:45 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタン南部カンダハルの病院で診察を待つ女性たち=2023年11月(共同)【2月21日 共同】)

【2月開催の国連によるアフガン情勢めぐる国際会議はタリバン欠席で成果なし】
ウクライナやパレスチナ情勢などもあるせいか、最近ほとんど動きが報じられていないアフガニスタンの話。

ひと月以上前の話になりますが、国連はアフガニスタン情勢めぐる国際会議を中東のカタールで開催しました。
タリバン政権は国際的に承認されていませんが、初めて会議に招かれたタリバンは直前になって出席を取りやめ、会議も実質的な成果を得られず閉会しました。

タリバンが会議への出席を見送ったのは、アフガニスタンの市民団体や女性組織が会議に招かれたことにアフガニスタンの唯一の公式代表として出席することを要求するタリバンが反発したためと報じられています。

****国連がアフガン情勢めぐる国際会議開催 タリバンは欠席****
国連は、イスラム主義組織タリバンが政権を握るアフガニスタンへの国際関与を目指す会議を開きましたが、タリバンは市民団体などの出席に反発し、欠席しました。

会議は18日から19日にかけてカタールの首都・ドーハで非公開で開かれました。

開催は去年に続き2回目ですが、国連のグテーレス事務総長によりますと、タリバン暫定政権はアフガニスタンの市民団体や女性組織が出席したことに反発し、欠席しました。

国連グテーレス事務総長「タリバンが示した条件は私たちが受け入れられないものだった」

グテーレス氏は、アフガニスタン情勢が「行き詰まり」の状態にあると指摘したうえで、今後、今回のような国際会議をより頻繁に開き、タリバン側に出席を求めていく考えを示しました。【2月20日 TBS NEWS DIG】
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【女性の人権に関してタリバンと欧米の間で認識の差 難しい対応のなかで宗教的アプローチの可能性も】
国際社会とタリバンの意見の隔たりの最大のものは女性の人権状況でしょう。

****タリバン 国連会議欠席へ 女性抑圧を懸念する国際社会と隔たり****
(中略)今回の会議では女性の人権状況などの改善を求める国際社会と、これを「内政干渉だ」として反発するタリバンとの間で本格的な議論が始まるのか注目されていましたが、双方の隔たりが浮き彫りになった形です。

アフガニスタンでは、独自に解釈したイスラム法に基づく統治を行うタリバンのもと、女性は小学校までしか学校に通うことが出来なくなるなど、女性の抑圧が深刻で、状況の早期の改善が求められています。

タリバン側は今回の会議に女性グループなどアフガニスタンの市民も招かれたことや、アフガニスタン担当の国連特使の任命が検討されていることに反発しているとみられます。(中略)

女性教育の制限で 精神不安定な子どもも
アフガニスタンでは2021年のタリバン復権後、女性の教育の制限が徐々に強まり、現在は、女性は小学校しか通えない状況が続いていて、精神的に追い詰められる子どもたちが相次いでいます。

タリバンが復権したときに小学校6年生だった、首都カブールに住むザハラさん(15)は、中学生になりましたが、もう2年間も学校に通えていません。 家で過ごす日々が続く中で、急に涙が流れたり、独り言がとまらなくなったりと、精神的に不安定になったといいます。

病院に通い治療を受け、料理や掃除などの家事をして気を紛らわせるようにしていて、最近では症状はほとんど出ることは無くなりましたが、今も時折、涙が流れることがあると言います。

2年間 同じ教科書を読み直して
ザハラさんは、「学ぶことが出来る場所がどこにもなくて、とてもつらいです。これまで2年間、退屈な日々を過ごしてきました。夢は医者になることですが、どうやって実現したらよいか分かりません」と話していました。

そんなザハラさんの1番の楽しみは、学校で使っていた教科書を読み返すことです。 学校に通えなくなってから2年間、同じ教科書を読み直しては、友達と学校に通っていた日々のことを思い返しています。

ザハラさんは「年齢が大きくなり、学校に行けないまま学ぶ機会が失われています。タリバンが学校を再開してくれるのか分からず、心配です」としたうえで、「国際社会には私たちが学校に通えるようにタリバンに働きかけを行ってほしいです」と話していました。

専門家「女性教育 いかに発展に必要か伝えるのが重要」
ドーハの国連の会議に、タリバンが招待されていたことについて、アフガニスタン情勢に詳しい中東調査会の青木健太研究主幹はこれまでの国際社会のタリバンへの働きかけは結果を出せていないとしたうえで、「女性の権利の保障を求める諸外国と、イスラム法にのっとって伝統に沿った国づくりをすると主張するタリバンの間で、議論が平行線をたどるおそれがある」と述べ、今後、国際社会との議論が本格化してもタリバン側の姿勢を変えるのは容易ではないとしています。

一方で、中国がタリバン暫定政権の派遣した大使を受け入れたことなどから、「人権の順守を要求する欧米よりも、つきあいやすい国々と関係を強化するのは自然の流れではないか」と述べ、タリバン側が国際社会からの承認を得ようと急いでいるという予断を持たないことが重要だと指摘しました。

そのうえで、「価値観を押しつけるのではなく、女性の教育がいかにアフガニスタンの発展にとって必要かを伝えるのが重要だ。タリバンの権力は外国の要人とほとんど接触が無い最高指導者に集中し、声が届かないという構造的な問題もあるが、しっかりタリバンの中枢に声を届けないと変化は生まれない」と述べ、粘り強い働きかけが必要だという考えを示しました。【2月18日 NHK】
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現実問題としては、「人権」に関する欧米的価値観からタリバンに改善を求めても、成果はあまり期待できないでしょう。

「国際承認」を与える見返りに人権改善を求めるような「取引」も、中国がタリバン政権との関係改善を見せているような状況ではあまり期待できないかも。

一方で、女性の人権に関して欧米との隔たりもある他のイスラム諸国では、タリバン政権ほどは極端な女性抑圧は行われていません。イランでは女性教育は進んでいますし、保守的とされたサウジアラビアでもムハンマド皇太子のもとで改革が進められています。

そうしたことを踏まえて、イスラムの立場からタリバンに改善を求めるというアプローチもあり得ます。

****宗教的アプローチに期待****
タリバン暫定政権、特に最高指導者をはじめとする強硬派に変化を促す方法はあるのか。

カブール出身のイスラム教シーア派法学者ザカリヤ・マシュクールは、タリバンの偏った思想と実践を正すために、イスラム教発祥の地サウジアラビアの権威が必要だと指摘する。

マシュクールは「サウジのイスラム法学者らが、タリバンの法解釈は誤っていると説明し続けるしかない」と訴える。軌道修正には政治ではなく、宗教的アプローチが欠かせないという主張だ。

タリバンが政策を変更する可能性はゼロではない。カンダハルに拠点を置くアクンザダら強硬派指導部と比べ、外交団や国際支援団体との接触が多いカブールでは閣僚の大半が女子教育再開を支持している。タリバンは国連とNGOに女性職員の出勤停止を命じたが、国連の交渉で保健医療分野は対象外となるなど、柔軟性も垣間見える。

国際NGO「ケア・インターナショナル」のアフガン事務所幹部レシュマ・アズミは「タリバンの多くが女性活躍の大切さを知っている。問題は指導部だ」と見抜く。「時間はかかると思うが、女性抑圧的な政策が変わることを待っている」【1月24日 47NEWS】
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タリバン側の「柔軟性」の事例としては、女子医大生容認も。

***タリバン、女子医大生を容認 農村部、医師不足対応か****
アフガニスタンのタリバン暫定政権は20日、農村部の約10州で女子学生の公立医大への入学を容認すると発表した。タリバン支配下の国営バフタル通信が伝えた。

タリバンは中学生以上の女子教育を禁じており例外的措置。農村部の深刻な女性医師不足に対応すると同時に、女性抑圧への国際批判を意識した可能性もある。

バフタル通信によると、タリバン暫定政権の保健省が各州当局に書簡を送り、高校既卒の女子学生を医大に入学させる手続きを開始するよう指示した。21年8月に復権したタリバンが女子教育を禁じる前に高校を卒業した女子学生が対象とみられる。 ただ入学を認められる女子学生数は不明。【2月21日 共同】
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タリバン的な認識から、女性患者の診察にはどうしても女性医師が必要になりますので、そのあたりの問題への対応と推測されます。ただ、いかにも総合的観点を欠いた弥縫策のようにも。

【タリバンの女性認識 出身母体パシュトゥン人部族社会の慣習しており、一定に国内では支持も】
女性問題への対応で他のイスラム諸国とも差異があるように、タリバンの政策には単にイスラム的な観点だけでなく、タリバンの母体であるパシュトゥン人部族社会の慣習・考え方が反映されています。

****「女性は守るべき存在」タリバンの女性抑圧政策を支える民意とは 民主化が失敗した理由は何か。これからどうなるのか【アフガン報告】6回続きの(4)****
アフガニスタンなど保守的なイスラム諸国には「女性の尊厳や貞淑さを守るため」として、女性を家族以外の男性と接触させない慣習がある。女性の社会進出を妨げる考え方だが、多くの国々に定着した文化でもある。

アフガンの問題点は、統治者として復権したイスラム主義組織タリバンが、女性の就労と教育を制限する政策を国家として推進していることだ。タリバンは民意の支持を得ていると主張する。本当だろうか。変化は可能なのか。

▽「恐怖の組織」ではない?
アフガンの首都カブールと他の地域では、街に広がる空気が微妙に異なる。カブールではスカーフ姿の若い女性たちが顔を隠さずおしゃれをして歩く姿を見かける。レストランやカフェでは、家族連れの女性客の姿もちらほら目に入る。外国人との接触が多い首都で、民主化と男女同権が進んだ名残だろう。

タリバンの本拠地、南部カンダハルでは話が別だ。市場の食料品売り場は女性客であふれているが、みな全身を覆うブルカ姿。表情は見えない。買い物の様子を撮影しようとスマートフォンを構えると、タリバン情報機関員の男が現れ追い出された。監視は徹底している。

それでも、カンダハル市民のタリバン観はおおむね好意的だ。「タリバンの考え方は土着の文化を反映している。ブルカ姿も強制ではない」という声をよく聞く。

欧米や日本から見ると「自由を抑圧する恐怖の組織」に見えるタリバンは、彼らの母体民族パシュトゥン人が多い保守的な南部や東部を中心に、アフガン人に支持されている。女性よりも男性が支持する傾向が強い。

タリバン暫定政権は、公共の場では目以外を布で隠すよう女性に命じ、女性だけでの長距離移動も禁じた。こうした政策には地域の慣習と重なる部分がある。

▽性欲と道徳的退廃から女性を守る
タリバンの最高指導者ハイバトゥラ・アクンザダは強硬派の中核で、巡礼・寄進相サケブや最高裁長官アブドルハキム・ハッカニら古参メンバーが顧問役として脇を固めている。

彼らが理想とするのは、イスラム教の原理主義的な解釈と、パシュトゥン人に根付く保守的な慣習に基づいた社会だ。個人主義と民主主義、完全な男女同権を重視するアメリカやヨーロッパの価値観とは大きな隔たりがある。現代の日本人にとっては欧米の価値観の方が身近だろう。

タリバンに近い20歳代の男性記者は、その価値観を「男性は女性を扶養し、女性の名誉と尊厳を守る義務がある。女性は働く必要がない代わりに、子育てと家族の世話を課されている」と説明する。

さらに「見知らぬ男性の性欲から女性を守るために衣服や行動を制限し、西洋文化と男女混合の場を禁じることで、道徳的退廃と家族の破壊を防ごうとしている」と指摘する。女性の外出や就労、就学に否定的な強硬派の主張を支える考え方だ。

濃淡の違いはあったとしても「女性は守り、隠すべき存在」という発想は幅広い層のアフガン人に浸透している。教育を受けた人たちも例外ではない。

2023年10月、1400人以上が死亡した西部ヘラートの地震被災地を取材したときのことだ。国連機関で働くアフガン人男性(24)に話を聞いた後、家族の女性の写真も撮影させてもらえないかと頼んだ。すると男性は「勘弁してくれ。アフガンの慣習は分かるだろ」と露骨に不快感を示した。

男性は英語を話し、外国人との付き合いに慣れた知識層だ。女性らは布で顔を覆い目の部分だけしか見えていなかった。それでも家族以外の男性と接触し、ましてや写真を撮られることはタブーなのだとあらためて思い知らされた。

▽眉毛ケアはイスラムの教えに反する
タリバンが女性に課した就労制限は幅広い。2022年12月、非政府組織(NGO)で勤務する女性職員の出勤停止を命令。2023年4月には国連機関に女性職員の出勤停止を命じた。

さらに6月には、全国の美容院に閉鎖を指示し多くの失業者を生んだ。命令の理由は、髪と全身を覆う衣服の着用義務違反や、派手なメーク。「眉毛を整えることはイスラム教では許されていない」という理由まであった。カブールで美容院を経営していたファウジア・サダト(34)は「理解に苦しむ。タリバンはいつも女性の意見を聞かず一方的だ」と批判する。

アフガンでは2001年の旧タリバン政権追放後、民主政府の下でカブールなど都市部を中心に男女平等の啓発が進んだ。女性は国会議員として政治参加もできた。

だがタリバン復権後、女性は政治参加を認められておらず、公園や公衆浴場、ジムの利用も禁止されており、次々と社会から居場所を奪われた。自由と男女平等を知った女性らの反発は強く、カブールに住む元教師の女性(29)は「タリバンは女性が子どもを産む生き物と思っている」と憤る。【1月24日 47NEWS】
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【公開処刑も 情報統制強化の動き】
女性問題以外でも「人権」に関するタリバンの認識は欧米的なものと溝があります。

****国連、アフガンの公開処刑に「がくぜん」****
国連は28日、アフガニスタンで最近行われた公開処刑を非難し、同国を実効支配するイスラム主義組織タリバン政権に死刑の執行停止を求めた。
 
タリバン暫定政権はこの1週間、最高指導者ハイバトゥラ・アクンザダ師が署名した令状に基づき、殺人罪で死刑が確定した死刑囚3人の刑を執行した。3人は、被害者の遺族を含む大観衆の前で銃殺刑に処された。

国連人権高等弁務官事務所のジェレミー・ローレンス報道官は声明で「アフガンの競技場でこの1週間に3人の公開処刑が行われたことにがくぜんとした」「公開処刑は、残酷かつ非人道的で、品位を傷つける取り扱いまたは刑罰だ」と非難。

「こうした刑の執行は事実上恣意(しい)的に行われており、アフガンも加入する市民的および政治的権利に関する国際規約に基づき保護されている生存権を侵害している」と指摘した。 【2月29日 AFP】
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もっとも、公開処刑は北朝鮮などでも行われており、タリバンだけの問題ではありません。

一方、タリバン側が、欧米批判を退けて体制擁護的な報道を強化する動きも。

****タリバン、「記者支援基金」設立へ=体制寄りの報道奨励か―アフガン****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は6日、ジャーナリストを支援する基金を設立すると発表した。タリバンによるメディア弾圧が指摘される中、国内外の批判をかわし、体制寄りの報道を奨励する狙いがありそうだ。

タリバンによれば、同日開かれたメディアの「違反行為」を監視する定例会合の中で決定。基金の助成対象は不明だが、出席したハイルホワ情報・文化相は全メディアに向け「イスラムと国の価値観にのっとった活動」をするよう促した。【3月7日 時事】
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【隣国パキスタンがテロ対策で越境攻撃】
国際関係では、タリバンの生みの親でもある隣国パキスタンとの衝突も報じられています。

****パキスタンがアフガン越境攻撃=8人死亡、武装勢力標的****
パキスタン軍が18日、アフガニスタン東部の国境地帯に越境攻撃を行い、子供3人を含む8人が死亡した。アフガンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が発表した。パキスタン外務省によると、同国内のテロ事件に関与した武装勢力を標的にした作戦を実施した。

暫定政権によれば、東部のパクティカ州とホスト州で同日午前3時(日本時間同7時半)ごろ空爆があり、民家を破壊。子供3人や女性5人が犠牲となった。ムジャヒド報道官は声明で攻撃を非難し、「パキスタンが制御できない非常に悪い結果をもたらす可能性がある」と警告した。暫定政権の国防省は、報復として国境沿いのパキスタン軍施設を「強力な兵器で攻撃した」と発表した。

アフガン国境に近いパキスタン北西部カイバル・パクトゥンクワ州では16日、軍施設が武装勢力に襲撃され、治安要員ら7人が殺害されていた。【3月18日 時事】
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独自性を主張するタリバン暫定政権と、タリバンを育て、支えてきたパキスタンとの関係がギクシャクしていること、イスラム過激派のテロに手を焼くパキスタンがテロの温床となっていると考える国内アフガニスタン難民をアフガニスタンに強制送還していることは、これまでも取り上げてきました。

今回の越境攻撃もそうした流れの一つでしょう。

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アフガニスタン  女性の権利改善を求める国際社会 追い詰められる女性の人道状況

2024-01-05 23:32:49 | アフガン・パキスタン

(【1月4日 KYODO NEWS】 カブールの街を疾走するスケート部隊)

【怖そうなタリバンのイメージ向上にも役立っている・・・・スケート部隊】
タリバン支配が続くアフガニスタンに関するニュースは、最近あまり多くありませんが、ちょっと変わった動画ニュースがありました。

****タリバンスケート部隊発足 首都疾走、イメージ向上も****
米軍とのジハード(聖戦)に従事した黒髭のムジャヒディン(イスラム戦士)らが街の安全を守ろうと、インラインスケートを履いてアフガニスタンの首都カブールを疾走している。

イスラム主義組織タリバン暫定政権の治安機関が発足させた「スケート部隊」だ。楽しげな様子は怖そうなタリバンのイメージ向上にも役立っている。パトロールに同行した。【1月4日 KYODO NEWS】
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昨年7月に発足し、当局の車両が渋滞を回避できるよう交通整理にあたっているとのことですが、覆面に自動小銃という姿は物々しい・・・まあ、アフガニスタンですからこうなるのかも。反タリバン勢力によるゲリラ戦や抗議デモ鎮圧にもあたる公安警察に所属しています。

イメージ向上にも役立っている・・・子供たちには受けるかも。

【人権状況を改善することを条件に、タリバン政権の国際社会への復帰を促す動き】
タリバン政権を承認した国はまだありませんが、その支配が長期化し、今後も続く様相を示していますので、タリバン政権を受け入れる流れも出始めています。

12月8日ブログ“アフガニスタン 中国は政権承認も視野に大使受入れ パキスタンとの関係は悪化”でも取り上げたように、中国はアフガニスタンでの資源開発や「一帯一路」への取り込みを念頭に、タリバン政権の駐中国大使を正式に承認し、政権承認も視野に入れた動きを見せています。

アフガニスタン国内からも、タリバン暫定政権の存続容認はやむを得ないとの認識も。

****タリバン暫定政権、存続やむなし カルザイ元大統領単独会見****
アフガニスタンのカルザイ元大統領が首都カブールで共同通信と単独会見し、2021年8月に武力で復権したイスラム主義組織タリバン暫定政権の「崩壊や分裂は望まない」と述べ、暫定政権の存続容認はやむを得ないとの認識を示した。タリバンに「政策の改善」を求め、女子教育の再開や多民族間の融和と政治参加を促すことが、唯一の打開策だと強調した。

カルザイ氏は01年の旧タリバン政権崩壊後、米国主導の民主化プロセスで初代大統領となり14年まで務めた。今回の発言は、民主化が失敗しタリバン統治が長期化した今、タリバンとの共存を探るしかアフガン安定の道はないという苦しい立場を示している。

インタビューは22日に行った。カルザイ氏はタリバンが「正当で国際的に承認された政権」となるためには「女子教育の即時再開と、反タリバン勢力を含めた国内対話」が不可欠だと指摘。タリバンの多数派は理解していると語った。

カルザイ氏はタリバン復権後も国内にとどまり影響力を維持。外国訪問を禁じられるなど行動を制約されている。【2023年11月27日 共同】
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カルザイ元大統領はタリバン中核と同じパシュトゥン人ですし、旧タリバン政権誕生時にはタリバンを支持し、駐国連代表に任命もされた経歴もあって、価値観のうえでタリバンに馴染みやすく、“暫定政権の存続容認はやむを得ないとの認識”に至るのはそう難しい話ではないのでしょう。

欧米諸国も、タリバンを排除したり、対決姿勢をとるのではなく、“受入れ”の流れも見えてきています。
国連安保理では、日本とアラブ首長国連邦(UAE)がとりまとめを主導し、タリバン暫定政権に女性の権利や自由を改善したうえで国際社会への復帰を促す初の決議案が採択されました。

****安保理、タリバンに女性の権利尊重など促す…アフガニスタンの国際社会復帰へ、決議案を日本が主導****
国連安全保障理事会は29日に緊急会合を開き、イスラム主義勢力タリバン暫定政権が掌握するアフガニスタン政府の国際社会への復帰に向けた初の決議案を賛成多数で採択した。タリバンに女性の権利尊重や政権への幅広い政治勢力の参加などを促す内容で、タリバンの対応が焦点となる。

決議案は日本とアラブ首長国連邦(UAE)が主導してまとめた。採決では15理事国のうち、日米英仏など13か国が賛成した。中国とロシアが棄権した。

決議ではタリバン暫定政権に対し、国際テロ組織との関係断絶や「包摂的な政府」の樹立を通じ、「国際的な義務を果たす」ことなどを求めた。また、国連のアントニオ・グテレス事務総長に、アフガン担当の国連特使の任命を要請した。

タリバンによる2021年8月の実権掌握後、各国は開発援助を停止し、アフガンの人道状況は悪化した。中学以上の女子教育の禁止や女性の就労制限といった女性抑圧などが問題視され、暫定政権は国際的に承認されていない。安保理は、アフガンの人道危機を解消するには、タリバン政権が女性抑圧などを中止して各国から承認を得て、再建に向けた援助を受けることが不可欠だと判断した。

英国のバーバラ・ウッドワード国連大使は採択後、「タリバンは国際公約を果たし、女性の権利や自由を制限する政策を直ちに撤回すべきだ」と強調した。日本の山崎和之国連大使は決議について「アフガンの広範な問題に対処する新たな戦略だ」と述べた。【12月30日 読売】
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人道支援もままならない現状では、アフガニスタン国内での人道状況は悪化しままで、女性の権利も改善しないとの判断なのでしょう。

国際支援が減少すれば、現実問題としてアフガニスタン国内の女性の雇用機会が更に減少するという問題もあります。

****アフガン支援減少に警鐘=「女性の働く場奪う」―赤十字現地代表****
赤十字国際委員会(ICRC)のフィリョン・アフガニスタン首席代表は28日、東京都内の日本記者クラブで会見し、アフガンのイスラム主義組織タリバンへの経済制裁に伴う国際支援の減少に警鐘を鳴らした。

タリバンが女性を抑圧する中でも、医療分野は女性に教育や労働の機会を提供しており、支援が絶たれれば「女性の働く場がなくなる」と訴えた。【2023年11月28日 時事】 
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【タリバン 復権後初めて服装規定違反で女性拘束】
しかし、上記の女性抑圧などを中止するようにとの国連の呼び掛けにタリバン側が反発したものかどうかはわかりませんが、タリバンの女性対応が悪化したニュースも。

****タリバン、服装規定違反で拘束 復権後初めて****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は、独自解釈するイスラム法で定めた服装規定に違反した疑いで、複数の女性を拘束した。同容疑による拘束者が確認されたのは2021年8月のタリバン復権後初めて。AP通信が4日、報じた。国際社会はタリバンによる女性抑圧を問題視しており、さらなる批判を呼びそうだ。

勧善懲悪省によると、女性らは最近、首都カブールで拘束された。服装規定を守るよう忠告し、従わなかったため身柄を確保したという。人数やどのように違反したかは説明していない。【1月4日 共同】
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個人的に意外だったのは、服装規定違反での女性拘束が復権後初めてという点。
イランなどでは服装規定違反取締りが普通に行われており、ヒジャブの被り方をめぐる女性死亡事件で大規模反政府デモも起きていますので、タリバン支配下のアフガニスタンも同様の厳しい状況だろうと想像していました。

タリバンとしても国際承認を受けたいという思いがあって、そうした女性服装取締りで欧米の批判を招くことは慎重に自制していたのでしょう。

では、どうして今になって? という疑問も。
やはり、女性の権利や自由を制限する政策の撤回を求める国際社会への反発でしょうか? 

【雇用、子育てで追い詰められる女性 タリバン「どんな犠牲を払っても守るべき独自の価値観がある」】
女性の権利や自由を制限する現状は、当然に女性を精神的にも追い込みます。その結果・・・

****アフガン女性18人が自殺 タリバン抑圧で精神状態が悪化****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権による女性抑圧政策が原因で、不安を募らせるなどして精神状態が悪化した女性18人が自殺していたことが4日、支援団体や遺族への取材で分かった。

うち12人の遺族に治安当局が口止めしていたことも判明。女性抑圧に対する批判は国内外で強く、実態を隠そうとしたとみられる。

暫定政権は女性の教育や就労を制限し、国際社会は「人権侵害」と非難、タリバン暫定政権を承認していない。自殺はイスラム教が禁じているため隠す遺族も多く、支援団体は18人は「氷山の一角」と分析している。

非政府組織(NGO)「アフガン女性・子ども福祉強化団体」によると、タリバンが復権した2021年8月以降、女性17人が教育や就労機会の制限、タリバン構成員との強制結婚を理由に将来への不安や不眠などの症状を精神科医や家族に訴えた後に自殺した。

17人のうち、11人の遺族が治安当局に経緯を説明し、口外しないよう命じられたという。【2023年11月4日 共同】
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上記の数字は文字通り「氷山の一角」でしょう。
遺族に治安当局が口止め・・・タリバン政権も悪評を気にはしているということでしょうか?

タリバンの政権復帰で女性の雇用は62%減少したとのことで、国連機関も女性の雇用創出に務めてはいます。

****政変で雇用率62%減 アフガンの女性起業支援は改善につながるか****
アフガニスタンでは2021年にイスラム主義組織タリバンが復権して以降、女性の教育や就労の機会が制限されてきた。その中で国連開発計画(UNDP)は10月、国際協力機構(JICA)と協力して、女性の経済活動への参加を後押しする取り組みを始めた。窮状が伝えられる女性たちの環境改善に役立つのだろうか。

「アフガニスタンで優先的に取り組まなければならないのは、女性が働き、生計を立てるための場を守ることだ」。UNDPのアジア太平洋局長を務めるカンニ・ウィグナラジャ氏は11月7日、毎日新聞とのインタビューで、前月に現地で始めた女性経営者への支援プログラムに言及。「女性たちは働き続け家族を養い、地域経済を維持したいとの思いを持っている。ビジネスの場を提供することは非常に重要だ」と意義を語った。

 ◇UNDPとJICA合同で
タリバンは再び権力を掌握すると、女性の高等教育の停止や非政府組織(NGO)などで働く女性職員の出勤停止、美容院の閉鎖など、イスラム法の極端な解釈に基づく政策を相次いで発表。世界銀行の22年の調査では、政変が起きた21年8月以前と比較して、性別の雇用率は男性も39%減ったが、女性は62%減少とより顕著に影響を受けた。

雇用環境が悪化しているが、UNDPなどは10月、縫製や食品加工、農業などの分野での起業や経営拡大を目指す女性を後押しするための支援を開始。経営に必要な会計やマーケティングの研修のほか、ミシンやカーペット製造機などの機器の提供や商品の国内外での販売に向けたインターネット販売のサービスも実施するという。

 ◇4800人の雇用創出目指し
実施期間は2年。JICAが約14億円の資金を提供する。アフガニスタンの女性経営者ら約1400人が対象となる見通しで、将来的に4800人程度の雇用創出を想定しているという。

一方で、アフガニスタンでは女性が一定以上の距離を移動する場合は男性親族の同伴が必要とされ、公共スペースへのアクセスも制限されているなど、ビジネスを行う上での障壁は大きい。さまざまな制約が課される中、UNDPなどはタリバンと交渉し、女性の経営参加を直接支援できるよう模索してきたという。(中略)

 ◇多くの人は学習と労働を欲している
アフガニスタンの現状について、UNDPのウィグナラジャ氏は「女性の労働への制限がある一方、多くの人々は学び、生計を立て、家族を守りたいと思う。こうした支援によって、女性たちが自身のビジネスで何人もの人たちを雇い、その家族を養うことができれば素晴らしいことだ」と述べた。

その上で「日本は私たちの最大のパートナーであり、日本の支援が人々に与える希望は非常に大きい。今後の継続的な支援に期待したい」とも話す。【2023年11月20日 毎日】
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一にも二にも、タリバンの協力姿勢がなければ女性の雇用問題は改善しません。

国際支援の減少は、子供を育てる女性にとって死活問題にもなっています。

****幼児の空腹を紛らわせるため「眠り薬与える」 支援の途切れたアフガニスタンの現状****

ソハイラ・ニヤジさんと娘のフスナ・ファキーリちゃん

「最後に子供のミルクを買えたのは2カ月前でした。いつもは哺乳びんにお茶を注いでいます。それかパンをお茶にひたして、子どもにあげています」。アフガニスタンの首都カブール東部の丘の上にある家で、泥レンガでできた床に座りながら、ソハイラ・ニヤジさんはそう話した。(中略)

ソハイラさんは夫を亡くしている。6人の子供がおり、最年少は生後15カ月のフスナ・ファキーリちゃんだ。ソハイラさんが言っていた「お茶」はアフガニスタンの伝統的な飲み物で、緑茶葉とお湯だけで作り、ミルクや砂糖は入れない。赤ん坊の栄養となるようなものは何も含まれていない。

ソハイラさんは、この1年で国連食糧計画(WFP)の緊急食料支援を受けられなくなった1000万人のうちの1人だ。支援は巨額の資金不足によって削減された。アフガニスタンに200万世帯あるとされる、女性が暮らしを支えている家庭にとって、特に壊滅的な打撃となっている。

武装組織タリバンがアフガニスタンで実権を握って以降、ソハイラさんは仕事に行けず、家族を養えなくなった。
「何も食べるもののない夜があります。私は子供たちに、夜こんな時間にどこに行けば物乞いができるのかと言うんです。子供たちは飢えたまま寝ますが、起きた時、私はどこへ行くべきか悩みます。隣人が食べ物を持ってきてくれると、子供たちは寄ってたかって『私にちょうだい、私にちょうだい』と言います。子供たちをなだめるため、私は食べ物を人数分に分けようとします」

フスナちゃんをなだめるため、ソハイラさんは「眠り薬」を与えていると話した。
「娘が起きてミルクをせがまないように、それを与えます。あげられるミルクがないからです。この薬を朝与えると、次の朝まで起きません。時折、死んでいないか確かめます」

ソハイラさんが娘に与えている薬をBBCが調べたところ、一般的な抗ヒスタミン薬だと分かった。こうした薬には、副作用として鎮静効果がある。

BBCは先に、アフガニスタンの一部の親が、子供たちに鎮静剤や抗うつ薬を与えて空腹を紛らわさせていると報じた。それらの薬に比べると、ソハイラさんが子供に与えている薬は害が少ないと、医師らはBBCに話した。それでも、大量に投与すると呼吸器障害などにつながる危険性があるという。

ソハイラさんによると、夫は民間人で、2022年にパンジシールでタリバンと抵抗勢力の間で起きた市街戦に巻き込まれて殺された。夫の死後、ソハイラさんは小麦粉や油、豆などをWFPによる支援に大きく頼ってきた。

そして今、WFPは300万人にしか物資を供給できないとしている。これは、深刻な飢餓状態にある人々の4分の1にも満たない。

ソハイラさんは今、親戚や隣人からの寄付に完全に頼って生活している。我々がいる間、フスナちゃんは静かで動かなかった。

フスナちゃんは若干の栄養不足状態にある。国連児童基金(ユニセフ)によると、アフガニスタンでは300万人以上の子供が栄養不足で、そのうちの4分の1以上がもっとも深刻な「重度の急性栄養不良」状態に陥っている。アフガニスタン史上、最も悪い状況だと、国連は指摘している。

栄養不足がこの国の最も若い世代をむしばむ一方で、医療崩壊を防いできた援助も、打ち切りを迫られている。
アフガニスタンでは2021年の政権交代以降、緊急暫定措置として、国際赤十字委員会(ICRC)が医療従事者の給与を支払い、30カ所以上の病院に医薬品や食料の資金を提供してきた。

しかし現在、ICRCにアフガニスタンを支援し続けるためのリソースはなく、ほとんどの医療施設で援助を打ち切っている。(中略)

タリバンが任命した同病院のモハマド・イクバル・サディク医長は、「医師と看護師の給与は政府から支給されていますが、給与は半分に減らされました」と語った。また、外来部門を閉鎖し、入院が必要な患者にのみ医療を提供しているという。(中略)

我々は、タリバン政府の主要報道官であるザビフラ・ムジャヒド氏に、より多くの援助を与えるよう国際社会を説得するために、政府は何をしているのかを尋ねた。(中略)

ジャヒド氏は、タリバンの政策も問題の一部であることを認識していたのだろうか? 女性に対して厳しい制限を課している国に、支援国は資金を提供したがらないということを。

こうした疑問に対してジャヒド氏は、「援助が圧力の道具として使われているのであれば、イスラム首長国(タリバンによるアフガニスタンの呼称)にはどんな犠牲を払っても守るべき独自の価値観がある。アフガニスタンの人々は、これまで我々の価値観を守るために大きな犠牲を払ってきた。支援打ち切りにも耐えるだろう」と述べた。

ジャヒド氏の言葉は、多くのアフガニスタン人を慰めるものではないだろう。国民の3分の2は、次の食事がどこから来るのかわからないのだ。【12月26日 BBC】
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アフガニスタン  中国は政権承認も視野に大使受入れ パキスタンとの関係は悪化

2023-12-08 23:28:18 | アフガン・パキスタン

(【12月7日 日経】左が駐中国大使に就いたビラル・カリミ氏と思われます)

【中国 タリバン暫定政権の大使受入れ 政権承認も視野に】
アフガニスタンでイスラム主義組織タリバンが復権して2年以上が経過しています。
タリバンは、2年の節目にあたる8月には記念式典も開催しています。

****タリバン「米国追放」祝う 復権2年、治安改善を強調****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権は15日、復権から2年を記念する式典を開いた。国営テレビが伝えた。

暫定政権のハナフィ第2副首相は演説で「アフガンに不安をもたらした米国などの侵略者を追放した」と主張、戦闘が終わり治安が改善したと強調した。暫定政権は米国に対する「ジハード(聖戦)勝利の日」として同日を祝日とした。

女性の教育や就労の制限を強める暫定政権を承認した国は一つもない。国民の貧困は深刻な状態で、治安面以外の統治は機能していないのが実態だ。首都カブールでは人権活動家が15日、政権に対する抗議デモを予定している。【8月15日 共同】
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一方、タリバンに抵抗する勢力は今月3日からオーストリア・ウィーンで会合を持っています。

****アフガン民主化の計画合意 ウィーンで反タリバン勢力****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権に対抗する「国民抵抗戦線」(NRF)など反タリバン勢力は3〜5日にオーストリアのウィーンで会合を開き、アフガン民主化に向けて結束して行動するための計画で合意した。多様な民族や異なる政治的立場を尊重する内容という。

反タリバン勢力がウィーンで会合を開くのは4月に続き3回目。北東部パンジシール州を中心に活動するNRFの指導者アフマド・マスード氏や崩壊した民主政権の閣僚、活動家ら約50人が参加した。少数民族や女性を含む政権樹立を求め、タリバンを交渉の席に着かせるため武装闘争が必要だと主張している。【12月6日 共同】
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アフガニスタン国内である程度の力を有しているのは、北東部パンジシール州を中心に活動するアフマド・マスード氏が率いるタジク人勢力ぐらいですが、“民主化に向けて結束して行動するための計画で合意”とは言うものの、具体的な道筋はほとんど描けていないのが実情でしょう。

タリバン支配が長期化して、目立った抵抗勢力の活動もない・・・ということになれば、“タリバン暫定政権を承認した国は一つもない”という現状も変化してきます。

タリバン承認の先鞭をつけそうなのが中国。

****中国、タリバン承認視野か 大使受け入れ、改革促す****
中国はアフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が派遣した大使を世界で初めて受け入れた。タリバンを正統な政権として承認することを視野に入れているもようだ。

習近平指導部はアフガンの国際社会復帰を後押ししながら、暫定政権に「穏健な政策」を取るよう政治改革を促し、踏み込んだ対応を取った。

中国はタリバンの後ろ盾となり、2021年に米軍が撤退したアフガンで影響力を拡大する狙い。ただ、武力で政権を奪取し女子教育を認めないタリバン暫定政権を承認した国はなく、強権支配を容認すれば米欧から批判されるのは必至だ。【12月6日 共同】
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中国外務省の汪文斌副報道局長は、5日の定例記者会見で「アフガンが国際社会から排除されるべきではない」としたうえで、タリバンへは「国際社会の期待に応え、穏健で慎重な内政・外交政策を進めるよう期待する」と述べています。

中国のアフガニスタンへの接近の目的はアフガニスタンの豊かな地下資源とも言われており、10月の「一帯一路フォーラム」にもタリバンを招待しています。

****タリバン、「一帯一路」フォーラム参加へ 中国との関係強化****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは、中国が17─18日に北京で開催する「一帯一路フォーラム」に参加する。中国との関係を強化する。アフガンの商業・産業省報道官がロイターに明らかにした。(中略)

今回の会議は、中国の習近平国家主席が提唱する広域経済圏構想「一帯一路」の10周年に合わせて開かれる。

アフガン当局は2010年、国内に銅、金、リチウムなど推定1兆─3兆ドル相当の未開発鉱床があると述べたが、現在の推定価値は不明。

中国はアフガン東部の巨大な銅鉱山を開発する可能性について協議を進めている。
同報道官によると、アジジ氏はアフガン北部のワハーン回廊に中国への直結道路を建設する計画について中国との協議を継続する。

中国、タリバン、パキスタンの当局者は5月、一帯一路の対象にアフガンを加え、中国・パキスタン経済回廊(CPEC)をアフガン国境まで拡大する意向を示している。

タリバン政権を正式に承認した国はないが、中国政府は先に、新たな駐アフガン大使を任命。タリバン暫定政権発足後に外国の大使が任命されたのは初めてだ。中国はアフガンの鉱山事業に投資している。【10月16日 ロイター】
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“強権支配を容認すれば米欧から批判されるのは必至・・・”とは言え、かねてより欧米と対立している中国としては“今更”といったところもあるでしょう。 

ただ、経済状態がよくない中国としても、今この時期に欧米との軋轢を強めるのは得策ではないとの考えもあると思われますので、タリバン暫定政権承認まで至るのかどうかは不透明です。

****習近平氏がEU首脳と会談 「国際協調」の方向に舵を切る中国****
元内閣官房副長官補で同志社大学特別客員教授の兼原信克が12月8日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。中国・習近平国家主席とEU首脳らとの会談について解説した。

中国の習近平国家主席がEU首脳らと会談
欧州連合(EU)のミシェル大統領とフォンデアライエン欧州委員長は12月7日、中国の習近平国家主席と北京で会談した。イタリアが中国の巨大経済圏構想「一帯一路」からの離脱を中国側へ正式に通知したことを踏まえ、習指導部は中国離れが広がらないようヨーロッパをつなぎ止めたい考えとみられる。

ヨーロッパとの関係修復も狙いか
飯田)11月には米中首脳会談もありました。そしてEU首脳との会談があり、最近の習主席は外交でいろいろ出てきますが、どんな狙いがあると分析しますか?

兼原)ヨーロッパは日米欧など、中国以外での経済が大きいのです。中国はこれを分断しないといけないので、一生懸命ヨーロッパを分断しようとしています。しかし、日米は離れないので、ヨーロッパを取りにいく。

ヨーロッパはどちらかと言うと経済の方に関心があるので、中国はそこに目をつけていますが、なかなかうまくいっていないと思います。

ヨーロッパ側もアメリカと切れるわけにはいきませんし、中国は独裁主義で人権侵害が激しい。経済は大事ですが、「どうなのかな」とヨーロッパは考え始めているのです。中国は弱いところを取りにいくので、東欧の小さい国から取っていく。(中略)

それがまた「分断しにきた」という話になり、ヨーロッパ側が怒ったのです。上手くいっていないので、それを修復する意味もあると思います。

国際協調の方に舵を切る中国
兼原)中国はいま経済がよくありません。ロックダウンをやりすぎたのです。(中略)

私たちも長い間正座していましたが、足が痛いと言いながらも立ち上がって元気になり、最近は物価も上がって消費が伸びているではないですか。

しかし、習近平さんはやりすぎて血が通わなくなり、壊死と言うと言いすぎですが、もはや血が通わないのです。消費が伸びなくなってしまった。だったら自由にすればいいのですが、習近平さんは自由にさせることが嫌いなので、半分締め付けながら進めるため、物価(指数)も0%からマイナスになっている。とにかく経済を何とかしたいのでしょうね。(中略)

最近は「一帯一路」もうまくいっていません。先日、首脳会合を開きましたが、以前は三十数ヵ国が来たのです。それが二十数ヵ国くらいに減ってしまった。ヨーロッパはハンガリーくらいで、イタリアもやめてしまいました。アフガニスタンのタリバンを呼ぶなど、「何をやっているのか」という感じです。(中略)

アメリカに対しても修復に入っているので、「いまは喧嘩するときではない」という方針なのだと思います。(後略)【12月8日 ニッポン放送 NEWS ONLINE】
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【タリバン暫定政権とパキスタンの関係は悪化 パキスタン当局によるアフガニスタン不法滞在者強制送還には国連機関も批判】
一方、独自性を主張するタリバン暫定政権と、タリバンを育て、支えてきたパキスタンとの関係がギクシャクしていること、イスラム過激派のテロに手を焼くパキスタンがテロの温床となっていると考える国内アフガニスタン難民をアフガニスタンに強制送還していることは、これまでも取り上げてきました。


****凄まじい数のアフガン難民がパキスタンから強制送還される理由****

パキスタンから追い出され、アフガニスタンへの帰還を余儀なくされる人々

パキスタン政府は10月はじめ、不法滞在の外国人に対する規制を強め、強制送還を実施すると発表した。実際に11月1日から、国外退去に従わない人たちの逮捕・強制送還を始めている。

これに関して国連の人権当局は、「人権の大惨事」を防ぐために強制送還を避けるようパキスタン政府に訴えている。

不法滞在の移民の数は?
パキスタンによる今回の措置は「主にアフガニスタン移民をターゲットにしているとみられている」と米紙「ニューヨーク・タイムズ」は報じる。

同国には、長年にわたってアフガニスタンの人々を受け入れてきた歴史がある。カタールメディア「アルジャジーラ」はこう解説する。

「1970年代後半から1980年代にかけて、ソ連による侵攻を受け、数万人のアフガニスタン人がパキスタンに逃亡した。さらに9.11の同時多発テロ事件後、米国の攻撃を受けたことで、また多くのアフガニスタン人が流入した。そして2021年にタリバンが政権を握ると、60万から80万人のアフガニスタン人がパキスタンに到着したと考えられている」

パキスタン政府によれば、10月31日より以前、約400万人の外国人が国内にいた。そのうち約380万人がアフガニスタン人だったという。そして政府承認の滞在資格を得ているアフガニスタン人は、そのうち220万人。160万人以上が不法滞在扱いであり、なかにはパキスタン生まれで、アフガニスタンに行ったこともない人々もいる。

パキスタンの命じた出国期限は11月1日午前0時だった。以降、これまでに20万人以上のアフガン人がアフガニスタンに入国したと見られている。

なぜ強硬な姿勢をとるのか
今回の措置の背景には、パキスタン国内で武力攻撃が急増していることがある。これは「アフガニスタンの武装組織による戦闘員、そして移民のせいだ」とパキスタン政府は主張しているのだ。

「『不法』難民の国外追放が決定された10月3日、パキスタンのサルフラズ・ブグティ内相は、今年国内で起きた24件の自爆テロのうち、14件はアフガニスタン人によるものだと述べた」という。

関係悪化の原因のひとつとしてアルジャジーラが指摘しているのは、パキスタン・タリバン運動(TTP)と呼ばれる武装集団だ。

「2007年に設立されたTTPは、組織の目標について、イスラム法の強硬な解釈をパキスタンに浸透させることと述べている。このグループは1年前、パキスタン政府との停戦協定を破棄した後、数百件の致命的な攻撃をおこなったとして告発されていた」

パキスタン側は、このTTPとアフガニスタンのタリバン政権は繋がっていると考えているのだ。なお、アフガニスタンはこれを否定している。【11月11日 COURRiER Japon】
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当然ながら、タリバン弾圧を逃れてパキスタンに来たアフガニスタン人も多数存在しますので、このような者の強制送還は人権問題になります。

一方で、タリバン暫定政権側もパキスタンのこのような強制送還を批判しています。
“背景には、経済や雇用が悪化する中で多数の送還を受け入れれば、いっそう国内が混乱しかねないという懸念もありそうです。さらに、別の懸念も指摘されているんです。”【11月13日 NHK】

パキスタン同様に多くのアフガニスタン難民を受け入れてきたイランも強制送還措置をとっているようです。

****イランもアフガン人を強制退去させている****
「ラジオ・フリー・ヨーロッパ」は、イランから帰国するアフガニスタン人も急増していると報じている。同国はパキスタンと同様の措置をとっているからだ。

「今年の8月だけで約4万6000人のアフガニスタン人がイランからアフガニスタンに自主的に帰国し、さらにその後、4万3000人が書類不備を理由に国外追放されている」という。そして「イラン政府は11月以降、臨時就労許可を持つアフガニスタン人の求職活動を禁止」している。

ラジオ・フリー・ヨーロッパによれば、イランも40年以上にわたってアフガニスタン人を受け入れてきた。その数は数百万人にのぼるが、イラン政府は、アフガニスタン人受け入れに対する「国際援助の不足にしばしば不満を抱いてきた」という。

2021年8月にタリバンが政権を掌握した際、国を出た360万人のアフガニスタン人のうち、70%以上がイランに入国している。【前出 COURRiER Japon】
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当然ながら難民問題を扱う国連の機関はこうした強制送還を批判しています

****アフガン強制送還は「命が失われるおそれ」UNHCRが見直し求める****
パキスタン政府が不法滞在しているアフガニスタン人を強制的に帰国させていることに対し、難民問題を扱う国連の機関が「多くの人命が失われるおそれがある」として、見直すよう強く求めました。

パキスタン政府は先月、テロ対策として不法滞在している170万人のアフガニスタン人に対し、今月1日までに国外に退去するよう命じたうえで、従わなければ強制送還すると警告していました。

UNHCR=国連難民高等弁務官事務所の担当者は21日、国外退去命令が出されてからパキスタン国内でアフガニスタン人に対する逮捕や拘束、強制送還などの件数が急激に増えていると指摘。

推計で37万人以上がアフガニスタンに帰国し、その大部分が女性や子どもなどの弱い立場の人々で、現地では最低気温が氷点下となっていることなどから、「適切な収容施設がなければ人命が失われるおそれがある」と警告しました。

そして、「アフガニスタンへの帰国はいかなる場合でも安全で自発的なものでなくてはならない」としたうえで、保護が必要な人々に適切な処置を行うようパキスタン政府に求めました。【11月23日 TBS NEWS DIG】
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タリバン暫定政権とパキスタンの不和は下記のようなニュースにも現れています。

****「ようこそ」の看板めぐり検問所一時閉鎖 パキスタン・アフガン国境****
パキスタン・アフガニスタン国境で最も通行量が多いトルカム 検問所が6日、「パキスタンへようこそ」と書かれた看板が原因で一時閉鎖された。

パキスタンとアフガニスタンの関係はここ数か月で一段と悪化している。パキスタンはイスラム主義組織タリバンが、アフガニスタンからパキスタンを攻撃する武装勢力について対策を講じていないと非難している。一方、タリバンはこの主張を否定している。

武装勢力による攻撃激化を受け、パキスタン政府は不法滞在しているアフガニスタン人に自主退去を促し、従わなければ強制送還を行うと発表。国連によると、10月以降40万人以上がアフガニスタンに帰国した。

帰国を選んだ人の多くは、交易の要所であるトルカム検問所を利用した。同検問所は今年、両国の緊張の高まりを受け、頻繁に閉鎖している。

両国とも、今回の一時閉鎖について互いを非難している。
パキスタン側の検問所の高官はAFPに、閉鎖は「パキスタン政府の強制送還方針に不満を持ったタリバン」によるもので、「看板の設置は口実にすぎない」と話した。この高官は匿名を希望した。

しかし、両国当局によると、パキスタン当局はその後、看板の撤去を命じた。(中略)

検問所があるナンガルハル州当局のクライシ・バドルーン氏によると、看板はパキスタンによって撤去された。また「協議の結果、パキスタンは新しい看板を設置しないことに合意した」とAFPに話した。

バドルーン氏は先に、パキスタンはこの看板を隠れみのにして、アフガニスタン側の領土を侵害する新たな検問所の設置をたくらんでいる疑いがあると主張していた。

歴代アフガニスタン政府は、英国支配時代に定められたパキスタンとの国境を認めていない。 【12月7日 AFP】
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「パキスタンへようこそ」という看板がなぜ問題になるのか・・・要領を得ない記事ですが、両国関係が悪化しているのは間違いないようです。

全くの想像ですが、パキスタン側には「これまでさんざん支援して、ここまで育ててやったのに。恩知らずめが!」という思い、タリバン側には「いつまでも上から目線でものを言ってくる。ウザい奴だ! アフガニスタンは自分たちが統治する国だ」という思いがあるのでしょう。

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アフガニスタン  アヘン生産は95%減 農家や薬物依存者対策は? 覚醒剤生産が急増

2023-11-06 22:19:38 | アフガン・パキスタン

(地元の人によると、橋の下に住み着いた人は2000人を超える。そのほとんどが、薬物依存症に陥っているとみられている。【2022年12月10日 TBS NEWS DIG】)

【アフガンのアヘン推定製造量が昨年に比べ約95%減少】
アフガニスタンが世界最大のケシ栽培国で、世界のアヘン・ヘロイン供給で圧倒的シェアをしめてきたことは周知のところ。

タリバンも旧政権時代はケシ栽培を禁止したものの、その後は容認し、逆に関与することで反政府活動の資金源としていたことも周知のところ。2018年に発表されたアフガニスタンの違法薬物に関するアメリカ政府の報告書には「タリバンの資金源の6割は、薬物取引に由来している」とも記されています。

また、そうしたアヘンなどの麻薬の一部は国内に流出し、失業などの社会問題も背景に、深刻な麻薬汚染を社会にもたらしていることもたびたび報じられてきました。

そうしたこれまでの情報からすると、非常に意外な印象を受けたのが下記記事。

****アフガン製アヘン95%減 国連、タリバン麻薬禁止で*****
国連薬物犯罪事務所(UNODC)は5日、アヘンの最大製造国アフガニスタンで、今年のアヘンの推定製造量が昨年に比べ約95%減少したと発表した。イスラム主義組織タリバン暫定政権による昨年4月の麻薬禁止令を受けて激減した。

アフガン産のアヘン推定製造量は昨年、世界の約80%を占めた。昨年の製造量は6200トンだったが今年は333トンとなった。

全土でアヘンの原料となるケシの栽培面積が急減し、小麦への転作が進んだ。小麦はケシよりも安価なため農家の収入が著しく減った。

UNODCは、農家がケシ栽培を再び始めないよう、農業支援の強化が必要と指摘した。【11月6日 共同】
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【1年前までは、従来と変わらないケシ栽培、禁止対策に本腰を入れているようには見えないタリバンの状況が方知られていたが・・・】
タリバンではなく、国連薬物犯罪事務所(UNODC)が言うのですから本当なのでしょう。

確かに、タリバンは政権復帰後は、2022年4月に手のひら返しで再びケシ栽培を禁じていました。
ただ、これまでの報道ではあまり本腰を入れているようには思えなかったのですが。

1年前の下記記事では“当局はこれまでのところ国内にはびこるヘロイン取引をほとんど取り締まっている様子はなく、広大なケシ畑の耕作も続けられている。” “(麻薬取引に関し)体裁を取り繕うために形だけの摘発を実施しているとしか思えない”と。

****アフガンで違法薬物価格が高騰 タリバンの禁止令で****
アフガニスタンは世界最大の麻薬輸出国の一つである。同国を支配しているイスラム主義組織タリバンが違法薬物の取引を禁止して以来、同国で薬物価格が急上昇していることが新しいデータからわかった。とはいえ、タリバンが実際に禁止薬物を取り締まっていることを示す証拠は限定的だ。

政府や非政府組織(NGO)を対象に人工衛星画像を利用した調査を提供しているアルシスがアフガン全土から収集したデータによると、2022年4月にタリバンがアヘン栽培の禁止令を公布して以来、同国内のアヘン価格は50%超上昇し、覚醒剤のメタンフェタミンも値上がりしているという。

薬物の取引が正式に禁止され、価格が高騰する以前は、20年にわたり反政府活動を繰り広げていたタリバン自身も麻薬の密売から利益を得ていた。アフガンはアヘンとヘロインの世界最大の生産国であり、ここ数年は結晶メタンフェタミンも製造している。

専門家らは、禁止令はまだ広範囲には施行されていないように見えるものの、今後取り締まりが実行された場合、流通が細るのではないかとの懸念が価格を押し上げていると分析する。

アルシスの衛星画像が示すように、当局は多くの麻薬製造施設や市場を閉鎖させることで少なくとも一部のメタンフェタミン取引を取り締まっているように見え、そのことが価格の上昇に火をつけた。

禁止の可否はアフガンだけでなく世界にも影響
アヘンの原料となるケシの作付けシーズンは間もなく始まる。ケシを原料とする麻薬鎮痛剤のオピオイドはアヘンより幅広く普及しているが、現地のタリバン司令官がオピオイドをどこまで禁止する考えなのか、そもそも禁止できるのかは依然として不透明だ。

専門家らは、この問題はタリバンだけでなく世界的な麻薬供給の未来をも左右する可能性があると指摘する。

情報筋は、禁止令を徹底できなかった場合、女性の自由を制限するイスラム過激派として悪名高いタリバンは国際社会から一層孤立するとみている。

だが国民の多くが農業に従事し、中でもケシが主要な換金作物となっている同国でケシの取引を標的にすれば、国民の深刻な反発を招く可能性がある。タリバンが21年に政権を奪取して以来アフガンは過去最悪の経済崩壊に陥り、失業と貧困が拡大している。

アフガンの麻薬取引に関する報告書を著した研究者であり、専門家であるデビッド・マンスフィールド氏は、「(タリバン政府が)麻薬取引を禁止するなか、アフガンの人々がこれまで依存してきた他の生計手段、つまり軍への入隊や都市の建設現場での作業といった選択肢は消滅している」と説明する。

「現地のタリバン政権関係者は、禁止令をあくまで推し進め、人道的危機を深刻化させ、民心が離れていくリスクを冒すだろうか。それとも国民からの抵抗を恐れてこのままケシ栽培を黙認するだろうか」

タリバンは薬物取引を突然禁止した後、2カ月の「猶予期間」を設けると発表した。ケシ栽培農家に代わりの作物を探す時間を与えるためというのが表向きの理由だ。

しかしアルシスによると、当局はこれまでのところ国内にはびこるヘロイン取引をほとんど取り締まっている様子はなく、広大なケシ畑の耕作も続けられている。

アルシスは収穫されたケシが摘発された多くの事例を記録しているものの、ほとんどのケースは「体裁を取り繕うために形だけの摘発を実施しているとしか思えない」と話す。

とはいえマンスフィールド氏は、薬物価格の上昇は「市場は明らかに、禁止令が実際に施行され、今後麻薬の流通量が不足することを懸念している」ことのあらわれだと言う。

タリバンにとっては禁止がリスクに
オランダのラドバウド大学のロメイン・マレジャック准教授(国際関係)は、薬物価格が上昇したことで、農家にとってはケシの栽培を続ける動機が強まったと指摘する。

「実際のところ、タリバンにとって禁止令の施行はリスクが高い」と同氏は言う。「薬物の取引を禁止すれば収入が減り、国民からの支持が低下する。政権存続のためには、単に国際社会を満足させることよりも支持率を維持することの方が重要だろう」

アヘンの生産を止めさせようとすることはかねて、アフガンの歴代の統治者にとっては危険な試みでもあった。タリバンは政権を追われる前の00年に、ケシ栽培を制限することに成功していた。だがその後同国が経済破綻に陥ったため、アヘン生産の中心地である南部地域からの支持を失うことになった。

01年に米国が主導した有志連合がアフガンに侵攻した後、アヘン生産は再び活発化した。国際社会がアヘン撲滅作戦のために数十億ドルの支援を提供したにもかかわらず、ケシの栽培面積は3倍近くに拡大した。西側諸国を後ろ盾とする政府が同国を統治していた間はタリバンだけでなく、政府と関係のある軍事的指導者も麻薬取引から利益を得ていた。

アフガンは長い間、大麻など他の薬物も生産してきたが、世界の麻薬取り締まり当局は、最近はメタンフェタミンの製造が拡大してきていると警告する。禁止する法律がなく、また原料として使われる植物エフェドラ(マオウ)が現地に自生しており、広い地域で入手できることが背景にある。

アフガンが製造にかかわっているとされるメタンフェタミンは、オーストラリアのような遠い地域でも押収されている。マンスフィールド氏は「我々はアフガンがメタンフェタミンの一大生産地となっていることを把握している」と説明する。「アフガンにはメタンフェタミンの原料となる植物があり、販売する店や製造施設があり、そしてメタンフェタミンが押収されている」
(2022年10月31日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)【2022年11月1日 日経】
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“戦場カメラマン・渡部陽一が見た、アフガニスタンの「ケシ畑」”【1月18日 渡部陽一 JBpress】でも、たくさんの地域でケシ畑が確認されたことを報じています。

上記のような報道がなされてから約1年、事態は様変わりした・・・・のでしょう。

【禁止措置のフォローはなされているのか? 農家対策は? 依存者対策は?】
ただ、これまで農家がケシ栽培を行ってきたのは、内戦で破壊された国土には十分な灌漑設備もなく、換金作物としてはケシぐらいしかなかったため。

したがって強権でケシ栽培を禁じた場合、そのフォローがなければ農家は収入を失います。

前出記事にもあるように「薬物の取引を禁止すれば収入が減り、国民からの支持が低下する。政権存続のためには、単に国際社会を満足させることよりも支持率を維持することの方が重要だろう」と思われてきました。

タリバンはそこらをどのように手当したのでしょうか?
ケシ栽培を強権で禁じることはできるでしょう。ただ、タリバンがその代わりの作物栽培を手助けするようなフォロー策を講じるようには思えませんが・・・。

冒頭記事ではケシに代わって小麦栽培を行っているようにも記されていますが、それで農家の暮らしが立ち行くのでしょうか?

タリバンにとっては、そんなことより、国際評価を高めて国家承認や支援拡大を実現するのが急務なのでしょう。

それともうひとつ、タリバン政権がほとんどフォローしていないのでは・・・と想像するのが、すでに存在する大量の麻薬依存者対策。

タリバンが強権でケシ栽培を禁じ、麻薬取引を本格的に禁じれば、麻薬の小売価格は暴騰し、これまで安価な麻薬に依存してきた多くの人々が供給を絶たれることになります。

依存患者への麻薬を急に絶てばその禁断症状は激烈なものになるでしょう。これこそタリバンにたら「知ったことではない」ということかもしれませんが。

下記記事も1年程前の麻薬患者の実態について報道したもの。

****アフガンに巣食う“麻薬の闇” タリバン支配のその後【報道特集】*****
イスラム武装組織タリバンが実権を握ってから1年余り経ったアフガニスタンでは今、麻薬のまん延に人々が苦しんでいる。現地取材から見えた中毒者の壮絶な生活、緊迫の摘発現場。そこには、“麻薬の闇”に隠された事実が…麻薬汚染の実態に迫った。

■まん延する“麻薬” アフガンで何が
アメリカ軍の完全撤退とともに前政権が崩壊したアフガニスタンでは今、国民の9割が貧困ラインを下回る生活を余儀なくされている。貧しい生活と、長年の戦争によって家族や友人を亡くした喪失感から、麻薬に手を染める人は後を絶たない。

20年ぶりに実権を握ったイスラム組織タリバンは、薬物の撲滅を目指し、摘発を強化していると主張している。
2022年8月、私たちは西側テレビメディアとして初めて深夜に行われる摘発の同行取材を許可された。摘発にあたるのは、治安部隊に属するタリバンの戦闘員だ。(中略)

目的の地区に入ると車から降りたタリバン兵たちが、麻薬中毒者の捜索に散らばる。
須賀川記者 「今あそこ逃げている、逃げている、逃げている!が―っと逃げて行った」 「路上に歩いていた3人くらいを突然タリバン兵が座れと言って、壁際に座らせて…これ正直ですね、彼らが麻薬中毒であるかどうかの検査はもちろんしていないんですよね」

拘束された人たちが、次々と車に乗せられていく。(中略)

次に向かったのは、カブ―ル郊外の草木もまばらな荒れた丘。兵士たちが駆け下りていく。
須賀川記者 「ほとんど見えないけど、斜面に人影が…この辺りが麻薬中毒者たちがたむろしているところらしいんです」

下まで降りると、異様な光景が目に飛び込んできた。
須賀川記者 「見て、布の下にいるんだ。これがいわゆる住まいみたいになっているんですね」

山肌を掘り、ビニ―ルシ―トなどを被せただけの穴に多くの人が住んでいた。 兵士に囲まれ大声で激しく抵抗する老人がいた。(中略)なかなか動かない老人に、兵士が暴力を振るっていた。この丘の捜索だけで、100人以上が拘束された。(中略)

彼らはどこに連れていかれるのか。私たちは移送先にも同行した。 カブ―ル郊外の、アビセンナ薬物治療病院。アフガニスタンで唯一の薬物依存症の回復施設だ。

病室のベッドは、患者たちで埋まっていた。この病院の収容人数は約1000人だが、常に満床の状態が続いているという。(中略)

何をするでもなく、ただふらふらと病院内を歩き回る患者も。 タリバンは、薬物の摘発は効果が出ていると強調するが、取材を進めると疑念を抱かざる負えない事実が次々と明るみになってきた。(中略)

■須賀川記者がタリバン幹部に問う「本当に薬物を撲滅しようとしているのか」
須賀川記者 「タリバンがパトロ―ルに来たけど完全に素通りだね。サイレンは鳴らしているけど」
夜の摘発には取材陣を同行させて取り締まりをアピ―ルしたタリバンだが、この日は麻薬中毒者を放置していた。
タリバンは、本当に薬物を撲滅しようとしているのか。私たちは、昼間に再び薬物治療病院をたずねた。

須賀川記者 「私の左手側に白い服を着た人たちがいるんですが、勧善懲悪省ですね。きょう麻薬中毒になった患者たちにイスラ―ムの教えをもう一度教えるために来ているんですね」

続々と広場に出てくる薬物依存症の患者たち。勧善懲悪省は、イスラムの教えに国民が従うよう行動を監視し、時によっては処罰する組織だ。その職員の説教が始まった。(中略)

■「タリバンは薬物取引で利益を得ている」農家が証言
アヘンは、ケシの実を削って出る白い乳液を加工して作られる。アヘンの原料、ケシの実を今も栽培しているという情報を得てその農家に向かった。 そこには、収穫後のケシの実が無造作に積み上げられていた。つぼみにはカミソリで切りつけた形跡が。まぎれもなく、アヘンの原料となる乳液を採取した後だ。

この農家は、ケシの実の栽培どころか、アヘンの製造まで手掛けていた。倉庫の入り口に山積みになっていたのは…
須賀川記者 「これ麦とかカモフラ―ジュで置いているんですけど…いきなり下に無造作に置いてある、これいわゆるケシの実から取った最初のアヘンの原料ですね」(中略)

ケシ農家の男性 「農家にはそこまでお金は入らない。工場と密売人だけが儲かるんです」
タリバンとの関係を聞くと、口をつぐんだ。

ケシ農家の男性 「タリバンは我々と関わりません。関係ありません」
しかし、別の農家に話を聞きに行くと、そこの男性が怯えながらもタリバンこそが薬物取引の中心的存在だと証言した。

農家の男性 「はっきり言います。タリバンは薬物取引で利益を得ている。そうでなければ、工場も市場も全て破壊するはずです」

須賀川記者 「工場もあるのですか?」
農家の男性 「もちろんあります。工場もあるし、取引もしています。1キロ2キロの問題じゃない、何千キロも作っています。それを隠せるわけがない。タリバンが関わっていなければ、輸出なんてできません」【2022年12月10日 TBS NEWS DIG】
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事情・実態はともあれ、アフガニスタンのアヘンの推定製造量が昨年に比べ約95%減少したのは朗報でしょう。特に国際社会にとって。アフガニスタンにとっても本来的には今後にとって極めて重要なことです。

ただ、それにともなう農家への代替作物支援とか、依存者対策とか、そいったことをどれだけ行ったうえでの措置だったのかは疑問が残ります。

【覚醒剤生産が急増】
あと、覚せい剤原料の麻黄がそこらに自生するアフガニスタンは覚せい剤製造でも世界最大国です。

****アフガニスタン、覚醒剤生産が急増 国連薬物機関調査****
アフガニスタンは覚醒剤のメタンフェタミン(メス)の生産で著しい成長をみせていることが、9月10日に発表された国連薬物犯罪事務所(UNODC)の報告書で明らかになった。(中略)

報告書を発表したUNODCによると、アフガンのメスの多くは合法的に入手可能な物質から生産されるか、自然生育するエフェドラ植物から抽出されたものだという。

アフガンでのメス生産により合成麻薬市場が混乱し、中毒を助長する可能性があるため、国内と地域の健康と安全に対する脅威が高まっていると報告書は指摘する。また、EUや東アフリカからはアフガン由来とみられるメスが押収されたという報告がもたらされている。(中略)

アフガニスタン内務省のアブドゥル・マティーン・カニ報道官は「タリバン政権はあらゆる危険ドラッグと麻薬の国内での栽培、生産、販売、使用を禁止した」と述べている。

当局は644ヶ所の生産施設のほか、禁止麻薬が栽培、加工、生産されていた約1万2000エーカーの土地を破壊し、5000回以上の捜索で6000人を逮捕した。

カニ氏は「闇活動もあるため、早期撲滅は不可能だ。だが我々は、麻薬全般、特にメスの撲滅を目指す4ヶ年の戦略計画を策定した」と話している。

昨年11月に発表された国連の報告書には、タリバンによる政権奪還以降、アヘンの栽培量は前年比32%増加しており、当局が22年4月に栽培禁止を発表した後、アヘン価格が上昇したと報告されている。アヘン販売により農家収入は21年の4億2500万ドルから22年には14億ドルと3倍に増加した。

同報告書では、アフガン経済が急減速したことで違法薬物市場がはびこり、人々は生きるために違法栽培や密売に手を染めるようになったと指摘している。

アフガンでは干ばつや深刻な不況のほか、数十年にわたる内戦と自然災害によってもたらされた継続的な被害に直面している。かつて欧米からの支援を受けていた頃に経済の支えとなっていた国際金融の機能が停止したこともあり、経済環境の悪化で人々は貧困と飢餓、麻薬中毒へと追い込まれつつある。

メディアにコメントする立場にないとして匿名を条件に語ってくれた同国保健当局の担当者によると、病院には約2万人の薬物中毒患者がおり、大半がメスによるものだという。このうち女性は350人で、子供も治療を受けているが、その人数や年齢については明らかにしなかった。【9月20日 NewSphere】
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薬物汚染としては、アヘン・ヘロインより覚せい剤(メス)の方が本筋のようです。

こうした麻薬栽培・製造、薬物依存をもたらしてきたのが経済環境の悪化による貧困と飢餓、将来への希望のなさ・・・でしょう。
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パキスタン  イスラム過激派対応でタリバン政権に不満 国境銃撃戦に続きアフガン人不法滞在者追放

2023-10-05 22:46:56 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタンとパキスタンの国境=2月2日、トーカム【9月6日 時事】 9月6日に迫撃砲を含む銃撃戦が発生、国境は一時的に閉鎖された)

【パキスタン アフガニスタン・タリバン政権にイスラム過激派取締りを要請】
パキスタンではイスラム過激派(「パキスタン・ターリバーン運動」(TTP)、「イスラーム国ホラーサーン州」(ISKP)など)によるテロが頻発しています。

****パキスタンで爆発57人死亡 自爆テロ、2カ所のモスク****
パキスタン南西部バルチスタン州のモスク(イスラム教礼拝所)近くで29日、爆発があり、少なくとも52人が死亡、約50人が負傷した。

北西部カイバル・パクトゥンクワ州のモスクでも同日、爆発があり、少なくとも5人が死亡、12人が負傷した。警察はいずれも自爆テロとみている。犯行声明は確認されていない。地元メディアが報じた。
 
この日はイスラム教の預言者ムハンマドの生誕祭だった。バルチスタン州の爆発では、数百人の教徒らがモスクから行進していたところ、男が付近の警察車両に近づき、爆発物を起爆させたとみられる。【9月29日 共同】
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TTPやISKPなどのイスラム過激派は隣国アフガニスタン内に拠点があり、武器調達などもアフガニスタンで行っていると思われます。

パキスタン政府は増加するテロ対策としてとして、アフガニスタン・タリバン政権にイスラム過激派対策を要請しています。

****アフガニスタン:パキスタン国防相がカーブルを訪問しテロ対策について協議****
2023年2月22日、パキスタンのアーシフ国防相率いる代表団がカーブルを訪問し、ターリバーンのバラーダル副首相代行らと会談した。

パキスタン代表団には、軍統合情報局(ISI)長官、アフガニスタン特使らも同行した。ターリバーンのムジャーヒド報道官によれば、会談では、治安、アフガニスタンに飛来するドローン、敵対的勢力の活動、貿易関係、国境管理等が協議された。

また、バラーダル副首相代行は、パキスタン国内で拘束されるアフガン難民の処遇、及び、トルハム国境等での円滑な通行について改善を要望した模様だ。

一方、22日付パキスタン外務省声明によれば、パキスタン・ターリバーン運動(TTP)、及び、「イスラーム国ホラーサーン州」(ISKP)を筆頭に、地域で増大するテロの脅威への対処が会談で議論された。

評価
今次訪問の主要な議題は、テロが両国に与える脅威を如何に抑えるかであったと考えられる。パキスタンでのイスラーム統治実現を標榜するTTPは、パキスタンにとって治安上の脅威である。

2022年6月にはパキスタン政府とTTPは一時停戦に合意したものの、11月にTTPは停戦を延長しない旨発表、12月頃からパキスタン治安部隊への攻撃再開を指示した。

2023年1月30日、パキスタン北西部のペシャーワル市のモスクの爆発では、昼の礼拝のために集った市民100名超が死亡した(注:TTPは公式には無関係と主張)。

目下、パキスタン治安機関にとってTTPの活動を抑え込むことが焦眉の急であり、過去には水面下で協議を仲介したこともあるなど、TTPと密接な関係を有するターリバーンから協力を得たいものと見られる。

そして、ISKPへの対策も両国にとって重要である。ISKPはアフガニスタン国内で、シーア派教徒への攻撃のみならず、最近では、ロシア大使館(2022年9月)、中国人客の利用が多いホテル、パキスタン大使館(ともに12月)を標的に治安事案を引き起こしてきた。実害を被ったパキスタンは、ISKPの活動が自国に波及・拡大することは避けたいはずであり、実効支配勢力ターリバーンにテロ対策面での活躍を期待しているのだろう。

この他、両国関係においては、国境管理、アフガン難民の処遇を巡る問題等、課題が山積している。今次訪問にISI長官が同行していることから見ても、パキスタンとしてはターリバーンをしっかり制御しつつ、自国にとっての利益を確保したい意向がうかがえる。

一方のターリバーンは、現在の状況を外国による「占領」から解放されたと認識しており、パキスタンからの過度な介入や干渉には強く反対すると考えられる。(後略)【2月24日 中東調査会】
**********************

【もともとタリバンはパキスタンの軍情報機関ISIが育てた組織ではあるが、復権後はタリバン側は独自性主張も】
もともとタリバンはパキスタンの軍情報機関ISIが中心になって(初期はアメリカのCIAの意向を受けて)資金・軍事訓練・武器などを供与し育成した組織です。

****タリバンの「生みの親」はパキスタンのスパイ組織****
(中略)ISIは「国家の中の国家」と呼ばれる組織で、パキスタンの国家運営を裏で牛耳っていると言われる。内政、安全保障、外交に至るまで、ISIの発言力は高い。大統領も首相も、ISIから許可なく物事を決められないほどだという。

ISIがそれほどまでに力を付けた背景には、アメリカの存在がある。創立以降どんどん大きくなってきたISIだが、特に1979年、隣国アフガニスタンにソビエト連邦が侵攻したことが大きな転機となった。

当時ソ連と冷戦状態にあったアメリカは、ソ連侵攻でアフガニスタンが共産化するのを阻止しようとした。そこでアフガニスタンとも近い関係だったパキスタンのISIと、緊密な関係を築くようになる。

アメリカは軍事的な支援や戦闘資金などをISIに提供し、ISIはそれを元にアフガニスタンでソ連軍と戦うムジャヒディン(イスラム戦士)を支援。戦闘訓練も施した。ムジャヒディンはその後、イスラム原理主義勢力、タリバンとなった。

つまり、ISIは諜報機関として、アメリカなどの後ろ盾を得てテロ組織を運営するようになっていったのである。結局、ソ連はタリバンなどの攻勢によってアフガニスタンから撤退を余儀なくされるのだが、その後にアフガニスタンを支配したのはタリバンだった。そして内戦の末、1996年にはタリバン政権が誕生する。

ただそれも長くは続かなかった。アメリカで911米同時多発テロが発生し、首謀者とされたイスラムテロ組織アルカイダの最高指導者ウサマ・ビン・ラディンを匿っていたとして、米軍はタリバン政権率いるアフガニスタンを軍事攻撃。あっという間に、自分たちが誕生の手助けをしたタリバンの政権を崩壊させる。

以降、米軍はアフガニスタンに駐留し、引き続きISIに軍事支援や資金提供をして、タリバンやアルカイダと戦ってきた。一方、ISIはタリバンとの関係を維持し続けてきた。(中略)

お隣のアフガニスタンが安定するか混乱するかは、パキスタンの利害問題でもある。そのためISIは、いまだにタリバンを使って情勢をコントロールしようとしているのだ。【2021年7月15日 COURRIER JAPON】
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上記はタリバン復権以前の記事で、パキスタン軍情報機関がタリバンを生み育て、旧政権崩壊後もタリバンを支援し、コントロールしてきたことは事実でしょう。ただ、その力関係に次第に変化はあったかも。

タリバンの攻勢が強まるにつれ、パキスタンはアメリカなどからタリバン抑制を再三求められていましたが、パキスタンはタリバンをコントロールする力はないといった旨の主張をしていました。

実際のところタリバン復権前の頃のパキスタン(ISI)・タリバン関係がどのようなものだったのかはよくわかりませんが、ISIとの関係が切れた訳でもないでしょう。

こうした経緯からパキスタン側にはアフガニスタン・タリバン政権に対し、上から目線的な、パキスタンの要請に応じて当然・・・といった発想もあるのかも。想像ですが。

一方のタリバン側は、“外国による「占領」から解放されたと認識しており、パキスタンからの過度な介入や干渉には強く反対すると考えられる”【前出 中東調査会】と、独自性を強めていると推測されます。

【パキスタン側の不満爆発 国境での銃撃戦 国境封鎖】
そうした「関係変化」を背景に、冒頭のようなテロ頻発でタリバン政権の生ぬるい対応へのパキスタン側の不満の高まりもあって、パキスタン・アフガニスタンの国境では緊張状態にありました。

****アフガニスタン:パキスタンとのトルハム国境が封鎖、両国間の緊張が高まる****
2023年9月6日、アフガニスタン・パキスタン両国を隔てるトルハム国境において、両国国境警備隊による銃撃戦が発生した。これを受けて、同国境は一時的に封鎖された。

国境封鎖の継続を受けて、アフガニスタン外務省は9日に声明を発出し、パキスタンによる国境封鎖措置に反対の意を表明するとともに、収穫期を迎えたアフガニスタン農産物の輸出を妨げるパキスタン政府の対応を強く非難した。また、ターリバーンは同声明で、6日の国境付近での治安事案において先に攻撃を仕掛けたのはパキスタン軍だと主張した。

これに対し、パキスタン外務省は11日、アフガニスタン暫定政権(注:ターリバーンを指す)が、パキスタン領内に人工建造物を建設したと述べ、ターリバーンが先に発砲したと主張した。

評価
アフガニスタンにとり、パキスタンは輸出第1位、輸入第3位の重要な貿易パートナーであり、トルハム国境封鎖の経済的影響は大きい。パキスタンが今次措置を講じた背景には、近年、ターリバーンに対する不満を強めていたことがある。

パキスタン国内では、パキスタン・ターリバーン運動(TTP)による攻撃が増加傾向にあり、パキスタン当局はTTPがアフガニスタン領内に聖域を得て、米軍が残した兵器を入手し攻撃していると見ている(注:米政府は兵器の流出を否定)。

こうした経緯から、パキスタンはターリバーンに対し、アフガニスタン領をTTPに使用させないよう再三要求してきた。

こうした中、今次事案と同日(6日)発生した、北西部ハイバル・パフトゥンフワー州のチトラールでの治安事件も影響を与えていると考えられる。国境での衝突が発生したその日、チトラールでも、複数のTTP戦闘員がパキスタン軍の哨戒所を襲撃し、交戦の末、パキスタン兵士4人が死亡、武装勢力12人以上が死亡する事件が発生した。

同事件によって、パキスタン側の不満が爆発したと考えられる。なお並行して、パキスタン領内でのアフガニスタン難民に対する取締りも強化されている模様である。

一方のターリバーンは、同国の領土を他国に危害を加えるために使用させることはないと主張し続けている。2021年8月の政権奪取を経て、ターリバーンは外国軍の占領から解放されようやく自由と独立を手に入れたと認識しており、次第に独自路線を強めてもいる。こうした事情から、アフガニスタン側も独自の主張を押し通そうとするだろう。

このように両国間には課題が多い一方で、強固な経済・貿易関係もあり人の往来も活発であるため、対話を通じて国境を再開させることが重要である。TTPの活動抑え込みにおいて、ターリバーンが如何にパキスタンと協力できるかが一つの焦点となるだろう。

他方、実際のところ、ターリバーンとTTPは長年共闘してきた間柄であり関係断絶は困難であるため、両国関係の完全修復には時間を要する可能性がある。【9月12日 中東調査会】
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“TTPがアフガニスタン領内に聖域を得て、米軍が残した兵器を入手し攻撃している”というパキスタン当局の主張は事実のようです。

****死んだ父を探す幼い妹 命を奪った武器の正体****
(中略)
タリバン復権の前から、アフガニスタンの政府や軍関係者がアメリカ製の武器を横流しするケースはあったといいます。ただ、扱う量が増えたのは、タリバンの復権後。

武器庫が開けられ、そこからタリバンの戦闘員が機関銃やロケット弾などを持ち去り、一部をタリバンに提出して、残りを自宅に保管しているのだといいます。

そして戦闘員たちは、ガソリンを入れる時など生活費が必要になるとブローカーに武器を売りに来ていたのだそうです。

以前はアフガニスタン国内で1万ドルほどの価格で取り引きされていたM4ですが、闇市場に出回るようになると取引価格が下落。タリバンの復権直後は、1000ドル以下、10分の1以下まで値下がりしたといいます。
(過去にアフガニスタンで武器のブローカーをしていたという)男性は、こうした闇市場でアメリカ製の武器を調達し、取り扱った武器が国境を越え、パキスタンのイスラム過激派組織TTPに渡ったこともあったということです。

「タリバン自身が武器を取り引きするのは自由だ。武器は、イランや中国にも流出している。誰も、流出を止めることができない」

実際に、隣国パキスタンの治安当局はTTPがこの武器を入手し、テロ活動を活発化させているとみています。
2023年の上半期にパキスタンで発生したテロは、2022年の同時期より79%も増えているというシンクタンクの調査も明らかになっています。

さらに国連が2023年7月にまとめた報告書では、TTPだけでなく過激派組織IS=イスラミックステートにまで武器が流出している疑いがあるとしています。(後略)【9月14日 NHK】
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【止まないテロ パキスタン当局はアフガン不法滞在者を国外退去に タリバン政権報復から逃れてきた人々も】
“パキスタン側の不満が爆発で国境での銃撃戦”とのことですが、更に冒頭に紹介した9月29日の2か所のモスクでのテロ事件・・・いよいよパキスタン側の不満は大爆発の様相。

****パキスタン、アフガン不法滞在者を国外退去に****
パキスタン内相は3日、国内に不法滞在している数十万人のアフガニスタン人について、11月1日までに自主的に出国しなければ国外退去を命じると発表した。

パキスタン政府は、アフガニスタンから活動する過激派の攻撃が増加しているとして取り締まりを強めている。一方、アフガニスタン政府はこうした攻撃について否定している。

国連の最新の統計によると、パキスタン国内には難民登録をしているアフガニスタン人が約130万人いるほか、88万人が滞在許可を得て暮らしている。

だが、移民問題を担当するシャーゼーン・ブグティ内相は、これに加え170万人のアフガニスタン人が不法に滞在していると主張した。

アフガニスタンでは、イスラム主義組織タリバンが復権した2021年8月以降、推定60万人がパキスタンに避難した。

国営通信APPは、ブグティ氏が会見で「パキスタンに居住する不法移民と不法滞在者に与えられた期限は11月1日だ」「出国しないのなら、州や連邦政府の法執行機関を総動員して強制退去させる」と述べたと伝えた。

政府筋がAFPに語ったところによると、政府は全アフガニスタン人の国外退去を望んでいる。「第一段階では不法滞在者、第二段階ではアフガニスタン国籍の人、第三段階では滞在許可証を持っている人が追放される」という。

在パキスタン・アフガニスタン大使館は3日、過去2週間で1000人以上のアフガン人が拘束されたとXに投稿した。うち半数がパキスタンに合法的に滞在しており、警察によるアフガニスタン難民に対する嫌がらせだと非難した。

ブグティ内相はまた、11月1日からは有効なパスポートを持ったアフガニスタン人のみ入国を許可するとしている。
アフガニスタン人は長年、パスポート代わりに同国の身分証明書で入国が認められていた。アフガニスタンでは現在、パスポートの発行申請が殺到しており、取得までに長期間かかる。パキスタンの入国ビザ取得にはさらに数か月かかることもある。

ブグティ氏は取り締まりを実施し、アフガニスタン人の不法滞在者が所有する不動産や企業を没収すると警告している。 【10月4日 AFP】
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ブグティ内相は会見で、今年国内で発生した大規模なテロ24件のうち、14件はアフガニスタン人が実行したと指摘し、「証拠はある」と強調しています。

パキスタン側がどこまで徹底するのかはわかりませんが、不法滞在者に加えて滞在許可証を持っている者もということになれば対象者は百万人を超える膨大な数になります。

そのなかには40年にわたりパキスタンに住み続けてきたような人々も含まれます。今更アフガニスタンに戻れと言われても生活が成り立ちません。

更に、タリバン政権復権で報復を恐れて逃れてきたような人々も多数います。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは2日、タリバンの迫害を恐れてパキスタンへ逃げた多くのアフガニスタン人が、同国で恣意的な拘束や追放の脅威にさらされているとして、深い懸念を示す声明を出しています。
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パキスタン  政治的混乱と経済苦境 資金的に支える中国とサウジアラビアの思惑

2023-09-05 23:26:04 | アフガン・パキスタン

(パキスタンのシャバズ・シャリフ首相(左)とサウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子。2022年のサウジ訪問時【8月11日 WSJ】)

【政治的不安定さと経済的苦境】
パキスタンでは、議会が解散され暫定内閣が組閣されたものの次期総選挙は年内は難しいとの見方があって、政治的空白が長引くことも予想されています。

パキスタンはIMF融資などによる経済再建途上にあり、政治的空白は経済再建も遅らせることにもなります。

****パキスタンで議会解散、暫定内閣が発足****
パキスタンのシャバス・シャリフ首相(当時)による連邦下院解散(8月9日)にともない、(中略)前内閣と連立を組むバロチスタン民衆党(BAP)所属で上院議員のアンワールル・ハック・カーカル氏が、(中略)8月14日に暫定首相に就任した。

カーカル暫定首相は8月17日、暫定内閣を組閣した。同内閣は、前政権の政策との一貫性継続を重視して、党派に左右されにくい実務家内閣となった。

シャリフ前首相が下院任期満了日である8月12日の前に下院を解散したことから、憲法の規定により、解散から90日以内に総選挙が実施される(任期満了の場合は、解散後60日以内)。

ただし、選挙管理委員会(ECP)は、2023年5月に完了した国勢調査の結果を受けた選挙区の区割り見直しに時間がかかるため、2023年内の総選挙実施は困難と示唆している(8月18日「ビジネスレコーダー」紙ほか)。

また、シャリフ前首相率いるパキスタン・ムスリム連盟ナワズ派(PML-N)では、パナマ文書に端を発した汚職事件で有罪判決を受け、健康上の理由で2018年からロンドンに滞在している、過去3度首相を務めたナワズ・シャリフ氏(シャバス・シャリフ首相の兄)を次期首相にするために帰国させようとの動きも表面化しており(8月17日「ドーン」紙)、総選挙が規定期間内には実施されない公算が高まっている。

6月末に当時のパキスタン政府と9カ月間で最大30億ドルのつなぎ融資合意(SBA)をしたIMFは、暫定政権とはSBA後の新融資プログラムの交渉はしないと明言しており、総選挙が遅れた場合はIMFとの交渉再開が遅れ、再び外貨不足に陥る可能性がある。

次の政権へのつなぎとして発足した暫定内閣はその性格上、独自政策の実施や国際機関などとの新たな交渉はしにくいため、総選挙の遅れは経済の停滞を長引かせる恐れがある。【8月30日 JETRO】
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パキスタンの経済悪化は今に始まった話ではなく、2022年4月に失脚したカーン元首相も外貨準備の枯渇や物価の高騰など経済を低迷させたとの批判が議会による不信任の表向きの理由でした。議会不信任の背景にはパキスタン政治を左右する軍部との関係が悪化したことがあるとも指摘されていましたが。

カーン元首相はその後汚職などの罪で逮捕されていますが、クリケットの元スター選手で国民的人気は未だ高く、その処遇も政治混乱の火種になっています。

****カーン元首相の実刑判決停止=パキスタン高裁―出馬禁止は継続****
パキスタンの首都イスラマバードの高等裁判所は29日、汚職の罪で禁錮3年の実刑判決を受けたカーン元首相の一審判決の効力を一時停止した。地元メディアによると、高裁はカーン氏の釈放も命じたが、他の事件でも訴追されているため、釈放されるかは不透明だ。

一審判決を受け、カーン氏は被選挙権を5年間剥奪されている。高裁によれば、有罪判決は維持されているため、数カ月以内に行われる予定の総選挙への出馬禁止は継続される。

カーン氏は首相在任中、外国の要人からの贈答品を虚偽申告し、違法に売却していたとして5日に実刑判決を受け、収監された。判決を不服として上訴していた。【8月29日 時事】
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“カーン氏は首相在任中、米国などによる政権転覆の企てがあったと主張し、その説明のために外交公電に書かれた内容を都合よく解釈して公表した公職守秘法違反の疑いがある。この事件に絡み、拘束継続の指示が出た。”【8月29日 日経】とのことで、解放は見送られる見通しと報じられています。

カーン元首相は在任中はアメリカには批判的で、ウクライナ支援要請にも応じていませんでしたが、同氏は自身の失脚について“アフガニスタンやロシア、中国に対する外交政策上の姿勢を理由に、野党がアメリカと結託して自分を排除したと主張を続けている。”【ウィキペディア】とのこと。

最近も、米ニュースサイト「ザ・インターセプト」がパキスタン政府の機密文書をもとに、カーン元首相失脚には「アメリカからの圧力があった」と報じているようですが(【9月1日 The Liberty Webより】、真相はわかりません。

いずれにしても、起訴案件で全面的に無罪とならなければ次期総選挙には出馬できません。

【パキスタンを支える中国 テロの標的にも】
パキスタンは中国の重要なパートナーで、「一帯一路」の要となる国でもあり、財政再建が軌道に乗るかは中国の対応にもかかっています。

****中国、パキスタン向け融資24億ドルの返済繰り延べ****
パキスタンのダール財務相は27日、中国輸出入銀行が同国向け融資24億ドルの返済を2年間繰り延べたことを明らかにした。

元本24億ドルが対象。2年間は利払いだけを行う。「X」(旧ツイッター)への投稿で明らかにした。

パキスタンのシャリフ首相によると、中国はパキスタンと国際通貨基金(IMF)の協議が長引く中、同国に対しここ数カ月で約50億ドルの返済繰り延べや新規融資を行った。

パキスタンは、IMFから約12億ドルの融資を受けたほか、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)など友好国からも支援を受けており、外貨準備が増強されている。

ダール財務相は同国経済がすでに安定化に向けた軌道に乗ったと述べた。【7月27日 ロイター】
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中国とパキスタンはそういう“親密な関係にもかかわらず”、あるいは、“親密な関係にあるだけに”、パキスタンでは中国がテロの対象となっています。

****「極めて親密な国」のはずのパキスタン領内で中国人襲撃テロが多発****
パキスタン国内のインフラ建設で、中国企業が工事を請け負うことも多い。ところが、互いに「最も親密な国」であるはずなのに、パキスタン国内では中国人を標的にするテロやテロ未遂事件が多発している。

中国とパキスタンは極めて友好的で親密な関係を続けてきた。その背景には、インドへの対抗があるとされる。インドとパキスタンは国境紛争や東パキスタン(現、バングラティシュ)の独立問題が発端となり、3度に渡り本格的な戦争をした。

また、中国もインドとは、国境問題がきっかけで戦争をしたことがある。

現在は3国とも武力衝突を避け、安定した関係を構築しようと努力しているが、中国−インド、インド−パキスタンがいずれも対抗関係にある構図は続いている。そのような状況にあって、中国はパキスタンを可能な限り優遇し、パキスタンもまた中国を強く支持してきた。現在は「一帯一路」の建設もあり、中国にとってパキスタンはさらに重要な国になりつつある。

友好国のはずなのに中国人を襲撃
パキスタン国内のインフラ建設で、中国企業が工事を請け負うことも多い。ところが、互いに「最も親密な国」であるはずなのに、パキスタン国内では中国人を標的にするテロやテロ未遂事件が多発している。最近では同国西部のバルチスタン州にあるグワダル港で13日、中国人技術者を狙った自爆テロが発生した。襲撃側は少なくとも中国人4人とパキスタン軍警察の9人が死亡したと発表した。ただし中国当局は中国人の死傷を否定した。

パキスタンの首都のイスラマバードでは数週間目に、「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」の成立10周年を祝う記念式典が開催された。式典には中国の習近平国家主席の特使として、何立峰副首相が出席した。パキスタン側からも、政府高官が多く出席した。市内の主要道路の多くの場所でCPECの成立10周年を祝い、さらには「中国とパキスタンの友情は永遠」などと書かれた横断幕が掲げられた。

しかしパキスタンにはCPECに対して強い不満を持つ人もいる。例えばバルチスタン州では、CPEC関連の工事現場が繰り返し襲撃されてきた。バルチスタン州は貧しい地域だが天然ガスなどの地下資源がある。地元住民の多くが「地下資源は地元を裕福にするために使うべきなのに、CPECは別の目的で資源を利用しようとしている」と考えているという。

国内の反対派を力で弾圧するパキスタン当局
パキスタン当局は、繰り返される中国人や中国が関係するプロジェクトに対する攻撃に対抗するために軍を投入している。

中国企業などが本格的に乗り出す前から、バルチスタン州は反政府の過激な動きが活発で、同州では反中国と反政府の動きが結びついた。パキスタン政府は現地の人々の主張に軍事的手段で対抗し、空爆を行ったこともある。また、民主的選挙についても「操作」を繰り返してきたとされる。

中国政府は新疆ウイグル自治区の「分離独立」運動を、強く抑え込んできた。そして周辺国に対しては、「テロ分子に活動の場を提供しない」よう求めている。パキスタン当局は中国の要請に応えて、自国内のイスラム教原理主義者を取り締まっている。パキスタン国内には、そのことに不満を持つ人がいるという。

中国にとってCPECは「一帯一路」建設の中でも目玉となる事業だ。そしてグワダル港関連の事業は、CPECの中でも重点事業だ。中国はグワダルに国際空港を建設しており、9月には完成して引き渡される予定という。

現地警察は中国企業への攻撃を懸念して、老朽化した漁船や漁網を使う地元漁師の出漁を制限している。漁に出られない日が増えているという。現地では「人々に権利を与えよ」という団体が発生した。同団体は中国企業が機械式底引き網漁船で操業し、収穫物のすべてを中国に送っているとして、中国側によるパキスタンの海洋資源の過剰開発への反対運動を展開している。ただしパキスタン当局は「抵抗勢力」を厳しく弾圧している。

現在のパキスタンは政治面で不安定であり、経済も苦境にある。中国はパキスタンに300億ドル(2023年8月時点の為替レートで約4兆3600億円)以上の投資を行ってきたが、パキスタン経済が好転する兆しはない。むしろ債務不履行が懸念される状態だ。

しかし中国としては、「一帯一路」に対する信頼維持の観点からも、CPECからの撤退はできない。そして、CPECを継続するためには、追加投資をせねばならない状況だ。中国企業にとってはすでに、パキスタンよりもベトナムやバングラディシュの方が、魅力ある投資先になったという。

隣国のインドは中国・パキスタン経済回廊に「断固反対」
なお、隣国のインドは、CPECに対して「断固反対」の立場だ。中国とパキスタンの国境はまさに、インドとパキスタン、インドと中国が領有権を争うカシミール地方にあることが、最大の理由とされる。CPECの陸上ルートはカシミール地方にあるパキスタンの実効支配地域を経由して中国の実効支配地域に抜ける。インドは「違法であり、不当であり、受け入れられない」と主張している。【8月21日 レコードチャイナ】
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「一帯一路」の要である「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」に対してバルチスタン州で対中国テロを行っているとされるのが「バルチスタン解放軍」

****中国人を何度も襲撃している「バルチスタン解放軍」とはどんな組織か―独メディア****
2023年9月3日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、パキスタンでしばしば中国人を襲撃している「バルチスタン解放軍」について紹介する記事を掲載した。

記事は、パキスタン・バルチスタン州にあるグワダル港で8月13日、23人の技術者を乗せた中国企業の車列が襲撃されたと紹介。(中略)

その上で、襲撃事件を起こしたとみられるバルチスタン解放軍(BLA)について、2004年に設立され、パキスタンの治安部隊やバルチスタン地域に住むバロチ人以外の人々、特にパキスタン軍を支配するパンジャブ人を攻撃していると説明。(中略)

また、18年8月にはダルバンディンで中国人技術者を乗せたバスに自爆攻撃を行い、19年5月には中国企業が建設したグワダル港のホテルを、20年6月にはパキスタン証券取引所をそれぞれ襲撃したほか、昨年4月には現地の孔子学院職員が乗ったバスを襲撃して中国人3人とパキスタン人運転手1人が死亡したと伝えた。

記事は、一部のアナリストからはBLAが米国とインドの「反中国家」の支援を受けているとの見方が出ているほか、バルチスタン州の政治家からは「中国の投資は地元住民に利益をもたらしていない。中国は何十億ドルもの投資を自慢しているが、グワダルはいまだに深刻な水不足に悩まされている。バルチスタンはパキスタンで最も子どもの死亡率が高く、インフラはボロボロで、保健と教育が優先されていない」といった声が出ていると指摘。(中略)

一方で、BLAによる襲撃や脅威、そして現地住民の不満があるからといって、中国がパキスタンでのプロジェクトを停止することはないと多くの人が考えていると紹介。(後略)【9月5日 レコードチャイナ】
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【中国と並んでパキスタンを資金的に支えるのがサウジアラビアなど中東湾岸諸国 核開発もサウジの資金 見返りには・・・】
IMF、中国と並んで、経済苦境のパキスタンを資金的に支えるのが中東のサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)。

****財政難のパキスタン、湾岸諸国から巨額投資狙う****
パキスタンが湾岸諸国から巨額の投資を獲得しようと交渉中だ。パキスタンが財政安定のために外貨を必要とする一方で、石油マネーで潤う湾岸諸国は経済の多様化と世界における影響力の拡大に動いている。

事情に詳しい関係者によると、サウジアラビア政府はカナダの金鉱大手バリック・ゴールドがパキスタン西部で70億ドル(約1兆円)をかけて開発中の銅鉱山を買収する方向で交渉している。これとは別に、パキスタンと湾岸諸国の当局者によると、サウジの製油所をパキスタン国内で建設する交渉も進んでおり、建設費用は最大140億ドルに上る可能性がある。(中略)

ここ数カ月、大きな影響力を握るパキスタン軍は政治的弾圧を強めてきた。同国の官僚主義や優柔不断な態度に不満を募らせる湾岸諸国のために、パキスタン軍は投資案件の取引プロセスを簡素化し、同国への投資が一段と容易になるよう取り組んでいる。

パキスタンの鉱業、エネルギーインフラ事業、農地事業、および国営事業の民営化はいずれも、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールへの売却計画に盛り込まれる可能性がある。こうした湾岸諸国の間では、同盟関係にあるパキスタンなどの資産獲得を巡り競争が激化している。(後略)【8月11日 WSJ】
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****パキスタンにサウジが2─5年で最大250億ドル投資へ****
パキスタンのカカール暫定首相は4日、同国のさまざまなセクターにサウジアラビアが今後2─5年で最大250億ドルを投資すると明らかにした。

カカール氏は、サウジの投資は鉱業や農業、情報技術などが対象になるとの見通しを示したが、具体的なプロジェクトには言及していない。

ただカナダの産金大手バリック・ゴールドは先月、パキスタンの金鉱山と銅鉱山の開発パートナーとしてサウジの政府系ファンドを迎える意向を表明している。

カカール氏は、半年以内に国営電力2社の民営化手続きを完了させる方針で、さらにエネルギー以外の分野で新たな国営企業の民営化も検討する考えだ。(後略)【9月5日 ロイター】
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パキスタンの核開発もサウジアラビアの資金供与で行われたと見られていますが、見返りにサウジラビアの有事には5~6発の核弾頭をパキスタンがサウジに供与することになっているとの物騒な関係でもあります。

****サウジが「パキスタンの核弾頭」を手にする日:ミサイルは中国製の東風21****
中東のアラブ諸国などがひそかに核開発を進め、米国などの情報機関が神経を尖らせている。中でも最も懸念すべき動きを見せているのが、スンニ派大国サウジアラビアだ。(中略)

パキスタンから5~6発
「イスラム爆弾」が差し迫った危険として世界に注目され始めたのは1981年、イスラエルが予兆もなく突然、イラクのオシラク原子炉を爆撃して以後のことだ。その後、パキスタンの核開発が注目を集め、同時にパキスタンの核開発に対してサウジアラビアが資金援助したとの情報が流れた。(中略)

中東の核開発競争は、最初にイスラエルの核武装があり、次いでイラクなどアラブ諸国とイランの核開発、という形で拡大した。

こうした動きを受けて2003年9月、英紙ガーディアンで、サウジの最高レベルで①抑止力として核能力を持つ②防衛してくれる既存の核大国と同盟を組む③中東を非核地帯とする地域協定を締結する――の3つの選択肢から成る戦略案が検討中、と報道された。(中略)

さらに、2010年の英王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)の研究会で複数の西側情報筋が「サウド王家はパキスタンの核開発計画の費用60%以下を負担、近隣諸国との関係が悪化した場合、5~6発の核弾頭をその見返りに得るとのオプションが付いている」との情報が明らかにされたという(ガーディアン紙)。

CIAが非核を確認して引き渡し
サウジによる核兵器の運搬手段の入手については、近年になって次々と極秘情報が明らかにされた。イランに対する抑止力を示すため、サウジ側が情報を意図的にリークし始めたとみていい。

2014年1月、米週刊誌ニューズウィークで米中央情報局(CIA)に情報源を持つジャーナリスト、ジェフ・スタイン氏がサウジによる中国製ミサイル入手を暴露した。

それによると、サウジが1988年に極秘裏に中国から入手したのは中距離弾道ミサイル「東風3」(射程3300~4000キロ)。36~60基ともいわれる。東風3は1段ロケットで液体燃料式、命中精度が低い。

問題は、この事実を探知した米国の怒りを買ったこと。当時のロバート・ゲーツCIA長官(後の国防長官)はサウジ側に抗議した。

次にサウジが中国から調達したのは中距離ミサイル「東風21」(射程1500~1700キロ)。2段の固形燃料式で命中精度が向上した。スタイン氏によると、このミサイル入手に当たっては、CIAが仲介した。

サウジ側としては米国の了解を得る必要があり、米側としてはサウジの抑止力を強化する狙いがあったとみていい。
2007年当時のスティーブン・カッペスCIA副長官がCIA本部あるいは近隣のレストランなどで両国担当者と協議を重ねた。

技術的な協議には、CIA側から分析官やCIAリヤド支局長らも加わった。中国から積み出された東風21ミサイルがサウジで荷揚げされると、CIA技術者が出張し、核兵器搭載装置が付いていないことを確認した上でサウジ側に引き渡したとしている。

「イランが持てばサウジも」
(中略)2015年春、ソウルで行われた国際会議に出席したトゥルキ・ビンファイサル元サウジ総合情報局長官は記者会見で、「イランが保有するものが何であろうと、われわれも持つ」と発言、イランの核武装に対抗してサウジも核武装する構えを鮮明に示した。【2016年02月17日 新潮社フォーサイト】
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米CIAが中国からパキスタンへのミサイル供与を仲介・・・・国際関係の奇々怪々です。
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アフガニスタン  タリバン復権から2年 悪化する人権問題 アメリカとの協議も

2023-08-07 23:12:53 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタンの首都カブールで、イスラム主義組織タリバン暫定政権による美容院閉鎖命令に抗議する女性ら(2023年7月19日撮影)【7月20日 AFP】)

【強化される教育機会からの女性排除 失われる将来の「夢」】
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが復権して8月15日で2年となります。

タリバン政権は、政権奪取当時はやや柔軟な姿勢もほのめかせ、旧タリバン政権当時とは異なる対応の期待も抱かせましたが、女性の権利制限など、彼らがイスラムの教えにのっとっていると考える(実際は、イスラムというよりは、タリバン独自の特殊な思想やパシュトゥン人部族社会の考えだったりする面も多いように思われますが)施策は次第に強化される傾向にあります。

****タリバン政権、女子の留学禁止 教育制限を徹底、奨学金も****
女子の大学教育を停止したアフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権が、女子の国外留学も禁止したことが7日、複数の政権関係者への取材で分かった。留学のための奨学金利用も禁じた。

進学機会を求め国外に出る女性もいるが、阻止するため教育制限を徹底している実態が明らかになった。欧米の批判は必至。タリバン復権から8月で2年となるが、国際社会の承認はさらに遠のいた。

アフガンへの影響力拡大を狙うロシアにタリバン暫定政権が奨学金制度の対象からアフガン人女性を除外するよう求め、ロシア側が追認、20代のアフガン人女性の申請を却下したことも判明した。【7月7日 共同】
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厳しさを増す女性の教育からの排除のなかで、女性は将来の「夢」も奪われています。

****大学で勉強して医者になる夢が…タリバン支配下、アフガン女性の困難****
裸電球がぶら下がる部屋の片隅に、1人用の小さな机が置かれていた。広げられたノートには、オンライン授業で習った英単語がびっしりと書かれている。

「大学で勉強して医者になるのが子どものころからの夢でした。私の人生は何もかも変わってしまいました」。アフガニスタンの首都カブール西部ダシュテバルチで暮らすマリヤム・サダトさん(18)はそう言うと、苦しげに声を詰まらせた。

2021年8月に実権を握ったイスラム主義組織タリバン暫定政権は女子の中等学校教育を停止し、サダトさんは通学を断念せざるをえなかった。

地域によっては私塾での女子教育も制限されているが、サダトさんの居住地では塾に通うことは認められている。サダトさんは以前から放課後に通っていた近隣の学習塾「カジ教育センター」で、他の女子生徒らとともに大学受験に向けた勉強を続けた。

本来なら12年生(日本の高校3年生に相当)だった昨年9月末、サダトさんら約400人の生徒が同センターで模擬試験を受けていたところ、教室に何者かが侵入して自爆した。サダトさんは直前に外で銃声が響くのを聞いて教室から飛び出して助かったが、国連アフガニスタン支援団(UNAMA)によると、女性48人を含む54人が死亡し、114人が負傷した。

同センターがあるダシュテバルチは、住民の大多数がイスラム教シーア派を信仰する少数民族ハザラ人だ。タリバンの復権後に治安は安定したとされるが、シーア派を敵視する過激派組織「イスラム国」(IS)系の「ISホラサン州」などによるテロは今も続く。

同センターでの自爆事件も同様のテロだとみられている。UNAMAによると、タリバンが復権してから今年5月までに全国で自爆テロなどで市民1095人が死亡し、2679人が負傷した。

サダトさんはその後も自宅で大学受験の勉強を続けたが、22年末に今度はタリバンがそれまで認めていた女性の大学教育を停止すると発表。大学進学の道は途絶えた。今も毎朝5時に起きてオンラインなどで勉強し、近所で市民団体が実施する英語の授業を1日約2時間受けているが、将来は見えない。「この国で女性として生きるのは大変なことです。海外で勉強を続けたいですが、国を出るのも難しい」と声を落とす。

傍らで娘を見つめる母マスーマさん(50)は「私は教育を受けられなかったので、職に就くことができなかった。だから娘には教育を受け、良い未来をつかんでほしいと願っています」とつぶやいた。マスーマさんはサダトさんが生まれる5カ月前に夫サイド・アブドル・カリームさんを亡くし、一人でサダトさんら10人の子どもを育ててきた。

前回のタリバン政権(1996〜01年)が崩壊した後、欧米や日本はアフガンの教育を支援してきたが、タリバン復権後の国際援助は停滞している。

旧民主政権時代に生まれ育ったサダトさんは「私たちはたくさんの希望を抱いていました。これまでアフガンを支援してきた国々に戻ってきてほしい。私たち女性を支援し、女性の学校教育を再開するようにタリバンに働きかけてほしい」と祈るように訴えた。

サダトさんはテロの恐怖からカジ教育センターに通えなくなったが、センターでは今も大学受験を目指す生徒らが学んでいる。銃を携えた警備員が厳重に警戒する中、手荷物検査とボディーチェックを受けてセンター内に入ると、教室で黒板に向かう女子生徒らの姿が見えた。「彼女たちが安心して学べる日を待ち望んでいます」。職員は硬い表情で語った。

タリバンが実権を掌握して15日で2年となるアフガンで、女性たちを取り巻く環境が厳しさを増している。女性らの声に耳を傾けた。【8月6日 毎日】
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【美容院も音楽も】
7月4日には、タリバン政権「勧善懲悪省」が、女性にとって数少ない職場であり、また、女性客にとって息抜きの場でもあった美容院も1か月以内に閉鎖するように命じていることも明らかになりました。

****タリバン政権の女性排除、美容院閉鎖命令で6万人失職も****
アフガニスタンで暮らすマルジア・レヤジーさん(34)は8年前に1万8000ドル余りを投じて女性専用の美容院を立ち上げ、この事業の収入で家族を養ってきた。

しかし、実権を握るイスラム主義組織タリバンが打ち出した美容院閉鎖命令が25日に施行されれば、店は営業できなくなる。他に生計を支える手段は見当たらず、2児を抱えて窮地に立たされることになりそうだ。

「ここで働くことはできないし、家計を賄うこともできない。働き口が必要です」と話すレヤジーさんは、アフガニスタンの美容サービス部門で働く多くの女性と同様に一家の生計を背負っている。

タリバンは2年前の米軍撤退に伴う政情混乱の中で実権を掌握し、その後は女性を抑圧する政策を次々と打ち出している。美容院閉鎖は最高指導者の命令に基づいて4日に発表された。

業界の試算によると、6万人以上の女性が職を失い、1万2000軒の美容ビジネスが閉鎖に追い込まれる可能性があり、すでに危機的な状況にある経済は一段と圧迫されそうだ。(中略)

国際労働機関(ILO)によると、美容院閉鎖命令は女性の雇用にも「著しい」減少をもたらす。タリバン統治下のアフガニスタンは女性の正規労働力への参加率がわずか23%程度だという。

美容院は通常のサービスを提供するだけでなく、多くのアフガニスタン女性にとって、自宅外で男性の付き添いなしに人と会うことができる、安全な女性だけの場所となっている。

タリバン暫定政権は、イスラム法とアフガニスタン文化の解釈に沿って女性の権利を尊重していると説明している。これまでに類似した命令により、女子に対して高校・大学の門戸を閉ざし、多くの女性支援スタッフが働けなくなっている。外国当局者は、こうした動きが暫定政権の正式承認に障害となっていると指摘している。

暫定政権によると、銀行制裁、開発支援の削減、迫り来る人道支援減少の中、支援への依存から脱却し、民間セクターの発展を通じて経済を活性化させることに重点を置いているという。

タリバンの高官は、女性が経営するビジネスの発展を支え、見本市でも女性のためのスペースを認めていると主張している。だが、(アフガニスタン担当国連事務総長特別代表の)オトゥンバエワ氏は、美容院閉鎖命令は「女性の起業を支援するという当局の過去の事実上の公約に反する」と反論している。(後略)【7月25日 ロイター】
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厳しい圧政のもとでは異例のことですが、美容院閉鎖命令に抗議する50人規模の女性たちのデモもあったようです。
昨年12月に女子学生の大学からの締め出しを巡る抗議活動に対して厳しい取り締まりが行われて以降、こうした抗議はあまり起きていません。
参加者の話では、当局はデモを解散させるために放水銃を使い、空に向けて発砲したとのこと。

****アフガン女性、美容院閉鎖命令に抗議****
アフガニスタンの首都カブールで19日、女性たちがイスラム主義組織タリバン暫定政権による美容院閉鎖命令に抗議するデモを行ったが、治安当局に解散させられた。

女性を公の場から排除する政策を推進しているタリバンは先月、全土の美容院の閉鎖を命じた。美容院は多くの女性にとって唯一の収入源となっていた。さらに、自宅から離れて女性同士で集まって交流する安全な場所にもなっていた。

デモは美容院が集まるブッチャー・ストリートで行われ、参加者の一人は「私のパンと水を奪うな」と書かれたプラカードを掲げた。

アフガンで公の場での抗議行動はまれだが、現場のAFP記者によれば、19日のデモには女性約50人が参加した。 【7月20日 AFP】
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“ある女性は「タリバンは日々、女性を社会から排除しようとしている。私たちも人間です」と目に涙を浮かべて訴えた。身の安全を守るため、名前は明かさなかった。”【7月25日 ロイター】

直ちに全員を拘束・・・でないだけ、まだましと言うべきでしょうか。

音楽もダメです。「音楽は道徳の崩壊を招く。若者が音楽を演奏すれば道を外れる」とのこと。

****タリバン、「不道徳」と楽器焼却****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン当局は29日、西部ヘラート州で楽器や音響機器などを焼却処分した。
 ギター、ハーモニウム、タブラといった楽器のほか、アンプやスピーカーなど音響機器が野外で燃やされた。市内の結婚式場から集めたものが大半を占める。

ヘラート州の勧善懲悪省トップは「音楽は道徳の崩壊を招く。若者が音楽を演奏すれば道を外れる」と説明した。

タリバンは2021年の実権掌握以来、公の場での音楽の演奏を禁止するなど、イスラム法の厳格な解釈に基づく規制を導入している。 【7月31日 AFP】
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旧タリバン政権では、音楽だけでなく、テレビ、凧あげなど「娯楽」全般が禁じられていました。

タリバン幹部は7月26日、ネクタイはキリスト教の十字架の象徴であるとし、排除すべきだと主張しています。
(ちなみにイランでも、ネクタイは「西洋文化」の象徴とされています)

【アメリカ タリバンと協議】
こうした中で、タリバンとアメリカの交渉が行われているようです。

****米政府代表がタリバンと協議、経済・人権・麻薬対策など焦****
米政府の代表者が31日までの2日間、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の代表者とカタールで会談した。米国務省の発表によると、米側は経済的安定に関する技術的協議や麻薬取引撲滅に向けた協議に前向きな姿勢を示した。

「悪化する」人権問題への懸念も表明。タリバンに対し、女子の中等教育や女性の就労の禁止を撤回し、拘束されている米国人の解放を改めて求めたという。

インフレ低下など指標の改善や2022年の禁止令の下でアヘンケシ栽培が減少したことに楽観的な見方も示した。

同省は声明で「(米側は)麻薬対策に関する対話の継続に前向きな姿勢を示した」としたほか、「経済安定化問題に関する技術的な対話」を近く行う用意があるとした。

タリバン側の発表によると、タリバンの代表者らは同組織の指導者に対する渡航制限などの解除や、アフガン中央銀行の海外保有資産の返還などを巡る問題を提起した。

タリバン指導者の渡航禁止を解除し、中銀準備金の凍結を解除して「アフガンの人々が外国からの援助に頼らない経済を確立できるようにすることが信頼醸成に極めて重要」と繰り返したという。【8月1日 ロイター】
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「悪化する」人権問題への懸念をアメリカ側が表明したとのことですが、それへのタリバン側の反応は書かれていません。おそらく「無視」ということでしょう。

もしタリバン指導者の渡航禁止や中銀準備金の凍結に関して「譲歩」するのであれば、タリバン側の人権問題での「譲歩」が不可欠です。


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アフガニスタン  女子教育再開をめぐりタリバン政権内に意見対立も

2023-04-19 23:40:03 | アフガン・パキスタン

(警察学校の卒業式で演説するアフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権のシラジュディン・ハッカーニ内相=首都カブールで2022年3月5日 【3月4日 毎日】)

【更に女性就労に制約 国連女性職員も勤務禁止に 懸念される人道支援活動の停滞】
アフガニスタン・タリバン政権が女性の教育・就労を厳しく制限していることは再三取り上げているところですが、これまでは例外的に認められていた国連女性職員にも出勤停止が及んでいるようです。

****タリバン、国連女性職員も勤務禁止に アフガン****
国連は4日、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン政権が女性のNGO勤務を禁止する措置を国連ミッションにも拡大したとして、「容認できない」と非難した。

国連アフガニスタン支援団は同日、東部ナンガルハル州で国連の女性職員の活動が禁じられたと報告した。

アントニオ・グテレス国連事務総長のステファン・ドゥジャリク報道官は記者会見で「UNAMAが、女性職員の活動を禁じる通達をタリバン暫定政権から受けた」とし、各方面から「対象は国内全土」との情報を得ていると述べた。

タリバンは昨年12月、女性が国内外のNGOで働くことを禁じたが、国連関連は対象外としていた。

ドゥジャリク氏は、書面による禁止命令は届いておらず、5日に首都カブールでタリバン側と協議して確認するとした。

グテレス氏はタリバン側の出方について「受け入れられない。率直に言ってあり得ない」と非難。国連がアフガンで2300万人を対象に行っている人道支援に女性職員は不可欠だと訴えた。 【4月5日 AFP】
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アフガニスタンのように男女の区分が厳しい社会にあっては、一般女性を対象にした業務を行うためには女性スタッフが必要になります。従って、女性職員の出勤停止は単に当事者だけの問題ではなく、女性向けの対象業務がストップすることを意味します。

国連によると現在アフガニスタンでは2830万人ほどが救命のための支援を必要としており、うち2千万人が食糧難に直面し、600万人ほどが飢え死にする危険性を抱えていると言われています。

国連は、今回の女性職員就労禁止は、そのような危機的状況にある人たちに悪影響を及ぼすと警告しています。

【タリバン政権内部に女子教育をめぐる意見対立も “あの”武闘派ハッカニ内相が女子教育再開を求める】
ここまでの話であれば、「やれやれ、タリバンの女性に対する施策は相変わらず・・・」ということになりますが、興味深いのは女性の教育をめぐってタリバン政権内で意見対立があると報じられていることです。

****アフガニスタン女子教育再開撤回 タリバン強硬派が反対****
アフガニスタンで停止が続く女子中等教育について、イスラム主義組織タリバンの最高指導者アクンザダ師が、学校で新年度が始まる3月21日からの再開方針を一部閣僚にいったん伝えたが、強硬派の反対を受け撤回したことが2日、複数のタリバン暫定政権関係者への取材で分かった。

国際社会は女子教育の制限を問題視し政権を承認していない。タリバン内部でも反発が強まっており、アクンザダ師は再開を迫る有力閣僚の反目を恐れて再開方針を伝えたとみられる。

アクンザダ師は独自のイスラム法解釈による統治徹底を図る強硬派の中心人物で、教育政策を巡りタリバン内の溝が深まっている。

複数の暫定政権関係者によると、有力派閥「ハッカニ・ネットワーク」を率いるハッカニ内相と、タリバンの初代最高指導者オマル師の息子ヤクーブ国防相、ムッタキ外相らが2月と3月中旬、アクンザダ師と計4日間にわたり協議。国際社会から孤立している現状を懸念し、日本の中学・高校に当たる女子の中等教育を再開するよう求めた。【4月2日 共同】
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もちろん、どんな政権や政治グループでもそうでしょうが、タリバンも一枚岩などでは決してなく、政権奪取以前の昔から穏健派と武闘派の対立などがありましたので、女子教育をめぐる意見対立があること自体は当然と言うべきことでしょう。

ただ、興味深いのは女子教育再開を求めたのがハッカニ内相らという点です。

ハッカニ内相はバリバリの武闘派・強硬派で、彼が率いるハッカーニ・ネットワークは、これまでアフガニスタン軍や欧米の連合軍に対する最も暴力的な攻撃に関与しており、アメリカはハッカーニ・ネットワークをテロリスト組織に指定しています。

そうしたハッカニ内相が「アメリカや国連の言うことなど無視すればよい」と言ったのであれば“さもありなん”といったところですが、逆に女子教育再開を求めたというところが“驚き”でした。

****タリバンで深まる内部対立 強硬派が異例の苦言、不安定化の懸念****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバン暫定政権の強硬派、シラジュディン・ハッカーニ内相が最高指導者アクンザダ師を暗に批判した演説が波紋を呼んでいる。

タリバンの閣僚が公の場で身内に苦言を呈するのは異例で、アクンザダ師の独断的な姿勢に不満を抱いているとみられている。タリバン内で同調する声もあり、政治情勢の不安定化が懸念されている。

「権力を独占し、体制の評判を傷つけることが常態化している」。支持者がツイッターに投稿した動画によると、ハッカーニ氏は2月中旬に南東部ホースト州のイスラム教宗教学校の卒業式に登壇してそう訴えた。

アクンザダ師を名指しすることはなかったが、「こうした状況は容認できない」と続けた。さらに「人々の権利が奪われてはならない」と述べ、タリバン側が市民に歩み寄る必要性を訴えた。

ハッカーニ氏の発言は支持者の間では女子教育に関する政策を想定したと受け止められている。2021年8月に首都カブールを制圧して以降、タリバンは女子の中等学校の再開を延期している。容認してきた女性の大学教育も、22年12月にヘジャブが適切に着用されていないことなどを理由に停止した。

あるタリバン幹部によると、タリバン内部で女性の教育を肯定する人は少なくなく、強硬派の中でも女性の大学教育の停止には疑問を呈する声があるという。

タリバン内部では、国際社会との協調を重視する穏健派と、イスラム法の厳格な解釈に基づく統治を目指す強硬派の対立があると指摘されてきた。

ハッカーニ氏はアクンザダ師と並ぶ強硬派の一角で、米国人らが死亡したテロ事件などに関与した疑いで米連邦捜査局(FBI)から指名手配されている。米国がテロ組織に指定する「ハッカーニ・ネットワーク」を率いるハッカーニ氏はタリバンがカブールを陥落させた際にも主導的な役割を果たしたとされるだけに、今回の発言が注目を集めている。

また、アフガンメディアは2月下旬、タリバンの初代最高指導者オマル師の息子のムハンマド・ヤクーブ国防相が警察官らを前に「全能のアラーは私たちに知性を与えた。私たちは無分別に誰かに従ってはいけない」と語ったと報じた。同じく名指しは避けたものの、現体制に対する批判と捉えられている。

ハッカーニ氏らが苦言を呈する背景には、アクンザダ師とごく限られた側近の間で政策が決定されていることへの不満があると指摘されている。

22年12月に女性の大学教育が停止された後、アフガンメディア「トロニュース」は内務省関係者の話として、ハッカーニ氏とヤクーブ氏が女性教育の再開に向けて協議し、2人が南部カンダハルを訪ねてアクンザダ師とも問題を協議すると報じた。しかし、あるタリバン幹部によると「(アクンザダ師は)彼らと会おうとしなかった」という。

タリバン内には、閣僚らが参加する意思決定機関「指導者評議会」があるが、このタリバン幹部は「(アクンザダ師は)評議会のメンバーを3~5人ずつ個別に呼び寄せて意見を聞いているが、大半のメンバーの助言を聞き入れていない」と語った。

「タリバン内部でも過半数がハッカーニ氏らの意見を支持している」と語り、現在の政策決定方法に不満を抱くタリバン関係者の間で影響力を強めているとみられる。

女性の教育機会の制限を巡っては、国際社会から大きな批判を浴びただけでなく、一般のアフガン市民の間でも反感が広がった。

女性の大学教育が停止されたことを受け、抗議のためにカブール大学を辞任したバハドゥール・シャー助教は取材に対し、「私はこの国の明るい未来に貢献したいと思って教師になった。女性たちの教育が奪われてしまった今、明るい未来を思い描くことすらできない」と訴えた。

小学5年生と今年大学生になる2人の娘の父でもあり、「娘たちには勉強して自分の未来を切り開いてほしい。このまま教育を受けることも就労することもかなわなければ、彼女たちはどうなってしまうのか」と嘆く。

これまでアクンザダ師が表に出て発言したことはほとんどなく、22年7月に宗教学者らが集まった大規模な集会で演説した際も、音声のみが報じられた。

その一方で、ハッカーニ氏とヤクーブ氏が演説する様子は写真や映像とともに報じられ、ネット交流サービス(SNS)でも拡散している。

地元記者は「ハッカーニ氏とヤクーブ氏は一般のアフガン市民の共感を得ることに成功している。アクンザダ師が2人に対して何らかの措置を講じれば、自らの身を滅ぼすことになりかねない」と指摘する。

タリバンが反政府勢力だった旧民主政権時代には、内部対立によって離脱して新たな勢力を結成する幹部もいた。また、離脱した戦闘員が過激派組織「イスラム国」(IS)に合流する可能性も指摘されている。

地元記者は「現在のタリバンが直ちに内部分裂することはないとみられるが、中枢メンバーによる批判的な発言が続けば、暫定政権にとって最大の脅威になるだろう」と話した。【3月4日 毎日】
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ハッカーニ内相の言動は、最高指導者アクンザダ師とその側近に対する権力闘争的な側面もあるようですが、それだけでなく、長く民衆の中で闘ってきた経緯から、一定に民衆の望むところや現実の問題に配慮する現実主義的な面もあるのでしょう。

アフガニスタンの現状は惨憺たるもので、国際社会の支援を緊急に必要としています。

****アフガン、国民の85%が貧困層=タリバン政権奪取後1.8倍に****
アフガニスタンで昨年、生活に必要最低限の収入を下回る水準で暮らす貧困層が約3400万人に上ったことが、18日に公表された国連開発計画(UNDP)の報告書で分かった。国民のおよそ85%に当たるという。

2020年のデータでは、貧困層は約1900万人。21年8月にイスラム主義組織タリバンが政権を奪取して以降、約1.8倍に増えた。【4月19日 時事】 
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こうした現状にハッカーニ内相らが危機感を感じたとしても、あるいは「何のために闘ってきたのか」という思いを抱いたとしても不思議ではないです。もちろん、彼の心中は全くわかりませんが。

いずれにしても、上記【毎日】にあるように、タリバン政権内部に対立の火種が存在するようです。

国際社会の批判に耳をかそうとしない、また民意が反映されるような政治ステムでもないアフガニスタンにあって、女性の人権や貧困に対する対応が変わる唯一の現実可能性は、そうした内部対立からの路線変更だけのように思われますので、注目されるところです。

【タリバン政権支援を改めて示す中国 関心は自国影響力拡大だけか】
タリバン政権へ圧力をかける欧米・国連などの一方で、中国は公式にはタリバン政権を認めていないものの、改めて政権支援の考えを明らかにしています。

****中国、タリバン政権を後押し アフガン問題で立場表明****
中国外務省は12日、アフガニスタン問題に関する立場を表明する文書を発表した。イスラム主義組織タリバン暫定政権が「前向きな努力を続けることを望む」と強調。中国政府は公式には暫定政権を認めていないが、後押しする姿勢を改めて打ち出した。2021年の駐留米軍撤退を受け、地域での影響力拡大を狙っている。

中国外務省によると、秦剛国務委員兼外相は12〜13日、アフガン情勢を巡る近隣国の外相会合に出席するためウズベキスタンを訪問。会合に合わせ、従来の主張を文書で11項目にまとめた。

文書は、米国がアフガン問題の「元凶」だと指摘。対アフガン制裁の即時解除を求めた。【4月12日 共同】
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多くの女性の人権が制約されていることをどのように考えているのか問いたいところですが、ウイグル・チベットで人権を無視している中国にとっては「内政には干渉しない」ということなのでしょう。国際政治は、中国の影響力を高めるためのパワーゲームに過ぎないということか。

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アフガニスタン  教育・仕事を奪われ、家庭に閉じ込められ、DV夫に対し離婚も認められない女性

2023-03-26 23:02:51 | アフガン・パキスタン

(アフガニスタン東部ガズニ州の裁判所で被告の主張を聞く判事(左から2人目、2022年11月28日撮影)【3月6日 AFP】 

2001年に旧タリバン政権が崩壊した後、アフガニスタンには新しい司法制度が構築され、多くの女性が活躍の場を得ました。しかしタリバン復権後、その制度は廃止され、裁判や量刑などはすべて男性が取り仕切るようになり、裁判の判断基準はシャリア(イスラム法)となっています。

この写真1枚からも、女性の権利を擁護するような判断がなされるとは思えない実態がうかがえます。)

【「アフガニスタンを見捨てない」・・・とは言うものの】
****アフガン支援団、1年延長=国連総長に評価求める―安保理****
国連安保理は16日、イスラム主義組織タリバン暫定政権下で混乱が続くアフガニスタンで活動する国連アフガン支援団(UNAMA)について、派遣期間を来年3月まで1年間延長する決議を全会一致で採択した。
また、国際社会が「総合的で一貫した」対応を取るため、グテレス事務総長に対し、11月中旬までに現状の評価を行い、安保理に提言するよう求める決議も全会一致で採択した。【3月17日 時事】 
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この決議は日本とアラブ首長国連邦(UAE)が議論を主導する「ペンホルダー」としてまとめたもので、UAEのヌサイベ国連大使は「これはアフガニスタンとその国民に対して、安保理が見捨てていないという強いメッセージだ」と語っています。

「見捨てていない」・・・アフガニスタンに暮らす人々のことを思えば見捨てることは出来ませんが、ただ、“現地の状況は悪化の一途をたどっている”なかで、タリバン政権の在り様は改善の期待を抱かせるようなものではありません。

【人道犯罪レベルの女性の人権状況】
常々指摘されるように、特に女性の人権状況は人道犯罪レベルにあります。

****タリバンの女性処遇は「人道犯罪の恐れ」、国連が報告書*****
国連は6日、人権理事会で発表した報告で、アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンによる女性と少女の処遇が人道犯罪の領域に達している恐れがあると警告した。

2021年8月に実権を掌握したタリバンは、高校や大学通学の阻止など、女性の権利と自由を極度に制限している。

22年7─12月の期間を対象にした報告で、アフガンの人権状況に関する国連特別報告者のリチャード・ベネット氏は、タリバンによる女性と少女の扱いは「ジェンダー迫害であり、人道犯罪の領域に達している恐れがある」と分析。

人権理事会で「タリバンの意図的かつ計算された政策は、女性と少女の人権を剥奪し、一般生活から抹殺することを目的とするもの」とし、「当局の責任によるジェンダー迫害という国際犯罪に当たる恐れがある」と指摘した。

タリバン側情報当局の広報担当者はコメント要請に応じていない。

ベネット氏は、人権理事会が「女性と少女に対する悪辣な扱いは、宗教を含むいかなる背景の上においても容認も正当化もされない」という強いメッセージをタリバンに送るべきと訴えた。【3月7日 ロイター】
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アフガニスタンはアフリカと並んで飢餓が懸念される地域ですが、タリバンの頑なな姿勢は、本来必要とされる国際社会からの人道支援を縮小させるものにもなっています。

****タリバンの女性権利侵害、アフガン支援減少につながる恐れ=国連****
国連アフガニスタン支援団(UNAMA)トップのローザ・オトゥンバエワ氏は8日、イスラム主義組織タリバン暫定政権による女性の権利侵害を受け、同国への支援や開発の資金が縮小する可能性が高いとの見方を示した。

アフガンでは国民の3分の2に当たる2800万人に支援が必要とされ、同氏は安全保障理事会で、国連が今年、単独国家として最大となる46億ドル相当の支援を要請していると説明。しかし、タリバンが女性の高等教育や援助団体での勤務などを禁止しており、支援実施が脅かされていると指摘した。

また、女性は男性親族を伴わずに自宅から外出することを禁止され、顔を覆うことを義務付けられている。

オトゥンバエワ氏は「女性の労働が認められなければアフガン支援の資金は減少するだろう」などと述べた。【3月9日 ロイター】
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【教育でも、仕事でも】
最近のアフガニスタンに関するニュースは“相変わらず”ではありますが、“相変わらず”でスルーしてしまうと「見捨てる」ことにもなりかねませんので、その“相変わらず”のニュースをいくつか。

教育でも、就業でも、女性は大きな制約に直面しています。

****アフガンで大学始業 女子は依然禁止****
アフガニスタンでは6日、大学の冬休みが終わり新学期が始まったが、イスラム主義勢力タリバンは依然、女子の大学教育を禁じている。

中部ゴール州出身のラヘラさんは「私たちは家にいなければならないのに、男子が大学に行っているのを見るのはつらい」と話した。「これは女性に対する差別だ。イスラム教は女性の高等教育を認めているのに。私たちの学びを止める権利は誰にもないはずだ」

タリバンは昨年12月、女子学生が新たに導入された厳格な服装規定や、登下校に男性親族の同伴を求める規則に従っていなかったとして、大学での女子教育の無期限停止を命じた。

禁止令以前でも、ほとんどの大学ではタリバン復権以降、すでに入り口や教室を男女別に分けていた。また、女子学生の授業は、女性教員もしくは高齢の男性教員しか担当できないようになっていた。 【3月6日 AFP】
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****アフガンの女性就業者25%減少、タリバン実権掌握以後=ILO****
国際労働機関(ILO)が発表したアフガニスタンの調査によると、2021年8月にイスラム主義組織タリバンが実権を掌握して以後、女性の就業者数が25%減少した。女性の労働や教育に対する規制で状況が悪化したという。

調査は21年第2・四半期から昨年第4・四半期までを対象に実施。この間の男性就業者数の減少は7%だった。

ILOのアフガン担当シニアコーディネーターは声明で「女性と少女に対する規制は、教育とともに労働市場の展望に深刻な影響を及ぼしている」と指摘した。

タリバンは、大半の女子生徒や学生の高校・大学通学を禁止したほか、非政府組織(NGO)の大部分の女性職員に就労を禁止した。

一方、タリバンの実権掌握を受けて外国政府が開発支援から撤退し、同国中銀の資産を凍結。経済危機で雇用が壊滅している。

ILOは、アフガンの21/22年国内総生産(GDP)が30─35%減少したと推計している。【3月8日 ロイター】
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「女性専用」図書館であっても、女性が家庭外で読書や勉強することも認められないようです。

****「女性専用図書館」閉鎖=タリバンが圧力、開設から半年余―アフガン****
アフガニスタンの首都カブールにある女性専用の図書館が開設から半年余りで閉鎖を余儀なくされた。女性の権利に厳しい制限を課すイスラム主義組織タリバン暫定政権からの圧力が理由という。開設した活動家の女性が13日、明らかにした。

図書館は、通学を禁じられた女性に安心して読書や勉強ができる場を提供するため、昨年8月下旬に開設。ロイター通信によれば、教師らから寄贈された小説や学術書など1000冊以上をそろえていた。【3月14日 時事】 
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【閉じ込められた家庭では、夫のDVによる離婚も許されない】
女性が閉じ込められる「家庭」にあっては、夫のDVも耐えなければならず、離婚も許されないようです。

:****タリバン復権で離婚無効、夫から再びDV被害 アフガン****
アフガニスタンに住むマルワさん(仮名、40)は、元夫にすべての歯を折られるなどの虐待を受けてきた。いったんは離婚が認められたものの、復権したイスラム主義勢力タリバンに無効とされ、夫の元に戻った。現在は夫から逃れて8人の子どもと暮らしている。

アフガニスタンでは女性の権利がほとんど認められておらず、ドメスティックバイオレンスが横行している。米国が後ろ盾となっていた前政権下では、少数ながら離婚が認められた。マルワさんもその一人だった。

だが、2021年にタリバンが再び実権を握ると、元夫は離婚を強要されたと主張し、マルワさんはタリバンに復縁を命じられた。

複数の弁護士がAFPに語ったところによると、タリバンに離婚を無効とされた女性が再び夫から虐待を受けるようになったという報告がある。

夫の元に戻ったマルワさんは数か月間、家から出ることを許されず、殴打に耐え続けた。手や指の骨も折られた。
「気を失ったことも何度かあり、娘たちに食事を口に運んでもらった」とマルワさん。「夫にしょっちゅう髪を強く引っ張られ、円形脱毛症になった。歯も全部へし折られるほど殴られた」と話す。

その後マルワさんは、娘6人、息子2人と共に数百キロ離れた親戚の家に逃げ込んだ。
「子どもたちは、『お母さん、ひもじいくらいどうってことないよ。今は暴力から逃げられたんだから』と言ってくれる」

夫に見つかるのを恐れ、近隣住民にも存在を知られないように身を潜めて暮らしているという。

国連のアフガニスタン支援ミッションによると、同国ではパートナーから肉体的・性的・精神的暴力を受ける女性は10人中9人に上る。しかし、離婚は虐待以上にタブーとされることが多く、離婚した女性は白眼視される。

米国が支援していた前政権下では、一部の都市で離婚率が徐々に上昇。教育と雇用面を中心に女性の権利もわずかに向上した。

■DVによる離婚は認められない
虐待を受けた女性による離婚の訴えを100件前後成立させた女性弁護士は、「イスラム教でも離婚は認められている」と説明した。だが現在は、国内での弁護士活動は許されていない。

前政権下では、女性の判事と弁護士が離婚訴訟を扱う特別な家庭裁判所が設立されていたが、タリバン復権後は裁判や量刑などはすべて男性が取り仕切るようになった。

別の女性弁護士は、タリバン政権下で離婚が認められるのは、夫が薬物依存症の診断を受けるか国を離れた場合のみで、「DVや、夫が同意しないケースでは裁判所は離婚を認めない」と指摘した。

タリバン高官はAFPに対し、離婚した女性が復縁を強制されているケースについては調査を行うと述べた。

最高裁の広報担当者は「申し立てがあれば、シャリア(イスラム法)に従って調査する」と主張。前政権下で成立した離婚を認めるかどうかについては「重要で複雑な問題」だとして、イスラム教最高権威機関のダール・アル・イフタによる統一見解が待たれるとした。

縫製で生計を立てているマルワさんと娘たちの心には深い傷が残っている。
マルワさんは娘たちを見やりながら、「この子たちを結婚させられないのではないかと心配している」と話した。
「娘たちは、『お母さんのひどい結婚生活を見ていたので、夫という言葉が嫌でたまらない』と言うんです」と続けた。 【3月25日 AFP】AFPBB News
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【出口がまったく見えない現状】
もちろん、こうした状況を生み出しているのはタリバンだけの問題ではなく、女性差別を当然視するような、あるいは、離婚した女性は白眼視されるような、社会全体の認識が根底にあってのことです。

タリバンは、そうした社会の考え・認識を現実的な規制・ルールに具現化しているに過ぎない面もあるでしょう。

それで皆が納得しているなら、よその人間がとやかく言うこともないのでしょうが、教育を、仕事を、安全な家庭生活を求める多くの女性も存在している以上、この状況を看過できません。

しかし、改善の方法が見当たりません。

書いているだけで息苦しくなる現状ですが、アフガニスタンの人々は、その中で今日も、そして明日も暮らしています。
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