孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アゼルバイジャンとアルメニアの間で再び衝突、ロシアがウクライナに足をとられる隙に?

2022-03-29 22:50:45 | 欧州情勢
(アゼルバイジャンが攻撃に使用したとみられるトルコ製ドローン「バイラクタルTB2」【3月28日 HUFFPOST】

【ロシア仲介で停戦後も小競り合いがおさまらないアゼルバイジャンとアルメニア】
旧ソ連のウクライナにロシア軍が侵攻し戦争が続いていますが、2020年9月27日から2020年11月10日にかけて、旧ソ連国同士、アルメニアとアゼルバイジャンの係争地であるナゴルノカラバフ(アゼルバイジャン領土内に囲まれたアルメニアの飛び地)を巡る戦争があり、アゼルバイジャンの勝利に終わりました。

この戦争では、トルコとイスラエル製のドローンを活用したアゼルバイジャン軍がロシア製兵器を有するアルメニア軍を撃破したということで、「戦争の様相を変えた」として今もしばしば取り上げられる戦いでもあります。

停戦はロシアが仲介し、ロシアが平和維持軍をナゴルノカラバフに派遣しています。

停戦後もアゼルバイジャン・アルメニアの衝突は起きていますが、大きなものでは昨年11月に起きています。このときもロシアが仲介に入っています。

****アルメニアとアゼルが停戦合意、昨年の戦争以来最悪の戦闘受け****
アルメニアとアゼルバイジャンは(2021年11月)16日、国境での停戦に合意した。アルメニア国防省が発表した。ナゴルノカラバフを巡る昨年の戦争以降で最悪の戦闘がこのほど起きたため、ロシアが双方に自制を求めていた。

昨年の44日間にわたる戦争では少なくとも6500人が死亡した。

アルメニアの国防省は「ロシア側の仲介による合意に基づき、アルメニアとアゼルの国境の東側で戦闘が停止した。状況は比較的安定している」と発表した。アゼル国防省からは今のところコメントを得られていない。

ロシア大統領府によると、これに先立つ16日、ロシアのプーチン大統領とアルメニアのパシニャン首相は、電話で国境の状況について話し合った。インタファクス通信によると、ロシアのショイグ国防相もアルメニアとアゼルの国防相と電話で協議した。

アルメニア国防省は、自国の軍隊がアゼルから攻撃を受け、12人の兵士が捕らえられたほか、アゼルとの国境付近の2つの戦闘陣地が失われたと発表した。

アルメニア議会外交委員会のEduard Aghajanian委員長は、15人のアルメニア兵が死亡したと述べた。

アゼル国防省は、アルメニア軍からの大規模な「挑発」に対応したとし、独自の作戦は成功したとした。【2021年11月17日 ロイター】
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【2月には、ロシアとアゼルバイジャンの間で「同盟的協力宣言」】
これまでの国際関係で言えば、宗教的にもロシアに近いアルメニアがロシアを後ろ盾とするのに対し、イスラムのアゼルバイジャンは、同じイスラムで、かつ、アルメニアとの間で「大虐殺」の歴史問題を抱えるトルコが支援する関係にあります。

ただ、アゼルバイジャンは旧ソ連ですからロシアとも関係があり、ロシアによるアゼルバイジャン取り込みの動きも報じられていました。

****軍事協力含む宣言署名 ロシア・アゼルバイジャン首脳****
ロシアのプーチン大統領は22日、モスクワを訪問した旧ソ連アゼルバイジャンのアリエフ大統領と会談し、軍事面での関係強化を含む「同盟的協力宣言」に署名した。
 
インタファクス通信によると、宣言は相手国に安全保障上の脅威が生じた場合の緊急協議や軍事、政治分野での協力を規定。アゼルバイジャンと隣国アルメニアの係争地ナゴルノカラバフを巡る紛争の解決に向けた協力なども定められている。
 
アゼルバイジャンはロシアやアルメニアが加わる集団安全保障条約機構(CSTO)に加盟していない。ロシアは宣言署名により、旧ソ連圏での安保協力の枠組みを拡大した形になった。【2月23日 共同】
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【ロシアがウクライナに向けて軍を動かした“隙”をついて、アゼルバイジャンが再び攻撃?】
上記「同盟的協力宣言」の1か月後にロシアはウクライナに軍事侵攻して現在に至っていますが、そのさなか、再びアゼルバイジャンとアルメニアの間で衝突が起きています。

****ナゴルノ・カラバフ紛争が再燃。ウクライナ侵攻の余波か。アゼルバイジャンがドローン攻撃****
ロシア軍のウクライナ侵攻が膠着状態に陥る中で、旧ソ連の別の地域でも紛争が再燃した。2020年に停戦していたナゴルノ・カラバフ紛争だ。

2020年の停戦後はロシア軍が平和維持部隊として駐留していたが、ウクライナを攻撃する戦力を補充するために部隊を移動させたという情報が出ている。

その隙をぬって、アゼルバイジャンがアルメニア側に無人攻撃機などで攻撃をした。
 
■ナゴルノ・カラバフにはロシア軍約2000人が駐留していたが、ウクライナに移動か
アゼルバイジャン西部でアルメニア側が実効支配するナゴルノ・カラバフでは、隣国アルメニアの支援を受ける自称「アルツァフ共和国」が1992年以降、実効支配を続けている。

2020年9月から11月にかけて、アゼルバイジャンとアルメニアの間で激しい紛争となった。アルツォフ共和国は大幅に支配地域を減らした上で、ロシアのプーチン大統領の仲介で停戦した。「アルツァフ共和国」にはロシア軍約2000人が平和維持軍として駐留することになった。

しかし、2022年2月24日からロシア軍はウクライナに侵攻。ウクライナ軍の猛反撃を受けて戦線は停滞している。ウクライナの地元メディア「キエフ・インディペンデント」によると、同国参謀本部は3月13日、「ロシアはナゴルノ・カラバフから戦闘員を連れてきて、ウクライナ戦の軍隊を補充している」と述べていた。
 
■ドローン攻撃で3人死亡と「アルツァフ共和国」が発表
そしてナゴルノ・カラバフを実効支配する「アルツァフ共和国」防衛軍の公式Twitterは、3月25日にアゼルバイジャンからドローン攻撃を受けたことで軍人3人が死亡、15人が負傷したと発表。

さらに「26日午前11時ごろ、アゼルバイジャン軍が再び様々な口径の銃器を使用し、ロシアの平和維持軍の管理下の地域の東方向に前進しようとした」と投稿している。

■アゼルバイジャンは「停戦協定違反はアルメニアだ」と逆に非難
エルサレム・ポストなどによると、ロシア国防省は3月26日、アゼルバイジャンを「停戦協定違反」と非難する声明を発表した。

それによると、アゼルバイジャンは24日から25日にかけて、トルコ製の攻撃偵察ドローン「バイラクタルTB2」で4回に渡ってロシア軍が平和維持活動をするファルク村を攻撃。監視所を設置したという。

アゼルバイジャン国防省はロシアの声明を「真実を反映していない」と批判。停戦協定に違反しているのは、アルメニア軍だと主張した。

ナゴルノ・カラバフから離れるはずだったアルメニア軍が違法に駐留していることが原因だとした。その上で、ロシアに対して「アルメニア軍をアゼルバイジャン領から完全に撤退させること」を求めている。【3月28日 HUFFPOST】
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ロシアは上記のようにアゼルバイジャンを「停戦協定違反」と非難していますが、アゼルバイジャン側は反論しています。

****アゼルバイジャン、ロシアからの「合意違反」との非難に返答****
アゼルバイジャン国防省は、ロシア連邦に対して、国際的に認められたアゼルバイジャン領からのアルメニア軍の撤退の保障と、「ナゴルノ=カラバフ」という表現の今後の不使用を要求している。
26日、アゼルバイジャン国防省が声明を発出した。

アゼルバイジャン国防省は、ロシアによる、アゼルバイジャンがあたかもいわゆる「ナゴルノ=カラバフ」に関する合意に違反しているとする非難は、事実に反すると主張している。

アゼルバイジャンの声明には、「ロシア連邦国防省のその声明は、二国間関係の性格と2022年2月22日に二国間で署名された同盟的連携に関する宣言に反するものである」と書かれている。

その上でアゼルバイジャン国防省は、ロシア国防省に対して、3者間の同盟連携宣言における「残ったアルメニア軍と違法なアルメニア武装集団の国際社会によってアゼルバイジャン領として認められた領土からの完全撤退を保障」するよう要請した。

さらに、同省は、同国主権領土内におけるアゼルバイジャン軍の移動を「歪んだ形で」紹介することを止め、さらに「ナゴルノ=カラバフ」という表現を使用せず、アゼルバイジャン領の正しい地名を用いるよう要求している。同省は、同国には「ナゴルノ=カラバフ」という名前の行政区画はないとし、ロシアが言及する村の名前はフルフではなく、ファルフだと指摘している。【3月27日 ウクルインフォルム】
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現状がどうなっているのか定かでないですが、ロシアはアゼルバイジャン側は軍を引いたとしているのに対し、アルメニアはそれを否定し、ロシアに「具体策」を要求しています。「具体策」というのは、ロシアの平和維持部隊の実力行使でアゼルバイジャン軍を追い出せということでしょう。

****アルメニア、ロ軍に対応要請 アゼルバイジャンが係争地「侵入」****
アゼルバイジャンはこのほど、アルメニアとの係争地ナゴルノカラバフに侵入し、戦略的要所の村を制圧した。これを受けてアルメニアは28日、同地に駐留するロシアの平和維持部隊に対し「具体策」を講じるよう要請した。
 
アゼルバイジャン軍は24日、ナゴルノカラバフのファルーフを制圧した。
 
ナゴルノカラバフをめぐっては、2020年にアゼルバイジャンとアルメニアの間で軍事衝突が発生。ロシアが停戦を仲介し、現在は同国の平和維持部隊約2000人が駐留している。
 
ロシア国防省は27日、アゼルバイジャンはファルーフから部隊を引き揚げたとの見方を示した。一方、アゼルバイジャン側は、軍は村にとどまっているとしている。
 
アルメニア外務省は28日の声明で、アゼルバイジャン部隊の侵入に対し、ロシアの平和維持部隊がいかなる対応をしたか調査するよう要請したと明らかにした。アゼルバイジャン軍が依然、村にとどまっていることも認めた。

「ナゴルノカラバフに駐留するロシアの平和維持部隊が、管轄地域へのアゼルバイジャン軍の侵入を終わらせるため、具体的な措置を講じることを期待する」としている。
 
ナゴルノカラバフをめぐる緊張が再び深刻化すれば、ウクライナに多数の部隊を投入しているロシアは難局に直面する可能性がある。 【3月29日 AFP】
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アゼルバイジャンが“(ロシアが)ウクライナを攻撃する戦力を補充するために部隊を移動させたという情報が出ている。その隙をぬって、アゼルバイジャンがアルメニア側に無人攻撃機などで攻撃をした”ということなのかどうかは定かではありませんが、ロシアとしてはウクライナで手一杯のところに、更にナゴルノカラバフでアゼルバイジャンと事を構えるというのは出来ない相談でしょう。

また、ジョージアやモルドバの親ロシア勢力実効支配地域においても同様の懸念があり、うかつに軍をウクライナに向けて動かせない・・・ということにも。

ジョージアの南オセチア自治州に駐留していたロシア軍は、すでに今月初めにウクライナに再配備されたとも報じられていますが・・・。

ウクライナ情勢で苛立ちを募らせているプーチン大統領を更に苛立たせる事態にもなっています。

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中国  「ゼロコロナ」でも歯止めがかからない感染拡大 上海も封鎖 住民の不満・ストレスも増大

2022-03-28 22:24:33 | 疾病・保健衛生
(翌朝からの封鎖に備え、スーパーマーケットで物資を買い込む人々(上海市 3月27日)【3月28日 HUFFPOST】)

【上海 症状のある新規感染者が1日50人 28日から封鎖】
新型コロナ対応については、世界の流れが「ウィズコロナ」の考えで規制緩和に向かうなかで、中国では厳格な「ゼロコロナ」政策を維持しているものの、各地で感染拡大が起きており、長春などでロックダウンに至っていることは、3月12日ブログ“中国 「ゼロコロナ」政策のもとで感染者増加 上海でも 900万人都市長春ロックダウン”でも取り上げました。

その後も感染拡大が止まっていません。

****新型コロナ、中国本土で新たに1275人感染確認****
中国国家衛生健康委員会は28日、31省・自治区・直轄市と新疆生産建設兵団から27日に報告を受けた新型コロナウイルスの新規感染者(無症状感染者除く)が1275人だったと発表した。
 市中感染症例は1219人(吉林省1086人、上海市50人、中略)で、残り56人は境外(中略)で感染したと思われる輸入症例(中略)だった。(後略)【3月28日 新華社】
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26日の“新規感染者(無症状感染者除く)”が1217人、無症状感染者は4333人、合計5550人でした。
27日は上海で無症状感染者が前日より800人ほど増加していますので、合計人数は6千人を超えるかも。
25日も無症状感染者を含めて5600人と5千人を超える水準が続いています。

世界的には比較的感染レベルが低い日本が、27日は43364人ですから、人口13億(日本の10倍)の中国の感染レベルは桁違い(それも二桁ほど)に低いものにとどまっていますが、「ゼロコロナ」政策のもとで実際にもゼロに近いレベルを維持してきた中国としては、パンデミック初期の武漢での感染爆発以来の増加傾向で、当局も対応に苦慮しているようです。

中国のと言うより、今や世界の中核都市である上海でも(中国レベルで言えば)感染が広まっています。

****中国上海、コロナ無症状感染者3450人 過去最多****
中国の上海市で27日に確認された新型コロナウイルス新規感染者は、無症状者が3450人と過去最多を更新し、症状のある人は50人となった。市当局が短文投稿アプリ「微博(ウェイボ)」で28日明らかにした。

前日は無症状者の新規感染者が2631人、症状のある感染者は47人だった。(後略)【3月28日 ロイター】
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上海ではこれまで地区ごとの封鎖が行われていましたが、この事態に都市全体の事実上のロックダウンに入り、全住民(2500万人)のPCR検査を行うことに。(東地区封鎖は28日午前5時からですが、発表は27日夜)

****上海でロックダウン開始、東西に分けて96時間ずつ封鎖…住民2500万人にPCR検査****
中国最大の経済都市・上海市は28日から、新型コロナウイルスの感染急拡大を受け、市内を二つの区域に分けて順番にロックダウン(都市封鎖)を始めた。封鎖中は外出を原則禁止し、地下鉄やバスの運行を止め自家用車も禁止する。

医療従事者や宅配業者など生活に必要な事業以外は出勤できなくなり、経済活動への影響が懸念される。
 
市中心部を流れる黄浦江を境に東西に分け、東部は28日〜4月1日、西部は1〜5日の96時間ずつ封鎖する。
封鎖中に上海市の全住民約2500万人を対象にPCR検査を行う。検査は主に集合住宅地ごとに実施するという。
 
日本外務省によると、上海市の在留邦人数は昨年10月時点で約3万8000人で、日本企業の拠点数は2017年の調査で約1万だった。
 
上海市はこれまで感染者が確認された地域を細かい住所単位で封鎖し、感染拡大を食い止めてきた。だが3月中旬から感染力の強い変異株「オミクロン株」が広がり、27日の新規感染者数は3500人と過去最多を記録した。うち無症状感染者が約9割を占めた。
 
中国全体でも今月は感染が拡大し、深セン市などが都市封鎖した。上海市の場合は経済への影響が大きいため、都市封鎖はせず感染者が見つかった地区ごとに封鎖してきた。だが感染に歯止めがかからず都市封鎖に踏み切った。
【3月28日 読売】
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【当局の硬直的対応に住民には不満・ストレス・批判も】
中国の国情でしょうか、有無を言わさずいきなり封鎖して、状況説明もほとんどない・・・ということで、さすがに住民の不満もたまってきています。

下記は、上海におけるこれまでの地区封鎖の状況に関するもの。

****ストレスを溜めながら助け合う住民、ゼロコロナ軟禁生活を上海からレポート****
中国・上海市で3月25日、新型コロナウイルスの市中感染者がついに2269人となった。数週間前に1桁だった市中感染者数が、気づけば1000人になり、23日から2日で2倍となっている。
 
上海市は3月15日の会見で「ロックダウン(都市封鎖)はしない」と表明したが、翌日からエリアごとに48時間封鎖し、住民全員に対し1日1回、計2回のPCRスクリーニング検査を行っている。無症状感染者を洗い出すこのPCRスクリーニング検査によって、日々、新たな感染者が雪だるま式に増えている。
 
昨年(2021年)末には西安が、先ごろには深圳がそれぞれ感染者数の拡大を受けてロックダウンに踏み切っている。一方、上海市はエリアごとに封鎖して全住民へのPCRスクリーニング検査を実施するという、異例の措置を採った。
 
これは、できる限り経済活動に影響を与えず、コストを最小限に抑える防疫政策だとされる。もちろん、中国が掲げる「ゼロコロナ」政策を踏襲するものだ。
 
果たして、中国のゼロコロナ政策はうまくいくのか。上海のマンション敷地内に閉じ込められた、筆者の現在の生活をリポートしよう。

疲れ始めた住民
上海市で実施される封鎖のエリアの単位は「小区」と呼ばれる集合住宅である。筆者が住むマンションがある小区の入り口にはロープが張られ、警備員が監視しているため、敷地内から出ることはできない。住民は軽い“軟禁”状態とも言える。
 
筆者が住む小区の封鎖は今日(3月25日)で8日目。小学校、中学校、高校も閉鎖され、生徒は先週から自宅でオンライン授業を受けている。子供も親もそろそろみんな疲れが出てきている。
 
外に買い物に出ることができないため、宅配に頼るしかない。とりわけ筆者が住むエリアは広範囲にわたる封鎖が同時に行われているため、多くの人が宅配を頼んでいるようだ。配達員不足から、いつアプリを開いても注文ができない状態が続き、これがストレスにもなっている。
 
そうした状況のなか、大型スーパーは小区ごとの宅配サービスを始めた。チャットアプリ「微信(WeChat)」には買い物用のグループチャットが開設され、数日後にはチャットへの参加者が300人を超えた。
 
筆者が住むマンションの近くにある個人経営の八百屋も、宅配をしている。電話一本で配達してくれるのはありがたいのだが、価格は普段の4〜5倍もする。非常事態だから仕方ないだろう。
 
マンションの敷地内で知り合いや友人に会うと、食料をどこで調達しているかについて情報交換をする。SNSでも地域住民の間でそうした情報が飛び交い、みんなで助け合っている。

飛び交う噂
あと何日で封鎖解除になるのか、まったく先が見えないのもかなりのストレスだ。
小区を管理する居民委員会からの連絡事項は、微信のグループチャットか、マンション1階の入り口扉に張り出される「通知」で知ることになる。電話で問い合わせても、「政府当局から封鎖解除の指示が出れば、すぐに通知する」と言われるだけである。

「〇〇の小区で陽性者が出たらしい」「〇棟が封鎖されたらしい。濃厚接触者がいたようだ」――。住民の間では、いろいろな噂が飛び交う。(中略)
 
ただ、中国人の友人らは、「早く封鎖解除になってほしい」「買い物が大変だ」などと言うものの、封鎖を強制する当局に対して文句を言う人はいない。そして“封鎖生活”を少しでも豊かにするため、せっせと生活用品や嗜好品の調達方法を探している。

終わりの見えない「ゼロコロナ」政策
上海市には「上海発布」という微信公式アカウントがあり、このアカウントをフォローしていれば、日々の新規感染者数とどこの小区で感染者が出たのかを知ることができる。
 
市が実施するスクリーニング検査は、もちろん陽性患者の早期発見に効果的だろう。ただ、市内の防疫対策は小区ごとに大きな差があるのも事実だ。
 
たとえば、友人が住む、筆者とは別のエリアの小区は、いまだ封鎖されていない。友人は、職場があるオフィスビルが一時的に封鎖されていたため、その期間は出社できなかったが、オフィスビルの封鎖解除とともに出社が可能になった。
 
上海市は、小区のリスクレベルに基づき、PCRスクリーニング検査の実施規模を小区ごとに差別化することで、医療資源がひっ迫しないようにしているという。この差別化措置が感染者のさらなる拡大につながらないことを祈るしかない。
 
終わりの見えない「ゼロコロナ」に市民は疲れ始めている。筆者が住む小区の対面の小区がきょう封鎖解除となり、「うちの小区はどうなっているんだ」と小区入り口に多くの人が集まっていた。
 
封鎖が解除になった小区の住民は、こぞってスーパーや野菜市場を訪れ、物の買い占めに奔走。多くの人が集まるため陽性者の増加が加速し、封鎖になった場所も少なくない。1カ月後の上海はどうなっているのだろうと思わずにいられない。
 
上海市が採った措置の結果は、中国全体のゼロコロナ政策にも影響しかねない。上海市の責任は重大である。
【3月27日 山田 珠世氏(上海在住コラムニスト) JBpress】
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中国の観光地での経験。ロープーウェイが点検作業でストップ。何の説明もないまま長蛇の列が。それでも中国人民は黙って並んでいました。お上(おかみ)の命令には従順なところがあります。それでもさすがに・・・。

今回、東西に分けて封鎖するということで、食料品などの買い占めといった混乱も生じており、ネット上には政府・当局に対する不満も。

****「外国人を笑えない」上海ロックダウンで不満の声がSNSに...「隠語」を使って中国政府批判も****
中国・上海市は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、市を東西に分けての事実上のロックダウン措置に入った。感染を徹底して封じ込める「ゼロコロナ」政策に、ネットユーザーからは不満の声が上がっている。(中略)

アメリカ政府系メディア・RFAなどによると、上海市では(封鎖直前の)27日夜、食料品などの買い占めが起きたという。

先行して封鎖される東側に位置する浦東新区ではこの日、スーパーマーケットなどの営業を深夜0時まで延長。「買い占めで人がごった煮になる。ロックダウンも無駄になるぞ」「さっさと買い占めに行けということか」などと批判的なコメントが相次いだ。

台湾・三立テレビは上海の映像として、空になったスーパーの棚や、物資をめぐってもみ合いになる人たちの様子を伝えている。

中国はこれまで、厳格な水際対策や隔離措置、それに徹底した検査体制を組み合わせた「ゼロコロナ」で感染を抑えてきた。しかし、突然の封鎖措置や経済活動の制限など、市民に負担を強いる側面もあり、ネットユーザーからは不満の声も上がる。

SNS・ウェイボーでは「こんなに人が密集しているのに政府は放置。(感染が爆発的に広まった)香港のようになるぞ。政府が『横たわり(無気力な人などを指す)』をしたいのならば素直に言ってくれれば良いのに」とか「上海市政府の何人が処分されるのだろう」などと苦言するコメントが並ぶ。

これまで中国メディアには、感染が拡大する西側諸国と比較して、中国のゼロコロナ対策が優れているとした評論が掲載されてきた。

これを意識してか「コロナそのものが怖いのか、ゼロコロナ政策が怖いのか時々分からなくなる。上海ではなぜ買い占めが起き、『zf』が物資を提供してくれると信じられないのか。他の国の報道を見ていて、我々はどの視点から外国人を笑えるのだろうか?」と疑問を呈する投稿もあった。

「zf」は中国のネット空間で用いられる隠語で、「政府」を表す。この書き込みはまもなく削除された。【3月28日 HUFFPOST】
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なお、当局によると、“上海の空港、鉄道駅、貨物輸送は大規模検査中も通常通り運営される”【3月28日 ロイター】とのこと。

住民感情や事情に配慮しない当局の硬直的対応にも批判が。

****「隔離は御免」、中国ゼロコロナ政策に市民の不満爆発****
中国のSNSでは先週、東北部瀋陽市で群衆が衣料品市場の窓を叩き、新型コロナウイルスの検査義務付けが再開されることに不満を爆発させる動画が拡散された。

地元政府は直ちに、この騒ぎに関する「うわさを拡散」させないようにと人々に通告。しかしインターネット上にはすぐに「隔離は御免だ!」、「大勢の人々が真実に目覚めた」といったコメントがあふれた。

対話アプリ「微信(ウィーチャット)」ではユーザーが「普通の風邪の方が大変。これを続けたがっているのは検査機関だ。ワクチン企業は永遠に接種し続けたいのだ」と怒りを爆発させた。

このコメントは、中国全土で高まる不満を映し出している。当局が感染力の強いオミクロン株の拡大を抑え込むため、あの手この手の「ゼロコロナ」政策を打ち出すことへの不満だ。

感染者数が増える中、絶え間ない検査など「動態(ダイナミック)ゼロコロナ」と呼ばれる政府の政策は複雑さを増す一方で、国民の間ではその有効性に疑問が広がっている。

国家衛生計画生育委員会の王賀勝・副主任は先週の記者説明で、政策の洗練度が上がったことによって、国民の不便は軽減されたと主張。「非常に少数の人々の通常の活動を犠牲にし、非常に小さい地域で移動を制限することと引き換えに、大半の地域と人々の生産と生活が平常通りに保たれている」と述べた。

しかし国民は、政策が透明性と一貫性を欠いていることに怒りを募らせている様子だ。SNSの検閲者は、あふれる不平不満の声を削除するために残業を強いられている。

北京のベッドタウン、河北省燕郊では、厳しいロックダウン(都市封鎖)が敷かれる中で住民が帰宅に苦労している。

オンラインで拡散された複数の画像からは、住民が北京から抜け出すため、激しい雪が降る中で検査結果受け取りの行列に並ぶ様子が見て取れる。こうした投稿には数百件のコメントが付いた。画像の多くは既に削除されている。

中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」には「感染が始まって3年も経つのに、政府の対応は未だにお粗末だ。人々の命や死にまるで無頓着な、怠惰で杓子定規な政府だ」という投稿があった。

経済的な苦境も広がっている。感染拡大が深刻な吉林省長春市で配達の仕事に就くマオさんは、周辺地域は9割方閉鎖され、生活費が稼げないと嘆く。「なすすべがない。街の閉鎖が解除されるのを待つしかない。お手上げだ」

<恣意的なルール執行>
規則が恣意的な上、地域住民の委員会が勝手な裁量でその執行を担っていることに対しても、住民から苦情が出ている。(中略)上海では、集合住宅ごとに検査やロックダウンの基準がばらばらなことに戸惑いの声が聞かれる。

しかしこうした政策は単に生活を不便にするにとどまらない。ネット市民は、ロックダウンが招いた深刻な悲劇についても積極的に意見交換するようになってきた。

ウェイボーに先週アップされ、広く拡散された投稿によると、上海中央病院で化学療法を受けていた患者が病院の隣の宿泊施設に隔離されたまま亡くなった。ネットには、新型コロナ絡みの混乱が原因で愛する人を失ったエピソードも拡散されたが、その後削除された。(後略)【3月26日 ロイター】
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【「ゼロコロナ」に固執する背景】
中国政府が「ゼロコロナ」に固執するのは、中国製ワクチンの有効性が低いため感染が広まると、高齢者死亡の増加など収拾がつかない状態になりかねいのを懸念している・・・との指摘もされています。

“(欧米製)mRNAワクチンの入手資金はあるものの、この1年間に欧米製のワクチンに関する偽情報をばらまいてきたため、今さら供給するのは政治的に都合が悪い。国内産mRNAワクチンを開発する動きもあるが、実現はまだ先だ。”【3月25日 Newsweek 「コロナとロックダウン「再襲来」に、爆発寸前の中国の「不満」が政府に向かう」】

「ゼロコロナ」対応が医療逼迫を招いているとの指摘も。

****中国の病院、軽症者で逼迫 ゼロコロナ裏目****
中国全土で新型コロナウイルス患者が病院に殺到し、医療従事者から悲鳴が上がっている。押し寄せているのは重症者ではなく、軽症者だ。
 
中国の病院はこれまで、他国が慣れざるを得なかった病床のひっ迫には見舞われていなかった。唯一の例外は、2020年初頭の数週間にこれを経験した武漢市だ。

中国はむしろ、できる限り早く感染者を排除することを目指し、感染者全員を入院させ、「濃厚接触者」もすべて隔離施設へ送ってきた。濃厚接触者には医師や看護師も含まれる。
 
しかし、中国本土で感染者が急増する中、かつての「成功の方程式」はここにきて大混乱をもたらしつつある。(後略)【3月24日 WSJ】
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異例の3期目続投を見据える習近平国家主席は難しい対応を迫られています。
当然ながら、中国が感染爆発で混乱すればサプライチェーンが寸断され、日本も手痛い打撃を受けます。

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イエメン 「忘れられた」戦争で進む「最大の人道危機」 唯一、国際社会が注目するサウジ石油施設攻撃

2022-03-26 22:25:06 | 中東情勢
(【3月16日 PR TIMES】)

【メディア・国際世論の偏向 「かわいそうな」ウクライナ人と「かわいそうでない」イエメン人】
ウクライナの状況について日本を含む西側世界では連日メディアが大きく取り上げ、軍事進攻したロシア・プーチン大統領に対し世論は厳しい批判の声をあげています。

そのことは当然のことと思いますが、以前のブログでもちょっと書いたように、釈然としないものも個人的に感じます。(3月13日ブログ「ポーランド 寛容なウクライナ難民対応 これまでアフリカ・中東難民には冷淡 “二重基準”“差別”?」)

今のウクライナの悲劇はこれまでも、今も、アフリカや中東などでは普段に起きていることでもあります。

そうしたアフリカ・中東世界の悲劇に対し、日本や西側世界はウクライナに対してと同様の関心・共感を持ち、ロシアに対してと同様に批判の声を上げたのか?

ポーランドなど東欧諸国が温かく受入れているウクライナ難民の一方で、アフリカ・中東の人々は同様に受け入れられているのか?

そうした疑問の背景に、欧州・白人社会とアフリカ・中東に対する二重基準みたいなものがあるのでは?

私のような全くの部外者がそのような思いを抱くのですから、当事者の思いは複雑でしょう。

****ウクライナ侵攻でもロシアは国際的に孤立していない…新経済秩序が構築される可能性も****
ロシアがウクライナに侵攻して1ヶ月が経ち、西側諸国では「ロシアは孤立に追い込まれている」との見方が常識になりつつある。

非常に厳しい経済制裁を科されたことでロシアは大打撃を被り、国際社会から排除されつつあるのはたしかだが、西側諸国の対応に冷ややかな視線を送っている国々が少なくない点も見逃せない。

3月2日に国連で行われたロシア軍の即時撤退を求める決議では、国連加盟193カ国のうち141カ国が賛成したのに対し、反対はロシアを含む5カ国、棄権したのは35カ国だった。国別で見れば賛成が圧倒的多数だが、人口の総数で比較すると世界の人口(77億人)のうち53%が棄権などに回っていたことがわかる。

アフリカや中東で西側諸国のダブルスタンダードへの不満がこれまでになく強まっていることも気がかりだ。

前述の国連決議を棄権した東アフリカ・ウガンダのムセベニ大統領は、ウクライナを巡る西側諸国とロシアの対立について「アフリカは距離を置く」と表明した(3月18日付日本経済新聞)。歴史的にアフリカを搾取してきた西側諸国がウクライナだけに肩入れするのは「ダブルスタンダード」だというのがその理由だ。

同じく国連決議を棄権した南アフリカのラマポーザ大統領も17日、ウクライナにおける戦争についてNATOを非難し、「ロシア非難の呼びかけに抵抗する」と述べた。

アフリカでは難民や人道危機における国際社会の対応が「人種差別的」だと不満の声も上がっているが、中東でも「西側諸国のウクライナへの対応が中東に向けられた態度とあまりにも違う」との不信感が強まっている(3月8日付ニューズウィーク)。

欧米諸国は避難するウクライナ人に対して門戸を喜んで開放しているが、かつてシリアからの難民が流入した際、どれだけ冷たい態度をとったことか。中東地域で「白人優先主義だ」との非難は高まるばかりだ。

「外国への侵攻」という意味では米軍のイラク侵攻も同じだが、「国際社会は米国に制裁を科したのか」、「侵攻された側を支援したのか」との怒りもこみ上がってくる。

アフガニスタンからの米軍の撤退ぶりが与えた影響も小さくない。「米国はいざというときに頼りにならない」との認識を深めた中東諸国には「米国の同盟国であることは利益よりも不利益の方が大きいのではないか」との懐疑が芽生えつつあるという。

このように、「ロシアが国際的に孤立している」とする西側諸国の認識は、必ずしも国際社会全体の実態を表しているものではない。(後略)【3月26日 藤和彦氏 デイリー新潮】
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ロシアが孤立しているか云々は今回はパスします。
問題にするのは、“難民や人道危機における国際社会の対応が「人種差別的」だ”という指摘。

その顕著な事例が、内戦が続き、多くの国民が飢餓に瀕しているにもかかわらず、長く「忘れられた戦争」としてあまり国際的に大きな関心が払われることがない中東の最貧国イエメンでしょう。

****「かわいそうな」ウクライナ人と「かわいそうでない」イエメン人****
世界中の耳目がウクライナでの戦争とその被災者に向く中、ろくに顧みられることもないままイエメン支援会合がひっそり閉幕した。会合は、国連、スウェーデン、スイスが共催し、ただでさえアラブ最貧国の一つだった上、2011年以来の政治変動と国際紛争で「最大の人道危機」と呼ばれて久しいイエメン人民を支援するためのものだ。

会合に際し、ユニセフとWFPは共同報告書を発表し、現時点で3万1000人が厳しい飢餓状態にあるところ、本年中にはこれが5倍の16万1000人に増加するだろうと予想した。同報告書は、現時点で1740万人が直ちに支援を必要とする状態だが、これも2022年6月までに1900万人に増加すると警告した。

必要な支援を行うために国連が各国に要請した拠出額は約43億ドルだったが、支援会合を通じて拠出表明があったのは要請の3分の1にしかならない17億3000万ドルだった。

国連のグリフィス事務次長(人道担当)は、ウクライナでの戦争に世界の関心が集まる中、イエメン紛争を忘れてはならない、今般の支援会合は国際社会がイエメンのことを見捨てていないことを示す機会だと訴えたが、現実の拠出表明、そして問題についての報道の量・質を見る限りこの呼びかけは無視されたといっていい。

そもそも、2021年分についても国連の拠出要請38億5000万ドルに対し、17億ドルしか拠出表明がなかったことから、ウクライナでの戦争の有無や展開にかかわらず、すでに国際社会と称するものやそこで生きる良心と道徳心あふれる人々はイエメン人民がどんなに困窮しようが、飢えて死のうが大して関心がないということは否定しようがない。

イエメン人民の窮状が全くと言っていいほど顧みられない、大体からして日本国内でこの問題を報じる報道機関、まともに論評する「専門家」、イエメン人民の窮状や紛争の実態に関する「現地の声」を伝えてくださる「報道人」がほぼ存在しないのは、今に始まったことではない。

この問題は、イエメン紛争が本格化し支援が喫緊の課題となった2014年から2015年ごろは、イエメン人民の窮状はEU諸国に押し寄せた「大量の」シリア難民の問題やシリア紛争の惨状についての報道によって見事に吹っ飛んだ。

なお、本邦政府はイエメン領内での活動がほぼ不可能な中、国連機関をはじめとする各種機関を通じて様々な支援事業に拠出・関与しており、国連からの度重なる要請が顧みられない中での貢献としてはマシな方に属する。ちなみに、アメリカ政府の発表によると同国はイエメンの人道支援のために過去7年間で45億ドルを拠出し、今後も5億8500万ドルを提供する予定とのことである。
 
これまでも様々な機会で何故イエメンの窮状はまるで顧みられないのか、シリアやウクライナに平和や支援を求める声に比べればイエメンにそれを求める声はないも同然なのかについて考察してきた。

主な原因としては、有力な支援国となるべきアラビア半島の産油国諸国がイエメン紛争の当事者と化しておりそこからの支援はイエメン全体に行き渡るものではないこと、そうした諸国をはじめとする外部の当事者が紛争やイエメン国内の政治的な権益配分についての不平を収束させる見通しも方法もないまま干渉を続けていること、そして何よりも、イエメンから紛争や窮状について発信する能力やそうした情報を拾い上げて国際的な関心を惹起する機能や努力が著しく欠けていることが挙げられる。

報道機関、そして近年ではSNS上の有力な発信者には、単に記事や動画を配信するだけにとどまらない絶大な権力がある。それは、読者・視聴者に対し「どんな問題に関心を持つか」、「ある問題についてどのように解釈し、どのように振る舞うか」を方向付け、誘導するという恐るべきものである。

この権力者たちのお気に召さない限り、どんなひどい目に合おうが一般の読者・視聴者の話題にもしてもらえないみじめな生き物へと貶められることになってしまう。

従って、イエメン人民の窮状が全くと言っていいほど顧みられない理由は、彼らの生き物としての価値がシリアやウクライナの人民のそれと比べて劣るからではなく、一般の読者・視聴者に対し話題を提供し、反応を方向付ける権力を持つ者たちがイエメン人民についての「話題や考察・行動の機会を提供する」ことを怠り続けたからだといってもいい。

つまり、イエメンについての情報がほぼ発信されない状況をここ1カ月ほどの推移に即して解釈するならば、世の中の情報発信・伝達に従事する人々の多くがウクライナ人民は支援すべきだがイエメン人民は飢え死にしても一向にかまわないと表明したに等しい。
 
世の中の情報発信は、その担い手の政治・経済的状況や、紙幅や放送のために費やすことができる時間という技術的な制約の中でなされる高度な営みである。他のニュースと比べてイエメンの問題を「ボツ」にするという行為とその影響についてもそうした高度な営みの判断材料に入れてもいいのではないかとも思う。【3月17日 髙岡豊氏 YAHOO!ニュース】
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いささか感情的に過ぎるものがある上記記事ではありますが、指摘する問題は間違ってはいないでしょう。

【国連機関が警鐘を鳴らすイエメンの飢餓 緊急レベルの飢餓に苦しむ人の数は増加の一途】
イエメンの窮状は、記事にもあるように国連機関などが強い警鐘を鳴らしています。

****イエメン:史上最悪の飢餓、飢饉レベル5倍増の予想【プレスリリース】****
ユニセフ・FAO・WFP共同声明

ユニセフ(国連児童基金)、国連食糧農業機関(FAO)、国連世界食糧計画(国連WFP)は、イエメンでは、今や1,740万人が食料支援を必要とし、緊急レベルの飢餓に苦しむ人の数は増加の一途をたどっており、悲惨な食料危機がさらなる大惨事へ向かっていると、警鐘を鳴らしました。

3機関は、イエメンに関する最新の総合的食料安全保障レベル分類(IPC)分析が本日(14日)発表されたことを受けて、今年の6月から12月の間に、イエメンの人道状況はさらに悪化し、最低限の食料ニーズすら満たすことができない可能性が高い人々の数は、過去最高の1,900万人に達するだろうと警告しました。

同時に、緊急レベルの飢餓に苦しむ人の数は、今後さらに160万人増え、年末までに合計730万人にのぼることが予想されると指摘しました。

本日発表されたIPC報告書では、5歳未満児の急性栄養不良が依然として高い水準にあることも示されています。イエメン全域で220万人の子どもが急性栄養不良に陥っており、そのうち50万人近くは命を脅かすほどの重度の急性栄養不良に直面しています。

また、約130万人の妊産婦も急性栄養不良に苦しんでいます。最も状況が深刻なのは、ハッジャ州、ホデイダ州、タイズ州です。重度の急性栄養不良に陥った子どもたちは、治療食の支援を受けなければ命を落とす危険性があります。

紛争こそが、イエメンにおける飢餓の根本的な原因です。紛争の副産物である経済危機と通貨の下落によって、2021年の食料価格は2015年以降の最高水準へと高騰しました。

ウクライナでの紛争がイエメンの食料輸入に多大な影響を与え、食料価格をさらに引き上げることも予想されます。イエメンは食料をほぼ全面的に輸入に依存しており、小麦輸入の30%がウクライナからなのです。

最新のデータのきわめて憂慮すべき点は、破滅的なレベルの飢餓(IPCの5段階のうち最も深刻なフェーズ5、飢饉)にある人の数が、現在の3万1,000人から2022年後半には16万1,000人にまで、5倍に増加すると予測されていることです。

国連WFPは資金不足のために、今年初頭に800万人への食料配給の削減を余儀なくされました。これにより、各家庭は国連WFPが基準とする1日の最低食事量の半分をかろうじて受け取っているという状況におかれています。いまにも飢饉のレベルに陥る危険性のある500万人には、引き続き完全な食料配給が行われています。

ユニセフ事務局長のキャサリン・ラッセルは、「イエメンでは、日に日により多くの子どもたちが空腹のまま眠りにつくようになっています。子どもたちはますます、身体的・認知的な障がい、さらには命の危険にさらされています。イエメンの子どもたちの窮状を、これ以上見過ごすことはできません。これは、生死に直結する問題なのです」と述べました。【3月16日 PR TIMES】
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ウクライナでの戦争は“食料をほぼ全面的に輸入に依存しており、小麦輸入の30%がウクライナから”というイエメンを更に追い詰めています。

そんなイエメンで、紛争の方はむしろ激しさを増しているとも。
“国連WFPイエメン事務所代表 リチャード・レーガン氏「年初から紛争は激しさを増し、爆撃もかなり多くなった」「人口3000万人のうち2000万人が、毎日食べることが困難。かなりショッキングな話です」”【3月25日 日テレEWS24】”

【フーシ派、サウジアラビア石油施設を攻撃 原油価格に影響 やっと目を向ける国際社会】
どれだけの子供が栄養失調で死のうが普段顧みられることがないイエメンでの戦闘に国際社会が目を向ける唯一のケースが、軍事介入を続けるサウジアラビアに対するイエメン・反政府勢力フーシ派の攻撃が及んだとき。

****フーシ派、サウジ石油施設を攻撃 F1会場付近で大火災****
サウジアラビア・ジッダで25日、国営石油会社サウジアラムコの石油施設が隣国イエメンの反政府武装組織フーシ派の攻撃を受け、大規模な火災が発生した。火災は同市で開催中のフォーミュラワン(F1世界選手権)のコースからも見られた。

フーシ派は、無人機や弾道ミサイルでジッダのアラムコ施設や首都リヤドの施設などに計16回の攻撃を行ったと発表。イエメンとの国境にある南西部ジザンの電力施設も攻撃を受け炎上した。フーシ派と戦うサウジアラビア主導の連合軍も、攻撃があったことを確認した。

ジッダのF1コースでは当時、練習走行が行われていた。レッドブルの世界王者マックス・フェルスタッペン選手は走行中、チームとの無線連絡で、何かが焦げた臭いがすると語った。

イランの支援を受けるフーシ派は2014年、イエメンの首都サヌアを制圧。サウジアラビア主導の連合軍は翌15年、国際社会の承認を受けたイエメン政権を支援するために軍事介入を開始した。 【3月26日 AFP】
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サウジアラビア主導の連合軍がイエメンの親イラン組織フーシ派の拠点を報復空爆したとのことですが、影響はウクライナ情勢で敏感になっている石油市場に直ちに及んでいます。

****サウジ石油火災でフーシ派に報復 原油価格上昇に懸念****
サウジアラビア主導の連合軍は26日、イエメンの親イラン組織フーシ派拠点への空爆を開始し「軍事作戦を続ける」と発表した。イエメンの首都サヌアや西部の港湾都市ホデイダで「脅威の源」を標的にしたとしている。サウジの国営メディアが伝えた。国営石油会社の施設がフーシ派の攻撃を受け、大規模な火災が発生したことへの報復。
 
フーシ派は25日の声明で「さらなる攻撃」を予告。ロシアのウクライナ侵攻に伴い原油価格が高騰する中、報復の連鎖は価格上昇に拍車を掛けると懸念される。
 
原油高を受け、世界最大級の産油国サウジには増産要求が高まっている。【3月26日 共同】
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****北海ブレント120ドル突破、サウジ石油施設への攻撃受け****
米国時間の原油先物は1%超上昇し、北海ブレント先物が1バレル=120ドルを突破した。サウジアラビアの石油関連施設に対するミサイル攻撃が影響した。一方、米政府は戦略石油備蓄の再放出を検討しているという。(後略)【3月26日 ロイター】
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サウジアラビアの石油施設への攻撃はフーシ派にとって戦略的に重要なポイントですが、こうでもしなければ目を向けようとしない国際社会への反発もどこかにあるのかも。

2001年3月、アフガニスタンのタリバンは世界的な文化遺産であるバーミヤンの大仏2体に砲弾とロケット砲を浴びせ、最後はダイナマイトで爆破しました。その非道に国際社会は非難の声をあげました。

その国際非難にたいして、あるタリバンが言い放った言葉
「今、世界は、我々が大仏を壊す言ったとたんに大騒ぎを始めている。だが、わが国が旱魃で苦しんでいたとき、彼らは何をしたか。我々を助けたか。彼らにとっては石の像の方が人間より大切なのだ。そんな国際社会の言うことなど、聞いてはならない」【高木徹氏著「大仏破壊」】
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ロシア  下火になった反戦デモ “プーチン支持 71%”といった世論調査結果は?

2022-03-23 23:42:58 | ロシア
(【3月19日 BBC】 ウクライナで戦死したロシア軍兵士の葬儀で悲しむ妻 
ロシア政府は2日、死者数について498人と発表した後、更新していません。ロシアのタブロイド紙「コムソモリスカヤ・プラウダ」は21日、「ロシア国防省によると、ウクライナ特別作戦中に死亡したロシア軍兵士は9861人で、負傷者は1万6153人」だと報じましたが、その後削除。コムソモリスカヤ・プラウダは声明で、「管理者インターフェイスがハッキングされた」と。)

【下火になった反戦デモ】
ロシアでは国営テレビで反戦メッセージを掲げた女性などが話題になっていますが、当局の徹底した取締り、厳しさを増す経済情勢における失業の危機などで、一時は各地で行われた街中での反戦デモは下火になっているようです。

****ロシア、侵攻で進むインフレ 反戦デモは下火に****
ロシアのプーチン政権によるウクライナ侵攻から1カ月。ロシア国内ではインフレが進み、食品や日用品の物価が高騰している。通貨安や欧米企業の撤退で、国民所得の減少や失業者の増加も確実だ。

国民が生活水準の悪化に直面する一方、反戦デモは下火となった。専門家によると、経済の先行き不安が、拘束されて職やキャリアを失いかねないデモへの参加を思いとどまらせているという。

「仕入れがどうなるか分からないので、値上げに踏み切った」3月下旬、モスクワにあるアジア食材店の男性社員はそう話した。商品棚には値札のない商品も。

露通貨ルーブルは侵攻後、対ドルで一時40%下落し、その後も激しく変動している。そのたびに頻繁に値段を変えるため、値札を付け替える暇がないのだという。

モスクワのスーパーでは、砂糖や小麦の売り切れが目立つ。インフレの進行を見据えて買いだめする動きが続いているためだ。露国内での生産中止が発表されたコカ・コーラなど米欧系の商品に関しては、現時点で目立った価格上昇は見られないが、今後、在庫の減少とともに値上がりは必至だ。多くの飲食店でも値上げが進んでいる。

経済誌フォーブス・ロシア(電子版)は3月中旬、露統計当局の発表に基づき、国内のインフレ率が12・5%に達したと伝えた。特にトマト(17%)やバナナ(16%)、砂糖(15%)の値上がりが目立つ。

露中央銀行は、今年の国内インフレ率が14〜20%に達し、国内総生産(GDP)は8%縮小するとの予測を発表した。露有力紙「独立新聞」も複数の専門家の分析として、国民の実質賃金が平均10%低下し、失業率は1月時点の4%台から10%に拡大する恐れがあると伝えた。

米欧による経済制裁には、ロシアに侵攻を断念させると同時に、露国内での反戦機運を高める思惑があるとみられている。

ただ、現在、反戦デモは収束しつつある。露人権監視団体「OVDインフォ」によると、デモに参加して当局に拘束された市民の数は今月8日までに計1万4千人に達したが、その後は拘束者数が増えていない。徹底的な弾圧で参加者が激減したとみられる。

独立新聞は13日、「デモは指導者を欠いている上、国民はデモに参加して職場や学校から追放されるのを恐れている」とする専門家の見解を伝えた。【3月23日 産経】
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欧米の制裁による経済混乱は、長期的には反プーチン気運を高めると思われますが、今の時点では抗議デモを萎縮させる側面が出ているようです。

プーチン政権は徹底して反戦抗議を封じ込める姿勢で、抵抗は海外勢力に結託したスパイ扱いされる懸念もあります。

****プーチン氏、欧米志向の市民は「裏切り者」 国内締め付け強化を示唆****
ウクライナへの侵攻を続けるロシアのプーチン大統領は16日、欧米などの経済制裁への対策会議で、欧米志向の市民をスパイを意味する「第五列」「裏切り者」と呼び、「西側諸国は第五列を使ってロシアを破壊しようとしている」と主張。「ロシア国民は真の愛国者と裏切り者を見分けることができる」と国内の締め付け強化を示唆した。(後略)【3月17日 毎日】
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近年はSNSを駆使して抗議デモが拡散しやすくはなっていますが、やはり中核となる指導者や組織がないと長続きしない面もあります。

中核となるべき反体制派指導者ナワリヌイ氏の刑期は大幅に延ばされ、反戦・反政権運動から遮断されています。

****ナワリヌイ氏に禁錮9年 刑期大幅延長、欧米の非難必至 ロシア****
タス通信によると、ロシアの裁判所は22日、収監中の反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏に対し、詐欺や法廷侮辱の罪で禁錮9年を言い渡した。 

同氏は禁錮2年6月の刑で服役中だが、刑期が大幅に延びた。ナワリヌイ氏の釈放を求めている欧米がプーチン政権への非難を強めるのは必至だ。  

ロシアのウクライナ侵攻後、ナワリヌイ氏はインターネット交流サイト(SNS)を通じて反戦デモを呼び掛けてきた。プーチン政権は反戦や反政権の機運拡大を警戒しており、刑期の大幅延長は政権の意向を反映したと言えそうだ。判決後には、記者団に対応していたナワリヌイ氏の弁護士らが警察に一時拘束された。【3月22日 時事】
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【強化される情報統制】
また、情報統制を強めて、ロシア軍の暴力によるウクライナ国民の窮状、抵抗によって被害が膨らむロシア軍の状況など、政権にとって不都合な事実が国民の目に触れる機会を奪おうとしています。

****ロシアが情報統制急ぐ SNS遮断、報道でも世界と断絶****
ウクライナ侵攻をめぐりロシアのプーチン政権が情報の戦時統制を強めている。主要なSNS(交流サイト)への接続を遮断すると4日に発表した。政権が「虚偽」とみなす情報を広げた場合に刑罰を科せるように法改正し、外国メディアも活動停止に追い込まれた。

米欧の制裁で経済が混乱し、侵攻による犠牲者が膨らむなか、国民の不満の封じ込めに躍起になっている。米欧の制裁により世界の金融やモノの流れから排除されつつある。言論統制で、ロシアは情報面でも世界との断絶が進むことになる。

ロシアの通信監督当局が4日に米メタ(旧フェイスブック)が運営するフェイスブック(FB)への接続遮断を発表した。タス通信によると、米ツイッターへのアクセスも制限した。

当局はFBがロシア国営メディアへのアクセスを制限したことが理由と主張した。実際は外国系SNSの遮断で国民の反戦機運の高まりを阻む思惑がある。

国営メディアがロシア軍を歓迎するウクライナ住民とされる映像などを盛んに流すのに対し、SNSでは攻撃で犠牲となったウクライナ人や捕虜になったロシア兵の情報が一気に拡散する。若年層は当局による通信規制を回避できる「VPN(仮想私設網)」を使ってFBなどの閲覧継続を試みるとみられる。

情報統制の矛先はロシア国内の情報を現地を拠点に発信してきた米欧メディアにも向かう。
4日にはロシアの軍事行動に関して「虚偽」の情報を広げた場合に刑事罰を科す改正法案がプーチン大統領の署名で成立した。外国人も対象で、最大15年の懲役や禁錮といった重い刑罰が科される可能性がある。

法律を受け、米欧主要メディアは記者の安全確保のため相次いでロシアでの取材活動の一時停止を決めた。ロシア語のニュースサイトも運営する英BBCはすべての記者の取材活動を停止した。

ロイター通信によると、米CNNやブルームバーグ通信なども続いた。刑罰を科す「虚偽の情報」の対象は明らかになっておらず、政権に不都合な情報を封じるために乱用される恐れが高い。

政権は侵攻開始後に独立系メディアへの弾圧を一段と強めていた。最高検察庁は1日までに有力ラジオ局「モスクワのこだま」、テレビ局「ドシチ(雨)」の放送遮断を決定。両局は活動停止に追い込まれた。

締め付けは政権が一定の批判を黙認してきた独立系新聞にも及ぶ。
当局はロシアの公式発表にだけ基づく報道をメディア各社に要請。2月26日にはノーベル平和賞をムラトフ編集長が受賞した独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」に対し、ロシア軍に不利な報道を控えるよう国防省が求めた。

政権は侵攻を批判する報道をするように欧米が圧力をかけていると根拠のない論理を展開する。
独立系メディアはこれまでロシアにも報道の自由があると政権が主張するために、存続を許されているとみられてきた。

ソ連末期から続いてきたこうしたメディアまで閉鎖する判断に至ったことは、政権がもはや民主主義の体裁を取り繕うことすら不要だと考えていることを示唆する。

なりふり構わぬ統制強化はウクライナの制圧が計画通りに進まないことへの政権の焦りを映す。世界的な孤立を深めるプーチン氏がさらなる強硬手段に訴えることも予想される。【3月5日 日経】
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【地方部で根強いプーチン支持】
こうした状況で、ロシア国民が今回のウクライナ侵攻やプーチン政権についてどのように考えているのかはわかりにくいのですが、特に地方においては、やはり“プーチン支持”が根強いとも指摘されています。

****プーチン支持なお絶大、ロシア田舎町の熱気****
ある住民は「勝利とプーチンのためならすべてを支持する」と語った

ロシアの小さな田舎町、トルジョークの中心部にある広場に週末、100台以上の車が集結した。その多くがロシア国旗をなびかせ、「ロシアのために!勝利のために!」と書かれたステッカーを貼っている。集会の目的はウラジーミル・プーチン大統領とウクライナにおける軍事作戦に支持を表明することだ。
 
地元トルジョークの出身で集会の主催者の一人、ドミトリ・セロフさん(35)は「われわれはわが軍を支持する。わが政府を支持する。われわれは国家の下で団結している」と述べた。
 
こうした立場はロシア全土で多くの国民に共有されている。彼らはウクライナにおける軍事行動は正当化されると考えており、衝突を招いたのは西側諸国であり、国際社会による経済制裁でロシアは不当な仕打ちを受けていると感じている。
 
プーチン氏は、米国の支援を受けてウクライナ指導部を腐敗させている反ロシア国家主義者を排除するのに軍事行動が必要だと訴えている。また文化や言語、存在そのものが攻撃にさらされているロシア人を守るためだとも述べている。
 
国民の主要な情報源である影響力の大きいテレビ放送など、国営メディアは政府の見解を日々繰り返し伝えている。そのため、首都モスクワやサンクトペテルブルクといった大都市から遠く離れたトルジョークや近隣の村々では、こうした見解が市民の間で広く受け入れられている。
 
ロシア軍はウクライナの都市に激しい爆撃を加えており、ウクライナ政府は数千人の民間人が殺害されたと述べている。これまで300万人以上の市民が近隣諸国へ避難した。ロシア国防省は民間のインフラ施設は標的にしておらず、攻撃しているのは軍事施設だけだと主張している。

プーチン氏は16日、テレビ中継された国民向けの演説で「自己防衛や安全保障の確保には、今回の特別軍事作戦以外の選択肢はなかった」と説明し、こう述べた。「わが同胞ら――兵士や将校たち――は勇気と英雄的な行為を見せており、ウクライナの都市で民間人の犠牲を回避するためにできる限りのことを行っている」
 
プーチン氏は、国民が経済制裁による打撃に耐えられるよう政府が支援すると約束し、それが「無条件の最優先課題」だと言明している。(中略)

プーチン氏は経済制裁の影響を和らげるため、8~16歳の子どもがいる低所得世帯に対する新たな補助金を発表している。妊婦や一人親世帯にはすでに補助金が国から支給されているほか、年金や社会福祉給付金も増える見通しだ。

歴史民族博物館のガイド、タチアナ・モロゾワさん(中略)は、ロシア国民の大半がウクライナでの軍事作戦を支持していると話した。平和をもたらすことが目的だからだと彼女は考えている。【3月18日 WSJ】
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【“プーチン支持 71%”といった世論調査結果をどう見るべきか】
世論調査では“プーチン支持 71%”といった数字も発表されています。
ただ、長期的には経済混乱は誰の目にも明らかなものになるでしょうし、ロシア軍の被害もやがては国民に知られるところとなります。

****ロシアでプーチン支持率71%に上昇 今後は政権維持のため戒厳令の導入も?****
真実が知られないようメディア統制を強化
ロシアのプーチン大統領が命じたウクライナ侵攻は、次第に無差別攻撃の様相を呈し、学校や病院、原発を攻撃するなど泥沼化してきた。

残虐な戦争の実態はロシアでは報道されず、逆に愛国主義が高揚し、2月28日の世論調査では国民の68%が「特別軍事作戦」を支持。反対は22%だった。プーチン大統領の支持率も侵攻1週間で71%に上昇した。

政権側は反政府系メディアや外国報道機関の活動を統制するなど、戦争の真実が国民に知られないよう躍起になっている。

プーチン大統領の暴走を阻止できるのは、政権内部のクーデターと国内の反戦運動だが、政権の亀裂は現実的でない。国内の反戦世論が今後どう広がるかを探った。(中略)

「プーチンはエリートの間で支持を失っている」
2014年にロシアが無血でクリミアを併合した時、国民は陶酔状態となってプーチン支持に結集した。しかし、8年後のウクライナ戦争は凄惨な市街戦となり、エリートや知識層の間で動揺が広がっているようだ。

著名な社会学者、オリガ・クリシュタノフスカヤ氏は、「プーチンはエリートの間で支持を失っている。政権幹部の忠誠心にも陰りが出始めた。情報源をテレビからネットに切り替える人が増えており、誰もが真実の情報を求めている」と分析した。

ロシアは口コミ社会で、犬の散歩や台所の会話で、人々は情報交換し、激しい議論を展開しているという。

欧米が発動した過去最大の経済制裁も今後、庶民の生活を脅かし、生活水準低下を招くのは必至だ。生活苦も反戦機運を高める要素となる。

社会学者のグリゴリー・ユーディン氏は「メドゥーサ」のインタビューで、「反戦デモに参加すれば、脳震盪(のうしんとう)を起こすほど殴られたり、刑務所で下着を脱ぐよう命じられたり、前科一般として就活が難しくなると警告される」としながら、「ウクライナへの電撃戦が失敗したのは明らかだ。ロシア側はすでに大量の死傷者を出し、焦ってクラスター爆弾を使用するなど非人道的攻撃をしている。ウクライナに親戚を持つロシア人も多く、無謀な戦争への反発が高まっている」と述べた。

「ロシアの歴史上、最も無意味な戦争」(同氏)とされるウクライナ戦が長引くほど、ロシア社会の反戦機運も高まる可能性がある。

戒厳令を敷けば無期限の「戦時大統領」に?
ロシアの今後の方向としては、プーチン政権が反政府運動を鎮圧し、外国との交流を制限する「要塞」化のシナリオが有力だ。

頑固なプーチン大統領は、ウクライナ軍の抵抗や欧米の制裁がいくら強くとも、ウクライナの分割・解体という最終目標に向けて突き進むだろう。停戦や撤退は敗北を意味し、政権基盤を揺るがすことになる。

プーチン氏にとって、政権のサバイバルは至上命題であり、国内の反戦論や国際社会の制裁に対抗し、戒厳令を導入する可能性もある。インターネットやSNSを遮断し、国際関係を制限し、総動員令を敷いて危機突破を図るというシナリオだ。

戒厳令を発動する場合、2024年3月に実施予定の大統領選も中止されよう。プーチン氏は「戦時大統領」として強権体制を維持、強化することになる。【3月19日 名越健郎氏(拓殖大学海外事情研究所教授)Newsweek】
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なお、前出のような世論調査数字については、どこまで信頼できるものかは疑問もあります。

****ロシアで「プーチン支持率70%超」報道の胡散臭さ 実際のところはどれくらいなのか?****
ロシアで「プーチン支持率70%超」報道の胡散臭さ 実際のところはどれくらいなのか?(中略)

筑波大の中村逸郎教授(ロシア政治)に訊いた。(中略)
「ロシアには世論調査を行う会社が複数ありますが、いずれも政府系です。調査方法は対面か電話ですので、調査の対象に選ばれたロシア国民にとっては、自分の名前や住所、連絡先などの個人情報を抑えられているという不安があります。この時点で、公正な世論調査は期待できないと考えるべきでしょう」(中略)

結局のところ、支持率70%とか10%という数字も信じられないが、正確なパーセンテージも分からない。
ひょっとすると50%かもしれないし、30%かもしれない。何しろ今のロシアでは、国民が正直に支持や不支持を回答し、それを正確に集計して発表する世論調査は存在しないからだ。

テレビで「戦争反対」
ただ、プーチン大統領の支持率がどんどん下降していることだけは間違いないという。

今後、プーチン政権の支持率がどれほど下がるのかを考える際、中村教授は「ロシア国営テレビの職員が放送中に反戦を訴えたことが世界中で注目されました。あの影響は大きい可能性があります」と言う。(中略)

「指摘したいのは、特に農村部への影響です。農村の高齢者はインターネットに触れていないので、ウクライナ侵攻に関する知識はそれほどなかったはずなのです。ところが、この『ブレーミヤ』という番組は、喩えて言うならNHK総合の『NHKニュース7』(毎日・19:00)や、『ニュースウオッチ9』(平日・21:00)といった番組以上の影響力を持っているのです。農村部の高齢者には、毎晩、必ず『ブレーミヤ』を見て寝る、という人も少なくありません。彼らは今、『何が起きたのか』と驚き、情報収集を行っているはずなのです」(同・中村教授)(後略)【3月23日 デイリー新潮】
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【長期的には隠せない事実】
国営テレビでの1回だけの反戦メッセージにそれだけの効果があるかは疑問ですが、前述のようにいずれ“不都合な事実”は明らかになります。そのときどのような反応が起きるのか・・・現段階ではわかりません。

****ロシア軍死者、秘密裏に移送か…白いカーテンで覆われた車両がベラルーシに次々到着****
20日付の英紙サンデー・テレグラフは、ロシア軍がウクライナで戦死した自国兵の遺体を極秘裏にベラルーシに移送している可能性があると報じた。被害の実態を秘匿するためとしている。
 
これに先立ち、米政府系「ラジオ自由欧州・ラジオ自由」は、ベラルーシ南東部に夜間、次々と到着する露軍車両だとする映像を公開した。車両の窓は中が見えないように白いカーテンで覆われ、側面に赤十字が記されていた。
 
露軍の死者数を巡っては、露政府が2日、498人と発表した一方で、ウクライナ側は約1万5000人と主張している。

ロシアでは、ソ連崩壊直後の第1次チェチェン紛争で戦死者が相次ぎ、兵士の母親らが反戦デモを繰り広げた過去がある。プーチン政権が国内の動揺を抑えるため、戦死者の扱いに神経をとがらせている可能性がある。【3月21日 読売】
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対ロシア制裁を有効に遂行するために、道義的に問題のある国家との関係を改善することは許容されるのか?

2022-03-22 23:24:32 | 民主主義・社会問題
(ベネズエラの首都カラカスで開かれた集会で演説するニコラス・マドゥロ大統領【3月22日 WSJ】
対ロシア制裁を維持していくために、この強権支配への制裁を緩和することは妥当か?)

【ベネズエラ産原油の輸入禁止の緩和をめぐるマドゥロ政権との交渉】
ロシア軍のウクライナ侵攻の衝撃は思いがけない方向に変化をもたらしています。

そのひとつがアメリカとベネズエラの関係。
チャベス前政権時代からの対立がありますが、周知のようにベネズエラの強権支配を続ける反米左派のマドゥロ政権と、これを何とか引きずりおろしたいアメリカは厳しく反発しあい、アメリカはベネズエラにいろいろ画策し、厳しい制裁を課してきました。

ベネズエラ産原油は禁輸とされており、対ロシア制裁で注目されているSWIFT(国際銀行間通信協会)からもべネズエラは排除されています。

しかし、ウクライナ情勢に関する対ロシア制裁でロシア産原油の禁輸が実施されたことで、アメリカにとってベネズエラの石油がこれまでと異なる意味合いを持つようになっています。

****米、ベネズエラと数年ぶり高官級協議 ロシア巡る思惑も****
米国はベネズエラ産原油の輸入を禁止する制裁措置を緩和する可能性を巡りベネズエラと高官級協議を数年ぶりに開いたが、合意に向けた進展はほとんどなかった。5人の関係筋が明らかにした。米国はベネズエラに対し、同盟関係にあるロシアから距離を置くよう促したい考え。

関係筋によると、5日にベネズエラの首都カラカスで開かれた協議には米国から国家安全保障会議(NSC)の西半球担当シニアディレクター、フアン・ゴンサレス氏とジェームズ・ストーリー・ベネズエラ担当大使が出席し、ベネズエラ側はマドゥロ大統領とロドリゲス副大統領が参加した。

米政府側は今回の会談について、ウクライナ侵攻を命じたロシアのプーチン大統領から距離を置く用意がベネズエラ側にあるかどうかを見極める好機だと捉えていた。

また、米国はロシア産原油の禁輸措置を発動した場合の代替調達先を確保したい考え。ベネズエラは米国の制裁が緩和されれば、原油輸出を増やす可能性がある。

ホワイトハウス、米国務省、ベネズエラの通信情報省はコメントを控えた。

関係筋によると、会談で米代表団は、自由な大統領選の実施や外資系企業の生産・輸出を促進する形での石油業界改革についてベネズエラ政府の確約を求め、公式にロシアのウクライナ侵攻を非難するようにも促した。マドゥロ氏はウクライナ侵攻を擁護する立場を示してきた。

この見返りとして、ベネズエラに国際送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)の一時的な利用を認める方向での検討を提案したという。

マドゥロ大統領は、ベネズエラ産原油禁輸の全面解除や、自身を含む幹部に科された制裁の撤回のほか、国営ベネズエラ石油(PDVSA)の米子会社シトゴ・ペトロリアムを政府管理下に再び置くことを求めた。

米側はフォローアップ会議の開催に合意したが、日程は設定されていない。【3月7日 ロイター】
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経済崩壊しているベネズエラ・マドゥロ政権にとっては願ってもないチャンスでしょう。
ただ、“米国はベネズエラに対し、同盟関係にあるロシアから距離を置くよう促したい考え”“公式にロシアのウクライナ侵攻を非難するようにも促した”とのことですが、これまでマドゥロ政権を支えてきたロシアを“切る”ことは難しいでしょう。

****ベネズエラ大統領、対ロシア制裁を拒絶=「必要な物、何でも売る」****
南米ベネズエラのマドゥロ大統領は2日、テレビ演説で「われわれは(ウクライナに侵攻した)ロシアに対する制裁を拒絶する。ロシア国民の経済的自由の権利を擁護する」と表明した。独裁色を強める反米マドゥロ政権は西側諸国の厳しい制裁対象となっており、ロシアへの依存度を強めている。
 
マドゥロ氏は「ロシアとの通商関係を維持し、必要とする物を何でも売る用意がある」とも強調した。ただ、ベネズエラはマドゥロ政権の失政などが原因で経済が破綻し、極度の物資不足に陥っている。
 
さらにマドゥロ氏は、ロシア軍の侵攻がウクライナの核武装を阻止するための自衛措置だったと、ロシアのプーチン大統領と同様の主張を展開。制裁は西側諸国がロシアを破滅させるために仕掛けた経済戦争だと断じた。【3月4日 時事】 
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それはともかく、“米国人2人解放=原油制裁緩和へ交渉中―ベネズエラ”【3月9日 時事】といった歩み寄りも。
今後は交渉次第といったところでしょうが、人権抑圧を続けるマドゥロ政権への制裁を緩めることにはアメリカ国内の与野党にも反対が根強くあります。

****ロシア原油禁輸の代替 米国とベネズエラ取引の行方は****
(中略)トランプ政権時代には、経済制裁による最大限の圧力をかけマドゥロを退陣に追い込もうとしたが、結局ベネズエラ経済を破綻させただけで、民主化へ向けての何らの成果を上げないまま、バイデン政権に引き継がれた。

バイデン政権では、とりあえず制裁措置はそのまま継続していたが、事態は行き詰まり、打つ手なしの状態であった。(中略)
 
ベネズエラ経済も、昨年10月に現地通貨を100万分の1に切り下げ経済の破綻状態も底を打ち、社会主義的な経済規制を放棄した結果、2021年は経済がプラス成長に転じたと見られている。
 
バイデン政権は、3月8日、ロシア原油禁輸措置に踏み切ったが、もともとベネズエラ原油の禁輸措置による供給不足を同様の重質油であるロシア原油で補充した結果、ロシアからの原油の輸入が倍増した経緯があるので、ロシア原油禁輸により生ずる供給不足をベネズエラ原油で代替することは理にかなっている。
 
また、元海兵隊員や米国系石油企業Citgo社の幹部職員がベネズエラ側に拘束されており、その解放も米国にとっての課題であった。3月8日にベネズエラは、拘束していた2人の米国人(うち1人は5年前に逮捕されていた)を解放し、米国のベネズエラ原油の禁輸の解除を期待して米側のアプローチに応じた。

米国が支援する野党指導者のグアイドも、マドゥロ政権がメキシコでの交渉に復帰するための制裁の部分的緩和を要望し、米国議会内にもこれを支持する動きもあった。マドゥロ政権としてもとにかく経済制裁を緩和することが最優先の要求であった。
 
従って、バイデン政権が、民主化への歩み寄りや米国人の解放などを条件に、ベネズエラ原油の禁輸を解除することにより、ロシア原油禁輸による供給不足に対応することは一石二鳥の極めて効果的な政策であるばかりでなく、マドゥロからも野党側からも歓迎されるものであった。
 
他方、米国議会の共和党強硬派は、こうした措置は独裁政権を強化するものであるとしてマルコ・ルビオ上院議員らを始めとして強く反発しており、民主党の人権重視派のメネンデス上院外交委員長らからも民主化への進展が保証されず、フロリダ州でのヒスパニック票の支持を失うとして批判も出ている。

マドゥロ政権が吹き返しては逆効果
他方、例え禁輸措置が解除されたとしても、ベネズエラの原油生産能力は設備の老朽化やマネージメントの不備で著しく低下しており、増産傾向にはあるがすぐにはロシア原油の供給量をカバーできず、当面の効果は限定的とも見られる。

従って、今回の米側のイニシアティブは、当面石油については市場への心理的効果を狙うと共に、重点は行き詰ったベネズエラ政策を活性化し、民主化へ向けて関与することによりベネズエラ問題に新たな展開をもたらそうという狙いがあるとも思える。
 
マドゥロは、ウクライナ問題ではロシアを明確に支持しているが、とにかく制裁を緩和することが最優先であり交渉に前向きであるが、それは見せかけの手段であって、実質的な民主化に応ずるつもりはないのではないかと疑われる。

従ってこのようなイニシアティブが成功するかは、米国の制裁緩和の条件としてベネズエラ側が公正な選挙の実施、人権の尊重等でどのような具体的措置をとるかにかかっている。
 
制裁緩和で多少のベネズエラ原油が調達できるとしても、それでマドゥロ政権が経済的にも息を吹き返し、他方、人権侵害は改善されず民主化も進まないのであれば、バイデン政権は国内的にも厳しい評価を受けることになろう。【3月22日 WEDGE Infinity】
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上記は「正論」ではありますが、現実政治は・・・と言う話は後程。

【イラン核合意再建交渉 革命防衛隊のテロ組織指定解除が残された問題】
ウクライナ情勢に影響を受けて動き出したのがイランとの核合意再建交渉。こちらもロシア産原油の禁輸という事態を受けて、イラン産原油が穴埋めの切り札として世界から注目されていることが背景にあります。

交渉の方は、まとまりかけたように見えた時点でロシアからの“横槍”が入り、不透明な状況にもなっていましたが、それもクリアできそうな雲行きです。

****露のイラン核関連事業は制裁対象外 米、核合意妥結へ譲歩姿勢****
イラン核合意の再建に向けた多国間協議をめぐり、米国務省のプライス報道官は15日の記者会見で、ロシアが同合意に沿って参画するイランの核関連事業については、ウクライナ侵攻を受けて発動している対露制裁の対象とはしないと明らかにした。

同協議は妥結間近とされながらも、ロシアが今月に入って自国に科されている制裁の対象からイランとの取引を除外するよう要求したことで停滞。ロシアがこうした除外規定を制裁回避に利用するとの懸念も指摘されていた。

そんな中でバイデン政権は今回、一定の譲歩姿勢を示した格好だ。ラブロフ露外相は同日、米国から「文書での保証」を受け取ったと述べ、協議の進展に前向きな態度をみせた。(後略)【3月16日 産経】
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最後に残っている問題は、イラン革命防衛隊のテロ組織指定解除だとか。

****イラン核合意再建、革命防衛隊のテロ組織指定解除が最後の障害に****
イラン核合意の再建について、複数の外交関係者は、イラン革命防衛隊(IRGC)のテロ組織指定を米政府が解除するかが、交渉の行方を左右するとの見方を示した。

米政府内ではこの問題を受けて核合意再建に反対する声が上がっているほか、IRGCのテロ組織指定解除を公に批判していたイスラエルなどの中東同盟国も反発している。

1年近くにわたる交渉ではほぼすべての意見の対立が解消されてきたが、政府高官らは、この問題でイランとの妥協点を見いだせなければ話し合いが破綻する可能性もあると述べている。

米政府はIRGCが数百人の米国人を殺害したと指摘しているほか、エリート部隊のゴドス軍は中東地域の代理組織やシリアで戦った親イラン勢力向けに兵器などを提供している。IRGCは弾道ミサイル関連のプログラムや、人権侵害疑惑を理由に、長年にわたって米政府から制裁を受けていて、2017年には対テロ制裁リストに加えられた。

米政府高官らによれば、ジョー・バイデン大統領や側近の多くは判断を先延ばしにするのではなく、イランと合意を結んでその後に改善に努めていくことの方がいい選択だと考えている。

ホワイトハウスはまた、イランの核開発プログラムを制限する合意が、中東地域に安定をもたらすカギとなり、これによって政府も中国やロシアに専念することが可能になるとみている。【3月22日 WSJ】
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【レアルポリティーク 道徳やイデオロギーを考慮するよりも、現実的なニーズに基づいて国際関係に携わる政治手法】
ベネズエラにしても、イランにしても、民主主義・人権を踏みにじる“ならず者国家”として、これまでアメリカが厳しく批判してきた国。ウクライナ情勢をめぐる対ロシア戦略の一環とはいえ、そういう国家への批判・圧力を緩めていいのか?・・・という疑問・批判は当然にあります。

話は“道徳やイデオロギーを考慮するよりも、現実的なニーズに基づいて国際関係に携わる政治手法”の是非という問題になります。

****ウクライナ危機で復活、「現実政治」の時代****
米国はロシアの脅威に対抗するために、好ましくない政権と良好な関係を築くかどうかを判断する必要がある

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに軍事侵攻した結果、冷戦時代のフレーズが方々で聞かれるようになった。モスクワとの緊張の高まり、西側軍事同盟の新たな結束、国防費の増加、さらには核戦争の可能性を巡る一抹の不安などだ。

さらに最近耳にするのがこの言葉だ。米国は今や、レアルポリティーク(現実政治)の時代に戻るべきかどうかを判断する必要がある。すなわちロシア(ソ連)というより重大な危険に立ち向かうため、道義に反する政権と嫌々ながら良好な関係を築いていた頃のことだ。

米バイデン政権は、ベネズエラやサウジアラビア、イラン、独裁的な一部の欧州諸国との関係において、次第にそのような選択に直面しつつある。さらに現在、(冷戦時代と同様に)それにも増して米国に大きくのしかかる問題は、ロシアの脅威を相殺するために、政策に懸念のある中国との関係改善に乗り出すべきかどうかだ。

プーチン氏のウクライナでの容赦ない猛攻とさらに踏み込みかねない姿勢が、国際社会の関係に長期的シフトをもたらすことが明確となり、こうした疑問は次第に表面化していくだろう。世界はプーチン大統領を支持するのか反対するのかという選択の時期に直面し、一方でエネルギー・食糧・技術の既存生産パターンを再編する必要に迫られている。

この変わりゆく状況の中、米国には新旧を問わず友人が必要だ。その友好的な関係を確保し、維持するために進んで払う代償を見直さないといけない。

そこに作用するのがレアルポリティーク、つまり道徳やイデオロギーを考慮するよりも、現実的なニーズに基づいて国際関係に携わる政治手法だ。民主主義の価値観に忠実か、人権を尊重しているかについては見て見ぬふりをすることをいとわず、少なくともそうした懸念をあまり重視せずに、より大きな脅威に力点を置く一種の冷血さを伴う。

半世紀前には、共産主義の巨頭であるソ連の核武装がもたらすとされた人類の危機に立ち向かう必要性が、このような決断を正当化した。

その必要性に突き動かされた米国は、中南米の軍事独裁者や中東の非民主的な君主制国家、フィリピンの強権的指導者、パキスタンの軍部主導政権と次々に良好な関係を築いた。また米国は冷戦時代の早い段階で、ソ連の脅威に対抗する必要性から、日本とドイツの第2次世界大戦中の罪を見過ごした上で、世界のパワーバランスをより好ましい形に作り上げようとした。

とはいえ、それらの決断が容易だったわけでも、物議を醸さなかったわけでもない。米国が反ソ連合を重視するあまり、軽率もしくは不道徳な選択をしているのではないか、国内の議論や意見の相違を容赦なく抑え込む指導者に近づくことで、長期的な政情不安の種をまき、世界各地の市民の離反を招くのではないかという議論が沸騰した。

こうした議論は1970年代終盤に最高潮に達し、当時のジミー・カーター大統領率いる政権は、米国の外交政策において、人権を支持することが地政学的優位性を目指すことと同様に重要な位置づけになると判断した。

時を経て現在、同じような苦渋の選択がバイデン政権に新たな形で突きつけられている。米国はロシア産原油の禁輸が拡大した場合の経済ショックを緩和するため、国際市場でより多くの原油を必要としている。だがその目的が、ベネズエラの独裁者ニコラス・マドゥロ大統領の強権的性質や、サウジアラビアの統治者によるジャーナリスト暗殺についての疑念をのみ込むことを正当化するのだろうか。

世界市場に原油を供給し、他の国際的な混乱の要因を片付けておきたいために、反米・保守強硬派のイラン政権との間で、米国は核合意を急がなくてはならないのか。欧州が結束する必要性は、ハンガリーのオルバン・ビクトル首相の独裁的な傾向を見過ごすことを意味するのか。

ロシアの戦車がウクライナ国境を越えた途端に姿を現し始めた新たな世界秩序は、すでに米国の判断に変化をもたらしている兆候がある。米当局者は突然ベネズエラ政府を訪問した。同国の石油産業に対する制裁解除に向けた協議をするためだ。マドゥロ氏は拘束していた米国人2人を釈放し、自身の政権は野党側との対話を再開すると述べた。
 
バイデン政権はサウジアラビアのかねての要請に応じ、隣国イエメンの反政府勢力フーシ派との戦いを支援するため、相当な数の地対空誘導弾「パトリオット」を供与したとウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は報じている。

一方、米国はイランとの新たな核合意の一環として、イラン革命防衛隊(IRGC)をテロ組織指定リストから外すという物議を醸す譲歩について検討している。

最も重要な問題は、米国が新たな「ロシア-中国枢軸」の出現を防ぐために、中国の行動に対する米国の懸念の一部を留保する用意があるかどうかだ。

中国のイスラム教徒の少数民族ウイグル族に対する扱いや、中国の貿易慣行の一部に対する不満について、口をつぐむ覚悟はあるのか。そのような疑問は冷戦時代に難しい判断を迫ったが、今もそれは少しも容易ではなく、単純でもない。【3月22日 WSJ】
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人権・民主主義の看板をおろしてしまっては、圧政に苦しむ世界各地の人々の希望を打ち砕くことになり、何のための外交かという話にもなりますが、さりとて、ときに妥協・調整は必要というのも現実課題でしょう。

ケーズバイケース、程度問題で対処するしかない難しい選択です。

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新型コロナ 欧米では規制を撤廃し「普通の生活」へ 感染爆発の韓国でも「コロナはもう怖くない」

2022-03-21 23:20:54 | 疾病・保健衛生
(政府が21日から新型コロナウイルスのワクチン接種を完了した海外からの入国者を対象とした自宅隔離を免除し、韓国国内の免税店での購入限度をなくすなどの措置で海外旅行需要が増えている中、仁川国際空港第1ターミナルでは20日午前、空港利用者たちが出国手続きを踏んでいた。【3月21日 朝鮮日報】)

【日本 まん延防止等重点措置解除を概ね妥当とするも、依然強い警戒感】
日本の新型コロナ新規感染者は昨日20日が39658人、10万人を超えた2月初旬のピーク時に比べると約4割ほどに減少していますが、その減少ペースはこれまでになく緩慢です。

周知のように、まん延防止等重点措置は今日21日までの期限で全面解除されることになっています。
世論調査ではこの方向を概ね「妥当」としていますが、今後への警戒感もまだ強いようです。

****まん延防止全面解除「妥当」65% 「延長」大幅に上回る 世論調査****
毎日新聞と社会調査研究センターが19日に実施した全国世論調査では、新型コロナウイルス対策で東京など18都道府県に適用されているまん延防止等重点措置が、21日までの期限で全面解除されることについても質問した。「妥当だ」は65%で、「延長すべきだ」の24%を大幅に上回った。「わからない」は10%だった。(中略)
 
今後の身の回りの新型コロナ対策については、「これからもコロナ対策を心がけたい」が77%だった。「少しずつコロナ前に戻したい」は21%にとどまり、「これまでもコロナ対策はしていない」は1%だった。

年代別で見ると、「これからもコロナ対策を心がけたい」は、30代までは60%台だったが、40~50代は74%、60代以上は86%と、年齢が上がるほど高かった。

まん延防止措置がすべての地域で解除されるのは約2カ月半ぶり。政府は解除基準を緩和するなど、経済活動の拡大に軸足を移そうとしているが、感染防止を重視する世論は根強いようだ。(後略)【3月19日 毎日】
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なお、日本では3回目ワクチン接種が遅れていますが、“ワクチンの3回目の接種率について、14日時点で30・1%となり3割を超えたことを明らかにした。 日本はアメリカの接種率を追い抜き、G7の中で最下位を脱出した形となった。”【3月15日 FNNプライムオンライン】とのこと。

【アメリカ ニューヨーク市長「我々は戦いに勝った」】

3回目の接種率で日本にも追い抜けれたアメリカは、感染状況はピークアウトした状態で通常生活に戻りつつあり、3月4日時点でニューヨーク市長からは“勝利宣言”も。

その後はアメリカのコロナ関連ニュースは目にしていません。インフレやウクライナが問題になるなかで、コロナはもはや“過去の話題”になったような感も。

****米CDC、マスク指針を大幅緩和 国民の大半が着用不要に****
米疾病対策センターは25日、新型コロナウイルス対策のマスク着用指針を大幅に緩和し、国民の大半に対して学校など屋内の公共の場での着用勧告を解除した。
 
CDCのロシェル・ワレンスキ所長は電話会見で、「現在は新型ウイルスから自身とコミュニティーを守る多くの手段があり、国として以前より強い位置にいる」と説明した。
 
CDCは、マスク着用が推奨される地域を判断する基準を改訂。これまでの指針は各地域の新規感染者数に基づいたもので、米国土の95%が感染リスクの高い地域とされ、マスク着用勧告の対象となっていた。
 
だが新たな基準として入院患者数や病院の病床数が追加されたことから、今後は米人口の70%以上が住む地域でマスク着用勧告が解除される。対象地域では学校でも着用勧告が解除されるが、交通機関では引き続き着用が推奨される。 【2月26日 AFP】
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****バイデン氏、新たなコロナ対策表明 陽性なら直ちに無料錠剤配布****
バイデン米大統領は1日の一般教書演説で、国民が薬局で新型コロナウイルス検査を受け、陽性であれば直ちに無料で錠剤タイプの抗ウイルス薬を受け取ることができるようにする新たな取り組みを開始したと表明した。

バイデン氏はこれらの薬には世界のどの国よりも多くの注文を出していると述べ、ファイザーが3月に100万錠、4月にはその倍以上の錠剤を米国に提供すると付け加えた。ファイザー製の錠剤は入院に至る可能性を90%減らすという。

ホワイトハウスによると、バイデン政権は2日、新型コロナに対する国家準備計画を発表し、「安全に前進し、よりノーマルな日常に戻る」方策を示すという。

演説では、新型コロナとの闘いで米国が成し遂げた進歩に言及しつつ、米国民は新たな変異株に備えなければならないと警告。「新しい変異株が現れないとは約束できない。しかし、その場合に備えてわれわれが全力を尽くして準備することを約束できる」と述べた。

米国は現在、新しいワクチンを数カ月や数年ではなく、100日以内に展開できる状態だとした。【3月2日 ロイター】
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****NY市長「我々は戦いに勝った」「街を再開する時だ」…ワクチン証明提示もマスク着用も原則解除へ****
米最大都市のニューヨーク市は4日、新型コロナウイルスの新規感染者数や入院患者数が減少したことを受け、7日から飲食店や劇場、ジムなどでのワクチン接種証明の提示義務や、公立学校でのマスク着用義務を原則解除すると発表した。

証明の提示義務はなくなるが、飲食店などが独自にルールを定め、利用者に証明提示やマスク着用を求めることもできる。学校では、まだワクチン接種ができない5歳未満の子供がいる教室ではマスク着用が引き続き必要となる。

エリック・アダムス市長は4日の記者会見で、「我々は戦いに勝った。街を再開する時だ」と語り、市民生活の正常化と経済回復に期待を示した。【3月5日 読売】
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【規制をほとんど廃止する独仏】
感染状況が改善しているフランスも、規制のほとんどを撤廃しています。

****フランス 感染状況が改善“コロナ規制”ほぼ撤廃**** 
フランスで新型コロナウイルスの感染状況が改善し、14日から飲食店などでワクチンの接種証明の提示が不要になるなど、規制がほぼすべて撤廃されました。

フランスではこれまで、飲食店や映画館などの利用にワクチン接種の完了を証明する「ワクチンパス」の提示が義務付けられていましたが、運用が終了し、14日から提示は不要となりました。
また、公共交通機関などを除き、屋内でのマスク着用義務もなくなり、規制がほぼすべて撤廃されました。

飲食店の客「非常に良いことで気分が良い」「本当にうれしい。(日本語で)普通の生活、やっと戻った」

フランスの1日あたりの新規感染者数はことし1月には50万人を超える日もありましたが、現在はおよそ6万人まで減少しています。【3月15日 日テレNEWS24】
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ドイツでは感染状況は高止まりしていますが、それでも行動制限の大半を撤廃しています。

****新規感染20万人台の日もあるドイツ、行動制限の大半を撤廃****
ドイツ政府は20日、新型コロナウイルス対策として実施してきた行動制限の大半を撤廃した。飲食店でのワクチン接種証明の提示などが不要となる。公共交通や医療機関でのマスク着用義務などは継続される。
 
18日に改正感染症予防法が成立した。国内16の州の中には、移行期間の4月2日まで制限措置を延長する州もある。
 
新規感染者は20万人台に達する日もあるが、ショルツ政権は医療逼迫ひっぱくは抑えられると判断。2月から未接種者の小売店利用を認めるなど規制を段階的に緩和してきた。【3月21日 読売】
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【韓国 感染爆発でも規制緩和 「コロナはもう怖くない」の空気 賑わい戻る空港】
一方、1日の新規感染者が17日には60万人(日本の人口で考えると140万人超)を超える感染爆発に見舞われた韓国、さすがにピークは過ぎたようです。

****韓国の新規コロナ感染者が約20.9万人に減少 死者は過去2番目の多さ***
韓国の中央防疫対策本部は21日、この日午前0時現在の国内の新型コロナウイルス感染者数は前日午前0時の時点から20万9169人増えたと発表した。前日(33万4708人)より12万5539人少なく、10日ぶりに30万人を下回った。重篤・重症患者は1130人、新たな死者は329人だった。

新規感染者数は17日に62万1281人と最多を記録した後、4日連続で減少している。この日は1週間前の14日(30万9779人)に比べても10万610人少ない。(中略)

だが、21日から来月3日までの2週間、新型コロナ防疫措置の私的な集まりの人数制限が従来の最大6人から最大8人に緩和されることから、感染者数が再び増える可能性もある。

一方、新たに報告された死者は329人で、前日より2人多かった。1日当たりの最多を記録した17日(429人)に次ぎ、過去2番目に多い。死者の累計は1万2757人になった。(後略)【3月21日 聯合ニュース】
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上記記事にもあるように、感染爆発状態のさなかに規制緩和の方向に踏み出しています。
そのような政策転換があまり問題にもなっていないのは、国民のコロナへの不安感がかなり薄れていることが根底にあるようです。

****韓国・感染者“世界最悪”1日60万人でも規制緩和 「全く怖くない」の声****
新規感染者数が世界最悪の1日60万人となっている韓国。感染爆発の中でも、21日から更なる規制緩和に踏み切りました。めざまし8が現地で取材すると、聞こえてきたのは「コロナはもう怖くない」という声。

感染者数60万人超え…韓国政府「逆に規制を緩和する」
(中略)100万人当たりの新規感染者数を7日間平均で見てみると7844人で、日本の約20倍に当たります。しかし、それでも韓国政府が発表したのは、「逆に規制を緩和する」という決断でした。

担当者:我々が国民に課してきたソーシャルディスタンスのルールでは限界だ。社会的・経済的負担が大きすぎるし、オミクロン株を抑えられていない。

飲食店の規制緩和をみると、東京は3月22日から滞在は原則2時間以内で1テーブル4人まで、認証ない店は、酒類提供は午後9時まで。一方で、韓国の場合は3月5日から、営業時間は午後11時までになっており、3月21日からは最大8人まで可能になります。

さらに、韓国に入国する時には、3回目のワクチンを接種済みか、2回目接種から14日以上180日以内という人は、これまで必要だった7日間の隔離期間は3月21日から免除される内容もあります。

感染拡大が続いているにも関わらず規制を緩和する韓国。なぜこうした決断に踏み切ったのでしょうか。現地を取材すると、韓国国民の新型コロナに対する意識の変化が見えてきました。
「全く怖くない」現地の人々は“恐れナシ”

ディレクター:きょうは日曜日の午後ですが、休日ということもあって人通りは多いです。
大通りには溢れかえるほどの若者の姿が。ほぼ全員がマスクをしているものの、ソーシャルディスタンスに気をつける様子はありません。人気のピザ店でも。(中略)

韓国に留学中の学生:人も多くて、全然周りも風邪みたいに扱うようになってるので、コロナをそこまで気にしない感じですね。気を使っていてもかかるものだという認識に変わっています。

感染病って感じじゃなくて、風邪という感じ?
韓国に留学中の学生:そうですね。はい。

これは週末の夜に、留学生が撮影した映像。感染者が増加している状況にあっても、人の多さに変化はなかったといいます。(中略)

さらに、3月に新型コロナに感染したという、韓国在住の日本人男性も。
韓国在住の会社員 だいさん:日本にいた時は、感染者増えた時は、みんな出かけるの控えようとかってなってたと思うんですけど。こっちではそんなに変わってないのかなって。

そして、現地の人に聞いてみても。
会社での感染は恐れていない?
男性:まったく怖くないです。

感染への恐怖は?
男性:はい、私はないです。まだ若いから。

感染が爆発している中でも、恐れを感じていないという韓国の人たち。さらに、規制緩和についても。
女性:6人か8人かは、そんなに大きな意味はないと思います。外食で6人はすごく少ないし、結局6人といっても別のテーブルを増やして、それ以上で集まっていますから。

韓国に留学中の学生:私はもう全然いいんじゃないかなと思います。韓国は日本に比べてワクチン接種が早い、早くて打った人も多いってのがあって、重症化する人も少ないってなってるので、周りの意識とかもだいぶ変わってきていいんじゃないかなと思います。(後略)【3月21日 FNNプライムオンライン】
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「ステルスオミクロン」と呼ばれる「BA・2」の割合が急速に高まっていることも不安要素とされています。

****コロナ流行ピークずれ込む可能性も 「ステルスオミクロン」急増=韓国当局****
韓国防疫当局は21日、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」が主流となっている中、「ステルスオミクロン」と呼ばれる「BA・2」の割合が急速に高まり、流行のピークが予想よりずれ込む可能性があるとの見通しを示した。

鄭銀敬(チョン・ウンギョン)疾病管理庁長はこの日、中央防疫対策本部の定例会見で「オミクロン株のうちBA・2の占める割合が増加し、迅速抗原検査の陽性者を感染者と認めるようになったことで流行のピークまでの期間が長くなり、規模が大きくなる可能性がある」と述べた。

また、感染事例のほとんどがオミクロン株と確認される中、遺伝子分析で感染力がより強いとされるBA・2の検出率が市中感染者で41.4%、海外からの入国者で56.9%に増加したと説明した。(後略)【3月21日 聯合ニュース】
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いずれにしても規制緩和の方向に踏み出し、入国時の規制も緩和されたことで、空港などでは賑わいも戻りつつあるようです。

****接種終えた入国者は隔離免除 空港に久々の活気=韓国****
韓国で新型コロナウイルスワクチンの接種を終えた海外からの入国者に対する隔離義務が解除された21日、仁川国際空港では、負担なく海外に行けることを喜ぶ市民らの姿がみられた。

韓国政府は同日から、国内外で新型コロナのワクチン接種を完了して接種歴を登録した海外からの入国者に対し、7日間の隔離義務を免除する。ワクチンの2回目接種(米ヤンセンファーマ製は1回目接種)からの経過日が14日以上かつ180日以内の人と、3回目接種を終えた人を接種完了者と認める。

新婚旅行に向かう30代の夫婦は、「(帰国後)自主隔離をすることになっても受け入れて行くつもりだったが、今回隔離義務が解除され少し楽になり、負担なく旅行に行くことができるようになった」と喜んだ。

海外出張に向かうため空港を訪れた40代の会社員は「以前は隔離期間のために米国出張を取り消したこともあったが、(今回の措置で)多くの負担が確実に減った」と話した。

海外から韓国に戻ってきた人たちも隔離義務を解除した政府の措置に満足げな様子だった。(中略)

空港の出発ロビーは依然として閑散としていた。搭乗手続きカウンターの多くは運営されておらず、順番待ちをする利用者も見当たらなかった。

業界関係者は海外旅行の需要について、次第に増えてはいるものの、コロナ禍以前の水準に戻るには時間がかかるとみている。今月1日から20日までの仁川空港の1日の平均利用者数は1万2565人で、20万〜23万人に達していたコロナ禍以前と比べ5%程度となっている。

燃料価格の上昇や、新型コロナウイルスのオミクロン株の1系統で感染力が強いとされる「BA・2」が一部の国で流行していることも気がかりだ。

海外旅行が本格的に増え始めるのは4〜5月という見方もある。
仁川国際空港公社の関係者は「航空会社も航空機の運営・整備の日程があり、航空便を急に増便するのは難しい」としながら、「早ければ4月第2週からは(増便など)変化があると思う」と話した。【3月21日 聯合ニュース】
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個人的には、迅速なワクチン接種などやるべきことをやらずに、「コロナ、コロナ」と大騒ぎするだけ、自粛一辺倒の日本の風潮・施策には「なんだかな・・・」って感じを持っていますので、「ウィズコロナ」に踏み出している欧米・韓国の状況がうらやましい・・・というのが本音です。

もちろん不安要素はありますし、実際にも今後も感染拡大の場面はあるのでしょうが、「そんなこと言ってたら、いつになっても・・・」って感じも。

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アフガニスタン  改善しない生活状況、女性の権利侵害 タリバン、「掃討作戦」開始 市民監視目的?

2022-03-18 22:52:24 | アフガン・パキスタン
(タリバンによる「掃討作戦」 捜索対象の住宅の前に集まるタリバンの戦闘員ら (8日、カブール)【3月18日 日経】)

【相変わらずの経済混乱・生活苦、女性への人権侵害】
国際関係ニュースがウクライナ情勢一色になっているなかで、その他の地域のニュースは目にする機会が減っていますが、今回はタリバン支配のアフガニスタンに関するニュースをいくつか。

アフガニスタンについては、2月13日ブログ“アフガニスタン 政治混乱・干ばつ・食糧難・医療崩壊・・・「世界最大の人道危機になりつつある」”でも取り上げましたが、危機的状況は変わっていません。

上記ブログでは“金欠で子ども売る家族”に関する記事も触れましたが、売る子供がいなければ自分の臓器を・・・

****アフガンで広がる貧困 臓器売買も横行 タリバン支配から半年****
アフガニスタンでイスラム原理主義勢力タリバンが首都カブールを制圧して、15日で半年となった。タリバンが政権を奪取して以降、国内経済は事実上破綻状態となり、貧困が急速に拡大している。

農村部では困窮した住民による臓器の売買も横行。「人道的危機と経済的崩壊」が同時に押し寄せ、安定には程遠い状況が続いている。

2400万人に支援必要
「私はやりたくないが、臓器を売って生活をする人も多い」。西部バドギス州のハビビさん(45)は産経新聞通信員の取材に困窮を打ち明けた。

ハビビさんによると、腎臓1つの値段は約1300ドル(約15万円)程度。これまでも臓器売買はあったが、困窮が拡大して臓器を売ろうとする人が絶えず、〝価格〟は下落しているという。複数メディアは、住民が子供を人身売買業者らに売って生活費を得る様子も報じた。

タリバンの政権奪取後、国家予算の8割を占めた海外援助が停止されたことに加え、長年続く干魃(かんばつ)の影響で経済は非常に厳しい状況だ。国連アフガニスタン支援団(UNAMA)は、今年は人口の約6割に当たる2400万人以上に人道支援が必要になるとの見通しを示した。昨年と比べて600万人増えるという。

東部ラグマン州のムルザさん(50)は「(タリバンが政権を握って以降)戦闘は確かに減ったが、貧困をどうすればいいのか」と語る。電気が使えるのは1日のうち3時間程度。警備員だったムルザさんも失業し、家財道具を売りながら糊口をしのいでいる。

女性への人権侵害続く
タリバンは昨年8月15日にカブールを制圧して政権を掌握した。9月には暫定政権を立ち上げ、支配体制を固めている。

ムルザさんが語るように国内の治安には改善がみられる。国連によると、昨年8月19日〜12月31日の間に起きた銃撃戦など治安に関する事件は985件で、前年同期比で91%減少した。タリバンと政府軍の戦闘がなくなったことが影響しているとみられる。

一方、女性に対する人権侵害は依然として深刻だ。タリバンは女性の就学を制限し女性の映画出演を禁止。「男性の親族が同伴しない限り、女性は公共交通機関を利用してはならない」との命令も出している。

政権批判にも神経をとがらせ、ジャーナリストの拘束や暴行も相次ぐ。

これに対し、欧米各国を中心に国際社会は暫定政権への厳しい姿勢を貫く。アフガンの豊富な天然資源に着目する中国を含め、暫定政権を正式な政府として承認した国はない。

アフガンの政治評論家、サミム・カイバル氏は「凍結資産の解除や国際援助の再開はなかなか見込めず、国内の貧困は拡大していくだろう。国際社会は暫定政権を通さずに市民に支援が行きわたる方法も考えていくべきだ。そうしなければ市民の餓死が増えるだけだ」と話した。【2月15日 産経】
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女性の就学については、大学は種々の制約のもとで女性の就学を認めることにはなっていますが、現実問題としては「再開」とは言い難い状況です。

****主要大学再開、女子学生まばら=アフガン****
アフガニスタンで26日、イスラム主義組織タリバンが昨年8月に政権を奪取してから初めて、首都のカブール大学など主要大学が再開された。しかし、タリバンの弾圧を恐れ、登校する女子学生の姿はまばらだった。教員の国外脱出も相次ぎ、講義が成立するかどうかも危ぶまれている。【2月26日 時事】 
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【規制の押しつけ 今はそれほど強制力は表面化していなくても、今後は・・・】
教育を初めとして女性に対する制約が多いのは事実ですが、一方でタリバン側も国際的な視線を気にしてでしょうか、旧政権時代のように“力づくで何が何でも”といった姿勢でもないようです。

下記は、ガニ政権崩壊時に遅ればせながら自衛隊機を派遣したもののいろんな問題から“唯一の退避日本人”となり、それから3カ月後に再びカブールに戻って住み続けると決めた安井浩美氏のリポートの一部です。

****唯一の邦人退避から3カ月、カブールに戻って住み続けると決めた タリバン支配下の生活―安井浩美のアフガニスタン便り(1)****
(中略)
 ▽音楽は禁止、とても多い女性への規則
家事の中で洗濯が一番好きな私。というのもカブールの気候は、乾燥していて気持ちが良いからだ。日本にはない真っ青の青空もいい。アマゾンミュージックで1980年代のポップスをスピーカでつなげて聞きながら洗濯をバルコニーに干すのが日課だった。

宗教音楽以外の楽曲を禁じるタリバン政権になってからはそれもできなくなった。家の中では聞いているが、外では聞くことができない。
 
ほかにも、おしゃれ好きにはつらいことが多い。体の線を隠すためにブルカと呼ばれる頭からすっぽり覆うマント、もしくは、アフガンではヘジャブと呼ぶ黒色の足首まである黒いコートの着用が義務づけられたため、すてきな服を着ても人から見てもらえないのだ。
 
女性に対する規則は挙げればきりがなく、欲求不満になっている自分に気づく。ただ、あれもこれもいろんな規則がある割には、強制力が今のところはあまりなく、今までとあまり変わらぬいでたちで、街を闊歩(かっぽ)している若い女性も見かける。
 
いつまでこの状態が続くのか気が気でない。男性はというと、以前のようにしゃれた服装でいるとタリバンに嫌がらせを受けるので、多くが民族服のペラン・トンボンを着用している。(後略)【3月12日 共同】
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まさに“いつまでこの状態が続くのか気が気でない”というところ。

タリバンに対し声を上げる女性もいるようですが、タリバンからの圧力も厳しく、生命の危機に及ぶことも。

****【現地ルポ】「私たちには夢があった」タリバン政権下で声を上げるアフガニスタンの女性たち****
飛び立つ米軍機にぶら下がる人々の衝撃的な映像で、2021年夏に世界の注目を浴びたアフガニスタン。イスラム主義組織タリバンのカブール制圧と米軍の完全撤退で起きた悲劇を、国際社会はもう過去の出来事として忘れているようだ。

しかし実際には市民の生活は悪化の一途を辿っている。米国内のアフガン資産が凍結されたことなどで経済が崩壊し、国民の半分は飢餓に直面しているのだ。

抵抗勢力の戦闘が近く本格化するとの情報が飛び交い、タリバン暫定政権は大規模な家宅捜索などを実施し、取り締まりを強化している。

女性の権利と自由を求めてタリバンに抗議デモをした10代、20代の女性たちもその標的だ。危険を承知でアフガニスタンに留まり、声を上げる女性たちに会った。

●「通りでよく男たちを殴ってたの」
マリアム(24)がカフェに入ってくると、周りの空気が一瞬、揺れる。くっきりとした眉と長いまつ毛に縁取られた大きな瞳、ブラウン系のリップ、礼儀正しさと人懐こさが混じった微笑み。タリバンがカブールを制圧する前まではモデルクラブに所属していたということも頷ける華やかさがある。ベージュのスカーフは、彼女の黒髪だけでなく、秘めた闘志も巧みに覆っているのだ。

「何年か前までは、通りでよく男たちを殴ってたの」と言う。テコンドーの道場に通っていた18歳ごろのことだ。すれ違い様に手や足に触れる男たちが我慢ならなかった。「ちょっと待って」と呼び止め、殴った男に殴り返され、顔が腫れたこともあった。

「私たちには夢があった」。前政権の汚職にはうんざりしていたが、大学でビジネスを学び、「アフガニスタンのビル・ゲイツ」を目指していた。だからタリバンが復活したあの夏、「未来を奪われた」と感じ、いち早く逃亡したガニ大統領ら政治家に怒りが湧いた。

アフガニスタンは多民族国家で、タリバンの主要な構成民族、パシュトゥン人は女性に関して極めて保守的だ。「タリバンはいい人たち」と語るパシュトゥン女性もいるが、タジク人であるマリアムには行動や教育、職業など女性の行動を厳しく規制するパシュトゥンの慣習はなじめない。

友人のラムジア(22)たちが、女性の自由と権利を求めるデモをすると聞いた時、マリアムは「参加しなくちゃ」と思った。

「デモなんて、あばずれがやるものだ」。父はそう言い、弟たちも反対したが、マリアムは振り切った。「ここは私の国よ。女性たちは互いの力が必要で、私にも責任がある」

自分の可能性を試したいと夢に向かって歩いていたのに突然、道を塞がれて止められ、罰せられたようだった。「私たちの罪は何?」。プラカードにそう書いた。

通りで見ていた男たちは「女がやることか」と嫌な顔をした。タリバン兵士に囲まれ、銃を突きつけられたり、催涙ガスを撒かれたりした。それでも女性たちはデモを何度も実行したのだ。

●「抵抗以外に選択肢がない」
(中略)デモ参加者たちは今、追われる身だ。「タリバンのスパイから尾行されているかもしれないから気をつけて」とラムジアはマリアムに忠告する。米CNNテレビのインタビューを受けたラムジアの親友は1月中旬、武装した男たちに自宅で拘束され、2月中旬に解放されるまで行方不明だった。

地元ジャーナリストが人権活動家の話として語ったところによると、北部マザリシャリフでは、タリバンに拘束された複数の女性がレイプされた。事実だったとしても、家族の名誉を重んじる文化の中では被害が公になることはない。不名誉だとして、被害者が肉親に殺されることもあるのだ。

マリアムとラムジアも、タリバンと名乗る男の声で「お前たちを見つけ出す」と脅迫電話を受けた。ラムジアは毎晩、寝る場所を変えている。デモもしばらく中断を余儀なくされたが、女性たちはこれで終わりにするつもりはないという。

「危険なことは分かっている。でも私たちには他に選択肢がないの」と2人は言う。「この国の未来に責任があると思う。もし国を出なければならなくなっても、国外でアフガニスタンのために働きたい」。(後略)【3月18日 舟越美夏氏 AERAdot.】
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【タリバン、治安維持を目的とした「掃討作戦」開始 市民の反対を抑えるため、監視を強めているとの見方も】
タリバンは治安維持を目的とした「掃討作戦」を展開しています。

****タリバン、アフガン人の出国禁止 治安理由に「掃討作戦」開始****
アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンは27日夜、自国民の出国を厳しく制限すると発表した。また、首都カブールなど複数の都市で治安維持を目的とした「掃討作戦」を展開していることも明らかにした。
 
タリバン暫定政権のザビフラ・ムジャヒド報道官は新たな渡航規制について、国外に暮らす多くのアフガン人が「非常に悪い状況にある」とする報告を受けたためだと説明。「政府には国民を保護する責任がある。国民の命が危険にさらされないという保証が得られるまで」出国を制限すると述べた。
 
各国政府や非政府組織の計画したアフガン人の国外退避禁止に加え、自力で出国を試みる家族も「理由」がなければ出入国管理局に止められることになる。また、男性親族を伴わない女性の出国は禁止される。
 
タリバンはまた、カブールなど複数の都市で先週末から「誘拐犯、窃盗犯、強盗犯」を取り締まるため、1軒ずつ民家をしらみつぶしに捜索する「掃討作戦」を開始したと発表。イスラム過激派組織「イスラム国」メンバーの疑いのある6人と誘拐犯9人、窃盗団53人を拘束したとした。
 
カブールの大規模な治安作戦は28日も続いており、欧米が支援していた前政権や米軍をはじめとする駐留軍に協力していた人々は、標的とされることへの警戒を強めている。
 
欧州連合のアンドレアス・フォンブラント駐アフガニスタン大使は、「異なる民族グループや女性に対する脅迫、家宅捜索、逮捕、暴力は犯罪であり、直ちにやめなければならない」「(ウラジミール・)プーチン大統領の戦争があろうが、われわれはあなた方を見ている」とツイッターに投稿した。
 
これに対し、ソーシャルメディアを多用するタリバン当局者のムハンマド・ジャラル氏は、「プーチン氏から欧州を守ることに集中しろ」と返した。 【2月28日 AFP】
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「誘拐犯、窃盗犯、強盗犯」を取り締まるため、1軒ずつ民家をしらみつぶしに捜索する「掃討作戦」・・・深夜突然、武装した大勢に踏み込まれる威圧感は甚だしいものがあります。
“定政権に対する市民の反対を抑えるため、監視を強めているとの見方もある”とのこと。

****アフガン市民をタリバンが監視****
首都で深夜に家宅捜索

アフガニスタンを制圧したイスラム主義組織タリバンが市民の監視を強めている。カブール首都圏では深夜を含め、抜き打ちの家宅捜索を始めた。

女性を対象に、イスラム法に基づく事実上の出国制限の実施を表明した。テロ対策や人材の国外流出の抑止が目的だとみられるが、失業が深刻になるなか、暫定政権への反発が強まっている。

内務省は2月下旬、家宅捜索を始めた。ポーランド出身のジャーナリストの女性によると、カブールの自宅に深夜、自動小銃や対戦車砲で武装した少なくとも20人の要員が突然、押し入った。「家中のものをひっくり返された。一人暮らしで、とても怖かった」という。

女性は後日、タリバンの広報担当がツイッターに投稿した掃討作戦に関する声明を読み、やっと事態をのみこめた。
タリバン側は家宅捜索の目的を、犯罪者の摘発と治安の維持だと説明するが、暫定政権に対する市民の反対を抑えるため、監視を強めているとの見方もある。

住民は不満を募らせている。捜索を受けたカブール市民の一人は、冷蔵庫の上にイスラム教の聖典コーランを乗せていたが、扱いが雑だと要員に叱責された。

別の女性は、家に女性しかいないときに男性ばかりのタリバンの戦闘員が土足で上がり込んできて、食器棚を含め、隅々まで調べた行為に恐怖を覚えたと証言した。

暫定政権は市民の権利を制限している。2月下旬にはタリバンの報道担当が、市民の国外流出を抑える方針を示した。海外に留学する女性は親族の男性と一緒でないと出国できなくなった。イスラム法の解釈が根底にあるとみられる。

報道担当はその後、女性を含めた出国制限は「合法の書類を所持したり招待を受けたりした」人たちには適用しないとツイートした。

タリバン側は、こうした規制が国民を保護するために必要だと主張する。だが、暫定政権の監視下に置かれ、移動の自由も制限された市民の生活は一段と困窮する。国際労働機関(ILO)によると、2021年8月にタリバンがカブールを陥落させた後、50万人以上が職を失った。

暫定政権に抗議する活動に加わる女性は女子校でトルコ語を教えていたが、タリバンの制圧後、失業した。タリバンが女子学生の通学を禁止したためだ。この女性は「タリバンの言うことを聞かないと罰を受ける」と非難する。

「タリバンは私たちの行動、行き先、着る物を含めすべてを統制しようとしている。息が詰まりそうだ」【3月18日 日経】
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旧政権が生まれた内戦の混乱期と異なり、まがりなりも「自由」の空気を経験した現在のカブールなど都市住民、女性に対し「息が詰まる」ようなタリバン支配が受け入れられる余地は小さいように思えますが、そうなるとタリバン側は「力」で・・・ということにも。

そうしたタリバン支配を承認するものではありませんが、危機的な状況に対する人道支援は国際的に行う必要もあります。

****国連、アフガン支援継続を決定 タリバン支配下でも****
国連安全保障理事会は17日、イスラム主義組織タリバンが昨年実権を握ったアフガニスタンで正式な支援活動を継続する決議案を採択した。
 
決議は国連アフガニスタン支援団(UNAMA)の活動期間を1年間更新するもの。活動内容には、女性、子ども、ジャーナリストなど、人道、政治、人権の分野での協力が含まれている。タリバン政権は国際社会で承認されておらず、決議ではタリバンへの言及はなかった。

採決では14か国が賛成し、ロシアが棄権した。
 
決議案を起草したノルウェーのモナ・ユール国連大使は採決後、AFPに対し「UNAMAの新しい任務は、差し迫った人道的・経済的危機に対応するだけではなく、アフガニスタンの平和と安定という包括的目標を達成するために極めて重要だ」と述べた。【3月18日 AFP】
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アメリカ  ウクライナへのロシア軍侵攻でトランプ前大統領復権戦略に逆風?

2022-03-17 23:32:59 | アメリカ
(集会で演説するトランプ前大統領=2021年8月21日、米アラバマ州【3月11日 論座】)

【孤立化するロシアを救うトランプ前大統領の復権】
国境を越えた送金業務の要となる「国際銀行間通信協会(SWIFT)」のシステムからロシアの大手7銀行グループを排除する経済制裁が12日から始まり、また、日米欧の主要7カ国(G7)は11日、首脳声明で最恵国待遇からロシアを排除する方針を発表・・・国連総会は2日、ロシアを非難し、ウクライナからの即時撤退を求める決議案を141カ国の賛成で採択・・・・等々、ロシアの政治的・経済的孤立が進んでいます。

****欧州評議会がロシア追放を決定 国際社会からの孤立鮮明に****
人権問題などに取り組む国際機関「欧州評議会」(本部・仏ストラスブール)は16日、ウクライナ侵攻に及んだロシアを評議会から追放した。欧州評議会は、第二次世界大戦後の欧州で人権や民主主義のあり方を形作ってきた。追放により、ロシアの国際社会からの孤立はより深まった。(中略)
 
欧州評議会は2月25日、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ロシアの同評議会での投票権を一時停止することを決定した。ロシアは3月15日、評議会に脱退を通告。欧州評議会の議員会議は即日、ロシアを加盟国から外すべきだとする意見書を採択し、16日に閣僚委員会が追放を正式決定した。(後略)【3月17日 毎日】
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対米共闘パートナーである中国が「あいまい戦略」をとりながらも、ロシアを“ステルス的に支援”するのでは・・・との見方もありますが、中国とてロシアと心中する気はないですから、その支援にも限度があるでしょう。

こうした流れは予見されていたことであり(にもかかわらずプーチン大統領がなぜこのような全面侵攻を決意したのかは“理屈の上では”解せないところです・・・プーチン大統領のロシアの歴史やウクライナへの“想い”は想像はできますが・・・)、ロシアはウクライナの今後の戦況の如何に関らず、次第に経済的に弱体化し、プーチン大統領の政権維持も困難になり、「大国」としての国際的影響力も薄れていくと推測されます。

ただ、プーチン大統領が今後2、3年ほど踏みとどまることできれば、アメリカでプーチン大統領をリスペクトし、民主主義の大義など関心がないトランプ前大統領が復活し、流れが一気に変わる可能性があります。

****田原総一朗「強気崩さぬプーチンはトランプ政権復活を望むか」****
ジャーナリストの田原総一朗氏は、プーチン大統領がトランプ氏の政権復帰を期待していると見る。
*  *  *
世界中でロシアのプーチン大統領への大批判が巻き起こっている。(中略)

バイデン米大統領は、経済制裁を強化するだけではプーチン氏の姿勢を変えられない、とわかっているはずである。プーチン氏の軍事侵攻を止めるには、軍事力で対抗することだとわかっているが、バイデン氏がそのような姿勢を示せば、米国民から総攻撃を受けてバイデン政権は崩壊するはずである。

さらに、バイデン氏を困惑させているのは、トランプ前大統領の共和党が厳しいバイデン批判を繰り広げていることだ。

プーチン氏が強気の発言を続けているのは、アフガニスタンからだらしのない撤退をするなどバイデン氏が意欲を失ったとしか判断できないため、などと批判されている。

インフレによって米経済が悪化し、バイデン氏の支持率は40%を切っていた。このままでは秋の中間選挙で民主党は共和党に敗れるのではないかとの見方が強まっているが、もし民主党が大敗すれば、それはバイデン政権の崩壊につながり、それを最も期待しているのがプーチン氏であろう。

バイデン政権が倒れれば、トランプ氏が政権を握る。トランプ氏はプーチン氏と大の仲良しだからである。【3月16日 田原総一朗氏 AERAdot.】
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アメリカ世論はウクライナで「プーチンの戦争」に巻き込まれることは望んでおらず、バイデン政権も第3次世界大戦・米ロ核戦争にもなりかねないロシアとの直接的な軍事衝突を起こす考えは今のところありません。

****対露経済制裁85%が支持 米世論調査 軍事行動6割が反対****
ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、米国人の85%が厳格な対露経済制裁措置を支持していることが米ピュー・リサーチセンターによる最新の世論調査で16日分かった。ウクライナへの支援拡大や同国周辺の北大西洋条約機構(NATO)加盟国への米軍の大規模駐留も幅広い支持を集めた。

他方、ロシアとの核戦争のリスクがあっても軍事行動を起こすべきだと考える人は35%にとどまった。回答者の62%が反対しており、露軍との直接衝突や第三次大戦へのエスカレーションを回避したいバイデン米大統領の意向が支持された形だ。世論調査は今月7〜13日に実施され、成人1万441人が回答した。

ウクライナ危機に同盟国と連携して対処することを正しいと考える人は79%。ウクライナ周辺のNATO加盟国への米軍の大規模駐留も77%が支持した。軍事行動や対露経済制裁に関する設問も含め、ウクライナ危機への個別の対処方針の回答傾向に党派的な違いはみられなかった。

ただ、バイデン政権の全般的な対応に関する設問では、民主党支持層の69%が賛成したのに対し、共和党支持層の67%が支持しないと回答、党派的な断裂が明確に表れた。

バイデン氏への支持傾向と相関関係があるといい、侵攻後に聞かれた「危機に際し分断された米国が結束する」(米ブルッキングス研究所のウィリアム・ガルストン博士)との期待は、今のところ実現していないようだ。

バイデン氏の支持率は43%で、就任から1年を迎えた今年1月の41%からほぼ横ばいだった。【3月17日 産経】
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トランプ前大統領はプーチン大統領の軍事進攻を「天才的」とほめそやしながらも、一方で、こうした事態を招いたのはバイデン大統領の弱腰・無能のせいだ・・・と政権批判を行っています。

****米ニュース出演のトランプ前大統領、プーチンへの直接的非難を避ける「ただ気が合うだけ」****
米FOXニュース司会者のショーン・ハニティー氏の番組に現地時間10日にトランプ前米大統領が出演。ロシアのプーチン大統領についてコメントを求められた。

「(ウクライナ侵攻に関して)ウラジミール・プーチンは聡明だと発言したことで、あなたもいささか非難されました」とハニティー氏。「私はメディアの大半の人間よりは多少あなたのことをわかっているつもりです。あなたも彼が悪人だと認めますよね?」

トランプ氏はこの質問を無視し、自分がプーチンを聡明だと言ったのは、分離派が支配する東部ウクライナの地域に戦車を送り込んだことを指していたのだ、と語った。

「私が相手にしていた頃のプーチンとは別人のようだ」と、トランプ氏はかわした。「だが言わせてもらえば、私が相手だったら彼も変わっていなかったはずだ。そもそも私が……巷でジャベリンと呼ぶ対戦車ミサイルを供給した。あれがなかったら、今のようにはいかなかっただろう。あれは戦車を次から次へと叩きのめしている」

トランプ氏が言うジャベリンは議会で承認されたウクライナへの軍事支援の一環で供給されたが、ウクライナのヴォロディミール・ゼレンスキー大統領に無理やりジョー・バイデンの粗探しをさせようとしたトランプ氏は一時的に供給をストップした。これがのちに1回目の弾劾裁判のきっかけとなった。

ハニティー氏はプーチンを非難するようトランプ氏に迫り続け、プーチンへの誉め言葉は本心ではなく、親しい友よりも敵を味方につけておく方が最善だ、という格言から取ったまでだ、という説を展開した。

「そのようにヴラジミールをとらえていたんですよね?」とハニティー氏。「ヴラジミール・プーチンや習近平、金正恩、イランのイスラム法学者といった敵は、そばに置いておく必要があるとお考えだったんでしょう?」

「こういう連中とは気が合った」とトランプ氏は返答した。「すごく馬が合ったんだよ。だからといって、奴らが善良というわけじゃない。ただ、私は彼らのことを理解できるというだけの話だ。おそらく向こうも私のことを理解していただろう。ひょっとすると彼らのほうがよくわかっていたかもしれない。それも結構」

トランプ氏はしばらくこういった話を続けたが、再びハニティー氏が尋ねた。「彼らが悪事を働く可能性については理解していましたか?」

これに対してトランプ氏は、バイデン大統領に侵攻の責任を転嫁する形で答えた。「プーチンはロシアの味方だ。今の状況を見たまえ」とトランプ氏。「これもすべて、我が国の指導者が彼らから蔑ろにされていたせいだ」

ウクライナ侵攻が始まって以来、トランプ氏はバイデン大統領を腰抜けだと叩いているが、自分ならどうやって状況を収めたかについてはお茶を濁している。

トランプ氏はプーチンにとって不利な状況であることをつらつら述べた末に、「事態は良くなる前に悪化するだろう」と述べた。だがその途中で、バイデン大統領は核兵器による壊滅をちらつかせてプーチンを脅すべきだ、とも語った。

「演壇に上がるたび、バイデンは彼らが核保有国だと言うが」とトランプ氏。「我々も核保有国であることを口にするべきだ……我々も戦争は望まないし、ロシアを壊滅させたくはないが、こういう風に話をするべきだ」

唯一他に戦略らしきものがトランプ氏の口から出てきたのは、アメリカが中国の戦闘機を装ってロシアに爆弾を落としてはどうか、というものだった。【3月15日 ローリングストーン日本版】
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“アメリカが中国の戦闘機を装ってロシアに爆弾を落としてはどうか”・・・こういう人物が4年間アメリカ大統領の地位にあり、また復活しようとしている・・・信じられないことですが現実です。

【中間選挙で支持候補を当選させ次期大統領選挙へ】
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の最新の世論調査では“次回2024年の大統領選が20年と同じ組み合わせになったと仮定した場合の支持率は、バイデン氏、ドナルド・トランプ前大統領とも45%で、前回調査とほぼ同じだった。”【3月11日 WSJ】とのこと。

いずれにしても依然として共和党支持層でのトランプ前大統領の存在感は圧倒的なものがあり、トランプ前大統領としては中間選挙で共和党勝利と同時に自身を支持する候補を勝利させ、その勢いで次期大統領選挙で・・・という目論みでしょう。中間選挙での共和党勝利が確実視されている現時点では十分に実現可能性がある目論みです。

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トランプ氏は、今も隠然たる影響力を持っている。ワールド・ポピュレーションズ・ビューズの調査では、50州のうちトランプ支持が50%を上回っている州は23州に達している。(中略)全体的なトランプ支持率は低下傾向にあるものの、保守的な南部諸州の共和党支持者の間ではトランプ氏は大きな影響力を持ち続けている。
 
米国では党の候補者を選ぶ予備選挙が行われる。共和党の候補者は予備選挙で勝利するためにトランプ前大統領にすり寄っている。トランプ氏も24年の大統領選挙出馬の意欲を隠さず、共和党内での影響力の拡大を図っている。
 
2月15日に発表された米CBSニュースの調査では、共和党支持者の69%がトランプ氏の大統領選出馬を支持している。
 
いまだ高い支持率を背景にトランプ氏は、大統領弾劾裁判や上院の大統領選挙認証でトランプ氏に反対の立場を取ったリズ・チェイニー下院議員やリサ・マコウスキー上院議員など9人の議員の追い落としを図る一方、予備選挙で自らの息のかかった候補を対立候補として擁立している。
 
トランプ氏は今年2月までに、予備選挙で「自分に忠誠を示す」下院候補者51人、上院候補者15人を支援すると表明。上院ではネブラスカ、ジョージア、アラスカの各州で反トランプ派の現職に挑戦する新人を支持している。

同時に知事選挙でも忠誠を表明する13人の知事候補者を支援している。それ以外にも州議会選挙や州政府の要職の候補者も支援するなど、共和党内での影響力の掌握を狙っている。【3月14日 中岡望氏 週刊エコノミスト Online】
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【ウクライナへのロシア軍侵攻で変わる風向き】
ただ、ウクライナへのロシア軍侵攻で、そのあたりの風向きが若干変わってきたとの指摘も。

****米共和党の「内戦」激化、ウクライナ侵攻巡る言動が発火点****
ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、米共和党の「内戦」が激しさを増している。11月の議会中間選挙への出馬を狙う予備選候補者らが、相手候補が過去にロシアのプーチン大統領を賞賛したことなどを巡って殴り合いを演じているのだ。

少なくとも3州で、上下両院の共和党予備選候補が守勢に立たされている。プーチン氏は「知的」、ウクライナのゼレンスキー大統領は「悪党」といった表現や、ウクライナは守るに値しないとの発言が注目され、米国民がウクライナとその大統領を強く支持する中で批判を浴びているからだ。

ノースカロライナ州で5月17日の共和党予備選に臨むパット・マクロリー氏は最初のテレビCMで、トランプ前大統領の支持を受けたライバル候補、テッド・バッド下院議員を叩いた。

CMでマクロリー氏は「ウクライナ国民が血を流し、命を失っている今(中略)、バッド議員はこの人々の殺害者を擁護している」と語りかける。合間に差し挟まれるのは、バッド氏がテレビのインタビューで、プーチン氏は「非常に知的な役者」であり侵攻には「戦略上の理由」がある、などと話す動画だ。

CMはまた、バッド氏がプーチン氏のことを「邪悪」と表現したのとは裏腹に、議会でロシアに「友好的な」票を投じたと批判している。(中略)

2月24日にロシアがウクライナに侵攻するまで、一部の共和党議員は安心してトランプ氏と歩調を合わせ、プーチン氏を強い指導者だと賞賛する一方で米政府の対ロ政策を非難していた。

侵攻後でさえ、トランプ氏支持派のマージョリー・テーラー・グリーン、ポール・ゴーサー両下院議員は、侵攻に喝采を送りプーチン氏の名前を連呼する白人愛国主義者の会合に参加した。

プーチン氏とウクライナを巡る内部闘争は、以前からあった共和党内の亀裂をさらに深めている。共和党は、2020年の大統領選で大規模な不正が行われたというトランプ氏の虚偽の主張や、翌年1月のトランプ氏支持者らによる連邦議会議事堂襲撃に対する下院調査を巡って分断している。

トランプ氏は今年2月22日のインタビューで、プーチン氏のウクライナに対する行動は「天才的」で、「とても抜け目がない」などと述べて批判を浴びた。(後略)【3月17日 ロイター】
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こうしたトランプ支持候補と対立候補の叩き合いは単に候補者間の話ではなく、共和党全体におけるトランプ派と同氏から距離を置く伝統的保守派の内部対立の激化と変化を示すものです。

****ウクライナ危機で米共和党が「脱トランプ」する可能性****
ウクライナ情勢に目が行っている間に、米国の共和党内の潮目が変わった可能性がある。中間選挙で共和党が優勢とみられ、2024年の大統領選挙でもトランプ氏あるいはトランプ的な人物が共和党候補となる可能性がある中、共和党内で伝統的保守派とトランプ派のどちらが優位になるかが注目される。

トランプ信奉者たちのトランプ氏への絶対的支持が揺らいでいる兆候は年明け頃から出始めていた。支持者との集会でトランプ氏がワクチン接種を推奨すると大ブーイングが起こり、テキサス州やテネシー州、ノース・カロライナ州ではトランプ氏が推した候補がトランプ派も含め共和党支持者からかなり激しく叩かれている。
 
そして今月4日、共和党全国委員会(RNC)が議事堂襲撃を調査する下院の委員会メンバーであるチェイニー、キンジンガー両共和党下院議員に対する非難決議を圧倒的多数で採択すると、マコーネル上院院内総務が激しく、それも公にRNCを批判した。
 
きっかけは、選挙結果を不当に覆そうと議会をトランプ支持者が襲撃し、死者まで出した事件をRNCが「合法的な政治的論戦」と評したことである。

下院のマッカーシー院内総務がトランプ擁護姿勢を変えていないのに比べ、マコーネル氏はトランプ氏から距離を置いてきたが、ここで選挙のためにはトランプ氏の力を借りたいRNCとはっきりと距離をおいた。
 
時を同じくしてペンス元副大統領がフェデラリスト協会で、選挙をひっくり返す権限があるのにそれをしなかったとトランプ氏に再三攻撃されてきたが、自分にはその権限はなかったと、これまでになくはっきりとトランプ氏の過ちを断言した。
 
これまで、トランプ氏に反旗を翻すと攻撃され、予備選で落選すると恐れられてきた。しかし、トランプ弾劾を支持した共和党下院議員がトランプ派候補をはるかにまさる選挙資金を調達している他、大統領選の正当性を主張したためトランプ氏が目の敵にしているケンプ・ジョージア州知事はトランプ派候補にまさる支持を得ている。

アラスカ、ノース・カロライナ、アラバマ州でもトランプ氏推奨の上院議員候補が、ミシガン州ではトランプ氏推奨の州務長官候補が苦戦している。
 
トランプ氏は法的にも追い詰められている。下院の議事堂襲撃を調査する委員会がトランプ氏と襲撃の関連を明らかにしてきているが、これ以外にトランプ氏は19件の訴訟や捜査の対象となっている。

中でも深刻なのがニューヨーク州司法長官による金融詐欺などの刑事捜査、マンハッタン地区検察による脱税捜査、ジョージア州フルトン地区での選挙法違反捜査である。
 
トランプ氏にとって一番辛いのはツイッターという発信手段を奪われたことだろう。またいくら多くが集会に集まり、いくら突拍子もない発言をして注目を浴びようとしても、マスコミが取り上げなくなってきた。
 
現職でないということだけでなく、共和党の中でもちょっと辟易という雰囲気があるのだろう。とはいえ、確かにトランプ氏の絶対的影響力は落ちてきているものの、トランプ氏の支持は共和党内ではまだ8割あり、このまま行けば24年に立候補すれば、共和党の大統領候補になるだろう。

鮮明になるトランプ派とマコーネル派の対立
現状は、いわばマコーネル派とトランプ派の対立となっている。どちらが優位になるかが外交安全保障に影響を与えるのは、ウクライナ問題でも明らかだ。

トランプ派は米国第一を掲げ、ウクライナに係わるべきでないとしている。

一方マコーネルは、米国は強固な軍事力を有し、自国の利益を守るためにも世界の脅威に立ち向かうべきという信念を持っており、ウクライナ問題でもロシアに対し厳しい姿勢で臨むべしと早くからウクライナに武器、物資、諜報、アドバイスと、何でも必要なものを提供すべきと主張してきた。バイデン大統領に米軍派遣を強く推してもいる。
 
中間選挙でのトランプ派対マコーネル派の闘い、そして次期大統領選挙の共和党候補が誰になるかは、アメリカの外交安全保障に対する姿勢や同盟国との関係を決めることになるだけに注目に値する。【3月17日 WEDGE】
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中間選挙で勝利が予想される米共和党で「脱トランプ」が進む・・・(共和党支持者でなくても)ちょっと期待してしまいそうな話ではありますが、“トランプ氏の支持は共和党内ではまだ8割”という“岩盤”状態は依然として残っていますので、どうでしょうか?

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シリア  「アラブの春」デモから11年 反政府勢力はウクライナに連帯 シリアをウクライナで再現する露

2022-03-16 23:31:39 | 中東情勢
(シリアの反体制派が拠点とするイドリブで開かれたシリア内戦11年を記念する大規模集会の様子(2022年3月15日撮影)【3月16日 AFP】)

【シリアでの傭兵登録 ロシアだけでなく、反政府勢力によるウクライナ側での戦闘参加も】
ウクライナでの軍事作戦が想定どおりには進まないロシアはシリアからの傭兵をウクライナに投入するということが以前から報じられています。

生活に困窮するシリア人にとっては破格の条件での「就職」だと想像されますが、ロシアだけでなく反ロシアの立場の反政府府勢力側ではウクライナ側の傭兵登録も行われているとか。この動きにウクライナ政府がどの程度関与しているのかは知りません。(資金的な裏付けを誰がしているのか・・・)

これまで長年の戦闘の修羅場をくぐってきた、また、民族的なしがらみなどもないシリア人傭兵は民間人の犠牲を厭わず、戦闘を激化させるとの懸念があります。

****シリア 報酬目当てのよう兵 ウクライナへ向かおうとする動き****
ロシアのプーチン大統領がウクライナに外国の戦闘員を送り込む方針を示す中、内戦が続く中東のシリアから報酬を目当てにしたよう兵としてウクライナへ向かおうとする動きが出ていて、現地での戦闘の激化を招くおそれがあります。

シリアでは、ロシアが後ろ盾になっているアサド政権の協力のもと、ロシア側に立ってウクライナでの戦闘に参加するよう兵の募集が各地で進められていて、現地の情報を集めている「シリア人権監視団」によりますと、すでに4万人以上が登録したということです。

現在、戦闘経験に基づいた選考が行われているとみられ、一部は、ロシア軍が駐留するシリアの空軍基地からすでに現地に派遣された可能性があるということです。

こうしたよう兵の募集が行われている南部のスウェイダでは12日、ウクライナに軍事侵攻したロシアを支持する集会が開かれました。

集会では、プーチン大統領とアサド大統領が一緒に写ったポスターが掲げられ、集まった人々は「シリアとロシアは1つだ」などと声をあげていました。

市内では、現地の警察署によう兵の登録センターが設けられ、ウクライナへの派遣を志願する人たちが登録に訪れています。

登録を終えたという政府軍の元兵士で29歳の男性はNHKの取材に対し「申請が承認され次第、北西部のラタキアにある空軍基地に移され、契約を交わしたあと派遣されることになる」と話していました。

よう兵になる理由について男性は「生活が苦しく、お金のためと内戦でわれわれを支えてくれたロシアのためだ」としたうえで「ウクライナの戦闘の最前線で戦えば月に7000ドルが、後方でも3000ドルが支払われるとの説明を受けた」と明らかにしました。

そして「死につながる道かもしれないが、家族を養うためにこの機会を逃したくない」と話していました。

一方、ウクライナ側に立ってロシア軍と戦うよう兵の登録も同じシリアで始まっています。

こうした登録は、反政府勢力の拠点となっている北西部のイドリブ県で行われていて、手続きを済ませたという反政府勢力の元戦闘員で36歳の男性は、「大規模な戦闘や衝突の可能性がありますが、われわれはこの種の戦いには慣れています。志願した理由は2つで、ロシアと戦うためと、生活苦による経済的な理由です」と話していました。

ウクライナ政府が、こうしたよう兵を受け入れるかは明らかになっていませんが、シリアの反政府勢力内の各組織が登録を受け付けているということで、男性は「名前や必要な情報の登録を済ませ、次の指示を待っています。私だけでなく10人、20人と志願し、同じように待っている状況です」と話していました。

シリア人よう兵は、これまでも北アフリカのリビアや旧ソビエトのアゼルバイジャンとアルメニアの係争地にも派遣されていて、紛争を複雑化させる要因の1つともなってきました。

今回のウクライナへの派遣では、市街戦に投入されるのではないかとの見方が専門家から出ていて、ウクライナでの戦闘の激化を招くおそれがあります。

シリア人権監視団「状況さらに悪化」強い懸念
シリア人よう兵のウクライナへの派遣の動きについて、シリア人権監視団のラミ・アブドルラフマン代表は(中略)
「シリア人よう兵は派遣されたリビアでは、『雇われた殺人者』と呼ばれ、その名の通り、ウクライナであろうがどこであろうが、民間人の犠牲をいとわない。状況をさらに悪化させるだろう」と述べ、強い懸念を示しました。

また、ウクライナでのロシア軍の戦術について、かつてシリアで実行されたものだと指摘し、「都市を包囲する前に事前に退路をつくり、相手が退却しない場合は完全に包囲し、降伏させ支配下に置くまで飢えの苦しみと爆撃を続けるやり方だ」と述べシリアで起きた人道危機が繰り返されているとして、ロシアを非難しました。【3月15日 NHK】
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シリア人傭兵の報酬については、“負傷すると約90万円、死亡した場合は約200万円が支払われる”【3月15日 フジテレビ“イット”】とも。

【11年が経過したシリア 反政府勢力拠点イドリブでは、ウクライナに集まる国際的関心が同じロシアと戦うシリアにも及ぶことへの期待も】
一方、傭兵の募集が行われているシリアでは、内戦の発端となったで「アラブの春」の反政府デモから11年が経過しています。

その惨状・犠牲は死者約50万人と現在のウクライナをはるかに凌ぐものがあり、しかもそうした状況が11年間継続しています。

****シリア内戦に至るデモから11年****
シリアでは11年前の3月15日、「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が波及する形で反政府デモが各地に広がり、これをアサド政権が弾圧したことで激しい内戦に発展しました。

内戦は、混乱に乗じて過激派組織IS=イスラミックステートが勢力を拡大するなど泥沼化し、現地の情報を集める「シリア人権監視団」によりますと、これまでの死者は49万9657人にのぼり、このうちおよそ3人に1人が民間人だということです。

また、内戦で国民の2人に1人が家を追われ、国連のまとめでは、国外に逃れた難民は670万人以上にのぼります。

一時は劣勢となったアサド政権は2015年からロシアによる空爆の支援を受けて反政府勢力やISの支配地域を次々と奪還しました。

一方、反政府勢力は、1つにまとまれずに分裂が進み、北西部イドリブ県とその周辺に追い詰められ、ISも弱体化する中、アサド政権は軍事的な勝利をほぼ確実にしました。

おととし、アサド政権を支えるロシアと反政府勢力を支援するトルコが停戦で合意してからは、大規模な戦闘は収まっていますが、政権側と反政府勢力、それにアメリカが支援し、北東部を事実上支配するクルド人勢力など国は分断され、散発的な衝突が続いています。

また、国連安全保障理事会の決議に基づく自由で公正な選挙に向けた憲法の起草など政治的な解決を目指すプロセスは行き詰まっていて、内戦の終結は見通せていません。

シリア人権監視団のアブドルラフマン代表は「内戦を終わらせる唯一の解決策は国際社会の力でシリアを変えることだが、いまのロシアとアメリカの対立の事態を受けてそれも望めない。シリアという国が近い将来、再び1つにまとまることはないだろう」と述べ、ウクライナ情勢を受けてシリアの和平はより遠のいたとの認識を示しました。【同上】
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そのシリアでロシアの支援を受ける政府軍によって包囲されている反政府勢力最後の拠点イドリブでは、ウクライナに世界の注目が集まることで、似たような状況にあるシリア・イドリブにも関心が向けられるのではないか・・・という“期待”もあるようです。

****シリア内戦11年、イドリブで大規模集会 ウクライナに連帯も****
シリアで15日、内戦のきっかけとなった反政府デモが始まってから11年を迎え、反体制派が拠点とする北西部イドリブで大規模集会が開かれた。ロシアによるウクライナ侵攻に対し国際的な非難の声が高まる中、シリア政府を支援するロシアに抗議し、ウクライナへの連帯を示す参加者もいた。
 
イドリブ市の中央広場で開かれた集会には5000人以上が参加。同市で行われた集会としてはここ数か月で最大規模となった。
 
シリア政府の主要支援国であるロシアがウクライナを侵攻したことをきっかけに、シリアの現状に再び関心が集まることを期待する参加者も多い。
 
ラドワン・アトラシュさんはAFPに、「ウクライナで起きていることは、ここで起きたことと似ている。敵も、目的も同じだ」と語った。
 
ウクライナ国旗のほか、ウクライナ人への連帯を示し、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領への制裁を求めるポスターや横断幕を掲げる人もいた。(後略)【3月16日 AFP】
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****シリアの飛び地、ウクライナへのメッセージと共に蜂起の節目を迎える****
(中略)シリア北西部に位置するイドリブは、ロシア支援による長年の猛攻にもかかわらず、アサド政権と戦う最後の飛び地となっている。現在も約400万人の人々がこの地に暮らしているが、少なくとも半数は避難民たちだ。

イドリブの抗議デモでは、ウクライナ国旗が見られたほか、ウクライナの人々との連帯を表明し、プーチンへの反撃を要求する横断幕も掲げられた。

市内の主要ロータリーでデモに参加していた医療関係者は、ウクライナの関係者にアドバイスを送った。
イドリブの病院に勤務するアリ・ハムシさんは、「病院をセメントブロックで強化しろ。敵のプーチンは、民間人、負傷者、戦闘員を区別しない」と述べた。
医療関係者や人権団体、目撃者たちによると、「ロシア航空機は、シリアの医療施設を繰り返し標的にしてきた」という。

先週包囲されたウクライナの都市マリウポリでは、小児科病院がロシアの攻撃と見られる攻撃を受けて騒ぎとなり、プーチンに対する戦争犯罪の非難は更に高まった。(中略)

侵攻ロシア軍が直面した激しい抵抗と、プーチンを除外する動きの高まりは、声を上げる機会がこの数年ほとんどなかった群衆を活気づかせたようだ。

抗議者の一人であるサルワ・アブデルラフマンさんは、「シリア革命が始まって11年になるが、今日が1日目のような気分だ」と述べた。

49才の女性は、「我々は負傷、追放、殺害、逮捕を恐れない。革命続行の誓いを新たにした」と語った。
「ウクライナの人々に対する私からのメッセージは、『あきらめるな』。革命開始から11年が経過したが、我々は臆することはない。我々の勝利は神の意思だ」【2月3日 ARAB NEWS】
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個人的にいつも疑問に思うのは、“最後の拠点”イドリブをアサド政権・ロシア軍はどうして総攻撃で制圧しないのか? ということ。得意の“無差別攻撃”をすれば軍事的には可能なようにも思えますが・・・。

イドリブに反政府勢力を追い詰めた時点では、イドリブ制圧も時間の問題と思われましたが、その後は“現状維持”状態が続いています。

総攻撃すれば政府軍・ロシア側にも大きな犠牲がでますので、そのあたりを懸念しているのか?
反政府勢力を支援するトルコとの関係で制圧を見送っているのか?
多大な犠牲者を出す制圧作戦に高まるであろう国際批判を懸念しているのか?

まったくの憶測ですが、アサド政権にとっては力任せに制圧して反政府勢力残党・シンパが各地に散乱するよりは、反政府勢力をイドリブに“まとめて閉じ込めておく”ことの方が効率的なのかも。イドリブは一種の“監獄”“収容施設”的な存在とも言えるのかも・・・どうでしょうか。

イドリブ以外の拠点を制圧したときも、そこにいた反政府勢力がイドリブに移動することを認めてきましたが、それも一種の“収容所への移送”だったのかも。

【シリアとウクライナの類似性と相違点】
前出【NHK】に“ウクライナでのロシア軍の戦術について、かつてシリアで実行されたものだ”(シリア人権監視団のラミ・アブドルラフマン代表)という指摘もあるように、シリアとウクライナには類似性があります。また、同時に差異も。

****ロシア、ウクライナで「戦争の実験場」再現か シリアでの戦術に酷似****
都市の包囲や民間インフラへの砲撃、市民を退避させる「人道回廊」の設置──。ウクライナ侵攻でロシアが採用している戦術は、シリア内戦に軍事介入して反体派を弱体化させるために試し、微調整を加えてきた手法に酷似している。
 
ただし、作戦計画は異なるものとなる。シリアの反体制派武装勢力には、軍事力も国際社会からの広範な支援もなかった。西側の支援を受けたウクライナ軍は、いずれの点も大きく上回っていると、アナリストは指摘する。
 
ロシアは2015年、バッシャール・アサド政権を支援するためにシリア内戦に介入。10年超に及ぶ内戦における決定的な戦いで、政権側に勝利をもたらしてきた。
 
ウクライナでも、ウラジーミル・プーチン大統領が先月24日に侵攻を命じて以降、大規模なロシア軍部隊が進攻。都市中心部に砲撃を加えたり、多数の民間人に避難を強いたりし、国際社会から激しい非難の声が上がった。
 
ロシア軍が民間人居住区を標的にしていることを示す多くの証拠があるにもかかわらず、ロシア側はこれを否定。これに対し、西側主要国や人権団体は、戦争犯罪の可能性があると糾弾している。
 
フランス軍事筋はAFPに「シリアは小さな舞台だった」とし、ロシアのウクライナ侵攻で特筆すべきは「規模の違い」だと語った。
 
ただロシア軍は、シリアで複数の兵器体系の試験を実施し、重要な実戦経験を積んだ。ウクライナで採用されている戦術の多くも、シリアでの経験から導き出されたものだ。
 
アナリストのファブリス・バランシュ氏は「ロシアにとってシリアは兵士や装備の実験場だ」と解説する。

■恐怖をあおる戦術
人権団体は、アサド政権が反体制派を要衝から排除するため、民間人居住区を包囲したり、インフラを爆撃したりするのをロシアが支援してきたと批判している。
 
バランシュ氏は、アサド政権のてこ入れに向け、経済の中心地である北部アレッポや首都ダマスカス周辺の反体制派支配地域を含む「大都市を制圧することが、ロシアの初期の目標だった」と分析する。
 
同氏によると、ロシア軍はウクライナでも首都キエフやハリコフ、オデッサを含む重要都市に向けて進攻し、シリアと同じようなパターンを踏襲したが、それにはウクライナの統治体制の正統性を奪う狙いがあった。
 
病院や学校を標的とした無差別爆撃も、民間人の「恐怖をあおる」ためにシリアで用いた戦術と同じだと、同氏はみている。
 
ソーシャルメディアに投稿された、戦争の記録を保存する非営利団体「シリアン・アーカイブ」によると、シリアでは2011年以降、ロシア軍やアサド政権によって医療施設少なくとも270か所が攻撃された。人権団体によれば、2016年のアレッポへの攻勢などで、学校や市場も標的となった。
 
バランシュ氏は「ロシアは軍事的な標的を爆撃した後、民間人の生活を壊して退避に追い込もうと、医療やエネルギー関連のインフラを次に狙う」と指摘。「市民が去れば、軍の進攻は容易になる」と語った。
 
国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウオッチとアムネスティ・インターナショナルは先月、ロシア軍がハリコフで病院や学校に対してクラスター弾を使用したと非難した。
 
今月9日には、南東部の港湾都市マリウポリにある小児科・産婦人科病院を空爆したとされる。ウクライナ政府によると、少女を含む3人が死亡した。これを受けて国際的に非難の声が高まり、主要国はロシアが残虐行為を働いていると糾弾した。

■異なる戦場
もう一つ類似する戦術として、包囲した都市からの市民を退避させるための「人道回廊」が挙げられる。専門家によると、これもシリアで試された戦術であり、包囲された反体制派支配地域から国際的な保障のないまま避難する民間人は、時に死傷したり、拘束されたりする。
 
シリアとは状況が異なる点もある。米首都ワシントンにあるシンクタンク、ニューラインズ研究所のニコラス・ヘラス氏は「シリアでロシア軍は、親アサド派部隊に助言したり、援護したりする際、空軍力や特殊部隊に主に依存していた」のに対し、「ウクライナではロシア軍自体が(主要な)戦闘部隊になっている」と解説する。
 
またヘラス氏は、相手の戦闘能力という面でも大きな違いがあると指摘する。ロシア軍は現在、対空砲や対戦車砲などを西側諸国から供与されたウクライナ軍と戦っているが、「ロシア軍が完全に優勢だったシリアでは、マイナーリーグに参戦したようなものだった」と話した。
 
とはいえ、ロシアの有力シンクタンク、ロシア外交問題評議会のアントン・マルダソフ客員研究員によれば、ロシアは兵器体系についての感覚を磨いてきた。
 
マルダソフ氏は「(ロシア軍は)シリアで使用した地対空の精密誘導兵器の欠点を修正した」とし、ウクライナでは精密誘導兵器を積極的かつ正確に使用している」と述べた。 【3月16日 AFP】
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逆に言えば、ロシア・プーチン大統領はシリアで一定に成果を出した戦術をウクライナでも再現し、早期の結果を出すつもりが、ウクライナ軍側の空軍力や西側の支援を受ける武器などを過小評価していた、そして、自軍が地上作戦を行うことで生じる大きな犠牲を見誤っていた・・・ということもあるのかも。

シリアでは、ロシア軍は邪魔するものがいない空から爆弾を落としているだけでよく、被害もほとんどありませんでした。

しかも、戦闘状況は逐一SNSなどで世界に報じられ大きな関心が寄せられており、(シリアでやったような)そうそう無茶な攻撃もできない・・・そのあたりでプーチン大統領も苛立っているのかも。
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インド  ロシア産石油を格安購入? 本当に「重要な価値観を共有する」のか?

2022-03-15 23:22:45 | 南アジア(インド)
(インド・ニューデリーで握手するモディ首相(右)とロシアのプーチン大統領=2021年12月6日【2月24日 産経】 もちろん、にこやかに握手しているからどうこうという話ではありませんが・・・)

【「対ロシア関係を損なわないよう十分気を遣っている」インド外交の“したたかさ”】
従来非同盟主義を外交の基本姿勢としてきたインドは、近年日本やオーストラリアとともにクアッドに参加し、アメリカ主導の対中国戦略の一翼を担う形になっています。

しかし、国連安全保障理事会が2月25日、ロシアによるウクライナ侵攻を非難し、即時撤退を求めるアメリカ主導の決議案を採決した際(ロシアが拒否権を行使し否決)、理事国15カ国中、米欧など11カ国が賛成する一方で、インドは中国、アラブ首長国連邦(UAE)とともに棄権しました。

ロシア批判を避けたインドが、ロシア製武器に大きく頼るなど、ロシアと強い関係があることは2月27日ブログ“ウクライナ危機  安保理でロシア非難決議を棄権したインド・UAEの事情”でも取り上げました。

その後の3月2日、国連総会の緊急特別会合においてウクライナ情勢に関しロシアの侵攻を糾弾し、ロシア軍部隊の即時撤退を求める決議案が圧倒的賛成多数で採択された際も、インドは中国同様に棄権しています。

アメリカ・バイデン大統領はこうしたインドを中国と並べて名指しして牽制しています。

****ロシア非難決議棄権の中国とインド 米大統領が名指しでけん制****
バイデン米大統領は2日、中西部ウィスコンシン州で演説し、ロシアのウクライナ侵攻を非難する決議が国連総会で採択されたことに関して「プーチン(ロシア大統領)を非難する決議に141カ国が賛成した。中国は棄権した。インドも棄権した。彼らは孤立している」と中印両国を名指しでけん制した。

ウクライナ情勢を巡って、中国やインドは関係が深いロシアへの非難を避けている。バイデン氏は侵攻開始直後の2月24日に「インドとは対応を協議している。完全には解決していない」と記者団に語っていた。
 
米印両国は今年前半に日本、オーストラリアとの4カ国(クアッド)首脳会議を日本で開く予定になっているが、ウクライナ情勢を巡るインドと他の3カ国との温度差が課題になりそうだ。【3月3日 毎日】
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こうした「対ロシア関係を損なわないよう十分気を遣っている」インド外交の“したたかさ”について、以下のようにも。

****ウクライナ危機で垣間見えるインドの「したたか外交」=「非同盟」から積極的な全方位外交へ****
ウクライナ危機をめぐりインドはロシアとの友好関係維持に努める一方、対露非難で共同歩調を迫る米国にも巧みに対応するなど、独自のバランス外交を展開している。

◆「対露関係に十分な気遣い」
周知の通り3月2日、国連総会の緊急特別会合はウクライナ情勢に関しロシアの侵攻を糾弾し、軍部隊の即時撤退を求める決議案を圧倒的賛成多数で採択した。これより先、2月末の安保理では同様の対露非難決議案がロシアの拒否権行使で否決された。いずれの場合もインドは中国同様、採決に際し棄権した。

ロシアの侵攻にインドが表立って反対を表明しない理由について、同国にとってロシアが最大の武器供給国であるためとの多くの指摘があるが、その通りだろう。

実はもう一つの理由もある。インドとパキスタンの根本的対立点であるカシミール地方の領有権問題でロシアがインドを支持していることも見逃せない。

プーチン露大統領は昨年12月、ニューデリーでモディ印首相と首脳会談を行い、軍事技術支援を柱とする幅広い分野での協力強化で合意しており、国連外交の舞台でも双方の協力が裏付けられた形だ。

インドの対外貿易を研究するジャワハルラール・ネルー大のビスワジット・ダール教授が現地メディアに語ったところによれば、モディ政権は欧米の制裁によるロシアへの影響を軽減するため、印露間の貿易決済をインドのルピーとロシアのルーブルで行うことを検討しているという。

「非同盟」外交を唱えながらも、しばしばロシア寄りの姿勢を見せてきたインドは「対露関係を損なわないよう十分気を遣っている」(日本のインド問題専門家)との見方は的を射たものと言えよう。

◆「インドの重要性」を盾に米の圧力かわす
その一方、インドが米中対立が続く国際環境を利用して自国の国益確保を図ろうとする意図も見え隠れする。

国連を舞台とする対ロシア包囲網の形成に向けバイデン米政権がインドに圧力を加えたのは確か。「ヒンドゥスタン・タイムズ」などインド有力メディアの報道によれば、米国務省は国連総会と安保理のロシア非難決議採決に際し、米国と足並みを揃えるようインド外務省に強く迫ったという。

これに関し駐ニューデリー外交筋は「モディ政権はインド太平洋地域での中国の台頭に対抗する上でインドの重要性を力説し、米国の理解を得たようだ」と語っている。

インドが「日米豪印戦略対話」(クワッド)のメンバーである点を考えれば、バイデン政権がインドの言い分を無視できなかったことは納得がいく。

米国務省のプライス報道官は国連総会決議後の記者会見で「インドとは重要な価値観を共有する」と強調するとともに「インドとロシアの関係が米露関係とは異なることは承知している」と述べ、インドの投票行動への批判を避けている。

米国のインド重視は他にもうかがえる。中国との国境紛争を抱えるインドは対中防衛を強化するため、ロシアから地対空ミサイルシステム「S400」の導入を進めているが、米国は同じシステムを配備したトルコには制裁を科したものの、インドに対しては制裁を控えている。

欧米の軍事情報メディアによれば、インドは米国との間で最新鋭の無人機の導入について交渉を行っており、この無人機がインドに供給されれば、北大西洋条約機構(NATO)加盟国以外では初めてのケースになるという。

◆中東や中央アジア諸国との外交促進
最近のインド外交について多くのインド専門家の間では「歴史的な非同盟主義から、より積極的な全方位外交へと変わりつつある」(米有力シンクタンクの南西アジア専門家)との見方が有力だ。
事実、インドはこれまで比較的関係が疎遠だった中東や中央アジア諸国との外交促進に乗り出している。

対露関係に関しても、前述の駐ニューデリー外交筋は「将来的には見直しの可能性がある」とみる。同筋によれば、インドの宿敵パキスタンとロシアとの関係が今後強まるなら、インドの“ロシア離れ”が始まることが考えられるという。

この点で注目されるのは、パキスタンのカーン首相が2月末モスクワを訪問し、プーチン大統領と会談したこと。パキスタン首相の訪ロは23年ぶりで、両首脳はエネルギー分野を中心に二国間協力について話し合ったと伝えられる。ロシアのウクライナ侵攻直後、パキスタンはロシアから小麦と天然ガスを購入すると発表した。

◆親露路線見直しも
インドの“ロシア離れ”を促すもう一つの要因として、最近の中露関係の緊密化を挙げる向きもある。中国はパキスタンにとって最大の武器供与国であるうえ、印パ間のカシミール紛争ではパキスタン支持を表明している。

その中国が対印戦略の一環としてロシアと一緒になってパキスタンを軍事・外交面で後押しするようになれば、インドがロシアとの関係を見直すのは当然だろう。

日本にとってインド外交の行方は「クアッド」の絡みからも極めて重要。今月にも予定されるという岸田首相のインド訪問は同国がどこに向かうのかを見極める大切な機会なりそうだ。【3月8日 山崎真二氏「アジアの窓」編集委員 レコードチャイナ】
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【インドを“特別扱い”するアメリカ】
アメリカが対中国戦略の重要パートナーとしてインドを優遇、見方によっては“特別扱い”していることはわかります。

ロシアから地対空ミサイルシステム「S400」の導入を進めてもインドは制裁を受けていないこともありますが、インドへのアメリカの二重基準は以前からのものでもあります。

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原子力関連技術の輸出管理にあたる原子力供給国グループ(NSG)は08年9月6日に、核拡散防止条約(NPT)未加盟のインドを例外として扱い、原子炉や核燃料の対印輸出を解禁することを、日本など加盟45か国の全会一致で承認しました。

台頭する中国を牽制すべく、インドとの関係を重視し、インドの経済成長を支援するアメリカ・ブッシュ政権がインドと締結した民生用原子力協定を実現するため、インドのみを例外とする「二重基準」に反対する国々を押し切っての承認でした。【2010年6月28日ブログ“
空洞化が進む核拡散防止条約(NPT)体制”】
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【インドと本当に「重要な価値観を共有する」のか?】
そうしたアメリカのインド優遇には、単に力のバランスや経済的メリットだけでなく、「インドとは重要な価値観を共有する」という前提があると思いますが、今回のインドのウクライナ紛争への対応を見ると、「本当に重要な価値観を共有しているのだろうか?」という疑問も。

***インド、ロシア産原油輸出の受け皿に?=関係深い「戦略パートナー」―報道****
ロイター通信は14日、複数のインド政府当局者の話として、ロシアがインドに対し自国産原油を割安な価格で売却することを持ち掛け、インド側が購入を検討していると報じた。

ロシアのウクライナ侵攻に伴う対ロ経済制裁への抵触を恐れ、国際的にロシア産原油の買い控えが進む中、ロシアと友好関係にあるインドが原油輸出の受け皿となる可能性がある。
 
ロイターによると、インド政府当局者は「ロシアが大幅な割引価格で原油などの取引を提示している」と述べた。米ドルでの決済に制限がかかる恐れが出る中、インド・ルピーとルーブルでの決済も検討しているとされる。
 
インドは冷戦下で「非同盟」の外交方針を取ったため、西側諸国から武器を購入できず、旧ソ連との関係を深めた経緯がある。現在もインド軍兵器の約6割はロシア製とされる。
 
インドは現在、ロシアを「特別で特権的な戦略パートナー」と位置付けており、両国首脳はほぼ毎年、相互に相手国を訪問、友好を深めている。昨年12月にはプーチン氏が訪印、軍事協力強化などで一致した。【3月15日 時事】 
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“インドは原油の8割を輸入に頼っており、ロシアは2〜3%を占める。”【3月15日 読売】とのこと。
“欧米の制裁を受け、ロシア産原油の輸入に慎重な姿勢を示す国や企業が相次ぐ中、インドが実際に購入すれば、制裁の抜け穴になる恐れがある。”【同上】

国連でのロシア非難決議に棄権するだけならまだしも、ロシア制裁の抜け穴ともなるロシア産石油を格安で購入するという話になると、「本当に重要な価値観を共有しているのだろうか?」という疑問がわく次第です。

特に、しばしばこのグログでも取り上げるようにヒンズー至上主義を進めるモディ政権の国内統治の在り様を見ると、そういう感も強まります。

まあ、アメリカ・トランプ前政権と日本が「重要な価値観を共有している」とみなせるなら、インドも・・・ということでしょうか。

【勘弁してほしいインド軍の杜撰さ】
ついでに言えば、インドという国、とても杜撰。
インドの宿敵はパキスタンで、両国とも核保有国ですが、そのパキスタンに「誤って」ミサイルを撃ち込むという信じがたいミスが。

****パキスタンにミサイル誤射 インドが発表****
インド国防省は11日、同国軍が誤って隣国パキスタンに向けミサイルを発射したと発表し、「深い遺憾の意」を示した。
 
同省は、10日の定期点検の際、「技術的な誤作動」によりミサイルが誤って発射されたと説明。ミサイルの種類は明かさなかったが、パキスタン領内に着弾したとした。

誤射について「深い遺憾の意」を示し、「人命が奪われなかったことに安堵(あんど)」していると述べたが、AFPの問い合わせに対しそれ以上の情報は明らかにしなかった。
 
パキスタン外務省はこれに先立ち、「インド発の『超音速飛翔(ひしょう)体』による一方的な領空侵犯」があったと非難。駐パキスタン・インド臨時代理大使を同省に呼び出し、「強く抗議」したと説明していた。
 
ヒンズー教徒が人口の多数を占めるインドとイスラム教国のパキスタンは、1947年に英国の植民地支配から独立して以来、3回の戦争を行い、うち2回は両国が領有を主張するカシミール地方をめぐって争った。 【3月12日 AFP】********************

“爆発物を積んでいなかったとみられ”【3月11日 共同】負傷者も出なかったからよかったものの、そうでなかったら・・・「技術的な誤作動」ではすまない核保有国間の大問題にもなります。


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