孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ  天然ガスで再度ロシアとトラブル

2008-03-03 14:32:41 | 国際情勢

(天然ガスパイプラインの写真なんてつまらないので、かわりに「ガスの王女」ことティモシェンコ・ウクライナ首相
“flickr”より By Minirobot)

ロシアからのウクライナへの天然ガス供給については、05年から06年に価格改定交渉の行き詰まりから、供給停止、ウクライナの欧州各国向けガスの抜き取り、欧州各国でのエレルギー不安という大騒動になったところですが、最近もまた揉めているようです。

*****露ガスプロム:ウクライナに天然ガス削減警告 代金未払い******
ロシア政府系天然ガス独占企業ガスプロムは2月29日、「ウクライナが昨年のガス代金6億ドル(約620億円)を支払っていない」として3日午前10時に同国向けのロシア産天然ガスの供給量を25%削減すると警告した。
 ウクライナのガス代金未払いを巡っては、ロシアが2月12日にもガス供給停止を宣言。その時はウクライナ側が早期支払いを確約し、危機はいったん回避されたが、ガスプロムによると、その後も07年分の代金が支払われていないという。【3月1日 毎日】
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確かに、2月12日時点でガスプロとウクライナの間で未払い金15億ドル(1610億円)について決着した旨の報道があり、プーチン大統領の「ガスプロムはウクライナ側の取り組みに満足している。われわれ(ロシアとウクライナ)は協力して問題解決にあたることで合意した」、ウクライナのユーシェンコ大統領の「ウクライナは未払い金を支払うことに合意した」という両者のコメントも報じられていました。

そのわずか半月後の騒ぎですが、どういう事情でしょうか。
なにやら、「お前、払うって言っただろうが!」「払える分は払ったじゃないか!もうちょっと待てよ!」みたいな、そこいらへんの借金取立てのやり取りにも似ているような。

ウィキペディアによれば、05年のロシア・ウクライナガス紛争に関して“そもそもウクライナ側はソ連時代から再三ロシアに無断でのガスの抜き取りを行っていた。特に、ソ連崩壊後の1990年代初頭は料金不払い・無断抜き取りが多発していたため、幾度にもわたるガス供給停止が発生しており、今回の紛争においても、ロシア側はそれまでの供給停止と同じ感覚で事に臨んでいたと考えられる。しかし、今年はウクライナ側が記録的な大寒波のため、大々的にガスの抜き取りを行った。そのため、パイプラインの下流に位置する欧州の混乱を招く結果となった。”とのことで、ウクライナは“常習犯”の扱いになっています。

それが正確かどうかはわかりませんが、いずれにしてもその騒動で国民生活の根幹であるエネルギー供給が不安定化するのは下流の欧州各国としては大変な迷惑です。
ロシアにエネルギーを頼っているということだけでも大変な問題なのに。
ロシアにしてもエネルギーは国家戦略の要ですから、“ウクライナごとき”に制約されるのはとんでもない話でしょうし、更にエネルギーを戦略的に有効活用したいという思惑もあるでしょう。

そうした背景で、現在のウクライナとベラルーシ経由の天然ガス輸送パイプラインについて、多チャンネル化が進展しています。
2005年、ロシアとドイツは、バルト海を回る天然ガス輸送パイプライン「North Stream」(ノース・ストリーム)の敷設に調印しました。この計画は、2010年に完成し、その際、ドイツに毎年550億立方メートルの天然ガスを輸送することになります。

もう1本のルートが「South stream」(サウス・ストリーム)。
ロシアとイタリアが共同で提案し、全長900キロ、ロシアから黒海海底を通ってブルガリアに至り、その後は枝分かれして、南西はギリシア、北西はルーマニア、ハンガリー、オーストリアへ、そしてイタリアの北部までガスを運ぶ計画です。

昨年6月、ロシアとイタリアの関連会社は、協力の覚書に調印しました。
このプロジェクトは、今年か来年にスタートする計画で、3年後に輸送を始め、毎年、ヨーロッパに300億立方メートルの天然ガスを運ぶことになるそうです。 【3月1日 CRI】

サウス・ストリームには、EU支援で進められている競合ルートとして、カスピ海周辺諸国で産出された天然ガスをトルコから欧州に運ぶ「ナブッコ(Nabucco)」パイプライン計画があります。
ロシアへのガス依存から脱却するためのものですが、どうも難航しているようにも伝えられます。

一方のサウス・ストリームは着々と進行しているようで、欧州各国首脳と協定に調印するプーチン大統領及びガスプロム会長でもあるメドベージェフ第1副首相(今日当選が決まり次期大統領となりましたが)の記事を最近よく見かけます。
1月18日、ブルガリアがパイプライン建設契約に調印
1月25日、セルビアがパイプライン建設契約に調印、ガスプロム関連の石油会社がセルビア国営石油・天然ガス会社NISの株式51%を取得することでも合意。コソボ独立後の協力関係を強化。
2月28日、ハンガリーと建設で合意
“着々”どころか、超ハイスピードで進展しています。

ところで話をウクライナに戻すと、ウクライナの天然ガスと言うとどうしても「ガスの王女」ことティモシェンコ首相が連想されます。
「オレンジ革命のジャンヌダルク」とも呼ばれるこの女性の経歴をみると、
“1989年レンタルビデオ(海賊版)のチェーン店を設立し、成功する。ソ連崩壊後、1990年から1998年までいくつかのエネルギー関連企業を経営した。1995年から1997年まで、ティモシェンコは、ウクライナ統一エネルギーシステムの社長。1996年には、ロシアからの天然ガスの主要な輸入・卸売業者になり「ガスの王女」の通称で呼ばれた。その一方で、ガス貿易に関して不正取引も取りざたされた。”【ウィキペディア】
ということですが、89年の海賊版ビデオから96年の「ガスの王女」まで、一気に階段を駆け上ったようです。
“黒革の手帖”でも持っていたのだろうか?“なんていうのは下衆のかんぐりで、それだけ有能でロシアの混乱期というチャンスにも恵まれたのでしょう。

1999年からは副首相(燃料エネルギー部門担当)に就任しますが、2001年には、統一エネルギーシステム社長時代の文書偽造・ロシア産天然ガスの密輸入の容疑で逮捕されます。(数週間後に嫌疑不十分で釈放、本人は石炭産業と癒着した大統領のでっちあげと主張)

2005年には“オレンジ革命”で支持したユシチェンコ大統領のもとで1回目の首相に就任しますが、このとき彼女はロシアからの天然ガス輸入に際しロシア高官に賄賂を贈ったとしてロシア検察から指名手配を受けていました。
首相就任に伴い、ロシア検察は「首相など政府高官には不逮捕特権がある。ティモシェンコ氏がロシアに来ても問題はない」とロシア訪問しても逮捕しないことを明らかにしましたが、捜査自体は継続され、逮捕を免れるのは首相在任中に限るとの考えも示されました。

2005年9月には首相を解任されますが、12月にロシアはティモシェンコの起訴を取り下げました。
丁度、ロシア・ウクライナガス紛争が火を噴いていた時期です。
何があったのでしょうか?
この間、ティモシェンコはウクライナ首相であると同時にインターポールのサイトに顔写真が掲載された指名手配犯(本人は“ロシアの政治的圧力”と否定)でもありました。

昨年には首相に返り咲いていますが、とにかく波乱万丈の人生です。
政治的には反ロシアの立場ですが、まあ、指名手配を受けていた訳ですから当然と言えば当然でしょうか。
もっとも、昨日と敵と今日手を組むくらいは朝飯前でもあるでしょうが。
天然ガス取引については裏の裏まで知り尽くしている人物でもあります。

ティモシェンコはともかく、今回のウクライナへの供給削減の期限が3日午前10時。(日本時間の17時)
この件、すでに決着済みなのかどうかよくわかりませんが、前回12日にロシア・ウクライナ間で話がまとまったのが期限切れ数分前とのことです。

コメント
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